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  • 特開-支持機構および望遠鏡支持装置 図1
  • 特開-支持機構および望遠鏡支持装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102601
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】支持機構および望遠鏡支持装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 23/16 20060101AFI20220630BHJP
   G02B 7/198 20210101ALI20220630BHJP
【FI】
G02B23/16
G02B7/198
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217430
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】特許業務法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 直人
【テーマコード(参考)】
2H039
2H043
【Fターム(参考)】
2H039AA01
2H039AB52
2H043BC05
2H043BC08
(57)【要約】
【課題】温度変化など使用環境に影響されずに、被搭載物を安定して支持することができる支持機構を提供する。
【解決手段】本開示に係る支持機構は、厚み方向に開口する貫通孔を有し、低熱膨張セラミックスまたは低熱膨張ガラスを含む平板状の基部を有するフランジと、フランジを貫通孔の周囲でキネマティック支持するセラミックスを含む球体とを備える。球体の比剛性は、基部の比剛性よりも高い。球体の22℃における線膨張率は、基部の22℃における線膨張率よりも高い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に開口する貫通孔を有し、低熱膨張セラミックスまたは低熱膨張ガラスを含む平板状の基部を有するフランジと、
該フランジを前記貫通孔の周囲でキネマティック支持するセラミックスを含む球体と、
を備え、
前記球体の比剛性が、前記基部の比剛性よりも高く、
前記球体の22℃における線膨張率が、前記基部の22℃における線膨張率よりも高い、
支持機構。
【請求項2】
前記基部の比剛性が、50MPa・m/kg以上である、請求項1に記載の支持機構。
【請求項3】
前記球体の比剛性が、前記基部の比剛性よりも28MPa・m/kg以上高い、請求項1または2に記載の支持機構。
【請求項4】
前記球体の22℃における線膨張率が、7.2ppm/K以下である、請求項1~3のいずれかに記載の支持機構。
【請求項5】
前記基部が、平面視した場合に多角形状を有する、請求項1~4のいずれかに記載の支持機構。
【請求項6】
前記基部は、前記球体が位置している側の第1主面に複数の脚部をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の支持機構。
【請求項7】
前記脚部が3つ設けられており、前記脚部のそれぞれと前記球体との接触面が、第1被支持面、第2被支持面および第3被支持面であり、
前記第1被支持面は、前記基部に向かって縮径する円錐状面または角錐状面であり、
前記第2被支持面は、V溝を有する傾斜面であり、
前記第3被支持面は、前記第1主面に平行な平面である、
請求項6に記載の支持機構。
【請求項8】
前記第1被支持面、前記第2被支持面および前記第3被支持面の少なくとも1つが、バフ研磨面である、請求項7に記載の支持機構。
【請求項9】
前記第1被支持面の第1頂角α1および前記第2被支持面の第2頂角α2の少なくとも1つが、90°以上125°以下である、請求項7または8に記載の支持機構。
【請求項10】
前記第1被支持面、前記第2被支持面および前記第3被支持面の少なくとも1つが、0.02μm以上0.8μm以下の算術平均粗さRaを有する、請求項7~9のいずれかに記載の支持機構。
【請求項11】
前記脚部が、低熱膨張セラミックスまたは低熱膨張ガラスを含む、請求項7~10のいずれかに記載の支持機構。
【請求項12】
前記脚部が、円柱状を有する、請求項7~11のいずれかに記載の支持機構。
【請求項13】
前記基部および前記脚部が、一体形成品である、請求項7~12のいずれかに記載の支持機構。
【請求項14】
前記貫通孔の厚み方向の軸芯と、いずれかの前記脚部の厚み方向の軸芯とを結ぶ直線を境界として、該境界の片側に位置する各辺の長さが全て異なる、請求項7~13のいずれかに記載の支持機構。
【請求項15】
前記基部および前記脚部の少なくとも一方が磁性金属を含み、該磁性金属の含有量が100質量ppm以下である、請求項7~14のいずれかに記載の支持機構。
【請求項16】
前記低熱膨張セラミックスの主結晶相がコージェライトであり、副結晶相としてアルミナ、ムライトおよびサフィリンを含み、
粒界相には、Caを含む非晶質相が存在し、前記主結晶相の結晶相比率が95質量%以上97.5質量%以下であり、前記副結晶相の結晶相比率が2.5質量%以上5質量%以下であり、
全量中に対するCaの含有量がCaO換算で0.4質量%以上0.6質量%以下であり、
Zrの含有量がZrO換算で0.1質量%以上1.0質量%以下である、
請求項1~15のいずれかに記載の支持機構。
【請求項17】
前記低熱膨張セラミックスの主結晶相がコージェライトであり、金属元素としてCa、Al、MnおよびCrをさらに含有し、
線膨張率が最低値を示す温度を中心とし、該温度における線膨張率に対する線膨張率の変化量が6×10-5以内である温度幅が3K以上である、
請求項1~16のいずれかに記載の支持機構。
【請求項18】
前記球体が、酸化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素またはサイアロンを主成分とするセラミックスを含む、請求項1~17のいずれかに記載の支持機構。
【請求項19】
前記球体が磁性金属を含み、該磁性金属の含有量が0.1質量%以下である、請求項1~18のいずれかに記載の支持機構。
【請求項20】
観測対象の光を反射するための主鏡と、
該主鏡を囲繞する鏡筒と、
請求項1~19のいずれかに記載の支持機構と、
を備え、
前記主鏡および前記鏡筒の少なくとも一方が、前記基部の第1主面と反対側に位置する第2主面に取り付けられている、望遠鏡支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、支持機構および望遠鏡支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、位置決め装置には、例えば、ケルビンクランプなどのキネマティッククランプが採用されている。このようなケルビンクランプが採用された構成として、例えば特許文献1には、次のような構成が記載されている。反射ミラーベース上に取り付けられた半球状部材は、XY平面状に3箇所配置されている。ベース部材に調整部材を介してV形状凹保持部材がピンで位置決めされて取り付けられており、XY平面状に3箇所配置されている。半球状部材とV形状保持部材は対向する位置に配置される。
【0003】
反射ミラーベース下も同様に、半球状部材がXY平面状に3箇所配置されている。反射ミラーベース下の半球状部材は、そのままV形状保持部材に取り付けられない。そのため、ベース部材にキネマティック保持部材を取り付けて、ピンで位置決めされたV形状凹保持部材に搭載する。
【0004】
特許文献1には、反射ミラーベース上、反射ミラーベース下、半球状部材、V形状凹保持部材、キネマティック保持部材、円錐状凹部材および平面保持部材の材質が、例えばスーパーインバーもしくはコージェライトなどのゼロ膨張セラミックス(線膨張率0.1ppm/K)であることが記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載された構成において、半球状部材がスーパーインバーや0.1ppm/Kの線膨張率を有するコージライトからなる場合、半球状部材の比剛性は高くない。そのため、半球状部材と接する反射ミラーベース上などの被接触体が大きいと撓みやすい。その結果、被接触体を安定的に支持することができない。さらに、スーパーインバーの線膨張率は0.5ppm/℃である。そのため、スーパーインバーまたは上記のコージェライトからなる反射ミラーベース上および反射ミラーベース下などの被接触体は、使用環境によっては、線膨張率が十分に小さいとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-107438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の課題は、温度変化など使用環境に影響されずに、被搭載物を安定して支持することができる支持機構および望遠鏡支持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る支持機構は、厚み方向に開口する貫通孔を有し、低熱膨張セラミックスまたは低熱膨張ガラスを含む平板状の基部を有するフランジと、フランジを貫通孔の周囲でキネマティック支持するセラミックスを含む球体とを備える。球体の比剛性は、基部の比剛性よりも高い。球体の22℃における線膨張率は、基部の22℃における線膨張率よりも高い。
【0009】
本開示に係る望遠鏡支持装置は、観測対象の光を反射するための主鏡と、主鏡を囲繞する鏡筒と、上記の支持機構とを備える。主鏡および鏡筒の少なくとも一方は、基部の第1主面と反対側に位置する第2主面に取り付けられている。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る支持機構は、上記のように、球体の比剛性が基部の比剛性よりも高く、基部の22℃における線膨張率が球体の22℃における線膨張率よりも低い。したがって、本開示に係る支持機構によれば、温度変化など使用環境に影響されずに、被搭載物を安定して支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る支持機構に含まれるフランジを示す説明図であり、(A)は基部の第1主面側から見た説明図であり、(B)は基部の第2主面側から見た説明図である。
図2】(A)は図1(A)に示すX-X線で切断した際の断面を示す説明図であり、(B)は図1(A)に示すY-Y線で切断した際の断面を示す説明図であり、(C)は図1(A)に示すZ-Z線で切断した際の断面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示に係る支持機構は、上記のように、フランジと球体とを有する。本開示に係る支持機構を、図1および2に基づいて説明する。
【0013】
本開示の一実施形態に係る支持機構は、フランジと球体とを有する。図1は、本開示の一実施形態に係る支持機構に含まれるフランジを示す説明図である。図1に示すように、一実施形態に係るフランジ1は、厚み方向に開口する貫通孔2aを有し、平板状の基部2を有する。基部2は平板状であれば限定されない。基部2は、平面視した場合に、例えば多角形状、円形状などを有する。これらの形状の中でも多角形状であるのがよい。平面視した場合に基部2が多角形状を有していると、例えば同サイズの円形状と比べて軽量化することができる。そのため、軽量化が望まれる人工衛星などに収容される光学機器を支持するのに好適である。多角形状としては、例えば、四角形状、五角形状、六角形状、八角形状などが挙げられる。基部2の厚みや大きさは限定されず、支持される部材の大きさに応じて適宜設定される。
【0014】
このような形状のうち、貫通孔2aの厚み方向の軸芯と、いずれかの脚部3(脚部3については後述する)の厚み方向の軸芯とを結ぶ直線を境界として、この境界の片側に位置する各辺の長さが全て異なる形状であるのがよい。基部2が、このような特定の形状を有していると、光学機器などの被搭載物を固定するためのネジ穴近傍の外周側を軽量化することができる。そのため、軽量化が望まれる人工衛星などに収容される光学機器を支持するのに好適である。
【0015】
基部2は、低熱膨張セラミックスまたは低熱膨張ガラスを含む。本明細書において「低熱膨張セラミックス」とは、線膨張率を測定する温度範囲を0℃~50℃として、22℃における線膨張率が0±30ppb/Kであるセラミックスを意味する。本明細書において「低熱膨張ガラス」とは、線膨張率を測定する温度範囲を0℃~50℃として、22℃における線膨張率が0±30ppb/Kであるガラスを意味する。基部2の線膨張率は、例えば、光ヘテロダイン法1光路干渉計を用いて求めればよい。
【0016】
基部2は、50MPa・m/kg以上の比剛性(ヤング率/比重)を有していてもよい。基部2が50MPa・m/kg以上の比剛性を有していると、基部2自体が軽くても形状安定性が高くなる。その結果、光学機器などの被搭載物を搭載してもたわみにくくなる。基部2のヤング率は、例えば、ISO14577-1:2002に準拠して求めればよい。基部2の比重は、例えば、アルキメデス法を用いて求めればよい。
【0017】
低熱膨張セラミックスとしては限定されず、例えば、主結晶相がコージェライトであるセラミックスが挙げられる。このようなセラミックスとしては、例えば、主結晶相がコージェライトで、主結晶相の結晶相比率が95質量%以上97.5質量%以下であり、副結晶相がアルミナ、ムライトおよびサフィリンで、副結晶相の結晶相比率が2.5質量%以上5質量%以下であるセラミックスが挙げられる。このようなセラミックスにおいて、粒界相にはCaを含む非晶質相が存在していてもよい。セラミックス全量中に対するCaの含有量は、例えば、CaO換算で0.4質量%以上0.6質量%以下であってもよい。さらに、ジルコニアが含まれていてもよく、セラミックス全量中に対するZrの含有量は、例えば、ZrO換算で0.1質量%以上1.0質量%以下であってもよい。このような低熱膨張セラミックスは、線膨張率を絶対値で26ppb/K以下とし、比剛性を56MPa・m/kg以上とすることができる。その結果、このような低熱膨張セラミックスを含む基部2は、温度の影響を受けにくく、かつたわみにくい。
【0018】
主結晶相がコージェライトであるセラミックスの別の例としては、例えば、主結晶相がコージェライトであり、金属元素としてCa、Al、MnおよびCrをさらに含み、線膨張率が最低値を示す温度を中心とし、この温度における線膨張率に対する線膨張率の変化量が6×10-5以内である温度幅が3K以上であるセラミックスが挙げられる。このような低熱膨張セラミックスは、温度が変化したとしても線膨張率の変動が微小である。そのため、主鏡のような光学機器などの被搭載物を搭載しても、線膨張率の変動による影響を十分に抑制することができる。
【0019】
主結晶相がコージェライトであるセラミックス以外の例としては、リチウムアルミノシリケート、リン酸ジルコニウムカリウムまたはムライトを主成分とするセラミックスが挙げられる。低熱膨張ガラスの例としては、チタニウムケイ酸を主成分とするガラスが挙げられる。
【0020】
基部2や脚部3に含まれる低熱膨張セラミックスや低熱膨張ガラスおよび球体に含まれるセラミックスを形成する各成分の同定は、CuKα線を用いたX線回折装置で行い、各成分の含有量は、例えばICP(InductivelyCoupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めればよい。
【0021】
一実施形態に係る支持機構に含まれる球体(図示せず)は、フランジを貫通孔2aの周囲でキネマティック支持している。球体はセラミックスを含む。セラミックスとしては、酸化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素またはサイアロンを主成分とするセラミックスなどが挙げられる。酸化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素またはサイアロンを主成分とするセラミックスは、比較的高い比剛性を有する。そのため、被支持体をより安定して支持することができる。本明細書において「主成分」とは、セラミックスを構成している成分の合計100質量%のうち、80質量%以上を占める成分を意味する。
【0022】
球体の比剛性は基部2の比剛性よりも高く、球体の22℃における線膨張率は、基部2の22℃における線膨張率よりも高い。このような構成によって、わずかな温度変化でも大きな影響を受ける主鏡などの光学機器を、フランジに搭載しても、その影響を十分抑制することができる。さらに、頻繁に振動を受けても、球体は軽量でもたわみにくく、光学機器などの被搭載物を十分安定に支持することができる。
【0023】
球体の比剛性は、基部2の比剛性よりも28MPa・m/kg以上高くてもよい。球体の比剛性が基部2の比剛性よりも28MPa・m/kg以上高いと、球体自体が軽くてもたわみにくくなる。その結果、光学機器などの被搭載物をより安定に支持することができる。球体のヤング率は、例えば、ISO14577-1:2002に準拠して求めればよい。球体の比重は、例えば、アルキメデス法を用いて求めればよい。
【0024】
球体の22℃における線膨張率は、7.2ppm/K以下であってもよい。この線膨張率が7.2ppm/K以下であると、球体を支持する支持体(フランジ1と反対側の部材であり、図示していない)が金属や汎用的なセラミックス(例えば、アルミナなど)で形成され、わずかな温度変化を受けても、球体で支持体の伸縮を吸収することができる。球体の線膨張率は、例えば、光ヘテロダイン法1光路干渉計を用いて求めればよい。
【0025】
さらに、球体に磁性金属が0.1質量%以下の含有量で含まれていてもよい。磁性金属の含有量がこの範囲であると、光線が通過する鏡筒が基部2に搭載されていても、磁気による光線への悪影響を抑制することができる。磁性金属としては、鉄、コバルト、ニッケル、ネオジム、サマリウムなどが挙げられる。
【0026】
基部2は、球体が位置している側の第1主面21に複数の脚部3が設けられていてもよい。脚部3は円柱状を有しており、低熱膨張セラミックスまたは低熱膨張ガラスを含む。脚部3が円柱状を有していると、外側面が単一の外側面となる。そのため、応力集中が生じやすい交線がなくなり、長期間にわたって使用することができる。さらに、脚部3が低熱膨張セラミックスまたは低熱膨張ガラスを含むと、基部2との線膨張率の差がほとんどなくなる。そのため、温度変化によって、基部2および脚部3に亀裂が生じにくくなる。
【0027】
基部2と脚部3とは、一体形成品であってもよい。一体形成品であれば、基部2と脚部3とを接合するための接着剤が不要となる。そのため、接着剤から発生するアウトガスが問題となるような場所でも使用することができる。基部2と脚部3とは、例えば、下記の手順で得られる。低熱膨張セラミックスまたは低熱膨張ガラスの原料粉末と、必要に応じて、分散剤や有機結合剤などとを混合してスラリーを得る。次いで、スラリーを噴霧造粒して顆粒を得た後、冷間静水圧プレス成形装置などを用いて加圧して成形体を得る。得られた成形体を切削工程に供して、最終的に得られる基部2および脚部3の形状に応じた前駆体を得る。得られた前駆体を焼成して、基部2と脚部3との一体形成品を得る。
【0028】
基部2および脚部3の少なくとも一方には、対象とする各部分に対して磁性金属が100質量ppm以下の含有量で含まれていてもよい。磁性金属の含有量のがこの範囲であると、光線が通過する鏡筒が基部2に搭載されていても、磁気による光線への悪影響を抑制することができる。
【0029】
図1(A)に示すように、脚部3は、例えば3つ設けられる。3つの脚部3それぞれと球体との接触面を、第1被支持面31、第2被支持面32および第3被支持面33と定義する。第1被支持面31は、図2(A)に示すように、基部2に向かって縮径する円錐状面または角錐状面であってもよい。図2(B)に示すように、第2被支持面32は、V溝を有する傾斜面であってもよい。第3被支持面33は、図2(C)に示すように、第1主面21に平行な平面であってもよい。図2(A)は、図1(A)に示すX-X線で切断した際の断面を示す説明図である。図2(B)は、図1(A)に示すY-Y線で切断した際の断面を示す説明図である。図2(C)は、図1(A)に示すZ-Z線で切断した際の断面を示す説明図である。
【0030】
第1被支持面31、第2被支持面32および第3被支持面33が、上記のような構成を有していると、わずかな温度変化を受けても測定精度に大きな影響を及ぼす主鏡のような光学機器などの被搭載物を搭載しても、その影響を十分に抑制することができる。
【0031】
第1被支持面31、第2被支持面32および第3被支持面33の少なくとも1つは、バフ研磨面であってもよい。バフ研磨面であれば、球体の球面の咬みこみを抑制することができる。そのため、光学機器などの被搭載物を搭載しても、容易に調整を行うことができる。特に、第1被支持面31、第2被支持面32および第3被支持面33の全てがバフ研磨面であるのがよい。
【0032】
第1被支持面21の第1頂角α1および第2被支持面32の第2頂角α2は限定されない。第1頂角α1および第2頂角α2の少なくとも1つは、例えば、90°以上125°以下であってもよい。第1頂角α1および第2頂角α2が、このような角度を有している場合、第1被支持面31および第2被支持面32と球体の球面との接触面積が比較的大きくなる。そのため、静止摩擦力を大きくすることができ、光学機器などの被搭載物をより安定に支持することができる。特に、第1頂角α1および第2頂角α2の両方が、90°以上125°以下であるのがよい。
【0033】
第1被支持面31、第2被支持面32および第3被支持面33の少なくとも1つは、0.02μm以上0.8μm以下の算術平均粗さRaを有する。算術平均粗さRaが0.02μm以上であれば、純水や超純水に対する接触角が小さくなる。その結果、被支持面に付着した汚れを浮かしやすく、純水と一緒に速やかに洗い流すことができる。
【0034】
一方、算術平均粗さRaが0.8μm以下であれば、球体の球面の咬みこみをより抑制することができる。そのため、光学機器などの被搭載物を搭載しても、より容易に調整を行うことができる。特に、第1被支持面31、第2被支持面32および第3被支持面33の全てにおいて、0.02μm以上0.8μm以下の算術平均粗さRaを有しているのがよい。
【0035】
第1被支持面31、第2被支持面32および第3被支持面33の各算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2001に準拠し、レーザー顕微鏡((株)キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-X1000またはその後継機種))を用いて測定することができる。測定条件としては、照明方式を同軸落射、測定倍率を480倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.08mm、終端効果の補正を有り、測定対象とするから1か所当たりの測定範囲を710μm×533μmとして、測定対象とする面から測定範囲をそれぞれ2箇所設定すればよい。各測定範囲に、測定対象とする線を略等間隔に4本引いて、表面粗さ計測を行えばよい。計測の対象とする線1本当たりの長さは、560μmである。
【0036】
一実施形態に係る支持機構は、例えば、望遠鏡などの光学機器の部材として使用される。このような光学機器は、例えば、人工衛星などに搭載される。一実施形態に係る支持機構を、例えば、望遠鏡支持装置の部材として使用する場合について説明する。
【0037】
一実施形態に係る望遠鏡支持装置は、例えば、観測対象の光を反射するための主鏡、主鏡を囲繞する鏡筒、および一実施形態に係る支持機構を備える。主鏡および鏡筒の少なくとも一方は、一実施形態に係る支持機構の基部2の第1主面21と反対側に位置する第2主面22に取り付けられている。
【0038】
一実施形態に係る支持機構は、上記のように、球体の比剛性が基部2の比剛性よりも高く、基部2の22℃における線膨張率が球体の22℃における線膨張率よりも低い。したがって、一実施形態に係る支持機構を用いた望遠鏡支持装置は、温度変化など使用環境に影響されずに、望遠鏡を安定して支持することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 フランジ
2 基部
21 第1主面
22 第2主面
2a 貫通孔
3 脚部
31 第1被支持面
32 第2被支持面
33 第3被支持面
図1
図2