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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102268
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】複合酸化物及び材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20220630BHJP
   C04B 35/40 20060101ALI20220630BHJP
   C30B 29/28 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
C01G53/00 A
C04B35/40
C30B29/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216906
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】592097244
【氏名又は名称】日本イットリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 将吾
(72)【発明者】
【氏名】田崎 義昭
【テーマコード(参考)】
4G048
4G077
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AB06
4G048AC03
4G048AD03
4G048AD06
4G048AD08
4G048AE05
4G077AA02
4G077BC22
4G077BC28
4G077HA11
(57)【要約】
【課題】飽和磁化を高めたイットリウム鉄ガーネット誘導体材料を提供すること。
【解決手段】本発明は、Y、Fe及びNiを含むガーネット構造を含む複合酸化物を含有し、170mT以上の飽和磁化を有する材料を提供する。また本発明は、下記組成式(I)で表される複合酸化物を提供する。
(I)BiNi3-A-C-DFe5-B12-x(RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0以上0.2以下であり、Cの値は0以上0.5以下であり、Dの値は0以上1.5以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y、Fe及びNiを含むガーネット構造を有する複合酸化物を含有し、170mT以上の飽和磁化を有する材料。
【請求項2】
前記複合酸化物が、更にSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の元素を含む請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記複合酸化物が、Sn、Zr及びHfから選ばれる少なくとも一種を含む請求項2に記載の材料。
【請求項4】
前記複合酸化物が、更に、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の材料。
【請求項5】
前記複合酸化物が、下記組成式(1)で表される請求項1に記載の材料。
(1)Ni3-AFe12-x(Aの値は0.05以上0.3以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【請求項6】
前記複合酸化物が、下記組成式(2)で表される請求項1~3のいずれか1項に記載の材料。
(2)Ni3-AFe5-B12-x(MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0.01以上0.2以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【請求項7】
前記複合酸化物が、下記組成式(3)で表される請求項1~4のいずれか1項に記載の材料。
(3)RNi3-A-CFe5―B12-x(RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される一種又は二種の金属元素であり、MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0以上0.2以下であり、Cの値は0.01以上0.5以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【請求項8】
Bが0.01以上である請求項7に記載の材料。
【請求項9】
前記複合酸化物が、下記組成式(4)で表される請求項1~4の何れか1項に記載の材料。
(4)BiNi3-A-C-DFe5-B12-x(RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0.01以上0.2以下であり、Cの値は0.01以上0.5以下であり、Dの値は0.05以上1.5以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【請求項10】
RがSm及びHoの少なくとも一種である請求項7~9の何れか1項に記載の材料。
【請求項11】
20以上の比誘電率を有する請求項9又は10に記載の材料。
【請求項12】
下記組成式(I)で表される複合酸化物。
(I)BiNi3-A-C-DFe5-B12-x(RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0以上0.2以下であり、Cの値は0以上0.5以下であり、Dの値は0以上1.5以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Y及びFeを含むガーネット構造の複合酸化物、及び該複合酸化物を含有する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
Y及びFeを含むガーネット構造の複合酸化物は、イットリウム鉄ガーネット(Yttrium Iron Garnet:以下「YIG」ともいう。)及びその誘導体として知られる。YIGはイットリウム、鉄及び酸素で構成される。Y及びFeを含むガーネット構造の複合酸化物としては、YIGのほかに、YIGにおいて、1つ以上のイットリウム及び鉄以外の金属、例えばランタニド又はスカンジウムなどの希土類金属や、ビスマス等の金属でドープされた誘導体が知られている。YIG及びその誘導体は、主としてその強磁性共鳴周波数での狭い線幅といったその磁気特性ゆえに、高周波数通信で必要とされるバンドストップフィルタを始めさまざまな電気通信装置用素子やアイソレータ等の電気光学装置用素子として広く使用されている。
【0003】
YIG誘導体としては、例えば、特許文献1~5に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-1945号公報
【特許文献2】特開2018-150234号公報
【特許文献3】特開平11-283821号公報
【特許文献4】特開2010-83689号公報
【特許文献5】特開2007-217257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
YIG誘導体を用いた電気通信装置用又は電気光学装置用の素子においては、高性能のものがますます求められており、この観点から飽和磁化を高めたYIG誘導体材料が求められている。
しかしながら特許文献1~5において前記の観点からの検討は十分なものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はY、Fe及びNiを含むガーネット構造を有する複合酸化物を含有し、170mT以上の飽和磁化を有する材料を提供するものである。
【0007】
また本発明は、下記組成式(I)で表される複合酸化物を提供するものである。
(I)BiNi3-A-C-DFe5-B12-x(RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0以上0.2以下であり、Cの値は0以上0.5以下であり、Dの値は0以上1.5以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合酸化物及び材料は、飽和磁化が高く、バンドストップフィルタ等の磁性素子に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例3で得られた粉末のX線回折線図である。
図2図2は、実施例4で得られた粉末のX線回折線図である。
図3図3は、実施例9で得られた粉末のX線回折線図である。
図4図4は、比較例1で得られた粉末のX線回折線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本実施形態は、Y、Fe及びNiを含むガーネット構造の複合酸化物(以下、単に「前記複合酸化物」とも記載する。)及びそれを含有する材料に関する。本実施形態の複合酸化物及び材料の形態はそれぞれ特に限定されず、粉末やスラリー、膜、バルク体などのいずれであってもよい。ここでいう粉末は造粒顆粒を含む。
【0011】
まず、本実施形態の複合酸化物について説明する。
本発明者は、YIG誘導体である複合酸化物について、Yの一部がNiで置換された組成を有することで、複合酸化物の飽和磁化を効果的に高めることができることを知見した。後述する実施例1~3と比較例1との対比に示すとおり、YIGのガーネット構造におけるYの一部にNiを含有させた組成とすることで、複合酸化物及びそれからなる材料の飽和磁化が大幅に向上し、170mT以上、更に好ましくは180mT以上の値を得ることができる。
【0012】
本実施形態の複合酸化物は、ガーネットをS12-x(SはYを含む一種又は二種以上の金属であり、TはFeを含む一種又は二種以上の金属であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)とする組成式のSの係数3の中で、前記組成式の係数としてNiを0.05以上0.3以下含有することが好ましく、0.1以上0.2以下含有することが更に好ましい。Niを0.05以上含有することは複合酸化物の飽和磁化を高める点、及び粉体解砕時における易解砕性の点で好ましい。またNiの含有量は0.3以下であることが前記複合酸化物の製造容易性及びX線回折にて確認できる異相発生の低減の点で好ましい。なお、Sの中にY以外に含まれる金属としては、特に限定されるものではないが、1~3価の金属が好ましい。また、Tの中にFe以外に含まれる金属としては、特に限定されるものではないが、2~6価の金属が好ましい。
【0013】
本実施形態の複合酸化物における前記組成式のガーネット構造のYの一部がNiで置き換えられた組成であることは、蛍光X線(XRF)分析により確認できる。
【0014】
本実施形態の複合酸化物はY、Fe、Niに加えて更に別の元素を含有していてもよい。
例えば本実施形態の複合酸化物のいくつかの形態では、複合酸化物がSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWから選ばれる一種又は二種以上の金属元素(以下、「金属M」ともいう。)を含有していること、具体的にはガーネット構造の構成元素として前記金属Mを含有することが、複合酸化物及びそれを含む材料の飽和磁化を高める等の多機能化を図る点やX線回折測定にて確認できる異相発生の低減の点から好ましい。本実施形態の複合酸化物が前記金属Mを含有する場合、当該複合酸化物はY及びFeを含むガーネット構造におけるFeの一部を前記金属Mで置換した組成を有することが複合酸化物の製造容易性の点や飽和磁化向上の点で好ましい。
【0015】
例えば本実施形態の複合酸化物はSn、Zr及びHfから選ばれる少なくとも一種を含有することで、更に一層飽和磁化を高めることが可能となるため好ましい。
【0016】
例えば、本発明者は、複合酸化物が、Y及びFeを含むガーネット構造におけるFeの一部をSnが置換した組成を有することで、より多くのNiをガーネット構造中に取り込みやすく、それにより一層飽和磁化を高めることができることを知見した。
【0017】
また本実施形態の複合酸化物がSnの代わりに、Zr又はHfを含有すること、特にガーネット構造におけるFeの一部をZr又はHf、特にZrで置換した組成を有することも飽和磁化を効果的に向上できる点から好ましい。
【0018】
本実施形態の複合酸化物が前記金属Mを含有する場合、前記組成式の係数として、金属Mの含有量は0超であればよいが、当該元素を含有することの飽和磁化の向上を効果的なものとする点から、前記係数として0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることが更に好ましい。複合酸化物の飽和磁化を高める点から、本実施形態における前記複合酸化物中の前記金属Mの量は前記組成式の係数として、0.2以下であることが好ましい。金属Mの含有量は前記係数として0.1以上であってもよく0.1未満であってもよい。複合酸化物は、前記組成式のTの係数5の一部として、上記範囲の係数の金属Mを有することが好ましい。
【0019】
また例えば本実施形態の複合酸化物におけるいくつかの形態では、複合酸化物がLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる一種又は二種以上の金属元素(以下「金属R」ともいう。)を含有していること、具体的にはガーネット構造の構成元素として金属Rを含有することが、飽和磁化を高いものとしやすい点や誘電率向上の点から好ましい。本実施形態における前記複合酸化物が金属Rを含有する場合、当該複合酸化物はガーネット構造におけるYの一部を金属Rで置換した組成を有することが複合酸化物の製造容易性の点や飽和磁化を高める点で好ましい。
【0020】
特に、複合酸化物が金属Rを含有する場合、当該金属RがSm、Ho、Nd、Gdから選ばれる少なくとも一種であることが飽和磁化を高める点で好ましく、Sm及びHoから選ばれる少なくとも一種であることが更に一層好ましい。
【0021】
複合酸化物が金属Rを含有している場合、前記組成式の係数として、当該金属Rの量が0超であればよいが、当該金属Rを含有することによる飽和磁化の向上等の効果を効果的なものとする点から、金属Rを0.01以上含有していることが好ましく、0.05以上含有していることが更に好ましい。また添加元素のないYIGの飽和磁化の値より飽和磁化が低下してしまうと言う飽和磁化低減をより一層確実に防止する点から、本実施形態における前記複合酸化物中の金属Rの量は前記組成式の係数として、0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることが更に好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。複合酸化物は前記組成式のSの係数3の一部として、前記範囲の係数の金属Rを含有することが好ましい。
【0022】
本実施形態の複合酸化物は、金属Rを含有する場合、金属M及び金属Rの両方を含有していることが飽和磁化を高める点で好ましく、そのような組み合わせとしては、Sn、Zr及びHfから選ばれる少なくとも一種と、Sm、Ho、Nd、Gdから選ばれる少なくとも一種との組み合わせが挙げられる。例えば後述する式(3)において金属Rを含有するBが0超である複合酸化物及びそれを含む材料は、後述する実施例12~17に示すとおり、飽和磁化が例えば185mT以上、更には190mT以上にまで向上しうる。
【0023】
また例えば本実施形態における前記複合酸化物のいくつかの形態では、Biを含有すること、具体的にはガーネット構造の構成元素としてBiを含有することが、飽和磁化を一層高める点、及び、Biが通常のYIGに比べ焼成温度が低い状態でYIGが作製できる助剤となる点で好ましい。Biは複合酸化物の製造容易性の点から通常、ガーネット構造のYの一部をBiで置換する形態で複合酸化物に含有される。
【0024】
本実施形態における前記複合酸化物がBiを含有する場合、前記組成式の係数として、当該Biの量が0超であればよいが、Biを含有することによる飽和磁化の向上や誘電率の向上焼成温度低減や焼成時間の短縮等の効果を効果的なものとする点から、Biを0.05以上含有していることが好ましく、0.1以上含有していることが更に好ましい。本実施形態の複合酸化物におけるBiの量は前記組成式の係数として通常1.5以下であるが、X線回折から確認できる異相発生の点から、0.7以下であることが好ましく、0.5以下であることが特に好ましい。複合酸化物は前記組成式のSの係数3の一部として、上記範囲の係数のBiを含有することが好ましい。
【0025】
本実施形態の複合酸化物の好適な組成としては下記の式(I)が挙げられる。式(I)のより具体的な組成として、式(1)~(4)が挙げられる。
【0026】
(I)BiNi3-A-C-DFe5-B12-x(RがLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0以上0.2以下であり、Cの値は0以上0.5以下であり、Dの値は0以上1.5以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【0027】
(1)Ni3-AFe12-x(Aの値は0.05以上0.3以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【0028】
(2)Ni3-AFe5-B12-x(MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0.01以上0.2以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【0029】
(3)RNi3-A-CFe5―B12-x(RがLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0以上0.2以下であり、Cの値は0.01以上0.5以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【0030】
(4)BiNi3-A-C-DFe5-B12-x(RがLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、MはSn、Hf、Zr、Nb、Ta、Sb、Mo及びWからなる群から選択される一種又は二種以上の金属元素であり、Aの値は0.05以上0.3以下であり、Bの値は0.01以上0.2以下であり、Cの値は0.01以上0.5以下であり、Dの値は0.05以上1.5以下であり、xは各金属元素の電荷の総和を中和する値である。)
【0031】
ここで、xの値は式(I)並びに式(1)~(4)における各金属の正電荷を中和する値であればよい。式(1)~(4)においてNiは二価及び三価のいずれをとる場合もありうる。このことから、式(1)の場合、xは0以上0.15以下であることが好ましい。式(2)の場合、xは-0.1以上0.25以下であることが好ましく、0以上0.25以下であることがより好ましい。式(3)の場合、xは-0.1以上0.25以下であることが好ましく、0以上0.25以下であることがより好ましい。式(4)の場合、xは-0.3以上0.25以下であることが好ましい。従って、式(I)の場合、xは-0.3以上0.25以下であることが好ましい。
【0032】
式(I)並びに式(1)~(4)において、ニッケルの量Aはニッケルの好ましい量として上述したとおりである。特に、複合酸化物が式(2)若しくは(4)で表されるか、又は式(I)若しくは(3)で表され金属Mを含有する場合において、より多くのニッケルがガーネット構造中に含まれやすいことから飽和磁化と製造容易性との両立の点で、Aは0.05以上0.3以下であることが好ましく、0.1以上0.2以下であることがより好ましい。また特に、複合酸化物が式(1)で表されるか、又は式(I)若しくは(3)で表され金属Mを非含有である場合において、製造容易性の点から、Aは0.05以上0.3以下であることが好ましく、0.1以上0.2以下であることがより好ましい。
【0033】
式(I)並びに式(2)~(4)において、金属Mの好ましいものとしては上述したとおりである。
また、式(I)並びに式(2)~(4)において、Bの好ましい値は上述した金属Mの好ましい量のとおりである。具体的には、Bは0.01以上0.2以下であることが好ましく、0.02以上0.2以下であることが更に好ましい。Bは1以上であってもよく0.1未満であってもよい。
【0034】
また飽和磁化及び複合酸化物の製造容易性の点から、式(I)並びに式(2)~(4)において、A:Bは1:0.3以上1以下であることが好ましく、1:0.25以上0.4以下であることがより好ましい。
【0035】
式(I)並びに式(3)及び(4)において、金属Rの好ましいものとしては、上述したとおりである。
また式(I)並びに式(3)及び(4)において、Cの好ましい値としては上述した金属Rの好ましい量のとおりである。具体的には、Cは0.05以上0.5以下であることが好ましく、0.05以上0.4以下であることがより好ましく、0.05以上0.3以下であることが特に好ましい。
特に、複合酸化物が式(3)又は式(I)で表されBiを非含有で金属Rを含有する場合、これらの式におけるA:Cの割合は1:0.2以上10以下であることが高飽和磁化維持の点で好ましく、0.2以上4以下であることがより好ましい。
また特に、複合酸化物が式(4)又は式(I)で表されBi及び金属Rを含有する場合、A:Cの割合は1:0.2以上10以下であることが高飽和磁化維持の点で好ましく、0.2以上4以下であることがより好ましい。
【0036】
式(I)及び(4)において、Dの好ましい値としては、上述したBiの好ましい量のとおりである。具体的には、Dは0.05以上が好ましく、0.1以上が更に好ましく、通常1.5以下であるが、0.7以下であることが好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。
また特に、複合酸化物が式(4)又は式(I)で表される場合、A:Dの割合は1:0.4以上3以下であることがX線回折にて確認できる異相発生の低減の点で好ましい。
【0037】
本実施形態の複合酸化物が前記組成を有することはICP(Inductively Coupled Plasma;高周波誘導結合プラズマ)分析法及びX線回折測定、蛍光X線分析にて確認できる。なお、例えば複合酸化物からなる材料のX線回折測定において、不純物の微小なピークが観察されたとしても、2θ=20°~60°(CuKα線)におけるガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)が0.05以下かつ2θ=20°~60°(CuKα線)におけるガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)が0.02以下であれば、これら2つの不純物相を無視して、蛍光X線分析による得られた組成をガーネット相の組成と見なすことが可能である。
なお、CuKα線を用いたX線回折測定で、2θ=20°~60°(CuKα線)におけるガーネット相の最大ピークは2θで、32.3°±0.4°に出現する。
また、CuKα線を用いたX線回折測定で、2θ=20°~60°(CuKα線)におけるペロブスカイト相の最大ピークは2θで、33.2°±0.4°に出現する。
【0038】
なお、本実施形態において、複合酸化物を含有する材料は、飽和磁化を高める観点から、X線回折測定においてガーネット相(YFe12/PDFカード番号:01-073-0171)のピークが主相として観測され、ペロブスカイト相(YFeO/PDFカード番号:01-086-1377)のピークは観測されたとしてもわずかであることが好ましく、全く観測されないことが更に好ましい。具体的には、2θ=20°~60°(CuKα線)におけるガーネット相の最大ピークが全体の最大ピークであり、且つ該ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)が0.1以下であるのが好ましく、0.05以下であるのがより好ましく、0.03以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
なお、本実施形態の複合酸化物を含有する材料は、飽和磁化を高める観点から、X線回折測定においてスピネル相(NiFe/PDFカード番号:00-054-0964)のピークは本発明の効果を阻害しない範囲内であれば観測されてもよいが、全く観測されないことが好ましい。具体的には、2θ=20°~60°(CuKα線)におけるガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)が0.05以下であるのが好ましく、0.02以下であるのがより好ましく、0.01以下であるのがさらに好ましい。
なお、本発明において、ガーネット相(YIG相、YFe12相)は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θで、32.3°±0.4°、35.5°±0.5°、28.8°±0.5°の少なくとも3本のピークが確認できるとき、観測されるものとする。
【0040】
また、ペロブスカイト相(YFeO相)は、少なくとも33.2°±0.4°のピークが確認できるとき、観測されるものとする。また、スピネル相(NiFe相)はメインピークがガーネット相のピークと重なって確認できないため、30.3°±1.0°のピークが確認できるとき、観測されるものとする。
【0041】
また本実施形態の材料は、170mT以上の飽和磁化を有すればよく、X線回折測定においてガーネット相、ペロブスカイト相、スピネル相以外の相が観測されても差し支えない。その場合、本実施形態の材料の主相はガーネット相である。ただし、ガーネット相、ペロブスカイト相、スピネル相以外の相が観察されない形態は、本実施形態の材料が170mT以上の飽和磁化を得やすい点で有利である。
X線回折測定は粉末X線回折測定であり、例えば後述する実施例に記載の条件にて測定される。
【0042】
(飽和磁化)
本実施形態の複合酸化物及びそれを含有する材料の飽和磁化は170mT以上であることが好ましい。当該飽和磁化は、NiがYの一部を置換する組成にてYIG誘導体を製造することで得られ、好ましくは後述する好適な製造方法で得ることができる。
【0043】
本実施形態の複合酸化物及びそれを含有する材料の飽和磁化は175mT以上であることがより好ましく、180mT以上であることが更に好ましく、185mT以上であることが特に好ましい。本実施形態の複合酸化物の飽和磁化は高ければ高いほどよいので上限は特に限定されるものではないが、例えば複合酸化物の製造容易性の点からは300mT以下であることが好ましく、280mT以下であることが更に好ましく、250mT以下であることが特に好ましい。
飽和磁化は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0044】
また、本発明において飽和磁化は、印加磁場10k・1000/4π・A/m(10kOe)のときの磁化のことを指す。
【0045】
(比誘電率)
本実施形態の複合酸化物及びそれを含有する材料は、比誘電率が20以上であることが好ましく、22以上であることがより好ましく、24以上であることが更に好ましい。本実施形態の複合酸化物及びそれを含有する材料の比誘電率は高ければ高いほどよいが、例えば複合酸化物の製造容易性の点からは30以下であることが好ましい。本実施形態の複合酸化物はYIG構造中にYを置換する組成にてNiを含有するために、金属RやBiを更に含有すると、比誘電率を容易に高いものとすることができる。YIG誘導体が高い飽和磁化に加えて比誘電率が高いことは、当該誘導体を用いた電気通信装置用素子又は電気光学装置用素子の性能を改善しつつサイズダウンを図れる利点を有する。
上記比誘電率は、NiがYの一部を置換する組成にてYIG誘導体を製造し、更にNi、金属M、金属R、Bi等の量を調整することで得られ、好ましくは後述する好適な製造方法で得ることができる。
比誘電率は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0046】
(好適な製造方法)
本実施形態の複合酸化物は、原料となるY、Fe、NiO並びに各種の金属酸化物を乾式混合法によって混合し、得られた混合物を焼成することによって得ることができる。
本発明の複合酸化物を得るためには、上述した通り、上記ガーネットの組成(YFe12又はS12-x)において、Yの一部をNiで置換した組成とすればよく、Yのうち上記組成式の係数として0.05以上0.3以下をNiで置換した組成とすることがより好ましく、0.1以上0.2以下をNiで置換した組成とすることが特に好ましい。当該組成とするためには、乾式混合時におけるY、Fe、NiO並びにその他各種金属の酸化物の混合比率を当該組成となるように調整すればよい。
【0047】
乾式混合時に各種酸化物を混合しながら粉砕することで、ガーネット構造単相の複合酸化物が得られやすくなる。乾式混合に供するFeの平均粒径は20μm以下であることが、Niを含有し飽和磁化が高いガーネット単相の複合酸化物を首尾よく得るために好ましく、より好ましくは0.1μm以上10μm以下である。乾式混合により得られた混合粉末の平均粒径は例えば0.1μm以上7μm以下であることが、Niを含有し飽和磁化が高くガーネット単相の複合酸化物を首尾よく得る点で好ましい。
【0048】
平均粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定法による体積基準の積算分率における50%径(D50)である。D50は例えば以下の方法で測定される。
【0049】
<平均粒径の測定方法>
100mLガラスビーカーに、粉砕粉末を約1g入れ、次いで分散媒として0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を、ビーカーの100mLの線まで入れ、測定用スラリーとする。この測定用スラリーを、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液が入った日機装株式会社製マイクロトラックHRAの試料循環器のチャンバーに、適正濃度であると装置が判定するまで滴下して、当装置の超音波による内部分散(40W)を5分行い、D50を測定する。
【0050】
得られた混合粉末の焼成雰囲気は大気などの酸素含有雰囲気であることがX線回折から確認できる異相発生抑制の点で好ましい。焼成温度は、ガーネット構造単相の複合酸化物を首尾よく得られる点から1400℃以上1450℃以下であることがより好ましい。
【0051】
以上の工程で得られた複合酸化物は通常粉末状である。当該複合酸化物はそのまま用いてもよく、或いは公知の方法で成膜してもよく、また焼結してバルク体としてもよい。
【0052】
(用途)
本実施形態の複合酸化物及びそれを含む材料の用途としては、その優れた飽和磁化、好ましくは高い飽和磁化と比誘電率とを生かして、種々の用途に用いることができる。当該用途としては、無線周波数用途に用いられるアイソレータ、サーキュレータ等の非可逆回路素子の磁気回転子や、バンドストップフィルタ等の高周波フィルタとして好適に用いることができる。
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、下記各実施例でいうピーク強度の比はピーク高さ比である。
【0054】
〔実施例1~3〕
NiO(関東化学(株)製、特級;平均粒径D50=3μm)、Y(日本イットリウム(株)製;平均粒径D50=7μm)、Fe((株)テツゲン製;平均粒径D50=7μm)の各粉末を混合機は大阪ケミカル社製ForceMill FM-1)で30秒間乾式にて混合及び粉砕した。得られた混合粉末の平均粒径D50は実施例1~3のいずれも5μmであった(以下の各実施例及び比較例1でも乾式混合で得られた混合粉末の平均粒径は実施例1~3と同様であった)。原料の使用量は表1に記載の組成が得られる量とした。大気雰囲気下、混合粉末を1400℃で5時間焼成した。得られた焼成粉末について下記条件でX線回折測定に供した。X線回折測定結果からYIGと同様のガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)、ペロブスカイト相、スピネル相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)及びガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)を計算した。結果を表1に示す。なお実施例3について、得られた焼成粉末を蛍光X線分析した結果、焼成粉末における組成は、Y:43質量%Fe:55質量%NiO:2質量%であり、表1の組成と整合している。なお、蛍光X線分析装置としてはリガク社製ZSXPrimusIIを用いた。測定条件は、X線源としてロジウムをターゲットとするX線管球を用い、X線出力を50kV、48mAとし、分析径を10mmとし、分光結晶をLiFとした。
【0055】
〔X線回折測定〕
・装置:UltimaIV(株式会社リガク製)
・線源:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:40mA
・スキャン速度:2度/min
・ステップ:0.02度
・スキャン範囲:2θ=20°~60°
【0056】
〔実施例4~9〕
原料として、NiO、Y、SnO、Feを表1の組成が得られる量で用いた以外は実施例1と同様として焼成粉末を得、X線回折測定によりYIGと同様のガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)、ペロブスカイト相、スピネル相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)及びガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)を計算した。
【0057】
〔実施例10〕
原料としてNiO、Y、ZrO、Feを表1の組成が得られる量で用いた以外は実施例1と同様として焼成粉末を得、X線回折測定によりYIGと同様のガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)、ペロブスカイト相、スピネル相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)及びガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)を計算した。
【0058】
〔実施例11〕
原料としてNiO、Y、HfO、Feを表1の組成が得られる量で用いた以外は実施例1と同様として焼成粉末を得、X線回折測定によりYIGと同様のガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)、ペロブスカイト相、スピネル相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)及びガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)を計算した。
【0059】
〔実施例12、13及び15〕
原料としてSm、NiO、Y、SnO、Feを表1の組成が得られる量で用いた以外は実施例1と同様として焼成粉末を得、X線回折測定によりYIGと同様のガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)、ペロブスカイト相、スピネル相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)及びガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)を計算した。
【0060】
〔実施例14、16〕
原料として、Ho、NiO、Y、SnO、Feを表1の組成が得られる量で用いた以外は実施例1と同様として焼成粉末を得、X線回折測定によりYIGと同様のガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)、ペロブスカイト相、スピネル相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)及びガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)を計算した。
【0061】
〔実施例17〕
原料として、Sm、Ho、NiO、Y、SnO、Feを表1の組成が得られる量で用いた以外は実施例1と同様として焼成粉末を得、X線回折測定によりYIGと同様のガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)、ペロブスカイト相、スピネル相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)及びガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)を計算した。
【0062】
〔実施例18~23〕
原料として、Sm、NiO、Y、Fe表1の組成が得られる量で用いた以外は実施例1と同様として焼成粉末を得、X線回折測定によりYIGと同様のガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)、ペロブスカイト相、スピネル相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)及びガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)を計算した。
【0063】
〔実施例24~28〕
原料として、Bi、Sm、NiO、Y、SnO、Feを表1の組成が得られる量で用いた以外は実施例1と同様として焼成粉末を得、X線回折測定によりYIGと同様のガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)、ペロブスカイト相、スピネル相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)及びガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するスピネル相の30.3°±1.0°のピークのピーク強度(S)のピーク強度比(S/G)を計算した。
【0064】
〔比較例1〕
原料としてY、Feの各粉末を表1の組成が得られる量で用いた以外は実施例1と同様として焼成粉末を得、X線回折測定によりYIGガーネット構造に由来するピークパターンを有することを確認した。なお、YIG(ガーネット相)及びペロブスカイト相以外のピークは確認できなかった。また、ガーネット相の最大ピークのピーク強度(G)に対するペロブスカイト相の最大ピークのピーク強度(P)のピーク強度比(P/G)を計算した。蛍光X線分析した結果、焼成粉末における組成は、Y:46質量%、Fe:54質量%であり、表1の組成と整合している。
【0065】
以下、各実施例及び比較例の焼成粉末について以下の方法で飽和磁化を測定した。また実施例3、7、13、24-27及び比較例1の焼成粉末について、以下の方法で比誘電率を測定した。結果を表1に示す。
〔評価〕
(飽和磁化の測定方法)
磁化の測定は、振動試料型磁化測定装置(株式会社東英工業社製 VSM-5)を用いて測定した。測定試料をセルにつめ、前記の装置にセットする。試料を4πIコイルに入れ、当該装置の電磁石間に磁場測定用Hコイル及び磁化測定用4πIコイルを入れた。電磁石の電流を変化させ磁場Hを変化させたHコイル及び4πIコイルの出力をそれぞれ積分し、H出力をX軸に、4πIコイルの出力をY軸に、ヒステリシスループを記録紙に描いた。このヒステリシスカーブにおいて、印加磁場が10k・1000/4π・A/m(10kOe)であるときの磁化を求め、飽和磁化とした。なお、測定条件は以下のとおりである。
試料充填量 :100~200mg
試料充填セル:内径6mmφ±0.1mm、高さ2mm±0.1mm
4πIコイル:巻数30回
【0066】
(比誘電率の測定方法)
内径20mm、円筒状の成形金型(材質:SUS製)に入れた試料に、金型上部から3MPaの荷重を30秒間かけて成型した。この成形体を大気雰囲気下1400℃で5時間焼成し、焼結体とした。得られた焼結体を研削処理して、直径16mm、厚さ1mm、平行度0.01mm、表面粗さ(Ra)0.5μmの測定試料とした。得られた測定試料をインピーダンス・アナライザE4991B(キーサイト・テクノロジー社製)を用いて、1000MHz、25℃、50%RH環境下にて、比誘電率εrの測定を行った。測定した比誘電率を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
以上の通り、各実施例において、YIGにおけるYの一部をNiに置き換え、更に、Feの一部を金属M、Yの一部をR及び/又はBiに置き換えた組成の誘導体を製造した。得られたYIG誘導体はいずれもX線回折測定においてペロブスカイト相(YFeO)及びスピネル相のピークはかなり小さく、ほぼYIG相であり(P/Gがすべて0.05以下、大部分が0.03以下。S/Pがすべて0.02以下、大部分が0.01以下)であった。また、蛍光X線分析により目的とする組成のYIG誘導体が得られたことが確認できた。YIGにおけるYの一部をNiに置き換えた各実施例では、YIGに比して飽和磁化が向上することが確認され、また一部の実施例で比誘電率を測定したところ、YIGに比して大幅に高い値が得られた。
なお、上記各実施例の焼成条件は1400℃で5時間であるが、焼成時間を例えば20時間と長時間にすれば、X線回折測定結果において、ペロブスカイト相(YFeO)及びスピネル相(NiFe)のピークはさらに小さくなる、あるいは全く観測されなくなることが予想される。
図1
図2
図3
図4