(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101522
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】保護膜を有する光音響検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20220629BHJP
G01N 21/00 20060101ALI20220629BHJP
A61B 5/145 20060101ALI20220629BHJP
G01N 29/02 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N21/00 A
A61B5/145
G01N29/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210773
(22)【出願日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】2014113
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】510132347
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】クタール ジャン-ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】グリエール アラン
(72)【発明者】
【氏名】フルニエ マリーズ
【テーマコード(参考)】
2G047
2G059
4C038
【Fターム(参考)】
2G047AA04
2G047AC13
2G047BC04
2G047BC15
2G047CA04
2G047GA09
2G047GD02
2G059AA01
2G059BB12
2G059CC16
2G059EE12
2G059EE16
2G059GG01
2G059GG08
2G059GG09
2G059HH01
2G059JJ12
2G059KK08
4C038KK10
4C038KL05
4C038KL07
4C038KX01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光音響検出装置は、トランスデューサを含む。皮膚から放出された水蒸気は凝縮して小滴を形成し、トランスデューサを損傷する可能性がある。さらに、塵埃又は他の望ましくない要素が装置内に蓄積する場合がある。この問題を解決する。
【解決手段】接触面3を介して分析対象の媒体2に対して、パルス変調又は振幅変調された光源10であって、キャビティ20を通って接触開口部に入射し、キャビティに接続され、キャビティを通って伝播する光音響波12を検出するように構成された音響トランスデューサ28を備え、入射光ビームによる媒体の照明の効果によって、音響トランスデューサが媒体2の加熱によって生成された音響波を検出し、キャビティは、接触面に対向するとともに、キャビティを通って延在する膜を備え;前記膜は、下面と上面2で囲まれ、下面と上面との間に形成された貫通孔を備える。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触面(3)を介して分析対象の媒体(2)に対して適用される光音響検出装置(1)であって、
-前記接触面に形成された接触開口部(22)に通じる中空のキャビティ(20);
-パルス変調又は振幅変調された光源(10)であって、活性化されると、放射スペクトル帯域(Δλ)の入射光ビーム(11)を、前記キャビティ(20)を通って前記接触開口部に出射するように構成された光源;
-前記キャビティに接続され、前記キャビティを通って伝播する音響波(12)を検出するように構成された音響トランスデューサ(28);
を備え、
前記入射光ビームによる前記媒体の照明の効果によって、音響トランスデューサが前記媒体(2)の加熱によって生成された音響波を検出し;
当該装置は、
-前記キャビティは、前記接触面に対向するとともに、前記キャビティを通って延在する膜を備え;
-前記膜は下面(23i)と上面(23s)で囲まれ、前記下面と前記上面との間に作られた貫通孔(23o)を備え;
-前記膜は、前記接触面(3)からゼロでない距離(d)で前記キャビティ内にある
ことを特徴とする、光音響検出装置。
【請求項2】
各貫通孔(23o)の半径は、5μm~25μmである、請求項1に記載の光音響検出装置。
【請求項3】
-前記膜は、前記膜の前記下面又は前記上面の全面積に対する各貫通孔の累積面積の比に対応する開口率を定義し;
-前記開口率は0.05~0.3である、
請求項1又は2に記載の光音響検出装置。
【請求項4】
前記膜の厚さは、100μm~1mmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項5】
-前記膜は、前記光源が活性化されたとき、前記入射光ビームが前記接触開口部(22)に到達する前に前記膜を通過するように配置され;
-前記膜は、前記光ビームが通過する前記膜の部分に対応する交差セグメント(23int)を含み;
-少なくとも前記交差セグメントにおいて、前記膜は、前記放射スペクトル帯域における透過率が0.4より高い透明材料からなる、
請求項1~4のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項6】
前記膜は、前記交差セグメントにおいて開口していない、請求項5に記載の光音響検出装置。
【請求項7】
前記透明材料が、Si、Ge、AlN、ZnSe、BaF2、CaF2、KBr、ZnS、サファイアから選択される少なくとも1つの材料からなる、請求項5又は6に記載の光音響検出装置。
【請求項8】
少なくとも前記交差セグメント(23int)において、前記膜の前記上面(23s)が反射防止コーティングを備える、請求項5~7のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項9】
前記膜は、
-前記交差セグメントの外側の第1の材料(231);
-前記交差セグメントにおいて、前記透明材料を形成する補助材料(23a)、
からなる、請求項5~8のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項10】
前記膜が、前記下面に疎水性コーティングを備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項11】
-前記キャビティは、横断壁(212)及び側壁(211)によって囲まれ、前記側壁は、前記横断壁と前記接触面との間に延在しており;
-前記膜は前記側壁の2つの対向する面の間に延在している、
請求項1~10のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項12】
前記膜は、前記キャビティ内に取り外し可能に配置される、請求項1~11のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項13】
前記光源は、レーザ光源である、請求項1~12のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項14】
前記キャビティの体積は、50μL未満である、請求項1~13のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、光音響検出による分析物の検出である。
【背景技術】
【0002】
光音響検出は、パルス変調又は振幅変調された入射電磁波の分析対象の媒体による吸収の効果によって発生する音響波の検出に基づいている。音響波は、入射波の吸収の効果によって、分析された媒体中に存在する関心のある分子の加熱に続いて形成される。加熱は媒体の変調された熱膨張をもたらし、当該膨張によって音響波が発生する。
【0003】
光音響検出は、入射電磁波の波長を分析物の吸収波長に調節することによって、1つの特定の分析物に特異的なものにすることができる。光音響検出は、ガス中のガス種(gas species)の検出や生体組織中の特定分子の存在の検出に応用されている。入射波の波長は赤外であることが多い。
【0004】
光音響検出は、非侵襲的解析技術であり、散乱媒体(scattering media)や不透明媒体(opaque media)に適用できる。
【0005】
生体組織への光音響検出の適用は、以下の刊行物に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bauer AJ.,「IR-spectroscopy for skin in vivo: optimal skin sites and properties for non-invasive glucose measurement by photoacoustic and photothermal spectroscopy」,Journal of Biophotonics,11,(2018)
【非特許文献2】「Windowless ultrasound photoacoustic cell for in-vivo mid-IR spectroscopy of human epidermis: Low interference by changes of air pressure, temperature, and humidity caused by skin contact opens the possibility for a non-invasive monitoring of glucose in the interstitial fluid」,Rev. Sci. Instrum.,84,084901,(2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの刊行物では、数十Hzから数十kHzの間の周波数で活性化された適性変調レーザ光源(aptitude-modulated laser light source)が使用されている。ユーザの皮膚表面下の10μm~100μmの深さにおける間質体液(interstitial bodily fluid)中のグルコース濃度を推定することを目的としている。これを行うために、光音響検出装置は、ユーザの皮膚に対して配置されて使用される。
【0008】
光音響検出装置は、変調された光波によって誘起された周期的な加熱の効果によって振幅変調された音響波を検出するように構成されたトランスデューサを含む。より詳細には、光音響検出装置は、光波の変調周波数に応じた周期で、周期的な圧力変調を検出するように構成されている。測定された圧力変調と分析媒体中に存在する分析物の量との間の相関を確立するために、光音響装置の応答関数を較正することができる。
【0009】
汗をかくことによって、皮膚から水蒸気が放出されるために困難が生じる場合がある。水蒸気は凝縮して小滴を形成し、トランスデューサを損傷する可能性がある。さらに、装置の使用中に、塵埃又は他の望ましくない要素、例えば皮膚の破片が装置内に蓄積する場合がある。本発明の目的は、この問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の課題は、接触面を介して分析対象の媒体に対して適用される光音響検出装置であって、
-前記接触面に形成された接触開口部に通じる中空のキャビティ;
-パルス変調又は振幅変調された光源であって、活性化されると、放射スペクトル帯域の入射光ビームを、前記キャビティを通って前記接触開口部に出射するように構成された光源;
-前記キャビティに接続され、前記キャビティを通って伝播する音響波を検出するように構成された音響トランスデューサ;
を備え、
前記入射光ビームによる前記媒体の照明の効果によって、音響トランスデューサが前記媒体の加熱によって生成された音響波を検出し;
当該装置は、
-前記キャビティは、前記接触面に対向するとともに、前記キャビティを通って延在する膜を備え;
-前記膜は下面と上面で囲まれ、前記下面と前記上面との間に作られた貫通孔を備える、
ことを特徴とする。
【0011】
前記貫通孔とは、空気が前記膜の前記下面と前記上面との間の当該孔を通過することを可能にする孔を意味する。
【0012】
当該装置は、以下に記載される任意の特徴を単独で、又は技術的に達成可能な組み合わせで含んでもよい。
-各貫通孔の半径は、5μm~25μmである。
-前記膜は、前記膜の前記下面又は前記上面の全面積に対する各貫通孔の累積面積の比に対応する開口率を定義し、前記開口率は、例えば、0.05~0.3である。
-前記膜の厚さは100μm~1mmである。
【0013】
-前記膜は、前記接触面からゼロでない距離でキャビティ内にある。
【0014】
好ましくは:
-前記膜は、前記光源が活性化されたとき、前記入射光ビームが前記接触開口部に到達する前に前記膜を通過するように配置され;
-前記膜は、前記光ビームが通過する膜の部分に対応する交差セグメントを含み;
-少なくとも前記交差セグメントにおいて、前記膜は、前記放射スペクトル帯域における透過率が0.4より高い、好ましくは0.8より高い透明材料からなる。
【0015】
前記膜は、前記交差セグメントにおいて開口していなくてもよい。開口していないとは、貫通孔がないことを意味する。
【0016】
前記透明材料は、Si、Ge、AlN、ZnSe、BaF2、CaF2、KBr、ZnS、サファイアから選ばれる少なくとも1つの材料からなってもよい。
【0017】
少なくとも前記交差セグメントにおいて、前記膜の上面は、反射防止コーティングを備えてもよい。
【0018】
前記反射防止コーティングは、前記上面の全体に適用されてもよく、任意に、前記下面の全体又は一部に適用されてもよい。
【0019】
1つの可能性によれば、前記膜はモノリシック(monolithic)である。前記膜は単一の材料(任意の疎水性コーティング又は反射防止コーティングを除く)から製造される。
【0020】
1つの可能性として、前記膜は、
-前記交差セグメントの外側の第1の材料;
-前記交差セグメントにおいて、前記透明材料を形成する補助材料、
からなる。
【0021】
前記膜は、特に前記下面に疎水性コーティングを備えていてもよい。
【0022】
一実施形態によれば、
-前記キャビティは、横断壁と側壁によって囲まれ、前記側壁は前記横断壁と前記接触面との間に延在しており;
-前記膜は前記側壁の2つの対向する面の間に延在している。
【0023】
前記横断壁は、前記接触面に平行であってもよい。
【0024】
一実施形態によれば、前記膜は、前記キャビティ内に取り外し可能に配置される。
【0025】
前記光源は、レーザ光源であってもよい。
【0026】
前記キャビティの体積は、50μL未満であってもよい。
【0027】
本発明は、以下に列挙される図を参照して、後述の部分に提示される実施形態の実施例の説明を読むことによって、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1B】
図1Bは、装置のキャビティを下側キャビティと上側キャビティに分離した様子を概略的に示す。
【
図2】
図2は、厚さ300μmのシリコン膜の界面反射を考慮した透過関数(transmission function)を示す。
【
図3】
図3は、膜の下面に形成され、膜の貫通孔に浸透する液滴を概略的に示す。
【
図4A】
図4Aは、膜によって下側キャビティと上側キャビティとに分離された、キャビティのモデル(modelled cavity)を示す。
【
図4C】
図4Cは、膜の2つの開口因子(aperture factors)を考慮した、下側キャビティ及び上側キャビティにおける圧力の変調の振幅を示す。
【
図5A】
図5Aは、膜が、入射光ビームが通過する膜の部分に対応する交差セグメントにおいて、開口していない部分を含む変形例を示す。
【
図5B】
図5Bは、膜が複合膜であり、赤外線において必ずしも透明ではない「標準」材料と、交差セグメント内に配置される補助材料であって、赤外線に対して透明である補助材料とによって形成された変形例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1Aは、本発明の実施を可能にする装置1を概略的に示す。装置1は、分析される媒体2に対して適用されるように構成される。装置は、分析される媒体に対して適用されることが意図された接触面3を含む。接触面は、押し当てられる媒体に適合するように設計される。たとえば、平面である。この例では、媒体2はユーザの皮膚である。装置は、分析される媒体2に伝搬する光ビーム11を出射するように構成された光源10を含む。光源10は、パルス変調又は振幅変調される。光ビーム11は、媒体中に存在する分析物4の吸収波長λ
aを含む放射スペクトル帯域Δλで出射される。装置1の1つの目的は、分析物4の存在を検出し、任意にその濃度を推定することである。
【0030】
分析物4は、体液中に存在する分子であってもよい。それは、例えば、グルコース、又はコレステロール、トリグリセリド、尿素、アルブミン、アルコール(例えば、エタノール)、テトラヒドロカンナビノール等の身体分析物の問題であってもよい。
【0031】
放射スペクトル帯域は、好ましくは可視又は赤外、例えば、波長3μm~15μmである。好ましくは、放射スペクトル帯域Δλは、装置1が単一の分析物に特異的であるように、十分に狭い。分析物がグルコースの場合、放射スペクトル帯域は、グルコースの吸収波長を中心とし、例えば、波数(wavenumber)1034cm-1に対応する。光源10は、特に、パルスレーザ光源、例えば、波長可変量子カスケードレーザ(QCL)であってもよい。したがって、放射スペクトル帯域Δλは赤外線内である。
【0032】
他の実施形態によれば、光源は、フィラメントベースの光源(filament-based source)又は発光ダイオードであってもよい。これらの実施形態によれば、問題の吸収波長を中心とする十分に狭い放射スペクトル帯域を規定するために、光源をバンドパスフィルタと関連付けることが好ましい。しかしながら、レーザ光源の使用が好ましい。
【0033】
図1Aに示される実施形態では、装置1は、光源によって出射された光ビーム11を分析される媒体2に向かうように制御するように構成された光学部品15を備える。
【0034】
装置1は、分析される媒体2に対して適用されることが意図されている。それは、媒体と接触して配置され、キャビティ20を囲む制限ジャケット(confining jacket)21を含む。キャビティ20は、接触面3に形成された接触開口部22に通じており、媒体2に対して開口している。光ビーム11は、光学部品15によって反射された後、キャビティ20及び接触開口部22を通って媒体2に伝搬する。装置は、入射光ビーム11を透過するように構成された透明窓17を含む。
【0035】
図1Aに示す装置において、光学部品15は反射プリズムの形態をとるリフレクタである。好ましくは、入射光ビーム11は、垂直入射又は実質的に垂直入射で媒体2に到達する。実質的に垂直とは、±30°の角度公差内で垂直であることを意味する。
【0036】
媒体2中に分析物4が存在するため、光音響波12と呼ばれる音波が生成される。光音響波12は、入射光ビームによって媒体が周期的に加熱されることにより生成される音響波であり、入射光ビーム11はパルス変調又は振幅変調される。光音響波12の一部は、音響トランスデューサ28によって検出されるようにキャビティ20を通って伝播する。音響トランスデューサ28は、音響チャネル(acoustic channel)25によってキャビティ20に接続される。音響トランスデューサは、光音響波の周波数を含む検出スペクトル範囲を有するマイクロホンであってもよい。光音響波は、光源のパルス周波数又は振幅変調周波数で振幅変調される。したがって、トランスデューサにおいて、圧力は振幅変調される。
【0037】
制限ジャケット21は、
-好ましくは、接触面3に垂直な軸Zに平行に延在する横方向構成要素21
1。横方向構成要素21
1は、キャビティを囲う側壁(lateral wall)を形成する。
-接触面3に平行に、又は実質的に平行に延在し、接触面3に対向する横断構成要素21
2。横断構成要素21
2は、接触開口部22に平行に、又は実質的に平行に延在している。
図1Aに示される実施形態では、横断構成要素21
2は窓17を含む。横断構成要素21
2は、キャビティを囲う横断壁を形成する。
を備える。
【0038】
実質的に平行とは、±30°又は±20°の角度公差内で平行であることを意味する。
【0039】
側壁211は、接触面3と横断壁212との間に延在している。
【0040】
装置は、上述した構成要素を外被する保護カバー30を含む。光源は、カバー30に接続されたキャリア13上に配置される。
【0041】
刊行物Kottmann,「Mid-infrared photoacoustic detection of glucose in human skin: towards non-invasive diagnostics」,Sensors,2016,16,1663に記載されているように、変調周波数fにおける光音響波の変調振幅Aとキャビティ20の体積Vとの間に、次のような関係を確立することができる。
【数1】
ここで、
-∝は、比例演算子であり;
-I
11(λ)は、波長λにおける入射光ビームの強度であり;
-α(λ)は、波長λにおける分析された媒体の吸収係数(absorption coefficient)であり;
-Vは、キャビティの体積であり、音響チャネルを含んでもよく;
-fは、音響波の変調周波数である。
【0042】
光ビームの周波数をfとし、光ビームの強度をI11(λ)とすると、音響トランスデューサによって検出された光音響波の変調振幅Aは、媒体の吸収係数α(λ)に比例する。しかし、後者は媒体中の分析物の濃度に比例すると考えられる。従って、媒体の吸収係数α(λ)を考慮して、音響トランスデューサ28を用いて変調振幅Aを測定することにより、媒体中の分析物4の濃度を推定することができる。
【0043】
装置は、接触面3とトランスデューサ28との間のキャビティ20内に位置する膜23を備える。
図1Bに示されるように、膜23は、キャビティを以下のように分けることができる。
-接触面3と膜23との間に延在する下側キャビティ20
i;
-膜23とトランスデューサ28との間に延在する上側キャビティ20
s。
【0044】
したがって、膜は、下側キャビティ20iと上側キャビティ20sとの間に介在する保護スクリーンを形成する。これにより、上側キャビティ20sは、接触開口部22を通って下側キャビティ20iに入った水滴又は塵埃、又はその他の存在しやすい望ましくない要素から分離される。
【0045】
膜23は、接触開口部22からゼロでない距離dでキャビティ20内にある。具体的には、装置を稼動させている中、膜23は、皮膚2と接触しているガスの表面層の加熱を妨げないように、皮膚2と接触しないことが好ましい。距離を置いて膜を配置することにより、接触開口部22と膜との間に空気層を維持することができる。膜と接触開口部との間の距離は、200μm又は500μmより大きいことが好ましい。
【0046】
膜は、接触面3に対向して、キャビティを通って右側に延在することが好ましい。膜は、側面の互いに対向する点と点の間に延在している。膜は、接触面に平行に、又は接触面に実質的に平行に配置されることが好ましい。
【0047】
膜23は、ホルダ24によってキャビティ20内に保持される。この例では、膜をホルダ24に挿入する。膜23は取り外し可能であり、これにより、膜23を交換及び/又は洗浄することができる。
【0048】
光源10が作動されると、光ビーム11は、接触開口部22に到達する前に、膜23を通過する。膜は、光ビーム11が通過する膜の部分に対応する交差セグメント23intを含む。
【0049】
少なくとも交差セグメント23intにおいて、膜は、出射されたビーム11のスペクトル帯域Δλにおいて高い透過率を有する材料から形成される。高い透過率とは、材料の透過率が好ましくは0.4より高いか、又は均一であり、好ましくは0.8より高く、例えば0.9以上のオーダーであることを意味する。材料は、例えば、シリコンであってもよい。透過率とは、膜23によって透過される光強度の一部を意味する。膜は、部分的に又は全体的にSi又は赤外線において透明な別の材料、例えば、多孔質Si、Ge、AlN、ZnSe、BaF2、CaF2、KBr、ZnS、又はサファイアから形成されてもよい。
【0050】
図2は、厚さ300μmのSi膜の透過率(y軸)を波長(x軸-単位μm)の関数として示している。透過率は、特に上面23
sによる反射によって影響を受ける。透過率は、特に上面23
s、好ましくは上面23
s及び下面23
iに反射防止コーティングを適用することによって、1に近い値を達成するように向上させることができる。反射防止コーティングは、薄い層の形態で堆積された、開口していない「1/4波長」層(“quarter-wave” layer)の形態をとることができる。薄い層は、当該層の厚さが薄いため、貫通孔を塞ぐ危険を冒すことなく、上面(及び好ましくは下面)の全部又は一部に堆積され得る。
【0051】
膜はまた、交差セグメント23
intにおいて赤外線において十分に透明であると考えられる材料と、交差セグメントの外側の別の材料とを含む複合材料であってもよい。複合膜の一例を、
図5Bを参照して以下に説明する。
【0052】
圧力変調がキャビティ20を通ってトランスデューサ28に伝達されることを可能にするために、膜は、膜の厚さを通って直接延在する貫通孔23
oを含む。貫通孔を
図1Cに示す。貫通孔は、膜23を介して圧力変調を伝達する一方、液体又は塵埃の液滴を遮断するような寸法にされている。これらの貫通孔23
oは、下側キャビティ20
iと上側キャビティ20
sとの間の空気の連通を可能にする。
【0053】
図3は、膜23の下面23
i上に堆積された液滴を示す。膜の下面における液滴の濡れ角度θ
R及び貫通孔23
oにおける液滴の濡れ角度θ
Aがそれぞれ示されている。ここでは、発汗による水蒸気の凝縮によって形成される微小液滴について考察する。液滴は微視的であると仮定され、毛管力(capillary forces)が重力より優勢である。液滴は、下面23
i及び貫通孔23
oを介して液滴と相互作用する拮抗毛管力(antagonistic capillary forces)により、圧力差、すなわち、膜の両側で異なる圧力にさらされる。これらの毛管力は、液滴が受ける圧力差Δpを誘導し、これは以下によって表され得る。
【数2】
ここで、
-γは、液体/空気の表面張力であり;液体が水の場合、γ=0.073N/mであり;液体が生物学的緩衝液の場合、より代表的な汗である場合、γ=0.03N/mであり、
-rは、貫通孔23
oの半径であり;
-Rは、下面23
iの濡れた線の半径である。
【0054】
式(2)はCho, H.-Y. Kim,J. Y. Kang,及びT. S. Kim,「How the capillary burst microvalve works」,J. Colloid Interface Sci.,vol. 306,no 2,p. 379 385,February 2007に由来する。式(2)は、円形断面の貫通孔に液滴が浸透する条件を定義する。膜は、Δp>0である場合、液滴を阻止する。
【0055】
液滴はメニスカスを形成し、当該メニスカスは貫通孔23
oに係合し、貫通孔によって形成された毛管チューブの内部へ液滴を前進させる毛管力を受ける。結果として生じる圧力は、
【数3】
である。液滴の残留部分は、下面23
iに保持され、毛管力を受ける。結果として生じる圧力は、
【数4】
である。
【0056】
濡れ角度θRを大きくするために、膜の下面23iに疎水性表面処理を施してもよい。具体的には、膜を形成する材料が親水性材料であるSiの場合、水の濡れ角は5°である。生物学的緩衝液の液滴を考慮すると、これは、装置がユーザの皮膚に適用されるときに遭遇する条件をより良く近似し、濡れ角度は20°~40°のオーダーである。疎水性表面処理、例えばシラン処理(疎水性シラン機能のグラフト化)を適用することにより、濡れ角度を水については110°まで、生物学的緩衝液については80°まで増加させることができる。したがって、疎水性表面処理は、膜の下面に小滴を保持する能力を高める。また、疎水性処理は、貫通孔の内面に、「オーバーフロー」して施されてもよい。
【0057】
液体の濡れ性とは別に、表面張力γも重要なパラメータである。貫通孔23oの直径が20μm(r=10μm)であり、液体が水(γ=0.073N/m)又は生物学的液体(γ=0.03N/m)である場合、式(1)を適用すると、それぞれ、Δp=0.14bar、Δp=0.06barとなる。したがって、小滴が毛細管現象によって膜を通過する場合の圧力Δpよりも高い圧力を加える必要がある。この推定はR=20μmを考慮して行った。
【0058】
貫通孔の半径は、好ましくは5μm~25μm、好ましくは5μm~15μmである。半径が増加すると、圧力変調の透過は最適であるが、値Δpは減少し、膜は貫通孔を通る液滴の通過を阻止する能力が低下する。この欠点は、下面23iに疎水性表面処理を施すことによってある程度克服することができる。
【0059】
膜23の膜厚εは、100μm~1mmであることが好ましく、150μm~750μmであることが好ましい。
【0060】
また、各貫通孔の半径は、膜厚εにも依存する。貫通孔は、フォトリソグラフィとその後のウェットエッチングによって、Si基板内に形成することができる。この場合、厚さεの1/10程度、必要に応じてそれ以下の直径の貫通孔を形成してもよいと考えられる。
【0061】
膜は、キャビティの下部と上部との間で圧力変調が伝達されることを可能にするような寸法となっている。貫通孔の数は、光源のパルス周波数に対応する周波数範囲において、膜が光音響波に及ぼす影響が無視できると考えられるように決定されなければならない。
【0062】
膜の開口率(aperture factor)は、各貫通孔の累積面積と下面(又は上面)の全面積との比に対応する。開口率は、0.01~0.3であってもよい。本発明者らは、2つの開口率に関して、光音響波12の振幅変調の透過をモデル化した。電気インピーダンスに類似した音響インピーダンスを形成する膜を考慮してモデルを作成した。
図4Aは、キャビティ20のモデル(左側の図)を示しており、膜23は、中間の高さに配置され、電気インピーダンスZ(右側の図)で示される音響インピーダンスを形成する。音響インピーダンスは、
図4Bに示すようなRLC回路によってモデル化された。膜は、下側キャビティ20
iと上側キャビティ20
sとの間の回路R
M、L
M、C
Mで示される。
【0063】
モデル化したキャビティの体積は4.45mm3、高さhは1.5mmであった。以下の2つの異なる開口率を考慮した。
-半径10μmの1000個の貫通孔に対応する第1の開口率:第1の開口率の値は0.1であった;
-半径10μmの100個の貫通孔に対応する第2の開口率:第2の開口率の値は0.01であった。
【0064】
モデル膜の厚さは200μmであった。
【0065】
図4Cは、圧力変調の振幅(y軸-任意の単位)を変調周波数(x軸-Hz)の関数として示している。
-下側キャビティ20
i(曲線a-黒の実線)及び上のキャビティ20
s(曲線b-灰色の実線)について第1の開口率におけるものを示し;
-下側キャビティ20
i(曲線c-黒い破線)及び上側のキャビティ20
s(曲線d-灰色の破線)について第2の開口率におけるものを示している。
【0066】
図4Cは、膜の一方の側から他方の側への圧力変調の伝達に対する開口率の影響を示す。より低い第2の開口率は、特に高周波において、膜によって伝達される圧力変調の減衰をもたらすことが分かる。
【0067】
光ビーム11の透過が回折効果を受けないようにするために、
図5Aに示すように、膜の交差セグメント23
intは開口していなくてもよい。開口されていないセグメントは、上面23
s、好ましくは下面23
iにも適用される反射防止コーティングを備えてもよい。反射防止コーティングは、薄い層であってもよいし、フォトニック結晶(photonic crystal)であってもよい。開口されていないセグメントとは、貫通孔を含まないセグメントを意味する。
【0068】
膜は、任意の反射防止処理又は任意の疎水性処理を除いて、モノリシックであってもよく、すなわち、単一材料から形成されてもよい。
図5Bは、膜が複合膜である1つの変形例を示す。膜は、交差セグメントの外側の赤外線において必ずしも透明ではない標準的な第1の材料23
1から構成される。交差セグメントにおいて、膜は、赤外線において透明である補助材料23
aを含む。第1の材料23
1は、標準的な多孔質膜の材料、例えば、GoreTex(登録商標)のような材料であってもよい。補助材料23
aは、第1の材料23
1と異なる。