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▶ シャンハイ クリア フルイド バイオメディカル サイエンス カンパニー リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101659
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】新型天然タンパク質及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/435 20060101AFI20220629BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220629BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220629BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220629BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220629BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220629BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
C07K14/435 ZNA
C12N15/63 Z
A61K38/17
A61P43/00 107
A61P3/10
A61P25/28
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022071554
(22)【出願日】2022-04-25
(62)【分割の表示】P 2018551999の分割
【原出願日】2017-06-29
(31)【優先権主張番号】201610519038.9
(32)【優先日】2016-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】518344863
【氏名又は名称】シャンハイ クリア フルイド バイオメディカル サイエンス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI CLEAR FLUID BIOMEDICAL SCIENCE CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 420, Building 26, Lane 3399 Kangxin Road, Pudong New Area Shanghai 200120 China
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン インハオ
(72)【発明者】
【氏名】フー ジンポン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジャ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA20
4C084BA23
4C084CA19
4C084CA53
4C084CA56
4C084CA59
4C084MA22
4C084MA24
4C084MA38
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZC351
4C084ZC352
4C084ZC371
4C084ZC372
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC781
4C084ZC782
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高等霊長類動物の分泌型タンパク質sDSS1を提供する。
【解決手段】sDSS1タンパク質は、非酵素的条件において、酸化タンパク質と結合してポリマーを形成する、又は、Aβポリペプチドと結合してAβオリゴマーの形成を低減することができる。また、酸化タンパク質、Aβオリゴマー、アミリンオリゴマー及びグリコシル化タンパク質によって引き起こされる細胞毒性をブロックすることができる。当該タンパク質は、酸化タンパク質、糖化タンパク質、Aβタンパク質の蓄積、アミリンタンパク質の蓄積、又は、同様の特性を有する他の病原性タンパク質の過度な産生又は蓄積によって誘発された疾患の予防及び治療に用いられ得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新型天然タンパク質及びその使用に関する。当該タンパク質は、ジャンクタンパク質の過度な産生又は過度な蓄積によって引き起こされた疾患の予防及び治療に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
正常な生理活動において、有機体は、酸化タンパク質、グリコシル化タンパク質及び一部の異常切断タンパク質(ポリペプチド)を含む、大量のジャンクタンパク質を産生する。有機体は、正常な生理機能を維持するためにジャンクタンパク質を除去するための様々なメカニズムを保持しているが、老化又は疾患は、ジャンクタンパク質の過度な産生又は有機体のジャンクタンパク質に対する除去能力の低下をもたらし、これにより、ジャンクタンパク質の大量の蓄積が引き起こされる。細胞内又は細胞外におけるジャンクタンパク質の異常蓄積は、一連の疾患をもたらすメインメカニズムである。典型的な疾患は、慢性腎臓病、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease,AD)、ハンチントン病、糖尿病合併症等[1-5]を含む。循環系における酸化タンパク質、糖化タンパク質、又は他のジャンクタンパク質の蓄積は、有機体老化の重要な原因の1つでもある[6-7]。研究により、血清におけるタンパク質過酸化物(Advanced oxidation protein, AOPP)は、腎細胞を損傷する、慢性腎臓病の主な病因メカニズムである。血清内のAOPPは、膵島β細胞のプログラム細胞死をも誘導することが証明されている[3,8]。アミロイドβ仮説では、Aβタンパク質の組織内での不均衡な産生及び除去によってもたらした毒性タンパク質がプログレッシブに蓄積され、これによって引き起こされたシナプス機能障害及びニューロン死は、ADの主な原因であると認められている[9]。アミリン(Amylin)タンパク質は、一部の糖尿病患者の膵島組織において異常凝集が発生するだけでなく、脳組織のプラークにも存在し、糖尿病や神経変性疾患の進行と密接に関連している[10,11]。これらの研究結果に基づいて、一部の疾患モデル上において、例えば、抗体[12]、ポリペプチド薬物[13]又は小分子薬物[14]を用いてADモデル動物におけるAβ凝集又は産生を阻止することにより、神経組織におけるプラークの形成を減少させ、動物の認知レベルを高めることができる。これらの結果は、薬物によってこれらの病原性タンパク質の産生、凝集を抑制し、又は、病原性タンパク質の排除を促進して、病原性タンパク質の蓄積を減少させることは、これらの疾患を予防又は治療する重要な方法であることを示している。
【0003】
以前の研究では、細胞内で酸化ストレスが生じると、DSS1(deleted split split hand/split foot 1)タンパク質は、真核生物に高度に保存された小さなタンパク質として、酵素反応及びATP消費の条件において酸化タンパク質に共有結合修飾され得る。このような修飾は、酸化タンパク質の細胞内での分解を媒介することが明らかになった[15]。DSS1遺伝子ノックアウトは細胞死をもたらす。DSS1タンパク質を高発現する細胞は、酸化ストレス又は抗腫瘍薬物によって誘発されたアポトーシスに対して顕著な抵抗性を示している[16]。これらの結果により、DSS1タンパク質は、細胞が酸化タンパク質を除去するプロセスにおいて重要な役割を果たし、細胞の生存には非常に重要であることが明らかになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Dobson CM (1999) Protein misfolding, evolution and disease. Trends BiochemSci 24:329-332。
【非特許文献2】Liang M, Wang J, Xie C, Yang Y, Tian JW, Xue YM, Hou FF (2014) Increasedplasma advanced oxidation protein products is an early marker of endothelialdysfunction in type 2 diabetes patients without albuminuria 2. J Diabetes 6(5):417-26。
【非特許文献3】Cao W, Hou FF, Nie J (2014) AOPPs and the progression of kidney disease.Kidney Int Suppl(2011) 4(1):102-106。
【非特許文献4】Sadigh-Eteghad S, Sabermarouf B, Majdi A, Talebi M, Farhoudi M,Mahmoudi J (2015) Amyloid-beta: a crucial factor in Alzheimer's disease. Med PrincPract 24(1):1-10。
【非特許文献5】Choe YJ, Park SH, Hassemer T, Ko(ウムラウト)rner R, Vincenz-Donnelly L,Hayer-Hartl M, Hartl FU (2016) Failure of RQC machinery causes proteinaggregation and proteotoxic stress. Nature 531(7593):191-5。
【非特許文献6】Ott C, Grune T (2014) Protein oxidation and proteolytic signalling inaging. Curr Pharm Des 20(18):3040-51。
【非特許文献7】Simm A, Mu(ウムラウト)ller B, Nass N, Hofmann B, Bushnaq H, Silber RE,Bartling B (2015) Protein glycation - Between tissue aging and protection. ExpGerontol 68:71-5。
【非特許文献8】Liang M, Li A, Lou A, Zhang X, Chen Y, Yang L, Li Y, Yang S, Hou FF(2017) Advanced oxidation protein products promote NADPH oxidase-dependent β-celldestruction and dysfunction through the Bcl-2/Bax apoptotic pathway. Lab Invest 24.[Epub ahead of print]。
【非特許文献9】Zhao LN, Long H, Mu Y, Chew LY (2012) The toxicity of amyloid β oligomers.Int J Mol Sci 13(6):7303-27。
【非特許文献10】Ferna(アキュート・アクセント)ndez MS (2014) Human IAPP amyloidogenicproperties and pancreatic β-cell death. Cell Calcium 56(5):416-27。
【非特許文献11】Lim YA, Rhein V, Baysang G, Meier F, Poljak A, Raftery MJ, GuilhausM, Ittner LM, Eckert A, Go(ウムラウト)tz J (2010) Abeta and human amylin share acommon toxicity pathway via mitochondrial dysfunction. Proteomics 10 (8): 1621-33。
【非特許文献12】Winblad B, Andreasen N, Minthon L, Floesser A, Imbert G, Dumortier T,Maguire RP, Blennow K, Lundmark J, Staufenbiel M, Orgogozo JM, Graf A (2012)Safety, tolerability, and antibody response of active Aβ immunotherapy withCAD106 in patients with Alzheimer's disease: randomised, double-blind, placebo-controlled,first-in-human study. Lancet Neurol 11(7):597-604。
【非特許文献13】Chang L, Cui W, Yang Y, Xu S, Zhou W, Fu H, Hu S, Mak S, Hu J, Wang Q, MaVP, Choi TC, Ma ED, Tao L, Pang Y, Rowan MJ, Anwyl R, Han Y, Wang Q (2015)Protection against β-amyloid-induced synaptic and memory impairments viaaltering β-amyloid assembly by bis(heptyl)-cognitin. Sci Rep 5:10256。
【非特許文献14】Kim HY, Kim HV, Jo S, Lee CJ, Choi SY, Kim DJ, Kim Y (2015) EPPS rescueshippocampus-dependent cognitive deficits in APP/PS1 mice by disaggregation ofamyloid-β oligomers and plaques. Nat Commun 6:8997。
【非特許文献15】Zhang Y, Chang FM, Huang J, Junco JJ, Maffi SK, Pridgen HI, Catano G,Dang H, Ding X, Yang F, Kim DJ, Slaga TJ, He R, Wei SJ (2014) DSSylation, a novelprotein modification targets proteins induced by oxidative stress, andfacilitates their degradation in cells. Protein Cell 5(2):124-40。
【非特許文献16】Rezano A, Kuwahara K, Yamamoto-Ibusuki M, Kitabatake M, Moolthiya P,Phimsen S, Suda T, Tone S, Yamamoto Y, Iwase H, Sakaguchi N (2013) Breast cancerswith high DSS1 expression that potentially maintains BRCA2 stability have poorprognosis in the relapse-free survival. BMC Cancer 13:562。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近の研究では、我々(発明者)は、サブタイプ高等霊長類(類人猿亜科)のゲノム内に分泌型DSS1タンパク質(secretaryDSS1;sDSS1)と命名された新しいサブタイプのDSS1タンパク質が存在することを発見した。sDSS1は、初めて発見されたDSS1蛋白質のサブタイプであり、配列、性質及び機能においてDSS1と非常に類似しているが、血液及び脳脊髄液内に分泌され得るため、性質がより活発であり、エネルギーを消費する酵素反応によることなく、血清又は緩衝液内の酸化タンパク質と凝集体を形成し、又は、Aβタンパク質と結合してAβオリゴマーの形成を抑制することができる。培地へのsDSS1タンパク質の添加は、酸化タンパク質、Aβオリゴマー、アミリンオリゴマー、及びグリコシル化タンパク質によって誘発した細胞毒性をブロックし、細胞生存率を保護することができる。従って、我々は、この新型タンパク質sDSS1が、酸化タンパク質、グリコシル化タンパク質、Aβ、アミリン、及び同様の特性を有する他の病原性タンパク質によって誘発した疾患を予防及び治療するための薬物としてのポテンシャルがあると結論付けた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1種類の新型天然タンパク質sDSS1であって、ヒトを含む類人猿亜目の動物には、天然タンパク質sDSS1が存在する。ここで、ヒト天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSSEQ ID NO:1で示される。
【0007】
好ましくは、前記類人猿亜目の動物は、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン、キタホオジロテナガザル、ゴールデンモンキー、アカゲザル、ヒヒ、アンゴラコロブス、スーティーマンガベイ、ドリル、及びブタオザルをさらに含む。ここで、チンパンジーの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:5で示され、ボノボの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:6で示され、ゴリラの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:7で示され、オランウータンの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:8で示され、キタホオジロテナガザルの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:9で示され、ゴールデンモンキーの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:10で示され、アカゲザルの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:11で示され、ヒヒの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:12で示され、アンゴラコロブスの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:13で示され、スーティーマンガベイの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:14で示され、ドリルの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:15で示され、ブタオザルの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:16で示される。
【0008】
好ましくは、前記天然タンパク質sDSS1は、N末端58位のアミノ酸配列及びC末端31位のアミノ酸配列に分けられる。ここで、ヒトsDSS1タンパク質のN末端58位のアミノ酸配列がSEQ ID NO:3で示され、ヒトsDSS1タンパク質のC末端31位のアミノ酸配列がSEQ ID NO:2で示される。2つの配列の特徴として、N末端58位のアミノ酸配列は、3つ以上の連続的に配列された酸性アミノ酸配列を含み、連続的に配列された各酸性アミノ酸配列断片が含有する酸性アミノ酸の数は、10個以下である。連続的に配列された異なる酸性アミノ酸配列間の間隔の長さは、4個のアミノ酸を超えず、このような各間隔には、少なくとも1つの疎水性アミノ酸が存在し、pH値が4.5以下であり、N末端58位のアミノ酸からなる配列中の酸性アミノ酸の数は10個以上である。N末端58位のアミノ酸配列に基づいた58番目のアミノ酸以降のC末端アミノ酸配列は、全体的に疎水性傾向を有し、C末端31位のアミノ酸からなるアミノ酸配列中の疎水性アミノ酸の数は10以上である。
【0009】
アミノ酸の分類は以下のように定義される。
アラニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、システイン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシンは、疎水性アミノ酸である。
スレオニン、グリシン、セリン、ヒスチジン、グルタミンは、中性アミノ酸である。
グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、アスパラギンは、酸性アミノ酸である。
アルギニン、リシンは、塩基性アミノ酸である。
【0010】
好ましくは、類人猿亜目の動物のsDSS1タンパク質に含まれているC末端アミノ酸の式は、下記の通りである。
【0011】
[式1]
X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12X13X14X15X16X17X18X19X20X21X22X23X24X25X26X27X28X29X30X31
【0012】
X1は中性アミノ酸、X2は疎水性アミノ酸、X3及びX4のそれぞれは疎水性アミノ酸、X5は疎水性アミノ酸、X6は疎水性アミノ酸、X7は疎水性アミノ酸、X8は疎水性アミノ酸、X9は疎水性アミノ酸、X10は酸性アミノ酸、X11は中性アミノ酸、X12は疎水性アミノ酸、X13は疎水性アミノ酸、X14は中性アミノ酸、X15は疎水性アミノ酸、X16は疎水性アミノ酸、X17は疎水性アミノ酸、X18は疎水性アミノ酸、X19は塩基性アミノ酸、X20は酸性アミノ酸、X21は塩基性アミノ酸、X22は中性アミノ酸、X23は塩基性アミノ酸、X24は疎水性アミノ酸、X25は疎水性アミノ酸、X26は中性アミノ酸、X27は疎水性アミノ酸、X28は疎水性アミノ酸、X29は疎水性アミノ酸、X30は疎水性アミノ酸、X31は疎水性アミノ酸である。
【0013】
C末端31位のアミノ酸配列には、40%以上の相同アミノ酸配列が存在し、当該配列は、ポリペプチド内のヒトsDSS1蛋白質のC末端アミノ酸配列との性質及び発揮する機能が同一又は類似である。
【0014】
上記の解決手段に記載の新型天然タンパク質sDSS1のN末端58位のアミノ酸配列及びC末端31位のアミノ酸配列に基づいて構築された1種類のポリペプチド配列は、以下の通りである。
【0015】
1)当該ポリペプチド配列は、N末端58位のアミノ酸によって構成された配列が40%以上の類似性を有し、C末端アミノ酸配列が40%以上類似するタンパク質を有する。当該タンパク質は、ヒト天然タンパク質との性質及び機能が同一又は類似である。或いは、
2)ヒト天然タンパク質内のポリペプチド配列のN末端58位のアミノ酸によって構成された配列、若しくは、40%以上の類似配列に基づいてC末端又はN末端で他のアミノ酸配列を融合させる。融合に用いられるアミノ酸配列は、ヒト天然タンパク質内のC末端31位のアミノ酸配列と同一又は類似性質を実現し、且つ同一又は類似機能を発揮することができる。修飾後のタンパク質は、ヒト天然タンパク質sDSS1と同一又は類似機能を発揮することができるタンパク質である。或いは、
3)上記の解決手段に記載の新型天然タンパク質sDSS1内のC末端ポリペプチド配列を用いて、他の天然又は非天然ポリペプチド配列を融合させて得られたタンパク質である。
【0016】
1種類の融合タンパク質であって、前記融合タンパク質は、上記の解決手段に記載の新型天然タンパク質sDSS1の完全配列又は部分配列と上記の解決手段に記載のポリペプチド配列とを含む。
【0017】
好ましくは、前記融合タンパク質は、当該タンパク質自体、担体タンパク質、抗体又は他の任意のアミノ酸配列と結合することによって形成されたタンパク質複合体である。
【0018】
1種類の複合体であって、前記複合体は、上記の解決手段に記載の新型天然タンパク質sDSS1の完全配列又は部分配列と、上記の解決手段に記載のポリペプチド配列と、上記の解決手段に記載の融合タンパク質内の一部又は全部の複合体とを含む。
【0019】
好ましくは、前記複合体は、ポリペプチド/タンパク質と薬学的に適用可能な薬物担体との結合によって形成された複合体である。
【0020】
好ましくは、前記担体は、マイクロスフェア/マイクロカプセル、リポソーム、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、磁性粒子、及びゲルのうちの1つ又は複数を含む。
【0021】
1種類のヌクレオチド配列であって、前記ヌクレオチド配列は、上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列をコードすることができる。
【0022】
好ましくは、前記ヌクレオチド配列は、DNA配列及びRNA配列を含む。
【0023】
1種類の細胞であって、前記細胞は、上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列を発現する。
【0024】
好ましくは、前記細胞は、任意の哺乳動物の幹細胞、前駆細胞又は成体細胞である。
【0025】
好ましくは、前記哺乳動物は、ヒト、オランウータン、サル、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ロバ、イヌ、ウサギ、ネコ、ラット又はマウスである。
【0026】
好ましくは、前記細胞は、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、又は初代培養由来の幹細胞、母細胞から分化して得られた多能性若しくは単能性幹細胞を含む。
【0027】
1種類の発現系であって、前記発現系は、上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列をコードしたヌクレオチド配列を生物体に導入し、生物体において上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列を発現する。
【0028】
好ましくは、前記発現系は、真核生物発現プラスミドベクタ、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス科、CRISPR/Cas技術、及び他の実行可能な遺伝子編集技術を含む。
【0029】
好ましくは、前記生物体は、ヒト、オランウータン、サル、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ロバ、イヌ、ウサギ、ネコ、ラット、マウス、ニワトリ、アヒル又はガチョウである。
【0030】
1種類の薬物であって、前記薬物は、上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列を主な標的とし、投与後、有機体内の上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列の発現レベルに影響することができる。
【0031】
好ましくは、前記薬剤は、化学小分子薬物、タンパク質/ポリペプチド薬物又は核酸薬物、ナノ薬物である。
【0032】
好ましくは、前記核酸薬物は、siRNA、マイクロRNA(microRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三本鎖DNA及びリボザイムの1つ又は複数を含む。
【0033】
タンパク質の生産方法であって、前記方法は、以下のステップを含む。
【0034】
S1、発現ベクタの構築:上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列をコード可能なヌクレオチド配列をプラスミドに挿入し、且つ細菌又は酵母細胞に導入するか、上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列をコード可能なヌクレオチド配列を昆虫細胞、哺乳動物細胞のゲノム内に挿入する。
【0035】
S2、タンパク質発現:S1に記載の形質転換細菌、酵母菌、昆虫細胞又は哺乳動物の細胞に対して拡大培養を行い、上記の解決手段に記載のタンパク質若しくは上記の解決手段に記載のポリペプチド配列を含む培養液又は細胞溶解物を回収する。
【0036】
S3、タンパク質精製:S2で得られた培養液又は細胞溶解物を、粗ろ過及び精製を経てタンパク質を得る。
【0037】
タンパク質の生産方法であって、化学合成技術を用いて上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列を生産する。
【0038】
タンパク質の生産方法であって、インビトロリボソーム発現系を用いて上記の解決手段に記載のタンパク質又は上記の解決手段に記載のポリペプチド配列を生産する。
【0039】
上記の解決手段に記載のタンパク質、ポリペプチド配列、融合タンパク質、複合体、ヌクレオチド配列、細胞、発現系及び薬物は、疾患診断、予防及び治療に用いられる。
【0040】
好ましくは、前記疾患は、病原性タンパク質/ポリペプチドの過度な産生又は蓄積によって引き起こされた疾患をいう。
【0041】
好ましくは、前記病原性タンパク質/ポリペプチドは、酸化、グリコシル化されたタンパク質産物、アミロイド前駆体タンパク質及びその切断産物、膵島アミロイドポリペプチド及びその切断産物、並びに、酸化タンパク質、グリコシル化タンパク質、アミロイド、膵島アミロイドポリペプチドと同様の特徴を具備する他の病原性タンパク質/ポリペプチドである。
【0042】
好ましくは、前記疾患診断は、上記の解決手段に記載のタンパク質の全部又は一部のアミノ酸配列の発現レベル、mRNAレベル、及び遺伝子コピー数の1つ又は複数を測定することを含む。
【0043】
好ましくは、前記予防は、遺伝子改変、核酸導入、薬物注入/投与、細胞移植、及び組織移植のうちの1つ又は複数を含む。
【0044】
好ましくは、前記治療は、遺伝子改変、核酸導入、薬物注入/投与、細胞移植、及び組織移植のうちの1つ又は複数を含む。
【発明の効果】
【0045】
本発明の特徴及び/又は有益な効果は以下の通りである。
【0046】
1、本発明に係る新型天然タンパク質sDSS1において、典型的なヒトsDSS1タンパク質ポリペプチド配列は、
MSEKKQPVDLGLLEEDDEFEEFPAEDWAGLDEDEDAHVWEDNWDDDNVEDDFSNQLRATVLLMILVCETPYGCYVLHQKGRMCSAFLCC(SEQID NO:1参照)である。バイオインフォマティクス解析により、当該タンパク質は、類人猿亜科動物が有する天然タンパク質であることが判明された。
【0047】
2、本発明のバイオインフォマティクス解析及び細胞実験検証によれば、ポリペプチドsDSS1のC末端31位のアミノ酸配列は、シグナルペプチドであり、これらは、当該タンパク質の性質及び分泌特性において重要な役割を果たしている。C末端31位のアミノ酸配列は、
TVLLMILVCETPYGCYVLHQKGRMCSAFLCC(SEQID NO:2参照)である。
【0048】
3、本発明に係るsDSS1タンパク質は、酸化タンパク質、グリコシル化タンパク質、Aβタンパク質、アミリンタンパク質に結合し且つこれらの毒性タンパク質の凝集によって誘発された細胞毒性をブロックすることができるため、これらの毒性タンパク質及び同様の特徴を有する他の病原性タンパク質の過度な産生又は過度な蓄積によって引き起こされた疾患を治療するという大きな可能性を有する。
【0049】
4、本発明に係るsDSS1タンパク質は、大腸菌の発酵により生産される。sDSS1タンパク質をコードしたヌクレオチド配列をpET151Dプラスミドに導入し、sDSS1の発現と同時に、そのN末端に、精製及びウェスタンブロッティングのための6-hisタグ及びV5タグが融合した。タンパク質を大腸菌で発現させ、ニッケル-NTAゲルカラムを用いて予備精製し、次に、SDS-PAGEを用いてゲル精製する。His-V5-sDSS1タンパク質を含む、切り出されたゲルバンドを、転写バッファを含む透析バッグに入れ、電界駆動によって、タンパク質をゲルから転写させ、透析バッグに回収する。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて、タンパク質の純度が生物学的実験に使用できるレベルまで達することを分析する。
【0050】
5、本発明において、sDSS1タンパク質が、血清内の酸化タンパク質及び緩衝液内の酸化タンパク質と結合して凝集体を形成する、又は、Aβタンパク質と結合することによりAβオリゴマーの形成が減少することは、分子実験によって立証されている。
【0051】
6、本発明において、sDSS1タンパク質が、培地内の酸化タンパク質、グリコシル化タンパク質、Aβオリゴマー、及びアミリンオリゴマーによって誘発された細胞毒性を効果的にブロックし、細胞生存率を維持し得ることが証明されている。
【0052】
要約すれば、本発明に係る新型天然sDSS1タンパク質において、sDSS1タンパク質の生物学的特性及び活性は、バイオインフォマティクス、分子生物学、細胞生物学という3つのレベルの研究によって証明されている。sDSS1タンパク質は、培地内の酸化タンパク質、グリコシル化タンパク質、Aβオリゴマー、及びアミリンオリゴマーによって誘発された細胞毒性を効果的に低減し、細胞生存率を維持することができる。sDSS1タンパク質は、高等霊長類動物自身に有するタンパク質であるため、臨床使用の際に免疫応答という問題を回避することができる。従って、本発明は、酸化タンパク質、グリコシル化タンパク質、Aβタンパク質、アミリンポリペプチド及び、同様の特徴を有する他の病原性タンパク質の過度な産生又は過度な蓄積によって引き起こされた関連疾患を予防及び治療するための新型候補薬物を提供することにより、生物医学における大きな使用見込みを有する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
以下、図面とともに本発明について詳述する。以下の説明は、本発明を明白且つ完全にするためであり、本発明の保護範囲を限定するものではない。
【0054】
図1A】sDSS1遺伝子は、DSS1遺伝子の新規サブタイプである。ヒトDSS1遺伝子cDNA(NM_006304.1,509bp)とヒトsDSS1遺伝子cDNA(AK309241.1,1195bp)との比較によって、両者が重複領域を有することが示されている。重複領域の塩基配列は、N末端58位のアミノ酸配列をコード可能であることが解析されている。
図1B】Clustal X2.1ソフトウェアを用いて13種のサル目のsDSS1タンパク質のアミノ酸配列を比較した結果、sDSS1タンパク質のアミノ酸配列は、高度に保存されており、N末端58位のアミノ酸配列は完全同一であり、C末端31位のアミノ酸配列は、僅かな部位に点突然変異が生じている。
図2A】293T細胞にプラスミドをトランスフェクトし、24h後にGFPタンパク質の分布を観察する。対照細胞(GFP)内の緑色蛍光は明瞭で明るく、溶液内のバックグラウンドは暗い。sDSS1とGFPとのキレートタンパク質(sDSS1-GFP)、又は、sDSS1タンパク質のC末端31位のアミノ酸配列とGFPとのキレートタンパク質(sDSS1-c-GFP)の培養液には顕著な緑色蛍光シグナルが観察され、一方、細胞内の蛍光は拡散し、強度が減少した。これは、GFPタンパク質がsDSS1タンパク質又はsDSS1タンパク質のC末端配列の分泌とともに細胞の外まで取り出されたことを示している。
図2B】ドットイムノブロッティング法を用いてトランスフェクトされた細胞培養培地を検出した結果、sDSS1-GFP及びsDSS1-c-GFP群培地においてはGFPシグナルが検出され、ブランク(blank)対照群及びGFP対照群においては顕著なシグナルが検出されていないことが示され、これにより、sDSS1タンパク質は分泌タンパク質であるが、C末端31個のアミノ酸配列はシグナルペプチドであることが証明されている。
図3A】sDSS1タンパク質C末端のポリペプチド配列特異的抗体(抗原配列:sDSS1タンパク質C末端の31位のアミノ酸配列)を用いて、ヒト血清(human serum)又はヒト脳脊髄液(human cerebral spinal fluid, CSF)試料内においてsDSS1シグナルを検出することができる。Human CSF試料は、高齢者に由来し、a血清試料は、激しい運動をした後の若者の血液に由来し、b、c、d血清試料は、休息状態を保っている若者の血液に由来する。
図3B】PCR法を利用するにより、ヒト脳星状膠芽腫(U-87 MG)においてsDSS1遺伝子特異的mRNA配列(増幅産物が293bp)を検出することができ、DSS1遺伝子が対照(増幅産物が238bpで)として用いられる。
図4A】クマシーブリリアントブルー染色は、sDSS1タンパク質の生産及び精製過程における目的タンパク質の含有量を示す。陽性大腸菌のクローン菌株を選択して拡大培養し、IPTG添加後、sDSS1タンパク質の発現が誘導され、誘導されていない細胞における目的タンパク質の発現量は極めて低い。
図4B】クマシーブリリアントブルー染色は、sDSS1タンパク質の生産及び精製過程における目的タンパク質の含有量を示す。ニッケル-NTAゲルカラムによる予備精製後の熱分解濃縮物及び精製後の目的タンパク質含有量を検出する。aチャネルは精製sDSS1タンパク質を示し、bチャネルは予備精製の細胞溶解液を示している。
図5A】生化学実験及び細胞実験により、sDSS1タンパク質は、酸化タンパク質と結合し、酸化タンパク質の毒性をブロック可能であることが証明されている。0.72μgの精製されたsDSS1タンパク質を様々な比率の血清タンパク質と混合させたあとインキュベートし、V5融合タンパク質(V5-HRP)を用いてsDSS1タンパク質を検出した結果、sDSS1タンパク質及び血清の酸化タンパク質が大分子のタンパク質複合体を形成したことが示されている。
図5B】生化学実験及び細胞実験により、sDSS1タンパク質は、酸化タンパク質と結合し、酸化タンパク質の毒性をブロック可能であることが証明されている。タンパク質過酸化物(AOPP、200μg/mL)を、様々な濃度の精製sDSS1タンパク質とともに4℃で一晩インキュベートし、生成物をSDS-PAGEで分離した後クマシーブリリアントブルー染色で示す。sDSS1タンパク質とAOPPとが大分子の複合体を形成することができ、複合体含有量は、sDSS1タンパク質の濃度の増加にしたがって増加する。
図5C】生化学実験及び細胞実験により、sDSS1タンパク質は、酸化タンパク質と結合し、酸化タンパク質の毒性をブロック可能であることが証明されている。10%酸化された血清を培地に添加して細胞増殖を大幅に低下させた。sDSS1タンパク質は、培地内において酸化された血清によってもたらした細胞毒性をブロックすることができる。
図5D】生化学実験及び細胞実験により、sDSS1タンパク質は、酸化タンパク質と結合し、酸化タンパク質の毒性をブロック可能であることが証明されている。100μg/mLのAOPPタンパク質を無血清培地に添加して細胞生存率を低下させた。等濃度のsDSS1タンパク質を添加することで細胞生存率を回復させることができる。100μg/mLのBSAは、対照群に用いられる。データについては、t-test検定両側検定を用いて分析し、分散分析(ANOVE)によって検証した。**、p-value<0.01。
図6A】sDSS1タンパク質は、Aβオリゴマーの形成を減少させ、Aβオリゴマーによって誘発された細胞毒性及びアポトーシスを減少させる。様々な比率のsDSS1タンパク質と10μgのAβタンパク質とを混合させたあとインキュベートし、Aβ抗体によって検出された結果、sDSS1タンパク質とAβとが、共有結合した高分子量のタンパク質複合体を形成し、このような結合は、細胞毒性を有するAβオリゴマーの形成を減少させ得ることが示されている。
図6B】sDSS1タンパク質は、Aβオリゴマーの形成を減少させ、Aβオリゴマーによって誘発された細胞毒性及びアポトーシスを減少させる。V5融合タンパク質(V5-HRP)を用いてsDSS1タンパク質を検出した結果、sDSS1タンパク質とAβとがタンパク質複合体を形成していることが示された。
図6C】sDSS1タンパク質は、Aβオリゴマーの形成を減少させ、Aβオリゴマーによって誘発された細胞毒性及びアポトーシスを減少させる。Aβオリゴマーを培地に添加することで細胞毒性をもたらし、それにより、細胞生存率を低下させた。sDSS1タンパク質は、Aβオリゴマーによる細胞毒性を完全にブロックすることができる。
図6D】sDSS1タンパク質は、Aβオリゴマーの形成を減少させ、Aβオリゴマーによって誘発された細胞毒性及びアポトーシスを減少させる。アポトーシス実験の結果、sDSS1タンパク質を培養液内に投入することにより、Aβオリゴマーによって引き起こされたSH-SY5Y細胞の早期アポトーシス及び後期アポトーシスを顕著に低下させ、それにより、細胞に対する毒性タンパク質の影響を低減する。
図6E】sDSS1タンパク質は、Aβオリゴマーの形成を減少させ、Aβオリゴマーによって誘発された細胞毒性及びアポトーシスを減少させる。sDSS1タンパク質は、Aβオリゴマーの、マウス神経幹細胞(NSCs)に対する毒性をもブロックすることができる。データについては、t-test検定両側検定を用いて分析し、分散分析によって検証した。**、p-value<0.01。
図7】培地にアミリンオリゴマーを添加することにより、細胞毒性が誘発され細胞生存率が低下する。sDSS1タンパク質の添加は、細胞生存率を回復させ、細胞生存を促進することができる。データについては、t-test検定両側検定を用いて分析し、分散分析によって検証した。**、p-value<0.01。
図8】400μg/mLのグリコシル化タンパク質による細胞生存率の低下は、sDSS1タンパク質によって回復することができる。回復効果は、sDSS1タンパク質濃度の増加(100μg/mL~200μg/mL)にしたがってより強くなる。400μg/mLのBSAタンパクを対照群に用いた。データについては、t-test検定両側検定を用いて分析し、分散分析によって検証した。 **、p-value<0.01。
図9A】SAMP8マウスの側脳室(Ventricle)におけるウイルス注射の操作方法及びウイルス注射部位を示す概略図である。
図9B】アデノウイルスを5ヶ月齢の早期老化マウスであるSAMP8マウスの大脳の側脳室に注射(左右半球のそれぞれに1μLのウイルス液)した後、示された動物の生存状況について連続的に観察した。結果により、時間の経過につれて、sDSS1タンパク質を発現したアデノウイルスを注射したマウスの術後生存率は、GFPタンパク質を発現した対照マウス率よりも明らかに高いことが示されている。データは、分散分析によって分析される。**,p-value<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下の内容は、実例とともに本発明における好ましい解決手段を説明且つ検証するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の全ての範囲は、特許請求の範囲における限定に基づくものである。
【0056】
以下の実施例において使用された実験方法は、特に明記しない限り、すべてが従来の実験方法である。
【0057】
以下の実施例におけるsDSS1タンパク質は、自身で生産し、且つ濃度が生物学的実験のレベルに達することを検証する。他の材料及び試薬は、商業的手段によって得ることができる。
【0058】
<実施例1>
sDSS1タンパク質は、サル目が有する分泌型タンパク質である。
【0059】
バイオインフォマティクス分析ツール
国立生物工学情報センター(National Center of Biotechnology Information,NCBI)ゲノムデータベース、Nucleotideblast tool(NCBI)、Align sequences nucleotide blast tool(NCBI)、Translatetool (SIB Bioinformatics Resource Portal)、Clustal X2.1:MultipleSequence Alignment (EMBL-EBI)、SecretomeP 2.0(CBS prediction service)、WoLF PSORTII。
【0060】
生物実験法
1、細胞培養:293T細胞をアメリカ培養細胞系統保存機関(American type culture collection,ATCC)から購入し、細胞を、90%の基本培地(Dulbecco’s modified eagle medium,DMEM)(Life technology公司 C#12500062)及び10%のウシ胎児血清(Fetal bovine serum,FBS)(Gibco 公司C#10100-147)を含む細胞培養培地において、細胞培養インキュベータ(温度37℃、湿度95%、CO2濃度5%)で培養した。2日間ごとに1回継代した。
【0061】
2、細胞のトランスフェクション:1ウェルあたり3×105の293T細胞を6ウェルプレート内に播種し、1.5mLの細胞培養培地を添加し、細胞接着の12時間後にプラスミドをトランスフェクトし始めた。真核発現プラスミドpCMV-C-Flagを用いた。挿入されたsDSS1タンパク質を発現した塩基配列については、SEQ ID NO:17に示されている。2500ngのプラスミドを750μLのOpti-MEM(登録商標)Medium(Life technology公司C#31985062)で希釈且つ均等に混合し、10μLのトランスフェクション試薬Lip2000(Invitrogen公司C#12566014)を750μLのOpti-MEM(登録商標)Mediumで希釈且つ均等に混合し、希釈されたプラスミド溶液を希釈されたトランスフェクション試薬に滴下し、均等に混合した後常温で5分間インキュベートした。6ウェルプレート内の細胞培養培地を吸引し、細胞をPBSで1回洗浄した後、インキュベートしたトランスフェクション作業溶液で交換した。細胞をインキュベータ内で培養し続け、24~48時間の間に細胞内の蛍光タンパク質の発現を観察した。
【0062】
3、ドットイムノブロッティング実験:PVDF膜をメタノールで活性化した後乾燥させ、対照培地及び異なるトランスフェクト細胞培地を膜に滴下した。膜が乾燥した後、PVDF膜に対して1%BSAブロッキング、一次抗体(Rabbit-anti-GFP)(Cell signal technologyechnology公司C#2956)でのインキュベーション、及び、二次抗体(Goat-anti-rabbit HRP抗体)(中杉金橋,ZDR-5403)でのインキュベーションを順次に完成させた。膜をPBSTで3回洗浄し、発光液(中杉金橋、ZLI-9017)で現像し、且つストリップをX線フィルムで露光した。
【0063】
結果の分析
我々は、ヒトゲノム内のshfm1遺伝子のバイオインフォマティクスを解析した際に、この遺伝子が複数の転写産物を有することを見出した(NCBIデータベースにおけるshfm1遺伝子情報を参照、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/7979)。DSS1タンパク質配列を共通にコードする1本のmRNA配列(NM_006304.1,509bp)のほか、より長い1本のmRNA配列(AK309241.1,1195bp)も存在する。短いmRNA配列及び長いmRNA配列は、わずか256bpの反復配列を有する(図1A)。核酸配列解析を経て、翻訳ツール(Translate tool)を使用することで、反復配列がDSS1タンパク質N末端の58位のアミノ酸配列をコードできることが明らかになった。長いmRNA配列は、89位のアミノ酸ポリペプチド配列をコードする。ポリペプチド配列の比較から、長いmRNAによってコードされたポリペプチド配列及びDSS1ポリペプチド配列は、N末端の58位のアミノ酸の重複領域を有するほか、31位のアミノ酸変異領域を有することがわかる。我々は、この新しいポリペプチドを分泌型DSS1タンパク質(secretory DSS1、sDSS1)と命名した。ポリペプチド配列は以下の通りである。
【0064】
DSS1 (Homo sapiens):
MSEKKQPVDLGLLEEDDEFEEFPAEDWAGLDEDEDAHVWEDNWDDDNVEDDFSNQLRAELEKHGYKMETS(SEQ ID NO:4参照)
【0065】
s-DSS1 (Homo sapiens):
MSEKKQPVDLGLLEEDDEFEEFPAEDWAGLDEDEDAHVWEDNWDDDNVEDDFSNQLRATVLLMILVCETPYGCYVLHQKGRMCSAFLCC(SEQ ID NO:1参照)
【0066】
表1に示すように、我々は、NCBIデータベースにおけるシーケンシングされたサル目ゲノム及び他のモデル動物ゲノムについてのスクリーニングにより、類人猿亜目動物のゲノムにのみ、類似の長いmRNA配列が存在することを見出し、且つヒトsDSS1タンパク質と類似するポリペプチド配列を得た。これらのポリペプチド配列を比較した結果、sDSS1タンパク質配列は、高度に保存されており、N末端59位のアミノ酸配列は完全同一であり、C末端他のアミノ酸配列は、僅かな点突然変異が生じていることが示された(図1B)。
【0067】
【表1】
【0068】
2つの分泌タンパク質分析予測ソフトウェアWolf PSORT及びSecretomeP 2.0を用いて、sDSS1タンパク質のアミノ酸配列を分析し、予測の結果により、sDSS1タンパク質は、細胞外に局在し、同定された多くの分泌型タンパク質と同様に、1種の分泌タンパク質であることが予測された。ここで、Wolf PSORTソフトウェアの分析結果によれば、sDSS1タンパク質のシグナルペプチド切断部位(Cleavage site)は、アミノ酸58~59の間に位置する。
【0069】
【表2】
【0070】
バイオインフォマティクスの分析結果に基づいて、当該タンパク質の全配列又はC末端31位のアミノ酸配列(アミノ酸58の後の31位のアミノ酸配列)と、緑色蛍光タンパク質(Green fluorescent protein, GFP)とをそれぞれ連結し、且つ293T細胞に発現(sDSS1-GFP,sDSS1-c-GFP)させた結果、溶液内において緑色蛍光が現れ、バックグラウンドは発光し、細胞内の蛍光はぼやけて暗かった。一方、対照群(GFP)の溶液には蛍光がなく、バックグラウンドは暗く、細胞内の蛍光は明瞭で明るかった(図2A)。ドットイムノブロッティング法を用いてトランスフェクトされた細胞培養培地を検出した結果、sDSS1-GFP及びsDSS1-c-GFP群の細胞培養培地においてはGFPシグナルが検出され、対照群(GFP)においてはシグナルが検出されていない(図2B)。これらの結果をまとめると、sDSS1タンパク質は、細胞内で合成され且つ細胞外に分泌され得る1種の分泌タンパク質であり、sDSS1タンパク質のC末端31位のアミノ酸配列はシグナルペプチドとしての機能を果たした。
【0071】
<実施例2>
sDSS1タンパク質は、1種の天然タンパク質
【0072】
1、ヒト血清及び脳脊髄液サンプル処理 新鮮なヒト全血を採取し、室温で10~20分間放置した後、3500gで30分間遠心分離し、上清をヒト血清として採取した。100mMの2-メルカプトエタノールを血清に添加し、均等に混合した後10分間沸騰水浴で処理し、冷却後、12000gで10分間高速遠心分離を行い、上清と1/5容量の5xローディングバッファーとを混合した。病院で新鮮な脳脊髄液を取得して、それを輸送用の氷箱に入れ、同日に処理した。新鮮な脳脊髄液と5xローディングバッファー(loading buffer)とを直接混合した後、ローディングのために直接サンプリングした。
【0073】
2、ウェスタンブロッティング(western blotting)実験 調製した15μLのローディングサンプルをウェルに添加し、4~12%のプレキャストゲル(Life Technology公司C#NP0321BOX)でタンパク質を単離した後、PVDF膜にイムノブロッティングした。膜を一次抗体(Rabbit-anti-sDSS1)(抗原配列:sDSS1タンパク質のC末端31位のアミノ酸配列)でインキュベートし、PBST溶液で3回洗浄し、二次抗体(Goat-anti-rabbit HRP抗体)でインキュベートした。PBSTで3回洗浄し、完了後発光液で現像し、且つストリップをX線フィルムで露光した。
【0074】
3、細胞培養 ヒト神経膠腫細胞(U87-MG細胞)をATCCから購入し、細胞を、90%の基本培地DMEM及び10%のウシ胎児血清FBSを含む完全細胞培養培地内において、細胞培養インキュベータ(温度37℃、湿度95%、CO2濃度5%)で培養した。2日間ごとに1回継代した。
【0075】
4、PCR実験 U87-MG細胞を回収した後、1つの全RNA抽出キット(QIAGEN、51304)を用いて細胞溶解液から全RNAを抽出し、RNAサンプルに対して、1U/μLDNase Iを用いて室温で15分間処理を続けて残留されたゲノムDNAを除去した。得られたRNAサンプルのすべてを、cDNA合成試薬キット(全式金生物技術(TransGen Biotech)有限公司、AT301)を用いてcDNAに変換合成して、後続のPCR実験のためのテンプレート試料として使用した。PCR反応について、10μLのPCRプレミックス試薬(PCR Taq Mixture)(Omega bio-tek,TQ2200)、0.5μLのcDNAテンプレート(3.5μg/mL)、0.5μLのプライマー、及び9μLの超純水を含む20μLの反応系を採用し、混合した後PCR反応を開始した。DSS1 cDNAプライマー:フォワードプライマー:GCAGACAGTCGAGATGTCAGAG,リバースプライマー:TTCTTCTGGATGCTATGAAGTCTCC;sDSS1 cDNAプライマー:フォワードプライマー:GCAGACAGTCGAGATGTCAGAG,リバースプライマー:TGATGATCTGTTAACAGCAGAGG。PCR反応プログラム94℃で10分間、40回サイクル反応を開始:94℃ 10s、62℃ 20s、72℃ 20sを含み、循環の完了後72℃で10分間継続し、その後、4℃で保存し且つ3%のアガロースゲル(0.05% SYBR Green Stain(Thermo Fisher, 4472903))電気泳動を用いてPCR産物内のDNA含有量を検出した。
【0076】
結果の分析
sDSS1特異的抗体を用いて、ヒト脳脊髄液又は血清内においてsDSS1タンパク質のシグナルを検出することができる。異なる個体からの血清サンプルは、異なるシグナルパターンを示し、運動後の個々の血清内のsDSS1シグナルは、静止状態より明らかに高い(図3A)。U87-MG細胞において、sDSS1遺伝子のmRNAシグナルを検出することができる。PCR増幅産物の遺伝子シーケンシング結果は、データベースにおける配列と完全一致する(図3B)。これらの結果は、sDSS1タンパク質が、ヒト脳脊髄液及び血清内に存在する1種の天然タンパク質であることを示している。
【0077】
<実施例3>
sDSS1タンパク質の少量調製
【0078】
実験方法
1、sDSS1蛋白調製:ヒトsDSS1タンパク質をコードするヌクレオチド断片の全遺伝子合成(SEQ ID NO:17を参照)をpET151D内のHisx6-V5タグの後ろに挿入した。次に、プラスミドを発現菌株BL21(DE3)内に移した。大腸菌においてHisx6-V5-sDSS1タンパク質を融合発現し、ニッケル-NTAゲルカラムを用いて予備精製し、次に、SDS-PAGEを用いてゲル精製した。His-V5-sDSS1タンパク質を含む、切り出されたゲルバンドを、転写バッファを含む透析バッグに入れ、電界駆動によって、タンパク質をゲルから転写させ、透析バッグに回収する。タンパク質を約500マイクロリットルまで濃縮し、4度のPBS溶液において4回(毎回200ミリリットル)透析した。
【0079】
2、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動 精製されたsDSS1タンパク質又は細菌溶解液タンパク質と、5xローディングバッファーとを混合した後、沸騰水浴で10分間処理し、12000gで10分間遠心分離し、分析のための上清を採取した。タンパク質を4~12%のプレキャストゲルで単離した後、ゲルブロックをクマシーブリリアントブルー染料で1時間染色し、次に、脱色液を用いて室温で一晩脱色した。脱色完後、ゲルブロック上のストリップを観察し且つ撮影して保存した。
【0080】
結果の分析
大腸菌株の陽性クローンを選択し、拡大培養し、細菌増殖の対数期においてIPTGを用いて目的タンパク質を発現するように細菌細胞を刺激した。細胞を溶解し、目的タンパク質の発現レベルを検出した結果、IPTG刺激後、細菌細胞によって発現されるsDSS1タンパク質のレベルが顕著に向上し、タンパク質ストリップがゲルマップ上にはっきり見られたことが示された(図4A)。細菌溶解液をニッケル-NTAゲルカラムで予備精製した後、濃縮液内の目的タンパク質が大きく濃縮され(bチャネル)、雑多なタンパク質の含有量が減少した。精製し続けると、純度が極めて高く、その後の生物学的実験に用いられ得るsDSS1タンパク質(aチャネル)を得ることができた(図4B)。精製後のsDSS1タンパク質をBCAタンパク質により定量し、最終濃度が0.72mg/mlであり、予備として4度で保存した。
【0081】
<実施例4>
sDSS1タンパク質と酸化タンパク質との反応、及び酸化タンパク質の細胞毒性のブロック
【0082】
実験方法
1、酸化された血清とsDSS1タンパク質との反応 新鮮なヒト血液を3500gで30分間遠心分離し、その後の実験のために上層の血清を採取した。実験において、10μLのsDSS1タンパク質溶液(0.72mg/mL)を、10、20、50、100マイクロリットルの酸化血清とそれぞれ混合した。sDSS1と血清タンパク質との質量比は約1:100、1:200、1:500、1:1000であった。また、20μM Fenton試薬(FeSO4及びH2O2を1:1の質量比で混合)を添加して、均等に混合した後暗所の4℃で一晩インキュベートした。翌日、各反応におけるHis-V5-sDSS1を、10マイクロリットルのNi-NTA磁気ビーズで単離した。反応液と磁気ビーズとを4度で2時間混合し、磁気ビーズを磁気ラックでチューブの壁面に吸着させた後、液体を吸引し、1mlのPBSTを添加し、チューブを磁気ラックから取り外し、振動及び洗浄を繰り返した後、磁気ラックで磁気ビーズを吸着させ、PBSTを吸引した。このように4回繰り返し、最後に、50mM EDTAを含む50マイクロリットルのTBSでタンパク質を溶離した。溶離液を等容量の2x SDS溶液に加え、100℃で10分間処理し、12000gで10分間遠心分離し、検出のための上清を採取した。上清液と5Xローディングバッファーとを混合し、100℃で10分間加熱処理し、調製した試料をタンパク質のイムノブロッティング実験に使用した。
【0083】
2、ウシ胎児血清の酸化及びタンパク質過酸化物の調製 10mLのウシ胎児血清を10mM NaClOで1時間処理し、酸化された血清を、3000Daの透析バッグを用いてPBS溶液内で24時間連続的に透析した。透析中に8時間ごとに液を1回交換し、参加した酸化剤を完全に除去するために、処理終了後の血清溶液内に1mMのビタミンC(Vc)を加えた。BCAタンパク質定量法でタンパク質濃度を検出した。2つの方法を用いて酸化タンパク質の含有量を検出した。クロラミンT法で酸化血清内のダブルチロシン値が75.31μM/mgのタンパク質(未処理血清が15.05mg/mgのタンパク質)を測定し、ジニトロフェニルヒドラジン法でカルボニル基の含有量が16.33nmol/mgのタンパク質(未処理血清が13.68nmol/mgのタンパク質)を測定した。
【0084】
最初に、10mgの血清アルブミンを160mM NaClOで1時間処理し、酸化タンパク質を、3000Daの透析バッグを用いてPBS溶液内で24時間透析し続けた。透析中に8時間ごとに液を1回交換した。まず、処理終了後のタンパク質過酸化物(AOPP)を、BCAタンパク質定量法を用いてタンパク質濃度を測定した。クロラミンT法でAOPPサンプル内のダブルチロシン値が54.21μmol/mgのタンパク質(未処理のBSAが14.55μmol/mgのタンパク質)を測定し、ジニトロフェニルヒドラジン法でカルボニル基の含有量が1042.57nmol/mgのタンパク質(未処理のBSAが10.26nmol/mgのタンパク質)を測定した。
【0085】
3、タンパク質過酸化物とsDSS1タンパク質との反応 30μgのAOPPタンパク質(200μg/mL)を150μLの反応系に加え、また、15μg(100μg/mL)、30μg(200μg/mL)、60μg(400μg/mL)のsDSS1タンパク質をそれぞれ添加し、無菌PBS溶液で余分な容量を補充した。溶液を均等に混合し、4℃の環境において一晩反応させた。反応終了後のサンプル内に、5xローディングバッファーを添加し、100℃で10分間の加熱処理を行い、処理したサンプルをSDS-PAGEで分離し、クマシーブリリアントブルー染色でストリップを示した。
【0086】
4、タンパク質イムノブロッティング実験 反応終了後のタンパク質混合物と5xローディングバッファー(loading buffer)とを混合し、沸騰水浴で10分間加熱し、ウェスタンブロッティング(western blotting)分析に使用した。具体的な方法は前述の内容と同じである。使用した抗体は、V5-HRP抗体(1:5000希釈)であった。
【0087】
5、細胞株培養 ヒト神経芽腫細胞(SH-SY5Y)を、10%のウシ胎児血清を補充した基本培地DMEMで増殖させた。細胞を2日間ごとに1回継代した。
【0088】
6、細胞生存率測定 酸化血清の細胞毒性に対するsDSS1タンパク質の効果を検出するために、SH-SY5Y細胞を、1ウェルあたり200μLの完全培地に104細胞で96ウェルプレート内に播種した。。12時間後、完全培地を、0.5%のBSAを含有する無血清DMEM(1ウェルあたり200μL)に変更した。24時間処理を継続した後、DMEM溶液を、10%の酸化血清及び20μg/mLのsDSS1タンパク質の10%の酸化血清を含む培地に変更した。1ウェルあたり200μLであった。48時間処理を継続した後、96ウェルプレート内の古い培地を廃棄した。希釈した100μLのCCK-8作業溶液(1:20で希釈)(同仁化学、CK04)を各ウェルに添加して、細胞生存率の変化を測定した。対照群に用いるため、等濃度のBSA群を添加した。
【0089】
AOPPによって引き起こされた細胞毒性に対するsDSS1タンパク質の保護効果を検出するために、SH-SY5Y細胞を、1ウェルあたり2×104細胞で96ウェルプレート内に播種した。接着の12時間後に、培地を、0.5%のBSAを含有する無血清培地に変更した。24時間処理を継続した後、100μg/mLのAOPPタンパク質を有する無血清培地で置き換えたとともに、100μg/mLのsDSS1タンパク質を処置群に添加した。1ウェルあたり200μLであった。96ウェルプレートにおいて48時間処理を継続した後、CCK-8試薬キットを用いて細胞生存率の変化を測定した。
【0090】
結果の分析
血清内には、主に血清アルブミンである大量のタンパク質が含まれている。フェントン(Fenton)試薬の作用下で、血清内のタンパク質が酸化され、酸化生成物は、sDSS1と反応して複合体を形成することができる。対照群では、明らかなタンパク質凝集を伴わないsDSS1タンパク質モノマーが見られた。実実験群では、血清との共同インキュベーションにより多数の高分子量タンパク質複合体が形成され、これらの複合体は、SDS-PAGEによって分離することができない(図5A)。結果により、sDSS1タンパク質が血清内の酸化タンパク質と結合できることが示された。細胞毒性実験では、対照血清と比較すれば、10%の酸化タンパク質の添加により、細胞増殖及び細胞生存率が明らかに抑制された。培地内に20μg/mLのsDSS1タンパク質が含まれれば、酸化タンパク質の細胞毒性を回復することができる(図5B)。
【0091】
sDSS1とAOPPタンパク質とを混合し続けると、sDSS1とAOPPタンパク質とが結合して、SDS-PAGEによって分離できない複合体を形成することが分かる。反応系内のsDSS1タンパク質の濃度が増加するにつれて、複合体の数も明らかに増加した(図5C)。細胞実験において、AOPPは、細胞に対して明らかな細胞毒性をもたらし、細胞生存率を低下させたが、等濃度のsDSS1は、AOPPの細胞毒性を完全にブロックすることができた(図5D)。上記の結果により、sDSS1は、酸化血清又はAOPPの細胞毒性の影響から細胞を保護することができる。
【0092】
また、sDSS1タンパク質は、酸化タンパク質反応を有し、両方のタンパク質が酸化タンパク質と緊密に結合することができると結論された。この結合力は、高濃度のSDSに対する耐性を有し、これを共有結合相互作用であると考えられる。相違点として、DSS1と酸化タンパク質とが結合する過程においてATPアーゼの助けを必要とすることであった[Zhang et al、2014]。一方、我々の証拠は、sDSS1と酸化タンパク質との密接な結合には、ATPの添加を必要としない。すなわち、ATPアーゼの関与を必要としないことを示している。DSS1とsDSS1とのアミノ酸配列を比較すれば、2つのタンパク質の1~58位のアミノ酸配列は、完全一致しているが、DSS1の59~70位のアミノ酸配列とsDSS1の59~89位のアミノ酸配列とは、全く異なることがわかる。従って、DSS1かsDSS1と、酸化タンパク質との緊密な結合の特性は、共有アミノ酸配列からの寄与に由来するべきであり、つまり、最初の58のアミノ酸配列であると推測した。sDSS1は、DSS1の特性と異なる。即ち、酸化タンパク質と緊密に結合するのにATPアーゼ媒介に依存しない特性は、sDSS1の独特なアミノ酸配列に由来し、つまり、59~89位のC末端アミノ酸配列に由来することある。要するに、ATPアーゼ媒介に依存しなくても酸化タンパク質と緊密な結合が生じるというsDSS1の特性は、最初の58個のアミノ酸配列と最後の31個のアミノ酸配列との有機的な組合せに由来する。
【0093】
<実施例5>
sDSS1タンパク質による、Aβオリゴマーの形成の低減、及び、Aβオリゴマーの細胞毒性の低減
【0094】
実験方法
1、細胞株培養 ヒト神経芽腫細胞(SH-SY5Y)を、10%ウシ胎児血清を補充した基本培地基DMEMで増殖させた。細胞を2日間ごとに1回継代した。
【0095】
2、神経幹細胞培養 神経幹細胞(neural stem cell,NSC)は、P2マウスの脳組織に由来し、初代浮遊培養による神経幹細胞を、2継代を経た後毒性検出実験に用いた。神経幹細胞を幹細胞培養培地で培養した。ここで、88%のDMEM/F12の基本培地(Gibco,C#12500-062)、10%の増殖添加剤(Proliferation supplementary)(Stem cell technology,C#05701)、2%BSA(Sigma,C#V900933)、10ng/mLヘパリン(Heparin)(Sigma,C#H3149)、10ng/mL bFGF(Roche,C#11104616001)、20ng/mL EGF(BD Bioscience,C#354010)を含む。
【0096】
3、AβとsDSS1タンパク質との反応 Aβタンパク質(Human、1~42)凍結乾燥粉末は、蘇州強耀生物科学技術有限公司により提供されたものである。2mgのAβ凍結乾燥粉末を20μLのDMSOに溶解し、引き続きPBSを用いて2mg/mLまで引き続き希釈した。-20度で冷凍保存した。反応系において、まず、300μLのPBS溶液内に10μgのAβ及びsDSS1タンパク質を1:1、1:5、1:10のモル質量比で添加して混合し、その後4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション完了後の反応物に、5Χローディングバッファーを添加し、タンパク質イムノブロッティングの分析に用いるために100℃で10分間処理した。
【0097】
4、Aβタンパク質前処理 Aβについて、基本培地(pH7.2)を用いてAβストック溶液を1000μg/mLまで希釈し、Aβ希釈液を4℃で24時間インキュベートした後に形成されたオリゴマーを細胞実験に用いた。その後の実験におけるAβの濃度は、依然としてインキュベーション前のタンパク質の濃度にしたがってマークした。
【0098】
5、タンパク質イムノブロッティングの実験 処理完了後の反応物をSDS-PAGEで単離し、ウェスタンブロッティング(western blotting)分析に引き続き使用した。具体的な方法は、前述の内容と同じである。用いた抗体は、V5-HRP抗体(1:5000で希釈)、Aβ抗体(Cell signal technology、9888)、及び二次抗体(Goat-anti-rabbit HRP抗体)であった。
【0099】
6、細胞活性測定 SH-SY5Y細胞を、1ウェルあたり2x104細胞で96ウェルプレート内に播種し、接着の12時間後に、古い培地を、0.5%のBSAを含有する無血清培地に変更し、24時間処理を継続した。その後、古い培地を廃棄し、Aβ又は、Aβ及びsDSS1タンパク質を含むDMEM溶液に変更した。細胞について48時間処理を継続した後、CCK-8試薬キットを用いて細胞生存率のレベルを測定した。
【0100】
7、アポトーシス検出 アポトーシス検出キットは、東仁化学科学技術(上海)有限公司(AD10)から購入したものである。SH-SY5Y細胞を、1ウェルあたり3x105細胞で6ウェルプレート内に播種した。接着の12時間後に、古い培地を、0.5%のBSAを含有する無血清DMEM溶液に変更し、24時間処理を継続した後、Aβ又は、Aβ及びsDSSタンパク質を含む溶液に変更した。48時間処理を継続した後、アポトーシス検出キットを用いてアポトーシスのレベルを測定した。すべての溶液及び細胞を集め、遠心分離によって上清を廃棄した。細胞を400μLのアポトーシス検出キットによって供給された染色緩衝液を用いて細胞を再浮遊させ、後続の検出のために、185μLの細胞浮遊液を吸引した。細胞浮遊液に5μLのアネキシン(Annexin)V染色液を加えて均等に混合し、細胞を37℃で10分間インキュベートした。10μLのPI染料を添加し続け、均等に混合した後フローサイトメーターでアポトーシスのレベルを測定した。
【0101】
まず、神経幹細胞を6ウェルプレート内で単層培養した。ウェルプレートを最初に0.025%のラミニン(Laminin)で少なくとも2時間処理した後、予備として無菌PBSで6回洗浄した。神経幹細胞を単細胞化した後、1ウェルあたり3x105にしたがって6ウェルプレート内に播種し、細胞接着の24h後に後続の実験に用いた。
結果の分析
【0102】
インキュベーションを経て、Aβタンパク質が明らかに凝集し、10~20KDの間で異なるサイズのタンパク質凝集体が形成された。文献の報告によれば、これらのAβオリゴマーは、Aβによって誘発された細胞毒性の主な供給源である。sDSS1タンパク質を添加してAβと共同インキュベートした後、sDSS1タンパク質は、Aβタンパク質と凝集して大分子量の複合体(分子量が20KDを超える)を形成し、10-20KDの間に形成されたオリゴマーは、明らかに減少した(図6A)。sDSS1タンパク質の濃度が増加するにつれて、Aβオリゴマーの産生は、明らかに抑制された。sDSS1タンパク質シグナルを検出する際に、複合体がsDSS1タンパク質とAβとの反応によって形成されたものであり(図6B)、且つSDS-PAGEによって開裂できないことが確認された。
【0103】
sDSS1タンパク質の、Aβ誘発細胞毒性に対するブロック効果を引き続き検出した。細胞生存率アッセイにおいて、前処理されたAβオリゴマーの添加後に、細胞生存率は顕著に低下した。sDSS1タンパク質を培養液に添加した後、SH-SY5Y細胞生存率は顕著に回復し、且つ細胞生存率は対照群より高かった(図6C)。アポトーシス検出実験において、Aβオリゴマーを培養液に添加した後、SH-SY5Y細胞又は神経幹細胞を誘導した細胞がアポトーシスした。培養液にsDSS1タンパク質を添加すると、細胞の早期アポトーシスと後期アポトーシスとのレベルは、顕著に低下する(図6D図6E)。上記の結果に基づいて、sDSS1タンパク質は、Aβタンパク質と結合することにより、Aβオリゴマーの形成を減少させ、それによって、Aβタンパク質によって誘発された細胞毒性を緩和することができる。
【0104】
<実施例6>
sDSS1タンパク質による、アミリンオリゴマーの細胞毒性の低減
【0105】
実験方法
1、細胞株培養 ヒト神経芽腫細胞(SH-SY5Y)を、10%ウシ胎児血清を補充した基本培地基DMEMで増殖させた。細胞を2日間ごとに1回継代した。
【0106】
2、アミリンタンパク質の前処理 アミリンタンパク質(Human)の凍結乾燥粉末は、蘇州強耀生物科学技術有限公司により提供されたものである。2mgのアミリン凍結乾燥粉末を10mMの酢酸ナトリウム溶液(pH5.5)で2mg/mLまで溶解し、-20度で冷凍保存した。基本培地(pH7.2)でアミリンストック溶液を1mg/mLまで希釈し、アミリン希釈液を4℃で48時間インキュベートした後に形成されたオリゴマーを細胞実験に用いた。後続の実験におけるアミリンの濃度は、依然としてインキュベーション前のタンパク質の濃度にしたがってマークした。
【0107】
3、細胞活性測定 SH-SY5Y細胞を、1ウェルあたり2x104細胞で96ウェルプレート内に播種し、接着の12時間後に、古い培地を、0.5%のBSAを含有する無血清培地に変更し、24時間処理を継続した。古い培地を廃棄した後、アミリン又は、アミリン及びsDSS1タンパク質を含むDMEM溶液に変更した。細胞について48時間処理を継続した後、CCK-8試薬キットを用いて細胞生存率のレベルを測定した。
【0108】
結果の分析
細胞培養液にインキュベートされた10μMのアミリンタンパク質を添加することにより、顕著な細胞毒性をもたらすことができ、さらに、sDSS1タンパク質を添加することにより、アミリンオリゴマーによる細胞毒性をブロックすることができ、ひいては細胞生存率が対照群よりも高い(図7)。これは、sDSS1タンパク質がアミリンタンパク質の細胞毒性を効果的にブロックできることを示している。
【0109】
<実施例7>
sDSS1タンパク質による、グリコシル化タンパク質の細胞毒性の低減
【0110】
実験方法
1、細胞株培養 ヒト神経芽腫細胞(SH-SY5Y)を、10%ウシ胎児血清を補充した基本培地基DMEMで増殖させた。細胞を2日間ごとに1回継代した。
【0111】
2、グリコシル化タンパク質の調製 10mg/mLの血清アルブミンと2.5Mのリボースとを混合した後、37℃で7日間インキュベーションを続けた。インキュベーション終了後、3000Daの透析バッグを用いてPBS内で24時間透析し、8時間毎に1回溶液を交換した。グリコシル化タンパク質の調製完了後、BCAタンパク質を定量し、サンプルを予備として-80℃で保存した。
【0112】
3、細胞活性測定 SH-SY5Y細胞を、1ウェルあたり2x104細胞で96ウェルプレート内に播種し、接着の12時間後に、古い培地を、0.5%のBSAを含有する無血清培地に変更し、24時間処理を継続した。古い培地を廃棄した後、グリコシル化タンパク質又は、グリコシル化タンパク質及び様々な濃度を有するsDSS1タンパク質を含むDMEM溶液に変更した。対照群に用いるため、等濃度のBSA群を添加した。細胞について48時間処理を継続した後、CCK-8試薬キットを用いて細胞生存率のレベルを測定した。
【0113】
結果の分析
細胞培養液に400μg/mLのグリコシル化タンパク質を添加することにより、顕著な細胞毒性をもたらすことができ、さらに、sDSS1タンパク質を添加することにより、グリコシル化タンパク質による細胞毒性をブロックすることができる。ひいてはsDSS1タンパク質の濃度が増加するにつれて、細胞生存率が対照群よりも高く(図8)、これは、sDSS1タンパク質がグリコシル化タンパク質の細胞毒性を効果的にブロックできることを示している。
【0114】
<実施例8>
sDSS1タンパク質による、早期老化型マウスのSAMP術後の生存期間の延長
【0115】
実験方法
1.動物飼育 早期老化型SAMP8マウス(5ヵ月齢、雄)を、北京維通利華実験動物技術有限公司から購入した。動物を、南方モデル動物センターの清潔な実験動物飼育センターに飼育している。動物に十分な無菌水及び標準マウスの繁殖飼料を提供し、明暗の交互の光照射を12h/12hで与え、毎月敷材及びリスケージを定期的に交換し、毎日動物の生存状況を確認した。
【0116】
2、アデノウイルス合成 sDSS1タンパク質を発現するアデノウイルスについては、我々(発明者)が塩基配列(SEQ ID NO:17を参照)を提供し、アデノウイルスの構築及び合成については、賽業(広州)生物科学技術有限公司によって完成した。アデノウイルスのプロモータ領域及び転写領域における配列は、ユビキチンタンパク質のプロモータ配列を含む、pAV[Exp]-UBC>EGFP:T2A:ORF_363bpから構成されている。測定により、ウイルス力価が1010 PFU/mLを超えることを判明した。感染したU87-MG細胞及びマウスの神経芽腫細胞(N2a)の検証により、アデノウイルスは、細胞に効率的に感染し、且つsDSS1タンパク質を発現することができることが確認された。GFPタンパク質を発現するアデノウイルス(pAV[Exp]-UBC>EGFP)を対照として用いた。
【0117】
3、脳定位固定注射 早期老化型SAMP8マウス(6ヶ月齢、雄)に、800mg/kg体重となるように腹腔内に20%のウレタン(生理食塩水に溶解し、0.22μmのフィルタを介して濾過、不純物の除、及び滅菌)を注射して麻酔した。マウスを麻酔した後、頭蓋骨を水平に保つために、マウス脳定位固定装置(Stoelting、51500)に固定した。頭皮を切開し、頭蓋骨を露出させ、ブレグマ(Bregma)を座標の開始点とし、側脳室領域(0.58mm、1.25mm、1.75mm)を決め、歯科用ドリルでマーキング箇所に穴を開けた。2μLのウイルス液を微量注射器(Hamilton600-2.5μL、針直径0.2mm)で吸引し、同じ座標値にしたがって側脳室領域を再配置した。指示された座標値にしたがって針を側脳室領域に素早く挿し進み、ウイルス液を平均200nL/minで、合計1000nLゆっくり注射した。注射完了後、針を完全に脳組織から引き出すまで、針を0.25mm抜くごとに3分間待つことにした。他方の側脳室領域を再配置し、針挿入、注射および針引出の手順を完了させ、1μLのウイルス液を注入した。注射完了のマウスに対して、まず、100U/mLのアンピシリン/ストレプトマイシンで頭蓋骨及び周辺組織を拭き、次に、皮膚を縫合糸で縫合した。マウスの腹腔内に150μLの抗生物質を注射し、意識を回復するまで、マウスを腹部が上方に向くようにリスケージに置いた。
【0118】
結果の分析
概略図には、マウス側脳室のウイルス注射部位の基本操作及びアデノウイルスの注射部位が示されている(図9A)。ここで、sDSS1発現アデノウイルスの注射を受けたマウスは、2つのバッチで合計10匹であった。GFP発現アデノウイルスマウスの注射を受けたマウスは、2つのバッチで合計14匹であった。アデノウイルスの注射後1ヶ月以内に、対照群の3匹のマウスが死亡し、実験群の1匹のマウスが死亡した。8ヵ月以内に、対照群のマウスが次々と死亡したが、実験群においては1匹の死亡のみが死亡した(図9B)。上記の結果をまとめると、sDSS1タンパク質を発現するアデノウイルスSAMP8を注射したマウスの術後生存期間は、対照ウイルスのみを注射したマウスより遥かに長く、ANOVA分析により、両者には大きな差(P-value< 0.01)が示された。
【0119】
上記に記載の一連の詳細な説明は、本発明の実施可能な実施例についての具体的な説明だけであり、本発明の保護範囲を限定するものではない。本発明の精神から逸脱せずになされた等価実施例又は変更のすべては、本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
(項目1)
新型天然タンパク質sDSS1であって、ヒトを含む類人猿亜目の動物に存在し、ヒト天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSSEQ ID NO:1で示されることを特徴とする新型天然タンパク質sDSS1。
(項目2)
前記類人猿亜目の動物は、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン、キタホオジロテナガザル、ゴールデンモンキー、アカゲザル、ヒヒ、アンゴラコロブス、スーティーマンガベイ、ドリル、及びブタオザルをさらに含み、チンパンジーの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:5で示され、ボノボの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:6で示され、ゴリラの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:7で示され、オランウータンの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:8で示され、キタホオジロテナガザルの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:9で示され、ゴールデンモンキーの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:10で示され、アカゲザルの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:11で示され、ヒヒの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:12で示され、アンゴラコロブスの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:13で示され、スーティーマンガベイの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:14で示され、ドリルの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:15で示され、ブタオザルの天然タンパク質sDSS1のアミノ酸配列がSEQ ID NO:16で示されることを特徴とする項目1に記載の新型天然タンパク質sDSS1。
(項目3)
前記天然タンパク質sDSS1は、N末端58位のアミノ酸配列及びC末端31位のアミノ酸配列に分けられ、ヒトsDSS1タンパク質のN末端58位のアミノ酸配列がSEQ ID NO:3で示され、ヒトsDSS1タンパク質のC末端31位のアミノ酸配列がSEQ ID NO:2で示され、2つの配列の特徴として、N末端58位のアミノ酸配列は、3つ以上の連続的に配列された酸性アミノ酸配列を含み、連続的に配列された各酸性アミノ酸配列断片が含有する酸性アミノ酸の数は、10個以下であり、連続的に配列された異なる酸性アミノ酸配列間の間隔の長さは、4個のアミノ酸を超えず、このような各間隔には、少なくとも1つの疎水性アミノ酸が存在し、pH値が4.5以下であり、N末端58位のアミノ酸からなる配列中の酸性アミノ酸の数は10個以上であり、N末端58位のアミノ酸配列に基づいた58番目のアミノ酸以降のC末端アミノ酸配列は、全体的に疎水性傾向を有し、C末端31位のアミノ酸からなるアミノ酸配列中の疎水性アミノ酸の数は10以上であり、
アミノ酸の分類は以下のように定義されており、
アラニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、システイン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシンは、疎水性アミノ酸であり、
スレオニン、グリシン、セリン、ヒスチジン、グルタミンは、中性アミノ酸であり、
グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、アスパラギンは、酸性アミノ酸であり、
アルギニン、リシンは、塩基性アミノ酸であることを特徴とする項目2に記載の新型天然タンパク質sDSS1。
(項目4)
類人猿亜目の動物のsDSS1タンパク質に含まれているC末端アミノ酸の式は、
X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12X13X14X15X16X17X18X19X20X21X22X23X24X25X26X27X28X29X30X31
X1は中性アミノ酸、X2は疎水性アミノ酸、X3及びX4のそれぞれは疎水性アミノ酸、X5は疎水性アミノ酸、X6は疎水性アミノ酸、X7は疎水性アミノ酸、X8は疎水性アミノ酸、X9は疎水性アミノ酸、X10は酸性アミノ酸、X11は中性アミノ酸、X12は疎水性アミノ酸、X13は疎水性アミノ酸、X14は中性アミノ酸、X15は疎水性アミノ酸、X16は疎水性アミノ酸、X17は疎水性アミノ酸、X18は疎水性アミノ酸、X19は塩基性アミノ酸、X20は酸性アミノ酸、X21は塩基性アミノ酸、X22は中性アミノ酸、X23は塩基性アミノ酸、X24は疎水性アミノ酸、X25は疎水性アミノ酸、X26は中性アミノ酸、X27は疎水性アミノ酸、X28は疎水性アミノ酸、X29は疎水性アミノ酸、X30は疎水性アミノ酸、X31は疎水性アミノ酸であり、
C末端31位のアミノ酸配列には、40%以上の相同アミノ酸配列が存在し、当該配列は、ポリペプチド内のヒトsDSS1蛋白質のC末端アミノ酸配列との性質及び発揮する機能が同一又は類似であることを特徴とする項目1~3のいずれか1項に記載の新型天然タンパク質sDSS1。
(項目5)
項目1~4のいずれか1項に記載の新型天然タンパク質sDSS1のN末端58位のアミノ酸配列及びC末端31位のアミノ酸配列に基づいて構築された1種類のポリペプチド配列であって、
1)当該ポリペプチド配列は、N末端58位のアミノ酸によって構成された配列が40%以上の類似性を有し、C末端アミノ酸配列が40%以上類似するタンパク質を有し、当該タンパク質は、ヒト天然タンパク質との性質及び機能が同一又は類似であり、或いは、
2)ヒト天然タンパク質内のポリペプチド配列のN末端58位のアミノ酸によって構成された配列、若しくは、40%以上の類似配列に基づいてC末端又はN末端で他のアミノ酸配列を融合させ、融合に用いられるアミノ酸配列は、ヒト天然タンパク質内のC末端31位のアミノ酸配列と同一又は類似性質を実現し、且つ同一又は類似機能を発揮することができ、修飾後のタンパク質は、ヒト天然タンパク質sDSS1と同一又は類似機能を発揮することができるタンパク質であり、或いは、
3)項目4に記載の新型天然タンパク質sDSS1内のC末端ポリペプチド配列を用いて、他の天然又は非天然ポリペプチド配列を融合させて得られたタンパク質であることを特徴とするポリペプチド配列。
(項目6)
項目1~4のいずれか1項に記載の新型天然タンパク質sDSS1の完全配列又は部分配列と項目5に記載のポリペプチド配列とを含むことを特徴とする融合タンパク質。
(項目7)
当該タンパク質自体、担体タンパク質、抗体又は他の任意のアミノ酸配列と結合することによって形成されたタンパク質複合体であることを特徴とする項目6に記載の融合タンパク質。
(項目8)
項目1~4のいずれか1項に記載の新型天然タンパク質sDSS1の完全配列又は部分配列と、項目5に記載のポリペプチド配列と、項目6及び7のいずれか1項に記載の融合タンパク質との一部又は全部の複合を含むことを特徴とする複合体。
(項目9)
ポリペプチド/タンパク質と薬学的に適用可能な薬物担体との結合によって形成された複合体であることを特徴とする項目8に記載の複合体。
(項目10)
前記担体は、マイクロスフェア/マイクロカプセル、リポソーム、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、磁性粒子、及びゲルのうちの1つ又は複数を含むことを特徴とする項目9に記載の複合体。
(項目11)
項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質又は項目5に記載のポリペプチド配列をコードすることができることを特徴とするヌクレオチド配列。
(項目12)
DNA配列及びRNA配列を含むことを特徴とする項目11に記載のヌクレオチド配列。
(項目13)
項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質又は項目5に記載のポリペプチド配列を発現することを特徴とする細胞。
(項目14)
任意の哺乳動物の幹細胞、前駆細胞又は成体細胞であることを特徴とする項目13に記載の細胞。
(項目15)
前記哺乳動物は、ヒト、オランウータン、サル、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ロバ、イヌ、ウサギ、ネコ、ラット又はマウスであることを特徴とする項目14に記載の細胞。
(項目16)
胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、又は、初代培養由来の幹細胞、母細胞から分化して得られた多能性若しくは単能性幹細胞を含むことを特徴とする項目13に記載の細胞。
(項目17)
項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質又は項目5に記載のポリペプチド配列をコードしたヌクレオチド配列を生物体に導入し、項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質又は項目5に記載のポリペプチド配列を発現することを特徴とする発現系。
(項目18)
真核生物発現プラスミドベクタ、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス科、CRISPR/Cas技術、及び他の実行可能な遺伝子編集技術を含むことを特徴とする項目17に記載の発現系。
(項目19)
前記生物体は、ヒト、オランウータン、サル、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ロバ、イヌ、ウサギ、ネコ、ラット、マウス、ニワトリ、アヒル又はガチョウであることを特徴とする項目17に記載の発現系。
(項目20)
項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質又は項目5に記載のポリペプチド配列を主な標的とし、投与後、有機体内の項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質又は項目5に記載のポリペプチド配列の発現レベルに影響することができることを特徴とする薬物。
(項目21)
化学小分子薬物、タンパク質/ポリペプチド薬物、又は、核酸薬物、ナノ薬物であることを特徴とする項目20に記載の薬物。
(項目22)
前記核酸薬物は、siRNA、マイクロRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三本鎖DNA及びリボザイムの1つ又は複数を含むことを特徴とする項目21に記載の薬物。
(項目23)
S1、項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質若しくは項目5に記載のポリペプチド配列をコードしたヌクレオチド配列をプラスミドに挿入し、且つ細菌又は酵母細胞に導入する、又は、項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質若しくは項目5に記載のポリペプチド配列をコード可能なヌクレオチド配列を昆虫細胞、哺乳動物細胞のゲノム内に挿入する発現ベクタの構築ステップと、
S2、S1に記載の形質転換細菌、酵母菌、昆虫細胞又は哺乳動物の細胞に対して拡大培養を行い、項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質若しくは項目5に記載のポリペプチド配列を含む培養液又は細胞溶解物を回収するタンパク質発現ステップと、
S3、S2で得られた培養液又は細胞溶解物を、粗ろ過及び精製を経てタンパク質を得るというタンパク質精製ステップとを含むことを特徴とするタンパク質の生産方法。
(項目24)
化学合成技術を用いて項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質又は項目5に記載のポリペプチド配列を生産することを特徴とするタンパク質の生産方法。
(項目25)
インビトロリボソーム発現系を用いて項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質又は項目5に記載のポリペプチド配列を生産することを特徴とするタンパク質の生産方法。
(項目26)
項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質、項目5に記載のポリペプチド配列、項目6又は7に記載の融合タンパク質、項目8~10のいずれか1項に記載の複合体、項目11又は12に記載のヌクレオチド配列、項目13~16のいずれか1項に記載の細胞、項目17~19のいずれか1項に記載の発現系、及び項目20~22のいずれか1項に記載の薬物の疾患診断、予防及び治療における使用。
(項目27)
前記疾患は、病原性タンパク質/ポリペプチドの過度な産生又は蓄積によって引き起こされた疾患であることを特徴とする項目26に記載の使用。
(項目28)
前記病原性タンパク質/ポリペプチドは、酸化、グリコシル化されたタンパク質産物、アミロイド前駆体タンパク質及びその切断産物、膵島アミロイドポリペプチド及びその切断産物、並びに、酸化タンパク質、グリコシル化タンパク質、アミロイド、膵島アミロイドポリペプチドに類似する特徴を具備する他の病原性タンパク質/ポリペプチドであることを特徴とする項目27に記載の使用。
(項目29)
前記疾患診断は、項目1~4のいずれか1項に記載のタンパク質の全部又は一部のアミノ酸配列の発現レベル、mRNAレベル、及び遺伝子コピー数の1つ又は複数を測定することを含むことを特徴とする項目26に記載の使用。
(項目30)
前記予防は、遺伝子改変、核酸導入、薬物注入/投与、細胞移植、及び組織移植のうちの1つ又は複数を含むことを特徴とする項目26に記載の使用。
(項目31)
前記治療は、遺伝子改変、核酸導入、薬物注入/投与、細胞移植、及び組織移植のうちの1つ又は複数を含むことを特徴とする項目26に記載の使用。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8
図9A
図9B
【配列表】
2022101659000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-04-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする被験体の血清又は脳脊髄液において病原性ポリペプチド複合体を形成する方法において使用するための、分泌型deleted split split hand/split foot 1(sDSS1)タンパク質を含む組成物であって、前記方法は、細胞外で病原性ポリペプチドを前記sDSS1タンパク質と接触させて、前記血清又は脳脊髄液中で前記病原性ポリペプチド複合体の形成を達成することを含む、組成物。
【請求項2】
病原性ポリペプチドに露出された生細胞のアポトーシスを減少させるか、または、細胞生存を促進する方法において使用するための、分泌型deleted split split hand/split foot 1(sDSS1)タンパク質を含む組成物であって、前記病原性ポリペプチドが、タンパク質過酸化物(AOPP)、アミロイドβ、アミリンおよびグリコシル化タンパク質からなる群より選択され、前記方法は、細胞外で前記生細胞を前記sDSS1タンパク質と接触させて、前記病原性ポリペプチドの結合を達成し、それによって、前記生細胞のアポトーシスを減少させるか、または、前記生細胞の細胞生存を促進することを含む、組成物。
【請求項3】
前記病原性ポリペプチドが、タンパク質過酸化物(AOPP)、アミロイドβ、アミリンおよびグリコシル化タンパク質からなる群より選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記病原性ポリペプチドがタンパク質過酸化物(AOPP)である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記病原性ポリペプチドがアミロイドβである、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記病原性ポリペプチドがアミリンである、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記病原性ポリペプチドがグリコシル化タンパク質である、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記病原性ポリペプチドが糖化タンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記sDSS1タンパク質が、ヒト、または、チンパンジー(Pan troglodytes)、ボノボ(Pan paniscus)、ゴリラ(Gorilla gorilla)、オランウータン(Pongo abelii)、キタホオジロテナガザル(Nomascus leucogenys)、ゴールデンモンキー(Rhinopithecus roxellana)、アカゲザル(Macaca mulatta)、ヒヒ(Papio anubis)、アンゴラコロブス(Colobus angolensis)、スーティーマンガベイ(Cercocebus atys)、ドリル(Mandrillus leucophaeus)およびブタオザル(Macaca nemestrina)からなる群より選択される非ヒト霊長類に由来する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項10】
前記sDSS1タンパク質が、SEQ ID NO.1、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記sDSS1タンパク質が、SEQ ID NO.1のアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項12】
前記接触がインビトロで生じる、請求項2に記載の組成物。
【請求項13】
前記接触がインビボで生じる、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
前記接触のステップが、前記sDSS1タンパク質を前記被験体に投与することを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記接触のステップが、前記sDSS1タンパク質をコードする発現ベクターを前記被験体に投与することを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記発現ベクターが、SEQ ID NO.17のDNA配列を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記コードされるsDSS1タンパク質が、SEQ ID NO.1、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記コードされるsDSS1タンパク質が、SEQ ID NO.1のアミノ酸配列を含む、請求項15に記載の組成物。
【外国語明細書】