(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102246
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】歯科用消毒液、歯科用消毒液の塗布方法、及び歯科用インスツルメント
(51)【国際特許分類】
A61K 33/20 20060101AFI20220630BHJP
A61C 17/00 20060101ALI20220630BHJP
A61C 17/02 20060101ALI20220630BHJP
A61C 1/08 20060101ALI20220630BHJP
A61P 31/02 20060101ALI20220630BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220630BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220630BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A61K33/20
A61C17/00 E
A61C17/02 B
A61C1/08 S
A61P31/02
A61P1/02
A61K47/14
A61K9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216871
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000108672
【氏名又は名称】タカラベルモント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】霜尾 明宏
(72)【発明者】
【氏名】木村 杏紗
(72)【発明者】
【氏名】桜井 基央
(72)【発明者】
【氏名】松村 浩之介
【テーマコード(参考)】
4C052
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C052FF10
4C076AA12
4C076BB22
4C076BB23
4C076CC31
4C076DD07
4C076EE23F
4C076FF65
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA24
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA57
4C086NA03
4C086NA05
4C086NA10
4C086ZA67
4C086ZB35
(57)【要約】
【課題】人体への影響が少なく且つ口腔内を効果的に殺菌することができる歯科用消毒液、歯科用消毒液の塗布方法、及び歯科用インスツルメントを提供する。
【解決手段】歯科用消毒液30は、次亜塩素酸水31と界面活性剤32とを含み、歯肉溝101及び歯肉102を消毒する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸水と界面活性剤とを含み、歯肉溝及び歯肉を消毒する歯科用消毒液。
【請求項2】
前記界面活性剤はポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1に記載の歯科用消毒液。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは炭素数が14以下である請求項2に記載の歯科用消毒液。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の歯科用消毒液、及び、歯科用インスツルメントを用い、前記歯科用消毒液を前記歯科用インスツルメントから吐出させて前記歯肉溝及び前記歯肉に塗布する歯科用消毒液の塗布方法。
【請求項5】
前記歯科用消毒液は20℃以上35℃以下である請求項4に記載の歯科用消毒液の塗布方法。
【請求項6】
請求項1から3の何れか一項に記載の歯科用消毒液を吐出する歯科用インスツルメントであって、
前記次亜塩素酸水の供給源に接続される給水口と、
前記歯科用消毒液を吐出する吐出口と、
前記給水口から前記吐出口に亘って設けられ、前記次亜塩素酸水又は前記歯科用消毒液が流れる流路と、
前記界面活性剤を収容する活性剤収容部と、
前記流路の中途に設けられ、前記次亜塩素酸水と前記界面活性剤とを混合して前記歯科用消毒液を得る混合室と、
前記活性剤収容部と前記混合室との間に設けられ、前記活性剤収容部に収容された前記界面活性剤を前記混合室に供給する活性剤供給路と、を備える歯科用インスツルメント。
【請求項7】
前記活性剤収容部に収容された前記界面活性剤を60℃以上に加熱する活性剤加熱部を更に備える請求項6に記載の歯科用インスツルメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用消毒液、歯科用消毒液の塗布方法、及び歯科用インスツルメントに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用消毒液は、口腔内の洗浄、消毒や歯周病菌の殺菌等において用いられる。特許文献1及び2には、歯科用消毒液として過酸化水素水や次亜塩素酸水等を用いた歯科用インスツルメントの構成が開示されている。歯肉溝内に生息する歯周病菌には好気性のグラム陽性好気性菌(以下、「好気性菌」とも称する)と嫌気性のグラム陰性嫌気性菌(以下、「嫌気性菌」とも称する)があり、軽度の歯周病である歯肉炎は好気性菌により発生し、歯肉炎より重度の歯周病である歯周炎は嫌気性菌により発生する。このうち、歯周炎における歯周病菌(嫌気性菌)の効果的な殺菌には、歯肉溝の奥まで届く注射針状のチップを用いて歯科用消毒液を注入する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-275339号公報
【特許文献2】特開2012-75602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯科用消毒液としての過酸化水素水は、殺菌性は高いが、皮膚上に長く留まると皮膚等にダメージを与えることがあり、人体に悪影響をもたらすおそれがあることが知られている。一方、次亜塩素酸水は殺菌性が高く且つ人体への影響が少ない。しかし、次亜塩素酸水は、光(紫外線)、油分等の有機物、高温等の影響を受けて分解し易く、殺菌効果の持続時間が短いという欠点を有する。
【0005】
上述したように、歯周炎の歯周病菌は嫌気性であるため、歯肉溝の奥深くに存在する歯周病菌(嫌気性菌)は、好気性菌により歯肉炎を発生させて歯肉溝を深くして、その溝の奥で生息する。そのため、歯肉溝の深さが浅い(例えば1mm~2mm程度)段階で歯周病菌(好気性菌、嫌気性菌とも)を殺菌することが、歯周炎の発生を防ぐ上で有効である。そのためには、歯科用消毒液、歯科用消毒液の塗布方法、及び歯科用インスツルメントにおいて改善の余地があった。
【0006】
上記実情に鑑み、人体への影響が少なく且つ口腔内を効果的に殺菌することができる歯科用消毒液、歯科用消毒液の塗布方法、及び歯科用インスツルメントが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歯科用消毒液の特徴は、次亜塩素酸水と界面活性剤とを含み、歯肉溝及び歯肉を消毒する点にある。
【0008】
次亜塩素酸水は、主に油分等の有機物に接触することで分解して失活する。一方、本発明に係る歯科用消毒液は、次亜塩素酸水と界面活性剤とを含んでいる。したがって、歯科用消毒液において、界面活性剤が親油性を有することから、次亜塩素酸水は口腔内の油分との接触が抑制されて分解し難くなる。すなわち、口腔内において、歯科用消毒液に含まれる次亜塩素酸水は有効塩素濃度を維持し易くなる。これにより、歯科用消毒液は、次亜塩素酸水による殺菌効果の持続時間を長く維持することができる。その結果、人体への影響が少ない歯科用消毒液によって、口腔内の洗浄、消毒や歯周病菌の殺菌を効果的に行うことができる。
【0009】
他の特徴として、前記界面活性剤はポリグリセリン脂肪酸エステルであると好適である。
【0010】
歯科用消毒液に含まれる界面活性剤は、次亜塩素酸水と混合されて口腔内の歯肉や歯肉溝に触れることから、次亜塩素酸水と同じく、人体への影響が少ないものであることが好ましい。そこで、本特徴では、歯科用消毒液に含まれる界面活性剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルが用いられている。ポリグリセリン脂肪酸エステルは食品用乳化剤であるため、ポリグリセリン脂肪酸エステルが人体に対して悪影響を与えることはほとんどない。したがって、歯科用消毒液は、界面活性剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで人体に対する安全性を確保することができる。
【0011】
他の特徴として、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは炭素数が14以下であると好適である。
【0012】
界面活性剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルは、炭素数が多くなるにつれて、親油性が上昇し、反対に親水性が低下する傾向にある。歯科用消毒液において、界面活性剤の親油性が高まり過ぎると、次亜塩素酸水は界面活性剤によって分解され易くなり、次亜塩素酸水の有効塩素濃度が低下するおそれがある。そこで、本特徴では、ポリグリセリン脂肪酸エステルは炭素数を14以下としている。このように、炭素数が所定数以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、ポリグリセリン脂肪酸エステルの親油性の所定以上の上昇が抑制される。その結果、歯科用消毒液において、次亜塩素酸水の殺菌力を効果的に維持することができる。
【0013】
本発明に係る歯科用消毒液の塗布方法は、上記の何れかの歯科用消毒液、及び、歯科用インスツルメントを用い、前記歯科用消毒液を前記歯科用インスツルメントから吐出させて前記歯肉溝及び前記歯肉に塗布する点に特徴がある。
【0014】
歯周病の発生と進行について、以下言及する。歯周病は歯肉炎と歯周炎に大別される。歯肉に炎症が起きた状態を歯肉炎、歯肉炎がさらに悪化して歯を支える歯槽骨にまで炎症が広がった状態を歯周炎と呼ぶ。口腔内には500種類以上の細菌が生息しているが、歯肉炎と歯周炎とでは発生原因となる菌が異なる。歯肉炎はグラム陽性好気性菌により発生し、歯周炎はグラム陰性嫌気性菌により発生する。健康な歯肉溝に生息する細菌のうち約75%がグラム陽性好気性菌であり、約25%がグラム陰性嫌気性菌である。健康時の歯肉溝は深さが浅いので好気性菌が多く、嫌気性菌は少ない。この好気性菌により歯肉炎が発生する。歯肉炎が発生すると歯肉溝が深くなる。歯肉溝が深くなると、歯肉溝の奥深くには嫌気性菌が多く生息するようになり、好気性菌の数は減少するようになる。そして、嫌気性菌は歯肉溝をさらに深くすると共に繁殖し、最終的には歯周炎に至る。
【0015】
上記のように、歯肉炎の歯肉溝と歯周炎の歯肉溝とでは、溝の深さが異なり、歯周炎の状態の溝の方が深い。そのため、歯肉炎が発生した段階で炎症を抑えて症状を改善させることが、歯周炎発生を防止するために有効である。そのためには、歯肉溝の浅い箇所に歯科用消毒液を掛けて好気性菌と嫌気性菌とを殺菌することが有効である。
【0016】
ここで、歯周炎が発生した段階で炎症を抑えて症状を改善させるためには、歯肉溝の奥深くにある歯周病菌に歯科用消毒液を掛けて殺菌する必要がある。しかし、歯科用消毒液を用いて歯肉溝の奥深くにある歯周病菌を効果的に殺菌するためには、スケーラーにおいて歯肉溝の奥深くまで届く注射針状のスケーラーチップが必要である。このようなスケーラーチップは特殊な構造であるため高価である。また、歯肉溝に対して特殊なスケーラーチップを備えたスケーラーを用いて施術する際には高度な技術が求められる。そのため、歯周炎が発生した歯肉溝に対して歯科用消毒液を用いて歯周病菌等を殺菌して歯周炎等の歯周病を治療することは容易ではない。
【0017】
そこで、本方法では、次亜塩素酸水と界面活性剤とを含む歯科用消毒液を歯科用インスツルメントから吐出させて歯肉溝及び歯肉に塗布する。本方法を用い、歯肉炎が発生する前若しくは歯肉炎発生時の歯肉や深さの浅い歯肉溝に対して歯科用消毒液を塗布することで、歯周病菌(好気性菌、嫌気性菌とも)を殺菌することができる。その結果、歯科用消毒液を用いた歯周病の予防若しくは早期治療が可能になる。また、本方法では、歯肉や浅い歯肉溝に歯科用消毒液を塗布するため、スケーラーチップとして歯肉溝の奥深くにまで届く特殊なスケーラーチップといった専用器具を用意する必要もなく、通常の歯科治療で用いるスケーラーチップを用いることができる。したがって、歯科診療の途中に歯肉溝及び歯肉に対して容易に歯科用消毒液を塗布することができる。
【0018】
歯科用消毒液の塗布方法は、前記歯科用消毒液は20℃以上35℃以下であると好適である。
【0019】
本方法のように、歯科用消毒液が20℃以上35℃以下であると、歯科用消毒液において次亜塩素酸水の殺菌性を高く維持することができる。
【0020】
本発明に係る歯科用インスツルメントは、歯科用消毒液を吐出する歯科用インスツルメントであって、前記次亜塩素酸水の供給源に接続される給水口と、前記歯科用消毒液を吐出する吐出口と、前記給水口から前記吐出口に亘って設けられ、前記次亜塩素酸水又は前記歯科用消毒液が流れる流路と、前記界面活性剤を収容する活性剤収容部と、前記流路の中途に設けられ、前記次亜塩素酸水と前記界面活性剤とを混合して前記歯科用消毒液を得る混合室と、前記活性剤収容部と前記混合室との間に設けられ、前記活性剤収容部に収容された前記界面活性剤を前記混合室に供給する活性剤供給路と、を備える点に特徴がある。
【0021】
本構成によれば、歯科用インスツルメントは、次亜塩素酸水の供給源に接続され、界面活性剤を収容する活性剤収容部と、次亜塩素酸水と界面活性剤とを混合して歯科用消毒液を得る混合室とを有する。これにより、歯科用インスツルメントの混合室において次亜塩素酸水と界面活性剤とを含む歯科用消毒液を得た後に、歯科用インスツルメントの吐出口から患者の歯肉溝及び歯肉に向けて迅速に歯科用消毒液を吐出することができる。すなわち、歯科用インスツルメントの外部に次亜塩素酸水と界面活性剤とを混合させる装置を設ける必要がなく、歯科用インスツルメントにおいて、次亜塩素酸水と界面活性剤との混合と、当該混合によって得られた歯科用消毒液の歯肉溝及び歯肉への塗布と、を行うことができる。その結果、歯科用消毒液を塗布するための装置を簡素な構成で実現することができる。
【0022】
歯科用インスツルメントは、前記活性剤収容部に収容された前記界面活性剤を60℃以上に加熱する活性剤加熱部を更に備えると好適である。
【0023】
界面活性剤には常温において粘性が高いものが存在する。このような界面活性剤の場合には、押圧等により活性剤収容部に圧力を加えても、活性剤収容部に収容された界面活性剤を供給路から混合室に迅速に供給できないことがある。その場合には、次亜塩素酸水と界面活性剤とを含む歯科用消毒液を適正なタイミングで歯科用インスツルメントから吐出することができない。そこで、本構成の歯科用インスツルメントは、活性剤収容部に収容された界面活性剤を60℃以上に加熱する活性剤加熱部を備えている。乳化剤等の界面活性剤は60℃以上の温度になると粘性が下がるため、加熱された界面活性剤は活性剤供給路を通過し易くなる。これにより、活性剤収容部に収容された界面活性剤を混合室に確実に供給できるようになり、次亜塩素酸水と界面活性剤とを含む歯科用消毒液を迅速に得ることができる。その結果、歯科用消毒液を歯科用インスツルメントの吐出口から吐出し、患者の歯肉溝及び歯肉に適正なタイミングで塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】歯科用インスツルメントの使用環境を示す概略図である。
【
図2】第1実施形態の歯科用インスツルメントの斜視図である。
【
図3】歯科用インスツルメントを模式的に示す断面図である。
【
図4】第2実施形態の歯科用インスツルメントを模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態を、図面に基づいて説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0026】
〔第1実施形態〕
図1に示されるように、歯科用スケーラー10(歯科用インスツルメントの一例、以下、「スケーラー10」と称する)は、例えば、歯科用診療装置1(以下、診療装置1と称する)に取り付けられる。施術者は、スケーラー10を用いることで、患者の歯部に対して次亜塩素酸水等の歯科用消毒液の塗布を行なうことができる。
【0027】
スケーラー10は、診療装置1への取り付け、及び診療装置1からの取り外しが可能である。診療装置1は、診療椅子2、ツールホルダー3、フットスイッチ4、第1タンク5及び第2タンク6等を備える。第1タンク5には例えば食塩水が充填され、第2タンク6には食塩水を電気分解することで生成された次亜塩素酸水31(
図3参照)が充填されている。次亜塩素酸水31は、例えばpHが5.0~6.5であり、有効塩素濃度が10ppm~200ppmである。
【0028】
図2に示されるように、スケーラー10は、スケーラー本体11と、先端部材としてのスケーラーチップ15とを備える。
図3にはスケーラー10の内部構成が模式的に示されている。
図3に示されるように、スケーラー本体11の基部13には給水口14が設けられ、給水口14には第2タンク6から延出したホース7が接続されている。スケーラー本体11の先端部12にはスケーラーチップ15が取付けられている。本実施形態のスケーラーチップ15は、歯肉溝の奥深くにまで届く特殊なスケーラーチップではなく、通常の歯科治療に用いるスケーラーチップである。スケーラー本体11には、スケーラーチップ15に超音波振動を付与する振動源が備えられていてもよい。
【0029】
スケーラー本体11及びスケーラーチップ15の内部には、流路20が設けられている。流路20は、給水口14から吐出口16に亘って設けられ、次亜塩素酸水31又は歯科用消毒液30(以下、「消毒液30」と称する)が流れる。スケーラー本体11には、混合室24、活性剤収容部25、及び、活性剤供給路26が設けられている。混合室24は、流路20の中途に、次亜塩素酸水31と界面活性剤32とを混合して歯科用消毒液30を得るために設けられている。混合室24は上部に開口を有し活性剤供給路26の一方端部に連通する。
【0030】
流路20は、スケーラー本体11の内部に、給水口14から混合室24に亘る第1流路21と、混合室24からスケーラー本体11の先端部12に亘る第2流路22と、スケーラーチップ15の内部に第2流路22の先端部12側の端部から吐出口16に亘る第3流路23と、を有する。第1流路21には次亜塩素酸水31が流れ、第2流路22と第3流路23には消毒液30が流れる。混合室24は、基部13に設けられた給水口14の近くに配置されている。第2タンク6から延設されるホース7の先端を給水口14に差し込むことにより、スケーラー10は第2タンク6に接続される。次亜塩素酸水31の供給源とは、少なくとも第2タンク6と、ホース7とを含んでいる。
【0031】
活性剤収容部25には界面活性剤32が収容されている。活性剤収容部25は底部に開口を有し活性剤供給路26の他方端部に連通する。界面活性剤32は常温において粘性を有するため、活性剤収容部25に投入された界面活性剤32は活性剤供給路26に流入せずに活性剤収容部25に留まっている。本実施形態では、活性剤収容部25は、例えば有底円筒状に形成されて上面側に開閉可能な蓋部25aを有して構成されている。活性剤収容部25は、蓋部25aを開放することで活性剤収容部25に外部から界面活性剤32を投入することができる。活性剤収容部25は、例えば樹脂材料や金属材料によって構成されている。活性剤収容部25は、スケーラー本体11に固定されてもよいし、スケーラー本体11から着脱可能に構成されてもよい。活性剤収容部25には、例えば以下に示す塗布方法を行う際に、例えば患者一名分の消毒液30を得るうえで必要な量の界面活性剤32が収容されている。活性剤供給路26は、活性剤収容部25と混合室24との間に、活性剤収容部25に収容された界面活性剤32を混合室24に供給するために設けられている。活性剤収容部25は、スケーラー本体11の外部に突出した状態で配置されている。また、活性剤収容部25は、混合室24と同じくスケーラー本体11の基部13近くに配置されている。したがって。活性剤収容部25は、スケーラー本体11の先端部12寄りを持つ施術者の施術の邪魔になり難い。
【0032】
〔歯科用消毒液〕
スケーラー10の吐出口16から吐出される消毒液30は、次亜塩素酸水31と界面活性剤32とを含んでいる。消毒液30は、以下に示す混合室24において得ることができる。消毒液30において、界面活性剤32が親油性を有することから、次亜塩素酸水31は口腔内の油分との接触が抑制されて分解し難くなる。すなわち、口腔内において、消毒液30に含まれる次亜塩素酸水31は有効塩素濃度を維持し易くなる。これにより、消毒液30は、次亜塩素酸水31による殺菌効果の持続時間を長く維持することができる。その結果、人体への影響が少ない消毒液30によって、口腔内の洗浄、消毒や歯周病菌の殺菌を効果的に行うことができる。
【0033】
消毒液30に含まれる界面活性剤32として、例えばグリセリン脂肪酸エステルを用いることができる。グリセリン脂肪酸エステルは、食品用乳化剤の一種である。消毒液30に含まれる界面活性剤32は、次亜塩素酸水31と混合されて口腔内の歯肉溝101や歯肉102に触れることから、次亜塩素酸水31と同じく、人体への影響が少ないものであることが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、人体に対して悪影響を与えることはほとんどない。したがって、消毒液30は、界面活性剤32としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、人体に対する安全性を確保することができる。
【0034】
界面活性剤32であるポリグリセリン脂肪酸エステルは、炭素数が多くなるにつれて、親油性が上昇し、反対に親水性が低下する傾向にある。消毒液30において、界面活性剤32の親油性が高まり過ぎると、次亜塩素酸水31は界面活性剤32によって分解され易くなり、次亜塩素酸水31の有効塩素濃度が低下するおそれがある。そのため、ポリグリセリン脂肪酸エステルは炭素数が14以下であることが好ましい。このように、炭素数が所定数以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、ポリグリセリン脂肪酸エステル親油性の所定以上の上昇が抑制される。その結果、消毒液30において、次亜塩素酸水31の殺菌力を効果的に維持することができる。
【0035】
消毒液30において、界面活性剤32の濃度は、例えば100ppm~300ppmに設定されている。したがって、活性剤収容部25は混合室24に対して小さい容器で構成することができる。なお、
図2及び
図3では、活性剤収容部25を実際の大きさよりも誇張して示している。
【0036】
消毒液30は、混合室24の次亜塩素酸水31に活性剤収容部25の界面活性剤32が供給されることで得ることができる。具体的には、所定量の次亜塩素酸水31を混合室24に貯留させた後に、混合室24に活性剤収容部25の界面活性剤32を供給する。界面活性剤32は、例えば乳化剤である場合には常温において粘性を有するため活性剤収容部25に留まる。そのため、例えば活性剤収容部25を弾性変形可能な材料で構成し、活性剤収容部25を外部から押圧するようにして、活性剤収容部25に収容された界面活性剤32を混合室24に供給する。
【0037】
混合室24に界面活性剤32が供給された後に、スケーラー10を所定回数振とうさせることで、混合室24において消毒液30を得ることができる。本実施形態では、次亜塩素酸水31と界面活性剤32との攪拌が促進されるよう、混合室24に攪拌ボール40が投入されている。攪拌ボール40に代えて、または、攪拌ボール40と共に、外部の振動源(不図示)の振動を伝達する振動子(不図示)を混合室24に取付けてもよい。当該振動子の振動を利用することで、混合室24において次亜塩素酸水31及び界面活性剤32を攪拌することもできる。混合室24において次亜塩素酸水31及び界面活性剤32が攪拌された後、次亜塩素酸水31の供給源である第2タンク6からスケーラー10に次亜塩素酸水31が再度供給されることで、混合室24内の消毒液30が第2流路22、第3流路23を介して吐出口16から吐出される。
【0038】
〔歯科用消毒液の塗布方法〕
消毒液30、及び、スケーラー10を用い、消毒液30をスケーラー10から吐出させて、歯100のうち歯肉溝101及び歯肉102に塗布する(
図3参照)。本実施形態においては、歯肉炎が発生する前若しくは歯肉炎発生時の歯肉102や歯肉溝101に対して消毒液30を塗布することで、歯周病菌(好気性菌、嫌気性菌とも)を殺菌することができる。これにより、消毒液30を用いて歯周病の予防若しくは早期治療が可能になる。また、本方法では、歯周病が発生する前若しくは歯肉炎発生時の歯肉102や浅い歯肉溝101に消毒液30を塗布するため、スケーラーチップ15として歯肉溝101の奥深くにまで届く特殊なスケーラーチップといった専用器具を用意する必要もなく、通常の歯科治療で用いるスケーラーチップを用いることができる。したがって、歯科診療の途中に歯肉溝101及び歯肉102に対して容易に消毒液30を塗布することができる。さらに、スケーラー10は、歯科診療において物理的にプラークを除去するスケーリングを行うものであるため、スケーリングの最中やスケーリング直後に消毒液30を歯肉溝101及び歯肉102に塗布することで、歯肉溝101及び歯肉102近くに存在する歯周病の原因菌を効果的に殺菌することができる。
【0039】
スケーラー10は、混合室24と活性剤収容部25とを有するので、混合室24において次亜塩素酸水31と界面活性剤32とを含む消毒液30を得た後に、吐出口16から患者の歯肉溝101及び歯肉102に向けて迅速に消毒液30を吐出することができる。すなわち、スケーラー10の外部に次亜塩素酸水31と界面活性剤32とを混合させる装置が不要になり、スケーラー10において、次亜塩素酸水31と界面活性剤32との混合と、当該混合によって得られた消毒液30の歯肉溝101及び歯肉102への塗布と、を行うことができる。その結果、消毒液30を塗布するための装置を簡素な構成で実現することができる。
【0040】
〔第2実施形態〕
活性剤収容部25に収容される界面活性剤32には常温において粘性が高いものが存在する。このような界面活性剤32の場合には、押圧等により活性剤収容部25に圧力を加えたとしても、活性剤収容部25に収容された界面活性剤32が混合室24に迅速に供給できないことがある。その場合には、消毒液30を適正なタイミングで歯科用インスツルメントから吐出することができない。そこで、本実施形態では、
図4に示されるように、スケーラー10において、活性剤収容部25の周囲に活性剤収容部25に収容された界面活性剤32を加熱する活性剤加熱部50が備えられている。
【0041】
活性剤加熱部50は、活性剤収容部25の周囲を覆うように配置され、例えば界面活性剤32を60℃以上に加熱可能に構成される。活性剤加熱部50は、例えば不図示の外部電源によって加熱される電熱ヒーター等によって構成されている。活性剤加熱部50は、外部電源が不要な自己発熱性物質(例えば、生石灰や活性炭及び鉄粉等)を内蔵する形態であってもよい。活性剤加熱部50は、活性剤収容部25に対して着脱可能であってもよく、活性剤収容部25に一体的に設けられていてもよい。活性剤加熱部50は、電熱ヒーターの場合には電熱ヒーターをONまたはOFFするスイッチが別途設けられ、自己発熱性物質を内蔵する場合には活性剤加熱部50に対して自己発熱性物質の発熱が誘引される操作が別途行われる。
【0042】
常温で粘性が高い界面活性剤32は、60℃以上の温度になると粘性が下がるようになるため、加熱後の界面活性剤32は活性剤供給路26を通過し易くなる。これにより、活性剤収容部25に収容された界面活性剤32を混合室24に確実に供給することができ、次亜塩素酸水31と界面活性剤32とを含む消毒液30を迅速で得ることができる。その結果、消毒液30をスケーラー10の吐出口16から吐出して、患者の歯肉溝101及び歯肉102に対して適正なタイミングで消毒液30を塗布することができる。
【0043】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、界面活性剤32として食品乳化剤の一種であるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる例を示したが、界面活性剤32として他の食品乳化剤を用いてもよい。
【0044】
(2)上記の実施形態では、活性剤収容部25及び活性剤加熱部50がスケーラー本体11の外方に突出して設けられる例を示したが、スケーラー本体11の外面に凹部(不図示)を形成し、当該凹部に活性剤収容部25や活性剤加熱部50を配置してもよい。このようにすれば、スケーラー10を活性剤収容部25や活性剤加熱部50がスケーラー本体11の外方に突出しない形態にすることができるので、施術者がスケーラー10を操作し易くなる。
【0045】
(3)上記の実施形態では、歯科用インスツルメントとしてスケーラー10を用いる例を示したが、歯科用インスツルメントとしてシリンジを用いてもよい。シリンジの場合には、歯肉溝101及び歯肉102に対して消毒液30の塗布のみが行われる。
【0046】
(4)混合室24及び活性剤収容部25は、スケーラー10等の歯科用インスツルメントに設けずに、次亜塩素酸水31の供給源である第2タンク6とホース7との間に別途配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、歯科用消毒液、歯科用消毒液の塗布方法、及び、歯科用インスツルメントにおいて広く用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 :歯科用診療装置
5 :第1タンク
6 :第2タンク(次亜塩素酸水の供給源)
7 :ホース(次亜塩素酸水の供給源)
10 :スケーラー(歯科用インスツルメント)
11 :スケーラー本体
12 :先端部
13 :基部
14 :給水口
15 :スケーラーチップ(先端部材)
16 :吐出口
20 :流路
21 :第1流路
22 :第2流路
23 :第3流路
24 :混合室
25 :活性剤収容部
26 :活性剤供給路
30 :消毒液(歯科用消毒液)
31 :次亜塩素酸水
32 :界面活性剤
40 :攪拌ボール
50 :活性剤加熱部