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特開2022-102110回転電機用のロータの製造方法及び回転電機用のロータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102110
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】回転電機用のロータの製造方法及び回転電機用のロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20220630BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H02K15/02 H
H02K1/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216645
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】半田 修也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健登
(72)【発明者】
【氏名】大畑 直弘
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
5H601AA03
5H601DD01
5H601DD11
5H601GA23
5H601GA33
5H601JJ05
5H615AA01
5H615PP02
5H615PP06
5H615PP24
5H615SS19
(57)【要約】
【課題】回転電機の高出力化を可能としつつ、ロータコアとロータシャフトとを適切に締結する。
【解決手段】回転電機用のロータの製造方法であって、軸方向に視て楕円形である軸孔を有するロータコアと、軸方向に視て円形の外形を有する中空のロータシャフトとを準備する準備工程と、ロータコアの軸孔にロータシャフトが通された状態を形成する配置工程と、配置工程の後に、ロータシャフトを拡径又はロータコアを縮径することで、ロータシャフトの外形を軸孔の楕円形に倣わせる態様で、ロータシャフトとロータコアとを締結する締結工程とを含む、製造方法が提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機用のロータの製造方法であって、
軸方向に視て楕円形である軸孔を有するロータコアと、軸方向に視て円形の外形を有する中空のロータシャフトとを準備する準備工程と、
前記ロータコアの前記軸孔に前記ロータシャフトが通された状態を形成する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記ロータシャフトを拡径又は前記ロータコアを縮径することで、前記ロータシャフトの外形を前記軸孔の楕円形に倣わせる態様で、前記ロータシャフトと前記ロータコアとを締結する締結工程とを含む、製造方法。
【請求項2】
前記締結工程は、前記ロータシャフトの中空部の内圧を高めることを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記締結工程において、前記内圧は、前記軸孔に周方向全体にわたり前記ロータシャフトが接するレベルまで高められる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記締結工程において、前記内圧は、前記軸孔に周方向全体にわたり前記ロータシャフトが接した状態から、更に、前記ロータコア及び前記ロータシャフトが拡径するレベルまで高められる、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記締結工程において、前記内圧は、前記ロータシャフトと前記ロータコアとの間の径方向の締め代が周方向に沿って略一定になるレベルまで高められる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
軸方向に視て楕円形である軸孔を有するロータコアと、
前記軸孔を通る中空のロータシャフトとを備え、
前記ロータシャフトと前記ロータコアとは、前記軸孔における前記楕円形の全周にわたり互いに対して接しかつ径方向の締め代を有する、回転電機用のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用のロータの製造方法及び回転電機用のロータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータコアと、ハイドロフォーミング法により形成された抜止部を有するロータシャフトとを、一体化する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-268858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、回転電機が高出力化するとロータシャフトの剛性を高くする必要があり、この場合、上記のような従来技術では、ロータシャフトの高剛性化と変形しやすさ(ハイドロフォーミング法で抜止部を形成できるほどの変形のしやすさ)とを両立することが難しい。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、回転電機の高出力化を可能としつつ、ロータコアとロータシャフトとを適切に締結することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、回転電機用のロータの製造方法であって、
軸方向に視て楕円形である軸孔を有するロータコアと、軸方向に視て円形の外形を有する中空のロータシャフトとを準備する準備工程と、
前記ロータコアの前記軸孔に前記ロータシャフトが通された状態を形成する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記ロータシャフトを拡径又は前記ロータコアを縮径することで、前記ロータシャフトの外形を前記軸孔の楕円形に倣わせる態様で、前記ロータシャフトと前記ロータコアとを締結する締結工程とを含む、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、回転電機の高出力化を可能としつつ、ロータコアとロータシャフトとを適切に締結することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】一実施例によるモータの断面構造(軸方向を含む平面で切断した際の断面構造)を概略的に示す断面図である。
図1B】軸方向に垂直な平面で切断した際のモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ロータの製造方法の流れを示す概略フローチャートである。
図3A図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その1)である。
図3B図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その2)である。
図3C図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その3)である。
図3D図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その4)である。
図3E図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その5)である。
図3F図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その6)である。
図3G図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その7)である。
図4】ロータシャフトとロータコアとの間の径方向の締め代に関する解析結果の一例を示す図である。
図5】非接触型の測定器の配置例を示す説明図である。
図6】他の締結方法の説明図である。
図7】軸孔の形状の他の例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
図1Aは、一実施例によるモータ1の断面構造(軸方向を含む平面で切断した際の断面構造)を概略的に示す断面図である。図1Bは、軸方向に垂直な平面で切断した際のモータ1の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1Aには、モータ1の回転軸Iが図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)Iが延在する方向を指し、径方向とは、回転軸Iを中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸Iから離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸Iに向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸Iまわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナロータタイプであり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。ステータ21は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるステータコアを含み、ステータコアの内周部には、コイル22が巻回される複数のスロット(図示せず)が形成される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸Iを画成する。
【0015】
本実施例では、ロータシャフト34は、図1Bに示すように、ロータコア32と締結する部分における断面形状(軸方向に視た断面形状)の外形が楕円形である。ロータシャフト34は、ロータコア32と締結する区間SC1において、後述する厚肉部347の部分を除いて径方向の厚み(内径r1と外径r11の差)は略一定であり、内径r1及び外径r11は、楕円形に応じて周方向の各位置で異なる。
【0016】
ロータシャフト34は、車輪に動力を伝達する動力伝達機構60に連結される。すなわち、ロータシャフト34には、モータ1の回転トルクを車軸(図示せず)に伝達するための動力伝達機構60が接続される。図1Aには、当該動力伝達機構60の一部を形成する軸部材61が図示されている。なお、動力伝達機構60は、減速機構や、差動歯車機構、クラッチ、変速機等を含んでよい。図1Aに示す例では、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向外側にスプライン結合される。この場合、ロータシャフト34の端部の径方向外側の周面には、スプライン結合部(複数の軸方向の凸条からなる歯車部)を形成する動力伝達部345を有することになる。なお、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向内側にスプライン結合されてもよい。
【0017】
ロータコア32は、電磁鋼板(磁性体の鋼板)を積層して形成されてよい。本実施例では、各電磁鋼板は、外形が円形であり、中央部に楕円形の軸孔32aを有する。従って、このような電磁鋼板の積層体であるロータコア32は、回転軸Iに沿って軸方向に貫通する軸孔32aを有する。軸孔32aには、ロータシャフト34が通される。軸孔32aは、図1Bに示すように、ロータシャフト34と締結する部分における形状(軸方向に視た断面形状)が楕円形である。ロータコア32には、軸孔32aの周方向全体にわたりロータシャフト34が接する。
【0018】
ここで、本実施例では、後述するように、ロータコア32とロータシャフト34とは、圧入により締結されるのではなく、ロータシャフト34の拡径により締結される。すなわち、本実施例では、ロータコア32とロータシャフト34とは、非圧入式の締結部70を有し、締結部70において、ロータコア32とロータシャフト34とが締結されている。なお、このような締結部70は、軸方向で区間SC1全体にわたって形成される。
【0019】
このように本実施例によれば、ロータコア32とロータシャフト34との間の非圧入式の締結部70は、ロータコア32の楕円形の軸孔32aに対して、楕円形の外形のロータシャフト34を締結することで、実現される。これにより、ロータコア32とロータシャフト34との間で伝達可能なトルクの範囲を効果的に拡大できる。
【0020】
具体的には、ロータコアとロータシャフトとの間の非圧入式の締結部が、ロータコアの円形の軸孔(図示せず)に対して円形の外形のロータシャフト(図示せず)を締結して実現される場合は、ロータコアとロータシャフトとの間の回転方向の摩擦力によって、必要な範囲のトルクを受ける必要がある。このような場合、ロータコアとロータシャフトとの間で伝達可能なトルクの上限値を十分に高めるためには(例えばイレギュラートルクの発生に対応できるようにするためには)、ロータコアとロータシャフトとの間の回転方向の摩擦力を高めるべくロータコアとロータシャフトとの間の径方向の締め代を比較的大きくする必要が生じる。
【0021】
これに対して、本実施例によれば、ロータコア32の楕円形の軸孔32aに、楕円形の外形のロータシャフト34を締結するので、ロータコア32とロータシャフト34との間で、周方向の摩擦力に代えて、機械的な結合によって、トルクの伝達が可能となる。この結果、ロータコア32とロータシャフト34の間の径方向の締め代を過大とすることなく、ロータコア32とロータシャフト34との間で伝達可能なトルクの上限値を高め、比較的高いイレギュラートルク(例えば900Nmを超えるようなトルク)の発生にも対応できる。また、このようにしてロータコア32とロータシャフト34との間で伝達可能なトルクの上限値を高めることができるので、ロータシャフト34の過大な高剛性化を必要とすることなく、モータ1の高出力化に対応できる。
【0022】
なお、キー溝を利用した機械的な結合の場合も、ロータコアとロータシャフトとの間で伝達可能なトルクの上限値を十分に高めることが可能であるが、本実施例では、好ましくは、かかるキー溝(又はキー)を利用せずに、ロータコア32とロータシャフト34との間で伝達可能なトルクの上限値を高める。本実施例では、後述するように、締結部70を形成するためにロータシャフト34がハイドロフォーミングにより拡径されるが、ロータシャフト34にキー溝が設定されていると、ロータシャフト34の拡径量が周方向に沿って不均一になる傾向があるためである。
【0023】
ロータコア32の磁石孔320には、永久磁石321が挿入されてよい。あるいは、永久磁石321は、ロータコア32の外周面に埋め込まれてもよい。なお、永久磁石321が設けられる場合、永久磁石321の配列等は任意である。
【0024】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0025】
ロータシャフト34は、図1Aに示すように、中空部343を有する。中空部343は、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。
【0026】
ロータシャフト34は、図1Aに示すように、軸方向で、ロータコア32が設けられる区間SC1の部位(締結部70を形成する部位)と、ベアリング14a、14bが設けられる区間SC2の部位と、後述する第1噴出孔341及び第2噴出孔342が設けられる区間SC3の部位とを含む。区間SC2は、軸方向の両端部にそれぞれ延在し、区間SC3は、軸方向で区間SC1と区間SC2との間に延在する。
【0027】
本実施例では、一例として、ロータシャフト34は、区間SC2において、外周面が径方向内側に凹む形態である。ロータシャフト34は、大径部34Aと、大径部34Aよりも外径が小さい小径部34Bとを含む。小径部34Bは、図1Aに示すように、軸方向で大径部34Aの両側に形成される。ベアリング14a、14bは、小径部34Bに設けられる。なお、大径部34Aと小径部34Bとの間の径方向の段差は、回転軸Iに対して略直角に形成されてもよいし、テーパ状に形成されてもよい。本実施例では、一例として、大径部34Aと小径部34Bとの間の径方向の段差は、一端側(図の右側)では、回転軸Iに対して略直角に形成され、他端側(図の左側)では、テーパ状に形成されている。
【0028】
また、ロータシャフト34は、軸方向のベアリング支持面34a、34bを有する。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ベアリング14a、14bのインナレースの軸方向の端面に軸方向に当接することで、ベアリング14a、14bを支持する。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ロータシャフト34の小径部34Bにおいて外周面が径方向内側に凹むことで形成される。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ロータシャフト34の周方向の全周にわたり形成されてよい。
【0029】
ロータシャフト34は、径方向内側に凸となる凸部の形態の厚肉部347を周方向に沿って有してもよい。厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の略中心位置(区間SC1における軸方向の略中心位置)に形成される。ただし、変形例では、厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の中心位置に対して軸方向でわずかにオフセットされてもよい。厚肉部347は、例えば鋳造やフローフォーミング、摩擦圧接等により形成されてもよい。フローフォーミングによる厚肉部347の形成方法は、後述する。なお、摩擦圧接の場合、ロータシャフト34は、当該中心位置で軸方向に分割される2ピースにより形成されてもよい。なお、ロータシャフト34が厚肉部347を備える場合、区間SC1のうちの中央部の剛性が端部の剛性よりも高くなる。
【0030】
ロータシャフト34は、第1噴出孔341を有する。第1噴出孔341は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第1噴出孔341は、中空部343に開口する開口341aと、コイル22のコイルエンド22Aに対向する開口341bとを有し、開口341a及び開口341b間に延在する。第1噴出孔341の開口341bは、コイル22のコイルエンド22Aに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第1噴出孔341は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0031】
ロータシャフト34は、更に、第1噴出孔341とは異なる軸方向の位置に、第2噴出孔342を有する。第2噴出孔342は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第2噴出孔342は、中空部343に開口する開口342aと、コイル22のコイルエンド22Bに対向する開口342bとを有し、開口342a及び開口342b間に延在する。第2噴出孔342の開口342bは、コイル22のコイルエンド22Bに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第2噴出孔342は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0032】
ロータシャフト34内は、油供給源90に接続される。油供給源90は、ポンプ94を含んでよい。この場合、ポンプ94の種類や駆動態様は任意である。例えば、ポンプ94は、モータ1の回転トルクにより動作するギアポンプであってもよい。ロータシャフト34内には、ロータシャフト34の一端(図の右側の端部)側から油が供給される。なお、ポンプ94は、モータハウジング10に隣接するハウジング(図示せず)であって、動力伝達機構60を収容するハウジング内に配置されてよい。
【0033】
図1Aでは、一例として、油供給源90は、管路部材92と、管路部材92の一端(図の右側の端部)側に接続されるポンプ94とを含む。
【0034】
管路部材92は、中空に形成され、内部が油路801を画成する。すなわち、管路部材92は、油路801として機能する中空部92Aを有する。中空部92Aは、管路部材92の軸方向の全長にわたり延在する。ただし、中空部92Aは、一端側(図の左側の端部であって、ポンプ94側とは逆側の端部)は開口しない。すなわち、管路部材92は、一端(図の左側の端部)が閉塞される。
【0035】
管路部材92は、ロータシャフト34の内周面340に対して径方向で隙間を有する態様でロータシャフト34内に延在する。
【0036】
管路部材92は、内部から外部へと径方向に貫通する吐出孔93を備える。吐出孔93は、ロータコア32の軸方向の略中心位置に対応する軸方向の位置と、その両側とに設けられる。なお、吐出孔93の軸方向の位置や数等は任意である。
【0037】
次に、図1Aに示す矢印R1~R6を参照して、油供給源90からの油の流れについて概説する。図1Aには、油の流れが矢印R1~R6で模式的に示されている。
【0038】
油供給源90から供給される油は、管路部材92の中空部92Aを通って軸方向に流れ(矢印R1参照)、吐出孔93から径方向外側へと吐出される(矢印R2参照)。吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ロータシャフト34の内周面340に当たり、ロータシャフト34の内周面340を伝って第1噴出孔341及び第2噴出孔342へと軸方向に流れる(矢印R3、R4参照)。なお、この場合、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れる油は、区間SC1においてロータコア32の径方向内側から熱を奪うことができ、ロータコア32及び永久磁石321を効率的に冷却できる。
【0039】
ここで、本実施例では、上述したようにロータコア32は、楕円形の軸孔32aを有するものの、ロータコア32とロータシャフト34とは、軸孔32aに周方向全体にわたりロータシャフト34が接する。従って、本実施例によれば、ロータコア32の軸孔32aとロータシャフト34の外周面との間に隙間が設定される場合に比べて、ロータコア32とロータシャフト34との間の接触面積を効率的に増加できる。この結果、ロータシャフト34の内周面340を伝って流れる油によりロータコア32及び永久磁石321を効率的に冷却できる。
【0040】
また、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと略均等に分配される。これにより、コイルエンド22A、22Bへと分配して導かれる油の均等化を図ることができる。この結果、ロータコア32を径方向内側から、軸方向に沿って均一に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bをそれぞれ同様に冷却できる。ただし、変形例では、吐出孔93の軸方向の位置と厚肉部347の軸方向の位置とにズレを設けること等によって、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと流れる油の流量の間に、差(すなわち分配量に関する差)を積極的に設定することも可能である。
【0041】
また、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ある程度の厚みを有しつつ、ロータシャフト34の内周面340を伝うことができる。すなわち、厚肉部347が堰部として機能し、ロータシャフト34の内周面340における油の溜まりが促進される。
【0042】
ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出される(矢印R5参照)。第1噴出孔341の開口341bは、上述のようにコイルエンド22Aに径方向で対向する。従って、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Aに当たり、コイルエンド22Aを効率的に冷却できる。
【0043】
また、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出される(矢印R6参照)。第2噴出孔342の開口342bは、上述のようにコイルエンド22Bに径方向で対向する。従って、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Bに当たり、コイルエンド22Bを効率的に冷却できる。
【0044】
このように、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340を伝う油の流れを促進することが可能となる。この結果、ロータシャフト34の内周面340を伝う油によりロータコア32を径方向内側から効率的に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bを効率的に冷却できる。
【0045】
特に、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340は、区間SC1での内径r1が、区間SC2での内径r2よりも有意に大きい。すなわち、ロータシャフト34の内周面340は、ロータコア32が設けられる区間SC1において拡径されている。これにより、ロータシャフト34の軽量化が図られるとともに、ロータシャフト34の内周面340と永久磁石321との間の径方向の距離を短くでき(内径r1≒内径r2の場合に比べて短くでき)、磁石冷却性能を効果的に高めることができる。
【0046】
なお、図1Aでは、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、中空部343を有するロータシャフト34にロータコア32が締結される限り、任意である。従って、例えば管路部材92等は、省略されてもよい。例えば、管路部材92が省略される場合、軸部材61の中空部から油が供給されてもよい。この場合、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向内側に嵌合されてもよい。
【0047】
また、図1Aでは、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、ロータコア32に油路が形成されてもよいし、モータハウジング10内の油路により径方向外側からコイルエンド22A、22Bに向けて油が滴下されてもよい。また、図1Aでは、油供給源90の管路部材92は、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側から、ロータシャフト34内に挿入されるが、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側とは逆側から、ロータシャフト34内に挿入されてもよい。また、油冷に加えて、冷却水を利用した水冷方式が利用されてもよい。また、厚肉部347は省略されてもよい。
【0048】
次に、図2及び図3A図3Gを参照して、上述した実施例のモータ1におけるロータ30の製造方法の例について説明する。図3C及び図3Eには、回転軸Iに平行なZ方向とともに、Z方向に沿ったZ1側とZ2側が定義されている。以下では、説明上、一例として、製造工程中において、Z方向が上下方向に対応し、Z2側が下側であるとする。また、図3C等には、製造装置200における基準軸Iが示される。基準軸Iは、ワークの芯出しの際の中心軸を構成し、上述した回転軸Iに対応する。
【0049】
図2は、ロータ30の製造方法の流れを示す概略フローチャートであり、図3A図3Gは、図2に示すいくつかの工程におけるロータシャフト34及びロータコア32の状態を概略的に示す断面図である。図3A及び図3Bは、準備工程の説明図であり、図3C及び図3Dは、配置工程の説明図であり、図3Fは、シール工程及び締結工程の説明図であり、図3Gは、締結工程の説明図である。なお、図3C図3E、及び図3Fは、基準軸Iを含む平面で切断した際の断面図であり、図3B図3D、及び図3Gは、基準軸Iに垂直な平面で切断した際の断面図である。
【0050】
まず、ロータ30の製造方法は、ワークとして、ロータシャフト34及びロータコア32のそれぞれ(互いに結合されていない状態)を、準備する準備工程(ステップS500)を含む。なお、ロータシャフト34の厚肉部347は、フローフォーミング加工又はスピニング加工等により形成されてよい。
【0051】
準備工程で準備されるロータシャフト34は、例えば中心軸Iまわりの回転体であり、図3Bに示すように、軸方向に視た断面形状は円形である。準備工程で準備されるロータシャフト34は、例えば、同一の円形の外形を軸方向の全長にわたり有してよい。なお、準備工程で準備されるロータシャフト34は、区間SC1に対応する部分の、円形に係る内径r1’(図3A及び図3B参照)が、製品状態の楕円形に係る内径r1(図1A及び図1B参照)の最小値よりも有意に小さく、かつ、形状も異なる。また、準備工程で準備されるロータシャフト34は、円形に係る外径r11’(図3A及び図3B参照)が、製品状態の楕円形に係る外径r11(図1B参照)の最小値よりも有意に小さく、かつ、形状も異なる。
【0052】
準備工程で準備されるロータコア32は、例えば中心軸Iに関して回転対称な断面形状を有し、円形の外形を有する。この場合、準備工程で準備されるロータコア32は、ロータシャフト34と同様に、外径(円筒面の外周面の外径)が製品状態の外径よりもわずかに小さくてよい。また、準備工程で準備されるロータコア32は、図3Bに示すように、軸孔32aの楕円形が製品状態の楕円形よりもわずかに小さくてよい。これは、後述する締結工程においてロータコア32は、ロータシャフト34の拡径に伴って径方向外側にわずかに変形するためである。図3Bに示す例では、軸孔32aの楕円形は、長軸に沿って長さr13を有し、短軸に沿って長さr12を有する。長さr12は、準備工程で準備されるロータシャフト34の外径r11’に比べて、わずかに大きくてよい。ただし、変形例では、長さr12は、ロータシャフト34の外径r11’に比べて、同じであってもよいし、わずかに小さくてもよい。
【0053】
ついで、ロータ30の製造方法は、図3Cに示すように、ロータコア32の軸孔32aにロータシャフト34が挿入された状態が形成されるように、ロータシャフト34及びロータコア32を、製造装置200に対してセットする工程(ステップS501)(配置工程の一例)を含む。なお、ロータコア32及びロータシャフト34は、いずれか一方が先になる態様で順に製造装置200にセットされてもよいし、仮に組み付けられた状態(サブアセンブリ状態)で製造装置200に同時にセットされてもよい。
製造装置200は、製造設備の形態であり、以下で説明する各種の治具や型を備える。図3Cに示す例では、製造装置200は、Z2側の固定型201を備え、固定型201の中空部2011内にロータシャフト34のZ2側の部位(小径部34B及び大径部34Aの端部)が挿入される。このとき、ロータシャフト34は、そのベアリング支持面34bが、固定型201の段差面201bに軸方向に当接することで、固定型201に対して支持されてよい。なお、固定型201の段差面201bは、基準軸Iに対して垂直であり、基準軸Iまわりに全周にわたり形成されてよい。なお、変形例では、固定型201の中空部2011内にロータシャフト34のZ1側の部位(ベアリング14aが設けられる側の小径部34B及び大径部34Aの端部)が挿入されてもよい。
【0054】
このようにして、ロータシャフト34及びロータコア32が、製造装置200の固定型201に対してセットされた状態では、製造装置200の固定型201は、ロータシャフト34及びロータコア32を同時にZ2側から支持し、ロータシャフト34及びロータコア32のZ2側への移動(変位)を拘束する。
【0055】
なお、図3Dに示す例では、ロータシャフト34及びロータコア32が、製造装置200の固定型201に対してセットされた状態では、図3Dに模式的に示すように、ロータシャフト34の外径r11’は、ロータコア32の軸孔32aの短軸方向の長さr12よりもわずかに小さい。これにより、ロータコア32の径方向内側にロータシャフト34を容易にセットできる。
【0056】
ついで、ロータ30の製造方法は、図3Eに示すように、シール型202、203によりロータシャフト34の中空部343をロータシャフト34の外部に対してシールするシール工程(ステップS505)を含む。例えば、Z2側のシール型202を、ロータシャフト34に対してZ2側からZ方向に沿ってZ1側へと移動させ、かつ、可動型205とともにZ1側のシール型203を、ロータシャフト34に対してZ1側からZ方向に沿ってZ2側へと移動させることで、ロータシャフト34をシール型202、203によりシールできる。なお、シール工程に先立って又はシール工程と並列して、ロータシャフト34の中心軸I及びロータコア32の中心軸Iを、基準軸Iに対して芯出しする工程が実行されてもよい。
【0057】
ついで、ロータ30の製造方法は、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34にロータコア32を固定(締結)する締結工程(ステップS506)を含む。例えば、図3Eに模式的に示すように、ロータシャフト34がシール型202、203に押さえられた状態で、中空部343内にシール型202、203を介して流体が導入され、流体を加圧することで、ロータシャフト34の内周面340に対して内周面340に垂直な力(内圧)を付与する(図3Eの矢印R41、矢印R42参照)。これにより、ロータシャフト34が拡径し、ロータシャフト34とロータコア32との間の締結が実現される(図3F及び図3G参照)。図3Gには、ロータシャフト34の拡径前の状態が一点鎖線L300で示されるとともに、ロータコア32の軸孔32aの拡径前の状態が一点鎖線L301で示されている。また、図3Gには、ロータシャフト34の拡径の態様が矢印R30から矢印R32により模式的に示されている。
【0058】
具体的には、締結工程において内圧の上昇が開始されると、ロータシャフト34が拡径するが、ロータシャフト34がロータコア32の軸孔32aの短軸側と当接すると(図3Gの矢印R30参照)、ロータシャフト34が周方向に沿って均一に拡径できなくなる。このため、ロータシャフト34がロータコア32の軸孔32aの短軸側と当接すると、隙間がある軸孔32aの長軸方向に沿ったロータシャフト34の拡径(図3Gの矢印R32参照)が促進される。そして、ロータシャフト34は、ロータコア32の軸孔32aとの間の径方向の隙間が全周にわたってなくなる態様で、ロータコア32の軸孔32aに倣う断面形状へと拡径される(図3Gの矢印R31、矢印R32参照)。その後、内圧が更に上昇されると、ロータコア32の軸孔32aにより径方向の外側への変形(膨張)が拘束されながら拡径することで、ロータコア32の軸孔32aとともに楕円形のまま拡径できる。これにより、図3Gに示すように、ロータシャフト34の周方向全体にわたって軸孔32aと接し、かつ、ロータシャフト34の周方向全体にわたって締め代が略一定(例えば平均値に対する差が10%以内)となる態様で、ロータコア32とロータシャフト34とが締結される。
【0059】
このようなハイドロフォーミングによれば、圧入のような、ロータシャフト34とロータコア32の嵌合方法で生じうる不都合(例えばバリの発生や、圧入の際のロータコア32の倒れ等)を防止できる。すなわち、ハイドロフォーミングによれば、ロータコア32の軸孔32a内に通した後のロータシャフト34の拡径(径方向の塑性変形)を利用して、ロータコア32とロータシャフト34とを締結するので、バリの発生やロータコア32の倒れが発生することはない。
【0060】
ついで、ロータ30の製造方法は、ロータシャフト34において第1噴出孔341及び第2噴出孔342に対応する孔を形成する噴出孔形成工程(ステップS508)を含む。なお、噴出孔形成工程は、ロータシャフト34を製造装置200から取り出してから実行されてよい。噴出孔形成工程(ステップS508)が終了すると、最終的なロータシャフト34が出来上がる。
【0061】
ついで、ロータ30の製造方法は、その他の仕上げ工程(ステップS510)を含む。その他の仕上げ工程は、永久磁石321を固定する工程や、着磁を行う工程や、エンドプレート35A、35Bにより回転バランスを調整する工程等を含んでよい。
【0062】
このようにして、図2及び図3A図3Gを参照して説明したロータ30の製造方法によれば、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34を拡径できるので、楕円形の軸孔32aを有するロータコア32に対しても、ロータコア32とロータシャフト34との間の隙間が生じない締結を実現できる。これにより、ロータコア32とロータシャフト34との間の接触面積を最大化し、上述した冷却能力を効果的に高めることができる。また、準備工程で準備されるロータシャフト34の外形は円形状であることができ、楕円形の外形を有する必要がない。これにより、楕円形の軸孔32aに締結されるロータシャフト34を比較的低いコストの素材を用いて実現できる。
【0063】
次に、図4以降を参照して、上述した製造方法により実現されるロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代について説明する。
【0064】
図4は、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代に関する解析結果の一例を示す図である。図4は、ロータシャフト34の外形と、ロータコア32の軸孔32aの形状とを各種状態で示し、外形線L400は、拡径前(すなわち締結工程の前)のロータシャフト34の外形を示し、形状線L402は、拡径前(すなわち締結工程の前)のロータコア32の軸孔32aの形状を示す。また、外形線L404は、締結工程中における最も拡径した時点のロータシャフト34の外形を示し、形状線L406は、同時点のロータコア32の軸孔32aの形状を示す。なお、外形線L404と形状線L406とは重なる関係であり、実質的に同じである。また、外形線L408は、締結工程後の製品状態(スプリングバック後)のロータシャフト34の外形を示し、形状線L410は、同状態のロータコア32の軸孔32aの形状を示す。なお、外形線L408と形状線L410とは重なる関係であり、実質的に同じである。図4における円の外周に沿った数値は、周方向に沿った位置(角度)を表す。
【0065】
図4からわかるように、ロータシャフト34は、ロータコア32の軸孔32aを、元の形状(形状線L402参照)である楕円形を相似的に拡大させながら、最も拡径する状態(外形線L404)に至り、その後、スプリングバックして最終状態(外形線L408)に至っている。このような変形は、ロータコア32の軸孔32aの角のない形状と、ハイドロフォーミングの特性(内圧によるロータシャフト34の拡張)とに起因して実現される。このことから、ロータコア32の軸孔32aの長軸側が塑性変形するレベルまで締結工程中の内圧を十分高めることで(それに伴いロータシャフト34を拡径させることで)、ロータコア32とロータシャフト34との締結に係る締め代を周方向に沿って均一化を図ることができることを、確認できる。
【0066】
換言すると、締結工程中の内圧は、ロータコア32の軸孔32aの長軸側が塑性変形するレベル(すなわち形状線L406が実現されるレベル)まで高められるように制御されることで、ロータコア32とロータシャフト34との締結に係る締め代を周方向に沿って均一化を図ることができる。この結果、締め代が不均一な場合に生じうる不都合(ロータ30のアンバランスや接触面積の低下(例えば締め代が不十分な箇所で局所的な隙間が生じることによる接触面積の低下))を防止できる。
【0067】
なお、本実施例では、上述したように楕円形の軸孔32aとロータシャフト34との間の機械的な結合が実現されるので、円形の軸孔による周方向の摩擦力を利用する場合に比べて、締め代を小さく設定することも可能である。すなわち、本実施例によれば、締結工程中の内圧を過度に高める必要性を無くすことができる。
【0068】
なお、締結工程中は、ロータシャフト34内の内圧は、センサ(図示せず)により監視されてよく、内圧の値とロータシャフト34やロータコア32(軸孔32a又は外周面)の拡径量との関係は、事前に試験等で導出されていてよい。例えば、形状線L406を実現するような内圧の値(到達目標値)は、あらかじめ試験等により導出できる。この場合、ロータシャフト34内の内圧は、到達目標値に到達するように制御されてよい。また、締結工程中は、例えば図5に模式的に示されるような測定器500により、ロータコア32の外周面の変位が測定されてもよい。この場合も、ロータコア32の外周面の変位とロータシャフト34等の拡径量との関係は、事前に試験等で導出されていてよい。例えば、形状線L406を実現するような変位の値(目標変位量)は、あらかじめ試験等により導出できる。この場合、ロータシャフト34内の内圧は、測定器500により測定される変位が目標変位量に到達するように制御されてよい。なお、図5では、非接触型の測定器500は、先端部がロータコア32の外周面に当接するように配置される。この際、測定器500は、基準軸Iを通る径方向に沿った変位量(基準軸Iに対して垂直な平面内の変位量)を測定するように配置される。なお、図5では、120度間隔で設定された3つの測定点P500、P501、P502が示されるが、測定点の配置や数は多様に変更されてもよい。
【0069】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施形態の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0070】
例えば、上述した実施例では、ロータコア32とロータシャフト34との締結は、ロータコア32の軸孔32a内に通されたロータシャフト34を拡径することにより実現されているが、これに限られない。例えば、図6に模式的に示すように、ロータコア32とロータシャフト34との締結は、ロータコア32の軸孔32a内に通されたロータシャフト34に対して、ロータコア32を縮径することにより実現されてもよい。図6には、縮径前のロータコア32の軸孔32a内に通された状態のロータシャフト34が、軸方向視の断面図で模式的に示される。図6では、ロータコア32の縮径の態様が矢印R20から矢印R22により模式的に示されるとともに、ロータシャフト34の変形の態様が矢印R31及び矢印R32により模式的に示されている。このようなロータコア32の縮径は、焼き嵌めの原理を利用して実現されてもよい。すなわち、加熱された状態のロータコア32に対して軸孔32a内にロータシャフト34を配置して図6に示す状態を形成し、ついで、ロータコア32を冷却してよい。これより、図6に示す状態からロータコア32が縮径すると、まず、ロータコア32の軸孔32aとロータシャフト34とが当接し、ロータシャフト34が短軸方向に圧縮されることで変形する。そして、ロータシャフト34は、長軸方向に拡径する態様で変形し、その結果、ロータシャフト34の外形が軸孔32aの楕円形に倣う状態が実現される。その後、ロータコア32の軸孔32aが更に縮径することで、ロータコア32とロータシャフト34との締結に係る締め代が周方向に沿って均一化する。
【0071】
また、上述した実施例では、ロータコア32の軸孔32aは、軸方向に視て楕円形であるが、楕円形とは、一般的な公式で表現できる厳密な楕円形(平面上のある2定点からの距離の和が一定となるような点の集合から作られる曲線)である必要がない。例えば、楕円形は、図7に示す軸孔32a’のような、所謂、長穴形状を含む概念である。この場合、長穴形状は、2つの平行な直線700と、その両側の対の半円形701により形状付けられている。また、楕円形とは、一切の径方向の凹凸部分(厳密な楕円形に対する径方向のずれ)を有さない形態の他、若干の径方向の凹凸部分を有する形態をも含む概念である。この場合、凹凸部分は、ロータコア32の軸孔32aとロータシャフト34との間の締結に問題とならない程度に周方向の形成範囲が小さければよい。あるいは、凹凸部分は、周方向の形成範囲が比較的大きくても、凹凸の径方向の高さが締結に問題とならない程度に小さければよい。
【符号の説明】
【0072】
1・・・モータ(回転電機)、30・・・ロータ、32・・・ロータコア、32a、32a’・・・軸孔、34・・・ロータシャフト
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4
図5
図6
図7