(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102531
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】改質サクシノグリカンおよび改質サクシノグリカンの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/269 20160101AFI20220630BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20220630BHJP
【FI】
A23L29/269
A23L23/00
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217324
(22)【出願日】2020-12-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】原 知香
【テーマコード(参考)】
4B036
4B041
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LE02
4B036LF01
4B036LG04
4B036LH04
4B036LH11
4B036LK02
4B036LP01
4B041LC03
4B041LC04
4B041LD03
4B041LE01
4B041LH02
4B041LH07
4B041LH16
4B041LH17
4B041LP01
(57)【要約】
【課題】水溶液に分散した際に「ダマ」になり難く、60℃以上においても増粘効果を発揮できる改質サクシノグリカン、および改質サクシノグリカンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る改質サクシノグリカンは、粉末状または顆粒状のサクシノグリカンを、60~250℃で加熱処理して得られたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状または顆粒状のサクシノグリカンを、60~250℃で加熱処理して得られたことを特徴とする改質サクシノグリカン。
【請求項2】
下記数式(1)で表される関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の改質サクシノグリカン。
μ(20)/μ(85)≦12 (1)
(μ(85)は、改質サクシノグリカンを1質量%の濃度でイオン交換水に加えて95℃で2分間加熱溶解した後、85℃に降温した際の粘度であり、μ(20)は、改質サクシノグリカンを1質量%の濃度でイオン交換水に加えて95℃で2分間加熱溶解した後、恒温槽にて20℃で1晩静置した後の粘度である。)
【請求項3】
粉末状または顆粒状のサクシノグリカンを、60~250℃で加熱処理することを特徴とする改質サクシノグリカンの製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理により、下記式数(1)で表される関係を満たすようにサクシノグリカンを改質させることを特徴とする請求項3記載の改質サクシノグリカンの製造方法。
μ(20)/μ(85)≦12 (1)
(μ(85)は、改質サクシノグリカンを1質量%の濃度でイオン交換水に加えて95℃で2分間加熱溶解した後、85℃に降温した際の粘度であり、μ(20)は、改質サクシノグリカンを1質量%の濃度でイオン交換水に加えて95℃で2分間加熱溶解した後、恒温槽にて20℃で1晩静置した後の粘度である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質サクシノグリカンおよび改質サクシノグリカンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物由来の水溶性多糖類として、従来からキサンタンガムが知られている。キサンタンガムは、ガラクトマンナン、例えば、グァーガム、カシアガム、タラガム、およびローカストビーンガム、並びに構造的に同様の多糖類、例えば、グルコマンナンコンニャクと相互作用する能力も有し、自立性の高いゲルを形成する。
【0003】
酸性条件下あるいは高塩度条件下においても粘度が低下しない増粘剤として、サクシノグリカンが開発されている(例えば、非特許文献1参照)。サクシノグリカンは、キサンタンガムと同様の微生物由来の水溶性多糖類であるが、キサンタンガムよりもガラクトマンナンとの相乗性が低い。このため、サクシノグリカンは、ゲルを形成することなく、粘度の相乗的な上昇をもたらすことができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
サクシノグリカンを用いて、摂食・嚥下適性を改善する飲食品用粘度調整剤を提供することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。粘度調整剤を添加した飲食品が素早く粘度を発現できるように、粘度調整剤は、その増粘スピードをコントロールすることが重要とされている。特許文献2では、サクシノグリカン粉末の粒子サイズを細かくすることで、素早く増粘させ、まとまり感のある摂食・嚥下適性を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016-532442号公報
【特許文献2】特開2016-131508号公報
【非特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているサクシノグリカンの溶液は、高温下で高次構造が変化して急激な粘度低下が起こってしまう。このため、60℃以上の高温で喫食するような加工食品では、十分な増粘効果が得られないという問題点がある。
【0008】
特許文献2に記載されているように、サクシノグリカン粉末のサイズを細かくして目的の飲食物に分散させると、「ダマ」になる可能性がある。この場合には、必ずしも十分な増粘効果が得られないという問題点がある。
【0009】
そこで本発明は、水溶液に分散した際に「ダマ」になり難く、60℃以上においても増粘効果を発揮できる改質サクシノグリカン、および改質サクシノグリカンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、粉末状または顆粒状のサクシノグリカンを、60~250℃で加熱処理を施して得られた改質されたサクシノグリカンは、水溶液として60~70℃に加熱した際も粘度低下が抑制されることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る改質サクシノグリカンは、粉末状または顆粒状のサクシノグリカンを、60~250℃で加熱処理して得られたことを特徴とする。
本発明に係る改質サクシノグリカンの製造方法は、粉末状または顆粒状のサクシノグリカンを、60~250℃で加熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水溶液に分散した際に「ダマ」になり難く、60℃以上においても増粘効果を発揮できる改質サクシノグリカン、および改質サクシノグリカンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の改質サクシノグリカンの水溶液の粘度を示すグラフである。
【
図2】従来のサクシノグリカンの水溶液の粘度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、粉末状または顆粒状のサクシノグリカンを60~250℃で加熱処理して得られた改質サクシノグリカンは、水溶液とした際の粘性の改質、および膨潤・溶解性を制御できることを見出した。加熱処理によって、サクシノグリカンは、水和状態の高次構造変化および相転移が抑制されるものと推測される。こうした改質サクシノグリカンは、水への溶解が抑制されることから、高温においても構造変化が起こり難い。
【0015】
したがって、水溶液とした際には、高温での粘度低下が起こらず十分な増粘効果が発揮される。しかも、加熱処理によって、サクシノグリカンの膨潤性の制御が可能となった。すなわち、加熱処理を施して得られた改質サクシノグリカンは水和時の膨潤が抑制されるため、水への分散時にダマの発生を防止することができる。これにより、粉末のメッシュサイズに影響されることなく、飲食物への添加時にダマの発生を抑制することができる。
【0016】
本発明における粉末状または顆粒状のサクシノグリカンは、高次構造変化および相転移が抑制されれば良いことから、粒子径や形態は特に限定されない。具体的には、微粒子状のものからペレット状、フィルム状など様々な状態を含む。さらに、60~250℃で加熱処理後に粉砕工程を行うことも可能である。
【0017】
サクシノグリカンの含水量は、粉末状または顆粒状を維持できる範囲内であれば良く、1~60%であることが好ましい。含水量がこの範囲を超えても、ハンドリングが可能であれば問題ない。一般的には、含水量を1%以下にするのは困難であり、60%を超えるとハンドリングが極端に悪くなるため製造するのが難しくなる。
【0018】
本発明において、改質前の粉末状または顆粒状のサクシノグリカンは、微生物の発酵産物を精製し、乾燥などの熱処理を経て固形化し得るものであり、含水量が60%以下であることが好ましく、1~20%であることがより好ましく、従来から市販されている。この市販されているサクシノグリカンは、乾燥工程などにおいて熱処理を施されているが、本発明のように、粉末状または顆粒状での加熱処理が行われていない。このため、水溶液に分散した際に「ダマ」が生じ、60℃以上の高温では増粘効果が発揮されないという問題があった。本発明により、従来の乾燥工程などにおける熱処理では成し得なかったサクシノグリカンの改質が可能となった。
【0019】
加熱処理して得られた本発明の改質サクシノグリカンは、未処理のサクシノグリカンと同様、他の糊料との併用においても、ゲルを形成することなく増粘効果を得ることができる。特に、60℃以上の高温下でも粘度が低下しない。使用し得る糊料としては、例えば、プルラン、澱粉特にタピオカ澱粉、グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム、キサンタンガム、タマリンドガム、およびサイリウム等が挙げられる。
【0020】
例えば、加熱処理したサクシノグリカン0.5質量%と、タピオカ澱粉を3.0質量%含有する水溶液は、85℃においても2300mPa・s以上の粘度を維持することができる。これに対し未処理のサクシノグリカンを同様に使用した場合、85℃における粘度は640mPa・s程度に低下してしまう。
【0021】
サクシノグリカンは、60~250℃で加熱が可能であれば、任意の方法により処理することができる。例えば、粉末状態での加熱処理、ドラムドライヤーによる加熱処理、およびエクストルーダーによる加熱処理などが挙げられる。加熱温度が60℃未満の場合には、所望の改質効果を得ることができない。60℃未満でも非常に長い時間をかけると改質できる場合があるが、工業的に現実的な時間ではない。一方、加熱温度が250℃を超えると、褐変などの問題が生じる。加熱温度は、75~200℃が好ましい。
【0022】
粉末状態で加熱処理する場合には、例えば、サクシノグリカン粉末を恒温槽に収容し、60~250℃で所定時間加熱処理する。処理時間は特に限定されず、例えば、5分~200時間の範囲内で適宜選択することができる。恒温槽内の温度を所定温度に設定して、加熱処理を行う。
【0023】
加熱による改質は、構造変化を伴う化学反応であるため、改質工程は加熱温度と加熱時間の組み合わせにより支配される。加熱温度が低ければ加熱時間は長くなり、加熱温度が高ければ加熱時間は短くなる。例えば60℃のような低温では200時間以上を要し、250℃のような高温では5分程度の短時間で改質する。ただし、使用するサクシノグリカンのロット差や加熱設備の違いなどにより反応時間は異なる。60~250℃という温度条件を満たしていれば、本発明のサクシノグリカンの物性が得られるように、加熱時間を適宜設定することができる。
【0024】
エクストルーダーにより加熱処理する場合には、例えば、サクシノグリカン粉末を加水しながら混練し、連続的に加熱・圧縮しつつ混錬物を押し出し、乾燥・粉砕することで粉末化する。サクシノグリカンの膨潤濃度は、1~90%であり、好ましくは5%~70%である。エクストルーダーを用いる場合には、原料(加水されたサクシノグリカン粉末)の温度を60~250℃に制御して、加熱処理を行うことができる。機械の特性を考慮すると、原料の温度は100~250℃が好ましい。処理時間は特に限定されず、例えば3~10分の範囲内で適宜選択することができる。加水を行わず、粉末または顆粒をそのままの状態で加熱処理してもよい。
【0025】
上述したような方法で、粉末状または顆粒状のサクシノグリカンを60~250℃で加熱処理することによって、本発明の改質サクシノグリカンを得ることができる。本発明の改質サクシノグリカンは、下記数式(1)で表される関係を満たす。
μ(20)/μ(85)≦12 (1)
(μ(85)は、改質サクシノグリカンを1質量%の濃度でイオン交換水に加えて95℃で2分間加熱溶解した後、85℃に降温した際の粘度であり、μ(20)は、改質サクシノグリカンを1質量%の濃度でイオン交換水に加えて95℃で2分間加熱溶解した後、恒温槽にて20℃で1晩静置した後の粘度である。)
【0026】
上述した粘度比(μ(20)/μ(85))は、加熱処理の温度や時間によって制御することができる。60~250℃の温度範囲での加熱処理の時間が適正であるほど、粘度比(μ(20)/μ(85))を低下させることができる。加熱時間が足りないと、μ(85)の値が低下してしまい規定を満たさない。一方、加熱時間が長すぎると、μ(20)の値が低くなり規定を満たさない。
【0027】
本発明者らは、(μ(20)/μ(85))で表される粘度比が、60℃以上の高温における粘度安定性の指標となることを見出した。従来の未処理のサクシノグリカンの場合、上述と同様の手法により求めた粘度比(μ(20)/μ(85))は12より大きい。粘度比(μ(20)/μ(85))が12以下の本発明の改質サクシノグリカンは、従来のサクシノグリカンより高温での粘度安定性に優れている。本発明においては、粘度比(μ(20)/μ(85))は、10以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。
【0028】
このように、本発明の改質サクシノグリカンは、従来のサクシノグリカンに比べて、高温時の粘度安定性に優れている。しかも、他の糊料と併用した際には、従来のサクシノグリカンの場合よりも高い増粘効果を得ることができる。さらに、従来のサクシノグリカンに比べて、分散時のダマ、ママコが生じにくいという利点も備えている。
【0029】
本発明の改質サクシノグリカンは、(μ(20)/μ(85))で表される粘度比が12以下であれば、20℃における粘度(μ(20))、および85℃における粘度(μ(85))は、特に規定されない。なお、20℃における粘度(μ(20))は、例えば700~3000mPa・s程度であり、85℃における粘度(μ(85))は、例えば150~550mPa・s程度である。
【実施例0030】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0031】
まず、従来のサクシノグリカンに加熱処理を施して改質し、水溶液の粘度を調べた。従来のサクシノグリカンとしては、市販品(デュポン社製)を用意し、粉末状態で加熱処理した。具体的には、100℃の恒温槽で360分の加熱処理を施して、改質サクシノグリカンを得た。ここで用いた改質前のサクシノグリカンの含水量は、10%程度である。
【0032】
改質サクシノグリカンは、それぞれ1質量%の濃度でイオン交換水に加えて、サクシノグリカン水溶液を調製した。得られたサクシノグリカン水溶液について、25~80℃の粘度を測定した。水溶液の温度は、恒温水槽により調整し、B型粘度計を用いて粘度を測定した。その結果を
図1に示す。比較のために、同様のサクシノグリカンを未処理の状態で同様の水溶液とし、25~80℃の粘度を測定した。その結果を
図2に示す。
【0033】
図1,2には、サクシノグリカンの粘度低下温度(60~70℃)近傍で、粘度が低下することが示されている。未処理の従来のサクシノグリカン(
図2)と比較して、本発明の改質サクシノグリカン(
図1)の場合には、粘度低下の程度が低減されている。粉末状のサクシノグリカンに加熱処理を施したことによって、高温下での高次構造変化が抑制されたものと推測される。
【0034】
<加熱処理温度の影響>
次に、加熱処理の時間の影響を調べた。100℃の恒温槽内で、前述と同様のサクシノグリカン粉末300gを所定時間加熱して、改質サクシノグリカンを得た。加熱時間は、3時間、6時間、および15時間とした。加熱時間の異なる改質サクシノグリカン粉末を、それぞれイオン交換水に溶解して、1質量%の濃度のサクシノグリカン水溶液を調製した。
【0035】
サクシノグリカン水溶液95℃以上で2分間加熱溶解した後、85℃の粘度(μ(85))および20℃の粘度(μ(20))を測定して、粘度比(μ(20)/μ(85))を求めた。85℃の粘度(μ(85))は加熱溶解直後の粘度であり、20℃の粘度(μ(20))は恒温槽にて1晩静置した後の粘度とした。なお、未処理のサクシノグリカンについても、同様に粘度を測定した。
その結果を、下記表1に示す。
【0036】
【0037】
上記表1に示されるように、従来のサクシノグリカンは、粘度比(μ(20)/μ(85))が14.9と大きく、高温での粘度安定性が乏しいことがわかる。これに対し、本発明の改質サクシノグリカンでは、粘度比(μ(20)/μ(85))が5.8以下であり、高温での粘度安定性に優れている。特に、加熱処理時間が長くなると、粘度比(μ(20)/μ(85))がさらに低下して、高温での粘度安定性がよりいっそう向上する。
【0038】
<分散時のダマ防止効果>
前述と同様のサクシノグリカン粉末5kgを、エクストルーダー(日本製鋼所)を使用して加熱処理した。サクシノグリカンに水計100gを添加しながら、品温230℃になるように設定温度および設定圧力を調整した。加熱処理時間は5分であった。ハンマーミルで粉砕し60メッシュで篩分けを行い通過した粉末を、改質サクシノグリカンとした。
【0039】
得られた改質サクシノグリカンを、1質量%で精製水(20℃)に分散してダマの様子を目視により確認した。さらに、精製水に分散後95℃で2分間加熱溶解した後、85℃に降温した時の粘度(μ(85))、および95℃で2分間加熱溶解した後、恒温槽(20℃)にて1晩静置した後の粘度(μ(20))を測定した。未処理のサクシノグリカンについても、同様に分散後の状態を調べた。その結果を、下記表2に示す。
【0040】
【0041】
上記表2に示されるように、本発明の改質サクシノグリカンは、水に分散した際にダマの発生がなく、加熱溶解後の粘度低下も抑制されている。
【0042】
<他の糊料との相乗効果>
まず、前述と同様のサクシノグリカン粉末500gを、100℃の恒温層で270分間処理して、改質サクシノグリカンを得た。改質サクシノグリカンを、各種糊料と所定の濃度で混合し、精製水に分散後、加熱溶解して溶液を調製した。得られた溶液について、85℃の粘度(μ(85))と20℃の粘度(μ(20))を測定し、粘度比(μ(20)/μ(85))を求めた。
【0043】
用いた糊料は、以下のとおりである。
プルラン:「プルラン」((株)林原)
タピオカ澱粉:「TK-200」(三和澱粉工業(株))
グァーガム:「GR-10」伊那食品工業(株)
【0044】
プルランは5.0質量%の溶液とし、そこに0.5質量%の改質サクシノグリカンを加えた。比較のために、改質サクシノグリカンを未処理のサクシノグリカンに変更した以外は同様の溶液、およびプルランのみの溶液も調製した。
タピオカ澱粉は3.0質量%の溶液とし、そこに0.5質量%の改質サクシノグリカンを加えた。比較のために、改質サクシノグリカンを未処理のサクシノグリカンに変更した以外は同様の溶液、およびタピオカ澱粉のみの溶液も調製した。
グァーガムは0.25質量%の溶液とし、そこに0.25質量%の改質サクシノグリカンを加えた。比較のために、改質サクシノグリカンを未処理のサクシノグリカンに変更した以外は同様の溶液、およびグァーガムのみの溶液も調製した。
【0045】
各糊料を用いた場合の3種類の溶液について、85℃の粘度(μ(85))、20℃の粘度(μ(20))、および粘度比(μ(20)/μ(85))を、下記表3にまとめる。
【0046】
【0047】
加熱処理して得られた本発明の改質サクシノグリカンは、各種糊料と組み合わせることで高い増粘効果を得ることができる。
【0048】
<加熱処理温度毎の影響1>
次に、加熱処理温度と時間の影響を調べた。60~250℃の恒温槽内で、前述と同様のサクシノグリカン粉末200gを所定時間加熱して、改質サクシノグリカンを得た。加熱温度および時間の異なる改質サクシノグリカン粉末を、イオン交換水にそれぞれ溶解して、1質量%の濃度のサクシノグリカン水溶液を調製した。
【0049】
サクシノグリカン水溶液95℃以上で2分間加熱溶解した後、85℃の粘度(μ(85))および20℃の粘度(μ(20))を測定し、粘度比(μ(20)/μ(85))を求めた。85℃の粘度(μ(85))は加熱溶解直後の粘度であり、20℃の粘度(μ(20))は恒温槽にて20℃で1晩静置した後の粘度とした。その結果を、加熱温度および加熱時間とともに下記表4に示す。
【0050】
【0051】
上記表4に示されるように、本発明の改質サクシノグリカンでは、粘度比(μ(20)/μ(85))が12以下であり、高温での粘度安定性に優れている。
【0052】
<加熱処理温度毎の影響2>
加熱温度と時間の影響を調べた。所定温度の恒温槽内で、前述と同様のサクシノグリカン粉末500gを所定時間加熱して、改質サクシノグリカンを得た。加熱温度は、60℃、80℃、120℃、150℃、170℃とした。加熱温度および時間の異なる改質サクシノグリカン粉末を、それぞれイオン交換水に溶解して、1質量%の濃度のサクシノグリカン水溶液を調製した。
【0053】
サクシノグリカン水溶液95℃以上で2分間加熱溶解した後、85℃の粘度(μ(85))および20℃の粘度(μ(20))を測定して、粘度比(μ(20)/μ(85))を求めた。85℃の粘度(μ(85))は加熱溶解直後の粘度であり、20℃の粘度(μ(20))は恒温槽にて1晩静置した後の粘度とした。その結果を、加熱温度および加熱時間とともに下記表5に示す。
【0054】
【0055】
上記表5に示されるように、本発明の改質サクシノグリカンでは、粘度比(μ(20)/μ(85))が12以下であり、高温での粘度安定性に優れている。
【0056】
<とろみスープへの応用>
下記表6および表7に示した処方で、とろみスープを作製した(作製量500g。)
具体的には、水に乾燥スープ、食塩、改質サクシノグルカンまたはサクシノグリカンを加え、95℃にて加熱溶解した。85℃における粘度、および20℃に冷却した時の粘度を測定した。
【0057】
85℃および20℃における食感を、下記の指標で評価した。評価は10名のパネラーで行い、最も人数が多かった評価を記載した。なお、サクシノグルカンの替わりにキサンタンガム(イナゲルV-10、伊那食品工業社製)を使用したものも作製し、比較例25とした。
◎:適度なとろみがあり、糊状感がなく美味しい
〇:◎程ではないが美味しい
△:とろみが若干ある程度である
×:とろみを感じない
××:とろみはあるが糊状感があり美味しさに欠ける
【0058】
【0059】
【0060】
以上のように、本発明の改質サクシノグリカンを使用してとろみを付与したスープは、85℃および20℃のいずれの温度においても、糊状感のない適度なとろみを有しており、美味しいスープを作製することができた。これに対し、キサンタンガムを用いた場合は糊状感があり、美味しさの面で劣るものとなった。