(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101779
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】検査方法及び検査機構
(51)【国際特許分類】
G01N 29/07 20060101AFI20220630BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20220630BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20220630BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20220630BHJP
【FI】
G01N29/07
G01N29/24
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216069
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】516293510
【氏名又は名称】小石 明
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】小石 明
【テーマコード(参考)】
2G024
2G047
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA12
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G047AA10
2G047BA03
2G047BA05
2G047BC02
2G047BC18
2G047CA01
2G047CA03
2G047CB01
2G047EA10
2G047GB17
2G047GG30
2G047GG46
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】検査対象物を非破壊的に評価する検査において、ターゲットとなる領域からの反射波を精度高く捉えることができ、かつ、再現性に優れた計測及び解析が可能な検査方法及び検査機構を提供する。
【解決手段】本発明を適用した検査機構の一例である検査機構Aは、加振器1と、センサ群2と、計測装置3と、解析装置4を備えている。また、センサ群2は、AEセンサ20と、AEセンサ21と、AEセンサ22の3つのAEセンサから構成されている(
図2参照)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を、弾性波を用いて非破壊的に評価する検査方法であって、
前記検査対象物中のP波速度を計測、または、推定するP波速度取得工程と、
前記検査対象物における所定の面を加振する加振工程と、
前記所定の面の異なる位置に設けた複数の振動センサで、前記加振に基づく振動波形を検出する振動波形取得工程と、
複数の前記振動センサで測定された前記振動波形の情報、及び、前記加振工程における加振のタイミングの情報であるトリガー情報に基づき、前記振動波形の中から、ターゲット領域から反射したP波の波形を識別すると共に、前記トリガー情報から反射した前記P波の波形の観測が開始された時刻までの時間の情報であるP波観測時刻情報を取得するP波反射情報取得工程と、
前記P波速度取得工程で得られた前記P波速度と、前記P波反射情報取得工程で得られた前記P波観測時刻情報に基づき、前記検査対象物における前記所定の面からターゲット領域までの深度を算出する深度算出工程とを備える
検査方法。
【請求項2】
前記P波反射情報取得工程は、複数の前記振動センサで測定された前記振動波形の情報について、複数の波形における、位相が略一致する領域、または、位相が合う領域に基づき、反射した前記P波の波形を識別する
請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記振動センサは、第1の振動センサと、第2の振動センサ、及び、第3の振動センサが3つ設けられ、
前記所定の面を平面視した際に、前記第1の振動センサと前記第2の振動センサを結ぶ方向と、前記第1の振動センサと前記第3の振動センサを結ぶ方向が、略直交する方向となるように、前記第1の振動センサ、前記第2の振動センサ及び前記第3の振動センサが配置された
請求項1または請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記加振工程は、加振する位置を変えて、複数回、加振を行い、
前記P波反射情報取得工程は、複数回の加振から測定された、複数の振動波形を加算して、反射した前記P波の波形を識別する
請求項1、請求項2または請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記加振工程における加振は、圧電素子を介して、電気入力を機械出力に変換して加振する加振器を用いて行い、
前記トリガー情報は、前記圧電素子への加振を指示する制御信号の発信時刻の情報である
請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
前記加振工程における加振は、前記所定の面に配置した被打撃部を、打撃部材で打撃することで行い、
前記トリガー情報は、被打撃部を打撃部材で打撃することで繋がって、電流が流れるトリガー検出回路における、電流を検知したタイミングの情報である
請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載の検査方法。
【請求項7】
検査対象物を、弾性波を用いて非破壊的に評価する検査機構であって、
前記検査対象物における所定の面を加振すると共に、前記加振のタイミングの情報であるトリガー情報が抽出可能に構成された加振機構と、
前記所定の面の異なる位置に配置される複数の振動センサで構成され、前記加振機構による前記所定の面への加振に基づく振動波形を検出する振動波形取得手段と、
複数の前記振動センサの少なくとも1つである、または、前記振動センサとは別に設けられ、前記検査対象物のP波速度を計測するP波速度取得手段と、
前記振動波形の中から反射したP波の波形を識別し、かつ、前記トリガー情報から前記P波の波形の観測が開始された時刻までの時間の情報を把握するために、複数の前記振動センサで測定された前記振動波形の情報、及び、前記トリガー情報を取得するP波反射情報取得手段とを備える
検査機構。
【請求項8】
前記振動センサは、第1の振動センサと、第2の振動センサ、及び、第3の振動センサが3つ設けられ、
前記所定の面を平面視した際に、前記第1の振動センサと前記第2の振動センサを結ぶ方向と、前記第1の振動センサと前記第3の振動センサを結ぶ方向が、略直交する方向となるように、前記第1の振動センサ、前記第2の振動センサ及び前記第3の振動センサが配置された
請求項7に記載の検査機構。
【請求項9】
前記第1の振動センサ、前記第2の振動センサ及び前記第3の振動センサの配置位置を規定する治具を備える
請求項8に記載の検査機構。
【請求項10】
前記加振機構は、圧電素子を介して、電気入力を機械出力に変換して加振を行う加振器を有し、
前記トリガー情報は、前記圧電素子への加振を指示する制御信号の発信時刻の情報である
請求項7、請求項8または請求項9に記載の検査機構。
【請求項11】
前記加振器の端部に取り付けられ、前記加振器における前記所定の面と対向する面の面積を広げるフランジ部を備える
請求項10に記載の検査機構。
【請求項12】
前記加振機構は、前記所定の面に配置された被打撃部と、前記被打撃部を加振する打撃部材とを有し、
前記トリガー情報は、被打撃部を打撃部材で打撃することで繋がって、電流が流れるトリガー検出回路における、電流を検知したタイミングの情報である
請求項7、請求項8または請求項9に記載の検査機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検査方法及び検査機構に関する。詳しくは、検査対象物を非破壊的に評価する検査において、ターゲットとなる領域からの反射波を精度高く捉えることができ、かつ、再現性に優れた計測及び解析が可能な検査方法及び検査機構に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地中に埋設された基礎杭やコンクリート構造物、橋の橋脚、または、石や岩等の天然の鉱物等の検査対象物における、ひび割れや損傷の有無、その位置の検知、または、検査対象物の形状寸法や先端位置の確認等を行うために、非破壊的な検査が行われている。
【0003】
例えば、衝撃弾性波法を用いて、検査対象物に衝撃を与えた際に発生する反射波を検知して、亀裂位置の確認や先端位置を測定する検査方法が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
ここで、非特許文献1に記載の検査方法では、評価対象となる杭等の検査対象物の上端面に、内部反射した弾性波の反射波波形を検出するセンサを配置している。
【0005】
また、非特許文献1に記載の検査方法では、検査対象物の上端面を作業者がハンマーで打撃して、打撃により生じた、検査対象物の内部を伝播する弾性波について、亀裂や先端位置で反射した反射波をセンサで検出し、亀裂の位置や、先端位置までの距離(例えば、杭であれば杭長)を算出できる方法となっている。
【0006】
また、非特許文献1に記載の検査方法では、弾性波の速度と、反射波が検出されるまでの伝播時間の情報を用いて、評価したい亀裂や先端位置までの長さを算出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】" NEXCO西日本イノベーションズ株式会社 技術開発 衝撃弾性波を用いた非破壊検査システム(StructureTap) 杭の非破壊調査(SIT:Sonic Integrity Test)"、[online]、[令和2年12月22日検索]、インターネット<URL: https://w-nexco-inv.co.jp/tech/sit_ctm/ >
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、非特許文献1に記載された検査方法では、センサで検査したいターゲットとなる領域(亀裂や先端の位置)からの反射波を検出するまでの伝播時間を測定するにあたり、ハンマーの打撃時に発生する弾性波の一部である表面波が、打撃された上端面を伝って、センサで検知された際の時間の情報が用いられている。
【0009】
より詳細には、センサで検出された反射波波形の中で、表面波の到達が反映された波形図における、最初の波の立ち上がり部分を検出した時刻を、反射波の伝播時間の起点(以下、「トリガー情報」と称する)として採用している。
【0010】
しかしながら、ハンマーの打撃位置や打撃力の違いにより、トリガー情報の元となる反射波波形において、表面波の立ち上がり部分が観察される位置は異なるものとなる。
【0011】
即ち、作業者の手作業によるハンマーの打撃位置や打撃力の違いでトリガー情報となる起点の時間が変わり、反射波の伝播時間において誤差が生じるため、より正確なトリガー情報を得るという点で改善の余地があった。
【0012】
また、非特許文献1に記載された検査方法では、弾性波の反射波波形の検出において、表面波と内部波を識別することなく、反射波の解析が行われていた。
【0013】
ここで、弾性波には、異なる媒体の界面に沿って伝播する表面波と、媒体の表面ではなく内部で振動する内部波が存在する。また、表面波には、レイリー波とラブ波が含まれ、内部波には、P波とS波が含まれている。
【0014】
そして、このような弾性波を用いた検査においては、内部波であり、進行方向に平行に振動し、弾性波の中で最も早く伝播する波動である「P波」に基づく反射波を捉えることで、検査対象物の亀裂や先端位置を、より正確に検知することができると考えられるが、非特許文献1に記載された検査方法では、P波とレイリー波を識別することなく取り扱っていた。
【0015】
そのため、例えば、検査の対象となる検査対象物の形状(例えば、折れ曲がった部分)や、亀裂が生じた位置等によっては、センサが検出した反射波波形におけるレイリー波に基づく波形情報から、亀裂の位置や先端位置までの距離を算出してしまう場合があり、より正確な距離を算出する上で不都合があった。
【0016】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、検査対象物を非破壊的に評価する検査において、ターゲットとなる領域からの反射波を精度高く捉えることができ、かつ、再現性に優れた計測及び解析が可能な検査方法及び検査機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明の検査方法は、検査対象物を、弾性波を用いて非破壊的に評価する検査方法であって、前記検査対象物中のP波速度を計測、または、推定するP波速度取得工程と、前記検査対象物における所定の面を加振する加振工程と、前記所定の面の異なる位置に設けた複数の振動センサで、前記加振に基づく振動波形を検出する振動波形取得工程と、複数の前記振動センサで測定された前記振動波形の情報、及び、前記加振工程における加振のタイミングの情報であるトリガー情報に基づき、前記振動波形の中から、ターゲット領域から反射したP波の波形を識別すると共に、前記トリガー情報から反射した前記P波の波形の観測が開始された時刻までの時間の情報であるP波観測時刻情報を取得するP波反射情報取得工程と、前記P波速度取得工程で得られた前記P波速度と、前記P波反射情報取得工程で得られた前記P波観測時刻情報に基づき、前記検査対象物における前記所定の面からターゲット領域までの深度を算出する深度算出工程とを備える。
【0018】
ここで、P波速度取得工程で、検査対象物中のP波速度を計測、または、推定することによって、検査の対象となる検査対象物の中を伝播するP波速度のパラメータの情報を取得することができる。なお、ここでいう「推定する」とは、検査対象物の形状やサイズ等によって、加振器及びセンサ等の計測装置で、P波速度が測定できない対象物について、対象物のサイズや形状、過去の知見等の基づき、P波速度を考慮して、一定の値を採用することを意味している。
【0019】
また、加振工程で、検査対象物における所定の面を加振することによって、検査対象物の内部に、一定の力で所定の面を加振して、加振による弾性波を生じさせることができる。なお、ここでいう所定の面とは、振動センサが配置可能な面であれば、必ずしも完全に平坦な面である必要はなく、多少の凹凸等を有する面も含まれるものと意味する。
【0020】
また、振動波形取得工程で、所定の面の異なる位置に設けた複数の振動センサで、加振に基づく振動波形を検出することによって、加振で生じた弾性波の振動波形を、所定の面の複数の位置で検出することができる。また、複数の振動センサが、所定の面の異なる位置に設けられたことによって、各振動センサで検出される弾性波の振動波形について、それぞれの形状が異なる振動波形図を取得可能となる。
【0021】
また、P波反射情報取得工程で、複数の振動センサで測定された振動波形の情報、及び、加振工程における加振のタイミングの情報であるトリガー情報に基づき、振動波形の中から、ターゲット領域から反射したP波の波形を識別することによって、加振で生じた弾性波が、検査対象物中にある亀裂、または、検査対象物の先端等で反射した反射波の中から、P波と表面波(レイリー波)を区別して、P波の波形情報を確認することが可能となる。即ち、まず、加振工程における加振のタイミングの情報であるトリガー情報を用いて、トリガー情報の時刻を波形図の起点として設定することで、複数の振動センサで検出する振動波形の図の始まりの位置(開始時刻)を揃えることができ、検出される複数の振動波形を比較することが可能となる。また、所定の面の異なる位置に設けた複数の振動センサにおいて、レイリー波は、センサの位置ごとに、トリガー情報を起点にしたセンサへの到達時刻が大きくずれるのに対して、検査対象物中の亀裂や先端位置で反射したP波は、センサの位置が異なっていても、トリガー情報を起点にしたセンサへの到達時刻が、ほぼ同時になるため、この点を利用することで、複数の振動波形図を比較して、各波形図の中での反射したP波を抽出することが可能となる。なお、ここでいう反射したP波の到達時刻における「ほぼ同時」とは、数マイクロ秒程度のずれを含むものを意味する。また、レイリー波のセンサへの到達時刻のずれは、数十マイクロ秒以上となる。
【0022】
また、P波反射情報取得工程で、複数の振動センサで測定された振動波形の情報、及び、加振工程における加振のタイミングの情報であるトリガー情報に基づき、振動波形の中から、ターゲット領域から反射したP波の波形を識別すると共に、トリガー情報から反射したP波の波形の観測が開始された時刻までの時間の情報であるP波観測時刻情報を取得することによって、弾性波の振動波形の中から、加振してから反射したP波がセンサで観測されるまでの伝播時間の情報を得ることができる。
【0023】
また、深度算出工程で、P波速度取得工程で得られたP波速度と、P波反射情報取得工程で得られたP波観測時刻情報に基づき、検査対象物における所定の面からターゲット領域までの深度を算出することによって、検査対象物におけるターゲット領域、即ち、亀裂の位置、または、先端位置等と、所定の面との距離を算出することができる。即ち、P波速度に、P波観測時刻情報を掛けて、その値を2で割ることで、所定の面と、P波が反射したターゲット領域との距離を算出することができる。
【0024】
また、P波反射情報取得工程で、複数の振動センサで測定された振動波形の情報について、複数の波形における、位相が略一致する領域、または、位相が合う領域に基づき、反射したP波の波形を識別する場合には、複数の振動波形図において、その位相を確認して、反射したP波と、レイリー波を区別して、反射したP波を抽出することが可能となる。なお、ここでいう位相とは、周期的な変化をする波形の1周期における波形の位置である。また、ここでいう、「位相が略一致する」または「位相が合う」とは、複数の振動センサで検出される振動波形図において、各振動波形図の形が完全に一致するものだけでなく、位相がわずかにずれたものも含まれることを意味する。また、ここでは、振動波形図の縦軸(電圧)及び横軸(時間)において、縦軸上の振幅の大きさの違いは無視して、横軸での数マイクロ秒程度のずれの範囲内で、正の電圧と、負の電圧の波形上の位置が揃った(波が同じ動きをしている)複数の波形図について、「位相が略一致する」または「位相が合う」とみなすものである。
【0025】
また、振動センサは、第1の振動センサと、第2の振動センサ、及び、第3の振動センサが3つ設けられ、所定の面を平面視した際に、第1の振動センサと第2の振動センサを結ぶ方向と、第1の振動センサと第3の振動センサを結ぶ方向が、略直交する方向となるように、第1の振動センサ、第2の振動センサ及び第3の振動センサが配置された場合には、より一層確実に、複数の振動波形の中から、反射したP波を抽出することが可能となる。振動センサが2つのみである際には、各センサに対するレイリー波の横からの入射または反射に対して、識別力が下がる、即ち、2つの振動波形図の中で、レイリー波の位相差がない領域が観測されることがある。ここで、3つ目の振動センサを用いることで、それ以外の2つの振動センサの振動波形図とは、レイリー波の波形が異なる波形図を取得しやすくなる。また、第1の振動センサと第2の振動センサを結ぶ方向と、第1の振動センサと第3の振動センサを結ぶ方向が、略直交する方向となるように、第1の振動センサ、第2の振動センサ及び第3の振動センサが配置されたことで、2つの振動センサの振動波形図にて、レイリー波の位相差がない領域があっても、3つ目の振動センサでは、その領域について、位相が異なるレイリー波が観測され、3つの振動波形図を元に、レイリー波と反射したP波を区別しやすくなる。これにより、より正確に、複数の振動波形の中から、反射したP波を抽出することができる。
【0026】
また、加振工程で、加振する位置を変えて、複数回、加振を行い、P波反射情報取得工程で、複数回の加振から測定された、複数の振動波形を加算して、反射したP波の波形を識別する場合には、振動センサで検出した振動波形図について、反射したP波を強調して、P波の波形を識別することが可能となる。即ち、加振する位置を変えることで、表面波であるレイリー波の位相は、加振した位置ごとに、位相が異なる波形が観測されるが、反射したP波については、加振した位置を変えても、各振動センサで観測される波形の位相が合うものとなる。そのため、複数の振動波形を加算した際に、振動波形図では、縦軸において、レイリー波の振幅に比べて、P波の振幅が相対的に大きくなり、P波を強調することができる。このことによれば、例えば、加振力が小さい場合や、検査対象物の計測対象が長い場合、または、P波の減衰が大きい場合等でも、P波を強調して、より精度良く、反射したP波を検出可能となる。
【0027】
また、加振工程における加振が、圧電素子を介して、電気入力を機械出力に変換して加振する加振器を用いて行い、トリガー情報が、圧電素子への加振を指示する制御信号の発信時刻の情報である場合には、圧電素子への加振を指示する制御信号の発信時刻を波形図の起点として、複数の振動センサで検出する振動波形の図の始まりの位置(開始時刻)を揃えることができる。また、制御信号の発信時刻であれば、都度、正確な時間の情報を取得できるため、加振位置の違いに関わらず、加振の時刻からずれのないトリガー情報とすることができる。
【0028】
また、加振工程における加振が、所定の面に配置した被打撃部を、打撃部材で打撃することで行い、トリガー情報が、被打撃部を打撃部材で打撃することで繋がって、電流が流れるトリガー検出回路における、電流を検知したタイミングの情報である場合には、被打撃部を打撃部材で打撃した際に、トリガー検出回路に流れる電流を検知したタイミングの時刻を、波形図の起点として、複数の振動センサで検出する振動波形の図の始まりの位置(開始時刻)を揃えることができる。また、電流の検知時刻であれば、都度、正確な時間の情報を取得できるため、加振位置の違いに関わらず、加振の時刻からずれのないトリガー情報とすることができる。
【0029】
また、上記の目的を達成するために、本発明の検査機構は、検査対象物を、弾性波を用いて非破壊的に評価する検査機構であって、前記検査対象物における所定の面に配置され、前記所定の面を加振すると共に、前記加振のタイミングの情報であるトリガー情報が抽出可能に構成された加振機構と、前記所定の面の異なる位置に配置される複数の振動センサで構成され、前記加振機構による前記所定の面への加振に基づく振動波形を検出する振動波形取得手段と、複数の前記振動センサの少なくとも1つである、または、前記振動センサとは別に設けられ、前記検査対象物のP波速度を計測するP波速度取得手段と、前記振動波形の中からP波の波形を識別し、かつ、前記トリガー情報から前記P波の波形の観測が開始された時刻までの時間の情報を把握するために、複数の前記振動センサで測定された前記振動波形の情報、及び、前記トリガー情報を取得するP波反射情報取得手段とを備える。
【0030】
ここで、加振機構が、検査対象物における所定の面を加振すると共に、加振のタイミングの情報であるトリガー情報が抽出可能に構成されたことによって、検査対象物の内部に、一定の力で所定の面を加振して、加振による弾性波を生じさせることができる。また、トリガー情報の時刻を波形図の起点として設定することで、複数の振動センサで検出する振動波形の図の始まりの位置(開始時刻)を揃えることができ、検出される複数の振動波形を比較することが可能となる。
【0031】
また、振動波形取得手段が、所定の面の異なる位置に配置される複数の振動センサで構成され、加振機構による所定の面への加振に基づく振動波形を検出することによって、加振で生じた弾性波の振動波形を、所定の面の複数の位置で検出することができる。また、複数の振動センサが、所定の面の異なる位置に設けられたことによって、各振動センサで検出される弾性波の振動波形について、それぞれの形状が異なる振動波形図を取得可能となる。
【0032】
また、P波速度取得手段が、複数の振動センサの少なくとも1つである、または、振動センサとは別に設けられ、検査対象物のP波速度を計測することによって、検査の対象となる検査対象物の中を伝播するP波速度のパラメータの情報を取得することができる。
【0033】
また、P波反射情報取得手段が、振動波形の中から反射したP波の波形を識別し、かつ、トリガー情報からP波の波形の観測が開始された時刻までの時間の情報を把握するために、複数の振動センサで測定された振動波形の情報、及び、トリガー情報を取得することによって、加振で生じた弾性波が、検査対象物中にある亀裂、または、検査対象物の先端等で反射した反射波の中から、P波と表面波(レイリー波)を区別して、反射したP波の波形情報を確認することが可能となる。また、弾性波の振動波形の中から、加振してから反射したP波がセンサで観測されるまでの伝播時間の情報を得ることができる。
【0034】
また、振動センサは、第1の振動センサと、第2の振動センサ、及び、第3の振動センサが3つ設けられ、所定の面を平面視した際に、第1の振動センサと第2の振動センサを結ぶ方向と、第1の振動センサと第3の振動センサを結ぶ方向が、略直交する方向となるように、第1の振動センサ、第2の振動センサ及び第3の振動センサが配置された場合には、より一層確実に、複数の振動波形の中から、反射したP波を抽出することが可能となる。
【0035】
また、第1の振動センサ、第2の振動センサ及び第3の振動センサの配置位置を規定する治具を備える場合には、3つの振動センサを配置する際に、治具を介して配置するだけで、第1の振動センサと第2の振動センサを結ぶ方向と、第1の振動センサと第3の振動センサを結ぶ方向が、略直交する方向となるように、容易に振動センサを配置することができる。
【0036】
また、加振機構が、圧電素子を介して、電気入力を機械出力に変換して加振を行う加振器を有し、トリガー情報が、圧電素子への加振を指示する制御信号の発信時刻の情報である場合には、圧電素子への加振を指示する制御信号の発信時刻を波形図の起点として、複数の振動センサで検出する振動波形の図の始まりの位置(開始時刻)を揃えることができる。また、制御信号の発信時刻であれば、都度、正確な時間の情報を取得できるため、加振位置の違いに関わらず、加振の時刻からずれのないトリガー情報とすることができる。
【0037】
また、加振器の端部に取り付けられ、加振器における所定の面と対向する面の面積を広げるフランジ部を備える場合には、検査対象物の所定の面に対して、ジェルやグリース等を介して加振器を取り付ける際に、所定の面にくっつける加振器側の面積が大きくなり、所定の面に加振器を取り付けやすくなる。
【0038】
また、加振機構が、所定の面に配置された被打撃部と、被打撃部を加振する打撃部材とを有し、トリガー情報が、被打撃部を打撃部材で打撃することで繋がって、電流が流れるトリガー検出回路における、電流を検知したタイミングの情報である場合には、被打撃部を打撃部材で打撃した際に、トリガー検出回路に流れる電流を検知したタイミングの時刻を、波形図の起点として、複数の振動センサで検出する振動波形の図の始まりの位置(開始時刻)を揃えることができる。また、電流の検知時刻であれば、都度、正確な時間の情報を取得できるため、加振位置の違いに関わらず、加振の時刻からずれのないトリガー情報とすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る検査方法は、検査対象物を非破壊的に評価する検査において、ターゲットとなる領域からの反射波を精度高く捉えることができ、かつ、再現性に優れた計測及び解析が可能なものとなっている。
また、本発明に係る検査機構は、検査対象物を非破壊的に評価する検査において、ターゲットとなる領域からの反射波を精度高く捉えることができ、かつ、再現性に優れた計測及び解析が可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明を適用した検査方法の一例における一連の流れを示す概略フロー図である。
【
図2】本発明を適用した検査機構の構成部材を示すブロック図である。
【
図3】(a)は、ハンマー及び打撃ベースとトリガー検出回路を示す概略斜視図であり、(b)は、打撃ベースの概略平面図であり、(c)は、打撃ベースの概略正面図である。
【
図4】打撃ベースを介して、検査対象物をハンマーで加振した際の弾性波の発生の様子を示す概略図である。
【
図5】(a)は、検査機構Aを構成する部材で、検査対象物における弾性波に基づくターゲット領域からの反射波を検出する際の構成部材の配置の一例を示す概略図であり、(b)は、3つのAEセンサを平面視した際の各センサの位置関係を示す概略図である。
【
図6】(a)は、AEセンサ用の治具を示す概略図であり、(b)は、治具及びフランジを介して3つのAEセンサを配置した状態を示す写真図であり、(c)は、治具を用いずに3つのAEセンサを配置した状態を示す写真図である。
【
図7】(a)は、各AEセンサとフランジ及び治具を示す概略斜視図であり、(b)は、フランジの構造を示す概略図であり、(c)は、フランジを介してAEセンサの接触面積を広げて、検査対象物の上端面にAEセンサを取り付けた状態を示す概略断面図である。
【
図8】弾性波による振動波形図から反射したP波を識別することを示す概略図である。
【
図9】(a)は、加振器を固定して、10回加振した場合の振動波形図を合算した図であり、(b)は、加振器をランダムに移動させ、10回加振した場合の振動波形図を合算した図であり、(c)は、加振器をランダムに移動させ、100回加振した場合の振動波形図を合算した図である。
【
図10】検査対象物の内部を伝播するP波速度を測定する際の概略を示している。
【
図11】モデル杭にてP波速度を計測するための振動波形図を示す概略図である。
【
図12】(a)は、0ミリ秒から5ミリ秒までの振動波形図であり、(b)は、2ミリ秒から3.2ミリ秒までの振動波形図である。
【
図13】モデルコンクリート壁にてP波速度を計測するための振動波形図を示す概略図である。
【
図14】(a)は、0ミリ秒から5ミリ秒までの振動波形図であり、(b)は、1.5ミリ秒から3ミリ秒までの振動波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
なお、以下に示す内容は本発明を適用した検査方法の一例及び検査機構の一例であり、本発明の内容はこれに限定されるものではなく、適宜設定変更することが可能である。
【0042】
なお、以下の説明においては、
図5(a)を基準に、図中の上下を「上又は上側」、「下又は下側」及び「上下方向又は鉛直方向」と称する。また、
図5(a)を基準に、図中の検査対象物9の上端の面を「上端面」と称する。
【0043】
本発明を適用した検査機構の一例である検査機構Aは、地中に埋設された基礎杭やコンクリート構造物、橋の橋脚、防波堤、または、石や岩等の天然の鉱物等の内部構造や形状等を調べたい検査対象物を非破壊的に評価する検査ためのものである。また、本発明を適用した検査方法の一例である検査方法は、検査機構Aを用いて行う方法である。
【0044】
まず、
図1を用いて、本発明の検査方法の流れの概略を説明する。
図1に示すように、本発明では、まず、検査対象物におけるP波速度を測定するか、または、P波速度の推定を行う(
図1のSTEP1)。
【0045】
また、検査対象物の所定の面(例えば、上端面)に、後述する加振器を配置して、所定の面に対して、加振器で加振を行う(
図1のSTEP2)。この加振により、検査対象物に弾性波が生じ、検査の対象としたいターゲット領域(亀裂の位置や先端位置)からの反射波を観察することが可能となる。
【0046】
次に、検査対象物の所定の面上の異なる位置に配置した複数のAEセンサで、弾性波の振動波形図を検出する(
図1のSTEP3)。各AEセンサでは、弾性波に基づく振動波形図が検出され、次のステップでのP波の識別と、AEセンサへのP波の到達時刻の抽出に用いられる。
【0047】
続いて、複数のAEセンサで検出された各振動波形図を比較して、弾性波の中から、表面波(レイリー波)と、P波を識別する。また、加振器の加振を制御する制御信号が発せられた時刻の情報であるトリガー信号を起点として、AEセンサに、反射したP波が到達したP波の到達時刻を抽出する。
【0048】
上記の流れで取得されたP波速度の情報と、AEセンサへのP波の到達時刻の情報に基づき、検査対象物における、所定の面からターゲット領域までの深度(距離)を算出する(
図1のSTEP5)。
【0049】
概略、以上のような流れで、加振に基づく弾性波のうち、反射したP波の情報から、検査対象物におけるターゲット領域までの深度(距離)を調べることが可能となる。なお、詳細な内容については後述する。
【0050】
[検査機構A]
次に、本発明を適用した検査機構Aの構成について説明する。
図2に示すように、検査機構Aは、加振器1と、センサ群2と、計測装置3と、解析装置4を備えている。また、検査機構Aを構成する各部材間は、信号情報を送受信可能なケーブル(符号省略)で接続されている。
【0051】
また、センサ群2は、AEセンサ20と、AEセンサ21と、AEセンサ22の3つのAEセンサから構成されている(
図2参照)。
【0052】
ここで、加振器1は、計測対象となる検査対象物のうち、所定の面に設置され、同所定の面を加振して、検査対象物の内部に弾性波を生じさせる装置である。
【0053】
また、加振器1は、圧電素子を用いた装置であり、電気入力を機械出力に変換して加振を行う部材である。なお、ここでいう加振器1が、本願請求項における加振機構に相当する部材である。
【0054】
また、AEセンサ20、21及び22(センサ群2)は、計測対象となる検査対象物の所定の面上であり、それぞれが異なる位置に設置され、加振器から生じた弾性波を検出して、AE信号に変換するセンサ群である、なお、ここでいうセンサ群2が、本願請求項における振動波形取得手段に相当する部材である。
【0055】
また、AEセンサ20、21及び22は、そのうちのいずれか1つを、後述するP波速度の計測方法におけるP波を検出するセンサとして用いることができる。なお、ここでいうAEセンサが、本願請求項におけるP波速度取得手段に相当する部材である。
【0056】
また、検査機構Aは、加振器アンプ5と、加振器電源6を有している。また、加振器アンプ5は、コンピュータから送信された加振器1の加振を制御する加振器制御信号を増幅する増幅器である。また、加振器電源6は、加振器1及び加振器アンプ5に対する電力の供給源である。
【0057】
また、検査機構Aは、センサ群2を構成する各AEセンサ20、21及び22のそれぞれに接続されたプリアンプ7と、各プリアンプ7に接続されたプリアンプ用電源8を有している。
【0058】
また、プリアンプ7は、各AEセンサ20、21及び22で検出した弾性波に基づくAE信号を増幅する増幅器である。また、プリアンプ用電源8は、プリアンプ7に対する電力の供給源である。
【0059】
また、計測装置3は、各AEセンサ20、21及び22から送信され、プリアンプ7で増幅されたAE信号(アナログ信号)を、デジタル信号へと変換して、計測データとして解析装置4に送信する装置である。
【0060】
また、計測装置3は、解析装置4から送信され、加振器アンプ5で増幅された加振器制御信号を、トリガー信号として受信して、解析装置4に送信する装置である。また、トリガー信号とは、加振器1における圧電素子への加振を指示する制御信号の発信時刻の情報である。なお、ここでいうトリガー信号が、本願請求項におけるトリガー情報に相当するものである。
【0061】
また、解析装置4は、計測装置3から送信されたデジタル信号からなる計測データ(各AEセンサの検出に基づくデータ)及びトリガー信号について、表示、分析、及び記録するための部材である。なお、ここでいう、解析装置4が、本願請求項におけるP波反射情報取得手段に相当する部材である。
【0062】
また、解析装置4は、パーソナルコンピュータ端末(パソコン)、プリンタ等の各種情報処理機器から構成されている。解析装置4は、計測データをデジタル値として記録し、弾性波の波形図としてビジュアル表示し、計測した波形はパソコンに転送し、その結果を解析すると共に、紙媒体に対してプリントアウト可能となっている。
【0063】
ここで、検査機構Aでは、必ずしも、センサ群2が、AEセンサで構成される必要はなく、振動波形が取得可能なセンサであれば、特に限定されるものではなく、加振の際の打撃力や、利用する弾性波の周波数等に応じて、適宜選択することができる。例えば、AEセンサ以外に、速度センサ、変位センサ、加速度センサ等も採用しうる。また、AEセンサは、振動波形を検出する感度が良好である点で利点を有している。
【0064】
また、本発明を適用した検査機構では、上述した圧電素子を用いた加振器1の代わりに、次のような加振機構を採用することもできる。
【0065】
ここで、
図3(a)に示す加振機構1Aは、電極付きのハンマー11と、電極付きの打撃ベース12と、計測装置13を有している。また、ハンマー11と計測装置13の間と、打撃ベース12と計測装置13の間は、導線Lで繋がっている。
【0066】
この加振機構Aでは、ハンマー11で打撃ベース12を打撃した際に、ハンマー11が打撃ベース12に接触することで、ハンマー11、打撃ベース12及び計測装置13が繋がって、電流が流れるトリガー検出回路が形成される。また、打撃ベース12を介して、検査対象物の所定の面に対して、打撃に伴い、弾性波を生じさせることができる。
【0067】
即ち、ハンマー11で打撃ベース12を打撃したことでトリガー検出回路に流れる電流を、計測装置13で検知することで、その電流を検知した時刻を、加振のタイミングの情報であるトリガー情報とすることができる。
【0068】
また、打撃ベース12は、検査対象物の所定の面に載置されて使用される。この打撃ベース12は、略三角形状の外形を有する板状のベース部122と、ベース部122の頂点の位置、かつ、底面側に設けられた、半球状の3つの設置部120と、ベース部122の真ん中の位置、かつ、天面側に設けられた半球状の打撃部121で構成されている(
図3(b)及び
図3(c)参照)。
【0069】
また、ベース部122は、打撃ベース12の本体である。また、打撃部121は、ハンマー11の打撃を受ける部分である。また、設置部122は、打撃部121をハンマー11で打撃された際に生じる弾性波を、検査対象物の所定の面に伝達する部分である。
【0070】
この打撃ベース12では、略三角形状のベース部122において、その真ん中に打撃部121が設けられ、かつ、ベース部122の各頂点の位置の底面側に設置部122が設けられたことで、ハンマー11で打撃された際に生じる弾性波を、各設置部122から検査対象物の所定の面(面900)に伝えることができる(
図4参照)。
【0071】
このことによれば、3つの設置部122で同時に加振することと同じ現象が生じ、3点で生じた弾性波に基づき、指向性のある弾性波E(平面波に近い弾性波)を生じさせることができる(
図4参照)。この結果、AEセンサで、検査対象物のターゲット領域から反射したP波を、より精度高く検知しやすくすることができる。なお、
図4においては、符号Bを付した矢印で、ハンマー11の打撃を示している。
【0072】
このように、本発明を適用した検査機構では、ハンマー11と打撃ベース12を用いて、トリガー情報を取得することも可能である。なお、打撃ベース12の形状及び構造は、必ずしも上記した内容に限定されるものではなく、打撃時の電流が検出可能であり、ハンマー11からの打撃に基づく弾性波を、検査対象物の所定の面に伝達できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0073】
続いて、検査機構Aの構成部材の配置について、概略図を用いて、配置の一例を説明する。
図5(a)では、地表面Gを有する地中に埋設された検査対象物9に対して、検査機構Aを構成する部材で、弾性波に基づくターゲット領域からの反射波を検出する際の概略を示している。
【0074】
ここで、検査対象物9とは、例えば、地中に埋設された基礎杭やコンクリート構造物、橋の橋脚、防波堤、または、石や岩等の天然の鉱物等である。また、検査対象物9は、地中に埋設されたものに限らず、地面の上に載置されたものであってもよい。また、コンクリート体のように人工物に限らず、天然の石や岩も対象となる。また、ここでのターゲット領域とは、例えば、検査対象物における、ひび割れや損傷のある箇所、または、検査対象物の先端等である。
【0075】
図5(a)に示すように、検査対象物9の上端面90には、加振器1が配置されている。
【0076】
図5(a)に示すように、上端面90の加振器1と異なる位置に、AEセンサ20、AEセンサ21、及びAEセンサ22が配置されている。
【0077】
また、加振器1、AEセンサ20、AEセンサ21、及びAEセンサ22はそれぞれ、ケーブル(符号省略)を介して、計測装置3と繋がっており、計測装置3との間で、信号情報の送受信が可能に構成されている(
図5(a)参照)。
【0078】
また、検査対象物9の上端面90に配置した加振器1が、上端面90を加振して生じた弾性波は、内部波または表面波(
図5(a)中の符号S参照)として伝播される。
【0079】
また、検査対象物9のターゲット領域、ここでは、検査対象物の地中の先端位置91(底部)で反射したP波(
図5(a)中の符号R参照)が、上端面90の異なる位置に配置されたAEセンサ20、AEセンサ21、及びAEセンサ22のそれぞれで検出されるように構成されている。
【0080】
また、検査機構Aでは、検査対象物の先端位置91で反射したP波が、加振器1による加振から、各AEセンサ20、21及び22に到達するまでの時間は、ほぼ同じ時間となっている。この点についての詳細は後述する。
【0081】
また、解析装置4(図示省略)から、加振器1における圧電素子への加振を指示する制御信号の発信時刻の情報は、トリガー信号として加振器アンプ5(図示省略)で増幅され、計測装置3に送信されるように構成されている(
図5(a)参照)。
【0082】
また、検査対象物9の上端面90を平面視した状態で、AEセンサ20及びAEセンサ21を結ぶ方向(符号Yで示す方向)と、AEセンサ20及びAEセンサ22を結ぶ方向(符号Xで示す方向)とが、略直交する方向となるように、3つのAEセンサ20、21及び22が配置されている(
図5(b)参照)。
【0083】
なお、
図5(a)においては、AEセンサが3つ設けられていることを概略的に示しているにすぎず、平面視した状態での、3つのAEセンサの位置関係を正確に反映していない。
【0084】
また、本発明の検査機構Aでは、AEセンサ20、AEセンサ21、及びAEセンサ22の3つのAEセンサの配置位置を規定するための専用の治具10(
図6(a)参照)を用いることができる。
【0085】
ここで、治具10は、3つの嵌合孔100と、各嵌合孔を繋ぐ連結部101、連結部102及び連結部103で構成されている(
図6(a)参照)。3つの嵌合孔100は、AEセンサ20、AEセンサ21、及びAEセンサ22を配置可能な孔径に形成されている。また、連結部101と、連結部102とは、略直交する方向に形成されている。
【0086】
この治具10における3つの嵌合孔100に、各AEセンサ20、21、及び22を配置するだけで、AEセンサ20及びAEセンサ21を結ぶ方向と、AEセンサ20及びAEセンサ22を結ぶ方向とが、略直交する方向となるように、各AEセンサの位置を規定することができる。なお、参考までに、治具10に各AEセンサを配置した状態の写真図を
図6(b)に示す。
【0087】
また、治具10における連結部101、連結部102及び連結部103の長さは、検査に使用する弾性波の波長に合わせて、その長さを適宜設定することができる。例えば、弾性の周波数が低い場合には、その波長が長いので、連結部101等の長さを長く設定する。また、弾性の周波数が高い場合には、その波長が短いので、連結部101等の長さを短く設定することができる。
【0088】
また、本発明を適用した検査機構において、3つのAEセンサを用いる場合、必ずしも、治具10を用いる必要はなく、個々のAEセンサを単体で、対象面に設置することも可能である。
図6(c)では、治具10を用いずに、AEセンサ20及びAEセンサ21を結ぶ方向と、AEセンサ20及びAEセンサ22を結ぶ方向とが、略直交する方向となるように、各AEセンサ20、21、及び22を配置している。
【0089】
また、3つのAEセンサの端部には、フランジ200が取り付けられている(
図6(b)及び
図7(a)参照)。なお、
図6(b)及び
図7(a)では、治具10に取り付けた各AEセンサの下端側に、フランジ200が取り付けられている。
【0090】
このフランジ200は、真ん中にAEセンサを差込み可能な凹部(符号省略)が形成され(
図7(b)参照)、AEセンサの下端側の外周面に取り付けられている。フランジ200は、検査対象物の面900に、AEセンサ20を取り付ける際に、AEセンサ20の端部の面積を大きくして、面900に取り付けやすくするための部材である(
図7(c)参照)。
【0091】
また、
図7(c)では、AEセンサ20を用いて例示しているが、AEセンサ20及びフランジ200の下端面に、ジェルやシリコングリス等の接着部材210を付けて、面900にAEセンサ20を固定している。
【0092】
このように、フランジ200を用いることで、面900に対するAEセンサ20の接触面積が広くなり、ジェル等の接着部材210で、AEセンサ20の下端を面900にしっかりと取り付けることができる。
【0093】
例えば、検査対象物の側面に対して、AEセンサを取り付ける際(AEセンサの長手歩行が水平方向に向く場合)にも、フランジ200を用いることで、接着部材210を介して、側面に容易にAEセンサを取り付け可能となる。
【0094】
また、ジェル等の接着部材210により、AEセンサ20と、所定の面の間に空気が入らないようにして、振動波形の検出の感度を担保することができる。
【0095】
ここで、必ずしも、検査機構Aにおいて、3つのAEセンサを用いる必要はなく、2つのAEセンサや、4つ以上のAEセンサを用いることも可能である。但し、AEセンサが2つのみである際には、各センサに対するレイリー波の横からの入射または反射に対して、識別力が下がることが考慮されるが、3つ目のAEセンサを用いることで、それ以外の2つのAEセンサの振動波形図とは、レイリー波の波形が異なる波形図を取得しやすくなり、表面波(レイリー)と、P波を識別する精度が向上することから、検査機構Aでは、3つのAEセンサが用いられることが好ましい。
【0096】
また、必ずしも、検査機構Aにおいて、AEセンサ20及びAEセンサ21を結ぶ方向と、AEセンサ20及びAEセンサ22を結ぶ方向とが、略直交する方向となるように、各AEセンサを配置する必要はない。例えば、AEセンサ20及びAEセンサ21を結ぶ線上から外れた位置で、略直交する位置関係にない位置に、AEセンサ22を配置することも可能である。但し、3つ目のAEセンサを用いる際に、それ以外の2つのAEセンサの振動波形図とは、レイリー波の波形が異なる波形図を、より一層、取得しやすくなる点から、AEセンサ20及びAEセンサ21を結ぶ方向と、AEセンサ20及びAEセンサ22を結ぶ方向とが、略直交する方向となるように、各AEセンサを配置することが好ましい。
【0097】
また、検査対象物9の上端面90は、必ずしも平坦な面である必要はなく、加振器1の加振により弾性波を生じさせることができ、各AEセンサ20、21、及び22で、弾性波に基づく反射波が検出可能であれば、上端面90は、多少の凹凸がある面であってもよい。また、AEセンサを配置する面は、必ずしも上端面である必要はなく、検査対象物の側面にAEセンサを配置することもできる。
【0098】
[P波の識別]
次に、検査機構Aで検査対象物に生じた弾性波に基づく振動波形から、P波を識別する解析の一例について説明する。
【0099】
図8(a)及び
図8(b)には、加振器1で、検査対象物の上端面を加振して、同所定の面上であり、異なる位置に配置した、2つのAEセンサで弾性波に基づく振動波形を検出した際の波形図を示している。なお、
図8(a)及び
図8(b)では、横軸が時間(秒)を表し、縦軸は、弾性波がAEセンサで変換された電気信号に基づく電圧(V)を表している。
【0100】
本事例では、2つのAEセンサは、検査対象物の上端面の略中央部の領域であり、かつ、互いに異なる位置に配置されている。また、更に別の、2つのAEセンサは、上端面の略中央部ではなく、上端面の左端から100mm離れた領域であり、かつ、互いに異なる位置に配置されている。
【0101】
また、
図8(a)は、上端面の略中央部に配置された2つのAEセンサで検出した波形図であり、
図8(b)は、上端面の左端から100mm離れた位置に配置された2つのAEセンサで検出した波形図である。また、検査対象物の上端面で、加振器1を配置した位置は、
図8(a)及び
図8(b)の測定において同一の位置である。
【0102】
また、
図8(a)の矢印S1で示す起点の時間、及び、
図8(b)の矢印S2で示す起点の時間は、加振器1の圧電素子への加振を指示する制御信号の発信時刻の情報であるトリガー信号により規定されている。即ち、矢印S1の時間と、矢印S2の時間は同一時刻である。
【0103】
ここで、
図8(a)においては、符号P1を付した矢印の時間(時間P1)において、2つのAEセンサで検出した2つの波形について、位相が合う(位相が略一致する)領域が観察されている(
図8(a)の符号H1で示す範囲)。
【0104】
なお、ここでいう「位相が合う(または位相が略一致する)」とは、複数のAEセンサで検出される振動波形図において、各振動波形図の形が完全に一致するものだけでなく、位相がわずかにずれたものも含まれることを意味する。また、ここでいう「位相が合う(または位相が略一致する)」とは、振動波形図の縦軸(電圧)及び横軸(時間)において、縦軸上の振幅の大きさの違いは無視して、横軸での数マイクロ秒程度のずれの範囲で、正の電圧と、負の電圧の波形上の位置が揃った(波が同じ動きをしている)複数の波形図について、「位相が略一致する」または「位相が合う」とみなすものである。
【0105】
ここで、表面波(レイリー波)と、反射したP波を識別するにあたっては、レイリー波は、AEセンサの位置ごとに、トリガー情報を起点にしたセンサへの到達時刻が大きくずれるのに対して、検査対象物中のターゲット領域(先端位置等)で反射したP波は、AEセンサの位置が異なっていても、トリガー情報を起点にした各AEセンサへの到達時刻が、ほぼ同時になるという性質を利用している。
【0106】
即ち、
図8(a)に示すように、振動波形の初期段階から時間P1までは、2つのAEセンサにおいてレイリー波が観測され、各AEセンサで検出したレイリー波の波形は、位相があっていない波形図となる。
【0107】
一方、
図8(a)に示す、時間P1からの波形図では、符号H1の範囲で、2つのAEセンサにおいて観測した波形の位相が合う部分が観測される。この点について、時間P1のタイミングで、ほぼ同時に、検査対象物のターゲット領域で反射したP波が、2つのAEセンサに到達したものとみなすことができる。
【0108】
これにより、2つのAEセンサの振動波形図で、波形図の位相が合う領域を観察することで、ターゲット領域から反射したP波の到達時刻(反射波到達時間)を確認することができる。また、弾性波の振動波形図の中で、レイリー波とP波を識別することが可能となる。なお、ここでいう「P波の到達時刻」が、本願請求項におけるP波観測時刻情報である。
【0109】
ここで取得した「P波の到達時刻」と後述する「P波速度」の情報から、検査対象物中のターゲット領域までの深度(距離)を算出することができる。
【0110】
なお、ここでいう、2つのAEセンサにおける、P波の到達した時間における「ほぼ同時」とは、数マイクロ秒程度のずれを含むものを意味する。また、レイリー波のセンサへの到達時刻のずれは、数十マイクロ秒以上となる。また、P波及びレイリー波の到達時刻のずれは、いずれも、ターゲット領域までの距離、センサ間隔、及び、加振器からセンサ群までの距離により変わるものである。
【0111】
また、
図8(b)においても、符号P2を付した矢印の時間(時間P2)において、2つのAEセンサで検出した2つの波形について、位相が合う(位相が略一致する)領域が観察されている(
図8(b)の符号H2で示す範囲)。
【0112】
即ち、
図8(b)でも、振動波形の初期段階から時間P2までは、2つのAEセンサにおいてレイリー波が観測され、各AEセンサで検出したレイリー波の波形は、位相があっていない波形図となる。
【0113】
一方、
図8(b)に示す、時間P2からの波形図では、符号H2の範囲で、2つのAEセンサにおいて観測した波形の位相が合う部分が観測される。この点について、時間P1のタイミングで、ほぼ同時に、検査対象物のターゲット領域で反射したP波が、2つのAEセンサに到達したものとみなすことができる。
【0114】
このように、検査対象物の上端面における、略中央部とは異なる領域(左端から10mmの領域)においても、2つのAEセンサの振動波形図で、波形図の位相が合う領域を観察することで、ターゲット領域から反射した「P波の到達時刻」を確認することができる。また、弾性波の振動波形図の中で、レイリー波とP波を識別することが可能となる。なお、
図8(a)に示す時間P1と、
図8(b)に示す時間P2とは、ほぼ同時の時刻となっている。
【0115】
以上のように、本発明では、検査対象物の上端面における配置位置が異なる、少なくとも2つのAEセンサで検出した振動波形図から、波形図の位相が合う領域を観察して、レイリー波とP波を識別し、かつ、センサへの「P波の到達時刻」を確認することができる。
【0116】
[打撃位置の変更と打撃回数の増加]
本発明を適用した検査方法では、加振器1で加振する位置を変えながら、加振の回数を増やして、AEセンサでの計測値を加算することで、振動波形図において、ターゲット領域から反射したP波を強調することができる。
【0117】
このP波の強調では、加振器1による加振の位置が異なっても、反射したP波は、トリガー情報を起点にしたAEセンサへの到達時刻が、ほぼ同時になるという性質と、レイリー波は、加振器1による加振の位置ごとに、トリガー情報を起点にしたセンサへの到達時刻が大きくずれるという性質を利用している。
【0118】
ここで、
図9(a)には、配置位置が異なる2つのAEセンサで、加振器1の加振の位置を固定して、10回加振した際の、1回ずつの加振に基づくAEセンサでの計測値を合算した振動波形図を示している。なお、
図9(a)では、P波が強調できない事例を示している。
【0119】
この
図9(a)の事例では、加振器1による加振の位置が固定されているため、2つのAEセンサでは、表面波(レイリー波)の波形も同じものが10回計測されるため、AEセンサでの計測値を合算しても、レイリー波も、反射したP波も同様に、縦軸の振幅が大きくなり、振動波形の中でP波のみを強調することはできない。
【0120】
しかしながら、加振器1で加振する位置を変えながら、2つのAEセンサの配置位置は固定したまま、加振の回数を増やすと、AEセンサでの計測値を合算した振動波形図において、反射したP波を観測した領域の波形の振幅を大きくしてP波を強調することができる。
【0121】
例えば、
図9(b)では、
図9(a)と同じ位置に2つのAEセンサを配置して、加振器1の加振の位置をランダムに移動させながら、10回加振した際の、1回ずつの加振に基づくAEセンサでの計測値を合算した振動波形図を示している。
【0122】
この
図9(b)の事例では、加振器1による加振の位置をランダムに移動させたことで、1回ごとの振動波形図では、レイリー波の波形が異なるものが計測される。ここで、レイリー波の位相は、加振の位置が変わることで大きく変化する。そのため、10回分の計測値を合算しても、同一の波形のレイリー波の振幅が大きくなる現象は生じない。
【0123】
一方、反射したP波の波形は、加振の位置が異なっても、1回ごとの振動波形図で、AEセンサに、ほぼ同時にP波が到達して、同様の形状の波形が観測される。従って、10回分の計測値を合算すると、1回の計測値よりも、P波の波形の振幅が大きくなる。この結果、10回分の計測値を合算して振動波形図を表示することで、P波のみが強調された振動波形図とすることができる。
【0124】
また、P波のみの強調は、加振器1による加振の位置をランダムに移動させながらの加振の回数を増やすことで、より顕著に表すことができる。
【0125】
例えば、
図9(c)では、
図9(a)と同じ位置に2つのAEセンサを配置して、加振器1の加振の位置をランダムに移動させながら、100回加振した際の、1回ずつの加振に基づくAEセンサでの計測値を合算した振動波形図を示している。
【0126】
ここで、
図9(b)及び
図9(c)の振動波形図を比較すると、加振器1による加振の位置をランダムに移動させながらの加振の回数を増やしたことに伴い、反射したP波の波形を示す領域で、より一層、P波の波形が強調されていることが確認できる。
【0127】
なお、
図9(b)及び
図9(c)では、「起点(トリガー信号)から0.0025秒」の時点で、AEセンサにおいて、検査対象物におけるターゲット領域から反射したP波を観測している。
【0128】
このように、本発明を適用した検査方法では、加振器1で加振する位置を変えながら、加振の回数を増やして、AEセンサでの計測値を加算することで、振動波形図において、ターゲット領域から反射したP波を強調することができる。
【0129】
このことによれば、例えば、加振器1の加振力が小さい場合や、検査対象物の計測対象が長い場合、または、P波の減衰が大きい場合等でも、P波を強調して、より精度良く、反射したP波を検出することが可能となる。
【0130】
[P波速度の計測]
次に、検査機構Aで検査対象物におけるP波速度を測定する際の構成部材の配置及びP波速度の算出方法について、概略図を用いて、配置の一例を説明する。
図10では、地表面Gを有する地中に埋設された検査対象物9に対して、地上に露出している部分を利用して、検査対象物9の内部を伝播するP波速度を測定する際の概略を示している。
【0131】
この検査対象物9の中でのP波速度の測定では、検査対象物9における、地上に露出している部分の一方の側面(
図10中の左側の側面)にAEセンサ20を配置し、かつ、もう一方の側面(
図10中の右側の側面)に加振器1を配置して、AEセンサ20と加振器1が対向するようにしている。
【0132】
ここで、AEセンサ20は、加振器1で加振された弾性波を直接計測する。このAEセンサ20と加振器1の位置関係では、弾性波のうち、P波がAEセンサで最初に計測される。
【0133】
そのため、振動波形図において、加振の開始から弾性波到達時刻を計測すると、これはP波到達時刻として取り扱うことができる。また、AEセンサ20と加振器1の間の「離隔距離(符号L1)」を計測しておく。
【0134】
そうして、AEセンサ20で検出した振動波形図から分かる「P波到達時刻」と、AEセンサ20と加振器1の間の「離隔距離(L1)」に基づき、「離隔距離(L1)」を「P波到達時刻」で割ることで、この検査対象物9の中での「P波速度」のパラメータを算出することができる。
【0135】
また、上述した、AEセンサ20と加振器1とが対向する位置関係の代わりに、AEセンサ20の軸心方向と直交する方向に、その軸心を向けて加振器1を配置する構成も採用しうる(
図10参照)。
【0136】
この直交する位置関係では、例えば、検査対象物9における、地上に露出している部分の一方の側面(
図10中の左側の側面)にAEセンサ20を配置すると共に、上端面90上で、かつ、加振器1の軸心(
図10中の符号C1)が、AEセンサ20の軸心(
図10中の符号C1)と直交するように、加振器1を配置している。
【0137】
ここで、AEセンサ20は、加振器1で加振された弾性波について、斜め方向に入ってくる波を計測するものとなる。なお、振動波形図において、加振の開始から弾性波到達時刻を計測すると、これをP波到達時刻として取り扱うことができる点は同様である。また、AEセンサ20と加振器1の間の「離隔距離(符号L2)」を計測しておく。
【0138】
そうして、AEセンサ20で検出した振動波形図から分かる「P波到達時刻」と、AEセンサ20と加振器1の間の「離隔距離(L2)」に基づき、「離隔距離(L2)」を「P波到達時刻」で割ることで、やはり、この検査対象物9の中での「P波速度」のパラメータを算出することができる。このように、AEセンサに対して、加振器1を直交する方向に配置して、P波速度を計測することもできる。
【0139】
さらに、検査対象物の形状や、地中での埋設の状況によっては、上述したように、AEセンサや加振器が配置できない場合がある。例えば、検査対象物が平らな床等の場合には、AEセンサや加振器が配置できないことが想定される。そのようなケースでは、P波速度を測定するのではなく、検査対象物のサイズや形状、過去の知見等の基づき、P波速度を推定して、この推定値をP波速度として採用し、後述する深度距離の算出に用いることができる。
【0140】
ここで、P波速度の測定に用いるセンサは、必ずしも、反射したP波の識別に用いるAEセンサ20を用いる必要はない。例えば、AEセンサ20等とは別に、P波速度の計測用のセンサを用いてもよい。
【0141】
[深度の計算方法]
これまでに説明した、検査対象物のターゲット領域から反射したP波に関する、AEセンサへの「P波の到達時刻」の情報と、検査対象物中の「P波速度」の情報に基づき、検査対象物の上端面からターゲット領域までの深度(距離)を算出することができる。
【0142】
このターゲット領域までの深度(距離)の算出は、次の「式(1)」で算出できる。『「P波速度」×「P波の到達時刻」÷2・・・式(1)』。この式1に、反射したP波の検出と、P波速度の計測の、それぞれの工程で取得したパラメータの数値を当てはめることで、検査対象物におけるP波を反射したターゲット領域までの深度(距離)、即ち、ひび割れや損傷のある箇所、または、検査対象物の先端位置までの距離の情報を算出することができる。なお、ターゲット領域までの深度の算出方法は、上述した式による方法に限定されるものではなく、既知の物理的または数学的な手法を用いることができる。
【0143】
このように本発明を適用した検査機構A、または、検査方法では、弾性波を用いて、検査対象物のターゲット領域で反射したP波を精度高く捉えて、ターゲット領域までの距離を計測することができる。
【0144】
特に、弾性波のうち、レイリー波とP波を識別して、P波の波形情報に基づいて、正確な検査結果を得ることが可能となる。
【0145】
また、本発明を適用した検査機構A、または、検査方法では、加振器、複数のAEセンサ、計測装置及び解析装置という比較的簡易な構成で、正確な検査を実現できるものとなっている。
【0146】
また、本発明を適用した検査機構A、または、検査方法では、P波がターゲット領域に当たって戻ってくるまでの時間、P波速度及びレイリー波の速度等のパラメータを測定することができる。
【0147】
また、本発明を適用した検査機構A、または、検査方法では、関節的に、検査対象物における途中に発生した傷の有無、検査対象物が岩盤に接触しているかどうか、検査対象物の断面が膨らんだり細くなっていたりしないかを確認することができる。また、検査対象物の初期状態との比較を行うことで、経年劣化を把握することも可能である。
【0148】
以上のように、本発明の検査方法は、検査対象物を非破壊的に評価する検査において、ターゲットとなる領域からの反射波を精度高く捉えることができ、かつ、再現性に優れた計測及び解析が可能なものとなっている。
また、本発明の検査機構は、検査対象物を非破壊的に評価する検査において、ターゲットとなる領域からの反射波を精度高く捉えることができ、かつ、再現性に優れた計測及び解析が可能なものとなっている。
【実施例0149】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0150】
[杭計測例]
本発明を適用した検査機構及び検査方法を用いて、地中に埋設された杭の先端位置の計測を行った。
【0151】
(1)P波速度の測定
最終的な計測対象である杭は、地中に埋設され、上端面のみが地表に露出しているため、本計測では、地中に埋設された杭と同じ部材で形成され、同程度の長さを有する、地中に埋めていないモデル杭にて、P波速度を計測した。モデル杭の一端に加振器1を、他端にAEセンサ20を配置して、加振器1で加振を行い、AEセンサ20で弾性波を検出した。また、モデル杭の杭長は6mである。
【0152】
図11に示すように、AEセンサ20で、弾性波(P波)を最初に検出したのは、0.001294秒(1.294ミリ秒)であった。また、モデル杭の杭長は6mであることから、P波速度は、「6m÷1.294ms=4636m/s」と算出された。
【0153】
(2)計測対象の杭における反射したP波の検出
次に、地中に埋設された杭の上端面に、加振器1と、3つのAEセンサ20、21及び22を、それぞれ異なる位置に配置した。また、治具10を用いて、AEセンサ20及びAEセンサ21を結ぶ方向と、AEセンサ20及びAEセンサ22を結ぶ方向とが、略直交する方向となるように、各AEセンサを配置した。加振器1で、杭の上端面に加振を行い、加振により生じた弾性波を各AEセンサで検出した。
【0154】
図12(a)に示すように、トリガー信号を起点として、加振直後は、レイリー波の振動波形が検出され、時間の経過共に、レイリー波が減衰していく波形が観察された。3つのAEセンサ20、21及び22におけるレイリー波に該当する波形図では、各波形の位相が異なっている。
【0155】
また、振動波形図のおける2ミリ秒から3.3ミリ秒(0.002秒~0.0032秒)の波形図を拡大すると(
図12(b)参照)、2.569ミリ秒から、AEセンサ20、21及び22で検出した3つの波形の位相が一致している様子が観察された。この内容から、加振で生じた弾性波のうち、杭の先端(下端)で反射したP波が、2.569ミリ秒のタイミングで、AEセンサ20、21及び22に到達したことが分かる。よって、ターゲット領域である杭の先端位置から反射したP波に関する、AEセンサへの「P波の到達時刻」は2.569ミリ秒であることが確認された。
【0156】
そして、「P波の到達時刻」と「P波速度」の値に基づき、杭の上端面から先端までの深度は、「2.569ms×4636m/s÷2=5.945m」と算出された。なお、本事例で計測対象とした杭は、モデル杭と同じ長さであったことから、本事例では、実際の杭長(6m)に対して、0.8%程短い杭長が算出できた結果となった。
【0157】
[コンクリート体計測例]
本発明を適用した検査機構及び検査方法を用いて、地中に埋設されたコンクリート壁の先端位置の計測を行った。
【0158】
(3)P波速度の測定
最終的な計測対象であるコンクリート壁は、地中に埋設され、上端面のみが地表に露出しているため、本計測では、地中に埋設されたコンクリート壁と同じ部材で形成され、同様の形状とサイズを有する、地中に埋めていないモデルコンクリート壁にて、P波速度を計測した。モデルコンクリート壁の一端に加振器1を、他端にAEセンサ20を配置して、加振器1で加振を行い、AEセンサ20で弾性波を検出した。また、モデルコンクリート壁の長さは3.64mである。
【0159】
図13に示すように、AEセンサ20で、弾性波(P波)を最初に検出したのは、0.001037秒(1.037ミリ秒)であった。また、モデルコンクリート壁の長さは3.64mであることから、P波速度は、「3.64m÷1.037ms=3510m/s」と算出された。
【0160】
(4)計測対象のコンクリート壁における反射したP波の検出
次に、地中に埋設されたコンクリート壁の上端面に、加振器1と、3つのAEセンサ20、21及び22を、それぞれ異なる位置に配置した。また、治具10を用いて、AEセンサ20及びAEセンサ21を結ぶ方向と、AEセンサ20及びAEセンサ22を結ぶ方向とが、略直交する方向となるように、各AEセンサを配置した。加振器1で、コンクリート壁の上端面に加振を行い、加振により生じた弾性波を各AEセンサで検出した。
【0161】
図14(a)に示すように、トリガー信号を起点として、加振直後は、レイリー波の振動波形が検出され、時間の経過共に、レイリー波が減衰していく波形が観察された。3つのAEセンサ20、21及び22におけるレイリー波に該当する波形図では、各波形の位相が異なっている。
【0162】
また、振動波形図のおける1.5ミリ秒から3ミリ秒(0.0015秒~0.003秒)の波形図を拡大すると(
図14(b)参照)、2.115ミリ秒から、AEセンサ20、21及び22で検出した3つの波形の位相が一致している様子が観察された。この内容から、加振で生じた弾性波のうち、コンクリート壁の先端で反射したP波が、2.115ミリ秒のタイミングで、AEセンサ20、21及び22に到達したことが分かる。よって、ターゲット領域であるコンクリート壁の先端位置から反射したP波に関する、AEセンサへの「P波の到達時刻」は2.115ミリ秒であることが確認された。
【0163】
そして、「P波の到達時刻」と「P波速度」の値に基づき、コンクリート壁の上端面から先端までの深度は、「2.115ms×3510m/s÷2=3.711m」と算出された。なお、本事例で計測対象としたコンクリート壁は、モデルコンクリート壁と同じ長さであったことから、本事例では、実際のコンクリート壁の長さ(3.64m)に対して、2%程長い、コンクリート壁の長さが算出できた結果となった。