(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101918
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】コイル部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20220630BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20220630BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20220630BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220630BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20220630BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220630BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20220630BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20220630BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F41/04 A
H01F1/22
H01F17/04 A
B22F1/00 Y
B22F1/02 G
B22F3/00 B
B22F3/11 A
B22F7/04 G
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216302
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一貴
(72)【発明者】
【氏名】松浦 準
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
4K018BB04
4K018BB07
4K018BC18
4K018BC28
4K018BD01
4K018CA02
4K018CA09
4K018CA11
4K018CA34
4K018FA08
4K018GA02
4K018GA03
4K018JA23
4K018KA43
5E041AA11
5E041CA01
5E062AA01
5E070AA01
5E070AB08
5E070BB01
5E070CA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】磁気特性の劣化を抑制しつつ絶縁耐圧及び耐酸化性に優れたコイル部品を提供する。
【解決手段】コイル部品は、各々が金属元素を含有する複数の金属磁性粒子を含む基体10と、基体の内部に配置された埋設部25a及び基体の外部に露出している露出部を有する、銅を主成分とするコイル導体25と、埋設部25aの表面を覆い複数の金属磁性粒子31、32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物及び銅元素を含む絶縁性の酸化物層60と、を備える。第1金属磁性粒子31の表面には酸化被膜41が設けられ、第2金属磁性粒子32の表面には酸化被膜42が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が金属元素を含有する複数の金属磁性粒子を含む基体と、
前記基体の内部に配置された埋設部及び前記基体の外部に露出している露出部を有する、銅を主成分とするコイル導体と、
前記埋設部の表面を覆い前記複数の金属磁性粒子に含まれる前記金属元素の酸化物及び銅元素を含む絶縁性の酸化物層と、
を備えるコイル部品。
【請求項2】
前記複数の金属磁性粒子の各々は、銅よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素を含む、
請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記複数の金属磁性粒子の各々は、その表面に酸化被膜を有しており、隣接する金属磁性粒子と前記酸化被膜により結合している、
請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記複数の金属磁性粒子の一部は、前記酸化物層及び前記酸化被膜を介して前記コイル導体と接している、
請求項1から3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記酸化物層は、亜鉛元素を含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記酸化被膜における亜鉛元素の含有比率よりも前記酸化物層における亜鉛元素の含有比率が高い、
請求項5に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記酸化物層における亜鉛の原子割合は、1.0at%以上25at%である、
請求項5又は6に記載のコイル部品。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のコイル部品を備える回路基板。
【請求項9】
請求項8に記載の回路基板を備える電子機器。
【請求項10】
複数の金属磁性粒子を含む素体及び前記素体内に埋め込まれた銅を主成分とする導体部を含む中間体を準備する準備工程と、
前記中間体を第1温度で加熱することで前記導体部の表面を覆うように酸化銅を含む酸化膜を形成する第1加熱工程と、
前記第1温度での加熱後に、前記中間体を前記第1温度よりも高温の第2温度で加熱して前記複数の金属磁性粒子の各々に含まれる金属元素の酸化物を含む酸化被膜を生成することで前記素体から基体を形成するとともに前記酸化物及び銅元素を含む絶縁性の酸化物層を形成する第2加熱工程と、
を備えるコイル部品の製造方法。
【請求項11】
前記第2加熱工程においては、前記酸化膜に含まれる酸化銅の少なくとも一部が還元される、
請求項10に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項12】
前記第2加熱工程において、前記複数の金属磁性粒子の各々に酸化被膜が形成され、前記複数の金属磁性粒子の各々が隣接する金属磁性粒子と前記酸化被膜により結合することで前記基体が形成される、
請求項10又は11に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項13】
前記第2加熱工程においては、前記第1加熱工程よりも低い酸素濃度の雰囲気中で前記中間体が加熱される、
請求項10から12のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項14】
前記導体部は、熱分解性の絶縁被膜により覆われており、
前記絶縁被膜は、前記第1加熱工程において分解される、
請求項10から13のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項15】
前記準備工程は、前記導体部の表面に酸化亜鉛を含有する懸濁液を塗布する工程を有する、
請求項10から14のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項16】
前記第2加熱工程において、酸化亜鉛を含むように前記酸化物層が形成される、
請求項15に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコイル部品は、磁性材料からなる基体と、当該磁性基体内に設けられたコイル導体と、を備える。近年、回路の大電流化が進んでいるため、コイル部品の基体の材料として大電流が流れても磁気飽和が発生しにくい軟磁性金属材料が使われるようになってきている。
【0003】
従来のコイル部品の例が国際公開第2018/088264号(特許文献1)に記載されている。特許文献1に記載されているコイル部品は、軟磁性金属材料から成る金属磁性粒子を含む基体と、この基体内に埋め込まれておりポリイミド樹脂で被覆されたコイル導体と、を備えている。
【0004】
特開2019-153650公報(特許文献2)には、従来のコイル部品の別の例が記載されている。特許文献2に記載されているコイル部品は、軟磁性金属材料から成る金属磁性粒子を含む基体と、この基体に埋設されている金属板と、を備えている。特許文献2の金属板は、導電性金属から成る母材層と、その母材層の片面に形成されためっき層と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/088264号
【特許文献2】特開2019-153650公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように、コイル導体の表面をポリイミド等の樹脂材料で被覆することにより、コイル部品の絶縁耐圧が高められる。つまり、コイル導体の表面に設けられている樹脂製の絶縁被膜により、コイル導体と基体に含まれる金属磁性粒子との間でのショートの発生が抑制される。しかしながら、絶縁被膜は非磁性の樹脂から成るため、コイル導体の表面を樹脂製の絶縁被膜で被覆することにより、コイル部品の磁気特性(例えば、インダクタンス)が劣化するという問題がある。特許文献1では、絶縁耐圧が過度に低下しない程度に樹脂製の絶縁被膜を薄くすることで磁気特性の低下を抑制しているが、コイル導体の表面に設けられている樹脂製の絶縁被膜の分だけ磁気特性の劣化が避けられない。
【0007】
コイル導体の表面が樹脂製の絶縁被膜で被覆されていなければ、絶縁被膜による磁気特性の劣化の問題は生じない。しかしながら、コイル導体の表面に樹脂製の絶縁被膜が存在しない場合には、コイル導体と金属磁性粒子との間でショートが発生しやすい。また、コイル導体と金属磁性粒子との間が樹脂製の絶縁被膜で充填されていないと、コイル導体と金属磁性粒子との間に不可避的に隙間が生じる。このため、コイル部品の使用時に、コイル導体と金属磁性粒子との間の隙間に存在する酸素によりコイル導体の酸化が進行してコイル部品の電気特性が劣化するという問題がある。また、コイル導体と金属磁性粒子との間の隙間には水分が侵入し、この隙間に侵入した水分によりコイル導体の酸化が進行するという問題もある。
【0008】
本発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。本発明のより具体的な目的の一つは、磁気特性の劣化を抑制しつつ絶縁耐圧及び耐酸化性に優れたコイル部品を提供することである。
【0009】
本発明の前記以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。特許請求の範囲に記載される発明は、「発明を解決しようとする課題」から把握される課題以外の課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品は、各々が金属元素を含有する複数の金属磁性粒子を含む基体と、前記基体の内部に配置された埋設部及び前記基体の外部に露出している露出部を有する、銅を主成分とするコイル導体と、前記埋設部の表面を覆い、前記複数の金属磁性粒子に含まれる金属元素の酸化物及び銅元素を含む絶縁性の酸化物層と、を備える。
【0011】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記複数の金属磁性粒子の各々は、銅よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素を含む。
【0012】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記複数の金属磁性粒子の各々は、その表面に酸化被膜を有しており、隣接する金属磁性粒子と前記酸化被膜により結合している。
【0013】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記複数の金属磁性粒子の一部は、前記酸化物層及び前記酸化被膜を介して前記コイル導体と接している。
【0014】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記酸化物層は、亜鉛元素を含む。
【0015】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記酸化被膜における亜鉛元素の含有比率よりも前記酸化物層における亜鉛元素の含有比率が高い。
【0016】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記酸化物層における亜鉛の原子割合は、1.0at%以上25at%である。
【0017】
本発明の一又は複数の実施形態は、上記のコイル部品のいずれかを備える回路基板に関する。本発明の一又は複数の実施形態は、上記の回路基板を備える電子機器に関する。
【0018】
本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品の製造方法は、複数の金属磁性粒子を含む素体及び前記素体内に埋め込まれた銅を主成分とする導体部を含む中間体を準備する準備工程と、前記中間体を第1温度で加熱することで前記導体部の表面を覆うように酸化銅を含む酸化膜を形成する第1加熱工程と、前記第1温度での加熱後に、前記中間体を前記第1温度よりも高温の第2温度で加熱して前記複数の金属磁性粒子の各々に含まれる金属元素の酸化物を含む酸化被膜を生成することで前記素体から基体を形成するとともに前記酸化物及び銅元素を含む絶縁性の酸化物層を形成する第2加熱工程と、を備える。上記の第2加熱工程においては、前記酸化膜に含まれる酸化銅の少なくとも一部が還元される。
【0019】
本発明の一又は複数の実施形態における前記第2加熱工程において、前記複数の金属磁性粒子の各々に酸化被膜が形成され、前記複数の金属磁性粒子の各々が隣接する金属磁性粒子と前記酸化被膜により結合することで前記基体が形成される。
【0020】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記導体部は、熱分解性の絶縁被膜により覆われており、前記絶縁被膜は、前記第1加熱工程において分解される。
【0021】
本発明の一又は複数の実施形態における前記第2加熱工程においては、前記第1加熱工程よりも低い酸素濃度の雰囲気中で前記中間体が加熱される。
【0022】
本発明の一又は複数の実施形態において、準備工程は、前記導体部の表面に酸化亜鉛を含有する懸濁液を塗布する工程を含む。
【0023】
本発明の一又は複数の実施形態における第2加熱工程においては、酸化亜鉛を含むように前記酸化物層が形成される。
【発明の効果】
【0024】
本明細書に開示されている発明によれば、磁気特性の劣化を抑制しつつ絶縁耐圧及び耐酸化性に優れたコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実装基板に実装された本発明の一実施形態によるコイル部品の斜視図である。
【
図3】
図2の断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程の示すフロー図である。
【
図5】本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品の製造工程において作製される中間体を模式的に示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程において第1加熱工程における加熱がなされる前の中間体の断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程において第1加熱工程における加熱がなされた後で第2加熱工程における加熱がなされる前の中間体の断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される本発明の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0027】
図1から
図3を参照して本発明の一実施形態によるコイル部品1について説明する。
図1は、実装基板2aに実装されたコイル部品1の斜視図、
図2は、コイル部品1をI-I切断線で切断した断面図、
図3は
図2に示されている断面の一部を拡大した拡大断面図である。
図1及び
図2の各々には、互いに直交するW軸、L軸及びZ軸が示されている。本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向及び「T軸」方向とする。本明細書においては、L軸方向、W軸方向及びZ軸方向を基準としてコイル部品1の構成部材の向きや配置を説明することがある。
【0028】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトル、及びこれら以外の様々なコイル部品に適用され得る。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイル、及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品にも適用することができる。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものに限定されない。
【0029】
図1及び
図3に示されているように、コイル部品1は、磁性材料から形成された基体10と、この基体10に設けられたコイル導体25と、コイル導体25と基体10との間に設けられた酸化物層60と、を備えている。コイル導体25は、基体10の内部に配置された埋設部25aと、埋設部25aの一端から基体10の外部に延びている露出部25bと、埋設部25aの他端から基体10の外部に延びている露出部25cと、を有する。
【0030】
コイル部品1は、実装基板2aに実装されている。実装基板2aには、ランド部3a,3bが設けられている。コイル部品1は、コイル導体25の露出部25bとランド部3aとを接合し、コイル導体25の露出部25cとランド部3bとを接合することで実装基板2aに実装されている。このように、回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路基板2は、コイル部品1及びコイル部品1以外の様々な電子部品を備えることができる。
【0031】
回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。コイル部品1が搭載される電子機器は、本明細書で明示されるものには限定されない。コイル部品1は、回路基板2の内部に埋め込まれる内蔵部品であってもよい。
【0032】
図示の実施形態において、基体10は、おおむね直方体形状を有する。基体10は、第1主面10a、主面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有しており、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1主面10aと第2主面10bとは互いに対向し、第1端面10cと第2端面10dとは互いに対向し、第1側面10eと第2側面10fとは互いに対向している。
図1において第1主面10aは本体10の上側にあるため、第1主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2主面10bを「下面」と呼ぶことがある。磁気結合型コイル部品1は、第2主面10bが実装基板2aと対向するように配置されるので、第2主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。コイル部品1の上下方向に言及する際には、
図1の上下方向を基準とする。本明細書においては、文脈上別に理解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向、及び「T軸」方向とする。L軸、W軸、及びT軸は互いに直交している。
【0033】
本発明の一又は複数の実施形態において、コイル部品1は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が1.0~12.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が1.0~12.0mm、高さ寸法(T軸方向の寸法)が1.0~6.0mmとなるように形成される。コイル部品1は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.2~6.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.1~4.5mm、高さ寸法(T軸方向の寸法)が0.1~4.0mmとなるように形成されていても良い。これらの寸法はあくまで例示であり、本発明を適用可能なコイル部品1は、本発明の趣旨に反しない限り、任意の寸法を取ることができる。
【0034】
基体10は、磁性材料から構成される。本発明の一又は複数の実施形態において、基体10は、複数の金属磁性粒子を含む。金属磁性粒子は、軟磁性金属材料から成る粒子又は粉末である。金属磁性粒子は、銅よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素を含む。金属磁性粒子は、例えば、Fe-Cr-Si系合金の粉末である。Fe及びCrは、銅(Cu)よりも大きなイオン化傾向を有する。金属磁性粒子用の軟磁性金属材料は、Fe-Cr-Si系合金には限られない。金属磁性粒子用の軟磁性金属材料は、例えば、(1)合金系のFe-Si-AlもしくはFe-Ni、(2)非晶質のFe―Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Cr、又は(3)これらの混合材料の粒子である。金属磁性粒子が合金系の材料から構成される場合には、金属磁性粒子におけるFeの含有比率は、80wt%以上97wt%未満とされてもよい。金属磁性粒子が非晶質の材料から構成される場合には、金属磁性粒子におけるFeの含有比率は、72wt%以上85wt%未満とされてもよい。金属磁性粒子におけるSi及び銅より酸化しやすい金属元素の合計の含有比率は、3wt%以上とされても良く、8wt%以上とされても良く、10wt%以上とされてもよい。
【0035】
本発明の一又は複数の実施形態において、基体10に含まれる金属磁性粒子の粒径は、所定の粒度分布に従って分布している。金属磁性粒子は、例えば、1μm以上10μm以下の平均粒径を有する。基体10に含まれる金属磁性粒子の平均粒径は、基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍~5000倍の倍率で撮影したSEM写真に基づいて当該断面に含まれる金属磁性粒の粒度分布を求め、この粒度分布に基づいて定められる。例えば、SEM写真に基づいて求められた粒度分布の50%値を金属磁性粒子の平均粒径とすることができる。基体10は、一種類の金属磁性粒子から構成されてもよく、材料及び/又は平均粒径の点で互いに異なる二種類以上の金属磁性粒子から構成されてもよい。基体10が二種類以上の金属磁性粒子から構成される場合、その二種類以上の金属磁性粒子は、互いに異なる軟磁性金属材料から構成されてもよい。例えば、基体10は、Fe-Cr-Si系合金からなる金属磁性粒子と、Fe-Ni系合金からなる金属磁性粒子とを混合した混合粒子であってもよい。基体10が二種類以上の金属磁性粒子から構成される場合、その二種類以上の金属磁性粒子は、互いに異なる平均粒径を有していてもよい。基体10が互いに平均粒径の異なる2種類以上の金属磁性粒子を混合した混合粒子を含むことは、SEM写真に基づいて粒度分布を作成した際に、粒度分布に現れる2つ以上のピークにより確認することができる。
【0036】
コイル導体25は、銅を主成分とする。本明細書における主成分とは、質量基準の含有割合が最も多い成分をいう。よって、コイル導体25においては、質量基準で銅の含有割合が最も高い。電気抵抗を小さくするために、コイル導体25における銅の含有比率は、90wt%以上であっても良く、95wt%以上であっても良く、99wt%以上であっても良く、それ以上の高い含有比率であってもよい。コイル導体25は、銅の他にもNi、Sn、Zn及び/又はこれら以外の元素を含むことができる。コイル導体25は、銅を主成分とする金属から成る導体である。コイル導体25は、例えば、金属板や金属線を折り曲げることで形成されてもよい。コイル導体25は、例えば、銅を主成分とするペーストを焼結することにより形成されてもよい。図示の実施形態において、コイル導体25の露出部25bは、埋設部25aの一端から基体10の第1端面10cに沿って延び、第1端面10cの下端から実装面10bに沿って延びている。コイル導体25の露出部25cは、埋設部25aの他端から基体10の第2端面10dに沿って延び、第2端面10dの下端から実装面10bに沿って延びている。このように、図示されているコイル導体25は、埋設部25aと露出部25b、25cの各々との境界、第1端面10cの下端に対応する位置、及び第2端面10dの下端に対応する位置において折り曲げられている。本発明に適用可能な露出部25b、25cは、図示されている態様に限られない。露出部25b、25cは、基体10から露出している限り、任意の形状をとることができ、任意の位置に配置され得る。露出部25bが実装面10bまで延伸していない場合には、コイル部品1は、露出部25bと接続される不図示の外部電極を備えてもよい。この外部電極として、公知の外部電極が適用され得る。外部電極は、例えば、基体10の表面に導電性ペーストを塗布して下地電極を形成し、この下地電極の表面に一又は複数のめっき層を形成することにより得られる。同様に、露出部25cが実装面10bまで延伸していない場合にも、コイル部品1は、露出部25cと接続される不図示の外部電極を備えることができる。露出部25bと露出部25cは、そのまま外部電極としての機能を果たしても良い。この場合、露出部25bと露出部25cが実装基板2の導電性の部材(例えば、ランド3a、3b)とそれぞれ直接又は間接に接続される。
【0037】
本発明に適用可能なコイル導体25の形状は、図示されている形状には限定されない。コイル導体25の埋設部25aは、螺旋形状を有していてもよい。螺旋形状を有する埋設部25aは、平面視で長方形形状を有する第1主面10aの対角線の交点を通り第1主面10aに垂直な方向(T軸方向)に延びる軸線の周りに螺旋状に延伸してもよい。露出部25b、25cの形状も図示されている形状から変形可能である。図示のコイル導体25は、埋設部25aと露出部25b、25cとが互いに等しい断面形状を有している。コイル導体25は、埋設部25aが円形又は楕円形の断面を有していていてもよい。コイル導体25は、線径1.5mmの直線状の線材であってもよい。露出部25b、25cは、かかる線材をプレスすることで形成されてもよい。露出部25b、25cは、例えば、0.1mm~0.5mmの範囲の厚さを有するように形成されてもよい。
【0038】
埋設部25aが螺旋形状を有する場合には、埋設部25aは、コイル軸の周りに延伸する。螺旋形状を有する埋設部25aは、コイル軸の周りに複数ターン巻かれてもよい。コイル軸は、T軸、L軸、又はW軸のいずれかに沿って延びる仮想的な軸線であってもよい。コイル軸の周りに複数ターン巻かれた埋設部25aの隣接するターン間には、基体10の一部が介在していてもよい。コイル軸の周りに複数ターン巻かれた埋設部25aの隣接するターン間には、酸化銅を主成分とする絶縁材が介在していてもよい。
【0039】
次に、
図3を参照して、基体10とコイル導体25の埋設部25aとの境界付近の微視的な構造について説明する。
図3は、
図2に示されているコイル部品1の断面のうち領域Aを拡大して示す拡大断面図である。領域Aは、コイル導体25の埋設部25aと基体10とに跨がる領域である。
図3に示されている例では、基体10は、平均粒径が互いに異なる2種類の金属磁性粒子を含んでおり、具体的には、複数の第1金属磁性粒子31と、第1金属磁性粒子31よりも平均粒径が小さい複数の第2金属磁性粒子32と、を含んでいる。第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32とは互いに同一の軟磁性金属材料から形成されていてもよいし、互いに異なる軟磁性金属材料から形成されていてもよい。
【0040】
基体10に含まれる金属磁性粒子の表面には、その金属磁性粒子に含まれる金属元素の酸化物を含む絶縁性の酸化被膜が設けられる。
図3に示されているように、第1金属磁性粒子31の表面には酸化被膜41が設けられ、第2金属磁性粒子32の表面には酸化被膜42が設けられている。金属磁性粒子の表面の酸化被膜は、Feやそれ以外の金属磁性粒子の構成元素の酸化物を含む。例えば、金属磁性粒子がFe-Cr-Si系合金から成る場合、その表面の酸化被膜には、Fe、Cr、及びSiの酸化物が含まれる。第1金属磁性粒子31は、隣接する第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32と、酸化被膜41及び/又は酸化被膜42を介して結合している。
【0041】
コイル導体25の埋設部25aと第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間には、埋設部25aの表面を覆う酸化物層60が配置されている。酸化物層60は、埋設部25aに接していてもよい。酸化物層60は、埋設部25aと第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間の空間を閉塞するように、埋設部25aと第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間に設けられる。酸化物層60は、酸化被膜41を介して第1金属磁性粒子31と接しており、酸化被膜42を介して第2金属磁性粒子32と接している。酸化物層60と第1金属磁性粒子31及び/又は第2金属磁性粒子32との間には空隙が存在していてもよい。
【0042】
図示されているように、酸化物層60は、埋設部25aの表面の全ての領域を覆っていてもよい。例えば、基体10をT軸に沿って切断して断面を露出させ、L軸方向において均等な間隔で配置された3点(5点又はそれ以上の点であってもよい)の各々において視野に埋設部25aの表面の一部及び基体10を含むように5000倍の倍率で当該断面のSEM写真を撮影し、この撮影したSEM写真の各々において埋設部25aの表面全体が酸化物層60によって覆われている場合に、酸化物層60が埋設部25aの表面の全てを覆っていると判断することができる。このようにコイル導体25の埋設部25aの表面が酸化物層60によって覆われており、この酸化物層60によって埋設部25aと第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間の空間を閉塞しているから、コイル部品1の使用時に使用環境における大気や大気中の水分が基体10を通って埋設部25aに到達することを防止又は抑制できる。
【0043】
本発明の一又は複数の実施形態において、酸化物層60は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物を含む。例えば、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32がFe-Cr-Si系合金から成る場合、酸化物層60は、Fe及びCrの少なくともいずれか一つの元素の酸化物を含む。酸化物層60には第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物が含まれているため、酸化物層60の比透磁率は、従来の樹脂製(例えば、ポリイミド製)の絶縁被膜の比透磁率よりも高くなる。酸化物層60は、金属元素以外の第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の構成元素(例えばSi)の酸化物を含んでもよい。基体10が1種類の金属磁性粒子から構成される場合、酸化物層60は、その金属磁性粒子に含まれる一又は複数の種類の金属元素のうちの少なくとも一つの金属元素を含む。例えば、基体10がFe-Cr-Si系合金から成る1種類の金属磁性粒子を含む場合には、酸化物層60は、Fe元素及びCr元素の少なくとも一つを含む。基体10が2種類以上の金属磁性粒子から構成される場合、酸化物層60は、その2種類以上の金属磁性粒子のいずれかに含まれる一又は複数の種類の金属元素のうちの少なくとも一つの金属元素を含む。例えば、基体10がFe-Cr-Si系合金から成る第1の種類の金属磁性粒子とFe-Ni径合金から成る第2の種類の金属磁性粒子とを含む場合には、酸化物層60は、Fe元素、Cr元素、及びNi元素の少なくとも一方を含む。
【0044】
本発明の一又は複数の実施形態において、酸化物層60は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物に加えて銅元素を含んでもよい。銅元素は、酸化物層において酸化銅として存在してもよい。
【0045】
基体10の断面を5000倍から20000倍の倍率で撮影したSEM写真においては、酸化物層60とコイル導体25の埋設部25aとの境界、並びに、酸化物層60と第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との境界は明暗差により識別可能である。酸化物層60に第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物が含まれていることは、基体10の断面においてエネルギー分散型X線分析(EDS)を行うことにより確認できる。具体的には、基体10の断面のEDS分析により、酸化物層60に第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素及び酸素元素が存在することが確認できれば、酸化物層60が第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物を含むことが確認できる。酸化物層60を横断するライン(例えば、T軸方向に沿って延びるライン)に沿って基体10の断面のEDS分析により得られる各元素のマッピングデータを再構築した場合、この走査ラインにおける第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素のカウント数は、埋設部25aから離れるほど(第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32に近づくほど)大きくなってもよい。つまり、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の検出強度は、埋設部25aから離れるほど強くなってもよい。他方、同じ走査ラインにおける銅の検出強度は、埋設部25aに近づくほど強くなってもよい。
【0046】
酸化物層60は、優れた絶縁性を有する。酸化物層60は、ヘマタイト、二酸化ケイ素、及び/又はこれら以外の絶縁性の酸化物を含有しているため、優れた絶縁性を呈する。酸化物層60は、例えば108Ω・cm以上の高い比抵抗を有する。このように、コイル導体25の埋設部25aの表面が絶縁性の酸化物層60によって覆われているため、コイル導体25と第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間でのショートの発生を抑制することができる。つまり、コイル部品1は、優れた絶縁耐圧を有する。
【0047】
上述したように、埋設部25aが螺旋形状を有する場合、埋設部25aの隣接するターン間には基体10の一部が介在していてもよい。この場合、埋設部25aの隣接するターン間に介在する基体10の領域と埋設部25aの表面との間には、酸化物層60が設けられる。このように、隣接するターン間が絶縁性の酸化物層60によって隔てられているため、コイル導体25の異なるターンを構成する部位の間でのショートの発生を抑制でできる。このため、コイル部品1は、優れた絶縁耐圧を有する。
【0048】
埋設部25aが螺旋形状を有する場合、埋設部25aの隣接するターン間には基体10ではなく、酸化銅を主成分とする絶縁材が介在していてもよい。この酸化銅を主成分とする絶縁材により、コイル導体25の異なるターンを構成する部位の間でのショートの発生を抑制することができる。
【0049】
本発明の一又は複数の実施形態において、酸化物層60は、亜鉛元素を含有する。亜鉛元素は、酸化物層60に酸化亜鉛として含有されてもよい。酸化物層60は、例えば1.0at%以上25at%の割合で亜鉛元素を含有する。亜鉛元素は、第1金属磁性粒子31の酸化被膜41及び第2金属磁性粒子32の酸化被膜42の少なくとも一方にも含まれ得る。一又は複数の実施形態において、酸化物層60における亜鉛元素の含有比率(原子割合)は、酸化被膜41における亜鉛元素の含有比率(原子割合)及び酸化被膜42における亜鉛元素の含有比率(原子割合)よりも高い。酸化物層60に酸化亜鉛を含有させることにより、酸化物層60を緻密化することができる。これにより、コイル部品1の使用時に大気中の酸素や水分が埋設部25aに到達することをさらに抑制できる。
【0050】
続いて、
図4から
図7を参照して、本発明の一実施形態によるコイル部品1の例示的な製造方法について説明する。
図4は、本発明の一実施形態によるコイル部品1の製造工程の示すフロー図である。以下の説明では、コイル部品1が圧縮成形法により製造されることを想定する。コイル部品1は、圧縮成形法以外に、任意の公知の方法で作製され得る。例えば、コイル部品1は、シート積層法、印刷積層法、薄膜プロセス法、又はスラリービルド法により作製され得る。
【0051】
まず、ステップS1において、中間体100が作製される。後述するように、中間体100には後工程で加熱処理が施される。この中間体100を
図5に模式的に示す。図示されているように、中間体100は、磁性材料から構成された素体110と、この素体110に一部が埋め込まれた銅を主成分とする導体部と、を有する。図示の実施形態では、導体部125は、銅を主成分とする金属製の板である。導体部125の表面には、樹脂製の絶縁被膜が設けられてもよいし、設けられていなくともよい。導体部125の表面のうち素体110内に埋め込まれる領域には、酸化亜鉛(ZnO)の粉末をアルコールに分散させた懸濁液を塗布してもよい。導体部125として、上述した銅製の板材に代えて銅製の線材を用いてもよい。
【0052】
中間体100を作製する際には、成形金型内に導体部125を配置し、この導体部125が設置された成形金型内に金属磁性粒子を含む金属磁性体ペーストを入れ、この成形金型内の金属磁性体ペーストに所定の成形圧力(例えば、500kN~5000kN)を加える。これにより、金属磁性体ペーストが成形されて素体110となり、この素体110内に導体部125の一部が埋め込まれる。一実施形態においては、素体110の見かけ密度が6.0g/cm3となるように成形圧力が調整される。磁性体ペーストは、Fe-Cr-Si系合金の粉末等の金属磁性粒子をバインダー樹脂及び溶剤と混練することで得られる。金属磁性粒子は、互いに粒径の異なる複数種類の金属磁性粒子を含有してもよい。バインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂又はそれ以外の公知の樹脂である。
【0053】
上述したとおり、コイル部品1は、圧縮成形法以外の様々な方法により製造され得る。ステップS1では、銅を主成分とする導体部125が金属磁性粒子を含む素体110に埋め込まれた中間体100を、上述した圧縮成形法以外の製法で作製してもよい。中間体100は、例えばシート積層法により作製され得る。中間体100をシート積層法により作製する場合には、まず、金属磁性粒子と熱分解性のバインダー樹脂とを混練して得られたスラリーから、(バインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂又はそれ以外の公知の樹脂である。)をダイコータ式シート成形機等の各種シート成形機を用いてシート状の磁性体シートを複数作製する。次に、この絶縁体シートの所定の位置にレーザ加工機又はそれ以外の加工機を用いて貫通孔を形成し、この貫通孔が形成された磁性体シートに銅を導電性材料として含む導電性ペーストを所望のパターンに塗布することで、導体パターンが形成された磁性体シートを得る。このとき、磁性体シートに形成された貫通孔は、導電性ペーストで充填される。導電性ペーストの塗布は、例えば、スクリーン印刷法により行われる。次に、導体パターンが形成された磁性体シートを所定の順番に積層し、例えば80℃、300KNにて加熱圧着することで中間体100を得る。
【0054】
図6に、ステップS1で作製された中間体100をT軸に沿って切断した断面の一部の領域を拡大して示す。
図6に示されている領域は、
図2の領域Aに相当する領域である。
図6に示されているように、素体110は、複数の第1金属磁性粒子31と、第1金属磁性粒子31よりも小さな平均粒径を有する第2金属磁性粒子32とを含む。隣接する金属磁性粒子の間の隙間、及び、導体部125と金属磁性粒子との間にはバインダー樹脂45が充填されている。図示の実施形態では、導体部125は、樹脂製の絶縁被膜を有していないため、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32と直接に又はバインダー樹脂45を介して接している。上述したように、導体部125の表面は、熱分解性の樹脂から成る絶縁被膜で覆われていてもよい。この場合、導体部125は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32と樹脂製の絶縁被膜を介して、又は、樹脂製の絶縁被膜及びバインダー樹脂45を介して接する。
【0055】
次に、ステップS2において、ステップS1において作製された中間体100に対して第1加熱処理を行う。具体的には、中間体100を加熱炉に投入し、この加熱炉において例えば250~350℃の大気雰囲気で30分~120分間加熱する。この第1加熱処理により、バインダー樹脂45は分解され、また、導体部125のうち素体110に埋まっている部位の表面には、酸化銅を含む銅酸化膜50が形成される。導体部125の表面が熱分解性の樹脂からなる絶縁被膜で覆われている場合には、第1加熱処理において、中間体100は、導体部125の表面の絶縁被膜を構成する樹脂の熱分解温度以上の温度まで加熱される。このため、導体部125の表面の絶縁被膜は、第1加熱処理において熱分解され、導体部125のうち素体110に埋まっている部位の表面に酸化銅を含む銅酸化膜50が形成される。このように、導体部125が樹脂製の絶縁被膜により覆われている場合、導体部125の周囲の第1加熱処理前に樹脂製の絶縁被膜が存在していた領域も空隙とはならず銅酸化膜50により閉塞される。第1加熱処理は酸素雰囲気下で行われるため、第1加熱処理においては導体部125に含まれる銅の酸化が促進され、樹脂製の絶縁被膜およびバインダー樹脂45が分解されてできた空隙を閉塞するように導体部125の表面に銅酸化膜50が形成される。
【0056】
導体部125の素体110内に埋め込まれる部位は螺旋形状を有していてもよい。表面に絶縁被膜を有する導体部125の素体110内に埋め込まれる部位が螺旋形状を有する場合には、第1加熱処理によって絶縁被膜が熱分解し、熱分解前に絶縁被膜が占めていた空間は導体部125に含まれる銅が酸化して生成された酸化銅により充填される。言い換えると、絶縁被膜を有する導体部125の素体110内に埋め込まれる場合、銅酸化膜50は、螺旋形状を有する導体部125の隣接するターン間にも設けられる。この隣接するターン間に介在する酸化銅膜50により、導体部125の隣接するターン間でのショートの発生が抑制される。
【0057】
銅酸化膜50の主成分は、酸化銅(CuO)であってもよい。このように、第1加熱処理により、素体110は脱脂され、導体部125の表面は酸化される。第1加熱処理における加熱条件は、銅酸化膜50の厚さが0.1μm以上となるように適宜変更されてもよい。第1加熱処理における加熱条件は、素体110に含まれる金属磁性粒子が酸化してその表面に酸化被膜が形成されないように設定される。第1加熱処理における加熱温度が250~350℃とされる場合には、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32は、この第1加熱処理における加熱温度で表面に酸化被膜が形成されない材料から構成される。
【0058】
ステップS1において導体部125の表面に酸化亜鉛(ZnO)の懸濁液が塗布された場合には、導体部125の表面に銅酸化膜50が形成される際に、導体部125の表面に存在していた酸化亜鉛が銅酸化膜50内に取り込まれる。
【0059】
図7は、ステップS2の第1加熱処理後の中間体100をT軸に沿って切断した断面の一部の領域を拡大して示す。図示されているように、第1加熱処理においてバインダー樹脂が分解されたことにより、第1加熱処理前にバインダー樹脂45が充填されていた領域のうち隣接する金属磁性粒子の間の隙間は空隙55となっている。他方、導体部125と金属磁性粒子との間に充填されていたバインダー樹脂45も分解されているが、導体部125と金属磁性粒子との隙間は空隙とはならず銅酸化膜50により閉塞されている。第1加熱処理は酸素雰囲気下で行われるため、第1加熱処理においては導体部125に含まれる銅の酸化が促進され、バインダー樹脂45が分解されてできた空隙を閉塞するように導体部125の表面に銅酸化膜50が形成される。銅酸化膜50は、導体部125の表面のうち素体110と接している領域の全体を覆うように形成されてもよい。
【0060】
次に、ステップS3において、第1加熱処理が施された中間体100に対して第2加熱処理が行われる。第2加熱処理は、第1加熱処理よりも低い酸素濃度の低酸素濃度雰囲気中で第1加熱処理よりも高い温度で行われる。第2加熱処理により、素体110に含まれる第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の各々は酸化され、第1金属磁性粒子31の表面には酸化被膜41が形成されるとともに第2金属磁性粒子32の表面には酸化被膜42が形成される。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32は、銅よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素を含むため、銅酸化膜50の近傍に配置されている第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32において銅よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素の酸化物が生成される際に、銅酸化膜50に含まれる酸化銅の一部又は全部が還元される。第2加熱処理は、低酸素濃度雰囲気下で行われるため、素体110の内部にある銅酸化膜50の近傍にある第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32に含まれる金属元素は、酸化銅から酸素を奪って酸化物となる。このように、第2加熱処理においては、銅酸化膜50に含まれる酸化銅が還元されることにより、銅酸化膜50が酸化物層60になる。酸化物層60は、銅酸化膜50と異なり、酸化銅を主成分としていない。第2加熱処理により銅酸化膜50に含まれる酸化銅の一部だけが還元される場合には、酸化物層60は、銅酸化膜50に含まれていた酸化銅を含む。酸化物層60は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物を含んでいる。酸化物層60は、第2加熱処理の前に酸化銅として存在していた銅元素を含んでもよい。
【0061】
上述したように、表面に絶縁被膜を有する導体部125の素体110内に埋め込まれる部位が螺旋形状を有する場合には、この螺旋形状を有する導体部125の隣接するターン間に酸化銅膜50が介在する。この螺旋形状を有する導体部125の隣接するターン間に介在する銅酸化膜50に含まれる酸化銅は、第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32との距離が大きいため、第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32に含まれる銅よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素により還元されにくい。このため、銅酸化膜50のうち螺旋形状を有する導体部125の隣接するターン間に介在する領域においては、第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32に隣接している他の領域と比べて、酸化銅が比較的多く残存する。第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32に含まれる銅よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素(例えば、FeやCr)が熱拡散により、螺旋形状を有する導体部125の隣接するターン間にまで移動する場合には、その銅よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素によって螺旋形状を有する導体部125の隣接するターン間に存在する酸化銅も還元され得る。つまり、螺旋形状を有する導体部125の隣接するターン間に介在する銅酸化膜50は、第2加熱処理により部分的に酸化物層60となっていてもよい。
【0062】
ステップS1において導体部125の表面に酸化亜鉛(ZnO)の懸濁液が塗布された場合には、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物に加えて酸化亜鉛を含むように酸化物層60が形成される。この酸化亜鉛により第2加熱処理において生成される酸化物層60を緻密化することができる。
【0063】
第2加熱処理は、例えば、約600~900℃の窒素と酸素との混合雰囲気下で30分~120分間行われる。混合雰囲気の酸素濃度は、100~2000ppmとされる。本発明者らの研究によれば、中間体100において銅酸化膜50と素体110の表面との間隔が2mm以上あれば、酸素濃度が2000ppmの窒素と酸素との混合雰囲気下で約800℃の温度で60分間当該中間体を加熱することにより、0.5μmの銅酸化膜50に含まれる酸化銅は全て還元されることが分かった。
【0064】
銅酸化膜50に酸化亜鉛が含有されている場合、第2加熱処理においては、この酸化亜鉛の少なくとも一部が還元される。亜鉛の融点は、第2加熱処理における加熱温度よりも低いため、第2加熱処理においては、還元された亜鉛が溶融する。銅酸化膜50と金属磁性粒子31及び/又は金属磁性粒子32との間に空隙が存在する場合には、この溶融した亜鉛がその空隙に移動し、その空隙の少なくとも一部を充填することができる。これにより、第2加熱処理後に、酸化物層60と第1金属磁性粒子31もしくは/及び第2金属磁性粒子32との間の空隙を減少させることができるので、コイル部品1の使用時に大気や大気中の水分が埋設部25aに到達することをさらに抑制できる。
【0065】
次に、導体部125のうち基体10から露出している部位を基体10の表面に沿って折り曲げることで、コイル導体25が形成される。コイル導体25は、導体部125に対して曲げ加工を行うことで形成される。導体部125のうち折り曲げられた部位が露出部25b、25cとなる。導体部125に代えて銅製の線材が用いられた場合には、線材のうち基体10から露出している部位をプレスして板状に加工し、この板状に加工された部位を折り曲げることにより露出部25b、25cが形成される。本発明の別実施形態においては、露出部25b及び露出部25cは、実装面10bから基体10の外部に露出してもよい。この場合、導体部125へ曲げ加工を行わなくとも、露出面25b、25cをランド3a、3bにそれぞれ接続することができる。つまり、導体部125への折り曲げ加工を行わなくとも、コイル導体25の露出面25b、25cが外部電極としての機能を果たすことができる。
【0066】
以上のようにしてコイル部品1が作製される。コイル部品1の製造方法は、ステップS1~S3以外の工程を追加的に備えてもよい。例えば、熱処理工程により作製された基体10には、必要に応じてバレル研磨等の研磨処理が行われる。また、ステップS1~S3の工程の一部は、並行に又は順序を入れ替えて実施してもよい。例えば、導体部125の曲げ加工は、ステップS2における第1加熱処理の前に行われてもよいし、ステップS2とステップS3との間に行われてもよい。また、コイル部品1の製造方法においては、ステップS1~S3以外の工程を備えてもよい。例えば、基体10に公知の方法で外部電極が設けられてもよい。外部電極は、コイル導体25の基体10から露出する部位と電気的に接続される。
【0067】
次に、上記の実施形態による作用効果について説明する。本発明の一又は複数の実施形態によれば、コイル導体25の埋設部25aの表面が絶縁性の酸化物層60によって覆われているため、コイル導体25と基体10に含まれる金属磁性粒子(例えば、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32)との間でショートが発生しない。また、酸化物層60によってコイル導体25の埋設部25aの表面が覆われており、この酸化物層60によってコイル導体25と基体10を構成する金属磁性粒子との間の隙間が埋められているから、大気や大気中の水分が基体10を通過してコイル導体25に到達することを抑制できる。さらに、この酸化物層60には、金属磁性粒子に含まれる金属元素の酸化物が含まれているため、酸化物層60の比透磁率は、従来の樹脂製の絶縁被膜よりも高い。したがって、コイル部品1においては、酸化物層60により優れた絶縁耐圧及び耐酸化性が提供されるとともに、磁気特性の劣化も抑制されている。
【0068】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、酸化物層60に酸化亜鉛を含有させることにより、酸化物層60を緻密化することができる。これにより、大気や大気中の水分がコイル導体25に到達することをさらに抑制できる。
【0069】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0070】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【符号の説明】
【0071】
1 コイル部品
10 基体
25 コイル導体
25a 埋設部
25b、25c 露出部
31 第1金属磁性粒子
32 第2金属磁性粒子
41、42 酸化被膜
45 バインダー樹脂
50 銅酸化膜
55 空隙
60 酸化物層