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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102146
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】腫瘍サンプラー
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/02 20060101AFI20220630BHJP
   A61B 34/20 20160101ALI20220630BHJP
【FI】
A61B10/02 110H
A61B34/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216702
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】591043581
【氏名又は名称】東京都
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】大谷 亮平
(57)【要約】
【課題】本発明は、腫瘍から隣接する複数の検体を採取することができる腫瘍サンプラーの提供を目的とする。
【解決手段】腫瘍サンプラー100は、複数の検体を採取する複数の遠位端開口部を備える複数の採取管110a、bと、複数の遠位端開口部を閉鎖する蓋体121と、複数の採取管110a、bのそれぞれの少なくとも一部を収容し、複数の採取管の長手方向にそってスライド可能な採取管収容体120を備える、蓋体121が採取管収容体120に接続され、採取管収容体120をスライドさせることにより、蓋体121が遠位端開口部を開放する開放状態と、蓋体121が遠位端開口部を閉鎖する閉鎖状態との間で、蓋体121が移動される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍から隣接する複数の検体を採取する腫瘍サンプラーであって、
前記複数の検体を採取する複数の遠位端開口部を備える複数の採取管と、前記複数の遠位端開口部を閉鎖する蓋体とを備える、腫瘍サンプラー。
【請求項2】
請求項1に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記複数の採取管の長手方向にそってスライド可能なスライド体をさらに備え、
前記蓋体が前記スライド体に接続され、前記スライド体をスライドさせることにより、前記蓋体が前記複数の遠位端開口部を開放する開放状態と、前記蓋体が前記複数の遠位端開口部を閉鎖する閉鎖状態との間で、前記蓋体が移動する、腫瘍サンプラー。
【請求項3】
請求項2に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド体は、前記複数の採取管のそれぞれの少なくとも一部を収容する採取管収容体である、腫瘍サンプラー。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記蓋体は、弾性を有すると共に折れ曲り可能な折れ曲り部を備え、
前記折れ曲り部は、前記開放状態で前記折れ曲り部が押し伸ばされ、前記閉鎖状態で前記折れ曲り部が折れ曲る、腫瘍サンプラー。
【請求項5】
請求項4に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド体は、前記閉鎖状態で、前記蓋体によって閉鎖されるスライド体開口部を備える、腫瘍サンプラー。
【請求項6】
請求項5に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド体開口部は、前記複数の採取管の長手方向に対して傾斜している、腫瘍サンプラー。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド体を前記複数の採取管にそってスライドさせるハンドルを備える、腫瘍サンプラー。
【請求項8】
請求項7に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記複数の採取管を保持する本体を備え、前記本体は、前記スライド体のスライドを制御するスライド制御部を備える、腫瘍サンプラー。
【請求項9】
請求項8に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド制御部は、前記ハンドルの平面と接触してスライドを制限するハンドル接触部を備える、腫瘍サンプラー。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記蓋体はその先端に切断刃を備える、腫瘍サンプラー。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記複数の採取管は、互いに並行に配置される、腫瘍サンプラー。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記遠位端開口部は、前記検体を採取する採取刃を備える、腫瘍サンプラー。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーであって、
前記複数の採取管それぞれの近位端開口部に、液体の圧入具と接続する接続部をさらに備える、腫瘍サンプラー。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーであって、
前記本体は、手術ナビゲーション用のマーカーを備える、腫瘍サンプラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍から複数の検体を採取する腫瘍サンプラーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脳腫瘍等の腫瘍に関する遺伝子解析技術が急速に進展している。そのため、腫瘍の診断、治療方針決定に関して、遺伝子解析の重要性が今後も増してくるものと思われる。
【0003】
なお、上述のような遺伝子解析に必要となる、検体採取に関連する従来技術として、例えば、特許文献1には、前立腺生検針が開示されている。
【0004】
このような生検針を使用する場合、特許文献1にて開示しているように、医師は右手の手のひらにハンドル44を置き、新指タイプ46を外側へ突出させる。また、医師は人差指76の指先を、スタイレット10およびカニュ-レ20を完全に後退させた案内チューブ30の先端に置き、鋭利部分を有するスタイレット10の先端が指先に押し付けられるようにする。医師は右手だけを用いて人差し指76および案内チューブ30を患者の組織付近の表面と接触する。次に、医師は、スタイレット10の鋭利な先端を組織中へ押し込むことができる。次に医師は左手を用いてブッシュノブ50を前方へ押し、スタイレット10で組織を刺通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4-63692号公報(米国特許第4600014号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、遺伝子解析における問題点として、腫瘍内不均一性に関するものが挙げられる。例えば、グリオーマに代表される脳腫瘍等の腫瘍では、当該腫瘍内の細胞がクローン進化を遂げながら、遺伝子プロファイルが異なる多様な細胞集団を形成している。
【0007】
つまり腫瘍内においては、種々の遺伝子プロファイルの細胞集団が不規則に発生、分布し、当該腫瘍を構成する細胞の性質も場所により様々に異なる可能性がある。つまり腫瘍は、その構成において不均一性を示す。そのため、当該腫瘍における各領域で、再発性や治療抵抗性が異なりうる。
【0008】
一方、現状の生検針は、腫瘍内の一箇所からランダムに検体を採取しており、腫瘍内不均一性への考慮はなされていない。そのため、たまたま検体が採取された箇所の再発性や治療抵抗性等が、当該腫瘍の性質として分析、利用されるケースも起こりうる。こうした事態は、腫瘍の診断、治療方針決定の精度を低下させる懸念にも結びつく。
【0009】
そこで本発明は、腫瘍から隣接する複数の検体を採取することができる腫瘍サンプラーの提供を目的とする。または、本発明は、隣接する複数の検体を採取することにより、腫瘍内不均一性の解析を可能とする腫瘍サンプラーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の各態様は次の通りである。
[態様1]
腫瘍から隣接する複数の検体を採取する腫瘍サンプラーであって、
前記複数の検体を採取する複数の遠位端開口部を備える複数の採取管と、前記複数の遠位端開口部を閉鎖する蓋体とを備える、腫瘍サンプラー。
[態様2]
態様1に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記複数の採取管の長手方向にそってスライド可能なスライド体をさらに備え、
前記蓋体が前記スライド体に接続され、前記スライド体をスライドさせることにより、前記蓋体が前記複数の遠位端開口部を開放する開放状態と、前記蓋体が前記複数の遠位端開口部を閉鎖する閉鎖状態との間で、前記蓋体が移動する、腫瘍サンプラー。
【0011】
[態様3]
態様2に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド体は、前記複数の採取管のそれぞれの少なくとも一部を収容する採取管収容体である、腫瘍サンプラー。
[態様4]
態様2又は3に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記蓋体は、弾性を有すると共に折れ曲り可能な折れ曲り部を備え、
前記折れ曲り部は、前記開放状態で前記折れ曲り部が押し伸ばされ、前記閉鎖状態で前記折れ曲り部が折れ曲る、腫瘍サンプラー。
[態様5]
態様4に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド体は、前記閉鎖状態で、前記蓋体によって閉鎖されるスライド体開口部を備える、腫瘍サンプラー。
【0012】
[態様6]
態様5に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド体開口部は、前記複数の採取管の長手方向に対して傾斜している、腫瘍サンプラー。
[態様7]
態様1乃至6のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド体を前記複数の採取管にそってスライドさせるハンドルを備える、腫瘍サンプラー。
[態様8]
態様7に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記複数の採取管を保持する本体を備え、前記本体は、前記スライド体のスライドを制御するスライド制御部を備える、腫瘍サンプラー。
【0013】
[態様9]
態様8に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記スライド制御部は、前記ハンドルの平面と接触してスライドを制限するハンドル接触部を備える、腫瘍サンプラー。
[態様10]
態様1乃至9のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記蓋体はその先端に切断刃を備える、腫瘍サンプラー。
[態様11]
態様1乃至10のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記複数の採取管は、互いに並行に配置される、腫瘍サンプラー。
【0014】
[態様12]
態様1乃至11のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーにおいて、
前記遠位端開口部は、前記検体を採取する採取刃を備える、腫瘍サンプラー。
[態様13]
態様1乃至12のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーであって、
前記複数の採取管それぞれの近位端開口部に、液体の圧入具と接続する接続部をさらに備える、腫瘍サンプラー。
[態様14]
態様1乃至13のいずれか一項に記載の腫瘍サンプラーであって、
前記本体は、手術ナビゲーション用のマーカーを備える、腫瘍サンプラー。
【発明の効果】
【0015】
本発明の腫瘍サンプラーは、腫瘍から隣接する複数の検体を採取するができる。また、本発明の腫瘍サンプラーは、腫瘍から隣接する複数の検体を採取することにより、腫瘍を複数の採取管に対して横断的に、かつ複数の採取管に沿って連続的に採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る腫瘍サンプラーを示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係る腫瘍サンプラーを示す上面図である。
図3】第1実施形態に係る腫瘍サンプラーを示す側面図である。
図4】第2実施形態に係る腫瘍サンプラーを示す上面図である。
図5】第2実施形態に係る腫瘍サンプラーを示す側面図である。
図6】複数の採取管の遠位端開口の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の腫瘍サンプラーに関する実施形態を、図面を参照して説明する。なお、各図において対応する部分は、同じ符号を付して説明は適宜省略する。なお、本実施形態において、腫瘍サンプラーの医師等に近い端を近位端側(proximal end side)Pと言い、腫瘍サンプラーの医師等の操作者から遠い端を遠位端側(distal end side)Dと言う。図1(a)、図2に、近位端側P、遠位端側Dを矢印で示す。
【0018】
[第1実施形態]
第1実施形態の腫瘍サンプラー100の構成について説明する。図1は第1実施形態に係る腫瘍サンプラーを示す斜視図である。また、図2は、第1実施形態における係る腫瘍サンプラーを示す上面図、図3は同じく側面図である。図6は、複数の採取管の遠位端開口の拡大断面図である。
【0019】
第1実施形態の腫瘍サンプラー100は、隣接する複数の採取管110a、bと、複数の採取管110a、bのそれぞれの少なくとも一部を収容する採取管収容体(スライド体)120と、複数の採取管110a、bを近位端側Pで保持(固定)する本体130と、各採取管110a、bの近位端に設けられたシリンジ接続部140とから構成されている。採取管収容体120は、複数の採取管110a、bの長手方向にそってスライド可能である。採取管収容体120の遠位端には、蓋体121が形成されている。蓋体121は、複数の採取管110a、bの遠位端開口部111を閉鎖可能とする。採取管収容体120の収容体開口部(スライド体開口部)125は、好ましくは、図3及び図6(a)に示すように、複数の採取管110a、bの長手方向に対して傾斜している。
【0020】
採取管収容体120は、好ましくは、扁平な断面を有する筒体とすることができる。各採取管110a、bは、好ましくは、互いに接続され、及び/又は並行に延びることができる。各採取管110a、bは、好ましくは、円筒状の管とすることができる。腫瘍サンプラー100は、好ましくは、その全体又は複数の採取管を滅菌可能な耐熱性を有する材料(オートクレーブ可能な材料)から形成することができる。このような材料としては、例えば、ステンレススチール等の金属とすることができる。代替的には、腫瘍サンプラー100は、好ましくは、その全体又は一部を樹脂製材料から形成し、使い捨てとすることもできる。
【0021】
図1(a)に示すように、各採取管110a、bの遠位端開口部111には、好ましくは、円形であり、さらに好ましくは組織1から検体を採取する採取刃112を備えることができる。採取刃112は、好ましくは、遠位端開口部111の端面において、環状に採取管の中心軸線に向かって傾斜した形状とすることができる。各採取管110a、bに形成された採取刃112を用いることにより、組織1から複数の検体を円柱状に切断することができる。
【0022】
また、本体130は、近位端側Pで各採取管110a、bを固定すると共に、採取管収容体120を、近位端側Pでスライド可能に保持する。各採取管110a、bは、好ましくは、近位端側Pで、互いに離れるように(Y字状に)曲げられている。各採取管の近位端側Pの末端には、シリンジ接続部140が設けられる。
【0023】
本体130には、好ましくは、手術ナビゲーション用のマーカーを設置することもできる。このマーカーは、手術用ナビゲーションシステムにおいて、ポインタープローブの先端位置を検出する機構にて用いる反射マーカーとすることができる。手術用ナビゲーションシステムでは、ナビゲーションを行う際の光学的基準点となるリファレンスフレームと本体130の表面に設けた反射マーカーの反射光を、赤外線カメラにより、三角計測の原理で位置測定を行い、ポインタープローブの先端の位置情報を術前に撮影したCTまたはMRIなどの画像上にリアルタイムに表示することができる。
【0024】
一方、シリンジ接続部140は、各採取管110a、b内に生理食塩水を注入する注射器(液体の圧入具)を接続させる治具である。そのため、注射器本体の頭部形状と適合する内腔を備え、例えば、ゴムなどの装着性、保持性を有する弾性体にて構成することができる。シリンジ接続部140に接続された注射器で、押圧動作が行われた場合、当該注射器内の生理食塩水が、このシリンジ接続部140を介して、各採取管110a、bの内腔に圧入される。
【0025】
こうした生理食塩水の水圧によって、後述する蓋体121の開放状態で、複数の採取管110a、bの遠位端から内腔に取り込まれた複数の検体を、それぞれの遠位端開口部101から吐出させることができる。
なお、各実施形態において、複数の採取管110a、bは、一例として、それぞれ病理検体採取採取管、及び遺伝子解析用検体採取採取管とすることもできる。
【0026】
図1(b)に示すように、蓋体121は、その先端に形成された切断刃123と、弾性を有すると共に折れ曲る折れ曲り部124とを備える。折れ曲り部124は、切断刃123より近位端側Pに形成されている。折れ曲り部124は、図1(a)及び図6(a)の第1配置と、図1(b)及び図6(b)の第2配置を取ることができる。第1配置は、切断刃123が近位端側にスライドして各採取管110a、bの長手方向面に留まっている。第1配置では、各採取管110a、bによって押し伸ばされほぼ平坦となり、蓋体123が各採取管110a、bの遠位端開口部111を開放した開放状態となる。一方、第2配置では、蓋体121が遠位端側Dへスライドされて、蓋体121が折れ曲り部124を起点に折れ曲り、各採取管110a、bの遠位端開口部111が採取管収容体120内に収容され、収容体開口部125を閉鎖した閉鎖状態となる。
【0027】
開放状態及び閉鎖状態を可能とするため、折れ曲り部124は、弾性を有し折れ曲る方向に予め屈曲形成されている。折れ曲り部124の材質としては、例えば、適宜な弾性を有する金属材料とすることができる。
【0028】
また、採取管収容体120の近位端側Pには、採取管収容体120を各採取管110a、bに対して長手方向に進退可能にスライドするためのハンドル126が形成されている。本体130には、ハンドル126のスライド範囲を制御するスライド制御部137が形成されている。ハンドル126は、蓋体121を遠位端側D/近位端側Pにスライドさせる際に医師等が操作する。
【0029】
蓋体121の遠位端側Dへのスライド操作により、蓋体121及び切断刃123が各採取管110a、bの遠位端を超えて組織1側に突出し、折れ曲り部124を起点に下方に倒れ折れ曲る。蓋体121が折れ曲った状態で、切断刃123が斜め方向に組織1から複数の検体を切り離しつつ、蓋体121が保持体開口部125を閉鎖する。
【0030】
また、蓋体121の近位端側Pへのスライド操作により、蓋体121及び切断刃123が採取管収容体120の遠位端から外側に突出した状態から脱して押し伸ばされた状態となり、遠位端開口部101を開放する。
【0031】
また、スライド制御部137は、好ましくは、本体130から遠位側Dに突出した平板状の突出片とすることができる。スライド制御部137は、ハンドル126の操作に際し、蓋体121及び採取管収容体120を各採取管110a、bに対して遠位端側D/近位端側Pにスライドさせる範囲を規制するために、細長孔(スロット)137aを有する。ハンドル126の操作によって、蓋体121を、採取管収容体120の遠位端開口部101を閉鎖/開放する位置に移動することが可能となる。
【0032】
[第2実施形態]
第2実施形態の腫瘍サンプラー100Aの構成について、図4及び5を用いて説明する。腫瘍サンプラー100Aは、ハンドル126の操作を規制する構造として、第1実施形態のスライド制御部137及び細長孔137aに加えて、各採取管110a、bの長手方向に対して交差する方向(上方)に延びるハンドル接触部138を備える。ハンドル接触部138は、遠位端側Dへのスライド限界位置で、ハンドル126の平面と接触してスライドを制限する。
【0033】
[腫瘍サンプラーの使用形態]
続いて、第1実施形態の腫瘍サンプラー100の使用形態について説明する。医師等が、腫瘍サンプラー100を操作し、患者の腫瘍から検体を採取する状況を想定する。なお、第2実施形態の腫瘍サンプラー100Aの使用形態は、第1実施形態のものと同様であるため説明を省略する。
【0034】
この場合、医師等は、例えば脳腫瘍等の摘出術の手術中に、腫瘍を有する組織1の表面に対し、腫瘍サンプラー100を図1の状態で配置する。この状態で、医師等は、採取管110a、bの遠位端開口部111を組織1に挿入する。なお、手術中、医師等は、好ましくは、腫瘍サンプラー100の挿入方向や深さについて、マーカーを用いた手術用ナビゲーションシステムによって確認することもできる。
【0035】
上述の挿入動作により、各採取管110a、b内には腫瘍検体が採取された状態となる。予め定めた位置まで各採取管110a、bが挿入された後、各採取管110a、bの位置を維持した状態で、医師等はハンドル126を採取管収容体120の遠位端側Pの方向にスライドさせる。
【0036】
このスライド操作により、蓋体121の切断刃123が、組織1とつながった腫瘍検体を斜めに切断しつつ、採取管収容体120の収容体開口部125を閉鎖する。また、採取管収容体120の収容体開口部125が閉鎖されるため、腫瘍検体は採取管収容体120に収容された各採取管110a、b内で保持される。腫瘍検体が各採取管110a、b内で保持された閉鎖状態(図1(b))で、組織1から腫瘍サンプラー100を術野外に移動する。
【0037】
その後、医師等は、閉鎖状態の腫瘍サンプラー100に対して、ハンドル126を近位端P方向に押すことにより、採取管収容体120を近位端方向にスライドさせて、蓋体121を開放状態(図1(a))とする。開放状態で、シリンジ結合部140に生理食塩水入りの注射器(シリンジ)が結合される。さらに、当該注射器から生理食塩水をシリンジ接続部140に向けて圧入させ、当該生理食塩水によって、各採取管110a、bの遠位端開口部111から腫瘍検体が押し出され採取される。
【0038】
この結果、各採取管110a、bから、柱状の腫瘍検体が採取される。各採取管110aから採取された検体の病理検査を行うと共に、必要に応じて採取管110bから採取された検体の遺伝子解析を行うことができる。
【0039】
[まとめ]
各実施形態における腫瘍サンプラーは、腫瘍から隣接する複数の検体を採取することにより、腫瘍を複数の採取管に対して横断的、複数の採取管に沿って連続的に採取することができる。これによって、腫瘍内不均一性の解析を可能とする。こうした腫瘍サンプラーは、種々の遺伝子プロファイルの細胞集団が不規則に発生、分布している腫瘍、つまり不均一性を示す腫瘍においても、検体を横断的、連続的に採取可能となる。
【0040】
こうした本発明の腫瘍サンプラーによれば、腫瘍内の位置情報を保った状態で、複数の検体、即ち、病理検査用検体と遺伝子検査用検体とを、隣接する部位から同時に採取することが可能である。そのため医師等は、当該腫瘍の部位に応じて、病理学的所見に対応した部位の遺伝子解析を行うことが可能である。また、病理所見に応じて、遺伝子解析を行う部位を後から選択して解析することも可能となる。
【0041】
また、当該腫瘍内における細胞集団の遺伝子プロファイルの分布や変遷を、上述の検体に基づき特定することで、腫瘍内クローン進化の解析を行うことも可能である。
【0042】
また、本腫瘍サンプラーを取り扱う医師等としてみれば、操作時の手技が簡便であって、腫瘍摘出操作に悪影響が及ぶ恐れがない。そのため、日常臨床でのルーチンの一環として負担無く使用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 組織
100 腫瘍サンプラー
111 遠位端開口部
110a 採取管
110b 採取管
120 採取管収容体
121 蓋体
123 切断刃
124 折れ曲り部
125 収容体開口部
126 ハンドル
130 本体
137 スライド制御部
140 シリンジ接続部
100A 腫瘍サンプラー
138 ハンドル接触部
図1
図2
図3
図4
図5
図6