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特開2022-101765ガラス被覆炭素繊維含有熱可塑性樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101765
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】ガラス被覆炭素繊維含有熱可塑性樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 17/12 20060101AFI20220630BHJP
   B32B 5/10 20060101ALI20220630BHJP
   B32B 7/03 20190101ALI20220630BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220630BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
B32B17/12
B32B5/10
B32B7/03
B32B15/08 105Z
B29C51/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216034
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000222406
【氏名又は名称】東レプラスチック精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩田 凌太郎
(72)【発明者】
【氏名】武藤 賢一郎
【テーマコード(参考)】
4F100
4F208
【Fターム(参考)】
4F100AD11A
4F100AG00B
4F100DG03A
4F100DH02A
4F100DJ00A
4F100EH66C
4F100EH71C
4F100EJ173
4F100EJ593
4F100GB31
4F100GB41
4F100JA04A
4F100JA05A
4F100JB16A
4F100JL01
4F208AB25
4F208AC03
4F208AD04
4F208AG03
4F208AG28
4F208MA01
4F208MA05
4F208MB01
4F208MG04
4F208MG11
(57)【要約】
【課題】
高い剛性を有し、軽量で、加工性に優れた複合材料からなり、さらに錆に強い多孔構造体を提供する。
【解決手段】
熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料からなる熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートであって、前記複合材料が炭素繊維を5~50重量%含み、0.05~1.0mmの長さを有する炭素繊維の割合が炭素繊維全体に対し60重量%以上であり、シートの一部または全体表面がガラス被覆されていることを特徴とするガラス被覆成形品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料からなる熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートであって、前記複合材料が炭素繊維を5~50重量%含み、0.05~1.0mmの長さを有する炭素繊維の割合が炭素繊維全体に対し60重量%以上であり、シートの一部または全体表面がガラス被覆されていることを特徴とするガラス被覆成形品。
【請求項2】
60重量%以上の炭素繊維が一の方向から15°以内に配向されているシートであることを特徴とする請求項1記載のガラス被覆成形品。
【請求項3】
前記シートが多孔構造体を有する開口部の形状を有し、開口部が総面積の10~95%で、かつ孔の形状が多角形、円形または楕円形、またはメッシュ状であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス被覆成形品。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が異なる種類の熱可塑性樹脂を含み、一の熱可塑性樹脂の融点、ガラス転移点または軟化点から20~50℃の高い所定温度において、他の熱可塑性樹脂の粘度が前記一の熱可塑性樹脂の粘度の3~70倍である、請求項1~3のいずれかに記載のガラス被覆成形品。
【請求項5】
前記ガラス被覆成形品において、主成分がケイ素化合物で50%以上を占めることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のガラス被覆成形品。
【請求項6】
前記ガラス被覆成形品において、片面のみがガラス被覆されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のガラス被覆成形品。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のガラス被覆成形品が、真空成形、熱プレスにより賦形されてなることを特徴とするガラス被覆成形品。
【請求項8】
熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料からなる熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートであって、前記複合材料が炭素繊維を5~50重量%含み、0.05~1.0mmの長さを有する炭素繊維の割合が炭素繊維全体に対し60重量%以上であるシートが、真空成形、熱プレスにより賦形されてなる成形品であって、その表面にメッキ、または金属蒸着、または塗装がなされており、その一部または全体表面がガラス被覆されていることを特徴とするガラス被覆成形品。
【請求項9】
前記シートが、60重量%以上の炭素繊維が一の方向から15°以内に配向されているシートであることを特徴とする請求項8記載のガラス被覆成形品。
【請求項10】
前記シートが多孔構造体を有する開口部の形状を有し、開口部が総面積の10~95%で、かつ孔の形状が多角形、円形または楕円形、またはメッシュ状であることを特徴とする請求項8または9に記載のガラス被覆成形品。
【請求項11】
請求項7に記載のガラス被覆成形品の一部または全体の表面にメッキ、または金属蒸着、または塗装がなされていることを特徴とするガラス被覆成形品。
【請求項12】
熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料からなるシートであって、前記複合材料が炭素繊維を5~50重量%含み、0.05~1.0mmの長さを有する炭素繊維の割合が炭素繊維全体に対し60重量%以上であるシートを作る工程と、シートの一部または全体表面にガラス被覆する工程とからなる、請求項1~6のいずれかに記載のガラス被覆成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料からなる熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートおよび多孔構造体またはメッシュ状シートにガラス被覆していることを特徴とするガラス被覆成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルター、梱包体、断熱材、防振材、防音材などの用途には、金属材料からなる多孔体が用いられてきた。例えば、特許文献1~3には、車の排気ガス中の粉塵を除去するために、金属製のワイヤメッシュフィルターや多孔メタルを用いることが記載されている。しかしながら、金属材料は一般に比重が大きく、燃費効率の向上が厳しく要求される自動車などの用途においては、より軽量な多孔体の開発が求められていた。
【0003】
また、金属材料からなる粉塵除去フィルターは、金属疲労や排ガスによる腐食によって粉塵除去性能が低下する場合があり、環境性能を長期に渡って維持することは難しかった。
【0004】
一方メッシュ状の開口部を有するものとして、エキスパンドメタルがある。これは、原板となる金属板材の板面に千鳥状配列の切れ目を形成するとともに各々の切れ目を送り方向に引き延ばして、製品全体を一様にメッシュ状に加工した金属製品である。これらは最小限の金属板を効率よく加工して作られるので省資源性にも優れている。
【0005】
そしてエキスパンドメタルは、特許文献4や5にあるように簡易フェンス、仮設足場の踏板、用水路の溝フタ等に代表される建築・土木資材はもちろんのこと、意匠性にも優れることから、園芸用の棚板等の家庭・園芸資材の分野、車載部品、家電用品、建築資材等においても広く用いられている。
【0006】
その結果、特許文献6のように熱可塑性炭素繊維樹脂成形品にパンチング加工したものも得られており、軽量化と高強度が進んでいる。さらに多孔構造体を有しながらより高強度化が求められている。
【0007】
一方、特許文献7のように建材の断熱材に被覆した素材が提案されているが、これは通気性を有しない断熱材であり、通気性を有する多孔構造体の強度向上とは異なる。
【0008】
また、特許文献8のように、ポリプロピレンの容器に被覆材としてガラスを用いることが記載されているが、バリア相としての使用であり、多孔構造体からなる素材の強度向上へ効果は明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-105954号公報
【特許文献2】特開2002-336627号公報
【特許文献3】特開2002-097927号公報
【特許文献4】特許第6404086号公報
【特許文献5】特開2012-170957号公報
【特許文献6】特開2015-78323号公報
【特許文献7】特開2005-193621号公報
【特許文献8】特表2014-512283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い剛性を有し、軽量で、加工性に優れた複合材料からなり、さらに錆に強い多孔構造体を提供することにある。また、本発明は、このような熱可塑性炭素繊維樹脂成形品からなる複合材料からなる多孔構造体の製造方法、ならびに多孔構造体を成形してなる多孔成形体もあわせて提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。
【0012】
熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料からなるシートであって、前記複合材料が炭素繊維を5~50重量%含み、0.05~1.0mmの長さを有する炭素繊維の割合が炭素繊維全体に対し60重量%以上であり、シートの一部または全体表面がガラス被覆されていることを特徴とするガラス被覆成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料からなる素材で、錆びに強くかつ軽量で高強度であり、高開口率でかつ、多孔構造体を有する複合材料からなる素材およびシートを提供できる。
【0014】
さらに熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の有する特徴である高振動減衰性、高摺動性、制電性を有する多孔構造体を有するシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施態様に係る多孔構造体からなるガラス被覆成形品の概略斜視図である。
図2】本発明の一実施態様に係るメッシュ状シートからなるガラス被覆成形品の概略斜視図である。
図3図1のA-A線に沿った断面図である。
図4図2のB-B線に沿った断面図である。
図5図1および図2のもととなる基材の概略斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係るシートの内部構造を、電子顕微鏡にて観察した結果を示す模式図である。
図7】本発明の一実施形態に係るシートにおける炭素繊維の配向方向(側面)を電子顕微鏡観察した結果を示す模式図である。
図8】本発明の一実施形態に係るシートにおける炭素繊維の配向方向を電子顕微鏡観察した結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る被覆シートは、熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料からなるシートであって、前記複合材料が炭素繊維を5~50重量%含み、0.05~1.0mmの長さを有する炭素繊維の割合が炭素繊維全体に対し60重量%以上であり、シートの一部または全体表面がガラス被覆されていることを特徴とするガラス被覆成形品である。
【0017】
円形状の多孔構造体シートや、メッシュ状シートの開口部を有するものとして、エキスパンドメタルがある。これら素材を従来のさびやすい金属でなく、錆びずに強度ある熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料からなる多孔構造体を有するシートに、ガラス被覆して、強度アップすることができる。
【0018】
さらに、60重量%以上の炭素繊維が一の方向から15°以内に配向されているシートの一部または全体表面がガラス被覆成形品にされていることが好ましい。
【0019】
前記シートが多孔構造体を有する開口部の形状を有し、開口部が総面積の10~95%で、かつ孔の形状が多角形、円形または楕円形、またはメッシュ状であることも好ましい。
【0020】
熱可塑性炭素繊維樹脂からなる多孔構造体からなるシートは、特開2015-078323をもちいて構成することもできる。メッシュ状シート品は特開2020-157472を用いて構成することもできる。
【0021】
図1および図2は、熱可塑性炭素繊維樹脂成形品からなるガラス被覆成形品の構造を説明するための図である。
【0022】
図1は、本発明の一実施態様に係る円形の穴を有する多孔構造体を示す概略斜視図であり、とくに、実質的に熱可塑性炭素繊維樹脂成形品2の表面にガラス被覆層6を有する多孔構造体からなるガラス被覆成形品1の例を示している。
【0023】
素材表面はガラス被覆層6で覆われている。
【0024】
図2は、開口部周縁となる複数のストランド部、及び前記複数のストランド部どうしを連結するボンド部を形成するエキスパンドシートのメッシュ状を示す概略斜視図であり、とくに、実質的に熱可塑性炭素繊維樹脂成形品12の表面にガラス被覆層16を有するメッシュ状シートからなるガラス被覆成形品11の例を示している。
【0025】
図3は、図1のA-A線に沿った模式断面図を示している。図3において、熱可塑性炭素繊維樹脂成形品2の内部には短い炭素繊維5が一方向に配置され、炭素繊維間には熱可塑性樹脂4が充填されている。さらに、熱可塑性炭素繊維樹脂成形品2の表面にはガラス被覆層6で覆われている。その結果、図1に示すように貫通孔3が形成されている状態においても、多孔構造体を有するガラス被覆成形品1は優れた耐久性を発揮することができる。
【0026】
図4は、図2のB-B線に沿った模式断面図を示している。図4において、熱可塑性炭素繊維樹脂成形品12の内部には短い炭素繊維21が一方向に配置され、炭素繊維間には熱可塑性樹脂20が充填されている。さらに、熱可塑性炭素繊維樹脂成形品12の表面はガラス被覆層16で覆われている。その結果、図4に示すように貫通孔13が形成されている状態においても、メッシュ状シートのガラス被覆成形品11は優れた耐久性を発揮することができる。
【0027】
図5図1および図2のもととなる熱可塑性炭素繊維樹脂成形品の概略斜視図である。
【0028】
図6は基材の断面図であり、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料70が海島構造を有することを示している。海相は、第1の熱可塑性樹脂71を主成分とする。一方、島相は、第2の熱可塑性樹脂72と炭素繊維5とからなる。
【0029】
熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、ポリスチレン)でもよく、またはポリアミド(例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、芳香族ナイロン)でもよく、またはポリイミド、ポリアミドイミド、またはポリカーボネート、またはポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート)でもよく、またはポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルフォキシド、またはポリテトラフルオロエチレン、アクロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリオキシメチレンでもよい。また、上記熱可塑性樹脂の誘導体や、上記熱可塑性樹脂の共重合体、さらにそれらの混合物でもよい。
【0030】
特に、熱可塑性樹脂としてはポリアミドが好ましく、ナイロン6、ナイロン66、それらの誘導体もしくは共重合体、または上記のいずれかを含む混合物がより好ましく、ナイロン6、ナイロン66がさらに好ましい。
【0031】
また、ポリオレフィンも好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、それらの誘導体もしくは共重合体、または上記のいずれかを含む混合物がより好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンがさらに好ましい。
【0032】
さらに、アクロニトリルブタジエンスチレン共重合体、その誘導体もしくは共重合体、または上記のいずれかを含む混合物も好ましい。
【0033】
さらに、ポリフェニレンサルファイド、その誘導体もしくは共重合体、または上記のいずれかを含む混合物も好ましい。
【0034】
前記炭素繊維は、PAN系炭素繊維でもピッチ系炭素繊維でもよく、繊維径は1~20μmであり、繊維の断面は真円でも楕円でもよい。引張強度は2~4GPaで、引張弾性率は200~600GPaが好ましい。
【0035】
衝撃強度の観点から、複合材料中の炭素繊維含有量は全体の5~50重量%であることが好ましく、5~30重量%がより好ましく、10~30%重量部がさらに好ましい。
【0036】
成形加工性の点から、平均繊維長が0.05~1.0mmである炭素繊維の割合は、全炭素繊維中60%重量%以上である。平均繊維長は0.05~0.5mmがより好ましく、0.2~0.5mmが更に好ましい。平均繊維長が0.05~1.0mmである炭素繊維は、2軸の押出機により炭素繊維と熱可塑性樹脂とを混錬することにより作ることができる。繊維長の長さは、スクリュー軸の回転速度、スクリュー軸の長さ、太さ、溝の深さ、溝の間隔、混錬速度、樹脂温度を調節することで繊維を切断し、調節することができる。
【0037】
本発明において、熱可塑性炭素繊維樹脂成形品を構成する熱可塑性樹脂は、粘度の異なる第1の樹脂と第2の樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂の粘度の比が第1の熱可塑性樹脂の粘度の3~70倍、より好ましくは、5~20倍であることが望ましい。
【0038】
特に、熱可塑性樹脂の融点から20~50℃の高い所定温度において、粘度の違いによる炭素繊維と樹脂の混練性を高めるため、第2の熱可塑性樹脂の粘度が第1の熱可塑性樹脂の粘度の3~70倍、より好ましくは、5~20倍であることが望ましい。低粘度の第1の熱可塑性樹脂が炭素繊維との密着性を向上させ、高粘度の第2の熱可塑性樹脂が材料全体の強度を向上させることで、シートの成形性を向上させることができる。
【0039】
複合材料において、図7図8に示すように全炭素繊維の60重量%以上が所定の方向から15°以内に配向していることが好ましい。所定の方向から7.5°以内に配向していることがより好ましく、所定の方向から5°以内に配向していることがさらに好ましい。
【0040】
炭素繊維の60重量%以上を所定の方向から15°以内に配向させるには、上記の粘度差の2つの熱可塑性樹脂と平均繊維長が0.05~1.0mmの炭素繊維からなるペレットを用いて、一軸の押出機で溶融しながら、ダイスより一定方向に一定方向に押し出し、ロールに接触定着させる方法が採用できる。
【0041】
次に、多孔構造体について説明する。
【0042】
図1に示すような円形の貫通孔を有する多孔構造体シートにおいて、一方の端面および他方の端面において、貫通孔の開口総面積は、端面の総面積の95~5%である。すなわち、一方の端面における貫通孔の開口総面積は、一方の端面の総面積の95~5%であり、他方の端面における貫通孔の開口総面積は、他方の端面の総面積の95~5%である。なお、以下では、端面の総面積に対する貫通孔の開口総面積の割合(貫通孔の開口総面積/端面の総面積)を、単に開口率(%)と称することもある。本発明のガラス被覆成形品においては、重量と強度のバランスの観点から、開口率は90~10%が好ましく、80~20%がより好ましく、70~30%がさらに好ましい。
【0043】
なお、本発明において貫通孔とは、一方の端面から他方の端面へ略直線状に貫通するように形成された孔のことをいい、スポンジなどの多孔質体において隣接する気泡同士が連通することにより一方の端面と他方の端面が連通する、いわゆる連続気泡構造とは異なるものである。ただし、本発明の多孔構造体はさらに連続気泡構造を有していてもよく、例えば、複合材料からなる多孔質体にさらに複数の略直線状の貫通孔を設けることによって、本発明の多孔構造体を得ることも可能である。
【0044】
複合材料の炭素繊維含有率は、複合材料全体に対し5~60重量%であることが好ましく、10~35重量%であることがより好ましく、15~25重量%であることがさらに好ましい。
【0045】
次に、メッシュ状シートのガラス被覆成形品の説明をする。
【0046】
図2に示すような菱形形状の貫通孔を有するメッシュ状シートにおいて、そのシートの厚さが0.05~10mmで、そのLW(メッシュの長目方向中心間距離)は0.2~200mm、SW(メッシュの短目方向中心間距離)は0.1~195mmである。さらにリブ幅W(刻み幅=送り幅)の内側に孔があり、LWO(開口部の短目方向長さ)とSWO(開口部の長目方向長さ)からなり菱形または六角形を有する。貫通孔の開口部面積の合計がシート全面に対して5~95%である。B(ボンド長さ)は上刃のスライド幅である。
【0047】
なお、メッシュ状シートの開口率が大きいと、通風量が多くなり、エアコンなどのエアー出入り口に都合がよく、またスピーカーやマイクに使うときにも音の伝達が良くなる。すなわちメッシュ状シートの開孔率は、音の伝達性に関わり、開孔率が大きいと伝達性は良くなるが、大きすぎると、スピーカーカバーの強度が低下して、スピーカーカバーの破損などで、スピーカーコーンの破損が起こる。そのため、前記貫通孔の開口部面積の合計がシート全体の面積に対して10~95%であることが好ましい。50~90%であることがより好ましく、80~90%であることが更に好ましい。
【0048】
次に、ガラス被覆成形品の製造方法について説明する。
【0049】
まず、ガラス被覆について説明する。
【0050】
ガラス被覆の成分はシロキサン、シリコーン、ポリシラザン、シラン、フッ素化合物、二酸化ケイ素、ケイ素化合物などからなる液体ガラスであり、主成分をシリカ(二酸化ケイ素)とするシリカ溶液であり、公知のガラス被覆構成を使用できる
ガラス被覆成形品の製造方法としては、例えば下記の例があげられる。
【0051】
(1)アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸ナトリウム化合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤を調合する。なお、コロイダルシリカは水中で球状粒子を成長させ、pHを調整するなどしてコロイド状に粒子の分散状態を安定化させ、主に水分散体として供給されるもので、球状一次粒子径を制御することができる仕様である。
【0052】
(2)アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸カリウム化合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤を調合する。
【0053】
(3)アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸ナトリウム化合物とリン酸カリウム混合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤を調合する。
【0054】
(4)上記(1)~(3)の水性無機コート剤にアルカリ金属珪酸塩化合物を添加してなる水性無機コート剤を調合する。
【0055】
(5)上記(1)~(4)の水性無機コート剤に水を添加してなる水性無機コート剤水溶液を塗布の原液とする。また、アルカリ性コロイダルシリカが,シリカ粒子径3~100nm範囲の単一粒子径、あるいは粒子径の異なるシリカの混合物を水に分散させ二酸化ナトリウムで安定化させてなるコロイダルシリカである水性無機コート剤あるいはその水溶液を調合する。
【0056】
(6)これらの溶液を混ぜわせることで、ガラス被覆用の溶液となる。
【0057】
(7)これを前記の熱可塑性炭素繊維樹脂成形品からなるシート、多孔構造体、メッシュ状シートに塗布し、乾燥させることでガラス被覆成形品を得ることができる。
【0058】
(8)ガラス被覆の成分は、特に限定されないが、主成分がシリコーンポリマーからなり、その最表面が、シリコーンポリマーを硬化した二酸化ケイ素を主成分とする改質で構成されることが好ましい。シリコーンポリマーは、シロキサン結合を主骨格として含む。
【0059】
ガラス被覆層6の厚さは1μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0060】
さらに厚さを1μm以上10μm以下とすることにより、熱可塑性炭素繊維樹脂成形品との接合性がよくなる。
【0061】
シートが真空成形、熱プレスにより賦形された成形品の一部または全体に、ガラス被覆しても良い。
【0062】
また、それらの片面のみにガラス被覆しても良い。
【0063】
すなわち、熱可塑性炭素繊維樹脂成形品、多孔構造体、メッシュ状シート、さらに多孔構造体、メッシュ状シートの熱賦形成形品について、メッキ、金属蒸着、塗装をし、その上にガラス被覆してもよいし、熱可塑性炭素繊維樹脂成形品にガラス被覆して、その上にメッキ、金属蒸着、塗装してもよい。
【0064】
上記の熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートにラミネート加工を施して、表面を絵柄や鏡面に加工してもよい。これらに、多孔加工やメッシュ加工してもよい。これらの加工品にガラス被覆することもできる。
【0065】
上記の多孔構造体からなるシートやメッシュ状シートを1次電池、2次電池のフィルターの支持材に使うことが可能である。
【0066】
上記の多孔構造体からなるシートやメッシュ状シートは、医療用機器、スピーカーカバー、マイクカバー、スマートスピーカー、タブレット、携帯電話、腕時計、パソコン、電子機器、ウエアラブル製品、シューズ、自動車部品、水力、火力発電所、原子力発電所、音響機器、梱包体、断熱材、防振材、防音材、摺動材、ロボット、航空機、ロケット、人工衛星、自動車、自動二輪車、鉄道列車、EMIシールド材、2次電池集電体、燃料電池部品、熱交換機、照明器具のリフレクターまたは家屋のフィルターとして用いることができる。
【実施例0067】
次に、実施例について説明する。各実施例および比較例において、使用した材料および測定方法は以下の通りである。
【0068】
(1)使用した材料
(A)炭素繊維
A1:繊維径が7μmの炭素繊維
(B)第1の熱可塑性樹脂
B1:ナイロン6(融点225℃、275℃における粘度:80poise)
B2:ナイロン66(融点:255℃、305℃における粘度:940poise)
B3:PP(融点:170℃、220℃における粘度:75poise)
B4:ABS(ガラス転移点(軟化点):190℃、240℃における粘度:490poise)
B5:PPS(融点:285℃、335℃における粘度:150poise)
B6:PC(ガラス転移点(軟化点)):146℃、290℃における粘度:120poise)
(C)第2の熱可塑性樹脂
C1:ナイロン6(融点:225℃、275℃における粘度:1,150poise)
C2:ナイロン66(融点:255℃、305℃における粘度:5,600poise)
C3:PP(融点:170℃、220℃における粘度:1,700poise)
C4:ABS(軟化点:190℃、240℃における粘度:2,600poise)
C5:PPS(融点:285℃、335℃における粘度:8,100poise)
C6:PC(軟化点:146℃、290℃における粘度:1,800poise)
(D)熱可塑性炭素繊維樹脂成形品の材料(以下、複合材料と記す場合がある。)
D1:A1を25重量%、B1を55重量%、C1を20重量%含有
D2:A1を35重量%、B1を20重量%、C1を45重量%含有
D3:A1を20重量%、B2を60重量%、C2を20重量%含有
D4:A1を15重量%、B3を40重量%、C3を45重量%含有
D5:A1を40重量%、B4を25重量%、C4を35重量%含有
D6:A1を10重量%、B5を25重量%、C5を35重量%含有
D7:A1を30重量%、B6を25重量%、C6を45重量%含有。
【0069】
(2)炭素繊維の繊維長、および配向の測定
炭素繊維の繊維長の測定には、マイクロフォーカスX線透過透視装置(島津製作所製SMX-1000 PLUS)を用いた。測定は画面上の繊維の両端の位置を座標から求め、最短距離によって求め、平均長は指定領域の500本の平均から求めた。0.01~0.5mmの炭素繊維の割合は、500本の繊維の重量当たりの割合で求めた。
【0070】
炭素繊維の配向率(全炭素繊維中、一方向から15°以内に配向している炭素繊維の重量当たりの割合(%))は、シートの流れ方向を0°と規定し、500本の炭素繊維を同上装置により観測し、その流れ方向からの傾きが15°以内の炭素繊維を同定し、その重量割合より求めた。
【0071】
(3)熱可塑性樹脂の粘度の測定
熱可塑性樹脂の粘度の測定には、キャピログラフ1D(株式会社東洋精機製作所製)を用いた。粘度は所定の温度での溶融粘度を意味する。
【0072】
(4)開口率の計算式
・多孔 60°千鳥
90.6×D2/(P2)=開口率
・多孔 45°千鳥
157×D2/(P2)=開口率
・多孔 六角
W2/(P2)=開口率
・多孔角孔並列
L2/(P×R)=開口率
・多孔 角孔 千鳥
(2×L2)/(P×PA)=開口率
・エキスパンド
(SWO×(LWO+B))/(SW×LW)×100=開口率
(5)ガラス被覆成分
下記記実施例に使用したガラス被覆の材料の詳細は、 次の通りである。
(1)NaH2PO4:無水)含有量98%以上 太平化学産業社製
(2)H3BO3:太洋化学工業社製
(3)SiO2:二酸化珪素40.5%固形分濃度のコロイダルシリカ 日産化学社製 「スノーテック」(登録商標)
(4)SiO/NaO2 ;47.1% 固形分 :大阪硅曹社製
(5)H2O。
【0073】
使用した材料の重量比率は(1):(2):(3):(4):(5)=1:4:25:4:750からなる水溶液で、これをガラス被覆液とした。このガラス被覆液を対象物に塗布後に、乾燥した後のガラス被覆品におけるケイ素化合物の割合は79%であった。
【0074】
[実施例1]
上記複合材料D1を用いて、厚さ1.0mmの熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.5mm、0.05~1.0mmである炭素繊維の割合が、全炭素繊維中の65重量%、また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の配向率は86%であった。
(1)このシートに上記のガラス被覆液を塗布し、常温で24時間乾燥させ、ガラス被覆を表面に10μmの厚さで施したガラス被覆成形品を得た。炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は15.8GPaであった。
(2)多孔加工で、Dが2mm、Pが3mmで、開口率40%で、上記と同じようにガラス被覆を表面に10μmの厚さで施したガラス被覆成形品を得た。炭素繊維が配向している多孔構造体のシートの縦方向弾性率は5.5GPaであった。
(3)メッシュ加工でLWが14.41mm、SWが5.66mm、LWOが11.05mm、SWOが3.55mm、Bが1.04mm、Wが0.67mm、開口率が53%の菱形のメッシュ状シートを得た。これに上記と同じようにガラス被覆を表面に10μmの厚さで施したガラス被覆成形品を得た。炭素繊維が配向しているメッシュ状シートの縦方向弾性率は4.8GPaであった。
【0075】
[比較例1]
(1)ガラス被覆未処理品:炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は10.2GPaであった。
(2)多孔構造体のガラス被覆未処理品:炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は3.0GPaであった。
(3)メッシュ状シートのガラス被覆未処理品:炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は2.8GPaであった。
【0076】
[実施例2]
上記複合材料D2を用いて、厚さ0.3mmの熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.31mm、0.05~1.0mmである炭素繊維の割合が、全炭素繊維中の70重量%、また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の配向率は81%であった。
(1)このシートに実施例1と同じようにガラス被覆を表面に8μmの厚さで施したガラス被覆成形品を得た。炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率が17.8GPaであった。
(2)多孔加工で、Dが2mm、Pが3mmで、開口率40%で、実施例1と同じようにガラス被覆を表面に8μmの厚さで施したガラス被覆成形品を得た。炭素繊維が配向している多孔構造体のシート縦方向弾性率が7.5GPaであった。
【0077】
[比較例2]
(1)ガラス被覆未処理品:炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は14.2GPaであった。
(2)多孔構造体のガラス被覆未処理品:炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は4.8GPaであった。
【0078】
[実施例3]
上記複合材料D3を用いて、厚さ0.5mmの熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.45mm、0.05~1.0mmである炭素繊維の割合が、全炭素繊維中の62重量%、また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の配向率は81%であった。
【0079】
このシートに実施例1と同じようにガラス被覆を表面に10μmの厚さで施したガラス被覆成形品を得た。炭素繊維が配向しているシート縦方向弾性率が13.2GPaであった。
【0080】
[比較例3]
ガラス被覆未処理で、炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は10.6GPaであった。
【0081】
[実施例4]
上記複合材料D4を用いて、厚さ1.5mmの熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.08mm、0.05~1.0mmである炭素繊維の割合が、全炭素繊維中の71重量%、また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の配向率は83%であった。
【0082】
このシートに実施例1と同じようにガラス被覆を表面に10μmの厚さで施したガラス被覆成形品を得た。炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は10.8GPaであった。
【0083】
[比較例4]
被覆未処理で、炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は7.8GPaであった。
【0084】
[実施例5]
上記複合材料D5を用いて、厚さ0.5mmの熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.15mm、0.05~1.0mmである炭素繊維の割合が、全炭素繊維中の66重量%、また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の配向率は88%であった。
【0085】
このシートに実施例1と同じようにガラス被覆を表面に12μmの厚さで施したガラス被覆成形品を得た。炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は6.2GPaであった。
【0086】
[比較例5]
ガラス被覆未処理で炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は4.8GPaであった。
【0087】
[実施例6]
上記複合材料D6を用いて、厚さ0.5mmの熱可塑性炭素繊維樹脂成形品のシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.20mm、0.05~1.0mmである炭素繊維の割合が、全炭素繊維中の85重量%、また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の配向率は91%であった。
【0088】
このシートに実施例1と同じようにガラス被覆を表面に12μmの厚さで施したガラス被覆成形品を得た。炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は19.2GPaであった。
【0089】
[比較例6]
ガラス被覆未処理で炭素繊維が配向しているシートの縦方向弾性率は13.5GPaであった。
【0090】
【表1】
【符号の説明】
【0091】
1 ガラス被覆成形品
2 熱可塑性炭素繊維樹脂成形品
3 貫通孔
4 熱可塑性樹脂
5 炭素繊維
6 ガラス被覆層
11 ガラス被覆成形品
12 熱可塑性炭素繊維樹脂成形品
13 貫通孔
14a シートの上面
14b シートの下面
16 ガラス被覆層
20 熱可塑性樹脂
21 炭素繊維
70 熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料
71 第1の熱可塑性樹脂
72 第2の熱可塑性樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8