IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-光導波路素子 図1
  • 特開-光導波路素子 図2
  • 特開-光導波路素子 図3
  • 特開-光導波路素子 図4
  • 特開-光導波路素子 図5
  • 特開-光導波路素子 図6
  • 特開-光導波路素子 図7
  • 特開-光導波路素子 図8
  • 特開-光導波路素子 図9
  • 特開-光導波路素子 図10
  • 特開-光導波路素子 図11
  • 特開-光導波路素子 図12
  • 特開-光導波路素子 図13
  • 特開-光導波路素子 図14
  • 特開-光導波路素子 図15
  • 特開-光導波路素子 図16
  • 特開-光導波路素子 図17
  • 特開-光導波路素子 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101906
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/126 20060101AFI20220630BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
G02B6/126
G02B6/122 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216281
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】岡 徹
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB04
2H147AB21
2H147BA02
2H147BA05
2H147BB02
2H147BB07
2H147BB09
2H147BD01
2H147BE18
2H147BE19
2H147BE20
2H147CA18
2H147CD02
2H147EA12A
2H147EA12B
2H147EA13A
2H147EA14A
2H147EA14B
(57)【要約】      (修正有)
【課題】モード変換を行う光導波路素子の特性を広い波長帯域にわたって安定させる。
【解決手段】光導波路素子1は、第1および第2の導波路WG1、WG2を備える。第1の導波路WG1は、リブ部11および導波路WG1と導波路WG2との間の領域に形成されるスラブ部12を備える。第2の導波路WG2は、リブ部21およびリブ部21の両側に形成されるスラブ部22、23を備える。スラブ部12、22は一体的に形成される。リブ部11またはリブ部21の少なくとも一方は、光導波路素子1の入力端と出力端との間の領域において、断面の形状が連続的に変化する。光導波路素子1の一方の端部では、第1の導波路WG1におけるTEiモードの実効屈折率を表す第1の実効屈折率が第2の導波路WG2におけるTEjモードの実効屈折率を表す第2の実効屈折率より大きい。光導波路素子1の他方の端部では、第1の実効屈折率が第2の実効屈折率より小さい。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に形成された第1の導波路および第2の導波路を備える光導波路素子であって、
前記第1の導波路は、第1のリブ部および前記第1の導波路と前記第2の導波路との間の領域に形成される第1のスラブ部を備え、
前記第2の導波路は、第2のリブ部および前記第2のリブ部の両側に形成される第2のスラブ部および第3のスラブ部を備え、
前記第1のスラブ部および前記第2のスラブ部は一体的に形成され、
前記第1のリブ部または前記第2のリブ部の少なくとも一方は、前記光導波路素子の入力端と出力端との間の領域において、断面の形状が連続的に変化し、
前記光導波路素子の一方の端部では、前記第1の導波路におけるTEiモードの実効屈折率を表す第1の実効屈折率と前記第2の導波路におけるTEjモードの実効屈折率を表す第2の実効屈折率とが互いに異なり(iおよびjは、互いに異なるゼロ以上の整数)、
前記光導波路素子の一方の端部において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より大きいときは、前記光導波路素子の他方の端部において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より小さく、前記一方の端部において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より小さいときは、前記他方の端部において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より大きい
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
前記光導波路素子の入力端から出力端に向って、前記第1のリブ部の幅はテーパ状に連続的に狭くなり、前記第2のリブ部の幅はテーパ状に連続的に広くなる
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記光導波路素子の入力端において、前記第1の導波路におけるTE0モードの実効屈折率を表す第1の実効屈折率が前記第2の導波路におけるTE1モードの実効屈折率を表す第2の実効屈折率より大きく、
前記光導波路素子の出力端において、前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記第1の導波路の出力端に結合する第3の導波路および前記第2の導波路の出力端に結合する第4の導波路を含む離間部をさらに備え、
前記第3の導波路と前記第4の導波路との間の間隔は、前記第1の導波路および前記第2の導波路の出力端から離れるにつれて広がっていく
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記第1の導波路の入力端に結合する第5の導波路および前記第2の導波路の入力端に結合する第6の導波路を含む接近部をさらに備え、
前記第5の導波路と前記第6の導波路との間の間隔は、前記第1の導波路および前記第2の導波路の入力端から離れるにつれて広がっていく
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項6】
前記第1の導波路の入力端に結合する第7の光導波路を含む接続部をさらに備え、
前記第7の光導波路は、前記第1のリブ部に結合する第1の接続リブ部および前記第1のスラブ部に結合する第1の接続スラブ部を備え、
前記第1の接続リブ部または前記第1の接続スラブ部のうちの少なくとも一方の幅は、光の伝搬方向に対して連続的にテーパ状に変化する
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項7】
前記第2の導波路の出力端に結合する第8の光導波路を含む接続部をさらに備え、
前記第8の光導波路は、前記第2のリブ部に結合する第2の接続リブ部、前記第2のスラブ部に結合する第2の接続スラブ部、および前記第3のスラブ部に結合する第3の接続スラブ部を備え、
前記第2の接続リブ部、前記第2の接続スラブ部、または前記第3の接続スラブ部のうちの少なくとも1つの幅は、光の伝搬方向に対して連続的にテーパ状に変化する
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項8】
前記TEiはTE0であり、
前記TEjはTE1であり、
前記第2の導波路の出力側にTE1とTM0との間の変換を行うモード変換器をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項9】
前記第1の導波路の出力端または前記第2の導波路の入力端の少なくとも一方に光終端器を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モード変換機能を有する光導波路素子に係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信システムの容量を増加させるために、偏波多重方式が普及してきている。偏波多重方式においては、互いに直交する1組の偏波成分を用いて独立した情報が伝送される。
【0003】
他方、シリコンフォトニクス技術により、小型化および/または高密度集積が可能な光集積素子の開発が進められている。シリコンフォトニクス技術においては、例えば、SOI(Silicon-On-Insulator)ウエハの表面領域に光導波路が形成される。この場合、コアは、例えばSiで形成され、クラッドは、例えばSiO2等で形成される。
【0004】
ここで、Siの屈折率とSiO2の屈折率との差は大きいので、光導波路を伝搬する光はコア内に強く閉じ込められる。よって、光導波路素子の小型化が実現される。ただし、コアとクラッドとの間の屈折率差が大きいと、損失やコアへの電界の閉じ込めに関する偏波依存性が大きくなる。このため、光導波路素子は、一方の偏波成分の特性が最適化されるように設計される。そして、必要に応じて、その偏波成分を他方の偏波成分に変換する偏波変換素子が光回路内に実装される。なお、偏波変換素子は、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0005】
偏波変換素子(例えば、非特許文献1に記載されている偏波分離回転器)は、図1に示すように、TM0モードをTE1モードに変換し、その後、TE1モードをTE0モードに変換する。TM(Transverse Magnetic)モードは、光の進行方向に垂直な断面における電界の主成分が基板に垂直方向である導波モードであり、TM0は、TMモードのなかで、実効屈折率が最も大きい導波モードを表す。TE(Transverse Electric)モードは、光の進行方向に垂直な断面における電界の主成分が基板に水平方向である導波モードであり、TE0およびTE1は、それぞれ、TEモードのなかで、実効屈折率が最も大きい導波モード(TE0)および2番目に大きい導波モード(TE1)を表す。
【0006】
TE0とTE1との間のモード変換は、例えば、特許文献1~2に記載されている。また、特許文献3~4にも関連技術が記載されている。
【0007】
モード変換器(例えば、特許文献1に記載の光導波路素子)は、図2に示すように、互いに近接し且つ互いに平行に形成された2本の導波路WG1、WG2を備える。そして、一方の導波路WG1の入力ポートを介してTE0モード光を入力すると、他方の導波路WG2の出力ポートを介してTE1モード光が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許9977187
【特許文献2】特許第5697778号
【特許文献3】特開2015-197664号公報
【特許文献4】米国公開2018/0231713
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Daoxin Dai et al., “Novel concept for ultracompact polarization splitter-rotator based on silicon nanowires,” Optics express, Vol.19, No.11, pp10940 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図2に示す構成においてモード変換を実現するためには、TE0とTE1との間で相互作用を発生させる必要がある。この相互作用は、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率と導波路WG2におけるTE1の実効屈折率とが互いに一致する領域で発生する。そして、この相互作用が発生する領域は、光導波路素子の入力端と出力端との中間点の近傍であることが好ましい。図2に示す例では、入力ポートからL/2だけ離れた領域で相互作用が発生することが好ましい。
【0011】
ただし、各導波路WG1、WG2の実効屈折率は、光の波長に依存する。このため、従来技術では、波長が変わると、相互作用が発生する位置がシフトしてしまい、損失が大きくなることがある。すなわち、複数の波長チャネルを含むWDM信号が伝送されるケースでは、モード変換において、一部の波長チャネルの損失が大きくなるおそれがある。
【0012】
本発明の1つの側面に係わる目的は、モード変換を行う光導波路素子の特性を広い波長帯域にわたって安定させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの態様に係わる光導波路素子は、互いに平行に形成された第1の導波路および第2の導波路を備える。前記第1の導波路は、第1のリブ部および前記第1の導波路と前記第2の導波路との間の領域に形成される第1のスラブ部を備える。前記第2の導波路は、第2のリブ部および前記第2のリブ部の両側に形成される第2のスラブ部および第3のスラブ部を備える。前記第1のスラブ部および前記第2のスラブ部は一体的に形成される。前記第1のリブ部または前記第2のリブ部の少なくとも一方は、前記光導波路素子の入力端と出力端との間の領域において、断面の形状が連続的に変化する。前記光導波路素子の一方の端部では、前記第1の導波路におけるTEiモードの実効屈折率を表す第1の実効屈折率と前記第2の導波路におけるTEjモードの実効屈折率を表す第2の実効屈折率とが互いに異なる(iおよびjは、互いに異なるゼロ以上の整数)。前記光導波路素子の一方の端部において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より大きいときは、前記光導波路素子の他方の端部において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より小さく、前記一方の端部において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より小さいときは、前記他方の端部において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より大きい。
【発明の効果】
【0014】
上述の態様によれば、モード変換を行う光導波路素子の特性が広い波長帯域にわたって安定する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】TE0とTM0との間のモード変換の一例を示す図である。
図2】1組の導波路を備える光導波路素子の一例を示す図である。
図3】モード変換器として動作する光導波路素子の一例を示す図である。
図4図3に示す光導波路素子における実効屈折率の変化の例を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係わる光導波路素子の一例を示す図である。
図6】導波路のサイズの一例を示す図である。
図7】モード変換におけるエネルギー損失についてのシミュレーション結果を示す図である。
図8図5図6に示す光導波路素子における実効屈折率の変化の例を示す図である。
図9】光導波路素子における電界分布の計算例を示す図(その1)である。
図10】光導波路素子における電界分布の計算例を示す図(その2)である。
図11】TE0およびTE1の多重化の一例を示す図である。
図12】他の入力ポートを介してTE0モード光を入力したときの電界分布の計算例を示す図(その1)である。
図13】他の入力ポートを介してTE0モード光を入力したときの電界分布の計算例を示す図(その2)である。
図14】本発明の実施形態の第1のバリエーションを示す図である。
図15】本発明の実施形態の第2のバリエーションを示す図である。
図16】本発明の実施形態の第3のバリエーションを示す図である。
図17】本発明の実施形態の第4のバリエーションを示す図である。
図18】本発明の実施形態の第5のバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図3は、モード変換器として動作する光導波路素子の一例を示す。モード変換器として動作する光導波路素子100は、互いに近接し且つ互いに平行に形成された2本の導波路WG1、WG2を備える。各導波路は、コアおよびクラッドから構成される。コアの屈折率は、クラッドの屈折率より大きい。コアは、例えばSiで形成され、クラッドは、例えばSiO2で形成される。なお、以下の記載では、導波路のコアを「導波路」と呼ぶことがある。例えば、図3(a)に示すWG1、WG2は、各導波路のコアを示している。
【0017】
導波路WG1、WG2は、例えば、図3(b)に示すように、チャネル導波路で形成される。チャネル導波路のコアの断面の形状は、この実施例では矩形である。すなわち、図3(b)に示す各導波路WG1、WG2は、矩形導波路である。なお、コアは、クラッドにより囲まれている。また、「矩形」は、巨視的に矩形として見られる形状を含む。よって、「矩形」は、例えば、製造によって、角に丸みが生じる形状および台形形状も含むものとする。
【0018】
上記構成の光導波路素子100において、TE0からTE1へのモード変換を行うときは、導波路WG1の一方の端部(ポートP1)からTE0モード光が入力される。このTE0モード光は、導波路WG1を介して伝搬する。ここで、光導波路素子100は、導波路WG1におけるTE0モードと導波路WG2におけるTE1モードとの間で相互作用が発生するように設計されている。よって、導波路WG2の端部(ポートP2)を介してTE1モード光が出力される。
【0019】
ただし、図3(b)に示す構成では、導波路WG1のコアと導波路WG2のコアとは、クラッドにより互いに隔てられている。このため、導波路WG1、WG2間の光結合が弱く、TE0からTE1への変換効率が良くない。すなわち、TE0からTE1へのモード変換において損失が大きい。
【0020】
この問題は、図3(c)に示すように、各導波路WG1、WG2をリブ導波路で構成することで緩和される。リブ導波路においては、コアは、リブ部およびスラブ部から構成される。リブ部の断面の形状は、この例では、チャネル導波路と同様に矩形である。スラブ部は、リブ部と同じ材料でリブ部よりも高さが低く形成される。そして、図3(c)に示す実施例では、導波路WG1と導波路WG2との間の領域において、導波路WG1のスラブ部および導波路WG2のスラブ部が互いに結合している。ここで、リブ導波路においては、リブ部を伝搬する光の電界がスラブ部にしみ出すので、導波路WG1、WG2間の光結合が強くなる。この結果、図3(b)に示す構成と比較すると、TE0からTE1へのモード変換における損失が小さくなる。
【0021】
ここで、一般に、並列する導波路のそれぞれを導波する2つのモード(ここでは、導波路WG1におけるTE0および導波路WG2におけるTE1)の実効屈折率が互いに近いと、それらの間の相互作用が強くなり、一方の導波路のモードから他方の導波路のモード(ここでは、導波路WG1におけるTE0から導波路WG2におけるTE1)への変換が生じやすくなる。この理由は、2つモードの位相速度(光速/実効屈折率)が互いに近いほど、隣接導波路を導波する条件が満たされるからである。よって、TE0とTE1との間のモード変換を効率よく実現するためには、光導波路素子100は、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率と導波路WG2におけるTE1の実効屈折率とが互いに一致または略一致する領域を有するように設計される。
【0022】
「実効屈折率」は、孤立した導波路における値を意味する。例えば、2つの導波路WG1、WG2が並列に形成されているケースにおいて、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率は、導波路WG1のみが単独で存在する場合におけるTE0の実効屈折率の値を意味する。すなわち、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率は、導波路WG2が存在しないと仮定した場合におけるTE0の実効屈折率の値を意味する。導波路WG2が存在しないとは、導波路WG2のコアが存在する部分がクラッドと同じ材料になっているような状態を指す。
【0023】
なお、導波路の実効屈折率は、導波路の材料および導波路を伝搬する光のモードだけでなく、その導波路の断面の形状または面積にも依存する。具体的には、導波路の断面積が大きいと、光が強く閉じ込められ、コアの材料屈折率の影響を受けやすくなるので、実効屈折率は大きくなる。反対に、導波路の断面積が小さいと、実効屈折率は小さくなる。
【0024】
他方、光導波路素子100の入力端/出力端(すなわち、導波路WG1、WG2の入力端/出力端)においては、孤立した導波路(すなわち、光導波路素子100に結合される外部導波路)を介して光回路に接続される。このため、光導波路素子100の入力端/出力端において、導波路WG1、WG2間で相互作用が発生することは好ましくない。したがって、光導波路素子100の入力端/出力端においては、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率と導波路WG2におけるTE1の実効屈折率とが互いに大きく異なることが要求される。
【0025】
図4は、図3に示す光導波路素子100における実効屈折率の変化の例を示す。なお、図4に示すグラフは、図3において下記の条件の下で行われたシミュレーションの結果を示している。各グラフの横軸は、光導波路素子100の入力端を「ゼロ」としたときの光の伝搬方向における位置を表す。縦軸は、実効屈折率を表す。
w1:0.3μm
w2:1.08μm
w3:0.5μm
w4:0.88μm
w5:0.3μm
リブ部のコアの高さ:0.22μm
スラブ部のコアの高さ:0.105μm
【0026】
図4(a)は、入力光の波長が1.58μmであるときの実効屈折率を示す。この例では、入力端において、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率(TE0@WG1)は、導波路WG2におけるTE1の実効屈折率(TE1@WG2)より大きい。ここで、導波路WG1(正確には、導波路WG1のリブ部)の幅は、入力端から出力端に向って徐々に狭くなっていく。すなわち、導波路WG1の断面積は、入力端から出力端に向って徐々に小さくなっていく。このため、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率は、入力端から出力端に向って徐々に小さくなっていく。他方、導波路WG2(正確には、導波路WG2のリブ部)の幅は、入力端から出力端に向って徐々に広くなっていく。すなわち、導波路WG2の断面積は、入力端から出力端に向って徐々に大きくなっていく。このため、導波路WG2におけるTE1の実効屈折率は、入力端から出力端に向って徐々に大きくなっていく。
【0027】
光導波路素子100は、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率および導波路WG2におけるTE1の実効屈折率が、入力端と出力端との間で、互いに一致するように設計される。以下の記載では、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率および導波路WG2におけるTE1の実効屈折率が互いに一致する位置を「クロス点」と呼ぶことがある。
【0028】
ここで、TE0からTE1へのモード変換における損失を小さくするために、光導波路素子100は、入力端と出力端との中間点でクロス点が得られるように設計される。例えば、図3(a)に示すように、光導波路素子100の入力端および出力端の位置がそれぞれ「ゼロ」及び「20」で表されるときは、図4(a)に示すうように、「位置=10」においてクロス点が得られるように光導波路素子100が設計される。
【0029】
ところが、導波路の実効屈折率は、光の波長に依存する。このため、波長が変わると、クロス点が得られる位置がシフトしてしまう。例えば、図4(a)に示すように、波長が1.58μmであるときに入力端と出力端との中間点でクロス点が得られるものとする。この場合、波長が1.30μmであるときには、図4(b)に示すように、中間点から入力端側にシフトした位置でクロス点が得られる。
【0030】
そして、クロス点が得られる位置が入力端と出力端との中間点からシフトすると、TE0とTE1との間のモード変換における損失が増加する。ここで、図3(a)に示すポートP1からTE0モード光が入力され、ポートP2を介してTE1モード光が出力されるときのエネルギー損失は以下の通りである。なお、光導波路素子100の長さLは、120μmである。
波長=1.58μm:損失:0.29dB
波長=1.30μm:損失:1.91dB
【0031】
このように、入力光の波長が変わると、モード変換における損失も変わってしまう。このため、ある波長に対して損失が小さくなるように光導波路素子を設計すると、他の波長に対して損失が大きくなってしまう。したがって、図3(c)に示す構成では、広い波長帯域にわたって損失の小さいモード変換を実現することは困難である。
【0032】
また、図3(c)に示す構成においては、導波路WG1のリブ部と導波路WG2のリブ部との間にスラブ部を設けることにより、導波路WG1、WG2間の光結合が強くなり、TE0からTE1へのモード変換の効率が改善する。ただし、この構成では、導波路WG1、WG2間の光結合に寄与しないスラブ部も形成されている。そして、このような不要なスラブ部から電界がしみ出してしまう。具体的には、導波路WG1にTE0モード光が入力されるとき、導波路WG1の外側に形成されているスラブ部にTE0モード光の電界がしみ出してしまう。
【0033】
この結果、導波路WG1、WG2間の光結合が弱くなり、ポートP2を介して出力されるTE1モード光のパワーが低下してしまう。換言すれば、所定のパワーのTE1モード光を得るためには、導波路WG1、WG2の長さLを長くする必要がある。この場合、光導波路素子100のサイズが大きくなってしまう。
【0034】
<実施形態>
図5は、本発明の実施形態に係わる光導波路素子の一例を示す。本発明の実施形態に係わる光導波路素子1は、モード変換素子として動作し得る。この実施例では、光導波路素子1は、TE0モードとTE1モードとの間の変換を行う。また、光導波路素子1は、例えば、TE0とTM0との間のモード変換を行う光回路の中で使用される。この場合、この光回路は、光導波路素子1およびTE1-TM0変換器を備える。
【0035】
光導波路素子1は、図5(a)に示すように、互いに近接し且つ互いに平行に形成された2本の導波路WG1、WG2を備える。各導波路は、コアおよびクラッドから構成される。コアの屈折率は、クラッドの屈折率より大きい。コアは、例えばSiで形成され、クラッドは、例えばSiO2で形成される。なお、以下の記載では、導波路のコアを「導波路」と呼ぶことがある。
【0036】
導波路WG1、WG2は、図5(b)に示すように、それぞれリブ導波路である。リブ導波路は、上述したように、コアがリブ部およびスラブ部から構成される。導波路WG1は、リブ部11およびスラブ部12を備える。また、導波路WG2は、リブ部21およびスラブ部22、23を備える。リブ部の断面の形状は、この例では矩形である。スラブ部は、リブ部と同じ材料でリブ部より高さが低く形成される。なお、図5(b)は、図5(a)に示す光導波路素子1のA-A断面を示す。
【0037】
導波路WG2においては、リブ部21の両側にスラブ部が形成される。具体的には、スラブ部22は、リブ部21に対して導波路WG1が設けられる側に形成され、スラブ部23は、リブ部21に対して導波路WG1が設けられていない側に形成される。これに対して、導波路WG1においては、リブ部11の片側のみにスラブ部が形成される。具体的には、スラブ部12は、リブ部11に対して導波路WG2が設けられる側に形成される。なお、リブ部の一方の側部のみにスラブ部を備える導波路を「半リブ導波路」と呼ぶことがある。
【0038】
このように、光導波路素子1は、互いに近接し且つ互いに平行に形成された2本の導波路WG1、WG2を備える。そして、一方の導波路(ここでは、TE0モード入力が入力される導波路WG1)は半リブ導波路で構成され、他方の導波路(ここでは、導波路WG2)はリブ導波路で構成される。
【0039】
具体的には、導波路WG1のリブ部11と導波路WG2のリブ部21との間の領域にスラブ部12およびスラブ部22が形成される。尚、スラブ部12は導波路WG1に属し、スラブ部22は導波路WG2に属するが、スラブ部12およびスラブ部22は、互いに分離されているのではなく、1つのスラブ領域として一体的に形成される。したがって、以下の記載では、リブ部11とリブ部21との間の領域に形成されるスラブ部を「スラブ部12、22」と呼ぶことがある。また、導波路WG2のリブ部21の外側にはスラブ部23が形成されているが、導波路WG1のリブ部11の外側にはスラブ部は形成されない。
【0040】
なお、導波路WG1のリブ部11は、入力端から出力端に向って徐々に幅が狭くなるテーパ形状である。また、導波路WG2のリブ部21は、入力端から出力端に向って徐々に幅が広くなるテーパ形状である。
【0041】
次に、導波路WG1、WG2の設計ポリシについて説明する。一般に、実効屈折率が同じである場合、高次のモードほど、波長の変化に対して、コアからクラッドへの光のしみ出し量の変化が大きくなる。また、コアからクラッドへの光のしみ出しが多いほど、実効屈折率は、材料屈折率の影響を受けやすくなる。ここで、クラッドの材料屈折率は、コアの材料屈折率よりも小さい。このため、コアからクラッドへの光のしみ出しが多いほど、実効屈折率は小さくなる。したがって、高次のモードほど、波長が変化したときの実効屈折率の変化が大きい。
【0042】
例えば、図4に示す例では、位置ゼロにおいて波長が1.58μmから1.30μmに変化する場合、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率の変化は約0.24である。これに対して、導波路WG2におけるTE1の実効屈折率の変化は約0.29である。すなわち、高次のモードほど、波長の変化に対する実効屈折率の変化が大きい。
【0043】
このため、上述したように、入力端と出力端との中間点においてクロス点が得られるように光導波路素子を設計しても、波長が変化すると、クロス点が得られる位置がシフトしてしまう。図4に示す例では、波長が1.58μmであるときに中間点においてクロス点が得られるが、波長が1.30μmであるときには、クロス点は、中間点よりも入力側にシフトしている。
【0044】
他方、波長の変化に対する実効屈折率の変化の大きさは、導波路の構造に依存する。具体的には、光の閉じ込めが弱い導波路(弱導波路)においては、一般に、波長の変化に対して、その導波路を導波するモードの実効屈折率の変化は小さい。ここで、半リブ導波路は、リブ部の一方の側部のみにスラブ部が形成されている。また、リブ導波路は、リブ部の両側にスラブ部が形成されている。そして、光が導波路を伝搬するときに、スラブ部からクラッドに光がしみ出す。すなわち、半リブ導波路においては、1つのスラブ部から光がしみ出し、リブ導波路においては、2つのスラブ部から光がしみ出す。このため、半リブ導波路と比較して、リブ導波路における光の閉じ込めは弱くなる。したがって、半リブ導波路と比較して、リブ導波路において、波長の変化に対する実効屈折率の変化が小さくなる。
【0045】
まとめると、下記の作用が得られる。
(1)より高次のモードほど、波長の変化に対する実効屈折率の変化が大きい。
(2)半リブ導波路と比較して、リブ導波路において、波長の変化に対する実効屈折率の変化が小さい。
【0046】
したがって、これら2つの作用を組み合わせると、波長変化に対する実効屈折率の変化を相殺または緩和できる。具体的には、高次モードの光が伝搬する導波路は、リブ導波路で構成する。また、低次モードの光が伝搬する導波路は、半リブ導波路で構成する。
【0047】
したがって、図5に示す光導波路素子1においては、低次モード(TE0)光が伝搬する導波路WG1は半リブ導波路で構成される。また、高次モード(TE1)光が伝搬する導波路WG2はリブ導波路で構成される。この結果、波長が変化したときの低次モードと高次モードの実効屈折率の差の変化を小さくすることができるため、導波路幅をわずかに変更するだけで、実効屈折率を一致させることが可能となる。すなわち、波長の変化に対して、クロス点が得られる位置のシフト量は小さくなる。すなわち、広い波長帯域にわたって、光導波路素子1の入力端と出力端との中間点の近傍でTE0とTE1との間のモード変換が行われる。よって、広い波長帯域にわたって、損失の小さいモード変換が実現される。
【0048】
図6は、導波路のサイズの一例を示す。この実施例は、光導波路素子1は、下記のサイズで形成される。
w1:0.3μm
w2:0.93μm
w3:0.5μm
w4:0.73μm
w5:0.3μm
h1(リブ部11、21のコアの高さ):0.22μm
h2(スラブ部12、22、23のコアの高さ):0.105μm
【0049】
図7は、モード変換におけるエネルギー損失についてのシミュレーション結果を示す。なお、図7に示すグラフは、図6に示す光導波路素子1においてTE0からTE1へのモード変換に対するシミュレーションの結果を示している。TE0モード光は、導波路WG1のポートP1に入力される。また、TE1モード光は、導波路WG2のポートP2を介して出力される。
【0050】
図7(a)の横軸は、導波路WG1、WG2の長さを表す。縦軸は、TE0からTE1へのモード変換におけるエネルギー損失を表す。なお、破線のグラフは、図3(a)および図3(c)に示す光導波路素子100の損失を表し、実線のグラフは、本発明の実施形態に係わる光導波路素子1の損失を表す。入力光の波長は、1.52μmである。
【0051】
図7(a)に示すように、図3(c)に示す構成と比較して、本発明の実施形態によれば、エネルギー損失は大きく低減される。例えば、光導波路素子100においては、導波路WG1、WG2の長さが80μmであるときに、損失は約0.29dBである。一方、光導波路素子1においては、導波路WG1、WG2の長さが40μmであっても、損失は約0.12dBである。したがって、本発明の実施形態によれば、損失が所定値以下となるように光導波路素子を設計する場合、導波路WG1、WG2の長さを短くできる。すなわち、光導波路素子の小型化が実現される。
【0052】
本発明の実施形態において損失が小さくなる理由は、以下の通りと考えられる。すなわち、光導波路素子1においては、図5に示すように、導波路WG1のリブ部の外側にスラブ領域が形成されていない。したがって、図3(c)に示す構成と比較すると、光導波路素子1においては、導波路WG1においてコアからクラッドへのTE0モード光のしみ出しが少なくなる。この結果、導波路WG1、WG2間の光結合に寄与する電界成分が増加し、TE0とTE1との間の相互作用が強くなるので、モード変換における損失が小さくなる。
【0053】
図7(b)は、損失の波長依存性を示す。即ち、横軸は、入力光の波長を表す。なお、損失は、FDTDで計算されている。また、導波路WG1、WG2の長さは120μmである。
【0054】
このシミュレーションによれば、CバンドおよびLバンドを含む広い波長範囲にわたって、損失が0.05dB以下に抑制されている。なお、特に図示しないが、1.30nm帯においては、損失は約0.33dBである。
【0055】
図8は、図5図6に示す光導波路素子1における実効屈折率の変化の例を示す。各グラフの横軸は、光導波路素子1の入力端を「ゼロ」としたときの光の伝搬方向における位置を表す。縦軸は、実効屈折率を表す。
【0056】
図8(a)は、入力光の波長が1.58μmであるときの実効屈折率の変化を示す。光導波路素子1の入力端(位置=ゼロ)においては、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率(TE0@WG1)は、導波路WG2におけるTE1の実効屈折率(TE1@WG2)よりも大きい。ここで、導波路WG1(リブ部11)の幅は、入力端から出力端に向って徐々に狭くなっていく。すなわち、導波路WG1のコア断面積は、入力端から出力端に向って徐々に小さくなっていく。このため、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率は、入力端から出力端に向って徐々に小さくなっていく。他方、導波路WG2(リブ部21)の幅は、入力端から出力端に向って徐々に広くなっていく。すなわち、導波路WG2のコアの断面積は、入力端から出力端に向って徐々に大きくなっていく。このため、導波路WG2におけるTE1の実効屈折率は、入力端から出力端に向って徐々に大きくなっていく。そして、出力端(位置=20)において、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率(TE0@WG1)は、導波路WG2におけるTE1の実効屈折率(TE1@WG2)より大きい。この結果、入力端と出力端との間でクロス点が得られている。この実施例では、入力端と出力端との中間点(位置=10)においてクロス点が得られている。
【0057】
図8(b)は、入力光の波長が1.30μmであるときの実効屈折率の変化を示す。この場合も、入力端と出力端との間でクロス点が得られている。ただし、図4に示すケースと異なり、光導波路素子1においては、波長が1.30μmであっても、ほぼ中間点でクロス点が得られている。具体的には、入力光の波長が1.58μmから1.30μmに変化したときに、クロス点の位置のシフト量は、光導波路素子1の長さLに対して約1.6パーセントである。
【0058】
このように、本発明の実施形態によれば、波長の変化に対して、クロス点が得られる位置のシフトが小さい。ここで、TE0とTE1との間の相互作用は、主に、クロス点の近傍で発生する。よって、本発明の実施形態によれば、波長が変化しても、TE0とTE1との間のモード変換が小さい損失で安定的に実現される。すなわち、広い波長範囲にわたって、TE0とTE1との間のモード変換が小さい損失で安定的に実現される。
【0059】
なお、上述した実施例では、光導波路素子1の入力端においてTE0@WG1がTE1@WG2より大きく、光導波路素子1の出力端においてTE0@WG1がTE1@WG2より小さいが、本発明はこの構成に限定されるものではない。即ち、光導波路素子1は、入力端においてTE0@WG1がTE1@WG2より小さく、光導波路素子1の出力端においてTE0@WG1がTE1@WG2より大きい構成であってもよい。換言すると、入力端におけるTE0@WG1とTE1@WG2との大小関係および出力端におけるTE0@WG1とTE1@WG2との大小関係が、互いに逆であればよい。
【0060】
図9図10は、光導波路素子1における電界分布の計算例を示す。なお、図9図10において、X軸は、基板に対して平行、且つ、光の進行方向に対して直交する方向における位置を表す。Y軸は、基板に垂直な方向における位置を表す。また、白色に近いほど正の電界が強い状態を表し、黒色に近いほど負の電界が強い状態を表す。
【0061】
この実施例では、TE0モード光が導波路WG1に入力される。このため、入力端(位置=0)においては、TE0モードの電界が導波路WG1に局在している。位置=10においては、導波路WG1にTE0モードの電界が存在しつつ、導波路WG2にTE1モードの電界が現れている。すなわち、位置=10の近傍領域で、TE0とTE1との間の相互作用が発生している。そして、出力端(位置=20)においては、TE1モードの電界が導波路WG2に局在している。すなわち、光導波路素子1によりTE0モード光がTE1モード光に変換されている。
【0062】
図11は、TE0およびTE1の多重化の一例を示す。ここでは、図11(a)に示すように、導波路WG1のポートP1にTE0モード光(TE0_A)が入力され、導波路WG2のポートP3にTE0モード光(TE0_B)が入力される。
【0063】
図11(b)は、TE0およびTE1の実効屈折率を示す。この例では、入力光の波長は1.58μmである。TE0@WG1は、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率を表し、TE1@WG2は、導波路WG2におけるTE1の実効屈折率を表す。TE0@WG1およびTE1@WG2は、図8(a)に示すグラフと同じである。
【0064】
TE0@WG2は、導波路WG2におけるTE0の実効屈折率を表す。ここで、導波路WG2のコアの断面積は、導波路WG1のコアの断面積より大きい。このため、導波路WG2におけるTE0の実効屈折率は、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率より大きくなる。また、一般に、高次のモードほど実効屈折率が大きくなるので、導波路WG2において、TE0の実効屈折率はTE1の実効屈折率より大きくなる。したがって、導波路WG2におけるTE0の実効屈折率は、入力端から出力端までの全領域において、導波路WG1におけるTE0の実効屈折率および導波路WG2におけるTE1の実効屈折率より大きくなる。
【0065】
このように、導波路WG2におけるTE0の実効屈折率は、他のいずれの導波モードの実効屈折率とも一致することはない。すなわち、導波路WG2におけるTE0と他のモードとの間の相互作用が発生することはない。このため、ポートP3に入力されるTE0モード光(TE0_B)は、他のモードに変換されることなく導波路WG2を伝搬し、ポートP2に導かれる。また、ポートP1に入力されるTE0モード光(TE0_A)は、TE1モード光(TE1_A)に変換されてポートP2に導かれる。この結果、TE0およびTE1の多重化が実現される。
【0066】
図12図13は、導波路WG2のポートP3にTE0モード光を入力したときの電界分布の計算例を示す。このケースでは、TE0モードの電界は、入力端(位置=0)から出力端(位置=20)までの全領域において導波路WG2に局在している。すなわち、ポートP3に入力されるTE0モード光は、他のモードに変換されることなく、ポートP2を介して出力される。
【0067】
なお、図5図10に示す例では、TE0からTE1へのモード変換が行われるが、光導波路素子1は、可逆動作が可能である。すなわち、ポートP2(即ち、導波路WG2の出力端)からTE1モード光を入力すると、TE1からTE0へのモード変換が行われ、ポートP1(導波路WG1の入力端)を介してTE0モード光が出力される。
【0068】
また、上述の実施例では、TE0とTE1との間のモード変換が行われるが、本発明はこの形態に限定されるものではない。すなわち、光導波路素子1は、任意のモードTEiから他の任意のモードTEjへの変換を行うことができる。iおよびjは、互いに異なるゼロ以上の整数である。一例としては、jはiより大きい整数である。ただし、導波路WG1、WG2は、変換対象の2つのモードに対して、断熱変換器の要件を満足することが要求される。具体的には、以下の要件を満足することが好ましい。
(1)入力端において、導波路WG1におけるTEiの実効屈折率と導波路WG2におけるTEjの実効屈折率とが互いに異なる。
(2)導波路WG1におけるTEiの実効屈折率は、入力端から出力端に向って連続的に変化する(例えば、連続的に小さくなっていく、或いは、連続的に大きくなっていく)。
(3)導波路WG2におけるTEjの実効屈折率は、入力端から出力端に向って連続的に変化する(例えば、連続的に大きくなっていく、或いは、連続的に小さくなっていく)。
(4)導波路WG1におけるTEiの実効屈折率と導波路WG2におけるTEjの実効屈折率との大小関係は、入力端と出力端とで互いに逆である。すなわち、入力端において導波路WG1におけるTEiの実効屈折率が導波路WG2におけるTEjの実効屈折率より大きいときは、出力端において導波路WG1におけるTEiの実効屈折率が導波路WG2におけるTEjの実効屈折率より小さい。また、入力端において導波路WG1におけるTEiの実効屈折率が導波路WG2におけるTEjの実効屈折率より小さいときは、出力端において導波路WG1におけるTEiの実効屈折率が導波路WG2におけるTEjの実効屈折率より大きい。
【0069】
上記(2)が満たされる場合は、導波路WG2におけるTEjの実効屈折率は、入力端と出力端との間で一定であってもよい。同様に、上記(3)が満たされる場合は、導波路WG1におけるTEiの実効屈折率は、入力端と出力端との間で一定であってもよい。
【0070】
なお、特許文献2(特許第5697778号)においても、1組のコアの間にスラブ部を設けた構成が開示されている。ただし、特許文献2に開示される導波路素子では、1組のコアの外側にスラブ部が形成されていない。すなわち、TE0よりコアへの光閉じ込めが弱いTE1を導波する導波路の側壁部にスラブ部(図6に示すスラブ部23に相当)が形成されていない。よって、製造時のコアの側壁の荒れによる光の散乱の影響が大きい。したがって、図6に示すように、TE1が導波する導波路WG2は、リブ部の両側にスラブ部を有する構成が好ましい。
【0071】
<バリエーション>
図14は、本発明の実施形態の第1のバリエーションを示す。第1のバリエーションにおいては、光導波路素子1は、離間部31および接近部32を備える。なお、図14においては、図面を見やすくするために、スラブ部は省略されている。
【0072】
離間部31は、導波路WG1、WG2の出力側に設けられ、導波路31Aおよび導波路31Bを備える。導波路31Aは、導波路WG1に結合する。また、導波路31Bは、導波路WG2に結合する。そして、導波路31Aと導波路31Bとの間の間隔は、導波路WG1、WG2の出力端から離れるにつれて徐々に広がっていく。この例では、導波路31Aは曲げ導波路であり、導波路31Bは直線導波路である。曲げ導波路は、円弧、Sベンド、またはクロソイド曲線などの緩和曲線で形成される。
【0073】
上記構成において、導波路WG1から出力される光は、導波路31Aの先端部で反射する。このとき、雑音が発生し得る。ただし、導波路31Aの先端部は、TE1モード光が伝搬する導波路31Bから離れている。よって、光導波路素子1から出力されるTE1モード光に対する雑音の影響は緩和される。
【0074】
接近部32は、導波路WG1、WG2の入力側に設けられ、導波路32Aおよび導波路32Bを備える。導波路32Aは、導波路WG1に結合する。また、導波路32Bは、導波路WG2に結合する。そして、導波路32Aと導波路32Bとの間の間隔は、導波路WG1、WG2の入力端から離れるにつれて徐々に広がっていく。この例では、導波路32Aは曲げ導波路であり、導波路32Bは直線導波路である。
【0075】
なお、一般に、TE1と比較して、TE0の方が導波路内に強く閉じ込められる。ここで、TE0モード光は、導波路32A、導波路WG1、導波路31Aを介して伝搬する。他方、直線導波路と比較して、曲げ導波路の方が光の電界成分がしみ出しやすい。すなわち、電界のしみ出しを抑制するためには、曲げ導波路を伝搬する光は、TE1モード光よりもTE0モード光であることが好ましい。よって、この実施例では、TE0モード光が伝搬する導波路32A、31Aが曲げ導波路で形成され、TE1モード光が伝搬する導波路32B、32Aが直線導波路で形成される。
【0076】
ただし、第1のバリエーションは、この構成に限定されるものではない。たとえば、光導波路素子1は、離間部31または接近部32のいずれか一方を備える構成であってもよい。また、導波路31Aおよび導波路31Bの双方が曲げ導波路であってもよいし、導波路32Aおよび導波路32Bの双方が曲げ導波路であってもよい。
【0077】
図15は、本発明の実施形態の第2のバリエーションを示す。第2のバリエーションにおいては、光導波路素子1は、外部導波路との間に接続部を備える。外部導波路は、断面の形状が矩形のチャネル導波路である。
【0078】
接続部33は、図15(a)に示すように、外部導波路と導波路WG1のポートP1との間に設けられる。また、接続部33は、リブ部33Aおよびスラブ部33Bを備える。リブ部33Aの一方の端部は導波路WG1のリブ部11に結合され、リブ部33Aの他方の端部は外部導波路に結合される。スラブ部33Bは、導波路WG1のスラブ部12に結合される。ここで、この実施例では、外部導波路の幅は、導波路WG1の入力端におけるリブ部11の幅より狭い。よって、リブ部33Aの幅は、外部導波路の端部からポートP1に向って徐々に広くなっていく。また、外部導波路は、スラブを有していない。したがって、スラブ部33Bの幅は、外部導波路の端部からポートP1に向って徐々に広くなっていく。このように、リブ部33Aおよびスラブ部33Bの幅は、光の伝搬方向に対して連続的にテーパ状に変化する。
【0079】
接続部34は、図15(b)に示すように、導波路WG2のポートP2と外部導波路との間に設けられる。また、接続部34は、リブ部34A、スラブ部34Bおよびスラブ部34Cを備える。リブ部34Aの一方の端部は導波路WG2のリブ部21に結合され、リブ部34Aの他方の端部は外部導波路に結合される。スラブ部34Bおよびスラブ34Cは、それぞれ、導波路WG2のスラブ部22およびスラブ部23に結合される。ここで、この実施例では、外部導波路の幅は、導波路WG2の出力端におけるリブ部21の幅より狭い。よって、リブ部34Aの幅は、ポートP2から外部導波路の端部に向って徐々に狭くなっていく。また、外部導波路は、スラブを有していない。したがって、スラブ部34B、34Cの幅は、ポートP2から外部導波路の端部に向って徐々に狭くなっていく。このように、リブ部34A、スラブ部34Bおよびスラブ部34Cの幅は、光の伝搬方向に対して連続的にテーパ状に変化する。
【0080】
なお、外部導波路は、光基板上の所望の素子または回路に光を伝搬するために、光の閉じ込めが強いチャネル導波路で形成されることが多い。ここで、チャネル導波路の幅は、光導波路素子1の入力端/出力端の導波路の幅と異なることがある。この場合、接続部33および/または接続部34を設けることにより、導波路の不連続点を無くすことができる。この結果、外部導波路と光導波路素子1との間の接続点における反射等に起因する損失が抑制される。
【0081】
図16は、本発明の実施形態の第3のバリエーションを示す。第2のバリエーションと同様に、第3のバリエーションにおいても、光導波路素子1は、外部導波路との間に接続部を備える。ただし、第3のバリエーションでは、外部導波路はリブ導波路である。リブ導波路においては、導波路の側面の荒れによる伝搬損失が小さい。
【0082】
接続部35は、図16(a)に示すように、外部導波路と導波路WG1のポートP1との間に設けられる。また、接続部35は、リブ部35A、スラブ部35Bおよびスラブ部35Cを備える。リブ部35Aは、導波路WG1のリブ部11および外部導波路のリブ部に結合される。スラブ部35Bは、外部導波路のスラブ部に結合される。スラブ部35Cは、導波路WG1のスラブ部12および外部導波路のスラブ部に結合される。
【0083】
接続部36は、図16(b)に示すように、導波路WG2のポートP2と外部導波路との間に設けられる。また、接続部36は、リブ部36A、スラブ部36Bおよびスラブ部36Cを備える。リブ部36Aは、導波路WG2のリブ部21および外部導波路のリブ部に結合される。スラブ部36Bは、導波路WG2のスラブ部22および外部導波路のスラブ部に結合される。スラブ部36Cは、導波路WG2のスラブ部23および外部導波路のスラブ部に結合される。
【0084】
各接続部(35、36)のリブ部の幅は、導波路WG1、WG2のリブ部の幅と対応する外部導波路のリブ部の幅との差分を調整するように徐々に変化する。各接続部(35、36)のスラブ部の幅は、導波路WG1、WG2のスラブ部の幅と対応する外部導波路のスラブ部の幅との差分を調整するように徐々に変化する。この場合、接続部35および/または接続部36を設けることにより、導波路の不連続点を無くすことができる。この結果、外部導波路と光導波路素子1との間の接続点における反射等に起因する損失が抑制される。
【0085】
図17は、本発明の実施形態の第4のバリエーションを示す。第4のバリエーションにおいては、光導波路素子1は、TE1-TM0変換器37を備え、TE0とTM0との間のモード変換を行う。
【0086】
TE1-TM0変換器37は、導波路WG2の出力端(即ち、ポートP2)に光学的に結合する。この実施例では、ポートP2とTE1-TM0変換器37との間に、図14に示す離間部31が設けられる。
【0087】
TE1-TM0変換器37は、リブ導波路であり、リブ部37A、スラブ部37Bおよびスラブ部37Cを備える。そして、リブ部37Aは、離間部31の導波路31Bのリブ部を介して、導波路WG2のリブ部21に結合される。また、スラブ部37Bおよびスラブ部37Cは、離間部31の導波路31Bのスラブ部を介して、それぞれ、導波路WG2のスラブ部22およびスラブ部23に結合される。
【0088】
ここで、この実施例では、TE1-TM0変換器37はリブ導波路で構成される。よって、導波路の屈折率の分布は上下非対称である。即ち、導波路の屈折率の分布は、基板の平行な軸に対して対称でない。また、このリブ導波路は、テーパ状に形成されている。さらに、TE1-TM0変換器37において、TE1の実効屈折率およびTM0の実効屈折率はクロス点を有する。この構成により、TE1とTM0との間でのモード変換が実現される。なお、このようなTE1-TM0変換器は、例えば、特許第5728140号に記載されている。また、図17に示す例では、TE1-TM0変換器37の出力側にチャネル導波路が結合されるが、リブ導波路が結合されてもよい。
【0089】
上記構成の光導波路素子1において、導波路WG1のポートP1にTE0モード光を入力すると、導波路WG1、WG2においてTE1モード光が生成される。このTE1モード光は、ポートP2を介して出力され、TE1-TM0変換器37に導かれる。そして、TE1-TM0変換器37は、TE1とTM0との間のモード変換を行う。したがって、図17に示す構成によれば、TE0とTM0との間の偏波変換が実現される。
【0090】
また、導波路WG2のポートP3にTE0モード光(TE0_B)を入力すると、このTE0モード光は、導波路WG2を伝搬する。このとき、このTE0モード光は、図11図13を参照して説明したように、モード変換が生じることなくポートP2を介して出力される。したがって、ポートP1を介してTE0モード光(TE0_A)を入力し、ポートP3を介してTE0モード光(TE0_B)を入力すると、TE0とTM0との偏波多重が実現される。
【0091】
さらに、導波路WG2は、ポートP2において、幅方向に対称な屈折率分布を持たせることが可能である。例えば、リブ部21の断面の形状が矩形であり、リブ部21の両側に同じ形状のスラブ部22、23を形成すれば、幅方向に対称な屈折率分布が実現される。ここで、TE1-TM0変換器は、幅方向に対称な屈折率分布を有すると、TE1からTE0への変換が起こりにくくなる。よって、図17に示す構成によれば、偏波消光比が高くなる。
【0092】
図18は、本発明の実施形態の第5のバリエーションを示す。第5のバリエーションにおいては、光導波路素子1は、不要な光を除去または抑制するための光終端器41を備える。
【0093】
光導波路素子1においては、ポートP1を介してTE0モード光を入力すると、ポートP2からTE1モード光が出力される。ただし、入力光成分の一部は、残留成分として導波路WG1の出力端(即ち、ポートP4)を介して出力される。ここで、光終端器41を設けない構成では、この残留成分は、導波路31Aの端部で反射して導波路WG1に戻ってくる。そして、戻ってきた残留成分は、光導波路素子1の特性に影響を与える。
【0094】
そこで、光導波路素子1は、図18(a)に示すように、導波路31Aの先端に光終端器41を備えてもよい。この構成によれば、ポートP4を介して出力される残留成分は、光終端器41により終端されるので、反射が抑制される。したがって、光終端器41を設けることにより光導波路素子1の特性が改善する。なお、ポートP3を介して光が入力されないときは、ポートP3に対しても光終端器を設けることが好ましい。
【0095】
光終端器41は、例えば、図18(b)に示すように、導波路31Aの先端をテーパ構造にすることで実現される。この場合、導波路31Aのコアの幅が徐々に狭くなるように形成される。また、光終端器41は、図18(c)に示すように、導波路31Aの先端に近い部分に、光を吸収する物質を高濃度にドープすることで実現してもよい。例えば、導波路31Aのコアに、光を吸収する物質がドープされる。光を吸収する物質は、特に限定されるものではなく、公知の材料を採用することができる。あるいは、光終端器41は、図18(d)に示すように、導波路31Aの先端にフォトダイオード等の受光器を設けることで実現してもよい。この場合、導波路31Aの先端に到達する光は、電流に変換されるので、反射が抑制される。
【0096】
なお、上述の実施形態では、コアがSiで形成され、クラッドがSiO2で形成されるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、コアおよびクラッドがいずれもSiO2で形成されるPLCであってもよい。また、導波路WG1、WG2は、InP導波路であってもよいし、GaAs導波路であってもよい。あるいは、コアがSiまたはSiNで形成され、下部クラッドがSiO2で形成され、上部クラッドがSiO2または空気で実現される導波路であってもよい。
【0097】
ただし、Si導波路は、コアとクラッドとの間で屈折率の差が大きく、光の閉じ込めが強いので、曲率半径の小さいパターンであっても損失が小さい。よって、光回路の小型化が要求されるケースでは、Si導波路を使用する形態が好ましい。
【0098】
上述の実施例では、コアの幅を変えることでコアの断面積が調整されるが、コアの高さを変えることでコアの断面積を調整してもよいし、幅および高さの双方を変えることでコアの断面積を調整してもよい。ただし、リソグラフィおよびエッチングにより導波路のコアを形成する場合は、マスクの形状によりコアの幅が決定される。したがって、製造工程を複雑にしないためには、コアの幅を変えることでコアの断面積を調整する方法が好ましい。
【符号の説明】
【0099】
1 光導波路素子
11、21 リブ部
12、22、23 スラブ部
31 離間部
32 接近部
33~36 接続部
37 TE1-TM0変換部
41 光終端器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18