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特開2022-102347電気機器システムの評価装置、設計装置、評価方法および設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102347
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】電気機器システムの評価装置、設計装置、評価方法および設計方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/39 20200101AFI20220630BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20220630BHJP
   G06F 30/398 20200101ALI20220630BHJP
   G01R 29/08 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
G06F17/50 658V
G06F17/50 680Z
G06F17/50 666V
G01R29/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217029
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】押川 晃一郎
【テーマコード(参考)】
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
5B046AA04
5B046AA07
5B046AA08
5B046BA04
5B046JA03
5B146AA05
5B146AA21
5B146AA22
5B146GC27
5B146GL10
(57)【要約】
【課題】複数の配線部間の誘導干渉の原因を事前に評価することができる電気機器システムの評価装置、設計装置、評価方法および設計方法を提供する。
【解決手段】電気機器システムの評価装置は、第1配線と第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数であって、所定の設計パラメータを変数とする伝達関数を求める伝達関数演算部と、第1配線における第1電流または第1電圧の信号レベルと、第2配線の信号レベルの設計制限値とから、伝達関数の設計制限値を求める伝達関数制限値演算部と、電気機器システムにおける設計パラメータの設計値を設定し、設計値を伝達関数の変数に代入した際の伝達関数の値を求める代入演算部と、設計値に基づく伝達関数の値を伝達関数の設計制限値と比較することにより、設計値の良否を評価する評価部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1機器と第2機器とが第1配線を介して電気的に接続される第1電気系統と、第3機器と第4機器とが第2配線を介して電気的に接続される第2電気系統と、を含む電気機器システムの評価装置であって、
前記第1配線と前記第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数であって、前記第1配線における第1電流または第1電圧を入力とし、前記第1電流または前記第1電圧に基づいて前記第1配線と前記第2配線との間の誘導干渉によって生じる前記第2配線における第2電流または第2電圧を出力とし、所定の設計パラメータを変数とする伝達関数を求める伝達関数演算部と、
前記第1電流または前記第1電圧の所定の周波数範囲における信号レベルと、前記第2配線の前記周波数範囲における信号レベルの設計制限値とから、前記周波数範囲における前記伝達関数の設計制限値を求める伝達関数制限値演算部と、
前記電気機器システムにおける前記設計パラメータの設計値を設定し、前記設計値を前記伝達関数の前記変数に代入した際の前記周波数範囲における前記伝達関数の値を求める代入演算部と、
前記周波数範囲における前記設計値に基づく前記伝達関数の値と前記伝達関数の設計制限値とを比較することにより、前記設計値の良否を評価する評価部と、を備えた、評価装置。
【請求項2】
前記第1電気系統は、前記第1機器を信号源の機器、前記第2機器を負荷の機器とし、
前記第2電気系統は、前記第3機器を信号源の機器、前記第2機器を負荷の機器とし、
前記設計パラメータは、
前記相互インダクタンス、
前記第2機器または前記第4機器の負荷のインピーダンス、
前記第3機器の内部インピーダンス、
前記第1配線または前記第2配線の自己インダクタンス、および
前記第1配線の信号レベルのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記変数に設定される前記設計パラメータは、前記相互インダクタンスである、請求項1または2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記伝達関数の設計制限値は、前記第1電流の前記周波数範囲における信号レベルに対する前記第2配線の前記周波数範囲における信号レベルの設計制限値の比率を求めることで得られる、請求項1から3の何れかに記載の評価装置。
【請求項5】
前記第1配線は、前記第1電気系統に接続される電動機を駆動するための駆動電力供給配線である、請求項1から4の何れかに記載の評価装置。
【請求項6】
第1機器と第2機器とが第1配線を介して電気的に接続される第1電気系統と、第3機器と第4機器とが第2配線を介して電気的に接続される第2電気系統と、を含む電気機器システムの設計装置であって、
前記第1配線と前記第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数であって、前記第1配線における第1電流または第1電圧を入力とし、前記第1電流または前記第1電圧に基づいて前記第1配線と前記第2配線との間の誘導干渉によって生じる前記第2配線における第2電流または第2電圧を出力とし、所定の設計パラメータを変数とする伝達関数を求める伝達関数演算部と、
前記第1電流または前記第1電圧の所定の周波数範囲における信号レベルと、前記第2配線の前記周波数範囲における信号レベルの設計制限値とから、前記周波数範囲における前記伝達関数の設計制限値を求める伝達関数制限値演算部と、
前記周波数範囲における前記設計値に基づく前記伝達関数の値が前記伝達関数の設計制限値を超えないような前記設計パラメータの設計制限値を設定する設計パラメータ制限値演算部と、を備えた、設計装置。
【請求項7】
前記電気機器システムにおける前記設計パラメータの設計値を設定し、前記設計値と前記設計パラメータの設計制限値とを比較することにより、前記設計値の良否を評価する評価部を備えた、請求項6に記載の設計装置。
【請求項8】
前記電気機器システムにおける前記設計パラメータの設計値範囲を設定し、前記設計パラメータの前記設計値範囲のうち、前記設計パラメータの設計制限値内となる良設計値範囲を求める自動設計部を備えた、請求項6に記載の設計装置。
【請求項9】
第1機器と第2機器とが第1配線を介して電気的に接続される第1電気系統と、第3機器と第4機器とが第2配線を介して電気的に接続される第2電気系統と、
を含む電気機器システムの評価方法であって、
前記第1配線と前記第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数であって、前記第1配線における第1電流または第1電圧を入力とし、前記第1電流または前記第1電圧に基づいて前記第1配線と前記第2配線との間の誘導干渉によって生じる前記第2配線における第2電流または第2電圧を出力とし、所定の設計パラメータを変数とする伝達関数を求め、
前記第1電流または前記第1電圧の所定の周波数範囲における信号レベルと、前記第2配線の前記周波数範囲における信号レベルの設計制限値とから、前記周波数範囲における前記伝達関数の設計制限値を求め、
前記電気機器システムにおける前記設計パラメータの設計値を設定し、前記設計値を前記伝達関数の前記変数に代入した際の前記周波数範囲における前記伝達関数の値を求め、
前記周波数範囲における前記設計値に基づく前記伝達関数の値と前記伝達関数の設計制限値とを比較することにより、前記設計値の良否を評価する、評価方法。
【請求項10】
第1機器と第2機器とが第1配線を介して電気的に接続される第1電気系統と、第3機器と第4機器とが第2配線を介して電気的に接続される第2電気系統と、を含む電気機器システムの設計方法であって、
前記第1配線と前記第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数であって、前記第1配線における第1電流または第1電圧を入力とし、前記第1電流または前記第1電圧に基づいて前記第1配線と前記第2配線との間の誘導干渉によって生じる前記第2配線における第2電流または第2電圧を出力とし、所定の設計パラメータを変数とする伝達関数を求め、
前記第1電流または前記第1電圧の所定の周波数範囲における信号レベルと、前記第2配線の前記周波数範囲における信号レベルの設計制限値とから、前記周波数範囲における前記伝達関数の設計制限値を求め、
前記周波数範囲における前記伝達関数の値が前記伝達関数の設計制限値を超えないような前記設計パラメータの設計制限値を設定する、設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器システムの評価装置、設計装置、評価方法および設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両等の比較的大規模な電気機器システムの設計の際には、複数の配線部間で生じる誘導干渉を考慮する必要がある。しかしながら、複数の電気系統が存在する電気機器システムにおいて、複数の電気系統を組み込んだ状態での評価を設計時に行うことは難しい問題がある。
【0003】
従来のEMC(電磁両立性)設計においては、誘導干渉を受ける側の装置(被害側装置)のノイズ耐性がノイズレベルの限度値(信号レベルの設計制限値)で規定されているため、そのノイズレベルで評価するしかなく、ノイズレベルの限度値を超えた場合にその原因が何によるものかが把握し難い問題がある。
【0004】
このような設計時の評価に際し、下記特許文献1には、搭載機器に接続されるワイヤーハーネスの電流測定結果から電磁放射強度を計算し、搭載設計に利用することが開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、プリント基板上の配線レイアウトに関する設計支援を行うための方法として、プリント基板の設計情報から複数の信号線間の線間距離または近接長に関する検出条件に基づいてクロストークノイズの影響を受ける信号線を検出する態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-19547号公報
【特許文献2】特開2013-117863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1はあくまでワイヤーハーネスをノイズ源として扱っているにすぎず、複数の配線間の干渉を考慮したものにはなっていない。また、特許文献2の方法は、線間距離が近いこと、信号線間で信号レベル(電圧等)の差が小さいことおよび信号線の周囲に金属の存在がないこと等の理想条件で検証しても実際に生じる影響との誤差が少ないシステム(回路基板上の複数の信号線等)を対象とするものであり、電動機を駆動するための駆動電力供給配線(強電配線)と情報伝送配線(弱電配線)との間の検証、信号線の周囲に金属の存在がある場合の検証等、より現実に近い配線レイアウトにおいて複数の配線部間の誘導干渉の原因を評価することについては改善の余地がある。
【0008】
そこで本発明は、複数の配線部間の誘導干渉の原因を事前に評価することができる電気機器システムの評価装置、設計装置、評価方法および設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る電気機器システムの評価装置は、第1機器と第2機器とが第1配線を介して電気的に接続される第1電気系統と、第3機器と第4機器とが第2配線を介して電気的に接続される第2電気系統と、を含む電気機器システムの評価装置であって、前記第1配線と前記第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数であって、前記第1配線における第1電流または第1電圧を入力とし、前記第1電流または前記第1電圧に基づいて前記第1配線と前記第2配線との間の誘導干渉によって生じる前記第2配線における第2電流または第2電圧を出力とし、所定の設計パラメータを変数とする伝達関数を求める伝達関数演算部と、前記第1電流または前記第1電圧の所定の周波数範囲における信号レベルと、前記第2配線の前記周波数範囲における信号レベルの設計制限値とから、前記周波数範囲における前記伝達関数の設計制限値を求める伝達関数制限値演算部と、前記電気機器システムにおける前記設計パラメータの設計値を設定し、前記設計値を前記伝達関数の前記変数に代入した際の前記周波数範囲における前記伝達関数の値を求める代入演算部と、前記周波数範囲における前記設計値に基づく前記伝達関数の値と前記伝達関数の設計制限値とを比較することにより、前記設計値の良否を評価する評価部と、を備えている。
【0010】
また、本発明の他の態様に係る設計装置は、第1機器と第2機器とが第1配線を介して電気的に接続される第1電気系統と、第3機器と第4機器とが第2配線を介して電気的に接続される第2電気系統と、を含む電気機器システムの設計装置であって、前記第1配線と前記第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数であって、前記第1配線における第1電流または第1電圧を入力とし、前記第1電流または前記第1電圧に基づいて前記第1配線と前記第2配線との間の誘導干渉によって生じる前記第2配線における第2電流または第2電圧を出力とし、所定の設計パラメータを変数とする伝達関数を求める伝達関数演算部と、前記第1電流または前記第1電圧の所定の周波数範囲における信号レベルと、前記第2配線の前記周波数範囲における信号レベルの設計制限値とから、前記周波数範囲における前記伝達関数の設計制限値を求める伝達関数制限値演算部と、前記周波数範囲における前記設計値に基づく前記伝達関数の値が前記伝達関数の設計制限値を超えないような前記設計パラメータの設計制限値を設定する設計パラメータ制限値演算部と、を備えている。
【0011】
また、本発明の他の態様に係る評価方法は、第1機器と第2機器とが第1配線を介して電気的に接続される第1電気系統と、第3機器と第4機器とが第2配線を介して電気的に接続される第2電気系統と、含む電気機器システムの評価方法であって、前記第1配線と前記第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数であって、前記第1配線における第1電流または第1電圧を入力とし、前記第1電流または前記第1電圧に基づいて前記第1配線と前記第2配線との間の誘導干渉によって生じる前記第2配線における第2電流または第2電圧を出力とし、所定の設計パラメータを変数とする伝達関数を求め、前記第1電流または前記第1電圧の所定の周波数範囲における信号レベルと、前記第2配線の前記周波数範囲における信号レベルの設計制限値とから、前記周波数範囲における前記伝達関数の設計制限値を求め、前記電気機器システムにおける前記設計パラメータの設計値を設定し、前記設計値を前記伝達関数の前記変数に代入した際の前記周波数範囲における前記伝達関数の値を求め、前記周波数範囲における前記設計値に基づく前記伝達関数の値と前記伝達関数の設計制限値とを比較することにより、前記設計値の良否を評価する。
【0012】
また、本発明の他の態様に係る設計方法は、第1機器と第2機器とが第1配線を介して電気的に接続される第1電気系統と、第3機器と第4機器とが第2配線を介して電気的に接続される第2電気系統と、を含む電気機器システムの設計方法であって、前記第1配線と前記第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数であって、前記第1配線における第1電流または第1電圧を入力とし、前記第1電流または前記第1電圧に基づいて前記第1配線と前記第2配線との間の誘導干渉によって生じる前記第2配線における第2電流または第2電圧を出力とし、所定の設計パラメータを変数とする伝達関数を求め、前記第1電流または前記第1電圧の所定の周波数範囲における信号レベルと、前記第2配線の前記周波数範囲における信号レベルの設計制限値とから、前記周波数範囲における前記伝達関数の設計制限値を求め、前記周波数範囲における前記伝達関数の値が前記伝達関数の設計制限値を超えないような前記設計パラメータの設計制限値を設定する。
【0013】
上記方法および装置によれば、第1電気系統と第2電気系統との間の誘導干渉を、第1配線と第2配線との間の相互インダクタンスを用いた伝達関数に基づいて評価することができる。この際、伝達関数における変数として設定される設計パラメータごとに誘導干渉の評価が可能となるため、誘導干渉が過大となった場合に、その原因を容易に把握することができる。したがって、上記方法および装置によれば、複数の配線部間の誘導干渉の原因を事前に評価することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の配線部間の誘導干渉の原因を事前に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る評価方法の対象となる電気機器システムの例を示す概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態に係る評価装置の概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、本実施の形態における設計パラメータの評価処理の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、本実施の形態における伝達関数の設計制限値の周波数特性を求める方法を説明するための図である。
図5図5は、本実施の形態における伝達関数の設計制限値を用いた設計パラメータの評価例を示すグラフである。
図6図6は、本発明の一実施の形態の変形例に係る設計装置の概略構成を示すブロック図である。
図7図7は、本実施の形態における設計パラメータの設計ルール設定処理の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、本実施の形態における設計パラメータの設計制限値の設定態様を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係る電気機器システムの評価方法について説明する。まず、前提となる電気機器システムの一例について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係る評価方法の対象となる電気機器システムの例を示す概略構成図である。この電気機器システム1は、第1電気系統10および第2電気系統20を含む複数の電気配線系統を備えている。
【0018】
第1電気系統10は、第1機器11および第2機器12を備えている。第1機器11と第2機器12とは第1配線13により電気的に接続される。
【0019】
第1電気系統10は、例えば、鉄道車両の電源系統として構成される。例えば、第1機器11は、電源装置であり、第2機器12は、電源装置から供給される電力で駆動される負荷および負荷の駆動装置である。第2機器12として第1配線13に接続される負荷14は、例えば電動機である。電動機を駆動するための電源装置として構成される第1機器11は、例えば、き電設備または高圧配電部等からの集電装置等を備えている。
【0020】
このとき、第1配線13は、第2機器12に接続される負荷14を駆動するための電流を第1電流I1とする駆動電力供給配線として構成される。このように、第1電気系統10は、例えば使用電圧が数千V~数万V程度となる強電の電気系統として構成される。
【0021】
第2電気系統20は、第3機器21および第4機器22を備えている。第3機器21と第4機器22とは第2配線23により電気的に接続される。
【0022】
第2電気系統20は、例えば、鉄道車両の通信または制御信号の伝送等を行うための信号伝送系統として構成される。例えば、第3機器21は、制御装置であり、第4機器22として第2配線23に接続される負荷24は、制御装置からの制御信号を受信する制御回路である。例えば、制御回路は、電動機(負荷14)の駆動装置として電動機に接続されるインバータのスイッチング回路を含む。このように、第2電気系統20は、例えば使用電圧が数μV~数十V程度となる弱電の電気系統として構成される。
【0023】
本実施の形態では、以上のような第1電気系統10と第2電気系統20とを含む異種の電気配線系統が鉄道車両等の一構造体内に配設される際の配線間干渉を評価することを主な目的としている。
【0024】
(評価装置)
図2は、本発明の一実施の形態に係る評価装置の概略構成を示すブロック図である。図2に示す評価装置31は、入力部32、記憶部33、演算部34、および出力部35を備えている。各構成31~35は、バス36により相互にデータ伝達を行う。評価装置31は、電気機器システム1を設計するための設計用コンピュータによって構成されてもよいし、それとは独立したコンピュータとして構成されてもよい。また、評価装置31が、設計用コンピュータと通信可能なコンピュータにより構成されてもよい。例えば、評価装置31は、プロセッサ、メインメモリ(RAM)、ストレージを備えたパーソナルコンピュータでもよい。プロセッサは、例えばCPUであってもよい。ストレージは、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等であってもよい。なお、メインメモリおよびストレージをメモリと総称することもできる。
【0025】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本明細書において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0026】
入力部32は、後述する設計パラメータ等の情報をユーザが入力可能な入力装置として構成される。記憶部33は、入力部32から入力された情報を記憶する。また、記憶部33には、後述する電気機器システム1の設計条件および評価プログラムが予め記憶されている。なお、設計条件は、入力部32から設定入力または設定変更可能としてもよい。
【0027】
演算部34は、記憶部33に記憶された各種の情報に基づいて評価処理を実行する。このために、演算部34は、評価プログラムを実行することにより、伝達関数演算部41、伝達関数制限値演算部42、代入演算部43および評価部44等の機能を発揮する。
【0028】
評価装置31は、第1配線13に流れる第1電流I1に基づいて第1配線13と第2配線23との間の誘導干渉によって第2配線23に第2電流I2が流れるときの伝達関数Gを用いて電気機器システム1を設計するための設計パラメータの良否を評価する。本実施の形態においては、第1配線に流れる第1電流を入力とし、第2配線23に流れる第2電流を出力とする場合において、弱電の電気系統(第2電気系統20:被害側系統)における強電の電気系統(第1電気系統10:加害側系統)による誘導干渉の影響を評価する。
【0029】
このときの設計パラメータは、相互インダクタンスM、第4機器22として第2配線23に接続される負荷24のインピーダンスZ4、第3機器21の内部インピーダンスZ3、第2配線23の自己インダクタンスL2、および第1電流I1の信号レベルのうちの少なくとも1つを含む。これらの設計パラメータの中から評価する設計パラメータを選択して以下のような評価を行う。
【0030】
なお、本実施の形態では、鉄道車両または航空機等の大規模システムを想定している。そのため、第1機器11の信号源の周波数が低周波数である場合、および、第1配線13や第2配線23の配線長が信号波長より十分短い場合を想定して、第1配線13や第2配線23を分布定数回路としては扱わない。また、このような大規模システムでは、配線部13,23間の距離は比較的長く、電界の減衰が大きくなるため、磁界の影響が支配的となる。このため、配線部13,23間の寄生容量は考慮しない(設計パラメータに含めない)。
【0031】
なお、設計パラメータの評価は、所定の周波数範囲(設定周波数範囲)において行われる。記憶部33には、設定周波数範囲が予め記憶されている。この周波数範囲は、例えば、第2電気系統20(第4機器22)における動作規格等から予め定められる。所望の周波数範囲を入力部32から入力することにより、その周波数範囲を設定周波数範囲として評価を行うようにしてもよい。
【0032】
図3は、本実施の形態における設計パラメータの評価処理の流れを示すフローチャートである。本例では、評価する設計パラメータを相互インダクタンスMとし、相互インダクタンスMの特定の設計値の良否を評価する方法を例示する。
【0033】
まず、伝達関数演算部41は、第1配線13に流れる第1電流I1を入力とし、第1電流I1に基づいて第1配線13と第2配線23との間の誘導干渉によって第2配線23に流れる第2電流I2を出力とする伝達関数Gを求める(ステップS1)。
【0034】
第1電流I1と第2電流I2とは、キルヒホッフの法則から以下の関係が成り立つ。
【0035】
【数1】
ここで、周波数をfとすると、ω=2πfである。
【0036】
上記関係式から伝達関数Gは、以下のように表される。
【0037】
【数2】
【0038】
このように、伝達関数Gは、相互インダクタンスM、第4機器22として第2配線23に接続される負荷24のインピーダンスZ4、第3機器21の内部インピーダンスZ3、第2配線23の自己インダクタンスL2を用いて表される。なお、配線部13,23をシールド材で覆う等の誘導干渉対策を行う場合には、その対策効果を考慮した伝達関数(例えば、上記計算式で求められる伝達関数に所定の係数をかけたもの等)が用いられてもよい。本例では、相互インダクタンスMの評価を行うため、伝達関数Gの変数は、相互インダクタンスMに設定される。
【0039】
伝達関数制限値演算部42は、第1電流I1の信号レベルSL1と、第2配線23における電流の信号レベルの設計制限値SL2とから、伝達関数Gの設計制限値kを求める(ステップS2)。伝達関数Gの設計制限値kは、設定周波数範囲における周波数fとの関係値(周波数特性)として求められる。
【0040】
図4は、本実施の形態における伝達関数の設計制限値の周波数特性を求める方法を説明するための図である。グラフD1は、第1電流I1の信号レベルSL1の周波数特性を示すグラフである。第1電流I1の信号レベルSL1は、第1電気系統10の設計値または回路構成に基づいて計算を行うことにより求められる。
【0041】
グラフD2は、第2配線23の信号レベルの設計制限値SL2の周波数特性を示すグラフである。この設計制限値SL2は、第4機器22(負荷24)の規格等から予め与えられる。
【0042】
グラフD3は、伝達関数Gの設計制限値kの周波数特性を示すグラフである。グラフD3は、グラフD1に対するグラフD2の比率として求められる(D3=D2/D1)。すなわち、伝達関数Gの設計制限値kは、第1電流I1の所定周波数範囲における信号レベルSL1に対する第2配線23の所定周波数範囲における信号レベルの設計制限値SL2の比率を求めることで得られる。
【0043】
なお、図4では、第1電流I1の信号レベルSL1、第2配線23の信号レベルの設計制限値SL2および伝達関数Gの設計制限値kをそれぞれグラフD1~D3として表したが、実際の演算においては、伝達関数制限値演算部42は、記憶部33に予め記憶された、信号レベルSL1の所定周波数ごとの値を含むデータテーブルと、設計制限値SL2の所定周波数ごとの値を含むデータテーブルとを読み出し、同じ周波数における値同士を演算することで伝達関数Gの設計制限値kにおける所定周波数ごとの値を含むデータテーブルを生成してもよい。
【0044】
代入演算部43は、変数に設定されている設計パラメータ(ここでは相互インダクタンスM)の設計値の入力を受け付ける。平行に配置された場合の2配線間の相互インダクタンスMは、例えば下記の計算式を用いた計算により求められる。
【0045】
【数3】
ここで、d[m]は第1配線13と第2配線23との間の距離(配線間距離)であり、l[m]は、配線の長さであり、μ[H/m]は、透磁率である。lnは、自然対数を示す。
【0046】
相互インダクタンスMは、上記計算式に代えて電磁界解析によって求められてもよい。また、配線間距離dおよび/または配線の長さl等の相互インダクタンスMの要素パラメータを変えて電磁界解析を行うことによって得られる相互インダクタンスMの値を、要素パラメータから参照可能なデータテーブルとして記憶部33に記憶しておき、入力部32から要素パラメータの値を入力することにより、記憶部33に記憶されたデータテーブルを参照して読み出した相互インダクタンスMの値が用いられてもよい。電磁界解析を行うことで、配線部13,23の周囲に金属が存在する場合でもその影響を考慮した誘導干渉の評価を行うことができる。
【0047】
代入演算部43は、入力部32により入力された設計パラメータの設計値を評価対象の設計値に設定する(ステップS3)。代入演算部43は、その設計値を伝達関数Gの変数に代入した際の伝達関数の値kを求める(ステップS4)。このとき、その他の設計パラメータは、固定値が代入される。伝達関数の値kも、設定周波数範囲における周波数fとの関係値(周波数特性)として求められる。伝達関数の値kは、設計制限値kと同様に、第1電流I1に対する第2電流I2の比率を示す値(I2=k・I1)となる。
【0048】
評価部44は、設定周波数範囲における設計値に基づく伝達関数の値kと伝達関数Gの設計制限値kとを比較することにより、設計値の良否を評価する(ステップS5)。
【0049】
図5は、本実施の形態における伝達関数の設計制限値を用いた設計パラメータの評価例を示すグラフである。図5に示すグラフD3は、図4に示すグラフD3と同じであり、伝達関数Gの設計制限値kの周波数特性を示すグラフである。グラフD4およびD5は、それぞれ設計パラメータの設計値に基づいて得られた伝達関数の値kの周波数特性を示すグラフである。
【0050】
評価部44は、設定周波数範囲Sにおいて設計値に基づく伝達関数の値kが伝達関数Gの設計制限値k以下であるかどうかを判定する。設定周波数範囲S全域で設計値に基づく伝達関数の値kが伝達関数Gの設計制限値k以下である場合に、評価部44は、その設計値に対して良判定を行う。
【0051】
なお、図5では、伝達関数Gの設計制限値kおよび設計値に基づく伝達関数の値kをそれぞれグラフD3~D5として表したが、実際の演算においては、評価部44は、代入演算部43で求められた所定周波数ごとの伝達関数の値kを含むデータテーブルと、伝達関数Gの設計制限値kにおける所定周波数ごとの値を含むデータテーブルとを用いて、相互に対応する周波数における値を比較してもよい。
【0052】
図5の例では、グラフD4については、設定周波数範囲Sの全域で設計値に基づく伝達関数の値kが伝達関数Gの設計制限値k以下である。したがって、このときの設計値(相互インダクタンスMの値)は、良好と判定される。一方、グラフD5については、設定周波数範囲Sの一部領域で設計値に基づく伝達関数の値kが伝達関数Gの設計制限値kを上回っている。したがって、このときの設計値(相互インダクタンスMの値)は、不良と判定される。判定結果は、出力部35から出力される(例えば表示装置に表示される)。このように、伝達関数Gの変数に代入する値(設計値)を変えて再評価を行うことにより、複数の設計値についての評価が可能である。
【0053】
さらに、本評価においては、評価対象の設計パラメータを変更することが可能である。例えば、変数として設定されている設計パラメータを相互インダクタンスMから第4機器22として第2配線23に接続される負荷24のインピーダンスZ4に変更してもよい。この場合も、相互インダクタンスMを変数とする場合と同様に、負荷24のインピーダンスZ4の設計値に基づく伝達関数の値kが、伝達関数Gの設計制限値k以下であるかどうかを判定することにより評価可能である。
【0054】
以上のように、本実施の形態の評価装置31または評価方法によれば、第1電気系統10と第2電気系統20との間の誘導干渉を、第1配線13と第2配線23との間の相互インダクタンスMを用いた伝達関数Gに基づいて評価することができる。この際、伝達関数Gの変数として設定される設計パラメータごとに誘導干渉の評価が可能となるため、誘導干渉が過大となった場合に、その原因を容易に把握することができる。したがって、本実施の形態によれば、複数の配線部13,23間の誘導干渉の原因を事前に評価することができる。
【0055】
なお、配線部13,23の周囲に金属がある場合またはシールド材が用いられている場合、相互インダクタンスMの値は理想条件における値(計算式に基づいて算出された値)に比べて小さくなる。言い換えると、このような場合に、相互インダクタンスMを計算式に基づいて算出した相互インダクタンスMの値は、より実際の条件に近い電磁界解析によって得られる相互インダクタンスMの値より大きくなる。すなわち、計算式に基づいて算出された相互インダクタンスMを設計値として用いた評価は、電磁界解析によって得られる相互インダクタンスMを設計値として用いた評価に比べて安全側の評価(厳しい評価)となる。
【0056】
そこで、一次評価として計算式に基づいて算出された相互インダクタンスMを用いた評価を行うことで、設計パラメータの設計値について粗いフィルタをかけ、一次評価で不良と判定された設計値に対して二次評価として電磁界解析によって得られる相互インダクタンスMを用いた評価を行ってもよい。これにより、計算負荷の高い電磁界解析を行う回数を減らしつつ、より実際に近い条件での設計値評価を行うことができる。
【0057】
(設計装置)
上記実施の形態では、入力部32から入力された設計パラメータの設定値を評価する評価装置31について例示したが、これに代えて、設計パラメータの設計ルールを決定する設計装置としても構成することができる。
【0058】
図6は、本発明の一実施の形態の変形例に係る設計装置の概略構成を示すブロック図である。図2に示す評価装置31と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。図6に示す設計装置31Bも、図2に示す評価装置31と同様に、入力部32、記憶部33、演算部34、および出力部35を備えている。各構成31~35は、バス36により相互にデータ伝達を行う。
【0059】
演算部34は、記憶部33に記憶された設計支援プログラムを実行することにより、図2の評価装置31の演算部34と同様の伝達関数演算部41、伝達関数制限値演算部42、代入演算部43、評価部44等の機能に加えて、設計パラメータ制限値演算部45および自動設計部46等の機能を発揮する。
【0060】
設計装置31Bは、評価装置31と同様の伝達関数Gを用いて、電気機器システム1を設計するための設計パラメータの設計ルール(設計制限値)を決定する。設計パラメータは、評価装置31で用いられる設計パラメータと同様である。
【0061】
図7は、本実施の形態における設計パラメータの設計ルール設定処理の流れを示すフローチャートである。本設計ルール設定処理においても、伝達関数Gの設計制限値kを求めるまでの流れ(ステップS1およびS2)は、上記評価処理(図3)と同様である。ただし、伝達関数Gを求める際に、配線経路等の設計が未実施の場合には、配線経路の制限または仕様等に関する情報(配線の長さl、配線間距離dの制限値等)を取得し、その情報に基づいて第2配線23の自己インダクタンスL2および配線部13,23間の相互インダクタンスMが演算される。
【0062】
設計パラメータ制限値演算部45は、伝達関数の値kが伝達関数Gの設計制限値kを超えないように、伝達関数Gの変数として設定された設計パラメータの設計制限値Pを設定する(ステップS3B)。より具体的には、設計パラメータ制限値演算部45は、伝達関数Gの変数が取り得る数値範囲における値を逐次代入し、その値に基づく伝達関数の値kが設定周波数範囲S全域において伝達関数Gの設計制限値k以内であるかどうかを判定する。
【0063】
図8は、本実施の形態における設計パラメータの設計制限値の設定態様を説明するためのグラフである。図8に示すグラフD3は、図4に示すグラフD3と同じであり、伝達関数Gの設計制限値kの周波数特性を示すグラフである。グラフD6およびD7は、それぞれ伝達関数Gの変数に設計パラメータが取り得る所定の値を代入することによって得られた伝達関数の値kの周波数特性を示すグラフである。
【0064】
例えば、伝達関数Gの変数として設定される設計パラメータが相互インダクタンスMである場合、設計パラメータ制限値演算部45は、まず、相互インダクタンスMが取り得る値の最大値を伝達関数Gに代入したときの伝達関数の値kの周波数特性(グラフD6)を演算し、それが設定周波数範囲Sの全域において伝達関数Gの設計制限値k以内であるかどうかを判定する。
【0065】
伝達関数の値kが設定周波数範囲Sの全域において伝達関数Gの設計制限値k以内ではない場合、設計パラメータ制限値演算部45は、伝達関数Gの変数に先ほどの演算時から所定値小さい値を代入し、再度同様の判定を行う。設計パラメータ制限値演算部45は、このような代入および判定を、伝達関数の値kが設定周波数範囲Sの全域において伝達関数Gの設計制限値k以内になるまで繰り返す。
【0066】
設計パラメータ制限値演算部45は、この結果、初めて伝達関数の値kが設定周波数範囲Sの全域において伝達関数Gの設計制限値k以内になったときの設計値(グラフD7における変数の値)を設計パラメータの設計制限値Pに決定する。すなわち、設計パラメータ制限値演算部45は、伝達関数の値kが設定周波数範囲S全域において伝達関数Gの設計制限値k以内である設計値のうち、所定の周波数における伝達関数の値kが最も大きくなる伝達関数Gの変数の値を、設計パラメータの設計制限値Pに決定する。あるいは、設計パラメータ制限値演算部45は、伝達関数kが設定周波数範囲S全域において伝達関数Gの設計制限値k以内である設計値のうち、伝達関数Gの設計制限値kとの差の最小値が所定の余裕値以上となる伝達関数Gの変数の値を、設計パラメータの設計制限値Pに決定してもよい。
【0067】
設計パラメータ制限値演算部45は、決定した設計パラメータの設計制限値Pを設計ルールに設定する(ステップS4B)。伝達関数の変数として設定される設計パラメータの種類を変えることで複数の設計パラメータにおける設計ルールが策定可能である。
【0068】
以上のようにして策定された設計ルールを用いた設計態様としては、例えば以下の2種類の態様が考えられる。
【0069】
(1)設計ルールを用いた設計値の評価
本態様は、上記評価(図3)で用いた伝達関数Gの設計制限値kの代わりに、設計ルールとして設定された設計パラメータの設計制限値Pを用いて設計値の良否を評価するものである。
【0070】
すなわち、代入演算部43は、図3における評価の場合と同様に、入力部32からの伝達関数Gの変数として設定された設計パラメータの設計値の入力を受け付ける。代入演算部43は、入力部32により入力された設計パラメータの設計値を評価対象の設計値に設定する。
【0071】
評価部44は、設定周波数範囲Sにおける設計値と設計パラメータの設計制限値Pとを比較することにより、設計値の良否を評価する。より具体的には、評価部44は、設計値が設計パラメータの設計制限値P以下であるかどうかを判定する。設計値がパラメータの設計制限値P以下である場合に、評価部44は、その設計値に対して良判定を行う。判定結果は、出力部35から出力される(例えば表示装置に表示される)。
【0072】
(2)設計ルールを用いた自動設計
本態様は、設計ルールとして設定された設計パラメータの設計制限値Pを用いて良好な設計値を自動演算するものである。
【0073】
この場合、自動設計部46は、電気機器システム1における設計パラメータの設計値範囲を設定し、設計パラメータの設計値範囲のうち、設計パラメータの設計制限値P内となる良設計値範囲Sを求める。設計値範囲は、入力部32からユーザにより入力された範囲に設定されてもよいし、仕様または規格等として予め記憶部33に記憶されたデータに基づいて設定されてもよい。自動設計部46は、複数の設計パラメータについて各設計ルールを同時に満たすような各設計パラメータの良設計値範囲Sを求め、その結果を出力部35に出力する。
【0074】
なお、複数の設計パラメータについて各設計ルールを同時に満たすような各設計パラメータの良設計値範囲Sが存在しない場合、自動設計部46は、設計パラメータの設計値範囲の変更を促す表示等を行う。この場合、自動設計部46は、所定の設計パラメータについて設計ルールを満足しかつ設計値範囲に一番近い値(設計値範囲外の値)を表示してもよい。
【0075】
以上のように、本実施の形態の設計装置31Bまたは設計方法によれば、第1配線13と第2配線23との間の相互インダクタンスMを用いた伝達関数Gに基づいて第1電気系統10と第2電気系統20との間の誘導干渉を考慮した設計ルールを策定することができる。この際、伝達関数Gにおける変数として設定され得る設計パラメータごとに設計ルールが策定されるため、複数の設計パラメータのそれぞれについての設計ルール(設計制限値P)を制約条件として複数の配線部13,23間の誘導干渉を考慮した総合的な設計を行うことができる。
【0076】
また、策定された設計ルールを用いて各設計パラメータの評価を行うことができるため、誘導干渉が過大となった場合に、その原因を容易に把握することができる。したがって、複数の配線部13,23間の誘導干渉の原因を事前に評価することができる。また、策定された設計ルールを用いて各設計パラメータの自動設計も行うことができるため、複数の配線部13,23間の誘導干渉を考慮した設計を容易に行うことができる。
【0077】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、または削除することができる。
【0078】
例えば、上記実施の形態では、弱電の電気系統(第2電気系統20:被害側系統)における強電の電気系統(第1電気系統10:加害側系統)による誘導干渉の影響を評価する態様を例示したが、これに限られない。例えば、上記と同様の方法で、強電の電気系統(第1電気系統10:被害側系統)における弱電の電気系統(第2電気系統20:加害側系統)による誘導干渉の影響を評価することも可能である。このときの設計パラメータは、相互インダクタンスM、第2機器12として第1配線13に接続される負荷14のインピーダンスZ2、第1機器11の内部インピーダンスZ1、第1配線13の自己インダクタンスL1、および第2電流I2の信号レベルのうちの少なくとも1つを含む。
【0079】
あるいは、強電の電気系統同士または弱電の電気系統同士の誘導干渉の影響を評価することも可能である。
【0080】
また、2つ以上の配線(2系統以上の第1配線13)による誘導干渉の影響を評価することも可能である。例えば、2系統の加害側配線部による被害側配線部(第2配線23)への誘導干渉の評価を行う場合、被害側配線部(第2配線23)の信号レベルの設計制限値SL2を各加害側配線部に分配し、分配された設計制限値SL2に基づいて第1の加害側配線部と被害側配線部との間の伝達関数Gの設計制限値kおよび第2の加害側配線部と被害側配線部との間の伝達関数Gの設計制限値kをそれぞれ求める。
【0081】
また、本実施の形態においては、伝達関数Gとして、第1電流I1を入力とし、第2電流I2を出力とする場合を例示したが、これに限られない。すなわち、伝達関数Gは、第1配線13における第1電流I1または第1電圧V1を入力とし、第1電流または第1電圧に基づいて第1配線13と第2配線23との間の誘導干渉によって生じる第2配線23における第2電流I2または第2電圧V2を出力とし得る。
【0082】
弱電の電気系統(第2電気系統20:被害側系統)における強電の電気系統(第1電気系統10:加害側系統)による誘導干渉の影響を評価する態様の場合、入力と出力との組み合わせに基づく各伝達関数およびそのときに取り得る設計パラメータは、それぞれ以下のように表せる。なお、下記伝達関数Gは、本実施の形態で示した伝達関数G(式(2))と同じである。なお、上記と同様の方法で、強電の電気系統(第1電気系統10:被害側系統)における弱電の電気系統(第2電気系統20:加害側系統)による誘導干渉の影響を評価することも可能である。その場合は、設計パラメータを被害側と加害側を入れ替えて、それぞれ求めることで対応できる。
【0083】
【表1】
【0084】
なお、伝達関数G~Gの設計制限値kは、各伝達関数G~Gの入力(第1電流I1または第1電圧V1)に応じた信号レベルの設計制限値SL1と、各伝達関数G~Gの出力(第2配線23における電流または電圧)に応じた第2配線23の信号レベルの設計制限値SL2とから求められる。すなわち、例えば、入力が電流であれば所定周波数範囲における第1電流I1の信号レベルSL1が用いられ、入力が電圧であれば所定周波数範囲における第1電圧V1の信号レベルSL1が用いられる。また、出力が電流であれば所定周波数範囲の第2配線23における電流の信号レベルの設計制限値SL2が用いられ、出力が電圧であれば所定周波数範囲の第2配線23における電圧の信号レベルの設計制限値SL2が用いられる。
【0085】
また、本実施の形態における設計装置31B(図6)においては、(1)設計ルールを用いた設計値評価および(2)設計ルールを用いた自動設計の両態様が実現可能な構成として演算部34が各構成41~46の機能を発揮する態様を例示している。これに代えて、上記(1)の評価または(2)の自動設計の何れかのみを実現可能としてもよい。(1)の評価のみを実現するためには、演算部34は、自動設計部46として機能しなくてもよい。また、(2)の自動設計のみを実現するためには、演算部34は、代入演算部43、評価部44および設計パラメータ制限値演算部45として機能しなくてもよい。
【0086】
また、評価装置31および設計装置31Bの演算部34の各機能41~46は、一の演算部34がすべての機能を発揮するようにしてもよいし、一または複数の装置に設けられる複数の演算部34に機能分担してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 電気機器システム
10 第1電気系統
11 第1機器
12 第2機器
13 第1配線
20 第2電気系統
21 第3機器
22 第4機器
23 第2配線
31 評価装置
41 伝達関数演算部
42 伝達関数制限値演算部
43 代入演算部
44 評価部
45 設計パラメータ制限値演算部
46 自動設計部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8