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特開2022-102241加工プラスチック材の製造方法及び加工プラスチック材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102241
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】加工プラスチック材の製造方法及び加工プラスチック材
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20220630BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20220630BHJP
   B32B 37/00 20060101ALI20220630BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220630BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220630BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220630BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220630BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20220630BHJP
   B23K 26/50 20140101ALI20220630BHJP
【FI】
B29C65/16
C08J7/04 Z
B32B37/00
B32B27/36 102
B32B27/34
B32B27/36
B32B27/30 102
B32B27/32 Z
B32B27/28 101
B23K26/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216863
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】小野澤 明良
【テーマコード(参考)】
4E168
4F006
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
4E168AE05
4E168DA03
4E168DA32
4E168DA40
4E168JA17
4F006AA35
4F006AB35
4F006EA03
4F006EA04
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK07B
4F100AK23A
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK45A
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100AK68B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100EC03C
4F100EH46
4F100EJ52
4F100GB32
4F100GB41
4F100JA11B
4F211AA10
4F211AA11
4F211AA23
4F211AA24
4F211AA25
4F211AA28
4F211AA29
4F211TA01
4F211TD11
4F211TN27
4F211TW31
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安価に、簡易な装置で簡便にプラスチック材を塗工可能に改質でき、ムラなく、安定して塗工可能に表面を改質できる加工プラスチック材の製造方法、及び加工プラスチック材を提供する。
【解決手段】プラスチック材10にフィルム20を重ね合わせて重合物を得る重合工程と、上記重合物における上記フィルム側からレーザー照射を行い、上記プラスチック材及び上記フィルムを一体化する照射工程とを有する加工プラスチック材1の製造方法。上記プラスチック材は、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアミド6、ポリアミド66又はポリブチレンテレフタレートを原材料として形成されているプラスチック材であるのが好ましく、上記フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、又はエチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム等の結晶性フィルムであるのが好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材にフィルムを重ね合わせて重合物を得る重合工程と、
上記重合物における上記フィルム側からレーザー照射を行い、上記プラスチック材及び上記フィルムを一体化する照射工程と
を有する加工プラスチック材の製造方法。
【請求項2】
上記プラスチック材が、
ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアミド6、ポリアミド66又はポリブチレンテレフタレートを原材料として形成されているプラスチック材である
請求項1記載の加工プラスチック材の製造方法。
【請求項3】
上記フィルムが結晶性フィルムである
請求項1又は2記載の加工プラスチック材の製造方法。
【請求項4】
上記結晶性フィルムが、
ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、又はエチレン・酢酸ビニル共重合体フィルムである
請求項3記載の加工プラスチック材の製造方法。
【請求項5】
上記レーザー照射において使用されるレーザーのエネルギーが0.35~1.0J/mm2となるように照射を行う
請求項1~4のいずれかに記載の加工プラスチック材の製造方法。
【請求項6】
更に、照射工程終了後に、上記フィルム表面にコーティング剤を塗布し、次いで乾燥させるコーティング工程を有する、
請求項1~5のいずれかに記載の加工プラスチックの製造方法。
【請求項7】
プラスチック材の表面にフィルムが、両者を溶着させてなる溶着層を介して一体化されてなる加工プラスチック材であって、
上記溶着層の厚みが30~70μmであり、Sa(表面粗さ)が3~100μmである加工プラスチック材。
【請求項8】
さらに、フィルムの表面に、コーティング層を有する請求項7記載の加工プラスチック材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価に、簡易な装置で簡便にプラスチック材を塗工可能に改質でき、ムラなく、安定して塗工可能に表面を改質できる加工プラスチック材の製造方法、及び加工プラスチック材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックは、電気・電子分野、自動車分野などで金属代替用樹脂に加え、日用品などのパーツとして使用されている。
これらのエンジニアリングプラスチックに対しては、塗装による意匠性付与の需要が増加しているが、塗料が難付着性であるため種々の前処理を行わなければならないという問題がある。
かかる前処理としては、研磨による機械的処理、クロム酸混液による化学処理、プラズマ処理、コロナ処理等による表面改質処理が用いられている。
しかし、各種処理方法ともに研磨ムラ、処理ムラ、廃液処理などの問題があり、安定した塗装製品を得ることが難しいという問題があった。具体的には、機械的処理は、形状によっては処理そのものが困難であり、研磨の仕方によって研磨ムラが発生し塗膜の付着性が低下することがある。プラズマ処理、コロナ処理などの表面改質処理は、設備費が高く、安価で処理ができず、処理してもムラが発生してしまう課題がある。さらに処理後、すぐに塗装をしないと付着不良になる問題がある。化学処理は、安価で処理できる手法であるがクロム酸やパークロルエチレンなどの薬品を使用するため、処理液や洗浄工程等に排出される廃液や臭気などの環境負荷に対して問題がある。また洗浄処理工程で、素材の洗浄をしっかり行わないと、塗装後、塗膜の付着不良になるケースがある。
このことから、安定した塗装製品を得ることは難しく、新たな前処理方法の開発が求められている。
また、エンジニアリングプラスチックを種々ポリマー材料と溶着させる技術として、例えば特許文献1においては、ステントバルブに用いられるポリマー材料をポリエチレンテレフタレート等が含まれるファブリック繊維に、レーザーを用いて溶着させる技術が提案されている。また、特許文献2においては、ポリアセタール等とポリエチレンテレフタレート等とをレーザー溶着させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-504972号公報
【特許文献2】特表2020-520336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の提案は、ごく一部分のみの溶着であり、ポリマー材料全体を改質するものではない。
また、特許文献2の提案は、単にポリアセタールなどのエンジニアリングプラスチックと他のポリマー材料とを溶着させるというものであり、エンジニアリングプラスチックの表面全面を改質するものではなかったため、未だ表面改質の技術としては不十分であった。
要するに、種々形状のプラスチック成形体の表面を塗工可能に改質する技術としては、安価に、簡易な装置で簡便に改質でき、ムラなく、安定して塗工可能に表面を改質できる技術が未だ提案されていないのが現状である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、安価に、簡易な装置で簡便にプラスチック材を塗工可能に改質でき、ムラなく、安定して塗工可能に表面を改質できる加工プラスチック材の製造方法、及び加工プラスチック材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、レーザー溶着技術を応用してプラスチック材の表面を改質可能であることに着目し、鋭意検討した結果本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.プラスチック材にフィルムを重ね合わせて重合物を得る重合工程と、
上記重合物における上記フィルム側からレーザー照射を行い、上記プラスチック材及び上記フィルムを一体化する照射工程と、を有する加工プラスチック材の製造方法。
2.上記プラスチック材が、
ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアミド6、ポリアミド66又はポリブチレンテレフタレートを原材料として形成されているプラスチック材である1記載の加工プラスチック材の製造方法。
3.上記フィルムが結晶性フィルムである1又は2記載の加工プラスチック材の製造方法。
4.上記結晶性フィルムが、
ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、又はエチレン・酢酸ビニル共重合体フィルムである3記載の加工プラスチック材の製造方法。
5.上記レーザー照射において使用されるレーザーのエネルギーが0.35~1.0J/mm2となるように照射を行う1~4のいずれかに記載の加工プラスチック材の製造方法。
6.更に、照射工程終了後に、上記フィルム表面にコーティング剤を塗布し、次いで乾燥させるコーティング工程を有する、1~5のいずれかに記載の加工プラスチックの製造方法。
7.プラスチック材の表面にフィルムが、両者を溶着させてなる溶着層を介して一体化されてなる加工プラスチック材であって、上記溶着層の厚みが30~70μmであり、Sa(表面粗さ)が3~100μmである加工プラスチック材。
8.さらに、フィルムの表面に、コーティング層を有する7記載の加工プラスチック材。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加工プラスチック材の製造方法によれば、安価に、簡易な装置で簡便にプラスチック材を塗工可能に改質でき、ムラなく、安定して塗工可能に表面を改質できる。
また、本発明の加工プラスチック材は、表面に種々塗料を、容易に塗工可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の製造方法において用いられる治具を示す分解斜視図である。
図2図2は、本発明の加工プラスチック材の1実施形態を模式的に示す側面図である。
図3図3(a)~(k)は、それぞれ、実施例1~11で得られた加工プラスチック材の表面の拡大写真(図面代用写真)である。
図4図4は、(a)~(d)は、それぞれ、実施例12~15で得られた加工プラスチック材の拡大写真(図面代用写真)である。
図5図5は、(a)~(d)は、それぞれ、実施例16~19で得られた加工プラスチック材の拡大写真(図面代用写真)である。
図6図6は、(a)~(d)は、それぞれ、実施例20~23で得られた加工プラスチック材の拡大写真(図面代用写真)である。
図7図7は、フィルムの波長と透過率との関係を示すチャートである。
【符号の説明】
【0009】
1 加工プラスチック材、10プラスチック材、20フィルム、30溶着層、40コーティング層
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
まず、本発明の加工プラスチック材の製造方法について説明した後、本発明の加工プラスチック材について説明する。
<製造方法>
本発明の加工プラスチック材の製造方法は、プラスチック材にフィルムを重ね合わせて重合物を得る重合工程と、上記重合物における上記フィルム側からレーザー照射を行い、上記プラスチック材及び上記フィルムを一体化する照射工程とを行うことにより、実施することができる。
また、本発明においては、上記の各工程に加えて更に、フィルム表面にコーティング剤を塗工する塗工工程を行うこともできる。
以下、まず本実施形態において用いることのできる材料について説明した後、各工程について説明する。
【0011】
〔プラスチック材〕
本発明において用いられる上記プラスチック材としては、強度及び耐熱性に優れた、いわゆるエンジニアリングプラスチックと言われるプラスチック材等が挙げられ、具体的には、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアミド6、ポリアミド66又はポリブチレンテレフタレート等の原材料を用いて形成されてなるプラスチック材を好ましく用いることができる。
上記プラスチック材は、上記原材料のみにより形成されているものでもよいが、通常エンジニアリングプラスチックにおいて用いられる種々添加剤を、通常用いられる範囲で含有させたものでもよい。
本発明において用いられる上記プラスチック材の形状は、板状体、四面体、球体、楕円形の球体、錐体等所定形状に成形されている成形体等、種々形状のものとすることができる。
上記プラスチック材の色は、レーザーのエネルギーを吸収しやすい色が好ましく、明度の低い黒あるいは黒に近い濃色であることがより好ましい。
〔フィルム〕
本発明において用いられる上記フィルムは、融点のある結晶性フィルムであるのが好ましい。この際用いられる結晶性フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム又はエチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム等を挙げることができる。上記結晶性フィルムは、プラスチック材との接触部で溶着される必要があるため、使用されるレーザー光のエネルギーがプラスチック材との接触部まで十分到達できるものであるのが好ましく、更に好ましくは上記レーザー光に対しての十分な透過率を有することが好ましい。例えば、使用されるレーザー光が青色ダイオードレーザー(波長445nm)の場合、440nm~500nmの波長に対する透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることが更に好ましい。
すなわち、上記結晶性フィルムは、上述の例示に関わらず、所定以上の透過率を有し、かつ、融点を有するものを意味する。また、上記結晶性フィルムは、色を有していてもよく、上記の透過率を有していれば、黒色などに着色されているものを含む。また、上記結晶性フィルムは種々添加剤を含有していてもよく、帯電防止性、紫外線吸収性等の機能を有するものでもよい。
上記フィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、15~100μmであるのが好ましい。
【0012】
〔コーティング剤〕
上記コーティング剤としては、ポリエステル樹脂系塗料、アクリルウレタン樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、シリコン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料等を用いることができる。
〔その他の原材料〕
本発明においては、上述の各原材料の他に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の材料を用いることができる。
【0013】
〔重合工程〕
本工程においては、プラスチック材とフィルムとを、両者の間に気泡が入らないように重ね合わせることにより行われる。
ここで、「気泡が入らない」とは、上記プラスチック材の表面に上記フィルムが密着して両者の間に空気の層が存在しない状体を意味する。したがって、上記重合物は、上記プラスチック材の表面に上記フィルムが密着しているものを意味する。しかし、上記重合物においては、プラスチック材の全面に上記フィルムが密着している必要はなく、部分的に、重合工程と照射工程とを行って、一体化を行うことを、複数回繰り返して、上記プラスチック材の表面全面に上記フィルムを一体化させてもよい。特に、以下に記載する板状のプラスチック材を用いる場合には、1回の操作でプラスチック材全面に密着させて重合物を得ることが可能であるが、複雑な形状だと1回の操作ではプラスチック材全面にフィルムを密着させることができない場合があるので、このような場合には上記のように複数回の操作を繰り返す必要がある。
本工程は、例えばプラスチック材が板状体の場合は、図1に示す治具を用いて、プラスチック材とフィルムとを重ね合わせることにより行うことができる。図1に示す治具101は、中央部に開口111を有する下ハーフ110と開口121を有する上ハーフ120とを有する。開口111と開口121とは同じ大きさである。下ハーフ110と上ハーフ120とはそれぞれ矩形状であり、四隅に両者を密着固定させるための連結部130が設けられている。この連結部130は、この種の2つの部材を密着させて着脱自在に連結するための機構を有する部材を特に制限なく採用して構成する事ができるが、本実施形態においてはネジ止め(螺合)可能な締結部材を用いて構成されている。また下ハーフ110と上ハーフ120とには開口111,121の周囲に挟持用の線状凸部113,123が設けられている。この凸部113,123によりプラスチック材A及びフィルムBを挟持することができる。
本工程においては、上記プラスチック材と上記フィルムとを密着させることができれば、重ね合わせの手法に特に制限はなく、種々形状のプラスチック材の表面に上記フィルムを公知の種々の治具を用いて押し付けるなどして重ね合わせた状態を形成し、次の照射工程に移行することができる。
【0014】
〔照射工程〕
上記照射工程は、上記重合物のフィルム側からレーザーを照射する工程である。レーザーは、面積あたりのエネルギー密度を高くすることができるため、短い照射時間、微小面積でプラスチックを溶融状態へ導けるため、樹脂溶着には非常に有効な手法の一つである。
本発明において上記レーザー照射に用いるレーザーは、その照射レーザーの波長がプラスチック材とフィルムとの溶着を促すことのできるものであれば特に制限されないが、後述するレーザーのエネルギー範囲のエネルギーとなるようにレーザーを照射できるレーザー光の波長を選択するのが好ましい。また、短波長すぎるとフィルムを透過せずに溶着を促すことができなくなるので、上述のフィルムを透過する波長(好ましくは図7に示す透過率85%以上となる波長)を含むレーザーを用いるのが好ましい。一例としては、445nmの波長を含むレーザー等を用いるのが好ましい。更に、レーザー照射の照射範囲(面積)は、レーザースポット径0.1~0.5mmで照射間隔を0.1~1.0mm開けるのが好ましい。しかし、本発明においてはレーザーのエネルギー(1箇所に照射されるレーザーのエネルギー)がより重要な概念であり、エネルギーが0.35~1.0J/mm2となるように照射を行うのが好ましく、0.35~0.80J/mm2となるように照射を行うのが更に好ましく、0.40~0.55J/mm2となるように照射を行うのが最も好ましい。この範囲の下限未満であると溶着が十分でなくなる場合があり、上限を超えると得られる加工プラスチック材の表面に意匠上の悪影響がでる場合があるので、上記範囲内とするのが好ましい。
なお、レーザー照射時のエネルギーは以下の式で算出される。
レーザー照射エネルギー:E=P/(Sp × V)
E:エネルギー(J/mm2)、P:レーザー出力(W)、Sp:スポット径(mm)
V:速度(mm/s)
また、レーザー出力は0.1~5wの出力であるのが好ましく、0.1~4wの出力であるのが更に好ましく、0.1~2.5wであるのが最も好ましい。レーザー照射の速度は、同じエネルギーであれば低速である方が、溶着性が良好であり、6000mm/min以下が好ましく、4000mm/min以下が更に好ましく、3000mm/min以下が最も好ましい。
【0015】
〔塗工工程〕
塗工工程は、上記照射工程を経て上記プラスチック材と上記フィルムとが一体化された加工プラスチック材に、更に上記コーティング剤を塗工し、塗工終了後に乾燥させて表面にコーティング層が形成された加工プラスチック材を得る工程である。
上記塗工の手法は、特に制限されないが、上記フィルムが一体化されて形成されたフィルム層の表面にバーコーター、刷毛塗り、ローラー刷毛塗り、エアースプレー、エアレススプレーなどの方法により塗工する手法を用いることができる。
上記乾燥は、自然乾燥、強制乾燥、加熱乾燥等の手法を用いて行うことができる。この際加熱乾燥させる場合の乾燥温度及び乾燥時間は、コーティング層が硬化すれば特に制限はない。
また、コーティング剤の塗工量は、形成されるコーティング層の厚みが5~100 μmとなる量とするのが好ましい。
【0016】
〔その他の工程〕
本発明においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の各工程に加えて更に他の工程を行うことができる。
【0017】
<加工プラスチック材>
本発明の加工プラスチック材は、上述の本発明の加工プラスチック材の製造方法により得られた加工プラスチック材である。本発明の加工プラスチック材の1実施形態について図2を参照して説明すると、図2に示す加工プラスチック材1は、プラスチック材10の表面にフィルム20が、両者を溶着させてなる溶着層30を介して一体化されてなる加工プラスチック材である。また、本実施形態においては、フィルム20の表面にコーティング層40が設けられている。
図2においては、プラスチック材10の厚み及び形状、並びにフィルム20及び溶着層30の厚みは、それぞれ模式的に示しているが、プラスチック材10の厚みや形状は特に制限されず、所望の厚みや形状とすることができる。また、フィルム20の厚みは上述の製造方法において説明したフィルムの厚みと同義である。また、コーティング層の厚みについても上述の製造方法の欄において説明したとおりである。
上記溶着層の厚みは30~70μmであり、30~60μmであるのが好ましい。厚みが30μm未満であると溶着が不十分でありフィルムが剥離する問題が生じ、70μmを超えるとプラスチック材の強度や耐熱性を損なうので、上述の範囲内とする必要がある。
また、溶着層のSa(表面粗さ、算術平均表面粗さ)は3~100μmであり、好ましくは30~70μmである。表面粗さが3未満であると剥離しやすくなり、100を超えるとフィルム表面も凹凸が生じ、プラスチック材の塗工性の改善効果が得られなくなる。
なお、Saは公知の手法で測定することができるが、好ましくは以下の顕微鏡を用いて常法に従って計測し、平均値を取ることで算出できる。
Saの測定機器:レーザー顕微鏡(型式:LEXT OLS4000,オリンパス株式会社製)
【0018】
〔他の部材〕
本発明においては、上述の各部材に加えて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の部材を追加することもできる。
【0019】
〔効果・用途〕
本発明の加工プラスチック材は、上記のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
難付着材であるポリアセタールなどのプラスチック材に適した塗料が、未だ開発段階にあり市販までには至っていない中、従来からある塗料で良好に塗工可能であり、多様な意匠性を持ったプラスチック製品を製造可能である。
また、塗装を化学処理で行う事例があるが、洗浄工程で素材の洗浄をしっかりしないと塗装後に付着不良のトラブルになる等ハンドリングが難しいという問題があった。本発明の製造方法は、レーザー照射という簡易な操作で加工プラスチック材を得ることができるので、ハンドリングが容易で、また洗浄工程が不要であるので、化学処理と比べ付着不良のトラブルを低減ができ、なおかつ薬品を使用しないので環境負荷低減もできる。また溶着させるフィルムとして、機能性フィルムを使用すれば帯電防止、紫外線防止など付加価値を付けることも可能である。
本発明の製造方法及び加工プラスチック材は、ポリアセタール等のいわゆるエンジニアリングプラスチックに対する意匠性付与が増加している現状において、安定した塗装製品を得ることができるので有用である。例えば、アパレル関連のボタンなどの装飾品、家電製品の外装及び部品等種々産業界での活用が期待できる。
【0020】
なお、本発明は上述の実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例0021】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
〔実施例1~11〕
以下の各工程を行い、本発明の加工プラスチック材(実施例1~11)を得た。得られた加工プラスチック材を性能評価した。
(重合工程)
まず、図1に示す装置を用いて、ポリアセタール(以下、POMと称する。商品名「POM(黒色)」株式会社スタンダードテストピース製)の板とポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「ルミラーS10」東レ株式会社製)を、両者の間に気泡が入らないように重ね合わせて重合物を得た。
(照射工程)
得られた重合物のフィルム側から以下の条件のレーザー照射器(商品名「FABOOL Laser Mini」株式会社smartDIYs製)を用い、照射エネルギーを表1に示す条件として、レーザーを照射した。レーザー照射後に表面観察をした。
レーザー条件:
レーザーの種類:レーザーダイオード
レーザー波長:445 nm
レーザースポット径:0.2 mm
レーザー出力:0.18~3.5 W
パルス出力:0.18~0.35 W:122 Hz、0.36~1.2 W:489 Hz、0.37~3.5 W:3.9 kHz
速度:100~8000 mm/min
照射間隔:0.1~1.0 mm
レーザー焦点距離:3mm
【表1】
得られた実施例1~11の加工プラスチック材について、マイクロスコープでの表面観察を行った。その結果を図3(a)~(k)((a)は実施例1を、(b)は実施例2を、(c)は実施例3を、(d)は実施例4を、(e)は実施例5を、(f)は実施例6を、(g)は実施例7を、(h)は実施例8を、(i)は実施例9を、(j)は実施例10を、(k)は実施例11をそれぞれ示す)に示す。なお、表面観察はマイクロスコープ(倍率50倍)で拡大した表面を目視で観察することにより行った。表面観察の結果、実施例1及び2で得られた加工プラスチック材では表面に激しい凹凸やクラックが発生し、フィルムに穴が開いていた。実施例3~11の加工プラスチック材ではエネルギー値が低くなるにつれて表面の凹凸が減少し、PETフィルムの溶融は改善されているのがわかる。
【0022】
〔実施例12~15〕
次に表2に示す条件でエネルギー値を0.70、0.60、0.53、0.47J/mm2に可変させた以外は実施例1と同様にして加工プラスチック材を得た。得られた加工プラスチック材についての光学顕微鏡(マイクロスコープ、商品名「VHX-500」株式会社キーエンス製)写真を撮影し、断面観察を行った。その結果を表2及び図4に併せて示す。この結果から明らかなようにエネルギー値が高いとフィルム切れが発生し、POMが表層に溶出することがわかった。一方、エネルギー値が0.47J/mm2になると、POMの溶出が抑制できていることが確認できた。
また、得られた加工プラスチック材に以下の塗工工程を行い、コーティング層を形成した。
(塗工工程)
塗料として、PETフィルムに対して付着性が良好な1液形ポリエステル樹脂系塗料(商品名「UVクリヤーUT049ASGKグレー」東邦化研工業株式会社製)および2液形アクリルウレタン樹脂系塗料(商品名「ナイテック ニットコウ N-7グレー ツヤアリ」武蔵塗料株式会社製)を用いた。塗布方法は、バーコーター法を用い、使用したバーコーターはNo.75(アズワン株式会社製)を用いた。
得られたコーティング層を有する加工プラスチック材について、塗膜の付着性をクロスカット試験により評価した。クロスカット試験は、JIS K 5600-5-6:1999塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第6節:付着性(クロスカット法)に準じ行った。切り傷の間隔:2mm、ます目の数:25とした。クロスカット試験の結果を表2に示す。表2及び図4に示す結果から明らかなように、いずれもフィルムが良好に溶着されており、コーティング層の密着性が良好であった。
また、エネルギー値を0.41、0.38、0.31J/mm2に可変させた以外は実施例11と同様にして得られた加工プラスチック材(実施例15a~15c)についても同様に塗工を行い、クロスカット試験を行った。その結果を表2に示す。実施例15cではフィルムが剥離してしまい、クロスカット試験での評価が不能であった。このことから照射エネルギーは低すぎるとフィルムの溶着が良好に完了しないことがわかる。
【表2】
【0023】
〔実施例16~19〕
表3に示す条件でレーザー照射を行った以外は実施例1と同様にして加工プラスチック材を得た。得られた加工プラスチック材についてのマイクロスコープ写真を撮影し、断面観察を行った。その結果を表3及び図5に併せて示す。得られた加工プラスチック材に実施例12と同様の塗工工程を行い、コーティング層を形成した。得られたコーティング層を有する加工プラスチック材について、実施例12と同様に塗膜の付着性をクロスカット試験により評価した。この結果を表3に示す。表3及び図5に示す結果から明らかなように、エネルギー値0.76、0.60J/mm2である実施例16及び17よりも、0.47J/mm2である実施例19の方がよりコーティング層の密着性が良好であった。これは、エネルギー値が低いほうが、フィルム切れや表層へのPOMの溶出がより起こりにくくなるためであると考えられる。
また、エネルギー値を0.41、0.38、0.31J/mm2に可変させた以外は実施例11と同様にして得られた加工プラスチック材(実施例19a~19c)についても同様に塗工を行い、クロスカット試験を行った。その結果を表3に示す。表3に示すように実施例19cではフィルムが剥離してしまい、クロスカット試験での評価が不能であった。このことから照射エネルギーは低すぎるとフィルムの溶着が良好に完了しないことがわかる
【表3】
【0024】
〔実施例20~23〕
エネルギー値を0.47J/mm2に固定し、レーザー出力、速度条件を表4に示す条件に変更した以外は、実施例16と同様にして、コーティング層の形成された加工プラスチック材を得た。得られた加工プラスチック材について実施例16と同様にしてクロスカット試験を行った。それらの結果を表4及び図6((a)は実施例20を、(b)は実施例21を、(c)は実施例22を、(d)は実施例23をそれぞれ示す)に示す。
表4及び図6に示す結果から明らかなように、出力が小さく、速度も低いほうが好ましく、より密着性に優れたコーティング層が得られることがわかる。
【表4】
【0025】
〔試験例〕
実施例23で得られた加工プラスチック材と、従来から用いられている一般的な前処理方法(溶剤脱脂、表面研磨、化学処理)でプラスチック材の前処理を行った後、コーティング層の成形を行い得られた加工プラスチック材との、コーティング層の密着性について比較した。コーティング剤としては、1液形ポリエステル樹脂系塗料および2液形アクリルウレタン樹脂系塗料の両方をそれぞれ用いた。
一般的な前処理方法はそれぞれ以下のように行った。
溶剤脱脂:エタノールでプラスチック材の表面を濡らし、拭き取ることで脱脂を行った。
表面研磨:研磨紙#400を用いて、プラスチック材の表面を研磨した。
化学処理:硫酸/リン酸混合溶液を用いて、プラスチック材を当該混合溶液中に40℃10分間浸漬することにより、プラスチック材の表面改質を行った。
評価は、初期付着性および長期耐久試験(薬品浸漬試験)後の2次付着性について行った。それぞれクロスカット試験を行うことで評価した。薬品浸漬試験は、コーティング層の形成された加工プラスチック材を石油ベンゼンに15分浸漬後、室温で15分静置を1セットとして、これらを4セット行うこととした。
初期付着性は、溶剤脱脂、表面研磨はいずれの塗料も分類5と付着性が悪かった。化学処理、レーザー溶着(本発明品)では、ポリエステル樹脂系塗料は分類0、アクリルウレタン樹脂系塗料は分類0または分類1と良好な結果が得られた。
薬品浸漬試験は、初期付着性が良好だった化学処理および本発明品について行った。いずれの下地、塗料に関しても分類0と付着性は良好であった。また、クロスカット試験は、両者ともに分類0または1と良好な結果が得られた。この結果から、本発明の製造方法により得られる加工プラスチック材は、化学処理を行った場合と同等以上の塗膜の密着性が得られ、しかも酸のような危険物を扱う必要がないので、レーザー照射器さえあれば特別な装置、設備を必要とせず、また廃棄物処理でも特別な処理を必要としないため、簡易且つ簡便にプラスチック材の改質を行い、良好な塗工性を有する加工プラスチック材を得られるものであることがわかる。
また、本発明において上記フィルムとして使用可能な材料を確認するためポリエチレンフィルム(LDPE、宇部フィルム株式会社製)、ポリプロピレンフィルム(PP、アズワン株式会社製)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ポリ塩化ビニルフィルム(PVC、アキレス株式会社製)、ポリフェニレンスルフィド(PPS、アズワン株式会社製)のそれぞれについて、分光光度計(U-4100形分光光度計)を用いて、透過率と波長との関係の測定を行った。なお、それぞれのフィルムはそれぞれ厚さ50μmの市販品を用いた。その結果を図7に示す。図7に示す結果からポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルム、並びにポリ塩化ビニルは440nm以上の波長について透過率85%以上であった。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7