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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101859
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】コイル部品及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20220630BHJP
   H01F 1/22 20060101ALI20220630BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220630BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220630BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20220630BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F1/22
C22C38/00 303S
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216209
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】棚田 淳
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC12
4K018BC18
4K018BC28
4K018BD01
4K018CA02
4K018CA07
4K018CA08
4K018CA09
4K018CA11
4K018DA03
4K018FA08
4K018GA02
4K018GA03
4K018GA04
4K018HA04
4K018JA01
4K018KA44
5E041AA11
5E041CA03
5E041NN01
5E070AA01
5E070AB10
5E070BB01
(57)【要約】
【課題】電気的絶縁性に優れ、かつ透磁率の高い圧粉磁心を磁性基体として備えるコイル部品を提供する。
【解決手段】コイル部品を、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で形成され、中心部について測定したラマンスペクトルにおいて、波数400~450cm-1の範囲における最強線強度(I)に対する波数650~750cm-1の範囲における最強線強度(I)の強度比(I/I)が2以上であり、かつ前記中心部よりも表面側に、ラマンスペクトルにおいて、前記強度比(I/I)が2未満となる部分を有する磁性基体、並びに前記磁性基体の内部又は表面に配置された導体を備えるものとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で形成され、
中心部について測定したラマンスペクトルにおいて、波数400~450cm-1
範囲における最強線強度(I)に対する波数650~750cm-1の範囲における
最強線強度(I)の強度比(I/I)が2以上であり、かつ
前記中心部よりも表面側に、ラマンスペクトルにおいて、前記強度比(I/I
が2未満となる部分を有する
磁性基体、及び
前記磁性基体の内部又は表面に配置された導体
を備えるコイル部品。
【請求項2】
前記中心部について測定したラマンスペクトルにおいて、前記最強線強度(I)に対する波数525~575cm-1の範囲における最強線強度(ICr)の強度比(ICr/I)が0.05以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記金属磁性粒子のFe含有量が90質量%以上である請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のコイル部品を搭載した回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話を初めとする高周波通信用システムにおいて、小型化・高性能化を促進するために、内部に搭載される電子部品にも小型化・高性能化が求められている。インダクタなどのコイル部品に関しては、高性能化の一つの指針として、大電流化が挙げられる。こうした小型化・大電流化の要求を達成するために、コイル部品に使用される磁性材料として、フェライト材料よりも磁気飽和しにくい金属磁性材料が使用され始めている。
【0003】
金属磁性材料の使用に際しては、その電気的絶縁性がフェライト材料よりも劣ることから、これを改善するために、金属磁性材料で形成された粒子間を、絶縁体により電気的に絶縁することが多い。
【0004】
例えば、特許文献1では、Fe-Cr-Si合金粉末を硼珪酸ガラス粉末と混合した金属磁性体ペーストを用いて形成された金属磁性体層を備える積層型電子部品が開示されている。この積層型電子部品においては、金属磁性粒子同士が硼珪酸ガラスを介して接合されることで、電気的絶縁性と機械的強度とが確保されている。
【0005】
また、特許文献2では、金属磁性粒子の表面に、ゾルゲル法によりシリカ膜を形成した後、これをバインダー樹脂と混合したスラリーから磁性体シートを作製し、該シートの積層体を、酸素濃度が50~200ppmの雰囲気中で熱処理して磁性基体を得ることが開示されている。この磁性基体は、複数の金属磁性粒子がSiを含有する酸化物相を介して結合されると共に、その表面に設けられた酸化膜において、マグネタイト(Fe)に比べて、絶縁性のヘマタイト(Fe)が多く含まれるため、高い体積抵抗値が得られるとされている。
【0006】
さらに、特許文献3では、Fe―Si-Cr(Fe:95wt%、Si:3.5%、Cr:1.5wt%)の組成を有する軟磁性金属粒子をシート化し、この磁性体シートに導体パターンを形成した後積層・圧着し、種々の酸素濃度を有する雰囲気において熱処理を行ってインダクタを得ることが開示されている。このインダクタは、磁性基体の破断面のラマンスペクトルにおいて、波数712cm-1付近に存在するピーク(ピーク強度M)と波数1320cm-1付近に存在するピーク(ピーク強度H)との比であるピーク強度比(M/H)が1~70の範囲にあることで、高い透磁率と耐電圧とを有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-27354号公報
【特許文献2】特開2020-167296号公報
【特許文献3】特開2020-53542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3に開示されるような、磁性粉末を成形して得られる圧粉磁心においては、これを構成する金属磁性粒子の充填率を高めることが、透磁率の向上に繋がる。
【0009】
しかし、金属磁性粒子がガラスを介して結合する特許文献1の磁性体では、ガラスの厚みによって金属磁性粒子の充填率が低くなる。また、金属磁性粒子の表面にゾルゲル法によってシリカ膜を形成し、成形した後さらに熱処理を行って得られる特許文献2の磁性体においても、金属磁性粒子間に比較的厚い絶縁層が形成されるため、高い充填率を得ることは困難である。
【0010】
他方、金属磁性粒子の充填率を高めるために、厚みの薄い絶縁層で金属磁性粒子間を電気的に絶縁する場合には、電気抵抗率の高い材料で絶縁層を形成する必要がある。
【0011】
特許文献3に開示される磁性基体では、高絶縁性であるヘマタイトの含有割合に対して、導電性を有するマグネタイトの含有割合が高くなると、電気的絶縁性が低下することが問題であった。
【0012】
このように、金属磁性粒子で形成される圧粉磁心においては、高い電気的絶縁性と高い透磁率とを両立することは困難であった。
【0013】
そこで本発明は、電気的絶縁性に優れ、かつ透磁率の高い圧粉磁心を磁性基体として備えるコイル部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前述の問題点を解決するための検討の過程で、導体に近接する磁性基体表面近傍の電気的絶縁性を高くすれば、表面から離れた磁性基体内部の電気的絶縁性が多少低くとも、所期の電気的絶縁性が得られるとの考えに至った。そして、この考えに基づいて、表面近傍では電気的絶縁性に優れるヘマタイト(Fe)の含有割合が高く、内部では磁気的特性に優れるマグネタイト(Fe)の含有割合が高い磁性基体を得ることに成功し、これにより前述の問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の側面は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で形成され、中心部について測定したラマンスペクトルにおいて、波数400~450cm-1の範囲における最強線強度(I)に対する波数650~750cm-1の範囲における最強線強度(I)の強度比(I/I)が2以上であり、かつ前記中心部よりも表面側に、ラマンスペクトルにおいて、前記強度比(I/I)が1.5以下となる部分を有する磁性基体、及び前記磁性基体の内部又は表面に配置された導体を備えるコイル部品である。
【0016】
また、本発明の第2の側面は、前述した第1の側面に係るコイル部品を搭載した回路基板である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電気的絶縁性に優れ、かつ透磁率の高い圧粉磁心を磁性基体として備えるコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1側面に係るコイル部品の構造を示す模式図
図2】本発明の第1側面において、磁性基体のラマンスペクトル測定用試料の調製方法を示す説明図
図3】本発明の第1側面において、磁性基体の中心部及び表面側の決定方法を示す説明図
図4】本発明の実施例及び比較例におけるラマンスペクトルの測定位置を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0020】
[コイル部品]
図1に模式的に示すように、本発明の第1の側面に係るコイル部品(以下、単に「第1側面」と記載することがある。)100は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子1で形成された磁性基体10、及び該磁性基体10の内部又は表面に配置された導体20で構成される。なお、図1には、導体20としての導線が磁性基体10の表面に巻回された形状を示しているが、第1側面は、該形状に限定されるものではない、
【0021】
金属磁性粒子1は、必須成分としてFeを含む。金属磁性粒子1がFeを含むことで、磁性基体10を透磁率及び飽和磁束密度の高いものとすることができる。金属磁性粒子1中のFeの含有量は、所期の特性の磁性基体10が得られるものであれば特に限定されない。Feの含有量が多いほど、大きな透磁率及び飽和磁束密度が得られることから、Feの含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。他方、Feの酸化や渦電流の発生に起因する磁気特性の低下を抑制する点からは、Feの含有量は、99質量%以下とすることが好ましく、98質量%以下とすることがより好ましい。
【0022】
また、金属磁性粒子1は、必須成分としてSiを含む。金属磁性粒子1がSiを含むことで、電気抵抗が高くなり、渦電流による磁気特性の低下を抑制することができる。金属磁性粒子1中のSiの含有量は、所期の特性の磁性基体10が得られるものであれば特に限定されない。渦電流の抑制効果を十分に発揮する点からは、Siの含有量は1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。他方、金属磁性粒子1中のFeの含有量を多くして優れた磁気特性を得る点からは、Siの含有量は5質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
さらに、金属磁性粒子1は、必須成分としてCrを含む。金属磁性粒子1がFeより酸化しやすいCrを含むことで、該粒子中に含まれるFeの酸化が抑制され、高い透磁率及び飽和磁束密度を保持できる。金属磁性粒子1中のCrの含有量は、所期の特性の磁性基体10が得られるものであれば特に限定されない。Feの酸化抑制効果を十分に発揮する点からは、Crの含有量は0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。他方、金属磁性粒子1中のFeの含有量を多くして優れた磁気特性を得る点からは、Crの含有量は5質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
金属磁性粒子1は、本発明の目的を達成できる範囲で、前述の必須成分以外の元素を含有してもよい。含有することができる元素としては、Al、Ti及びZr等が例示される。
【0025】
磁性基体10中の隣接する金属磁性粒子1同士は、接合層2によって接合されている。接合層2は、金属磁性粒子1に含まれる元素の酸化により形成されるものであり、該元素を少なくとも1つ含む、1又は複数の酸化物を含有する。酸化物の例としては、ヘマタイト(Fe)、マグネタイト(Fe)、クロマイト(FeCr)、酸化クロム(Cr)及び二酸化ケイ素(SiO)等が挙げられる。
【0026】
磁性基体10は、中心部について測定したラマンスペクトルにおいて、波数400~450cm-1の範囲における最強線強度(I)に対する波数650~750cm-1の範囲における最強線強度(I)の強度比(I/I)が2以上である。このことにより、磁性基体10が高透磁率を有するものとなる。ラマンスペクトルにおいて、波数400~450cm-1に現れるピークは、ヘマタイト(Fe)に由来するものである。また、ラマンスペクトルにおいて、波数650~750cm-1に現れるピークは、マグネタイト(Fe)及びクロマイト(FeCr)のそれぞれに由来するものである。ただし、金属磁性粒子1においては、Crの含有量に比べてFeの含有量が非常に多いため、磁性基体10におけるクロマイトの含有量は、マグネタイトに比べて少なくなる。このため、波数650~750cm-1の範囲に大きなピークが見られる場合には、その大部分はマグネタイト由来のものといえる。そうすると、ラマンスペクトルにおいて、波数400~450cm-1の範囲における最強線強度(I)に対する波数650~750cm-1の範囲における最強線強度(I)の強度比(I/I)が2以上であることは、測定箇所において、ヘマタイトに比べてマグネタイトの割合が高いことを意味する。マグネタイトは、ヘマタイトに比べて透磁率が高いため、その割合が高いことは磁性基体10の透磁率の向上につながる。他方、マグネタイトは、ヘマタイトに比べて電気的絶縁性が劣るため、その割合が高い場合には電気的絶縁性の低下が懸念されていたが、本発明者が見出したように、コイル部品100とした際に導体からの距離が遠くなる中心部では、電気的絶縁性への影響は限定的である。磁性基体10の透磁率を高める点からは、前記強度比(I/I)は5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることが更に好ましい。前記強度比(I/I)の上限値は特に限定されないが、一般的な製造方法で得られた磁性基体10においては、概ね100以下となる。また、特に高い電気的絶縁性を達成するために、酸素濃度の比較的高い雰囲気中で熱処理された磁性基体10においては、前記強度比(I/I)の上限値は概ね50以下となる。
【0027】
磁性基体10は、好ましくは、中心部について測定したラマンスペクトルにおいて、前述した最強線強度(I)に対する波数525~575cm-1の範囲における最強線強度(ICr)の強度比(ICr/I)が0.05以下である。このことにより、高い透磁率を保持したまま、電気的絶縁性がより向上する。ラマンスペクトルにおいて、波数525~575cm-1に現れるピークは、酸化クロム(Cr)に由来するものである。このため、前記強度比(ICr/I)が0.05以下であることは、マグネタイト及びクロマイトの合計に対する酸化クロムの割合が低いことを意味する。接合層2中のCrは、そのほとんどが酸化クロム又はクロマイトとして存在することから、酸化クロムの割合が低くなることで、クロマイトの割合は高くなる。クロマイトは2価のFeと3価のCrとを含み、3価のCrのみからなる酸化クロムに比べて、生成に要する酸素の量が少ない。このため、酸化クロムのみが存在する場合に比べて、Crを含む酸化物の生成に消費される酸素の量が減少し、その分Feの酸化物の生成に寄与する酸素が多くなる。これにより、生成のためにマグネタイトよりも多くの酸素を要するヘマタイトの割合が、僅かながら高くなる。このヘマタイトの割合の僅かな増加により、高い透磁率を保持しつつ、より優れた電気的絶縁性が発現する。このように、前記強度比(ICr/I)が小さい場合には、磁性基体10が、高い透磁率及びより優れた電気的絶縁性を有するものとなる。
【0028】
磁性基体10は、中心部よりも表面側に、ラマンスペクトルにおいて、前記強度比(I/I)が2未満となる部分を有する。このことにより、磁性基体10の表面が電気的絶縁性に優れるものとなり、内部にまで電流を通さないため、コイル部品100に使用した場合には、十分な電気的絶縁性が得られる。これは、前記表面側部分においては、電気的絶縁性に優れるヘマタイトの割合が高くなっていることによる。より優れた電気的絶縁性を得る点からは、前記強度比(I/I)は低い方が好ましく、例えば1.5未満であることが好ましい。前記強度比(I/I)は、一般的な製造方法における、大気中で600℃以上の熱処理を経て得られた磁性基体10においては、1.0未満とすることも可能である。しかし、こうした一般的な製造方法では、磁性基体10の中心部においても、前記強度比(I/I)は表面側と同程度となり、第1側面のような、中心部の前記強度比(I/I)を2以上としながら、表面側と中心部とで前記強度比(I/I)が大きく異なる構造をとることはできない。なお、前記強度比(I/I)の範囲は、IとIとの大小関係だけを見れば、Iの方がIよりも大きい場合も含むが、上述のとおり、Iは、マグネタイトのピーク強度とクロマイトのピーク強度との合計であるため、この場合でもマグネタイトの割合は十分に小さいものとなる。
【0029】
ここで、磁性基体10の中心部及びそれよりも表面側のラマンスペクトル測定及びこれに基づく上記各最強線強度比の算出は、以下の手順で行う。まず、図2に示すように、コイル部品100の実装面30について、重心Gを幾何学的に決定し、該重心Gを通る実装面30に垂直な任意の平面で、コイル部品100を切断する。この切断は、コイル部品100を解体して得た磁性基体10に対して行ってもよい。次いで、図3に示すように、切断によって現れた磁性基体10の断面(測定対象面)の重心Gを幾何学的に決定し、そこから測定対象面の外周までの最短距離dを算出する。次いで、重心Gからの距離がd/10以内にある測定対象面内の領域を、磁性基体10の中心部11とする。次いで、中心部11に位置する任意の1点、及びその外側に位置する表面側の点について、それぞれラマンスペクトル測定を行う。中心部11よりも表面側の領域については、上述した強度比(I/I)が得られる点が1点でも存在すればよいので、複数の点について測定を行って前記強度比(I/I)を算出・確認してもよい。なお、前記強度比(I/I)は、磁性体の表面に近いほど小さくなる傾向にあるため、測定点数を減らして測定を短時間で終えるためには、測定対象面の外周付近、例えば外周からの距離がd/10以内にある点を測定点とすることが好ましい。また、表面側の測定点として、磁性基体10の表面に内部と材質が異なる部分、例えば樹脂などの異物、がない場合は、前述の測定対象面内の点に代えて、磁性基体10の表面上の点を採用してもよい。測定は、レーザーラマン分光光度計(日本分光株式会社製、NRS-3300)を用いて行い、励起光源は波長488nmのレーザー光とし、減光器は開放、露光時間は300秒、積算回数は2回とする。なお、前述の測定装置及び測定条件に代えて、これと同程度の測定・解析精度が得られる測定装置及び測定条件を採用してもよい。次いで、得られた測定結果から、波数400~450cm-1、650~750cm-1及び525~575cm-1の各範囲における最大強度を読み取るとともに、該各範囲におけるベースライン値をそれぞれ算出し、最大強度からベースライン値を引くことで得られる値を、それぞれ最強線強度I、I及びICrとする。最後に、得られた最強線強度から、最強線強度比I/I及びICr/Iを算出する。
【0030】
第1側面では、磁性基体10の断面を目視観察することにより、これが所期の特性を有するものであることを簡易的に確認することも可能である。所期の特性を有する磁性基体10においては、上述のラマンスペクトルの測定対象面を目視観察したときに、黒色の周縁部とは色の異なる、黒色に加えて黄色味がかった部分が面内中央に確認される。したがって、この黄色味がかった黒色の部分の存在をもって、磁性基体10が第1側面を構成するものと判定してもよい。
【0031】
第1側面においては、磁性基体10の寸法及び形状は特に限定されず、要求特性に応じて適宜決定すればよい。寸法が大きく等方的な形状であるほど、換言すれば表面同士の距離が大きいほど、中心部にマグネタイトの割合が多い部分が存在しても高い電気的絶縁性を保持できるため、好ましい。特に好ましい磁性基体10の寸法・形状としては、コイル部品100の実装面30に垂直な断面が、1.0mm以上の幅及び高さを有するもの、並びに該断面が2.0mm以上の断面積を有するもの等が例示される。
【0032】
第1側面にて使用する導体20の材質、形状及び配置は特に限定されず、要求特性に応じて適宜決定すればよい。材質の一例としては、銀若しくは銅、又はこれらの合金等が挙げられる。また、形状の一例としては、直線状、ミアンダー状、平面コイル状、螺旋状等が挙げられる。さらに、配置の一例としては、被覆付きの導線を磁性基体10の周囲に巻回したものや、各種形状の導体20を磁性基体10の内部に埋め込んだもの等が挙げられる。
【0033】
以上説明した第1側面では、磁性基体10が、中心部11ではマグネタイトの割合が高い一方で、表面近傍ではヘマタイトの割合が高い構造を有することで、透磁率が高く、かつ電気的絶縁性に優れるものとなる。このため、第1側面は高性能のコイル部品となる。
【0034】
[コイル部品の製造方法1]
上述した第1側面に係るコイル部品は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される金属磁性粉末を成形して成形体とすること、前記成形体に対して、低酸素含有雰囲気中で熱処理を行って磁性基体とすること、及び前記磁性基体の表面に導体を配置することを経て製造される。以下、この製造方法を「第1の製造方法」と記載することがある。
【0035】
第1の製造方法にて使用する金属磁性粉末は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される。金属磁性粒子中の前記各元素の好ましい含有量は、第1側面における金属磁性粒子におけるものと同様である。Feの含有量が多い金属磁性粒子、具体的にはFeの含有量が90質量%以上のものは、塑性変形しやすい。このため、後述する成形時の圧力により粒子が変形して空隙を充填することで、充填率の高い成形体が得られやすい点で好ましい。すなわち、成形体を充填率の高いものとすることで、得られる磁性基体中の金属磁性粒子の割合が高まり、高い透磁率が得られる。加えて、後述する熱処理時に、成形体中心部に到達する酸素の量が減少し、Feの酸化物として、Feに対する酸素の割合が低いマグネタイトの生成量が増加することも、磁性基体の透磁率の向上に寄与する。
【0036】
金属磁性粉末の成形方法は特に限定されず、例えば、金属磁性粉末を金型等の成形型に供給し、プレス等により加圧して、金属磁性粉末を構成する金属磁性粒子の塑性変形により成形体を得る方法が挙げられる。プレスを利用した成形方法においては、金属磁性粉末に樹脂を混合した混合物をプレス成形した後、樹脂を硬化させて成形体としてもよい。この他に、金属磁性粉末を含むグリーンシートを積層・圧着する方法を採用してもよい。
【0037】
金型等を用いたプレス成形で成形体を得る場合、プレスの条件は、金属磁性粉末及びこれと混合する樹脂の種類やこれらの配合割合等に応じて適宜決定すればよい。
【0038】
金属磁性粉末と混合する樹脂としては、金属磁性粉末の粒子同士を接着して成形及び保形が可能で、かつ後述する脱脂(脱バインダー)処理によって炭素分等を残存させることなく揮発するものであれば特に限定されない。一例として、分解温度が500℃以下であるアクリル樹脂、ブチラール樹脂、及びビニル樹脂等が挙げられる。また、樹脂と共に、あるいは樹脂に代えて、ステアリン酸又はその塩、リン酸又はその塩、及びホウ酸又はその塩に代表される潤滑剤を使用してもよい。樹脂ないし潤滑剤の添加量は、成形性及び保形性等を考慮して適宜決定すればよく、例えば、金属磁性粉末100質量部に対して0.1~5質量部とすることができる。
【0039】
グリーンシートを積層・圧着して成形体を得る場合、吸着搬送機等を用いて個々のグリーンシートを積み重ね、プレス機を用いて熱圧着する方法が採用できる。圧着された積層体から複数のコイル部品を得る場合には、該積層体を、ダイシング機やレーザー切断機等の切断機を用いて分割してもよい。
【0040】
この場合、グリーンシートは、典型的には、金属磁性粉末とバインダーとを含むスラリーを、ドクターブレードやダイコーター等の塗工機により、プラスチックフィルム等のベースフィルムの表面に塗布・乾燥することで製造される。使用するバインダーとしては、金属磁性粉末をシート状に成形し、その形状を保持できると共に、加熱により炭素分等を残存させることなく除去できるものであれば特に限定されない。一例として、ポリビニルブチラールを初めとするポリビニルアセタール樹脂等が挙げられる。前記スラリーを調製するための溶媒も特に限定されず、ブチルカルビトールを初めとするグリコールエーテル等を用いることができる。前記スラリー中の各成分の含有量は、採用するグリーンシートの成形方法や調製するグリーンシートの厚み等に応じて適宜調節すればよい。
【0041】
第1の製造方法では、金属磁性粉末の成形体に対し、後述する熱処理を行うが、成形体が樹脂等の有機物を含む場合には、該熱処理に先立って、これを除去する脱バインダー処理を行う。脱バインダー処理の条件は、成形体中の金属磁性粒子の酸化を抑制しつつバインダーを除去できるものであれば特に限定されない。一例として、大気中で200~400℃の温度に30分~5時間保持することが挙げられる。
【0042】
金属磁性粉末の成形体は、必要に応じて前述の脱バインダー処理がなされた後、低酸素含有雰囲気中で熱処理が施される。このことにより、金属磁性粒子に含まれる元素が酸化され、接合層を形成して金属磁性粒子同士を接合することで、磁性基体となる。
【0043】
熱処理における雰囲気中の酸素濃度は特に限定されず、適用可能な熱処理温度及び熱処理時間において、所期の特性を有する磁性基体が得られるものであればよい。一般的に、雰囲気中の酸素濃度が高くなるほど、低温・短時間の熱処理で接合層が得られやすくなる一方、成形体中心部の酸化が表面近傍と同様に進んでマグネタイトの割合が低下した磁性基体となることで、透磁率が低下しやすくなる。このため、磁性基体を、中心部ではマグネタイトの割合が高く、一方で、表面近傍ではヘマタイトの割合が高い構造とするために雰囲気中の酸素濃度を決定するにあたっては、この一般的な傾向を考慮して、製造しようとする磁性基体に適する酸素濃度を選択すればよい。電気的絶縁性に優れると共に、高い透磁率を有する磁性基体が得られやすい酸素濃度としては、200~3000ppmが例示される。
【0044】
熱処理における熱処理温度も特に限定されず、適用可能な雰囲気中の酸素濃度及び熱処理時間において、所期の特性を有する磁性基体が得られるものであればよい。一般に、熱処理温度が高くなるほど、低酸素雰囲気中・短時間の熱処理で接合層が得られやすくなる一方、Feの酸化が進みすぎて金属磁性粒子中のFeの割合が低下することで、透磁率が低下しやすくなる。この一般的な傾向を考慮して、製造しようとする磁性基体に適する熱処理温度を選択すればよい。電気的絶縁性に優れると共に、高い透磁率を有する磁性基体が得られやすい熱処理温度としては、750~850℃が例示される。
【0045】
熱処理における熱処理時間も特に限定されず、適用可能な雰囲気中の酸素濃度及び熱処理温度において、所期の特性を有する磁性基体が得られるものであればよい。一般に、熱処理時間が長くなるほど、低酸素雰囲気中・低温の熱処理で接合層が得られやすくなる一方、製造に要する時間が長くなることで生産性が低下してしまう。また、一般に、熱処理時間が長くなるほど、成形体表面近傍における酸化の進行に、成形体中心部における酸化の進行が追い付いてゆくため、表面近傍と中心部とで、接合層中の各酸化物の割合が似通ったものとなり、双方においてマグネタイトの割合が等しく低下した磁性基体となって透磁率が低下してしまう。このため、磁性基体を、中心部ではマグネタイトの割合が高く、一方で、表面近傍ではヘマタイトの割合が高い構造とするためには、この一般的な傾向を考慮して、製造しようとする磁性基体に適する熱処理時間を選択すればよい。所期の組成を有する接合層が十分な厚さで形成されやすい熱処理時間としては、30分~3時間が例示される。
【0046】
前述した脱バインダー処理及び熱処理は、雰囲気と温度を切り変えた設定ができる単一の熱処理装置を用いて連続的に行ってもよく、異なる熱処理装置を用いて断続的に行ってもよい。
【0047】
熱処理を経て得られた磁性基体は、表面に導体を配置されてコイル部品となる。具体的な配置方法としては、磁性基体に被覆付きの導線を巻回す方法や、磁性基体の表面に導体ペーストの印刷等により導体の前駆体を配置した後、焼成炉等の加熱装置を用いて焼付け処理を行う方法が例示される。
【0048】
[コイル部品の製造方法2]
上述した第1側面に係るコイル部品は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される金属磁性粉末、及び導体又はその前駆体を成形し、前記導体又はその前駆体が内部に配置された成形体とすること、並びに前記成形体に対して、酸素含有雰囲気中で熱処理を行うことを経て製造されてもよい。以下、この製造方法を「第2の製造方法」と記載することがある。
【0049】
使用する金属磁性粉末については、前述した第1の製造方法と同様であるため、説明を省略する。また、金属磁性粉末を成形する方法も、前述した第1の製造方法と同様に、プレス成形やグリーンシートを積層・圧着する方法が採用できる。
【0050】
第2の製造方法では、金属磁性粉末の成形体の内部に、導体又はその前駆体を配置する。ここで、導体とは、そのままコイル部品中で導電経路として機能するものであり、導体の前駆体とは、コイル部品中で導体となる導電性の材料に加えてバインダー樹脂等を含み、熱処理によって導体となるものである。導体又はその前駆体を配置する方法としては、前記成形体をプレス成形で得る場合には、予め導体若しくはその前駆体を配置した金型中に金属磁性粉末を充填し、プレスする方法が採用できる。また、前記成形体をグリーンシートの積層・圧着で得る場合には、導体ペーストの印刷等によりグリーンシート上に導体の前駆体を配置した後、積層・圧着する方法が採用できる。
【0051】
導体の前駆体を、導体ペーストを用いて配置する場合、使用する導体ペーストとしては、導体粉末と有機ビヒクルとを含むものが挙げられる。導体粉末としては、銀若しくは銅又はこれらの合金等の粉末が用いられる。導体粉末の粒径は特に限定されないが、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))が1μm~10μmのものが用いられる。有機ビヒクルの組成は、グリーンシートに含まれるバインダーとの相性を考慮して決定すればよい。一例として、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂を、ブチルカルビトール等のグリコールエーテル系溶剤に溶解ないし膨潤させたものが挙げられる。導体ペーストにおける導体粉末及び有機ビヒクルの配合比率は、使用する印刷機に好適なペーストの粘度や形成しようとする導体パターンの膜厚等に応じて適宜調節することができる。
【0052】
第2の製造方法において、成形体に行う熱処理、及び必要に応じて熱処理前に行う脱バインダー処理の条件は、前述した第1の製造方法と同様であるため、説明を省略する。
【0053】
[回路基板]
本発明の第2の側面に係る回路基板(以下、単に「第2側面」と記載することがある。)は、前述の第1側面に係るコイル部品を載せた回路基板である。
【0054】
回路基板の構造等は限定されず、目的に応じたものを採用すればよい。
【0055】
第2側面は、第1側面に係るコイル部品を使用することで、高性能化ないし小型化が可能となる。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
(磁性基体の製造)
Fe-3.5Si-1.5Cr(数値は質量百分率を示す)の組成を有する、平均粒径6.0μmの金属磁性粉末を準備した。次いで、この金属磁性粉末を、1.5質量%のアクリル系バインダーとともに撹拌混合し、成形用材料を調製した。次いで、この成形用材料を金型に投入し、8t/cmの圧力で一軸加圧成形して、外径10.0mm、内径4.0mm、厚さ3.0mmのリング状の成形体を得た。次いで、得られた成形体を150℃の恒温槽中に1時間入れてバインダーを硬化させた。最後に、バインダー硬化後の成形体を、大気中、350℃で2時間脱バインダーした後、該成形体に、N-O混合雰囲気(O濃度800ppm)での800℃、1時間の熱処理を行って、実施例1に係る磁性基体を得た。磁性基体をリングの直径方向に切断した長方形断面の寸法は、縦方向、横方向とも3.0mmであったことから、該磁性基体の断面積は9.0mmと算出された。
【0058】
(磁性基体のラマン分光測定)
得られた磁性基体について、レーザーラマン分光光度計(日本分光株式会社製、NRS-3300)を用い、上述した方法で、中心部11及びそれよりも表面側におけるラマンスペクトルを測定し、最強線強度比I/I及びICr/Iをそれぞれ算出した。測定対象面内での測定位置は、図4に(1)で示す中心部11内の1箇所と、同図に(2)及び(3)で示す表面側2箇所の合計3箇所とした。また、測定対象面とは別に、磁性基体表面についてもラマンスペクトル測定を行い、最強線強度比I/I及びICr/Iをそれぞれ算出した。各測定位置で得られたI/I及びICr/Iの値を表2にまとめて示す。なお、測定対象面では、図4中に斑点で示す領域が、黄色味がかった部分として観察された。
【0059】
(コイル部品の製造及び比透磁率の測定)
得られた磁性基体に、導線を20ターン巻回して、実施例1に係るコイル部品とした。このコイル部品について、インピーダンスアナライザー(キーサイト・テクノロジーズ・インク製、E4990A)を用い、室温にて、OSCレベル500mV、周波数1MHzの条件で、比透磁率の測定を行った。得られた比透磁率は52であった。
【0060】
[実施例2~4]
(磁性基体の製造)
成形体の寸法・形状をそれぞれ、外径9.0mm、内径4.0mm、厚さ2.5mmのリング状(実施例2)、外径8.0mm、内径4.0mm、厚さ2.0mmのリング状(実施例3)、及び外径7.0mm、内径4.0mm、厚さ1.5mmのリング状(実施例4)、に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~4に係る磁性基体を得た。磁性基体をリングの直径方向に切断した長方形断面の寸法及び磁性基体の断面積はそれぞれ、実施例2では縦方向、横方向とも2.5mmで断面積は6.25mm(有効数字2桁で6.3mm)、実施例3では縦方向、横方向とも2.0mmで断面積は4.0mm、実施例4では縦方向、横方向とも1.5mmで断面積は2.25mm(有効数字2桁で2.3mm)、となった。
【0061】
(磁性基体のラマン分光測定)
得られた各磁性基体について、実施例1と同様の方法でラマンスペクトルを測定し、最強線強度比I/I及びICr/Iをそれぞれ算出した。各測定位置で得られたI/I及びICr/Iの値を表2にまとめて示す。なお、各磁性基体の測定対象面では、実施例1に係る磁性基体と同様に、黄色味がかった部分が中心部11付近に観察された。
【0062】
(コイル部品の製造及び比透磁率の測定)
得られた磁性基体から、実施例1と同様の方法でコイル部品を製造し、比透磁率の測定を行った。得られた比透磁率はそれぞれ、48(実施例2)及び46(実施例3)及び44(実施例4)であった。
【0063】
[比較例1~2]
(磁性基体の製造)
成形体の寸法・形状をそれぞれ、外径7.0mm、内径4.0mm、厚さ1.0mmのリング状の成形体(比較例1)、及び外径6.0mm、内径4.0mm、厚さ1.0mmのリング状の成形体(比較例2)とした以外は実施例1と同様の方法で、比較例1、2に係る磁性基体を製造した。磁性基体をリングの直径方向に切断した長方形断面の寸法及び磁性基体の断面積はそれぞれ、比較例1では縦方向1.0mm、横方向1.5mmで断面積は1.5mm、比較例2では縦方向、横方向とも1.0mmで断面積は1mmとなった
【0064】
(磁性基体のラマン分光測定)
得られた各磁性基体について、実施例1と同様の方法で、ラマンスペクトルを測定し、最強線強度比I/I及びICr/Iをそれぞれ算出した。各測定位置で得られたI/I及びICr/Iの値を表2にまとめて示す。なお、磁性基体における測定対象面は、一様に黒色を呈しており、実施例1~4に係る磁性基体で見られたような、黄色味がかった部分は観察されなかった。
【0065】
(コイル部品の製造及び比透磁率の測定)
得られた各磁性基体から、実施例と同様の方法でコイル部品をそれぞれ製造し、比透磁率の測定を行った。得られた比透磁率は、比較例1、2共に40であった。
【0066】
以上で説明した実施例及び比較例の結果を、表1及び表2にまとめて示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
以上の結果から、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で形成された磁性基体を、中心部について測定したラマンスペクトルにおいて、波数400~450cm-1の範囲における最強線強度(I)に対する波数650~750cm-1の範囲における最強線強度(I)の強度比(I/I)が2以上であり、かつ前記中心部よりも表面側に、ラマンスペクトルにおいて、前記強度比(I/I)が2未満となる部分を有するものとすることで、高い比透磁率が得られることが判る。この磁性基体は、電気的絶縁性に優れるヘマタイトの割合が表面側で高いことで、優れた電気的絶縁性を示すものといえる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、電気的絶縁性に優れ、かつ透磁率の高い圧粉磁心を磁性基体として備えるコイル部品を提供することができる。このため、コイル部品及びこれを搭載した回路基板の高性能化ないし小型化が可能となる点で、本発明は有用なものである。
【符号の説明】
【0071】
100 コイル部品
10 磁性基体(圧粉磁心)
11 磁性基体の中心部
1 金属磁性粒子
2 接合層
20 導体
30 実装面
実装面の重心
測定対象面の重心
d 測定対象面の重心から外周までの最短距離
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2021-11-16
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、コイル部品及び回路基板に関する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の側面は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で形成され、中心部について測定したラマンスペクトルにおいて、波数400~450cm-1の範囲における最強線強度(I)に対する波数650~750cm-1の範囲における最強線強度(I)の強度比(I/I)が2以上であり、かつ前記中心部よりも表面側に、ラマンスペクトルにおいて、前記強度比(I/I)が2未満となる部分を有する磁性基体、及び前記磁性基体の内部又は表面に配置された導体を備えるコイル部品である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図4
【補正方法】変更
【補正の内容】
図4