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特開2022-102375プレス装置、プレス装置の制御方法及び制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102375
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】プレス装置、プレス装置の制御方法及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/02 20060101AFI20220630BHJP
   B21J 13/14 20060101ALI20220630BHJP
   B30B 15/14 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
B21J13/02 Z
B21J13/02 M
B21J13/14 B
B30B15/14 K
B30B15/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217065
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】田渡 正史
【テーマコード(参考)】
4E087
4E089
【Fターム(参考)】
4E087AA03
4E087CB01
4E087CB06
4E087EC01
4E087ED12
4E087EE02
4E087GA02
4E087GA04
4E087GA09
4E087GA12
4E087GA20
4E089EA01
4E089EB01
4E089EB03
4E089ED02
4E089FB01
4E089FB05
4E089FC03
4E089FC05
(57)【要約】
【課題】金型潤滑剤の残留物に起因する品質不良を抑制する。
【解決手段】プレス装置1は、スライド18を進退させ、所定温度まで加熱した金型により被成形物の鍛造を行うものであり、制御装置70を備える。制御装置70は、スライド18に作用するプレス方向の機械的な負荷が安定した安定鍛造期に入ったか否かを判定し、安定鍛造期に入ったと判定した場合に、所定の計測値に基づいて、被成形物を変形させるために金型から被成形物へ作用させる力の調整を行う。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドを進退させ、所定温度まで加熱した金型により被成形物の鍛造を行うプレス装置であって、
前記スライドに作用するプレス方向の機械的な負荷が安定した安定鍛造期に入ったか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記安定鍛造期に入ったと判定された場合に、所定の計測値に基づいて、前記被成形物を変形させるために前記金型から前記被成形物へ作用させる力の調整を行う制御手段と、
を備える、
プレス装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記負荷及びその時間変化率に基づいて、前記安定鍛造期に入ったか否かを判定する、
請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記判定手段は、金型の温度と相関がある温度計測値に基づいて、前記安定鍛造期に入ったか否かを判定する、
請求項1又は請求項2に記載のプレス装置。
【請求項4】
前記判定手段は、運転時間、プレス回数、金型内での被成形物の分布の少なくとも1つに基づいて、前記安定鍛造期に入ったか否かを判定する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記所定の計測値として前記負荷及びその時間変化率の少なくとも一方を用いる、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項6】
更に、シャットハイトを調整するシャットハイト調整機構を備え、
前記制御手段は、前記シャットハイト調整機構によりシャットハイトの調整を行うことで、前記金型と前記被成形物との間に作用する力の調整を行う、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項7】
前記シャットハイト調整機構は、前記スライドを進退させるコネクティングロッドの端部に偏心的に回転自在に取り付けられる偏心リストピンと、前記偏心リストピンを回転させるサーボモータと、を有し、
前記制御手段は、前記所定の計測値として前記サーボモータの保持トルクを用いる、
請求項6に記載のプレス装置。
【請求項8】
金型から被成形物を押し出す押し出し装置を備え、
前記制御手段は、前記所定の計測値として前記押し出し装置の押し出し力を用いる、
請求項6又は7に記載のプレス装置。
【請求項9】
プレスされた被成形物の厚さを取得する厚さ取得手段と、
前記被成形物の厚さが所定の範囲から外れた場合に、異常を報知するとともに装置本体の動作を停止させる停止手段と、を備える、
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項10】
前記金型を交換する金型交換装置を備え、
前記停止手段は、前記装置本体の動作を停止させた後に、前記金型交換装置により前記金型を新たなものと交換する、
請求項9に記載のプレス装置。
【請求項11】
スライドを進退させて所定温度まで加熱した金型により被成形物の鍛造を行うプレス装置の制御方法であって、
制御手段が、
前記スライドに作用するプレス方向の機械的な負荷が安定した安定鍛造期に入ったか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程により前記安定鍛造期に入ったと判定された場合に、所定の計測値に基づいて、前記被成形物を変形させるために前記金型から前記被成形物へ作用させる力の調整を行う制御工程と、
を実行する、
プレス装置の制御方法。
【請求項12】
スライドを進退させて所定温度まで加熱した金型により被成形物の鍛造を行うプレス装置の制御プログラムであって、
コンピュータを、
前記スライドに作用するプレス方向の機械的な負荷が安定した安定鍛造期に入ったか否かを判定する判定手段、
前記判定手段により前記安定鍛造期に入ったと判定された場合に、所定の計測値に基づいて、前記被成形物を変形させるために前記金型から前記被成形物へ作用させる力の調整を行う制御手段、
として機能させる、
プレス装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス装置、プレス装置の制御方法及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば複数のプレス工程を有するプレス装置において、成形品の厚さを精度よく成形するために、シャットハイト(スライドの下死点位置からベッド上面までの高さ)を調整するものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このシャットハイト調整は、複数工程の金型上のワーク配置パターンに対応した負荷が所定の閾値を超えたときに実行され、下記A~Cの場合に有効である。
A:鍛造開始時や終了時など、プレス内に存在するワークの数が次第に変化する場合
B:通常のワーク配置パターンから逸脱した場合
C:熱膨張によりシャットハイトが変化した場合
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3486770号公報
【特許文献2】特許第3776696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば鍛造終了時点でのワークの温度が製品品質に鋭敏に影響するような材質の鍛造は、金型を所定温度以上まで加熱した状態で行われる。このような鍛造の場合には、金型潤滑剤の膜が金型表面に均一に形成されにくくなり、特に溶媒が水の金型潤滑剤では、沸騰によるライデンフロスト現象が発生する場合がある。その結果、プレス動作の繰り返しに伴って、金型潤滑剤の残留物が金型表面に固着してしまう。このような残留物が偏在した状態の金型で鍛造が行われると、肉厚不良や欠肉などの品質不良を招いてしまう。
上記従来のシャットハイト調整は、ワーク配置パターンや金型の熱膨張に起因する肉厚不良を改善することはできるが、金型潤滑剤の残留物に起因する品質不良には有効に機能しない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、金型潤滑剤の残留物に起因する品質不良を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、スライドを進退させ、所定温度まで加熱した金型により被成形物の鍛造を行うプレス装置であって、
前記スライドに作用するプレス方向の機械的な負荷が安定した安定鍛造期に入ったか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記安定鍛造期に入ったと判定された場合に、所定の計測値に基づいて、前記被成形物を変形させるために前記金型から前記被成形物へ作用させる力の調整を行う制御手段と、
を備える構成とした。
【0008】
また、本発明は、スライドを進退させて所定温度まで加熱した金型により被成形物の鍛造を行うプレス装置の制御方法であって、
制御手段が、
前記スライドに作用するプレス方向の機械的な負荷が安定した安定鍛造期に入ったか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程により前記安定鍛造期に入ったと判定された場合に、所定の計測値に基づいて、前記被成形物を変形させるために前記金型から前記被成形物へ作用させる力の調整を行う制御工程と、
を実行するものとした。
【0009】
また、本発明は、スライドを進退させて所定温度まで加熱した金型により被成形物の鍛造を行うプレス装置の制御プログラムであって、
コンピュータを、
前記スライドに作用するプレス方向の機械的な負荷が安定した安定鍛造期に入ったか否かを判定する判定手段、
前記判定手段により前記安定鍛造期に入ったと判定された場合に、所定の計測値に基づいて、前記被成形物を変形させるために前記金型から前記被成形物へ作用させる力の調整を行う制御手段、
として機能させるものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金型潤滑剤の残留物に起因する品質不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るプレス装置を示す構成図である。
図2】実施形態に係るプレス装置の装置本体の要部の側面図であって、シャットハイト調整機構を説明するための図である。
図3】実施形態に係るプレス装置の概略の制御構成を示すブロック図である。
図4】シャットハイト調整処理の流れを示すフローチャートである。
図5】シャットハイト調整処理におけるシャットハイト、金型温度、負荷、成形品厚さの時間変化の一例を示すグラフである。
図6】安定鍛造期以降におけるシャットハイト、負荷、ノックアウト力の時間変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
[プレス装置の構成]
図1は、本実施形態に係るプレス装置1を示す構成図である。
この図に示すように、本実施形態に係るプレス装置1は、熱間鍛造を行う鍛造プレス装置であり、装置本体100を備える。装置本体100は、ベッド23、複数のアップライト22、クラウン21、ボルスタ24、スライド18、駆動部10、複数の荷重計36、潤滑装置41、ノックアウト装置50を備える。
【0014】
ベッド23、複数のアップライト22及びクラウン21は、プレス装置1のフレーム部を構成する。これらベッド23、複数のアップライト22及びクラウン21は、その内部にタイロッド25aが挿入され、タイロッドナット25bにより締め付けられることで、互いに締結される。
【0015】
ボルスタ24は、ベッド23上に固定され、その上部には下金型32が固定される。ボルスタ24はヒーター33(図3参照)を内蔵しており、このヒーター33により下金型32を加熱可能となっている。なお、上金型31とスライド18との間に上ボルスタを設け、この上ボルスタに上金型31を加熱可能なヒーターを内蔵させて、上金型31の温度を制御してもよい。
また、ボルスタ24には、下金型32の金型温度Tdを計測する温度計34(図3参照)が設けられている。なお、温度計34は、金型温度Tdとして、上金型31及び下金型32の少なくとも一方の温度と相関のある温度を計測可能であれば、その位置や点数は特に限定されず、例えばスライド18の下部に設けられていてもよい。
【0016】
スライド18は、各アップライト22に設けられたガイド19により、上下方向に進退可能に支持される。スライド18の下部には上金型31が固定される。なお、スライド18が進退する方向は特に制限されないが、本実施形態では、上下方向に進退するものとして説明する。
上金型31と下金型32とは、図1における紙面左右方向に複数組並んで設けられており(図1では一組のみ図示)、それぞれ組をなすものと上下に対向している。これら上金型31及び下金型32は、並び順に従って、型形状が成形品の最終形状に近づくように形成されている。スライド18が下降することで、上金型31と下金型32とが近接し、これらの間で被成形物が鍛造成形される。
また、装置本体100は、上金型31及び下金型32の少なくとも一方を交換する金型交換装置35(図3参照)を備えている。このような金型交換装置35としては、例えば特許第3540188号公報などに記載のものを好適に適用できる。
【0017】
駆動部10は、スライド18を進退させるための機構であり、モータ11、フライホイール12、クラッチブレーキ13、伝動軸14、減速機15、エキセン軸16及びコネクティングロッド(コンロッド)17を備えて構成される。
モータ11は、ベルト11aを介してフライホイール12に連結され、その動力によりフライホイール12を回転させる。クラッチブレーキ13は、フライホイール12と伝動軸14との連結及び連結解除の切り替えと、伝動軸14の制動とを行う。クラッチブレーキ13によりフライホイール12と伝動軸14が連結されると、フライホイール12の回転運動が伝動軸14、減速機15、エキセン軸16の順に伝達された後に、コンロッド17を介してスライド18の並進運動に変換されて、スライド18が上下方向に進退する。
なお、駆動部10は、エキセン軸16を備えてスライド18を進退させるものであればよく、その具体構成は上記のものに限定されない。
【0018】
複数の荷重計36は、複数のアップライト22の各々に設けられている。各荷重計36は、取り付けられたアップライト22の例えば歪み量を計測して当該アップライト22に作用する上下方向の荷重を計測し、この計測結果を後述の制御装置70に出力する。制御装置70は、各荷重計36で計測された荷重に基づいて、スライド18に作用するプレス方向の負荷Fを取得する。なお、荷重計36は全てのアップライト22に設けられなくてもよい。例えば、前後方向で対称形状のプレス装置1では、前側の2つのアップライト22、あるいは対角位置にある2つのアップライト22のみに、荷重計36を設けることとしてもよい。
【0019】
潤滑装置41は、金型表面に金型潤滑剤を吹き付けるものである。潤滑装置41は、プレス方向と直交する方向に進退可能に構成され、上金型31と下金型32とが離間したときにこれらの間に進入して潤滑剤を吹き付ける。金型潤滑剤は、金型とワークの潤滑状態を良くし、例えば金型へのワークのはりつきを抑えて成形を容易にする。
また、潤滑装置41の近傍には、被成形物(ワーク)を搬送する搬送装置40(図3参照)が設けられている。搬送装置40は、上金型31と下金型32とが離間したときに、最上流側の上金型31及び下金型32に新たな成形材料を供給したり、一列に配列された複数組の上金型31と下金型32に対して、被成形物を順次搬送したりする。
【0020】
ノックアウト装置50は、ベッド23上の下金型32からの被成形物の離型を行う、いわゆるベッドノックアウト(BKO)装置であり、ノックアウトピン51と、油圧シリンダ52と、油圧ポンプ53と、流量調整弁55とを備えている。
ノックアウトピン51は、ボルスタ24及び下金型32を貫通して、下金型32内から被成形物を上向きに押し出すピンである。
油圧シリンダ52は、上下方向に進退するピストンを有し、このピストンに取り付けられたノックアウトピン51を上下に進退移動させる。また、油圧シリンダ52には、ノックアウトピン51の進退方向の位置を検出する位置センサ58が設けられている。位置センサ58は、ノックアウトピン51の上下方向の位置を検出して後述の制御装置70に出力する。
油圧ポンプ53は、油を貯留したタンク54と油圧シリンダ52とに接続され、油圧シリンダ52にタンク54内の油を供給する。
流量調整弁55は、油圧シリンダ52と油圧ポンプ53との接続状態を切り替えるとともに、図示しないアキュムレータに畜圧された圧油を用いて供給油量を制御するサーボバルブである。具体的に、流量調整弁55は、油圧シリンダ52の状態を、ノックアウトピン51の進出(上昇)状態、退避(下降)状態、現在位置を維持する状態のいずれかに切り替える。また、流量調整弁55は、アキュムレータを利用して油圧シリンダ52へ供給される圧油の流量を任意に制御することができる。
なお、ノックアウト装置50は、BKO装置に限定されず、上金型31から下方に被成形物を離型させるスライドノックアウト(SKO)装置であってもよいし、これら両方を備えていてもよい。また、ノックアウト装置50は、油圧サーボバルブである流量調整弁55を用いるものに限定されず、例えばサーボモータで動作制御するものであってもよい。
【0021】
また、装置本体100は、図2に示すように、シャットハイト調整機構60を備える。
シャットハイト調整機構60は、シャットハイトを調整するものである。シャットハイトとは、スライド18の下死点位置からベッド23の上面までの長さ(高さ)のことである。
シャットハイト調整機構60では、偏心リストピン61がコンロッド17とスライド18に貫入されている。偏心リストピン61は、コンロッド貫入部の中心とスライド貫入部の中心とが、偏心量eだけ互いに偏心している。偏心リストピン61のスライド貫入部の中心には、ウォームホイール62が取付けられている。ウォームホイール62にはウォーム軸63が噛合しており、このウォーム軸63はモータ(サーボモータ)65により回転する。したがって、サーボモータ65に駆動されてウォーム軸63が回転すると、ウォームホイール62とともに偏心リストピン61が回転し、その回転角と偏心量eに対応した距離だけスライド18の位置が変化する。これにより、シャットハイトを調整することができる。
【0022】
図3は、プレス装置1の概略の制御構成を示すブロック図である。
この図に示すように、プレス装置1は、装置本体100の動作を制御する制御装置70を備える。
制御装置70は、表示部71、入力部72、警報部73、記憶部74、制御部75を備える。
【0023】
表示部71は、ディスプレイを備えており、制御部75からの表示指令に基づいてディスプレイに各種情報を表示する。
入力部72は、ユーザの操作を受け付ける各種の操作ボタンやキーボード、ポインティングデバイス等を備えており、これらが受けた操作に対応する入力信号が制御部75に送信される。
【0024】
警報部73は、装置本体100の異常を報知する警報出力を行うものである。その警報態様は特に限定されず、例えば、表示部71に警報表示を出力させたり、図示しないスピーカーから警報音声を出力させたりする。
【0025】
記憶部74は、装置本体100の各種機能を実現するためのプログラムやデータを記憶するとともに、作業領域としても機能するメモリである。本実施形態においては、記憶部74は、シャットハイト調整プログラム740と、負荷-厚さ変換データ741とを予め記憶している。
シャットハイト調整プログラム740は、後述のシャットハイト調整処理(図4参照)を実行するためのプログラムである。
負荷-厚さ変換データ741は、スライド18の負荷Fから成形品厚さHを求めるための変換式である。このデータは、予め実施された試験運転において、プレスされた成形品の厚さをパスやノギスなどで計測し、そのときの負荷Fとの相関を取ることで得られる。
【0026】
制御部75は、プレス装置1の各部を中央制御する。具体的に、制御部75は、ユーザ操作や所定のプログラムに基づいて、温度計34や荷重計36等による計測値を取得したり、モータ11やヒーター33、金型交換装置35、搬送装置40、潤滑装置41、ノックアウト装置50(流量調整弁55)、シャットハイト調整機構60(サーボモータ65)等の動作を制御したりする。
【0027】
[シャットハイト調整処理]
続いて、熱間鍛造時にシャットハイトを調整するシャットハイト調整処理について説明する。
図4は、シャットハイト調整処理の流れを示すフローチャートである。図5は、シャットハイトSH、金型温度Td、負荷F、成形品厚さHの時間変化の一例を示すグラフであり、図6は、安定鍛造期以降におけるシャットハイトSH、負荷F、ノックアウト力fcの時間変化の一例を示すグラフである。なお、図5中に二点鎖線で示すFoは、シャットハイト調整を行わなかった場合の負荷Fの変化例である。
【0028】
シャットハイト調整処理は、プレス動作中にシャットハイトを調整する処理であり、特に、後述する金型潤滑剤の残留物に起因する品質不良の抑制を目的とするものである。このシャットハイト調整処理は、例えばプレス装置1の運転開始に伴って、制御部75が記憶部74からシャットハイト調整プログラム740を読み出して展開することで実行される。
【0029】
図4に示すように、シャットハイト調整処理が実行されると、まず制御部75は、プレス装置1のプレス動作を開始する(ステップS1)。
具体的に、制御部75は、ヒーター33により所定の温度(例えば150℃以上)に金型を加熱しつつ駆動部10のモータ11を動作させるとともに、搬送装置40やノックアウト装置50等の各部を動作させて、ワーク(例えばアルミニウム)の熱間鍛造を開始する。また、制御部75は、金型温度Td、負荷F、成形品厚さHを含む各部状態量の計測・記録を開始する。金型温度Td、負荷F、成形品厚さHは、温度計34、荷重計36、負荷-厚さ変換データ741を用いて計測される。
なお、本実施形態では、運転開始後(安定鍛造期以前)の段階で、シャットハイトの調整が行われる。ここでのシャットハイト調整は、主に金型の熱膨張に起因するシャットハイトの変化を抑える調整であり、後述のステップS4で行われるものとは目的が異なる。このシャットハイト調整は、例えば負荷Fが所定の閾値を超えた場合に、この負荷Fを抑えるようにして行われる。安定鍛造期には負荷Fが略一定となるため、このシャットハイト調整は行われなくなる。なお、このシャットハイト調整は行わなくともよい。
【0030】
次に、制御部75は、プレス運転が安定鍛造期に入ったか否かを判定し(ステップS2)、入っていないと判定した場合には(ステップS2;No)、当該ステップS2の処理を繰り返す。「安定鍛造期」とは、図5に示すように、ワークが金型内で略一様な厚さに分布するに伴って、負荷Fが略一定となる期間である。
このステップS2では、制御部75は、スライド18に作用するプレス方向の負荷Fに基づいて、安定鍛造期を検知する。具体的に、制御部75は、負荷Fの時間微分値である負荷変化率dF(=dF/dt)を算出する。そして、負荷Fと負荷変化率dFが所定の閾値の範囲内に入った場合(すなわち、α1<F<β1、かつ、|dF|<γ1)、安定鍛造期に入ったと判定する。このときの閾値(α1、β1、γ1)は特に限定されない。また、このときの負荷Fと負荷変化率dFには、複数回(複数ショット)での平均値を用いるのが好ましい。
【0031】
なお、安定鍛造期では金型温度Tdも安定するため、負荷Fや負荷変化率dFに代えて(またはこれと併せて)、金型温度Tdを用いて安定鍛造期を検知してもよい。この場合、金型温度Tdやその時間微分である温度変化率dTd(=dTd/dt)が、所定の閾値の範囲内に入ったとき(すなわち、α2<Td<β2、かつ、|dTd|<γ2)、安定鍛造期に入ったと判定すればよい。このときの閾値(α2、β2、γ2)は特に限定されない。
または、これらに代えて(またはこれらと併せて)、運転時間やプレス回数を用いて安定鍛造期を検知してもよい。この場合、予め実施された試験運転(またはシミュレーション)により、安定鍛造期に入る運転時間やプレス回数(プレス動作開始からの連続運転時間・連続プレス回数)を予め計測・設定しておけばよい。
あるいは、これらと併せて、ワークの分布によって安定鍛造期を検知してもよい。この場合、金型内でのワークの分布(配置)を例えばフォトセンサなどで検出し、ワークが金型内に一定程度以上の面積割合で分布したときに、安定鍛造期に入ったと判定すればよい。
【0032】
ステップS2において、プレス運転が安定鍛造期に入ったと判定した場合(ステップS2;Yes)、制御部75は、シャットハイト調整の要否を判定し(ステップS3)、不要と判定した場合には(ステップS3;No)、後述のステップS5に処理を移行する。
このステップS3では、制御部75は、負荷Fや負荷変化率dFに基づいて、シャットハイト調整の要否を判定する。具体的に、制御部75は、負荷Fと負荷変化率dFの少なくとも一方が所定の閾値の範囲から外れた場合(すなわち、F≦α1、F≧β1、または、|dF|≧γ1)、シャットハイト調整が必要と判定する。このときの閾値(α1、β1、γ1)は、特に限定されず、ステップS2における安定鍛造期判定時のものと同じでもよいし、異なっていてもよい。また、このときの負荷Fと負荷変化率dFには、複数回(複数ショット)での平均値を用いるのが好ましい。
【0033】
なお、シャットハイト調整の要否判定に用いるパラメータ(計測値)は、負荷Fや負荷変化率dFに限定されない。
例えば、図6に示すように、ノックアウト装置50のノックアウトピン51によるノックアウト力(押し出し力)fcを用いてもよい。ノックアウト力fcは、油圧シリンダ52の圧力を計測すればよい。また、ノックアウト装置50がサーボモータ駆動の場合には、ノックアウト力fcと相関のある電流値等を計測すればよい。この場合のノックアウト力fcには、複数回(複数ショット)での平均値を用いるのが好ましい。
また、シャットハイト調整機構60のサーボモータ65の保持トルクを用いてもよい。この保持トルクを検出して用いてもよいし、トルクと相関のあるモータ回転位置をエンコーダで検出してこれを用いてもよい。この場合の保持トルク(又はモータ回転位置)には、複数回(複数ショット)での平均値を用いるのが好ましい。
さらに、これらの計測値を適宜組み合わせて併用してもよい。
【0034】
ステップS3において、シャットハイト調整が必要と判定した場合(ステップS3;Yes)、制御部75は、シャットハイト調整を実行する(ステップS4)。
このステップでは、制御部75は、シャットハイト調整機構60の動作を制御して、負荷F(またはこれに相当するパラメータ)の変動を抑える(例えば安定鍛造期の負荷Fの値にする)ように、シャットハイトSHを調整する。図6では、負荷Fが閾値上限ΔFoを超えたときや、ノックアウト力fcが閾値上限Δfoを超えたときに、シャットハイト調整が必要と判定されて実行される例を示している。
【0035】
このように、安定鍛造期以降にシャットハイト調整を行うことにより、金型とワークとの潤滑状態に起因する品質不良を抑制できる。
すなわち、熱間鍛造など、金型が所定温度(例えば150℃)以上に加熱されて行われる鍛造においては、金型潤滑剤が金型表面に綺麗に広がりにくくなる(潤滑膜が均一に形成されにくくなる)。そのため、一定回数のプレスが行われると、金型潤滑剤が固化した残留物(カス)が金型内に発生する。このような残留物が偏在した状態の金型でプレスが行われると、肉厚不良や欠肉などの品質不良を招いてしまう。
このような現象に対し、本発明者らは、金型潤滑剤の残留物が専ら安定鍛造期以降に発生し始めることを見出した。そして、安定鍛造期に入ったことを検知して、この安定鍛造期以降に、ワークを変形させるために金型からワークへ作用させる力を調整するようにした。本実施形態においては、安定鍛造期に入ったことを検知して、この安定鍛造期以降にスライドの下死点位置からベッド上面までの高さ、すなわちシャットハイトの調整が行われるようにした。これにより、金型潤滑剤の残留物の発生に起因する品質不良を抑制できる。また、残留物の固着が進行すると負荷Fが変化する(一般的には増大する)ため、負荷Fに基づいてシャットハイト調整を行う(要否を判定する)ことにより、この品質不良を好適に抑制できる。
また、ノックアウト装置50のノックアウト力fcは、金型とワークとの潤滑状態により敏感に変化し、シャットハイト調整機構60のサーボモータ65の保持トルクは、負荷Fの変化により敏感に変化する。そのため、負荷Fに代えて(またはこれと併せて)、これらの計測値を用いてシャットハイト調整を行うことにより、より正確にシャットハイト調整を行うことができる。
【0036】
また、ステップS4において、シャットハイト調整を行う場合に、潤滑装置41を制御して金型潤滑剤の吹き付け条件を調整(例えば、吹き付け圧力を上げる、潤滑剤濃度を下げる、吹き付け時間を長くする等)してもよい。これにより、金型とワークとの潤滑状態の改善を図ってもよい。この吹き付け条件の調整は、シャットハイト調整とともに行ってもよいし、シャットハイト調整の前に行って、それでも金型の潤滑状態(残留物の発生状況)が改善しない場合にシャットハイト調整を行うこととしてもよい。
【0037】
次に、制御部75は、成形品厚さHが所定の範囲から外れたか否かを判定し(ステップS5)、外れていないと判定した場合には(ステップS5;No)、後述のステップS7に処理を移行する。
このステップS5では、制御部75は、成形品厚さHが上限+ΔHと下限-ΔHの範囲内から外れたか否かを判定する。
なお、このステップS5での判定には、成形品厚さHと相関のある他のパラメータ(例えば、負荷Fやシャットハイト調整量等)を用いてもよい。
【0038】
ステップS5において、成形品厚さHが所定の範囲内から外れたと判定した場合(ステップS5;Yes)、制御部75は、負荷Fの異常が発生した(又は今後発生するおそれがある)と判断し、警報部73を動作させて異常の発生を報知するとともに、装置本体100の稼働を停止させる(ステップS6)。
このときには、金型潤滑剤の残留物が多量に堆積しているおそれがあるため、装置本体100を停止させた後に、金型交換装置35により金型を新たなものと交換するのが好ましい。
【0039】
次に、制御部75は、シャットハイト調整処理を終了させるか否かを判定し(ステップS7)、終了させないと判定した場合には(ステップS7;No)、上述のステップS3へ処理を移行する。
そして、例えば装置本体100の運転終了やステップS6での装置停止等により、シャットハイト調整処理を終了させると判定した場合には(ステップS7;Yes)、制御部75は、シャットハイト調整処理を終了させる。
【0040】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、スライド18の負荷Fが安定する安定鍛造期に入ったと判定された場合に、所定の計測値に基づいて、ワークを変形させるために金型からワークへ作用させる力の調整(本実施形態ではシャットハイト調整)が行われる。
これにより、安定鍛造期以降に発生し始める金型潤滑剤の残留物に起因する品質不良を抑制でき、ひいては生産性を向上できる。
【0041】
また、本実施形態によれば、負荷F及び負荷変化率dFに基づいて安定鍛造期に入ったか否かを判定するので、負荷Fだけを用いる場合に比べ、より高精度に安定鍛造期を検知できる。
また、負荷Fや負荷変化率dFに加え、金型温度Tdを用いて安定鍛造期に入ったか否かを判定することにより、さらに高精度に安定鍛造期を検知できる。
【0042】
また、本実施形態によれば、負荷F及び負荷変化率dFの少なくとも一方に基づいて、ワークを変形させるために金型からワークへ作用させる力の調整(シャットハイト調整)が行われる。
残留物の固着が進行すると負荷Fが変化するため、負荷Fに基づいてシャットハイト調整を行う(要否を判定する)ことにより、金型潤滑剤の残留物に起因する品質不良を好適に抑制できる。
【0043】
また、本実施形態によれば、シャットハイト調整機構60のサーボモータ65の保持トルクに基づいてシャットハイト調整が行われる。
この保持トルクは、負荷Fの変化により敏感に変化するため、これを用いてシャットハイト調整を行うことにより、より正確にシャットハイト調整を行うことができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、金型から被成形物を押し出すノックアウト装置50のノックアウト力fcに基づいてシャットハイト調整が行われる。
このノックアウト力fcは、金型とワークとの潤滑状態により敏感に変化するため、これを用いてシャットハイト調整を行うことにより、より正確にシャットハイト調整を行うことができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、成形品厚さHが所定の範囲から外れた場合に、異常が報知されるとともに装置本体100の動作が停止されるので、残留物の多量の固着が疑われる金型の継続使用を回避できる。
さらに、装置本体100の動作が停止された後に、金型交換装置35により金型が新たなものと交換されるので、残留物の多量の固着が疑われる金型を自動で交換させて、生産性を向上できる。
【0046】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、熱間鍛造を例に挙げて説明したが、本発明は、熱間鍛造に限定されず、金型潤滑剤の残留物が発生しうる所定温度まで金型を加熱して行う鍛造に広く適用できる。
【0047】
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 プレス装置
11 モータ
16 エキセン軸
17 コンロッド
18 スライド
23 ベッド
24 ボルスタ
31 上金型
32 下金型
33 ヒーター
34 温度計
35 金型交換装置
36 荷重計
40 搬送装置
41 潤滑装置
50 ノックアウト装置(押し出し装置)
60 シャットハイト調整機構
61 偏心リストピン
65 サーボモータ
70 制御装置
73 警報部
74 記憶部
75 制御部
100 装置本体
740 シャットハイト調整プログラム
F 負荷
dF 負荷変化率
fc ノックアウト力(押し出し力)
H 成形品厚さ
SH シャットハイト
Td 金型温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6