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特開2022-102000吸血昆虫の誘引抑制剤および吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤
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  • 特開-吸血昆虫の誘引抑制剤および吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤 図1
  • 特開-吸血昆虫の誘引抑制剤および吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤 図2
  • 特開-吸血昆虫の誘引抑制剤および吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤 図3
  • 特開-吸血昆虫の誘引抑制剤および吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102000
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】吸血昆虫の誘引抑制剤および吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/047 20060101AFI20220630BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220630BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20220630BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220630BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20220630BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A61K31/047
A61P17/00
A61K8/34
A61Q19/00
A61Q19/10
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216443
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 匡
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4B065AA24X
4B065AA53X
4B065AA99X
4B065BD35
4B065CA43
4C083AC111
4C083BB51
4C083CC03
4C083EE12
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA05
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA89
(57)【要約】
【課題】 吸血昆虫の誘引抑制剤および吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤を提供する。
【解決手段】 エリスリトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする、吸血昆虫の誘引抑制剤ならびに吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤。本発明によれば、皮膚への刺激性や安全性を全く懸念することなく、吸血昆虫の誘引を抑制し、あるいは吸血昆虫誘引菌の数を抑制することができる。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリスリトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする、吸血昆虫の誘引抑制剤。
【請求項2】
エリスリトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする、吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤。
【請求項3】
前記吸血昆虫誘引菌がコリネバクテリウム属細菌またはスタフィロコッカス属細菌である、請求項2に記載の剤。
【請求項4】
前記吸血昆虫が吸血性の蚊である、請求項1~3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
外用剤として用いられることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスリトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする、吸血昆虫の誘引抑制剤および吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
吸血昆虫は、口吻をヒトや動物の皮膚に刺して血液を吸う昆虫をいい、ハエ目(半翅目)やノミ目、咀顎目シラミ亜目、カメムシ目などの昆虫が含まれる。吸血の目的は二つに分けられる。一つは産卵のための栄養を得るためで、吸血するのは成虫のメスだけである。もう一つは自身が生きていくための栄養を得るためのものである。例えば、身近で代表的な吸血昆虫である蚊は、通常の食物は、植物の蜜や果汁などの糖分を含む液体であるが、メスが卵を発達させるタンパク質等の栄養を得るために吸血する。また、サシバエなどの刺咬性ハエ類の成虫は自身の食物として血液を必要とするため雌雄とも毎日吸血する。また、シラミやノミなどは幼虫から成虫まで血液を食物とするため吸血は生涯にわたる。
【0003】
吸血昆虫は、人畜に対して吸血に伴う痛み、痒み、病気の伝搬などさまざまな害を与えるため、重要な害虫となっているものが多い。従来、蚊などの吸血昆虫に刺されないためには、その生息域に身を置く際に、液体やクリーム、ジェルなどの形態の「虫よけ(忌避剤)」を体表や被服に噴霧ないし塗布する方法が一般的である。しかしながら、体に使用する虫よけの多くは、ディート(N,N-diethyl-3-methylbenzamide)という有効成分が含まれている。ディートについては神経毒に関する報告が複数されており、使用濃度によっては安全性への懸念が払拭できない(非特許文献1)。
【0004】
一方、インビトロで培養したヒトの皮膚常在菌のうち、コリネバクテリウム属細菌のCorynebacterium minutissimumやスタフィロコッカス属細菌のStaphylococcus epidermidisによって生成された揮発性物質がメスのマラリア蚊(ガンビエシマダラカAnopheles gambiae)を顕著に誘引することが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】独立行政法人福祉医療機構、資料2-3 国内における副作用等の発生状況、安全性に関する国内外の研究報告等の状況、ディートを含有する医薬品及び医薬部外品における副作用等の報告状況、[online]、[令和2年12月21日検索]、インターネット<URL: https://www.wam.go.jp/wamappl/bb11gs20.nsf/0/9e0455fdf3432f764925773e0001010e/$FILE/20100610_1shiryou2-3.pdf>
【非特許文献2】Niels O. Verhulst et al., Differential Attraction of Malaria Mosquitoes to Volatile Blends Produced by Human Skin Bacteria, PLOS ONE, Vol. 5, Issue 12, December 30, 2010, e15829, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0015829
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、安全性への懸念を生じさせずに、吸血昆虫による害を効果的に抑制できる技術は十分に提供されている状況ではない。本発明は係る課題を解決するためになされたものであって、安全性への懸念を生じさせずに、吸血昆虫の誘引を抑制する技術および吸血昆虫誘引菌の数を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、エリスリトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールがコリネバクテリウム属細菌やスタフィロコッカス属細菌といった吸血昆虫を誘引する微生物の増殖を抑制できること、および、吸血昆虫の皮膚への誘引を抑制できることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)本発明に係る吸血昆虫の誘引抑制剤は、エリスリトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする。
【0009】
(2)本発明に係る吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤は、エリスリトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする。
【0010】
(3)本発明において、吸血昆虫誘引菌は、コリネバクテリウム属細菌またはスタフィロコッカス属細菌であってもよい。
【0011】
(4)本発明において、吸血昆虫は、吸血性の蚊であってもよい。
【0012】
(5)本発明に係る剤は、外用剤として用いられるものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吸血昆虫の皮膚への誘引を抑制することができる。また、本発明によれば、吸血昆虫誘引菌の数を抑制することができる。よって、本発明によれば、吸血に伴う痛みや痒み、あるいは、感染症の発生ないし流行といった吸血昆虫による害の抑制に寄与することができる。
【0014】
また、本発明が有効成分とする糖アルコール(エリスリトール、キシリトールおよびソルビトール)は、食品としても用いられることから明かであるように、ヒトや動物にとって極めて安全な物質である。従って、本発明によれば、皮膚への刺激性や安全性を全く懸念することなく、吸血昆虫の誘引を抑制し、あるいは吸血昆虫誘引菌の数を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】0%、5(w/v)%または10(w/v)%の糖((a)エリスリトール、(b)キシリトール、(c)ソルビトール、(d)スクロース)を含む培地でC. striatumおよびS. epidermidisを培養し、得られた培養液の濁度を示す棒グラフである。
図2】エリスリトールを塗布した前腕(試験区)およびエリスリトールを塗布していない前腕(対照区)のそれぞれにとまった蚊の数(降着数)の経時的変化を示す棒グラフである。
図3】試験区および対照区のそれぞれの前腕において、5分間に吸血した蚊の数(吸血数)を示す棒グラフである。
図4】実施例2と同様の試験(手袋をはめていない場合)の試験風景を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、吸血昆虫の誘引抑制剤および吸血昆虫誘引菌の菌数抑制剤を提供する。本明細書では、これらの剤をまとめて、あるいはいずれかの剤を指して「本発明の剤」あるいは「本剤」という場合がある。
【0017】
本発明において「吸血昆虫」は、吸血性の昆虫をいう。ここで、昆虫は、六脚亜門の昆虫綱(Insecta)に分類される節足動物をいう。また、「吸血性」とは、ヒトや動物の血液を吸う生態をもつことをいう。
【0018】
吸血昆虫にはハエ目(半翅目)やノミ目、咀顎目シラミ亜目、カメムシ目などの昆虫が含まれる。ハエ目としては、蚊(糸角亜目カ科)やブユ(別名;ブヨ、ブト)(長角亜目ブユ科)、アブ(短角亜目アブ科)、ヌカカ(長角亜目ヌカカ科)、サシバエ(イエバエ科)などを、ノミ目としてはケオプスネズミノミ(キジラミ科)やイヌノミ(キジラミ科)、ネコノミ(ヒトノミ科)などを、咀顎目シラミ亜目としてはアタマジラミ(ヒトジラミ科)やコロモジラミ(ヒトジラミ科)、ケジラミ(ケジラミ科)などを、カメムシ目としては、トコジラミ(トコジラミ科)やコウモリトコジラミ(トコジラミ科)、ネッタイトコジラミ(トコジラミ科)などを例示することができる。
【0019】
本剤は、吸血昆虫のうち、特に、吸血性の蚊に対して、好適に用いることができる。吸血性の蚊として、具体的には、例えば、以下を例示することができる。
イエカ属;アカイエカ(Culex pipiens)、チカイエカ(Culex pipiens molestus)、コガタアカイエカ(Culex tritaeniorhyncus GILES)。
ヤブカ属;ヒトスジシマカ(Aedes (Stegomyia) albopictus)。
ハマダラカ属;シナハマダラカ(Anopheles sinensis Wiedemann)、オオツルハマダラカ (Anopheles hyrcanus lesteri Baisus et Hu)、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)。
【0020】
「吸血昆虫誘引菌」とは、吸血昆虫を誘引する物質を代謝により生成するなどして、吸血昆虫を誘引する性質をもつ微生物をいう。吸血昆虫誘引菌として、具体的には、Corynebacterium minutissimum(例えばNBRC 15361株、ATCC 23348)やCorynebacterium xerosis(例えばNBRC 16721株)、Corynebacterium tenuis、Corynebacterium striatum(例えばNBRC 15291株)などのコリネバクテリウム属細菌、Staphylococcus epidermidis(例えばNBRC 12993株、ATCC 12228)やStaphylococcus aureus(例えばNBRC 100910株)、Staphylococcus warneri(例えばNBRC 109769株)、Staphylococcus caprae(例えばNBRC 113845株)、Staphylococcus haemolyticus(例えばNBRC 109768株)、Staphylococcus capitis、Staphylococcus lentus、Staphylococcus gallinarum(例えばNBRC 109767株)、Staphylococcus delphini、Staphylococcus hominis(例えばNBRC 110726株)、Staphylococcus xylosus(例えばNBRC 109770株)、Staphylococcus hyicus、Staphylococcus cohnii(例えばNBRC 109713株)などのスタフィロコッカス属細菌、Micrococcus luteus(例えばNBRC 3333株)などのミクロコッカス属細菌、Brevibacterium epidermidis(例えばNBRC 14811株)などのブレビバクテリウム属細菌などを例示することができる。
【0021】
吸血昆虫誘引菌のうちでも、ヒトや動物にとって特に問題となるのは、皮膚常在菌のような体表に生息しうるものである。体表で吸血昆虫を誘引することとなり、吸血被害を発生させる直接的原因となるからである。この点、ヒトの皮膚細菌叢を調べると、多くの被験者においてスタフィロコッカス属とコリネバクテリウム属とで、皮膚細菌叢の大部分を占めることが報告されている(Chris Callewaert et al., Characterization of Staphylococcus and Corynebacterium Clusters in the Human Axillary Region, PLOS ONE, Vol. 8, Issue 8, August 12, 2013, e70538)。このことから、スタフィロコッカス属およびコリネバクテリウム属は、体表に生息しうる吸血昆虫誘引菌として重要な菌といえる。後述する実施例で示すように、本剤は、これらの菌数を抑制できることから、効果的に吸血昆虫の誘引を抑制することができる。
【0022】
本発明において、「菌数」とは、微生物の個体数を意味する。
【0023】
吸血昆虫誘引菌の菌数が抑制されたか否かは、後述する実施例に示すように、培養試験により判断することができる。すなわち、一方は本剤を添加して、他方はこれを添加せずに、同種の培地を調製する。この両培地に吸血昆虫誘引菌を植菌して所定の期間培養した後、培地の菌量を測定する。菌量の測定は、簡便には濁度法により行うことができるが、培地や培養条件、測定対象の菌種などに応じて、乾燥菌体重量法や湿重量法、リアルタイムPCR法などの公知の手法を適宜選択することができる。その結果、本剤を添加したものの方が、これを添加しないものよりも菌量が小さければ、本剤により吸血昆虫の菌数が抑制されたと判断することができる。
【0024】
「吸血昆虫の誘引を抑制する」とは、対象物に飛来する吸血昆虫の数、あるいは対象物にて吸血する吸血昆虫の数を少なくすることをいう。吸血昆虫の誘引が抑制されたか否かは、後述する実施例に示すように、吸血昆虫の降着数や吸血数を数える試験により判断することができる。すなわち、一方の皮膚には本剤を塗布して、他方の皮膚にはこれを塗布せずに、一定時間、吸血昆虫の群に曝す。その結果、本剤を添加した皮膚の方が、これを塗布しない皮膚よりも降着数や吸血数が少なければ、本剤により吸血昆虫の誘引が抑制されたと判断することができる。
【0025】
エリスリトール(エリトリトール)は、ブドウやナシなどの果実、味噌や醤油、清酒などの発酵食品にも元来含まれている糖アルコールである。化学名は1,2,3,4-Butaneterolで四炭糖の単糖アルコールである。エリスロース(エリトロース)の還元体であるが、工業的には発酵により得られる。
【0026】
ソルビトールは、ナナカマドの実やリンゴ、プルーンなどにも元来含まれている、六炭糖の単糖アルコールであり、グルコースの還元体である。
【0027】
キシリトールは、プラムやイチゴ、カリフラワーなど多くの果実や野菜にも元来含まれている、五炭糖の単糖アルコールであり、キシロースの還元体である。
【0028】
本剤の有効成分の糖アルコールは、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよく、簡便には、市販されているものを用いてもよい。また、糖アルコールは、液体、粉末状、顆粒状などいずれの形態のものも用いることができる。
【0029】
本剤の一実施態様は、後述する実施例で示すように、体表に生息する吸血昆虫誘引菌の菌数を抑制し、これにより体表の細菌叢(フローラ)を変化させて、吸血昆虫を誘引しにくい体表環境にすることにより効果を発揮する。よって、本剤は、体表に作用する使用態様の製剤、すなわち外用剤として用いることができる。
【0030】
本発明の外用剤としては、皮膚に直接塗布や貼付、噴霧等するもの(化粧品、医薬部外品、医薬品)の他、皮膚洗浄料や入浴料などの衛生用品を例示することができる。製品の剤型としては、エアゾール剤、ロールオン、スティック、クリーム、シート剤、ローション、乳液、ジェル、粉剤、錠剤等の形態を例示することができる。本剤が配合された製品は、当該製品に通常用いられる原料(例えば、油、界面活性剤、アルコール、防腐剤、キレート剤、酸化防止剤、増粘剤、香料、殺菌剤等の成分)に糖アルコール(エリスリトール、キシリトールおよび/またはソルビトール)を添加して、製造することができる。
【0031】
糖アルコールの含有量は、製品の形態や用途に応じて適宜設定することができるが、例えば0.01~35質量%、好ましくは0.01~30質量%、より好ましくは0.5~25質量%、さらに好ましくは1~20質量%を例示することができる。
【0032】
本剤の一実施態様においては、体表の細菌叢を変化させた後に吸血昆虫の誘引抑制効果を発揮する。このため、本剤は、吸血昆虫の誘引を抑制したい時に使用するのではなく、それより一定程度前の時間に、あるいは日常的に使用することが好ましい。吸血昆虫の誘引を抑制したい時より前に使用する場合、時間的な目安としては、例えば、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間、26時間、28時間、30時間、32時間、34時間、36時間、38時間、40時間、42時間、44時間、46時間または48時間以上前に使用することが好ましい。
【0033】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0034】
本実施例において、糖は、市販のエリスリトール(製品名:Erythritol、白色粒状)、ソルビトール(製品名:ソルビトールFP、白色粒状)およびキシリトール(製品名:キシリトール、白色粒状)(いずれも製造者は物産フードサイエンス(株))およびスクロース(白色粉末、富士フイルム和光純薬)を用いた。
【0035】
<実施例1>有効成分の検討
(1)菌株
本実施例において、菌株はコリネバクテリウム属細菌Corynebacterium minutissimum NBRC_15361株およびスタフィロコッカス属細菌Staphylococcus epidermidis NBRC_12993株を用いた。C. minutissimumおよびS. epidermidisはいずれも皮膚常在菌であり、その培養物(当該菌により生成された揮発性物質)がマラリア蚊を誘引することが報告されている(非特許文献2)。
【0036】
(2)培地
本実施例において、培地は以下のものを用いた。各試薬の入手元は全て、富士フイルム和光純薬社である。
LB液体培地(ハイポリペプトン:1(w/v)%、イーストエキストラクト:0.5(w/v)%、塩化ナトリウム:1(w/v)%)
802培地(ハイポリペプトン:1(w/v)%、イーストエキストラクト:0.2(w/v)%、硫酸マグネシウム7水和物:0.1(w/v)%、pH7.0)
【0037】
(3)培養
C. minutissimumおよびS. epidermidisをそれぞれLB液体培地に植菌し、30℃で終夜、振盪培養(前培養)して、これを種菌とした。 終濃度で0%、5(w/v)%または10(w/v)%となるよう糖(エリスリトール、キシリトール、ソルビトールまたはスクロース)を添加した802液体培地0.6mLを96穴深型プレートに分注し、3倍希釈した各種菌30μLを植菌し、MBR-034P shaker (Taitec)を用いて30℃、1000回転/分(rpm)で23.5時間振盪培養(本培養)した。
【0038】
本培養の培養液について、濁度法により菌体濃度を測定した。具体的には、まず、96穴平底プレート(4845-96F、ワトソン)に水180μLを分注した。ここに、本培養の培養液20μLを入れ、マイクロプレートリーダー (SpectraMax(登録商標)M2、モレキュラーデバイス)を用いて波長660nmでの透過光強度を検出することにより、濁度(OD660)を測定した。同様の試験を4回行って平均値を算出し、統計的有意差検定を行った。有意差検定は,SPSS@Statistics Version 26.0を用いたTurkey法による多重比較を行い、漸近有意確率p<0.05を有意とした。エリスリトール、キシリトール、ソルビトールおよびスクロースのそれぞれを添加した場合の濁度を図1(a)、(b)、(c)および(d)に示す。
【0039】
図1に示すように、C. minutissimumは、エリスリトールを添加した場合は、5(w/v)%では有意差はないものの、10(w/v)%では有意に、添加しない場合(添加量0%)に比較して濁度が減少した。キシリトールを添加した場合は、5(w/v)%および10(w/v)%のいずれの添加量でも、有意差はないものの濁度が減少した。ソルビトールを添加した場合は、5(w/v)%および10(w/v)%のいずれの添加量でも、濁度に有意な変化が無かった。これに対して、スクロースを添加した場合は、5(w/v)%および10(w/v)%のいずれの添加量でも、添加しない場合に比較して濁度が有意に増加した。すなわち、C. minutissimumはエリスリトールまたはキシリトールにより増殖が抑制されることが明らかになった。
【0040】
また、S. epidermidisは、エリスリトール、キシリトールおよびソルビトールを添加した場合は、5(w/v)%および10(w/v)%のいずれの添加量でも、添加しない場合に比較して濁度が有意に減少した。これに対して、スクロースを添加した場合は、5(w/v)%および10(w/v)%のいずれの添加量でも、添加しない場合に比較して濁度が有意に増加した。すなわち、S. epidermidisはエリスリトール、キシリトールまたはソルビトールにより増殖が抑制されることが明らかになった。
【0041】
これらの結果から、エリスリトール、キシリトールおよびソルビトールはいずれも、蚊を誘引する皮膚常在菌の増殖を抑制できることが明らかになった。
【0042】
<実施例2>吸血昆虫の誘引抑制効果の検討
エリスリトール、水およびエタノールを、最終濃度が、エリスリトール15(w/w)%、水35(w/w)%、エタノール50(w/w)%となるよう混合し、これを試験品とした。また、水およびエタノールを、最終濃度が水50(w/w)%、エタノール50(w/w)%となるよう混合し、これを対照品とした。
【0043】
両方の手にビニル手袋をはめ、試験品1mLをピペットに採り、左腕の手首から肘の前腕部分に垂らし右腕でむらなく伸ばして塗布して、これを試験区とした。同様に、右腕に対照品を塗布し、これを対照区とした。塗布から24時間後に両前腕をそれぞれ、ヒトスジシマカ (Aedes albopictus) のメス成虫20頭が入った袖付きアクリル製容器(300mm×300mm×300mm)内に挿入し、5分間置いた(室温21℃、相対湿度59%)。その間、30秒ごとに前腕にとまった蚊の数を記録し、これを降着数とした。また、当該5分間に吸血した蚊の数を記録し、これを吸血数とした。降着数を図2に、吸血数を図3に、それぞれ示す。また、参照までに、手袋をはめていない場合の試験風景を図4に示す。
【0044】
図2に示すように、試験中のいずれの時点においても、試験区の降着数は、対照区と比較して少なかった。また、図3に示すように、吸血数も試験区の方が対照区と比較して少なかった。これらの結果から、エリスリトールは、吸血昆虫の誘引を抑制できることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4