(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102469
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】染色システム
(51)【国際特許分類】
D06P 3/00 20060101AFI20220630BHJP
D06P 5/24 20060101ALI20220630BHJP
G02B 1/10 20150101ALI20220630BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
D06P3/00 A
D06P5/24
G02B1/10
G02C7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217208
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 功児
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 稔
(72)【発明者】
【氏名】柴田 良二
(72)【発明者】
【氏名】田中 基司
【テーマコード(参考)】
2H006
2K009
4H157
【Fターム(参考)】
2H006BA06
2K009EE01
4H157AA02
4H157AA03
4H157BA12
4H157DA01
4H157DA45
4H157FA23
4H157FA24
4H157GA05
(57)【要約】
【課題】染色された樹脂体の色情報を安定して計測することが可能な染色システムを提供する。
【解決手段】染色システムは、染料定着装置、色情報計測器61、および温度低下部90を備える。染料定着装置は、染料が付着した樹脂体を加熱することで、樹脂体に染料を定着させる。色情報計測器61は、染料定着装置によって染料が定着された樹脂体の色情報を計測する。温度低下部90は、色情報計測器61による色情報の計測が行われる前に、染料定着装置によって加熱された樹脂体の温度を低下させる。温度に応じて生じ得る樹脂体の変色の影響が、温度低下部90によって抑制された状態で、色情報計測器61が樹脂体の色情報を計測する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂体を染色する染色システムであって、
染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着装置と、
前記染料が定着された前記樹脂体の色情報を計測する色情報計測器と、
前記色情報計測器による色情報の計測が行われる前に、前記染料定着装置によって加熱された前記樹脂体の温度を低下させることで、温度に応じて生じ得る前記樹脂体の変色の影響を抑制する温度低下部と、
を備え、
前記色情報計測器は、温度に応じて生じ得る前記樹脂体の変色の影響が、前記温度低下部によって抑制された状態で、前記樹脂体の色情報を計測することを特徴とする染色システム。
【請求項2】
請求項1に記載の染色システムであって、
前記温度低下部は、前記染料定着装置によって加熱された前記樹脂体を、前記色情報計測器による計測位置に向けて搬送する間に、前記樹脂体の温度を低下させることで、温度に応じて生じ得る前記樹脂体の変色の影響を抑制する搬送部を備えたことを特徴とする染色システム。
【請求項3】
請求項2に記載の染色システムであって、
前記搬送部は、前記樹脂体の搬送経路上で前記樹脂体を待機させて、前記樹脂体の温度を低下させることで、温度に応じて生じ得る前記樹脂体の変色の影響を抑制することを特徴とする染色システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の染色システムであって、
前記染料定着装置によって前記染料が定着された前記樹脂体の温度を測定する温度測定部をさらに備え、
前記染色システムの制御部は、
前記温度測定部によって測定された前記樹脂体の温度が、計測基準温度以下に低下した状態の、前記色情報計測器による前記樹脂体の色情報の計測結果を取得することを特徴とする染色システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の染色システムであって、
前記温度低下部は、
自然冷却による温度低下量よりも大きい温度低下量で前記樹脂体の温度を低下させる強制冷却部をさらに備えたことを特徴とする染色システム。
【請求項6】
請求項5に記載の染色システムであって、
前記染料定着装置によって前記染料が定着された前記樹脂体の温度を測定する温度測定部をさらに備え、
前記染色システムの制御部は、
前記温度測定部によって測定された前記樹脂体の温度が、強制冷却基準温度以下に低下した状態で、前記強制冷却部による前記樹脂体の冷却を実行することを特徴とする染色システム。
【請求項7】
)
請求項1から6のいずれかに記載の染色システムであって、
前記色情報計測器による計測位置に配置された前記樹脂体の周囲を覆うことで、前記樹脂体への外乱光の到達を抑制する外乱光遮断部をさらに備えたことを特徴とする染色システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂体を染色する染色システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズ等の樹脂体を染色するための種々の技術が提案されている。例えば、浸染法と言われる染色方法では、樹脂体を染色液の中に浸漬することで樹脂体が染色される。しかし、浸染法では、作業環境を良好にすることが難しく、また、一部の樹脂体(例えば高屈折率のレンズ等)を染色するのが困難である。
【0003】
そこで、染料を樹脂体の表面に転写し、染料が付着した樹脂体を加熱することで樹脂体を染色する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載の染色方法では、昇華性の染料が、インクジェットプリンタによって基体に塗布(印刷)される。次いで、真空中で樹脂体と基体が非接触で配置された状態で、基体に塗布された昇華性の染料が昇華されることで、染料が樹脂体に転写される。次いで、レーザ光が樹脂体に対して走査されることで、樹脂体が加熱されて染料が定着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転写染色の品質の確認、または品質の向上を目的として、実際に染色された樹脂体の色情報を、色情報計測器によって計測することも考えられる。ここで、本願発明の発明者は、加熱されて染料が定着した樹脂体の状態に応じて、色情報計測器による樹脂体の色情報の計測結果が不安定となり得ることを新たに見出した。樹脂体の色情報を安定して計測することができなければ、計測された色情報を十分に活用することは困難である。
【0006】
本開示の典型的な目的は、染色された樹脂体の色情報を安定して計測することが可能な染色システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における典型的な実施形態が提供する染色システムは、樹脂体を染色する染色システムであって、染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着装置と、前記染料が定着された前記樹脂体の色情報を計測する色情報計測器と、前記色情報計測器による色情報の計測が行われる前に、前記染料定着装置によって加熱された前記樹脂体の温度を低下させることで、温度に応じて生じ得る前記樹脂体の変色の影響を抑制する温度低下部と、を備え、前記色情報計測器は、温度に応じて生じ得る前記樹脂体の変色の影響が、前記温度低下部によって抑制された状態で、前記樹脂体の色情報を計測する。
【0008】
本開示に係る染色システムによると、染色された樹脂体の色情報が安定して計測される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】染色システム1のシステム構成を示すブロック図である。
【
図2】2つのレンズLが設置された状態の染色用トレイ80を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図4】染色システム1が実行する測色制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
本開示で例示する染色システムは、染料定着装置、色情報計測器、および温度低下部を備える。染料定着装置は、染料が付着した樹脂体を加熱することで、樹脂体に染料を定着させる。色情報計測器は、染料が定着された樹脂体の色情報を計測する。温度低下部は、色情報計測器による色情報の計測が行われる前に、染料定着装置によって加熱された樹脂体の温度を低下させることで、温度に応じて生じ得る樹脂体の変色の影響を抑制する。色情報計測器は、温度に応じて生じ得る樹脂体の変色の影響が、温度低下部によって抑制された状態で、樹脂体の色情報を計測する。
【0011】
本願発明の発明者が得た知見によると、樹脂体の温度に応じて、樹脂体の基材に変色(例えば黄変等)が生じる場合がある。また、染色された樹脂体の温度に応じて、樹脂体に定着した染料自体に変色が生じる場合もある。これに対し、本開示の染色システムは、色情報計測器による色情報の計測が行われる前に、染料定着装置によって加熱された樹脂体の温度を温度低下部によって低下させる。その結果、温度に応じて生じ得る樹脂体および染料の変色の影響が抑制された状態で、温度低下部によって樹脂体の色情報が計測される。よって、染色された樹脂体の色情報が安定して計測される。
【0012】
温度低下部は、樹脂体の色情報が色情報計測器によって安定して計測される計測基準温度以下まで、樹脂体の温度を低下させてもよい。この場合、温度に応じて生じ得る変色の影響が、より適切に抑制される。なお、計測基準温度は、例えば、樹脂体の基材の種類、および染料の種類の少なくともいずれかに応じて適宜設定されればよい。一例として、計測基準温度を80℃以下に設定すれば、樹脂体および染料の変色の影響は抑制され易い。また、計測基準温度を60℃以下に設定することで、樹脂体の基材の種類等に関わらず、変色の影響はさらに抑制され易くなる。さらに、計測基準温度を50℃以下とすることで、温度による変色の影響がより適切に抑制される。
【0013】
染色システムの制御部は、樹脂体の基材の種類、および染料の種類の少なくともいずれかに応じて、計測基準温度を変更してもよい。この場合、より適切な計測基準温度が設定される。一例として、染色システムは、染色される樹脂体に関する情報を読み取る読取部(例えば、識別子読取部等)を備えていてもよい。制御部は、読取部による読取結果に応じて、染色される樹脂体の単位ごとに計測基準温度を設定してもよい。
【0014】
また、温度低下部は、染料定着装置による染料の定着工程が完了した以後、樹脂体の色情報が色情報計測器によって安定して計測される可能性が高くなる所要時間が経過するまで、樹脂体の冷却(自然冷却および強制冷却の少なくともいずれか)を実行してもよい。つまり、温度低下部の構成および動作等は、樹脂体の温度を基準として決定されてもよいし、染料の定着工程が完了した以後の経過時間を基準として決定されてもよい。
【0015】
温度低下部は、搬送部を備えていてもよい。搬送部は、染料定着装置によって加熱された樹脂体を、色情報計測器による計測位置に向けて搬送する間に、樹脂体の温度を低下させることで、温度に応じて生じ得る樹脂体の変色の影響を抑制する。この場合、染料定着装置によって染料が定着された樹脂体が、色情報の計測位置に向けて自動的に搬送される。さらに、加熱された樹脂体の温度が自然冷却される時間が、搬送中に適切に確保される。従って、例えば、樹脂体を色情報の計測位置に移動させる作業、および、樹脂体の温度を低下させるための作業等を作業者が行わなくても、樹脂体が適切に搬送され、且つ、色情報が適切に計測される。なお、樹脂体が自然冷却される場合には、樹脂体の各部位に発生する温度差によって基材の破損等が生じる可能性も低下する。よって、温度に応じて生じ得る樹脂体の変色の影響が、より適切に温度低下部によって抑制された状態で、樹脂体の色情報が色情報計測器によって計測される。
【0016】
搬送部は、樹脂体の搬送経路上で樹脂体を待機させて、樹脂体の温度を低下させることで、温度に応じて生じ得る樹脂体の変色の影響を抑制してもよい。この場合、搬送部による搬送中に、樹脂体の温度が低下するための時間(つまり、樹脂体が自然冷却される時間)が適切に確保される。樹脂体の温度を低下させるために、搬送部による樹脂体の搬送経路を敢えて長く設計する必要もない。また、樹脂体が自然冷却される場合には、樹脂体の各部位の温度差によって基材の破損等が生じる可能性も低い。従って、樹脂体の搬送と温度低下が、共に効率良く行われる。その結果、温度に応じて生じ得る樹脂体の変色の影響が適切に抑制された状態で、樹脂体の色情報が計測される。
【0017】
搬送部が搬送経路上で樹脂体を待機させる方法は、適宜選択できる。例えば、搬送部は、染料定着装置によって順次加熱される複数の樹脂体を積み重ねていくスタック部を備えていてもよい。この場合、スタック部によって複数の樹脂体が積み重ねられて待機されている間に、染料定着装置によって加熱された樹脂体の温度は適切に低下する。複数の樹脂体を待機させるための面積が大きくなることも抑制される。
【0018】
ただし、搬送経路上で樹脂体を待機させる方法を変更することも可能である。例えば、搬送部は、染料が定着された複数の樹脂体を、積み重ねずに水平方向に並べた状態で待機させてもよい。この場合でも、樹脂体の温度は、待機中に適切に低下する。また、搬送部は、搬送経路上で樹脂体を待機させることなく、樹脂体を搬送させながら温度を低下させることも可能である。この場合、樹脂体の温度が低下するために必要な時間が搬送中に確保されるように、樹脂体の搬送経路の長さ、および搬送速度の少なくともいずれかが設定されてもよい。また、温度低下部は、搬送部によって樹脂体の温度を低下させずに、他の方法(例えば、後述する冷却部を用いる方法)によって樹脂体の温度を低下させてもよい。
【0019】
染色システムは、染料定着装置によって染料が定着された樹脂体の温度を測定する温度測定部をさらに備えていてもよい。染色システムの制御部は、温度測定部によって測定された樹脂体の温度が計測基準温度以下に低下した状態の、色情報計測器による樹脂体の色情報の計測結果を取得してもよい。この場合、温度による変色の影響を受けた色情報が利用される可能性が、適切に低下する。
【0020】
なお、制御部は、樹脂体の温度が計測基準温度以下に低下した以後に、色情報計測器による色情報の計測を実行してもよい。詳細には、染色システムが搬送部を備える場合には、制御部は、樹脂体の温度が計測基準温度以下に低下した以後に、樹脂体を搬送部によって色情報計測器による計測位置に搬送し、色情報を計測させてもよい。また、制御部は、色情報計測器による計測位置で、樹脂体の温度が計測基準温度以下となるまで待機させ、温度が計測基準温度以下となった場合に色情報を計測させてもよい。また、制御部は、樹脂体の温度が計測基準温度以下となったか否かに関わらず、色情報計測器に樹脂体の色情報を計測させてもよい。この場合、制御部は、樹脂体の温度が計測基準温度以下となった以後に計測された色情報を、各種処理に利用すればよい。
【0021】
温度低下部は、自然冷却による温度低下量よりも大きい温度低下量で樹脂体の温度を低下させる強制冷却部をさらに備えてもよい。この場合、染料定着装置による染料の定着工程が終了した以後、色情報計測器による色情報の計測結果が取得されるまでに要する時間が、強制冷却部によって短縮される。よって、樹脂体の染色工程に要する時間が適切に短縮される。
【0022】
なお、温度低下量とは、染料定着装置によって加熱された樹脂体の温度が、単位時間あたりに低下する量を示す。自然冷却による温度低下量とは、加熱された樹脂体を、染色システムの設置環境下で単に待機または搬送させている間の、樹脂体の温度低下量を示す。
【0023】
強制冷却部の具体的な構成は、適宜選択できる。例えば、樹脂体に気体(例えば空気等)を送風する冷却ファンが、強制冷却部として使用されてもよい。また、冷蔵庫およびペルチェ素子等の少なくともいずれかが、強制冷却部として使用されてもよい。また、染色システムの温度低下部は、強制冷却部を備えずに、自然冷却のみによって樹脂体の温度を低下させることも可能である。
【0024】
染色システムは、樹脂体の温度を測定する温度測定部を備えていてもよい。染色システムの制御部は、温度測定部によって測定された樹脂体の温度が、強制冷却基準温度以下に低下した状態で、強制冷却部による樹脂体の冷却を実行してもよい。樹脂体の温度が非常に高い状態で、強制冷却部によって樹脂体の温度を急速に低下させると、樹脂体内の各部位の温度差(例えば、樹脂体の表面と内部の温度差)が大きくなる結果、樹脂体に変形または破損等が生じる可能性がある。これに対し、樹脂体の温度が強制冷却基準温度以下に低下した状態で、強制冷却を実行することで、樹脂体に変形等が生じることが抑制された状態で、樹脂体の温度が急速に低下する。
【0025】
なお、強制冷却基準温度は、樹脂体の基材のガラス転移温度以下に設定されていてもよい。この場合、強制冷却によって樹脂体に変形等が生じる可能性が、さらに低下する。なお、強制冷却基準温度は、前述した計測基準温度よりも大きい温度となる。
【0026】
制御部は、樹脂体の基材の種類に応じて、強制冷却基準温度を変更してもよい。この場合、基材の種類に応じた適切な強制冷却基準温度が設定される。一例として、染色システムは、染色される樹脂体に関する情報を読み取る読取部(例えば、識別子読取部等)を備えていてもよい。制御部は、読取部による読取結果に応じて、樹脂体の基材の種類に対応する強制冷却基準温度を設定してもよい。
【0027】
なお、樹脂体の温度が計測基準温度以下となったか否かを判断するために使用される温度測定部と、樹脂体の温度が強制冷却基準温度以下となったか否かを判断するために使用される温度測定部は、同じでもよいし異なっていてもよい。
【0028】
染色システムは、色情報計測器による計測位置に配置された樹脂体の周囲を覆うことで、樹脂体への外乱光の到達を抑制する外乱光遮断部をさらに備えてもよい。この場合、外乱光の影響が抑制された状態で、樹脂体の色情報が計測される。よって、樹脂体の色情報がより適切に計測される。
【0029】
染色システムは、印刷装置および転写装置をさらに備えていてもよい。印刷装置は、基体に染料を印刷する。転写装置は、染料が印刷された基体(染料付基体)に樹脂体を対向させた状態で、染料を樹脂体に転写する。この場合、印刷装置によって染料の量、濃度、および分布等の少なくともいずれかが適切に調整された染料付基体から、染料が樹脂体に転写され、定着される。従って、樹脂体の染色品質が適切に向上する。
【0030】
また、本開示では、染料を樹脂体に転写する転写方式として、真空中で樹脂体と染料付基体を非接触で対向させた状態で、基体に印刷された昇華性の染料を昇華させることで、染料を樹脂体に転写する気相転写方式を例示する。しかし、転写方式を変更することも可能である。例えば、染料付基体を樹脂体に接触させた状態で、染料が樹脂体に転写されてもよい。
【0031】
染色システムの制御部は、吐出量決定ステップ、結果色情報取得ステップ、および補正ステップを実行してもよい。吐出量決定ステップでは、制御部は、染色する予定の色(予定色)を樹脂体に染色するための、印刷装置による基体への染料の吐出量を、決定手順に従って決定する。結果色情報取得ステップでは、制御部は、吐出量決定ステップにおいて決定された吐出量の染料が使用されることで、印刷装置、転写装置、および染料定着装置によって実際に染色された樹脂体について、色情報計測器によって計測された色情報である結果色情報を取得する。補正ステップでは、制御部は、結果色情報と予定色に基づいて、吐出量決定ステップにいて決定される染料の吐出量を補正することで、以後の染色工程において染色される樹脂体の色を、予定色に近づける。
【0032】
この場合、染色する予定の予定色と、実際に染色された樹脂体の色(結果色)に応じて、以後に吐出量決定ステップにおいて決定される染料の吐出量(つまり、予定色を樹脂体に染色するための染料の吐出量)が補正される。その結果、以後の染色工程において、予定色を染色するために基体に印刷される染料の吐出量が補正されるので、実際に染色される樹脂体の色が、適切に予定色に近づく。よって、予定されている色が適切に樹脂体に染色される。
【0033】
吐出量決定ステップにおいて決定される染料の吐出量を補正するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、制御部は、結果色情報と予定色の色情報の比較処理の結果に応じて、染料の吐出量を補正してもよい。比較処理は、例えば、結果色情報と予定色の色情報との差を取得する処理であってもよいし、結果色情報と予定色の色情報との比率を取得する処理であってもよい。
【0034】
例えば、制御部は、吐出量決定ステップにおいて染料の吐出量を決定するための決定手順を補正することで、以後に吐出量決定ステップにおいて決定される染料の吐出量を補正してもよい。染料の吐出量を決定するための決定手順(つまり、染料の吐出量を決定するアルゴリズム)には、種々の手順を採用できる。例えば、樹脂体を染色する各々の色と、各染料の吐出量とを対応付けるテーブルが、記憶装置に記憶されていてもよい。制御部は、予定色に対応する各染料の吐出量を、テーブルから取得することで、吐出量を決定してもよい。この場合、補正ステップでは、テーブルの情報を補正することで、決定手順を補正してもよい。また、色が異なる複数の染料(例えば、赤(Red)、黄(Yellow)、および青(Blue))の各々を予定の濃度で樹脂体に染色するための、各染料の吐出量の情報(ベース色情報)が、記憶装置に記憶されていてもよい。制御部は、ベース色情報に基づいて、予定色を染色するための各染料の吐出量を演算することで、吐出量を決定してもよい。この場合、補正ステップでは、ベース色情報を補正することで、決定手順を補正してもよい。
【0035】
また、染色システムの制御部は、合否判定ステップおよびエラー出力ステップを実行してもよい。合否判定ステップでは、制御部は、予定色と、実際に染色された樹脂体について計測された結果色情報との差が、閾値以内となっているか否かを判定する。エラー出力ステップでは、制御部は、予定色と結果色情報との差が閾値以内となっておらず、予定色と結果色が大きく相違している場合に、エラーを出力する。この場合、実際に行われた染色の品質が良好でない樹脂体が、適切に除外される。
【0036】
ただし、色情報計測器によって計測された色情報を活用する方法を変更することも可能である。例えば、単に、樹脂体の染色品質等を確認するために、色情報計測器によって計測された色情報が参照されてもよい。
【0037】
<実施形態>
以下、本開示に係る典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。染色システム1は、樹脂体を自動的に連続して染色する。本実施形態では、染色する対象とする樹脂体は、眼鏡に使用されるプラスチック製のレンズL(
図2等参照)である。しかし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、レンズL以外の樹脂体を染色する場合にも適用できる。例えば、ゴーグル、携帯電話のカバー、ライト用のカバー、アクセサリー、玩具、フィルム(例えば、厚みが400μm以下)、板材(例えば、厚みが400μm以上)等、種々の樹脂体を染色する場合に、本開示で例示する技術の少なくとも一部を適用することも可能である。染色される樹脂体には、樹脂体とは異なる部材(例えば、木材またはガラス等)に付加された樹脂体も含まれる。また、本実施形態の染色システム1は、複数の樹脂体を連続して搬送しながら染色する。しかし、樹脂体を1セットずつ搬送して染色する染色システムにも、本開示で例示する技術の少なくとも一部を採用できる。
【0038】
(システム構成)
図1を参照して、本実施形態の染色システム1のシステム構成について概略的に説明する。本実施形態の染色システム1は、全体搬送装置10、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、測色装置60、および制御装置70を備える。
【0039】
全体搬送装置10は、樹脂体であるレンズLが載置された染色用トレイ80(
図2参照)を、染色システム1内の各装置に搬送する。詳細には、本実施形態の全体搬送装置10は、複数の染色用トレイ80を、染色システム1内の全体で連続して搬送する。本実施形態の全体搬送装置10は、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、および測色装置60の順に(つまり、
図1における左から右に)染色用トレイ80を搬送する。
【0040】
印刷装置30は、シート状の基体に染料を印刷する。本実施形態では、基体には、適度な硬さの紙または金属性(本実施形態ではアルミニウム製)のフィルムが使用される。しかし、基体の材質には、ガラス板、耐熱性樹脂、セラミック等の他の材質を用いることも可能である。なお、本実施形態の染色システム1では、染料の凝集等を防ぎつつ染料を適切にレンズLに転写するために、真空(略真空を含む)の環境下で基体とレンズLを離間させて対向させた状態で、基体の染料が加熱されることで、染料がレンズLの表面に転写(蒸着)される(本実施形態における染色方法を、気相転写染色方法という)。従って、印刷装置30には、昇華性染料を含有したインクを基体に印刷するインクジェットプリンタが使用される。印刷装置30は、情報処理装置(本実施形態ではパーソナルコンピュータ(以下「PC」という)である制御装置70によって作成された印刷データに基づいて印刷を実行する。その結果、基体の適切な位置に適切な量のインク(染料)が付着する。グラデーションの染色を行うための染料付基体の作成も容易である。
【0041】
なお、印刷装置30の構成を変更することも可能である。例えば、印刷装置はレーザープリンタであってもよい。この場合、トナーに昇華性染料が含まれていてもよい。また、印刷装置30の代わりに、ディスペンサー(液体定量塗布装置)、ローラ等によって、基体に染料が付着されてもよい。
【0042】
転写装置40は、基体に付着した染料を、レンズLに対向させた状態で、染料を基体からレンズLに転写する。前述したように、本実施形態では、気相転写法によって基体からレンズLに染料が転写される。ただし、染料をレンズLに転写する方法を変更することも可能である。例えば、基体の染料とレンズLを接触させた状態で、染料が基体からレンズLに転写されてもよい。
【0043】
染料定着装置50は、転写装置40によって染料が転写されたレンズLを加熱することで、レンズLの表面に付着した染料を樹脂体に定着させる。本実施形態の染料定着装置50は、電磁波であるレーザ光をレンズLに照射することで、レンズLを加熱する。ただし、レーザ光以外の電磁波をレンズLに照射する装置(例えばオーブン等)が、染料定着装置として用いられてもよい。
【0044】
測色装置60は、染料定着装置50によって染料が定着されたレンズLの色情報を計測するために使用される。本実施形態の測色装置60は、染料定着装置50によって加熱されたレンズLの温度を低下させた後に、レンズLの色情報を計測する。測色装置60の詳細については後述する。
【0045】
制御装置70は、染色システム1における各種制御を司る。制御装置70には、種々の情報処理装置(例えば、PC、サーバ、および携帯端末等の少なくともいずれか)を使用できる。制御装置70は、制御を司るコントローラ(例えばCPU等)71と、各種データを記憶するデータベース72を備える。なお、制御装置70の構成を変更することも可能である。まず、複数のデバイスが協働して制御装置70として機能してもよい。例えば、染色システム1における各種制御を司る制御装置と、データベース72を備えた制御装置が別のデバイスであってもよい。また、複数のデバイスのコントローラが協働して、染色システム1における各種制御を実行してもよい。例えば、全体搬送装置10、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、および測色装置60の少なくともいずれかがコントローラを備える場合も多い。この場合、制御装置70のコントローラと他の装置のコントローラが協働して、染色システム1の制御を司ってもよい。
【0046】
染色システム1は、搬送されるユニット(染色用トレイ80と、染色用トレイ80に載置されたレンズLを含む)毎に、染色されるレンズLに関する情報を読み取る読取部2を備える。一例として、本実施形態の読取部2は、搬送されるユニット毎(例えば、染色用トレイ80毎)に設けられた識別子を読み取る識別子読取部である。読取部2によって読み取られる識別子によって、ユニットが特定される。ユニットが特定されることで、ユニットに含まれるレンズLに対応する予定色の情報、計測基準温度、および強制冷却基準温度(詳細は後述する)が設定される。
【0047】
本実施形態の読取部2は、使用されている識別子に対応する識別子リーダー(例えば、QRコード(登録商標)リーダー、バーコードリーダー、識別穴リーダー等)である。また、読取部2は、情報を書き込み可能なタグ(例えばICタグ等)から情報を読み取るタグ読取部であってもよい。この場合、タグには、計測基準温度および強制冷却基準温度が記憶されていてもよい。本実施形態では、染色システム1を構成する複数の装置のうち、少なくとも測色装置60に読取部2が設けられている。しかし、染色システム1のうち、測色装置60以外の部分にも、読取部が設けられていてもよい。
【0048】
(染色用トレイ)
図2を参照して、本実施形態の染色システム1で使用される染色用トレイ80について説明する。
図2は、2つのレンズLが設置(載置)され、且つ基体が設置されていない状態の染色用トレイ80の斜視図である。本実施形態の染色用トレイ80は、トレイ本体81、載置枠89、およびスペーサ87を備える。載置枠89には、染色対象となる樹脂体(本実施形態ではレンズL)が載置される。本実施形態の載置枠89は、レンズLよりもやや大きい外径を有するリング状に形成されている。スペーサ87は、載置枠89のうち、レンズLが載置される部位の外周部から上方に筒状(円筒状)に延びる。トレイ本体81には装着部82が形成されている。装着部82には、載置枠89およびスペーサ87が着脱可能に装着される。本実施形態では、1つのトレイ本体81に2つの装着部82が形成されている。従って、1つの眼鏡に使用される一対(左右)のレンズLが、1つの染色用トレイ80に載置された状態で染色される。
【0049】
トレイ本体81のうち、装着部82よりも外側(詳細には、基体載置部85よりも外側)の位置には、上方に突出する突部84が設けられている。また、トレイ本体81の底部(本実施形態では、各々の装着部82の底部の2か所)には、上方に向けて凹んだ凹部である底部嵌合部86が形成されている。トレイ本体81の上部に形成された複数の突部84のうち、装着部82に隣接する4つの突部84は、染色用トレイ80の上部に他の染色用トレイ80(トレイ本体81)が積み重ねられた際に、積み重ねられた染色用トレイ80の底部嵌合部86に嵌合する。よって、複数の染色用トレイ80が、安定した状態で上下に積み重ねられる。
【0050】
(測色装置)
図3を参照して、本実施形態の測色装置60について説明する。前述したように、測色装置60は、染料定着装置50(
図3参照)によって加熱されたレンズLの温度を低下させた後に、レンズLの色情報を計測する。なお、本実施形態の染色システム1は、1つまたは2つのレンズLが設置された染色用トレイ80を1つの単位として、複数単位のレンズLを連続して染色する。本実施形態の測色装置60は、複数単位のレンズLの色情報を連続して計測する。
図3に示すように、本実施形態の測色装置60は、色情報計測器61、外乱光遮断部62、温度測定部63、および温度低下部90を備える。
【0051】
色情報計測器61は、染料定着装置50(
図1参照)によって染料が定着されたレンズLの色情報を計測する。本実施形態の色情報計測器61は、レンズLの分光スペクトル(詳細には、本実施形態では透過スペクトル)を色情報として計測する分光計測器である。従って、RGBカメラ等を用いる場合に比べて、照明環境等の外乱光の影響が抑制された状態で色情報が取得される。また、複数の染料が用いられてレンズLが染色された場合でも、波長毎の強度の分布である分光スペクトルが取得されるので、染色されたレンズLの色情報が適切に取得される。取得した分光スペクトルのデータを利用して、CIEL*a*b*表色系、XYZ表色系、L*C*h*表色系、マンセル表色系等の値を使用しても良い。ただし、分光計測器以外のデバイス(例えばRGBカメラ等)が、色情報計測器として使用されてもよい。
【0052】
外乱光遮断部62は、色情報計測器61による計測位置に配置されたレンズLの周囲を覆うことで、レンズLへ外乱光が到達することを抑制する。従って、外乱光の影響が外乱光遮断部62によって抑制された状態で、レンズLの色情報が色情報計測器61によって適切に計測される。
【0053】
なお、本実施形態の外乱光遮断部62は、計測位置に配置されたレンズLの周囲の全体のうち、後述する搬送部91によって搬送されるレンズL(染色用トレイ80)の搬送経路以外の部分を覆う。つまり、本実施形態の外乱光遮断部62は、計測位置に配置されたレンズLの周囲全体のうちの一部を覆う。しかし、外乱光遮断部62は、レンズLの周囲の全体を覆ってもよい。この場合、レンズLの色情報が計測される際の外乱光の影響が、より適切に抑制される。
【0054】
温度測定部63は、染料定着装置50(
図1参照)によって染料が定着されたレンズLの温度を測定する。一例として、本実施形態の温度測定部63は、後述する強制冷却部95によるレンズLの冷却が可能な位置で、染色用トレイ80に載置されたレンズLの温度を測定する。詳細には、本実施形態では、染色用トレイ80に載置される2つのレンズLの各々が別々に測定されるように、一対の温度測定部63が設けられている。ただし、温度測定部63の位置および数の少なくともいずれかを変更することも可能である。例えば、色情報計測器61による計測位置に配置されたレンズLの温度を測定する位置に、温度測定部が設けられていてもよい。
【0055】
温度低下部90は、色情報計測器61によるレンズLの色情報の計測が行われる前に、染料定着装置50(
図1参照)によって加熱されたレンズLの温度を低下させる。従って、温度に応じて生じ得る変色の影響(詳細には、レンズLの基材の変色の影響、および、染料の変色の影響の少なくともいずれか)が、温度低下部90によって抑制された状態で、色情報計測器61によってレンズLの色情報が計測される。
【0056】
本実施形態の温度低下部90は、レンズLの色情報が計測される前に、レンズLの色情報が安定して計測される計測基準温度以下まで、レンズLの温度を低下させる。従って、温度に応じて生じ得る変色の影響が、より適切に抑制される。一例として、計測基準温度を80℃以下に設定すれば、レンズLおよび染料の変色の影響は抑制され易い。また、計測基準温度を60℃以下に設定することで、レンズLの基材の種類等に関わらず、変色の影響は抑制され易くなる。なお、本実施形態では、計測基準温度を50℃以下に設定することで、温度変化による変色の影響がより適切に抑制される。
【0057】
本実施形態の温度低下部90は、搬送部91および強制冷却部95を備える。また、本実施形態の搬送部91は、スタック部93を備える。
【0058】
搬送部91は、染料定着装置50によって加熱されたレンズLを、色情報計測器61による色情報の計測位置に向けて搬送する。詳細には、搬送部91は、色情報計測器61による色情報の計測位置に向けてレンズLを搬送する間に、レンズLの温度を計測基準温度以下に低下させる。従って、レンズLの計測位置に移動させる作業、および、レンズLの温度を低下させるための作業等を作業者が行わなくても、レンズLが適切に計測位置に搬送され、且つ、レンズLの色情報が適切に計測される。
【0059】
スタック部93は、搬送部91によるレンズLの搬送経路上に設けられている。本実施形態の搬送部91は、染料定着装置50によって順次加熱される複数単位のレンズL(本実施形態では、レンズLが設置された複数の染色用トレイ80)を、スタック部93において積み重ねることで、レンズLを待機させる。つまり、スタック部93は、搬送部91によるレンズLの搬送経路上でレンズLを待機させることで、レンズLの温度を低下させるレンズ待機部の一例である。本実施形態では、搬送部91のスタック部93においてレンズLが待機されることで、レンズLの温度が低下するための時間(つまり、レンズLが自然冷却される時間)が確保される。従って、レンズLを自然冷却させるために、搬送部91によるレンズLの搬送経路を敢えて長く設計する必要が無い。
【0060】
強制冷却部95は、自然冷却による温度低下量よりも大きい温度低下量で、レンズLの温度を低下させる。つまり、強制冷却部95は、レンズLを強制的に(自然冷却よりも急速に)冷却する。従って、染料定着装置50(
図1参照)による染料の定着工程が終了した以後、色情報計測器61による色情報の計測結果が取得されるまでに要する時間が、強制冷却部95によって短縮される。
【0061】
一例として、本実施形態の強制冷却部95には、レンズLに気体(空気)を送風する冷却ファンが使用されている。しかし、冷却ファン以外のデバイス(例えば、冷蔵庫およびペルチェ素子等の少なくともいずれか)が、強制冷却部95として使用されてもよい。
【0062】
なお、本実施形態の搬送部91は、全体搬送装置10によって染料定着装置50(
図1参照)から搬送されてきた染色用トレイ80を、スタック部93に搬送する。搬送部91は、スタック部93において、複数単位のレンズL(本実施形態では複数の染色用トレイ80)を積み重ねる。詳細には、本実施形態の搬送部91は、染料定着装置50から搬送されてきた染色用トレイ80を、スタック部93において待機されている染色用トレイ80の下部に搬送することで、複数の染色用トレイ80を積み重ねる。また、搬送部91は、スタック部93に位置するレンズLのうち、染料定着装置50による染料の定着工程が最初に完了したレンズL(本実施形態では、スタック部93における最上部の染色用トレイ80)を、強制冷却部95によるレンズLの冷却が可能な位置(以下、「強制冷却位置」という)に搬送する。さらに、搬送部91は、レンズL(染色用トレイ80)を、強制冷却位置から、色情報計測器61による色情報の計測位置(以下、「色情報計測位置」という)に搬送する。
【0063】
搬送部91によるレンズL(本実施形態では染色用トレイ80)の搬送方法は、適宜選択できる。例えば、搬送部91は、染色用トレイ80を搬送するアーム部を備えていてもよい。また、搬送部91は、搬送ベルトを用いて染色用トレイ80を搬送してもよい。
【0064】
(測色制御処理)
図4を参照して、染色システム1のコントローラ71が実行する測色制御処理について説明する。測色制御処理では、レンズLの色情報の計測(測色)等が制御される。コントローラ71は、レンズLの染色工程を開始させる指示が入力された場合に、記憶装置に記憶された測色制御プログラムに従って、
図4に例示する測色制御処理を実行する。なお、説明の理解を容易にするために、
図4に例示する測色制御処理は、染色を行う1つの単位(本実施形態では1つの染色用トレイ80)毎に処理を行う。しかし、測色制御処理は、複数の染色単位について並行して処理を行うように設定されていてもよい。
【0065】
まず、コントローラ71は、染料定着装置50による染料の定着工程が完了したことを確認する(S1)。前述したように、染料定着装置50は、染色用トレイ80に設置されたレンズLを加熱することで、レンズLに染料を定着させる。定着工程が完了すると(S1)、コントローラ71は、搬送部91の駆動を制御することで、定着工程が完了した染色用トレイ80(レンズL)を、全体搬送装置10からスタック部93に搬送して待機させる(S2)。
【0066】
次いで、コントローラ71は、強制冷却部95によるレンズLの冷却が可能な強制冷却位置に空きがあるか否かを判断する(S4)。強制冷却位置に染色用トレイ80が配置されている場合には(S4:NO)、待機する。強制冷却位置に染色用トレイ80が配置されておらず、空きがある場合には(S4:YES)、コントローラ71は、搬送部91の駆動を制御することで、スタック部93に位置するレンズLのうち、染料定着装置50による染料の定着工程が最初に完了したレンズL(本実施形態では、スタック部93における最上部の染色用トレイ80)を、強制冷却位置に搬送する(S5)。さらに、コントローラ71は、強制冷却位置に搬送された染色用トレイ80のレンズLに関して、読取部2によって読み取られた情報に基づいて、強制冷却基準温度Tfおよび計測基準温度Tmを設定する(S6)。強制冷却基準温度Tfとは、強制冷却位置のレンズLに対する強制冷却を実行するか否かを判断するための温度である。また、計測基準温度Tmとは、色情報計測器61によるレンズLの色情報の計測結果を取得するか否かを判断するための温度である。本実施形態では、レンズLの基材の種類、および染料の種類の少なくともいずれかに応じて、強制冷却基準温度Tfおよび計測基準温度Tmが、染色されるユニット(本実施形態では染色用トレイ80)毎に設定される。
【0067】
なお、強制冷却基準温度Tfは、レンズLの基材のガラス転移温度以下に設定される。従って、レンズLの温度が強制冷却基準温度Tf以下に低下した場合にのみ強制冷却が実行されることで、強制冷却中の樹脂体の変形等が発生し難くなる。また、強制冷却基準温度Tfは、計測基準温度Tmよりも高い温度となる。
【0068】
次いで、コントローラ71は、温度測定部63によって測定された強制冷却位置のレンズLの温度が、強制冷却基準温度Tf以下であるか否かを判断する(S7)。レンズLの温度が強制冷却基準温度Tfよりも高ければ(S7:NO)、強制冷却を実行せずに待機する。レンズLの温度が強制冷却基準温度Tf以下であれば(S7:YES)、コントローラ71は、強制冷却部95によるレンズLの強制冷却を実行する(S8)。
【0069】
次いで、コントローラ71は、温度測定部63によって測定された強制冷却位置のレンズLの温度が、計測基準温度Tm以下となったか否かを判断する(S10)。レンズLの温度が計測基準温度Tmよりも高ければ(S10:NO)、強制冷却が継続される。レンズLの温度が計測基準温度Tm以下となれば(S10:YES)、コントローラ71は、搬送部91の駆動を制御することで、強制冷却位置の染色用トレイ80を、色情報計測位置に搬送する(S11)。コントローラ71は、色情報計測器61によるレンズLの色情報の計測結果を取得する(S12)。つまり、コントローラ71は、温度測定部63によって測定されたレンズLの温度が計測基準温度Tm以下となった状態の、色情報の計測結果を取得する。その結果、温度による変色の影響を受けた色情報が利用される可能性が、適切に低下する。
【0070】
コントローラ71は、S12で取得された色情報の計測結果に基づいて、印刷装置30による染料の吐出量を補正する(S13)。本実施形態では、コントローラ71は、染色する予定の色(予定色)をレンズLに染色するための、印刷装置30による基体への染料の吐出量を、決定手順に従って決定する(吐出量決定ステップ)。コントローラ71は、吐出量決定ステップにおいて決定された吐出量の染料が使用されることで、印刷装置30、転写装置40、および染料定着装置50によって実際に染色されたレンズLについて、色情報計測器61によって計測された色情報である結果色情報を取得する(結果色情報取得ステップ)。S13では、コントローラ71は、結果色情報と予定色に基づいて、吐出量決定ステップにいて決定される染料の吐出量を補正することで、以後の染色工程において染色されるレンズLの色を、予定色に近づける。その結果、染色品質が適切に向上する。
【0071】
さらに、コントローラ71は、S12で取得された色情報の計測結果と予定色の差に基づいて、染色されたレンズLの品質を判断し、判断した品質に応じた位置に染色用トレイ80を搬送させる(S14)。本実施形態では、染色品質が良好なレンズLが搬送される位置と、染色品質が良好でないレンズLが搬送される位置が、予め設けられている。コントローラ71は、色情報に基づいて判断された染色品質の良否に応じて、2つの位置のいずれかに染色用トレイ80を搬送させる。なお、コントローラ71は、染色品質が良好でない場合(本実施形態では、予定色と結果色情報の差が閾値以内に収まらなかった場合)には、画像表示および音声等によってエラーを出力する。
【0072】
次いで、コントローラ71は、処理を終了させる指示が入力されたか否かを判断する(S16)。入力されていなければ(S16:NO)、処理はS1へ戻り、S1~S16の処理が繰り返される。終了指示が入力されると(S16:YES)、測色制御処理は終了する。
【0073】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態で例示した複数の技術の一部のみを採用してもよい。一例として、上記実施形態では、レンズLの基材の種類、および染料の種類の少なくともいずれかに応じて、強制冷却基準温度Tfおよび計測基準温度Tmが、染色されるユニット毎に設定される。しかし、強制冷却基準温度Tfおよび計測基準温度Tmの少なくとも一方は、染色されるユニットに関わらず、1つの値に設定されてもよい。また、染色システム1は、強制冷却部95を用いずに、自然冷却のみによってレンズLの温度を低下させてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 染色システム
30 印刷装置
40 転写装置
50 染料定着装置
60 測色装置
61 色情報計測器
62 外乱光遮断部
63 温度測定部
70 制御装置
80 染色用トレイ
90 温度低下部
91 搬送部
93 スタック部
95 強制冷却部
L レンズ