IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジャットの特許一覧

<>
  • 特開-作物の病害軽減方法及び器具 図1
  • 特開-作物の病害軽減方法及び器具 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102270
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】作物の病害軽減方法及び器具
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/05 20180101AFI20220630BHJP
【FI】
A01G22/05 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216908
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】593008645
【氏名又は名称】株式会社ジャット
(74)【代理人】
【識別番号】100087815
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 昭二
(72)【発明者】
【氏名】岩男 吉昭
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AA03
2B022AB15
2B022BA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低コスト、軽労働でなおかつ安心・安全な作物を収穫するための病害軽減方法及びそのための器具を提供する。
【解決手段】作物の根元周辺の土壌に病原菌にとって有毒な銅、銀、亜鉛からなる群から選択される成分を含有する金属線2を、少なくとも一部分差し込んで固定する病害軽減方法及びその金属線2からなる病害軽減器具である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物の根元周辺の土壌に病原菌にとって有毒な成分を含有する金属線(2,2A,2B)を少なくとも一部分差し込んで固定することを特徴とする病害軽減方法。
【請求項2】
病原菌にとって有毒な成分が、銅、銀、亜鉛からなる群から選択される、特定の金属の一種以上を含有するものである請求項1項記載の方法。
【請求項3】
金属線の形状がU字型、V字型、松葉型のいずれかであり、2本の脚を前記土壌の中に突き刺す請求項1又は2項記載の方法。
【請求項4】
前記作物がイチゴであり、前記金属線が銅線である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の病害軽減方法に使用するために用いる病害軽減器具であって、作物の根元周辺の土壌に少なくとも一部分差し込む金属線(2,2A,2B)からなることを特徴とする病害軽減器具。
【請求項6】
前記金属線の形状がU字型、V字型、松葉型のいずれかである請求項5記載の器具。
【請求項7】
前記金属線の中央折り曲げ部に取手(22A,22B)を設けた請求項5又は6記載の器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本考案は作物の病害軽減方法及び器具に関し、特に、土壌を滅菌,殺菌する技術に関するものである。以下の説明ではイチゴ栽培を例にしているが、その他の作物にも適用可能である。「その他の作物」とは主としてハウス野菜で、キュウリ、メロン、スイカ、トマト、ナス、ピーマンを含む。
【背景技術】
【0002】
イチゴ栽培において病害による枯死は栽培上の大きな問題で解決が待たれている。特に、育苗期に大量に枯死すると定植本数に不足し、更に定植後に枯死し、本圃に繋がる。本圃での枯死は営農上の深刻な問題となる。
【0003】
外国のように耐病性の品種を採用すれば相当程度問題は解決すると思われるが、日本で栽培され、流通するほぼ全ての品種が病害に弱い。日本人の嗜好性から品種変更もできず、毎年の病害枯死多発は農家経営を悪化させている。そのため、イチゴの病害枯死に有効な技術を開発することは関係者にとって急務である。
【0004】
育苗中或いは本圃でイチゴを枯死に至らしめる病害は多種にわたる。農家及び現場で最も重大視されているのは「タンソ病」とされるが、タンソ病以外にも「疫病」や導管機能を損なう「導管病」、雨天後に泥跳ねで伝染する各種病原菌が存在する。
【0005】
現在、農家は病害対策として、健全な苗を得る為の無病親苗、育苗畑の土壌消毒、育苗ハウス及び育苗用培土の殺菌、育苗器具の殺菌、更に、育苗中の農薬散布(例えば下記特許文献1など)と多大なコストをかけて対処しているが、十分な成果を得られず毎年の如く枯死苗が多発し、農家経済とイチゴ産地の存亡を脅かしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-2446公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
育苗ハウス及び育苗用培土の殺菌、育苗器具の殺菌などはコスト面だけでなく、体力的にも重労働であり、農家の高齢化と相まって負担の多い作業である。また、農薬はその多くが生理活性を有する化学物質であり、多量の使用によって防除対象とする病害虫や雑草以外の作物、ヒトおよび環境に何らかの悪影響をおよぼす可能性があることが指摘されている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて行われたものであり、低コスト、軽労働でなおかつ安心・安全な作物を収穫するための病害軽減方法及びそのための器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成する本発明の病害軽減方法は、作物の根元周辺の土壌に病原菌にとって有毒な成分を含有する金属線を少なくとも一部分差し込んで固定することを特徴とする。
【0010】
本発明の病害軽減器具は、上記病害軽減方法に使用するために、作物の根元周辺の土壌に少なくとも一部分差し込む金属線であって、この金属線は病原菌にとって有毒な成分を含有するものであることを特徴とする。
【0011】
「病原菌にとって有毒な成分」とは銅が入手容易で価格も安いので好ましいが、そのほか、銀、亜鉛、等の特定の金属の一種以上を含有するものも使用可能である。これらの金属は無垢の状態で使用できるほか、鉄や合成樹脂等の表面に鍍金や塗装によりこれらの金属成分を被覆させたり、練り込んだりすることもできる。ここで、「病原菌」はタンソ病、疫病、導管病、根腐病、などを引き起こす細菌類をいう。
【0012】
金属線の形状は、U字型、V字型、松葉型が好ましい。2本の脚を土壌の中に突き刺すことが容易であるからである。大きさは作物に応じて変えることができるが、例えばイチゴの苗については2本の脚のそれぞれの長さが約5~10cm、直径0.5~3mmのものが適当である。
【0013】
ヘアピン状の金属線はそのまま使用することができるし、指や金具で力を加えてさまざまに変形することもできる。例えばU字の丸い背中部分をひねって輪を作り出したり、松葉状に接合させたりすることもでき、これらの部分を取手の代わりとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法は、作物の根元周辺の土壌に病原菌にとって有毒な成分を含有する金属線を少なくとも一部分差し込んで固定するので、土壌を滅菌,殺菌することができる。イチゴに関して具体的な効果を後記実施例1において説明する。
【0015】
なお、銅、銀、亜鉛、などの金属イオンに殺菌作用があることは古くから知られており、その性質を利用して硬貨、食器、上水道の管が作られているのであるから、人体に対する安全性は証明されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の1実施例を示すイチゴ栽培状態である。
図2】(a)~(c)は育苗ポットに差し込む3類の金属線の正面図である。(d)は比較試験で使用したプラスチック製のピンである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面に基づき、本発明の実施例を説明する。
【実施例0018】
一般に、一季成り性品種のイチゴ栽培は、まずは親株を定植し、ランナー(子苗)が発生するとこれを採苗し、仮植床又はポットに移植して育苗した後に花芽分化させ、本圃に定植して果実を実らせている。
【0019】
ランナーを採苗する方法は、親株から苗を切り離さないで採苗する方式と、親株から苗を切り離して採苗する方式の大きく2通りに分けられる。親株から苗を切り離さない場合には、苗を地面やポットで受けて育苗させる。親株から切り離す場合には、ポット等に挿し木して育苗させる。図1は前者の様子を表している。
【0020】
本発明の病害軽減方法は、イチゴSの根元周辺の土壌に1本又は複数本の金属線2を差し込むことである。この金属線は病原菌にとって有毒な成分を含有する金属を含有するものであり、この例では銅線である。
【0021】
実施例1の銅線は、図2(a)に示すようにU字型であり、2本の脚21を土壌の中に突き刺して使用する。図1ではランナーにかぶせるように1本ずつ設置しているが、設置場所や本数は必ずしもこの形態に限らない。
【0022】
この銅線を使用して病害軽減試験を次のようにして行った。
【0023】
(1)用意したイチゴ苗と経過
9月上旬に親株から出たランナーを7.5cm型ポット1にピン2で固定した。 土は市販の育苗用の無肥料培土で、ピートモス、ヤシガラ等で出来たものである。ランナーの固定に試験区は銅製、対照区は、図2(d)に示すような形状のプラスチック製のランナーピン3を使用した。苗は試験区と対照区それぞれ70本を用意した。
【0024】
9月下旬に十分発根した事を確認し、苗を親苗から切り離して独立させ、育苗を開始した。切り離し後、ポットをトレーに整列配置して液体肥料を施用した。
【0025】
(2)育苗条件と育苗
ハウス内の高さ70cmの架台上に板を敷き、地温を確保する為に電熱線を設置した。それぞれの苗70本の間は区分けに板を立てた。夏季育苗中に枯死したポットの土を採取し、乾かして病原菌として用意した。
【0026】
前記感染土を、2 mm目の篩で振るいながら苗に上からかけ、潅水し葉の土を落とした。
【0027】
(3)試験結果 11月20日調査
1. 銅製ランナーピン区(実施例1)
健全生育70本、生育異常と枯死0本
【0028】
2. プラスチックランナーピン区(比較例)
健全生育60本、何らかの生育異常10本、枯死0本
【0029】
備考
「銅製のランナーピン」は径1.6mm長さ15cm銅線をU字形ヘヤピンの形に作成し、2本の脚21Aをイチゴの根元付近の土壌に突き刺した。「プラスチックランナーピン」は、図2(d)に示すような形状のプラスチック製のランナーピン3を使用し、2本の脚31をイチゴの根元付近の土壌に突き刺した。
【0030】
上記評価において、「何らかの生育異常」とは葉柄が赤色に変色したもの、基部のわずかな黒変などである。「健全」、「生育異常」は試験者の長年の栽培経験から判定した。
【0031】
上記試験はイチゴのみであるが、「タンソ病」はキュウリ、スイカ、などでも見られ、「疫病」もキュウリ、トマト、ピーマンなどでも見られる。したがって、本実施例の方法や器具はイチゴ以外の他の作物にも適用することができ、広く応用できるものである。
【実施例0032】
実施例2は、実施例1とは金属線の形状のみが異なる。実施例2の金属線2Aでは、実施例1のU字の丸い背中部分22を指や金具で力を加えてひねって輪22Aを作り出したものである。この輪22Aは取手の代わりとなる。
【実施例0033】
実施例3も、実施例1、2とは金属線の形状のみが異なる。実施例3の金属線2Bでは、実施例1のU字の丸い背中部分22を指や金具で力を加えて松葉状の接合部22Bを作り出したものである。この接合部22Bは取手の代わりとなる。
【符号の説明】
【0034】
1 ポット
2、2A~2B 金属線(銅線など)
3 比較試験用のプラスチックピン
22 背中部分
22A 輪
22B 直線状の接合部
S イチゴ
図1
図2