(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102098
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】地盤注入材
(51)【国際特許分類】
C09K 17/12 20060101AFI20220630BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20220630BHJP
C09K 17/40 20060101ALI20220630BHJP
C09K 17/14 20060101ALI20220630BHJP
E02D 3/12 20060101ALN20220630BHJP
C09K 103/00 20060101ALN20220630BHJP
【FI】
C09K17/12 P
C09K17/02 P
C09K17/40 P
C09K17/14 P
E02D3/12 101
C09K103:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216630
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】笹原 茂生
(72)【発明者】
【氏名】松山 雄司
【テーマコード(参考)】
2D040
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040CA02
2D040CA10
2D040CB03
2D040CC01
2D040DA02
4H026CA03
4H026CB01
4H026CB09
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】ゲルタイムをある程度確保しながら低いCODを達成し、かつゲル化後の強度発現を速くできる地盤注入材を提供する。
【解決手段】水ガラスを含む主剤と硬化剤との組み合わせからなる地盤注入材であって、前記硬化剤が無機塩と酸放出性有機化合物とを含み、前記硬化剤中における前記酸放出性有機化合物が占める物質量比(酸放出性有機化合物/硬化剤)が0.05~0.85である地盤注入材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水ガラスを含む主剤と硬化剤との組み合わせからなる地盤注入材であって、
前記硬化剤が無機塩と酸放出性有機化合物とを含み、前記硬化剤中における前記酸放出性有機化合物が占める物質量比(酸放出性有機化合物/硬化剤)が0.05~0.85である地盤注入材。
【請求項2】
前記無機塩が重炭酸塩である請求項1に記載の地盤注入材。
【請求項3】
前記酸放出性有機化合物がアルキレンカーボネートである請求項1又は2に記載の地盤注入材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤注入材に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱な地盤の改良や止水を行うために、薬液を地盤に注入する薬液注入工法が利用されている。止水などによく用いられる一般的な地盤注入材として、重曹を硬化剤として用いる薬液が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薬液には地盤への浸透性や、ゲル化した後に早期に十分な強度を発現することが好ましい。そのため、浸透のためのゲルタイムをある程度確保しながら、ゲル化後の早期強度の発現が速い薬液が求められている。
しかし、ゲルタイムの短い薬液ほど早期強度の発現が速い傾向にあることから、早期強度を重視するとゲルタイムが短くなってしまい、十分な浸透時間を確保できないといった問題がある。
【0005】
また、処理後の地盤は、通常地下水等に晒されるため、溶出水中に環境汚染物質を含まないことが好ましい。特にCOD(化学的酸素要求量)が低いことが好ましい。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、ゲルタイムをある程度確保しながら低いCODを達成し、かつゲル化後の強度発現を速くできる地盤注入材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような問題を解決するために鋭意研究を行った結果、無機塩と酸放出性有機化合物とを所定の比率で組み合わせた硬化剤と、水ガラスを含む主剤との組み合わせからなる地盤注入材により、従来の重曹のみを硬化剤とした薬液よりもゲルタイムをある程度確保しながら低いCODを達成し、かつゲル化後の強度発現を速くできることを見出した。すなわち、本発明は、下記のとおりである。
【0008】
[1] 水ガラスを含む主剤と硬化剤との組み合わせからなる地盤注入材であって、前記硬化剤が無機塩と酸放出性有機化合物とを含み、前記硬化剤中における前記酸放出性有機化合物が占める物質量比(酸放出性有機化合物/硬化剤)が0.05~0.85である地盤注入材。
[2] 前記無機塩が炭酸水素ナトリウムである[1]に記載の地盤注入材。
[3] 前記酸放出性有機化合物がアルキレンカーボネートである[1]又は[2]に記載の地盤注入材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゲルタイムをある程度確保しながら低いCODを達成し、かつゲル化後の強度発現を速くできる地盤注入材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[地盤注入材]
本実施形態に係る地盤注入材は、特定の主剤及び硬化剤を組み合わせてなる。これらは地盤注入材として使用するまでは混合しないように別々に分離されている。以下、主剤及び硬化剤等について説明する。
【0011】
(主剤)
主剤は水ガラスを含み、20℃における粘度が40~2000mPa・sであることが好ましい。
本実施形態に係る水ガラスは、ケイ酸アルカリの水溶液であり、具体的には、ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムの水溶液であり、ケイ酸ナトリウムの水溶液であることが好ましい。
【0012】
主剤の20℃における粘度は40~2000mPa・sであることが好ましく、40~1000mPa・sであることがより好ましく、50~500mPa・sであることがさらに好ましい。当該粘度が40mPa・s未満では、地盤中で溢流してしまうことがあり、2000mPa・sを超えると、浸透性が低下してしまうことがある。20℃における粘度は音叉型振動式粘度計にて測定することができる。上記粘度は、後述のモル比(SiO2/Na2O)を調整したり、水等で希釈したりすることで調整することができる。また、シリカ源とナトリウム源とから、最終的に加熱溶解反応させる際の加熱温度や加熱時間を調整することで上記粘度を所望の範囲にすることができる。例えば、加熱温度が高く、加熱時間が長いほど粘度が上昇する。
【0013】
水ガラスがケイ酸ナトリウムである場合の酸化ナトリウムと二酸化珪素とのモル比(SiO2/Na2O)は2.6~5であることが好ましく、2.9~4であることがより好ましい。当該モル比が2.6~5であることで、初期強度をより向上させることができる。このような水ガラスとしては、JIS規格(JIS-K-1408)にて規定されている、又は、JIS規格に準拠して配合された、3号珪酸ソーダ(3号水ガラス)、もしくはそれを超えるモル比のケイ酸ソーダが好ましく、例えば富士化学株式会社から販売されている4号珪酸ソーダ(4号水ガラス)、5号珪酸ソーダ(5号水ガラス)が好ましい。
なお、高アルカリ濃度の水ガラスでは、中和に多量の酸を要するため、酸の量が一定であれば逆に初期強度の発現は遅くなると推定される。例えば、1号水ガラス等のアルカリの高い水ガラスでは、核生成が律速段階としてあるため、初期強度が立ち上がらず、かつ一度凝集して再分散しているため不均一な構造のゲルができてしまい、良好な初期強度が得られないと考えられる。
【0014】
また、水ガラスの固形分濃度は、20~60質量%であることが好ましく、25~50質量%であることがより好ましい。20~60質量%であることで、高い強度を得ることができる。水ガラスの固形分濃度は、水溶液の形態にある水ガラスから、水や溶剤等の揮発する物質を除いたもの(固形成分)であって、この固形成分が、珪酸ナトリウム等の珪酸化合物に実質的に相当するものであり、固形分濃度(%)=[乾燥後の質量(g)/乾燥前の質量(g)]×100で求めることができる。
【0015】
(硬化剤)
硬化剤は無機塩と酸放出性有機化合物とを含む。硬化剤中における酸放出性有機化合物が占める物質量比(酸放出性有機化合物/硬化剤)は、0.05~0.85であり、0.2~0.6であることが好ましく、0.25~0.5であることがより好ましい。質量比が0.05未満では固結後の強度発現が遅くなってしまい、0.85を超えると、CODを低減しにくくなる。
ここで、CODは実施例に記載の方法で測定することができる。また、上記の「酸放出性有機化合物/硬化剤」における硬化剤は酸放出性有機化合物と無機塩(好ましくは重炭酸塩)との合計であることが好ましい。
【0016】
酸放出性有機化合物とは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート、グリオキザール等の水溶性アルデヒド化合物、γ-ブチロラクトン等の環状ラクトン、コハク酸ジメチルエステル等のジカルボン酸アルキルエステル、エチレングリコールジアセテート等のアルキレングリコールのアセチル化物等が挙げられ、アルキレンカーボネート、水溶性アルデヒド化合物が好ましい。
【0017】
例えば、アルキレンカーボネートであるエチレンカーボネートと水がエチレングリコールと炭酸(H2CO3)に分解し、この溶液中に電離して存在する炭酸(CO3
2-)と主剤の水ガラス中のNa+とが反応してシリカが重合することで、より良好な強度が発現されると考えられる。また、高濃度(高シリカ濃度)の水ガラスであれば、シリカの量が多いためゲル化した際に骨格構造が比較的成長し高い強度が得られると考えられる。
【0018】
無機塩としては、重炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩等が挙げられ、なかでも取り扱い性の観点から重炭酸塩が好ましく、COD低減の観点から、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられ、なかでも、低コストや、低環境負荷、安全性、入手のしやすさの観点から炭酸水素ナトリウム(重曹)が好ましい。
【0019】
硬化剤中の酸放出性有機化合物の含有量は、固結速度や強度の観点から、0.3~10.0質量%であることが好ましく、1.0~6.0質量%であることがより好ましい。
硬化剤中の無機塩の含有量は、COD低減や強度の観点から、0.3~10.0質量%であることが好ましく、1.0~6.0質量%であることがより好ましい。
【0020】
硬化剤の20℃における粘度は40~2000mPa・sであることが好ましく、40~1000mPa・sであることがより好ましく、50~500mPa・sであることがさらに好ましい。当該粘度が40mPa・s以上であると、地盤中で溢流を抑制することができる。また粘度が2000mPa・s以下であると、良好な浸透性が得られやすくなる。20℃における粘度は音叉型振動式粘度計にて測定することができる。上記粘度は、増粘剤や水等で調整することができる。
【0021】
硬化剤は、上記のとおり、増粘剤を含むことで20℃における粘度は40~2000mPa・sの範囲で所望の値にしやすくすることができる。したがって、増粘剤の含有量は、所望の粘度で決まる。
増粘剤としては、アクリル系増粘剤、デンプン系増粘剤、ビニル系増粘剤、セルロース系増粘剤、ガム系増粘剤、及び無機系増粘剤等が挙げられ、セルロース系増粘剤、ガム系増粘剤、及び無機系増粘剤の少なくともいずれかであることが好ましく、セルロース系増粘剤がより好ましい。
【0022】
セルロース系増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースナノファイバー等が挙げられる。
ガム系増粘剤としては、グアーガム、リュータンガム等が挙げられる。
無機系増粘剤としては、ベントナイト、カオリナイト、セピオライト、タルク、シリカフューム等が挙げられる。
【0023】
本実施形態に係る地盤注入材は、既述の主剤の粘度と硬化剤の粘度との比(硬化剤の粘度/主剤の粘度)が0.1~10となるように組み合わされることが好ましく、0.1~3となるように組み合わされることがより好ましい。当該比が0.1~10となるように組み合わされることで、それぞれの効果が発揮されやすくなって、ゲルタイムをある程度確保しながら低いCODを達成できる。
【0024】
主剤と硬化剤とは、使用時に混合されて、地盤や岩盤等に対して注入や流し込み等によって導入されて良好に反応硬化される。より良好に反応硬化させる観点から、これらの混合質量比は、主剤:硬化剤=1:0.5~1:3であることが好ましく、1:0.5~1:1であることがより好ましい。
【0025】
[地盤改良方法]
本実施形態に係る地盤改良方法は、本発明の地盤注入材(すなわち主剤と硬化剤)を、地盤中に1.5ショット方式又は2ショット方式で注入する地盤改良方法であることが好ましい。
【0026】
1.5ショット方式とは主剤と硬化剤とを注入管入口付近で衝突混合させてその混合液を注入する方法であり、2ショット方式とは主剤と硬化剤とを二重管からなる注入管を介して別々に供給し、該注入管の先端部で衝突混合させ、吐出させる方法である。主剤と硬化剤とを予め混合し、その混合液を注入する1ショット方式に比べ、速く固結し高強度性を得ることができる。
【実施例0027】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0028】
[使用材料]
・水ガラス:富士化学(株)製の水ガラス
・炭酸水素ナトリウム:富士フィルム和光純薬(株)製の試薬
・アルキレンカーボネート:東亜合成(株)製のエチレンカーボネート
・水:水道水
【0029】
[主剤の調製]
水ガラスにおける酸化ナトリウムと二酸化珪素とのモル比(SiO2/Na2O)を、原料組成により調整し、また、原料を加熱溶解反応させる際の加熱温度及び加熱時間を調整することで、20℃における粘度を調整して、MR=3.2の水ガラスを含む主剤(20℃における粘度:190mPa・s)を調製した。なお、主剤の粘度(20℃)は、音叉型振動式粘度計で測定した。
【0030】
[硬化剤の調製]
(1)炭酸水素ナトリウム系の硬化剤
炭酸水素ナトリウムを水に混合し炭酸水素ナトリウム系の硬化剤を作製した。
(2)エチレンカーボネート系の硬化剤
エチレンカーボネートを水に混合しエチレンカーボネート系の硬化剤を作製した。
【0031】
[地盤注入材の調製]
下記表1に示す配合(質量%)となるように主剤と硬化剤(炭酸水素ナトリウム系の硬化剤及び/又はエチレンカーボネート系の硬化剤)とを混合し地盤注入材を調製した。
【0032】
【0033】
(CODの測定)
各地盤注入材(全量400g)をゲル化させ、5Lのポリビーカーへ入れ、ゲル重量に対して10倍量の純水(4L)を入れた。この容器を20℃で養生し、養生開始から1週間後に常温アルカリ性過マンガン酸カリウム酸化法による養生水のCOD測定を行った。結果を下記表2に示す。測定には、(株)共立理化学研究所製のパックテストCOD(型式WAK-COD-2)を用いた。なお、表2中の実験No.3におけるCOD値は20~50であるが35が中間の値となる。
【0034】
(ゲルタイムの測定)
ゲルタイム測定は下記記載のカップ倒立法で行い、表1に示す割合で主剤と硬化剤(炭酸水素ナトリウム系の硬化剤及び/又はエチレンカーボネート系の硬化剤)とを混合した直後から、薬液の流動性が無くなるまでの時間をゲルタイムとした。また、混合前の主剤と硬化剤は20℃±2℃として測定を行った。結果を下記表2に示す。
-カップ倒立法-
カップ内に硬化性注入材料(地盤注入材)を充填し、所定の時間が経過した後にカップを倒して流動性が無くなるまでの時間を測定する方法である。
【0035】
(貯蔵弾性率測定による早期強度の評価)
ゲルの貯蔵弾性率と強度には相関があることが知られている(例えば、Yoshida, M; Kohyama, K.; Nishinari, K. GelationProperties of Soymilk and Soybean 11S Globulin from Japanese-grown Soybeans Biosci.,Biotech. Biochem. 1992, 56 (5), 725-728.参照)。
そこで、ゲルの早期強度を評価する目的で貯蔵弾性率の測定を行った。
すなわち、表1に示す割合で主剤と硬化剤(炭酸水素ナトリウム系の硬化剤及び/又はエチレンカーボネート系の硬化剤)とを混合して注入材を調製し、レオメーター(Anton Paar社製,MCR-72)を用い、歪み1%、周波数10Hzで貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’の時間変化を測定した。測定にはφ50mmのコーンプレートを用いて、サンプル温度を25℃として測定を行った。結果を下記表2に示す。
【0036】
ゲルタイムが異なっても一律にゲル化後の早期強度の速さを比較できるようにするため、経過時間を次の式で規格化した。
ε=(t-tsg)/tsg
【0037】
ここで、tは主剤と硬化材を混合してからの経過時間、tsgは注入材のゲルタイムである。すなわち、t=tsgの時にゲル化していることを示しており、これ以降に貯蔵弾性率の増加速度が速ければ強度発現が速いといえる。貯蔵弾性率の増加速度は、貯蔵弾性率の時間変化を一次微分することにより得られる。このため、貯蔵弾性率の時間変化を微分し、得られた微分曲線の最大値をδmaxとし、このときの経過時間をεmaxとした。εmaxが小さければ、貯蔵弾性率の増加速度の最大値を示す時間が速いことを示しており、微分曲線の最大値δmaxが大きければ増加速度の最大値が大きいことを示す。これらから、εmaxは小さいほど、δmaxが大きいほどゲル化後の早期強度の発現に優れた注入材であると考えられる。
【0038】