(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101882
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】積層鉄心の加熱装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
H02K15/02 F
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216240
(22)【出願日】2020-12-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】390023032
【氏名又は名称】田中精密工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592228712
【氏名又は名称】北陸電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 英一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 侑馬
(72)【発明者】
【氏名】川見 典央
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615PP01
5H615PP06
5H615SS18
5H615SS24
(57)【要約】
【課題】耳部の温度上昇を抑制しつつ鉄心の所要加熱時間を短縮することができる加熱装置を提供する。
【解決手段】耳部42の過熱を抑制するために、鉄心18と誘導加熱コイル19との間に抑制フェライト44を配置する。鉄心18の中心点48を通り、耳部42の中心を通る耳部中心線49と、鉄心の中心点48を通り、抑制フェライト44の中心を通るフェライト中心線51とのなす角度を交差角θと呼ぶ。交差角θが60°になるように、耳部42から離れた位置に抑制フェライト44を配置する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された鉄心を処理対象とし、前記鉄心に塗布されている接着剤を加熱処理する積層鉄心の加熱装置であって、
前記鉄心は、ドーナツ板部と、このドーナツ板部の外周から局部的に突起させた耳部とを有し、
前記加熱装置は、前記鉄心を囲って加熱する誘導加熱コイルを備えると共に、前記耳部へ作用する磁束を抑制する抑制フェライトを備えており、
前記鉄心の中心点を通り前記耳部の中心を通る耳部中心線と、前記鉄心の中心点を通り前記抑制フェライトの中心を通るフェライト中心線とのなす角度で定められる交差角は、60°に設定されていることを特徴とする積層鉄心の加熱装置。
【請求項2】
積層された鉄心を処理対象とし、前記鉄心に塗布されている接着剤を加熱処理する積層鉄心の加熱装置であって、
前記鉄心は、ドーナツ板部と、このドーナツ板部の外周から局部的に突起させた耳部とを有し、
前記加熱装置は、前記鉄心を囲って加熱する誘導加熱コイルを備えると共に、前記耳部へ作用する磁束を抑制する抑制フェライトを備えており、
前記鉄心の中心点を通り前記耳部の中心を通る耳部中心線と、前記鉄心の中心点を通り前記抑制フェライトの中心を通るフェライト中心線とのなす角度で定められる交差角は、45°~75°の範囲に設定されていることを特徴とする積層鉄心の加熱装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の積層鉄心の加熱装置であって、
ベースプレートと、このベースプレートに載せる下部プレートと、この下部プレートに載っている前記鉄心に載せる上部プレートと、この上部プレートに載せるトッププレートとを備え、前記ベースプレートと前記トッププレートとは、磁束を通しにくいステンレス鋼製とされ、
前記下部プレートと前記上部プレートとは、磁束を通す炭素鋼製とされ、
前記誘導加熱コイルを囲う筒型フェライトと、この筒型フェライトの下端から前記下部プレートへ延びる下部フェライトと、前記筒型フェライトの上端から前記上部プレートへ延びる上部フェライトとを備えていることを特徴とする積層鉄心の加熱装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の積層鉄心の加熱装置であって、
この加熱装置は、前記鉄心に設けられている中央穴へ挿入されるセンターガイドを備えており、このセンターガイドは、外径が変更できる外径可変チャック機構であり、
前記外径可変チャック機構は、平面視で120°ピッチで配置される3個の爪を有し、
前記爪の2個は固定爪であり、残りの1個はエアシリンダで駆動される可動爪であることを特徴とする積層鉄心の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層鉄心の加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積層鉄心は、モータ等に使用される。積層鉄心は、鉄心と鉄心を接着することで得られる。この接着は、接着剤を加熱処理することでなされる。そのための加熱装置として、各種のものが知られている(例えば、特許文献1(
図3)参照)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図14は従来の加熱装置の基本構成を説明する図であり、加熱装置100は、ベース101と、このベース101から起立するセンターガイド102と、このセンターガイド102を囲うようにしてベース101に載せられるベースプレート103及び下部プレート104と、ベースプレート103、下部プレート104及びセンターガイド102を囲うようにして配置される誘導加熱コイル105と、シリンダ106で吊るされるトッププレート107及び上部プレート108とを備えている。
【0004】
下部プレート104に、所定枚数の鉄心109を載せる。このときにセンターガイド102は、鉄心109を案内する役割を果たす。また、センターガイド102は、鉄心109がセンターガイド102の軸直角方向(図面では左右方向)へ移動することを防止する役割を果たす。
【0005】
シリンダ106を伸動してトッププレート107及び上部プレート108を下げ、上部プレート108で鉄心109を押さえる。
【0006】
この状態で誘導加熱コイル105に通電する。誘導加熱コイル105から磁束が発生する。この磁束が鉄心109内部に渦電流を発生する。渦電流は鉄心109の電気抵抗によりジュール熱を発生する。
【0007】
接着剤として、熱硬化性樹脂が広く使用される。
熱硬化性樹脂は、加熱により流動化し、その後に硬化する。通電を停止すると、鉄心109は自然冷却され、センターガイド102から鉄心109が取り外される。
【0008】
図15は従来の加熱装置の問題点を説明する平面図である。
鉄心109には、単純な穴空き板(ドーナツ板)の他、ドーナツ板部111の内周にツース(歯)部112を有し、外周に耳部113を有する形状のものも、実用に供されている。
【0009】
このような形状の鉄心109を誘導加熱コイル105で加熱する。耳部113はドーナツ板部111より誘導加熱コイル105に近い。誘導加熱では、距離が近いところの磁束密度が高く、離れているところの磁束密度が低くなる。磁束密度が高いほど強く加熱される。
加えて、ドーナツ板部111のマス(質量)は大きく、耳部113のマスは小さい。マスが大きい部位よりもマスが小さな部位が温度上昇する。
【0010】
耳部113の頂部の温度を耳部頂部の温度T11、耳部113の基部(裾)の温度を耳部基部の温度T12、ドーナツ板部111の外周の温度をドーナツ板部の温度T13とする。
【0011】
接着剤の硬化温度が180℃である場合、ドーナツ板部の温度T13が180℃に到達した時点で、耳部基部の温度T12は185℃で、耳部頂部の温度T11は415℃であった。
【0012】
このケースでは、ドーナツ板部が最も低温である。生産時間の短縮が求められなか、ドーナツ板部の温度T13の温度上昇を促し、所要加熱時間の短縮が望まれる。
【0013】
その対策の一つに、耳部113に加えるエネルギーを減らし、その分をドーナツ板部111に回して所要加熱時間を短縮する手法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、耳部の温度上昇を抑制しつつ鉄心の所要加熱時間を短縮することができる加熱装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、耳部の過熱を抑制するため、耳部の近傍に抑制フェライトを配置することを着想した。この着想を検証する。
図1(a)に示すように、鉄心18は、中央穴38が空いているドーナツ板部41と、このドーナツ板部41の外周に120°ピッチで設けた耳部42とを有する。
【0017】
ドーナツ板部41の内周にツース部43が設けられている。
そして、鉄心18を囲う誘導加熱コイル19の内側に且つ耳部42の近傍に抑制フェライト44が配置されている。
【0018】
図1(a)のb-b線断面図である
図1(b)に示すように、誘導加熱コイル19で発生した磁束のうち、一部の磁束45が抑制フェライト44を通る。別の一部の磁束46は耳部42を通り、さらに別の磁束47がドーナツ板部41を通る。
耳部42へ向かう可能性のある磁束45が、抑制フェライト44へ向かうため、耳部42の加熱が抑制される。
【0019】
図1(c)は
図1(a)の要部拡大図であり、耳部42の頂部の温度を耳部頂部の温度T1、耳部42の基部(裾)の温度を耳部基部の温度T2、ドーナツ板部41の外周の温度をドーナツ板部の温度T3とする。温度T1、T2、T3の温度曲線を
図2で説明する。
【0020】
図2に示すように、加熱時間t1が50秒で、ドーナツ板部の温度T3は180℃に達した。この時点で、耳部頂部の温度T1は従来より格段に低い340℃となった。抑制フェライト44の抑制効果が十分に現れている。
【0021】
しかし、抑制フェライト44の抑制効果が、耳部42の基部にも現れ、結果、耳部基部の温度T2は従来より低い160℃程度であった。これが180℃になるまで、さらに加熱する。
結果、加熱時間t2が60秒で、温度T2が180℃になった。加熱時間t2が延びたため、生産性が低下する共に電気エネルギーの消費が高まり、本発明の目的を達成するに至らなかった。
【0022】
本発明者らは、抑制フェライト44の抑制効果が強すぎるので、抑制効果を弱めた方がよいのではないかと考え、以下に述べる対策をさらに講じた。
図3(a)に示すように、鉄心18の中心点48を中心にして、鉄心18を60°回した。耳部42が抑制フェライト44から離れたため、抑制フェライト44の抑制効果が弱められる。
【0023】
この状態で加熱処理を施す。その他は、
図1(a)と変わらないので
図1(a)の符号を流用し、構成要素の説明は省略する。
図3(b)に示すように、耳部42の頂部の温度を耳部頂部の温度T1、耳部42の基部(裾)の温度を耳部基部の温度T2、ドーナツ板部41の外周の温度をドーナツ板部の温度T3とする。温度T1、T2、T3の温度曲線を
図4で説明する。
【0024】
図4に示すように、抑制フェライト44の抑制効果が弱められたため、耳部頂部の温度T1は390℃になった。また、抑制フェライト44の抑制効果が弱められたため、耳部基部の温度T2は加熱時間が49秒で180℃に達した。
図2より11秒短くなった。
一方、ドーナツ板部の温度T3が180℃に達したときの加熱時間は51秒であった。
図2より1秒長くなった。
【0025】
抑制フェライト44において、
図1の配置では(
図2に示すように)所要加熱時間は60秒であったものが、
図3の配置では(
図4に示すように)所要加熱時間は51秒に短縮され、生産性の大幅な向上が図れる。
【0026】
図3(a)にて、鉄心18の中心点48を通り、耳部42の中心を通る耳部中心線49と、鉄心の中心点48を通り、抑制フェライト44の中心を通るフェライト中心線51とのなす角度を交差角θと呼ぶ。
図1(a)の形態では交差角θは0であり、
図3(a)の形態では交差角θは60°であった。この60°は、3個の抑制フェライト44の配置ピッチ120°の半分(1/2)に相当する。
【0027】
ところで、θ=0である
図2では温度T2<温度T3であった。θ=60°である
図4では温度T3<温度T2であった。
60°のθを0に近づけると、温度T2=温度T3となることが予測される。
そこで交差角θを変更し、温度T2~T3と加熱時間の関係をさらに調べた。
【0028】
【0029】
交差角θを25°にすると、耳部基部の温度が180°に到達する時間は55秒であり、ドーナツ板部の温度が180°に到達する時間は50秒であった。
交差角θを45°にすると、耳部基部の温度が180°に到達する時間は51.5秒であり、ドーナツ板部の温度が180°に到達する時間は50.5秒であった。
【0030】
所要加熱時間は、耳部基部とドーナツ板部の遅い方(長い方)の時間が適用される。
所要加熱時間に着目すると、交差角が45°は60°と遜色が無い。一方、交差角が25°では60°より4秒も長く、交差角が0°では60°より9秒も長い。交差角が45°未満では所要加熱時間が長くなり生産性の点で難がある。
【0031】
よって、3個の抑制フェライト44を120°ピッチで配置したとき、交差角θを60°に設定する他、60°±15°、すなわち45°~75°の範囲に設定することが推奨される。
【0032】
以上の知見に基づいて完成した本発明は、以下の通りである。
請求項1に係る発明は、積層された鉄心を処理対象とし、前記鉄心に塗布されている接着剤を加熱処理する積層鉄心の加熱装置であって、
前記鉄心は、ドーナツ板部と、このドーナツ板部の外周から局部的に突起させた耳部とを有し、
前記加熱装置は、前記鉄心を囲って加熱する誘導加熱コイルを備えると共に、前記耳部へ作用する磁束を抑制する抑制フェライトを備えており、
前記鉄心の中心点を通り前記耳部の中心を通る耳部中心線と、前記鉄心の中心点を通り前記抑制フェライトの中心を通るフェライト中心線とのなす角度で定められる交差角は、60°に設定されていることを特徴とする。
【0033】
請求項2に係る発明は、積層された鉄心を処理対象とし、前記鉄心に塗布されている接着剤を加熱処理する積層鉄心の加熱装置であって、
前記鉄心は、ドーナツ板部と、このドーナツ板部の外周から局部的に突起させた耳部とを有し、
前記加熱装置は、前記鉄心を囲って加熱する誘導加熱コイルを備えると共に、前記耳部へ作用する磁束を抑制する抑制フェライトを備えており、
前記鉄心の中心点を通り前記耳部の中心を通る耳部中心線と、前記鉄心の中心点を通り前記抑制フェライトの中心を通るフェライト中心線とのなす角度で定められる交差角は、45°~75°の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0034】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の積層鉄心の加熱装置であって、
ベースプレートと、このベースプレートに載せる下部プレートと、この下部プレートに載っている前記鉄心に載せる上部プレートと、この上部プレートに載せるトッププレートとを備え、前記ベースプレートと前記トッププレートとは、磁束を通しにくいステンレス鋼製とされ、
前記下部プレートと前記上部プレートとは、磁束を通す炭素鋼製とされ、
前記誘導加熱コイルを囲う筒型フェライトと、この筒型フェライトの下端から前記下部プレートへ延びる下部フェライトと、前記筒型フェライトの上端から前記上部プレートへ延びる上部フェライトとを備えていることを特徴とする。
【0035】
請求項4に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の積層鉄心の加熱装置であって、
この加熱装置は、前記鉄心に設けられている中央穴へ挿入されるセンターガイドを備えており、このセンターガイドは、外径が変更できる外径可変チャック機構であり、
前記外径可変チャック機構は、平面視で120°ピッチで配置される3個の爪を有し、
前記爪の2個は固定爪であり、残りの1個はエアシリンダで駆動される可動爪であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
請求項1に係る発明では、加熱装置は、鉄心を囲って加熱する誘導加熱コイルを備えると共に、鉄心の耳部へ作用する磁束を抑制する抑制フェライトを備えているが、この抑制フェライトは、耳部から十分に離れた位置に配置した。
十分に離すことで、抑制効果を弱めて、耳部基部の昇温遅れを解消して、所要加熱時間を短くすることができた。
交差角は60°に設定する。交差角が一義的に決まっているので、抑制フェライトの配置に係る検討時間や設計時間の短縮が図れる。
【0037】
請求項2に係る発明では、請求項1と同様に、加熱装置は、鉄心を囲って加熱する誘導加熱コイルを備えると共に、鉄心の耳部へ作用する磁束を抑制する抑制フェライトを備えているが、この抑制フェライトは、耳部から十分に離れた位置に配置した。
十分に離すことで、抑制効果を弱めて、耳部基部の昇温遅れを解消して、所要加熱時間を短くすることができた。
交差角は45°~75°の範囲に設定する。交差角に幅があるため、抑制フェライトの配置に係る設計の自由度が高まる。
【0038】
請求項3に係る発明では、鉄心を囲う誘導加熱コイルを、筒型フェライトで囲った。誘導加熱コイルが発生する磁束の一部は筒型フェライトにより活用が促進される。
ただし、筒型フェライトから延びる磁束は一部がベースプレートやトッププレートで遮断される。この遮断には磁束が通りにくくなることを含む(以下同様)。
【0039】
対策として、本発明では、下部フェライトと上部フェライトを、筒型フェライトに付設した。下部フェライトと上部フェライトは磁束を良好に通す。
筒型フェライトから延びる磁束は、下部フェライトと上部フェライトで、下部フェライトと上部フェライトとで誘導され、鉄心の加熱に供される。
【0040】
請求項4に係る発明では、センターガイドは、外径が変更できる。センターガイドに鉄心をセットするとき、外径を小さくする。センターガイドの温度が上がっても、鉄心のセットに支障がでない。センターガイドから鉄心を外すときも、外径を小さくする。センターガイドの温度が上がっても、鉄心の取り外しに支障がでない。
【0041】
加えて、請求項4に係る発明では、外径可変チャック機構の要部は、2個の固定爪と1個の可動爪で構成した。3個の爪の全てを、可変爪にする構造に比較して、1個のみを可動爪にすれば、装置が簡単になり、設備コストを圧縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】比較例を示す図であり、(a)は抑制フェライトの配置図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は耳部の拡大図である。
【
図2】交差角が0°であるときの鉄心の温度曲線を説明する図である。
【
図3】実施例を示す図であり、(a)は抑制フェライトの配置図、(b)は耳部の拡大図である。
【
図4】交差角が60°であるときの鉄心の温度曲線を説明する図である。
【
図5】本発明に係る積層鉄心の加熱装置の断面図である。
【
図6】冷媒通路を備えた積層鉄心の加熱装置の断面図である。
【
図7】外径可変チャック機構を備えた積層鉄心の加熱装置の断面図である。
【
図11】外径可変チャック機構の作動を説明する図である。
【
図12】積層鉄心の加熱装置のさらなる変更例を説明する図である。
【
図13】変更例の磁束を説明する図であり、(a)は比較例を示す図、(b)は実施例を示す図である。
【
図14】従来の加熱装置の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例0044】
図5に示すように、積層鉄心の加熱装置10は、ベースプレート13と、このベースプレート13に載せられる下部プレート14と、この下部プレート14の上方に配置される上部プレート15と、この上部プレート15に載せられるトッププレート16と、このトッププレート16に下向きの力を加える押圧手段17と、鉄心18を囲うように配置される誘導加熱コイル19と、この誘導加熱コイル19の内側に配置される抑制フェライト44と、下部プレート14及び上部プレート15で挟まれる鉄心18の位置決めをするセンターガイド24とを備えている。
【0045】
鉄心18は、0.2~0.5mm厚さの珪素鋼板(電磁鋼板)であり、内径が50~150mmで外径が200~250mmの穴空き板である。
珪素鋼板のコイルからプレスで打ち抜き形成された鉄心18の上下面に、局部的(又は全面的)に数μm厚さの接着剤が塗布され、塗布された穴空き板が所定枚数パイリング(積層)されて、例えば50~150mm高さの積層鉄心が得られる。
【0046】
接着剤は、加熱により流動化し、180℃程度で硬化する熱硬化性樹脂、例えばエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーンゴム系樹脂でもよく、任意に選択可能である。
【0047】
下部プレート14と上部プレート15は、炭素鋼板である。
好ましくは、下部プレート14と上部プレート15は、センターガイド24との間に数mm程度の隙間δ1を確保する。この隙間δ1により、下部プレート14と上部プレート15からセンターガイド24への伝熱を遮断もしくは抑制する。
【0048】
センターガイド24は、ベースプレート13に立てた円筒又は円柱である。円柱は剛性が高いという利点はあるが重い。軽量化が図れるので円柱が推奨される。
【0049】
好ましくは、鉄心18の内周とセンターガイド24の外周との間に隙間δ2を確保する。この隙間δ2は10~20μmに設定する。
センターガイド24の熱膨張が大きいときにはδ2は20μm近傍に設定し、熱膨張が小さいときにはδ2は10μm近傍に設定すればよい。
【0050】
この隙間δ2の存在により、鉄心18をセンターガイド24に容易にセットすることができ、センターガイド24から鉄心18を取り外すことができる。
【0051】
図6は積層鉄心の加熱装置10の変更例を示す。
図6に示すように、センターガイド24に冷媒通路25を内蔵し、この冷媒通路25に水などの冷媒を流す。冷媒を流すことでセンターガイド24の温度上昇を抑制し、センターガイド24の外径をほぼ一定にすることができる。
【0052】
センターガイド24の外径が殆ど変わらないため、隙間δ2は5~10μmに設定することができる。隙間δ2が小さいため、鉄心18の横移動が小さくなり、製品品質を高めることができる。
【0053】
ただし、製品品質の観点からは、隙間δ2は0であることが理想である。隙間δ2が0であれば、鉄心18の横移動を完全に抑えることができるからである。隙間δ2を0にすることができる技術を、次に説明する。
【0054】
図7に示すように、積層鉄心の加熱装置10は、架台ベース11と、この架台ベース11に載せられる門型ベース12と、この門型ベース12に載せられるベースプレート13と、このベースプレート13に載せられる下部プレート14と、この下部プレート14の上方に配置される上部プレート15と、この上部プレート15に載せられるトッププレート16と、このトッププレート16に下向きの力を加える押圧手段17と、鉄心18を囲うように配置される誘導加熱コイル19と、この誘導加熱コイル19の内側に配置される抑制フェライト44と、下部プレート14及び上部プレート15で挟まれる鉄心18の位置決めをするセンターガイド24とを備えている。
【0055】
センターガイド24は、外径可変チャック機構30である。
外径可変チャック機構30は、例えば、架台ベース11に載せられるレール31と、このレール31に移動可能に嵌められるスライダ32と、このスライダ32を駆動するエアシリンダ33と、スライダ32から上へ延びて門型ベース12、ベースプレート13、下部プレート14、鉄心18及び上部プレート15を貫通する柱状の可動爪34と、この可動爪34に平行に配置されベースプレート13から上へ延びて下部プレート14、鉄心18及び上部プレート15を貫通する柱状の固定爪35とからなる。
【0056】
図8に示すように、外径可変チャック機構30は、平面視で120°ピッチで配置される3個の爪34、35、35を有し、爪の2個は固定爪35、35であり、残りの1個はエアシリンダ33で駆動される可動爪34である。
【0057】
可動爪34に右の位置決め片52Rが突設されている。この可動爪34の線対称の位置に、且つ一対の固定爪35の間に、位置決めブロック53が配置され、この位置決めブロック53に左の位置決め片52Lが突設されている。すなわち、左の位置決め片52Lと右の位置決め片52Rは、同一の線上に互いに反対向きに配置されている。
【0058】
図9に示すように、左の位置決め片52Lと右の位置決め片52Rは、鉄心18のツース部43に嵌って耳部42の位置を揃える役割を果たす。その他の構成要素は
図3(a)と同じであるため、
図3(a)の符号を流用して、詳細な説明は少着する。
【0059】
図10に示すように、架台ベース11にレール31が載せられ、このレール31に図面表裏方向へ移動可能にスライダ32が嵌められ、このスライダ32に可動爪34がボルト等により固定されている。好ましくは、レール31とスライダ32との間に鋼球(スチールボール)36を介在させる。鋼球36を介在させると、レール31とスライダ32の間の摩擦係数が大幅に減少し、揺れることなく滑らかにスライダ32及び可動爪34が移動する。
【0060】
なお、1本のレール31を左ガイドバーと右ガイドバーに代え、これらの左ガイドバーと右ガイドバーで、スライダ32をガイドするようにしてもよい。よって、
図10の構造は適宜変更して差し支えなく、要は可動爪34が、振れたり、ガタつくことなく、滑らかに移動する構造であればよい。
【0061】
以上の構成からなる外径可変チャック機構30の作用を、
図11に基づいて説明する。
鉄心をセットする前に、
図11(a)に示すように、固定爪35の外接円37から可動爪34を後退させる。
【0062】
図11(b)に示すように、鉄心18をセットする。このときに、鉄心18の中央穴38は、外接円37からずれるようにする。中央穴38は、3個の爪34、35、35に当たらないようにして、セットすることができる。
【0063】
図11(c)に示すように、可動爪34を前進させる。この可動爪34にはエアシリンダ(
図7、符号33)の前進力を常に付与する。結果、2個の固定爪35と、1個の可動爪34が鉄心18に密に当たる。この状態で、加熱し、接着剤を流動化し、硬化させる。
加熱の過程で、鉄心18が、図面左右方向へずれることはない。寸法精度の良好な積層鉄心が得られる。
【0064】
加熱及び冷却が終わったら、
図11(d)に示すように、可動爪34を後退させ。可動爪34が鉄心18から離れ、固定爪35から鉄心18が離れる。結果、鉄心18は容易に取り外すことができ、作業能率が高まる。
【0065】
次に、本発明のさらなる変更例を説明する。
図12に示すように、
図5又は
図7で説明した加熱装置10に、さらに、誘導加熱コイル19を囲う筒型フェライト21と、この筒型フェライト21の下端から下部プレート14へ延びる下部フェライト22と、筒型フェライト21の上端から上部プレート15へ延びる上部フェライト23とを追加してもよい。
【0066】
なお、筒型フェライト21の下端から延びる下部フェライト22とは、この下部フェライト22が筒型フェライト21の下端から所定の距離を置いて配置される構造と、下部フェライト22が筒型フェライト21の下端に接触して配置される構造の両方を指す。上部フェライト23についても同様である。
【0067】
下部フェライト22及び上部フェライト23の有無と、ベースプレート13とトッププレート16の材質について、検討する。
【0068】
〇ケース1:ベースプレート13とトッププレート16とが、炭素鋼製で、下部フェライト22及び上部フェライト23が無い場合:
誘導加熱コイル19で発生した磁束は、筒型フェライト21と、下部プレート14及び上部プレート15と、ベースプレート13とトッププレート16とを通過する。
筒型フェライト21で磁束の活用が促される。
下部プレート14及び上部プレート15は磁束で加熱され、鉄心18へ伝熱される。
【0069】
ベースプレート13及びトッププレート16も磁束で加熱される。この熱は一部が下部プレート14と上部プレート15へ向かうものの、多くが大気へ放熱される。この放熱は鉄心18の加熱効率の低下を招く。
【0070】
〇ケース2:ベースプレート13とトッププレート16とが、ステンレス鋼製で、下部フェライト22及び上部フェライト23が無い場合:
ベースプレート13とトッププレート16とは磁束を通さないため、誘導加熱コイル19で発生した磁束は、筒型フェライト21と、下部プレート14及び上部プレート15とを通過する。
筒型フェライト21で磁束の活用が促される。
下部プレート14及び上部プレート15は磁束で加熱され、鉄心18へ伝熱される。
【0071】
ベースプレート13及びトッププレート16から大気への放熱がなくなる若しくは抑制されため、前記ケース2は、前記ケース1よりも、好ましい。
【0072】
そこで、ベースプレート13とトッププレート16は、磁束を通しにくいステンレス鋼とした。
ステンレスには、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系がある。フェライト系とマルテンサイト系は磁性体であり、磁束をよく通すので適当でない。
一方、オーステナイト系(例えば、SUS304)は非磁性体であり、磁束を通しにくいので好適である。
【0073】
以上に説明したケース2の構造を、
図13(a)でさらに説明し、ケース2を改良した構造を、
図13(b)で説明する。すなわち、
図13(a)、(b)に基づいて、筒型フェライト21、下部フェライト22及び上部フェライト23の作用を説明する。
【0074】
図13(a)は比較例を示す図であり、筒型フェライト21は、誘導加熱コイル19が発生する磁束の有効利用を促す役割を果たす。
一部の磁束26は上部プレート15や下部プレート14を介して鉄心18を通過する。また、別の磁束27はベースプレート13やトッププレート16に向かう。ベースプレート13やトッププレート16は、磁束27を遮断する。そのため、磁束27の有効活用が図れない。
【0075】
図13(b)は実施例を示す図であり、磁束27は下部フェライト22及び上部フェライト23で誘導される。上部プレート15及び下部プレート14は炭素鋼板であるため、磁束27を通す。
すなわち、磁束27は、上部プレート15を通り、鉄心18を通過し、下部プレート14を通って、筒型フェライト21に戻る。結果、磁束27の有効活用が図れる。
よって、筒型フェライト21に、下部フェライト22及び上部フェライト23を付設することが有効となる。
【0076】
尚、本発明により、所要加熱時間が従来より短縮され、センターガイドが十分に冷却されないうちに、次の加熱処理に移行する。すると、センターガイドに熱が蓄積され、外径が増大し、鉄心18の装着が難しくなる。しかし、センターガイドを外径可変チャック機構にすることで、その問題は解決し得る。よって、本発明の抑制フェライトに外径可変チャック機構を組み合わせることは、好ましいことである。
10…積層鉄心の加熱装置、13…ベースプレート、14…下部プレート、15…上部プレート、16…トッププレート、18…鉄心、19…誘導加熱コイル、21…筒型フェライト、22…下部フェライト、23…上部フェライト、24…センターガイド、26、27…磁束、30…外径可変チャック機構、34…可動爪、35…固定爪、38…中央穴、41…ドーナツ板部、42…耳部、44…抑制フェライト、45…耳部を通る磁束、48…中心点、49…耳部中心線、51…フェライト中心線、θ…交差角。