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特開2022-101937溶媒移動浮遊帯域溶融法による酸化物単結晶の製造方法及びコバルト酸リチウム単結晶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101937
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】溶媒移動浮遊帯域溶融法による酸化物単結晶の製造方法及びコバルト酸リチウム単結晶
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/22 20060101AFI20220630BHJP
   C30B 13/02 20060101ALI20220630BHJP
   C30B 13/30 20060101ALI20220630BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
C30B29/22 Z
C30B13/02
C30B13/30
C01G51/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216337
(22)【出願日】2020-12-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム、試験研究タイプ、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】田中 功
(72)【発明者】
【氏名】丸山 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】パルヴィン ルマ
(72)【発明者】
【氏名】長尾 雅則
(72)【発明者】
【氏名】綿打 敏司
【テーマコード(参考)】
4G048
4G077
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD07
4G048AE05
4G077AA02
4G077AB09
4G077AB10
4G077BC60
4G077CE01
4G077CE03
4G077EC05
4G077EC08
4G077HA12
4G077NB01
4G077NF01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】直径7mmを超す酸化物単結晶を育成することができる単結晶の製造方法、及び直径10mm以上の大口径のコバルト酸リチウム単結晶を提供する。
【解決手段】溶媒移動浮遊帯域溶融法による酸化物単結晶の製造方法であって、原料棒1と種結晶2との間に、原料棒とは異なる組成の溶媒を含む溶融帯4を形成して、種結晶2上に酸化物単結晶を成長させる工程を含み、酸化物単結晶は少なくとも第1金属元素及び第2金属元素を含み、原料棒1は少なくとも第1金属元素及び第2金属元素を含み、原料棒1中の第1金属元素の含有率は、酸化物単結晶中の第1金属元素の含有率よりも多い、酸化物単結晶の製造方法であり、第1金属元素がアルカリ金属である。また、直径10mm以上、厚み3mm以上である酸化物単結晶であって、酸化物単結晶は、少なくともLi及びCoを含む、酸化物単結晶である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒移動浮遊帯域溶融法による酸化物単結晶の製造方法であって、
原料棒と種結晶との間に、前記原料棒とは異なる組成の溶媒を含む溶融帯を形成して、
前記種結晶上に前記酸化物単結晶を成長させる工程を含み、
前記酸化物単結晶は少なくとも第1金属元素及び第2金属元素を含み、
前記原料棒は少なくとも前記第1金属元素及び前記第2金属元素を含み、
前記原料棒中の前記第1金属元素の含有率は、前記酸化物単結晶中の前記第1金属元素の含有率よりも多い、酸化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記第1金属元素がアルカリ金属である、請求項1に記載の酸化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記酸化物単結晶を構成する酸化物は、分解溶融酸化物である、請求項1又は2に記載の酸化物単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記溶融帯の長さが5mm以上である、請求項1~3のいずれかに記載の酸化物単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒の量が2.0g以上である、請求項1~4のいずれかに記載の酸化物単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒中の前記第1金属元素の含有率は、前記原料中の前記第1金属元素の含有率よりも多い、請求項1~5のいずれかに記載の酸化物単結晶の製造方法。
【請求項7】
直径10mm以上、厚み3mm以上である酸化物単結晶であって、前記酸化物単結晶は、少なくともLi及びCoを含む、酸化物単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒移動浮遊帯域溶融法による酸化物単結晶の製造方法及びコバルト酸リチウム単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、サファイア、ガリウム砒素(砒化ガリウム)、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、四ホウ酸リチウムなどの市場規模の大きな単結晶材料の多くは、坩堝内で溶融させた原料融液に種結晶を接触させ上方に引き上げるチョクラルスキー(Cz)法や原料融液が入った坩堝を低温側に移動させるブリッジマン法といった手法で製造されている。これらの手法の特長は、高品質で大口径の結晶を量産できることにある。その一方、欠点の1つとして、結晶育成に坩堝が必須であることが挙げられる。
【0003】
浮遊帯溶融(Floating Zone:FZ)法は、原料となる多結晶の原料棒の一部を加熱し、種結晶となる単結晶と原料棒との間に溶融帯を作り、その溶融帯を表面張力によって支えながら移動させ、融液部帯を冷却して単結晶を得る方法である。FZ法は、坩堝を用いない製造方法であるため、坩堝からの不純物混入を避けることができ、純度の高い単結晶が得られるという利点を有する。また、溶媒移動浮遊帯域溶融(Traveling Solvent Floating Zone:TSFZ)法は、原料棒の組成とは異なる組成の溶媒を溶融帯部分に用いるFZ法である。
【0004】
一方、次世代リチウムイオン二次電池の正極材基板となるコバルト酸リチウム単結晶ウエハーの製品化に向けて、低コストで直径1/2インチ以上の大口径コバルト酸リチウム単結晶を製造する技術を早急に確立することが求められている。
また、熱電材料として注目されているコバルト酸ナトリウムは、単結晶とした場合に熱電変換特性が向上することが知られており、同様に、その単結晶育成技術の確立が求められている。
【0005】
特許文献1には、化学式ACoO(0<x≦1,A=Li又はNa)で示される化合物のバルク状単結晶であって、単結晶の縦、横、及び高さがそれぞれ少なくとも1mm以上であることを特徴とする単結晶が開示されている。また、特許文献2には、ACoO粉末をその融点以上の温度に加熱して溶融し、その後冷却することを特徴とする、単結晶の縦、横、及び高さがそれぞれ少なくとも1mm以上であり、化学ACoO(0<x≦1,A=Li又はNa)で示される化合物のバルク状単結晶の製造方法が開示されている。
【0006】
また、非特許文献1~3には、TSFZ法により育成されたコバルト酸リチウム等のバルク単結晶、及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-189537号公報
【特許文献2】特開2016-147800号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Nakamura, A. Maljuk, Y. Maruyama, M. Nagao, S. Watauchi, T. Hayashi, Y. Anzai, Y. Furukawa, C. D. Ling, G. Deng, M. Avdeev, B. Buchner, I. Tanaka, "Growth of LiCoO2 Single Crystals by the TSFZ Method", Crystal Growth & Design, 19, 415-420 (2019)
【非特許文献2】田中 功, 「TSFZ 法による全固体リチウムイオン電池材料バルク単結晶の育成」, 日本結晶成長学会誌46(1), 57-1-03-8 (2019)
【非特許文献3】Ruma Parvin, Yuki Maruyama, Masanori Nagao, Satoshi Watauchi, Isao Tanaka, "Effects of the mirror tilt angle on the growth of LiCoO2 single crystals by the traveling solvent floating zone (TSFZ) technique using a tilting-mirror-type image furnace", Crystal Growth & Design, 20(5), 3413-3416 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の単結晶の製造方法では、大口径の酸化物単結晶を製造することができなかった。また、原料を融点以上の温度で溶融する必要があるので、分解溶融することとLiの蒸発が激しいという問題があった。また、非特許文献1~3に開示されたコバルト酸リチウムの単結晶は最大でも直径7mmであり、開示された製造方法で、直径7mmを超す大口径のコバルト酸リチウムの単結晶を製造することはできなかった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来の製造方法では困難であった直径7mmを超す酸化物単結晶を育成することができる単結晶の製造方法、及び直径10mm以上の大口径のコバルト酸リチウム単結晶を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、溶媒移動浮遊帯域溶融法による酸化物単結晶の製造方法であって、
原料棒と種結晶との間に、前記原料棒とは異なる組成の溶媒を含む溶融帯を形成して、
前記種結晶上に前記酸化物単結晶を成長させる工程を含み、
前記酸化物単結晶は少なくとも第1金属元素及び第2金属元素を含み、
前記原料棒は少なくとも前記第1金属元素及び前記第2金属元素を含み、
前記原料棒中の前記第1金属元素の含有率は、前記酸化物単結晶中の前記第1金属元素の含有率よりも多い、酸化物単結晶の製造方法が提供される。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、少なくとも第1金属元素及び第2金属元素を含む酸化物単結晶の、溶媒移動浮遊帯域溶融法による製造方法において、溶媒だけでなく原料棒に含まれる第1金属元素の含有率を、前記酸化物単結晶中の前記第1金属元素の含有率よりも多くすることで、結晶育成中に蒸発する該金属元素を補填することができ、それにより、結晶育成中、高度に安定した溶融帯を維持することができ、大口径かつ品質に優れる酸化物単結晶を得ることができることを見出し本発明の完成に至った。
【0013】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可
能である。
好ましくは、前記第1金属元素がアルカリ金属である。
好ましくは、前記酸化物単結晶を構成する酸化物は、分解溶融酸化物である。
好ましくは、前記溶融帯の長さが5mm以上である。
好ましくは、前記溶媒の量が2.0g以上である。
好ましくは、前記溶媒中の前記第1金属元素の含有率は、前記原料中の前記第1金属元素の含有率よりも多い。
【0014】
本発明の別の観点によれば、直径10mm以上である、厚み3mm以上酸化物単結晶であって、前記酸化物単結晶は、少なくともLi及びCoを含む、酸化物単結晶が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るTSFZ法による結晶育成プロセスの模式図を示す。
図2】本発明の一実施形態に係る傾斜ミラー型装置の模式図を示す。
図3】実験例に係る加熱ランプの写真を示す。
図4】実験例に係る、原料棒中のLi量を変化させ成長させた、直径10mmのコバルト酸リチウム単結晶の写真を示す。
図5】実験例に係る、原料棒中のLi量を変化させ成長させた、直径13mmのコバルト酸リチウム単結晶の写真を示す。
図6】実験例に係る、成長させたコバルト酸リチウム単結晶のSEM写真を示す。
図7】原料棒中の過剰Li量と必要なランプ電力の関係を示す。
図8】原料棒中の過剰Li量、単結晶の直径及び必要なランプ電力の関係を示す。
図9】単結晶の直径及び最適溶媒量の関係を示す。
図10】実験例に係る、直径10mmのLiCoO単結晶育成中の溶融帯の写真を示す。
図11】実験例に係る、集光イメージの模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を例示して本発明について詳細な説明をする。本発明は、これらの記載によりなんら限定されるものではない。以下に示す本発明の実施形態の各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0017】
本発明は、溶媒移動浮遊帯域溶融法による酸化物単結晶の製造方法に関する。TSFZ法は、FZ法の一種であり、原料棒と種結晶との間に、前記原料棒とは異なる組成の溶媒を設置し、溶媒を加熱溶融して溶融帯を形成し、その溶融帯を表面張力によって支えながら原料棒と種結晶に対して相対的に移動させ、目的とする単結晶を種結晶上に成長させる単結晶の製造方法である。以下、本発明に係る溶媒移動浮遊帯域溶融法による酸化物単結晶の製造方法を詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る製造方法の製造対象は、少なくとも第1金属元素及び第2金属元素を含む酸化物の単結晶である。該酸化物は、第1金属元素及び第2金属元素の他に、第1金属元素及び第2金属元素以外の金属元素を含むこともできる。また、酸化物単結晶の原料となる原料棒は、少なくとも第1金属元素及び第2金属元素を含む酸化物である。原料棒は、少なくとも第1金属元素及び第2金属元素を含む酸化物の焼結体とできる。原料棒は、第1金属元素及び第2金属元素の他に、第1金属元素及び第2金属元素以外の金属元素を含むこともできる。また、原料棒中の第1金属元素の含有率は、酸化物単結晶中の前記第1金属元素の含有率よりも多い。従来のTSFZ法では、通常、目的物質の組成の単結晶を得るため、原料棒の組成を製造対象とする酸化物単結晶の組成に合わせる。すなわち、従来は、結晶育成中に原料棒から溶融帯に対して、所望の酸化物単結晶の組成通りの原料が供給され続ける。しかしながら、本発明によれば、原料棒の組成を、製造対象とする酸化物単結晶の組成とは異なる組成とすることにより、すなわち、原料棒に含まれる複数の金属元素のうちの1つの含有率を、所望の酸化物単結晶中の前記第1金属元素の含有率よりも多くすることで、これまでの製造方法では得ることができなかった大口径の酸化物単結晶を得ることができる。大口径の酸化物単結晶を得ることができる理由は、後述の実験例に示すように、原料棒に、第1金属元素を多く含有させることにより、TSFZ法による結晶育成中に蒸発する第1金属元素が補填され、高度に安定した溶融帯を形成することができ、原料棒と育成した単結晶との間の接触の問題が回避されるためと考えられる。
【0019】
原料棒中の第1金属元素の含有率を、酸化物単結晶中の前記第1金属元素の含有率に対し、どの程度過剰とするかは、製造対象とする酸化物の種類や該酸化物に含まれる最も揮発しやすい金属元素の単体や酸化物の蒸発量や育成雰囲気における蒸気圧等に応じて調整することが好ましい。一例として、所望の酸化物単結晶の組成を、化学量論比組成とすることができる。例えば、化学量論比組成である、Li:Co=50:50であるコバルト酸リチウムの単結晶を得ようとする場合、原料棒中のLiの含有量を、所望の酸化物単結晶中のLiの含有量である50mol%に対して、過剰にすることが好ましい。
一例として、本発明の一実施形態に係る製造方法では、原料棒中の第1金属元素の含有率を、酸化物単結晶中の前記第1金属元素の含有率に対し、1mol%以上過剰とすることが好ましく、2mol%以上過剰とすることが好ましく、場合によっては、3mol%以上過剰とすることが好ましい。なお、ここで、酸化物単結晶中の第1金属元素の含有率とは、酸化物単結晶に含まれる第1金属元素、第2金属元素、その他の金属元素の合計を100mol%としたときの、酸化物単結晶に含まれる第1金属元素の含有率(mol%)を示す。また、原料棒中の第1金属元素の含有率とは、原料棒に含まれる第1金属元素、第2金属元素、その他の金属元素の合計を100mol%としたときの、原料棒に含まれる第1金属元素の含有率を示す(mol%)を示す。
【0020】
また、第1金属元素の含有率を、酸化物単結晶中の前記第1金属元素の含有率に対し過剰にし過ぎると、溶融帯からの第1金属元素由来の揮発物が増加し、これらが単結晶育成装置の容器等に析出し、この析出物により加熱ランプからの光線が遮られ、及び/又は、育成中の結晶に異物が混入し、結晶育成の効率や品質に悪影響を及ぼす場合がある。そのため、一例として、酸化物単結晶中の第1金属元素の含有率に対する、前記第1金属元素の過剰含有率の上限は、10mol%以下とすることが好ましく、8mol%以下とすることが好ましく、場合によっては、4mol%以下とすることが好ましい。
製造対象とする酸化物の種類等にもよるが、第1金属元素の含有率は、酸化物単結晶中の前記第1金属元素の含有率に対し、例えば、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10mol%過剰とすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内とできる。
【0021】
本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、第1金属元素及び第2金属元素を含む。ここで、本発明の一実施形態に係る第1金属元素は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属であることが好ましく、アルカリ金属元素であることがより好ましい。本発明の一実施形態に係る第1金属元素は、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baのいずれか1つであることがより好ましく、Li又はNaであることがより好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態に係る第2金属元素としては、遷移金属元素が好ましい。具体的には、Co、Ni、Mn、Fe、Crを挙げることができ、Co、Ni、Mnであることが好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶を構成する酸化物は、分解溶融酸化物であることが好ましい。分解溶融酸化物の例としは,LiVO、LiCoO、NaCoO、LiLa(1-x)/3NbO、La2/3-xLi3xTiOを挙げることができ、この中でも、LiCoO、NaCoO、LiLa(1-x)/3NbO、La2/3-xLi3xTiOが好ましく、LiCoOがより好ましい。
【0024】
本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶を構成する酸化物は、第1金属元素としてLiを含み、第2金属元素としてCoを含む酸化物であることが好ましい。本発明の一実施形態に係る、第1金属元素としてLiを含み、第2金属元素としてCoを含む酸化物は、さらに第3金属元素を含むこともできる。第3金属元素としては、Nb、Ta、Zr又はTiを挙げることができる。
【0025】
本発明の一実施形態に係る製造方法では、原料棒と種結晶との間に適切な長さを有する安定した溶融帯を形成することが重要である。
溶融帯の長さは、目的とする単結晶の直径、及び/又は溶融帯を支える原料棒の直径、及び/又は種結晶の直径等に応じて調整することが好ましい。例えば、製造する酸化物単結晶直径をDmmとしたとき、溶融帯の長さは、0.5Dmm以上とすることができ、0.6Dmm以上とすることがより好ましく、0.7Dmm以上とすることがより好ましい。また、溶融帯は表面張力により維持可能な長さであることが好ましく、溶融帯の長さの上限は、例えば、1.2Dmm以下とすることができ、1.1Dmm以下とすることができ、1.0Dmm以下とすることができる。溶融帯の長さは、例えば、0.5D、0.6D、0.7D、0.8D、0.9D、1.0D、1.1D、1.2Dmmとすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
溶融帯の長さは、一例として、5mm以上であることが好ましく、6mm以上であることがより好ましく、7mm以上であることがさらにより好ましい。溶融帯の長さは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15mmとすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0027】
なお、本発明において、溶融帯の長さとは、溶融帯の鉛直方向の長さ、すなわち、結晶を成長させる方向の長さ、原料棒の長手方向の長さを意味する。溶融帯の長さは結晶成長中の溶融帯付近の様子を写真撮影し、スケールを用いて測定できる。
溶融帯の長さを、目的とする単結晶の直径、及び/又は、溶融帯を支える原料棒の直径、及び/又は、種結晶の直径等に応じて一定の数値範囲とすることで、結晶育成中に、原料棒と種結晶上に育成している単結晶とが接触することをより確実に防ぐことができ、より高度に安定した溶融帯により、より大口径かつ品質に優れる単結晶を得ることができる。
溶融帯の長さは、用いる溶媒の量、溶融帯形成時の加熱手段等を調整することにより制御することができる。
【0028】
TSFZ法に用いる溶媒の量は、目的とする単結晶の直径、及び/又は溶融帯を支える原料棒の直径、及び/又は種結晶の直径、形成しようとする溶融帯の長さ等に応じて調整することが好ましい。溶媒の量は、例えば、製造する酸化物単結晶の直径をDmmとすると、0.020D~0.040Dgであることが好ましく、0.023D~0.031Dgであることがより好ましい。溶媒の量は、0.020D、0.022D、0.024D、0.026D、0.028D、0.030D、0.032D、0.034D、0.036D、0.038D、0.040Dgとすることができ、ここで例示した何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
溶媒の量は、一例として、2.0g以上であることが好ましく、2.5g以上であることがより好ましく、3.0g以上であることがさらにより好ましい。溶媒の量は、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10gとすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
溶媒の量を適切に調整することにより、溶融帯を支える原料棒の直径、及び/又は種結晶の直径、及び/又は目的とする単結晶の直径に応じた適切な長さの溶融帯を形成することができ、より高度に安定した溶融帯を得ることができる。
【0030】
本発明の一実施形態に係る溶媒は、第1金属元素及び第2金属元素を含む酸化物を含む。また、溶媒は、目的とする酸化物単結晶を構成する酸化物の融点よりも低い温度で液相を形成可能な組成であることが好ましい。本発明の一実施形態では、目的とする酸化物単結晶の融点よりも低い温度の溶融帯を形成し、その原料棒側の固液界面付近で原料棒溶融帯に溶解し、同時に溶融帯の種結晶側の固液界面付近で溶融帯から酸化物を析出させ単結晶を製造することができる。
溶媒中の第1金属元素の含有率は、目的とする酸化物単結晶の原料中の第1金属元素の含有率よりも多いことが好ましい。溶媒中の第1金属元素の含有率を、原料中の第1金属元素の含有率に対し、どの程度過剰にするかは、製造対象とする酸化物の種類等に応じて調整することが好ましい。一例として、本発明の一実施形態に係る製造方法では、溶媒中の第1金属元素の含有率を、酸化物単結晶の原料中の第1金属元素の含有率に対し、10mol%以上過剰とすることが好ましく、20mol%以上過剰とすることが好ましく、場合によっては、30mol%以上過剰とすることが好ましい。溶媒中の第1金属元素の含有率の上限は、酸化物単結晶の原料中の第1金属元素の含有率に対し、例えば、15、20、25、30、35、40mol%過剰とすることができ、又は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内とすることもできる。
【0031】
図1に本発明の一実施形態に係るTSFZ法による結晶育成プロセスの模式図を示す。本発明の一実施形態に係るTSFZ法による単結晶製造方法では、原料棒1が、その上部を支持され、設置されている。また、原料棒の長手方向(鉛直方向)の延長線上に、単結晶を成長させる土台となる種結晶2が設置されている。結晶育成プロセス開始前に、原料棒の端部の種結晶側には、溶媒を接着する。原料棒1及び種結晶2を設置した後、加熱手段3によって溶媒を加熱することにより、溶媒が溶解し、さらに溶媒と接触している原料棒の一部が溶解し、溶融帯4が形成される。形成された溶融帯4から種結晶2上に単結晶が析出する。加熱中は、結晶の成長を安定させるために、原料棒と種結晶とを相対的に逆方向に回転させて溶融帯を均一に加熱することが好ましい。
一例として、原料棒の回転速度を7~17rpm、種結晶の回転速度を20~30rpmとすることができる。
【0032】
加熱手段は、光源と集光器を備えていてよい。光源としては、ハロゲンランプ等を用いることができる。集光器としては、楕円面鏡(以下、単にミラーとも称する)等を用いることができる。このような加熱手段は、光源からの光を、集光器により集光して溶媒を溶解することができる。本発明の一実施形態に係る製造方法では、上記ミラーを傾斜させることができる、傾斜ミラー型の単結晶育成装置を用いることが好ましい。図2に、傾斜ミラー型FZ装置の模式図(側面図)を示す。図2に示すように、傾斜ミラー型のFZ装置は、ハロゲンランプの光源と、ミラーの焦点とを結ぶ直線を、水平方向に対し角度α°傾斜させることができる。一例として、傾斜は、光線が下を向く方向(傾斜角度αが上側に形成される方向、図2に矢印で表される方向)とすることができる。
【0033】
本発明の一実施形態に係る製造方法では、ミラー傾斜角αを、2~20°とすることが好ましく、5~15°とすることがより好ましく、7~13°とすることがさらにより好ましい。
ミラーの傾斜角を調整することによって、溶融帯の長さを制御することができ、特には上記数値範囲内にすることによって、大口径の単結晶の育成により適した安定した溶融帯を形成することができる。
【0034】
本発明の一実施形態に係る製造方法では、5mm以上の溶融帯を形成することができる加熱手段を用いることが好ましい。加熱手段により形成される溶融帯の長さは、ランプが有するフィラメントのサイズや形状とも関連する。
一例として、鉛直面内において、ランプの光源とミラーの焦点とを結ぶ直線に対して垂直な方向におけるフィラメントの大きさが4mm以上であるランプを用いることが好ましい。
また、ランプのフィラメントの形状に関し、一例として、フラットタイプ又は円筒タイプのフィラメントのハロゲンランプを用いることができ、円筒タイプのフィラメントのハロゲンランプを用いることが好ましい。
さらに、ランプの光源とミラーの焦点とを結ぶ直線に対して垂直な方向における大きさが4mm以上であり、かつ、円筒タイプのフィラメントのハロゲンランプを用いることがより好ましい。
上記の加熱手段を用いることにより、大口径の単結晶の育成により適した長く安定した溶融帯を形成することができる。
【0035】
結晶育成中の雰囲気は、不活性ガス雰囲気とすることが好ましく、例えば、アルゴン雰囲気とすることができる。圧力は、常圧とすることができ、例えば、不活性ガスを、0.5~5.0L/minの流量で流すことができる。
結晶育成速度は、一例として、1~10mm/hとすることができる。
結晶育成中の溶融帯の温度は、製造対象である酸化物の融点より低く保つことが好ましい。本発明の一実施形態に係る製造方法では、結晶育成中の溶融帯の温度を、目的とする酸化物単結晶を構成する酸化物の融点よりも低くすることが好ましい。一例として、結晶育成中の溶融帯の温度は、1200℃以下とすることができる。
【0036】
本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、直径10mm以上、厚み3mm以上であり、該酸化物単結晶は、少なくともLi及びCoを含む。本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、コバルト酸リチウム単結晶であることが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、コバルト酸リチウムの結晶構造を有することが好ましい。これまでFZ法や、TSFZ法等により、コバルト酸リチウム単結晶の製造が検討されてきたが、従来の方法では、直径7mmを超す単結晶を得ることができなかった。本発明者らは、原料棒の組成を従来のLiCoO組成から変更することにより、既存の方法では達成することができなかった、直径10mm以上、厚み3mm以上の大口径の単結晶の製造に初めて成功した。
本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、上記したTSFZ法による酸化物単結晶の製造方法により得ることができる。
【0037】
本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、円柱形状、又は略円柱形状であり、円柱の厚み(高さ)方向が、結晶の成長方向及び結晶のC軸に垂直な方向に対応することが好ましい。
本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、厚みが3mm以上である。厚みは、例えば、3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100mmとすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0038】
本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、直径が10mm以上であり、11mm以上であることが好ましく、12mm以上であることがより好ましく、13mm以上であることがさらにより好ましい。直径は、例えば、10、11、12、13、14、15mmとすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0039】
本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、異相を有しないことが好ましい。また、本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、表面に金属光沢を有することが好ましく、表面に白色の荒れを有しないことが好ましい。また、本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、その断面に10μm以上のボイドを有しないことが好ましい。異相の存在の有無やボイドの有無は酸化物単結晶の断面をSEMで観察することにより確認することができる。一例として、本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、倍率100倍で、5視野観察し、異相又はボイドがないことが好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態に係る少なくともLi及びCoを含む酸化物単結晶は、X線回折法で、コバルト酸リチウムの結晶構造を有することを確認できる。
一例として、本発明の一実施形態に係るコバルト酸リチウム単結晶は、LiCoO(0<x≦1)で表すことができる。また、一例として、本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、第1金属元素としてのLi、第2金属元素としてのCoの他に、第3金属元素を含むことができる。第3金属元素としては、Nb、Ta、Zr又はTiを挙げることができる。本発明の一実施形態に係る酸化物単結晶は、該酸化物単結晶に含まれる第1金属元素、第2金属元素、その他の金属元素の合計を100mol%としたとき、第3金属元素の含有率を0~10mol%とすることができ、0~5mol%とすることが好ましい。
【0041】
コバルト酸リチウム単結晶は、低コストかつ高効率な次世代リチウムイオン二次電池の正極材基板として有望視されており、直径10mm以上である単結晶育成の成功は、コバルト酸リチウム単結晶を用いた全固体リチウムイオン電池の工業化、普及に資する。
【実験例】
【0042】
<原料棒の調製>
(原料棒F-1の調製)
LiCO(株式会社レアメタリック製、純度99.9%)及びCo(株式会社レアメタリック製、純度99.9%)を、LiCoO組成、すなわち、Li:Co=50:50となるように秤量し混合した。混合粉末を750℃で4時間、空気中で加熱しLiCoOを合成した。合成したLiCoO粉末を、直径10~15mm、長さ60mm程度の円柱状に成形してラバープレス法により300MPaの静水圧中で加圧して原料棒の成形体を作製した。作製した原料棒を1050℃、8時間、酸素中で焼結させ原料棒を得た。
【0043】
(原料棒F-2~4の調製)
原料棒F-1の調製と同様の方法で、LiCoO粉末を合成した。合成したLiCoO粉末に、LiCoO組成に対して、Liの量が2、3、5mol%過剰になるように、LiCOを加え混合した。すなわち、原料の組成においては、Li:Co=50:50であるところ、Li:Co=52:48、53:47、55:45となるように、LiCoO粉末にそれぞれLiCOを加え、混合した。得られた混合粉末を、直径10~15mm、長さ60mm程度の円柱状に成形してラバープレス法により300MPaの静水圧中で加圧して原料棒の成形体を作製した。作製した原料棒を1050℃、8時間、酸素中で焼結させ、Liの量がそれぞれ2、3、5mol%過剰である原料棒F-2、3、4を得た。
【0044】
<溶媒の調製>
上記の原料棒の調製において合成したLiCoO粉末にLiCOを、Li:Co=85:15となるように加え混合した。得られた混合粉末を、直径10~13mmの円柱状に成形して、ラバープレス法により300MPaの静水圧中で加圧成形し、ペレット状に切り出して未焼結で結晶育成に用いた。
【0045】
<種結晶の調製>
種結晶として、直径10mmのLiCoO単結晶を準備した。
【0046】
<酸化物単結晶の製造>
上記で得られた原料棒及び溶媒を用いて、LiCoO単結晶の製造を行った。
結晶の育成を開始する前に、ペレット状に切り出した溶媒を溶解させ、原料棒の先端に取り付けた。単結晶育成には、傾斜ミラー型四楕円赤外線加熱FZ装置(クリスタルシステム製TLFZ-4000-H-VPO)を用いた。育成雰囲気は、アルゴン雰囲気とし、流量1.5L/minでアルゴンガスを流した。育成方位は[001]とし、育成速度は5mm/hとし、上下のシャフト回転速度をそれぞれ反対の方向に、12rpmと25rpmとした。ミラー傾斜角度は10°とした。
結晶育成中の溶融帯の温度は1100℃とした。
【0047】
加熱用ハロゲンランプとして、フラットタイプフィラメントのハロゲンランプ、又は、円筒タイプフィラメントのハロゲンランプを用いた。それぞれのハロゲンランプのフィラメントの形状を図3に示す。a)フラットタイプフィラメントのサイズは、7mm角、厚み3mm(写真中のスケールに直交する方向の大きさ)であった。また、b)円筒タイプフィラメントの大きさは、長さ(写真中のスケールに平行な方向の大きさ)9mm、内径4.5mm、外径(写真中のスケールに直交する方向の大きさ)5.5mmであった。ここで、写真中のスケールに直交する方向の大きさが、ランプの光源とミラーの焦点とを結ぶ直線に対して垂直な方向におけるフィラメントの大きさに相当する。すなわち、ランプの光源とミラーの焦点とを結ぶ直線に対して垂直な方向におけるフィラメントの大きさは、a)フラットタイプフィラメントは3mm、b)円筒タイプフィラメントは5.5mmであった。
【0048】
以下、原料棒中のLi含有量、溶媒の量、ハロゲンランプの種類等を変化させて、LiCoO単結晶の製造を行った。
【0049】
<原料棒中のLi含有量が、TSFZ法による大口径LiCoO単結晶の育成に及ぼす影響>
原料棒中のLiの過剰量は、溶融帯の安定性に影響を及ぼした。原料棒の直径が大きくなるにつれ、結晶成長に必要なランプ電力も大きくなり、溶融帯からのLi蒸発量も増加する。従来の、LiCoO組成と等しい量のLiを含有する10mmの原料棒を用いた成長では、Liが大量に蒸発し、溶融帯が不安定になる場合があり、直径7mmを超す単結晶を育成することができなかった。大口径LiCoO単結晶の育成中の、溶融帯からの過剰なLi蒸発を補填するために、LiCoO組成に対して、Liの量がそれぞれ2、3、5mol%過剰である原料棒F-2、3、4を用いて、結晶成長を行った。
【0050】
図4及び図5は、Liの量がそれぞれ2、3、5mol%過剰である原料棒を用いて、原料棒中のLiの量及び溶媒の量を変化させ成長させた直径10mm及び直径13mmの結晶の写真である。ここでは、円筒タイプフィラメントの加熱ランプを用い、傾斜ミラー型四楕円赤外線加熱FZ装置で、結晶育成を行った。TSFZ法による結晶成長に対する、原料棒中のLi含有量の影響を調べるために、溶媒量等の他の結晶製造条件を一定にし、原料棒中のLi含有量のみを変化させ成長させた、直径10mmの結晶を図4の(a)(b)(c)に、直径13mmの結晶を図5の(a)(b)(c)に示す。図4(c)及び図5(b)に示されるように、直径10mm及び13mmの原料棒に関して、それぞれ2mol%及び3mol%Liを過剰に含有する原料棒を使用した場合、特に外観に優れた、金属光沢を有するLiCoO単結晶が得られた。対照的に、図4(a)及び5(a)に示すように、Li含有量が高い原料棒を使用した場合、表面が粗くなり、白い結晶が表面に現れた。白い結晶が現れる理由は、成長中に結晶表面にLiOが堆積するためと考えられた。さらに、Li含有量が少ない原料棒を使用した場合、LiCoO結晶の成長中に、原料棒と成長した結晶との接触が定期的に頻繁に発生し、溶融帯が不安定になった。その結果、図4(b)及び5(c)に示すように、成長した結晶は表面が荒れ、表面には亀裂が見られた。図6は、成長した結晶の、表面が粗い粗面部の内部、及び金属光沢を有する光沢表面部の内部のSEM画像を示す。粗面部の内部にはボイドや酸化コバルトの異相が多く見られたが、光沢表面部の内部にはボイドや異物がなかった。
【0051】
図7は、原料棒中のLiの過剰量と必要とされるランプ電力の関係を示す。過剰なLiOの堆積と溶融帯の不安定性は、TSFZ成長中のLi蒸発量と関連していた。実験では、ランプ電力が高くなるに連れ、溶融帯からのLiの蒸発が促進され、溶融帯から蒸発したLi成分は、結晶成長領域をとり囲む石英管上に堆積した。LiOが堆積した石英管は、結晶育成中、溶融帯への効率的な熱伝達を妨げた。その結果、原料棒と育成した結晶との間の接触が頻繁に発生し、ランプの電力が増加した。TSFZ法により10mm以上の大口径の結晶を成長させる場合、ランプ電力及び原料棒の過剰Li量の増加に伴い、石英管に堆積するLi成分の量が増加する。したがって、原料棒に、LiCoO組成に対して適度に過剰なLiを含ませることが、LiCoOの大径単結晶の成長を成功させるための重要な因子であり、これにより、TSFZ法による結晶育成中、原料棒と成長した結晶との間の接触の問題を回避可能であることがわかる。
【0052】
図8は、図7のデータに基づく、原料棒中の最適な過剰Li含有量、結晶直径、及び最適な結晶成長に必要なランプ電力の関係を示す。この関係は、原料棒中の最適なLi過剰含有量が、成長した結晶の直径に対して線形であることを示す。さらに、必要なランプ電力は、結晶の直径が大きくなるにつれて大幅に増加した。特に、直径13mmの結晶を育成するために必要なランプ電力は、直径7mmの結晶を育成するために必要なランプ電力の約2倍であった。したがって、LiCoO組成に対し、少量のLiOを添加した原料棒を用いることは、直径が7mmを超える結晶成長における溶融帯の安定に特に効果的である。
【0053】
<溶媒の量が、TSFZ法による大口径LiCoO単結晶の育成に及ぼす影響>
溶媒の量もまた、TSFZ法による大口径LiCoO単結晶育成における、溶融帯の安定性と得られる結晶の品質に影響を及ぼす。図4(c)及び5(b)に示すように、直径10mm及び13mmの結晶成長における、本実験における溶媒の最適量は、それぞれ2.5g及び4.9gであった。図4(d)及び図5(d)に示すように、溶媒の量が最適量より多いと、溶融帯が長くなり、溶融物が滴りやすくなり、結晶表面で溶融物がわずかに固化し、結晶表面が粗くなった。溶媒の最適量と結晶径の関係を図9に示す。溶媒の最適量は、結晶径の2乗と直線的な関係を有する。溶融帯の長さが、ランプフィラメントの形状とサイズに対応している場合、溶融帯の体積は結晶直径の2乗に比例する。よって、この結果は幾何学的観点からの考察と一致する。またこれは、この線形関係から溶媒の量を推定して、より大きな直径のLiCoO単結晶を成長させることができることを意味する。
【0054】
<加熱手段が、TSFZ法による大口径LiCoO単結晶の育成に及ぼす影響>
図10は、傾斜ミラー型のイメージ炉を使用した、直径10mmのLiCoO単結晶のTSFZ育成中の溶融帯の写真を示す。図10の2枚の写真では、加熱ランプとしてそれぞれ異なるフィラメントタイプを用いた。図3(a)に示すフラットタイプフィラメントのランプを用いた場合の溶融帯の写真を図10(a)に、図3(b)に示す円筒タイプフィラメントのランプを用いた場合の溶融帯の写真を図10(b)に示す。フラットタイプフィラメントのランプを用いた場合、溶融帯の長さは6mmであり、原料棒の直径と比較して短くなった。これは、フラットタイプのフィラメントによって形成される加熱領域が小さいためである。結果として、原料棒と成長した結晶との間のギャップが不十分であるため、原料棒と成長した結晶とが、周期的に接触した。一方、図10(b)に示すように、円筒タイプフィラメントのランプを用いた場合の溶融帯の長さは8mmとなり、フラットタイプフィラメントのランプを用いた場合よりも2mm長くなった。結果として、円筒タイプフィラメントのランプを用いた結晶育成では、原料棒と成長した結晶との間のギャップが十分となり、高度に安定した溶融帯を得ることができた。
【0055】
加熱領域は、フィラメントのサイズ及び形状に顕著に関連し、加熱ランプのフィラメントの集束条件は、成長試験中の溶融帯の安定性に関係していることがわかった。
図11に、結晶径10mm、ミラー傾斜角10°のフラットタイプ及び円筒タイプフィラメントランプの模式的な集光イメージを示す。厚さ3mm、幅7mmのフラットタイプフィラメントランプを用いた場合では、外径5.5mm、長さ9mmの円筒タイプフィラメントランプに比べて高集光領域が狭く、短い。狭く、短いサイズの集光システムは、小さな直径の結晶の育成には有効である場合もあると考えられるが、原料棒と成長した結晶との接触が容易に生じ得る。図11の(b)に示すように、円筒タイプフィラメントランプでは、コイル状フィラメント周囲の温度が、中心よりも高いため、円筒タイプフィラメントからの集束光線は、固液界面の近くにも照射された。そのため、円筒タイプフィラメントランプの場合、高集束領域が広く長くなった。円筒タイプフィラメントの効率の高さにより、上記した接触の問題を回避することができる、安定した溶融帯が形成された。
【符号の説明】
【0056】
1 原料棒
2 種結晶
3 加熱手段
4 溶融帯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11