(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102096
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】構造最適化装置、構造最適化方法、及び、構造最適化プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20220630BHJP
【FI】
G06F17/50 604A
G06F17/50 604H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216627
(22)【出願日】2020-12-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「革新的新構造材料等研究開発、マルチマテリアル車体軽量化に関わる革新的設計技術の開発、トポロジー最適化システムの構築、マルチマテリアル界面評価・モデル化、車体構造適用可能性検討」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】古田 幸三
(72)【発明者】
【氏名】西脇 眞二
(72)【発明者】
【氏名】林 聖勲
(72)【発明者】
【氏名】泉井 一浩
【テーマコード(参考)】
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
5B046FA06
5B046GA01
5B046HA05
5B046JA01
5B046KA05
5B146DC01
5B146DC05
5B146DG02
5B146DL08
5B146EA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化において効率的に最適構造を提供する。
【解決手段】構造最適化装置100において、構造物の設計領域Dを示す設計領域データを取得する設計領域データ取得部1と、初期構造が設定された設計領域Dにおいて、複数材料それぞれについて物体領域Ω又は空洞領域D\Ωであるかを表す複数のレベルセット関数φ
kを取得するレベルセット関数取得部2と、所定の制約条件下において、設計変数である複数のレベルセット関数φ
kそれぞれの設計感度DL
(k)に基づいて、構造物の性能を目標値に近づけるようにレベルセット関数φ
kを更新して、設計領域Dにおける複数材料の分布を変化させるレベルセット関数更新部5とを備える。レベルセット関数更新部5は、材料間の境界及びその所定の近傍において設計感度DL
(k)を補正し、補正した設計感度DL
(k)
newに基づいて、レベルセット関数φ
kを更新する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化を行う構造最適化装置であって、
構造物の設計領域を示す設計領域データを取得する設計領域データ取得部と、
初期構造が設定された設計領域において、前記複数材料それぞれについて物体領域又は空洞領域であるかを表す複数のレベルセット関数を取得するレベルセット関数取得部と、
所定の制約条件下において、設計変数である前記複数のレベルセット関数それぞれの設計感度に基づいて、前記構造物の性能を目標値に近づけるように前記レベルセット関数を更新して、前記設計領域における前記複数材料の分布を変化させるレベルセット関数更新部とを備え、
前記レベルセット関数更新部は、材料間の境界及びその所定の近傍において前記設計感度を補正し、当該補正した設計感度に基づいて、前記レベルセット関数する、構造最適化装置。
【請求項2】
前記レベルセット関数更新部は、材料間の境界及びその所定の近傍において剛性が小さくなるように前記設計感度を補正する、請求項1に記載の構造最適化装置。
【請求項3】
前記レベルセット関数更新部は、材料間の境界及びその所定の近傍におけるひずみエネルギーの制約条件に基づいて、前記設計感度を補正する、請求項1又は2に記載の構造最適化装置。
【請求項4】
前記レベルセット関数更新部は、前記設計感度に所定の補正係数を加算することにより前記設計感度を補正するものであり、
前記補正係数は、ひずみエネルギーの制約条件に対してラグランジュの未定乗数法を用いることにより更新される、請求項3に記載の構造最適化装置。
【請求項5】
前記ひずみエネルギーの制約条件は、材料間の接合態様に基づいて決定される、請求項3又は4に記載の構造最適化装置。
【請求項6】
前記ひずみエネルギーの制約条件は、材料間の接着剤の種類、接合形状、接合される材料の種類又は接合の種類の少なくとも1つに基づいて決定される、請求項5に記載の構造最適化装置。
【請求項7】
複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化を行う構造最適化方法であって、
構造物の設計領域を定める設計領域設定ステップと、
初期構造が設定された設計領域における前記複数材料の分布を表現するために用いられ、前記複数材料それぞれについて物体領域又は空洞領域であるかを表す複数のレベルセット関数を定めるレベルセット関数設定ステップと、
所定の制約条件下において、設計変数である前記複数のレベルセット関数それぞれの設計感度に基づいて、前記構造物の性能を目標値に近づけるように前記レベルセット関数それぞれを更新して、前記設計領域における前記複数材料の分布を変化させるレベルセット関数更新ステップとを備え、
前記レベルセット関数更新ステップは、材料間の境界及びその所定の近傍において前記設計感度を補正し、当該補正した設計感度に基づいて、前記レベルセット関数を更新する、構造最適化方法。
【請求項8】
複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化を行う構造最適化プログラムであって、
構造物の設計領域を示す設計領域データを取得する設計領域データ取得部と、
初期構造が設定された設計領域において、前記複数材料それぞれについて物体領域又は空洞領域であるかを表す複数のレベルセット関数を取得するレベルセット関数取得部と、
所定の制約条件下において、設計変数である前記複数のレベルセット関数それぞれの設計感度に基づいて、前記構造物の性能を目標値に近づけるように前記レベルセット関数を更新して、前記設計領域における前記複数材料の分布を変化させるレベルセット関数更新部と、としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、
前記レベルセット関数更新部は、材料間の境界及びその所定の近傍において前記設計感度を補正し、当該補正した設計感度に基づいて、前記レベルセット関数を更新する、構造最適化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造最適化装置、構造最適化方法、及び、構造最適化プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造最適化の手法の1つとしてトポロジー最適化がある。このトポロジー最適化は、最適設計問題を材料分布問題に置き換えて解くことにより、最適構造の形態変更を可能とし、構造の大幅な性能向上が期待できる。
【0003】
近年では、このトポロジー最適化を、単一材料の構造物に対する構造最適化に適用するだけでなく、複数材料の構造物に対する構造最適化に適用する試みがなされている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】岸本直樹、外5名、「レベルセット法に基づく複数材料を対象としたトポロジー最適化」、日本機械学会論文集、Vol.83、No.849、2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の複数材料を対象としたトポロジー最適化では、材料界面を完全剛結と仮定して定式化及び最適化計算を行っており、材料界面の接着等の接合態様を考慮していない。ところが、実際の構造物においては接着剤の影響で巨視的に見ると構造物の変位又は応力が不連続になる。
【0006】
ここで、材料界面の接着剤も考慮したモデルに対してトポロジー最適化を行うことが考えられるが、モデルに対して接着層は非常に薄くなり、それを考慮して最適化計算を行うのは非常に計算コストがかかってしまう。具体的には、接着剤を考慮することより要素数(メッシュ数)が増えてしまい、計算時間が増加してしまう。また、接着剤の配置によってリメッシュが必要となり、計算コストが増大してしまう。
【0007】
そこで本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化において、材料界面の接着等の接合態様を考慮しつつ、効率的に最適構造を得ることをその主たる課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る構造最適化装置は、複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化を行う構造最適化装置であって、構造物の設計領域を示す設計領域データを取得する設計領域データ取得部と、初期構造が設定された設計領域において、前記複数材料それぞれについて物体領域又は空洞領域であるかを表す複数のレベルセット関数を取得するレベルセット関数取得部と、所定の制約条件下において、設計変数である前記複数のレベルセット関数それぞれの設計感度に基づいて、前記構造物の性能を目標値に近づけるように前記レベルセット関数を更新して、前記設計領域における前記複数材料の分布を変化させるレベルセット関数更新部とを備え、前記レベルセット関数更新部は、材料間の境界及びその所定の近傍において前記設計感度を補正し、当該補正した設計感度に基づいて、前記レベルセット関数を更新することを特徴とする。ここで、複数のレベルセット関数それぞれの設計感度は、目的関数の各レベルセット関数に関する設計感度であり、物体領域において、孔が開いた場合、又は、異なる材料に置き換わった場合の目的関数の変化率により定義される。
【0009】
この構造最適化装置によれば、レベルセット関数更新部が、材料間の境界及びその所定の近傍において、設計変数であるレベルセット関数の設計感度を補正し、当該補正した設計感度に基づいて、レベルセット関数を更新するので、材料界面の接着等の接合態様を考慮しつつ効率的に最適構造を得ることができる。
【0010】
本発明の基本的なコンセプトとしては、材料界面が、剛性が小さくなる箇所に配置されないような構造を創出することである。このため、前記レベルセット関数更新部は、材料間の境界及びその所定の近傍において剛性が小さくなるように前記設計感度を補正することが望ましい。
【0011】
例えば、前記レベルセット関数更新部は、材料間の境界及びその所定の近傍におけるひずみエネルギーの制約条件に基づいて、前記設計感度を補正することが考えられる。具体的に前記レベルセット関数更新部は、前記設計感度に所定の補正係数を加算することにより前記設計感度を補正するものであり、前記補正係数は、ひずみエネルギーの制約条件に対してラグランジュの未定乗数法を用いることにより更新されることが考えられる。また、前記ひずみエネルギーの制約条件は、材料間の接合態様に基づいて決定され、具体的には、材料間の接着剤の種類、接合形状、接合される材料の種類又は接合の種類の少なくとも1つに基づいて決定される。
【0012】
また、本発明に係る構造最適化方法は、複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化を行う構造最適化方法であって、構造物の設計領域を定める設計領域設定ステップと、初期構造が設定された設計領域において、前記複数材料それぞれについて物体領域又は空洞領域であるかを表す複数のレベルセット関数を定めるレベルセット関数設定ステップと、所定の制約条件下において、設計変数である前記複数のレベルセット関数それぞれの設計感度に基づいて、前記構造物の性能を目標値に近づけるように前記レベルセット関数を更新して、前記設計領域における前記複数材料の分布を変化させるレベルセット関数更新ステップとを備え、前記レベルセット関数更新ステップは、材料間の境界及びその所定の近傍において前記設計感度を補正し、当該補正した設計感度に基づいて、前記レベルセット関数を更新することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る構造最適化プログラムは、複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化を行う構造最適化プログラムであって、構造物の設計領域を示す設計領域データを取得する設計領域データ取得部と、初期構造が設定された設計領域において、前記複数材料それぞれについて物体領域又は空洞領域であるかを表す複数のレベルセット関数を取得するレベルセット関数取得部と、所定の制約条件下において、設計変数である前記複数のレベルセット関数それぞれの設計感度に基づいて、前記構造物の性能を目標値に近づけるように前記レベルセット関数を更新して、前記設計領域における前記複数材料の分布を変化させるレベルセット関数更新部と、としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、前記レベルセット関数更新部は、材料間の境界及びその所定の近傍において前記設計感度を補正し、当該補正した設計感度に基づいて、前記レベルセット関数を更新することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このように構成した本発明によれば、複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化において材料界面の接着等の接合態様を考慮しつつ効率的に最適構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の構造物の構造最適化装置の機器構成図である。
【
図2】同実施形態の構造物の構造最適化装置の機能ブロック図である。
【
図3】同実施形態のMMLS(Multi-Material Level set)法の基本的な考え方を示す模式図である。
【
図4】同実施形態の最適化アルゴリズムを示すフローチャートである。
【
図5】従来例及び本実施例の数値計算例における設計領域と境界条件を示す図である。
【
図6】従来例及び本実施例の数値計算例における最適構造を示す図である。
【
図7】従来例及び本実施例の数値計算例における目的関数値履歴及びひずみエネルギー値履歴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、
図1は本実施形態の構造最適化装置100の機器構成図であり、
図2は構造最適化装置100の機能構成図である。
【0017】
<装置構成>
本実施形態に係る構造最適化装置100は、複数材料から構成される構造物のトポロジー最適化を行うものであり、
図1に示すように、CPU101に加えて揮発メモリやHDD等の記憶装置102を備え、さらにマウスやキーボード等の入力手段103、演算結果を出力するためのディスプレイやプリンタ等からなる出力手段105を接続するための入出力インターフェイス104等を有した汎用又は専用のコンピュータである。
【0018】
そして、所定のプログラムを記憶装置102にインストールし、そのプログラムに基づいてCPU101や周辺機器を協働させることにより、この構造最適化装置100は、
図2の機能ブロック図に示すように、設計領域データ取得部1、レベルセット関数取得部2、境界条件データ取得部3、解析データ取得部4、レベルセット関数更新部5、演算結果出力部6等としての機能を発揮する。
【0019】
以下、各部1~6について説明する。
【0020】
設計領域データ取得部1は、構造物の設計領域D(当該設計領域を要素分割する構造格子(メッシュ)情報を含む。)を示す設計領域データを取得するものである。この設計領域データ取得部1により取得された設計領域データは、記憶装置102に設定されたデータ格納部(不図示)に格納される。なお、設計領域データは、例えばユーザが入力手段103を用いることにより入力される。
【0021】
レベルセット関数取得部2は、初期構造などの設計領域D内にある構造を特定するためのレベルセット関数φを示すレベルセット関数データを取得するものである。レベルセット関数φとは、初期構造が設定された設計領域Dの各部が、構造を形成し、物体により占められた物体領域Ω(物体相)、空洞を形成する空洞領域D\Ω(空洞相)、又はそれら領域の境界∂Ωであるかを示すものであり、物体領域Ωを表す値及び空洞領域D\Ωを表す値の間の所定値が、物体領域Ω及び空洞領域D\Ωの境界∂Ωを表す。このレベルセット関数取得部2により取得されたレベルセット関数データは、記憶装置102に設定されたデータ格納部(不図示)に格納される。なお、レベルセット関数データは、例えばユーザが入力手段103を用いることにより入力される。
【0022】
具体的にレベルセット関数φは次式により表現することができる。
【0023】
【0024】
すなわち、本実施形態のレベルセット関数φは、その値が正であれば物体領域Ωを、負であれば空洞領域D\Ωを表し、0であれば境界∂Ωを表すことになる。
【0025】
また、レベルセット関数取得部2は、複数材料それぞれについて物体領域Ω、空洞領域D\Ω又はそれらの境界の領域∂Ωであるかを表す複数のレベルセット関数φを取得する。これらの複数のレベルセット関数φは、初期構造が設定された設計領域Dにおける複数材料の分布を表現するために用いられる。
【0026】
境界条件データ取得部3は、前記設計領域D(以下、固定設計領域Dともいう。)の境界条件を示す境界条件データを取得するものである。具体的な境界条件としては、例えば設計領域Dの拘束条件、初期構造に作用する荷重等の外力(表面力)などである。この境界条件データ取得部3により取得された境界条件データは、記憶装置102に設定されたデータ格納部(不図示)に格納される。なお、境界条件データは、例えばユーザが入力手段103を用いることにより入力される。
【0027】
解析データ取得部4は、最適構造を求めるときに用いる体積制約に必要な制約の条件値及び変位場の解析に必要なヤング率やポアソン比の値等の材料定数である解析データを取得するものである。この解析データ取得部4により取得された解析データは、記憶装置102に設定されたデータ格納部(不図示)に格納される。なお、解析データは、例えばユーザが入力手段103を用いることにより入力される。
【0028】
レベルセット関数更新部5は、所定の制約条件下において、剛性、固有振動数等の構造物の性能を目標値に近づけるように設計変数である複数のレベルセット関数φを更新して、設計領域Dにおける複数材料の分布を変化させるものである。
【0029】
具体的にレベルセット関数更新部5は、物体領域Ωと空洞領域D\Ωとの境界∂Ωを移動させるとともに、複数のレベルセット関数φの更新に伴う物体領域Ω内のトポロジー変化(形態変化)を許容して物体領域Ω内に新たな空洞領域D\Ω(穴)を形成し、その新たな空洞領域D\Ωと物体領域Ωとの境界∂Ωを移動させることによって、設計領域Dにおける複数材料の分布を変化させる。
【0030】
具体的にレベルセット関数更新部5は、レベルセット関数φを変数とする関数族、物体領域Ωにおける自由エネルギー密度、空洞領域D\Ωにおける自由エネルギー密度、及び境界エネルギー密度により示されるエネルギー汎関数を、エネルギー汎関数最小化原理に従って、複数のレベルセット関数φの時間発展を示す反応拡散方程式を算出し、当該反応拡散方程式を用いて複数のレベルセット関数φを時間発展させることにより、複数のレベルセット関数φを更新する。なお、レベルセット関数更新部5の具体的な機能については後述する。
【0031】
演算結果出力部6は、レベルセット関数更新部5により更新されたレベルセット関数φの演算結果、つまり最適構造の形状を出力するもので、この実施形態ではディスプレイ104に表示する。
【0032】
<構造最適化装置100の動作>
次にこのように構成した構造最適化装置100の動作について説明する。
【0033】
まず、レベルセット法に基づく複数材料の形状表現について説明する。なお、以下ではM種類の材料を用いた場合を例示する。
【0034】
本実施形態では、MMLS(Multi-Material Level set)法を用いており、M個のレベルセット関数φを用いて、M+1個の材料分布(空洞を含む)を表現している。具体的にMMLS法では、M個のレベルセット関数{φk
M}1≦k≦Mを導入し、次式により各材料の分布を表現する。
【0035】
【0036】
ここで、関数ψk
Mが1を取る領域が、k番目の材料に占められている領域に対応する。また、χ(φk(x))は、次式で定義される特性関数である。
【0037】
【0038】
図3に示すように、材料1のレベルセット関数φ
1の正負により、物体領域(材料の種類は問わない)又は空洞領域かを識別する。次に材料2のレベルセット関数φ
2の正負により、物体領域(φ
1≧0)において、材料1又はそれ以外の材料かを識別する。次に、材料3のレベルセット関数φ
3の正負により、材料1以外の物体領域において、材料2又はそれ以外の材料かを識別する。材料4のレベルセット関数φ
4の正負により、材料1、2以外の物体領域において、材料3又はそれ以外の材料かを識別する。以下、同様にして、材料Mのレベルセット関数φ
Mの正負により、材料1~M-2以外の物体領域において、材料M-1又は材料Mかを識別する。
【0039】
上記のMMLS法による形状表現を用いることによって、複数材料の体積制約付きトポロジー最適化問題は次のように定式化できる。
【0040】
【0041】
ここで、fγ(x)、fω(x)は、目的汎関数の被積分関数であり、Vkは、k番目の材料の体積の制約値である。
【0042】
本実施形態では、レベルセット法による形状表現を用いていることから、次に示すように、各レベルセット関数の勾配によって表現される項を目的汎関数に加えることで正則化を行っている。
【0043】
【0044】
ここで、τk>0は正則化係数と呼ばれるパラメータであり、単一材料の場合は、正則化係数を変化させることにより、得られる最適構造の幾何学的複雑性を定性的に制御可能である。複数材料の場合は、正則化係数を変化させることにより、最適構造の幾何学的複雑性だけでなく、材料分布の複雑性も定性的に制御可能である。また、正則化項の影響を境界近傍のみに作用させるために、レベルセット関数の上限値と下限値をそれぞれ1と-1に設定している。なお、このような制約を導入しても形状表現には何ら制約を与えない。
【0045】
<反応拡散方程式>
次にレベルセット関数φの更新方法について説明する。
制約付き最適化問題を無制約問題に置き換えると次式となる。
【0046】
【0047】
ここで、Lは拡張目的汎関数、λkは(式2)に対するラグランジュ乗数である。本実施形態では、上記の(式3)を解くことにより、最適構造を得る。しかしながら、Lが最小となる複数のレベルセット関数φkを直接求めることは困難なため、最適化問題を時間発展方程式を解く問題に置き換える。すなわち、仮想的な時間tを導入し、適当な初期値を与えて、複数のレベルセット関数φkを時間発展させることにより、最適設計解の候補を得る。ここで、複数のレベルセット関数φkを変動させる駆動力は次式に示すように、トポロジー導関数に比例すると仮定する。
【0048】
【0049】
ここで、DLの括弧付き上付き数字(k)は、後述のk番目のレベルセット関数値に対するトポロジー導関数つまり、設計感度である。境界条件は、固定設計領域外部からの影響が無いことを表現するために、流入流出がゼロのノイマン境界条件又はディリクレ境界条件を与える。上式に(式3)を代入し、境界条件を設定すれば、次式が得られる。
【0050】
【0051】
ここで、gkは、k番目のレベルセット関数φkに対する目的汎関数の体積制約に関する感度である。また、∂ΓD1、∂ΓD2、∂ΓDNは、固定設計領域Dの境界であり、nDは、固定設計領域Dの境界の単位法線ベクトルである。境界条件は、固定設計領域の外側が物体領域となるのか(物体領域としたら、どの材料を使用するのか)、空洞領域となるのか、いずれも許容しうるのかを考慮し、各レベルセット関数φkに対して適切に設定する必要がある。そして、上記の(式4)を解くことにより、最適設計解の候補を得る。なお、ラグランジュ乗数は、例えば拡張ラグランジュ法により更新する。
【0052】
複数材料での設計感度は、物体領域Ωにおいて、微小領域Ωεに孔が開いた場合、又は、微小領域Ωεが異なる材料に置き換わった場合の拡張目的汎関数の変化率と定義する。ここでは、微小領域Ωεを占める材料がpからqへと変化した場合の設計感度をDLp→qと表記し、次の式で表す。なお、Ωεは、半径εの円とする。
【0053】
【0054】
上式のδφkは、微小領域Ωεを占める材料がpからqへと変化した場合に対応するk番目のレベルセット関数φkの変化を表し、δLp→qは、そのときの拡張目的汎関数の変動である。
【0055】
そして、M種類の材料を使用する場合の設計感度を以下に示す。各材料分布は、(式1)によって表現されるものとし、上付き添え字が0は空洞を意味するものとする。
【0056】
【0057】
さらに、本実施形態では、材料間の境界及びその所定の近傍において設計感度DL(k)を補正し、当該補正した設計感度DL(k)
newに基づいて、複数のレベルセット関数φkそれぞれを更新する。ここで、設計感度DL(k)を補正する所定の近傍は、ユーザにより適宜設定することができる領域であり、例えば、ディラックのデルタ関数を用いる方法が考えられる。具体的には、以下のようにして境界の近傍を設定する。
【0058】
【数11】
材料の有無を決定するφ
1が正であり、且つ、レベルセット関数φ
kの値が1より小さい値δをとる領域を境界の近傍とする。δを例えば0.125とすることが考えられる。
【0059】
そして、レベルセット関数更新部5は、材料間の境界及びその所定の近傍において剛性が小さくなるように設計感度DL(k)を補正するものであり、次式のように設計感度DL(k)を補正する。
【0060】
【0061】
ここで、補正係数αpは、材料間の境界及びその所定の近傍において材料間の接合態様に応じて設定されるものであり、例えば、材料間の境界及びその所定の近傍において材料間を接着する接着剤に応じて設定することができる。
【0062】
<補正係数αpの決定方法>
具体的に補正係数αpは、以下の(式5)により表現される材料界面付近におけるひずみエネルギーの制約条件に基づいて、以下の(式6)により求められる。
【0063】
【数13】
ここで、E
-
around(上付き添字の-は平均を表す。)は、材料間の接合態様(例えば接着剤の種類、接合形状、接合される材料の種類、溶接、圧接又はろう接といった接合の種類など)に応じて設定される。E
-
aroundは、材料界面付近以外のエネルギーに対して例えば70%等に設定され、例えばユーザが入力手段103を用いることにより入力される。
【0064】
そして、補正係数αpは、ラグランジュの未定乗数法をもとに更新する。(式5)の不等式を満たしていない場合は、その(i+1)番目のイタレーションでのαpを、次式の(式6)により、i番目のイタレーションでのαpにより更新する。不等式を満たしている場合は、(i+1)番目では、αp
(i+1)=0を取るようにする。
【0065】
【数14】
補正係数α
pが正の場合は、そこではひずみエネルギーが高いということで、設計感度はそのエネルギーを下げる方向の値を持つ。つまり、材料界面がそこに分布しないような構造が得られる。
【0066】
<構造最適化アルゴリズム>
本実施形態の構造最適化装置100の構造最適化アルゴリズムについて
図4を参照して説明する。
まず、設計領域データ、レベルセット関数データ、境界条件データ及び解析データを入力すべく入力手段103をユーザが操作する。ここで、ユーザにより入力されるレベルセット関数データは、初期構造を示す初期の複数のレベルセット関数を示すデータである。
【0067】
このようにして入力された各データをデータ受付部(図示しない)が受け付け、設計領域データを設計領域データ取得部1が取得し、複数のレベルセット関数φkをレベルセット関数取得部2が取得し、境界条件データを境界条件データ取得部3が取得しに、解析データを解析データ取得部4が取得し、データ格納部に格納する(ステップS1)。
【0068】
次に、レベルセット関数更新部5が、有限要素法を用いて状態場及び随伴場を解析する。このとき、レベルセット関数更新部5は、複数のレベルセット関数φkに対応する目的汎関数(構成、固有振動数等の構造物の性能を目標値に近づけるための汎関数)を有限要素法を用いて計算する(ステップS2)。
【0069】
そして、レベルセット関数更新部5は、目的汎関数値が収束したか否かを判断し(ステップS3)、収束したならば、最適解が得られたと判断して最適化を終了し、その時の複数のレベルセット関数φkを演算結果出力部6に出力する。一方、収束しない場合には、解析した随伴場をもとに設計感度を計算する。そして、計算した設計感度を(式4)に代入して、複数のレベルセット関数を更新して(ステップS4)。ステップS2に戻る。
【0070】
<剛性最大化問題を対象とした複数材料のトポロジー最適化>
等方線形弾性体で構成される物体領域において、静弾性問題について考える。物体領域Ωの境界Γは、変位uiが規定された境界Γuと、表面力tiが規定された境界Γtにより構成されているものとする。このとき、体積制約付き剛性最大化問題のトポロジー最適化は次のように定式化される。
【0071】
【0072】
ここで、繰り返し用いられる下付き添字は総和規約に従い、カンマの後の添字はその座標成分による偏微分を表すものとする。また、Cijklは、各材料の弾性定数テンソルCk
ijklを用いて定義されるものであり、複数材料の弾性定数テンソルである。
【0073】
【0074】
さらに、uiは変位、ti=σijnjは表面力であり、uiとtiは既知関数であることを表す。Γpqは材料pと材料qの境界であり、変位の連続性と応力の連続性が成り立つことに注意する。
【0075】
<数値計算例>
次に、本実施形態の構造最適化装置100を用いて、設計感度DL(k)を補正した場合と、設計感度DL(k)を補正しない場合との最適構造を検討する。
【0076】
図5に固定設計領域Dと境界条件を示す。固定設計領域Dは2m×1mの長方形領域とし、境界条件は、左端の面で完全変位拘束、右端中央部において鉛直方向下向きに境界荷重10MPaを作用させる。解析モデルの材料は、等方線形弾性体材料を想定する。材料は2種類(鋼、アルミニウム)とした。ポアソン比は何れの材料も0.31と設定し、体積制約は固定設計領域の40%を上限する。材料毎の体積制約はそれぞれ20%を上限とした。またレベルセット関数を定義する有限要素は、要素長0.01mの四角形一次要素の構造格子である。なお、解析は平面応力状態で行った。
【0077】
従来例(設計感度DL
(k)を補正しない場合)の結果を
図6(a)に、本実施例(設計感度DL
(k)を補正した場合)の結果を
図6(b)に示す。本実施例では、
図7に示すように、目的関数値を従来法に対して変えることなく、材料界面付近でのひずみエネルギーを抑えることができている。なお、
図7において<目標関数値履歴>は、縦軸を目標関数値、横軸を計算回数とするグラフであり、<境界付近のひずみエネルギー値履歴>は、縦軸を境界付近のひずみエネルギー値、横軸を計算回数とするグラフである。また、
図7の右側の表は、従来例及び本実施例それぞれにおける目標関数値の収束値及び境界付近のひずみエネルギー値の収束値を示すものである。
【0078】
<本実施形態の効果>
このように構成した構造最適化装置100によれば、レベルセット関数更新部5が、材料間の境界及びその所定の近傍において、設計変数であるレベルセット関数φkの設計感度DL(k)を補正し、当該補正した設計感度DL(k)に基づいて、レベルセット関数φkを更新するので、材料界面の接着等の接合態様を考慮しつつ効率的に最適構造を得ることができる。
【0079】
<本発明の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0080】
例えば、前記実施形態の構造最適化装置は、剛性最大化問題に適用したものであったが、その他、熱拡散最大化問題に適用したものであったが、その他固有振動数最大化問題など、種々の構造問題に適用することができる。
【0081】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0082】
100・・・構造最適化装置
D・・・設計領域
Ω・・・物体領域
D\Ω・・・空洞領域
∂Ω・・・境界領域
DL(k)・・・設計感度
1・・・設計領域データ取得部
2・・・レベルセット関数取得部
5・・・レベルセット関数更新部