(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101761
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】アルコキシル化触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/055 20060101AFI20220630BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20220630BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
B01J27/055 Z
B01J37/04 102
B01J37/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216026
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】辻村 将
(72)【発明者】
【氏名】常光 研徳
(72)【発明者】
【氏名】新倉 史也
(72)【発明者】
【氏名】木村 純弘
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA21C
4G169BB04C
4G169BB10A
4G169BB10B
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BE06C
4G169BE08C
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4G169DA05
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169FA01
4G169FB04
4G169FB27
4G169FB57
4G169FC02
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】ろ過性に優れるアルコキシル化触媒およびその製造方法を提供する。
【解決手段】硫酸カルシウム0.5水和物およびIII型の硫酸カルシウム無水和物から選ばれる少なくとも1種を含む硫酸カルシウム粒子からなり、平均粒径が90μm以上160μmであり、かつ目開き1000μmの篩にかけた場合、全体に占める1000μm残分の割合が5質量%未満である、アルコキシル化触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸カルシウム0.5水和物およびIII型の硫酸カルシウム無水和物から選ばれる少なくとも1種を含む硫酸カルシウム粒子からなり、
平均粒径が90μm以上160μmであり、かつ目開き1000μmの篩にかけた場合、全体に占める1000μm残分の割合が5質量%未満である、アルコキシル化触媒。
【請求項2】
(A)成分:カルボン酸のカルシウム塩およびカルシウム酸化物から選ばれる少なくとも1種と、(B)成分:硫酸とを、(C)成分:分散媒中で混合して前記(A)成分と前記(B)成分との反応物を生じさせる反応工程と、
前記反応物を前記(C)成分と分離する分離工程と、
前記分離工程で分離した前記反応物を前記(C)成分により洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程で得られた洗浄ケークを乾燥する乾燥工程と、を有し、
前記(A)成分の平均粒径が100μm以上200μm以下、
前記(A)成分に対する前記(B)成分の比((B)成分/(A)成分)が0.85以上0.99以下(モル比)、
前記(C)成分が炭素数1~6のアルコールである、アルコキシル化触媒の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程における乾燥温度が50℃以上400℃未満である、請求項2に記載のアルコキシル化触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシル化触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造に用いられるアルコキシル化触媒としては、例えば、硫酸カルシウムを含む触媒(以下、「硫酸カルシウム触媒」という。)が挙げられる。
硫酸カルシウム触媒は、原料である酢酸カルシウムと硫酸を分散媒(例えば、イソプロピルアルコール)中で反応させ、得られたスラリーを脱液・乾燥することで得られる(例えば、特許文献1参照)。得られた硫酸カルシウム触媒は、固体触媒である。スラリーの脱液工程では、ろ過プロセスを採用しているが、前記のスラリーはろ過性が著しく低いため、ろ過・乾燥工程の時間短縮が課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の硫酸カルシウム触媒は、上述のろ過性の悪さにより、ろ過ケークの含液率が高いため、乾燥に伴ってダマが多量に発生する。固体触媒におけるダマの発生は、比表面積の低下による触媒活性劣化の原因となる。そのため、硫酸カルシウム触媒の製造においては、ダマを除去もしくは破砕する工程が必要であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ろ過性に優れるアルコキシル化触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1]硫酸カルシウム0.5水和物およびIII型の硫酸カルシウム無水和物から選ばれる少なくとも1種を含む硫酸カルシウム粒子からなり、
平均粒径が90μm以上160μmであり、かつ目開き1000μmの篩にかけた場合、全体に占める1000μm残分の割合が5質量%未満である、アルコキシル化触媒。
[2](A)成分:カルボン酸のカルシウム塩およびカルシウム酸化物から選ばれる少なくとも1種と、(B)成分:硫酸とを、(C)成分:分散媒中で混合して前記(A)成分と前記(B)成分との反応物を生じさせる反応工程と、
前記反応物を前記(C)成分と分離する分離工程と、
前記分離工程で分離した前記反応物を前記(C)成分により洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程で得られた洗浄ケークを乾燥する乾燥工程と、を有し、
前記(A)成分の平均粒径が100μm以上200μm以下、
前記(A)成分に対する前記(B)成分の比((B)成分/(A)成分)が0.85以上0.99以下(モル比)、
前記(C)成分が炭素数1~6のアルコールである、アルコキシル化触媒の製造方法。
[3]前記乾燥工程における乾燥温度が50℃以上400℃未満である、[2]に記載のアルコキシル化触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ろ過性に優れるアルコキシル化触媒およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[アルコキシル化触媒]
以下、本発明の一実施形態に係るアルコキシル化触媒について説明する。
本実施形態のアルコキシル化触媒は、硫酸カルシウム0.5水和物およびIII型の硫酸カルシウム無水和物から選ばれる少なくとも1種を含む硫酸カルシウム粒子からなる。
【0009】
本実施形態のアルコキシル化触媒は、平均粒径が90μm以上160μmであり、100μm以上150μm以下であることが好ましい。アルコキシル化触媒の平均粒径が上記下限値未満では、ろ過性が改善せず、ろ過時間の短縮効果およびダマの発生抑制効果が得られない。アルコキシル化触媒の平均粒径が上記上限値を超えると、EO(エチレンオキシド)付加反応活性が劣化する。
【0010】
アルコキシル化触媒の平均粒径の測定は、実施例に示す方法により行う。
【0011】
本実施形態のアルコキシル化触媒は、全体に占める粒径30μm以上300μm以下の成分の割合が70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましい。
粒度分布が上記範囲内であると、良好なろ過性を得られやすい。
【0012】
アルコキシル化触媒の粒度分布の測定は、実施例に示す方法により行う。
【0013】
本実施形態のアルコキシル化触媒は、目開き1000μmの篩にかけた場合、全体に占める1000μm残分の割合が5質量%未満であり、3質量%未満であることが好ましい。1000μm残分の割合が上記上限値を超えると、比表面積低下によりEO付加反応活性が劣化し、かつEO付加反応において触媒を使用する際に配管の詰まり等の原因となり製造性が低下する。
【0014】
1000μm残分の割合の測定は、実施例に示す方法により行う。
【0015】
本実施形態のアルコキシル化触媒は、BET比表面積が40m2/g以上150m2/g以下であることが好ましく、50m2/g以上150m2/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が上記範囲内であると、EO付加反応活性が良好である。
【0016】
アルコキシル化触媒のBET比表面積の測定は、実施例に示す方法により行う。
【0017】
本実施形態のアルコキシル化触媒によれば、硫酸カルシウム0.5水和物およびIII型の硫酸カルシウム無水和物から選ばれる少なくとも1種を含む硫酸カルシウム粒子からなり、平均粒径が90μm以上160μmであり、かつ目開き1000μmの篩にかけた場合、全体に占める1000μm残分の割合が5質量%未満であるため、比表面積が従来の硫酸カルシウム触媒よりも大きく、触媒活性に優れる。本実施形態のアルコキシル化触媒は、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造に用いた場合、EO付加反応活性に優れる。
【0018】
[アルコキシル化触媒の製造方法]
以下、本発明の実施の形態によるアルコキシル化触媒の製造方法について説明する。
本実施形態のアルコキシル化触媒の製造方法は、(A)成分:カルボン酸のカルシウム塩およびカルシウム酸化物から選ばれる少なくとも1種と、(B)成分:硫酸とを、(C)成分:分散媒中で混合して(A)成分と(B)成分との反応物を生じさせる反応工程と、反応物を(C)成分と分離する分離工程と、分離工程で分離した反応物を(C)成分により洗浄する洗浄工程と、洗浄工程で得られた洗浄ケークを乾燥する乾燥工程と、を有する。
【0019】
<反応工程>
反応工程では、(C)成分中に(A)成分を分散させて、(A)成分の分散液とし、その分散液に(B)成分を滴下し、(C)成分中で(A)成分と(B)成分を混合して、(A)成分と(B)成分との反応物である硫酸カルシウム触媒を生成する。
【0020】
(C)成分中で(A)成分と(B)成分を混合するには、例えば、攪拌翼等を備えた攪拌機を用いて、分散液を攪拌する。
【0021】
(C)成分中に分散させる(A)成分の量、言い換えれば、(A)成分に対する(C)成分の比((C)成分/(A)成分)は2.5以上4.5以下(質量比)であり、3.0以上4.0以下であることが好ましい。(C)成分/(A)成分が上記下限値未満では、(A)成分と(C)成分との反応に伴い、分散液が増粘するため、硫酸カルシウムの生成が進み難くなる。(C)成分/(A)成分が上記上限値を超えると、分散液が希薄となり、(A)成分と(C)成分との反応性が低下する。
【0022】
上記分散液に滴下する(B)成分の量、すなわち、(A)成分に対する(B)成分の比((B)成分/(A)成分)は0.85以上0.99以下(モル比)であり、0.90以上0.96以下であることが好ましい。(B)成分/(A)成分が上記下限値未満では、生成する硫酸カルシウムの粒径が小さくなり、ろ過性が低下する。これに起因して、ろ過ケークの含液率(ろ過ケークに含まれる液分の量)が高くなり、乾燥工程において、ダマを多く発生する。なお、本実施形態では、粒径が1000μm以上の硫酸カルシウム粒子をダマとする。ダマは、硫酸カルシウムの1次粒子が乾燥工程において合一(凝集)することによって生成するものと推測される。(B)成分/(A)成分が上記上限値を超えると、アルコキシル化触媒を、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造方法に適用した場合に、EO付加反応活性が発現しない。
【0023】
反応工程における温度は、35℃以上55℃以下であることが好ましい。
反応工程における反応時間は、特に限定されない。本実施形態では、上記分散液に(B)成分を滴下するために要する時間を反応時間とする。
【0024】
硫酸カルシウムの生成反応終了後、硫酸カルシウムを含む分散液を熟成する熟成工程を有することが好ましい。熟成工程では、分散液を35℃以上55℃以下で、5時間以上20時間以下攪拌する。この熟成工程により、スラリーを得る。
ここでいう熟成とは、反応工程において添加した(A)成分と(B)成分を完全に反応させることである。
【0025】
(A)成分であるカルボン酸のカルシウム塩としては、例えば、酢酸カルシウム一水和物、ギ酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等が挙げられる。これらのなかでも、生成する硫酸カルシウム触媒のEO付加反応活性の観点から、酢酸カルシウム一水和物が好ましい。
(A)成分であるカルシウム酸化物としては、酸化カルシウムが挙げられる。
【0026】
(A)成分の平均粒径が100μm以上200μm以下であり、120μm以上200μm以下であることが好ましく、140μm以上200μm以下であることがより好ましい。(A)成分の平均粒径が上記の範囲内であると、スラリーのろ過性を担保することができる。また、ろ過性が良好であることにより、ろ過ケークの含液率を低減し、乾燥工程でのダマの発生(造粒)を防止することができる。なお、ろ過性が悪いと、ろ過ケークから水分(液分)を除去しきれずに、ろ過ケークは含液率が高くなり、液分が多く含まれる。そのため、ろ過ケークは造粒され易くなりダマになる。(A)成分の平均粒径が上記下限値未満では、スラリーのろ過性を担保することができない。(A)成分の平均粒径が上記上限値を超えると、生成する硫酸カルシウム触媒の粒径が増大することにより、EO付加反応活性が低下する。
【0027】
(A)成分の平均粒径は、レーザ散乱法により測定した全粒子の粒度分布に対する体積加重での算術平均である。
【0028】
(B)成分としては、硫酸が用いられる。硫酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、90質量%以上98質量%以下であることが好ましい。
【0029】
(C)成分としては、炭素数1~6のアルコールが挙げられる。炭素数1~6のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、2,2-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール等が挙げられる。これらのなかでも、生成する硫酸カルシウム触媒のEO付加反応活性の観点から、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)が好ましい。これらのアルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0030】
<分離工程>
分離工程では、硫酸カルシウムを含むスラリー(固液混合物)から、反応工程で得られた反応物を分離する。言い換えれば、反応物を(C)成分と分離する。
分離方法としては、例えば、ろ過、遠心分離等が挙げられる。
分離工程において、例えば、ろ過によりスラリーから(C)成分を除去して、ろ過ケークを得る。
分離工程において、1分以上ろ液の流出がなくなった時点をろ過終点とする。
【0031】
<洗浄工程>
洗浄工程では、分離工程で得られたろ過ケークを、反応工程で用いたものとは別の(C)成分(分散媒)により洗浄し、洗浄ケークを得る。
1回の洗浄に要する(C)成分の量は、特に限定されないが、例えば、ろ過したスラリー100質量部に対して、10質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
洗浄回数は、特に限定されない。
洗浄工程において、1分以上ろ液の流出がなくなった時点をろ過終点とする。
【0032】
<乾燥工程>
乾燥工程では、洗浄工程で得られた洗浄ケークを乾燥し、硫酸カルシウム粒子からなる、本実施形態のアルコキシル化触媒を得る。得られた硫酸カルシウム粒子は、硫酸カルシウム0.5水和物およびIII型の硫酸カルシウム無水和物から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0033】
乾燥工程における乾燥温度は、50℃以上400℃未満であることが好ましく、50℃以上350℃以下であることがより好ましい。乾燥温度が上記下限値以上であると、乾燥速度が低いことによるダマの発生を抑制できる。乾燥温度が上記上限値以下であると、硫酸カルシウムが触媒活性を有しないII型無水物の形態になることを抑制できる。
【0034】
乾燥工程における乾燥時間は、10時間以下であることが好ましい。
なお、乾燥の終了は、所定量の触媒粉体を140℃で20分間加熱し、加熱前後での質量減少分が、加熱前の質量に対し10質量%以下であることによって判断する。
【0035】
本実施形態のアルコキシル化触媒の製造方法によれば、上記反応工程と、上記分離工程と、上記洗浄工程と、上記乾燥工程と、を有し、上記(A)成分の平均粒径が100μm以上200μm以下、上記(A)成分に対する上記(B)成分の比((B)成分/(A)成分)が0.85以上0.99以下(モル比)、上記(C)成分が炭素数1~6のアルコールであるため、生成する硫酸カルシウム粒子の粒径を大きくすることができ、結果として、硫酸カルシウム粒子のろ過性を改善し、ろ過時間を短縮することができる。また、ろ過性の改善により、ろ過ケークの含液率が低減するため、乾燥工程におけるダマの発生を抑制し、ダマのないアルコキシル化触媒を得ることができる。
【実施例0036】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(A)成分、(A’)成分、(B)成分、(C)成分、エトキシル化反応の出発原料、エトキシル化反応における反応促進剤としては、下記のようなものを用いた。
【0038】
「(A)成分」
酢酸カルシウム一水和物:カルフレッシュ(商品名)、大東化学株式会社製、平均粒径161μm、分子量176.18g/mol
【0039】
「(A’)成分:(A)成分の比較品」
酢酸カルシウム一水和物:特製グレード、生駒薬化学株式会社製、平均粒径52μm、分子量176.18g/mol
【0040】
「(B)成分」
硫酸:特級試薬、関東化学株式会社製、濃度95質量%、分子量98.08g/mol
【0041】
「(C)成分」
イソプロピルアルコール:特級試薬、関東化学株式会社製
【0042】
「エトキシル化反応の出発原料」
C18脂肪酸メチルエステル(質量比 ステアリン酸メチル:オレイン酸メチル:リノール酸メチル:パルミチン酸メチルおよびその他の微量成分=10:70:18:2の混合物):パステルM182(商品名)、ライオンケミカル株式会社製
【0043】
「エトキシル化反応における反応促進剤」
プロピレングリコール:特級試薬、関東化学株式会社製
【0044】
[触媒の製造]
表1に示す触媒組成に従って、耐酸性の容器に(A)成分もしくは(A’)成分と(C)成分とを入れ、攪拌機により45℃±5℃で20分間混合して、(C)成分中に、(A)成分もしくは(A’)成分を分散させて分散液を調製した。
【0045】
<反応工程>
分散液を攪拌しながら、ポンプによって、所定量の(B)成分を約80分間かけて滴下し、(A)成分と(B)成分とを反応させて、これらの反応物を生成した。
反応工程では、硫酸の滴下に伴い発熱するので、容器を、水浴を用いて冷却し、反応温度を45±5℃に制御した。なお、耐酸性の容器としては、例えば、1Lのセパラブルフラスコが用いられる。攪拌機としては、例えば、3枚後退翼を装着したモーター駆動の攪拌機が用いられる。ポンプとしては、例えば、EYELA社製セラミックポンプVSP-1050が用いられる。
【0046】
<熟成工程>
分散液に対する(B)成分の滴下が終了した後、分散液を45℃±5℃に保ちながら、さらに、攪拌機で12時間攪拌し、各例(実施例1~実施例4、比較例1~比較例7)のスラリーを得た。
【0047】
<分離工程>
得られたスラリーを、ろ過器とろ布を用いて0.1MPaで加圧ろ過し、スラリーから(B)成分を除去して、ろ過ケークを得た。
分離工程において、例えば、ろ過面積0.0013m2のステンレス製ろ過器と通気度2.9/m2/m3の綾織ろ布を用い、0.1MPaで加圧ろ過した。
【0048】
<洗浄工程>
その後、ろ過ケーク100質量部に対し20質量部の(C)成分をろ過器上部より注ぎ、再度、ろ過ケークのろ過を行い、洗浄ケークを得た。
ここで、洗浄に用いた(C)成分は、表1に示す触媒組成中の(C)成分量には含まれない。なお、分離工程および洗浄工程において、1分以上ろ液の流出がなくなった時点をろ過終点とし、ろ過時間を計測した。
洗浄工程において、例えば、ろ過面積0.0013m2のステンレス製ろ過器と通気度2.9/m2/m3の綾織ろ布を用い、0.1MPaで加圧ろ過した。
【0049】
<乾燥工程>
(C)成分と分離した洗浄ケークを減圧加熱乾燥し、触媒を得た。乾燥工程において、例えば、ロータリーエバポレーターを用い、70℃で0.005MPaに減圧し、回転させながら加熱乾燥した。
【0050】
[触媒の粒径の測定]
(A)成分もしくは(A’)成分、および生成した触媒について、粒度分布および平均粒径の測定を以下のように行った。
粒度分布測定装置として、BECKMAN COULTER社製の「LS 13 320」を用い、レーザ散乱法により触媒の粒度分布を測定した。また、得られた全粒子の粒度分布に対する体積加重での算術平均値を、触媒の平均粒径とした。測定条件を、下記の通りとした。
【0051】
「触媒の粒径の測定条件」
モジュール:トルネードドライパウダーモジュール
光源:単色レーザダイオード
波長:750nm
光強度:5mW
サンプル相対濃度:6%
平均粒径の算出方法:全粒子に対する体積加重での算術平均
【0052】
[BET比表面積の測定]
生成した触媒について、BET比表面積の測定を以下のように行った。
BET比表面積の測定装置としては、多点法のBET比表面積測定装置であるマイクロトラック・ベル株式会社製の「BELSORP-maxIIBELCAT」を用いた。BET比表面積測定装置の2つの同容量のサンプル管の一方に各例の触媒約0.1gを秤量して充填し、他方をブランクとした。その後、サンプル管内を液体窒素で冷却して触媒に窒素を吸着させ、ブランクとの差からBET比表面積を算出した。測定条件を、下記の通りとした。
【0053】
「BET比表面積の測定条件」
前処理:80℃、120分
測定モード:高精度(AFSM)
吸着温度:77K
測定部デバイス:デュワー瓶
吸着質名称:窒素
【0054】
[ろ過ケークの含液率の測定]
分離工程で得られたろ過ケークの含液率の測定を以下のように行った。
含液率の測定装置としては、株式会社ケット科学研究所製の「赤外線水分計 FD-600」を用いた。アルミ製皿にろ過ケーク5.0gを秤量し、140℃で20分間加熱した。加熱後のろ過ケーク質量を秤量し、加熱前のろ過ケーク質量に対する、加熱前後の質量減少分の比率を、ろ過ケークの含液率とした。
【0055】
[EO(エチレンオキシド)付加反応活性の評価]
マックスブレンド翼を備えた4Lオートクレーブに、C18脂肪酸メチルエステル(質量比 ステアリン酸メチル:オレイン酸メチル:リノール酸メチル:パルミチン酸メチルおよびその他の微量成分=10:70:18:2の混合物)650gと、触媒2.13gと、反応促進剤としてプロピレングリコール63.75gとを加えた。
これらをマックスブレンド翼により回転数420rpmで攪拌し、窒素置換を行った後、160℃まで昇温した。系内圧力が0.5MPa以下になるように制御しながら、オートクレーブ内にエチレンオキシド 1784g(対脂肪酸メチルエステル18.5モル相当)を導入し、160℃にて付加反応させることにより、反応粗製物を約2500g得た。このとき、初期は一定の供給速度(2g/min)でエチレンオキシドを導入し、付加反応が開始し系内圧力の低下が観察された後は、一定の加速度でEOフィード速度を加算しながら供給を行い、9g/minをEO供給の最大速度とし、最大供給速度に到達後は、一定速度で供給を行った。反応開始から所定量のエチレンオキシドを導入し終えるまでの時間をEO付加時間t’[h]とし、EO付加時間t’[h]に応じて、EO付加反応活性を「○」、「△」、「×」の3段階で評価した。t<5hの場合を「○」、5h≦t<10hの場合を「△」、10h≦tの場合を「×」と評価した。
【0056】
[ダマ発生抑制効果の評価方法]
各例(実施例1~実施例8、比較例1~比較例9)において得られた、所定重量の触媒を目開き1000μmの篩にかけ、全体に占める1000μm以上の残分の割合x質量%を測定し、以下の基準に従ってダマ発生の抑制効果を評価した。xが3質量%未満の場合を「◎」、xが3質量%以上5質量%未満の場合を「〇」、xが5質量%以上7質量%未満の場合を「△」、xが7質量%以上の場合を「×」と評価した。
【0057】
【0058】
表1では、(A)成分に対する(B)成分の比((B)成分/(A)成分)をB/A比と記す。
【0059】
表1の結果から、実施例1~実施例8の触媒は、原料である(A)成分の平均粒径を100μm以上200μm以下、B/A比を0.85以上0.99以下とすることで、ろ過性が従来品に比べ改善し、ろ過ケークの含液率が低減することが分かった。これにより、ろ過時間を短縮することができるとともに、乾燥時のダマの発生を抑制し、ダマが少ない触媒を得ることができる。また、実施例1~実施例8の触媒は、触媒としてのEO付加反応活性が良好(評価○)であることが分かった。
比較例1、比較例2の触媒のように、(A)成分を原料とした場合でも、B/A比が1.0以上であると、EO付加反応活性が急激に低下し、触媒としての性能を有しないことが分かった。また、比較例3の触媒のように、比較品原料(A’)成分(すなわち粒径の小さい原料)を用いた場合に関しても同様のことがいえる。また、比較例4の触媒のように、比較品原料(A’)を用いた場合、B/A比が0.85以上0.99以下の範囲内であったとしても、生成する触媒の粒径は小さく、ダマが発生することが分かった。また、比較例5~比較例7の触媒のように、B/A比が0.85未満では、EO付加反応活性は有するものの、生成する触媒の平均粒径が低下し、ダマを発生するようになることが分かった。また、比較例8の触媒のように、(A)成分の平均粒径が100μm未満である場合、生成する触媒の平均粒径が縮小し、ろ過性の改善効果が発揮されなくなることが分かった。このため、ろ過時間の短縮、ダマの抑制への効果は得られない。さらに、比較例9の触媒のように、(A)成分の平均粒径が200μmよりも大きい場合、ろ過性は改善されるものの、EO付加反応活性がやや劣るようになり、実施例1~実施例8の触媒に比べ触媒性能が劣ることが分かった。