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特開2022-101655多能性幹細胞から免疫細胞療法用T細胞を誘導する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101655
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】多能性幹細胞から免疫細胞療法用T細胞を誘導する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20220629BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220629BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220629BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220629BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220629BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220629BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220629BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20220629BHJP
   C12N 5/073 20100101ALN20220629BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220629BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
A61K35/17 Z
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
A61P35/00
A61P31/00
A61P37/06
A61P37/08
A61K35/545
C12N5/073
C12N15/12
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071495
(22)【出願日】2022-04-25
(62)【分割の表示】P 2020089304の分割
【原出願日】2015-07-17
(31)【優先権主張番号】62/026,332
(32)【優先日】2014-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/026,341
(32)【優先日】2014-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】517016679
【氏名又は名称】サイアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】特許業務法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河本 宏
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】増田 喬子
(72)【発明者】
【氏名】南川 淳隆
(72)【発明者】
【氏名】堀田 秋津
(72)【発明者】
【氏名】島津 裕
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 大志
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA05
4C087NA06
4C087NA14
4C087ZB02
4C087ZB08
4C087ZB13
4C087ZB26
4C087ZB31
(57)【要約】      (修正有)
【課題】免疫細胞療法に用い得るT細胞の誘導方法、免疫細胞療法用T細胞を用いる免疫細胞療法、及び免疫細胞療法用iPS細胞バンクの提供。
【解決手段】(1)所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有し、Rag1および/またはRag2遺伝子がノックアウトされたヒト多能性幹細胞を提供する工程、および(2)工程(1)の多能性幹細胞からT細胞を誘導する工程を含む、免疫細胞療法用T細胞を誘導する方法、該免疫細胞療法用T細胞を用いる免疫細胞療法、並びに免疫細胞療法用iPS細胞バンク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLAハプロタイプホモのドナーから得た細胞由来の多能性幹細胞であって、所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有する多能性幹細胞からT前駆細胞あるいは成熟T細胞を誘導し、当該T前駆細胞あるいは成熟T細胞をドナーのHLAハプロタイプのいずれか一方または両方と同一のハプロタイプを有するレシピエントに投与することを含む、免疫細胞治療剤。
【請求項2】
所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有する多能性幹細胞が、所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有するヒトT細胞から多能性幹細胞を誘導する工程を含む方法によって得られる、請求項1に記載の免疫細胞治療剤。
【請求項3】
所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有する多能性幹細胞が、所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を多能性幹細胞へ導入する工程を含む方法によって得られる、請求項1に記載の免疫細胞治療剤。
【請求項4】
前記多能性幹細胞からCD4CD8ダブルポジティブT細胞を含むT細胞群を誘導する工程、
該T細胞群より、CD4CD8ダブルポジティブT細胞群を選択する工程、および
CD4CD8ダブルポジティブT細胞群からCD8シングルポジティブT細胞を誘導する工程を含む、方法によって得られる、請求項1~3のいずれか1項に記載の免疫細胞治療剤。






【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫細胞療法に用い得るT細胞の誘導方法に関する。特に、多能性幹細胞、例えばiPS細胞から所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有するT細胞を効率良く確実に誘導する方法に関する。
本願はまた、iPS細胞を利用した免疫細胞療法に有用な細胞バンクの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
個々のT細胞は異なる特異性のT細胞受容体(TCR)を発現している。感染症が生じた時、特定の特異性の細胞が増殖し、細胞集団(クローン)を形成して病原体の対処にあたる。これが獲得免疫系の基本型である。特定の特異性のTCRを有するT細胞を人為的に増殖(クローニングという)できれば治療に用いることができることが期待される。実際に、特定の特異性を示すT細胞を患者から採取し、増やして患者に戻す(自家移植)方法は臨床応用されている。ただしこのような試みの殆どはクローニングというほど純化された細胞群を用いていない。また、in vitroで何代も継代培養するうちに、がん細胞を殺す活性が低下するという問題もあった。
【0003】
T細胞を不死化することにより無限に増やす方法も提案されている。1の細胞を不死化して増殖させ、クローニングする。細胞の不死化はがん細胞との融合による方法と、TCR刺激とサイトカインの刺激による長期間培養などの方法が挙げられる。しかしながら、こうして不死化したT細胞は、患者本人に戻す自家移植は危険である。また、クローニング工程において機能が低下するという問題もあった。
【0004】
ヒトT細胞からiPS細胞を誘導し、得られたiPS細胞から元のヒトT細胞のTCR遺伝子の組み替え構造を保ったまま再度T細胞へ分化誘導してこれを免疫細胞療法に使用することが提案されている (WO2013176197A1、Vizcardo et al., Cell Stem Cell 12,31-36 2013および Nishimura T et al, Cell Stem Cell, 2013)。
【0005】
これらの文献記載の方法にてT細胞由来のiPS細胞を得、これを再度成熟T細胞へ分化誘導する際、成熟T細胞への分化に伴い、TCRα鎖が追加の再構成を受けることが報告されている(Nishimura T et al, Cell Stem Cell, 2013)。この追加α鎖再構成によりTCRの抗原特異性が失われるのみならず、意図しないα鎖とのミスペアリングにより、自己反応性のT細胞を生み出す可能性がある。自己反応性T細胞が生じると、正常な組織を傷害する反応が起こりかねず、非常に危険である(Bendle GM et al, Nat Med. 2010 May;16(5):565-70)。
TCR遺伝子の再構成にはRag1およびRag2遺伝子によりコードされるRAGタンパクが関与していることが知られている。
【0006】
一方、日本人に頻度の高いHLAハプロタイプをホモで有するヒトをドナーとして用いることにより、汎用性の高いiPS細胞バンクを構築するプロジェクトが行われている(CYRANOSKI, Nature vol. 488, 139(2012)および金子新、最新医学 69:724-733, 2014)。しかしながらT細胞に関してはハプロタイプホモからヘテロへの移植(他家移植)は絶対的な禁忌とされてきたため、iPS細胞バンクに保存されたiPS細胞から所望TCRを有する成熟T細胞を得て免疫細胞療法に用いるという構想については、これまで否定的であった。ハプロタイプホモのドナー由来のT細胞をヘテロのレシピエントへ輸注した場合(他家移植)、レシピエントの免疫系からみるとドナーのT細胞は自己(自家移植)とみなされるが、ドナーT細胞からみるとレシピエントの体細胞は非自己(他家移植)とみなされる。このために、とりわけ重度の移植片対宿主反応が起こり、レシピエントを死に至らしめる危険が報告されている(Ito et al Lancet, 331: 413, 1988)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2013176197 A1
【特許文献2】WO2011096482 A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vizcardo et al., Cell Stem Cell 12, 31-36 2013
【非特許文献2】Nishimura T et al, Cell Stem Cell 12, 114-226 20013
【非特許文献3】Ito et al Lancet, 331: 413, 1988
【非特許文献4】Bendle GM et al, Nat Med. 2010 May;16(5):565-70
【非特許文献5】CYRANOSKI, Nature vol. 488, 139(2012)
【非特許文献6】金子新、最新医学 69:724-733, 2014
【非特許文献7】Le Cong et al, Science 39; 819, 2013
【非特許文献8】Prashant Mali et al, Science 39; 823,2013 上記先行技術文献は引用により本願明細書の一部を構成する。
【発明の概要】
【0009】
本願は、多能性幹細胞から所望のTCRを有するT細胞のクローンを誘導する方法を提供することを目的とする。本願はまた、iPS細胞から免疫細胞療法用細胞バンクを製造する方法、ならびに免疫細胞療法用細胞バンクを提供する。
【0010】
1の態様において本願は、(1)所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子(以下TCR)を有し、Rag1および/またはRag2遺伝子がノックアウトされたヒト多能性幹細胞を提供する工程、および
(2)工程(1)の多能性幹細胞からT細胞を誘導する工程
を含む、免疫細胞療法用T細胞を誘導する方法を提供する。
【0011】
本態様において「所望の抗原特異性T細胞受容体 (以下TCR)遺伝子を有し、Rag1および/またはRag2遺伝子がノックアウトされたヒト多能性幹細胞」は、(a)所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有する多能性幹細胞を誘導する工程、および(b)工程(a)で得られた多能性細胞のRag1および/またはRag2遺伝子をゲノム編集によりノックアウトする工程を含む方法にて得てもよい。ここで、所望の抗原特異性TCR遺伝子を有する多能性幹細胞は、所望の抗原特異性TCRを有するT細胞から多能性幹細胞を誘導することによって得てもよい。または、所望の抗原特異性TCR遺伝子を、多能性幹細胞に導入することによって得てもよい。
【0012】
または、「所望の抗原特異性TCR遺伝子を有し、Rag1および/またはRag2遺伝子がノックアウトされたヒト多能性幹細胞」は、多能性幹細胞のRag1および/またはRag2遺伝子をゲノム編集によりノックアウトし、次いでRag1および/またはRag2遺伝子をノックアウトした多能性幹細胞へ所望のTCR遺伝子を導入することによって得てもよい。
【0013】
本願においてはRag1および/またはRag2遺伝子のノックアウトはゲノム編集、特にCRISPR-Cas9システムやTALENなどを用いるゲノム編集によって両アレルのフレームシフト変異を誘導することによって行うことが例示される。また、相同組換えによりノックアウトでも構わない。
【0014】
Rag1および/またはRag2遺伝子をノックアウトすることによって、所望のTCRを有する多能性幹細胞をT細胞へ分化誘導する過程で、TCRの再構成が生じることが少ない、または全く無くなる。従って本態様によって得られる免疫細胞療法用T細胞は、所望のTCRを有する単一クローンとして提供され、安全かつ有効な治療に用いることができる。
【0015】
本願の他の態様においては、HLAハプロタイプホモのドナー由来のiPS細胞であって、Rag1および/またはRag2遺伝子がノックアウトされているiPS細胞群が各ドナーのHLA情報とひも付けて保存されている、細胞免疫療法用iPS細胞バンクが提供される。
【0016】
拒絶反応が起きにくいHLA型の組み合わせ(HLAホモ接合体)を持つ健常人ボランティア由来の細胞からiPS細胞を作製し、保存するiPSストック事業が既に開始されているが(金子新、最新医学 69:724-733, 2014)、本態様において用いられるiPS細胞は、例えばかかるiPSストック事業において健常人ボランティアのHLA型情報にひも付けてバンク化されたiPS細胞であってよい。
【0017】
本態様において得られる免疫細胞療法用iPS細胞バンクは、種々の免疫療法に用いることができる。免疫療法に用いる場合は、治療対象者のHLAハプロタイプの少なくとも一方が同一であるドナー由来の細胞を免疫療法用iPS細胞バンクより選択し、治療のためのTCR遺伝子を導入する。TCR遺伝子が導入されたiPS細胞を次いでT細胞へ分化誘導することによって、当該治療対象者に適した免疫細胞療法用T細胞を得ることができる。
【0018】
さらに他の態様においては、(1)HLAハプロタイプホモのドナーから得た細胞由来のiPS細胞を提供する工程、(2)該iPS細胞のRag1および/またはRag2遺伝子をゲノム編集によりノックアウトする工程、(3)工程(2)で得たRag1および/またはRag2遺伝子ノックアウトiPS細胞に所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を導入する工程および(4)工程(3)で得られたiPS細胞を、各ドナーのHLA情報および抗原特異性T細胞受容体遺伝子情報とひも付けて保存する工程を含む、免疫細胞療法用iPS細胞バンクを製造する方法が提供される。かかる方法においては、予め治療に有用なTCR遺伝子を導入したiPS細胞をバンク化することにより、より迅速に免疫療法用T細胞を提供することが可能となる。
【0019】
さらに他の態様においては、(1)HLAハプロタイプホモのドナー由来のiPS細胞群が、ドナーのHLA情報にひも付けて保存されているiPS細胞バンクより、治療対象者のHLAハプロタイプの少なくとも一方と合致するHLAを有するドナー由来のiPS細胞を選択する工程、(2)選択した細胞のRag1および/またはRag2遺伝子をゲノム編集にてノックアウトする工程、(3)(2)で得たRag1および/またはRag2遺伝子ノックアウトiPS細胞へ、治療のための抗原特異性T細胞受容体遺伝子を導入する工程、および(4)当該抗原特異性T細胞受容体遺伝子を導入したRag1および/またはRag2ノックアウトiPS細胞をT細胞へ分化誘導する工程を含む、免疫療法用T細胞誘導方法が提供される。
【0020】
さらに他の態様においては、本願の免疫療法用T細胞誘導方法により得られた所望のTCRを有するT細胞を、治療対象者へ投与することを含む、免疫細胞治療方法を提供する。
【0021】
所望のTCR遺伝子を有する多能性幹細胞のRag1および/またはRag2遺伝子をノックアウトすることにより、多能性幹細胞からT細胞への分化誘導の過程でTCRの再構成が生じない、あるいはその頻度を低く抑えることが可能となった。かかる方法にて誘導したT細胞は、所望のTCRを有するクローンとして提供される。
【0022】
他の態様において、本願はHLAハプロタイプホモのドナーから得た細胞由来の多能性幹細胞であって、所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有する多能性幹細胞からT前駆細胞あるいは成熟T細胞を誘導し、当該T前駆細胞あるいは成熟T細胞をドナーのHLAハプロタイプのいずれか一方または両方と同一のハプロタイプを有するレシピエントに投与することを含む、免疫細胞療法を提供する。さらに、本願はHLAハプロタイプホモのドナーから得た細胞由来のiPS細胞であって、所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有するiPS細胞を、それぞれのドナーのHLAならびにTCRの情報にひも付けして保存したiPS細胞バンクを提供する。
【0023】
他家移植の場合、ドナーとレシピエントのHLAを完全に一致させることはほぼ不可能である。T細胞が他家移植されると、ドナーT細胞はHLAの不一致を攻撃対象と認識し得る。その結果、移植したドナーT細胞の一部がレシピエントの体の細胞を攻撃する反応であるいわゆる移植片対宿主反応が生じる。
【0024】
しかしながら、本願の方法によって誘導されるT細胞は単一のTCRを有するクローンであり、T細胞反応性は単一となる。よってHLAホモドナーから、一方のHLAのみが同一であるHLAヘテロレシピエントへ移植(他家移植)しても移植片対宿主反応を起こす可能性が格段に低い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1で得たiPS細胞コロニーの写真。
図2】HLAハプロタイプホモドナー末梢血T細胞から得たT-iPS細胞から、CD4CD8ダブルポジティブ細胞が誘導されたことを示すFACS解析結果。
図3】実施例2においてHLAハプロタイプホモドナー末梢血T細胞から得たT-iPS細胞から誘導したCD8陽性T細胞をstimulatorとし、ドナーA、Bそれぞれの末梢血単核珠から単離したCD8陽性T細胞をeffectorとして共培養開始6日後にフローサイトメトリーにより細胞分裂を評価した。
図4】ハプロタイプホモ接合型iPS細胞より誘導したCD8陽性T細胞は、ハプロタイプの片方の一致するドナーAのT細胞とMLR反応を起こさなかった。一方、ハプロタイプの全く一致しない ドナーBのT細胞とはMLR反応を起こした。
図5】ハプロタイプホモ接合型iPS細胞より誘導したCD8陽性T細胞は、ハプロタイプの片方一致するヘテロ接合型のNK細胞を活性化した。
図6】実施例4において健常人ボランティア由来T細胞からLMP2テトラマー陽性、CD8陽性T細胞が誘導されたことを示すFACS解析結果。
図7】実施例4においてHLA-A2402を有しかつEBウイルス既感染者でもある健常人ボランティアの末梢血よりLMP2ペプチドを用いて誘導されたT細胞が、ペプチド特異的キラー活性を有することを示す図。
図8】LMP2ペプチド特異的T細胞から誘導されたiPS細胞コロニーの写真。
図9】LMP2ペプチド特異的T細胞から誘導されたT-iPS細胞のT細胞への分化誘導過程(Day13)の細胞のFACS解析結果。
図10】LMP2ペプチド特異的T細胞から誘導されたT-iPS細胞のT細胞への分化誘導過程(Day36)の細胞のFACS解析結果。
図11】LMP2ペプチド特異的T細胞から誘導されたT-iPS細胞のT細胞への分化誘導過程(Day41)の細胞のFACS解析結果。LMP2特異的成熟T細胞(CTL)が得られたことが確認された。
図12】LMP2ペプチド特異的T細胞から誘導されたT-iPS細胞から再生した成熟T細胞(CTL)のLMP2抗原特異的キラー活性を示す図。標的細胞としてLCLを用い、LMP2ペプチド存在(p+)、非存在(p-)下でのT細胞のキラー活性を観察した。
図13】LMP2ペプチド特異的T細胞から誘導されたT-iPS細胞から再生した成熟T細胞(CTL)のナチュラルキラー細胞様キラー活性を観察した結果を示す図。
図14】実施例5において健常人ボランティア由来T細胞からWT1テトラマー陽性、CD8陽性T細胞が誘導されたことを示すFACS解析結果。
図15】WT1ペプチド特異的T細胞から誘導されたT-iPS細胞コロニーの写真。
図16】WT1ペプチド特異的T細胞から誘導されたT-iPS細胞のT細胞への分化誘導過程(Day13)の細胞のFACS解析結果。
図17】WT1ペプチド特異的T細胞から誘導されたT-iPS細胞のT細胞への分化誘導過程(Day36)の細胞のFACS解析結果。
図18】実施例6において、TCRを導入したiPS細胞から誘導されたT細胞のFACS解析結果。
図19】実施例7において、T-iPS細胞のRag2遺伝子ノックアウト後のゲノムのT7Eアッセイの結果。
図20】実施例7において、T-iPS細胞(TKT3v)およびRag2をノックアウトしたT-iPS細胞(Rag2KO)をT細胞へと分化誘導させた細胞のFACS解析結果。
図21】実施例7において、T-iPS細胞(TKT3v)のTCRα鎖の各V領域プライマーとC領域プライマーをもちいてRT-PCRを行った結果を示す図。
図22】T-iPS細胞(TKT3v)をCD4CD8ダブルネガティブ細胞からCD4D8ダブルポジティブT細胞へ誘導する過程でRag2が活性化されたことを示す図。
図23】T-iPS細胞(TKT3v)をCD4CD8ダブルネガティブT細胞まで誘導した際のTCRα鎖の各V領域プライマーとC領域プライマーをもちいてRT-PCRを行った結果を示す図。
図24】T-iPS細胞(TKT3v)をCD4CD8ダブルポジティブT細胞まで誘導した際のTCRα鎖の各V領域プライマーとC領域プライマーをもちいてRT-PCRを行った結果を示す図。
図25】RAG2遺伝子をノックアウトしたTKT3v/Rag2KO株から誘導したDP細胞のTCRα再構成を示す図。
図26】TKT3V/RAG2KO株由来のCD4CD8ダブルポジティブ細胞からCD8シングルポジティブ成熟T細胞が得られたことを示す図。
図27】TKT3V/RAG2KO株由来のCD8シングルポジティブ細胞のTCR再構成を確認した図。
図28】実施例8において、Rag2遺伝子がノックアウトされたことを示す図。
図29】実施例9において、T-iPS細胞(WT)およびRag2をノックアウトしたT-iPS細胞(Rag2KO)をT細胞へと比較的長期間かけて分化誘導させた細胞のFACS解析結果。
図30】実施例9において、Rag2をノックアウトしたT-iPS細胞(Rag2KO)では分化誘導されたCD8陽性細胞においてTCRが維持されていた。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願は(1)所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有し、Rag1および/またはRag2遺伝子がノックアウトされたヒト多能性幹細胞を提供する工程、および
(2)工程(1)の多能性幹細胞からT細胞を誘導する工程
を含む、免疫細胞療法用T細胞を誘導する方法を提供する。
【0027】
本明細書および請求の範囲において、多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、自己増殖能を併せもつ幹細胞である。多能性幹細胞には、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。多能性幹細胞として胚の破壊を行わずに得られるという観点から、iPS細胞またはMuse細胞を用いることが好ましい。多能性幹細胞は、好ましくは、哺乳動物の多能性幹細胞であり、より好ましくはヒト多能性幹細胞である。iPS細胞が好適に用いられる。
【0028】
本願の一の態様において、所望の抗原特異性TCR遺伝子を有し、Rag1および/またはRag2遺伝子がノックアウトされたヒト多能性幹細胞は、所望のTCRを有するヒトT細胞からiPS細胞を誘導し、次いで誘導されたiPS細胞(以下T-iPS細胞という)のRag1および/またはRag2遺伝子をノックアウトすることによって得ることができる。
【0029】
本願明細書および請求の範囲において、「T細胞」とは表面にT細胞受容体(TCR)と称される抗原受容体を発現している細胞を意味する。T細胞からiPS細胞を誘導してもTCRが維持されることは、例えばWO2013176197A1、Vizcardo et al., Cell Stem Cell 12, 31-36 2013および Nishimura T et al, Cell Stem Cell, 114-126, 2013 に報告されている。
【0030】
iPS細胞へと誘導されるT細胞としては、好ましくはCD3を発現しており、且つCD4及びCD8からなる群から選択される少なくとも一の分子が発現しているT細胞である。このようなヒトT細胞としては、例えば、CD4陽性細胞であるヘルパー/制御性T細胞、CD8陽性細胞である細胞傷害性T細胞、ナイーブT細胞(CD45RACD62L細胞)、セントラルメモリーT細胞(CD45RACD62L細胞)、エフェクターメモリーT細胞(CD45RACD62L細胞)、及びターミナルエフェクターT細胞(CD45RACD62L細胞)が挙げられる。
【0031】
ヒトT細胞は、ヒトの組織から公知の手法により単離することができる。ヒトの組織としては、前記T細胞を含む組織であれば特に制限はないが、例えば、末梢血、リンパ節、骨髄、胸腺、脾臓、臍帯血、病変部組織が挙げられる。これらの中では、ヒトに対する侵襲性が低く、調製が容易であるという観点から、末梢血、臍帯血が好ましい。ヒトT細胞を単離するための公知の手法としては、例えば、後述の実施例に示すようなCD4、CD8等の細胞表面マーカーに対する抗体と、セルソーターとを用いたフローサイトメトリーが挙げられる。また、サイトカインの分泌や機能性分子の発現を指標に、所望のT細胞を単離することも出来る。かかる場合、例えば、T細胞は、Th1タイプかTh2タイプかで分泌されるサイトカインが異なるので、そのようなサイトカインを指標に選別して、所望のThタイプを有するT細胞を単離することができる。また、グランザイムやパーフォリンなどの分泌又は産生を指標として、細胞傷害性(キラー)T細胞を単離することが出来る。
【0032】
「所望の抗原特異性TCRを有するT細胞」は、例えばドナー細胞から当該TCRを有する細胞傷害性T細胞を取得もしくは誘導することによって得ることができる。例えばがん抗原特異的な細胞障害性T細胞は、ドナーより常法により取得したリンパ球を、治療対象とするがんに特異的ながん抗原と共に培養して得ることができる。種々のがんについてがん抗原が特定されており、がん抗原あるいはそのエピトープペプチドを用いて細胞障害性T細胞を誘導する方法も良く知られている。または、治療対象とするがん細胞とリンパ球を共に培養してもよい。
【0033】
あるいは、治療対象とするがんに罹患したドナーから得られた末梢血より、当該がんに特異的ながん抗原に特異的な細胞傷害性T細胞を誘導して用いてもよい。
【0034】
「所望の抗原特異性を有するヒトT細胞」の単離においては、「所望の抗原特異性を有するT細胞」を含むヒト培養細胞またはヒトの組織より、所望の抗原を結合させたMHC(主要組織適合遺伝子複合体)を4量体化させたもの(いわゆる「MHCテトラマー」)を用いて、ヒトの組織より「所望の抗原特異性を有するT細胞」を精製する方法を用いることができる。
【0035】
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、体細胞に作用させることによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNAまたはE
S細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotechnol., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。(本段落に記載の文献は引用により本願の一部を構成する)
【0036】
初期化因子は、その形態に応じた公知の方法にて体細胞へ接触、または体細胞内へ導入すればよい。
【0037】
タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
【0038】
DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞へ一旦導入して作用させた後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有しても良い。(本段落に記載の文献は引用により本願の一部を構成する)
【0039】
初期化因子がRNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良い。分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびpseudouridine (TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを初期化因子として用いても良い(Warren L, (2010) Cell Stem Cell. 7:618-630)。(本段落に記載の文献は引用により本願の一部を構成する)
【0040】
iPS細胞誘導のための培養液は、例えば、10~15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)]などが例示される。
【0041】
iPS細胞誘導の例としては、たとえば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4~7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養することによって、該接触から約30~約45日又はそれ以上の後にES様コロニーを生じさせることができる。
【0042】
あるいは、37℃、5% CO2存在下にて、フィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で体細胞と初期化因子を接触させて培養し、約25~約30日又はそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009), PLoS One. 4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、Laminin-5(WO2009/123349)、Laminin-10(US2008/0213885)、その断片(WO2011/043405)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。(本段落に記載の文献は引用により本願の一部を構成する)
【0043】
この他にも、血清を含有しない培地を用いてiPS細胞を樹立する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。(本段落に記載の文献は引用により本願の一部を構成する)
【0044】
iPS細胞の樹立効率を高めるための成分として、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標) (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-azacytidine)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294 等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およ
びmir-302などのmiRNA、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等が知られている。iPS細胞の樹立の際にはかかる樹立効率の改善目的にて用いられる成分を添加した培養液を用いても良い。
【0045】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103~約5×106細胞の範囲である。
【0046】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入し、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子として蛍光タンパク質遺伝子を導入し、蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
【0047】
T-iPS細胞からRag1および/またはRag2遺伝子をノックアウトするためには、Le Cong et al, Science 39; 819, 2013あるいはPrashant Mali et al, Science 39; 823,2013に記載の方法に準じてゲノム編集を行うこと、CRISPR-Cas9やTALENなど公知の系を用いてRag1および/またはRag2遺伝子をノックアウトするようゲノム編集をする、あるいは相同組み換えによるRag1および/またはRag1のノックアウトを行うことが例示される。
【0048】
CRISPR-Cas9はゲノムの特定の部位に機能欠損変異を起こさせるゲノム編集の方法として非常に簡便で優れたものである。ゲノムの特定の部位を標的としたsingle guide RNA (sgRNA)を作製し、sgRNAが結合した部位にCas9ヌクレアーゼを呼び込んでDNAの二本鎖切断を起こし、フレームシフトによる挿入欠失変異(indel mutation)を起こして、標的の遺伝子を不活性化させることができる。Rag1および/またはRag2遺伝子のノックアウトはその他公知ゲノム編集法のいずれを用いて行ってもよい。
【0049】
本願の別の態様において、所望の抗原特異性TCRを有し、Rag1および/またはRag2遺伝子がノックアウトされたヒト多能性幹細胞は、ヒト多能性幹細胞のRag1および/またはRag2遺伝子をゲノム編集によりノックアウトし、次いで所望の抗原特異性TCR遺伝子を導入することによって得てもよい。
【0050】
本態様で用いられるヒト多能性幹細胞としては、治療対象者の体細胞から調製されたiPS細胞、HLAが一定以上同一である他人の体細胞から調製されたiPS細胞などが例示される。または、iPS細胞としてはあらかじめドナーの体細胞から作成され、ドナーのHLA情報とひも付けられてストックされたものを用いてもよい。
【0051】
例えばHLAハプロタイプホモのドナー由来のiPS細胞群が、ドナーのHLA情報にひも付けて保存されているiPS細胞バンクから、治療対象者のHLAの少なくとも一方が同一である細胞を選択して用いることができる。
【0052】
本明細書ならびに請求の範囲で使用する「体細胞」なる用語は、精子、精母細胞、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化多能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全個体の体細胞もしくは疾患を有する個体の体細胞のいずれも包含される。また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は分化した細胞、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等が例示されるが、特に限定されない。取得に対する侵襲性が低いことから、末梢血、皮膚あるいは臍帯血由来の細胞が好適に用いられる。
【0053】
iPS細胞のRag2遺伝子のノックアウトは、上で説明したT-iPS細胞のRag1および/またはRag2遺伝子のノックアウトと同様にして行えばよい。
【0054】
Rag1および/またはRag2遺伝子をノックアウトしたiPS細胞へ、所望の抗原特異性TCR遺伝子を導入する。
【0055】
種々のがんについて、抗原特異的TCR遺伝子が報告されている。TCR遺伝子はまた、所望の抗原特異性を有するT細胞をがん患者や感染症患者から単離または誘導し、当該T細胞からTCRの遺伝子を単離してもよい。本願においては、所望の抗原特異性を有するTCR遺伝子をドナー細胞から誘導されたiPSへ導入する。TCR遺伝子のiPS細胞への導入は常套の方法で行えばよく、例えばMorgan R.A. et al, Science, 314:126. 2006(this document is herein incorporated by reference)に記載の方法に準じて行えば良い。具体的にはTCR遺伝子を適当なベクターに載せてiPS細胞へ導入すればよい。例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる。ベクターには、TCRが発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。
【0056】
以下、TCR遺伝子を導入したiPS細胞をTCR-iPS細胞という。Rag2遺伝子がノックアウトされたT-iPS細胞またはTCR-iPS細胞からT細胞を誘導する。iPS細胞からT細胞への誘導は、例えばTimmermans et al., Journal of Immunology, 2009, 182: 6879-6888、Nishimura T et al, 2013, Cell Stem Cell 114-126、WO2013176197 A1および WO2011096482 A1に記載の方法が例示される。
【0057】
T細胞には大きく分けてαβT細胞とγδT細胞があり、αβT細胞にはキラーT細胞とヘルパーT細胞が含まれる。本明細書ならびに請求の範囲において「iPS細胞からT細胞が誘導された」という場合には、T前駆細胞および成熟T細胞のいずれをも対象とするものとする。好ましくはCD3を発現しており、且つCD4及びCD8からなる群から選択される少なくとも一の分子が発現しているT細胞を誘導するものとする。
【0058】
今までに提案されている種々のiPS細胞から分化誘導させたT細胞以外の細胞や組織を移植する治療法では、当該細胞が一生涯生着し続けることが期待されている。従って、他家移植を前提とするiPS細胞ストック事業においてiPS細胞から分化誘導される細胞を移植する際には、患者は免疫抑制剤を飲み続ける必要がある。
【0059】
一方で、他家移植したT細胞はたとえドナーとレシピエントが同一のHLAハプロタイプを有していたとしても、一定期間後に拒絶される。すなわちHLAが一致するとはいえ、マイナー組織適合抗原が一致せず、移植されたiPS細胞由来のT細胞はいずれは拒絶される。この点で、T細胞以外に分化誘導したiPS細胞を用いた他家移植とは全く異なり予想外の優れた効果が示される。
【0060】
本願の一の態様においては、免疫細胞療法用細胞バンクを提供する。本願の細胞バンクは、HLAハプロタイプホモのドナー由来の細胞を用いて構築するのが好ましい。本願の免疫細胞療法用細胞バンクは、HLAハプロタイプホモのドナー由来のiPS細胞のRag2遺伝子をノックアウトしたiPS細胞を、ドナーのHLA情報とひも付けて保存したものであってよい。または、HLAハプロタイプホモのドナー由来のT-iPS細胞、もしくはTCR-iPS細胞を、ドナーのHLA情報並びにTCRの情報とひも付けて保存してもよい。その他、免疫細胞療法用細胞バンクには、ドナーの性別、年齢、疾患歴、治療歴、などの情報を併せて細胞とひも付けて保存してもよい。
【0061】
あるいは、免疫細胞療法用細胞バンクとしてはT-iPS細胞若しくはTCR-iPS細胞から再生したT前駆細胞または成熟T細胞をストックしておいてもよい。再生したT細胞をストックすることによって、治療までの時間が短縮できるだけでなく、移植する前に移植細胞の品質の確認ができるというメリットもある。
【0062】
本願の免疫細胞療法においては、誘導されたT細胞を適当な媒体、例えば生理的食塩水やPBSに懸濁してHLAハプロタイプホモドナーと少なくとも一方のHLAハプロタイプが一致する患者へ投与する。患者への投与は経静脈的に行えばよい。
【0063】
投与細胞数は特に限定されず、患者の年齢、性別、身長、体重、対象疾患、症状等に応じて適宜定めればよい。最適な投与細胞数は臨床試験により適宜決定すればよい。
【0064】
T細胞は多様な抗原を攻撃対象とすることができ、本願の方法においてTCRを適宜選択することによりがんや感染症など種々の疾患を対照とした免疫細胞療法への応用が可能である。本願の方法において治療の対象となる疾患としては、がん、感染症、自己免疫疾患、アレルギーなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0065】
本願はまた、HLAハプロタイプホモのドナーから得た細胞由来の多能性幹細胞であって、所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有する多能性幹細胞からT前駆細胞あるいは成熟T細胞を誘導し、当該T前駆細胞あるいは成熟T細胞をドナーのHLAハプロタイプのいずれか一方または両方と同一のハプロタイプを有するレシピエントに投与することを含む、免疫細胞療法を提供する。さらに、本願はHLAハプロタイプホモのドナーから得た細胞由来のiPS細胞であって、所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有するiPS細胞を、それぞれのドナーのHLAならびにTCRの情報にひも付けして保存したiPS細胞バンクを提供する。
【0066】
実施例4および5に示すように、T-iPS細胞からT細胞を誘導する際、比較的早期に抗原刺激を行うことにより、Rag1および/またはRag2遺伝子をノックアウトさせずともT-iPS細胞が由来するT細胞の抗原特異性を維持したT細胞を得ることが可能である。本願には、かかる場合にRag1および/またはRag2遺伝子をノックアウトさせないT-iPS細胞あるいはTCR-iPS細胞により作成した細胞バンクもまた含まれる。
以下実施例により本願発明をさらに詳細に説明する。
【実施例0067】
HLAハプロタイプホモ由来T細胞からのiPS細胞の誘導並びにiPS細胞からのT細胞の誘導
ハプロタイプHLA-A*3303-B*4403-C*1403-ERB1*1302をホモで有する健常人ボランティアの末梢血を用いた。
【0068】
1) Homo-T-iPS細胞の樹立
用いた培地は以下の通りである。
【表1】
【0069】
A. CD8陽性T細胞の活性化
1.健常人ボランティアの末梢血より単核球をFicollによって精製し、MACS beadsを用いてCD8陽性細胞を濃縮した。
2. 全ての細胞をT細胞用培地に浮遊させ、IL-2 (最終濃度 30U/mL)、IL-7(最終濃度5 ng/mL)、IL-15(最終濃度 1ng/mL)を加えた。さらにDynabeads Human T-Activator CD3/CD28をT細胞:beadsが1:1となるように添加し、2日間培養することでCD8陽性細胞を活性化した。
【0070】
B. センダイウィルスによる山中4因子とSV40の導入
1.活性化させたCD8陽性細胞をT細胞用培地に浮遊させ、山中4因子とSV40が組み込まれたセンダイウィルスを培地中に添加し、そのまま2日間培養した。
2.T細胞用培地で洗浄し、さらにIL-2 (最終濃度 30U/mL)、IL-7(最終濃度5 ng/mL)、IL-15(最終濃度 1ng/mL)を加えたT細胞用培地で2日間培養した。
3.全ての細胞を回収後、 IL-2 (最終濃度 30U/mL)を加えたT細胞用培地でT細胞を懸濁し、フィーダー細胞上に播種した。
4.2日目にiPS細胞用培地に半量交換し、翌日から毎日iPS細胞用培地への半量交換を行い続け、培養を続けた。
【0071】
C. iPS細胞コロニーのピックアップ
1.3週間後にiPS細胞コロニーを目視により確認した。
2.200μlチップによりコロニーを物理的に拾い上げた。
3.各クローンを個別に樹立した。得られたクローンの写真を図1に示す。
【0072】
2) iPS細胞からT細胞への分化誘導
各培地の組成を下記に示す。
【表2】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は、ペニシリン10000U/mLおよびストレプトマイシン10000μg/mLからなり、それぞれの最終濃度を100U/mLおよび100μg/mLとした。
【0073】
【表3】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は、ペニシリン10000U/mLおよびストレプトマイシン10000μg/mLからなり、それぞれの最終濃度を100U/mLおよび 100μg/mLとした。
【0074】
OP9細胞の準備
0.1% ゼラチン/PBS溶液6mlを10cm培養ディッシュに入れ、37℃で30分以上静置する。コンフルエントになったOP9細胞をトリプシン/EDTA溶液で剥がし、1/4相当量をゼラチンコートした10cm培養ディッシュに播種した。培地はmedium Aを10mlとなるように加えた。
4日後に播種したOP9細胞培養ディッシュに新たにmedium Aを10ml加え、全量が20mlとなるようにした。
【0075】
iPS細胞からの血球前駆細胞誘導
共培養に使用するOP9細胞の培地を吸引し、新しいmedium Aに交換した。またヒトiPS細胞培養ディッシュの培地も同様に吸引し、新しいmedium Aを10ml加えた。EZ-passageローラーでヒトiPS細胞を切った。カットしたiPS細胞塊を200ulピペットマンでピペッティングすることで浮遊させ、目視でおおよそ600個のiPS細胞塊をOP9細胞上に播種した。
ヒトiPS細胞1クローンあたり3枚以上のディッシュを用い、継代するときには細胞を一度一つに合わせてから同じ枚数に再分配することでディッシュ間のばらつきを減らした。
【0076】
Day 1 (培地交換)
iPS細胞塊が接着し分化し始めているかどうかを確認し、培地を新しいmedium A 20mlに交換した。

Day 5 (培地半量交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。

Day 9 (培地交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。

Day 13 (誘導した中胚葉細胞をOP9細胞上からOP9/DLL1細胞上への移しかえる)
培地を吸引し、HBSS(+Mg+Ca)で細胞表面上の培地を洗い流した。その後250U collagenase IV/HBSS(+Mg+Ca) 溶液10mlを加え、37℃で45分間培養する。
Collagenase溶液を吸引し、PBS(-)10mlで洗い流した。その後5mlの0.05%トリプシン/EDTA溶液を加え、37℃で20分培養した。培養後、細胞が膜状に剥がれてくるのでピペッティングにより物理的に細かくした(接着細胞同士を離すため)。ここに新しいmedium Aを20ml加え、さらに37℃で45分間培養した。培養後、浮遊細胞を含む上清を、100μmのメッシュを通して回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。このうち1/10をFACS解析用にとりわけ、残りの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。複数枚のディッシュから得た細胞をプールした場合、元々の枚数と同じ枚数になるように再分配して細胞を播き直した。
【0077】
得られた細胞に造血前駆細胞が含まれているかどうかを確かめるために抗CD34抗体、抗CD43抗体を用いてFACS解析した。CD34lowCD43細胞分画に十分な細胞数が確認できると、造血前駆細胞が誘導されていることを確認した。
【0078】
C. 血球前駆細胞からのT細胞分化誘導
次いで細胞をOP9/DLL1細胞上に播種した。この工程において、CD34lowCD43細胞分画の細胞のソーティングは行わない。この分画をソーティングした場合、得られる細胞数が減少してしまうことやソーティングによる細胞へのダメージから、ソーティングしなかった場合に比べてT細胞への分化誘導効率が落ちることがある。
【0079】
培養期間中に分化段階を確認するためにFACS解析を行うが、全ての期間において培養中に死細胞が多くみられる。そのためFACS解析時にはPI (Propidium Iodide)、7-AADなどを用い、死細胞除去したうえで解析を行うことが望ましい。
【0080】
Day 16 (細胞の継代)
OP9/DLL1細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。これらの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。
【0081】
Day 23 (細胞の継代): 血液細胞コロニーが見え始める。
OP9/DLL1細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収する。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。これらの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。
【0082】
Day 30 (細胞の継代)
OP9/DLL1細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。これらの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。
【0083】
Day 37 (細胞の継代)
OP9/DLL1細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。これらの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。
【0084】
Day 44: CD4CD8T細胞の確認。
T細胞が誘導されているかどうかを確かめるために抗CD4抗体、抗CD8抗体を用いてFACS解析した。結果を図2に示す。CD4CD8ダブルポジティブ細胞が誘導されていることを確認した。
【0085】
上記のとおり、HLAハプロタイプホモのドナーの末梢血より得たT細胞からiPS細胞を誘導し、iPS細胞からT細胞を誘導することに成功した。
【実施例0086】
1. 実施例1で得たT-iPS細胞から常法によりCD8陽性T細胞を誘導した。
【0087】
2.上記ハプロタイプホモ接合型ヒトCD8陽性T細胞由来iPS細胞株と一方のハプロタイプを共有するドナーAならびにハプロタイプが全く一致しないドナーBを選定した。
ドナーA HLA-A*31:01/33:03;B*44:03/48:01; C*04:01/14:03; DRB1*04:03/13:02
ドナーB HLA-A*24:02/24:02;B*07:02/52:01; C*07:02/12:02; DRB1*01:01/15:02
【0088】
3. ドナーAおよびBの末梢血より単核球をFicollによって精製した。末梢血単核球よりCD8マイクロビーズを用いてCD8陽性T細胞を単離した。
【0089】
4.T-iPS細胞から誘導したCD8陽性T細胞をStimulatorとし、ドナー由来のCD8陽性T細胞をEffectorとしてMLR(Mixed Lymphocyte Reaction)を行った。エフェクター細胞はCellTrace Violet Cell Proliferation Kit を用いて蛍光標識した。Stimulator細胞はCell Trace CFSF Cell Proliferation Kitを用いて蛍光標識した。
【0090】
5. EffectorとStimulatorを1 : 1 (1×105 each) で混合し、6日間共培養を行った。培養3日目にIL-2(12.5U/ml)、IL-7(5ng/ml)、IL-21(10ng/ml)、抗CD28抗体(2ng/ml)を培地に加えた。
【0091】
6. 共培養開始6日後にフローサイトメトリーにより細胞分裂の評価を行った。結果を図3に示す。図3の上がエフェクターとしてドナーA由来のT細胞を用いた場合、下がエフェクターとしてドナーB由来のT細胞を用いた場合の結果を示す。
【0092】
7. 図4に特異的なMLRにより増殖した割合を示す。ハプロタイプホモ接合型iPS細胞より誘導したCD8陽性T細胞は、ハプロタイプの片方の一致するドナーAのT細胞とMLR反応を起こさなかった。一方、ハプロタイプの全く一致しないドナーBのT細胞とはMLR反応を起こした。
【0093】
以上の結果からハプロタイプホモ接合型iPS細胞より誘導したCD8陽性T細胞は、ハプロタイプの片方が一致するヘテロ接合型のT細胞を活性化させない。よって、ハプロタイプホモ接合型iPS細胞から再生される抗原特異的CTL細胞をハプロタイプの片方が一致するヘテロ接合型のHLAを有する対象へ投与する場合に、宿主対移植片拒絶反応が生じず有効な治療を行うことができる。
【実施例0094】
実施例1のHLAハプロタイプホモ接合型T-iPS細胞を常法によりCD8陽性T細胞へ分化誘導した。T-iPS細胞とハプロタイプの片方が一致するヘテロ接合型のHLAを有する対象の末梢血から誘導されるNK細胞が、この再生CTL細胞により活性化されるかどうかを調べた。
【0095】
1.実施例1で得たHLAハプロタイプホモ接合型T-iPS細胞から分化誘導したCD8陽性T細胞をstimulatorとして用いた。
【0096】
2.HLAハプロタイプの片方が一致するヘテロ接合型HLAを有するドナーA由来の細胞より常法によりiPS細胞を誘導し、常法によりこれをCD8陽性T細胞へ分化誘導した細胞を得た。かかるCD8陽性T細胞もまた、stimulatorとして用いた。
【0097】
3.ドナーAより、末梢血を採取し、フィコールにより末梢血単核球を単離した。末梢血単核球よりCD3,CD4,CD8,CD14,CD19マイクロビーズを用いてネガティブセレクションを行い、NK細胞を濃縮した。このNK細胞をEffectorとして使用した。
【0098】
4. Stimulatorである再生CD8陽性T細胞とEffectorであるNK細胞を1 : 1 (1×105 each) で混合し、6時間培養を行った。培養中にはIL-2 (1000U/ml)、抗CD107a抗体を加えた。
【0099】
5.共培養開始6時間後にフローサイトメトリーによりNK細胞活性化の評価を行った。図5に結果を示す。
【0100】
6. ドナーA由来CD8陽性T細胞より樹立したiPS細胞から再生したCD8陽性T細胞は、ドナーAのNK細胞を活性化させなかった。一方、ハプロタイプホモ接合型iPS細胞より誘導したCD8陽性T細胞は、ハプロタイプの片方のみが一致するドナーAのNK細胞を活性化させた。
【0101】
7. 以上の結果から以下のように結論づけた。
ハプロタイプホモ接合型iPS細胞より誘導したCD8陽性T細胞は、ハプロタイプの片方が一致するヘテロ接合型のNK細胞による拒絶反応を惹起させる。よって、ハプロタイプホモ接合型iPS細胞より再生した成熟T細胞(CTL細胞)は、ハプロタイプの片方が一致するヘテロ接合型対象へ投与した場合に、NK細胞の働きによって徐々に排除され、投与した細胞ががん化する等の恐れが格段に少なく、安全に使用することが可能である。
【0102】
実施例2よりHLAハプロタイプホモからヘテロへの再生細胞を移植した場合移植細胞に対してレシピエントのT細胞が反応しないことがわかる。HLAホモドナーから、一方のHLAのみが同一であるHLAヘテロレシピエントへ移植(他家移植)の移植は、再生細胞がリンパ球である場合、他の有核体細胞の再生医療の場合とことなり、利点が生じる。実施例3からは、HLAホモドナーからHLAヘテロレシピエントへの移植では、NK細胞がドナー細胞を拒絶するという仕組みが働くことが示される。これにより、移植されたリンパ球はやがては拒絶されるので、移植しリンパ球ががん化するという危険性を回避することができる。
【実施例0103】
EBウイルス感染患者より得た末梢血単核球由来のLMP2抗原に特異性を有するT細胞よりT-iPS細胞を誘導し、当該T-iPS細胞よりLMP2抗原特異的CTLを誘導した。
【0104】
EBウイルスは急性期には伝染性単核球症の原因となり、また時にバーキットリンパ腫などのがんの原因ともなるウイルスである。実施例でT細胞を提供しているのは、EBウイルスに感染歴のある健常人である。このウイルスは、感染後リンパ球内に生涯にわたってとどまるので、この提供者はいわゆるEBウイルスキャリアーである。従ってこの提供者は、発症はしてないが、慢性ウイルス感染者とみなすことができる。
【0105】
1)LMP2抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の増幅
i)以下の培地を用いた。
樹状細胞用培地: CellGro (CellGenix)
【表4】
ii) 以下のLMP2ペプチドを用いた。
LMP2: IYVLVMLVL(配列番号1)
LMP2テトラマーはMBLより購入した。
iii)以下のLCL(Lymphoblastoid cell line)を用いた。
京都大学病院血液腫瘍内科(日本国京都府京都市)にて健常人ボランティアから採取されたHLA-A2402を有するLCLを用いた。
【0106】
A.ヒト末梢血より単球由来樹状細胞の誘導
1. HLA-A2402を有しかつEBウイルス既感染者でもある健常人ボランティアの末梢血よりCD14 microbeadsを用いて単球を単離した。洗浄後、樹状細胞用培地を加え、5 x 105/mLに調整した。
2. 最終濃度GM-CSF 800 U/mL (or 50 ng/mL)、IL-4 200 U/mL (or 40 ng/mL)になるようサイトカインを加えた。6-well plateに5 mL/wellでまく。37℃、5% CO2でインキュベートした。
3. インキュベートを3日間 (以下”Day 3”様に記載する) した後に、培養上清を2.5 mL/wellずつ、静かに取って捨てた。新しい樹状細胞用培地にGM-CSFを800 U/mL、IL-4を200 U/mLの濃度になるように加えた。
4. 各wellに3 mLずつ、新しい樹状細胞用培地を加えた。
5. Day 6に未成熟MoDCをプレートから回収し、少量の新しい樹状細胞用培地に浮遊させた。
6. 5 X 105/mLになるように細胞濃度を調整した。
7. GM-CSF (以下、最終濃度: 800 U/mL)、IL-4 (200 U/mL)、TNF-α (10 ng/mL)、PGE2 (1 μg/mL)を加え、24穴プレートに約5 X 105/1 mL/wellで細胞を播種した。
8. 37℃、5% CO2で24時間培養した。
9. 上記培養の最後の2時間にペプチドを加えた。ペプチドの最終濃度は10μMとした。
DCを回収し、T細胞用培地で2回洗浄した。
10. DCの細胞数を数え、T細胞用培地で2 X 105/mLに調製した。
【0107】
B. ヒト末梢血よりT細胞の単離と樹状細胞との共培養
1. Aと同一の健常人ボランティアの末梢血より、CD3 microbeadsを用いてMACSにてT細胞を単離した。洗浄後、T細胞用培地を加え、2 x 106/mLに調整した。この時一部の細胞をフローサイトメトリー解析のために取り分けた。
2. 24穴プレートに、DC浮遊液(2 X 105/mL)を0.5mL/well、T細胞浮遊液(2 X 105/mL)を0.5mL/wellとなるように加えた。(DC: T = 1 X 105/well: 1 X 106/well = 1:10)
3. 3日目にIL-7(最終濃度5 ng/mL)、IL-15(最終濃度 10 ng/mL)を加えた。
4. 14日目に細胞を回収した。
【0108】
C. LCLへのペプチド添加
1. LCLを培養中から回収し、35Gyの放射線照射を行った。
2. T細胞用培地に浮遊させ、5 X 105/mLとなるように調整した。
3. ペプチドを100nMで添加し2時間培養した。
4. LCLを回収し、T細胞用培地で洗浄後、2 X 105/mLとなるように調整した。
【0109】
D. LCLと樹状細胞で刺激したT細胞の共培養
1. 樹状細胞で刺激したT細胞をT細胞用培地に浮遊させ、2X106 cells/mLの濃度に懸濁した。
2. 24穴プレートに、ペプチドを加えて培養したLCL浮遊液(2X105/mL)を0.5mL/well、T細胞浮遊液(2 X 105/mL)を0.5mL/wellとなるように加えた(LCL:T = 1 X 105/well: 1 X 106/well = 1:10)。同時にペプチドを100nMとなるように添加した。
3. 3日目にIL-7(最終濃度5 ng/mL)、IL-15(最終濃度 1 ng/mL)を加えた。1週間ごとにサイトカインを添加したT細胞用培地で培地交換しながら2週間培養を行った。(LCLによるペプチド刺激1クール目)
4. 再度100nMのペプチドと加えた培地でLCLを2時間培養し、ここに CTLを加えた。
5. 3日目にIL-7(最終濃度5 ng/mL)とIL-15(最終濃度 1 ng/mL)を加えた。1週間ごとにサイトカインを添加したT細胞用培地で培地交換しながら2週間培養を行った。(LCLによるペプチド刺激2クール目)
6. フローサイトメトリー解析により、CD8陽性T細胞中にCD8陽性LMP-2テトラマー陽性細胞が80%以上の割合で検出されることを確認した。結果を図6に示す。
【0110】
E. LMP2特異的CTLの抗原特異的キラー活性の測定
1. 標的細胞として用いるOUN-1白血病細胞株をCFSEラベルし、T細胞用培地に懸濁後、LMP2ペプチド1nM存在下で2時間培養を行った。
2. 96穴U底プレートに、ペプチド刺激によって増殖したLMP2特異的キラーT細胞とOUN-1白血病細胞株をそれぞれ0:1、1:9、 1:3、 1:1、 3:1となるように混合し、ペプチド存在下もしくは非存在下において標的細胞の死細胞比率をCFSE陽性分画中に見られるAnnexinVとPI(Propidium Iodide)の比率によって検定した。結果を図7に示す。
3. LMP2特異的キラーT細胞は標的細胞に対し、抗原特異的キラー活性を示すことを確認した。
【0111】
2) LMP2-T-iPS細胞の樹立
A. LMP2特異的CTLの活性化
1. MACS beadsによりCD8陽性細胞を濃縮した。
2. 全ての細胞をT細胞用培地に浮遊させ、IL-7(最終濃度5 ng/mL)、IL-15(最終濃度 10 ng/mL)を加えた。さらにDynabeads Human T-Activator CD3/CD28をT細胞:beadsが1:1となるように添加し、2日間培養することでCD8陽性細胞を活性化した。
【0112】
B. センダイウィルスによる山中4因子とSV40の導入
1. 活性化させたLMP2特異的CTLをT細胞用培地に浮遊させ、山中4因子とSV40が組み込まれたセンダイウィルスを培地中に添加し、そのまま2日間培養した。
2. T細胞用培地で洗浄し、さらにIL-7(最終濃度5 ng/mL)、IL-15(最終濃度 1ng/mL)を加えたT細胞用培地で2日間培養した。
3. 全ての細胞を回収後、IL-7(最終濃度5 ng/mL)、IL-15(最終濃度 1ng/mL)を添加したT細胞用培地でT細胞を懸濁し、フィーダー細胞上に播種した。
4. 2日目にiPS細胞用培地にて半量交換し、翌日から毎日iPS細胞用培地への半量交換を行い続け、培養を続けた。
【0113】
C. iPS細胞コロニーのピックアップ
1. 培養3週間後にiPS細胞コロニーを目視により確認した。
2. 200ulチップによりコロニーを物理的に拾い上げた。
3. 各クローンを個別にiPS細胞として樹立した。得られたクローンの写真を図8に示す。
【0114】
3) LMP2-iPS細胞からT細胞への分化誘導
各培地として下記の組成を用いた。
【表5】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は、ペニシリン10000U/mLおよびストレプトマイシン10000μg/mLからなり、それぞれの最終濃度を100U/mLおよび100μg/mLとした。
【0115】
【表6】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は、ペニシリン10000U/mLおよびストレプトマイシン10000μg/mLからなり、それぞれの最終濃度を100U/mLおよび 100μg/mLとした。
【0116】
【表7】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は、ペニシリン10000U/mLおよびストレプトマイシン10000μg/mLからなり、それぞれの最終濃度を100U/mLおよび0μg/mLとした。
【0117】
OP9細胞の準備
0.1% ゼラチン/PBS溶液6mlを10cm培養ディッシュに入れ、37℃で30分以上静置した。コンフルエントになったOP9細胞をトリプシン/EDTA溶液で剥がし、1/4相当量をゼラチンコートした10cm培養ディッシュに播種した。培地はmedium Aを10mlとなるように加えた。
4日後に播種したOP9細胞培養ディッシュに新たにmedium Aを10ml加え、全量が20mlとなるようにした。
【0118】
iPS細胞からの血球前駆細胞誘導
共培養に使用するOP9細胞の培地を吸引し、新しいmedium Aに交換した。またiPS細胞培養ディッシュの培地も同様に吸引し、新しいmedium Aを10ml加えた。EZ-passageローラーでiPS細胞塊を切った。カットしたiPS細胞塊を200ulピペットマンでピペッティングすることで浮遊させ、目視でおおよそ600個のiPS細胞塊をOP9細胞上に播種した。
iPS細胞1クローンあたり3枚以上のディッシュを用い、継代するときには細胞を一度一つに合わせてから同じ枚数に再分配することでディッシュ間のばらつきを減らした。
【0119】
Day 1 (培地交換)
iPS細胞塊が接着し分化し始めているかどうかを確認し、培地を新しいmedium A 20mlに交換した。

Day 5 (培地半量交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。

Day 9 (培地交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。

Day 13 (誘導した中胚葉細胞をOP9細胞上からOP9/DLL1細胞上へ移しかえる)
培地を吸引し、HBSS(+Mg+Ca)で細胞表面上の培地を洗い流した。その後250U collagenase IV/HBSS(+Mg+Ca) 溶液10mlを加え、37℃で45分間培養した。
【0120】
Collagenase溶液を吸引し、PBS(-)10mlで洗い流した。その後5mlの0.05%トリプシン/EDTA溶液を加え、37℃で20分培養した。培養後、細胞が膜状に剥がれてくるのでピペッティングにより物理的に細かくした(接着細胞同士を離すため)。ここに新しいmedium Aを20ml加え、さらに37℃で45分間培養した。培養後、浮遊細胞を含む上清を、100μmのメッシュを通して回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。このうち1/10をFACS解析用にとりわけ、残りの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。複数枚のディッシュから得た細胞をプールした場合、元々の枚数と同じ枚数になるように再分配して細胞を播き直した。
【0121】
得られた細胞に造血前駆細胞が含まれているかどうかを確かめるために抗CD34抗体、抗CD43抗体を用いてFACS解析した。結果を図9に示す。CD34lowCD43+細胞分画に十分な細胞数が確認できたことから、造血前駆細胞が誘導されていると確認した。
【0122】
C. 血球前駆細胞からのT細胞分化誘導
次いで細胞をOP9/DLL1細胞上に播種した。この工程において、CD34lowCD43+細胞分画の細胞のソーティングは行わなかった。(この分画をソーティングした場合、得られる細胞数が減少してしまうことやソーティングによる細胞へのダメージから、ソーティングしなかった場合に比べてT細胞への分化誘導効率が落ちることがある。)
【0123】
培養期間中に分化段階を確認するためにFACS解析を行うが、全ての期間において培養中に死細胞が多くみられた。そのためFACS解析時にはPI (Propidium Iodide)、7-AADなどを用い、死細胞除去したうえで解析を行った。
【0124】
Day 16 (細胞の継代)
OP9細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。これらの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。
【0125】
Day 23 (細胞の継代): 血液細胞コロニーが見え始める。
OP9細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。
【0126】
Day 36: LMP2テトラマー陽性T細胞の確認。
LMP2特異的T細胞が誘導されているかどうかを確かめるために抗CD3抗体、LMP2テトラマーを用いてFACS解析した。
結果を図10に示す。T細胞マーカーであるCD3細胞がみられるようになり、一部の細胞はCD3LMP2テトラマーにまで分化していることが確認された。
【0127】
D. 未熟T細胞段階から成熟キラーT細胞段階への誘導
Day36において、フローサイトメトリーでLMP2陽性T細胞を確認後、成熟キラーT細胞(CD8SP細胞)を誘導するためにここでIL-15を添加した。24穴プレートに新たにOP9/DLL1細胞を用意しておき、medium Cに懸濁したT細胞を3x105個/wellとなるように播種し。ここにIL-15(最終濃度10ng/mL)を添加した。
【0128】
Day41: 成熟キラーT細胞が現れる。
IL-15添加の5日目に、FACS解析した。結果を図11に示す。成熟CD8シングルポジティブ細胞が生成したことが確認された。
【0129】
4) 再生したLMP2特異的CTLの抗原特異的キラー活性の測定
1. 標的細胞として用いるLCLをCFSEラベルし、T細胞用培地に懸濁後、LMP2ペプチド1nM存在下で2時間培養を行った。
2. 96穴U底プレートに、再生したCD8T細胞と標的細胞として用いるLCLをれぞれ0:1、1:9、 1:3、 1:1、 3:1、10:1、30:1となるように混合し、ペプチド存在下(p+)もしくは非存在下(p-)において標的細胞の死細胞比率をCFSE陽性分画中に見られるAnnexinVとPI(Propidium Iodide)によって検定した。
3. 結果を図12に示す。LMP2特異的キラーT細胞は標的細胞として用いたLCL(HLA-A2402)に対し、抗原特異的キラー活性を示すことが確認された。
【0130】
5) 再生したLMP2特異的CTLのナチュラルキラー細胞様キラー活性の測定
1. 標的細胞としてHLAを表面に発現しないK562細胞株(アロ反応性)と自己末梢単核球(MA p-)(オート反応性)を用いた。これらの細胞をCFSEにてラベルし、T細胞用培地に懸濁した。
2. 96穴U底プレートに、再生したCD8T細胞と標的細胞として用いるLCLをそれぞれ0:1、1:9、1:3、1:1、3:1となるように混合し、標的細胞の死細胞比率をCFSE陽性分画中に見られるAnnexinVとPI(Propidium Iodide)によって検定した。
3. 結果を図13に示す。LMP2特異的キラーT細胞は自己末梢単核球(MA p-)を傷害しなかったが、K562に対して高いキラー活性を示したことから、ナチュラルキラー様キラー活性を示すことを確認した。
【実施例0131】
健常人ドナーの末梢血より誘導したWT1抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)からT-iPS細胞を誘導し、当該T-iPS細胞よりWT1抗原特異的成熟T細胞を誘導した。
【0132】
実施例は、以下の構成である。
1)WT1抗原特異的CTLの増幅
2) WT1-T-iPS細胞の樹立
3) WT1-T-iPS細胞からT細胞への分化誘導
【0133】
1)WT1抗原特異的CTLの増幅
i)用いた培地は以下の通りである。
【表8】
ii) 用いたWT1ペプチドは以下の通りである。
WT1 (改変型:CYTWNQMNL(配列番号2), Cancer Immunol. Immunothera. 51: 614 (2002))
以下で使用しているWT1ペプチド,WT1テトラマーともに改変型を用いた。
iii) 用いたLCL(Lymphoblastoid cell line)は以下のとおりである。
京都大学病院血液腫瘍内科(日本国京都府京都市)にて健常人ボランティアから採取されたHLA-A2402を有するLCLを用いた。
【0134】
A. ヒト末梢血からのT細胞の単離とペプチドによる刺激
1. 健常人ボランティアの末梢血より単核球をFicollによって精製し,T細胞培地で懸濁した。
2. 96穴U底プレートに1穴あたり2.5 x 105/mLとなるように細胞を播種し,ペプチドを10μm となるように添加した。
3. 3日目にIL-2(最終濃度 12.5U/mL), IL-7(最終濃度5 ng/mL),IL-15(最終濃度 1 ng/mL)を加え,1週間ごとにサイトカインを添加したT細胞用培地で培地交換しながら2週間培養を行った。
【0135】
B. LCLへのペプチド添加
1. LCLを回収し,35Gyの放射線照射を行った。
2. T細胞用培地に浮遊させ,5 X 105/mLとなるように調整した。
3. ペプチドを100nMで添加し2時間培養した。
4. LCLを回収し,T細胞用培地で洗浄後,2 X 105/mLとなるように調整した。
【0136】
C. ペプチドをパルスしたLCLとT細胞との共培養
1. ペプチド刺激を加えた後,2週間培養したT細胞を回収し,洗浄後にT細胞用培地に懸濁し,2 x 106/mLに調整した。この時一部の細胞をフローサイトメトリー解析のために取り分けた。
2. 24穴プレートに,ペプチドを加えて培養したLCLの浮遊液(2 X 105/mL)を0.5mL/well,T細胞浮遊液(2 X 105/mL)を0.5mL/wellとなるように加えた(LCL: T = 1 X 105/well: 1 X 106/well = 1:10)。
3. 3日目にIL-2(最終濃度 12.5U/mL), IL-7(最終濃度5 ng/mL),IL-15(最終濃度 1 ng/mL)を加えた。1週間ごとにサイトカインを添加したT細胞用培地で培地交換しながら2週間培養を行った。(LCLによるペプチド刺激1クール目)
4. 再度100nMのペプチドと加えた培地でLCLを2時間培養し,ここに CTLを加えた。
5. 3日目にIL-2(最終濃度 12.5U/mL), IL-7(最終濃度5 ng/mL),IL-15(最終濃度 1 ng/mL)を加えた。1週間ごとにサイトカインを添加したT細胞用培地で培地交換しながら2週間培養を行った。(LCLによるペプチド刺激2クール目)
6. 再度100nMのペプチドと加えた培地でLCLを2時間培養し,ここに CTLを加えた。
7. 3日目にIL-2(最終濃度 12.5U/mL), IL-7(最終濃度5 ng/mL),IL-15(最終濃度 1 ng/mL)を加えた。1週間ごとにサイトカインを添加したT細胞用培地で培地交換しながら2週間培養を行った。(LCLによるペプチド刺激3クール目)
8. フローサイトメトリー解析を行った。結果を図14に示す。CD8陽性WT1テトラマー陽性分画がCD8陽性T細胞中に60%以上の割合で検出されることを確認した。
【0137】
2) WT1-T-iPS細胞の樹立
A. WT1特異的CTLの活性化
1. MACS beadsによりCD8陽性細胞を濃縮した。
2. 全ての細胞をT細胞用培地に浮遊させ,IL-2 (最終濃度 12.5U/mL), IL-7(最終濃度5 ng/mL),IL-15(最終濃度 1ng/mL)を加えた。さらにDynabeads Human T-Activator CD3/CD28をT細胞:beadsが1:1となるように添加し,2日間培養することでCD8陽性細胞を活性化した。
【0138】
B. センダイウィルスによる山中4因子とSV40の導入
1. 活性化させたWT1特異的CTLをT細胞用培地に浮遊させ,山中4因子とSV40が組み込まれたセンダイウィルスを培地中に添加し,そのまま2日間培養した。
2. T細胞用培地で洗浄し,さらにIL-2 (最終濃度 12.5U/mL), IL-7(最終濃度5 ng/mL),IL-15(最終濃度 1ng/mL)を加えたT細胞用培地で2日間培養した。
3. 全ての細胞を回収後,サイトカインを含まないT細胞用培地でT細胞を懸濁し,フィーダー細胞上に播種した。
4. 2日目にiPS細胞用培地に半量交換し,翌日から毎日iPS細胞用培地への半量交換を行い続け,培養を続けた。
【0139】
C. iPS細胞コロニーのピックアップ
1. 3週間後にiPS細胞コロニーを目視により確認した。
2. 200μlチップによりコロニーを物理的に拾い上げた。
3. 各クローンを個別に樹立した。得られたクローンのコロニーを図15に示す。
【0140】
3) WT1-T-iPS細胞からT細胞への分化誘導
各培地の組成を下記に示す。
【表9】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は、ペニシリン10000U/mLおよびストレプトマイシン10000μg/mLからなり、それぞれの最終濃度を100U/mLおよび100μg/mLとした。
【0141】
【表10】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は、ペニシリン10000U/mLおよびストレプトマイシン10000μg/mLからなり、それぞれの最終濃度を100U/mLおよび 100μg/mLとした。
【0142】
OP9細胞の準備
0.1% ゼラチン/PBS溶液6mlを10cm培養ディッシュに入れ,37℃で30分以上静置した。コンフルエントになったOP9細胞をトリプシン/EDTA溶液で剥がし,1/4相当量をゼラチンコートした10cm培養ディッシュに播種した。培地はmedium Aを10mlとなるように加えた。
4日後に播種したOP9細胞培養ディッシュに新たにmedium Aを10ml加え,全量が20mlとなるようにした。
【0143】
iPS細胞からの血球前駆細胞誘導
共培養に使用するOP9細胞の培地を吸引し,新しいmedium Aに交換した。またiPS細胞培養ディッシュの培地も同様に吸引し,新しいmedium Aを10ml加えた。EZ-passageローラーでiPS細胞を切った。カットしたiPS細胞塊を200μlピペットマンでピペッティングすることで浮遊させ,目視でおおよそ600個のiPS細胞塊をOP9細胞上に播種した。
iPS細胞1クローンあたり3枚以上のディッシュを用い,継代するときには細胞を一度一つに合わせてから同じ枚数に再分配することでディッシュ間のばらつきを減らした。
Day 1 (培地交換)
iPS細胞塊が接着し分化し始めているかどうかを確認し,培地を新しいmedium A 20mlに交換した。

Day 5 (培地半量交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。

Day 9 (培地交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。

Day 13 (誘導した中胚葉細胞をOP9細胞上からOP9/DLL1細胞上へ移しかえる)
培地を吸引し,HBSS(+Mg+Ca)で細胞表面上の培地を洗い流した。その後250U collagenase IV/HBSS(+Mg+Ca) 溶液10mlを加え,37℃で45分間培養した。
Collagenase溶液を吸引し,PBS(-)10mlで洗い流す。その後5mlの0.05%トリプシン/EDTA溶液を加え,37℃で20分培養した。培養後,細胞が膜状に剥がれてくるので、ピペッティングにより物理的に細かくした(接着細胞同士を離すため)。ここに新しいmedium Aを20ml加え,さらに37℃で45分間培養した。培養後,浮遊細胞を含む上清を,100μmのメッシュを通して回収した。4℃,1200rpmで7分間遠心し,ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。このうち1/10をFACS解析用にとりわけ,残りの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。複数枚のディッシュから得た細胞をプールした場合,元々の枚数と同じ枚数になるように再分配して細胞を播き直した。
【0144】
得られた細胞に造血前駆細胞が含まれているかどうかを確かめるために抗CD34抗体,抗CD43抗体を用いてFACS解析した。結果を図16に示す。CD34lowCD43細胞分画に十分な細胞数が確認できたことから,造血前駆細胞が誘導されていると確認した。
【0145】
C. 血球前駆細胞からのT細胞分化誘導
次いで細胞をOP9/DLL1細胞上に播種した。この工程において,CD34lowCD43細胞分画の細胞のソーティングは行わなかった。この分画をソーティングした場合,得られる細胞数が減少してしまうことやソーティングによる細胞へのダメージから,ソーティングしなかった場合に比べてT細胞への分化誘導効率が落ちることがある。

Day 16 (細胞の継代)
OP9細胞に緩く接着している細胞を,穏やかに複数回ピペッティングし,100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃,1200rpmで7分間遠心し,ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。これらの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。

Day 23 (細胞の継代): 血液細胞コロニーが見え始める。
OP9細胞に緩く接着している細胞を,穏やかに複数回ピペッティングし,100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃,1200rpmで7分間遠心し,ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。

Day 36 : WT1テトラマー陽性T細胞の確認。
WT1特異的T細胞が誘導されているかどうかを確かめるために抗CD3抗体,WT1テトラマーを用いてFACS解析した。結果を図17に示す。
T細胞マーカーであるCD3細胞がみられるようになり,大部分の細胞はCD3WT1テトラマーにまで分化していることが確認された。
【0146】
上記のとおり、誘導されたT細胞が、元のT細胞と同じ抗原特異性を示すT細胞となることが確認された。また、得られたT細胞は成熟した細胞が出す表面抗原を発現していることから、機能的によく成熟していることが確認された。
【実施例0147】
WT1抗原特異的TCRを導入したHLAホモドナー単核球由来iPS細胞の作製
【0148】
京都大学iPS細胞研究所で樹立された、HLAハプロタイプ一致ドナー単核球由来のiPS細胞株を用いた。
HLA-A2402拘束性を有するWT1のTCRは、愛媛大学血液内科にて樹立されたWT1特異的CTL株である、TAK1株よりTCR遺伝子をクローニングを行う事で得た。WT1-TCR遺伝子は、Vα20/J33/Cα、Vβ5.1/J2.1/Cβ2で成り立っており、GatewayシステムのEntryベクターにTCRβ(Vβ5.1/J2.1/Cβ2)-p2A-TCRα(Vα20/J33/Cα)の順でつなぎ、プラスミド構築を行った。
【0149】
1)WT1-TCRを組み込んだレンチウィルスベクターの作製
理化学研究所、三好浩之博士より提供されたCS-UbC-RfA-IRES2-hKO1ベクターを用い,WT1TCRを組み込んだGateway Entry ベクターとLR クロナーゼ(Life technologies)反応を行う事でWT1-TCRを導入したCS-UbC-RfA-IRES2-hKO1/WT1-TCRプラスミドを作製した。
2)WT1-TCRを組み込んだレンチウィルス上清の作製
CS-UbC-RfA-IRES2-hKO1/WT1-TCRをパッケージング細胞LentiX-293Tに導入し、レンチウィルスを含む培養上清を回収。超遠心を行い、ウィルスの濃縮を行った。
3)WT1-TCR transduced-HLAホモ単核球由来iPS細胞の樹立
iMatrix(ニッピ)上で培養したHLAホモ単核球由来iPS細胞(mono-iPS)に、CS-UbC-RfA-IRES2-hKO1/WT1-TCRウィルス液を感染させた。WT1-TCRが導入されたiPS細胞(WT1-TCR/mono-iPS)を、ベクターに含まれるhKO1タンパク質の発現を蛍光顕微鏡下に観察する事で確認した。
4)WT1-TCR/mono-iPS細胞のクローン化
感染4日後に、感染iPS細胞をDishより剥がし、染色せずにhKO1発現細胞をFACS Ariaを使用し、sorting行った(WT1-TCR/mono-iPS balk)。hKO1陽性細胞をiMatrix上に播種し、1週間後増大したコロニーの内、蛍光顕微鏡下にhKO1が強陽性なコロニーを物理的にピックアップ行い、単一クローン化した(WT1-TCR/mono-iPS clone)。hKO1陽性にてsortしたもの、クローン化したもの両群について、WO2013176197 A1に記載の方法に準じてT細胞方向への分化を行った。
【0150】
具体的には各iPS細胞の小塊(<100細胞数以下)を放射線照射済みのC3H10T1/2細胞上に移し、20ng/mL VEGF、50ng/mL SCF及び50ng/mL FLT-3L存在下(Peprotech社製)、EB培地にて共培養した。培養14日目に、iPSサックに含まれている造血細胞を回収し、それら細胞を放射線照射済みのOP9-DL1細胞上に移し、10ng/mL FLT-3L及び1ng/mL IL-7存在下、OP9培地内にて培養した。分化38日目のFACS解析結果を図18に示す。
【0151】
分化38日目に、mono-iPS WT1-TCR/mono-iPS balk WT1-TCR/mono-iPS cloneの3群をFACS Ariaにて解析した。単核球由来のiPS細胞は、CD3を発現しなかったのに対し、WT1-TCRを導入したiPS細胞は、CD3を発現し、またCD3発現細胞はほぼ100%、導入したTCR鎖の一部である、Vβ5.1抗体陽性であった。TCRαβ抗体も陽性であり導入したWT1-TCRが機能的な形で細胞表面に発現している事が確認できた。
【実施例0152】
T細胞に山中因子を導入して調製されたT細胞由来のiPS細胞株TKT3v1-7は東京大学より供与された。以下TKT3vと略称する。
1.PAM配列を有するヒトRAG2遺伝子配列を標的とするgDNAを設計し、H3プロモーターを有する発現プラスミドに組み込んだ。gDNAは標的配列GGTTATGCTTTACATCCAGATGGに(配列番号3)おいて、片方のアレルは下線部の2塩基を除去し、もう一方のアレルは下線部塩基の5’側に1塩基挿入するよう設計した。
2.上記プラスミドをCas9タンパク質発現プラスミドとともにヒト末梢血T細胞由来iPS細胞(TKT3V)に遺伝子導入した。
3.遺伝子導入後のiPS細胞50株をクローニングした後、T7E1アッセイでゲノム上にミスマッチが生じているクローンをスクリーニングした。(図19
4.スクリーニング後のクローンに対しRAG2遺伝子配列のシークエンス解析を行い、両アリルの同遺伝子にミスセンス変異が入っているクローン(TKT3V1-7/RAG2KO)を選択した。
【0153】
5.選択したiPS細胞クローンについて、染色体解析、テラトーマ形成による多分化能評価を行い、遺伝子改変iPS細胞として異常が無いことを確認した。
【0154】
6.TKT3V株、TKT3V/RAG2KO株をWO2013176197 A1に記載の方法に準じてT細胞へと分化させた。具体的にはT-iPS細胞の小塊(<100細胞数以下)を放射線照射済みのC3H10T1/2細胞上に移し、20ng/mL VEGF、50ng/mL SCF及び50ng/mL FLT-3L存在下(Peprotech社製)、EB培地にて共培養した。培養14日目に、iPSサックに含まれている造血細胞を回収し、それら細胞を放射線照射済みのOP9-DL1細胞上に移し、10ng/mL FLT-3L及び1ng/mL IL-7存在下、OP9培地内にて培養した。誘導された細胞のFACS解析結果を図20に示す。CD4CD8+のDP分画の出現を確認した。
【0155】
7.DP分画をフローサイトメトリーで採取し、細胞よりmRNAを抽出した。
8.TCRα鎖の各V領域プライマーとC領域プライマーをもちいてRT-PCRを行い、α鎖の再構成を検出した。同様にしてTK3V株についてもRT-PCRを行った。TKT3V株(iPS細胞)ではVa14に特異的なTCRα鎖のみを持つことが確認された(図21)。
【0156】
iPS細胞であるTKT3V細胞からT細胞へ分化誘導した場合、CD4CD8両陰性(DN)から両陽性DP段階へ進んだ細胞ではRAG2の再活性化が認められた(図22)。DN段階とDP段階それぞれのT細胞のTCRα鎖再構成を図23および24に示す。DN細胞はiPS細胞同様にVa14の再構成のみを持っていたが、DP細胞はVa14以外の再構成が頻出した。これは、活性化したRAGタンパクによりTCRα鎖の再構成が生じたものと考えられる。この非特異的再構成は誘導されたT細胞の抗原特異性を失わせる結果となりうる。
【0157】
RAG2遺伝子をノックアウトしたTKT3v/Rag2KO株から誘導したDP細胞のTCRα再構成を図25に示す。RAG2ノックアウト株から誘導したDP細胞では、Va14以外の再構成は確認されなかった。Rag2遺伝子のノックアウトによりRAG2タンパクが作製されず、TCRa鎖の再構成が妨げられたものと考えられる。
【0158】
iPS細胞の段階でRAG2遺伝子にミスセンス変異を導入することでTCRα鎖の追加再構成を防ぐ事が可能であり、再分化T細胞の抗原特異性を保持することができることが確認された。
【0159】
TKT3V/RAG2KO株由来のDP細胞を引き続き常法により分化させ、CD8単独陽性の細胞傷害性T細胞を得た(図26)。フローサイトメトリーを用いてCD8単独陽性細胞を回収した後mRNAを抽出し、RT-PCRによってTCR再構成の有無を検出した。結果を図27に示す。遺伝子改変されたiPS細胞に由来するCD8T細胞はVa14のみを再構成として有することを確認した。Va19レーンに見られるバンドは、図中枠で囲んだTCRaのサイズを外れた非特異的バンドである。
【実施例0160】
ヒト単球由来HLAハプロタイプホモ型iPS細胞における、Rag2遺伝子の欠失
【0161】
1.ヒト単球由来iPS細胞株を対象とした。使用したiPS細胞株はHLAハプロタイプ(HLA-A*3303-B*4403-C*1403-DRB1*1302)ホモドナーの末梢血単核球から誘導して得た株である。京都大学iPS細胞研究所プロトコルCiRA_FFiPSC_protocol_JP_vl40310にてフィーダーフリー条件下で維持培養したものを使用した。
【0162】
2.iPS細胞のヒトRag2のexon1の配列にダブルで切断を入れた。具体的にはexon1の塩基配列440-441および679-680の間をCRISPR-Cas9により切断した。
【0163】
3.使用したターゲットsgRNAは下記である:
i)センス鎖 caccGATTAATGTGGTGTACAGCCG (配列番号4)
アンチセンス鎖 aaacCGGCTGTACACCACATTAATC (配列番号5)
ii)センス鎖 caccGTTGGCAGGCCGGATATTAT (配列番号6)
アンチセンス鎖 aaacATAATATCCGGCCTGCCAAC (配列番号7)
4.addgeneより入手したプラスミドpSpCas9(BB)-2A-Puro (PX459)に上記sgRNAを挿入した。iPS細胞を酵素処理により単個細胞浮遊状態にし、ネッパジーンのNEPA21を用いてエレクトロポレーシスにて導入した。
【0164】
5.遺伝子導入後、プレートに播種し、ピューロマイシン存在下に培養して、複数のクローンをピックアップした。
【0165】
6.それぞれのクローンからDNAを採取し、PCRで遺伝子の欠失の有無を調べた。PCRに用いたプライマーは下記のとおりである。
For: CCCAAAAGATCCTGCCCCACTGG (配列番号8)
Rev: AGTCAGGATTGCACTGGAGACAG (配列番号9)
【0166】
7.57個のクローンをピックアップした。PCRの結果、下記のように判定した。
i) 欠失されなかったクローン 31個
ii) 片アレルで欠失が起こったクローン 14個
iii)両アレルで欠失が起こったクローン 2個
【0167】
8.元のiPS細胞(WT)、両アレルで欠失が起こったiPS細胞(Rag2KO)のPCR解析結果を示す(図28)。短くなったバンドは、両アレルで欠失が起こった事を示している。
9.以上より、Rag2遺伝子を欠損するiPS細胞クローンを2株樹立した。
【実施例0168】
抗原特異的CD8シングルポジティブT細胞に山中因子を導入して調製された実施例7とは別のT-iPS細胞を用いた。T-iPS細胞のRag2遺伝子を、実施例7と同じ方法によりノックアウトした。Rag2ノックアウト無しのT-iPS細胞(WT)およびRag2ノックアウトT-iPS細胞を実施例7と同様の方法にてT細胞へと誘導した。OP9培地内での培養41日目(分化開始55日目)の細胞の解析を行った。結果を図29および30に示す。図中AgDexはT-iPS細胞が由来するT細胞が特異的に結合する抗原のマルチマー(デキストラマー)を示す。
【0169】
Rag2ノックアウト株では、比較的長期間かけてT細胞への分化を誘導した本実施例においてもテトラマー強陽性のTCRを発現する集団が保たれた(CD8陽性細胞の60%以上)。一方、WT株では多くの細胞においてTCRが維持されなかった。
図1
図2
図3
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図5
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【配列表】
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