(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101535
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】抗C5抗体クロバリマブの使用によるC5関連疾患の治療または予防のための薬用量および投与レジメン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220629BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220629BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20220629BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220629BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20220629BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220629BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220629BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20220629BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220629BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220629BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220629BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220629BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220629BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220629BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61P43/00 111
A61P1/16 ZNA
A61P7/00
A61P7/04
A61P9/00
A61P9/10
A61P13/02
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A61P19/02
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A61P27/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61K39/395 N
A61K31/713
A61K45/00
C07K16/18
C12N15/113 Z
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022036164
(22)【出願日】2022-03-09
(62)【分割の表示】P 2020129462の分割
【原出願日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】19189442
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20174790
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20179591
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】306021192
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ソステリ, アレクサンドル アントワーヌ ベルナール
(72)【発明者】
【氏名】ブアトワ, シモン ベルトラン マリー
(72)【発明者】
【氏名】ソウブレ, アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジャミノン, フェリクス グレゴワール ジャゾン
(72)【発明者】
【氏名】ジョーダン, グレゴール
(72)【発明者】
【氏名】ブッチャー, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】チャロイン, ジャン-エリク
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
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4H045AA10
4H045AA11
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4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】C5関連疾患を治療または予防する方法における使用のための、抗C5抗体、特に抗C5抗体クロバリマブの薬用量および投与レジメンを提供する。
【解決手段】対象のC5関連疾患を治療または予防する方法における使用のための抗C5抗体であって、前記方法が、以下の連続する工程:(a)対象に負荷用量1500mgの抗C5抗体を一回静脈内投与し、続いて対象に負荷用量340mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程;および(b)対象に維持用量1020mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のC5関連疾患を治療または予防する方法における使用のための抗C5抗体であって、前記方法が、以下の連続する工程:
(a)対象に負荷用量1500mgの抗C5抗体を一回静脈内投与し、続いて対象に負荷用量340mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程;および
(b)対象に維持用量1020mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程
を含む、抗C5抗体。
【請求項2】
皮下投与される負荷用量340mgの抗体が、抗C5抗体の静脈内投与の開始の1日から3週間後に、少なくとも一回対象に投与される、請求項1に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項3】
皮下投与される負荷用量340mgの抗体が、抗C5抗体の静脈内投与の開始の1日後に一回対象に投与される、請求項2に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項4】
少なくとも一回の追加負荷用量340mgの抗C5抗体が、抗C5抗体の静脈内投与開始の1週間または2週間後に、対象に皮下投与される、請求項2または請求項3に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項5】
追加負荷用量340mgの抗C5抗体が、抗C5抗体の静脈内投与開始の1週間後および2週間後に、週一回対象に皮下投与される、請求項2から4のいずれか一項に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項6】
少なくとも一回の維持用量1020mgの抗C5抗体が、抗C5抗体の静脈内投与開始の4週間後に、対象に皮下投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項7】
維持用量1020mgの抗C5抗体が、抗C5抗体の静脈内投与の開始から4週間後に、対象に一回皮下投与される、請求項6に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項8】
対象に対する維持用量1020mgの抗C5抗体の皮下投与が、少なくとも4週間の時間間隔で複数回繰り返される、請求項6または請求項7に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項9】
方法が以下の投与工程によって実行される、請求項1から8のいずれか一項記載の使用のための抗C5抗体:
(i)対象に負荷用量1500mgの抗C5抗体を一回静脈内投与する工程;
(ii)抗C5抗体の静脈内投与開始の1日後に、対象に対し、負荷用量340mgの抗C5抗体を皮下投与する工程;
(iii)抗C5抗体の静脈内投与開始から1週間、2週間および3週間後に、対象に対し、負荷用量340mgの抗C5抗体を週一回皮下投与する工程;
(iv)抗C5抗体の静脈内投与開始の4週間後に、対象に対し、維持用量1020mgの抗C5抗体を皮下投与する工程;および
(v)4週間の時間間隔で工程(iv)を複数回繰り返す工程。
【請求項10】
対象が、C5関連疾患の治療または予防に有用な少なくとも一つの薬理学的製品による前治療を受け、静脈内投与される負荷用量1500mgの抗C5抗体が、薬理学的製品の最終用量の後で対象に投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項11】
静脈内投与される負荷用量1500mgの抗C5抗体が、薬理学的製品の最終用量の投与から3日目または同投与の3日後に、対象に投与される、請求項10に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項12】
薬理学的製品が、C5 mRNAを標的とするsiRNA、または皮下もしくは静脈内注射用の組成物に含まれる抗C5抗体とは異なる抗C5抗体を含む、請求項10または請求項11に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項13】
薬理学的製品がエクリズマブ、ラブリズマブまたはそれらの変異体を含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項14】
対象が100kg以上の体重を有する、請求項1から13のいずれか一項記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項15】
前記対象の生物学的試料中において決定される抗C5抗体濃度が100μg/ml以上である、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項16】
前記対象の生物学的試料中において決定される溶血活性が10U/mL未満である、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項17】
生物学的試料が血液試料、好ましくは赤血球試料である、請求項15または請求項16に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項18】
抗C5抗体がクロバリマブである、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用のための抗C5抗体。
【請求項19】
C5関連疾患が、発作性夜間血色素尿症(PNH)、関節リウマチ(RA)、ループス腎炎、虚血-再灌流障害、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、濃厚沈着疾患(DDD)、黄斑変性、溶血、肝酵素上昇、低血小板(HELLP)症候群、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自然発生的胎児喪失、Pauci-免疫性血管炎、表皮水疱症、再発性胎児喪失、多発性硬化症(MS)、外傷性脳損傷、心筋梗塞、心肺バイパスまたは血液透析に起因する損傷、難治性全身性重症筋無力症(gMG)、および視神経脊髄炎(NMO)からなる群より選択される、請求項1から18のいずれか一項に記載の使用のための抗C5抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発作性夜間血色素尿症(PNH)を含む、対象におけるC5関連疾患を治療または予防する方法における使用のための、抗C5抗体、特に抗C5抗体クロバリマブの薬用量および投与レジメンに関する。本発明の薬用量および治療レジメンは、対象に対して負荷用量に続いて抗C5抗体の維持用量を投与する、抗C5抗体、好ましくは抗C5抗体クロバリマブの投与を含み、ここで、最初に投与される負荷用量は対象に静脈内投与され、残りの負荷用量および維持用量は、静脈内投与される負荷用量より低い薬用量で皮下投与される。
【背景技術】
【0002】
補体系は、免疫複合体のクリアランスにおいて、ならびに感染因子、外来抗原、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞に対する免疫応答において、中心的な役割を果たしている。約25~30種類の補体タンパク質があり、それらは血漿タンパク質と膜補因子との複合集合体として見出される。補体成分は、一連の複雑な酵素切断と膜結合事象において相互作用することにより、その免疫防御機能を達成する。その結果生じる補体カスケードにより、オプソニン機能、免疫調節機能、溶菌機能を有する生成物が生成される。
【0003】
補体系は、古典的経路、レクチン経路、および代替経路の三つの別個の経路を通して活性化されうる。これらの経路は多くの成分を共有しており、それらはその初期段階を異にするものの、収束して、標的細胞の活性化と破壊を担う同じ末端補体成分(C5からC9)を共有する。
【0004】
古典的経路は通常、抗原抗体複合体の形成によって活性化される。独立して、レクチン経路の活性化の第一段階は、マンナン結合型レクチン(MBL)、H-フィコリン、M-フィコリン、L-フィコリン、C型レクチンCL-11のような特定のレクチンの結合である。対照的に、代替経路は低レベルの代謝回転活性化を自然に受けており、これは外来または他の異常表面(細菌、酵母、ウイルス感染細胞、または損傷組織)上で容易に増幅することができる。これらの経路は、補体成分C3が活性型プロテアーゼによって切断されてC3aとC3bを生じる点で収束する。
【0005】
C3aはアナフィラトキシンである。C3bは、細菌およびその他の細胞、並びにある種のウイルスおよび免疫複合体に結合し、循環からの除去のためにそれらに標識する(オプソニンとして知られる役割)。C3bは他の成分と複合体を形成してC5転換酵素を形成し、これによりC5はC5aとC5bに切断される。
【0006】
C5は正常血清中に約80μg/ml(0.4μM)見られる190kDaのタンパク質である。C5はグリコシル化され、その質量の約1.5~3.0%が炭水化物に起因する。成熟C5は、75kDaのベータ鎖にジスルフィド結合した115kDaのα鎖のヘテロ二量体である。C5は、1676のアミノ酸の単鎖前駆体タンパク質(プロC5前駆体)として合成される(例えば、US-B1 6,355,245およびUS-B1 7,432,356参照)。プロC5前駆体は切断されて、アミノ末端断片としてβ鎖を、カルボキシル末端断片としてアルファ鎖を生じる。アルファ鎖とベータ鎖ポリペプチド断片はジスルフィド結合を介して互いに結合し、成熟C5タンパク質を構成する。
【0007】
補体系の終末経路はC5の捕捉と切断から始まる。成熟C5は、補体経路の活性化の間にC5a断片とC5b断片に切断される。C5aはC5転換酵素によってC5のアルファ鎖からアルファ鎖の最初の74のアミノ酸を含むアミノ末端断片として切断される。成熟C5の残りの部分は断片C5bであり、ベータ鎖に結合したアルファ鎖ジスルフィドの残りの部分を含む。C5aの11kDa質量の約20%は炭水化物に起因する。
【0008】
C5aは別のアナフィラトキシンである。C5bはC6、C7、C8、C9と結合し、標的細胞の表面で膜攻撃複合体(MAC、C5b-9、終末補体複合体(TCC))を形成する。十分な数のMACが標的細胞膜に挿入されると、MAC孔が形成され、標的細胞の急速な浸透圧溶解を媒介する。
【0009】
前述したように、C3aおよびC5aはアナフィラトキシンである。これらはマスト細胞の脱顆粒を誘発することができ、これにより炎症のヒスタミンおよび他のメディエーターが放出され、その結果、平滑筋収縮、血管透過性の亢進、白血球の活性化、および過形成をもたらす細胞増殖を含む他の炎症現象が生じる。C5aはまた、好中球、好酸球、好塩基球および単球などの顆粒球を補体活性化部位に引き寄せる働きをする走化性ペプチドとして機能する。
【0010】
C5aの活性は、C5a-des-Arg誘導体を形成するC5aからカルボキシ末端アルギニンを除去する血漿酵素カルボキシペプチダーゼNによって調節される。C5a-des-Argは、わずか1%の非修飾C5aのアナフィラキシー活性および多形核走化活性を呈する。
【0011】
適切に機能する補体系は、感染微生物に対する強固な防御を提供するが、例えば、不適切な補体の制御または活性化は、発作性夜間血色素尿症(PNH);関節リウマチ;虚血-再潅流障害;非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS);黄斑変性(例えば、加齢黄斑変性(AMD));溶血、肝酵素上昇、および低血小板(HELLP)症候群;血栓性血小板減少性紫斑病(TTP);自然発生的な胎児喪失;Pauci-免疫性血管炎;表皮水疱症;再発性胎児喪失;多発性硬化症;心筋梗塞、心肺バイパスおよび血液透析に起因する損傷を含む様々な障害の病因に関与している(例えば、Holers et al., Immunol. Rev. (2008), Vol. 223, pp. 300-316参照)。したがって、補体カスケードの過剰なまたは制御不能な活性化を阻害することにより、このような障害を有する患者に臨床的利益をもたらすことができる。
【0012】
発作性夜間血色素尿症(PNH)はまれな血液疾患であり、赤血球(red blood cell/erythrocyte)が傷つき、したがって正常な赤血球よりも急速に破壊される。PNHは、X染色体上に位置するPIG-A(ホスファチジルイノシトールグリカンクラスA)遺伝子に体細胞変異を有する造血幹細胞のクローン増殖に起因する。PIG-Aの変異は、多くのタンパク質の細胞表面へのアンカーに必要な分子であるグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)の合成を早期にブロックする。その結果、PNH血球は、補体制御タンパク質CD55およびCD59を含むGPIアンカータンパク質を欠損している。通常の状況下では、これらの補体制御タンパク質は細胞表面でのMACの形成をブロックし、それによって赤血球の溶解を妨げる。GPIアンカー型タンパク質の欠如は、PNHにおける補体媒介性溶血を引き起こす。
【0013】
PNHは、溶血性貧血(赤血球数の減少)、ヘモグロビン尿症(特に睡眠後に明らかな尿中のヘモグロビンの存在)、ヘモグロビン血症(血流中のヘモグロビンの存在)を特徴とする。PNHに罹患した対象は発作性であることが知られており、これはここで暗色尿の発生として定義される。溶血性貧血は、補体成分による赤血球の血管内破壊に起因する。他に知られている症状には、不全失語、疲労、勃起障害、血栓症および反復性腹痛が含まれる。
【0014】
エクリズマブは、補体タンパク質C5に対するヒト化モノクローナル抗体であり、発作性夜間血色素尿症(PNH)および非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の治療のために承認された最初の治療法である(例えば、Dmytrijuk et al., The Oncologist(2008), 13(9), pp. 993-1000参照)。エクリズマブは、C5転換酵素によるC5のC5aおよびC5bへの切断を阻害し、これにより終末補体複合体C5b-9の生成が妨げられる。C5aおよびC5b-9はいずれも、PNHおよびaHUSに特徴的な終末補体媒介性事象を引き起こす(例えば、WO-A2 2005/074607、WO-A1 2007/106585、WO-A2 2008/069889、およびWO-A2 2010/054403参照)。PNHの治療のために、抗C5抗体であるエクリズマブまたはラブリズマブが一般的な治療法である。しかしながら、アジア系の個体の最大3.5%がArg885に影響を及ぼすC5に多型を保有しており、これはエクリズマブおよびラブリズマブ結合部位に相当する(Nishimura et al., N Engl J Med、Vol. 370, pp. 632-639(2014);DOI:10.1056/NEJMoa1311084)。これらの多型を有するPNH患者は、エクリズマブまたはラブリズマブによる血管内溶血の制御不良を経験するため、アンメット・メディカル・ニーズの高いグループを構成する。
【0015】
いくつかの報告は抗C5抗体を記載している。例えば、WO 95/29697には、C5のアルファ鎖に結合するがC5aには結合せず、C5の活性化をブロックする抗C5抗体が記載されている。WO-A2 2002/30985には、C5a形成を阻害する抗C5モノクローナル抗体が記載されている。一方、WO-A1 2004/007553には、C5のアルファ鎖上のC5転換酵素に対するタンパク質分解部位を認識し、C5のC5aおよびC5bへの変換を阻害する抗C5抗体が記載された。WO-A1 2010/015608は、少なくとも1x10
7M
-1の親和定数を有する抗C5抗体を記載した。さらに、WO-A1 2017/123636およびWO-A1 2017/132259には抗C5抗体が記載されている。さらに、WO-A 2016/098356は、酸性pHよりも中性pHで高い親和性でC5のベータ鎖内のエピトープに結合することを特徴とする抗C5抗体の生成を開示した。WO-A1 2016/098356に開示されている抗C5抗体の一つは、抗C5抗体クロバリマブを指す(詳細は以下の実施例1を参照のこと)。クロバリマブは、C5のベータサブユニット上の別個のエピトープに結合する抗C5抗体であり、エクリズマブ/ラブリズマブ結合エピトープとは異なる。In vitro試験により、抗C5抗体クロバリマブが野生型およびArg885変異型C5と等しく結合し、その活性を阻害することが実証された(Fukuzawa et al., Sci Rep、7(1):1080. doi:10.1038/s41598-017-01087-7(2017))。対照的に、WO-A1 2017/104779は、抗C5抗体エクリズマブがArg855変異C5を阻害しなかったことを
図21において報告している。さらに、WO-A1 2018/143266は、C5関連疾患の治療または予防における使用のための薬学的組成物に関する。さらに、WO-A1 2018/143266は、COMPOSER研究(BP39144)で使用される抗C5抗体クロバリマブの薬用量および投与スキームを開示している。COMPOSER試験は、健常な対象およびPNHに罹患した対象における、抗C5抗体クロバリマブの安全性および有効性、薬物動態(PK)、ならびに薬力学(PD)を評価するための、第I/II相国際多施設非盲検試験を指す。COMPOSER試験には、三つのパート:健常な関係者におけるパート1と、発作性夜間血色素尿症(PNH)患者を対象としたパート2およびパート3。さらに、本試験のパート3に含まれる患者は、抗C5抗体のエクリズマブによる治療を少なくとも3ヵ月受けた患者であった。COMPOSER試験のパート1の関係者は、3群の健常患者を含むように設計された:当初のプロトコール設計に従い、第1群は、抗C5抗体クロバリマブを75mg/bodyの用量で一回静脈内(IV)投与する患者群であり;患者の第2群は、抗C5抗体クロバリマブを150mg/bodyの用量で一回静脈内(IV)投与する関係者群であり、第3群は、抗C5抗体クロバリマブを170mg/bodyの用量で一回皮下(SC)投与する対象群である。COMPOSER試験のパート1は本質的に適応的であるため(安全性、忍容性、薬物動態(PK)および薬力学(pD)データの進行中の評価に基づく)、パート1の実際の用量は以下のとおりであった:COMPOSER試験のパート1に登録された第1群の患者に75mgを静注、第2群の患者に125mgを静注、第3群の患者に100mgを皮下投与。
【0016】
COMPOSER試験のパート2は、抗C5抗体クロバリマブが三回静脈内投与される対象群を含むように設計された:当初のプロトコール設計に従い、抗C5抗体クロバリマブは、最初に300mg/body(IV)の用量で投与され、次いで初回投与の一週間後に500mg/body(IV)で投与され、最後に2回目の投与の二週間後に1000mg/body(IV)で投与された。最終静脈内投与の二週間後から開始して、抗C5抗体クロバリマブは170mg/bodyの用量で週一回皮下投与される。パート1の新たな臨床データおよびPKシミュレーションに基づき、COMPOSER試験のパート2の患者に対する開始用量は300mgから375mg IVに変更された。したがって、COMPOSER試験のパート2で与えられた実際の用量は以下のとおりである:抗C5抗体クロバリマブは、初回375mg/bodyで静脈内(IV)投与され、続いて初回投与の一週間後に500mg/body(IV)で、最後に2回目の投与の二週間後に1000mg/body(IV)で投与される。最終静脈内投与の二週間後から、抗C5抗体クロバリマブが170mg/bodyの用量で週一回皮下(SC)投与される。
【0017】
試験のパート3は試験登録前の3カ月間抗C5抗体エクリズマブによる治療を受けた患者を含んでおり、これら患者は定期的にエクリズマブの点滴静注を受けなければならなかった。本試験のパート3は、三つの対象群を含むように設計された。抗C5抗体クロバリマブは、最初に、全群の対象に対し、1000mg/bodyの用量で一回静脈内投与される。抗C5抗体クロバリマブは、初回静脈内投与の一週間後(初回静脈内投与後8日目)から開始して、第1群の対象に170mg/bodyの用量で週一回、第2群の対象に340mg/bodyの用量で二週間に一回、第3群の対象に680mg/bodyの用量で4週間に一回、それぞれ皮下投与される。COMPOSERのパート3では、抗C5抗体エクリズマブからクロバリマブに切り替えたPNH患者全例で、クロバリマブ、ヒトC5、および抗体エクリズマブ間の薬物-標的-薬物-複合体(DTDC)を検出した。DTDCは、終末補体経路の完全な阻害の一時的な喪失のリスクを潜在的に増加させることができるクロバリマブクリアランスの一過性の増加を引き起こす(Roth et al., Blood(2020), Vol. 135, pp. 912-920;doi:10.1182/blood.2019003399 and Sostelly et al., Blood(2019), Vol. 134、p. 3745))。
【0018】
さらに、WO-A1 2018/143266には、エクリズマブで治療された対象において、クロバリマブ、ヒトC5および抗体エクリズマブの間に免疫複合体(薬物-標的-薬物-複合体)が形成されうることが記載されている。対象、特にPNHまたはaHUS患者のように完全なC5阻害の維持を必要とする対象が抗C5抗体エクリズマブからクロバリマブに切り替えると、両方の抗C5抗体はヒトC5の異なるエピトープに結合するために血液循環中に存在することとなり、薬物-標的-薬物-複合体(DTDC)を形成する。これらのDTDCは、分子のエクリズマブ-C5-クロバリマブ-C5鎖の反復から構築され、二つのDTDCが集合してより大きなDTDCを形成して増殖しうる。クロバリマブを用いたCOMPOSER試験のパート3に含まれる患者の治療目標は、終末補体経路の迅速かつ持続的な完全阻害を確実にすることである。しかしながら、クロバリマブ、ヒトC5、およびエクリズマブからなる薬物-標的-薬物-複合体(DTDC)は、COMPOSERのパート3において、エクリズマブから切り替えたすべての者で検出された。DTDCおよび特に大きなDTDCは、より緩慢に除去され、毒性を引き起こす可能性がより高い。このようなDTDCの形成は、循環障害、複雑なサイズによる血管炎リスク、III型過敏症反応、または補体系の異常な活性化といった潜在的リスクを引き起こす可能性があるため、そのようなDTDCの形成は避けるべきである(Roth et al., Blood(2020), Vol., 135, pp. 912-920;doi:10.1182/blood.2019003399も参照)。
【0019】
さらに、その作用機序に基づき、抗C5抗体クロバリマブは、補体調節タンパクを欠く赤血球の補体媒介性溶解を抑制する。治療間隔中に終末補体経路が一時的にブロックされない場合、これらの赤血球は溶解し、PNH患者の重篤な臨床的合併症であるブレイクスルー溶血をもたらす可能性がある。生物学的ストレス(感染、手術、妊娠)は、C5の上方制御を伴う補体経路の生理学的活性化に繋がる(Schutte et al., Int Arch Allergy Appl Immunol. (1975), Vol. 48(5), pp. 706-720)。したがって、PNH患者では、投与期間を通じて終末補体活性の完全な遮断を維持するだけでなく、ブレイクスルー溶血の発生を最小限に抑えるために、クロバリマブの遊離結合部位の予備を維持することが重要である。
【0020】
したがって、(1)C5関連疾患に罹患した患者、特に抗C5抗体エクリズマブからクロバリマブに切り替えた患者において、DTDCの形成を最小限に抑え、(2)クロバリマブ遊離結合部位のレベルを最大化し、かつ(3)個体間のばらつきにもかかわらず、終末補体阻害に必要な抗C5抗体標的閾値濃度を患者が常に上回っていることを保証する薬用量および投与レジメンを特定する必要がある。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、この必要性に、特許請求の範囲に定義されている実施態様を提供することにより対処する。
【0022】
本発明は、対象においてC5関連疾患を治療または予防する方法における使用のための抗C5抗体に関し、この方法は、以下の連続する工程を含む:
(a)対象に負荷用量1500mgの抗C5抗体を一回静脈内投与し、続いて対象に負荷用量340mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程;および
(b)対象に維持用量1020mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程
を含む、C5関連疾患を治療または予防する方法における使用のための抗C5抗体。
【0023】
本発明の文脈において、治療対象は、好ましくは体重が100kg以上の患者である。本発明の文脈において、治療対象は、補体活性の阻害を必要とするC5関連疾患(例えば、PNHおよびaHUS)に罹患した治療対象(複数可)である。さらに、本発明は、C5関連疾患、特にPNHの治療または予防のための抗C5抗体の使用を目的とする。本発明の文脈において、本発明は、C5関連疾患、好ましくはPNHの治療または予防に有用な一つの医薬品で治療された患者における、C5関連疾患、好ましくはPNHの治療または予防を目的として、静脈内投与される抗C5抗体の負荷用量が、薬理学的製品の最終投与後に対象に投与される。したがって、抗C5抗体、特に抗C5抗体クロバリマブのここに記載される薬用量および投与レジメンは、C5関連疾患、好ましくはPNHの治療または予防に有用な一つの医薬品で治療された患者に与えられる。以下でより詳細に説明するように、特許請求される薬用量および治療レジメンの開始前に対象に与えられるC5関連疾患の治療に有用な医薬品は、抗C5抗体エクリズマブまたはラブリズマブ、好ましくは抗C5抗体エクリズマブを指す。
【0024】
実施例に示すように、特許請求の範囲に規定される用量および治療レジメンは、終末補体活性の持続的かつ一貫した遮断を保証する(約95%を上回る対象が標的閾値である100μg/ml超に維持される)(
図4および7参照)。さらに、終末補体の阻害は、初回投与直後に達成され、投与間隔を通じて概ね維持された(
図8参照)。さらに、本発明の薬用量および治療レジメンはまた、治療未経験患者およびエクリズマブ前治療患者の両方において、投与間隔の大部分にわたり、遊離結合部位の十分な予備を確保する(
図2参照)。クロバリマブとエクリズマブは異なるC5エピトープに結合するため、DTDCが形成されると予想される。エクリズマブから抗C5抗体クロバリマブへの切り替え期間中に、患者がクロバリマブとエクリズマブに同時に曝露された場合、DTDCが発生すると予想される(
図5参照)。DTDCの形成は、クロバリマブのクリアランス増大の一因となる可能性があり、上記のようなIII型過敏症反応などの潜在的リスクを生じさせうる。エクリズマブからクロバリマブに切り替えた患者では、特許請求の範囲に規定される用量および治療レジメンによりDTDCの形成が減少すると予測される(
図3および12参照)。したがって、ここに記載される薬用量および治療レジメンは、C5関連疾患、好ましくはPNHの治療または予防のための、抗C5抗体、好ましくは抗C5抗体クロバリマブの、新規で改良された投薬レジメンを概説する。特許請求される薬用量および治療レジメンの安全性および治療効果は、
図9から11にさらに報告されている。
【0025】
したがって、本発明は、対象、好ましくは100kg以上の体重を有する対象における、C5関連疾患を治療または予防する方法における使用のための、抗C5抗体、好ましくは抗C5抗体クロバリマブに関し、この方法は、以下の連続する工程を含む:
(a)対象に負荷用量1500mgの抗C5抗体を一回静脈内投与し、続いて対象に負荷用量340mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程;および
(b)対象に維持用量1020mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程
を含む、C5関連疾患を治療または予防する方法における使用のための抗C5抗体。
【0026】
「負荷用量」は、治療の開始時、すなわち治療レジメンの開始時に、C5関連疾患、好ましくはPNHに罹患している対象に投与される抗C5抗体の用量を指す。薬物動態(PK)において、「負荷用量」は、より低い用量に落とされる前に、治療の過程の最初に患者に投与されうる薬物の初期のより高い用量である。本発明の文脈において、負荷用量は、静脈内投与により、続いて皮下投与により、治療対象に最初に与えられる。本発明の文脈において、負荷用量は、1500mgの用量で一回与えられる。したがって、本発明の文脈において、静脈内投与用に処方された組成物の負荷用量は、対象に一回静脈内投与され、その後皮下投与用に処方された薬学的組成物の一または複数回の負荷用量が皮下投与される。
【0027】
本発明の文脈において、抗C5抗体の一または複数回の負荷用量は、負荷用量1500mgの抗C5抗体の静脈内投与後に、患者に皮下投与される。皮下投与される負荷用量(複数可)は、抗C5抗体の静脈内投与開始の1日から3週間(21日)後に、対象に対して少なくとも一回、抗C5抗体の用量340mgで皮下投与される。したがって、本発明の文脈において、抗C5抗体の静脈内投与の開始から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、または21日後に、抗C5抗体の負荷用量340mgが、対象に対し少なくとも一回皮下投与される。好ましくは、抗C5抗体の負荷用量340mgが、抗C5抗体の静脈内投与の開始から1日後に対象に投与される。より好ましくは、静脈内投与開始の1日後に、負荷用量340mgの抗C5抗体が、一回皮下投与される。本発明の文脈において、抗C5抗体の静脈内投与の開始から一週間(7日)、二週間(14日)、または3週間(21日)後に、追加負荷用量340mgの抗C5抗体が、少なくとも一回対象に皮下投与される。最も好ましくは、抗C5抗体の静脈内投与の開始から1週間(7日)、2週間(14日)および3週間(21日)後に、追加負荷用量340mgの抗C5抗体が皮下投与される。したがって、本発明の文脈において、1、2、3、4および/または5回の負荷用量が患者に投与され、ここで一回の負荷用量、好ましくは初回負荷用量が、1500mgの用量で患者に静脈内投与され、1、2、3または4回の負荷用量が、340mgの用量で患者に皮下投与される。本発明の文脈において、各々が薬用量340mgの抗C5抗体を有する4回の負荷投与量の皮下投与が好ましく、ここで、追加負荷用量は、抗C5抗体の静脈内投与開始の1日後に一回皮下投与され、続いて、抗C5抗体の静脈内投与開始の1週間後、2週間後および3週間後に、週一回負荷用量が皮下投与される。したがって、総量2860mgの抗C5抗体が負荷用量で患者に投与されうる。総量は、治療22日後に投与された抗C5抗体の総用量、すなわち、治療22日目の終わりに到達した用量を指し、これは、1日目の負荷用量(最初に静脈内投与された負荷用量1500mg)、2日目(抗C5抗体の静脈内投与開始の1日後に患者に最初に皮下投与される負荷用量340mg)、8日目(静脈内投与開始の1週間後に2回目に皮下投与される負荷用量340mg)、15日目(静脈内投与開始の2週間後に3回目に皮下投与される負荷用量340mg)、および22日目(静脈内投与開始の3週間後に4回目に皮下投与される負荷用量340mg)を合計することにより算出される。例えば、1500mgの静脈内投与(1日目)と、それに続く340mg(2日目)、340mg(8日目)、340mg(15日目)および340mg(22日目)に対応する負荷用量(複数可)により与えられる抗C5抗体の総量は2860mgである。
【0028】
本発明によれば、初回用量(複数可)に続いて、抗C5抗体の濃度を有効な標的レベルまたはそれ以上に維持するのに十分に短い間隔で、等量またはより少量の抗C5抗体がその後投与される。したがって、本発明の文脈において、維持用量(複数可)は、負荷用量の後で患者に投与される。「維持用量」は、抗C5抗体の濃度を抗C5抗体濃度の特定の有効閾値を上回る値に維持するためにC5関連疾患に罹患している対象に与えられる抗C5抗体の用量を指す。本発明の文脈において、抗C5抗体の標的レベルは約100μg/ml以上である。本発明内の抗C5濃度の標的レベルは、治療対象の生物学的試料において決定されうる。生物学的試料中の抗C5濃度の決定のための手段および方法は、当業者の一般知識の範囲内にあり、例えば、イムノアッセイによって決定することができる。好ましくは、本発明の文脈において、イムノアッセイはELISAである。同様に、溶血活性は、特許請求される薬用量および治療レジメンによる、C5関連疾患に罹患している患者の有効な治療のためのパラメータとして使用することができる。本発明の文脈において、溶血活性は、治療される患者の生物学的試料において決定することができる。本発明の文脈において、完全な終末補体阻害(補体系の末端経路の完全な阻害)は、10U/mL未満の溶血活性により定義することができる。溶血活性は10U/mL未満、即ち10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、または0U/mLであることが好ましい。本発明による薬用量および投与レジメンによって治療される患者の生物学的試料中の溶血活性の決定のための手段および方法は、当業者には既知である。例示的に、溶血活性はイムノアッセイによって決定することができる。好ましくは、本発明の文脈において、イムノアッセイはex vivoリポソームイムノアッセイ(LIA)である。本発明の文脈において、生物学的試料は血液試料である。好ましくは、血液試料は赤血球試料である。好ましくは、維持用量(複数可)は、抗C5抗体の用量(複数可)1020mgで患者に皮下投与される。したがって、本発明の文脈内で、少なくとも一つの維持用量、またはそれより多い維持用量が対象に与えられ、ここで、維持用量(複数可)は用量1020mgで皮下投与される。本発明の文脈において、抗C5抗体の静脈内投与の開始から4週間(28日)後に、少なくとも一回の維持用量1020mgの抗C5抗体が対象に皮下投与される。好ましくは、抗C5抗体の静脈内投与開始から4週間後に、対象に対し、維持用量1020mgが一回皮下投与される。したがって、本発明の文脈内において、少なくとも一回の維持用量1020mgが、抗C5抗体の静脈内投与開始から4週間(28日)後、すなわち治療レジメンの29日目に、患者に皮下投与される。したがって、本発明の文脈において、維持用量1020mgが、好ましくは抗C5抗体の静脈内投与開始から4週間(28日)後に、一回皮下投与される。本発明の文脈において、総量3880mgの抗C5抗体が、本発明に従って負荷用量および維持用量で患者に投与されうる。総量は、治療29日後に投与された抗C5抗体の総用量、すなわち、治療29日目の終わりに到達した用量を指し、これは、1日目の負荷用量(最初に静脈内投与される負荷用量1500mg)、2日目(抗C5抗体の静脈内投与開始の1日後に患者に最初に皮下投与される負荷用量340mg)、8日目(静脈内投与開始の1週間後に2回目に皮下投与される負荷用量340mg)、15日目(静脈内投与開始の2週間後に3回目に皮下投与される負荷用量340mg)、22日目(静脈内投与開始の3週間後に4回目に皮下投与される負荷用量340mg)、および皮下投与される維持用量1020mg(29日目)を合計することにより算出される。例えば、1500mgの静脈内投与(1日目)、それに続く340mg(2日目)、340mg(8日目)、340mg(15日目)、340mg(22日目)および1020mg(29日目)の皮下投与に対応する負荷用量および維持用量により与えられる抗C5抗体の総量は、3880mgである。
【0029】
維持用量1020mgの皮下投与は、4週間の時間間隔で(Q4W)数回繰り返すことができる。本発明の文脈において、1020mgの維持用量が、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、24、36、48カ月目に繰り返されることが好ましい。本発明の文脈において好ましいのは、4週間の時間間隔で維持用量1020mgを繰り返し、患者の全生涯にわたって継続することである。
【0030】
特に、本発明は、対象、好ましくは100kg以上の体重を有する対象において、C5関連疾患を処置または予防する方法において使用するための抗C5抗体に関し、この方法は、以下の連続工程を含む:
(i)対象に負荷用量1500mgの抗C5抗体を一回静脈内投与する工程;
(ii)抗C5抗体の静脈内投与開始の1日後に、対象に対し、負荷用量340mgの抗C5抗体を皮下投与する工程;
(iii)抗C5抗体の静脈内投与開始から1週間(7日)、2週間(14日)および3週間(21日)後に、対象に対し、負荷用量340mgの抗C5抗体を皮下投与する工程;
(iv)抗C5抗体の静脈内投与開始の4週間(28日)後に、対象に対し、維持用量1020mgの抗C5抗体を皮下投与する工程;および
(v)工程(iv)を4週間(28日)の時間間隔で複数回繰り返す工程。
【0031】
用語「静脈内投与」/「静脈内投与する」は、本発明の文脈では、治療される患者の身体が約15分以下、好ましくは5分以下の間に抗C5抗体を受け取るように、抗C5抗体を対象の静脈内に投与することを指す。静脈内投与の場合、抗C5抗体は、シリンジなどの(限定されないが)適切なデバイスを介して投与されるように処方されなければならない。本発明の文脈において、静脈内投与のための製剤は、50~350mgの抗C5抗体、1~100mMの緩衝剤、例えばpH5.5±1.0、1~100mMのアルギニンなどのアミノ酸を含むヒスチジン/アスパラギン酸、および0.01~0.1%のポロキサマーなどの非イオン性界面活性剤を含む。本発明の文脈において好ましいのは、静脈内投与用の製剤が、以下の成分を含む2mLのガラスバイアル中に提供されることである:170mg/mlのクロバリマブ、30mMのヒスチジン/アスパル酸(pH5.8)、100mMのアルギニン塩酸塩、および0.05%ポロキサマー188TM。この製剤は次いで、5分、15分、30分、90分以下といった許容時間内に患者に投与される。さらに、静脈内投与用の製剤は、治療対象患者に対し、1ml~15ml、好ましくは約9mlの注射容量で与えられる。
【0032】
用語「皮下投与」/「皮下投与する」は、本発明の文脈において、動物またはヒトの患者の皮下への抗C5抗体の導入を指し、好ましくは、皮膚とその下の組織との間のポケット内で、薬物リセプタクルからの比較的緩慢で持続的な送達によって行われる。ポケットは、皮膚をつまんだり、引き上げたり、下の組織から離したりすることで作り出される。皮下投与のために、抗C5抗体は、シリンジ、プレフィルドシリンジ、注射装置、輸液ポンプ、インジェクターペン、無針装置などの(限定されないが)適切な装置を介して、または皮下パッチデリバリーシステムを介して投与されうるように製剤化しなければならない。本発明の文脈において、皮下投与のための製剤は、50~350mgの抗C5抗体、1~100mMの緩衝剤、例えばpH5.5±1.0、1~100mMのアルギニンなどのアミノ酸を含むヒスチジン/アスパラギン酸、および0.01~0.1%のポロキサマーなどの非イオン性界面活性剤を含む。本発明の文脈において好ましいのは、静脈内投与用の製剤が、以下の成分を含む2.25プレフィルドシリンジ中に提供されることである:170mg/mlのクロバリマブ、30mMのヒスチジン/アスパル酸(pH5.8)、100mMのアルギニン塩酸塩、および0.05%ポロキサマー188TM。本発明の文脈において、皮下投与用の製剤は、針安全装置を備えたプレフィルドシリンジ中に提供される。皮下投与用の注射装置は、抗C5抗体を含む皮下投与用の製剤約1~15ml以上、好ましくは2.25mlを含む。正常な状況下では、皮下投与される注射量は1~15ml、好ましくは2ml(クロバリマブ340mg)、または6ml(クロバリマブ1020mg)である。本発明の文脈において、皮下投与は、30分以下、90分以下を含むがこれらに限定されない期間にわたり、薬物リセプタクルからの比較的緩慢で持続的な送達によって治療される患者の皮下に抗C5抗体を導入することを指す。任意で、投与は、治療される患者の皮下に埋め込まれた薬物送達ポンプの皮下埋め込みによって行われてもよく、ここで、ポンプは、所定の量の抗C5抗体を、30分、90分、または治療レジメンの長さに及ぶ時間といった所定の期間にわたって送達する。
【0033】
本発明の文脈において、上記の薬用量および治療レジメンは、疾患の治療または予防における一回以上の使用のための少なくとも一つの薬理学的製品で治療された対象における、C5関連疾患の治療または予防に有用でありうる。例えば、本発明の治療レジメンは、C5関連疾患の治療または予防方法における使用のための少なくとも一つの薬理学的製品で前治療されたが、本発明による治療レジメンの方により良好に応答すると予測される、前記疾患を有する患者を治療するために有用でありうる。このような場合、投薬は、薬理学的製品から、本発明によるC5関連疾患の治療または予防における使用のための抗C5抗体に切り替えることができる。好ましくは、抗C5抗体の静脈内投与される負荷用量は、医薬品の最終用量の後で治療対象に与えられる。抗C5抗体の静脈内投与される負荷用量は、好ましくは用量1500mgを有する。
【0034】
本発明の文脈において、薬理学的製品は、本発明に従って静脈内または皮下に与えられる抗C5抗体とは異なる活性物質を含む。薬理学的製品の活性物質は、本発明の文脈では、C5 mRNAを標的とするsiRNA、または本発明に従って治療される対象に皮下または静脈内投与される抗C5抗体とは異なる抗C5抗体でありうる。薬理学的製品は、本発明の文脈において患者に与えられる抗C5抗体とは異なる抗C5抗体を含みうる。前治療に使用される医薬品に含まれる抗体は、ラブリズマブ、またはエクリズマブまたはその変異体でありうる。好ましくは、先行技術による治療に使用される薬理学的製品に含まれる抗体は、エクリズマブまたはその変異体である。抗C5抗体エクリズマブの例示的な配列変異体は、配列番号:11および12に示される。
【0035】
本発明の文脈における抗体変異体は、一または複数のアミノ酸の修飾が抗体の天然配列Fc領域に導入されているFc領域変異体を含む抗C5抗体でありうる。Fc領域変異体は、一または複数のアミノ酸位置におけるアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4 Fc領域)を含みうる。本発明の文脈において、抗体変異体は、すべてではないが一部のエフェクター機能を有し、これにより変異体は、in vivoでの抗体の半減期が重要であるが、特定のエフェクター機能(例えば補体およびADCC)が不要または有害である適用ための望ましい候補となる。in vitroおよび/またはin vivo細胞傷害性アッセイを、CDCおよび/またはADCCの活性の低下/枯渇を確認するために実施することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイを実施して、抗体がFcガンマR結合を欠く(したがって恐らくはADCC活性を欠く)が、FcRn結合能を保持していることを確認することができる。ADCCを媒介するための初代細胞であるNK細胞はFcRガンマIIIのみを発現するが、単球は、FcガンマRI、FcガンマRII、およびFcガンマRIIIを発現する。造血細胞におけるFcRの発現は、Ravetch and Kinet、Annu. Rev. Immunol. 9:457-492(1991)の464ページの表3に要約されている。注目される分子のADCC活性を評価するin vitroアッセイの非限定的な例は、US-B1 5,500,362に記載されている(例えば、Hellstrom et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA(1983), Vol. 83, pp. 7059-7063)およびHellstrom et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA(1985), Vol. 82, pp. 1499-1502;US-B1 5,821,337参照(Bruggemann et al., J. Exp. Med. (1987), Vol. 166, pp. 1351-1361参照)。代替的に、非放射性アッセイ法を用いてもよい(例えばフローサイトメトリー用のACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology、Inc. Mountain View、CA);およびCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、Madison、WI)参照)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む。代替的に、または追加的に、目的の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA(1998), Vol. 95, pp. 652-656に開示されているような動物モデルにおいて、in vivoで評価されてもよい。C1q結合アッセイはまた、抗体がC1qに結合できないこと、それ故CDC活性を欠くことを確認するために行うこともできる。例えば、WO-A2 2006/029879およびWO-A1 2005/100402のC1qおよびC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するため、CDCアッセイを実施してもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods(1996), Vol. 202, pp. 163;Cragg et al., Blood(2003), Vol. 101, pp. 1045-1052およびCragg et al., Blood(2004), Vol. 103, pp. 2738-2743参照)。FcRn結合、およびin vivoでのクリアランス/半減期の決定も、当分野で既知の方法を用いて行うことができる(例えば、Petkova et al., Int’l. Immunol. (2006), Vol. 18(12), pp. 1759-1769を参照)。
【0036】
エフェクター機能が低下した抗体は、Fc領域残基238、265、269、270、297、327、および329のうちの一または複数の置換を伴うものを含む(US-B1 6,737,056)。そのようなFc変異体は、残基265および297のアラニンへの置換を有するいわゆる「DANA」Fc変異体を含め、アミノ酸位置265、269、270、297、および327のうちの二以上において置換を有するFc変異体を含む(US-B1 7,332,581)。
【0037】
FcRへの結合が改善または減少した特定の抗体変異体が記載されている。(例えば、US-B16737056号;WO-A2公開第2004/056312号、およびShields et al., J. Biol. Chem. (2001), Vol. 9(2), pp. 6591-6604を参照)。
【0038】
特定の実施態様では、抗体変異体は、ADCCを改善する一または複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298位、333位,および/または334位(残基のEU番号付け)における置換を含むFc領域を含む。
【0039】
いくつかの実施態様では、例えば、US-B1 6,194,551、WO 1999/51642、およびIdusogie et al., J. Immunol. (2000), Vol. 164, pp. 4178-4184に記載されるような、改変された(即ち改善されたまたは減少した)C1q結合および/または補体依存性細胞傷害(CDC)を生じる、Fc領域における改変がなされる。
【0040】
半減期が延長し、かつ母系IgGの胎児への移行を担う(Guyer et al., J. Immunol. (1976), Vol. 117, pp. 587 and Kim et al., J. Immunol. (1994), Vol. 24, pp. 249)新生児型Fc受容体(FcRn)に対する結合が改善された抗体は、US 2005/0014934に記載されている。これらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する一または複数の置換を伴うFc領域を含む。このようなFc変異体には、以下のFc領域残基のうちの一または複数に置換を有するものが含まれる:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424または434、例えば、Fc領域残基434の置換(US-B1 7,371,826)。Fc領域変異体の他の例に関しては、Guyer et al., J. Immunol. (1976), Vol. 117, pp. 587およびKim et al., J. Immunol. (1994), Vol. 24, pp. 249も参照のこと。
【0041】
本発明の文脈において、本発明の静脈内注入用組成物の初期用量は、薬理学的製品の最終用量と同日、または同最終用量の1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日(一週間)、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日(二週間)、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日(3週間)以上後に、治療対象患者に投与される。好ましくは、本発明の文脈において、抗C5抗体の静脈内投与される負荷用量は、薬理学的製品の最終用量から3日目、または同最終容量の3日、4日、5日、6日、7日(1週間)、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日(2週間)、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日(3週間)、もしくはそれ以上後に投与される。好ましくは、抗C5抗体の静脈内投与される負荷用量は、薬理学的製剤の最終用量の7日(一週間)、またはそれ以上後に患者に与えられる。また、本発明の文脈において好ましいのは、薬理学的製品の最終用量の14日(2週間)後、またはそれ以上後に負荷用量を静脈内投与することである。本発明の文脈において最も好ましいのは、薬理学的製品の最終用量の21日(3週間)後に抗C5抗体を静脈内投与することである。
【0042】
本発明の文脈において、「週」は、7日の期間を指す。
【0043】
本発明の文脈において、「月」は、4週の期間を指す。
【0044】
本発明の文脈における「治療」は、「導入治療」および少なくとも「維持治療」の順次連続を含む。典型的には、本発明による治療は、「導入治療」および少なくとも一回の「維持治療」を含む。典型的には、本発明による治療は、1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、11カ月、1年(12カ月)、2年(24カ月)、3年(36カ月)、または4年(48カ月)である。本発明の文脈において好ましいのは、患者の全生涯にわたり継続する治療である。
【0045】
「導入治療」は、(i)負荷用量、好ましくは用量1500mgの抗C5抗体の、対象への静脈内投与、および(ii)その後に行われる少なくとも一回の負荷用量、好ましくは用量340mgの、抗C5抗体の対象への投与で構成される。上述のように、本発明の文脈内では、抗C5抗体の負荷用量340mgが、静脈内投与される負荷用量が対象に与えられた1日、1週間(7日)、2週間(14日)および3週間(21日)後に与えられることが好ましい。好ましくは、静脈内投与する負荷用量は1500mgの用量を有する。治療される対象に皮下投与される負荷用量は、1360mgの用量を有する。したがって、本発明の文脈では、2860mgの負荷用量が、導入治療の間に治療対象に静脈内投与または皮下投与される。「維持療法」は、(i)一または複数回の維持用量が対象に皮下投与される維持期間の順次連続からなる。本発明の文脈において、抗C5抗体の維持用量1020mgが、好ましくは一回、抗C5抗体の負荷用量の静脈内投与の開始から4週間(1か月)後に対象に与えられることが好ましい。上述のように、維持用量1020mgの皮下投与は、4週間の時間間隔で(Q4W)数回繰り返すことができる。本発明の文脈において好ましいのは、4週間の時間間隔で維持用量1020mgを繰り返し、患者の全生涯にわたって継続することである。
【0046】
本発明の文脈において、C5関連疾患は、C5の過剰なまたは制御不能な活性化を含む補体媒介疾患または状態である。特定の実施態様において、C5関連疾患は、発作性夜間血色素尿症(PNH)、関節リウマチ(RA)、ループス腎炎、虚血-再灌流障害、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、濃厚沈着疾患(DDD)、黄斑変性、溶血、肝酵素上昇、低血小板(HELLP)症候群、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自然発生的胎児喪失、Pauci-免疫性血管炎、表皮水疱症、再発性胎児喪失、多発性硬化症(MS)、外傷性脳損傷、心筋梗塞、心肺バイパスまたは血液透析に起因する損傷、難治性全身性重症筋無力症(gMG)、および視神経脊髄炎(NMO)からなる群より選択される少なくとも一つである。好ましくは、本発明の文脈では、C5関連疾患は、PNH、aHUS、gMGおよびNMOからなる群より選択される少なくとも一つである。最も好ましくは、C5関連疾患はPNHである。さらに、本発明の文脈において、C5関連疾患PNHに罹患している対象は、C5のArg885-突然変異の存在について試験されうる。したがって、ここに開示される投薬レジメンは、対象がC5のArg855-突然変異を有することを特徴とする、PNHに罹患している対象の治療および/または予防のためにも使用されうる。これに関連して、Arg885-突然変異は、885位のArgがHisで置換されたC5の遺伝的変異を意味する。この文脈では、用語「C5」は、配列番号13に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を指す。
【0047】
本発明の文脈において、抗C5抗体は、好ましくはクロバリマブである。抗C5抗体クロバリマブの配列詳細(CAS番号:1917321-26-6)の配列詳細は、WHO Drug Information(2018), Vol. 32, No. 2の302および303頁に公開されているInternational Non-proprietary Names for Pharmaceutical Substances(INN)案のリストNo. 119に開示されている。抗C5抗体クロバリマブの配列はまた、配列番号3(重鎖)および配列番号4(軽鎖)に示される。本発明で使用される抗C5抗体クロバリマブの生成は、WO 2016/098356に記載されている(詳細は実施例1を参照)。さらに、本発明の文脈では、抗C5抗体クロバリマブは、静脈内投与用または皮下投与用の製剤によって患者に投与される。本発明の文脈において好ましいのは、固定用量として提供される薬用量の静脈内または皮下投与である。
【0048】
静脈内投与用の製剤は、50から350mgの抗C5抗体クロバリマブと、1から100mMの緩衝剤、例えばpH5.5±1.0、1から100mMのアルギニンなどのアミノ酸と、0.01から0.1%の非イオン性界面活性剤、例えばポロキサマーとを含む。本発明の文脈において好ましいのは、静脈内投与用の製剤が、以下の成分を含む2mLのガラスバイアル中に提供されることである:170mg/mlのクロバリマブ、30mMのヒスチジン/アスパル酸(pH5.8)、100mMのアルギニン塩酸塩、および0.05%ポロキサマー188TM。
【0049】
皮下内投与用の製剤は、50から350mgの抗C5抗体クロバリマブと、1から100mMの緩衝剤、例えばpH5.5±1.0、1から100mMのアルギニンなどのアミノ酸と、0.01から0.1%の非イオン性界面活性剤、例えばポロキサマーとを含む。本発明の文脈において好ましいのは、静脈内投与用の製剤が、以下の成分を含む2.25プレフィルドシリンジ中に提供されることである:170mg/mlのクロバリマブ、30mMのヒスチジン/アスパル酸(pH5.8)、100mMのアルギニン塩酸塩、および0.05%ポロキサマー188TM。
【0050】
抗C5抗体エクリズマブは、Alexion Pharmaceuticals、Inc.社によりSoliris(登録商標)の商品名で販売されている。抗C5抗体エクリズマブの配列は、配列番号1(重鎖)および配列番号2(軽鎖)に示される。さらに、抗C5抗体エクリズマブの配列変異体が配列番号:11および12に示される。
【0051】
抗C5抗体クロバリマブの配列は、Alexion Pharmaceuticals、Inc.社によりUltomiris(登録商標)の商品名で販売されている。抗C5抗体の配列(CAS番号:1803171-55-2)は、WHO Drug Information(2017), Vol. 31、No. 2の319および320頁に公開されているInternational Non-proprietary Names for Pharmaceutical Substances(INN)案のリストNo.117に開示されている。抗C5抗体ラブリズマブの配列は、配列番号5(重鎖)および配列番号6(軽鎖)にも示されている。
【0052】
本発明の文脈において記載される患者は、C5関連疾患に罹患している患者である。本発明の文脈において好ましい患者は、100kg以上の体重を有する患者である。本発明の文脈において、C5関連疾患は、C5の過剰なまたは制御不能な活性化を含む補体媒介疾患または状態である。特定の実施態様において、C5関連疾患は、発作性夜間血色素尿症(PNH)、関節リウマチ(RA)、ループス腎炎、虚血-再灌流障害、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、濃厚沈着疾患(DDD)、黄斑変性、溶血、肝酵素上昇、低血小板(HELLP)症候群、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自然発生的胎児喪失、Pauci-免疫性血管炎、表皮水疱症、再発性胎児喪失、多発性硬化症(MS)、外傷性脳損傷、心筋梗塞、心肺バイパスまたは血液透析に起因する損傷、難治性全身性重症筋無力症(gMG)、および視神経脊髄炎(NMO)からなる群より選択される少なくとも一つである。好ましくは、本発明の文脈では、C5関連疾患は、PNH、aHUS、gMGおよびNMOからなる群より選択される少なくとも一つである。最も好ましくは、C5関連疾患はPNHである。
【0053】
さらに、本発明は、対象のC5関連疾患を治療または予防する方法に関し、この方法は、以下の連続する工程を含む:
(a)対象に負荷用量1500mgの抗C5抗体を一回静脈内投与し、続いて対象に負荷用量340mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程;および
(b)対象に維持用量1020mgの抗C5抗体を少なくとも一回皮下投与する工程
を含む、C5関連疾患を治療または予防する方法における使用のための抗C5抗体。
【0054】
本発明の文脈においては、対象のC5関連疾患を治療または予防する方法が、以下の投与工程によって実行されることが好ましい:
(i)対象に負荷用量1500mgの抗C5抗体を一回静脈内投与する工程;
(ii)抗C5抗体の静脈内投与開始の1日後に、対象に対し、負荷用量340mgの抗C5抗体を皮下投与する工程;
(iii)抗C5抗体の静脈内投与開始の1週間、2週間および3週間後に、対象に対し、負荷用量340mgの抗C5抗体を皮下投与する工程;
(iv)抗C5 抗体の静脈内投与開始の4週間後に、対象に対し、維持用量1020mgの抗C5抗体を皮下投与する工程;および
(v)4週間の間隔をおいてステップ(iv)を数回繰り返す工程。
【0055】
上述のように、本発明の文脈では、薬用量および投与レジメンの文脈で使用される抗C5抗体がクロバリマブであることが好ましい。さらに、上記の定義は、C5関連疾患を治療または予防する上記方法に同様に適用される。また、本発明の文脈では、治療対象の体重が100kg以上であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】リポソームイムノアッセイ(LIA)法により測定した、抗C5抗体クロバリマブおよび溶血活性と、健常な対象およびC5関連疾患発作性夜間血色素尿症(PNH)を有する対象との関係 曝露-反応関係の評価により、完全な終末補体阻害を達成するために、約100g/mLのクロバリマブが必要であることが実証される。完全な終末補体阻害(補体系の終末経路の完全阻害)は、溶血活性<10U/mLと定義される。縦の点線は、クロバリマブ100g/mlの薬力学(PD)閾値を示す。
【
図2】抗C5抗体クロバリマブの利用可能な遊離結合部位 灰色の線は、COMPOSER(BP39144)データから推定したパラメータに基づく15の個体のシミュレーションに対応する。シミュレーションには、COMPOSER試験のデータを用いた。y軸は、抗C5抗体クロバリマブ(RO7112689;SKY59)の濃度を示す。x軸は時間(日)を示す。濃い灰色の線は、これら15名の患者の中央値に対応する。S0:COMPOSERパート3レジメンS5:COMPOSER試験のパート4および第III相の提案されたレジメン
【
図3】薬物-標的-薬物-複合体(DTDC)の時間プロファイル 灰色の線は、COMPOSER(BP39144)データから推定したパラメータに基づく15の個体のシミュレーションに対応する。シミュレーションには、COMPOSER試験のデータを用いた。濃い灰色の線は、これら15名の患者の中央値に対応する。S0:COMPOSERパート3レジメン;S5:COMPOSER試験のパート4および第III相(RO7112689)の提案されたレジメン:クロバリマブ(SKY59)。
【
図4】治療歴のない患者(上図)およびエクリズマブからクロバリマブに治療を切り替えたPNH患者(下図)におけるクロバリマブの濃度-時間プロファイルのシミュレーション 灰色の区間は90%予測区間に対応し、灰色の線は予測中央値に対応する。黒点線は抗C5抗体クロバリマブの標的濃度レベル100μg/mLに対応する。
【
図5】クロバリマブ、ヒトC5および抗体エクリズマブ間の薬物-標的-薬物-複合体(DTDC)が、より小さなDTDCからどのようにクリアされ、リサイクルされ、連続的に構築されるかを説明するモデル 患者が抗C5抗体エクリズマブからクロバリマブに切り替えると、両方の抗C5抗体がヒトC5の異なるエピトープに結合するために血液循環血行中に存在することとなり、DTDCを形成する。これらのDTDCは、分子のエクリズマブ-C5-クロバリマブ-C5鎖の反復から構築され、二つのDTDCが集合してより大きなDTDCを形成するとき、時間の経過とともに増殖する。このモデル(
図5)は、抗C5抗体クロバリマブのFcRn受容体によってDTDCがどのようにクリアおよびリサイクルされるかを報告する。(1)DTDCは、抗体によるC5の異なるエピトープ認識により、1つの薬物から他の薬物へのスイッチ期間中に患者がクロバリマブおよびエクリズマブに同時に曝露される場合に発生する。DTDCは食作用を介してエンドソームに取り込まれる。(2)ヒトC5にpH依存的に結合するクロバリマブ抗体は、エンドソーム内の酸性条件下(pH6.0)で、可溶性ヒトC5(抗C5抗体クロバリマブに結合している)から解離し、ここで抗C5抗体エクリズマブは、エンドソーム内の酸性条件下で依然として可溶性ヒトC5に結合する。(3)抗C5抗体(抗C5抗体クロバリマブおよびC5-エクリズマブ複合体)は、細胞膜上に発現しているFcRnに結合することによって細胞に取り込まれる。C5-エクリズマブ複合体はリソソームに移動し、抗体に依然として結合しているC5-タンパク質と共に分解またはリサイクルされる。対照的に、抗C5抗体クロバリマブは、酸性条件下でエンドソーム内のFcRnから解離して、C5タンパク質なしで血漿中に再び放出されるため、機能性/有効性が改善されている。(4),(5)放出された抗C5抗体クロバリマブは、再びヒトC5に結合し、さらにより小さなDTDCを構築するために利用可能である。これは、抗C5抗体クロバリマブを「リサイクル」する効果を有する。DTDCおよび特にC5-エクリズマブ複合体は、その後、エンドソームによって再度分解され、一方、抗C5抗体クロバリマブは、再びリサイクルされてより小さなDTDCを構築する。
【
図6】COMPOSERのパート4はPNH患者を含んだ COMPOSERパート4では、抗C5療法、好ましくはクロバリマブ療法の治療歴がないPNH患者、またはエクリズマブから切り替えたPNH患者における、最適化されたクロバリマブレジメンの安全性、薬物動態(PK)、薬力学(PD)効果を評価し、20週後に主要評価を行った。登録された15名の患者のうち、8名(53%)は以前にC5阻害剤による治療を受けておらず、7名(47%)はエクリズマブからクロバリマブに切り替えられた。
【
図7】COMPOSER試験のパート4に登録された患者におけるクロバリマブ曝露 すべての患者において、クロバリマブのレベルは、終末補体活性阻害と関連付けられる約100μg/mLのC
trough値を上回る値に維持された。線は平均値を、陰影領域は95%信頼区間を示す。
【
図8】COMPOSER試験のパート4に登録された患者における補体活性の中央値を示すリポソームイムノアッセイ(LIA)の経時変化 終末補体阻害は、初回用量の直後に達成され、試験期間を通じて概ね維持された。線は中央値を表し、ウィスカーは95%信頼区間を示す。LIAアッセイの定量の下限は10U/mLである。LIA、リポソームイムノアッセイ。
【
図9】COMPOSER試験のパート4に登録された患者における総C5レベルおよび遊離C5レベルの測定 (A)未治療の患者では限定された総C5蓄積が観察され、切り替え患者では減少が見られた。(B)遊離C5レベルは初回用量後急速に低下し、追跡期間を通じて低いままであった。
【
図10】COMPOSER試験のパート4に登録された患者における正規化乳酸脱水素酵素(LDH)の測定 未治療患者では、乳酸脱水素酵素(LDH)レベルの中央値は15日目までに≦1.5×基準値上限(ULN)まで低下し、観察期間を通じてそのレベルを下回ったままであった。エクリズマブからクロバリマブに切り替えた患者では、ベースラインのLDHの中央値が≦1.5×ULNのであり、観察期間を通じてそのままであった。LDH:乳酸脱水素酵素、ULN:正常値上限。
【
図11】クロバリマブ治療関連有害事象(AE)のまとめ クロバリマブの忍容性は良好であり、重篤な治療関連有害事象(AE)は観察されなかった。
【
図12】COMPOSER試験のパート3およびパート4のクロバリマブレジメンで観察された経時的DTDCプロファイル 実線は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の画分1~4(左パネル)および画分5~6(右パネル)に溶出したクロバリマブの割合の中央値の合計である。COMPOSER試験のパート3の投薬レジメンは淡灰色で、パート4の投薬レジメンは暗灰色で示す。
【
図13】クロバリマブで処理したC5 Arg885His変異を担持するPNH患者の正規化LDHレベル クロバリマブは、Arg885多型を有するPNH患者において持続的な終末補体阻害を達成した。すべての患者は、リポソームイムノアッセイ(LIA)で測定した場合に完全な終末補体阻害を達成した。LIAのレベルは、試験登録時に32~42U/mLにわたり、2日目までに≦10U/mLに低下し、その後維持された。LIAアッセイの定量の下限は10U/mLである。LIA、リポソームイムノアッセイ。
【0057】
以下の実施例は本発明を例示する
実施例1:抗C5抗体
抗C5抗体クロバリマブの配列は、配列番号3(重鎖)および配列番号4(軽鎖)に示される。さらに、本発明で使用される抗C5抗体クロバリマブの生成は、WO 2016/098356に記載されている。簡潔には、305LO15(配列番号7)の重鎖可変ドメイン(VH)をコードする遺伝子を、修飾ヒトIg1重鎖定常ドメイン(CH)変異体SG115(配列番号8)をコードする遺伝子と組み合わせた。305LO15(配列番号9)の軽鎖可変ドメイン(VL)をコードする遺伝子を、ヒト軽鎖定常ドメイン(CL)をコードする遺伝子(SK1、配列番号10)と組み合わせた。抗体を、重鎖および軽鎖発現ベクターの組み合わせと共にコトランスフェクトしたHEK293細胞中で発現させ、タンパク質によって精製した。
【0058】
実施例2:COMPOSER試験(BP39144;ClinicalTrials.gov Identifier:NCT03157635)で用いられた薬用量および投与レジメン
適切な薬用量および投与レジメンを決定するため、第I/II相COMPOSER試験(BP39144)を開始した。本試験は当初、以下の三つのパートから構成されていた:健常な関係者におけるパート1と、発作性夜間血色素尿症(PNH)患者を対象としたパート2およびパート3。さらに、本試験のパート3に含まれる患者は、抗C5抗体のエクリズマブによる治療を少なくとも3ヵ月受けた患者であった。
【0059】
本試験のパート1は、三群の健常な患者を含むように設計された。第1群は、抗C5抗体クロバリマブを75mg/bodyの用量で一回静脈内(IV)投与する患者群である。第2の患者群は、抗C5抗体クロバリマブを150mg/bodyの用量で一回静脈内(IV)投与する関係者群である。第3群は、抗C5抗体クロバリマブを170mg/bodyの用量で一回皮下投与(SC)する対象群である。COMPOSER試験のパート1は本質的に適応的であるため(安全性、忍容性、薬物動態(PK)および薬力学(pD)データの進行中の評価に基づく)、パート1の実際の用量は以下のとおりであった:COMPOSER試験のパート1に登録された第1群の患者に75mgを静注、第2群の患者に125mgを静注、第3群の患者に100mgを皮下投与。
【0060】
試験のパート2は、抗C5抗体クロバリマブが三回静脈内投与される対象群を含むように設計された:当初のプロトコール設計に従い、抗C5抗体クロバリマブは、最初に300mg/body(IV)の用量で投与され、次いで初回投与の一週間後に500mg/body(IV)で投与され、最後に2回目の投与の二週間後に1000mg/body(IV)で投与された。最終静脈内投与の二週間後から、抗C5抗体クロバリマブが170mg/bodyの用量で週一回皮下(SC)投与される。パート1の新たな臨床データおよびPKシミュレーションに基づき、COMPOSER試験のパート2の患者に対する開始用量は300mgから375mg IVに変更された。したがって、COMPOSER試験のパート2で与えられた実際の用量は以下のとおりである:抗C5抗体クロバリマブは、初回375mg/bodyで静脈内(IV)投与され、続いて初回投与の一週間後に500mg/body(IV)で、最後に2回目の投与の二週間後に1000mg/body(IV)で投与される。最終静脈内投与の二週間後から、抗C5抗体クロバリマブが170mg/bodyの用量で週一回皮下(SC)投与される。
【0061】
試験のパート3は試験登録前の少なくとも3カ月間抗C5抗体エクリズマブによる治療を受けた患者を含んでおり、これら患者は定期的にエクリズマブの点滴静注を受けなければならなかった。本試験のパート3は、三つの対象群を含むように設計された。抗C5抗体クロバリマブは、最初に、全群の対象に対し、1000mg/bodyの用量で一回静脈内投与される。抗C5抗体クロバリマブは、初回静脈内投与の一週間後(静脈内投与後8日目)から開始して、第1群の対象に170mg/bodyの用量で週一回、第2群の対象に340mg/bodyの用量で二週間に一回、第3群の対象に680mg/bodyの用量で4週間に一回、それぞれ皮下(SC)投与される。COMPOSER試験のパート1には、15名の健常な患者が登録された。パート1は無作為に割り付けられたため、最初の15名の患者のうちクロバリマブを投与されたのはわずか9名であった。COMPOSER試験のパート3には19名の患者が登録されたが、3名が中止した。
【0062】
COMPOSER試験(パート1、パート2およびパート3)に含まれる患者の詳細は、以下のように要約することができる:
【0063】
【0064】
COMPOSER試験のパート1~パート3に含まれる患者の上記詳細の作成後、COMPOSERのパート3試験のさらに一名の患者が試験を中止した。
【0065】
実施例3:抗C5抗体クロバリマブによる治療を通じて完全かつ持続的な終末補体阻害を達成するための投薬レジメンの決定
好ましくは発作性夜間血色素尿症(PNH)などのC5関連疾患におけるクロバリマブの治療目標は、終末補体経路の迅速かつ持続的な完全阻害を確実にすることである。エクリズマブからクロバリマブに切り替えた患者では、休薬期間は臨床的に不適切である。したがって、設計上、クロバリマブ投与を開始したとき、残留濃度のエクリズマブが存在している。クロバリマブ、ヒトC5、エクリズマブからなる薬物-標的-薬物-複合体(DTDC)が、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)とサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を組み合わせた多種検定を用いて、COMPOSERパート3でエクリズマブから切り替えたすべての患者において検出された。SECは、ストークス半径の違いとタンパク質の幾何学に基づく分離技術である:SECは、カラムに充填されたゲルろ過媒体を通って充填ベッドを形成する際に、サイズの違いにより分子を分離する。イオン交換またはアフィニティークロマトグラフィーとは異なり、分子はクロマトグラフィー媒体に結合しないので、バッファーの媒体組成は分解能(ピーク間の分離度)に直接影響しない。媒体は、化学的および物理的安定性および不活性(反応性および吸着特性の欠如)を有する球状粒子の多孔性マトリックスである。SECを分割モードで使用し、それらのサイズの違いに基づいて試料中の複数の成分を分離した。血清のような異なるタンパク質を有する複雑な試料組成については、SECと分析物(クロバリマブ)特異的ELISAとの組み合わせにより、分離された各分画におけるクロバリマブ濃度を検出するための所望の特異性および感度が得られた。ELISAによるクロバリマブ濃度の検出を可能にするために、SEC分離を8分画に分画する。各個体について、このアプローチを用いて経時的なDTDCプロファイルを記載した。投与期間を通して完全かつ持続的な終末補体阻害を達成することが期待される投薬レジメンを決定するため、臨床試験で使用する用量(第III相用量)を推奨するために、二つの相補的なモデル情報に基づく薬物開発(MIDD)アプローチが開発された:
● 患者において投与間隔を通じてクロバリマブ濃度を標的閾値濃度100μg/mlを上回るように維持する皮下(SC)投与量およびレジメンを推奨するために使用される、経験的母集団薬物動態モデル。
●エクリズマブからクロバリマブに切り替えた患者における大きなDTDCの形成を最小化する用量およびレジメンを推奨するために使用される、総C5および遊離C5の動態、クロバリマブおよびエクリズマブの薬物動態、ならびにDTDCの動態を同時に説明し、すべての患者の遊離クロバリマブ結合部位のレベルを最大化する生化学的モデル。
【0066】
3.1 集団薬物動態モデル
抗C5抗体クロバリマブの濃度-時間プロファイルは、皮下(SC)投与を説明する一次消失および一次吸収を有する2コンパートメントオープンモデルを用いて最もよく説明された(Betts A. et al., mAbs(2018), Vol. 10、No. 5, pp. 751-764参照)。COMPOSERパート3のエクリズマブから治療を切り替えた患者における薬物動態(PK)プロファイルは、健常志願者および治療歴のないPNH患者には観察されない一過性の速い消失を示している。エクリズマブから抗C5抗体クロバリマブに治療を切り替えた患者の薬物動態(PK)を説明するために、クロバリマブの消失を、治療歴のない患者に用いられる一次消失と、経時的に指数関数的に減少するより速いクリアランスの組み合わせとしてモデル化した。体重(中央値:72.3(40.6-131.5)[kg])はクリアランスおよび容積の共変量として試験され、クリアランスについては係数を0.75に、容積については係数を1に固定した非比例的スケーリングを用いて組み込んだとき、これらのパラメータに有意な影響を及ぼすことが分かった。パラメータ「クリアランス」は、身体が薬物を排泄する能力の尺度である。クリアランスは単位時間あたりの容積で表される。パラメータ「容積」は、抗C5抗体クロバリマブを含有することのできる体内の見かけの上の空間の尺度である分布容積を表す。また、吸収率に対する共変量として年齢が認められ、カテゴリー共変量としてモデルに導入された。年齢50歳以上の患者は、より若い患者よりも吸収率が低いようであった。皮下(SC)投与後のバイオアベイラビリティは約100%と推定される。
【0067】
このモデルは、PKパラメータを正確に推定することができ、シミュレーション目的の使用を適格とする良好な予測性能を有していた。
【0068】
3.2 Drug-Target-Drug Complexes(DTDC)生化学モデル
より小さな複合体が可逆的に結合することによりサイズが増大した複合体が形成されるという仮定の下で、DTDCの形成と消失の動態を調査するために、生化学的な数学モデルを開発した(
図5参照)。このモデルは、最も小さい複合体(Ab1-Ag-Ab2)から開始して、in vitro SECアッセイで観察される4 Ab1、4 Ab2、および8 Agを含む最も大きな複合体(例えば、複合体Ab1-Ag-Ag-Ab2-Ag-Ab1-Ag-Ab2-Ag-Ab1-Ag-Ab2-Ag-Ab2-Ag)まで、Ab1-Ag-Ab2ユニット反復(抗体1(Ab1)、抗体2(Ab2)、および抗原(Ag)は、それぞれクロバリマブ、エクリズマブ、及びC5を表す)から作られるすべての複合体を説明する。リガンド結合モデルを用いて、2つのより小さい複合体の結合を介した複合体の形成を説明するそれぞれの可能な生化学反応を説明した。複合体のクリアランスとDTDCからの遊離クロバリマブのリサイクル(SMART-Ig Recycling(登録商標)により、リソソームの酸性条件下でクロバリマブからC5が放出されるため)も、それぞれの結合反応で説明された。SMART-Ig Recycling(登録商標)システムの詳細は、Fukuzawa et al., Sci Rep. (2017), Vol. 7(1):1080;doi:10.1038/s41598-017-01087-7により記載された。モデルパラメータは、COMPOSER研究で収集されたデータを使用する非線形混合効果アプローチを用いて推定した。DTDCがその分子量に従って検出される総クロバリマブ、総C5、および8 SEC分画を用いてモデルを開発した。モデル適切性の評価はシミュレーション目的について満足のゆくものであった。このモデルは、切り替え時のエクリズマブ濃度と、第I/II相COMPOSER試験から得られた総クロバリマブの時間プロファイル、総C5濃度、およびDTDCサイズ分布のクロマトグラフィーに基づく測定値を用いて較正されたRoth et al., Blood(2020), Vol., 135, pp. 912-920;doi:10.1182/blood.2019003399参照)。
【0069】
3.3 第III相用量決定
両モデル-集団薬物動態モデルおよびDTDC生化学モデル-を並行して使用することにより、(1)エクリズマブからクロバリマブに切り替えた患者におけるより大きなDTDCの形成を最小限に抑え、(2)クロバリマブ遊離結合部位のレベルを最大化し、(3)患者が、生来の個人間変動にもかかわらず、補体阻害に必要な標的閾値濃度を上回る(標的Ctroughがクロバリマブ約100μg/mLを上回る)ことを確実にする、固定用量および投薬レジメンの同定が可能となった。
【0070】
その作用機序に基づき、クロバリマブは、補体制御タンパク質を欠損した赤血球の補体介在性溶解を阻害する。治療間隔中に終末補体経路が一時的にブロックされない場合、これらの赤血球は溶解し、PNH患者の重篤な臨床的合併症であるブレイクスルー溶血をもたらす可能性がある。生物学的ストレス(感染、手術、妊娠)は、C5の上方制御を伴う補体経路の生理学的活性化を導く(Schutte et al., Int Arch Allergy Appl Immunol. (1975), Vol. 48(5), pp. 706-720)。したがって、PNH患者では、投与期間を通じて終末補体活性の完全な遮断を維持するだけでなく、ブレイクスルー溶血の発生を最小限に抑えるために、クロバリマブの遊離結合部位の予備を維持することが重要である。
【0071】
COMPOSER試験のパート1、2および3から得られた利用可能な薬物動態(PK)および薬力学(PD)データを統合し、IVおよびSC投与後のクロバリマブのPK/PD関係の特徴づけを可能にし、終末補体系の活性を完全に阻害するために必要な曝露レベルを特定した。パート1の健常志願者9名、パート2のPNH患者10名、パート3のPNH患者16名由来のPKおよびPDデータをプールすることにより、クロバリマブは、ex vivoリポソームイムノアッセイ(LIA)により測定した場合、濃度依存的な血清溶血活性の阻害を誘発することが示された。暴露反応関係の評価から、溶血活性<10U/mLと定義される完全な終末補体阻害を達成するには、クロバリマブ約100μg/mLが必要であることが実証されている(
図1参照)。
【0072】
集団PKモデルでは、体重を、クロバリマブのクリアランスおよび分布容積の共変量として試験し、非比例的スケーリングを用いて組み込んだときにこれらのパラメータに統計学的に影響を及ぼすことがわかった。その結果、所定の用量について、より大きな患者は、より小さい患者と比較して曝露が不足する、より低い曝露量を有する傾向がある。体重の影響を補うため、すべての患者が投薬間隔を通じて確実に同等のクロバリマブ曝露を受けるように、体重に基づく段階的投薬アプローチが提案される。
【0073】
以下二つの投薬レジメンが設定された:
● 体重>40kgから<100kgの患者
負荷用量:1日目にクロバリマブ1000mgを静脈内投与(IV)し、続いて2、8、15および22日目にクロバリマブ340mgを皮下投与(SC)する。
【0074】
維持用量:29日目にクロバリマブ680mgをSCし、続いてその後4週間に一回(Q4W)クロバリマブ680mgを皮下投与(SC)する。
● 体重>/=100kgの患者
負荷用量:1日目にクロバリマブ1500mgをIVし、続いて2日、8日、15日、および22日目にクロバリマブ340mgをSC。
【0075】
維持用量:29日目にクロバリマブ1020mgをSCし、続いてその後4週間に一回(Q4W)クロバリマブ680mgを皮下投与(SC)する。
【0076】
実施例4:DTDCモデルシミュレーションの結果
このモデルに基づいて実施されたシミュレーションは、用量および投薬レジメンの特定、エクリズマブからクロバリマブへ切り替えた患者におけるより大きなDTDCの形成の最小化、およびエクリズマブから切り替えた患者または治療歴のないPNH患者における十分な遊離クロバリマブ結合部位予備の提供を目的とした。後者の基準は、投薬レジメンがブレイクスルー溶血からの保護を提供する溶血制御のマージンの客観的評価を提供する。エクリズマブからクロバリマブに切り替えたCOMPOSERパート3の患者由来のパラメータ推定値のみを用いてシミュレーションを行った。エクリズマブによる前治療を受けた患者における遊離クロバリマブエピトープの十分な予備を提供する投薬レジメンは、未治療患者の治療にも適切である。
図2および
図3に示すように、上述の投薬レジメンは、遊離エピトープの利用性を最大にしながら、最も大きなDTDCの形成を最小化することが期待される。
【0077】
実施例5:集団薬物動態モデルシミュレーションの結果
投与歴のないPNH患者とエクリズマブによる前治療を受けたPNH患者のいずれにおいても、投薬間隔を通じて大半の患者で100μg/mLを超えるトラフ濃度が維持されるとともに定常状態濃度が速やかに確立されることを確実にする用量および投薬レジメンを推奨するために、集団PKモデルに基づくシミュレーションを実施した。
【0078】
治療歴のないPNH患者20,000名およびエクリズマブからクロバリマブに治療を切り替えたPNH患者20,000名を対象に、体重中央値75.6kg(標準偏差±20.3kg;42.2kgおよび109.0kg、それぞれ5パーセンタイルおよび95パーセンタイル)でクロバリマブの濃度-時間プロファイルをシミュレートした。シミュレーションは年齢効果を説明し、シミュレーション集団の50%が50歳以上であり、シミュレーション集団の50%が50歳以上であった。体重分布の選択は、COMPOSER試験で観察された分布に基づいている。
【0079】
シミュレーション結果(
図4)に基づくと、上記の薬用量および治療レジメンにより、体重にかかわらず投与間隔を通じて定常状態における濃度が速やかに確立され、約95%の個体で100μg/mLを超える持続的なC
trough値が得られることが予測される。この投薬レジメンでは、クロバリマブクリアランスの一過性の上昇が観察され、その結果として定常状態濃度に達するまでの時間が後者の方が長かったにもかかわらず、治療歴のない患者とエクリズマブから切り替えた患者のいずれにおいても、100μg/mLを超える濃度が維持されると予測される。
【0080】
上記で提案された用量および投薬レジメンにより、終末補体活性の完全かつ一貫した遮断(約95%の患者が標的閾値を超えて維持される)が確実に得られ、また、治療歴のない患者およびエクリズマブにより前治療された患者のいずれにおいても、投薬間隔の大部分において遊離結合部位の十分な予備が確保されることが期待される。また、エクリズマブから切り替えた患者においては、より大きなDTDCの形成が減少すると予想される。上記薬用量は、エクリズマブからクロバリマブに切り替えた7名の患者におけるCOMPOSER試験のパート4で確認された。パート4では、抗C5療法未治療のPNH患者(8名(53%)または抗C5抗体エクリズマブによる治療歴のあるPNH患者(7名(47%))を含む15名の患者(2020年1月29日のデータカットオフ)において、上記の最適化クロバリマブレジメンの安全性、薬物動態(PK)および薬力学(PD)効果を評価した。COMPOSER試験のパート4に登録した患者のベースライン特性を
図6に示す。DTDC、特に大きなDTDCの持続性を低下させるために最も適切な薬用量は、一連の負荷用量(1日目にクロバリマブ1000mgを静脈内投与(IV)し、続いて2、8、15、22日目にクロバリマブ340mgを皮下投与(SC)する)と、それに続く維持用量(29日目にクロバリマブ680mgをSCし、続いてクロバリマブ680mgをその後4週に一回(Q4W)皮下投与する)とからなっていた。COMPOSERパート4のデータから、DTDCのサイズ分布は、特許請求される最適化された投薬レジメンにより、より小さな複合体にシフトしたことが確認された。上記クロバリマブの用量およびレジメン(1日目にクロバリマブ1000mgを静脈内投与(IV)し、続いて2、8、15、22日目にクロバリマブ340mgを皮下投与(SC)する)と、それに続く維持用量(29日目にクロバリマブ680mgをSCし、続いてクロバリマブ680mgをその後4週に一回(Q4W)皮下投与する)のさらなる結果が
図7から11に報告される。
【0081】
図7に示すように、この最適な投薬レジメンにより、20週(140日)の追跡調査期間を通じて、クロバリマブの曝露量は、約100μg/mL(補体阻害に関連するレベル)のC
through値を超えて持続的に維持された。
【0082】
さらに、最終補体阻害は初回投与直後に達成され、試験期間を通じて維持された(
図8参照)。
【0083】
さらに、抗C5療法未治療のPNH患者(8名、
図9(A))において、限定された総C5の蓄積が観察され、切り替え患者(抗C5抗体エクリズマブによる治療歴を有するPNH患者(7名、
図9(B))では、C5レベルの低下が見られた。
【0084】
さらに、
図10は、血管内溶血が制御され、患者の大部分がヘモグロビン安定化を有し、輸血を回避したと報告している:合計で、未治療患者8名のうちの5名、切替え患者7名のうちの5名を含む10名(67%)の患者が、20週目にヘモグロビン安定化(輸血を行わない場合に、ベースラインからのヘモグロビンの≧2g/dLの減少を回避)を達成した。ベースラインから20週目までに、未治療患者8名のうちの5名、切替え患者7名のうちの6名を含む11名(73%)の患者が輸血を受けていなかった。リスクのある7.2総患者年にわたり、Kulasekararaj et al., Blood(2019), Vol. 33, pp. 540-549で定義されるブレイクスルー溶血(BTH)事象を経験した患者はいなかった。
【0085】
さらに、上記の抗C5抗体クロバリマブの用量および治療レジメンの忍容性は良好であり、重篤な治療関連有害事象(AE)は観察されなかったことが明らかとなった(
図11参照)。
【0086】
このように、ここに記載されたモデル化アプローチは、特許請求される投薬レジメンが、未治療の対象および特にエクリズマブにより前治療された対象の両方において、PNHのようなC5関連疾患の治療または予防に優れていることを証明する。
【0087】
実施例6:COMPOSER試験のパート3とパート4とのDTDCサイズ分布の比較結果
COMPOSERのパート3では、抗C5抗体エクリズマブからクロバリマブに切り替えたPNH患者全例で、クロバリマブ、ヒトC5、および抗体エクリズマブ間の薬物-標的-薬物-複合体(DTDC)が検出された。本実施例の目的は、COMPOSER試験のパート3とパート4の投薬レジメン間のDTDCサイズ分布の比較結果を説明することである。COMPOSER試験のパート3では、抗C5抗体クロバリマブが、最初に、1000mg/bodyの用量で一回対象に静脈内投与される。初回静脈内投与の一週間(IV投与の8日)後に開始して、抗C5抗体クロバリマブは、170mg/bodyの用量で週一回、340mg/bodyの用量で2週に一回、または680mg/bodyの用量で4週に一回、皮下(SC)投与される。COMPOSER試験のパート4では、上記の薬用量および治療レジメンに従ってクロバリマブを投与した:最適化された用量およびレジメンは、1日目の1000mgと、2、8、15、および22日目の340mgのSCとの一連の負荷であり、続いて29日目(5週目)から開始して4週間ごとに680mgをSCする維持投与を行った。一連の負荷用量は、複合体形成の格子理論に沿って、より大きなDTDCの形成を減少させるために、治療の最初の1か月間に受けるクロバリマブの総用量を増加させた。この最適化された投薬戦略を、治療を切り替えているパート4の患者において調査し、パート3に登録された、エクリズマブからクロバリマブに切り替えた19名のPNH患者と比較した。DTDCサイズ分布を、ELISAと結合したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて測定した。SECはDTDCをそのサイズに従って分画に分割した:より大きなDTDCは画分1~4に見られ、単一モチーフおよび非DTDCといったより小さな複合体は画分5~6に見られる。DTDCはパート3のすべての患者で観察された(
図12;より大きなDTDCが第1~4画分に見られ、単一モチーフおよび非DTDCといったより小さな複合体が第5~6画分に見られる)。2名のパート3の患者は、DTDCに起因するIII型過敏症反応と一致する臨床症状を経験した。最適な投薬戦略を受けたパート4の患者におけるDTDCサイズ分布は、パート3の患者とは異なって展開し、モデル予測と一致した。パート4の切り替え患者(n=7;2020年1月29日のデータカットオフ)では、画分1~4のDTDCの合計は、パート3とは対照的に、8日目に減少し始め、減少し続けた。22日目に、パート3の患者と比較してパート4の患者では最大のDTDCの平均割合が56%低下した。加えて、パート4の患者の血清クロバリマブ濃度は、補体阻害に関連付けられるレベルである100μg/mLを超えたままであった。エクリズマブから切り替えたすべてのパート4の患者にDTDCが観察されたにもかかわらず、III型過敏症反応を示唆する有害事象は起らなかった。結論として、最適化されたクロバリマブレジメンは、パート3のレジメンを受けた患者よりも大きなDTDCの濃度が低かった。
【0088】
実施例7:C5多型を有するPNH患者のクロバリマブに対する反応の結果
発作性夜間血色素尿症(PNH)は、造血細胞上の内因性補体制御因子CD59およびCD55の欠失を特徴とする。末梢血要素は、血管内溶血および血栓症をもたらす補体による破壊を受けやすい。標準的な治療法は、抗C5モノクローナル抗体(mAb)であるエクリズマブによる終末補体阻害である。しかしながら、アジア系の個体の最大3.5%がArg885に影響を及ぼすC5に多型を保有しており、これはエクリズマブおよびラブリズマブ結合部位に相当する(Nishimuraら、N Engl J Med、Vol)。370, pp. 632-639(2014);DOI:10.1056/NEJMoa1311084参照)。これらの多型を有するPNH患者は、エクリズマブによる血管内溶血の制御不良を経験するため、アンメット・メディカル・ニーズの高いグループを構成する。クロバリマブは、C5のベータサブユニット上の別個のエピトープに結合する新規抗C5 mAbである。In vitro試験により、クロバリマブが野生型およびArg885変異型C5と等しく結合し、その活性を阻害することが実証された(Fukuzawa et al., Sci Rep、7(1):1080. doi:10.1038/s41598-017-01087-7(2017))。
【0089】
目的:本実施例の目的は、C5多型を有するPNH患者のクロバリマブに対する反応を説明することである。
【0090】
方法:上記クロバリマブの用量およびレジメン(1日目にクロバリマブ1000mgを静脈内投与(IV)し、続いて2、8、15、22日目にクロバリマブ340mgを皮下投与(SC)する)と、それに続く維持用量(29日目にクロバリマブ680mgをSCし、続いてクロバリマブ680mgをその後4週に一回(Q4W)皮下投与する)とを、C5多型(C5のArg885変異(配列番号13))を有するPNH患者に投与した。クロバリマブの血漿濃度、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、遊離および総C5、並びに補体活性を来院毎に決定した。輸血、ブレイクスルー溶血(BTH)事象の発生、および安全性について、患者を追跡した。
【0091】
結果:COMPOSER試験(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT03157635)のパート2(n=10)、パート3(n=19)およびパート4(n=15)に登録された44名の患者のうち、四名が、Arg885His置換を予測するc.2654G->Aヌクレオチド多形を有していた。2019年9月のデータカットオフ時、追跡は12.4~98.3週にわたった。四名の患者はすべて男性で、登録の44~734週前に診断され、PNH顆粒球クローンサイズは89~95%の範囲であった。登録時、一名の患者はエクリズマブによる継続中の治療から切り替え、三名はそれ以前にエクリズマブの投与を中止していた。すべての患者の登録時LDHは>基準値上限(ULN)の3倍であり、これは速やかに低下して、追跡期間を通じてULNの1.5倍未満に維持された(
図13)。一名の患者は、登録後に輸血を必要とした(6ヵ月間で赤血球(RBC)12単位);この患者は再生不良性貧血の基礎診断を受けており、登録前12ヵ月間でRBC198単位を必要とした。四名の患者のうち、ブレイクスルー溶血(BTH)事象を経験した者はいなかった。四名すべての患者は、リポソームイムノアッセイ(LIA)で測定された完全な終末補体阻害を達成した。LIAのレベルは、試験登録時に32~42U/mLにわたり、2日目までに≦10U/mLに低下し(低レベルの定量化)、その後維持された。同様に、第6週(43日目)以降、遊離C5レベルは<0.5μg/mLに維持された。これらの患者の安全性プロファイルは、残りの関係者と同様であった。三名の重篤な有害事象(SAE)が報告されたが、いずれも治験に関係していなかった。一名の患者は2つのSEA、胆管結石および胆石症を有していた。二人目の患者は入院時に上気道感染のSEAを有し、これは20ヵ月後に発生したもので、治療中に消失した。
【0092】
結論:クロバリマブは、Arg885多型を有するPNH患者において完全かつ持続的な終末補体阻害を達成した。したがって、クロバリマブはPNHに罹患した患者の治療および/または予防のための有望な抗C5抗体であり、患者はC5 Arg885His変異を有することを特徴とする。
【配列表】
【外国語明細書】