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特開2022-102613合成繊維用第1処理剤、合成繊維用処理剤、水性液の調製方法、合成繊維の処理方法、合成繊維の製造方法、短繊維の製造方法、紡績糸の製造方法、及び不織布の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102613
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】合成繊維用第1処理剤、合成繊維用処理剤、水性液の調製方法、合成繊維の処理方法、合成繊維の製造方法、短繊維の製造方法、紡績糸の製造方法、及び不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/292 20060101AFI20220630BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20220630BHJP
   D06M 13/165 20060101ALI20220630BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
D06M13/292
D06M13/144
D06M13/165
D06M15/53
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217448
(22)【出願日】2020-12-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岡田 智八
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA05
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC06
4L033AC09
4L033BA11
4L033BA14
4L033BA39
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】安定性を向上させた合成繊維用第1処理剤等を提供する。
【解決手段】本発明の合成繊維用第1処理剤は、下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有し、前記リン酸化合物(A)と前記非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、所定の範囲にあり、非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用されることを特徴とする。リン酸化合物(A)は、所定の有機リン酸エステル化合物を含有し、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が所定の範囲に規定される。溶媒(S)は、大気圧における沸点が105℃以下の溶媒であり、非イオン界面活性剤(C)は、分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有し、前記リン酸化合物(A)と前記非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、質量比としてリン酸化合物(A)/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用されることを特徴とする合成繊維用第1処理剤。
リン酸化合物(A):有機リン酸エステル化合物として、下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2、及び任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3を含有し、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超20%以下。
【化1】
(式(1)中において、
:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
,M:水素原子、又はカリウム。)
【化2】
(式(2)中において、
,R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
:水素原子、又はカリウム。)
【化3】
(式(3)中において、
、R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
、Q:水素原子、又はカリウム。)
溶媒(S):大気圧における沸点が105℃以下である溶媒。
非イオン界面活性剤(C):分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤。
【請求項2】
前記合成繊維用第2処理剤が、任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を含有し、前記合成繊維用第2処理剤中の前記有機リン酸エステル化合物(D)の含有量が5質量%以下である請求項1に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項3】
前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、及び前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上90%以下、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上70%以下、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が40%以下である請求項1又は2に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項4】
前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が、0%超10%以下のものである請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項5】
前記溶媒(S)が、水である請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項6】
更に、炭素数8~20の一価脂肪族アルコール(B)を含有し、合成繊維用第1処理剤の不揮発分中における前記一価脂肪族アルコール(B)の含有割合が0.1質量%超15質量%以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項7】
前記合成繊維用第1処理剤の酸価が、0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下のものである請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項8】
前記合成繊維用第1処理剤の30℃における粘度が、40000mPa・s以下のものである請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項9】
前記合成繊維用第1処理剤の不揮発分濃度が、20質量%以上60質量%以下のものである請求項1~8のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項10】
ICP発光分析法により合成繊維用第1処理剤の不揮発分から検出されるナトリウムイオン濃度が、0ppm超10000ppm以下、カルシウムイオン濃度が0ppm超200ppm以下、マグネシウムイオン濃度が0ppm超150ppm以下である請求項1~9のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項11】
短繊維に適用される請求項1~10のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項12】
ポリエステル又はポリオレフィンに適用される請求項1~11のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項13】
ポリエステルに適用される請求項1~12のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤と、非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤とを含むことを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項15】
前記合成繊維用第2処理剤が、さらに任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を5質量%以下含有する請求項14に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項16】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にすることを特徴とする合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
【請求項17】
下記の工程1及び下記の工程2を経る請求項16に記載の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
工程1:第1の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び前記合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
工程2:さらに工程1で調製した合成繊維用処理剤の水性液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
【請求項18】
前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び合成繊維用第2処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加する工程を経るものである請求項17に記載の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
【請求項19】
前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加し、さらに前記合成繊維用第2処理剤を添加する工程を経るものである請求項17に記載の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
【請求項20】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする合成繊維の処理方法。
【請求項21】
請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【請求項22】
請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤が付着していることを特徴とする短繊維。
【請求項23】
請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤が付着していることを特徴とする紡績糸。
【請求項24】
請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤が付着していることを特徴とする不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化合物を含有する合成繊維用第1処理剤、並びにかかる合成繊維用第1処理剤を用いた合成繊維用処理剤、水性液の調製方法、合成繊維の処理方法、合成繊維、短繊維、紡績糸、及び不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の紡糸延伸工程、仕上げ工程等において、摩擦等を低減し、制電性等を向上させる観点から、合成繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着させる処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1の合成繊維用処理剤は、特定のアルキルリン酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の界面活性剤、及び分子中に炭素数12~22のアルキル基を有する一価脂肪族アルコールを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-223035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、処理剤の安定性のさらなる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、所定のリン酸化合物を含有する合成繊維用第1処理剤と界面活性剤を含有する合成繊維用第2処理剤とに分けた構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の合成繊維用第1処理剤では、下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有し、前記リン酸化合物(A)と前記非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、質量比としてリン酸化合物(A)/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用されることを特徴とする。
【0008】
リン酸化合物(A):有機リン酸エステル化合物として、下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2、及び任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3を含有し、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超20%以下。
【0009】
【化1】
(式(1)中において、
:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
,M:水素原子、又はカリウム。)
【0010】
【化2】
(式(2)中において、
,R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
:水素原子、又はカリウム。)
【0011】
【化3】
(式(3)中において、
、R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
、Q:水素原子、又はカリウム。)
溶媒(S):大気圧における沸点が105℃以下である溶媒。
【0012】
非イオン界面活性剤(C):分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤。
前記合成繊維用第1処理剤において、前記合成繊維用第2処理剤が、任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を含有し、前記合成繊維用第2処理剤中の前記有機リン酸エステル化合物(D)の含有量が5質量%以下であることが好ましい。
【0013】
前記合成繊維用第1処理剤において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、及び前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上90%以下、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上70%以下、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が40%以下であることが好ましい。
【0014】
前記合成繊維用第1処理剤において、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が、0%超10%以下のものが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、前記溶媒(S)が、水であることが好ましい。
【0015】
前記合成繊維用第1処理剤において、更に、炭素数8~20の一価脂肪族アルコール(B)を含有し、合成繊維用第1処理剤の不揮発分中における前記一価脂肪族アルコール(B)の含有割合が0.1質量%超15質量%以下であることが好ましい。
【0016】
前記合成繊維用第1処理剤において、酸価が0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下のものが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、30℃における粘度が40000mPa・s以下のものであることが好ましい。
【0017】
前記合成繊維用第1処理剤において、不揮発分濃度が20質量%以上60質量%以下のものであることが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、ICP発光分析法により合成繊維用第1処理剤の不揮発分から検出されるナトリウムイオン濃度が、0ppm超10000ppm以下、カルシウムイオン濃度が0ppm超200ppm以下、及びマグネシウムイオン濃度が0ppm超150ppm以下であることが好ましい。
【0018】
前記合成繊維用第1処理剤において、短繊維に適用されることが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、ポリエステル又はポリオレフィンに適用されることが好ましい。
【0019】
前記合成繊維用第1処理剤において、ポリエステルに適用されることが好ましい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維用処理剤では、合成繊維用第1処理剤と、非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤とを含むことを特徴とする。
【0020】
前記合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用第2処理剤が、さらに任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を5質量%以下含有してもよい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にすることを特徴とする。
【0021】
前記合成繊維用処理剤の水性液の調製方法において、下記の工程1及び下記の工程2を経ることが好ましい。
工程1:第1の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び前記合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
【0022】
工程2:さらに工程1で調製した合成繊維用処理剤の水性液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
【0023】
前記合成繊維用処理剤の水性液の調製方法において、前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び合成繊維用第2処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加する工程を経るものであることが好ましい。
【0024】
前記合成繊維用処理剤の水性液の調製方法において、前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加し、さらに前記合成繊維用第2処理剤を添加する工程を経るものであることが好ましい。
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維の処理方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維では、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤が付着していることを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の短繊維では、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤が付着していることを特徴とする。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の紡績糸では、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤が付着していることを特徴とする。
【0029】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の不織布では、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば処理剤の安定性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用第1処理剤(以下、第1処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の第1処理剤は、下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)が含まれる。さらに、任意選択で後述する非イオン界面活性剤(C)を含有してもよい。
【0032】
(リン酸化合物(A))
リン酸化合物(A)は、有機リン酸エステル化合物として、下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2、及び任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3が含まれる。リン酸化合物(A)は、合成繊維に適用された際、制電性を向上させ、摩擦を低減させる。
【0033】
【化4】
(式(1)中において、
:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
,M:水素原子、又はカリウム。)
【0034】
【化5】
(式(2)中において、
,R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
:水素原子、又はカリウム。)
【0035】
【化6】
(式(3)中において、
、R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
、Q:水素原子、又はカリウム。)
これらのリン酸エステルP1~P3は、それぞれ一種類のリン酸エステルを単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0036】
~Rを構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。分岐鎖を有するアルキル基としては、β位が分岐したアルキル基、複数分岐したアルキル基のいずれも採用できる。
【0037】
~Rを構成する直鎖のアルキル基の具体例としては、例えばペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。R~Rを構成する分岐鎖構造を有するアルキル基の具体例としては、例えばイソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソノナデシル基、イソイコシル基等が挙げられる。
【0038】
~Rを構成する直鎖のアルキル基としては、紡績糸製造工程でのカード工程、練条工程、精紡工程又は不織布製造工程におけるカード工程での工程通過性を考慮すると、ヘキサデシル基、オクタデシル基が好ましく、オクタデシル基がより好ましい。
【0039】
~Rを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。分岐鎖を有するアルケニル基としては、β位が分岐したアルケニル基、複数分岐したアルケニル基のいずれも採用できる。
【0040】
~Rを構成する直鎖のアルケニル基の具体例としては、例えばペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。
【0041】
~Rを構成する分岐鎖構造を有するアルケニル基の具体例としては、例えばイソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基等が挙げられる。
【0042】
リン酸化合物(A)は、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超20%以下である。また、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超10%以下のものが好ましい。無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超であるとハンドリング性を向上させる。無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率20%以下であると、第1処理剤の安定性を向上させる。前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(1)で示される。
【0043】
【数1】
(数式(1)において、
リン酸_P%:無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分値。)
上記「アルカリ過中和前処理」とは、リン酸化合物に対して過剰量の水酸化カリウムを添加する前処理を意味する。
【0044】
31P-NMRの測定において、この「アルカリ過中和前処理」を行うことで、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、無機リン酸化合物に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。数式(1)による各化合物に帰属されるP核NMR積分比率の計算が可能となる。無機リン酸化合物は、塩態でない遊離リン酸、リン酸塩としてリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムが含まれる。アルカリ過中和前処理により、リン酸化合物(A)中に含まれる無機リン酸化合物は、全てリン酸三カリウムに変換される。なお、後述する実施例欄における31P-NMRの測定では、観測ピークが分かれる程度のアルカリをリン酸化合物に加えるアルカリ過中和処理を行った。
【0045】
リン酸化合物(A)は、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、及びリン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上90%以下、リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上70%以下、リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が40%以下であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0046】
前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(2)で、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(3)で、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(4)で示される。
【0047】
【数2】
(数式(2)において、
P1_P%:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値。)
【0048】
【数3】
(数式(3)において、
P2_P%:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値。)
【0049】
【数4】
(数式(4)において、
P3_P%:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値。)
リン酸化合物(A)は、原料アルコールとして炭素数15~20の脂肪族アルコールに、例えば五酸化二燐を反応させてリン酸エステルを得た後、必要によりリン酸エステルを水酸化カリウム等のアルカリで中和又は過中和することにより得られる。前記の合成方法の場合、リン酸エステル化合物は通常、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、並びに無機リン酸化合物であるリン酸又はリン酸塩の混合物となる。また、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、並びに無機リン酸化合物をそれぞれ合成したものを混合して調製してもよい。
【0050】
(溶媒(S))
溶媒(S)は、大気圧における沸点が105℃以下である溶媒である。溶媒(S)としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等、ヘキサン等の低極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒(S)は、一種類の溶媒を単独で使用してもよいし、又は二種以上の溶媒を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で、第1処理剤と合成繊維用第2処理剤(以下、「第2処理剤」という)とが混合された混合物をエマルション形態とする観点から水、低級アルコール等の極性溶媒が好ましく、取り扱い性に優れる観点から水がより好ましい。
【0051】
第1処理剤中における溶媒(S)の含有量は、溶媒の種類、取り扱い性、安定性等の観点から適宜設定される。溶媒(S)の含有量の下限は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。溶媒(S)の含有量の上限は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0052】
(非イオン界面活性剤(C))
非イオン界面活性剤(C)は、分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤(C)としては、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、アミン化合物としてアルキルアミン類にアルキレンオキサイドを付加させたもの等が挙げられる。これらの非イオン界面活性剤(C)は、一種類の非イオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の非イオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0053】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソペンタデカノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソトリアコンタノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0054】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0055】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~60モル、より好ましくは1~40モル、さらに好ましくは2~30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加物であってもランダム付加物であってもよい。
【0056】
非イオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0057】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキルアミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0058】
非イオン界面活性剤(C)の具体例としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(ブロック付加物、ランダム付加物)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル(ブロック付加物、ランダム付加物)、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、油脂のポリオキシエチレン付加物、油脂のポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物(ランダム付加物、ブロック付加物)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル(ランダム付加物、ブロック付加物)、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルの酸中和物、ポリオキシエチレン多価アルコールエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン多価アルコールエーテル脂肪酸エステル(ランダム付加物、ブロック付加物)等が挙げられる。
【0059】
第1処理剤中における非イオン界面活性剤(C)の含有量の上限は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。かかる含有量を5質量%以下に規定することにより、第1処理剤の安定性をより向上させる。
【0060】
第1処理剤中におけるリン酸化合物(A)と非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、質量比としてリン酸化合物(A)/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、好ましくは98/2~100/0であり、より好ましくは99/1~100/0である。かかる範囲に規定されることにより、第1処理剤の安定性を向上させる。
【0061】
(一価脂肪族アルコール(B))
第1処理剤は、更に炭素数8~20の一価脂肪族アルコール(B)を含有してもよい。一価脂肪族アルコール(B)を配合することにより第1処理剤の安定性をより向上させる。一価脂肪族アルコール(B)は、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよい。
【0062】
一価脂肪族アルコール(B)の具体例としては、例えばステアリルアルコール、オレイルアルコール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、オクチルアルコール、イソステアリルアルコール等が挙げられる。一価脂肪族アルコール(B)は、一種類の一価脂肪族アルコールを単独で使用してもよいし、又は二種以上の一価脂肪族アルコールを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0063】
第1処理剤の不揮発分中における一価脂肪族アルコール(B)の含有割合の下限は、好ましくは0.1質量%超、より好ましくは1質量%以上である。0.1質量%超であると、第1処理剤の安定性をより向上させる。かかる含有割合の上限は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。15質量%以下であると、分離を抑制することにより安定性を向上させ、また粘度の増加を抑制することによりハンドリング性を向上させる。
【0064】
なお、不揮発分とは、第1処理剤1gを105℃で2時間熱処理して揮発性希釈剤を十分に除去した絶乾物のことをいう。以下、不揮発分の定義は、同じ条件を採用するものとする。
【0065】
(その他)
第1処理剤は、適用目的又は必要性に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前述した成分以外のその他成分(F)、例えば多価アルコール、平滑剤として鉱物油、エステル、シリコーン化合物等、アニオン界面活性剤、キレート化剤等をさらに含有してもよい。多価アルコールの具体例としては、例えばプロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。なお、3価以上のアルコールを含有すると、高温での安定性が悪くなるため、第1処理剤中において5質量%以下が好ましく、配合しないことがより好ましい。高温での安定性の悪化は、経時で増粘が生ずることによるものである。これは、3価以上のアルコールはそのものの粘度が高いことに加え、3つ以上の極性基が多次元的水素結合の形成に寄与するためと考えられる。
【0066】
鉱物油の具体例としては、例えばパラフィンワックス、水素処理軽パラフィン等が挙げられる。エステルの具体例としては、例えばソルビタンモノオレアート、ソルビタンモノステアラート、グリセリンモノオレアート、ひまし油等が挙げられる。シリコーンの具体例としては、例えばポリジメチルシロキサン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、例えばラウリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキル(C14-16)スルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。キレート化剤の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸三ナトリウム等が挙げられる。
【0067】
第1処理剤の酸価は、適宜設定されるが、好ましくは0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下、より好ましくは0mgKOH/g以上10mgKOH/g以下、さらに好ましくは0mgKOH/g以上5mgKOH/g以下である。かかる範囲に規定されることによりハンドリング性及び安定性を向上させる。酸価は、JIS K 0070-1992「3.2電位差滴定法」に準拠して測定できる。
【0068】
第1処理剤の30℃における粘度は、適宜設定されるが、好ましくは40000mPa・s以下、より好ましくは35000mPa・s以下である。かかる範囲に規定することにより、ハンドリング性、第2処理剤との混合性を向上させる。粘度はB型粘度計で測定した値である。
【0069】
第1処理剤の不揮発分濃度は、適宜設定されるが、好ましくは20質量%以上60質量%以下、より好ましくは30質量%以上55質量%以下である。かかる範囲に規定することにより、ハンドリング性、安定性を向上させる。
【0070】
第1処理剤は、ICP発光分析法により第1処理剤の不揮発分から検出されるナトリウムイオン濃度が、好ましくは0ppm超10000ppm以下、より好ましくは0ppm超8000ppm以下に規定される。かかる範囲に規定されることにより、ハンドリング性、安定性をより向上させる。
【0071】
ICP発光分析法により第1処理剤の不揮発分から検出されるカルシウムイオン濃度は、好ましくは0ppm超200ppm以下、より好ましくは0ppm超40ppm以下、さらに好ましくは0ppm超30ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第1処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0072】
ICP発光分析法により第1処理剤の不揮発分から検出されるマグネシウムイオン濃度は、好ましくは0ppm超150ppm以下、より好ましくは0ppm超25ppm以下、さらに好ましくは0ppm超10ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第1処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0073】
なお、ICP発光分析法を用いた濃度測定は、まず既知の金属イオン濃度溶液を調製し、ICP発光分析装置に供して検量線を作成し、試料の検出値より濃度を求めることができる。
【0074】
(第2処理剤)
第1処理剤は、非イオン界面活性剤(E)を含有する第2処理剤と併用される。第1処理剤は、第2処理剤と別剤として構成され、使用時に第2処理剤と混合された混合物として用いられる。以下、第2処理剤について説明する。
【0075】
第2処理剤は、非イオン界面活性剤(E)を含有し、任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を含有してもよい。第2処理剤は、さらに溶媒(T)を含有してもよい。
(非イオン界面活性剤(E))
非イオン界面活性剤(E)は、混合物の安定性を向上させ、混合物の合成繊維への均一付着性を向上させる。非イオン界面活性剤(E)は、混合物のエマルションの安定性及び混合物の合成繊維への均一付着性に優れる。
【0076】
非イオン界面活性剤(E)の具体例としては、第1処理剤に配合される非イオン界面活性剤(C)において例示したものが挙げられる。これらの非イオン界面活性剤(E)は、1種の非イオン界面活性剤を単独で使用してもよく、2種以上の非イオン界面活性剤を組み合わせて使用してもよい。これらの非イオン界面活性剤(E)の中で、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルの酸中和物等のアミン化合物(E1)を含むものが好ましい。かかる化合物を使用することにより、混合物がエマルション形態の場合、安定性をより向上させる。
【0077】
第2処理剤の不揮発分中のアミン化合物(E1)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。20質量%以上の場合、第2処理剤の安定性をより向上させる。また、混合物がエマルション形態の場合、安定性をより向上させる。
【0078】
(溶媒(T))
溶媒(T)の具体例は、第1処理剤に配合される溶媒(S)において例示したものが挙げられる。これらの中で、混合物をエマルション形態とする観点から水、低級アルコール等の極性溶媒が好ましく、取り扱い性に優れる観点から水がより好ましい。
【0079】
第2処理剤中における溶媒(T)の含有量は、溶媒の種類、取り扱い性、第1処理剤との混合性等の観点から適宜設定される。溶媒(T)の含有量の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。溶媒(T)の含有量の上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0080】
(有機リン酸エステル化合物(D))
有機リン酸エステル化合物(D)は、第1処理剤に配合されるリン酸化合物(A)において挙げた有機リン酸エステル化合物の例を適用できる。
【0081】
第2処理剤中における有機リン酸エステル化合物(D)の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。5質量%以下の場合、第2処理剤の安定性を向上できる。
【0082】
(その他)
第2処理剤は、適用目的又は必要性に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前述した成分以外のその他成分(G)、例えば上述した一価脂肪族アルコール(B)、多価アルコール、平滑剤として鉱物油、エステル、シリコーン化合物等、キレート化剤等をさらに含有してもよい。
【0083】
第2処理剤は、ICP発光分析法により第2処理剤の不揮発分から検出されるカルシウムイオン濃度が、好ましくは200ppm以下、より好ましくは40ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第2処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0084】
ICP発光分析法により第2処理剤の不揮発分から検出されるマグネシウムイオン濃度が、好ましくは150ppm以下、より好ましくは25ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第2処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0085】
<第2実施形態>
次に、本発明の合成繊維用処理剤を具体化した第2実施形態を説明する。
本実施形態の合成繊維用処理剤は、第1実施形態において説明した第1処理剤及び第2処理剤を含んで構成される。合成繊維用処理剤は、保存時に第1処理剤と第2処理剤とが別剤として構成され、使用時に第1処理剤と第2処理剤とが混合された混合物として調製される。混合物の調製は、第1処理剤と第2処理剤とを直接混合してもよく、別途用意した溶媒へ第1処理剤と第2処理剤とを所定の順番で投入し、所定濃度に希釈することにより調製してもよい。
【0086】
第1処理剤と第2処理剤との混合比率は、成分含有量、混合性、用途、又は目的等に応じて適宜設定される。一般に、短繊維の製造工程における紡糸又は延伸工程と仕上げ工程では異なった合成繊維用処理剤が付与される。一般的なポリエステル短繊維又はポリオレフィン短繊維の製造工程における紡糸延伸工程では、溶融紡糸された繊維に対して不揮発分濃度として0.05~1.5質量%の紡糸延伸工程用処理剤のエマルジョンが付与され、繊維は湿潤状態となる。次いで、延伸工程では、不揮発分濃度として0.05~1.5質量%の紡糸延伸工程用処理剤のエマルジョンが満たされた延伸浴中で繊維が延伸される。紡糸又は延伸工程においては、何れの工程でも繊維は湿潤した状態である。したがって、紡糸又は延伸工程では、湿潤状態での摩擦特性又は延伸浴での泡立ち低減等が要求され、湿潤状態に特化した性能が必要とされる。
【0087】
一方、仕上げ工程において付与される合成繊維用処理剤は、短繊維から紡績糸又は不織布に加工する際に必要な特性が要求される。この紡績糸又は不織布への加工工程は、スパンレース等の一部の不織布の湿式加工工程を除いて、一般に全てが乾燥状態、例えば20~40℃、40~70%RH程度の雰囲気下での加工工程となっている。特に紡績糸製造工程におけるカード工程、練条工程、精紡工程又は不織布製造工程におけるカード工程等では、乾燥状態における摩擦特性又は制電性を評価する必要がある。したがって、短繊維用処理剤では、紡糸又は延伸工程で用いられる紡糸又は延伸用油剤と仕上げ工程で用いられる仕上げ用油剤で油剤を変えて利用されることが多い。
【0088】
本発明の処理剤は、紡糸延伸性の観点から、紡糸又は延伸用の組成として、第1処理剤/第2処理剤=70/30~10/90(不揮発分の質量比)の混合比率で使用することが好ましい。特に、第1処理剤/第2処理剤=40/60~20/80(不揮発分の質量比)の混合比率で使用することで、泡立ち低減又は湿潤時の濡れ性等を向上できるため特に好ましい。同じく紡績性の観点から、仕上げ用の組成としては、第1処理剤/第2処理剤=40/60~90/10(不揮発分の質量比)が好ましく、より好ましくは50/50~80/20(不揮発分の質量比)である。
【0089】
第1処理剤と第2処理剤とを併用する形態は、第1処理剤と第2処理剤の混合比率を任意に変更することができる。そのため、製造設備の違い又は温湿度等の気候の違い等の製造条件が異なる条件下においても、配合比率を微調整して常に最適な紡糸延伸性を得るための処理剤を調製することが容易になる。それにより安定した繊維製造が可能となる。
【0090】
上記実施形態の第1処理剤及び合成繊維用処理剤の作用及び効果について説明する。
(1-1)上記実施形態の第1処理剤では、所定のリン酸化合物(A)及び溶媒(S)が含まれ、任意選択で所定の非イオン界面活性剤(C)が所定量含有される。また、合成繊維用処理剤は、第1処理剤と、非イオン界面活性剤(E)を含有する第2処理剤とが、別剤として保存され、使用時に併用される。したがって、合成繊維用処理剤を構成する第1処理剤及び第2処理剤の安定性、特に保存安定性を向上できる。第1処理剤中において、非イオン界面活性剤と有機リン酸化合物との含有比率が所定の範囲に規定されるため、第1処理剤の安定性が向上される。さらに、第1処理剤は、使用時に第2処理剤と混合されるため、界面活性剤によりエマルジョン形態の混合物の安定性も向上できる。したがって、リン酸化合物(A)等の成分の繊維への均一な付着性を低下させることがない。よって、合成繊維用処理剤中に含まれるリン酸化合物(A)等により制電性等の効能を有効に発揮できる。
【0091】
<第3実施形態>
次に、本発明の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法(以下、「水性液の調製方法」という)を具体化した第3実施形態を説明する。
【0092】
本実施形態の水性液の調製方法は、水に、第1実施形態の第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にする方法である。
水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加する方法は、公知の方法を適宜採用できるが、下記の工程1及び下記の工程2を経ることが好ましい。かかる方法により、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。
【0093】
工程1は、第1の水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液の母液を調製する工程である。第1処理剤及び第2処理剤の第1の水への添加順は、特に限定されず、先に第1処理剤を水に添加し、次に第2処理剤を水に添加してもよく、先に第2処理剤を水に添加し、次に第1処理剤を水に添加してもよい。また、第1処理剤及び第2処理剤を同時に水に添加してもよい。また、希釈する水の温度は、特に限定されない。エマルジョンの安定性の向上の観点から、先に第1処理剤を第1の水に添加し、次に第2処理剤を第1の水に添加することが好ましい。
【0094】
さらに、工程1は、第1の水の全量のうち20~70質量%の水を60~95℃に加温し、第1処理剤及び第2処理剤を添加した後、40℃以下に調整された残り30~80質量%の第1の水を添加する工程を経ることが好ましい。かかる方法により、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。この場合も第1処理剤及び第2処理剤の水への添加順は、特に限定されず、先に第1処理剤を水に添加し、次に第2処理剤を水に添加してもよく、先に第2処理剤を水に添加し、次に第1処理剤を水に添加してもよい。また、第1処理剤及び第2処理剤を同時に水に添加してもよい。エマルジョンの安定性の向上の観点から、先に第1処理剤を第1の水に添加し、次に第2処理剤を第1の水に添加することが好ましい。
【0095】
また、工程1は、第1の水の全量のうち20~70質量%の水を60~95℃に加温し、第1処理剤を添加した後、40℃以下に調整された残り30~80質量%の第1の水を添加した後、最後に第2処理剤を添加する工程を経てもよい。かかる方法により、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。
【0096】
工程2は、工程1で調製した合成繊維用処理剤の水性液の母液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の水性液を調製する工程である。
上記実施形態の水性液の調製方法の作用及び効果について説明する。
【0097】
(2-1)上記実施形態の水性液の調製方法は、水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にする方法である。したがって、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性を向上できる。また、予め調製された第1処理剤と第2処理剤を水に混合することにより、繊維付与形態である水性液を調製できるため、使用時に試薬から調合する方法に比べて水性液を簡易に調製できる。
【0098】
(2-2)また、水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液の母液を調製する工程を経る場合、エマルションの安定性をより向上できる。それにより、成分の繊維への均一な付着性を低下させることがなく、各成分による効能を有効に発揮できる。
【0099】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態の水性液の調製方法において、水性液を調製する前記工程1及び工程2から選ばれる任意の工程において、さらにシリコーン組成物を加えることが、繊維製造時の消泡性、繊維の紡績性能向上等の観点から好ましい。シリコーン組成物の具体例としては、特に限定されないが、例えばポリジメチルシロキサン、ポリオキシエチレン変性シリコーン等が好ましい。シリコーン組成物を加える工程としては、水性液の安定性の観点から、工程2がより好ましい。
【0100】
<第4実施形態>
次に、本発明の合成繊維の処理方法を具体化した第4実施形態を説明する。
本実施形態の合成繊維の処理方法は、水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加して得られた水性液を、例えば紡糸又は延伸工程、仕上げ工程等において合成繊維に付与する方法である。水性液の調製方法は、第3実施形態の水性液の調製方法を採用できる。合成繊維に付着した希釈液は、乾燥工程により水分を蒸発させてもよい。
【0101】
水性液が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中で濡れ性の向上により処理剤を均一に付与する効果の発揮に優れる観点からポリエステル又はポリオレフィンに適用されることが好ましい。
【0102】
仕上げ工程において水性液が付与される合成繊維の用途は、特に限定されず、例えば短繊維、紡績糸、不織布等が挙げられる。短繊維及び長繊維のいずれの繊維用途としても適用できるが、短繊維に適用されることが好ましい。短繊維は、一般にステープルと呼ばれるものが該当し、一般にフィラメントと呼ばれる長繊維を含まないものとする。また、短繊維の長さは、本技術分野において短繊維に該当するものであれば特に限定されないが、例えば100mm以下であることが好ましい。
【0103】
水性液を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、水性液を合成繊維に対し0.1~3質量%(水等の溶媒を含まない)の割合となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、各成分による効能を有効に発揮できる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、合成繊維の種類、形態により公知の方法、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等を採用できる。
【0104】
本実施形態の合成繊維の処理方法の作用及び効果について説明する。
(3-1)本実施形態の合成繊維の処理方法では、水性液を、例えば紡糸又は延伸工程、仕上げ工程等において合成繊維に付与する方法である。したがって、各成分の合成繊維への均一な付着性を低下させることがなく、各成分による短繊維、紡績糸、不織布等に対する効能を有効に発揮できる。
【0105】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の各処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0106】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また、特に限定のない限り%は質量%を意味する。
【0107】
試験区分1(第1処理剤の調製)
第1処理剤は、表1,2に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
・リン酸化合物(A)
リン酸化合物(A)は、表1に示されるA-1~26、a-1を使用した。リン酸化合物(A)の種類、リン酸化合物(A)中の無機リン酸化合物のP核NMR積分比率(%)、P1~P3の合計が100%の場合におけるP1~P3のP核NMR積分比率(%)を、表1の「リン酸化合物(A)」欄、「リン酸化合物(A)中の無機リン酸化合物のP核NMR積分比率(%)」欄、「P核NMR積分比率(%)」欄にそれぞれ示す。P核NMR積分比率(%)は、下記に示されるP核NMR測定方法を用いた。
【0108】
・P核NMR測定方法
リン酸化合物(A)のP核NMR積分比率は、まずリン酸化合物に過剰のKOHを加えてpHを12以上とすることにより前処理した。この前処理により31P-NMRの測定において、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、無機リン酸化合物に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。P核NMR積分比率は、31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz、以下同じ)を用いた。溶媒は、重水/テトラヒドロフラン=8/2(体積比)の混合溶媒を用いた。
【0109】
得られたシグナルのうち、4ppm~10ppmに現れるシグナルの積分値がリン酸三カリウム中のP原子に対応する(この積分値をリン酸_Pと表記する)。3ppm~7ppmに現れるシグナルの積分値がP1中のP原子に対応する(この積分値をP1_Pと表記する)。-1ppm~4ppmに現れるシグナルの積分値がP2中のP原子に対応する(この積分値をP2_Pと表記する)。-1ppm~-20ppmに現れるシグナルの積分値がP3中のP原子に対応する(この積分値をP3_Pと表記する)。
【0110】
ただし、上記の値で範囲が重複してシグナルが検出されている場合、低磁場側から順に、無機リン酸、リン酸エステルP1、P2、P3に対応するP原子由来のシグナルが検出される。上記のシグナルの位置は一般的にシグナルが現れる場合の値であり、P核積分によって、-5-20ppmにシグナルが検出される場合は、そのシグナルを含んで積分値が高いシグナルから順に4つのシグナルを選択し、そのうちの低磁場側から順に無機リン酸化合物、リン酸エステルP1,P2,P3成分となる。また、-5-20ppmにシグナルが検出されない場合は、検出されたシグナルのうち積分値が大きいものから順に3本のシグナルを選択し、そのうちの低磁場側から順に無機リン酸化合物、リン酸エステルP1、P2成分となる。
【0111】
リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(1)で示される。
【0112】
リン酸化合物(A)は、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、及びリン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(2)で示される。リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(3)で示される。リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(4)で示される。
【0113】
【表1】
・第1処理剤
リン酸化合物(A)として表1に示されるステアリルホスフェートカリウム塩(A-1)38.8部(%)、一価脂肪族アルコールとしてステアリルアルコール(Ba-1)1.2部(%)、溶媒として水(S-1)60部(%)を含む第1処理剤1-1を調製した。
【0114】
第1処理剤1-2~54は、第1処理剤1-1と同様にしてリン酸化合物及び溶媒、必要により一価脂肪族アルコール、非イオン界面活性剤、及びその他成分(F)を表2に示した割合で混合することで調製した。
【0115】
リン酸化合物(A)の種類と含有量、一価脂肪族アルコール(B)の種類と含有量、非イオン界面活性剤(Ca-1)の含有量、その他成分(F)の種類と含有量、溶媒(S-1)の含有量、第1処理剤の不揮発分濃度、不揮発分中における一価脂肪族アルコール(B)の含有量、リン酸化合物(A)の含有量と非イオン界面活性剤(Ca-1)の含有量との質量比を、表2の「リン酸化合物(A)」欄、「一価脂肪族アルコール(B)」欄、「非イオン界面活性剤(Ca-1)」欄、「その他成分(F)」欄、「溶媒(S-1)」欄、「不揮発分濃度」欄、「不揮発分中における(B)の含有割合」欄、「(A)と(Ca-1)との含有比率」欄にそれぞれ示す。第1処理剤の不揮発分濃度は、以下の方法により測定した。
【0116】
・不揮発分濃度
あらかじめ質量を測定しておいたアルミトレイに試料1gを分取する。105℃で2時間熱処理後の絶乾物の質量から不揮発分濃度を算出する。
【0117】
不揮発分濃度(%)=(熱処理後の絶乾物の質量)/(熱処理前の試料の質量)×100
また、不揮発分から検出されるイオン濃度、第1処理剤の酸価、30℃における粘度は、表2の「不揮発分から検出されるイオン濃度」欄、「酸価」欄、「30℃における粘度」欄にそれぞれ示す。第1処理剤の酸価と粘度は、下記に示される方法により測定した。また、不揮発分から検出されるイオン濃度は、下記に示されるICP発光分析法により測定した。
【0118】
・酸価
JIS K 0070-1992「3.2電位差滴定法」により測定した。なお、試料のサンプリング量は、10gとし、溶媒はエタノール/キシレン=1/2の混合溶媒を使用した。
【0119】
・粘度
容量300mLのトールビーカー(高さ13.5cm)に、250gの試料を加える。試料はあらかじめ30℃に温調しておき、30℃のウォーターバスを使用して温度を保持したまま測定する。東京計器社製デジタルB型粘度計DVL-B型を使用し、操作マニュアルに従いながら、粘度に応じて最適なローター及び回転数を選択しながら測定を行った。
【0120】
・ICP発光分析法
まず、第1処理剤を不揮発分濃度が0.1%となるように蒸留水を用いて希釈する。Ca,K,Mg,Na,P,Siの標準溶液として、それぞれ濃度既知の0.5ppm、1ppm、5ppm、10ppmの溶液を用意する。上記を用いた測定で、10ppm以上の値が出る場合、再度10ppm、50ppm、100ppm、500ppmの溶液を標準溶液として測定する。また、0ppmの標準溶液として、サンプル希釈に使用した蒸留水を使用する。上記を用いた測定で、検量線の上限を外れる場合は、サンプルを蒸留水で更に10倍希釈して測定を実施する。ICP発光分析装置(島津製作所社製ICPE-9000)にて測定した。
【0121】
【表2】
表2に記載する一価脂肪族アルコール(B)、非イオン界面活性剤(Ca-1)、その他成分(F)、溶媒(S-1)の詳細は以下のとおりである。
【0122】
(一価脂肪族アルコール(B))
Ba-1:ステアリルアルコール
Ba-2:セチルアルコール
Ba-3:ラウリルアルコール
Ba-4:オクチルアルコール
Ba-5:イソステアリルアルコール
(非イオン界面活性剤(Ca-1))
ポリオキシエチレン(20モル(エチレンオキサイドの付加モル数、以下同じ))オレイルエーテル
その他成分(F)
Fa-1:プロピレングリコール
Fa-2:ジエチレングリコール
Fa-3:エチレングリコール
Fb-1:パラフィンワックス(融点56℃)
Fb-2:水素処理軽パラフィン
Fc-1:ソルビタンモノオレアート
Fc-2:ソルビタンモノステアラート
Fc-3:グリセリンモノオレアート
Fc-4:ひまし油
Fd-1:ポリジメチルシロキサン
Fe-1:ラウリン酸カリウム
Fe-2:オレイン酸カリウム
Fe-3:ブチルホスフェートカリウム塩
Fe-4:ラウリル硫酸ナトリウム
Fe-5:アルキル(C14-16)スルホン酸ナトリウム
Fe-6:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
Ff-1:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
Ff-2:エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸三ナトリウム
(溶媒(S-1))

試験区分2(第2処理剤の調製)
非イオン界面活性剤(E)として(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=8、mはオキシエチレン単位の数、nはオキシプロピレン単位の数、(以下同じ))C12-13アルキルエ-テル(Ea-10)29.9部(%)、ポリオキシエチレン(10モル)C12-13アルキルエーテル(Ea-11)29.9部(%)、ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミン(E1-2)39.7部(%)、水(T-1)0.5部(%)をよく混合して均一にすることで第2処理剤2-1を調製した。
【0123】
第2処理剤2-2~40は、第2処理剤2-1と同様にして非イオン界面活性剤、溶媒、必要により有機リン酸エステル化合物、及びその他成分を表3に示した割合で混合することで調製した。
【0124】
有機リン酸エステル化合物(D-1)の含有量、非イオン界面活性剤(E)の種類と含有量、その他成分(G)の種類と含有量、水(T-1)の含有量、第2処理剤の不揮発分濃度、不揮発分中における非イオン界面活性剤であるアミン化合物(E1)の含有量を、表3の「リン酸エステル化合物(D-1)」欄、「非イオン界面活性剤(E)」欄、「その他成分(G)」欄、「水(T-1)」欄、「不揮発分濃度」欄、「不揮発分中の(E1)の含有割合」欄にそれぞれ示す。第2処理剤の不揮発分濃度の求め方は、第1処理剤欄の不揮発分濃度の求め方と同様である。
【0125】
また、不揮発分から検出されるイオン濃度は、表3の「不揮発分から検出されるイオン濃度」欄に示す。不揮発分から検出されるイオン濃度は、ICP発光分析法により測定され、その方法は、不揮発分濃度が1%となるように蒸留水を用いて希釈した以外は、第1処理剤欄のICP発光分析法と同様である。
【0126】
【表3】
表3に記載する有機リン酸エステル化合物(D-1)、非イオン界面活性剤(E)、その他成分(G)の詳細は以下のとおりである。
【0127】
(有機リン酸エステル化合物(D-1))
リン酸エステル化合物(A-1)
(非イオン界面活性剤(E))
Ea-1:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=7)デシルエ-テル
Ea-2:ポリオキシエチレン(6モル)デシルエーテル
Ea-3:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)イソデシルエーテル
Ea-4:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)ドデシルエーテル
Ea-5:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルエーテル
Ea-6:ポリオキシエチレン(15モル)ドデシルエーテル
Ea-7:ポリオキシエチレン(7モル)ドデシルエーテル
Ea-8:ポリオキシエチレン(9モル)ドデシルエーテル
Ea-9:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)C12-13アルキルエ-テル
Ea-10:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=8)C12-13アルキルエ-テル
Ea-11:ポリオキシエチレン(10モル)C12-13アルキルエーテル
Ea-12:ポリオキシエチレン(15モル)C12-13アルキルエーテル
Ea-13:ポリオキシエチレン(3モル)C12-14アルキルエーテル
Ea-14:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=8)トリデシルエーテル
Ea-15:ポリオキシエチレン(15モル)トリデシルエーテル
Ea-16:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)イソトリデシルエーテル
Ea-17:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=12)C11-14アルキルエ-テル
Ea-18:ポリオキシエチレン(10モル)C11-14アルキルエーテル
Ea-19:ポリオキシエチレン(10モル)オクタデシルエ-テル
Ea-20:ポリオキシエチレン(10モル)オレイルエ-テル
Ea-21:ポリオキシエチレン(5モル)オレイルエ-テル
Ea-22:ポリオキシエチレン(8モル)オレイルエ-テル
Ea-23:ポリオキシエチレン(20モル)オレイルエーテル
Eb-1:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=20)硬化ひまし油
Eb-2:ポリオキシエチレン(10モル)ラウリルエステル
Eb-3:ポリオキシエチレン(12モル)ラウリルエステル
Eb-4:ポリオキシエチレン(10モル)オレイルエステル
Eb-5:ポリオキシエチレン(10モル)ヤシ脂肪酸エステル
Eb-6:ポリオキシエチレン(7モル)ヤシ脂肪酸エステル
(非イオン界面活性剤としてのアミン化合物(E1))
E1-1:ポリオキシエチレン(4モル)ドデシルアミン
E1-2:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミン
E1-3:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミンと燐酸の塩
E1-4:ポリオキシエチレン(12モル)ドデシルアミン
E1-5:ポリオキシエチレン(15モル)ドデシルアミン
E1-6:ポリオキシエチレン(5モル)オクタデシルアミン
E1-7:ポリオキシエチレン(10モル)オクタデシルアミン
E1-8:ポリオキシエチレン(10モル)ヤシアミン
E1-9:ポリオキシエチレン(12モル)ヤシアミン
E1-10:ポリオキシエチレン(15モル)ヤシアミン
(その他成分(G))
G-1:オクチルアルコール
G-2:プロピレングリコール
G-3:オレイン酸カリウム
試験区分3(合成繊維用処理剤の調製)
試験区分1で得られた第1処理剤と試験区分2で得られた第2処理剤とを表4,5に示される比率で下記に示される方法で混合し、最終的にエマルジョン形態の合成繊維用処理剤を調製した。
【0128】
(実施例1)
まず、陽イオン交換水を40g計り取り、80℃の湯煎にて500rpmにてプロペラ撹拌羽を用いて3分撹拌する。ビーカーの中に、第1処理剤1-1の6.25g(不揮発分として2.5g)をスポイトで滴下し、5分間撹拌する。
【0129】
次いで、第2処理剤2-1の2.51g(不揮発分として2.5g)をスポイトを用いて滴下し、5分間撹拌する。
なお、この時、第1処理剤の配合比率(%)は、第1処理剤の質量/(第1処理剤質量+第2処理剤の質量)×100=71.3(%)である。第2処理剤の配合比率(%)は、第2処理剤の質量/(第1処理剤の質量+第2処理剤の質量)×100=28.7(%)となる。
【0130】
ビーカーを湯煎から出し、室温にて500rpmで撹拌下、50gの25℃陽イオン交換水を加える。3分撹拌後、水性液の総重量が100gとなるように陽イオン交換水を加える。1分撹拌して得られた水性液を、実施例1の5%エマルジョン(不揮発分5%)とした。
【0131】
実施例2~79は、実施例1と同様にして第1処理剤と第2処理剤を表4,5に示した割合で混合することで合成繊維用処理剤としての5%エマルジョンを調製した。
(比較例1)
陽イオン交換水を80g計り取り、80℃の湯煎にて500rpmにてプロペラ撹拌羽を用いて3分撹拌する。ビーカーの中に、第1処理剤1-1を不揮発分として5g(第1処理剤として12.5g)をスポイトで滴下し、5分間撹拌する。撹拌後、水性液の総質量が100gとなるように陽イオン交換水を加える。1分撹拌して得られた水性液を、比較例1の5%エマルジョン(不揮発分5%)とした。
【0132】
比較例2~6は、比較例1と同様にして第1処理剤又は第2処理剤を表5に示した割合で混合することで5%エマルジョンを調製した。
第1処理剤の種類と含有量、第2処理剤の種類と含有量を、表4,5の「第1処理剤」欄、「第2処理剤」欄にそれぞれ示す。
【0133】
【表4】
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
試験区分4(安定性の評価)
表2,3の第1処理剤及び第2処理剤の各剤を200mLの透明ポリ瓶に150gずつ入れた。B型粘度計で、30℃における粘度を測定した。25℃及び50℃の各インキュベーターにて1か月静置した。静置開始日を0日目とし、1、3、5、7、14、21、28日目に外観を観察した。下記の基準に基づき安定性を評価した。結果を表2,3の「安定性」欄に示す。
【0136】
比較例7~44の処理剤については、表6に記載の比率にしたがって、ビーカーに各成分を混合し、不揮発分成分及び溶媒を合計で200gとなるように調製した。混合後、ガラス棒で均一になるまで撹拌した。撹拌後、200mL透明ポリ瓶に150g入れた。B型粘度計で、30℃における粘度を測定した。25℃及び50℃の各インキュベーターにて1か月静置し、静置開始日を0日目とし、1、3、5、7、14、21、28日目に外観を観察した。下記の基準に基づき安定性を評価した。結果を表6の「安定性」欄に示す。比較例7~44の処理剤の各成分の種類と不揮発分濃度を100%とした場合の各成分の含有量、及び処理剤中の不揮発分濃度を、表6の各成分の欄、「不揮発分濃度」欄にそれぞれ示す。
【0137】
・安定性の評価基準
◎(優れる):25℃及び50℃1か月で下記増粘1及び分離なしの場合
○(良好):25℃で28日目までに下記増粘1、増粘2、及び分離なしの場合、但し50℃で8日目~28日目の間に下記増粘1又は分離があった場合
△(可):50℃で7日目までに下記増粘2又は分離があった場合
×(やや不良):25℃で8日目~28日目までに下記増粘1又は分離があり、50℃で7日目までに下記増粘1又は分離がある場合
××(不良):25℃で7日目まで、又は50℃で3日目までに下記増粘1又は分離があった場合
×××(非常に不良):25℃で3日目までに下記増粘1又は分離があった場合
なお、「○日目までに」は、○日目に観察して増粘又は分離していた場合を含むものとする。
【0138】
増粘1は、ポリ瓶を90°傾けて5分後までに液面に変化が無い(液体が流れださない)場合とした。
増粘2は、ポリ瓶を90°傾けると液面に変化がある(液体が流れだす)場合であって、B型粘度計による粘度が安定性評価前の1.5倍以上に増粘していた場合とした。
【0139】
試験区分5(エマルジョン安定性の評価)
試験区分3で得られた5%エマルジョンを100mLニンジン型沈殿瓶(三商社製)に100g入れた。25℃の部屋に静置し、24時間経過後に沈殿量を確認した。下記の基準に基づきエマルジョン安定性を評価した。結果を表4,5の「エマルジョン安定性」欄に示す。なお、表6に示されるように、比較例7~44は、安定性の評価が不良であったため、エマルジョン安定性について評価を行っていない。
【0140】
・エマルジョン安定性の評価基準
◎◎(優れる):沈殿量が0.1mL未満
◎(良好):沈殿量が0.1mL以上0.3mL以下
○(可):沈殿量が0.3mL超0.5mL以下
×(不可):沈殿量が0.5mL超
試験区分6(ポリエステルステープル繊維への処理剤の付着)
試験区分3で調製した各例の0.5%エマルジョンを使用した。調製したエマルジョンを、製綿工程で得られた繊度1.3×10-4g/m(1.2デニール)で繊維長38mmのセミダルのポリエステルステープル繊維に、不揮発分としてその付着量が0.15%となるようにスプレー法で付着させた。そして、80℃の熱風乾燥機で2時間乾燥した後、25℃×40%RHの雰囲気下に一夜調湿して、処理済みポリエステルステープル繊維を得た。なお、表6に示されるように、比較例7~44は、安定性の評価が不良であったため、下記の紡績性について評価を行っていない。
【0141】
試験区分7(カード通過性の評価)
試験区分6で得た処理済みポリエステルステープル繊維20gを、20℃で65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ミニチュアカード機に供した。投入量に対して排出された量の割合を算出し、下記の評価基準で評価した。結果を表4,5の「カード通過性」欄に示す。
【0142】
・カード通過性の評価基準
◎(良好):排出量が90%以上
○(可):排出量が80%以上90%未満
×(不良):排出量が80%未満
試験区分8(スカム抑制の評価)
試験区分6で得た処理済みポリエステルステープル繊維100gを、20℃で65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ミニチュアカード機に供した。試験後に、シリンダー部に堆積したスカム量を判断した。結果を表4,5の「スカム抑制」欄に示す。
【0143】
・スカム抑制の評価
◎(良好):スカムが全く堆積していない場合
○(可):スカム堆積量がシリンダー表面積の2%未満
×(不良):スカム堆積量がシリンダー表面積の2%以上
試験区分9(制電性の評価)
試験区分6で得た処理済みポリエステルステープル繊維20gを用い、25℃×40%RHの雰囲気下でミニチュアカードに供した。紡出されたカードウェブの静電気をデジタル静電電位測定器を用いてカードウェブから1cm離れた位置から測定し、制電性を下記の基準で判定した。結果を表4,5の「制電性」欄に示す。
【0144】
・制電性の評価基準
◎(良好):静電気発生量が0.3kV未満
○(可):静電気発生量が0.3kV以上0.6kV未満
×(不良):静電気発生量が0.6kV以上
比較例7~44の合成繊維用処理剤は、いずれもリン酸化合物(A)及び非イオン界面活性剤(E)が本発明の範囲から外れる配合比率で、予め混合して調製されている。比較例7~44の合成繊維用処理剤は、いずれも安定性に劣ることが確認された。一方、本発明の第1処理剤によると、表2の安定性の評価結果からも明らかなように、保存安定性を向上できる。また、かかる第1処理剤を含んで構成される合成繊維用処理剤が付与された繊維は、カード通過性が向上され、スカム抑制効果、制電性が向上され、各種機能を十分に発揮できる。なお、各例の合成繊維用処理剤をポリオレフィン樹脂としてポリエチレン樹脂に適用した場合も同様の効果、つまりカード通過性、制電性等を向上させる効果が得られることを確認している。
【手続補正書】
【提出日】2021-07-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有し、前記リン酸化合物(A)と前記非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、質量比としてリン酸化合物(A)/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用されることを特徴とする合成繊維用第1処理剤。
リン酸化合物(A):有機リン酸エステル化合物として、下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2、及び任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3を含有し、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超20%以下。
【化1】
(式(1)中において、
:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
,M:水素原子、又はカリウム。)
【化2】
(式(2)中において、
,R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
:水素原子、又はカリウム。)
【化3】
(式(3)中において、
、R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
、Q:水素原子、又はカリウム。)
溶媒(S):大気圧における沸点が105℃以下である溶媒。
非イオン界面活性剤(C):分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤。
【請求項2】
前記合成繊維用第2処理剤が、任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を含有し、前記合成繊維用第2処理剤中の前記有機リン酸エステル化合物(D)の含有量が5質量%以下である請求項1に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項3】
前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、及び前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上90%以下、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上70%以下、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が40%以下である請求項1又は2に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項4】
前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が、0%超10%以下のものである請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項5】
前記溶媒(S)が、水である請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項6】
更に、炭素数8~20の一価脂肪族アルコール(B)を含有し、合成繊維用第1処理剤の不揮発分中における前記一価脂肪族アルコール(B)の含有割合が0.1質量%超15質量%以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項7】
前記合成繊維用第1処理剤の酸価が、0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下のものである請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項8】
前記合成繊維用第1処理剤の30℃における粘度が、40000mPa・s以下のものである請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項9】
前記合成繊維用第1処理剤の不揮発分濃度が、20質量%以上60質量%以下のものである請求項1~8のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項10】
ICP発光分析法により合成繊維用第1処理剤の不揮発分から検出されるナトリウムイオン濃度が、0ppm超10000ppm以下、カルシウムイオン濃度が0ppm超200ppm以下、マグネシウムイオン濃度が0ppm超150ppm以下である請求項1~9のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項11】
短繊維に適用される請求項1~10のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項12】
ポリエステル又はポリオレフィンに適用される請求項1~11のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項13】
ポリエステルに適用される請求項1~12のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤と、該合成繊維用第1処理剤とは別剤である非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤とを含むことを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項15】
前記合成繊維用第2処理剤が、さらに任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を5質量%以下含有する請求項14に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項16】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にすることを特徴とする合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
【請求項17】
下記の工程1及び下記の工程2を経る請求項16に記載の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
工程1:第1の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び前記合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
工程2:さらに工程1で調製した合成繊維用処理剤の水性液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
【請求項18】
前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び合成繊維用第2処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加する工程を経るものである請求項17に記載の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
【請求項19】
前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加し、さらに前記合成繊維用第2処理剤を添加する工程を経るものである請求項17に記載の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
【請求項20】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする合成繊維の処理方法。
【請求項21】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする合成繊維の製造方法
【請求項22】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする短繊維の製造方法
【請求項23】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする紡績糸の製造方法
【請求項24】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする不織布の製造方法
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化合物を含有する合成繊維用第1処理剤、並びにかかる合成繊維用第1処理剤を用いた合成繊維用処理剤、水性液の調製方法、合成繊維の処理方法、合成繊維の製造方法、短繊維の製造方法、紡績糸の製造方法、及び不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の紡糸延伸工程、仕上げ工程等において、摩擦等を低減し、制電性等を向上させる観点から、合成繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着させる処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1の合成繊維用処理剤は、特定のアルキルリン酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の界面活性剤、及び分子中に炭素数12~22のアルキル基を有する一価脂肪族アルコールを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-223035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、処理剤の安定性のさらなる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、所定のリン酸化合物を含有する合成繊維用第1処理剤と界面活性剤を含有する合成繊維用第2処理剤とに分けた構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の合成繊維用第1処理剤では、下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有し、前記リン酸化合物(A)と前記非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、質量比としてリン酸化合物(A)/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用されることを特徴とする。
【0008】
リン酸化合物(A):有機リン酸エステル化合物として、下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2、及び任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3を含有し、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超20%以下。
【0009】
【化1】
(式(1)中において、
:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
,M:水素原子、又はカリウム。)
【0010】
【化2】
(式(2)中において、
,R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
:水素原子、又はカリウム。)
【0011】
【化3】
(式(3)中において、
、R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
、Q:水素原子、又はカリウム。)
溶媒(S):大気圧における沸点が105℃以下である溶媒。
【0012】
非イオン界面活性剤(C):分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤。
前記合成繊維用第1処理剤において、前記合成繊維用第2処理剤が、任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を含有し、前記合成繊維用第2処理剤中の前記有機リン酸エステル化合物(D)の含有量が5質量%以下であることが好ましい。
【0013】
前記合成繊維用第1処理剤において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、及び前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上90%以下、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上70%以下、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が40%以下であることが好ましい。
【0014】
前記合成繊維用第1処理剤において、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が、0%超10%以下のものが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、前記溶媒(S)が、水であることが好ましい。
【0015】
前記合成繊維用第1処理剤において、更に、炭素数8~20の一価脂肪族アルコール(B)を含有し、合成繊維用第1処理剤の不揮発分中における前記一価脂肪族アルコール(B)の含有割合が0.1質量%超15質量%以下であることが好ましい。
【0016】
前記合成繊維用第1処理剤において、酸価が0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下のものが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、30℃における粘度が40000mPa・s以下のものであることが好ましい。
【0017】
前記合成繊維用第1処理剤において、不揮発分濃度が20質量%以上60質量%以下のものであることが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、ICP発光分析法により合成繊維用第1処理剤の不揮発分から検出されるナトリウムイオン濃度が、0ppm超10000ppm以下、カルシウムイオン濃度が0ppm超200ppm以下、及びマグネシウムイオン濃度が0ppm超150ppm以下であることが好ましい。
【0018】
前記合成繊維用第1処理剤において、短繊維に適用されることが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、ポリエステル又はポリオレフィンに適用されることが好ましい。
【0019】
前記合成繊維用第1処理剤において、ポリエステルに適用されることが好ましい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維用処理剤では、合成繊維用第1処理剤と、該合成繊維用第1処理剤とは別剤である非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤とを含むことを特徴とする。
【0020】
前記合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用第2処理剤が、さらに任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を5質量%以下含有してもよい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にすることを特徴とする。
【0021】
前記合成繊維用処理剤の水性液の調製方法において、下記の工程1及び下記の工程2を経ることが好ましい。
工程1:第1の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び前記合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
【0022】
工程2:さらに工程1で調製した合成繊維用処理剤の水性液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
【0023】
前記合成繊維用処理剤の水性液の調製方法において、前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び合成繊維用第2処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加する工程を経るものであることが好ましい。
【0024】
前記合成繊維用処理剤の水性液の調製方法において、前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加し、さらに前記合成繊維用第2処理剤を添加する工程を経るものであることが好ましい。
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維の処理方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の短繊維の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の紡績糸の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする。
【0029】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の不織布の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば処理剤の安定性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用第1処理剤(以下、第1処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の第1処理剤は、下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)が含まれる。さらに、任意選択で後述する非イオン界面活性剤(C)を含有してもよい。
【0032】
(リン酸化合物(A))
リン酸化合物(A)は、有機リン酸エステル化合物として、下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2、及び任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3が含まれる。リン酸化合物(A)は、合成繊維に適用された際、制電性を向上させ、摩擦を低減させる。
【0033】
【化4】
(式(1)中において、
:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
,M:水素原子、又はカリウム。)
【0034】
【化5】
(式(2)中において、
,R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
:水素原子、又はカリウム。)
【0035】
【化6】
(式(3)中において、
、R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
、Q:水素原子、又はカリウム。)
これらのリン酸エステルP1~P3は、それぞれ一種類のリン酸エステルを単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0036】
~Rを構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。分岐鎖を有するアルキル基としては、β位が分岐したアルキル基、複数分岐したアルキル基のいずれも採用できる。
【0037】
~Rを構成する直鎖のアルキル基の具体例としては、例えばペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。R~Rを構成する分岐鎖構造を有するアルキル基の具体例としては、例えばイソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソノナデシル基、イソイコシル基等が挙げられる。
【0038】
~Rを構成する直鎖のアルキル基としては、紡績糸製造工程でのカード工程、練条工程、精紡工程又は不織布製造工程におけるカード工程での工程通過性を考慮すると、ヘキサデシル基、オクタデシル基が好ましく、オクタデシル基がより好ましい。
【0039】
~Rを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。分岐鎖を有するアルケニル基としては、β位が分岐したアルケニル基、複数分岐したアルケニル基のいずれも採用できる。
【0040】
~Rを構成する直鎖のアルケニル基の具体例としては、例えばペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。
【0041】
~Rを構成する分岐鎖構造を有するアルケニル基の具体例としては、例えばイソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基等が挙げられる。
【0042】
リン酸化合物(A)は、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超20%以下である。また、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超10%以下のものが好ましい。無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超であるとハンドリング性を向上させる。無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率20%以下であると、第1処理剤の安定性を向上させる。前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(1)で示される。
【0043】
【数1】
(数式(1)において、
リン酸_P%:無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分値。)
上記「アルカリ過中和前処理」とは、リン酸化合物に対して過剰量の水酸化カリウムを添加する前処理を意味する。
【0044】
31P-NMRの測定において、この「アルカリ過中和前処理」を行うことで、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、無機リン酸化合物に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。数式(1)による各化合物に帰属されるP核NMR積分比率の計算が可能となる。無機リン酸化合物は、塩態でない遊離リン酸、リン酸塩としてリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムが含まれる。アルカリ過中和前処理により、リン酸化合物(A)中に含まれる無機リン酸化合物は、全てリン酸三カリウムに変換される。なお、後述する実施例欄における31P-NMRの測定では、観測ピークが分かれる程度のアルカリをリン酸化合物に加えるアルカリ過中和処理を行った。
【0045】
リン酸化合物(A)は、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、及びリン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上90%以下、リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上70%以下、リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が40%以下であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0046】
前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(2)で、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(3)で、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(4)で示される。
【0047】
【数2】
(数式(2)において、
P1_P%:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値。)
【0048】
【数3】
(数式(3)において、
P2_P%:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値。)
【0049】
【数4】
(数式(4)において、
P3_P%:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値。)
リン酸化合物(A)は、原料アルコールとして炭素数15~20の脂肪族アルコールに、例えば五酸化二燐を反応させてリン酸エステルを得た後、必要によりリン酸エステルを水酸化カリウム等のアルカリで中和又は過中和することにより得られる。前記の合成方法の場合、リン酸エステル化合物は通常、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、並びに無機リン酸化合物であるリン酸又はリン酸塩の混合物となる。また、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、並びに無機リン酸化合物をそれぞれ合成したものを混合して調製してもよい。
【0050】
(溶媒(S))
溶媒(S)は、大気圧における沸点が105℃以下である溶媒である。溶媒(S)としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等、ヘキサン等の低極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒(S)は、一種類の溶媒を単独で使用してもよいし、又は二種以上の溶媒を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で、第1処理剤と合成繊維用第2処理剤(以下、「第2処理剤」という)とが混合された混合物をエマルション形態とする観点から水、低級アルコール等の極性溶媒が好ましく、取り扱い性に優れる観点から水がより好ましい。
【0051】
第1処理剤中における溶媒(S)の含有量は、溶媒の種類、取り扱い性、安定性等の観点から適宜設定される。溶媒(S)の含有量の下限は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。溶媒(S)の含有量の上限は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0052】
(非イオン界面活性剤(C))
非イオン界面活性剤(C)は、分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤(C)としては、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、アミン化合物としてアルキルアミン類にアルキレンオキサイドを付加させたもの等が挙げられる。これらの非イオン界面活性剤(C)は、一種類の非イオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の非イオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0053】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソペンタデカノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソトリアコンタノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0054】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0055】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~60モル、より好ましくは1~40モル、さらに好ましくは2~30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加物であってもランダム付加物であってもよい。
【0056】
非イオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0057】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキルアミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0058】
非イオン界面活性剤(C)の具体例としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(ブロック付加物、ランダム付加物)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル(ブロック付加物、ランダム付加物)、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、油脂のポリオキシエチレン付加物、油脂のポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物(ランダム付加物、ブロック付加物)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル(ランダム付加物、ブロック付加物)、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルの酸中和物、ポリオキシエチレン多価アルコールエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン多価アルコールエーテル脂肪酸エステル(ランダム付加物、ブロック付加物)等が挙げられる。
【0059】
第1処理剤中における非イオン界面活性剤(C)の含有量の上限は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。かかる含有量を5質量%以下に規定することにより、第1処理剤の安定性をより向上させる。
【0060】
第1処理剤中におけるリン酸化合物(A)と非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、質量比としてリン酸化合物(A)/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、好ましくは98/2~100/0であり、より好ましくは99/1~100/0である。かかる範囲に規定されることにより、第1処理剤の安定性を向上させる。
【0061】
(一価脂肪族アルコール(B))
第1処理剤は、更に炭素数8~20の一価脂肪族アルコール(B)を含有してもよい。一価脂肪族アルコール(B)を配合することにより第1処理剤の安定性をより向上させる。一価脂肪族アルコール(B)は、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよい。
【0062】
一価脂肪族アルコール(B)の具体例としては、例えばステアリルアルコール、オレイルアルコール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、オクチルアルコール、イソステアリルアルコール等が挙げられる。一価脂肪族アルコール(B)は、一種類の一価脂肪族アルコールを単独で使用してもよいし、又は二種以上の一価脂肪族アルコールを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0063】
第1処理剤の不揮発分中における一価脂肪族アルコール(B)の含有割合の下限は、好ましくは0.1質量%超、より好ましくは1質量%以上である。0.1質量%超であると、第1処理剤の安定性をより向上させる。かかる含有割合の上限は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。15質量%以下であると、分離を抑制することにより安定性を向上させ、また粘度の増加を抑制することによりハンドリング性を向上させる。
【0064】
なお、不揮発分とは、第1処理剤1gを105℃で2時間熱処理して揮発性希釈剤を十分に除去した絶乾物のことをいう。以下、不揮発分の定義は、同じ条件を採用するものとする。
【0065】
(その他)
第1処理剤は、適用目的又は必要性に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前述した成分以外のその他成分(F)、例えば多価アルコール、平滑剤として鉱物油、エステル、シリコーン化合物等、アニオン界面活性剤、キレート化剤等をさらに含有してもよい。多価アルコールの具体例としては、例えばプロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。なお、3価以上のアルコールを含有すると、高温での安定性が悪くなるため、第1処理剤中において5質量%以下が好ましく、配合しないことがより好ましい。高温での安定性の悪化は、経時で増粘が生ずることによるものである。これは、3価以上のアルコールはそのものの粘度が高いことに加え、3つ以上の極性基が多次元的水素結合の形成に寄与するためと考えられる。
【0066】
鉱物油の具体例としては、例えばパラフィンワックス、水素処理軽パラフィン等が挙げられる。エステルの具体例としては、例えばソルビタンモノオレアート、ソルビタンモノステアラート、グリセリンモノオレアート、ひまし油等が挙げられる。シリコーンの具体例としては、例えばポリジメチルシロキサン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、例えばラウリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキル(C14-16)スルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。キレート化剤の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸三ナトリウム等が挙げられる。
【0067】
第1処理剤の酸価は、適宜設定されるが、好ましくは0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下、より好ましくは0mgKOH/g以上10mgKOH/g以下、さらに好ましくは0mgKOH/g以上5mgKOH/g以下である。かかる範囲に規定されることによりハンドリング性及び安定性を向上させる。酸価は、JIS K 0070-1992「3.2電位差滴定法」に準拠して測定できる。
【0068】
第1処理剤の30℃における粘度は、適宜設定されるが、好ましくは40000mPa・s以下、より好ましくは35000mPa・s以下である。かかる範囲に規定することにより、ハンドリング性、第2処理剤との混合性を向上させる。粘度はB型粘度計で測定した値である。
【0069】
第1処理剤の不揮発分濃度は、適宜設定されるが、好ましくは20質量%以上60質量%以下、より好ましくは30質量%以上55質量%以下である。かかる範囲に規定することにより、ハンドリング性、安定性を向上させる。
【0070】
第1処理剤は、ICP発光分析法により第1処理剤の不揮発分から検出されるナトリウムイオン濃度が、好ましくは0ppm超10000ppm以下、より好ましくは0ppm超8000ppm以下に規定される。かかる範囲に規定されることにより、ハンドリング性、安定性をより向上させる。
【0071】
ICP発光分析法により第1処理剤の不揮発分から検出されるカルシウムイオン濃度は、好ましくは0ppm超200ppm以下、より好ましくは0ppm超40ppm以下、さらに好ましくは0ppm超30ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第1処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0072】
ICP発光分析法により第1処理剤の不揮発分から検出されるマグネシウムイオン濃度は、好ましくは0ppm超150ppm以下、より好ましくは0ppm超25ppm以下、さらに好ましくは0ppm超10ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第1処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0073】
なお、ICP発光分析法を用いた濃度測定は、まず既知の金属イオン濃度溶液を調製し、ICP発光分析装置に供して検量線を作成し、試料の検出値より濃度を求めることができる。
【0074】
(第2処理剤)
第1処理剤は、非イオン界面活性剤(E)を含有する第2処理剤と併用される。第1処理剤は、第2処理剤と別剤として構成され、使用時に第2処理剤と混合された混合物として用いられる。以下、第2処理剤について説明する。
【0075】
第2処理剤は、非イオン界面活性剤(E)を含有し、任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を含有してもよい。第2処理剤は、さらに溶媒(T)を含有してもよい。
(非イオン界面活性剤(E))
非イオン界面活性剤(E)は、混合物の安定性を向上させ、混合物の合成繊維への均一付着性を向上させる。非イオン界面活性剤(E)は、混合物のエマルションの安定性及び混合物の合成繊維への均一付着性に優れる。
【0076】
非イオン界面活性剤(E)の具体例としては、第1処理剤に配合される非イオン界面活性剤(C)において例示したものが挙げられる。これらの非イオン界面活性剤(E)は、1種の非イオン界面活性剤を単独で使用してもよく、2種以上の非イオン界面活性剤を組み合わせて使用してもよい。これらの非イオン界面活性剤(E)の中で、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルの酸中和物等のアミン化合物(E1)を含むものが好ましい。かかる化合物を使用することにより、混合物がエマルション形態の場合、安定性をより向上させる。
【0077】
第2処理剤の不揮発分中のアミン化合物(E1)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。20質量%以上の場合、第2処理剤の安定性をより向上させる。また、混合物がエマルション形態の場合、安定性をより向上させる。
【0078】
(溶媒(T))
溶媒(T)の具体例は、第1処理剤に配合される溶媒(S)において例示したものが挙げられる。これらの中で、混合物をエマルション形態とする観点から水、低級アルコール等の極性溶媒が好ましく、取り扱い性に優れる観点から水がより好ましい。
【0079】
第2処理剤中における溶媒(T)の含有量は、溶媒の種類、取り扱い性、第1処理剤との混合性等の観点から適宜設定される。溶媒(T)の含有量の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。溶媒(T)の含有量の上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0080】
(有機リン酸エステル化合物(D))
有機リン酸エステル化合物(D)は、第1処理剤に配合されるリン酸化合物(A)において挙げた有機リン酸エステル化合物の例を適用できる。
【0081】
第2処理剤中における有機リン酸エステル化合物(D)の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。5質量%以下の場合、第2処理剤の安定性を向上できる。
【0082】
(その他)
第2処理剤は、適用目的又は必要性に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前述した成分以外のその他成分(G)、例えば上述した一価脂肪族アルコール(B)、多価アルコール、平滑剤として鉱物油、エステル、シリコーン化合物等、キレート化剤等をさらに含有してもよい。
【0083】
第2処理剤は、ICP発光分析法により第2処理剤の不揮発分から検出されるカルシウムイオン濃度が、好ましくは200ppm以下、より好ましくは40ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第2処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0084】
ICP発光分析法により第2処理剤の不揮発分から検出されるマグネシウムイオン濃度が、好ましくは150ppm以下、より好ましくは25ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第2処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0085】
<第2実施形態>
次に、本発明の合成繊維用処理剤を具体化した第2実施形態を説明する。
本実施形態の合成繊維用処理剤は、第1実施形態において説明した第1処理剤及び第2処理剤を含んで構成される。合成繊維用処理剤は、保存時に第1処理剤と第2処理剤とが別剤として構成され、使用時に第1処理剤と第2処理剤とが混合された混合物として調製される。混合物の調製は、第1処理剤と第2処理剤とを直接混合してもよく、別途用意した溶媒へ第1処理剤と第2処理剤とを所定の順番で投入し、所定濃度に希釈することにより調製してもよい。
【0086】
第1処理剤と第2処理剤との混合比率は、成分含有量、混合性、用途、又は目的等に応じて適宜設定される。一般に、短繊維の製造工程における紡糸又は延伸工程と仕上げ工程では異なった合成繊維用処理剤が付与される。一般的なポリエステル短繊維又はポリオレフィン短繊維の製造工程における紡糸延伸工程では、溶融紡糸された繊維に対して不揮発分濃度として0.05~1.5質量%の紡糸延伸工程用処理剤のエマルジョンが付与され、繊維は湿潤状態となる。次いで、延伸工程では、不揮発分濃度として0.05~1.5質量%の紡糸延伸工程用処理剤のエマルジョンが満たされた延伸浴中で繊維が延伸される。紡糸又は延伸工程においては、何れの工程でも繊維は湿潤した状態である。したがって、紡糸又は延伸工程では、湿潤状態での摩擦特性又は延伸浴での泡立ち低減等が要求され、湿潤状態に特化した性能が必要とされる。
【0087】
一方、仕上げ工程において付与される合成繊維用処理剤は、短繊維から紡績糸又は不織布に加工する際に必要な特性が要求される。この紡績糸又は不織布への加工工程は、スパンレース等の一部の不織布の湿式加工工程を除いて、一般に全てが乾燥状態、例えば20~40℃、40~70%RH程度の雰囲気下での加工工程となっている。特に紡績糸製造工程におけるカード工程、練条工程、精紡工程又は不織布製造工程におけるカード工程等では、乾燥状態における摩擦特性又は制電性を評価する必要がある。したがって、短繊維用処理剤では、紡糸又は延伸工程で用いられる紡糸又は延伸用油剤と仕上げ工程で用いられる仕上げ用油剤で油剤を変えて利用されることが多い。
【0088】
本発明の処理剤は、紡糸延伸性の観点から、紡糸又は延伸用の組成として、第1処理剤/第2処理剤=70/30~10/90(不揮発分の質量比)の混合比率で使用することが好ましい。特に、第1処理剤/第2処理剤=40/60~20/80(不揮発分の質量比)の混合比率で使用することで、泡立ち低減又は湿潤時の濡れ性等を向上できるため特に好ましい。同じく紡績性の観点から、仕上げ用の組成としては、第1処理剤/第2処理剤=40/60~90/10(不揮発分の質量比)が好ましく、より好ましくは50/50~80/20(不揮発分の質量比)である。
【0089】
第1処理剤と第2処理剤とを併用する形態は、第1処理剤と第2処理剤の混合比率を任意に変更することができる。そのため、製造設備の違い又は温湿度等の気候の違い等の製造条件が異なる条件下においても、配合比率を微調整して常に最適な紡糸延伸性を得るための処理剤を調製することが容易になる。それにより安定した繊維製造が可能となる。
【0090】
上記実施形態の第1処理剤及び合成繊維用処理剤の作用及び効果について説明する。
(1-1)上記実施形態の第1処理剤では、所定のリン酸化合物(A)及び溶媒(S)が含まれ、任意選択で所定の非イオン界面活性剤(C)が所定量含有される。また、合成繊維用処理剤は、第1処理剤と、非イオン界面活性剤(E)を含有する第2処理剤とが、別剤として保存され、使用時に併用される。したがって、合成繊維用処理剤を構成する第1処理剤及び第2処理剤の安定性、特に保存安定性を向上できる。第1処理剤中において、非イオン界面活性剤と有機リン酸化合物との含有比率が所定の範囲に規定されるため、第1処理剤の安定性が向上される。さらに、第1処理剤は、使用時に第2処理剤と混合されるため、界面活性剤によりエマルジョン形態の混合物の安定性も向上できる。したがって、リン酸化合物(A)等の成分の繊維への均一な付着性を低下させることがない。よって、合成繊維用処理剤中に含まれるリン酸化合物(A)等により制電性等の効能を有効に発揮できる。
【0091】
<第3実施形態>
次に、本発明の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法(以下、「水性液の調製方法」という)を具体化した第3実施形態を説明する。
【0092】
本実施形態の水性液の調製方法は、水に、第1実施形態の第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にする方法である。
水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加する方法は、公知の方法を適宜採用できるが、下記の工程1及び下記の工程2を経ることが好ましい。かかる方法により、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。
【0093】
工程1は、第1の水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液の母液を調製する工程である。第1処理剤及び第2処理剤の第1の水への添加順は、特に限定されず、先に第1処理剤を水に添加し、次に第2処理剤を水に添加してもよく、先に第2処理剤を水に添加し、次に第1処理剤を水に添加してもよい。また、第1処理剤及び第2処理剤を同時に水に添加してもよい。また、希釈する水の温度は、特に限定されない。エマルジョンの安定性の向上の観点から、先に第1処理剤を第1の水に添加し、次に第2処理剤を第1の水に添加することが好ましい。
【0094】
さらに、工程1は、第1の水の全量のうち20~70質量%の水を60~95℃に加温し、第1処理剤及び第2処理剤を添加した後、40℃以下に調整された残り30~80質量%の第1の水を添加する工程を経ることが好ましい。かかる方法により、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。この場合も第1処理剤及び第2処理剤の水への添加順は、特に限定されず、先に第1処理剤を水に添加し、次に第2処理剤を水に添加してもよく、先に第2処理剤を水に添加し、次に第1処理剤を水に添加してもよい。また、第1処理剤及び第2処理剤を同時に水に添加してもよい。エマルジョンの安定性の向上の観点から、先に第1処理剤を第1の水に添加し、次に第2処理剤を第1の水に添加することが好ましい。
【0095】
また、工程1は、第1の水の全量のうち20~70質量%の水を60~95℃に加温し、第1処理剤を添加した後、40℃以下に調整された残り30~80質量%の第1の水を添加した後、最後に第2処理剤を添加する工程を経てもよい。かかる方法により、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。
【0096】
工程2は、工程1で調製した合成繊維用処理剤の水性液の母液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の水性液を調製する工程である。
上記実施形態の水性液の調製方法の作用及び効果について説明する。
【0097】
(2-1)上記実施形態の水性液の調製方法は、水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にする方法である。したがって、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性を向上できる。また、予め調製された第1処理剤と第2処理剤を水に混合することにより、繊維付与形態である水性液を調製できるため、使用時に試薬から調合する方法に比べて水性液を簡易に調製できる。
【0098】
(2-2)また、水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液の母液を調製する工程を経る場合、エマルションの安定性をより向上できる。それにより、成分の繊維への均一な付着性を低下させることがなく、各成分による効能を有効に発揮できる。
【0099】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態の水性液の調製方法において、水性液を調製する前記工程1及び工程2から選ばれる任意の工程において、さらにシリコーン組成物を加えることが、繊維製造時の消泡性、繊維の紡績性能向上等の観点から好ましい。シリコーン組成物の具体例としては、特に限定されないが、例えばポリジメチルシロキサン、ポリオキシエチレン変性シリコーン等が好ましい。シリコーン組成物を加える工程としては、水性液の安定性の観点から、工程2がより好ましい。
【0100】
<第4実施形態>
次に、本発明の合成繊維の処理方法を具体化した第4実施形態を説明する。
本実施形態の合成繊維の処理方法は、水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加して得られた水性液を、例えば紡糸又は延伸工程、仕上げ工程等において合成繊維に付与する方法である。水性液の調製方法は、第3実施形態の水性液の調製方法を採用できる。合成繊維に付着した希釈液は、乾燥工程により水分を蒸発させてもよい。
【0101】
水性液が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中で濡れ性の向上により処理剤を均一に付与する効果の発揮に優れる観点からポリエステル又はポリオレフィンに適用されることが好ましい。
【0102】
仕上げ工程において水性液が付与される合成繊維の用途は、特に限定されず、例えば短繊維、紡績糸、不織布等が挙げられる。短繊維及び長繊維のいずれの繊維用途としても適用できるが、短繊維に適用されることが好ましい。短繊維は、一般にステープルと呼ばれるものが該当し、一般にフィラメントと呼ばれる長繊維を含まないものとする。また、短繊維の長さは、本技術分野において短繊維に該当するものであれば特に限定されないが、例えば100mm以下であることが好ましい。
【0103】
水性液を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、水性液を合成繊維に対し0.1~3質量%(水等の溶媒を含まない)の割合となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、各成分による効能を有効に発揮できる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、合成繊維の種類、形態により公知の方法、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等を採用できる。
【0104】
本実施形態の合成繊維の処理方法の作用及び効果について説明する。
(3-1)本実施形態の合成繊維の処理方法では、水性液を、例えば紡糸又は延伸工程、仕上げ工程等において合成繊維に付与する方法である。したがって、各成分の合成繊維への均一な付着性を低下させることがなく、各成分による短繊維、紡績糸、不織布等に対する効能を有効に発揮できる。
【0105】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の各処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0106】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また、特に限定のない限り%は質量%を意味する。
【0107】
試験区分1(第1処理剤の調製)
第1処理剤は、表1,2に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
・リン酸化合物(A)
リン酸化合物(A)は、表1に示されるA-1~26、a-1を使用した。リン酸化合物(A)の種類、リン酸化合物(A)中の無機リン酸化合物のP核NMR積分比率(%)、P1~P3の合計が100%の場合におけるP1~P3のP核NMR積分比率(%)を、表1の「リン酸化合物(A)」欄、「リン酸化合物(A)中の無機リン酸化合物のP核NMR積分比率(%)」欄、「P核NMR積分比率(%)」欄にそれぞれ示す。P核NMR積分比率(%)は、下記に示されるP核NMR測定方法を用いた。
【0108】
・P核NMR測定方法
リン酸化合物(A)のP核NMR積分比率は、まずリン酸化合物に過剰のKOHを加えてpHを12以上とすることにより前処理した。この前処理により31P-NMRの測定において、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、無機リン酸化合物に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。P核NMR積分比率は、31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz、以下同じ)を用いた。溶媒は、重水/テトラヒドロフラン=8/2(体積比)の混合溶媒を用いた。
【0109】
得られたシグナルのうち、4ppm~10ppmに現れるシグナルの積分値がリン酸三カリウム中のP原子に対応する(この積分値をリン酸_Pと表記する)。3ppm~7ppmに現れるシグナルの積分値がP1中のP原子に対応する(この積分値をP1_Pと表記する)。-1ppm~4ppmに現れるシグナルの積分値がP2中のP原子に対応する(この積分値をP2_Pと表記する)。-1ppm~-20ppmに現れるシグナルの積分値がP3中のP原子に対応する(この積分値をP3_Pと表記する)。
【0110】
ただし、上記の値で範囲が重複してシグナルが検出されている場合、低磁場側から順に、無機リン酸、リン酸エステルP1、P2、P3に対応するP原子由来のシグナルが検出される。上記のシグナルの位置は一般的にシグナルが現れる場合の値であり、P核積分によって、-5-20ppmにシグナルが検出される場合は、そのシグナルを含んで積分値が高いシグナルから順に4つのシグナルを選択し、そのうちの低磁場側から順に無機リン酸化合物、リン酸エステルP1,P2,P3成分となる。また、-5-20ppmにシグナルが検出されない場合は、検出されたシグナルのうち積分値が大きいものから順に3本のシグナルを選択し、そのうちの低磁場側から順に無機リン酸化合物、リン酸エステルP1、P2成分となる。
【0111】
リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(1)で示される。
【0112】
リン酸化合物(A)は、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、及びリン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(2)で示される。リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(3)で示される。リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(4)で示される。
【0113】
【表1】
・第1処理剤
リン酸化合物(A)として表1に示されるステアリルホスフェートカリウム塩(A-1)38.8部(%)、一価脂肪族アルコールとしてステアリルアルコール(Ba-1)1.2部(%)、溶媒として水(S-1)60部(%)を含む第1処理剤1-1を調製した。
【0114】
第1処理剤1-2~54は、第1処理剤1-1と同様にしてリン酸化合物及び溶媒、必要により一価脂肪族アルコール、非イオン界面活性剤、及びその他成分(F)を表2に示した割合で混合することで調製した。
【0115】
リン酸化合物(A)の種類と含有量、一価脂肪族アルコール(B)の種類と含有量、非イオン界面活性剤(Ca-1)の含有量、その他成分(F)の種類と含有量、溶媒(S-1)の含有量、第1処理剤の不揮発分濃度、不揮発分中における一価脂肪族アルコール(B)の含有量、リン酸化合物(A)の含有量と非イオン界面活性剤(Ca-1)の含有量との質量比を、表2の「リン酸化合物(A)」欄、「一価脂肪族アルコール(B)」欄、「非イオン界面活性剤(Ca-1)」欄、「その他成分(F)」欄、「溶媒(S-1)」欄、「不揮発分濃度」欄、「不揮発分中における(B)の含有割合」欄、「(A)と(Ca-1)との含有比率」欄にそれぞれ示す。第1処理剤の不揮発分濃度は、以下の方法により測定した。
【0116】
・不揮発分濃度
あらかじめ質量を測定しておいたアルミトレイに試料1gを分取する。105℃で2時間熱処理後の絶乾物の質量から不揮発分濃度を算出する。
【0117】
不揮発分濃度(%)=(熱処理後の絶乾物の質量)/(熱処理前の試料の質量)×100
また、不揮発分から検出されるイオン濃度、第1処理剤の酸価、30℃における粘度は、表2の「不揮発分から検出されるイオン濃度」欄、「酸価」欄、「30℃における粘度」欄にそれぞれ示す。第1処理剤の酸価と粘度は、下記に示される方法により測定した。また、不揮発分から検出されるイオン濃度は、下記に示されるICP発光分析法により測定した。
【0118】
・酸価
JIS K 0070-1992「3.2電位差滴定法」により測定した。なお、試料のサンプリング量は、10gとし、溶媒はエタノール/キシレン=1/2の混合溶媒を使用した。
【0119】
・粘度
容量300mLのトールビーカー(高さ13.5cm)に、250gの試料を加える。試料はあらかじめ30℃に温調しておき、30℃のウォーターバスを使用して温度を保持したまま測定する。東京計器社製デジタルB型粘度計DVL-B型を使用し、操作マニュアルに従いながら、粘度に応じて最適なローター及び回転数を選択しながら測定を行った。
【0120】
・ICP発光分析法
まず、第1処理剤を不揮発分濃度が0.1%となるように蒸留水を用いて希釈する。Ca,K,Mg,Na,P,Siの標準溶液として、それぞれ濃度既知の0.5ppm、1ppm、5ppm、10ppmの溶液を用意する。上記を用いた測定で、10ppm以上の値が出る場合、再度10ppm、50ppm、100ppm、500ppmの溶液を標準溶液として測定する。また、0ppmの標準溶液として、サンプル希釈に使用した蒸留水を使用する。上記を用いた測定で、検量線の上限を外れる場合は、サンプルを蒸留水で更に10倍希釈して測定を実施する。ICP発光分析装置(島津製作所社製ICPE-9000)にて測定した。
【0121】
【表2】
表2に記載する一価脂肪族アルコール(B)、非イオン界面活性剤(Ca-1)、その他成分(F)、溶媒(S-1)の詳細は以下のとおりである。
【0122】
(一価脂肪族アルコール(B))
Ba-1:ステアリルアルコール
Ba-2:セチルアルコール
Ba-3:ラウリルアルコール
Ba-4:オクチルアルコール
Ba-5:イソステアリルアルコール
(非イオン界面活性剤(Ca-1))
ポリオキシエチレン(20モル(エチレンオキサイドの付加モル数、以下同じ))オレイルエーテル
その他成分(F)
Fa-1:プロピレングリコール
Fa-2:ジエチレングリコール
Fa-3:エチレングリコール
Fb-1:パラフィンワックス(融点56℃)
Fb-2:水素処理軽パラフィン
Fc-1:ソルビタンモノオレアート
Fc-2:ソルビタンモノステアラート
Fc-3:グリセリンモノオレアート
Fc-4:ひまし油
Fd-1:ポリジメチルシロキサン
Fe-1:ラウリン酸カリウム
Fe-2:オレイン酸カリウム
Fe-3:ブチルホスフェートカリウム塩
Fe-4:ラウリル硫酸ナトリウム
Fe-5:アルキル(C14-16)スルホン酸ナトリウム
Fe-6:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
Ff-1:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
Ff-2:エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸三ナトリウム
(溶媒(S-1))

試験区分2(第2処理剤の調製)
非イオン界面活性剤(E)として(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=8、mはオキシエチレン単位の数、nはオキシプロピレン単位の数、(以下同じ))C12-13アルキルエ-テル(Ea-10)29.9部(%)、ポリオキシエチレン(10モル)C12-13アルキルエーテル(Ea-11)29.9部(%)、ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミン(E1-2)39.7部(%)、水(T-1)0.5部(%)をよく混合して均一にすることで第2処理剤2-1を調製した。
【0123】
第2処理剤2-2~40は、第2処理剤2-1と同様にして非イオン界面活性剤、溶媒、必要により有機リン酸エステル化合物、及びその他成分を表3に示した割合で混合することで調製した。
【0124】
有機リン酸エステル化合物(D-1)の含有量、非イオン界面活性剤(E)の種類と含有量、その他成分(G)の種類と含有量、水(T-1)の含有量、第2処理剤の不揮発分濃度、不揮発分中における非イオン界面活性剤であるアミン化合物(E1)の含有量を、表3の「リン酸エステル化合物(D-1)」欄、「非イオン界面活性剤(E)」欄、「その他成分(G)」欄、「水(T-1)」欄、「不揮発分濃度」欄、「不揮発分中の(E1)の含有割合」欄にそれぞれ示す。第2処理剤の不揮発分濃度の求め方は、第1処理剤欄の不揮発分濃度の求め方と同様である。
【0125】
また、不揮発分から検出されるイオン濃度は、表3の「不揮発分から検出されるイオン濃度」欄に示す。不揮発分から検出されるイオン濃度は、ICP発光分析法により測定され、その方法は、不揮発分濃度が1%となるように蒸留水を用いて希釈した以外は、第1処理剤欄のICP発光分析法と同様である。
【0126】
【表3】
表3に記載する有機リン酸エステル化合物(D-1)、非イオン界面活性剤(E)、その他成分(G)の詳細は以下のとおりである。
【0127】
(有機リン酸エステル化合物(D-1))
リン酸エステル化合物(A-1)
(非イオン界面活性剤(E))
Ea-1:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=7)デシルエ-テル
Ea-2:ポリオキシエチレン(6モル)デシルエーテル
Ea-3:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)イソデシルエーテル
Ea-4:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)ドデシルエーテル
Ea-5:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルエーテル
Ea-6:ポリオキシエチレン(15モル)ドデシルエーテル
Ea-7:ポリオキシエチレン(7モル)ドデシルエーテル
Ea-8:ポリオキシエチレン(9モル)ドデシルエーテル
Ea-9:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)C12-13アルキルエ-テル
Ea-10:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=8)C12-13アルキルエ-テル
Ea-11:ポリオキシエチレン(10モル)C12-13アルキルエーテル
Ea-12:ポリオキシエチレン(15モル)C12-13アルキルエーテル
Ea-13:ポリオキシエチレン(3モル)C12-14アルキルエーテル
Ea-14:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=8)トリデシルエーテル
Ea-15:ポリオキシエチレン(15モル)トリデシルエーテル
Ea-16:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)イソトリデシルエーテル
Ea-17:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=12)C11-14アルキルエ-テル
Ea-18:ポリオキシエチレン(10モル)C11-14アルキルエーテル
Ea-19:ポリオキシエチレン(10モル)オクタデシルエ-テル
Ea-20:ポリオキシエチレン(10モル)オレイルエ-テル
Ea-21:ポリオキシエチレン(5モル)オレイルエ-テル
Ea-22:ポリオキシエチレン(8モル)オレイルエ-テル
Ea-23:ポリオキシエチレン(20モル)オレイルエーテル
Eb-1:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=20)硬化ひまし油
Eb-2:ポリオキシエチレン(10モル)ラウリルエステル
Eb-3:ポリオキシエチレン(12モル)ラウリルエステル
Eb-4:ポリオキシエチレン(10モル)オレイルエステル
Eb-5:ポリオキシエチレン(10モル)ヤシ脂肪酸エステル
Eb-6:ポリオキシエチレン(7モル)ヤシ脂肪酸エステル
(非イオン界面活性剤としてのアミン化合物(E1))
E1-1:ポリオキシエチレン(4モル)ドデシルアミン
E1-2:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミン
E1-3:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミンと燐酸の塩
E1-4:ポリオキシエチレン(12モル)ドデシルアミン
E1-5:ポリオキシエチレン(15モル)ドデシルアミン
E1-6:ポリオキシエチレン(5モル)オクタデシルアミン
E1-7:ポリオキシエチレン(10モル)オクタデシルアミン
E1-8:ポリオキシエチレン(10モル)ヤシアミン
E1-9:ポリオキシエチレン(12モル)ヤシアミン
E1-10:ポリオキシエチレン(15モル)ヤシアミン
(その他成分(G))
G-1:オクチルアルコール
G-2:プロピレングリコール
G-3:オレイン酸カリウム
試験区分3(合成繊維用処理剤の調製)
試験区分1で得られた第1処理剤と試験区分2で得られた第2処理剤とを表4,5に示される比率で下記に示される方法で混合し、最終的にエマルジョン形態の合成繊維用処理剤を調製した。
【0128】
(実施例1)
まず、陽イオン交換水を40g計り取り、80℃の湯煎にて500rpmにてプロペラ撹拌羽を用いて3分撹拌する。ビーカーの中に、第1処理剤1-1の6.25g(不揮発分として2.5g)をスポイトで滴下し、5分間撹拌する。
【0129】
次いで、第2処理剤2-1の2.51g(不揮発分として2.5g)をスポイトを用いて滴下し、5分間撹拌する。
なお、この時、第1処理剤の配合比率(%)は、第1処理剤の質量/(第1処理剤質量+第2処理剤の質量)×100=71.3(%)である。第2処理剤の配合比率(%)は、第2処理剤の質量/(第1処理剤の質量+第2処理剤の質量)×100=28.7(%)となる。
【0130】
ビーカーを湯煎から出し、室温にて500rpmで撹拌下、50gの25℃陽イオン交換水を加える。3分撹拌後、水性液の総重量が100gとなるように陽イオン交換水を加える。1分撹拌して得られた水性液を、実施例1の5%エマルジョン(不揮発分5%)とした。
【0131】
実施例2~79は、実施例1と同様にして第1処理剤と第2処理剤を表4,5に示した割合で混合することで合成繊維用処理剤としての5%エマルジョンを調製した。
(比較例1)
陽イオン交換水を80g計り取り、80℃の湯煎にて500rpmにてプロペラ撹拌羽を用いて3分撹拌する。ビーカーの中に、第1処理剤1-1を不揮発分として5g(第1処理剤として12.5g)をスポイトで滴下し、5分間撹拌する。撹拌後、水性液の総質量が100gとなるように陽イオン交換水を加える。1分撹拌して得られた水性液を、比較例1の5%エマルジョン(不揮発分5%)とした。
【0132】
比較例2~6は、比較例1と同様にして第1処理剤又は第2処理剤を表5に示した割合で混合することで5%エマルジョンを調製した。
第1処理剤の種類と含有量、第2処理剤の種類と含有量を、表4,5の「第1処理剤」欄、「第2処理剤」欄にそれぞれ示す。
【0133】
【表4】
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
試験区分4(安定性の評価)
表2,3の第1処理剤及び第2処理剤の各剤を200mLの透明ポリ瓶に150gずつ入れた。B型粘度計で、30℃における粘度を測定した。25℃及び50℃の各インキュベーターにて1か月静置した。静置開始日を0日目とし、1、3、5、7、14、21、28日目に外観を観察した。下記の基準に基づき安定性を評価した。結果を表2,3の「安定性」欄に示す。
【0136】
比較例7~44の処理剤については、表6に記載の比率にしたがって、ビーカーに各成分を混合し、不揮発分成分及び溶媒を合計で200gとなるように調製した。混合後、ガラス棒で均一になるまで撹拌した。撹拌後、200mL透明ポリ瓶に150g入れた。B型粘度計で、30℃における粘度を測定した。25℃及び50℃の各インキュベーターにて1か月静置し、静置開始日を0日目とし、1、3、5、7、14、21、28日目に外観を観察した。下記の基準に基づき安定性を評価した。結果を表6の「安定性」欄に示す。比較例7~44の処理剤の各成分の種類と不揮発分濃度を100%とした場合の各成分の含有量、及び処理剤中の不揮発分濃度を、表6の各成分の欄、「不揮発分濃度」欄にそれぞれ示す。
【0137】
・安定性の評価基準
◎(優れる):25℃及び50℃1か月で下記増粘1及び分離なしの場合
○(良好):25℃で28日目までに下記増粘1、増粘2、及び分離なしの場合、但し50℃で8日目~28日目の間に下記増粘1又は分離があった場合
△(可):50℃で7日目までに下記増粘2又は分離があった場合
×(やや不良):25℃で8日目~28日目までに下記増粘1又は分離があり、50℃で7日目までに下記増粘1又は分離がある場合
××(不良):25℃で7日目まで、又は50℃で3日目までに下記増粘1又は分離があった場合
×××(非常に不良):25℃で3日目までに下記増粘1又は分離があった場合
なお、「○日目までに」は、○日目に観察して増粘又は分離していた場合を含むものとする。
【0138】
増粘1は、ポリ瓶を90°傾けて5分後までに液面に変化が無い(液体が流れださない)場合とした。
増粘2は、ポリ瓶を90°傾けると液面に変化がある(液体が流れだす)場合であって、B型粘度計による粘度が安定性評価前の1.5倍以上に増粘していた場合とした。
【0139】
試験区分5(エマルジョン安定性の評価)
試験区分3で得られた5%エマルジョンを100mLニンジン型沈殿瓶(三商社製)に100g入れた。25℃の部屋に静置し、24時間経過後に沈殿量を確認した。下記の基準に基づきエマルジョン安定性を評価した。結果を表4,5の「エマルジョン安定性」欄に示す。なお、表6に示されるように、比較例7~44は、安定性の評価が不良であったため、エマルジョン安定性について評価を行っていない。
【0140】
・エマルジョン安定性の評価基準
◎◎(優れる):沈殿量が0.1mL未満
◎(良好):沈殿量が0.1mL以上0.3mL以下
○(可):沈殿量が0.3mL超0.5mL以下
×(不可):沈殿量が0.5mL超
試験区分6(ポリエステルステープル繊維への処理剤の付着)
試験区分3で調製した各例の0.5%エマルジョンを使用した。調製したエマルジョンを、製綿工程で得られた繊度1.3×10-4g/m(1.2デニール)で繊維長38mmのセミダルのポリエステルステープル繊維に、不揮発分としてその付着量が0.15%となるようにスプレー法で付着させた。そして、80℃の熱風乾燥機で2時間乾燥した後、25℃×40%RHの雰囲気下に一夜調湿して、処理済みポリエステルステープル繊維を得た。なお、表6に示されるように、比較例7~44は、安定性の評価が不良であったため、下記の紡績性について評価を行っていない。
【0141】
試験区分7(カード通過性の評価)
試験区分6で得た処理済みポリエステルステープル繊維20gを、20℃で65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ミニチュアカード機に供した。投入量に対して排出された量の割合を算出し、下記の評価基準で評価した。結果を表4,5の「カード通過性」欄に示す。
【0142】
・カード通過性の評価基準
◎(良好):排出量が90%以上
○(可):排出量が80%以上90%未満
×(不良):排出量が80%未満
試験区分8(スカム抑制の評価)
試験区分6で得た処理済みポリエステルステープル繊維100gを、20℃で65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ミニチュアカード機に供した。試験後に、シリンダー部に堆積したスカム量を判断した。結果を表4,5の「スカム抑制」欄に示す。
【0143】
・スカム抑制の評価
◎(良好):スカムが全く堆積していない場合
○(可):スカム堆積量がシリンダー表面積の2%未満
×(不良):スカム堆積量がシリンダー表面積の2%以上
試験区分9(制電性の評価)
試験区分6で得た処理済みポリエステルステープル繊維20gを用い、25℃×40%RHの雰囲気下でミニチュアカードに供した。紡出されたカードウェブの静電気をデジタル静電電位測定器を用いてカードウェブから1cm離れた位置から測定し、制電性を下記の基準で判定した。結果を表4,5の「制電性」欄に示す。
【0144】
・制電性の評価基準
◎(良好):静電気発生量が0.3kV未満
○(可):静電気発生量が0.3kV以上0.6kV未満
×(不良):静電気発生量が0.6kV以上
比較例7~44の合成繊維用処理剤は、いずれもリン酸化合物(A)及び非イオン界面活性剤(E)が本発明の範囲から外れる配合比率で、予め混合して調製されている。比較例7~44の合成繊維用処理剤は、いずれも安定性に劣ることが確認された。一方、本発明の第1処理剤によると、表2の安定性の評価結果からも明らかなように、保存安定性を向上できる。また、かかる第1処理剤を含んで構成される合成繊維用処理剤が付与された繊維は、カード通過性が向上され、スカム抑制効果、制電性が向上され、各種機能を十分に発揮できる。なお、各例の合成繊維用処理剤をポリオレフィン樹脂としてポリエチレン樹脂に適用した場合も同様の効果、つまりカード通過性、制電性等を向上させる効果が得られることを確認している。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有し、前記リン酸化合物(A)と前記非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、質量比としてリン酸化合物(A)/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用されることを特徴とする合成繊維用第1処理剤。
リン酸化合物(A):有機リン酸エステル化合物として、下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2、及び任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3を含有し、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超20%以下。
【化1】
(式(1)中において、
:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
,M:水素原子、又はカリウム。)
【化2】
(式(2)中において、
,R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
:水素原子、又はカリウム。)
【化3】
(式(3)中において、
、R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
、Q:水素原子、又はカリウム。)
溶媒(S):大気圧における沸点が105℃以下である溶媒。
非イオン界面活性剤(C):分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤。
【請求項2】
前記合成繊維用第2処理剤が、任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を含有し、前記合成繊維用第2処理剤中の前記有機リン酸エステル化合物(D)の含有量が5質量%以下である請求項1に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項3】
前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、及び前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上90%以下、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上70%以下、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が40%以下である請求項1又は2に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項4】
前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が、0%超10%以下のものである請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項5】
前記溶媒(S)が、水である請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項6】
更に、炭素数8~20の一価脂肪族アルコール(B)を含有し、合成繊維用第1処理剤の不揮発分中における前記一価脂肪族アルコール(B)の含有割合が0.1質量%超15質量%以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項7】
前記合成繊維用第1処理剤の酸価が、0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下のものである請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項8】
前記合成繊維用第1処理剤の30℃における粘度が、40000mPa・s以下のものである請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項9】
前記合成繊維用第1処理剤の不揮発分濃度が、20質量%以上60質量%以下のものである請求項1~8のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項10】
ICP発光分析法により合成繊維用第1処理剤の不揮発分から検出されるナトリウムイオン濃度が、0ppm超10000ppm以下、カルシウムイオン濃度が0ppm超200ppm以下、マグネシウムイオン濃度が0ppm超150ppm以下である請求項1~9のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項11】
短繊維に適用される請求項1~10のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項12】
ポリエステル又はポリオレフィンに適用される請求項1~11のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項13】
ポリエステルに適用される請求項1~12のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤と、該合成繊維用第1処理剤とは別剤である非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤とを含むセットとして構成されることを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項15】
前記合成繊維用第2処理剤が、さらに任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を5質量%以下含有する請求項14に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項16】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にすることを特徴とする合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
【請求項17】
下記の工程1及び下記の工程2を経る請求項16に記載の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
工程1:第1の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び前記合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
工程2:さらに工程1で調製した合成繊維用処理剤の水性液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
【請求項18】
前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び合成繊維用第2処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加する工程を経るものである請求項17に記載の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
【請求項19】
前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加し、さらに前記合成繊維用第2処理剤を添加する工程を経るものである請求項17に記載の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法。
【請求項20】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする合成繊維の処理方法。
【請求項21】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項22】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする短繊維の製造方法。
【請求項23】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする紡績糸の製造方法。
【請求項24】
水に、請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする不織布の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化合物を含有する合成繊維用第1処理剤、並びにかかる合成繊維用第1処理剤を用いた合成繊維用処理剤、水性液の調製方法、合成繊維の処理方法、合成繊維の製造方法、短繊維の製造方法、紡績糸の製造方法、及び不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の紡糸延伸工程、仕上げ工程等において、摩擦等を低減し、制電性等を向上させる観点から、合成繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着させる処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1の合成繊維用処理剤は、特定のアルキルリン酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の界面活性剤、及び分子中に炭素数12~22のアルキル基を有する一価脂肪族アルコールを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-223035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、処理剤の安定性のさらなる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、所定のリン酸化合物を含有する合成繊維用第1処理剤と界面活性剤を含有する合成繊維用第2処理剤とに分けた構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の合成繊維用第1処理剤では、下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有し、前記リン酸化合物(A)と前記非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、質量比としてリン酸化合物(A)/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用されることを特徴とする。
【0008】
リン酸化合物(A):有機リン酸エステル化合物として、下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2、及び任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3を含有し、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超20%以下。
【0009】
【化1】
(式(1)中において、
:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
,M:水素原子、又はカリウム。)
【0010】
【化2】
(式(2)中において、
,R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
:水素原子、又はカリウム。)
【0011】
【化3】
(式(3)中において、
、R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
、Q:水素原子、又はカリウム。)
溶媒(S):大気圧における沸点が105℃以下である溶媒。
【0012】
非イオン界面活性剤(C):分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤。
前記合成繊維用第1処理剤において、前記合成繊維用第2処理剤が、任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を含有し、前記合成繊維用第2処理剤中の前記有機リン酸エステル化合物(D)の含有量が5質量%以下であることが好ましい。
【0013】
前記合成繊維用第1処理剤において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、及び前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上90%以下、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上70%以下、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が40%以下であることが好ましい。
【0014】
前記合成繊維用第1処理剤において、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が、0%超10%以下のものが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、前記溶媒(S)が、水であることが好ましい。
【0015】
前記合成繊維用第1処理剤において、更に、炭素数8~20の一価脂肪族アルコール(B)を含有し、合成繊維用第1処理剤の不揮発分中における前記一価脂肪族アルコール(B)の含有割合が0.1質量%超15質量%以下であることが好ましい。
【0016】
前記合成繊維用第1処理剤において、酸価が0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下のものが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、30℃における粘度が40000mPa・s以下のものであることが好ましい。
【0017】
前記合成繊維用第1処理剤において、不揮発分濃度が20質量%以上60質量%以下のものであることが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、ICP発光分析法により合成繊維用第1処理剤の不揮発分から検出されるナトリウムイオン濃度が、0ppm超10000ppm以下、カルシウムイオン濃度が0ppm超200ppm以下、及びマグネシウムイオン濃度が0ppm超150ppm以下であることが好ましい。
【0018】
前記合成繊維用第1処理剤において、短繊維に適用されることが好ましい。
前記合成繊維用第1処理剤において、ポリエステル又はポリオレフィンに適用されることが好ましい。
【0019】
前記合成繊維用第1処理剤において、ポリエステルに適用されることが好ましい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維用処理剤では、合成繊維用第1処理剤と、該合成繊維用第1処理剤とは別剤である非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤とを含むセットとして構成されることを特徴とする。
【0020】
前記合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用第2処理剤が、さらに任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を5質量%以下含有してもよい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にすることを特徴とする。
【0021】
前記合成繊維用処理剤の水性液の調製方法において、下記の工程1及び下記の工程2を経ることが好ましい。
工程1:第1の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び前記合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
【0022】
工程2:さらに工程1で調製した合成繊維用処理剤の水性液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液を調製する工程。
【0023】
前記合成繊維用処理剤の水性液の調製方法において、前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤及び合成繊維用第2処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加する工程を経るものであることが好ましい。
【0024】
前記合成繊維用処理剤の水性液の調製方法において、前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20~70質量%の60~95℃の水に、前記合成繊維用第1処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加し、さらに前記合成繊維用第2処理剤を添加する工程を経るものであることが好ましい。
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維の処理方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与することを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の短繊維の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の紡績糸の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする。
【0029】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の不織布の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤、及び非イオン界面活性剤(E)を含有する合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の水性液を合成繊維に付与する工程を経ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば処理剤の安定性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用第1処理剤(以下、第1処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の第1処理剤は、下記のリン酸化合物(A)、下記の溶媒(S)が含まれる。さらに、任意選択で後述する非イオン界面活性剤(C)を含有してもよい。
【0032】
(リン酸化合物(A))
リン酸化合物(A)は、有機リン酸エステル化合物として、下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2、及び任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3が含まれる。リン酸化合物(A)は、合成繊維に適用された際、制電性を向上させ、摩擦を低減させる。
【0033】
【化4】
(式(1)中において、
:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
,M:水素原子、又はカリウム。)
【0034】
【化5】
(式(2)中において、
,R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
:水素原子、又はカリウム。)
【0035】
【化6】
(式(3)中において、
、R:炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基、
、Q:水素原子、又はカリウム。)
これらのリン酸エステルP1~P3は、それぞれ一種類のリン酸エステルを単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0036】
~Rを構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。分岐鎖を有するアルキル基としては、β位が分岐したアルキル基、複数分岐したアルキル基のいずれも採用できる。
【0037】
~Rを構成する直鎖のアルキル基の具体例としては、例えばペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。R~Rを構成する分岐鎖構造を有するアルキル基の具体例としては、例えばイソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソノナデシル基、イソイコシル基等が挙げられる。
【0038】
~Rを構成する直鎖のアルキル基としては、紡績糸製造工程でのカード工程、練条工程、精紡工程又は不織布製造工程におけるカード工程での工程通過性を考慮すると、ヘキサデシル基、オクタデシル基が好ましく、オクタデシル基がより好ましい。
【0039】
~Rを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。分岐鎖を有するアルケニル基としては、β位が分岐したアルケニル基、複数分岐したアルケニル基のいずれも採用できる。
【0040】
~Rを構成する直鎖のアルケニル基の具体例としては、例えばペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。
【0041】
~Rを構成する分岐鎖構造を有するアルケニル基の具体例としては、例えばイソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基等が挙げられる。
【0042】
リン酸化合物(A)は、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超20%以下である。また、前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超10%以下のものが好ましい。無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率が0%超であるとハンドリング性を向上させる。無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率20%以下であると、第1処理剤の安定性を向上させる。前記無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(1)で示される。
【0043】
【数1】
(数式(1)において、
リン酸_P%:無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分値。)
上記「アルカリ過中和前処理」とは、リン酸化合物に対して過剰量の水酸化カリウムを添加する前処理を意味する。
【0044】
31P-NMRの測定において、この「アルカリ過中和前処理」を行うことで、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、無機リン酸化合物に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。数式(1)による各化合物に帰属されるP核NMR積分比率の計算が可能となる。無機リン酸化合物は、塩態でない遊離リン酸、リン酸塩としてリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムが含まれる。アルカリ過中和前処理により、リン酸化合物(A)中に含まれる無機リン酸化合物は、全てリン酸三カリウムに変換される。なお、後述する実施例欄における31P-NMRの測定では、観測ピークが分かれる程度のアルカリをリン酸化合物に加えるアルカリ過中和処理を行った。
【0045】
リン酸化合物(A)は、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、及びリン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上90%以下、リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上70%以下、リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が40%以下であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0046】
前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(2)で、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(3)で、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(4)で示される。
【0047】
【数2】
(数式(2)において、
P1_P%:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値。)
【0048】
【数3】
(数式(3)において、
P2_P%:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値。)
【0049】
【数4】
(数式(4)において、
P3_P%:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値。)
リン酸化合物(A)は、原料アルコールとして炭素数15~20の脂肪族アルコールに、例えば五酸化二燐を反応させてリン酸エステルを得た後、必要によりリン酸エステルを水酸化カリウム等のアルカリで中和又は過中和することにより得られる。前記の合成方法の場合、リン酸エステル化合物は通常、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、並びに無機リン酸化合物であるリン酸又はリン酸塩の混合物となる。また、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、並びに無機リン酸化合物をそれぞれ合成したものを混合して調製してもよい。
【0050】
(溶媒(S))
溶媒(S)は、大気圧における沸点が105℃以下である溶媒である。溶媒(S)としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等、ヘキサン等の低極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒(S)は、一種類の溶媒を単独で使用してもよいし、又は二種以上の溶媒を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で、第1処理剤と合成繊維用第2処理剤(以下、「第2処理剤」という)とが混合された混合物をエマルション形態とする観点から水、低級アルコール等の極性溶媒が好ましく、取り扱い性に優れる観点から水がより好ましい。
【0051】
第1処理剤中における溶媒(S)の含有量は、溶媒の種類、取り扱い性、安定性等の観点から適宜設定される。溶媒(S)の含有量の下限は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。溶媒(S)の含有量の上限は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0052】
(非イオン界面活性剤(C))
非イオン界面活性剤(C)は、分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤(C)としては、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、アミン化合物としてアルキルアミン類にアルキレンオキサイドを付加させたもの等が挙げられる。これらの非イオン界面活性剤(C)は、一種類の非イオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の非イオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0053】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソペンタデカノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソトリアコンタノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0054】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0055】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~60モル、より好ましくは1~40モル、さらに好ましくは2~30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加物であってもランダム付加物であってもよい。
【0056】
非イオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0057】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキルアミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0058】
非イオン界面活性剤(C)の具体例としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(ブロック付加物、ランダム付加物)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル(ブロック付加物、ランダム付加物)、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、油脂のポリオキシエチレン付加物、油脂のポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物(ランダム付加物、ブロック付加物)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル(ランダム付加物、ブロック付加物)、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルの酸中和物、ポリオキシエチレン多価アルコールエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン多価アルコールエーテル脂肪酸エステル(ランダム付加物、ブロック付加物)等が挙げられる。
【0059】
第1処理剤中における非イオン界面活性剤(C)の含有量の上限は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。かかる含有量を5質量%以下に規定することにより、第1処理剤の安定性をより向上させる。
【0060】
第1処理剤中におけるリン酸化合物(A)と非イオン界面活性剤(C)との含有比率が、質量比としてリン酸化合物(A)/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、好ましくは98/2~100/0であり、より好ましくは99/1~100/0である。かかる範囲に規定されることにより、第1処理剤の安定性を向上させる。
【0061】
(一価脂肪族アルコール(B))
第1処理剤は、更に炭素数8~20の一価脂肪族アルコール(B)を含有してもよい。一価脂肪族アルコール(B)を配合することにより第1処理剤の安定性をより向上させる。一価脂肪族アルコール(B)は、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよい。
【0062】
一価脂肪族アルコール(B)の具体例としては、例えばステアリルアルコール、オレイルアルコール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、オクチルアルコール、イソステアリルアルコール等が挙げられる。一価脂肪族アルコール(B)は、一種類の一価脂肪族アルコールを単独で使用してもよいし、又は二種以上の一価脂肪族アルコールを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0063】
第1処理剤の不揮発分中における一価脂肪族アルコール(B)の含有割合の下限は、好ましくは0.1質量%超、より好ましくは1質量%以上である。0.1質量%超であると、第1処理剤の安定性をより向上させる。かかる含有割合の上限は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。15質量%以下であると、分離を抑制することにより安定性を向上させ、また粘度の増加を抑制することによりハンドリング性を向上させる。
【0064】
なお、不揮発分とは、第1処理剤1gを105℃で2時間熱処理して揮発性希釈剤を十分に除去した絶乾物のことをいう。以下、不揮発分の定義は、同じ条件を採用するものとする。
【0065】
(その他)
第1処理剤は、適用目的又は必要性に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前述した成分以外のその他成分(F)、例えば多価アルコール、平滑剤として鉱物油、エステル、シリコーン化合物等、アニオン界面活性剤、キレート化剤等をさらに含有してもよい。多価アルコールの具体例としては、例えばプロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。なお、3価以上のアルコールを含有すると、高温での安定性が悪くなるため、第1処理剤中において5質量%以下が好ましく、配合しないことがより好ましい。高温での安定性の悪化は、経時で増粘が生ずることによるものである。これは、3価以上のアルコールはそのものの粘度が高いことに加え、3つ以上の極性基が多次元的水素結合の形成に寄与するためと考えられる。
【0066】
鉱物油の具体例としては、例えばパラフィンワックス、水素処理軽パラフィン等が挙げられる。エステルの具体例としては、例えばソルビタンモノオレアート、ソルビタンモノステアラート、グリセリンモノオレアート、ひまし油等が挙げられる。シリコーンの具体例としては、例えばポリジメチルシロキサン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、例えばラウリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキル(C14-16)スルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。キレート化剤の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸三ナトリウム等が挙げられる。
【0067】
第1処理剤の酸価は、適宜設定されるが、好ましくは0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下、より好ましくは0mgKOH/g以上10mgKOH/g以下、さらに好ましくは0mgKOH/g以上5mgKOH/g以下である。かかる範囲に規定されることによりハンドリング性及び安定性を向上させる。酸価は、JIS K 0070-1992「3.2電位差滴定法」に準拠して測定できる。
【0068】
第1処理剤の30℃における粘度は、適宜設定されるが、好ましくは40000mPa・s以下、より好ましくは35000mPa・s以下である。かかる範囲に規定することにより、ハンドリング性、第2処理剤との混合性を向上させる。粘度はB型粘度計で測定した値である。
【0069】
第1処理剤の不揮発分濃度は、適宜設定されるが、好ましくは20質量%以上60質量%以下、より好ましくは30質量%以上55質量%以下である。かかる範囲に規定することにより、ハンドリング性、安定性を向上させる。
【0070】
第1処理剤は、ICP発光分析法により第1処理剤の不揮発分から検出されるナトリウムイオン濃度が、好ましくは0ppm超10000ppm以下、より好ましくは0ppm超8000ppm以下に規定される。かかる範囲に規定されることにより、ハンドリング性、安定性をより向上させる。
【0071】
ICP発光分析法により第1処理剤の不揮発分から検出されるカルシウムイオン濃度は、好ましくは0ppm超200ppm以下、より好ましくは0ppm超40ppm以下、さらに好ましくは0ppm超30ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第1処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0072】
ICP発光分析法により第1処理剤の不揮発分から検出されるマグネシウムイオン濃度は、好ましくは0ppm超150ppm以下、より好ましくは0ppm超25ppm以下、さらに好ましくは0ppm超10ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第1処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0073】
なお、ICP発光分析法を用いた濃度測定は、まず既知の金属イオン濃度溶液を調製し、ICP発光分析装置に供して検量線を作成し、試料の検出値より濃度を求めることができる。
【0074】
(第2処理剤)
第1処理剤は、非イオン界面活性剤(E)を含有する第2処理剤と併用される。第1処理剤は、第2処理剤と別剤として構成され、使用時に第2処理剤と混合された混合物として用いられる。以下、第2処理剤について説明する。
【0075】
第2処理剤は、非イオン界面活性剤(E)を含有し、任意選択で有機リン酸エステル化合物(D)を含有してもよい。第2処理剤は、さらに溶媒(T)を含有してもよい。
(非イオン界面活性剤(E))
非イオン界面活性剤(E)は、混合物の安定性を向上させ、混合物の合成繊維への均一付着性を向上させる。非イオン界面活性剤(E)は、混合物のエマルションの安定性及び混合物の合成繊維への均一付着性に優れる。
【0076】
非イオン界面活性剤(E)の具体例としては、第1処理剤に配合される非イオン界面活性剤(C)において例示したものが挙げられる。これらの非イオン界面活性剤(E)は、1種の非イオン界面活性剤を単独で使用してもよく、2種以上の非イオン界面活性剤を組み合わせて使用してもよい。これらの非イオン界面活性剤(E)の中で、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルの酸中和物等のアミン化合物(E1)を含むものが好ましい。かかる化合物を使用することにより、混合物がエマルション形態の場合、安定性をより向上させる。
【0077】
第2処理剤の不揮発分中のアミン化合物(E1)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。20質量%以上の場合、第2処理剤の安定性をより向上させる。また、混合物がエマルション形態の場合、安定性をより向上させる。
【0078】
(溶媒(T))
溶媒(T)の具体例は、第1処理剤に配合される溶媒(S)において例示したものが挙げられる。これらの中で、混合物をエマルション形態とする観点から水、低級アルコール等の極性溶媒が好ましく、取り扱い性に優れる観点から水がより好ましい。
【0079】
第2処理剤中における溶媒(T)の含有量は、溶媒の種類、取り扱い性、第1処理剤との混合性等の観点から適宜設定される。溶媒(T)の含有量の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。溶媒(T)の含有量の上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0080】
(有機リン酸エステル化合物(D))
有機リン酸エステル化合物(D)は、第1処理剤に配合されるリン酸化合物(A)において挙げた有機リン酸エステル化合物の例を適用できる。
【0081】
第2処理剤中における有機リン酸エステル化合物(D)の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。5質量%以下の場合、第2処理剤の安定性を向上できる。
【0082】
(その他)
第2処理剤は、適用目的又は必要性に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前述した成分以外のその他成分(G)、例えば上述した一価脂肪族アルコール(B)、多価アルコール、平滑剤として鉱物油、エステル、シリコーン化合物等、キレート化剤等をさらに含有してもよい。
【0083】
第2処理剤は、ICP発光分析法により第2処理剤の不揮発分から検出されるカルシウムイオン濃度が、好ましくは200ppm以下、より好ましくは40ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第2処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0084】
ICP発光分析法により第2処理剤の不揮発分から検出されるマグネシウムイオン濃度が、好ましくは150ppm以下、より好ましくは25ppm以下である。かかる範囲に規定されることにより、第2処理剤の安定性が向上し、第1処理剤と第2処理剤が混合された混合物がエマルション形態の場合、エマルションの分離又はスカムの発生を抑制し、安定性を向上させる。
【0085】
<第2実施形態>
次に、本発明の合成繊維用処理剤を具体化した第2実施形態を説明する。
本実施形態の合成繊維用処理剤は、第1実施形態において説明した第1処理剤及び第2処理剤を含んで構成される。合成繊維用処理剤は、保存時に第1処理剤と第2処理剤とが別剤であるセットとして構成され、使用時に第1処理剤と第2処理剤とが混合された混合物として調製される。混合物の調製は、第1処理剤と第2処理剤とを直接混合してもよく、別途用意した溶媒へ第1処理剤と第2処理剤とを所定の順番で投入し、所定濃度に希釈することにより調製してもよい。
【0086】
第1処理剤と第2処理剤との混合比率は、成分含有量、混合性、用途、又は目的等に応じて適宜設定される。一般に、短繊維の製造工程における紡糸又は延伸工程と仕上げ工程では異なった合成繊維用処理剤が付与される。一般的なポリエステル短繊維又はポリオレフィン短繊維の製造工程における紡糸延伸工程では、溶融紡糸された繊維に対して不揮発分濃度として0.05~1.5質量%の紡糸延伸工程用処理剤のエマルジョンが付与され、繊維は湿潤状態となる。次いで、延伸工程では、不揮発分濃度として0.05~1.5質量%の紡糸延伸工程用処理剤のエマルジョンが満たされた延伸浴中で繊維が延伸される。紡糸又は延伸工程においては、何れの工程でも繊維は湿潤した状態である。したがって、紡糸又は延伸工程では、湿潤状態での摩擦特性又は延伸浴での泡立ち低減等が要求され、湿潤状態に特化した性能が必要とされる。
【0087】
一方、仕上げ工程において付与される合成繊維用処理剤は、短繊維から紡績糸又は不織布に加工する際に必要な特性が要求される。この紡績糸又は不織布への加工工程は、スパンレース等の一部の不織布の湿式加工工程を除いて、一般に全てが乾燥状態、例えば20~40℃、40~70%RH程度の雰囲気下での加工工程となっている。特に紡績糸製造工程におけるカード工程、練条工程、精紡工程又は不織布製造工程におけるカード工程等では、乾燥状態における摩擦特性又は制電性を評価する必要がある。したがって、短繊維用処理剤では、紡糸又は延伸工程で用いられる紡糸又は延伸用油剤と仕上げ工程で用いられる仕上げ用油剤で油剤を変えて利用されることが多い。
【0088】
本発明の処理剤は、紡糸延伸性の観点から、紡糸又は延伸用の組成として、第1処理剤/第2処理剤=70/30~10/90(不揮発分の質量比)の混合比率で使用することが好ましい。特に、第1処理剤/第2処理剤=40/60~20/80(不揮発分の質量比)の混合比率で使用することで、泡立ち低減又は湿潤時の濡れ性等を向上できるため特に好ましい。同じく紡績性の観点から、仕上げ用の組成としては、第1処理剤/第2処理剤=40/60~90/10(不揮発分の質量比)が好ましく、より好ましくは50/50~80/20(不揮発分の質量比)である。
【0089】
第1処理剤と第2処理剤とを併用する形態は、第1処理剤と第2処理剤の混合比率を任意に変更することができる。そのため、製造設備の違い又は温湿度等の気候の違い等の製造条件が異なる条件下においても、配合比率を微調整して常に最適な紡糸延伸性を得るための処理剤を調製することが容易になる。それにより安定した繊維製造が可能となる。
【0090】
上記実施形態の第1処理剤及び合成繊維用処理剤の作用及び効果について説明する。
(1-1)上記実施形態の第1処理剤では、所定のリン酸化合物(A)及び溶媒(S)が含まれ、任意選択で所定の非イオン界面活性剤(C)が所定量含有される。また、合成繊維用処理剤は、第1処理剤と、非イオン界面活性剤(E)を含有する第2処理剤とが、別剤として保存され、使用時に併用される。したがって、合成繊維用処理剤を構成する第1処理剤及び第2処理剤の安定性、特に保存安定性を向上できる。第1処理剤中において、非イオン界面活性剤と有機リン酸化合物との含有比率が所定の範囲に規定されるため、第1処理剤の安定性が向上される。さらに、第1処理剤は、使用時に第2処理剤と混合されるため、界面活性剤によりエマルジョン形態の混合物の安定性も向上できる。したがって、リン酸化合物(A)等の成分の繊維への均一な付着性を低下させることがない。よって、合成繊維用処理剤中に含まれるリン酸化合物(A)等により制電性等の効能を有効に発揮できる。
【0091】
<第3実施形態>
次に、本発明の合成繊維用処理剤の水性液の調製方法(以下、「水性液の調製方法」という)を具体化した第3実施形態を説明する。
【0092】
本実施形態の水性液の調製方法は、水に、第1実施形態の第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にする方法である。
水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加する方法は、公知の方法を適宜採用できるが、下記の工程1及び下記の工程2を経ることが好ましい。かかる方法により、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。
【0093】
工程1は、第1の水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液の母液を調製する工程である。第1処理剤及び第2処理剤の第1の水への添加順は、特に限定されず、先に第1処理剤を水に添加し、次に第2処理剤を水に添加してもよく、先に第2処理剤を水に添加し、次に第1処理剤を水に添加してもよい。また、第1処理剤及び第2処理剤を同時に水に添加してもよい。また、希釈する水の温度は、特に限定されない。エマルジョンの安定性の向上の観点から、先に第1処理剤を第1の水に添加し、次に第2処理剤を第1の水に添加することが好ましい。
【0094】
さらに、工程1は、第1の水の全量のうち20~70質量%の水を60~95℃に加温し、第1処理剤及び第2処理剤を添加した後、40℃以下に調整された残り30~80質量%の第1の水を添加する工程を経ることが好ましい。かかる方法により、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。この場合も第1処理剤及び第2処理剤の水への添加順は、特に限定されず、先に第1処理剤を水に添加し、次に第2処理剤を水に添加してもよく、先に第2処理剤を水に添加し、次に第1処理剤を水に添加してもよい。また、第1処理剤及び第2処理剤を同時に水に添加してもよい。エマルジョンの安定性の向上の観点から、先に第1処理剤を第1の水に添加し、次に第2処理剤を第1の水に添加することが好ましい。
【0095】
また、工程1は、第1の水の全量のうち20~70質量%の水を60~95℃に加温し、第1処理剤を添加した後、40℃以下に調整された残り30~80質量%の第1の水を添加した後、最後に第2処理剤を添加する工程を経てもよい。かかる方法により、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。
【0096】
工程2は、工程1で調製した合成繊維用処理剤の水性液の母液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の水性液を調製する工程である。
上記実施形態の水性液の調製方法の作用及び効果について説明する。
【0097】
(2-1)上記実施形態の水性液の調製方法は、水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にする方法である。したがって、第1処理剤及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性を向上できる。また、予め調製された第1処理剤と第2処理剤を水に混合することにより、繊維付与形態である水性液を調製できるため、使用時に試薬から調合する方法に比べて水性液を簡易に調製できる。
【0098】
(2-2)また、水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の水性液の母液を調製する工程を経る場合、エマルションの安定性をより向上できる。それにより、成分の繊維への均一な付着性を低下させることがなく、各成分による効能を有効に発揮できる。
【0099】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態の水性液の調製方法において、水性液を調製する前記工程1及び工程2から選ばれる任意の工程において、さらにシリコーン組成物を加えることが、繊維製造時の消泡性、繊維の紡績性能向上等の観点から好ましい。シリコーン組成物の具体例としては、特に限定されないが、例えばポリジメチルシロキサン、ポリオキシエチレン変性シリコーン等が好ましい。シリコーン組成物を加える工程としては、水性液の安定性の観点から、工程2がより好ましい。
【0100】
<第4実施形態>
次に、本発明の合成繊維の処理方法を具体化した第4実施形態を説明する。
本実施形態の合成繊維の処理方法は、水に、第1処理剤及び第2処理剤を添加して得られた水性液を、例えば紡糸又は延伸工程、仕上げ工程等において合成繊維に付与する方法である。水性液の調製方法は、第3実施形態の水性液の調製方法を採用できる。合成繊維に付着した希釈液は、乾燥工程により水分を蒸発させてもよい。
【0101】
水性液が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中で濡れ性の向上により処理剤を均一に付与する効果の発揮に優れる観点からポリエステル又はポリオレフィンに適用されることが好ましい。
【0102】
仕上げ工程において水性液が付与される合成繊維の用途は、特に限定されず、例えば短繊維、紡績糸、不織布等が挙げられる。短繊維及び長繊維のいずれの繊維用途としても適用できるが、短繊維に適用されることが好ましい。短繊維は、一般にステープルと呼ばれるものが該当し、一般にフィラメントと呼ばれる長繊維を含まないものとする。また、短繊維の長さは、本技術分野において短繊維に該当するものであれば特に限定されないが、例えば100mm以下であることが好ましい。
【0103】
水性液を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、水性液を合成繊維に対し0.1~3質量%(水等の溶媒を含まない)の割合となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、各成分による効能を有効に発揮できる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、合成繊維の種類、形態により公知の方法、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等を採用できる。
【0104】
本実施形態の合成繊維の処理方法の作用及び効果について説明する。
(3-1)本実施形態の合成繊維の処理方法では、水性液を、例えば紡糸又は延伸工程、仕上げ工程等において合成繊維に付与する方法である。したがって、各成分の合成繊維への均一な付着性を低下させることがなく、各成分による短繊維、紡績糸、不織布等に対する効能を有効に発揮できる。
【0105】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の各処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0106】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また、特に限定のない限り%は質量%を意味する。
【0107】
試験区分1(第1処理剤の調製)
第1処理剤は、表1,2に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
・リン酸化合物(A)
リン酸化合物(A)は、表1に示されるA-1~26、a-1を使用した。リン酸化合物(A)の種類、リン酸化合物(A)中の無機リン酸化合物のP核NMR積分比率(%)、P1~P3の合計が100%の場合におけるP1~P3のP核NMR積分比率(%)を、表1の「リン酸化合物(A)」欄、「リン酸化合物(A)中の無機リン酸化合物のP核NMR積分比率(%)」欄、「P核NMR積分比率(%)」欄にそれぞれ示す。P核NMR積分比率(%)は、下記に示されるP核NMR測定方法を用いた。
【0108】
・P核NMR測定方法
リン酸化合物(A)のP核NMR積分比率は、まずリン酸化合物に過剰のKOHを加えてpHを12以上とすることにより前処理した。この前処理により31P-NMRの測定において、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、無機リン酸化合物に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。P核NMR積分比率は、31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz、以下同じ)を用いた。溶媒は、重水/テトラヒドロフラン=8/2(体積比)の混合溶媒を用いた。
【0109】
得られたシグナルのうち、4ppm~10ppmに現れるシグナルの積分値がリン酸三カリウム中のP原子に対応する(この積分値をリン酸_Pと表記する)。3ppm~7ppmに現れるシグナルの積分値がP1中のP原子に対応する(この積分値をP1_Pと表記する)。-1ppm~4ppmに現れるシグナルの積分値がP2中のP原子に対応する(この積分値をP2_Pと表記する)。-1ppm~-20ppmに現れるシグナルの積分値がP3中のP原子に対応する(この積分値をP3_Pと表記する)。
【0110】
ただし、上記の値で範囲が重複してシグナルが検出されている場合、低磁場側から順に、無機リン酸、リン酸エステルP1、P2、P3に対応するP原子由来のシグナルが検出される。上記のシグナルの位置は一般的にシグナルが現れる場合の値であり、P核積分によって、-5-20ppmにシグナルが検出される場合は、そのシグナルを含んで積分値が高いシグナルから順に4つのシグナルを選択し、そのうちの低磁場側から順に無機リン酸化合物、リン酸エステルP1,P2,P3成分となる。また、-5-20ppmにシグナルが検出されない場合は、検出されたシグナルのうち積分値が大きいものから順に3本のシグナルを選択し、そのうちの低磁場側から順に無機リン酸化合物、リン酸エステルP1、P2成分となる。
【0111】
リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、及び無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、無機リン酸化合物に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(1)で示される。
【0112】
リン酸化合物(A)は、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、及びリン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(2)で示される。リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(3)で示される。リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率は、上述した数式(4)で示される。
【0113】
【表1】
・第1処理剤
リン酸化合物(A)として表1に示されるステアリルホスフェートカリウム塩(A-1)38.8部(%)、一価脂肪族アルコールとしてステアリルアルコール(Ba-1)1.2部(%)、溶媒として水(S-1)60部(%)を含む第1処理剤1-1を調製した。
【0114】
第1処理剤1-2~54は、第1処理剤1-1と同様にしてリン酸化合物及び溶媒、必要により一価脂肪族アルコール、非イオン界面活性剤、及びその他成分(F)を表2に示した割合で混合することで調製した。
【0115】
リン酸化合物(A)の種類と含有量、一価脂肪族アルコール(B)の種類と含有量、非イオン界面活性剤(Ca-1)の含有量、その他成分(F)の種類と含有量、溶媒(S-1)の含有量、第1処理剤の不揮発分濃度、不揮発分中における一価脂肪族アルコール(B)の含有量、リン酸化合物(A)の含有量と非イオン界面活性剤(Ca-1)の含有量との質量比を、表2の「リン酸化合物(A)」欄、「一価脂肪族アルコール(B)」欄、「非イオン界面活性剤(Ca-1)」欄、「その他成分(F)」欄、「溶媒(S-1)」欄、「不揮発分濃度」欄、「不揮発分中における(B)の含有割合」欄、「(A)と(Ca-1)との含有比率」欄にそれぞれ示す。第1処理剤の不揮発分濃度は、以下の方法により測定した。
【0116】
・不揮発分濃度
あらかじめ質量を測定しておいたアルミトレイに試料1gを分取する。105℃で2時間熱処理後の絶乾物の質量から不揮発分濃度を算出する。
【0117】
不揮発分濃度(%)=(熱処理後の絶乾物の質量)/(熱処理前の試料の質量)×100
また、不揮発分から検出されるイオン濃度、第1処理剤の酸価、30℃における粘度は、表2の「不揮発分から検出されるイオン濃度」欄、「酸価」欄、「30℃における粘度」欄にそれぞれ示す。第1処理剤の酸価と粘度は、下記に示される方法により測定した。また、不揮発分から検出されるイオン濃度は、下記に示されるICP発光分析法により測定した。
【0118】
・酸価
JIS K 0070-1992「3.2電位差滴定法」により測定した。なお、試料のサンプリング量は、10gとし、溶媒はエタノール/キシレン=1/2の混合溶媒を使用した。
【0119】
・粘度
容量300mLのトールビーカー(高さ13.5cm)に、250gの試料を加える。試料はあらかじめ30℃に温調しておき、30℃のウォーターバスを使用して温度を保持したまま測定する。東京計器社製デジタルB型粘度計DVL-B型を使用し、操作マニュアルに従いながら、粘度に応じて最適なローター及び回転数を選択しながら測定を行った。
【0120】
・ICP発光分析法
まず、第1処理剤を不揮発分濃度が0.1%となるように蒸留水を用いて希釈する。Ca,K,Mg,Na,P,Siの標準溶液として、それぞれ濃度既知の0.5ppm、1ppm、5ppm、10ppmの溶液を用意する。上記を用いた測定で、10ppm以上の値が出る場合、再度10ppm、50ppm、100ppm、500ppmの溶液を標準溶液として測定する。また、0ppmの標準溶液として、サンプル希釈に使用した蒸留水を使用する。上記を用いた測定で、検量線の上限を外れる場合は、サンプルを蒸留水で更に10倍希釈して測定を実施する。ICP発光分析装置(島津製作所社製ICPE-9000)にて測定した。
【0121】
【表2】
表2に記載する一価脂肪族アルコール(B)、非イオン界面活性剤(Ca-1)、その他成分(F)、溶媒(S-1)の詳細は以下のとおりである。
【0122】
(一価脂肪族アルコール(B))
Ba-1:ステアリルアルコール
Ba-2:セチルアルコール
Ba-3:ラウリルアルコール
Ba-4:オクチルアルコール
Ba-5:イソステアリルアルコール
(非イオン界面活性剤(Ca-1))
ポリオキシエチレン(20モル(エチレンオキサイドの付加モル数、以下同じ))オレイルエーテル
その他成分(F)
Fa-1:プロピレングリコール
Fa-2:ジエチレングリコール
Fa-3:エチレングリコール
Fb-1:パラフィンワックス(融点56℃)
Fb-2:水素処理軽パラフィン
Fc-1:ソルビタンモノオレアート
Fc-2:ソルビタンモノステアラート
Fc-3:グリセリンモノオレアート
Fc-4:ひまし油
Fd-1:ポリジメチルシロキサン
Fe-1:ラウリン酸カリウム
Fe-2:オレイン酸カリウム
Fe-3:ブチルホスフェートカリウム塩
Fe-4:ラウリル硫酸ナトリウム
Fe-5:アルキル(C14-16)スルホン酸ナトリウム
Fe-6:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
Ff-1:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
Ff-2:エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸三ナトリウム
(溶媒(S-1))

試験区分2(第2処理剤の調製)
非イオン界面活性剤(E)として(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=8、mはオキシエチレン単位の数、nはオキシプロピレン単位の数、(以下同じ))C12-13アルキルエ-テル(Ea-10)29.9部(%)、ポリオキシエチレン(10モル)C12-13アルキルエーテル(Ea-11)29.9部(%)、ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミン(E1-2)39.7部(%)、水(T-1)0.5部(%)をよく混合して均一にすることで第2処理剤2-1を調製した。
【0123】
第2処理剤2-2~40は、第2処理剤2-1と同様にして非イオン界面活性剤、溶媒、必要により有機リン酸エステル化合物、及びその他成分を表3に示した割合で混合することで調製した。
【0124】
有機リン酸エステル化合物(D-1)の含有量、非イオン界面活性剤(E)の種類と含有量、その他成分(G)の種類と含有量、水(T-1)の含有量、第2処理剤の不揮発分濃度、不揮発分中における非イオン界面活性剤であるアミン化合物(E1)の含有量を、表3の「リン酸エステル化合物(D-1)」欄、「非イオン界面活性剤(E)」欄、「その他成分(G)」欄、「水(T-1)」欄、「不揮発分濃度」欄、「不揮発分中の(E1)の含有割合」欄にそれぞれ示す。第2処理剤の不揮発分濃度の求め方は、第1処理剤欄の不揮発分濃度の求め方と同様である。
【0125】
また、不揮発分から検出されるイオン濃度は、表3の「不揮発分から検出されるイオン濃度」欄に示す。不揮発分から検出されるイオン濃度は、ICP発光分析法により測定され、その方法は、不揮発分濃度が1%となるように蒸留水を用いて希釈した以外は、第1処理剤欄のICP発光分析法と同様である。
【0126】
【表3】
表3に記載する有機リン酸エステル化合物(D-1)、非イオン界面活性剤(E)、その他成分(G)の詳細は以下のとおりである。
【0127】
(有機リン酸エステル化合物(D-1))
リン酸エステル化合物(A-1)
(非イオン界面活性剤(E))
Ea-1:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=7)デシルエ-テル
Ea-2:ポリオキシエチレン(6モル)デシルエーテル
Ea-3:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)イソデシルエーテル
Ea-4:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)ドデシルエーテル
Ea-5:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルエーテル
Ea-6:ポリオキシエチレン(15モル)ドデシルエーテル
Ea-7:ポリオキシエチレン(7モル)ドデシルエーテル
Ea-8:ポリオキシエチレン(9モル)ドデシルエーテル
Ea-9:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)C12-13アルキルエ-テル
Ea-10:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=8)C12-13アルキルエ-テル
Ea-11:ポリオキシエチレン(10モル)C12-13アルキルエーテル
Ea-12:ポリオキシエチレン(15モル)C12-13アルキルエーテル
Ea-13:ポリオキシエチレン(3モル)C12-14アルキルエーテル
Ea-14:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=8)トリデシルエーテル
Ea-15:ポリオキシエチレン(15モル)トリデシルエーテル
Ea-16:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=10)イソトリデシルエーテル
Ea-17:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=12)C11-14アルキルエ-テル
Ea-18:ポリオキシエチレン(10モル)C11-14アルキルエーテル
Ea-19:ポリオキシエチレン(10モル)オクタデシルエ-テル
Ea-20:ポリオキシエチレン(10モル)オレイルエ-テル
Ea-21:ポリオキシエチレン(5モル)オレイルエ-テル
Ea-22:ポリオキシエチレン(8モル)オレイルエ-テル
Ea-23:ポリオキシエチレン(20モル)オレイルエーテル
Eb-1:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m+n=20)硬化ひまし油
Eb-2:ポリオキシエチレン(10モル)ラウリルエステル
Eb-3:ポリオキシエチレン(12モル)ラウリルエステル
Eb-4:ポリオキシエチレン(10モル)オレイルエステル
Eb-5:ポリオキシエチレン(10モル)ヤシ脂肪酸エステル
Eb-6:ポリオキシエチレン(7モル)ヤシ脂肪酸エステル
(非イオン界面活性剤としてのアミン化合物(E1))
E1-1:ポリオキシエチレン(4モル)ドデシルアミン
E1-2:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミン
E1-3:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミンと燐酸の塩
E1-4:ポリオキシエチレン(12モル)ドデシルアミン
E1-5:ポリオキシエチレン(15モル)ドデシルアミン
E1-6:ポリオキシエチレン(5モル)オクタデシルアミン
E1-7:ポリオキシエチレン(10モル)オクタデシルアミン
E1-8:ポリオキシエチレン(10モル)ヤシアミン
E1-9:ポリオキシエチレン(12モル)ヤシアミン
E1-10:ポリオキシエチレン(15モル)ヤシアミン
(その他成分(G))
G-1:オクチルアルコール
G-2:プロピレングリコール
G-3:オレイン酸カリウム
試験区分3(合成繊維用処理剤の調製)
試験区分1で得られた第1処理剤と試験区分2で得られた第2処理剤とを表4,5に示される比率で下記に示される方法で混合し、最終的にエマルジョン形態の合成繊維用処理剤を調製した。
【0128】
(実施例1)
まず、陽イオン交換水を40g計り取り、80℃の湯煎にて500rpmにてプロペラ撹拌羽を用いて3分撹拌する。ビーカーの中に、第1処理剤1-1の6.25g(不揮発分として2.5g)をスポイトで滴下し、5分間撹拌する。
【0129】
次いで、第2処理剤2-1の2.51g(不揮発分として2.5g)をスポイトを用いて滴下し、5分間撹拌する。
なお、この時、第1処理剤の配合比率(%)は、第1処理剤の質量/(第1処理剤質量+第2処理剤の質量)×100=71.3(%)である。第2処理剤の配合比率(%)は、第2処理剤の質量/(第1処理剤の質量+第2処理剤の質量)×100=28.7(%)となる。
【0130】
ビーカーを湯煎から出し、室温にて500rpmで撹拌下、50gの25℃陽イオン交換水を加える。3分撹拌後、水性液の総重量が100gとなるように陽イオン交換水を加える。1分撹拌して得られた水性液を、実施例1の5%エマルジョン(不揮発分5%)とした。
【0131】
実施例2~79は、実施例1と同様にして第1処理剤と第2処理剤を表4,5に示した割合で混合することで合成繊維用処理剤としての5%エマルジョンを調製した。
(比較例1)
陽イオン交換水を80g計り取り、80℃の湯煎にて500rpmにてプロペラ撹拌羽を用いて3分撹拌する。ビーカーの中に、第1処理剤1-1を不揮発分として5g(第1処理剤として12.5g)をスポイトで滴下し、5分間撹拌する。撹拌後、水性液の総質量が100gとなるように陽イオン交換水を加える。1分撹拌して得られた水性液を、比較例1の5%エマルジョン(不揮発分5%)とした。
【0132】
比較例2~6は、比較例1と同様にして第1処理剤又は第2処理剤を表5に示した割合で混合することで5%エマルジョンを調製した。
第1処理剤の種類と含有量、第2処理剤の種類と含有量を、表4,5の「第1処理剤」欄、「第2処理剤」欄にそれぞれ示す。
【0133】
【表4】
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
試験区分4(安定性の評価)
表2,3の第1処理剤及び第2処理剤の各剤を200mLの透明ポリ瓶に150gずつ入れた。B型粘度計で、30℃における粘度を測定した。25℃及び50℃の各インキュベーターにて1か月静置した。静置開始日を0日目とし、1、3、5、7、14、21、28日目に外観を観察した。下記の基準に基づき安定性を評価した。結果を表2,3の「安定性」欄に示す。
【0136】
比較例7~44の処理剤については、表6に記載の比率にしたがって、ビーカーに各成分を混合し、不揮発分成分及び溶媒を合計で200gとなるように調製した。混合後、ガラス棒で均一になるまで撹拌した。撹拌後、200mL透明ポリ瓶に150g入れた。B型粘度計で、30℃における粘度を測定した。25℃及び50℃の各インキュベーターにて1か月静置し、静置開始日を0日目とし、1、3、5、7、14、21、28日目に外観を観察した。下記の基準に基づき安定性を評価した。結果を表6の「安定性」欄に示す。比較例7~44の処理剤の各成分の種類と不揮発分濃度を100%とした場合の各成分の含有量、及び処理剤中の不揮発分濃度を、表6の各成分の欄、「不揮発分濃度」欄にそれぞれ示す。
【0137】
・安定性の評価基準
◎(優れる):25℃及び50℃1か月で下記増粘1及び分離なしの場合
○(良好):25℃で28日目までに下記増粘1、増粘2、及び分離なしの場合、但し50℃で8日目~28日目の間に下記増粘1又は分離があった場合
△(可):50℃で7日目までに下記増粘2又は分離があった場合
×(やや不良):25℃で8日目~28日目までに下記増粘1又は分離があり、50℃で7日目までに下記増粘1又は分離がある場合
××(不良):25℃で7日目まで、又は50℃で3日目までに下記増粘1又は分離があった場合
×××(非常に不良):25℃で3日目までに下記増粘1又は分離があった場合
なお、「○日目までに」は、○日目に観察して増粘又は分離していた場合を含むものとする。
【0138】
増粘1は、ポリ瓶を90°傾けて5分後までに液面に変化が無い(液体が流れださない)場合とした。
増粘2は、ポリ瓶を90°傾けると液面に変化がある(液体が流れだす)場合であって、B型粘度計による粘度が安定性評価前の1.5倍以上に増粘していた場合とした。
【0139】
試験区分5(エマルジョン安定性の評価)
試験区分3で得られた5%エマルジョンを100mLニンジン型沈殿瓶(三商社製)に100g入れた。25℃の部屋に静置し、24時間経過後に沈殿量を確認した。下記の基準に基づきエマルジョン安定性を評価した。結果を表4,5の「エマルジョン安定性」欄に示す。なお、表6に示されるように、比較例7~44は、安定性の評価が不良であったため、エマルジョン安定性について評価を行っていない。
【0140】
・エマルジョン安定性の評価基準
◎◎(優れる):沈殿量が0.1mL未満
◎(良好):沈殿量が0.1mL以上0.3mL以下
○(可):沈殿量が0.3mL超0.5mL以下
×(不可):沈殿量が0.5mL超
試験区分6(ポリエステルステープル繊維への処理剤の付着)
試験区分3で調製した各例の0.5%エマルジョンを使用した。調製したエマルジョンを、製綿工程で得られた繊度1.3×10-4g/m(1.2デニール)で繊維長38mmのセミダルのポリエステルステープル繊維に、不揮発分としてその付着量が0.15%となるようにスプレー法で付着させた。そして、80℃の熱風乾燥機で2時間乾燥した後、25℃×40%RHの雰囲気下に一夜調湿して、処理済みポリエステルステープル繊維を得た。なお、表6に示されるように、比較例7~44は、安定性の評価が不良であったため、下記の紡績性について評価を行っていない。
【0141】
試験区分7(カード通過性の評価)
試験区分6で得た処理済みポリエステルステープル繊維20gを、20℃で65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ミニチュアカード機に供した。投入量に対して排出された量の割合を算出し、下記の評価基準で評価した。結果を表4,5の「カード通過性」欄に示す。
【0142】
・カード通過性の評価基準
◎(良好):排出量が90%以上
○(可):排出量が80%以上90%未満
×(不良):排出量が80%未満
試験区分8(スカム抑制の評価)
試験区分6で得た処理済みポリエステルステープル繊維100gを、20℃で65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ミニチュアカード機に供した。試験後に、シリンダー部に堆積したスカム量を判断した。結果を表4,5の「スカム抑制」欄に示す。
【0143】
・スカム抑制の評価
◎(良好):スカムが全く堆積していない場合
○(可):スカム堆積量がシリンダー表面積の2%未満
×(不良):スカム堆積量がシリンダー表面積の2%以上
試験区分9(制電性の評価)
試験区分6で得た処理済みポリエステルステープル繊維20gを用い、25℃×40%RHの雰囲気下でミニチュアカードに供した。紡出されたカードウェブの静電気をデジタル静電電位測定器を用いてカードウェブから1cm離れた位置から測定し、制電性を下記の基準で判定した。結果を表4,5の「制電性」欄に示す。
【0144】
・制電性の評価基準
◎(良好):静電気発生量が0.3kV未満
○(可):静電気発生量が0.3kV以上0.6kV未満
×(不良):静電気発生量が0.6kV以上
比較例7~44の合成繊維用処理剤は、いずれもリン酸化合物(A)及び非イオン界面活性剤(E)が本発明の範囲から外れる配合比率で、予め混合して調製されている。比較例7~44の合成繊維用処理剤は、いずれも安定性に劣ることが確認された。一方、本発明の第1処理剤によると、表2の安定性の評価結果からも明らかなように、保存安定性を向上できる。また、かかる第1処理剤を含んで構成される合成繊維用処理剤が付与された繊維は、カード通過性が向上され、スカム抑制効果、制電性が向上され、各種機能を十分に発揮できる。なお、各例の合成繊維用処理剤をポリオレフィン樹脂としてポリエチレン樹脂に適用した場合も同様の効果、つまりカード通過性、制電性等を向上させる効果が得られることを確認している。