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特開2022-102387クレーンの自動巻下げ方法及びクレーンの自動巻下げシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102387
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】クレーンの自動巻下げ方法及びクレーンの自動巻下げシステム
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/22 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
B66C13/22 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217084
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(72)【発明者】
【氏名】菜原 周郎
(72)【発明者】
【氏名】阿藻 徳彦
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204DB06
(57)【要約】
【課題】クレーンの巻下げにおいて、安全性を確保して自動で行うことで作業者に依存することなく効率良く作業ができるクレーンの自動巻下げ方法を提供する。
【解決手段】自動で吊荷を巻下げ始点から巻下げ終点まで移動させるクレーンの自動巻下げ方法であって、クレーンは、起伏可能なジブを備え、吊荷は、ジブの先端からワイヤによって吊り下げられ、以下工程a~dを順次行う、クレーンの自動巻下げ方法。
工程a:吊荷を巻下げ始点近傍に移動させた際の位置情報と予め記憶された第1基準位置情報とを比較し、
工程b:予め記憶された始点合否基準に入っている場合、吊荷の自動巻下げを行い、
工程c:吊荷を巻下げ終点近傍に移動させた際の位置情報と予め記憶された第2基準位置情報とを比較し、
工程d:予め記憶された終点合否基準に入っている場合、吊荷の自動巻下げが終了する
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動で吊荷を巻下げ始点から巻下げ終点まで移動させるクレーンの自動巻下げ方法であって、
前記クレーンは、起伏可能なジブを備え、
前記吊荷は、前記ジブの先端からワイヤによって吊り下げられ、
以下工程a~dを順次行う、クレーンの自動巻下げ方法。
工程a:吊荷を前記巻下げ始点近傍に移動させた際の位置情報と予め記憶された第1基準位置情報とを比較し、
工程b:予め記憶された始点合否基準に入っている場合、吊荷の自動巻下げを行い、
工程c:吊荷を前記巻下げ終点近傍に移動させた際の位置情報と予め記憶された第2基準位置情報とを比較し、
工程d:予め記憶された終点合否基準に入っている場合、吊荷の自動巻下げが終了する
【請求項2】
第1基準位置情報は、前記巻下げ始点の基準となる位置情報であり、
第2基準位置情報は、前記巻下げ終点の基準となる位置情報である、
請求項1に記載のクレーンの自動巻下げ方法。
【請求項3】
工程bにおける自動巻下げ中は、吊荷の荷重判定がなされ、所定値以下となった場合、工程cが実行される、
請求項1又は請求項2に記載のクレーンの自動巻下げ方法。
【請求項4】
工程bの自動巻下げは、段階的に速度を下げて行われる、
請求項1~3の何れか1項に記載のクレーンの自動巻下げ方法。
【請求項5】
巻下げ始点近傍の位置情報は、起伏及び旋回エンコーダのパルスのカウント数であり、
自動巻下げ中、及び巻下げ終点近傍の位置情報は、巻下エンコーダのパルスのカウント数である、
請求項1~4の何れか1項に記載のクレーンの自動巻下げ方法。
【請求項6】
自動で吊荷を巻下げ始点から巻下げ終点まで移動させるクレーンの自動巻下げシステムであって、
巻下げ始点取得手段と、巻下げ終点取得手段と、制御装置とを備え、
前記クレーンは、巻下装置を備え、
前記巻下げ始点取得手段は、巻下げ始点近傍の位置情報を取得可能に構成され、
前記巻下げ終点取得手段は、巻下げ終点近傍の位置情報を取得可能に構成され、
制御装置は、記憶部と制御部と、を備え、
記憶部は、巻下げ始点の位置情報の基準となる第1基準位置情報と、巻下げ終点の位置情報の基準となる第2基準位置情報と、巻下げ始点取得手段による位置情報の合否基準となる始点合否基準と、巻下げ終点取得手段による位置情報の合否基準となる終点合否基準と、を予め記憶し、
制御部は、巻下げ始点に移動してきた吊荷における巻下げ始点取得手段による位置情報が始点合否基準に入っている場合に巻下げ開始信号を生成し、また、自動巻下げ中に巻下げ終点取得手段による位置情報が終点合否基準に入っている場合に巻下げ終了信号を生成し、
前記クレーンが巻下げ開始信号を受信すると巻下装置が駆動し、また、前記クレーンが巻下げ終了信号を受信すると、巻下装置が停止するように制御する、
クレーンの自動巻下げシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの自動巻下げ方法及びクレーンの自動巻下げシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、起伏可能に構成されるジブ(ブームとも称する)やジブを介して吊荷を旋回させるクライミングクレーンと呼ばれるクレーン(例えば、特許文献1参照)がある。この種のクレーンは、主にオペレータの手作業によって、吊上げた吊荷を巻下げ始点から巻下げ終点まで荷降ろす作業が繰り返し行われている。
【0003】
具体的には、起伏モータを駆動させてジブを起伏させたり、旋回モータを駆動させてジブを介して旋回させたりすることで、吊上げる吊荷を巻下げ始点まで移動させ、その後、吊荷の荷重等によって、オペレータの判断によって巻下げ速度を適宜変更しながら、巻下モータを駆動させて巻下げ終点まで吊荷を移動させている。
そして、このような作業は、オペレータの手作業によって、一日中、同じ種類又は荷重の吊荷を繰り返し移動させることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-184269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、作業者によって、巻下げ始点から巻下げ終点まで吊荷を移動させる(巻下げる)方法は様々である。具体的には、作業者による速度超過、急発進、または急停止などによる荷振れがある。また、それに伴う荷崩れ、衝突、またはクレーン本体内部へのダメージなどのおそれもある。また、作業者は単純な繰り返し作業であるため集中力欠如からのミスを誘発する可能性もある。さらに、不慣れな作業者の場合、熟練者と比べると作業時間が長くなり、効率が悪い場合もある。
【0006】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、クレーンの巻下げにおいて、安全性を確保して自動で行うことで作業者に依存することなく効率良く作業ができるクレーンの自動巻下げ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、自動で吊荷を巻下げ始点から巻下げ終点まで移動させるクレーンの自動巻下げ方法であって、
クレーンは、起伏可能なジブを備え、
吊荷は、ジブの先端からワイヤによって吊り下げられ、
以下工程a~dを順次行う、クレーンの自動巻下げ方法が提供される。
工程a:吊荷を巻下げ始点近傍に移動させた際の位置情報と予め記憶された第1基準位置情報とを比較し、
工程b:予め記憶された始点合否基準に入っている場合、吊荷の自動巻下げを行い、
工程c:吊荷を巻下げ終点近傍に移動させた際の位置情報と予め記憶された第2基準位置情報とを比較し、
工程d:予め記憶された終点合否基準に入っている場合、吊荷の自動巻下げが終了する
【0008】
本発明の別の観点によれば、自動で吊荷を巻下げ始点から巻下げ終点まで移動させるクレーンの自動巻下げシステムであって、巻下げ始点取得手段と、巻下げ終点取得手段と、制御装置とを備え、クレーンは、巻下装置を備え、巻下げ始点取得手段は、巻下げ始点近傍の位置情報を取得可能に構成され、巻下げ終点取得手段は、巻下げ終点近傍の位置情報を取得可能に構成され、制御装置は、記憶部と制御部と、を備え、記憶部は、巻下げ始点の位置情報の基準となる第1基準位置情報と、巻下げ終点の位置情報の基準となる第2基準位置情報と、巻下げ始点取得手段による位置情報の合否基準となる始点合否基準と、巻下げ終点取得手段による位置情報の合否基準となる終点合否基準と、を予め記憶し、制御部は、巻下げ始点に移動してきた吊荷における巻下げ始点取得手段による位置情報が始点合否基準に入っている場合に巻下げ開始信号を生成し、また、自動巻下げ中に巻下げ終点取得手段による位置情報が終点合否基準に入っている場合に巻下げ終了信号を生成し、クレーンが巻下げ開始信号を受信すると巻下装置が駆動し、また、クレーンが巻下げ終了信号を受信すると、巻下装置が停止するように制御する、クレーンの自動巻下げシステムが提供される。
【0009】
本発明に係るクレーンの自動巻下げ方法及びクレーンの自動巻下げシステムでは、安全性を確保して自動で行うことで作業者に依存することなく効率良く作業ができる方法及びシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】自動巻下げシステムの模式全体構成図。
図2】クレーンの一例を示す正面図。
図3】着床時における前段階フロー図。
図4】着床時における自動巻下げフロー図。
図5】中空時における前段階フロー図。
図6】中空時における自動巻下げフロー図。
図7図1の変形例を示す模式全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0012】
1.全体構成
第1節では、自動で吊荷を巻下げ始点から巻下げ終点まで移動されるクレーンの自動巻下げシステム1の全体構成について説明する。図1は、自動巻下げシステム1の模式全体構成図である。図中の実線矢印は、制御装置40に送る信号を示し、破線矢印は制御装置40から送られる信号を示している。
自動巻下げシステム1は、クレーン10と、制御装置40と、制御装置40に得た情報を送信する入力機器と、制御装置40から出力された指令を実行する出力機器と、を備え、これらが電気的に接続されたシステムである。
この自動巻下げシステム1によって、制御装置40に入ってきた信号を制御部41で処理することでクレーン10の動作を制御している。
例えば、入力機器は、作業者が操作する機器である作業者操作部20と、クレーンの状態を取得、または監視するセンサ類や機器類であって、ロードセル26と、巻下げ始点取得手段50と、巻下げ終点取得手段51等が挙げられる。
【0013】
〈作業者操作部〉
作業者操作部20は、作業者の操作によって、制御装置に送られる信号を生成するものであり、操作装置21、始点記憶ボタン22、終点記憶ボタン23、自動運転ボタン24、及び入力装置25などを包含する。
また、作業者操作部20は、クレーン10において通常使用されうるボタンスイッチ、レバースイッチ等はもちろん、必要に応じてマウス、キーボード、タッチパネル、音声入力装置等のインターフェースを適宜採用してもよい。
【0014】
〈操作装置〉
操作装置21は、操作レバー等が該当し、作業者が、操作レバー等によって制御装置40に任意に速度指令を行うものである。
【0015】
〈始点記憶ボタン〉
始点記憶ボタン22は、作業者がボタンを投下すると、その入力情報が制御装置40に送信されるものである。本実施形態では、吊荷が吊下げ始点の基準となる位置にいる際に、始点記憶ボタン22の投下によって、その位置を第1基準位置情報として記憶部41に記憶させるものである。
【0016】
〈終点記憶ボタン〉
終点記憶ボタン23は、作業者がボタンを投下すると、その入力情報が制御装置40に送信されるものである。本実施形態では、吊荷が吊下げ終点の基準となる位置にいる際に、終点記憶ボタン23の投下によって、その位置を第2基準位置情報として記憶部41に記憶させるものである。
【0017】
〈自動運転実行ボタン〉
自動運転実行ボタン24は、作業者がボタンを投下することで、吊荷を巻下げ始点から巻下げ終点まで自動で移動させるものである。
【0018】
〈入力装置〉
入力装置25は、タッチパネル等が該当し、作業者の入力情報(コマンド)を受け付けると、その入力情報が制御装置40に送信される。
【0019】
〈ロードセル〉
ロードセル26は、吊荷の荷重を計測するものである。例えば、ロードセル26は、ジブトップに取り付けられており、ジブトップから吊下げられる吊荷の荷重の大きさを検出し、それに対応する制御信号が制御装置40に送信される。
【0020】
〈巻下げ始点取得手段〉
巻下げ始点取得手段50は、吊荷の現在の位置情報を受信可能に構成される。具体的には、起伏モータ32に取り付けられた起伏エンコーダ33と、旋回モータ34に取り付けられた旋回エンコーダ35とから送信される各パルスのカウント数である。これにより、詳細な位置情報を得ることができる。
【0021】
〈巻下げ終点取得手段〉
巻下げ終点取得手段51は、吊荷Lの現在の位置情報を受信可能に構成される。具体的には、巻下モータ30(巻下装置の一例)に取り付けられた巻下エンコーダ31から送信されるパルスのカウント数である。これにより、詳細な位置情報を得ることができる。
好ましくは、起伏及び旋回エンコーダ33,35から送信されるパルスのカウント数を含めても良い。
【0022】
〈巻下、起伏、及び旋回モータ〉
巻下、起伏、及び旋回モータ30,32,34は、モータを駆動させることで、クレーン10を操作・駆動させるものである。厳密には、それぞれ不図示のインバータを介して、任意の電圧及び周波数の電力が夫々のモータに送電されることに留意されたい。ここでは、かかる概念も含めて概略説明している。なお、各モータに作業者が操作装置21を介して所望する値を送信することもできるが、本実施形態の自動巻下げシステム1においては、自動運転実行ボタン24の投下によって各モータに所望する値が送信されることで実現される。
【0023】
〈クレーン〉
クレーン10の形態は特に限定されるものではないが、例えば図2に示されるクライミングクレーンが採用されうる。図2は、クレーンの一例を示す正面図である。具体的には、クレーン10は、ベースフレーム11の上にマスト本体12が取り付けられ、その頂部にクレーン本体13が設置されている。好ましくは、マスト本体12は、複数のマストからなり、鉛直方向上方に取り外し可能に連設された状態で構成される。
【0024】
クレーン本体13は、主に旋回体14とジブ15とフック16等で構成されている。
旋回体14は、マスト本体12の頂部に設けられた旋回ベアリング(不図示)に旋回モータ34を介して回転自在に支持されている。
ジブ15は、旋回体14に起伏モータ32によって起伏可能に支持されている。
フック16は、ジブ15の先端15aから垂れ下げられるワイヤrの一端に取り付けられている。
ワイヤrは、旋回体14に固定された巻下モータ30によってフック16、或いはそれに吊り下げられた吊荷を巻き上げ、或いは巻き下げるものである。具体的には、ワイヤrの他端は、巻下ドラム(不図示)に取り付けられており、巻下ドラムから中継シーブ17を介してジブ15の先端15aから鉛直方向に垂れ下げられ、巻下モータ30の駆動によって、ワイヤrが巻下ドラムに巻き取られ、或いは巻下ドラムから繰り出される。
【0025】
〈制御装置〉
制御装置40は、記憶部41と、制御部42とを有し、これらの構成要素が制御装置40の内部において電気的に接続されている。以下、各構成要素についてさらに説明する。
【0026】
〈記憶部41〉
記憶部41は、様々な情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶媒体である。これは、例えばソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施され、また、これらの組合せであってもよい。
【0027】
特に、記憶部41は、入力機器から送信された情報を記憶する。例えば、ロードセル26、巻下エンコーダ31、起伏エンコーダ33、及び旋回エンコーダ35などから受信した情報を記憶する。
【0028】
また、作業者が巻下げ始点の位置情報の基準となる位置で始点記憶ボタン22を投下すると、その時点での起伏エンコーダ33及び旋回エンコーダ35のパルスのカウント数が第1基準位置情報として記憶される。
【0029】
同様に、作業者が巻下げ終点の位置情報の基準となる位置で終点記憶ボタン23を投下すると、その時点での巻下エンコーダ31のパルスのカウント数が第2基準位置情報として記憶される。
【0030】
さらに、記憶部41は、予め始点合否基準G1及び終点合否基準G2が記憶されていることに留意されたい。始点合否基準G1及び終点合否基準G2は、クレーンの大きさ、動作速度、又は周囲の状況(例えば、現場の敷地が狭い場合は始点合否基準を厳しくする必要がある)などによって、適宜変更可能である。
【0031】
一例として、本実施形態の始点合否基準G1とは、第1基準位置情報と繰り返しの作業によって、吊荷が巻下げ始点に移動してきた際の現在の位置情報との差分が所定値内に入っているか否かの判定に用いる基準であり、所定値は±3000パルス内としている。
【0032】
同様に、終点合否基準G2とは、繰り返しの作業によって、吊荷が巻下げ終点に移動してきた際の現在の位置情報と第2基準位置情報との差分が規定値以下に入っているか否かの判定に用いる基準であり、規定値は10000パルスとしている。
【0033】
<制御部>
制御部42は、制御装置40に関連する全体動作の処理・制御を行うものであり、例えば不図示の中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。制御部42は、記憶部41に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、制御装置40に係る種々の機能を実現する。
【0034】
具体的には、制御部42は、第1基準位置情報である起伏及び旋回エンコーダ33,35のパルスのカウント数と吊荷が巻下げ始点に移動してきた際の現在の起伏及び旋回エンコーダ33,35のパルスのカウント数との差分を各々計算し、その差分が各々±3000パルスの範囲内であれば合格の判定を行い、巻下モータ30の駆動を制御する制御信号を生成するところである。一方、±3000パルス範囲外であれば不合格の判定を行い、エラー信号を生成するところである。
【0035】
また、制御部42は、吊荷が巻下げ終点に移動してきた際の現在の巻下エンコーダ33のパルスのカウント数から第2基準位置情報である巻下エンコーダ33のパルスのカウント数を引いた値を計算し、その値が10000パルス以下であれば合格の判定を行い、巻下モータ30の駆動を停止する制御信号を生成するところある。一方、10000パルスより大きい値であれば不合格の判定を行い、巻下モータ30によって吊荷を巻き上げる信号を生成するところでもある。
【0036】
2.クレーンの自動巻下げ方法
第2節では、自動で吊荷を巻下げ始点から巻下げ終点まで移動するための、クレーンの自動巻下げ方法について説明する。図3は、着床時における前段階フロー図である。
なお、ここでの巻下げは、第1の実施形態の吊荷が着床するまで巻下げることをいう。
以下、図3における各ステップに沿って説明する。
【0037】
[開始]
(ステップS101)
作業者が操作装置21を操作(巻下、起伏、及び旋回モータ30,32,34を駆動)し、吊り上げた荷物を巻下げ始点まで移動させる(ステップS102に続く)。
【0038】
(ステップS102)
続いて、その位置で作業者が始点記憶ボタン22を投下する(ステップS103に続く)。
【0039】
(ステップS103)
続いて、記憶部41が、起伏及び旋回エンコーダ33,35のパルスのカウント数(第1基準位置情報)と吊荷の荷重を記憶する(ステップS104に続く)。
【0040】
(ステップS104)
続いて、作業者が自動巻下ボタンを投下する(ステップS105に続く)。このとき、起伏及び旋回モータ32,34の駆動は停止し、巻下モータ30を駆動して吊荷を巻下げていく。ここで、予め作業者が入力装置25で低速となるように速度設定することが好ましい。
【0041】
(ステップS105)
続いて、巻下げ中に荷重が抜けたか否かを判定する。荷重が抜けたか否かは、ロードセル26から取得される値に基づいて判定すればよい。ロードセル26から取得される値が基準値以下であれば(Yes)、ステップS6に続く。一方、荷重が抜けていない場合(No)、まだ着床していないと判定し巻き下げを続行する。ここで、荷重にて判定することで、地面に着床した際に吊り荷のワイヤをどれだけ弛ませるかを調整することが可能である。
【0042】
(ステップS106)
続いて、着床したとみなされ、巻下げ終了となり、巻下モータ30の駆動を停止する。また、この位置を巻下げ終点とし、記憶部41は巻下エンコーダ31のパルスのカウント数(第2位置情報)を記憶する。
【0043】
この前段階の工程を経た後、次からは繰り返し巻下げ始点まで吊上げられてきた吊荷を巻下げ終点まで自動運転する動作について図4を用いて説明する。図4は着床時における自動巻下げフロー図である。
ここで、吊荷を巻下げ始点まで移動させる手段は、作業者による手作業であってもよいし、自動運転による移動であっても構わない。一方、巻下げ始点までに吊荷移動させる場合、手作業、または自動運転であっても、吊荷の重量や外乱の影響で、繰り返し同じ位置に移動させることは難しく、若干の誤差が生じる。その誤差を「近傍」と表し、「巻下げ始点近傍」という場合がある。
【0044】
[開始]
(ステップS111)
作業者が操作装置21を操作(巻下、起伏、及び旋回モータ30,32,34を駆動)し、吊り上げた荷物を巻下げ始点近傍まで移動させる(ステップS112に続く)
【0045】
(ステップS112)
続いて、現在の巻下げ始点近傍位置が始点合否基準に入っているか否かを判定する。具体的には、第1基準位置情報である起伏及び旋回エンコーダ33,35のパルスのカウント数と吊荷が巻下げ始点に移動してきた際の現在の起伏及び旋回エンコーダ33,35のパルスのカウント数との差分を各々計算し、その差分が始点合否基準(例えば、各々±3000パルスの範囲内)に入っていれば合格の判定を行い(Yes)、ステップS113に続く。一方、±3000パルス範囲外であれば不合格の判定を行い(No)、ステップS114で作業者による手動修正によってステップS111に戻される。
【0046】
(ステップS113)
続いて、作業者が自動運転実行ボタンを投下する(ステップS115に続く)。このとき、起伏及び旋回モータ32,34の駆動は停止し、巻下モータ30を駆動して吊荷を巻下げていく。ここで、予め作業者が入力装置25を用いて巻下げ速度を決定するのが好ましい。また、速度を段階的に所定距離に到達したら下げていくように設定することが好ましい。
【0047】
なお、ステップS113の処理は、2つのルートに分けられる。Aルートが、まず荷重から判定するルート(ステップS115)、Bルートが第2位置情報に到達したか否かを判定するルート(ステップS118)である。以下、順に説明していく。
【0048】
Aルート
(ステップS115)
続いて、巻下げ中に荷重が抜けたか否かを判定する。荷重が抜けたか否かは、ロードセル26から取得される値に基づいて判定すればよい。ロードセル26から取得される値が基準値以下であれば(Yes)、ステップS116に続く。一方、荷重が抜けていない場合(No)、まだ着床していないと判定し巻き下げを続行する。ここで、荷重にて判定することで、地面に着床した際に吊り荷のワイヤをどれだけ弛ませるかを調整することが可能である。
【0049】
(ステップS116)
続いて、巻下げ中の現在の位置が終点合否基準に入っているか否かを判定する。具体的には、吊荷が巻下げ終点に移動してきた際の現在の巻下エンコーダ33のパルスのカウント数から第2基準位置情報である巻下エンコーダ33のパルスのカウント数を引いた値を計算し、その値が終点合否基準(例えば、10000パルス以下)に入っていれば合格の判定を行い(Yes)、ステップS117に続く。一方、10000パルスより大きい値であれば不合格の判定を行い(No)、ステップS119の処理が行われる。具体的には、巻下げを一旦停止し、巻き上げる動作を行う。ここで10000パルスは、吊荷が巻下げ終点位置(着床位置)と異なる位置で引っかかっていないかなどを判定することができる。大きな値のパルスに設定すると、着床位置と異なるか判定ができず、一方、小さな値のパルスに設定すると着床位置であるにもかかわらず、誤着床と判定する可能性がある。そのため、周囲の環境(吊荷の周りにひっかかりそうなものがあるか否かなど)を考慮して、設定パルスの値を適宜変更することが好ましい。
そして、ステップS120に続き、荷重が正常か否かを判定する。ここで、その判定は、現在の荷重とステップS103で記憶した吊荷の荷重との差分が±0.2t以内である場合に正常とみなし(YES)、ステップS113の処理に戻される。一方、差分が±0.2tから外れている場合、まだ正常とはみなされず(No)、ステップS119の処理に戻され巻き上げられる。これによって、作業中にクレーンが揺れたとしても、正確な判定をすることができる。
【0050】
(ステップS117)
続いて、着床したとみなされ、巻下げ終了となり、巻下モータ30の駆動を停止する。
【0051】
Bルート
Bルートは、何らかの原因によって荷重が抜けないときに巻下げを続けたら危険であるため、その回避ルートである。具体的には、設定した位置以下には巻下がらないようにしている。
(ステップS118)
続いて、巻下げ中の現在の位置が終点合否基準に入っているか否かを判定する。具体的には、吊荷が巻下げ終点に移動してきた際の現在の巻下エンコーダ33のパルスのカウント数から第2基準位置情報である巻下エンコーダ33のパルスのカウント数を引いた値を計算し、その値が終点合否基準(例えば、3000パルス以下)に入っていれば合格の判定を行い(Yes)、ステップS117に続く。一方、3000パルスより大きい値であれば不合格の判定を行い(No)、ステップS113の処理に戻される。
ここで、ステップS116では、判定の値が10000に対して、ステップS118では、判定の値が3000であるのに留意されたい。これによって、誤着床と判定することなく、正確な判定が可能となる。
【0052】
3.第2の実施形態
第3節では、第2の実施形態に係るクレーン10の制御方法について説明する。なお、第1の実施形態に係るクレーン10の制御方法との共通箇所についてはその説明を省略する。図5は、中空時における前段階フロー図である。
なお、ここでの巻下げは、第1の実施形態の吊荷が着床するまで巻下げるのに対し、吊荷が中空の所定位置まで下げることをいう。
以下、図5における各ステップに沿って説明する。
【0053】
[開始]
(ステップS201)
作業者が操作装置21を操作(巻下、起伏、及び旋回モータ30,32,34を駆動)し、吊り上げた荷物を巻下げ始点まで移動させる(ステップS202に続く)。
【0054】
(ステップS202)
続いて、その位置で作業者が始点記憶ボタン22を投下する(ステップS203に続く)。
【0055】
(ステップS203)
続いて、記憶部41が、起伏及び旋回エンコーダ33,35のパルスのカウント数(第1基準位置情報)を記憶する(ステップS204に続く)。
【0056】
(ステップS204)
続いて、作業者が自動巻下ボタンを投下する(ステップS205に続く)。このとき、起伏及び旋回モータ32,34の駆動は停止し、巻下モータ30を駆動して吊荷を巻下げていく。ここで、予め作業者が入力装置25で低速となるように速度設定することが好ましい。これにより、作業者が周囲の様子や経路に障害物等の問題がないかを確認しながら安全に巻下げを行うことができる。
【0057】
(ステップS205)
続いて、吊荷を中空で受け渡す目標位置に到達したか否かを判定する。目標位置に到達すれば(Yes)、ステップS206に続く。一方、目標位置に到達していない場合(No)、ステップS204の処理に戻される。
【0058】
(ステップS206)
続いて、中空の目標位置に到達したとみなされ、巻下げ終了となり、巻下モータ30の駆動を停止する。また、この位置を巻下げ終点とし、記憶部41は巻下エンコーダのパルスのカウント数(第2位置情報)を記憶する。
【0059】
この前段階の工程を経た後、次からは繰り返し巻下げ始点まで吊上げられてきた吊荷を巻下げ終点まで自動運転する動作について図6を用いて説明する。図6は着床時における自動巻下げフロー図である。
ここで、吊荷を巻下げ始点まで移動させる手段は、作業者による手作業であってもよいし、自動運転による移動であっても構わない。一方、巻下げ始点までに吊荷移動させる場合、手作業、または自動運転であっても、吊荷の重量や外乱の影響で、繰り返し同じ位置に移動させることは難しく、若干の誤差が生じる。その誤差を「近傍」と表し、「巻下げ始点近傍」という場合がある。
【0060】
[開始]
(ステップS211)
作業者が操作装置21を操作(巻下、起伏、及び旋回モータ30,32,34を駆動)し、吊り上げた荷物を巻下げ始点近傍まで移動させる(ステップS212に続く)
【0061】
(ステップS212)
続いて、現在の巻下げ始点近傍位置が始点合否基準に入っているか否かを判定する。具体的には、第1基準位置情報である起伏及び旋回エンコーダ33,35のパルスのカウント数と吊荷が巻下げ始点に移動してきた際の現在の起伏及び旋回エンコーダ33,35のパルスのカウント数との差分を各々計算し、その差分が始点合否基準(例えば、各々±3000パルスの範囲内)に入っていれば合格の判定を行い(Yes)、ステップS213に続く。一方、±3000パルス範囲外であれば不合格の判定を行い(No)、ステップS214で作業者による手動修正によってステップS211に戻される。
【0062】
(ステップS213)
続いて、作業者が自動運転実行ボタンを投下する(ステップS215に続く)。このとき、起伏及び旋回モータ32,34の駆動は停止し、巻下モータ30を駆動して吊荷を巻下げていく。ここで、予め作業者が入力装置25を用いて巻下げ速度を決定するのが好ましい。また、速度を段階的に所定距離に到達したら下げていくように設定することが好ましい。これにより、目標位置に到達した際の振れを抑えることができ、安全に目標位置に到達させることができる。
【0063】
(ステップS215)
続いて、巻下げ中の現在の位置が終点合否基準に入っているか否かを判定する。具体的には、吊荷が巻下げ終点に移動してきた際の現在の巻下エンコーダ33のパルスのカウント数から第2基準位置情報である巻下エンコーダ33のパルスのカウント数を引いた値を計算し、その値が終点合否基準(例えば、3000パルス以下)に入っていれば合格の判定を行い(Yes)、ステップS216に続く。一方、3000パルスより大きい値であれば不合格の判定を行い(No)、ステップS213の処理に戻される。
【0064】
(ステップS216)
続いて、中空の目標位置に到達したとみなされ、巻下げ終了となり、巻下モータ30の駆動を停止する。
【0065】
4.変形例
第4節では、図1の自動巻下げシステム1の模式全体構成図の変形例について説明する。なお、本実施形態に係る自動巻下げシステム1との共通箇所についてはその説明を省略する。
図1の自動巻下げシステム1では、入力機器として、巻下げ始点取得手段50と巻下げ終点取得手段51が備えられている。
巻下げ始点取得手段50は、一例として起伏モータ32に取り付けられた起伏エンコーダ33と、旋回モータ34に取り付けられた旋回エンコーダ35とから送信される各パルスのカウント数である。
一方、巻下げ終点取得手段51は、一例として巻下モータ30に取り付けられた巻下エンコーダ31から送信されるパルスのカウント数である。
それに対して、図7は、図1の変形例を示したものである。相違点は、巻下げ始点取得手段50と巻下げ終点取得手段51の他例であり、具体的には、巻下げ始点取得手段50は、図1では起伏及び旋回エンコーダ33,35からの各パルスのカウント数であるのに対し、図7ではGNSS受信機27からの位置情報、或いはジブ起伏角度計28及びジブ旋回角時計29からの位置情報で構成される。
また、巻下げ終点取得手段51は、図1では巻下エンコーダ31からのパルスのカウント数であるのに対し、図7ではGNSS受信機27からの位置情報、或いはジブ起伏角度計28及びジブ旋回角時計29からの位置情報で構成される。
【0066】
4.結言
以上のように、本実施形態によれば、クレーンの自動巻下げ方法及びクレーンの自動巻下げシステムにおいて、安全性を確保して自動で行うことで作業者に依存することなく効率良く作業ができる方法及びシステムを提供することができる。
【0067】
クレーンの自動巻下げ方法は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
クレーンの自動巻下げ方法であって、第1基準位置情報は、巻下げ始点の基準となる位置情報であり、第2基準位置情報は、巻下げ終点の基準となる位置情報である、方法。
クレーンの自動巻下げ方法であって、工程bにおける自動巻下げ中は、吊荷の荷重判定がなされ、所定値以下となった場合、工程cが実行される、方法。
クレーンの自動巻下げ方法であって、工程bの自動巻下げは、段階的に速度を下げて行われる、方法。
クレーンの自動巻下げ方法であって、巻下げ始点近傍の位置情報は、起伏及び旋回エンコーダのパルスのカウント数であり、自動巻下げ中、及び巻下げ終点近傍の位置情報は、巻下エンコーダのパルスのカウント数である、方法。
もちろん、この限りではない。
【0068】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0069】
1 自動巻下げシステム
10 クレーン
15 ジブ
15a ジブの先端
21 操作装置
24 自動運転実行ボタン
26 ロードセル
30 巻下モータ(巻下装置)
31 巻下エンコーダ
32 起伏モータ
33 起伏エンコーダ
34 旋回モータ
35 旋回エンコーダ
40 制御装置
41 記憶部
42 制御部
r ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7