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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101776
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】産後うつの判定方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20220630BHJP
【FI】
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216058
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】504059429
【氏名又は名称】ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 由明
(72)【発明者】
【氏名】荘司 美穂
(72)【発明者】
【氏名】塙 香織
(72)【発明者】
【氏名】石黒 浩毅
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】従来よりも多くの産婦の検査を可能とする、産後うつの新規スクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】対象の産後うつの判定において、該対象の家族に対する質問紙のスコアを指標とする方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の産後うつの判定において、該対象の家族に対する質問紙のスコアを指標とする方法。
【請求項2】
前記対象の家族が対象の父及び/又は母である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、前記質問紙が、抑うつに関する質問、赤ちゃんへの愛情に関する質問、気分反応性に関する質問、睡眠に関する質問、集中力に関する質問、興味の消失に関する質問、疲労感に関する質問、自責に関する質問、焦燥感に関する質問、希死念慮に関する質問、易怒性に関する質問及び不安に関する質問からなる群より選択される少なくとも1つを含む、方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法であって、前記質問紙が、「感情価」に関する質問及び「覚醒度」に関する質問を含む、方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法であって、質問紙のスコアが予め設定した値以上の場合に対象の産後うつの程度が高いと判定する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産後うつの程度を判定するための方法、システム、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
周産期の妊産婦のうつ病罹患率は、一般人口におけるそれより高く、10~20%とする報告が多い。通常産前産後のメンタルケアは病院産科や自治体の子育て世代支援センター (支援センター) が担っているが、精神科医が必ずしも関与せず、産科医や助産婦、保健師が担っている。これらの施設での周産期うつ病のスクリーニングはエジンバラ産後うつ病自己評価票 (EPDS)(非特許文献1)にて行われることが多い。しかし、うつ病のスクリーニングを受けることに対する精神的なハードル等から、十分な数の産婦がうつ病のスクリーニングを受けられていないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Cox et al., Detection of postnatal depression. Development of the 10-item Edinburgh Postnatal Depression Scale., Brit. J. Psychiatry, 159:782-786, 1987.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来よりも多くの産婦の検査を可能とする、産後うつの新規スクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況の下、本発明者らは種々の方法について試行錯誤を重ねた結果、意外にも、対象本人でなく対象の家族を対象とした仲間評定であっても対象本人が受診するスクリーニングと同様に産婦のうつ病の可能性を判定し得ることを見出した。本発明はかかる新規の知見に基づくものである。従って、本発明は以下の項を提供する:
項1.対象の産後うつの判定において、該対象の家族に対する質問紙のスコアを指標とする方法。
【0006】
項2.前記対象の家族が対象の父及び/又は母である、項1に記載の方法。
【0007】
項3.項1又は2に記載の方法であって、前記質問紙が、抑うつに関する質問、赤ちゃんへの愛情に関する質問、気分反応性に関する質問、睡眠に関する質問、集中力に関する質問、興味の消失に関する質問、疲労感に関する質問、自責に関する質問、焦燥感に関する質問、希死念慮に関する質問、易怒性に関する質問及び不安に関する質問からなる群より選択される少なくとも1つを含む、方法。
【0008】
項4.項1又は2に記載の方法であって、前記質問紙が、「感情価」に関する質問及び「覚醒度」に関する質問を含む、方法。
【0009】
項5.項1~4のいずれか一項に記載の方法であって、質問紙のスコアが予め設定した値以上の場合に対象の産後うつの程度が高いと判定する、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、対象である産婦本人ではなく、対象の家族が質問紙に回答することにより検査を行うことができる。産婦の心身の健康を願う対象の家族による検査であることにより、従来の産婦本人が行う検査と比較して、より多くの産婦の検査を行い、産後うつの可能性がある対象をより多く判別することができる。産後うつの可能性がある対象は医師による診察によってより正確な診断を受け、産後うつと診断された場合には適切な処置を受けることができるため、産後うつ患者がその診断を受けずに放置されてしまう問題の解決に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
産後うつの判定方法
本発明は、対象の産後うつの判定において、該対象の家族に対する質問紙のスコアを指標とする方法を提供する。
【0012】
本発明において産後うつとは産婦のうつ病を意味する。典型的な実施形態において、出産後2年以内、より典型的には1年以内の産婦のうつ病を意味する。本発明においては、産後にうつ病が発症した産婦だけでなく、妊娠中に発症し、産後もうつ病の症状が継続している産婦も、「産後うつの産婦」の概念に包含される。
【0013】
本発明において、対象の家族としては、対象の父、母、夫、子供等が挙げられるが、対象の父及び/又は母が好ましい。また、本発明において、前記質問紙に含まれる質問としては、抑うつに関する質問、赤ちゃんへの愛情に関する質問、気分反応性に関する質問、睡眠に関する質問、集中力に関する質問、興味の消失に関する質問、疲労感に関する質問、自責に関する質問、焦燥感に関する質問、希死念慮に関する質問、易怒性に関する質問、不安に関する質問等が挙げられる。本発明の方法には、これらの質問のうち1種類を含むものだけでなく、これらの質問のうち複数種類(例えば、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上、10種類以上、11種類以上、12種類)を含むものも包含される。本発明においては、上記質問のうち6種類以上を含むものが好ましく、8種類以上を含むものがより好ましく、10種類以上を含むものがさらに好ましい。本発明の典型的な実施形態において、前記質問紙に含まれる質問は、対象自身が対象自身の精神状態等を回答する形式ではなく、対象の家族の視点から感じた対象の状態についての質問(例えば、対象の様子についての質問)を回答する形式をとる。従って、各質問(尺度)について、対象の家族から見て対象が下記の状態に当てはまるか否か等を回答することにより検査をすることができる。典型的な実施形態において、質問紙に含まれる各カテゴリーの質問(尺度)の例としては以下のようなものが挙げられる。
産後うつ本発明において、抑うつに関する質問(尺度)としては、例えば、「落ち込んで、ふさぎこんでいることがある」、「涙ぐむことがある」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、赤ちゃんへの愛情に関する質問(尺度)としては、例えば、「子供をかわいいと思えないという」、「子どもの成長を喜べないようだ」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、気分反応性に関する質問(尺度)としては、例えば、「生活が楽しそうに見えない」、「何をするにも、表情がなくなってきた」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、睡眠に関する質問(尺度)としては、例えば、「極端に眠れていないようだ」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、集中力に関する質問(尺度)としては、例えば、「子どもの世話や日常の家事に集中できていないようだ」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、興味の消失に関する質問(尺度)としては、例えば、「服装など、身だしなみがひどく乱れている」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、疲労感に関する質問(尺度)としては、例えば、「育児に疲れたという」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、自責に関する質問(尺度)としては、例えば、「自分を責めるようなことをいう」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、焦燥感に関する質問(尺度)としては、例えば、「育児や家事がうまくできていないと焦っている」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、希死念慮に関する質問(尺度)としては、例えば、「自分なんかいなくなってしまえばよいという」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、易怒性に関する質問(尺度)としては、例えば、「些細なことでもイライラするようだ」といったものが挙げられる。産後うつ本発明において、不安に関する質問(尺度)としては、例えば、「心配ごとや不安をいう」といったものが挙げられる。本発明においては、「感情価」に関する質問(尺度)が含まれていることが好ましい。「感情価」に関する質問(尺度)とは、典型的には、本願実施例2、3の手法で算出した因子1の因子負荷量の数値が0.3以上の質問(尺度)を意味する。「感情価」に関する質問(尺度)には、例えば、焦燥感に関する質問(尺度)、興味の喪失に関する質問(尺度)、抑うつに関する質問(尺度)、不安に関する質問(尺度)、易怒性に関する質問(尺度)、疲労感に関する質問(尺度)、睡眠に関する質問(尺度)、赤ちゃんへの愛情に関する質問(尺度)、等が含まれる。本発明においては、「覚醒度」に関する質問(尺度)が含まれていることが好ましい。「覚醒度」に関する質問(尺度)とは、典型的には、本願実施例2、3の手法で算出した因子2の因子負荷量の数値が-0.3以下の質問(尺度)を意味する。「覚醒度」に関する質問(尺度)には、例えば、気分反応性に関する質問(尺度)、希死念慮に関する質問(尺度)、集中力に関する質問(尺度)、自責に関する質問(尺度)、赤ちゃんへの愛情に関する質問(尺度)、等が含まれる。また、本発明においては、「感情価」に関する質問、「覚醒度」に関する質問が含まれていることが好ましい。
本発明においては、上記抑うつに関する質問(尺度)、赤ちゃんへの愛情に関する質問(尺度)、気分反応性に関する質問(尺度)、睡眠に関する質問(尺度)、集中力に関する質問(尺度)、興味の消失に関する質問(尺度)、疲労感に関する質問(尺度)、自責に関する質問(尺度)、焦燥感に関する質問(尺度)、希死念慮に関する質問(尺度)、易怒性に関する質問(尺度)及び不安に関する質問(尺度)が全て含まれているものが好ましい。
また、本発明において、質問紙に含まれる質問の数としては特に限定されないが、例えば、2~30問、好ましくは5~25問、より好ましくは8~20問の範囲で設定できる。短時間で検査を行うことができかつ精度の高い検査をする観点から上記の範囲の問題数の質問紙が好ましい。本発明においては、対象の家族に質問紙に含まれる質問に回答をさせ、得られた回答から対象が産後うつにある蓋然性を判定することができる。より具体的には、例えば、質問紙のスコアが予め設定した値以上の場合に対象が産後うつにある蓋然性が高いと判定することができる。例えば、質問紙に対する対象の家族の回答のスコアが予め設定した値以上の場合に、「対象が産後うつである可能性を否定できない」と判定することができる。より具体的には、例えば、対象の家族が回答したスコアが、質問紙に含まれるスコアの最大の値に対し予め設定したカットオフ値T1以上の割合の場合に、「対象が産後うつである可能性を否定できない」(もしくは、対象が産後うつである可能性がある)と判定することができる。かかる実施形態において対象が産後うつである可能性を否定できないと判定されれば、対象の家族又は対象に対し、医師による対象の産後うつの診察を勧めることができる。かかる実施形態において、産後うつである可能性を否定できない、と判定するか否かのカットオフ値T1としては、例えば、1≦T1の範囲、好ましくは9≦T1の範囲で予め設定しておくことが好ましい。
【0014】
本発明の一実施形態においては、質問紙に対する対象の家族の回答のスコアが予め設定した値以上の場合に、「対象が産後うつである蓋然性が高い」と判定することができる。より具体的には、例えば、対象の家族が回答したスコアが、質問紙に含まれるスコアの最大の値に対し予め設定したカットオフ値T2以上の割合の場合に、「対象が産後うつである蓋然性が高い」と判定することができる。かかる実施形態において対象が産後うつである可能性を否定できないと判定されれば、対象の家族又は対象に対し、医師による対象の産後うつの診察をより強く勧めることができる。かかる実施形態において、対象が産後うつである蓋然性が高い、と判定するか否かのカットオフ値T2としては、例えば、2≦T2の範囲、好ましくは16≦T2の範囲で予め設定しておくことが好ましい。
【0015】
また、本発明の好ましい実施形態において、カットオフ値T1及びカットオフ値T2の両方を使用して、「対象が産後うつである可能性は低い」、「対象が産後うつである可能性を否定できない」(もしくは、対象が産後うつである可能性がある)及び「対象が産後うつである蓋然性が高い」のいずれであるかを判定することもできる。具体的には、対象の家族が回答したスコアがカットオフ値T1未満の場合、「対象が産後うつである可能性は低い」と判定し、スコアがカットオフ値T1以上かつカットオフ値T2未満の場合「対象が産後うつである可能性を否定できない」(もしくは、対象が産後うつである可能性がある)と判定し、スコアがカットオフ値T2以上の場合「対象が産後うつである蓋然性が高い」と判定することができる。
【0016】
本発明によれば、対象本人に試験をしなくとも産婦のうつ病の可能性を判定し得るため有用である。また、評定者を対象のパートナーに限定せずに、その父母に拡張することで、パートナーが不在であるシングルマザーやシングルファーザーにも適用できる点でも本発明は有用である。さらに、本発明の利点としては、対象の父母は実、義理合わせて4人であるため、対象一人当たりの評定者数が多く、より確実に評定者を確保できるという側面もある。
【0017】
産後うつの程度を判定するためのシステム
別の実施形態において、本発明は、質問紙のスコアを入力する手段、及び
該入力手段から入力されたスコアを用いて産後うつの程度を表わす係数を算出する手段、及び
上記算出する手段により算出された係数が予め設定された値以上の場合に、対象が産後うつである可能性を否定できない(もしくは、対象が産後うつである可能性がある)と判定する手段
を含む産後うつの程度を判定するためのシステムであって、質問紙のスコアが、対象の家族により入力される、システムを提供する。具体的には、例えば、抑うつに関する質問のスコア、赤ちゃんへの愛情に関する質問のスコア、気分反応性に関する質問のスコア、睡眠に関する質問のスコア、集中力に関する質問のスコア、興味の消失に関する質問のスコア、疲労感に関する質問のスコア、自責に関する質問のスコア、焦燥感に関する質問のスコア、希死念慮に関する質問のスコア、易怒性に関する質問のスコア及び不安に関する質問のスコアからなる群より選択される少なくとも1種(好ましくはこれらの全て)のスコアを入力する手段
該入力手段から入力されたスコアを用いて産後うつの程度を表わす係数を算出する手段、及び
上記算出する手段により算出された係数が予め設定された値以上の場合に対象が産後うつである可能性を否定できない(もしくは、対象が産後うつである可能性がある)と判定する手段
を含むうつ病の程度を判定するためのシステムであって、上記質問のスコアが、対象の家族により入力される、システム等が挙げられる。
【0018】
入力手段としては、例えば、コンピュータに接続されるキーボード、マウス等の周辺機器、演算手段を備える装置に設けられたボタン、タッチパネル等が挙げられる。また、本発明において、係数を算出する手段及び産後うつの程度を判定する手段(これらを合わせて演算手段と言い換えることができる)としては、CPU、当該CPUを備えたコンピュータ等を挙げることができる。
【0019】
本実施形態において、スコアを入力する手段は、各スコアを数値として入力する形式であってもよく、対象の家族が設問に対する回答を選択して入力し、各選択肢に予め割り当てられた数値が入力される形式であってもよい。例えば、対象の家族が設問に対し、選択肢「はい、いつもそうだった」、「はい、ときどきそうだった」、「いいえ、あまりたびたびではなかった」、「いいえ 、まったくそうではなかった」及び「わからないので答えられない」から選択をして回答を入力すると、各選択肢に予め割り当てられた数値(例えば、「はい、いつもそうだった」が3点、「はい、ときどきそうだった」が2点、「いいえ、あまりたびたびではなかった」が1点、「いいえ 、まったくそうではなかった」及び「わからないので答えられない」が0点)が入力される形式等が挙げられる。
【0020】
また、スコアを入力する手段は、上記のように各設問毎にスコアを入力する形式であっても、予め全ての設問に対し回答を用意した上でスコアの合計点を入力する形式であってもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、入力手段から入力されたスコアを用いて産後うつの程度を表わす係数を算出する手段(演算手段)は、前記入力手段に入力された数値及び予め設定された式に従い、係数を算出する。本発明の典型的な実施形態においては、演算手段は、例えば、各設問毎に入力されたスコアを足し合わせ、合計点を係数する。また、予め全ての設問に対し回答を用意した上でスコアの合計点を入力する実施形態においては、係数演算手段は、入力されたスコアの合計点をそのまま産後うつの程度を表わす係数とすることができる。
【0022】
これらの実施形態において、本発明のシステムは、算出する手段により算出された係数が予め設定された値以上の場合に産後うつの程度が高いと判定する手段を含む。予め設定された値としては、「産後うつの判定方法」で前述したカットオフ値T1(%)等を使用することができる。
【0023】
また、別の実施形態において、本発明は、質問紙のスコアを入力する手段、及び
該入力手段から入力されたスコアを用いて産後うつの程度を表わす係数を算出する手段、及び
上記算出する手段により算出された係数が予め設定された値以上の場合に、対象が産後うつである蓋然性が高いと判定する手段
を含む産後うつの程度を判定するためのシステムであって、質問紙のスコアが、対象の家族により入力される、システムを提供する。具体的には、例えば、抑うつに関する質問のスコア、赤ちゃんへの愛情に関する質問のスコア、気分反応性に関する質問のスコア、睡眠に関する質問のスコア、集中力に関する質問のスコア、興味の消失に関する質問のスコア、疲労感に関する質問のスコア、自責に関する質問のスコア、焦燥感に関する質問のスコア、希死念慮に関する質問のスコア、易怒性に関する質問のスコア及び不安に関する質問のスコアからなる群より選択される少なくとも1種(好ましくはこれらの全て)のスコアを入力する手段
該入力手段から入力されたスコアを用いて産後うつの程度を表わす係数を算出する手段、及び
上記算出する手段により算出された係数が予め設定された値以上の場合に対象が産後うつである蓋然性が高いと判定する手段
を含むうつ病の程度を判定するためのシステムであって、上記質問のスコアが、対象の家族により入力される、システム等が挙げられる。
【0024】
かかる実施形態において、スコアの入力手段、演算手段は前述と同様である。当該実施形態において、予め設定された値としては、「産後うつの判定方法」で前述したカットオフ値T2等を使用することができる。
【0025】
また、システムの実施形態においても、「産後うつの判定方法」で前述したように、対象が「産後うつである可能性は低い」、「産後うつである可能性を否定できない」(もしくは、産後うつである可能性がある)及び「産後うつである蓋然性が高い」のいずれであるかを判定することもできる。かかる場合、前述したカットオフ値T1(%)及びカットオフ値T2の組合せを前述のように使用することができる。
【0026】
これらのシステムの実施形態においても、「産後うつ」、「対象の家族」等の用語の定義は、前述の通りである。本発明のシステムは、前述した本発明にかかる産後うつの程度を判定するための方法を実施するために用いることができる。
【0027】
また、本発明のシステムは、さらに算出結果を表示する手段(モニター、スクリーン等)を備えていても良い。本発明において、入力手段と、演算手段(コンピュータ、CPU等)と、任意選択の結果表示手段とは一つの機器に組み込まれていても、これらの手段が別々の機器であってもよい。また、本発明においては、前記入力手段及び結果表示手段が共通のタッチパネル画面であってもよい。
【0028】
産後うつの程度を判定するためのプログラム
別の実施形態において、本発明は、コンピュータに、
質問紙のスコアを取得する第1機能
第1機能で取得されたスコアの全てを用いて産後うつの程度を表わす係数を算出する第2機能、及び
上記第2機能により算出された係数が予め設定された値よりも大きい場合に対象が産後うつである可能性を否定できない(もしくは、対象が産後うつである可能性がある)と判定する第3機能を実現させるためのプログラムであって、質問紙のスコアが対象の家族により回答されたものである、プログラム
を提供する。
【0029】
より具体的には、本発明は、例えば、コンピュータに、
抑うつに関する質問のスコア、赤ちゃんへの愛情に関する質問のスコア、気分反応性に関する質問のスコア、睡眠に関する質問のスコア、集中力に関する質問のスコア、興味の消失に関する質問のスコア、疲労感に関する質問のスコア、自責に関する質問のスコア、焦燥感に関する質問のスコア、希死念慮に関する質問のスコア、易怒性に関する質問のスコア及び不安に関する質問のスコアからなる群より選択される少なくとも1種(好ましくはこれらの全て)のスコアを取得する第1機能
第1機能で取得されたスコアの全てを用いて産後うつの程度を表わす係数を算出する第2機能、及び
上記第2機能により算出された係数が予め設定された値よりも大きい場合に対象が産後うつである可能性を否定できない(もしくは、対象が産後うつである可能性がある)と判定する第3機能を実現させるためのプログラムであって、質問紙のスコアが対象の家族により回答されたものである、プログラム
を提供する。
質問紙のスコアを取得する第1機能
第1機能で取得されたスコアの全てを用いて産後うつの程度を表わす係数を算出する第2機能、及び
上記第2機能により算出された係数が予め設定された値よりも大きい場合に対象が産後うつである蓋然性が高いと判定する第3機能を実現させるためのプログラムであって、質問紙のスコアが対象の家族により回答されたものである、プログラム
を提供する。
【0030】
より具体的には、本発明は、例えば、コンピュータに、
抑うつに関する質問のスコア、赤ちゃんへの愛情に関する質問のスコア、気分反応性に関する質問のスコア、睡眠に関する質問のスコア、集中力に関する質問のスコア、興味の消失に関する質問のスコア、疲労感に関する質問のスコア、自責に関する質問のスコア、焦燥感に関する質問のスコア、希死念慮に関する質問のスコア、易怒性に関する質問のスコア及び不安に関する質問のスコアからなる群より選択される少なくとも1種(好ましくはこれらの全て)のスコアを取得する第1機能
第1機能で取得されたスコアの全てを用いて産後うつの程度を表わす係数を算出する第2機能、及び
上記第2機能により算出された係数が予め設定された値よりも大きい場合に対象が産後うつである蓋然性が高いと判定する第3機能を実現させるためのプログラムであって、質問紙のスコアが対象の家族により回答されたものである、プログラム
を提供する。
【0031】
当該プログラムの実施形態においても、「産後うつ」、「対象の家族」、「予め設定された値」等の用語の定義は、前述の通りである。本発明のプログラムは、前述した本発明にかかる産後うつの程度を判定するための方法を実施するために用いることができる。
【0032】
また、これらのプログラムの実施形態においても、「産後うつの判定方法」で前述したように、対象が「産後うつである可能性は低い」、「産後うつである可能性を否定できない」(もしくは、産後うつである可能性がある)及び「産後うつである蓋然性が高い」のいずれであるかを判定することもできる。かかる場合、前述したカットオフ値T1及びカットオフ値T2の組合せを前述のように使用することができる。
【0033】
以下に実施例として具体的な実施形態を用いて本発明を例示的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例0034】
方法
被験者と質問紙尺度
過去12か月間に孫が生まれた被験者 (以下、父母) をアンケート代行会社のパネルに登録されている被験者から無作為抽出し、質問紙「父母による産婦仲間評定尺度(MMSP)」によるアンケートを実施した。つぎに、子供が生まれた息女 (以下、妊産婦) に対し、EPDSをウェブ・アンケートにて実施した。質問項目を以下に示す:
F1. あなたの年齢をお答えください。
F2. 今回のお産を除いて、あなたがこれまで「出産した」回数をお答えください。
F3. 今回のお産を除いて、あなたがこれまで「妊娠した」回数をお答えください。
F4.今回のお産は多胎児かどう答えください。
Q1. 以下の質問に、読んで感じたとおりにお答えください
1. ユーモアのセンスがある
2. いつも楽しめることを探している
3. 新しいことをすることが好きだ
4. のびのびと振る舞うこができる
5. 人見知りをしない
6. 人を笑わせることが得意である
7. つねにその場を楽しむことができる
8. みんなとにぎやかにさわぐのが好きだ
9. 明るい
10. よく笑う
11. 他人の言うことに左右されやすい
12. 他人の評価が気になる
13. 他人の目を気にして行動しがちだ
14. 一度決めたことがよくぐらつく
15. 他人に指図されることが多い
16. 人から言われた通りに行動してしまうことが多い
17. 人の顔色をうかがってしまう
18. 人の言うことを気にする
19. 優柔不断である
20. 決断することが苦手である
※上記1.~20.について「はい」「どちらでもない」「いいえ」から1つを選択する
Q2. 産後の気分についておたずねします。あなたも赤ちゃんお元気ですか。最近の気分をチェックしてみましょう。今日だけでなく、過去1週間にあなたが感じたことに最も近い答えに〇をしてください
1. 笑うことができたし、物事の面白いもわかった
2. 物事を楽しみにして待った
3. 物事がうまくいかなった時、自分を不必要に責めた
4.はっきりとした理由もないのに不安になったり、心配したりした
5. はっきりとした理由もないのに恐怖に襲われた
6. することがたくさんあって大変だ
7. 不幸せな気分ので、眠りにくかった
8. 悲しくなったり、惨めになったりした
9. 不幸せな気分だったので、泣いていた
10. 自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた
※上記1.~10.の各設問について4つの選択肢(例えば、1.については、「いつもと同様にできた」「あまりできなかった」「明らかにできなかった」「全くできなかった」)から1つを選択する
Q3. 子育てや生活について、困っていることがあればお答えください。
上記尺度項目のほかに、人口統計学的特性として父母の年齢、性別、居住都道府県、最終学歴、職業、妊産婦に対する懸念事項 (自由記述) を質問した。妊産婦には、年齢、過去の妊娠回数、出産回数、子供に対する懸念事項 (自由記述) を質問した。回答時間も同時に記録し、データとして受領した。
【0035】
被験者とサンプルサイズ
MMSP社会通念上有効な研究となると期待できるサンプルサイズで行うこととした。周産期うつ病の罹患率は16%であることを勘案し、10名の周産期うつ病者が含まれるためには62.5人のサイズが必要でありため、収集人数を63人とした。
【0036】
回答収集の方法と期間
アンケートは、マーケティング支援会社 (株式会社ネオマーケティング、東京) の日本全国のパネル登録者を対象に、2020年6月28日にウェブ経由で実施した。63組のデータセットが得られるまで実施し、合計16,134人を対象に実施した。
【0037】
統計解析および多変量解析
MMSPのスコアは、「はい、いつもそうだった」を3点、「はい、ときどきそうだった」を2点、「いいえ、あまりたびたびではなかった」を1点、「いいえ 、まったくそうではなかった」と「わからないので答えられない」を0点とした和得点で示した。統計計算はSPSS Ver.19もしくはExcelを使用した。因子分析は、斜交回転法に直接オブリミン法 (Kaiserの正規化を伴う)、因子抽出法に一般化した最小二乗法を採用した。因子数はスクリープロット基準に従って決定した。その他の解析で用いた統計・多変量解析手法は、以下に示す。
1. 項目-合計相関
質問紙尺度の均一性を検討する手法。個々の質問項目と、その項目以外の質問項目素点の合計との相関を計算する。相関係数が低すぎる場合は、その項目の尺度に対する影響が低いことを示し、除外の対象とする。逆に高すぎる場合は、他の項目を言い換えただけであることがあり、項目を間引くか統合する。
2. 探索的因子分析
質問紙尺度の均一性を検討する手法。多数の項目から構成される質問紙尺度に潜在する因子を抽出し、各因子の構成要素となる項目を明らかにする。因子は質問紙の下位尺度に位置づけられる。
3. 有意差検定(Welchのt検定)
2つの母集団の質問紙尺度スコア等の平均値が等しいという帰無仮説を検定する手法。とくにWelchのt検定は、非等分散を示す2つの標本に用いられる。
4. ROC曲線と閾値
受信者操作特性(ROC)と呼ばれ、検査結果によって判定された陽性者と陰性者の割合をプロットした曲線。X軸に1-特異度(1-陰性正診率)、Y軸に感度(陽性正診率)を取り、曲線下面積をAUCと呼ぶ。AUCが高いほど判別モデルの性能が高い。また特異度と感度の数字から、ROC曲線上のある点での測定値を閾値とする。
5. クロンバックのα
質問紙尺度スコアを特性尺度として用いるときに、各質問項目が全体として同じ概念や対象を測定したかどうか(内的整合性)を評価する信頼係数。0から1までの値をとり、1に近いほど信頼性が高い。
6. 等分散性の検定(Leveneの検定)
2つの母集団から得られた質問紙尺度スコア等の分散が等しいという帰無仮説を検定する手法。有意差検定の前に実施する。
【0038】
実施例1: EPDS陽性者と陰性者の人口統計学的特性
妊産婦のEPDSスコアに基づき、9点以上を基準陽性者として群分けした。基準陽性者及び基準陰性者各群における年齢等を表1にまとめた。基準陽性者は11人 (18%) 存在し、一般に言われている割合に近く、試験デザイン通りに10人以上の陽性者を得た。EPDSスコアは基準陽性群と基準陰性群各々5.1±1.4点、11.1±2.3点であり、有意水準0.001で有意差が認められた。これらの群間の他の特性の検定として、妊産婦の妊娠中絶もしくは流産経験回数を、過去の妊娠回数と出産回数の差分から計算した。その結果、各々0.08±0.27回、0.55±0.82回であり、有意水準0.01で有意差が認められた。人数では、EPDS陽性者で4人 (全EPDS陽性者の36%) が経験しており、EPDS陰性者の経験者4人 (8%) を大きく上回った。過去の妊娠回数および出産回数には有意差は認められなかったことから、経産婦であるかではなく、過去に妊娠中絶もしくは流産経験をもつかどうかが、周産期の抑うつに関連していると考えられる。よって、質問紙により直接中絶や流産の経験の有無を得ることもよいし、もしくは質問紙により過去の妊娠回数ならびに過去の出産回数を得て、それらの差を算出してもよい。一方で、父母の婚姻状況にも有意差が認められた。基準陽性群では父母が「死別もしくは離婚」している割合が2%であるのに対し、基準陰性群では27%であり有意に高値となった。しかし、初孫が生まれた人の平均年齢と平均生存率からは、父母とも存命が76.7%、どちらか一方が存命は22.1%、両者とも亡くなっているのは1.2%と計算され、離婚率も加味されることから、基準陰性群がむしろ低いと考える方が妥当であろう。この理由は明らかではないが、父母共に存命で一緒に生活している家庭の方が、このようなアンケート参加への理解が得られやすいのかもしれない。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例2:MMSPの検討
本試験において父母に対するアンケートに使用したMMSPは17項目からなっている (表2)。基準陽性群と陰性群の比較では、17項目のMMSPは有意水準0.001にて有意差が認められ、基本的には周産期うつ者のスクリーニングに使用できることが示された。次に、回答にそれほどの負担が強いられるわけではないが、回答者の負担軽減や過剰評価を回避するため、削除が可能な項目を検討した。表2に、MMSPの各項目について、項目-合計相関の係数、EPDSとの相関係数、因子分析による因子負荷量の結果を示す。加えて、すでに議論した人工妊娠中絶もしくは流産回数との相関係数も検討した。因子分析の結果、2つの因子の存在が見出され、因子1は不安や抑うつなどの「感情価」に関する因子、因子2は集中力や精神運動性などの「覚醒度」に関すると推測された。両因子への因子負荷量が0.4を下回る項目は、MMSP_04「極端に眠れていないようだ」と、MMSP_17「やせた、もしくは太ったようだ」の2項目であった。両者とも因子負荷量は0.3を下回っておらず、許容範囲内と考えられたが、明らかに上述の因子では説明が困難と思われた。項目-合計相関では、MMSP_09「しゃべりや歩くのが遅くなったようだ」とMMSP_17 (前述) にて相関係数が0.5を下回った。また、EPDSとの相関ではMMSP_17 (前述) にて相関係数が有意ではなかった。なお、MMSP_09とMMSP_17は、人工妊娠中絶もしくは流産回数との間にも有意な相関は認められなかった。これらの結果を総合し、出産による身体的変化によっても起こることが予想されるMMSP_17を削除の第一候補とし、MMSP_09を第二候補とした。その他の項目は、重症度の抑うつ者で見られる項目であり、削除対象にはしなかった。MMSP_17を削除したMMSP (16-item) と両項目を削除したMMSP (15-item) はどちらも基準陽性群にて有意に高値であった (表3)。また、基準陽性者を判別するROC曲線下面積は0.825±0.074となり、漸近確率は有意水準0.001で有意であった。これらの結果を総括した上で、回答者の負担軽減の観点から、15項目のMMSPを用いることが好ましいと考えられる。従って、後述の実施例3の評価は、MMSP (15-item)用いて行った。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
実施例3: MMSP (15-item) の主要アウトカム評価
目的1: MMSP(15-item)の均一性を、項目-合計相関、因子分析にて評価する
MMSP(15-item)の項目-合計相関係数を、表4に示す。ここで、項目-合計相関係数とは個々の質問項目と、その項目以外の質問項目素点の合計との相関を意味し、ある尺度で0.3を下回ると当該項目は尺度に対する影響が低いと解釈され、ある尺度で0.9を上回ると当該項目は他の項目を言い換えただけであると解釈される。すべての項目で相関係数は0.5を上回り、0.9を上回る項目は存在しなかった。
【0044】
【表4】
【0045】
また、MMSPの項目-尺度相関係数を、表5に示す。ここで、項目-尺度相関係数とは個々の質問項目と、その項目以外の質問項目素点の合計との相関を意味し、ある尺度で0.3を下回ると当該項目は尺度に対する影響が低いと解釈され、ある尺度で0.9を上回ると当該項目は他の項目を言い換えただけであると解釈される。すべての項目で相関係数は0.5を上回ったが、MMSP_14「心配ごとや不安をいう」で0.9を上回り、過剰相関の可能性が示唆された。
【0046】
【表5】
【0047】
因子数を2に固定して因子分析を行った。斜交回転した結果を表6に示す。
【0048】
【表6】
【0049】
各質問項目の因子負荷量の絶対値はおおむね0.4以上であり、MMSP(15-item)は2つの下位尺度により構成されることが示唆された。「実施例2 MMSPの検討」の項で考察したのと同様、因子1は不安や抑うつなどの「感情価」に関する因子、因子2は集中力や精神運動性などの「覚醒度」に関すると推測された。各因子に属する項目数も、因子1および2で各々9項目および6項目であり、バランスは許容範囲と考えられた。以上の結果を総合し、MMSP(15-item)の尺度内均一性は妥当であると判断した。
【0050】
目的2:MMSP(15-item)の信頼性を、クロンバックのα係数により評価する
上記表5に記載の結果から、MMSP(15-item)のクロンバックのα係数を算出した。クロンバックのαは0.944であり、十分な信頼性があることが確認された。
【0051】
実施例4:
MMSPの閾値を1.5 (実際は整数値なので2以上を陽性、2未満を陰性とする) として父母の回答を層別化し、次に妊産婦のEPDSにて各群を層別化した結果を、表7に示す。MMSP陽性者は20人 (33%) を占め、3分の1の妊産婦で、父母から見て抑うつの兆候が現れていた。MMSP陽性者では、実際に産後うつが疑われるEPDS陽性者は8人 (EPDS陽性者の40%) であった。一方、MMSP陰性者では、EPDS陽性者は3人 (MMSP陽性者の7%) であった (χ二乗検定にてp=0.00183)。この結果は、MMSP陽性群では有意に EPDS陽性者が多く、スクリーニング法として機能していることを示している。これらの群間では、父母の性別や実か義理か、接触頻度には有意差が認められなかったが、陽性者の人数が少ないため、今後も検討が必要であろう。MMSP/EPDS両尺度陰性群では-10.3±5.9点であり、健常者平均-6.5±6.6よりも低値であることから、妊産婦では子育てに対する過剰適応は平均的には低い傾向と考えられた。また、EPDSが陰性であってもMMSPが陽性であれば、過剰適応によるストレスを抱える妊産婦が多いと推測される。
【0052】
【表7】
【0053】
実施例5:人工妊娠中絶/流産と抑うつ
人工妊娠中絶もしくは流産の経験では、全EPDS陽性者に比べてMMSP陽性/EPDS陽性者ではさらに回数が増え、8人中4人 (50%) が経験者であった。この結果は、人工妊娠中絶もしくは流産の経験が著しく妊産婦の抑うつ状態に影響を与えることを示している。そこで、人工妊娠中絶もしくは流産経験者と未経験者で群分けを行い、質問紙スコアやその他の人口統計学的特性を比較した (表8)。経験者は、MMSPおよびEPDSで有意に高値を示した。また、妊産婦、父母共に若齢傾向であった。各項目の平均素点の差の検定 (尺度ごとにボンフェローニの補正を実施) では、父母によるMMSPにて、MMSP_08「自分を責めるようなことをいう」のp値が顕著に低く (p=2.52×10-5)、MMSP_03「生活が楽しそうに見えない」、MMSP_15「子供の成長を喜べないようだ」、MMSP_14「心配事や不安をいう」、MMSP_5「子どもの世話や日常の家事に集中できていないようだ」、MMSP11「自分なんかいなくなってしまえばよいという」で経験群が有意に高値を示した。一方、EPDS項目では、EPDS_10「自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた」、EPDS_07「不幸せな気分なので、眠りにくかった」、EPDS_05「はっきりとした理由もないのに不安になったり、心配したりした」、EPDS_09「不幸せな気分だったので、泣いていた」が経験群で有意に高値であった。これらの結果から、人工妊娠中絶もしくは流産経験者は、気分反応性が低下し、自死念慮、不幸感が高くなる特徴が認められた。
【0054】
【表8】