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特開2022-102537油脂組成物および油脂組成物を含有する食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102537
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】油脂組成物および油脂組成物を含有する食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220630BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20220630BHJP
   A21D 2/14 20060101ALN20220630BHJP
   A21D 13/00 20170101ALN20220630BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20220630BHJP
【FI】
A23D9/00 504
A21D13/80
A21D2/14
A21D13/00
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217334
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】三平 浩人
(72)【発明者】
【氏名】石田 栄一
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
4B036
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH05
4B026DK01
4B026DK05
4B026DL01
4B026DL08
4B026DL09
4B026DP01
4B026DP03
4B032DB01
4B032DB22
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK45
4B032DK47
4B032DK51
4B032DK54
4B032DL11
4B032DP08
4B032DP16
4B032DP33
4B032DP40
4B036LF01
4B036LH13
4B036LH22
4B036LH39
4B036LH49
4B036LK01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、特定の油脂中に乳脂肪の酵素処理物で酸価の高い風味素材を含有させることで、強いバター様の香りと呈味を発現し、えぐ味を抑制した油脂組成物を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するために、35℃における固体脂含量が2~15%、ラウリン酸含量が4~30質量%である油脂に、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、を含有する油脂組成物を提供する。本発明の油脂組成物によれば、特定の油脂中に、乳脂肪のリパーゼ処理物であって酸価の高い風味素材を含有させることで、強いバター様の香りと呈味を発現し、風味素材のえぐ味を抑制した油脂組成物および前記油脂組成物を含有する食品を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
35℃における固体脂含量が2~15%、ラウリン酸含量が4~30質量%である油脂に、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、を含有する油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の油脂組成物を含有する食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強いバター様の香りと呈味を発現し、乳脂肪を含む食品を酵素処理して得られる酸価の高い風味素材のえぐ味を抑制した油脂組成物および前記油組成物を含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の製造には、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等の様々な油脂製品が使用されている。その中でも、バターは香りと呈味に優れており、バターを使用することで嗜好性の高い菓子、パン等の食品を作ることができる。しかし、バターは供給量に制限があり、また、一般的な動植物油脂に比べて使用コストが高い。さらに、良好な可塑性を示す温度帯が狭く、物性面や作業性においても課題がある。
【0003】
一方、マーガリンは使用する油脂の配合調整により良好な可塑性を示す温度帯を広くすることができ、物性面や作業性を改善することができる。しかし、バターに比べて香りと呈味が大きく劣る。そこで、バターの代替としてバターの香りと呈味を有する油脂組成物の開発が行われている。
【0004】
良好なバターの香りと呈味を有した油脂組成物を得るために、乳脂を含まない食用油脂とバター、バターオイル等とを混合したコンパウンドタイプの油脂組成物が開発されている。しかし、当該油脂組成物はバター、バターオイル等の配合量に相当するバターの香りと呈味しか得られず、コンパウンド率に応じてコストが高くなり、また、物性面や作業性においても、バターやバターオイル等の配合量に比例して、良好な可塑性が低下するという課題が生じる。そこで、バター、バターオイル、クリーム等の乳脂肪を含む食品を酵素処理した乳脂肪由来の成分を風味素材として油脂組成物に配合することでバター様の香りと呈味を増強する方法が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、バターオイルをリパーゼで酵素処理し分解したもの、バターをメイラード反応させて油溶性画分を回収したもの、およびこれらの混合物から選ばれる酸価10~40のバター由来の成分を風味素材として使用することで自然なバター風味を有した油脂組成物を製造する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、乳脂肪を含む原料をリパーゼで加水分解し、酸価が5~60である風味素材をSUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドを所定の割合で含む油脂に配合することで、良好なバターの風味を維持できる油脂組成物を製造する方法が開示されている。
【0007】
上記の特許文献には、乳脂肪を含む食品を酵素処理して得られた風味素材の酸価が低い場合はバター様の風味が弱く、酸価が高い場合はバター風味以外のえぐ味が生じ、バター様の良好な風味を得ることが難しいことが示されている。したがって、現状ではバター様の風味とえぐ味の兼ね合いから酸価5~60の風味素材を配合した油脂組成物が使用されており、強いバター様の香りと呈味の発現が達成されておらず、さらなるバター風味を有する油脂組成物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-004807号公報
【特許文献2】特開2016-214155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題はこのような現状に鑑み、特定の油脂中に、乳脂肪を含む食品を酵素処理して得られる酸価の高い風味素材を含有させることで、強いバター様の香りと呈味を発現し、風味素材のえぐ味を抑制した油脂組成物および前記油脂組成物を含有する食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
先行文献によると、乳脂肪を含む食品を酵素処理して得られる風味素材の酸価が高い場合は風味素材のえぐ味が生じることが示されている。一方、発明者らの検討により、乳脂肪を含む食品を酵素処理して得られる風味素材の酸価が高いほど、香りと呈味の強さが大きく向上することがわかっている。
【0011】
そこで、本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、35℃における固体脂含量とラウリン酸含量を特定の値にした油脂に、乳脂肪のリパーゼ処理物であって酸価が高い風味素材を含有させることで、強いバター様の香りと呈味を発現し、風味素材のえぐ味を抑制した油脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔2〕である。
〔1〕35℃における固体脂含量が2~15%、ラウリン酸含量が4~30質量%である油脂に、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、を含有する油脂組成物。
〔2〕〔1〕に記載の油脂組成物を含有する食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の油脂組成物によれば、特定の油脂中に、乳脂肪のリパーゼ処理物であって酸価の高い風味素材を含有させることで、強いバター様の香りと呈味を発現し、風味素材のえぐ味を抑制した油脂組成物および前記油脂組成物を含有する食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の油脂組成物は35℃における固体脂含量が2~15%、ラウリン酸含量が4~30質量%である油脂中に、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材を含有することを特徴とするものである。本発明の油脂組成物はマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングいずれの形態においてもその効果を発揮することができる。
【0015】
なお本発明における、香り、えぐ味、呈味とは、本発明の油脂組成物および油脂組成物を含有する食品を喫食した際に、トップ(食品を口に入れた瞬間)~ラスト(食品を飲み込んだ直後)に感じるバター様のまろやかでコク深い香り立ち(香り)、酸味と苦味の複合的な味(えぐ味)、コクのある脂肪感(呈味)のことである。
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
〔油脂〕
油脂には、食用に適する油脂が使用できる。具体的には、牛脂、豚脂、魚油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、コーン油、コメ油等の天然の動植物油脂、およびこれらの硬化油、極度硬化油、エステル交換油等が挙げられ、これらの群から選ばれる1種類以上を使用できる。
【0017】
本発明の油脂組成物に使用する油脂中の35℃における固体脂含量は2~15%であり、好ましくは5~12%である。人の口腔内の温度は約35℃であるため、35℃の固体脂含量が低い場合、油脂組成物の口溶けが良く、香り、えぐ味、呈味を強く感じやすい。一方、35℃の固体脂含量が高い場合、油脂組成物の口溶けが悪くなり、香り、えぐ味、呈味を感じにくい。そのため35℃における油脂中の固体脂含量が、2%よりも少ないとえぐ味を強く感じてしまい、固体脂含量が15%よりも多いと香りと呈味を弱く感じてしまうため、本発明の効果を得ることができない。
【0018】
本発明の油脂組成物に使用する油脂中のラウリン酸含量は4~30質量%であり、好ましくは10~24質量%である。油脂中にラウリン酸を一定量含むことで、油脂組成物の口溶けが良くなり、香り、えぐ味、呈味を感じやすくなる。油脂中のラウリン酸含量が4質量%よりも少ないと香りと呈味を感じにくくなり、油脂中のラウリン酸含量が30質量%よりも多いと、えぐ味を強く感じてしまい、本発明の効果を得ることができない。
【0019】
なお、35℃における油脂中の固体脂含量および脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法「2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法)」、「2.4.2.2-2013脂肪酸組成」に準じて測定した。
【0020】
〔風味素材〕
本発明における風味素材は、乳脂肪を含む食品をリパーゼで処理して製造した乳脂肪のリパーゼ分解物である。乳脂肪を含む食品としては、バター、発酵バター、バターオイル、チーズ、生クリーム、牛乳、バターミルク、全粉乳等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類以上を使用できる。リパーゼとしては、動植物、微生物から分離した各種酵素を使用できる。具体的には、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、リゾープス(Rhizopus)属等の糸状菌、キャンディダ(Candida)属等の酵母、小山羊、山羊、小牛の口頭分泌腺から採取されるオーラル・リパーゼ(Oral Lipase)等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類以上のリパーゼを使用できる。
【0021】
酵素による乳脂肪を含む食品の分解は、酵素の種類に応じて一般に用いられている至適温度、至適pH等の条件で行うことができる。例えば、乳脂肪を含む食品100質量部を攪拌しながら、予め水0.01~50質量部にリパーゼ0.001~2質量部を溶解したリパーゼ水溶液を添加し、25℃~60℃、pH4.0~8.0の範囲で分解を行う。目標となる酸価に達した後、酵素反応阻害剤を添加したり、あるいは加熱処理して酵素反応を停止させる。また、遠心分離等により水分等を除去することができる。風味素材は実質的に水分を含まず、風味素材中の水分は5質量%以下である。
油脂組成物に添加する風味素材中の酸価は100以上であり、酸価が100以下の場合、香りと呈味が弱くなる。また、酸価の上限は、特に制限されないが、好ましくは150以下であり、より好ましくは130以下である。
【0022】
なお、上記で得た風味素材中の酸価は、基準油脂分析試験法「2.3.1―2013 酸価」に準じて測定を行った。
【0023】
油脂組成物中における風味素材の添加量は、特に制限されないが、油脂100質量部に対する風味素材の添加量として、好ましくは0.01~20質量部である。添加量の下限値は、より好ましくは0.1質量部以上である。添加量の上限値は、より好ましくは15質量部以下であり、更に好ましくは10質量部以下である。
【0024】
また、本発明の油脂組成物を含有する食品においては、食品100質量部に対する風味素材の添加量が0.001~20質量部となるように油脂組成物を含有することが好ましい。添加量の下限値は、より好ましくは0.01質量部以上、添加量の上限値は、より好ましくは15質量部以下であり、更に好ましくは10質量部以下である。
【0025】
〔本発明の油脂組成物〕
本発明の油脂組成物は、油脂および油溶性成分からなる油相と、水および水溶性成分から成る水相からなり、水相を実質的に含有しない形態(水相の含有量が0.5質量%以下)、および油相と水相から成り水相を含有する形態、いずれでもかまわない。水相を含有する形態としては油中水型あるいは水中油型等の形態が挙げられる。本発明の油脂組成物を使用する際には良好な可塑性を示し作業性が良いものが求められているため、油中水型とすることが好ましい。
【0026】
本発明の油脂組成物における油脂の含有量は特に制限されないが、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。また、本発明の油脂組成物における水分の含有量は特に制限されないが、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下である。
【0027】
本発明の油脂組成物には、35℃における固体脂含量が2~15%、ラウリン酸含量が4~30質量%である油脂、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材の他、乳化剤、酸化防止剤、動植物タンパク質、乳、乳製品、澱粉、糖類、塩類、増粘多糖類、酸味料、酵素、pH調整剤等の安定剤、香辛料、呈味素材、フレーバー等の原料を本発明の効果を損なわない範囲において配合してもよい。
【0028】
本発明の油脂組成物の製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造することができる。例えば、水相を含有する形態で油中水型のものであれば、上記の油脂を使用した油相と水相とを、適宜に加熱混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和することにより得ることができる。また、水相を含有する形態で水中油型のものであれば、上記の油脂を使用した油相と水相とを、適宜に加熱混合して乳化した後、ホモジナイザー等の均質機により均質化を行い、冷却することにより得ることができる。また、水相を含有しない形態のものであれば、上記の油脂を使用した油相を加熱後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和し、必要に応じてテンパリングすることにより得ることができる。本発明の油脂組成物の形状は、特に制限されない。
【0029】
〔本発明の油脂組成物を含有する食品〕
本発明の油脂組成物の用途としては、例えば、食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなどのパン類、パイ、デニッシュ、クロワッサン等のペストリー類、シュトーレン、パネトーネ、ドーナツなどのイースト菓子類、パウンドケーキ、スポンジケーキ、クッキー、ホットケーキなどの菓子類、グラタン、リゾット、スープ、クリームシチュー、カレー、パスタソース、オムレツなどの原料の1つとして用いることができる。本発明の油脂組成物の用途としては、上記に制限されるものではない。
【実施例0030】
以下に本発明をさらに具体的に説明する。本発明の油脂組成物は以下の実施例に何ら限定されるものではない。配合量と配合割合は質量基準である。
【0031】
(油脂組成物の製造)
表1~4に記した配合割合で原料油脂を混合して、実施例1~16および比較例1~14の油脂を得た。
【0032】
なお、上記で得た油脂の35℃における固体脂含量および脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法「2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法)」、「2.4.2.2-2013脂肪酸組成」に準じて測定した。
【0033】
更に、上記の油脂を用いて、以下に示す方法により乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材を含む油脂組成物を製造した。
【0034】
すなわち、実施例1では表1に記した原料油脂を混合した油脂830gに対し、モノグリセリンモノ脂肪酸エステル(「エマルジーMP」(モノグリセリンモノ脂肪酸エステル)理研ビタミン(株))2g、大豆レシチン(「レシチンFA」(大豆レシチン)J-オイルミルズ(株))0.5g、風味素材2.5gを添加し、70℃に加熱し油相部とした。この油相部に対し、食塩12gを水153gに溶解させた水相部を添加し、70℃に加熱しながらプロペラ撹拌機で撹拌し乳化した。これをコンビネーターにて急冷混和し、油脂組成物としてのマーガリンを得た。
【0035】
実施例2~7、9~15および比較例2~7、9~14は表1~4に示す配合割合に従って、同様に製造した。比較例1、8は、乳脂肪を含む食品をリパーゼで処理して得られた風味素材を添加しないこと以外は、上記と同様にしてマーガリンを製造した。
【0036】
実施例8では表1、表3に記した配合割合の油脂混合物995gに対し、モノグリセリンモノ脂肪酸エステル2g、大豆レシチン0.5g、乳脂肪を含む食品をリパーゼで処理して得られた風味素材2.5gを添加し、70℃に加熱した油相をコンビネーターにて急冷混和し、油脂組成物としてのショートニングを得た。
【0037】
実施例16では表3に示す配合割合に従って同様にショートニングを製造した。
【0038】
なお、風味素材は以下の方法で製造した。
【0039】
(風味素材)
乳脂肪として溶解させたバター(明治株式会社製:明治バター)を用い、リパーゼ(「リパーゼAY「アマノ」30SD」天野エンザイム(株))を溶解させたリパーゼ水溶液を添加し、45℃に加熱しながらスターラーで撹拌を行った。目標とする酸価に達した後、85℃で15分間加熱してリパーゼを失活させ、その後、遠心分離で水相部を除去して、風味素材(風味素材A:酸価102、風味素材B:酸価16、風味素材C:酸価54)を得た。風味素材中の水分はいずれも0.5質量%以下であった。
[配合]
バター 70g
リパーゼ 0.5g
水 26.5g
【0040】
なお、上記で得た風味素材の酸価は、基準油脂分析試験法「2.3.1―2013 酸価」に準じて測定を行った。
【0041】
(バターロールの製造)
実施例9~16および比較例8~14の油脂組成物を使用して、以下に示す配合、方法でバターロールを作製した。
【0042】
バターロールの作製方法:ミキサーボールに中種生地の原料を投入し、低速2分、中高速2分ミキシングし、捏ね上げ温度26℃の生地を得た。28℃で2時間発酵させた中種生地と本捏ね生地(油脂組成物を除く)の原料をミキサーボールに投入し、低速2分、中高速5分ミキシング後、油脂組成物を投入し、低速3分、中高速3分ミキシングし、捏ね上げ温度28℃の生地を得た。28℃で30分間発酵させた後、35gに分割し、ベンチタイムを30分間取った後、成形した。鉄板に並べた生地を温度35℃、湿度75%のホイロで50分間最終発酵を行った。最終発酵後、上火205℃、下火200℃のオーブンで8分間焼成し、バターロールを得た。
【0043】
バターロールの配合:
[中種生地]
強力粉 70質量部
イースト 3質量部
イーストフード 0.1質量部
水 42質量部
[本捏ね生地]
強力粉 10質量部
薄力粉 20質量部
上白糖 14質量部
食塩 1.7質量部
脱脂粉乳 3質量部
全卵 12質量部
水 8質量部
油脂組成物 14質量部
【0044】
(クッキーの製造)
実施例9~16および比較例8~14の油脂組成物を使用して、以下に示す配合、方法でクッキーを製造した。
クッキーの製造方法:油脂組成物と上白糖をホバートミキサーに投入し、1速2分ミキシング後、全卵を投入し、1速2分30秒ミキシングする。その後、ふるいで振るった薄力粉、ベーキングパウダーを投入し、1速30秒ミキシングしてクッキー生地を得た。冷蔵庫で一晩寝かせたクッキー生地を、厚さ3mmに伸ばし、内径4cmの円型を使用してクッキーを成型した。鉄板に並べたクッキー生地を、上火170℃、下火140℃のオーブンで15分間焼成し、クッキーを得た。
【0045】
クッキー生地の配合:
[クッキー生地]
油脂組成物 45質量部
上白糖 34質量部
薄力粉 100質量部
ベーキングパウダー 0.3質量部
全卵 15質量部
【0046】
(油脂組成物、バターロール、クッキーの評価)
専門のパネラー10人にて、室温で実施例および比較例の油脂組成物、室温におけるバターロール、クッキーを喫食し、「香り」、「えぐ味」、「呈味」について以下の基準で評価した。
【0047】
[香り]
10名のパネラーにて官能評価を行い、風味素材を添加していない比較例1の油脂組成物、風味素材を添加していない比較例8の油脂組成物を含有する食品(バターロール、クッキー)をコントロールとして、次の基準により採点し、その平均値にて評価した。評価結果を表1~4の下段の「香り」欄に示す。
<採点基準>
3点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおけるバター様のまろやかでコク深い香り立ちを強く感じる。
2点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおけるバター様のまろやかでコク深い香り立ちを感じる。
1点:コントロールと同様に、トップ~ラストにおけるバター様のまろやかでコク深い香り立ちを感じない。
<評価基準>
◎:2.5~3.0点
○:2.0~2.4点
×:1.0~1.9点
【0048】
[えぐ味]
10名のパネラーにて官能評価を行い、風味素材を添加していない比較例1の油脂組成物、風味素材を添加していない比較例8の油脂組成物を含有する食品(バターロール、クッキー)をコントロールとして、次の基準により採点し、その平均値にて評価した。評価結果を表1~4の下段の「えぐ味」欄に示す。
<採点基準>
3点:コントロールと同様に、トップ~ラストにおける風味素材のえぐ味を感じない。
2点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおける風味素材のえぐ味をやや感じる。
1点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおける風味素材のえぐ味を強く感じる。
<評価基準>
◎:2.5~3.0点
○:2.0~2.4点
×:1.0~1.9点
【0049】
[呈味]
10名のパネラーにて官能評価を行い、風味素材を添加していない比較例1の油脂組成物、風味素材を添加していない比較例8の油脂組成物を含有する食品(バターロール、クッキー)をコントロールとして、下記基準により採点し、その平均値にてバターの呈味を評価した。評価結果を表1~4の下段の「呈味」欄に示す。
<採点基準>
3点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおけるバター様のコクのある脂肪感を強く感じる。
2点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおけるバター様のコクのある脂肪感を感じる。
1点:コントロールと同様に、トップ~ラストにおけるバター様のコクのある脂肪感を感じない。
<評価基準>
◎:2.5~3.0点
○:2.0~2.4点
×:1.0~1.9点
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表1~4をみると、実施例1~16では乳脂肪のリパーゼ処理物である風味素材のえぐ味が抑制され、バターの香りとバターの呈味が強いことがわかる。一方、比較例1~14ではバターの香り、乳脂肪を含む食品をリパーゼで処理して得られた風味素材のえぐ味、バターの呈味のいずれかの評価が劣ることがわかる。
【0055】
(油脂組成物を含有する食品の製造)
実施例10と比較例8の油脂組成物を使用して、以下に示す配合、方法でクリームシチューを作製した。
【0056】
クリームシチューの作製方法:鍋に油脂組成物を入れて中火にかけ、薄力粉を投入して混ぜながら加熱した。鍋を火からおろして、牛乳を投入し、再び火にかけて混ぜながらひと煮立ちさせてルウを得た。水に顆粒コンソメを溶かしたブイヨン、牛乳を得られたルウに投入し、ルウが溶けるまで加熱してクリームシチューを得た。
【0057】
クリームシチューの配合:
[ルウ]
油脂組成物 30質量部
薄力粉 20質量部
牛乳 180質量部
[クリームシチュー]
ルウ 160質量部
水 150質量部
顆粒コンソメ 5質量部
牛乳 250質量部
【0058】
[香り、えぐ味、呈味の評価]
比較例8の油脂組成物を使用して製造したクリームシチューをコントロールとした。室温でコントロールを喫食したところ、通常のクリームシチューの香りと呈味であった。一方、実施例10の油脂組成物を使用して製造したクリームシチューを室温で喫食したところ、コントロールに比べて、まろやかでコク深い香り立ち、コクのある脂肪感が大きく向上した。また、コントロールと同様に、乳脂肪のリパーゼ処理物である風味素材のえぐ味は感じなかった。