(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102534
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】日常生活活動向上支援装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/22 20180101AFI20220630BHJP
【FI】
G06Q50/22
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217327
(22)【出願日】2020-12-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [発行日] 2020年2月1日 [刊行物] 地域包括ケア時代の通所&施設マネジメント 2020年2月号,第11巻,第1号,第74~79頁,株式会社日総研出版
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日 2020年3月5日 ウェブサイトのアドレス https://daybook.jp/screening/article/ 公開者 株式会社ケアスマイル青森
(71)【出願人】
【識別番号】520513749
【氏名又は名称】株式会社ケアスマイル青森
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】大里 洋志
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA11
(57)【要約】
【課題】日常生活活動向上を可能にする。
【解決手段】ADL向上支援装置は、人間の少なくとも4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作を定義した訓練指標と、4種類の動作の参照画像と、訓練対象者の自立達成度を評価するための参照スコアとを訓練指標毎に記憶部に予め格納し;初回訓練開始を契機として、4種類の動作の基本順序を採用した第1の訓練プログラムを表示部に表示処理し;第1の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、訓練対象者の達成スコアを決定し、訓練指標毎に、表示処理するとともに記憶部に格納し;継続訓練開始を契機として、訓練指標毎の達成スコアに応じて、4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した第2の訓練プログラムを表示処理し;第2の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、訓練対象者の達成スコアを決定し、訓練指標毎に、表示処理する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
訓練対象者の日常生活活動の向上を支援するための訓練プログラムを提供する日常生活活動向上支援装置であって;
人間の少なくとも4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作を定義した訓練指標と、前記4種類の動作の参照画像と、訓練対象者の自立達成度を評価するための参照スコアとを前記訓練指標毎に記憶部に予め格納し;
前記訓練対象者に対する初回訓練開始を契機として、前記4種類の動作の基本順序を採用した第1の訓練プログラムを表示部に表示処理し;
前記第1の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、前記訓練対象者の達成スコアを決定し、前記訓練指標毎に、前記表示部に表示処理するとともに前記記憶部に格納し;
前記訓練対象者に対する継続訓練開始を契機として、前記訓練指標毎の前記達成スコアに応じて、前記4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した第2の訓練プログラムを前記表示部に表示処理し;
前記第2の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、前記訓練対象者の前記達成スコアを決定し、前記訓練指標毎に、前記表示部に表示処理するとともに前記記憶部に格納する;
ように構成されたプロセッサを備える日常生活活動向上支援装置。
【請求項2】
前記4段階の発育発達の動作及び順序は、人間本来の基礎的な動作パターンに対応し、腹圧及び骨盤の安定、体幹の安定、重心移動及び両足支持、及び左右非対称及び片脚支持を含む、
請求項1記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項3】
前記4種類の動作は、日常生活活動の基礎となる動作であり、骨盤安定下肢挙上、座位保持肩挙上、椅子からの立ち上がり、及び片脚立ちを第1訓練指標、第2訓練指標、第3訓練指標、及び第4訓練指標として含む、
請求項1または2記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項4】
前記4種類の動作の基本順序は、前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標の順序である、
請求項3記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項5】
前記4種類の動作の変更順序は、前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標の少なくとも1つの下位指標を省略した順序である、
請求項3または4記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項6】
前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標のそれぞれは、複数の異なるスコアに対応する難易度の異なる3区分の細分動作を含む、
請求項3記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項7】
前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標のそれぞれは、複数の異なるスコアに対応する難易度の異なる3区分の細分動作を含み、
前記難易度の異なる3区分の細分動作における選択的指定を介した獲得動作の肯定判定及び否定判定に基づいて、前記訓練対象者の前記達成スコアを決定する、
ように構成された前記プロセッサを備える請求項3記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項8】
前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標のそれぞれは、複数の異なるスコアに対応する難易度の異なる3区分の細分動作を含み、
前記難易度の異なる3区分の細分動作における撮像を介した画像解析による獲得動作の肯定判定及び否定判定に基づいて、前記訓練対象者の前記達成スコアを決定する、
ように構成された前記プロセッサを備える請求項3記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項9】
前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標が全て低位の達成スコアであるときは、前記基本順序で前記第2の訓練プログラムを生成する、
ように構成された前記プロセッサを備える請求項3記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項10】
前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標が隣接順序において同一の達成スコアであるときは、低位順序の訓練指標を採用した変更順序で前記第2の訓練プログラムを生成する、
ように構成された前記プロセッサを備える請求項3記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項11】
前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標において、前記訓練対象者の身体の左右差異評価があるときは、低い方の達成スコアの訓練指標を採用した変更順序で前記第2の訓練プログラムを生成する、
ように構成された前記プロセッサを備える請求項3記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項12】
前記訓練対象者の日常生活活動の自立度を示す指標であるバーセルインデックスによるスコアと、前記訓練対象者の前記4種類の動作の達成スコアとを併せ考慮して、前記訓練対象者の自立達成度を評価する、
ように構成された前記プロセッサを備える請求項1~11のいずれか1項記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項13】
前記日常生活活動の自立度を示す指標において、前記訓練対象者の身体の左右差異評価があるときは、高い方のスコアを採用する、
ように構成された前記プロセッサを備える請求項12記載の日常生活活動向上支援装置。
【請求項14】
訓練対象者の日常生活活動の向上を支援するための訓練プログラムを提供する日常生活活動向上支援方法であって;
人間の少なくとも4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作を定義した訓練指標と、前記4種類の動作の参照画像と、訓練対象者の自立達成度を評価するための参照スコアとを前記訓練指標毎に記憶部に予め格納し;
前記訓練対象者に対する初回訓練開始を契機として、前記4種類の動作の基本順序を採用した第1の訓練プログラムを表示部に表示処理し;
前記第1の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、前記訓練対象者の達成スコアを決定し、前記訓練指標毎に、前記表示部に表示処理するとともに前記記憶部に格納し;
前記訓練対象者に対する継続訓練開始を契機として、前記訓練指標毎の前記達成スコアに応じて、前記4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した第2の訓練プログラムを前記表示部に表示処理し;
前記第2の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、前記訓練対象者の前記達成スコアを決定し、前記訓練指標毎に、前記表示部に表示処理するとともに前記記憶部に格納する;
ことをプロセッサが実行する日常生活活動向上支援方法。
【請求項15】
訓練対象者の日常生活活動の向上を支援するための訓練プログラムを提供する日常生活活動向上支援プログラムであって;
人間の少なくとも4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作を定義した訓練指標と、前記4種類の動作の参照画像と、訓練対象者の自立達成度を評価するための参照スコアとを前記訓練指標毎に記憶部に予め格納し;
前記訓練対象者に対する初回訓練開始を契機として、前記4種類の動作の基本順序を採用した第1の訓練プログラムを表示部に表示処理し;
前記第1の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、前記訓練対象者の達成スコアを決定し、前記訓練指標毎に、前記表示部に表示処理するとともに前記記憶部に格納し;
前記訓練対象者に対する継続訓練開始を契機として、前記訓練指標毎の前記達成スコアに応じて、前記4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した第2の訓練プログラムを前記表示部に表示処理し;
前記第2の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、前記訓練対象者の前記達成スコアを決定し、前記訓練指標毎に、前記表示部に表示処理するとともに前記記憶部に格納する;
ことをプロセッサに実行させる日常生活活動向上支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日常生活活動向上支援装置に関し、更には、日常生活活動向上支援方法及び日常生活活動向上支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人口構造が逆ピラミッド型となり、超高齢化社会に向かっている近年においては、要介助者などを含む訓練対象者の日常生活活動の向上を支援するための日常生活活動向上支援技術が要求されている。
【0003】
このような向上支援技術の一例が、例えば、特許文献1,2,3,4において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-013967号公報
【特許文献2】特開2017-027192号公報
【特許文献3】特開2015-148915号公報
【特許文献4】特開2011-013834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1,2,3,4においては、訓練対象者が現時点で獲得しなければいけない動作を迅速にスクリーニングし、その獲得しなければいけない動作について適格な訓練内容を処方する日常生活活動向上支援技術は開示されていない。
【0006】
課題は、訓練対象者が現時点で獲得しなければいけない動作を迅速にスクリーニングし、その獲得しなければいけない動作について適格な訓練内容を処方する日常生活活動向上支援技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、一態様の日常生活活動向上支援装置は、訓練対象者の日常生活活動の向上を支援するための訓練プログラムを提供する日常生活活動向上支援装置であって;人間の少なくとも4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作を定義した訓練指標と、前記4種類の動作の参照画像と、訓練対象者の自立達成度を評価するための参照スコアとを前記訓練指標毎に記憶部に予め格納し;前記訓練対象者に対する初回訓練開始を契機として、前記4種類の動作の基本順序を採用した第1の訓練プログラムを表示部に表示処理し;前記第1の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、前記訓練対象者の達成スコアを決定し、前記訓練指標毎に、前記表示部に表示処理するとともに前記記憶部に格納し;前記訓練対象者に対する継続訓練開始を契機として、前記訓練指標毎の前記達成スコアに応じて、前記4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した第2の訓練プログラムを前記表示部に表示処理し;前記第2の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、前記訓練対象者の前記達成スコアを決定し、前記訓練指標毎に、前記表示部に表示処理するとともに前記記憶部に格納するように構成されたプロセッサを備える。
【0008】
上記態様において、前記4段階の発育発達の動作及び順序は、人間本来の基礎的な動作パターンに対応し、腹圧及び骨盤の安定、体幹の安定、重心移動及び両足支持、及び左右非対称及び片脚支持を含む。
【0009】
上記態様において、前記4種類の動作は、日常生活活動の基礎となる動作であり、骨盤安定下肢挙上、座位保持肩挙上、椅子からの立ち上がり、及び片脚立ちを第1訓練指標、第2訓練指標、第3訓練指標、及び第4訓練指標として含む。
【0010】
上記態様において、前記4種類の動作の基本順序は、前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標の順序である。
【0011】
上記態様において、前記4種類の動作の変更順序は、前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標の少なくとも1つの下位指標を省略した順序である。
【0012】
上記態様において、前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標のそれぞれは、複数の異なるスコアに対応する難易度の異なる3区分の細分動作を含む。
【0013】
上記態様において、前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標のそれぞれは、複数の異なるスコアに対応する難易度の異なる3区分の細分動作を含み、
前記難易度の異なる3区分の細分動作における選択的指定を介した獲得動作の肯定判定及び否定判定に基づいて、前記訓練対象者の前記達成スコアを決定する、ように構成された前記プロセッサを備える。
【0014】
上記態様において、前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標のそれぞれは、複数の異なるスコアに対応する難易度の異なる3区分の細分動作を含み、
前記難易度の異なる3区分の細分動作における撮像を介した画像解析による獲得動作の肯定判定及び否定判定に基づいて、前記訓練対象者の前記達成スコアを決定する、ように構成された前記プロセッサを備える。
【0015】
上記態様において、前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標が全て低位の達成スコアであるときは、前記基本順序で前記第2の訓練プログラムを生成する、ように構成された前記プロセッサを備える。
【0016】
上記態様において、前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標が隣接順序において同一の達成スコアであるときは、低位順序の訓練指標を採用した変更順序で前記第2の訓練プログラムを生成する、ように構成された前記プロセッサを備える。
【0017】
上記態様において、前記4種類の動作の前記第1訓練指標、前記第2訓練指標、前記第3訓練指標、及び前記第4訓練指標において、前記訓練対象者の身体の左右差異評価があるときは、低い方の達成スコアの訓練指標を採用した変更順序で前記第2の訓練プログラムを生成する、ように構成された前記プロセッサを備える。
【0018】
上記態様において、前記訓練対象者の日常生活活動の自立度を示す指標であるバーセルインデックスによるスコアと、前記訓練対象者の前記4種類の動作の達成スコアとを併せ考慮して、前記訓練対象者の自立達成度を評価する、ように構成された前記プロセッサを備える。
【0019】
上記態様において、前記日常生活活動の自立度を示す指標において、前記訓練対象者の身体の左右差異評価があるときは、高い方のスコアを採用する、ように構成された前記プロセッサを備える。
【0020】
上述した各態様の日常生活活動向上支援装置における特徴は、日常生活活動向上支援方法として実施してもよい。また、日常生活活動向上支援方法をプロセッサに実行させる日常生活活動向上支援プログラムとして実施してもよい。
【発明の効果】
【0021】
開示した技術によれば、訓練対象者が現時点で獲得しなければいけない動作を迅速にスクリーニングし、その獲得しなければいけない動作について適格な訓練内容を処方することができるので、訓練対象者の日常生活活動向上に繋げることができる。
【0022】
他の課題、特徴及び利点は、図面及び特許請求の範囲とともに取り上げられる際に、以下に記載される発明を実施するための形態を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施の形態の日常生活活動向上支援装置の機能を説明するための図。
【
図2】一実施の形態の日常生活活動向上支援装置の構成及び機能を説明するための図。
【
図3】一実施の形態における日常生活活動向上支援処理を説明するための図。
【
図4】一実施の形態における日常生活活動向上支援処理を説明するための図。
【
図5】一実施の形態の処理における第1訓練指標を説明するための図。
【
図6】一実施の形態の処理における第2訓練指標を説明するための図。
【
図7】一実施の形態の処理における第3訓練指標を説明するための図。
【
図8】一実施の形態の処理における第4訓練指標を説明するための図。
【
図9】一実施の形態の処理におけるバーセルインデックスを説明するための図。
【
図10】一実施の形態における日常生活活動向上支援処理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、更に詳細に説明する。図面には好ましい実施形態が示されている。しかし、多くの異なる形態で実施されることが可能であり、本明細書に記載される実施形態に限定されない。
【0025】
[日常生活活動向上支援装置]
図1を参照すると、一実施の形態における日常生活活動向上支援装置1(ADL向上支援装置1と記載することもある)は、訓練施設に固定的または移動可能に設けられ、この訓練施設を利用する訓練対象者の日常生活活動(ADL:Activities of Daily Living)の向上を支援するための訓練プログラム(エクササイズプログラム)を提供する。
【0026】
ここに開示するADL向上支援装置1の発明者は、要介助者などを含む多数の訓練対象者に対する訓練(処方)を通して、訓練対象者の日常生活活動(単に、ADLと記載することもある)を向上するためには、部分的な動き(motion)の改善だけではなく、動作(movement)の改善が必要であることを認識した。つまり、訓練対象者について、関節や部位の動きを改善しても、動作を改善させるには不十分である。動作の改善のためには、バランス、姿勢のコントロール、認知、知覚、及びコーディネーションなどの運動制御能力が更に必要になるからである。したがって、発明者は、動作を改善してこそ、日常生活活動の向上に繋がることに着眼した。
【0027】
このADL向上支援装置1における重要な一要素として、人間の少なくとも4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作を訓練指標に定義する。つまり、4段階の発育発達の動作及び順序は、腹圧及び骨盤の安定、体幹の安定、重心移動及び両足支持、及び左右非対称及び片脚支持を含み、人間本来の基礎的な動作パターンに対応する。
【0028】
そして、4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作は、日常生活活動の基礎となる動作であり、骨盤安定下肢挙上(A-SLR:Active-Straight Leg Raising)、座位保持肩挙上、椅子からの立ち上がり、及び片脚立ちを第1訓練指標、第2訓練指標、第3訓練指標、及び第4訓練指標として含む。ここで、厳密には、骨盤安定下肢挙上は能動的骨盤安定下肢挙上であり、片脚立ちは開眼片脚立ちである。また、座位保持肩挙上は座位保持肩屈曲と称することもある。
【0029】
このADL向上支援装置1においては、訓練対象者に対して、人間本来の基礎的な動作パターンを根拠にし、この動作パターンに準じた4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した訓練プログラムによる獲得動作のスクリーニング(ふるい分け)を実施する。
【0030】
図1においては、ADL向上支援装置1は、訓練施設に単独配備されるスタンドアロン状態で示しているが、これに限定されることはない。つまり、ADL向上支援装置1は、訓練施設における複数の訓練場所にそれぞれ配備されてもよい。複数のADL向上支援装置1を設ける場合、複数のADL向上支援装置1は、LAN(Local Area Network)などの通信ネットワークを介して統括サーバに接続され、このサーバの記憶部をデータベースとして共有可能になる。また、複数のADL向上支援装置1のそれぞれはこのサーバと機能を分担することになる。なお、この変形構成については、当業者が容易に理解でき、実施可能であるので、ここでは図示及び詳細説明を省略する。
【0031】
図2を参照すると、ADL向上支援装置1は、タブレット型機器、ラップトップ型パーソナルコンピータ、及びデスクトップ型パーソナルコンピータなどの情報処理機器により実現可能であり、ハードウェア構成として、次の要素を含んでいる。つまり、ADL向上支援装置1は、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)20と、作業用メモリとしてのRAM(Random Access Memory)21と、立ち上げのためのブートプログラムを格納したROM(Read Only Memory)22とを備える。
【0032】
また、ADL向上支援装置1は、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、及び各種情報(データを含む)を書換え可能に格納する不揮発性のフラッシュメモリ23としてのディスクを備える。
【0033】
ADL向上支援装置1は、配備形態及び利用形態など必要に応じて、有線通信または無線通信を行う通信制御部24と、NIC(Network Interface Card)などの通信インタフェース部25と、カメラを含む撮像部26とを更に備える。
【0034】
ADL向上支援装置1は、ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)を含む表示部27と、表示制御部28と、テンキー、各種機能ボタン(キー)、ポインティング部、及びカーソル送り部などを含む情報入力・指定部29などとを更に備える。
【0035】
一例であるが、ADL向上支援装置1において、上述した機能及び後に詳述する機能を論理的に実現するには、フラッシュメモリ23に日常生活活動向上支援プログラムをアプリケーションプログラムとしてインストールする。そして、ADL向上支援装置1においては、訓練担当者による指示または電源投入を契機に、プロセッサ(CPU)20が日常生活活動向上支援プログラムをRAM21に展開して実行する。
【0036】
図1、
図2及び関連図を併せ参照して詳述すると、訓練担当者(セラピスト(療法士)である有資格者及びその補助者を含む)は、ADL向上支援装置1において、日常生活活動向上支援プログラムを起動した後、表示部27に表示される事前設定画面(図示省略)において、人間の少なくとも4段階の発育発達の動作及び順序と、4種類の動作の第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4とを関係付けて定義する(
図3参照)。
【0037】
図3に例示するように、4段階の発育発達の動作及び順序は、人間本来の基礎的な動作パターンに対応し、腹圧及び骨盤の安定、体幹の安定、重心移動及び両足支持、及び左右非対称及び片脚支持を含む。そして、4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けられる4種類の動作は、日常生活活動の基礎となる動作であり、骨盤安定下肢挙上(単に、A-SLRと記載することもある)、座位保持肩挙上、椅子からの立ち上がり、及び片脚立ちを含む。
【0038】
図3に例示する4段階の発育発達の動作及び順序及び4種類の動作に関する画像を含む定義内容は、事前設定画面における確定ボタンの指定操作に応じて、ADL向上支援装置1の記憶部を構成するフラッシュメモリ23に格納される。
【0039】
続いて、
図4に例示するように、訓練担当者は、事前設定画面において、4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作の第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4のそれぞれが、複数の異なるスコアに対応する難易度の異なる3区分の細分動作を含むように定義する。
ここでは、難易度の異なる3区分の細分動作は訓練対象者に訓練内容を明確に提示し説明するための参照画像を含む。参照画像は模式的画像及び実画像のいずれであってよい。各参照画像に対応する複数の異なるスコアは訓練対象者の自立達成度を評価するための参照スコア(得点:1,2,3)である。
【0040】
図4に例示する4種類の動作の定義内容は、事前設定画面における確定ボタンの指定操作に応じて、ADL向上支援装置1の記憶部を構成するフラッシュメモリ23に訓練指標毎に格納される。
【0041】
図4に例示する定義内容と、
図3に例示する定義内容とは、互いにリンクするようにフラッシュメモリ23に格納されるので、第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4のいずれかを指定操作(例えば、ダブルクリック)することにより、相互に参照可能である。
【0042】
ADL向上支援装置1においては、訓練対象者に対して、人間本来の基礎的な動作パターンを根拠にし、この動作パターンに準じた4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した訓練プログラムによる獲得動作のスクリーニング(ふるい分け)を実施する。
【0043】
ここで、4種類の動作の基本順序は、第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4の順序である。また、4種類の動作の変更順序は、第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4の少なくとも1つの下位指標を省略した順序である。
【0044】
訓練担当者が、表示部27に表示される訓練実行画面(図示省略)において、訓練対象者を氏名または識別情報(ID)により指定して初回訓練開始ボタンを指定操作すると、これを契機に、4種類の動作の基本順序を採用した訓練プログラム(第1の訓練プログラム)として、
図4に例示する4種類の動作の定義内容の全てがフラッシュメモリ23から読み出されて表示部27に表示処理される。
【0045】
訓練担当者は、表示された第1の訓練プログラムによる4種類の動作の基本順序に基づいて、訓練対象者に対して獲得動作のスクリーニングを実施して、訓練対象者の達成スコア(得点:0,1,2,3)を決定する。
決定した達成スコアは、第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4毎に、表示部27に表示処理されるとともに、フラッシュメモリ23に構成した訓練結果テーブルにおける訓練対象者の該当記憶領域(レコード)に格納される。
【0046】
この訓練結果テーブルは、図示を省略しているが、訓練対象者の氏名、識別情報、属性(性別、年齢、住所などを含む)と、初回訓練に関する情報(実施日、訓練プログラムの種類、達成スコア、バーセルインデックスなどを含む)と、継続訓練に関する情報(実施日、訓練プログラムの種類、達成スコア、バーセルインデックスなどを含む)とを少なくとも含む、訓練対象者毎の記憶領域を有する。
【0047】
後に詳述するように、一例として、難易度の異なる3区分の細分動作に関し、訓練担当者による選択的指定操作を介した獲得動作の肯定判定及び否定判定に基づいて、訓練対象者の達成スコアを決定する。
なお、変形例において詳細するように、難易度の異なる3区分の細分動作に関し、撮像を介した獲得動作の自動肯定判定及び自動否定判定に基づいて、訓練対象者の達成スコアを決定する処理手法を採ることも可能である。
【0048】
訓練対象者に対して実施する獲得動作のスクリーニングに用いる4種類の動作の第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4については、具体例として、次に示すように予め定義し、フラッシュメモリ23に格納しておく(
図5、
図6、
図7及び
図8参照)。なお、4種類の動作の第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4に含まれる難易度の異なる細分動作については、各スクリーニングの目的を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0049】
第1訓練指標EX1:骨盤安定下肢挙上(A-SLR)(
図5参照)
[目的]
このスクリーニングでは、骨盤安定能力と、股関節、膝関節及び足関節の可動性とを評価する。
[手順]
(1)仰向けで寝ることができますか?
(2)片方の手で、同側の足先を触ることができますか?
(3)仰向けからうつ伏せに寝返りすることができますか?
(4)身体の左右についてスクリーニングを行う。
[参照スコア]
3点…手順(3)を行うことができる。
2点…手順(2)を行うことができる。
1点…手順(1)を行うことができる。
【0050】
第2訓練指標EX2:座位保持肩挙上(
図6参照)
[目的]
このスクリーニングでは、体幹の安定能力(座位保持)と肩関節の可動性とを評価する。
[手順]
(1)椅子に座ることができますか? 条件:背もたれ使用可。
(2)椅子に座ることができますか? 条件:背もたれ使用不可。
(3)肩を90度以上挙げることができますか? 条件:背もたれ使用不可。
(4)身体の左右についてスクリーニングを行う。
[参照スコア]
3点…手順(3)を行うことができる。
2点…手順(2)を行うことができる。
1点…手順(1)を行うことができる。
【0051】
第3訓練指標EX3:椅子からの立ち上がり(
図7参照)
[目的]
このスクリーニングでは、体幹をコントロールしながら股関節を屈曲し、重心を臀部から足部へ、かつ足部から臀部へスムーズに移動させることにより、座位から立位及び立位から座位への変位が安全に行われているかを評価する。
[手順]
(1)椅子からお尻を上げることができますか?
条件:支を使用する。
(2)座位の姿勢から足部へ重心移動しスムーズに立ち上がることができますか?
条件:支を使用する。
(3)立位の姿勢から足部へ重心を残したままスムーズに座ることができますか?
条件:支を使用する。
(4)座位の姿勢から足部へ重心移動しスムーズに立ち上がることができますか?
条件:支の使用なし。
(5)立位の姿勢から足部へ重心を残したままスムーズに座ることができますか?
条件:支の使用なし。
[参照スコア]
3点…手順(4),(5)を行うことができる。
2点…手順(2),(3)を行うことができる。
1点…手順(1)を行うことができる。
【0052】
第4訓練指標EX4:片脚立ち(
図8参照)
[目的]
このスクリーニングでは、片脚を上げた開眼静的状態で、支持脚の足部を支持面とし、各部位が静的安定を保つことができるかを評価する。
[手順]
(1)手を使うと1秒以上片脚を上げることができますか?
(2)手を使うと片脚立ちができ、支持脚足部と頭部のアライメント(alignment)が床面に対して垂直上にありますか?
(3)手を使うと片脚立ちができ、肩及び骨盤のラインが平行にありますか?
(4)手を使わず片脚立ちができ、支持脚足部と頭部のアライメントが床面に対して垂直上にありますか?
(5)手を使わず片脚立ちができ、肩及び骨盤のラインが平行にありますか?
(6)身体の左右についてスクリーニングを行う。
[参照スコア]
3点…手順(4),(5)を行うことができる。
2点…手順(2),(3)を行うことができる。
1点…手順(1)を行うことができる。
【0053】
フラッシュメモリ23に格納されている上述した訓練指標の定義内容(
図5、
図6、
図7及び
図8参照)は、
図4に例示する4種類の動作の第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4とリンクするように関係付けられる。したがって、訓練担当者は、訓練実行画面において表示されている
図4に示す4種類の動作の第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4のいずれかを指定操作(例えば、シングルクリック)することにより、該当の訓練指標の定義内容を参照するとともに、訓練対象者に提示して獲得動作のスクリーニングを実施することができる。
【0054】
上述したように、訓練担当者が、第1の訓練プログラムによる4種類の動作の基本順序に基づいて、訓練対象者に対して獲得動作のスクリーニングを実施するとき、ADL向上支援装置1においては、難易度の異なる3区分の細分動作に関し、訓練担当者による選択的指定操作を介した獲得動作の肯定判定及び否定判定に基づいて、訓練対象者の達成スコア(得点:0,1,2,3)を自動的に決定する。
【0055】
この決定手法について詳述すると、例えば、4種類の動作の基本順序における第1訓練指標EX1の骨盤安定下肢挙上(A-SLR)に関し、訓練対象者に対して難易度の異なる3区分の細分動作により獲得動作のスクリーニングを実施するとき、
図5に例示する処理手順の表示に基づいて、訓練担当者は獲得動作の肯定判定(Yes)及び否定判定(No)を選択的に指定操作する。
【0056】
ADL向上支援装置1においては、獲得動作の肯定判定(Yes)及び否定判定(No)を集計することにより、訓練対象者の達成スコアを自動的に決定することができる。例えば、
図5に例示する骨盤安定下肢挙上のスクリーニングの処理手順における第1判定DS1、第2判定DS2、及び第3判定DS3が全て肯定判定(Yes)であるときは、訓練対象者の達成スコアを得点3と決定する。なお、第1判定DS1が否定判定(No)であるときは、訓練対象者の達成スコアは得点0と決定される。決定した達成スコアは、訓練結果テーブルにおける訓練対象者の該当記憶領域(レコード)に格納される。
【0057】
次に、訓練担当者が、表示部27に表示される訓練実行画面において、訓練対象者を氏名または識別情報(ID)により指定して継続訓練開始ボタンを指定操作すると、ADL向上支援装置1においては、訓練指標毎の前回の達成スコアに応じて、4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した訓練プログラム(第2の訓練プログラム)が作成(生成)される。そして、生成された第2の訓練プログラムは獲得動作のスクリーニングを実施するために、表示部27に表示処理される。
【0058】
ここで、4種類の動作の基本順序を採用した第2の訓練プログラムを生成することは、
図4に例示する4種類の動作の定義内容の全てがフラッシュメモリ23から読み出されて表示部27に表示処理されることに対応する。
【0059】
4種類の動作の訓練結果テーブルにおける第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4が全て低位の達成スコア(例えば、全てスコア0または1)であるときは、基本順序で第2の訓練プログラムを生成する。
【0060】
そして、第2の訓練プログラムによる4種類の動作の基本順序に基づいて、訓練対象者に対して獲得動作のスクリーニングを実施して、訓練対象者の達成スコア(得点:0,1,2,3)を決定することに関連する手法は、上述した第1の訓練プログラムによる4種類の動作の基本順序に基づく処理と同一である。
【0061】
また、4種類の動作の変更順序を採用した第2の訓練プログラムを生成することは、
図4に例示する4種類の動作の定義内容における第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4の少なくとも1つの下位指標が省略された順序でフラッシュメモリ23から読み出されて表示部27に表示処理されることに対応する。
【0062】
ただし、4種類の動作の変更順序を採用した第2の訓練プログラムを生成するときは、次に示すルールを適用する。4種類の動作の訓練結果テーブルにおける第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4が隣接順序において同一の達成スコアであるときは、低位順序の訓練指標を採用した変更順序で第2の訓練プログラムを生成する。
つまり、訓練結果テーブルにおける第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4の達成スコアが、例えば、得点3,2,2,2であるときは、隣接順序の第2訓練指標EX2及び第3訓練指標EX3において同一の得点2であることを判定することにより、低位順序の第2訓練指標EX2を採用した変更順序(第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4)で第2の訓練プログラムを生成する。
【0063】
また、4種類の動作の訓練結果テーブルにおける第1訓練指標EX1、第2訓練指標EX2、第3訓練指標EX3、及び第4訓練指標EX4が、訓練対象者の身体の左右差異評価を示すときは、低い方の達成スコアの訓練指標を採用した変更順序で第2の訓練プログラムを生成する。
つまり、訓練結果テーブルにおける第2訓練指標EX2の達成スコアが、例えば、身体の右得点3及び身体の左得点2であるときは、身体の左右差異があることを判定することにより、低い方の達成スコア(身体の左得点2)の第2訓練指標EX2を採用して、他の訓練指標を考慮した変更順序で第2の訓練プログラムを生成する。
【0064】
訓練担当者が、第2の訓練プログラムによる4種類の動作の変更順序に基づいて、訓練対象者に対して獲得動作のスクリーニングを実施するとき、ADL向上支援装置1においては、難易度の異なる3区分の細分動作に関し、訓練担当者による選択的指定操作を介した獲得動作の肯定判定及び否定判定に基づいて、訓練対象者の達成スコア(得点:0,1,2,3)を自動的に決定する。
【0065】
この決定手法については、4種類の動作の基本順序において述べたとおり、訓練対象者に対して難易度の異なる3区分の細分動作により獲得動作のスクリーニングを実施するとき、
図5に例示する処理手順の表示に基づいて、訓練担当者は獲得動作の肯定判定(Yes)及び否定判定(No)を選択的に指定操作する。
【0066】
ADL向上支援装置1においては、獲得動作の肯定判定(Yes)及び否定判定(No)を集計することにより、訓練対象者の達成スコアを自動的に決定することができる。決定した達成スコアは、訓練結果テーブルにおける訓練対象者の該当記憶領域(レコード)に格納される。
【0067】
上述したADL向上支援装置1においては、訓練対象者の達成スコアが合計得点12を達成することを目標にするのではなく、4種類の動作の全てが得点2以上を達成することを目標にする。
【0068】
ところで、通常、バーセルインデックスBI(Barthel Index)は、
図9に示すように、「食事」、「車椅子からベッドへの移動」、「整容」、「トイレ動作」、「入浴」、「歩行」、「階段昇降」、「着替え」、「排便コントロール」、及び「排尿コントロール」の10項目の自立度評価内容について、自立、部分介助、及び全介助などを数段階の自立度で評価するための指標である。
このバーセルインデックスBIにおいては、自立度に応じて点数が設定されており、完全に自立している場合は100点である。目安としては、合計点数が40点以下ならほとんど全ての項目に介助が必要であり、60点以下では起居移動動作を中心に介助が必要であると推測される。
【0069】
上述したADL向上支援装置1においては、訓練対象者の日常生活活動の自立度を示す指標であるバーセルインデックスBIによるスコア(ADL値)を最終的な向上目標とする。したがって、初回訓練開始時及び継続訓練開始時に訓練対象者に対する質問への回答から得られるバーセルインデックスBIのスコアと、訓練対象者の4種類の動作の達成スコアとを併せ考慮して、訓練対象者の自立達成度が評価される。
そして、初回訓練開始時及び継続訓練開始時に、訓練対象者に対する質問への回答から得られるバーセルインデックスBIのスコアにおいて、訓練対象者の身体の左右差異評価があるときは、高い方のスコアを採用する。
【0070】
[日常生活活動向上支援処理]
次に、上述したADL向上支援装置1における動作について、
図1、
図2及び関連図を併せ参照して説明する。
図10は上述したADL向上支援装置1における日常生活活動向上支援処理のシーケンスの一例を示す。
【0071】
ADL向上支援装置1においては、訓練担当者による電源投入を契機に、処理プログラムが起動され、プロセッサ(CPU)20が次に述べる日常生活活動向上支援処理を訓練担当者との協働により遂行する。
【0072】
[処理S41(
図10参照)]4種類の動作を定義した訓練指標と、参照画像と、参照スコアとを予め格納する。
つまり、人間の少なくとも4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作を定義した訓練指標と、4種類の動作の参照画像と、訓練対象者の自立達成度を評価するための参照スコアとを訓練指標毎に記憶部23に予め格納する。
【0073】
[処理S42]初回訓練時、4種類の動作の基本順序を採用した第1の訓練プログラムを表示処理する。
つまり、訓練対象者に対する初回訓練開始を契機として、4種類の動作の基本順序を採用した第1の訓練プログラムを表示部27に表示処理する。
【0074】
[処理S43]第1の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングにより、訓練対象者の達成スコアを決定する。
つまり、第1の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、訓練対象者の達成スコアを決定し、訓練指標毎に、表示部27に表示処理するとともに記憶部23に格納する。
【0075】
[処理S44]継続訓練時、4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した第2の訓練プログラムを表示処理する。
つまり、訓練対象者に対する継続訓練開始を契機として、訓練指標毎の達成スコアに応じて、4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した第2の訓練プログラムを表示部27に表示処理する。
【0076】
[処理S45]第2の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングにより、訓練対象者の達成スコアを決定する。
つまり、第2の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、訓練対象者の達成スコアを決定し、訓練指標毎に、表示部27に表示処理するとともに記憶部23に格納する。
【0077】
[一実施の形態の特徴及び効果]
上述した一実施の形態のADL向上支援装置1においては、人間の少なくとも4段階の発育発達の動作及び順序に関係付けた4種類の動作を定義した訓練指標と、4種類の動作の参照画像と、訓練対象者の自立達成度を評価するための参照スコアとを訓練指標毎に記憶部23に予め格納する。
そして、ADL向上支援装置1においては、訓練対象者に対する初回訓練開始を契機として、4種類の動作の基本順序を採用した第1の訓練プログラムを表示部27に表示処理し、第1の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、訓練対象者の達成スコアを決定し、訓練指標毎に、表示部27に表示処理するとともに記憶部23に格納する。
また、ADL向上支援装置1においては、訓練対象者に対する継続訓練開始を契機として、訓練指標毎の達成スコアに応じて、4種類の動作の基本順序及び変更順序のいずれかを採用した第2の訓練プログラムを表示部27に表示処理し、第2の訓練プログラムに基づく獲得動作のスクリーニングの実施により、訓練対象者の達成スコアを決定し、訓練指標毎に、表示部27に表示処理するとともに記憶部23に格納する。
これにより、訓練対象者が現時点で獲得しなければいけない動作を迅速にスクリーニングし、その獲得しなければいけない動作について適格な訓練内容を処方することができるので、訓練対象者のADL向上に繋げることができる。
【0078】
また、上述した一実施の形態のADL向上支援装置1においては、次に示す効果を少なくとも含んでいる。
(1)ADLの向上を目指した訓練対象者毎に訓練(エクササイズ)を行うためのエントリーポイントを見つけ出すことができる。そして、できそうでできない動作をエントリーポイントとして、その動作を行う際の条件を変えることで、頑張ったらできるレベルの訓練プログラムを作成できる。
(2)訓練対象者に対して獲得してほしい動作とエクササイズとをセットで処方できる。そして、エクササイズの意味の理解が促されることで、効果的なエクササイズの実施及びモチベーションアップへつながる。
(3)獲得してほしい動作及びエクササイズが明確になるため、それに基づいてグループを形成できので、少ない訓練担当者数でも運営できる。
【0079】
[一実施の形態の変形例]
上述した一実施の形態のADL向上支援装置1においては、次に記載する変形例を採用することが可能である。
【0080】
上述した一実施の形態のADL向上支援装置1においては、複数の異なるスコアに対応する難易度の異なる3区分の細分動作に関し、訓練担当者による選択的指定操作を介した獲得動作の肯定判定(Yes)及び否定判定(No)に基づいて、訓練対象者の達成スコア(得点:0,1,2,3)を決定することを例示した(
図4、
図5~
図8参照)。
この変形例のADL向上支援装置1においては、複数の異なるスコアに対応する難易度の異なる3区分の細分動作に関し、カメラを含む撮像部26の撮像を介した画像解析による獲得動作の自動肯定判定及び自動否定判定に基づいて、訓練対象者の同達成スコアを決定する処理手法を採ることも可能である。
【0081】
[他の変形例]
上述した一実施の形態及び変形例における処理はコンピュータで実行可能なプログラムとして提供され、CD-ROMやフレキシブルディスクなどの非一時的コンピュータ可読記録媒体、さらには通信回線を経て提供可能である。
【0082】
また、上述した一実施の形態及び変形例における各処理はその任意の複数または全てを選択し組合せて実施することもできる。
【符号の説明】
【0083】
1 日常生活活動(ADL)向上支援装置
EX1 第1訓練指標(骨盤安定下肢挙上)
EX2 第2訓練指標(座位保持肩挙上)
EX3 第3訓練指標(椅子からの立ち上がり)
EX4 第4訓練指標(片脚立ち)