(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102189
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス薬剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/30 20060101AFI20220630BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220630BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220630BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A61K33/30
A61P17/00 101
A61P43/00 121
A61K36/752
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216778
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】505172178
【氏名又は名称】株式会社シガドライウィザース
(74)【代理人】
【識別番号】100101823
【弁理士】
【氏名又は名称】大前 要
(74)【代理人】
【識別番号】100181412
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 康浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀彦
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB35
4C086ZC75
4C088AB62
4C088BA08
4C088MA06
4C088MA16
4C088MA63
4C088NA05
4C088ZA89
4C088ZB35
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】長期間にわたって高い抗菌・抗ウイルス活性を維持する抗菌・抗ウイルス薬剤を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛ナノ粒子と、柑橘類種子抽出物とが、水系の溶媒に分散されてなる抗菌・抗ウイルス薬剤であって、前記柑橘類種子抽出物の濃度が2500~10000ppmである、抗菌・抗ウイルス薬剤。水系の溶媒は、水に溶解させると一部ラクトン化する有機酸、好ましくはグルコン酸を含み、柑橘類種子抽出物は、グレープフルーツ種子抽出物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛ナノ粒子と、柑橘類種子抽出物とが、水系の溶媒に分散されてなる抗菌・抗ウイルス薬剤であって、
前記柑橘類種子抽出物の濃度が2500~10000ppmである、抗菌・抗ウイルス薬剤。
【請求項2】
前記水系の溶媒は、水に溶解させると一部ラクトン化する有機酸を含む、
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス薬剤。
【請求項3】
前記有機酸はグルコン酸であり、
抗菌・抗ウイルス薬剤は、5000~10000ppmのグルコン酸亜鉛を含む、
請求項2に記載の抗菌・抗ウイルス薬剤。
【請求項4】
前記柑橘類種子抽出物は、グレープフルーツ種子抽出物を含む、
請求項1、2又は3に記載の抗菌・抗ウイルス薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、殺菌やウイルスの不活性化を行う薬剤に関するものであり、詳しくは、長期間にわたって抗菌・抗ウイルスの活性が維持される抗菌・抗ウイルス薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、ウイルスなどによる感染症の予防は、生活の上で必須になってきている。
【0003】
感染症の予防には、手に触れるものをエタノールなどのアルコールなどによって消毒しておくことが有効である。しかしながらアルコールは、ノロウイルス等のエンベロープを有しないウイルスの不活性化ができない、短時間で揮発し効果が長続きしないなどの問題があった。
【0004】
また、次亜塩素酸水も広く利用されているが、殺菌に時間がかかる、持続的な殺菌やウイルスの不活性化を行うことができないなどの問題があった。
【0005】
ところで、本発明者らは、有機酸亜鉛を5000~10000ppmの濃度で含む薬剤が、鳥インフルエンザウイルスを不活性化する能力があることを見出し、ウイルス不活性化薬剤として利用することを提案した(特許文献1)。また、本発明者らは、この有機酸亜鉛を含む薬剤は、ウイルス以外に、各種の細菌・真菌に対しても抗菌力を有することを示している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-143875
【特許文献2】特開2015-113299
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近では多くの消毒薬剤が上市されているが、安全で且つ効果が長期間持続する消毒薬剤に対する要望はより高まっている。
【0008】
本発明は、長時間にわたって抗菌・抗ウイルス作用が持続する安心安全な抗菌・抗ウイルス薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本発明に係る抗菌・抗ウイルス薬剤は、酸化亜鉛ナノ粒子と、柑橘類種子抽出物とが、水系の溶媒に分散されてなる抗菌・抗ウイルス薬剤であって、前記柑橘類種子抽出物の濃度が2500~10000ppmである。
【0010】
酸化亜鉛粒子は、好ましくは直径が80nm以下、より好ましくは直径が40~70nmの超微粒子(ナノ粒子)とする。このような超微粒子状の酸化亜鉛は、水系の溶媒に良く分散する。ここで、金属イオンには、Hg>Ag>Cu>Zn>Fe>TiO2の順で殺菌力があるといわれている。このため、銀系抗菌剤が用いられることが多いが、酸化亜鉛を超微粒子にすることにより、銀に劣らない抗菌性を示すようになる。超微粒子の酸化亜鉛の抗菌メカニズムは銀イオンと同じと考えられ、金属の毒性、殺菌性によるものでなく、空気中あるいは水中の酸素の一部を活性酸素化し、ウイルスのエンベロープや細菌の細胞膜等を破壊すると考えられる。
【0011】
酸化亜鉛をナノ粒子として使用することにより、比表面積が大きくなり、ウイルスの表面での接触が拡大されて、ウイルスの増殖が抑制されると考えられる。なお、ウイルスの径は様々であるが、おおむね50~200nmである。ウイルスの径に近い、あるいはウイルスの径よりも小さい径を有する超微粒子の酸化亜鉛を選んで、水系の溶媒に分散させることにより、エンベロープの有無にかかわらずウイルスを不活性化することができる。
【0012】
また、柑橘類種子抽出物は、抗菌、抗ウイルス効果を有することが知られている。しかしながら、柑橘類種子抽出物の活性は、対象物に噴霧したり拭いたりした後には比較的短期間(およそ5~30日)でなくなってしまう。
【0013】
また、酸化亜鉛は柑橘類種子抽出物との反応性が低く、その効果を損なうような副生成物が生じることがない。
【0014】
さらに、酸化亜鉛は医薬品や日焼け止めなどに含まれる成分であり、また柑橘類種子抽出物は食品添加物として使用されている。つまり、これらの成分は人体に対する安全性に優れる。
【0015】
本発明では、酸化亜鉛ナノ粒子と、柑橘類種子抽出物とを組み合わせて用いているが、この構成によると、酸化亜鉛ナノ粒子単独、柑橘類種子抽出物単独よりも高い抗菌、抗ウイルス効果が、一か月以上の長期にわたって得られるようになる。これは、酸化亜鉛ナノ粒子が柑橘類種子抽出物の安定性を高めるように作用することによると考えられる。これにより、比較的低濃度の柑橘類種子抽出物を用いた、アルコールフリーで高い抗菌・抗ウイルス力を持続的に発揮する安全な抗菌・抗ウイルス薬剤を実現できる。
【0016】
上記水系の溶媒は、グルコン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、γ-ヒドロキシ酪酸、フマール酸等を含んだものとすることができ、中でも水に溶解させると一部ラクトン化する有機酸(γ-ヒドロキシ酪酸、グルコン酸など)を水に溶かしたものであることが好ましい。これらの有機酸は人体にとって有害ではないとともに、柑橘類種子抽出物の効果を高めるように作用する。
【0017】
ここで、酸化亜鉛ナノ粒子は有機酸水溶液中ではその一部が有機酸と反応して、有機酸亜鉛となり、水に溶解するようになる。これにより、次のような効果が得られる。
【0018】
ここでは、有機酸としてグルコン酸を用いた場合を例として説明する。酸化亜鉛はグルコン酸水溶液中ではその一部がグルコン酸と反応して、グルコン酸亜鉛(グルコン酸イオンと亜鉛イオン)となり、水に溶解するようになる。亜鉛イオンは銀イオンよりも殺菌力が弱いとされているが、酸化亜鉛微粒子とグルコン酸を反応させたグルコン酸亜鉛水溶液を用いると、亜鉛イオンとグルコン酸イオンとの相乗作用によって、銀に劣らない抗菌力・殺菌力を得られる。
【0019】
[化1]に示すように、グルコン酸は水に溶解させると、その一部がグルコノラクトンになる。これを平衡という。グルコノラクトンとグルコン酸の割合は、温度、濃度、pHなどによって変わるが、酸性にすると水中の酸が多くなるので、グルコノラクトンの割合が多くなる。アルカリ性にするとグルコン酸は塩になって安定化するので、グルコノラクトンの割合は少なくなる。平衡とは2つの水槽をチューブで連結したようなもので、左側の水槽に水を入れると、バランスを保つために水はチューブを通って右側に流れ、平衡になる。
【0020】
【0021】
酸化亜鉛ナノ粒子とグルコン酸の相乗効果について、さらに説明する。ウイルスは、カプシドというタンパク質の殻を有している。[化2]に示すように、タンパク質には酸性のアミノ酸と塩基性のアミノ酸が含まれているが、酸性のアミノ酸は、-COOHなどを持っており、マイナスイオン(COO-)になる。塩基性のアミノ酸は、-NH2を持っているので、プラスイオン(-NH3
+)になる。
【0022】
ここで、タンパク質中のプラスイオンが多かったり、マイナスイオンが多かったりするとタンパク質は水に溶け、マイナスとプラスのイオンが同じ(等電点)だと中性になり、電荷を持たないので水に溶けなくなる。タンパク質を構成要素とするウイルスを等電点にすると、ウイルスは水に溶けなくなり、ウイルス同士が凝集し合って不活性化すると考えられる。
【0023】
【0024】
酸化亜鉛ナノ粒子とグルコン酸(水に溶解させると一部がラクトン化する有機酸)とを反応させるとグルコン酸亜鉛が得られ、これが上記等電点の調整を行い、ウイルス相互を凝集させるとともに、ウイルスのエンベロープを破壊させるので、ウイルスが不活性化する。
【0025】
有機酸亜鉛の活性は、溶液中においては5000~10000ppm含まれる場合に抗ウイルス活性が高い。抗ウイルス活性の観点から、好ましくは6000~9000ppm、より好ましくは6500~8500ppmとする。
【0026】
また、柑橘類種子抽出物の濃度は、好ましくは3000~9000ppm、より好ましくは4000~7000ppmである。
【0027】
また、有機酸を含ませることがない場合、酸化亜鉛ナノ粒子の濃度は、好ましくは2000~20000ppm、より好ましくは3000~16000ppm、さらに好ましくは4000~12000ppmである。
【0028】
なお、1,3ジメチル-2-イミダゾリジンを有機酸亜鉛水溶液に添加すると、有機酸亜鉛の水への溶解度を増加させることができる。ここで、1,3ジメチル-2-イミダゾリジンは毒性を有しない点で好適である。
【0029】
ここで柑橘類とは、ミカン科のミカン属、キンカン属、カラタチ属、クリメニア属、エレモシトラス属、ミクロシトラス属からなる。例えば、ウンシュウミカン、グレープフルーツ、レモン、カボス、ライム、ナツミカン、ダイダイ、キンカン、ユズ等が含まれる。本発明では柑橘類について特に限定する必要はないが、中でもグレープフルーツ、ハッサク、ナツミカン、レモン、カボスが好ましく、グレープフルーツが最も好ましい。
【0030】
柑橘類の種子の抽出に用いる溶媒としては特に限定されることはなく、公知の抽出溶媒を適宜用いることができる。例えば、水、エタノール等のアルコール、ケトン、エーテル、飽和炭化水素、エステル、芳香族化合物などを、1種ないし2種以上混合して使用できる。また、異なる溶媒を用いて複数回の抽出を行ってもよい。
【0031】
また、柑橘類の種子は、抽出を行いやすくするために、粉砕等の前処理が行われていてもよい。
【0032】
また、抽出温度などの抽出雰囲気は特に限定されず、公知の抽出雰囲気で行えばよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明にかかる感染症予防薬剤によると、酸化亜鉛微粒子と柑橘類種子抽出物とが協働して、長期間にわたってウイルスの不活性化や抗菌を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤は、酸化亜鉛ナノ粒子と、2500~10000ppmの柑橘類種子抽出物とが、水系の溶媒に分散されてなる。
【0035】
水系の溶媒は、グルコン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸等の有機酸を含んでいてもよく、中でも水に溶解させると一部ラクトン化する有機酸(γ-ヒドロキシ酪酸、グルコン酸など)を含んでいることが好ましい。
【0036】
本発明によれば、酸化亜鉛を超微粒子(ナノ粒子)にすることにより、銀に劣らない抗菌性が得られる。
【0037】
また、グルコン酸などの水に溶解させると一部ラクトン化する有機酸を含んでいる場合には、酸化亜鉛ナノ粒子の一部がグルコン酸と反応してグルコン酸亜鉛となり、酸化亜鉛ナノ粒子がグルコン酸(水に溶解させると一部がラクトン化する有機酸)と反応し、グルコン酸亜鉛となり、これがウイルスの等電点の調整をうまく行ない、またウイルスのエンベロープを破壊させ、これを不活性化させる。
【0038】
また、柑橘類種子抽出物は、抗菌、抗ウイルス効果を有することが知られている。しかしながら、柑橘類種子抽出物の抗菌・抗ウイルス活性は比較的短時間(およそ5~30日)でなくなってしまう。
【0039】
本発明では、酸化亜鉛ナノ粒子と、柑橘類種子抽出物とを組み合わせて用いているが、この構成によると、酸化亜鉛ナノ粒子単独、柑橘類種子抽出物単独よりも高い抗菌、抗ウイルス効果が、1月以上の長期にわたって得られるようになる。
【0040】
抗菌・抗ウイルス薬剤は、例えば市販の柑橘類種子抽出物の溶液と、酸化亜鉛ナノ粒子とを混合し、適宜希釈することにより製造できる。ここで、グルコン酸を含んだ溶液に酸化亜鉛ナノ粒子を混合する場合、次のように行うことが好ましい。
【0041】
グルコン酸を40~50重量%含むグルコン酸水溶液に、酸化亜鉛ナノ粒子を、得られるグルコン酸亜鉛の濃度が5000~10000ppmになるように、室温で、温度を上昇させないように、かき混ぜて分散させる。グルコン酸水溶液に酸化亜鉛ナノ粒子を分散させていくと、発熱し、温度が上がり過ぎるとゲル化することが認められた。
【0042】
(実施例1)
直径50nm~70nmの酸化亜鉛ナノ粒子と、グレープフルーツ種子抽出物溶液(株式会社アデプト製Desfan-10)と、水と、を混合し分散させて、実施例1にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤を作成した。この薬剤の酸化亜鉛ナノ粒子の濃度は10000ppm、グレープフルーツ種子抽出物の濃度は5000ppmであった。なお、Desfan-10は、水90.5%、グリセリン6.2%、グレープフルーツ種子のエタノール抽出物3.3%により構成されているものである。
【0043】
(実施例2)
グルコン酸50%水溶液に、直径50nm~70nmの酸化亜鉛ナノ粒子を室温で、温度を上げないように、かき混ぜて分散させた。この後、グレープフルーツ種子抽出物溶液(株式会社アデプト製Desfan-10)と、水と、をさらに加えて、実施例2にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤を作成した。この薬剤のグルコン酸亜鉛の濃度は7500ppm、グレープフルーツ種子抽出物の濃度は5000ppmであった。
【0044】
(比較例1)
グレープフルーツ種子抽出物を加えないこと以外は上記実施例1と同様にして、比較例1にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤(酸化亜鉛ナノ粒子濃度が10000ppmの溶液)を作成した。
【0045】
(比較例2)
グレープフルーツ種子抽出物を加えないこと以外は上記実施例2と同様にして、比較例2にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤(グルコン酸亜鉛の濃度7500ppm)を作成した。
【0046】
(比較例3)
グレープフルーツ種子抽出物(株式会社アデプト製Desfan-10)を、濃度が5000ppmとなるように希釈したものを、比較例3にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤とした。
【0047】
(抗菌試験)
抗菌試験は、ハロー法(JIS L 1902)により行った。まず、市販のセルロース性のガーゼを円形にカットし、これに上記実施例1,2、比較例1~3にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤を1.0ml染み込ませた。試験菌(黄色ぶどう球菌)を含む寒天平板培地の中央部にこのガーゼを置き、37℃で24時間培養した。培養後の試料の発育阻止帯(ハロー)の有無により、抗菌性を評価した。なお、実施例1,2、比較例1~3いずれも、抗菌・抗ウイルス薬剤を浸透させて自然乾燥させた後のガーゼ(直後)と、抗菌・抗ウイルス薬剤を浸透後、25℃、湿度55%の恒温槽で30日保存した後のガーゼとを用いて試験を行った。この結果を下記表1に示す。
【0048】
【0049】
ここで、ハローの大きさを目視で確認したところ、直後においては実施例2>実施例1>比較例3>比較例2>比較例1、30日後においては実施例2>実施例1>比較例2>比較例1>比較例3であった。また、実施例2、実施例1、比較例2、比較例1について、直後と30日後でハローの大きさの違いは目視では確認できなかった。
【0050】
比較例3の結果から、グレープフルーツ種子抽出物単独でグルコン酸亜鉛より高い抗菌効果を有するものの、その効果は30日後にはほぼ失活していることが分かった。また、比較例1~3の結果から、酸化亜鉛ナノ粒子やグルコン酸亜鉛は長期間にわたって高い抗菌効果を有するものの、その効果はグレープフルーツ種子抽出物よりは小さいことが分かった。さらに、比較例1,2の結果から、グルコン酸亜鉛の効果は酸化亜鉛ナノ粒子よりも高いことが分かった。
【0051】
これらに対し、グレープフルーツ種子抽出物と酸化亜鉛ナノ粒子とを含んだ実施例1では、比較例1、2よりも高い効果が持続的に得られたことがわかる。これは、酸化亜鉛ナノ粒子がグレープフルーツ種子抽出物を安定させつつ両者の効果が発揮されたためと考えられる。
【0052】
また、グルコン酸とグレープフルーツ種子抽出物と酸化亜鉛ナノ粒子とを含んだ実施例2では、実施例1よりも高い効果が持続的に得られたことがわかる。これは、グルコン酸により酸化亜鉛ナノ粒子やグレープフルーツ種子抽出物の抗菌作用がさらに高められたためと考えられる。
【0053】
(コロナウイルスの不活性化試験)
実施例1,2、比較例1~3にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤0.9mlとネココロナウイルス(Feline enteric coronavirus, WSU 79-1683 1.3×105 EID50/0.1ml)0.1mlを加え、ボルテックスで混合し、室温(20℃)で10分間反応させた。試験品とウイルスとの混合液を、5倍希釈したSCDLP(Soybean-Casein Digest Broth with Lecithin & Polysorbate 80)で100倍に希釈し、反応を停止させ、ウイルス感染値測定試料を得た。なお、対照として、PBS(Phosphate buffered saline)を用いて同様に試験を行った。
【0054】
検査用の全ネコ胎児由来株化細胞を、あらかじめ96ウェルプレートに播種し、CO2インキュベータで4日培養した。この後、培養上澄みを除き、1%ウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(日水製薬製)に交換した。
【0055】
培養液を除いたウェルに、上記のウイルス感染値測定試料、あるいはこれをPBSで10倍に希釈したものを25μl接種し、37℃で1時間、ウイルスを細胞に感染させた。1時間後、ウイルス液を除去し、0.2%ウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(シグマアルドリッチ製)を各ウェルに0.1ml加え、CO2インキュベータで4日培養した。培養後、ウイルスの増殖来より生じた細胞変性効果を顕微鏡で確認し、ウイルス感染価をReed and Munchの方法により算出した。この結果を下記表2に示す。
【0056】
【0057】
この結果から、グルコン酸亜鉛とグレープフルーツ種子抽出物の両方を用いた実施例2では、対照と比べて約99.97%(3桁以上)ウイルス感染価を低減できており、ネココロナウイルスの抗ウイルス化に極めて有効であることが分かった。また、抗ウイルスの性能は、ハロー試験と同様に、実施例2>実施例1>比較例3>比較例2>比較例1であることが分かった。
【0058】
実施例2、比較例2、比較例3にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤を適宜希釈して、最小発育阻止濃度測定法I(抗菌製品協議会)に準拠して、各種の細菌に対する最小発育阻止濃度(グルコン酸亜鉛の濃度)を測定した。この結果、黄色ブドウ球菌(NBRC12732)、大腸菌(NBRC3972) 、大腸菌O157(ATCC43888)、サルモネラ菌(NRBC3313)、肺炎かん菌(ATCC4352)、緑膿菌(NRBC3080)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(IID1677)に対して、実施例2は比較例2、比較例3よりも低い最小発育阻止濃度(グルコン酸亜鉛又はグレープフルーツ種子抽出物の濃度)であった。
【0059】
この結果から、本発明にかかる抗菌・抗ウイルス薬剤は、グラム陰性菌、グラム陽性菌など、さまざまな細菌に対して高い抗菌効果を有することがわかる。この抗菌・抗ウイルス薬剤は、長期間にわたってその効果を持続するため、例えばカーテン、絨毯、壁紙、座椅子、テーブル、家具等、日常で使用する室内や車内等の構成部材やインテリア用品の抗菌・抗ウイルス化に高い効果を発揮できる。
【0060】
上記実施例では、有機酸としてグルコン酸、柑橘類種子抽出物としてグレープフルーツ種子抽出物を使用したものを用いたが、この発明はこれに限られるものでない。
【0061】
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る抗菌・抗ウイルス薬剤では、食品にも添加可能な安全な材料が使用されており、しかも長期間にわたって高い活性で抗菌・抗ウイルスを行うことができる。よって、その産業上の利用可能性は大きい。