(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102399
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】評価方法、評価支援ツール、頭皮毛髪化粧料の選定方法、頭皮臭抑制成分のスクリーニング方法、頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料の製造方法、頭皮臭抑制方法、及び、頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220630BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20220630BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220630BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20220630BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220630BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20220630BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20220630BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220630BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220630BHJP
A61K 31/14 20060101ALI20220630BHJP
A61K 8/40 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
G01N33/497 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/06
C12Q1/686 Z
A61Q5/00
A61Q15/00
A61K45/00
A61P17/00 101
A61K31/14
A61K8/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217099
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【弁理士】
【氏名又は名称】合路 裕介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 紘介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 廉
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C083
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB09
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
4C083AC691
4C083AC692
4C083BB48
4C083CC31
4C083EE21
4C084AA17
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA90
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA41
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA90
(57)【要約】
【課題】頭皮臭に関する新規な評価方法、評価支援ツール、頭皮臭を抑制可能な頭皮毛髪化粧料の選定方法、頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料の製造方法、頭皮臭抑制方法、及び、頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料の提供。
【解決手段】被評価者の頭皮臭の程度を、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に基づいて評価するか、又は、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を、被評価者の頭皮臭の程度に基づいて評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被評価者の頭皮臭の程度を、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に基づいて評価するか、又は、
被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を、被評価者の頭皮臭の程度に基づいて評価する、
評価方法。
【請求項2】
前記頭皮細菌叢における細菌数に関する情報は、前記被評価者の頭皮細菌叢における、総細菌数と、アクネ菌の細菌数と、コリネバクテリウム属の細菌数と、表皮ブドウ球菌の細菌数と、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数と、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、の少なくともいずれかに基づく情報である、
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記被評価者の頭皮臭の程度は、頭皮臭の総合不快度、又は、頭皮臭のうちの汗様の臭気の強さである、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を比較基準となる情報と比較することで前記評価を行う、請求項1から3のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
被評価者の頭皮臭の程度の、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に基づいた評価を支援する評価支援ツールであって、
頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に対して比較基準となる情報が表示される、
評価支援ツール。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の評価方法により得られる評価結果に応じて前記被評価者に対して推奨する頭皮毛髪化粧料の選定を行う、頭皮毛髪化粧料の選定方法。
【請求項7】
前記評価結果に基づいて、抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料を選定する、請求項6に記載の頭皮毛髪化粧料の選定方法。
【請求項8】
頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を指標とする、頭皮臭抑制成分のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項8に記載のスクリーニング方法により、頭皮臭抑制成分をスクリーニングする第1工程と、
前記第1工程で得られるスクリーニング結果に基づいて頭皮臭抑制成分を選定する第2工程と、
前記第2工程で選定された頭皮臭抑制成分が配合された頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料を製造する第3工程と、
を備える頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料の製造方法。
【請求項10】
前記第2工程で選定する頭皮抑制成分が、抗菌剤である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載のスクリーニング方法によりスクリーニングされた頭皮臭抑制成分を頭皮に作用させる、頭皮臭抑制方法。
【請求項12】
前記頭皮臭抑制成分として、抗菌剤が用いられる、請求項11に記載の頭皮臭抑制方法。
【請求項13】
頭皮細菌叢における細菌数の増加を抑制させる成分が配合された頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料。
【請求項14】
前記頭皮細菌叢における細菌数の増加を抑制させる成分として、抗菌剤が配合された、請求項13に記載の頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価方法、評価支援ツール、選定方法、スクリーニング方法、頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料の製造方法、頭皮臭抑制方法、及び、頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、毛髪又は頭皮の状態を客観的に評価する手法が検討されている。
例えば、特許文献1(特開2019-050799号公報)によれば、頭皮細菌叢におけるコリネバクテリウム属の細菌に関する情報により頭皮の赤み等を評価することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
毛髪又は頭皮の状態の評価として、頭皮臭の評価に関する研究開発がされている。ところが、頭皮臭に関する客観的な評価方法としては、報告が少ないのが現状であるため、新しい客観的な評価方法が要望されている。
本発明は、上記事情に鑑み、頭皮臭に関する新規な評価方法、評価支援ツール、頭皮臭を抑制可能な頭皮毛髪化粧料の選定方法、頭皮臭抑制成分のスクリーニング方法、頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料の製造方法、頭皮臭抑制方法、及び、頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等が、頭皮細菌叢と頭皮臭との関係について鋭意検討を行った結果、頭皮細菌叢における細菌数が被評価者の頭皮臭の程度と関係していることを見出し、頭皮臭に関する評価方法として当該関係を用いることに着目して、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の評価方法では、被評価者の頭皮臭の程度を、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に基づいて評価するか、又は、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を、被評価者の頭皮臭の程度に基づいて評価する。
【0007】
上記評価方法においては、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を比較基準となる情報と比較することで評価を行うことが好ましい。
【0008】
本発明の評価支援ツールでは、被評価者の頭皮臭の程度の、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に基づいた評価を支援する評価支援ツールであって、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に対して比較基準となる情報が表示される。
【0009】
本発明の頭皮毛髪化粧料の選定方法では、上記評価方法により得られる評価結果に応じて被評価者に対して推奨する頭皮毛髪化粧料の選定を行う。
【0010】
なお、上記頭皮毛髪化粧料の選定方法では、上記評価結果に基づいて抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料を選定することが好ましい。
【0011】
本発明の頭皮臭抑制成分のスクリーニング方法は、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を指標として行われる。
【0012】
ここで、上記「頭皮細菌叢における細菌数に関する情報」は、総細菌数と、アクネ菌の細菌数と、コリネバクテリウム属の細菌数と、表皮ブドウ球菌の細菌数と、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数と、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、の少なくともいずれかに基づく情報であることが好ましく、これらの情報そのものであってもよいし、これらの細菌数の情報に所定の重み付け処理が施された情報であってもよい。
【0013】
なお、上記「被評価者の頭皮臭の程度」は、頭皮臭の総合不快度であってもよいし、頭皮臭のうちの汗様の臭気の強さであってもよい。
ここで、頭皮臭の程度として頭皮臭の総合不快度を評価する場合には、評価の信頼性を高める観点から、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報としては、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数を用いることが最も好ましく、続いて、表皮ブドウ球菌の細菌数、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数、総細菌数、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数、コリネバクテリウム属の細菌数、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数、アクネ菌の細菌数を用いることが、この順で好ましい。
また、頭皮臭の程度として汗様の臭気の強さを評価する場合には、評価の信頼性を高める観点から、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報としては、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数を用いることが最も好ましく、続いて、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数、総細菌数、コリネバクテリウム属の細菌数、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数、表皮ブドウ球菌の細菌数、アクネ菌の細菌数を用いることが、この順で好ましい。
【0014】
また、本発明の頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料の製造方法では、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を指標とするスクリーニング方法により、頭皮臭抑制成分をスクリーニングする第1工程と、第1工程で得られるスクリーニング結果に基づいて頭皮臭抑制成分を選定する第2工程と、第2工程で選定された頭皮臭抑制成分が配合された頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料を製造する第3工程と、を備える。
なお、上記製造方法では、第2工程で選定する頭皮抑制成分が、抗菌剤であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の頭皮臭抑制方法では、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を指標とするスクリーニング方法によりスクリーニングされた頭皮臭抑制成分を頭皮に作用させる。
なお、上記頭皮臭抑制方法では、頭皮臭抑制成分として、抗菌剤が用いられることが好ましい。
【0016】
また、本発明の頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料は、頭皮細菌叢における細菌数の増加を抑制させる成分が配合される。
なお、上記頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料には、頭皮細菌叢における細菌数の増加を抑制させる成分として、抗菌剤が配合されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る評価方法によれば、頭皮臭に関する新規な評価方法が提供される。
本発明に係る評価支援ツールによれば、上記新規な評価方法が支援される。
本発明に係る選定方法によれば、被評価者に適した頭皮毛髪化粧料を選定することが可能となる。
本発明に係るスクリーニング方法によれば、被評価者の頭皮臭の抑制に有利な成分の選定が容易となる。
本発明に係る製造方法によれば、被評価者の頭皮臭を抑制可能な頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料を得ることができる。
本発明に係る頭皮臭抑制方法によれば、頭皮臭を抑制することが可能になる。
本発明に係る頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料によれば、頭皮臭を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】SWEATYスコアに対する総細菌数の箱ひげ図である。
【
図2】SWEATYスコアに対するアクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+C+E)の箱ひげ図である。
【
図3】SWEATYスコアに対するアクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+E)の箱ひげ図である。
【
図4】SWEATYスコアに対するアクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数(A+C)の箱ひげ図である。
【
図5】SWEATYスコアに対するコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(C+E)の箱ひげ図である。
【
図6】SWEATYスコアに対するアクネ菌の細菌数(A)の箱ひげ図である。
【
図7】SWEATYスコアに対するコリネバクテリウム属の細菌数(C)の箱ひげ図である。
【
図8】SWEATYスコアに対する表皮ブドウ球菌の細菌数(E)の箱ひげ図である。
【
図9】頭皮総合不快度スコアに対する総細菌数の箱ひげ図である。
【
図10】頭皮総合不快度スコアに対するアクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+C+E)の箱ひげ図である。
【
図11】頭皮総合不快度スコアに対するアクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+E)の箱ひげ図である。
【
図12】頭皮総合不快度スコアに対するアクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数(A+C)の箱ひげ図である。
【
図13】頭皮総合不快度スコアに対するコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(C+E)の箱ひげ図である。
【
図14】頭皮総合不快度スコアに対するアクネ菌の細菌数(A)の箱ひげ図である。
【
図15】頭皮総合不快度スコアに対するコリネバクテリウム属の細菌数(C)の箱ひげ図である。
【
図16】頭皮総合不快度スコアに対する表皮ブドウ球菌の細菌数(E)の箱ひげ図である。
【
図17】アクネ菌について各候補成分による濁度の変化を示す図(その1)である。
【
図18】アクネ菌について各候補成分による濁度の変化を示す図(その2)である。
【
図19】コリネバクテリウム属の細菌について各候補成分による濁度の変化を示す図(その1)である。
【
図20】コリネバクテリウム属の細菌について各候補成分による濁度の変化を示す図(その2)である。
【
図21】表皮ブドウ球菌について各候補成分による濁度の変化を示す図(その1)である。
【
図22】表皮ブドウ球菌について各候補成分による濁度の変化を示す図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各実施形態に係る評価方法、評価支援ツール、選定方法、スクリーニング方法、頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料の製造方法、頭皮臭抑制方法、及び、頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料を例に挙げつつ説明するが、これらは特に発明を限定するものではない。なお、本発明において、用語「及び/又は」は両方又はいずれか一方を指す。
【0020】
(1)評価方法
(1-1)第1実施形態の評価方法
第1実施形態の評価方法は、被評価者の頭皮臭の程度を、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に基づいて評価する方法である。当該評価方法によれば、被評価者の頭皮臭の程度を、客観的に評価することが可能になる。なお、当該評価方法は、美容目的で用いることができる。
【0021】
(頭皮臭)
頭皮臭は、毛髪が生えている所定の部位における臭気であって、例えば、後頭部の臭気であってもよい。後頭部の臭気として、より詳細には、特開2015-36016号公報の
図3及び段落0029乃至0031に示されたトップ、ミドル、ネープのいずれかの領域の後頭部における臭気であってもよい。なお、頭皮臭の評価を簡便に行う観点からは、後頭部のトップ領域における頭皮臭の評価が好適である。
頭皮臭の評価は、頭皮臭の総合不快度の評価として行ってもよいし、頭皮臭のうちの汗様の臭気の強さの評価として行ってもよい。
【0022】
頭皮臭の評価としては、酸っぱい臭気(ACID)、脂っぽい臭気(OILY)、粉っぽい臭気(WAXY)、焦げた臭気(SMORKY)、汗様の臭気(SWEATY)、魚のような臭気(AMIN)に分類される各臭気についての評価であってもよいし、これらの臭気への分類を伴わない頭皮臭の総合不快度の評価であってもよく、なかでも、頭皮臭のうちの汗様の臭気の評価又は頭皮臭の総合不快度の評価であることが好ましい。
なお、頭皮臭の程度の評価では、臭気が強いほど程度が強いと評価し、不快度が高いほど程度が高いと評価することができる。
【0023】
(頭皮細菌叢における細菌数に関する情報)
頭皮細菌叢とは、頭皮に存在する一群の細菌の集合を意味する。頭皮細菌叢は、例えば、評価対象部位とする頭皮の一部の領域から粘着テープ等の適宜の手段により採取した検体を用いて、次世代DNAシークエンサーを用いた16S rRNAシークエンス法によって解析することができる。
頭皮細菌叢における細菌数は、例えば、頭皮細菌叢における総細菌数と、アクネ菌の細菌数と、コリネバクテリウム属の細菌数と、表皮ブドウ球菌の細菌数と、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数と、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、の少なくともいずれかとすることができる。
【0024】
頭皮細菌叢における細菌数に関する情報は、頭皮細菌叢における総細菌数と、アクネ菌の細菌数と、コリネバクテリウム属の細菌数と、表皮ブドウ球菌の細菌数と、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数と、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数と、の少なくともいずれかの情報そのものであってもよいし、これらの細菌数の情報に所定の重み付け処理が施された情報であってもよい。当該重み付けが施された情報としては、上記各細菌数のうちの2つ以上の細菌数を用いつつ、頭皮臭との相関の強い細菌数ほど大きく重み付けして得られる関数であってもよい。
また、頭皮細菌叢におけるアクネ菌の細菌数、コリネバクテリウム属の細菌数、表皮ブドウ球菌の細菌数は、例えば、上記16S rRNAシークエンス法による頭皮細菌叢の解析結果をパイプライン解析ツールにより細菌の属(genus)レベルまたは種(species)レベルで分析することで、解析できる。また、アクネ菌、コリネバクテリウム属の細菌、表皮ブドウ球菌のうちいずれか2つ又は全ての合計の細菌数、更に、これらの細菌以外の細菌を含む頭皮細菌叢の全細菌の数(総細菌数)についても、同様に把握することができる。
【0025】
頭皮臭の程度として頭皮臭の総合不快度を評価する場合には、評価の信頼性を高める観点から、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報としては、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数を用いることが最も好ましく、続いて、表皮ブドウ球菌の細菌数、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数、総細菌数、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数、コリネバクテリウム属の細菌数、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数、アクネ菌の細菌数を用いることが、この順で好ましい。なお、これらの各細菌数のいくつかを組合せて用いてもよいが、その場合には、当該順で重み付けをして用いることが好ましい。
頭皮臭の程度として汗様の臭気の強さを評価する場合には、評価の信頼性を高める観点から、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報としては、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数を用いることが最も好ましく、続いて、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数、総細菌数、コリネバクテリウム属の細菌数、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数、表皮ブドウ球菌の細菌数、アクネ菌の細菌数を用いることが、この順で好ましい。なお、これらの各細菌数のいくつかを組合せて用いてもよいが、その場合には、当該順で重み付けをして用いることが好ましい。
以上の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報から把握される値が大きいほど、被評価者の頭皮臭の程度が強いと評価することができる。
【0026】
(比較基準)
第1実施形態の評価方法においては、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を比較基準となる情報と比較することで評価を行うことが好ましい。当該評価方法によれば、被評価者の頭皮臭の程度を、比較基準となる細菌数に関する情報に対応した頭皮臭と比較して評価することが可能になる。すなわち、比較基準となる細菌数に関する情報に対応した頭皮臭の程度を予め把握しておくことで、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報と比較基準となる細菌数に関する情報との関係から、被評価者の頭皮臭が比較基準となる頭皮臭と比べて甚だしいのか否かを評価することが可能になる。
この比較基準は、一般人の平均値として設けておいてもよい。また、比較基準は、頭皮臭の程度毎に分けて複数設けておいてもよい。
さらに、同一被評価者について、現在の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報と、過去の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を比較することにより、当該被評価者の頭皮臭の程度の変化を評価してもよい。
【0027】
(1-2)第2実施形態の評価方法
第2実施形態の評価方法は、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を、被評価者の頭皮臭の程度に基づいて評価する方法である。当該評価方法によれば、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数を、客観的に評価することが可能になる。なお、当該評価方法は、美容目的で用いることができる。
なお、頭皮臭、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報については、上記第1実施形態と同様である。
【0028】
(2)評価支援ツール
評価支援ツールは、被評価者の頭皮臭の程度の、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に基づいた評価を支援する評価支援ツールであって、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に対して比較基準となる情報が表示されるものである。この評価支援ツールによれば、把握された被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を比較基準の細菌数に関する情報と比較することで、比較基準の細菌数に対応した頭皮臭に対する被評価者の頭皮臭の程度を評価することが支援される。
なお、頭皮臭、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報、比較基準については、上記第1実施形態と同様である。
【0029】
上記評価支援ツールとしては、特に限定されるものではなく、例えば、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報の1つまたは複数の比較基準となる情報が掲載された頭皮臭の程度を説明するためのシート、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報に応じて推奨される頭皮毛髪化粧料の種類が掲載されたパンフレット、これらのシートやパンフレットに掲載される情報を表示出力可能に格納した情報端末、当該情報端末において用いられる各種データ及びプログラム等が挙げられる。
【0030】
なお、上記評価支援ツールとしての情報端末は、特に限定されないが、例えば、頭皮細菌叢における細菌数と頭皮臭の程度とを対応させた一覧表等を表示するディスプレイ、各種情報演算処理を行うCPU、RAM、被評価者の評価の際に用いる各種データやプログラム等が格納されるROM等の記録手段、ユーザからの情報入力を受けるタッチパネル又はキーボード等の入力手段等を有し、インターネット等のネットワークを介した通信が可能となるように構成されたものを挙げることができる。ここで、被評価者の評価の際に用いる各種データは、評価支援ツールの記録手段に予め格納されていてもよいし、ネットワークを介した通信を行うことで外部のサーバ等から入手して格納するように評価支援ツールが構成されていてもよい。
【0031】
(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法
頭皮毛髪化粧料の選定方法は、上述した第1実施形態の評価方法又は第2実施形態の評価方法により得られる評価結果に応じて被評価者に対して推奨する頭皮毛髪化粧料の選定を行う方法である。
この頭皮毛髪化粧料の選定方法によれば、被評価者の細菌数に関する情報に基づいて把握される頭皮臭の程度に応じて、当該被評価者に適した頭皮毛髪化粧料を選定することが可能となる。例えば、頭皮細菌叢における細菌数が多いと評価された被評価者に対しては、細菌数の増加を抑制させることが可能な成分が配合された頭皮毛髪化粧料を選定してその使用を推奨することや、細菌数を増加させてしまう可能性のある成分を含む頭皮毛髪化粧料の使用を差し控えるように推奨することができる。
ここで、「頭皮毛髪化粧料」とは、頭皮及び/又は毛髪に用いられる化粧料を意味する。
【0032】
なお、頭皮細菌叢における細菌数の多さに応じて薦める頭皮毛髪化粧料や使用を差し控える頭皮毛髪化粧料を、予め区別して一覧表として用意しておき、当該一覧表を用いて推奨する頭皮毛髪化粧料の選定を行うようにしてもよい。
また、頭皮臭の程度が強いと評価された被評価者に対しては、頭皮細菌叢における細菌数が多い傾向にあることから、上記と同様にして頭皮毛髪化粧料の選定等を行うようにしてもよい。
【0033】
また、上述した第1実施形態の評価方法又は第2実施形態の評価方法により得られる評価結果に基づいて抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料を選定することが好ましい。
より具体的には、頭皮細菌叢における細菌数が多いと評価された被評価者に対しては、抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料の使用を薦め、頭皮細菌叢における細菌数が少ないと評価された被評価者に対しては、抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料に限らない頭皮毛髪化粧料の使用を薦めることができる。
【0034】
抗菌剤とは、細菌の増殖を抑制・阻害及び/又は細菌を殺菌する成分を意味する。
このような抗菌剤としては、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、及び、多価アルコールのうちの1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
前記防腐剤としては、安息香酸又はその塩、ウンデシレン酸、サリチル酸、ソルビン酸又はその塩、デヒドロ酢酸又はその塩、パラオキシ安息香酸エステル(例えば、パラオキシ安息香酸メチル又はその塩、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸ベンジル等)、メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液(メチルクロロイソチアゾリノン及びメチルイソチアゾリノンを含む水溶液)、メチルクロロイソチアゾリノン(5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)、メチルイソチアゾリノン(2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)、フェノール、イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール又はその塩、パラクロロフェノール、チオビスクロロフェノール、クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、グルコン酸クロルヘキシジン、クロルフェネシン、クロルキシレノール、ジクロルキシレノール、ジクロロベンジルアルコール、チモール、クロルチモール、トリクロロカルバニリド、トリクロロヒドロキシフェニルエーテル、クロフルカルバン、フェネチルアルコール、フェノキシエタノール、ヘキサクロロフェン、感光素101号、感光素201号、感光素401号、ヨウ化パラジメチルアミノスチリルヘプチルメチルチアゾリウム、ヒノキチオール、(銀/銅)ゼオライト、グルタラール、クロラミンT、クロルヘキシジン、イセチオン酸ジブロモプロパミジン、ジンクピリチオン、ピロクトンオラミン、ピリチオンナトリウム、5-ブロモ-5-ニトロ-1,4-ジオキサン、ポリアミノプロピルビグアニド等が挙げられる。
【0036】
前記界面活性剤としては、例えば、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
前記カチオン界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩(例えば、塩化ベンザルコニウム、ステアルトリモニウムクロリド、セトリモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、ラウリルトリモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムクロリドなど)、ココイルアルギニンエチルPCA等が挙げられる。
前記アニオン界面活性剤としては、例えば、スルホン酸系アニオン界面活性剤(例えば、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、アシルイセチオン酸塩、アルキルグリシジルエーテルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N-アシルメチルタウリン塩など)、硫酸系アニオン界面活性剤(例えば、アルキル硫酸塩(ラウリル硫酸ナトリウムなど)、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸塩など)、リン酸系アニオン界面活性剤(例えば、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルアリールエーテルリン酸塩、脂肪酸アミドエーテルリン酸塩など)等が挙げられる。
【0037】
キレート剤としては、例えば、エデト酸、エデト酸塩(エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸二カリウムなど)、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸塩(ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムなど)、エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸、エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸塩(エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸三ナトリウムなど)、ヒドロキシエタンジホスホン酸、ヒドロキシエタンジホスホン酸塩(ヒドロキシエタンジホスホン酸四ナトリウムなど)等が挙げられる。
【0038】
多価アルコールとしては、例えば、2価又は3価のアルコールが挙げられる(2価又は3価のアルコールの炭素数は、例えば2~12である)。
前記2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-アルカンジオール等が挙げられる。
前記3価のアルコールとしては、例えば、グリセリン等が挙げられる。
【0039】
頭皮毛髪化粧料における抗菌剤の配合量は、適宜設定すればよく、細菌数の増加の抑制に有利であることから、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、抗菌剤の配合量は、皮膚刺激を抑える観点から、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。なお、上記評価方法により頭皮細菌叢における細菌数が多いと評価された被評価者ほど、抗菌剤の頭皮毛髪化粧料における配合量が多くなるように配合量を定めてもよい。
【0040】
頭皮毛髪化粧料における抗菌剤として防腐剤を用いる場合、防腐剤の配合量は、適宜設定すればよく、細菌数の増加の抑制により有利であることから、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、防腐剤の配合量は、皮膚刺激を抑える観点から、2質量%以下であると好ましい。
【0041】
頭皮毛髪化粧料における抗菌剤として界面活性剤を用いる場合、界面活性剤の配合量は、適宜設定すればよく、細菌数の増加の抑制により有利であることから、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、界面活性剤の配合量は、皮膚刺激を抑える観点から、20質量%以下であると好ましい。
【0042】
頭皮毛髪化粧料における抗菌剤としてキレート剤を用いる場合、キレート剤の配合量は、適宜設定すればよく、細菌数の増加の抑制に有利であることから、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、キレート剤の配合量は、例えば、1質量%以下である。
【0043】
頭皮毛髪化粧料における抗菌剤として多価アルコールを用いる場合、多価アルコールの配合量は、適宜設定すればよく、細菌数の増加の抑制に有利であることから、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、多価アルコールの配合量は、例えば、50質量%以下である。
【0044】
なお、上述した頭皮毛髪化粧料の種類としては、例えば、シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント(例えば、洗い流さないトリートメント、洗い流すトリートメント、整髪兼用トリートメント、多剤式トリートメントの一構成剤、パーマの前処理のためのトリートメント、パーマの後処理のためのトリートメント、カラーリングの前処理のためのトリートメント、カラーリングの後処理のためのトリートメント、ブリーチの前処理のためのトリートメント、ブリーチの後処理のためのトリートメント)、整髪剤、育毛剤等が挙げられる。
このような頭皮毛髪化粧料の剤型は、例えば、液状、クリーム状、ゲル状、フォーム状(泡状)、霧状が挙げられる。
【0045】
上記頭皮毛髪化粧料には、上述した抗菌剤に該当する成分以外に、頭皮毛髪化粧料に用いられる成分として、例えば、高級アルコール、低級アルコール、糖類、エステル油、油脂、脂肪酸、炭化水素、ロウ、シリコーン、高分子化合物、アミノ酸、動物抽出物、植物抽出物、微生物由来物、無機化合物、香料、紫外線吸収剤などを配合することができる。
【0046】
上記頭皮毛髪化粧料は、頭皮毛髪化粧料の公知の製造方法を用いて製造することができる。
また、上記頭皮毛髪化粧料は、頭皮毛髪化粧料の公知の使用方法を用いることができる。
【0047】
(4)頭皮臭抑制成分のスクリーニング方法
頭皮臭抑制成分のスクリーニング方法は、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を指標としてスクリーニングを行う方法である。このスクリーニング方法によれば、頭皮細菌叢における細菌数を減少させることが可能な成分を、頭皮臭の抑制に有利な成分として選定することが可能となる。また、頭皮細菌叢における細菌数を増加させてしまう成分を、頭皮臭の抑制に不利な成分として把握することが可能となる。
なお、頭皮臭、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報については、上記第1実施形態と同様である。
このスクリーニング方法において指標として用いる頭皮細菌叢における細菌数に関する情報は、頭皮臭との相関の強い指標であることが好ましい。例えば、汗様の臭気の抑制に有利な成分を選定する場合には、汗様の臭気との相関の強い指標を用いることが好ましく、頭皮臭の総合不快度の抑制に有利な成分を選定する場合には、頭皮臭の総合不快度との相関の強い指標を用いることが好ましい。
【0048】
このスクリーニング方法としては、例えば、次に示す(4-1)第3実施形態のスクリーニング方法又は(4-2)第4実施形態のスクリーニング方法から選ばれるものを採用しても良い。
【0049】
(4-1)第3実施形態のスクリーニング方法
第3実施形態のスクリーニング方法は、例えば、少なくとも1回、頭皮臭抑制成分の候補物質を用いて被評価者の頭皮及び/又は毛髪を処理する工程と、頭皮及び/又は毛髪を処理する工程の前後の被評価者の頭皮細菌叢における細菌数を比較する工程と、を備えるものである。なお、ここでの頭皮及び/又は毛髪を処理する回数としては、1回に限られず、例えば、30回、90回等の所定回数とすることができる。
ここで、頭皮臭抑制成分の候補物質は、頭皮毛髪化粧料に配合可能な公知の成分であってもよい。なお、頭皮及び/又は毛髪に処理する方法は、通常行いうる適宜の方法で行えばよい。
【0050】
上記候補物質を用いた頭皮及び/又は毛髪の処理を行うことで、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数の増加を抑制させることができるものがあれば、頭皮臭を抑制させる効果を得るのに有利な有効成分として候補物質を選定することができる。なお、同一の指標において頭皮細菌叢における細菌数の増加を抑制させる度合いが強いものほど、上記効果を十分に得られる成分として選定することができる。
また、上記候補物質を用いた頭皮及び/又は毛髪の処理を行うことで、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数の増加を促進させてしまうものがあれば、頭皮毛髪化粧料における配合を控える成分として把握することができる。なお、頭皮細菌叢における細菌数の増加を促進させてしまう度合いが強いものほど、頭皮毛髪化粧料における配合量を抑えるようにしてもよい。
【0051】
(4-2)第4実施形態のスクリーニング方法
第4実施形態のスクリーニング方法としては、例えば、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を指標として、当該情報から頭皮臭と相関のある細菌(以下、「頭皮臭相関細菌」と表記することがある)を選定する工程と、選定した頭皮臭相関細菌を適宜の条件で培養する工程と、培養された当該頭皮臭相関細菌が所定の細菌数で含まれる細菌培養液を複数調製する工程と、前記細胞培養液に頭皮臭抑制成分の候補物質を所定量添加したもの又は添加しないものをそれぞれ調製して所定条件で培養する工程と、培養後に候補物質を添加した細菌培養液又は未添加の細菌培養液における頭皮臭相関細菌の細菌数を比較する工程と、を備えるものである。
【0052】
上記頭皮臭相関細菌は、被評価者の頭皮細菌叢における細菌数に関する情報のうち、上記「(1)評価方法」に記載された評価方法により得られた評価結果に基づいて頭皮臭と細菌数との相関が認められた細菌数における対象細菌を用いればよい。頭皮臭相関細菌としては、例えば、アクネ菌、コリネバクテリウム属の細菌、及び表皮ブドウ球菌の群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
ここで、選定した頭皮臭相関細菌は、頭皮細菌叢から公知の方法により単離・培養して得られるものを用いても良く、市販品として入手可能なものを用いてもよい。
頭皮臭相関細菌の培養は、細菌の種類に応じた公知の方法により培養することができる。
頭皮臭相関細菌が所定の細菌数で含まれる細菌培養液の調製は、公知の方法により行えばよく、例えば、予め公知の方法で頭皮臭相関細菌を培養した培養液の細菌数を濁度測定により測定し、細菌数の測定結果から頭皮臭相関細菌が所定の細菌数となるように当該培養液を細菌培養液で希釈するか又は細菌培養液に添加することにより調製することができる。濁度測定は、適宜の機器(例えば、マイクロプレートリーダー(測定波長:600nm)など)を用いて測定可能である。
なお、頭皮臭抑制成分の候補物質は、頭皮毛髪化粧料に配合可能な公知の成分であってもよい。
また、細菌培養液における頭皮臭相関細菌の細菌数の比較は、例えば、培養液を適宜の機器により濁度測定することにより細菌数を測定して、候補物質を添加又は未添加の細菌培養液における各細菌数を比較して評価することができる。
【0053】
第4実施形態のスクリーニング方法において、選定した頭皮臭と相関のある細菌の細菌数の増加を抑制させることができるものがあれば、頭皮臭を抑制させる効果を得るのに有利な有効成分として候補物質を選定することができる。なお、同一の指標において選定した頭皮臭と相関のある細菌の細菌数の増加を抑制させる度合いが強いものほど、上記効果を十分に得られる成分として選定することができる。
また、第4実施形態のスクリーニング方法において、選定した頭皮臭と相関のある細菌の細菌数の増加を促進させてしまうものがあれば、頭皮毛髪化粧料における配合を控える成分として把握することができる。なお、頭皮臭と相関のある細菌の増加を促進させてしまう度合いが強いものほど、頭皮毛髪化粧料における配合量を抑えるようにしてもよい。
【0054】
(5)頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料の製造方法
頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料の製造方法は、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を指標とする頭皮臭抑制成分のスクリーニング方法により、頭皮臭抑制成分をスクリーニングする第1工程と、第1工程で得られるスクリーニング結果に基づいて頭皮臭抑制成分を選定する第2工程と、第2工程で選定された頭皮臭抑制成分が配合された頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料を製造する第3工程と、を備える。この製造方法によれば、頭皮臭を抑制可能な頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料を得ることができる。
【0055】
第1工程は、上述の「(4-1)第3実施形態のスクリーニング方法」又は「(4-2)第4実施形態のスクリーニング方法」に記載のスクリーニング方法と同様の工程である。また、第2工程は、上述の「(4-1)第3実施形態のスクリーニング方法」又は「(4-2)第4実施形態のスクリーニング方法」に記載の選定と同様の工程である。第3工程では、第2工程で選定された頭皮臭抑制成分が配合された頭皮毛髪化粧料又は頭皮毛髪化粧料用原料を製造する。
頭皮臭抑制成分が配合された頭皮毛髪化粧料の製造方法及び使用方法としては、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載の頭皮毛髪化粧料と同様のものとすることができる。
頭皮毛髪化粧料用原料は、頭皮毛髪化粧料を製造するために用いられるものである。
頭皮臭抑制成分が配合された頭皮毛髪化粧料用原料は、頭皮臭抑制成分のみが配合されたものであってもよく、頭皮臭抑制成分に加えてその他の頭皮毛髪化粧料の原料に用いられる公知の他の成分(例えば、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載のもの)が配合されたものであってもよい。頭皮臭抑制成分が配合された頭皮毛髪化粧料用原料を用いて、公知の製造方法を用いれば、頭皮毛髪化粧料を製造することができる。
なお、製造される頭皮毛髪化粧料の種類、剤型、及び使用方法としては、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載のものと同様のものとすることができる。
【0056】
なお、第2工程で選定される頭皮臭抑制成分は、抗菌剤であることが好ましい。抗菌剤としては、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載の種類を用いることができる。また、抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料を製造する際には、頭皮毛髪化粧料における抗菌剤の配合量を、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載の範囲とすることが好ましい。
【0057】
(6)頭皮臭抑制方法
頭皮臭抑制方法は、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報を指標とする頭皮臭抑制成分のスクリーニング方法によるスクリーニング結果に基づいて選定される頭皮臭抑制成分を頭皮に作用させる。この頭皮臭抑制方法によれば、頭皮臭を抑制することが可能になる。
なお、頭皮臭、頭皮細菌叢における細菌数に関する情報については、上記第1実施形態と同様である。
また、頭皮臭抑制成分のスクリーニング方法は、上述の「(4-1)第3実施形態のスクリーニング方法」又は「(4-2)第4実施形態のスクリーニング方法」に記載のスクリーニング方法を用いることができる。
頭皮臭抑制成分を用いて頭皮臭を抑制させる方法は、特に限定されず、例えば、頭皮臭抑制成分が配合された頭皮毛髪処理剤を用いて頭皮又は毛髪を処理することによって行ってもよい。
【0058】
なお、選定される頭皮臭抑制成分は、抗菌剤であることが好ましい。抗菌剤としては、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載の種類を用いることができる。また、抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料を用いて頭皮又は毛髪を処理する場合には、頭皮毛髪化粧料における抗菌剤の配合量を、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載の範囲とすることが好ましい。
【0059】
(7)頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料
頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料は、頭皮細菌叢における細菌数の増加を抑制させる成分が配合されたものである。この頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料によれば、頭皮臭を抑制することが可能になる。
なお、頭皮臭、頭皮細菌叢における細菌数については、上記第1実施形態と同様である。
また、頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料の種類、剤型、製造方法、及び、使用方法としては、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載の頭皮毛髪化粧料と同様のものとすることができる。
【0060】
頭皮細菌叢における細菌数の増加を抑制させる成分は、抗菌剤であることが好ましい。抗菌剤としては、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載の種類を用いることができる。また、頭皮臭抑制用頭皮毛髪化粧料における抗菌剤の配合量は、上記「(3)頭皮毛髪化粧料の選定方法」に記載の範囲とすることが好ましい。
【実施例0061】
(頭皮細菌叢における細菌数と頭皮臭の相関について)
ヘルシンキ宣言に則り、倫理委員会の承認を得た同意書に同意した20歳から79歳までの276名の被験者(モンゴロイドに分類される日本人女性)を対象とし、一定の面積にした医療用粘着テープを頭皮のトップ領域における分け目とつむじの周囲以外の頭皮に押し当てることで、頭皮から頭皮細菌叢を採取した。
【0062】
採取した各頭皮細菌叢の試料について、次の[1]~[3]に示す手順に従い、各々の細菌ごとのコピー数(DNA量)を測定することで、その細菌の絶対数を確認した。
[1]医療用粘着テープから採取した頭皮細菌叢を完全に溶解させて、細菌DNAの精製を行った。
[2]精製したDNA量を確認するため、定量PCR法を使用した。
[3]アクネ菌、コリネバクテリウム属の細菌、表皮ブドウ球菌のそれぞれについて、特定の塩基配列にのみ適合するプライマーを設計・使用して、そのDNAコピー数を算出した。この際、細菌のDNAコピー数の絶対量を確認するため、同時にスタンダードの絶対数も確認し、その数値と比較して算出を行った。算出された各細菌のコピー数を各被験者が一定面積に保有する細菌量とした。
【0063】
さらに、上記被験者それぞれについて、毛髪及び頭皮の状態の評価を日常的に行う5人の専任評価者により、頭皮臭の程度の評価(官能評価)を行った。
頭皮臭の評価としては、頭皮臭のうちの汗様の臭気の評価としてSWEATYスコアを用いた評価と、頭皮臭の総合不快度の評価として頭皮総合不快度スコアを用いた評価と、をそれぞれ行った。
【0064】
汗様の臭気の評価では、SWEATYスコアとして、ほぼ感じない場合をスコア「0」、わずかに感じる場合をスコア「1」、少し感じる場合をスコア「2」、感じる場合をスコア「3」、かなり強く感じる場合をスコア「4」、非常に強く感じる場合をスコア「5」とし、6段階で点数化して評価を行った。
また、総合不快度の評価では、頭皮総合不快度スコアとして、ほぼ不快な臭いを感じない場合をスコア「0」、わずかに不快な臭いを感じる場合をスコア「1」、少し不快な臭いを感じる場合をスコア「2」、不快な臭いを感じる場合をスコア「3」、不快な臭いをかなり強く感じる場合をスコア「4」、不快な臭いを非常に強く感じる場合をスコア「5」とし、6段階で点数化して評価を行った。各被験者の各スコアは、5人の専任評価者によるスコアの平均値を用いた。
【0065】
次に、細菌数と頭皮臭の関係を調べるため、SWEATYスコアについては、276名の被験者のうちの上位25%(スコア高)及び下位25%(スコア低)の被験者のデータを用い、頭皮総合不快度スコアについても、276名の被験者のうちの上位25%(スコア高)及び下位25%(スコア低)の被験者のデータを用いた。
なお、SWEATYスコアにおける上位25%(スコア高)の平均スコアは0.26、下位25%(スコア低)の平均スコアは2.00であった。また、頭皮総合不快度スコアにおける上位25%(スコア高)の平均スコアは0.69、下位25%(スコア低)の平均スコアは2.56であった。
【0066】
以上の各被験者の頭皮細菌叢の情報とSWEATYスコアについて、R(統計解析ソフトウェア)を用いて、偏相関による重回帰分析を行った。同様に、各被験者の頭皮細菌叢の情報と頭皮総合不快度スコアについて、R(統計解析ソフトウェア)を用いて、偏相関による重回帰分析を行った。
頭皮細菌叢の情報としては、総細菌数、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+C+E)、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+E)、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数(A+C)、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(C+E)、アクネ菌の細菌数(A)、コリネバクテリウム属の細菌数(C)、表皮ブドウ球菌の細菌数(E)について、それぞれ分析を行った。
【0067】
SWEATYスコアに対する各細菌数の箱ひげ図を
図1~8に示し、頭皮総合不快度スコアに対する各細菌数の箱ひげ図を
図9~16に示す。なお、
図1~16において、横軸の数字は各細菌数を示し、箱はスコア低又はスコア高における1/4以上3/4以下の範囲を示しており、箱中の太線はスコア低又はスコア高における平均値を示し、箱の上下の線の間にはそれぞれデータの95%が存在することを示している。
なお、結果により求められたp値(p-value)は、0.05を下回れば有意差があり、細菌数と頭皮臭には正の相関があるものとした。なお、各図では、p値<0.05の場合を「*」、p値<0.01の場合を「**」、p値<0.001の場合を「***」として、それぞれ示している。また、グラフ内の数字はスコア低又はスコア高における細菌数の平均値を示している。
【0068】
頭皮細菌叢は、一般に、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌で全体の90%近く占めるという特徴がある。このような頭皮細菌叢における頭皮臭との関係は従来なんら明らかにされていなかった。これに対して、上記分析によれば、
図1~16に示すように、頭皮細菌叢における、総細菌数、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+C+E)、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+E)、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数(A+C)、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(C+E)、アクネ菌の細菌数(A)、コリネバクテリウム属の細菌数(C)、表皮ブドウ球菌の細菌数(E)は、いずれも、頭皮臭の一例としてのSWEATYスコアや頭皮総合不快度スコアとの相関が見られることが明らかになった。
【0069】
特に、SWEATYスコアについては、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(C+E)、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+C+E)、総細菌数、コリネバクテリウム属の細菌数(C)、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数(A+C)、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+E)、表皮ブドウ球菌の細菌数(E)、アクネ菌の細菌数(A)の順で強い相関を示すことが確認された。
また、頭皮総合不快度スコアについては、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(C+E)、表皮ブドウ球菌の細菌数(E)、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+C+E)、総細菌数、アクネ菌と表皮ブドウ球菌の合計の細菌数(A+E)、コリネバクテリウム属の細菌数(C)、アクネ菌とコリネバクテリウム属の細菌の合計の細菌数(A+C)、アクネ菌の細菌数(A)の順で強い相関を示すことが確認された。
【0070】
(頭皮細菌叢における細菌数の増加を抑制させる成分のスクリーニングについて)
上記「頭皮細菌叢における細菌数と頭皮臭との相関について」で頭皮臭と細菌数との相関が認められた頭皮細菌叢における細菌として、アクネ菌、コリネバクテリウム属の細菌、表皮ブドウ球菌の細菌数の増加を抑制させることが可能な成分を調べるため、候補成分として、メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液、L-グルタミン、ソルビトール、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸、1,3-ブチレングリコール、塩化ベンザルコニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、EDTA-2Naを用いて、以下の方法によりスクリーニングを行った。
【0071】
実験で使用した細菌は、独立行政法人製品評価技術基盤機構から分与されたアクネ菌(Cutibacterium acnes,NBRC 107605)、コリネバクテリウム属の細菌(Corynebacterium sp.,NBRC 12150)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis,NBRC 12993)を使用した。アクネ菌はGAM培地(日水製薬)を用い、コリネバクテリウム属の細菌と表皮ブドウ球菌はブレインハートインフュージョン培地(日本BD)を用いて培養した。
各々の細菌の-80℃冷凍ストックを3mlの液体培地で培養した。培養条件については、アクネ菌は嫌気条件下で37℃、24時間培養し、コリネバクテリウム属の細菌及び表皮ブドウ球菌は好気条件下で30℃、24時間培養した。培養後、培養液を25℃、3500×g、10分にて遠心分離を行い、それらをリン酸緩衝溶液(富士フイルム和光純薬)1mlで再懸濁し、その濁度をCORONA ELECTRIC社製「CORONA GRATING MICROPLATE READER SH-9000」を用いて測定した(測定に用いた光の波長は600nm)。各細菌の培養液を用いて、特定の成分を任意の濃度で希釈した成分入り培地及びコントロールとして成分を添加しない培地を作成し、0.2μmシリンジフィルターにて滅菌した。ここで、メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液としてローム・アンド・ハース・ジャパン社製「ケーソンCG(商品名)」を0.1wt%の濃度で用い、L-グルタミン、ソルビトール、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸の各濃度は1wt%、1,3-ブチレングリコールの濃度は10wt%、塩化ベンザルコニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、EDTA-2Naの各濃度は0.5wt%とした。成分入り培養液又は成分未添加の培養液に各細菌の濁度が0.2になるように細菌懸濁液を調整して混合し、開始時点の濁度を確認し、そこから1時間ごとに濁度変化を検出しながら24時間培養を行った(濁度測定の機器は上記同様であり、測定波長は600nm)。24時間後、濁度変化から成分未添加の培養液で増殖停滞が起こる時点を確認し、その時間における成分入り培養液の濁度を細菌増殖の増減変化として捉えた。濁度の値は3回同じ条件で行ったものの平均を使用した。
【0072】
アクネ菌について各候補成分による濁度の変化を
図17、
図18に、コリネバクテリウム属の細菌について各候補成分による濁度の変化を
図19、
図20に、表皮ブドウ球菌について各候補成分による濁度の変化を
図21、
図22に、それぞれ示す。なお、
図17-
図22の縦軸は、波長は600nmの光を用いて測定された濁度を示している。
以上の結果によれば、メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液、界面活性剤である塩化ベンザルコニウムとラウリル硫酸ナトリウム、及び、キレート剤であるEDTA-2Naは、いずれも、アクネ菌、コリネバクテリウム属の細菌、及び、表皮ブドウ球菌の増殖の抑制に優れることが確認された。また、多価アルコールである1,3-ブチレングリコールは、コリネバクテリウム属の細菌、及び、表皮ブドウ球菌の増殖の抑制に優れることが確認された。なお、L-グルタミンでは、アクネ菌及びコリネバクテリウム属の細菌の増殖が抑制されるが、表皮ブドウ球菌の増殖は抑制できないことが確認された。また、ソルビトールは、コリネバクテリウム属の細菌及び表皮ブドウ球菌の増殖を抑制できず、アクネ菌については増殖を促進してしまうことが確認された。また、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸は、アクネ菌、コリネバクテリウム属の細菌、及び、表皮ブドウ球菌のいずれについても増殖を抑制できないことが確認された。
【0073】
以上によれば、例えば、塩化ベンザルコニウムとラウリル硫酸ナトリウムを比較すると、アクネ菌についてはラウリル硫酸ナトリウムの方が増殖抑制効果に優れるが、コリネバクテリウム属の細菌及び表皮ブドウ球菌については塩化ベンザルコニウムの方が増殖抑制効果に優れている。ここで、SWEATYスコアと頭皮総合不快度スコアについては、いずれも、アクネ菌の細菌数よりも、コリネバクテリウム属の細菌数や表皮ブドウ球菌の細菌数の方が相関が強いため、SWEATYスコアや頭皮総合不快度スコアを小さく抑えて頭皮臭を抑制するには、塩化ベンザルコニウムの方が優れることが分かる。