(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102226
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】剥離フィルムおよび粘着体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220630BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20220630BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/00 M
C09J7/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216837
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】591143951
【氏名又は名称】ジェイフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】田中 一也
(72)【発明者】
【氏名】柴本 貴秋
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
【Fターム(参考)】
4F100AK04B
4F100AK06B
4F100AK52B
4F100AK62B
4F100AL05B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CB05C
4F100JA06
4F100JA13
4F100JK06
4F100JL14B
4F100YY00B
4J004AB01
4J004CA04
4J004CB03
4J004CC02
4J004DA02
4J004DB03
(57)【要約】
【課題】粘着剤などに対して優れた剥離性を有し、また非シリコーン系のため低分子量シリコーン化合物の粘着層へなどの移行によって生じる粘着力の阻害を防止する剥離フィルムの提供。
【解決手段】基材の少なくとも一方の面に剥離層を有する剥離フィルムであって、該剥離層を構成するポリエチレン系樹脂組成物のオリゴマー含有率が4.0質量%以上25.0質量%以下であり、かつ、シリコーン成分含有率が80ppb以下であることを特徴とする剥離フィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に剥離層を有する剥離フィルムであって、該剥離層を構成するポリエチレン系樹脂組成物のオリゴマー含有率が4.0質量%以上25.0質量%以下であり、かつ、シリコーン成分含有率が80ppb以下であることを特徴とする剥離フィルム。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂組成物が、オリゴマー含有率4.0質量%以上25.0質量%以下のポリエチレン系樹脂(A)を60質量%以上含む、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項3】
前記ポリエチレン系樹脂(A)が、エチレン-α-オレフィン共重合体であり、α-オレフィン単量体比率が20質量%以上45質量%以下である、請求項1または2に記載の剥離フィルム。
【請求項4】
前記ポリエチレン系樹脂(A)が、シングルサイト触媒を用いた重合体である、請求項1~3の何れかに記載の剥離フィルム。
【請求項5】
前記ポリエチレン系樹脂組成物が、高圧法低密度ポリエチレン系樹脂(B)を5質量%以上40質量%以下の割合で含む請求項1~4の何れかに記載の剥離フィルム。
【請求項6】
前記ポリエチレン系樹脂組成物が、シリコーン成分含有率10ppb以下である請求項1~5の何れかに記載の剥離フィルム。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の剥離フィルム、および、粘着層を備えた粘着フィルムを備え、前記剥離フィルムの前記剥離層に前記粘着フィルムの粘着層を密接させてなる粘着体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離フィルムおよびそれを用いた粘着体に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着テープ等の粘着体に用いられる剥離フィルムとして、基材の上にシリコーン系剥離剤層を設けた多層フィルムが一般的に用いられる。しかしながら、シリコーン系剥離剤は、剥離性能には優れるものの、低分子量シリコーン化合物の一部が粘着剤に移行する場合がある。低分子量シリコーン化合物が粘着剤に移行した場合、粘着力が低下するだけでなく、電子機器に使用される場合には、接点不良などの問題を生じる場合がある。
【0003】
そこで、シリコーン系剥離剤の代替として、長鎖アルキル系剥離剤、アルキド系剥離剤、フッ素系剥離剤等の非シリコーン系剥離剤が検討されている。しかしながら、長鎖アルキル系剥離剤及びアルキド系剥離剤は、その剥離強度が大きいため用途が限定的であり、またフッ素系剥離剤は剥離強度が小さいものの、高価であり大量生産に使用することが難しい。
【0004】
これらの問題を解決するため、特許文献1~4には、ポリオレフィン系剥離剤および剥離フィルムにかかる技術が開示されている。
例えば、特許文献1,2は、低速領域から高速領域にかけての剥離速度において軽剥離を達成した非シリコーン系剥離剤使用の粘着部材として、特許文献1には、ポリエチレンとエチレン・α-オレフィン共重合体の混合物からなる剥離層と、基材で支持した粘着層とを接着させた後、40~75℃の雰囲気下で6時間以上エージングさせて、粘着層をその支持基材と共に2m/分の速度で180度ピールした場合に、その剥離に要する力を0.5~5N/50mmに制御する粘着部材とその製造方法が開示されている。また、特許文献2には、温度上昇溶離分別法にて測定される30℃以下における溶出成分量が3重量%~30重量%である直鎖状エチレン系樹脂からなる剥離層と、基材で支持した粘着層とを接着させた後、55~75℃の雰囲気下で6時間以上エージングさせて、粘着層をその支持基材と共に2m/分の速度で180度ピールした場合に、その剥離に要する力を0.5~5N/50mmに制御する粘着部材とその製造方法が開示されている。なお、特許文献1、2において、「軽剥離」とは、重剥離に対する用語であって、剥離強度が比較的小さいことを意味する。
しかしながら、特許文献1,2の技術では、安定した軽剥離のための好適なエージング時間は10時間以上であり、経済性、生産性に支障のあるものであった(段落[0026](特許文献1)、段落[0031](特許文献2))。
【0005】
特許文献3には、剥離層にシリコーン系剥離剤を用いなくても、剥離層と感圧性接着剤層とがスムーズに剥離することができる剥離ライナーとして、剥離層がポリオレフィン系樹脂により形成され、剥離層表面が凹凸形状を有する剥離ライナーが開示されている。また、特許文献4には、ロール状に巻き取った状態で長期間保管した後でも、優れた剥離性能を有し、かつブロッキングが発生しない非シリコーン系剥離シートとして、剥離剤層がマルチサイト触媒を用いて重合された密度0.800~0.905g/cm3のポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含むポリオレフィン系樹脂組成物から形成され、ナノインデンテーション法により測定した表面から深さ50~1000nmの23℃における平均弾性率が0.1~0.3GPaであり、かつ表面に凹凸が形成されその表面粗さRa1が100~700nmである剥離シートが開示されている。
しかしながら、特許文献3,4の技術では、剥離層表面に凹凸を形成するために、剥離層が未硬化状態の時に凹凸彫刻を施した成形ロール等を用いて形成した後に硬化させる方法や、基材や下引き層などの所定の面上に表面が平面の剥離層を形成した後に凹凸形状を有するロール等を用いる方法、エンボス加工等によって表面に微細な凹凸が形成されたローラー等を溶融した剥離剤層に押し付ける方法などの治具、装置、工程が必要であり、経済性、生産性に課題があった。
またさらに、特許文献1~4に記載の技術においては、使用条件によっては安定した軽剥離性が得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-147294号公報
【特許文献2】特開2003-147295号公報
【特許文献3】特開2005-350650号公報
【特許文献4】WO2009-060924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情を鑑み、本発明の課題は、長時間の加熱エージングや表面凹凸加工の工程を用いなくとも、粘着剤等に対して優れた剥離性を有する非シリコーン系剥離フィルムを提供することにある。本明細書において、「非シリコーン系」とは、剥離層を構成する材料中のシリコーン成分含有率が以下に示す所定量以下であることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構成を採用することにより、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0009】
第1の本発明は、基材の少なくとも一方の面に剥離層を有する剥離フィルムであって、該剥離層を構成するポリエチレン系樹脂組成物のオリゴマー含有率が4.0質量%以上25.0質量%以下であり、かつ、シリコーン成分含有率が80ppb以下であることを特徴とする剥離フィルムである。
【0010】
第1の本発明において、前記ポリエチレン系樹脂組成物が、オリゴマー含有率4.0質量%以上25.0質量%以下のポリエチレン系樹脂(A)を60質量%以上含むことが好ましい。
【0011】
第1の本発明において、前記ポリエチレン系樹脂(A)が、エチレン-α-オレフィン共重合体であり、α-オレフィン単量体比率が20質量%以上45質量%以下であることが好ましい。
【0012】
第1の本発明において、前記ポリエチレン系樹脂(A)が、シングルサイト触媒を用いた重合体であることが好ましい。
【0013】
第1の本発明において、前記ポリエチレン系樹脂組成物が、高圧法低密度ポリエチレン系樹脂(B)を5質量%以上40質量%以下の割合で含むことが好ましい。
【0014】
第1の本発明において、前記ポリエチレン系樹脂組成物が、シリコーン成分含有率10ppb以下であることが好ましい。
【0015】
第2の本発明は、第1の本発明の剥離フィルム、および、粘着層を備えた粘着フィルムを備え、前記剥離フィルムの前記剥離層に前記粘着フィルムの粘着層を密接させてなる粘着体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の剥離フィルムおよび粘着体は、粘着剤などに対して優れた剥離性を有し、また非シリコーン系であるので低分子量シリコーン化合物の粘着層への移行によって生じる粘着力の阻害を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「主成分として構成される」とは、各層を構成する樹脂の作用・効果を妨げない範囲で、他の成分を含むことを許容する趣旨である。さらに、この用語は、具体的な含有率を制限するものではないが、各層の構成成分全体の50質量%以上100質量%以下、好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは85質量%以上100質量%以下を意味する。
【0019】
<剥離フィルム10>
図1に本発明の剥離フィルム10の概略図を示す。本発明の剥離フィルム10は、基材12の少なくとも一方の面に剥離層14を有する(以下、本発明の剥離フィルムを本発明のフィルムと称することがある)。
(剥離層14)
剥離層14はポリエチレン系樹脂組成物からなり、ポリエチレン系樹脂組成物を100質量%とした場合にオリゴマー含有率が4.0質量%以上25.0質量%以下である。オリゴマー含有率の下限は、5.0質量%以上が好ましく、7.0質量%以上がより好ましく、10.0質量%以上が更に好ましい。一方、オリゴマー含有率の上限は23.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以下がより好ましい。オリゴマーは、時間経過、加温により剥離層表面に偏析し易く、表面オリゴマーの存在により、剥離層14に密接して形成される粘着層との密着性が低減する。そのため、剥離層14のオリゴマー含有率が4.0質量%以上であることによって、軽剥離性が良好となる。他方、オリゴマー含有率が25.0質量%以下であることによって、粘着剤へのオリゴマーの過剰な移行による粘着力の低下を生じ難い。
ここで、「軽剥離性」とは、剥離層14と粘着層との間の剥離力が小さいことを意味し、「軽剥離性が良好である」とは、以下に示す所定値以下の剥離強度(N/50mm)であることを意味する。
【0020】
ポリエチレン系樹脂組成物のオリゴマー含有率は、パージ&トラップサンプラーを取り付けたガスクロマトグラフを用いるガスクロマトグラフィー質量分析法(PT-GC/MS)で測定できる。パージ&トラップサンプラーの加熱条件は120℃、30分であり、ガスクロマトグラフィーは、カラム温度40℃、3分間保持後、10℃/minで280℃まで昇温し、さらに昇温速度20℃/minで320℃まで昇温し5分間保持し、検出されたオリゴマー成分の定量を行う。
【0021】
・ポリエチレン系樹脂(A)
本発明のフィルムの剥離層14を構成するポリエチレン系樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂組成物を100質量%とした場合に、オリゴマー含有率4.0質量%以上25.0質量%以下のポリエチレン系樹脂(A)(以下、樹脂(A)と称することがある)を60質量%以上含むことが好ましい。ポリエチレン系樹脂(A)のオリゴマー含有率の下限は、5.0質量%以上が好ましく、7.0質量%以上がより好ましく、10.0質量%以上が更に好ましい。一方、オリゴマー含有率の上限は23.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以下がより好ましい。オリゴマー成分の含有率がかかる範囲内にあるポリエチレン系樹脂(A)を用いることで、優れた剥離性が得られ易い。
【0022】
ポリエチレン系樹脂(A)の種類として、特に限定されるものではないが、例えば、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)、中密度ポリエチレンなどが挙げられる。中でも、直鎖状低密度ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)を用いることが好ましい。これらは1種のみを単独で用いられてもよく、また2種類以上が混合されて使用されてもよい。
【0023】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレンとα-オレフィンとの共重合体である。ここで、エチレンと共重合するα-オレフィンの種類は、特に限定されるものではないが、通常、炭素数が3~20のα-オレフィンが好適に用いられ、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、3-メチル-ブテン-1、4-メチル-ペンテン-1等が例示される。本発明においては、工業的な入手のしやすさ、経済性等の観点から、α-オレフィンとして1-ブテン、1-オクテン、又は1-ヘキセンを共重合成分とする共重合体が好ましい。エチレンと共重合するα-オレフィンは1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0024】
エチレン-α-オレフィン共重合体のα-オレフィン単量体比率は、20質量%以上45質量%以下であることが好ましい。α-オレフィン単量体比率の下限は22質量%以上であることがより好ましい。α-オレフィン単量体比率の上限は42質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。α-オレフィンの単量体比率をかかる範囲内とすることで、ポリエチレン系樹脂(A)のオリゴマー含有率を適度にすることが可能となる。なお、ポリエチレン系樹脂(A)のα-オレフィンの組成及び含有量は、周知の方法、例えば、核磁気共鳴測定装置、その他の機器分析装置で分析することができる。
【0025】
本発明に用いるエチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレンおよびα-オレフィン以外の単量体に基づく単量体単位を含有していてもよい。該単量体としては、例えば、環状オレフィン、スチレン等のビニル芳香族化合物、ポリエン化合物等が挙げられる。該単量体単位の含有量は、エチレン-α-オレフィン共重合体中の全単量体単位を100質量%とした場合、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。また、エチレン-α-オレフィン共重合体の立体構造、分岐、分岐度分布、分子量分布や、ランダム、ブロック等の共重合形式は、特に制限されるものではないが、例えば、長鎖分岐を有する共重合体は、一般に機械物性が良好であり、また、ポリエチレン系樹脂(A)、ポリエチレン系樹脂組成物を押出ラミネートする際の溶融張力(メルトテンション)が高くなりフィルム製膜性が向上するなどの利点がある。長鎖分岐を有する共重合体における長鎖とは、一般に、炭素数6以上からなる分子鎖を云う。
【0026】
ポリエチレン系樹脂(A)の密度は、結晶性とオリゴマー量の関係から850~900kg/m3が好ましく、865~895kg/m3がより好ましく、870~890kg/m3がさらに好ましい。JIS K 6922-1,2:2018に準じて測定される。
ポリエチレン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、製膜性の観点から、3.0g/10min以上、40g/10min以下であることが好ましく、3.5g/10min以上、38g/10min以下であることがより好ましい。該MFRは、JIS K7210-1:2014に準じ、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定される。
【0027】
本発明に用いるポリエチレン系樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のエチレン重合用触媒を用いた公知の重合方法が採用できる。公知の重合方法として、例えば、チーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒や、メタロセン系触媒やポストメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、気相重合法等、また、ラジカル開始剤を用いた塊状重合法等が挙げられる。本発明においては、重合後の造粒(ペレタイズ)のし易さや原料ペレットのブロッキング防止等の観点から、低分子量の成分が少なく分子量分布の狭い原料が重合できるシングルサイト触媒を用いた重合方法を用いてポリエチレン系樹脂(A)を製造することが好ましい。
【0028】
・高圧法低密度ポリエチレン系樹脂(B)
本発明のフィルム10の剥離層14を構成するポリエチレン系樹脂組成物は、高圧法低密度ポリエチレン系樹脂(B)(以下、樹脂(B)と称することがある)を含有しても良い。高圧法低密度ポリエチレン系樹脂(B)は、特に限定されないが、高圧法で製造された低密度のポリエチレン樹脂であり、繰り返し単位のエチレンがランダムに分岐を持って結合し、長鎖分岐を有するポリエチレン系樹脂である。高圧法低密度ポリエチレン系樹脂を含有すると溶融張力を向上させることができ、フィルムの製膜性が良好になる。
【0029】
高圧法低密度ポリエチレン系樹脂(B)の密度は、好ましくは910~929kg/m3であり、より好ましくは915~925kg/m3である。なお、密度は、JIS K 6922-1,2:2018に準じて測定される。
また、前記高圧法低密度ポリエチレン系樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)は4.0g/10min以上、15g/10min以下であることが好ましく、6.0g/10min以上、10g/10min以下であることがより好ましい。なお、MFRは、JIS K7210-1:2014に準じて、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定される。
【0030】
高圧法低密度ポリエチレン系樹脂(B)の製造方法は、一般に公知の方法が使用できる。一般に100~300℃、100~350MPaの高温高圧下でパーオキサイド等の遊離基発生剤の存在下でエチレン及びα-オレフィンをオートクレーブ又はチューブリアクター等で重合することにより製造することができる。
【0031】
(剥離層14の組成、シリコーン含有率)
剥離層14を構成するポリエチレン系樹脂組成物を100質量%とする場合、ポリエチレン系樹脂(A)と高圧法低密度ポリエチレン系樹脂(B)との質量組成比、樹脂(A):樹脂(B)は、60~100:0~40が好ましく、60~95:5~40がより好ましく、70~95:5~30が更に好ましい。かかる組成比範囲において剥離性と製膜性を両立させることができる。
【0032】
剥離層14を構成するポリエチレン系樹脂組成物のシリコーン含有率は、80ppb以下が好ましく、50ppb以下がより好ましく、30ppb以下が更に好ましく、10ppb以下が特に好ましい。一般的な非シリコーン系剥離フィルムの剥離層のシリコーン含有率は100ppb程度以下であるが、シリコーンが含有されると低分子量シリコーン成分が粘着層に移行するため、粘着体を電気部材に用いたり、或いは電気部材を作製する工程に用いたりすると、電気部材の不良を引き起こす懸念がある。そのため、剥離層を構成するポリエチレン系樹脂組成物のシリコーン含有率は低いほど良い。
シリコーン含有率の測定は、パージ&トラップサンプラーを取り付けたガスクロマトグラフを用いるガスクロマトグラフィー質量分析法(PT-GC/MS)で測定した。パージ&トラップサンプラーの加熱条件は120℃、30分であり、ガスクロマトグラフィーでは、カラム温度40℃、3分間保持した後、10℃/minで280℃まで昇温し、さらに昇温速度20℃/minで320℃まで昇温した後、5分間保持し、検出されたシリコーン成分の定量を行った。
【0033】
剥離層14の厚みは、特に制限はないが、粘着層との密着性および剥離性、更にコストの面から、例えば5~50μmが好ましく、10~40μmがより好ましく、15~30μmが更に好ましい。
【0034】
(他の層)
本発明のフィルム10は、少なくとも基材12の一方の面に剥離層14を有すればよく、基材12と剥離層14との間に不図示の他の層を有しても良い。
例えば、基材12と剥離層14との間の密着性を向上する目的で、剥離層14を形成する側の基材12表面にアンカーコート層を設けることができる。アンカーコート層は、一般の押出ラミネートに用いる成分、手法、厚みを適用することができる。
また、基材12或いはアンカーコート層と剥離層14との間の接着性向上の目的等で、他の樹脂層を設けることもできる。他の樹脂層の成分は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられ、層間接着力の観点から低密度ポリエチレン系樹脂を好適に用いることができる。他の樹脂層の厚みは、特に制限はないが、基材12と剥離層14との密着性や、剥離層14への弾性の寄与の観点から、例えば3~30μmが好ましく、5~25μmがより好ましく、10~20μmが更に好ましい。他の樹脂層は、シリコーン成分を含まないことが好ましい。
【0035】
(基材12)
本発明のフィルム10に用いる基材12は、特に制限はないが、例えば、プラスチックフィルム、紙、およびこれらの複合体を用いることができる。プラスチックフィルムとしては、張り、機械的強度、汎用性の点から、ポリエチレンテレフタレートが好適である。基材12は、シリコーン成分を含まないことが好ましい。厚みはハンドリング性に合わせ適宜選定でき、例えば、20~50μmとすることができる。
【0036】
本発明のフィルム10は、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、成形加工性、生産性、意匠性等の諸性質を改良・調整する目的で、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤などの添加剤を、剥離層14、他の層、基材12に適宜添加できる。
【0037】
<離型フィルム10の製造方法>
本発明のフィルム10は、基材12に対して剥離層14を公知の押出ラミネート法で形成して作製できる。上述の他の樹脂層を設ける場合は、公知のタンデム押出ラミネート法を用いて作製でき、例えば、他の樹脂層に高圧低密度ポリエチレンを用いる場合は押出温度280~350℃、剥離層14を押出温度240~300℃の条件で作製できる。
【0038】
<粘着体100>
本発明のフィルム10は、剥離層14表面に、粘着フィルム20の粘着層24表面を対面させて貼合することにより、粘着テープ、粘着シート等の粘着体100を作製できる。
図2に、本発明の剥離フィルム10、および、粘着層24を備えた粘着フィルム20を備え、前記剥離フィルム10の前記剥離層14に前記粘着フィルム20の粘着層24を密接させてなる粘着体100の概略図を示す。
粘着フィルム20は、公知のものを用いることができ、例えば粘着フィルムの基材22にアクリル系粘着剤を塗布乾燥させて粘着層24を形成したものである。粘着フィルムの基材、粘着層は、シリコーン成分を含まないことが好ましい。粘着フィルムの基材22は、特に限定されず、例えば、プラスチックフィルム、紙、およびこれらの複合体を用いることができ、プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートが好適である。
【0039】
(剥離性)
本発明のフィルムは軽剥離性が良好であり、以下の方法で測定される剥離強度の上限は0.8N/50mm以下が好ましく、0.5N/50mmがより好ましく、0.3N/50mmがさらに好ましい。下限は0.05N/50mm以上が好ましく、0.08N/50mm以上がより好ましく、0.1N/50mm以上が更に好ましい。
剥離強度は以下の方法で測定される。測定に用いる粘着フィルムは、日東電工社製ポリエステルテープNO.31Bである。幅50mm、長さ200mm程度に切り出した剥離フィルム10と粘着フィルム20を用い、ステンレス板/両面テープ/剥離フィルム(基材12/剥離層14)/粘着フィルム(粘着層24/基材22)の順になるように重ね合わせ、また、この際に剥離フィルム10と粘着フィルム20との端部に剥離シロを残しておき、粘着フィルムの基材22面から重さ1kgのローラーを約300mm/minの速度で一往復させて圧着する。次いで、23℃で30分間静置し、試験体を作製する。23℃雰囲気下で、試験体のステンレス板側を引張試験機に固定し、剥離フィルム10の剥離層14と粘着フィルム20の粘着層24との間を、剥離速度300mm/min、剥離角度180°の条件で剥離試験を行う。試験体3個について測定を行い、平均値を剥離強度の値とする。
【実施例0040】
以下、本発明のフィルムの実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
<評価方法>
以下の実施例および比較例で作製されるポリエチレン系樹脂組成物およびポリエチレン系樹脂組成物フィルムについて、以下のように測定及び評価を行った。
【0042】
(1)シリコーン成分含有率(ppb)、オリゴマー含有率(質量%)
実施例、比較例で作製したポリエチレン系樹脂組成物について、パージ&トラップサンプラーを取り付けたガスクロマトグラフを用いるガスクロマトグラフィー質量分析法(PT-GC/MS)で測定した。パージ&トラップサンプラーの加熱条件は120℃、30分であり、ガスクロマトグラフィーでは、カラム温度40℃、3分間保持した後、10℃/minで280℃まで昇温し、さらに昇温速度20℃/minで320℃まで昇温した後、5分間保持し、検出されたシリコーン成分、オリゴマー成分をそれぞれ定量し、ポリエチレン系樹脂組成物に対する含有率を求めた。
【0043】
(2)剥離強度
実施例、比較例で作製したポリエチレン系樹脂組成物フィルムを、模擬的に剥離フィルムとして用い、剥離強度を測定した。粘着フィルムには、日東電工社製ポリエステルテープNO.31Bを用いた。ポリエチレン系樹脂組成物フィルムおよび粘着フィルムを、それぞれ幅方向に50mm、長さ方向に200mm程度に切り出し、両者の幅方向と長さ方向を揃えて、ステンレス板/両面テープ/ポリエチレン系樹脂組成物フィルム/粘着フィルム(粘着層/基材)の順になるように重ね合わせ、この際にポリエチレン系樹脂組成物フィルムと粘着フィルムとの端部に剥離シロを残しておき、粘着フィルムの基材面から重さ1kgのローラーを約300mm/minの速度で一往復させて圧着し、次いで23℃で30分間静置して試験体を作製した。23℃雰囲気下で、試験体のステンレス板側を引張試験機に固定し、ポリエチレン系樹脂組成物フィルムと粘着フィルムの粘着層との間を剥離速度300mm/min、剥離角度180°の条件で剥離試験を行った。試験体3個について測定し、平均値を剥離強度の値とした。
軽剥離性として、剥離強度の上限は0.8N/50mm以下が好ましく、0.5N/50mmがより好ましく、0.3N/50mmがさらに好ましい。下限は0.05N/50mm以上が好ましく、0.08N/50mm以上がより好ましく、0.1N/50mm以上が更に好ましい。
【0044】
<使用した材料>
実施例、比較例に用いたポリエチレン系樹脂の略号と組成、物性は下記の通りである。密度は、JIS K 6922-1,2:2018に準じて測定された値である。メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210-1:2014に準じ、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定された値である。
【0045】
PE-1:エチレン-1-オクテンランダム共重合体、メタロセン触媒使用、密度870kg/m3、MFR5.0g/10min、1-オクテン単量体比率38質量%
PE-2:エチレン-1-ブテンランダム共重合体、密度870kg/m3、MFR35g/10min、1-ブテン単量体比率24質量%
PE-3:エチレン-1-ブテンランダム共重合体、密度870kg/m3、MFR3.6g/10min、1-ブテン単量体比率28質量%
PE-4:エチレン-1-オクテンランダム共重合体、メタロセン触媒使用、密度885kg/m3、MFR30g/10min、1-オクテン単量体比率29質量%
PE-5:低密度ポリエチレン、高圧法、密度918kg/m3、MFR8.4g/10min
PE-6:直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒使用、密度919kg/m3、MFR6.0g/10min
PE-7:エチレン-1-ブテンランダム共重合体、高圧法、密度895kg/m3、MFR10g/10min、1-ブテン単量体比率16質量%
【0046】
(実施例1)
40mmφ単軸押出機を用いてPE-1を160℃で溶融混練した後、Tダイより押出した。次いで約20℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み0.1mmのポリエチレン系樹脂組成物フィルムを作製した。
【0047】
(実施例2)
実施例1においてPE-1の代わりにPE-1とPE-5を混合質量比80:20の樹脂組成物を用いた以外は同様の方法でフィルムを作製した。
【0048】
(実施例3)
実施例1においてPE-1の代わりにPE-2を用いた以外は同様の方法でフィルムを作製した。
【0049】
(実施例4)
実施例1においてPE-1の代わりにPE-3を用いた以外は同様の方法でフィルムを作製した。
【0050】
(実施例5)
実施例1においてPE-1の代わりにPE-4を用いた以外は同様の方法でフィルムを作製した。
【0051】
(比較例1)
実施例1においてPE-1の代わりにPE-6を用いた以外は同様の方法でフィルムを作製した。
【0052】
(比較例2)
実施例1においてPE-1の代わりにPE-7を用いた以外は同様の方法でフィルムを作製した。
【0053】
【0054】
実施例1~5は、ポリエチレン系樹脂組成物のオリゴマー含有率が4.0~25.0質量%であり、剥離強度が0.8N/50mm以下と軽剥離性が大変良好であった。中でも、実施例1~4は、オリゴマー含有率が5.0質量%以上で、剥離強度0.3N/50mm以下を示した。また、実施例1~5は、いずれもシリコーン含有率が10ppb以下と大変低く、非シリコーン系剥離フィルムとしての用途に高い適性を持つ。
比較例1は、オリゴマー含有率が4.0質量%未満と低く、粘着層との剥離強度が0.8N/50mm超と軽剥離性が不十分であった。
比較例2は、オリゴマー含有率が4.0質量%以上であり、剥離強度が0.8N/50mm以下と良好であるが、シリコーン含有率が100ppb以上と高く、例えば電子機器に係る使用には問題がある。
本発明の剥離フィルムは、長時間の加熱エージングや表面凹凸加工の工程を用いなくとも、粘着剤等に対して優れた剥離性を示すので、生産性、経済性に有効であり、また、非シリコーン系剥離フィルムであるため、電気部材に用いたり、電気部材を製造する工程で用いたりすることもできる。