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  • 特開-非焼成セラミックス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102627
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】非焼成セラミックス
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/02 20220101AFI20220630BHJP
【FI】
C01F7/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217467
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391016842
【氏名又は名称】岐阜県
(72)【発明者】
【氏名】茅野 英成
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 栄一
(72)【発明者】
【氏名】築城 利彦
(72)【発明者】
【氏名】松木 詩路士
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AA26
4G076AB02
4G076BA24
4G076BB08
4G076BC07
4G076BF06
4G076CA07
4G076DA30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非焼成セラミックス製造時において原料とCNFを配合した際のスラリーの粘度の増大を抑制できる非焼成セラミックスであって、かつ、高い弾性率を有する、非焼成セラミックスを提供する。
【解決手段】酸化セルロースナノファイバーを含む、非焼成セラミックスであって、酸化セルロースナノファイバーの平均繊維長が、100nm以上700nm以下であり、平均繊維幅が、2nm以上5nm以下であり、酸化セルロースナノファイバーが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、前記非焼成セラミックスは、金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物から選択される少なくとも一種を主成分として含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セルロースナノファイバーを含む、非焼成セラミックス。
【請求項2】
前記酸化セルロースナノファイバーの平均繊維長が、100nm以上700nm以下である、
請求項1に記載の非焼成セラミックス。
【請求項3】
前記酸化セルロースナノファイバーの平均繊維幅が、2nm以上5nm以下である、
請求項1又は2に記載の非焼成セラミックス。
【請求項4】
前記酸化セルロースナノファイバーが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の非焼成セラミックス。
【請求項5】
金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物から選択される少なくとも一種を主成分として含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の非焼成セラミックス。
【請求項6】
前記金属酸化物が、CuO、Fe23、Co23、ZnO、ZrO2、TiO2、CeO2、Li2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrO、BaO、Y23、Mn23、In23、SnO2、Al23、La23、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23から選択される少なくとも一種を含む、
請求項5に記載の非焼成セラミックス。
【請求項7】
前記ケイ素化合物が、SiC及び/又はSi34を含む、
請求項5又は6に記載の非焼成セラミックス。
【請求項8】
前記窒化物が、AlN及び/又はBNを含む、
請求項5~7のいずれか一項に記載の非焼成セラミックス。
【請求項9】
前記カルシウム化合物が、石灰、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、硫酸カルシウムから選択される少なくとも一種を含む、
請求項5~8のいずれか一項に記載の非焼成セラミックス。
【請求項10】
前記酸化セルロースナノファイバーの含有量が、1質量%以上である、
請求項1~9のいずれか一項に記載の非焼成セラミックス。
【請求項11】
酸化セルロースナノファイバーを含む、非焼成セラミックス強化用組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の非焼成セラミックス強化用組成物を含む、非焼成セラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非焼成セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(以下、CNFともいう)は、軽量かつ高強度な繊維状素材であり、各種樹脂に添加した高強度材料の開発が進められている。また、CNFは、無機材料へ添加することも検討されている。例えば、特許文献1には、セラミック成形に使用されるバインダーとしてCNFを使用することが開示されている。特許文献1において、CNFは熱分解温度が低く、セラミックグリーンシート作製における焼成後の残炭物を低く抑えられるとされている。
【0003】
セラミック材料の一つに、高温焼成を行わない非焼成セラミックス(不焼成セラミックス、あるいは無焼成セラミックスとも呼ばれる)が知られている。非焼成セラミックスは、省エネルギーな材料であり、簡便に製造でき、また、種々の形状に形成できる等の特徴を有している。例えば、特許文献2には、軽量骨材を含むセメント質基層部と、ポゾラン質物と微細繊維状物及び/又は微細薄片状物を含み圧縮強度が100N/mm2以上のセメント質表層部とを一体成形して成る軽量不焼成タイルが開示されている。
また、非特許文献1には、非焼成セラミックスの補強材として、CNFを使用することが提案されている。非特許文献1には、非焼成セラミックスと機械解繊CNFとを複合化させることにより、硬くて脆い性質を持つセラミックスに靭性を持たせ、人工骨や骨補填材に活用できるとされている。また、非特許文献1においては、成型助剤を加えずに、CNF水分散液のみをアルミナの粉体と混合し、スラリーを湿式で加圧成形することにより、割れや亀裂の無い成型体を形成すること、その成型体の曲げ強度が向上することが開示されている。
【0004】
さらに、非特許文献2には、陶磁器製造プロセスにおける素焼き(焼成温度:700~800℃)のプロセスを省略するために、陶磁器素材としてTEMPO酸化CNFを使用することが開示されている。非特許文献2には、低温焼成磁器坏土にTEMPO酸化CNFを1質量%添加することにより、焼成前の乾燥体の3点曲げ強度が5MPa以上に達したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-151690号公報
【特許文献2】特開2001-247355号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】成形加工、第30巻、第6号、2018
【非特許文献2】平成30年度 CO2排出削減対策強化誘導型 技術開発・実証事業委託業務報告書、平成31年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非焼成セラミックスには、より高い強度が求められる。特に、強度の一つとして弾性率を高めることが求められる。特許文献2の不焼成タイルにおいて、具体的に使用されている微細繊維状物はウォラストナイトであって、CNFは一切使用されていない。また、特許文献2には、CNFを用いることにより弾性率を高められることも記載されていない。
【0008】
非特許文献1の非焼成セラミックスの製造においては、機械解繊CNFをアルミナと混合しスラリーを得るが、当該スラリーの粘度は著しく大きい。非焼成セラミックの成形を容易にすることによって作業性が向上するために、スラリーの粘度が増大することを抑制することが求められる。また、弾性率をより高めることも求められる。
【0009】
非特許文献2における低温焼成磁器坏土は、TEMPO酸化CNFを含む。しかしながら、非特許文献2は、CNFを含む非焼成セラミックスを提供することを目的としていない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、非焼成セラミックス製造時において原料とCNFを配合した際のスラリーの粘度の増大を抑制でき、かつ、高い弾性率を有する、非焼成セラミックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、酸化セルロースナノファイバーを含む非焼成セラミックスが、非焼成セラミックス製造時にスラリー粘度の増大を抑制でき、かつ、高い弾性率を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
[1]
酸化セルロースナノファイバーを含む、非焼成セラミックス。
[2]
前記酸化セルロースナノファイバーの平均繊維長が、100nm以上700nm以下である、
[1]に記載の非焼成セラミックス。
[3]
前記酸化セルロースナノファイバーの平均繊維幅が、2nm以上5nm以下である、
[1]又は[2]に記載の非焼成セラミックス。
[4]
前記酸化セルロースナノファイバーが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む、
[1]~[3]のいずれかに記載の非焼成セラミックス。
[5]
金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物から選択される少なくとも一種を主成分として含む、
[1]~[4]のいずれかに記載の非焼成セラミックス。
[6]
前記金属酸化物が、CuO、Fe23、Co23、ZnO、ZrO2、TiO2、CeO2、Li2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrO、BaO、Y23、Mn23、In23、SnO2、Al23、La23、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23から選択される少なくとも一種を含む、
[5]に記載の非焼成セラミックス。
[7]
前記ケイ素化合物が、SiC及び/又はSi34を含む、
[5]又は[6]に記載の非焼成セラミックス。
[8]
前記窒化物が、AlN及び/又はBNを含む、
[5]~[7]のいずれかに記載の非焼成セラミックス。
[9]
前記カルシウム化合物が、石灰、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、硫酸カルシウムから選択される少なくとも一種を含む、
[5]~[8]のいずれかに記載の非焼成セラミックス。
[10]
前記酸化セルロースナノファイバーの含有量が、1質量%以上である、
[1]~[9]のいずれかに記載の非焼成セラミックス。
[11]
酸化セルロースナノファイバーを含む、非焼成セラミックス強化用組成物。
[12]
[11]に記載の非焼成セラミックス強化用組成物を含む、非焼成セラミックス。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非焼成セラミックスによれば、非焼成セラミックス製造時にスラリー粘度の増大を抑制でき、かつ、高い弾性率を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の試験片の電子顕微鏡観察により得られたSEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の非焼成セラミックスは、酸化セルロースナノファイバー(以下、酸化CNFとも記載する)を含む。
本発明において、非焼成セラミックスとは、焼成なしに得られる、非金属元素、及び/又は、金属元素と非金属元素との無機化合物を含む固体材料である。したがって、本発明の非焼成セラミックスは、酸化セルロースナノファイバーと、非金属元素、及び/又は、金属元素と非金属元素との無機化合物とを含む固体材料ということもできる。
また、本発明の非焼成セラミックスは、無焼成セラミックスとも呼ばれる。
【0016】
本発明の非焼成セラミックスは、酸化CNFを用いて製造される。酸化CNFは、非焼成セラミックスの原料である、非金属元素、及び/又は、金属元素と非金属元素との無機化合物と混合してスラリーとした際、スラリーの粘度が増大することを抑制することができる。したがって、非焼成セラミックスの成形を容易にすることができ、非焼成セラミックス製造の作業性を向上できる。
また、本発明の非焼成セラミックスは酸化CNFを含むことにより、弾性率を高めることができる。これは、酸化CNFに含まれる官能基が、非金属元素、及び/又は、無機化合物と相互作用し、強度を高められるためであると考えられる。
【0017】
<酸化セルロースナノファイバー(酸化CNF)>
本発明における酸化CNFとは、セルロース系原料を酸化した酸化セルロースの繊維状ナノセルロースである。ここで、上記酸化セルロースは、セルロース系原料の酸化物ともいうことができる。なお、植物の主成分はセルロースであり、セルロース分子が束になったものがセルロースミクロフィブリルと称される。セルロース系原料中のセルロースもまた、セルロースミクロフィブリルの形態で含まれている。
【0018】
本発明における酸化CNFの平均繊維長は、好ましくは100nm以上700nm以下である。平均繊維幅が100nm以上であることにより、ナノセルロースとしての品質が均一になりやすく、非焼成セラミックスの材料との配合の作業性がより向上する傾向にある。平均繊維長が700nm以下であることにより、粗大な酸化CNFの割合を抑え、酸化CNFの沈殿の発生を抑制し、非焼成セラミックスの材料との配合の作業性がより向上する傾向にある。
非焼成セラミックスの材料との配合の作業性を一層高める観点から、平均繊維長は、100nm以上600nm以下であることがより好ましく、100nm以上500nm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明における酸化CNFの平均繊維幅は、好ましくは2nm以上5nm以下である。平均繊維幅が2nm以上であることにより、ナノセルロースとしての品質が均一になりやすく、非焼成セラミックスの材料との配合の作業性が向上する傾向にある。平均繊維幅が5nm以下であることにより、粗大な酸化CNFの割合を抑え、酸化CNFの沈殿の発生を抑制し、非焼成セラミックスの材料との配合の作業性が向上する傾向にある。
非焼成セラミックスの材料との配合の作業性を一層高める観点から、平均繊維幅は、2.5nm以上4.5nm以下であることがより好ましく、2.5nm以上4nm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明における酸化CNFにおいて、平均繊維幅と平均繊維長との比で表されるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)は、20以上200以下であることが好ましい。
アスペクト比が200以下であることにより、非焼成セラミックスの材料と酸化CNFとのネットワークが均一にかつ緻密に形成されやすくなり、強度を高められる傾向にある。こうした観点から、アスペクト比は、より好ましくは190以下であり、さらに好ましくは180以下である。
その一方で、アスペクト比が低すぎる、すなわち、酸化CNFの形状が細長い繊維状というよりも太い棒状である場合、偏在により凝集が起こり、非焼成セラミックスの材料と酸化CNFとのネットワークが形成されにくい傾向にある。また、アスペクト比が低すぎると、非焼成セラミックスの材料を含むスラリーの粘度が高くなり、非焼成セラミックス製造の作業性が低下する傾向にある。そのため、アスペクト比は、好ましくは20以上であり、より好ましくは30以上であり、さらに好ましくは40以上である。
【0021】
なお、平均繊維幅及び平均繊維長は、酸化CNFの濃度が概ね1~10ppmとなるように酸化CNFと水とを混合し、十分に希釈したセルロース水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、走査型プローブ顕微鏡を用いて酸化CNFの形状観察を行い、得られた像より任意の本数の繊維を無作為に選択し、形状像の断面高さ=繊維幅とし、周囲長÷2=繊維長とすることにより算出した値である。このような平均繊維幅及び平均繊維長の算出には、画像処理のソフトウェアを用いることができる。このとき画像処理の条件は任意であるが、条件によって同一画像であっても算出される値に差が生じる場合がある。条件による値の差の範囲は、平均繊維長については±100nmの範囲内であることが好ましい。条件による値の差の範囲は、平均繊維幅については±10nmの範囲内であることが好ましい。より詳細な測定方法は、後述の実施例に記載の方法に従う。
【0022】
本発明における酸化CNFは、市販の酸化CNFを用いることもでき、セルロース系原料の針葉樹パルプ等から調製することにより得られたものを用いることもできる。CNFを調製する場合、例えば、Cellulose Commun., 14(2), 62(2007)、及び、国際公開2018/230354号パンフレット等を参照して調製することができる。
【0023】
本発明における酸化CNFは、例えば、有効塩素濃度が7質量%以上43質量%以下の次亜塩素酸又はその塩を用いて、セルロース系原料を酸化させて酸化セルロースを製造する工程と、該酸化セルロースを解繊処理してナノ化させる工程とを有する製造方法により製造することができる。
上記酸化CNFの製造において、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩で酸化する処理では、TEMPO等のN-オキシル化合物を用いる必要がない。N-オキシル化合物は環境や人体への影響が懸念されている。このため、本発明における酸化CNFは、N-オキシル化合物を実質的に含まないことが好ましい。ここで、本明細書において、酸化セルロースあるいは酸化CNFが「N-オキシル化合物を実質的に含んでいない」とは、酸化CNFを製造する際にN-オキシル化合物を用いていない、又は酸化セルロースあるいは酸化CNF中におけるN-オキシル化合物に由来する窒素の含有量が、原料パルプからの増加分として2.0ppm以下であることを意味する。酸化セルロース中のN-オキシル化合物の量は、原料パルプからの増加分として好ましくは1.0ppm以下である。
【0024】
本発明における酸化CNFは、上述のとおり、TEMPO等のN-オキシル化合物を用いることなく、次亜塩素酸又はその塩を用いて、セルロース系原料を酸化させて酸化セルロースを製造する工程と、該酸化セルロースを解繊処理してナノ化させる工程とを有する製造方法により製造することが好ましい。本発明における酸化CNFは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含むことが好ましい。本発明における酸化CNFは、例えば、反応系内における次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度を比較的高濃度(例えば、14質量%~43質量%)とした条件でセルロース系原料を酸化し、その酸化セルロースを解繊することにより得ることが好適である。
このような酸化CNFは解繊性に優れている。特に、上記酸化セルロースは、温和な条件で解繊処理を行った場合にも均一に微細化することができ、易解繊性に優れている。また、上記酸化CNFと混合してスラリー状態とした場合に、スラリー粘度が経時的に安定であり、かつハンドリング性に優れている。また、次亜塩素酸又はその塩を用いて得られる酸化CNFは、解繊性に優れるため、解繊処理してナノ化する工程の負担が低減される傾向にある。したがって、このような酸化CNFを含む非焼成セラミックスは、低コストや低エネルギーといった効率性に優れる。
このようにして得られる酸化CNFは、所定のゼータ電位、あるいは、光透過率を有しうる。
【0025】
(ゼータ電位)
本開示の好適な実施の一形態において、本発明における酸化CNFは、ゼータ電位が-30mV以下であることが好ましい。ゼータ電位が-30mV以下(すなわち、絶対値が30mV以上)であると、ミクロフィブリル同士の反発が十分に得られ、機械的解繊時に表面電荷密度が高い酸化CNFが生じやすくなる。これにより、酸化CNFの分散安定性が向上し、スラリーとしたときの粘度安定性、及びハンドリング性を優れたものとすることができる。分散安定性の観点からは、ゼータ電位の下限は特に制限されない。ただし、ゼータ電位が-100mV以上(すなわち、絶対値が100mV以下)の場合には、酸化の進行に伴う繊維方向の酸化切断が抑制される傾向にあるため、均一なサイズの酸化CNFを得ることができる傾向にある。
【0026】
上記の観点から、本発明における酸化CNFのゼータ電位は、-35mV以下が好ましく、-40mV以下がより好ましく、-50mV以下が更に好ましい。また、ゼータ電位の下限については、-90mV以上が好ましく、-85mV以上がより好ましく、-80mV以上が更に好ましく、-77mV以上がより更に好ましい。ゼータ電位の範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせることができる。ゼータ電位は、好ましくは-90mV以上-35mV以下であり、より好ましくは-85mV以上-40mV以下であり、更に好ましくは-80mV以上-50mV以下である。なお、本明細書においてゼータ電位は、本発明における酸化CNFと水とを混合して酸化CNFの濃度を0.1質量%としたセルロース水分散体につき、pH8.0、20℃の条件で測定した値である。
【0027】
ゼータ電位は、詳細には以下の方法にしたがい測定することができる。
酸化CNFに純水を加えて、酸化CNFの濃度が約0.1%になるように希釈する。希釈後の酸化CNF水分散体に、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを約8.0に調整して、例えば、大塚電子社製ゼータ電位計(ELSZ-1000)によりゼータ電位を20℃で測定する。
【0028】
(光透過率)
本発明における酸化CNFを分散媒中に分散させたナノセルロース分散体は、セルロース繊維の光散乱等が少なく、高い光透過率を示すことができる。具体的には、好適な実施の一形態において、本発明における酸化CNFは、水と混合して固形分濃度0.1質量%とした混合液における光透過率が95%以上である。当該光透過率は、より好ましくは96%以上であり、更に好ましくは97%以上であり、より更に好ましくは99%以上である。なお、光透過率は、分光光度計により測定した波長660nmでの値である。
【0029】
光透過率は、例えば、酸化CNFの水分散体を10mm厚の石英セルに入れて、分光光度計(JASCO V-550)により測定することができる。
【0030】
本発明における酸化CNFは、上述のとおり、次亜塩素酸又はその塩を用いて酸化セルロースをナノ化したものである。
酸化セルロースの重合度は600以下であることが好ましい。酸化セルロースの重合度が600を超えると、解繊に大きなエネルギーを要する傾向にあり、十分な易解繊性を発現することができない傾向がある。また、酸化セルロースの重合度が600を超えると、解繊が不十分な酸化セルロースが多くなるため、これを微細化して得られる酸化CNFを分散媒中に分散させた場合に光散乱等が多くなり、透明度が低下することがある。また更に、得られる酸化CNFの大きさにばらつきが生じ、品質が不均一となる傾向がある。このため、酸化CNFを固体粒子と共に含むスラリー(以下、「ナノセルロース含有スラリー」ともいう)の粘度が不安定になり、またスラリーのハンドリング性が低下する場合がある。易解繊性の観点からは、重合度の下限は特に設定されない。ただし、酸化セルロースの重合度が50未満であると、繊維状というより粒子状のセルロースの割合が多くなり、スラリーの品質が不均一になり粘度が不安定になる。上記の観点から、酸化セルロースの重合度は、50~600であることが好ましい。
【0031】
酸化セルロースの重合度は、より好ましくは580以下であり、更に好ましくは560以下であり、より更に好ましくは550以下であり、一層好ましくは500以下であり、より一層好ましくは450以下である。重合度の下限については、スラリーの粘度安定性及び塗工性を良好にする観点から、より好ましくは80以上であり、更に好ましくは90以上であり、より更に好ましくは100以上であり、一層好ましくは110以上であり、より一層好ましくは120以上である。重合度の好ましい範囲は、既述の上限及び下限を適宜組み合わせることにより定めることができる。本酸化セルロースの重合度は、より好ましくは80~600であり、更に好ましくは90~600であり、より更に好ましくは100~600であり、一層好ましくは100~550であり、より一層好ましくは100~500である。
【0032】
なお、酸化セルロースの重合度は、酸化反応の際の反応時間、反応温度、pH、及び次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度等を変更することにより調整することができる。具体的には、酸化度を高めると重合度が低下する傾向があることから、重合度を小さくするには、例えば酸化の反応時間及び/又は反応温度を大きくする方法が挙げられる。他の方法として、酸化セルロースの重合度は、酸化反応時の反応系の攪拌条件によって調整することができる。例えば、攪拌翼等を用いて反応系を十分に均一化した条件下であれば、酸化反応が円滑に進行し、重合度が低下する傾向がある。一方、スターラーによる攪拌等のように反応系の攪拌が不十分となりやすい条件下では、反応が不均一になりやすく、酸化セルロースの重合度を十分に低減することが難しい。また、酸化セルロースの重合度は、原料セルロースの選択によっても変動する傾向がある。このため、セルロース系原料の選択によって酸化セルロースの重合度を調整することもできる。なお、本明細書において、酸化セルロースの重合度は、粘度法により測定された平均重合度(粘度平均重合度)である。
【0033】
酸化セルロースの重合度は、詳細には以下の方法にしたがい測定することができる。
pH10に調整した水素化ホウ素ナトリウム水溶液に酸化セルロースを加え、25℃で5時間、還元処理を行う。水素化ホウ素ナトリウム量は、酸化セルロース1gに対して約0.1gとする。還元処理後、吸引ろ過にて固液分離、水洗を行い、得られた酸化セルロースを凍結乾燥させる。純水約10mlに乾燥させた酸化セルロース約0.04gを加えて2分間撹拌した後、1M銅エチレンジアミン溶液約10mlを加えて溶解させる。その後、キャピラリー型粘度計にて25℃でブランク溶液の流下時間とセルロース溶液の流下時間測定する。ブランク溶液の流下時間(t0)とセルロース溶液の流下時間(t)、酸化セルロースの濃度(c[g/ml])から次式のように相対粘度(ηr)、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を順次求め、粘度測の式から酸化セルロースの重合度(DP)を計算する。
ηr=η/η0=t/t0
ηsp=ηr-1
[η]=ηsp/(100×c(1+0.28ηsp))
DP=175×[η]
【0034】
(カルボキシル基量)
本発明における酸化CNF及び酸化セルロースのカルボキシル基量は、0.30mmol/g以上2.0mmol/g未満であることが好ましい。当該カルボキシル基量が0.30mmol/g以上であると、酸化セルロースに十分な易解繊性を付与することができる。これにより、温和な条件によって解繊処理を行った場合にも、品質が均一化されたナノセルロース含有スラリーを得ることができ、スラリーの粘度安定性、ハンドリング性を向上させることができる。一方、カルボキシル基量が2.0mmol/g以下であると、解繊処理時にセルロースが過度に分解することを抑制でき、粒子状のセルロースの比率が少なく品質が均一な酸化CNFを得ることができる。こうした観点から、カルボキシル基量は、より好ましくは0.35mmol/g以上であり、更に好ましくは0.40mmol/g以上であり、より更に好ましくは0.42mmol/g以上である。カルボキシル基量の上限については、より好ましくは1.5mmol/g以下であり、更に好ましくは1.2mmol/gであり、より更に好ましくは1.0mmol/g以下である。
【0035】
なお、カルボキシル基量(mmol/g)は、酸化セルロースを水と混合した水溶液に0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から下記式を用いて算出した値である。詳細は、後述する実施例に記載の方法に従う。カルボキシル基量は、酸化反応の反応時間、反応温度、反応液のpH等を変更することにより調整することができる。
カルボキシル基量=a(ml)×0.05/酸化セルロース質量(g)
【0036】
酸化セルロースは、反応系内における次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度を比較的高濃度(例えば、14質量%~43質量%)とした条件でセルロース系原料を酸化することにより得ることができる。こうして得られた酸化セルロースは、好適には、セルロースを構成するグルコピラノース環の水酸基のうち少なくとも2個が酸化された構造を有し、より具体的には、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシル基が導入された構造を有することが好ましい。なお、酸化セルロースが有するグルコピラノース環におけるカルボキシル基の位置は、固体13C-NMRスペクトルにより解析することができる。
【0037】
本発明における酸化CNFは、1本単位の繊維の集合体である。本発明における酸化CNFがカルボキシル化CNFを含む場合、少なくとも1本のカルボキシル化されたCNFを含んでいればよく、カルボキシル化されたCNFが主成分であることが好ましい。ここでカルボキシル化CNFが主成分であるとは、CNF全量に占めるカルボキシル化CNFの割合が50質量%超過であること、好ましくは70質量%超過であること、より好ましくは80質量%超過であることを指す。上記割合の上限は100質量%であるが、98質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
【0038】
本発明における酸化CNFの繊維長の標準偏差は、好ましくは600nm以下であり、より好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは10nm以上500nm以下の範囲である。
繊維長の標準偏差が600nmを超える場合、酸化CNFのスラリーは、不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する。そのため、標準偏差は小さいほど好ましい。但し、標準偏差を10nm未満にしようとすると解繊回数を大幅に増やす必要があり、経済的に好ましくない。
【0039】
本発明における酸化CNFの平均繊維長、平均繊維幅、及び繊維長の標準偏差は、例えば、原料セルロースの種類の選択、カルボキシル基量を制御すること、具体的には、酸化反応の時間を制御すること;酸化反応の撹拌を調整すること;解繊処理の方法を制御すること;等によって、所定の範囲に制御することができる。平均繊維長、平均繊維幅、及び繊維長の標準偏差の制御方法は、これらに限定されず、また、これらの方法の2つ以上を組み合わせて行ってもよい。
【0040】
なお、本発明における繊維長の標準偏差は、統計的な対象となる値がその平均からどれだけ広い範囲に分布しているかを表すものである。標準偏差は、データ数をn、各データをxとすれば、下記式(1)から求められる。
【0041】
【数1】
【0042】
さらに、本発明における酸化CNFの繊維長の尖度は、11以上であることが好ましく、12以上がより好ましく、12以上30以下の範囲がさらに好ましい。
尖度は繊維長分布の集中度を示す数値であり、11未満の尖度が小さな酸化CNFのスラリーは、不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する。そのため、尖度は大きいほど好ましいが、30を超える尖度にするためには、解繊回数を大幅に減らす必要があり、微細化が不十分となるため好ましくない。
【0043】
なお、繊維長の尖度について、正規分布と比べて、尖度が大きければ鋭いピークと長く太い裾を持った分布となり、尖度が小さければより丸みがかったピークと短く細い裾を持つ分布となる。
繊維長の尖度は、データ数をn、各データをx、標準偏差をsとすれば、下記式(2)から求められる。
【0044】
【数2】
【0045】
さらに、本発明における酸化CNFの繊維長の歪度が3.0以上であることが好ましく、3.0以上6.0以下の範囲がより好ましく、3.0以上4.0以下の範囲がさらに好ましい。繊維長の歪度が一定範囲内であると、メカニズムは不明であるが、酸化CNFのスラリーは、スラリーの状態、特に粘度安定性が高い。
繊維長の歪度が3.0未満であると粘度安定性が低下し、歪度が6.0、更には4.0を超える場合は、解繊回数を大幅に減らす必要があり、微細化が不十分となるため好ましくない。
なお、繊維長の歪度が高いほど、繊維長分布が幅の小さい側に偏っていることを示している。
【0046】
繊維長の歪度は、平均値周辺分布の両側の非対称度を表すもので、正の歪度は、より正の値に向かって広がる非対称のテールを持つ分布を示し、負の歪度は、より負の値に向かって伸びる非対称テールを持つ分布を示す。
繊維長の歪度は、データ数をn、各データをx、標準偏差をsとすれば、下記式(3)から求められる。
【0047】
【数3】
【0048】
また、本発明における酸化CNFの繊維長の範囲(最大値と最小値の差)は、4000nm以下であることが好ましく、550nm以上4000nm以下の範囲がより好ましく、700nm以上4000nm以下の範囲がさらに好ましい。
繊維長の範囲が4000nmを超える酸化CNFのスラリーは、不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する傾向にある。そのため、繊維長の範囲は小さいほど好ましい。但し、繊維長の範囲の下限を700nm未満、更に550nm未満にするためには、解繊回数を大幅に増やす必要があり、経済的に好ましくない。
【0049】
さらに、本発明における酸化CNFに関して、繊維幅の標準偏差が1.5nm以下であることが好ましく、0.5nm以上1.5nm以下の範囲がより好ましく、1.0nm以上1.5nm以下の範囲がさらに好ましい。
繊維幅の標準偏差が1.5nmを超えると、酸化CNFのスラリーは、不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する傾向にある。そのため、標準偏差は小さいほど好ましい。但し、標準偏差を1.0nm未満、更に0.5nm未満にするためには解繊回数を大幅に増やす必要があり、経済的に好ましくない。
繊維幅の標準偏差の計算方法は、上記繊維長の標準偏差と同じである。
なお、繊維幅の標準偏差は、平均繊維長、平均繊維幅、および繊維長の標準偏差の制御方法と同様の方法により、制御することができる。
【0050】
さらに、本発明における酸化CNFに関して、繊維幅の尖度が0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上2.5以下の範囲がさらに好ましい。
繊維幅の尖度の小さな酸化CNFを使用したスラリーは、不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する傾向にある。そのため、尖度は大きいほど好ましい。但し、尖度を2.5以上にしようとすると解繊回数を大幅に減らす必要があり、微細化が不十分となるため好ましくない。
繊維幅の尖度の計算方法は、上記繊維長の尖度と同じである。
【0051】
さらに、本発明における酸化CNFの繊維幅の歪度は、0.5以上であることが好ましく、0.8以上1.5以下の範囲がより好ましく、0.85以上1.5以下の範囲がさらに好ましい。繊維幅の歪度が一定範囲内であると、メカニズムは不明であるが、その酸化CNFのスラリーは、粘度安定性が高い。
繊維幅の歪度が0.5未満であると粘度安定性が低下し、歪度が1.5を超える場合は、解繊回数を大幅に減らす必要があり、微細化が不十分となるため好ましくない。
なお、繊維幅の歪度が高いほど、繊維幅分布が幅の小さい側に偏っていることを示している。
繊維幅の尖度の計算方法は、上記繊維長の尖度と同じである。
【0052】
さらに、本発明における酸化CNFの繊維幅の範囲(最大値と最小値の差)は、6.8nm以下であることが好ましく、5.0nm以上6.8nm以下の範囲がより好ましく、5.2nm以上6.7nm以下の範囲がさらに好ましい。
繊維幅の範囲の大きな酸化CNFを含むスラリーは、不均一な部分が生じ易くなり、特に粘度安定性が低下する傾向にある。そのため、繊維幅の範囲は小さいほど好ましい。但し、繊維幅の範囲の下限を5.0nm未満、更に5.2nm未満にするためには、解繊回数を大幅に増やす必要があり、経済的に好ましくない。
【0053】
繊維長の尖度、歪度、繊維長の範囲、及び、繊維幅の尖度、歪度、繊維幅の範囲は、平均繊維長、平均繊維幅、及び繊維長の標準偏差の制御方法と同様の方法により制御することができる。
【0054】
平均繊維長が比較的短く、繊維長分布が狭い(標準偏差が小さい、範囲が小さい)、及び/又は、繊維長分布が尖っている(尖度が大きい)と、及び/又は、繊維長分布が小さい方へ偏っている(歪度が大きい)と、スラリー中のCNF濃度の不均一な部分が生じ難くなり、スラリーの状態、特に粘度の安定性が高くなると考えられる。
同様に、繊維幅は、その分布が狭い(標準偏差が小さい、範囲が小さい)、及び/又は、その分布が尖っている(尖度が大きい)、及び/又は、繊維幅分布が小さい方へ偏っている(歪度が大きい)と、スラリー中のCNF濃度の不均一な部分が生じ難くなり、スラリーの状態、特に粘度の安定性が高くなると考えられる。
【0055】
[酸化CNFの製造方法]
次に、本発明における酸化CNFの製造方法について説明する。本発明における酸化CNFは、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩で酸化して酸化セルロースを得る工程Aと、酸化セルロースを解繊する工程Bとを含む方法により製造することができる。
【0056】
(工程A:酸化セルロースの製造)
セルロース系原料は、セルロースを主体とする材料であれば特に限定されず、例えば、パルプ、天然セルロース、再生セルロース、及びセルロースを機械的処理することにより解重合した微細セルロース等が挙げられる。セルロース系原料としては、パルプを原料とする結晶セルロース等の市販品をそのまま使用することができる。その他、おからや大豆皮等、セルロース成分を多量に含む未利用バイオマスを原料としてもよい。また、使用する酸化剤を原料パルプの中に浸透しやすくする目的で、予めセルロース系原料を適度な濃度のアルカリで処理してもよい。
【0057】
セルロース系原料の酸化に使用される次亜塩素酸又はその塩としては、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、及び次亜塩素酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いやすさの点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0058】
セルロース系原料の酸化により酸化セルロースを製造する方法としては、セルロース系原料と、次亜塩素酸又はその塩を含む反応液とを混合する方法が挙げられる。反応液に含まれる溶媒は、取り扱いやすい点や副反応が生じにくい点で、水が好ましい。反応液における次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度は、14~43質量%であることが好ましい。反応液の有効塩素濃度が上記範囲であると、酸化セルロース中のカルボキシル基量を十分に多くでき、酸化CNFを得る際に酸化セルロースの解繊を容易に行うことができる。
【0059】
酸化セルロースのカルボキシル基量を十分に多くする観点から、反応液の有効塩素濃度は、より好ましくは15質量%以上であり、更に好ましくは18質量%以上であり、より更に好ましくは20質量%以上である。また、解繊時にセルロースが過度に分解することを抑制する観点から、反応液の有効塩素濃度は、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは38質量%以下である。反応液の有効塩素濃度の範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせることができる。当該有効塩素濃度の範囲は、より好ましくは16~43質量%であり、更に好ましくは18~40質量%である。
【0060】
なお、次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度は、以下のように定義される。次亜塩素酸は水溶液として存在する弱酸であり、次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸の水素が他の陽イオンに置換された化合物である。例えば、次亜塩素酸塩である次亜塩素酸ナトリウムは溶媒中(好ましくは水溶液中)に存在するため、次亜塩素酸ナトリウムの濃度ではなく、溶液中の有効塩素量として濃度が測定される。ここで、次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素について、次亜塩素酸ナトリウムの分解により生成する2価の酸素原子の酸化力が1価の塩素の2原子当量に相当するため、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の結合塩素原子は、非結合塩素(Cl2)の2原子と同じ酸化力を持ち、有効塩素=2×(NaClO中の塩素)となる。測定の具体的な手順としては、まず試料を精秤し、水、ヨウ化カリウム及び酢酸を加えて放置し、遊離したヨウ素についてデンプン水溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し有効塩素濃度を測定する。
【0061】
次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化反応は、pHを5.0~14.0の範囲に調整しながら行うとよい。この範囲であると、セルロース系原料の酸化反応を十分に進行させることができ、酸化セルロース中のカルボキシル基量を十分に多くすることができる。これにより、酸化セルロースの解繊を容易に行うことができる。反応系のpHは、より好ましくは7.0以上であり、更に好ましくは8.0以上である。反応系のpHの上限については、より好ましくは13.5以下であり、更に好ましくは13.0以下である。また、反応系のpHの範囲は、より好ましくは7.0~14.0であり、更に好ましくは8.0~13.5である。
【0062】
以下、次亜塩素酸又はその塩として次亜塩素酸ナトリウムを用いる場合を例にして、酸化セルロースを製造する方法について更に説明する。
【0063】
次亜塩素酸ナトリウムを用いてセルロース系原料の酸化を行う場合、反応液は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液であることが好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を目的とする濃度(例えば、目的濃度:14質量%~43質量%)に調整する方法としては、目的濃度よりも有効塩素濃度の低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を濃縮する方法、目標濃度よりも有効塩素濃度の高い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈する方法、及び次亜塩素酸ナトリウムの結晶(例えば、次亜塩素酸ナトリウム5水和物)を溶媒に溶解する方法等が挙げられる。これらの中でも、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈する方法、又は次亜塩素酸ナトリウムの結晶を溶媒に溶解する方法により酸化剤としての有効塩素濃度に調整することが、自己分解が少なく(すなわち、有効塩素濃度の低下が少なく)、有効塩素濃度の調整が簡便であるため好ましい。
【0064】
セルロース系原料と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを混合する方法は特に限定されないが、操作の容易性の観点から、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にセルロース系原料を加えて混合することが好ましい。
【0065】
セルロース系原料の酸化反応を効率良く進行させるために、酸化反応中は、セルロース系原料と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合液を撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌の方法としては、例えば、マグネチックスターラー、撹拌棒、撹拌翼付き撹拌機(スリーワンモータ)、ホモミキサー、ディスパー型ミキサー、ホモジナイザー、外部循環撹拌等が挙げられる。これらのうち、セルロース系原料の酸化反応が円滑に進行し、酸化セルロースの重合度を所定値以下に調整しやすい点で、ホモミキサー及びホモジナイザー等のせん断式撹拌機、撹拌翼付き撹拌機、並びにディスパー型ミキサーのうち1種又は2種以上を用いる方法が好ましく、攪拌翼付き撹拌機を用いる方法が特に好ましい。撹拌翼付き撹拌機を用いる場合、撹拌機としては、プロペラ翼、パドル翼、タービン翼等の公知の撹拌翼を備える装置を使用することができる。また、撹拌翼付き撹拌機を用いる場合、回転速度50~300rpmにて撹拌を行うことが好ましい。
【0066】
酸化反応における反応温度は、15℃~100℃であることが好ましく、20℃~90℃であることが更に好ましい。反応中は、酸化反応によりセルロース系原料にカルボキシル基が生成することに伴い反応系のpHが低下する。このため、酸化反応を効率良く進行させる観点から、アルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム等)又は酸(例えば、塩酸等)を反応系中に添加し、反応系のpHを上記好ましい範囲に調整することが好ましい。酸化反応の反応時間は、酸化の進行の程度に従って設定することができるが、15分~50時間程度とすることが好ましい。反応系のpHを10以上とする場合には、反応温度を30℃以上及び/又は反応時間を30分以上に設定することが好ましい。
【0067】
なお、酸化反応の反応時間、反応温度、撹拌条件等を調整することにより、本発明における酸化CNFのゼータ電位及び光透過率を所望の値に調整することができる。具体的には、反応時間を長くする、及び/又は反応温度を高くするに従って、セルロース系原料中のセルロースミクロフィブリル表面への酸化が進行し、静電的反発や浸透圧によりフィブリル間の反発が強まることにより平均繊維幅がより小さくなる傾向がある。また、酸化をより進行させる側(すなわち、酸化度合いを高くする側)に酸化の反応時間、反応温度及び撹拌条件の1つ以上を設定する(例えば、反応時間を長くする)ことによってゼータ電位を高くできる傾向がある。
【0068】
上記反応により得られた酸化セルロースを含む溶液を用いて、ろ過等の公知の単離処理を行い、更に必要に応じて精製することにより、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物として酸化セルロースを得ることができる。なお、上記反応により得られた酸化セルロースを含む溶液をそのまま解繊処理に供してもよい。
【0069】
(工程B:解繊処理)
本発明における酸化CNFは、上記で得られた酸化セルロースを解繊してナノ化することにより得ることができる。酸化セルロースを解繊する方法としては、マグネチックスターラー等を用いた弱い撹拌による方法、機械的解繊による方法等が挙げられる。酸化セルロースの解繊を十分に行うことができ、また解繊時間の短縮を図ることができる点で、酸化セルロースの解繊は機械的解繊によることが好ましい。ここで、酸化CNF(ナノセルロースともいう)は、セルロースをナノ化したものの総称を表し、セルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタル等を含む。
【0070】
機械的解繊の方法としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、二重円筒型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、水流対抗衝突型分散機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー、一軸又は多軸混錬機、自転公転撹拌機、振動型撹拌機等の各種混合・撹拌装置による方法が挙げられる。これらの装置を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用し、好ましくは分散媒中で酸化セルロースを処理することにより、酸化セルロースをナノ化して酸化CNFを製造することができる。
【0071】
酸化セルロースの解繊は、解繊がより進んだ酸化CNFを製造できる点で、超高圧ホモジナイザーによる方法を好ましく用いることができる。超高圧ホモジナイザーによる解繊処理を適用する場合、解繊処理時の圧力は、好ましくは100MPa以上であり、より好ましくは120MPa以上であり、更に好ましくは150MPa以上である。解繊処理回数は特に限定されないが、解繊を十分に進行させる観点から、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上である。また、上記酸化セルロースは、自転公転撹拌機及び振動型撹拌機等による温和な撹拌によっても十分に解繊できる。振動型撹拌機としては、例えば、ボルテックスミキサー(タッチミキサー)が挙げられる。すなわち、上記酸化セルロースによれば、温和な解繊条件により解繊処理を行った場合にも、均一化された酸化CNFを得ることができる。
【0072】
解繊処理は、好ましくは酸化セルロースを分散媒と混合した状態で行われる。当該分散媒としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。分散媒の具体例としては、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキサイド等が挙げられる。溶媒としては、これらのうちの1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0073】
上記分散媒のうち、アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、メチルセロソルブ、エチレングリコール及びグリセリン等が挙げられる。エーテル類としては、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン及びメチルエチルケトン等が挙げられる。
【0074】
解繊処理の際に分散媒として有機溶剤を使用することにより、酸化セルロース及びこれを解繊して得られるナノセルロースの単離が容易となる。また、有機溶剤中に分散したナノセルロースが得られるため、有機溶剤に溶解する樹脂やその樹脂原料モノマー等との混合が容易となる。解繊して得られたナノセルロースを、水及び/又は有機溶剤の分散媒に分散させたナノセルロース分散液は、樹脂やゴム、固体粒子等の各種成分との混合等に使用することができる。
【0075】
<非金属元素、金属元素と非金属元素との無機化合物>
本発明の非焼成セラミックスは、前述のとおり、非金属元素を含み得る。非金属元素としては、例えば、ホウ素、炭素、ケイ素、及びリン等、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。これらの非金属元素は、非金属元素を含む材料として取り扱うことができる。非金属元素を含む材料としては、具体的には、シリコン、ダイヤモンド等が挙げられる。
また、本発明の非焼成セラミックスは、金属元素と非金属元素との無機化合物を含み得る。金属元素と非金属元素との無機化合物とは、金属元素及び非金属元素から構成される。無機化合物としては、酸化物、炭化物、窒化物の態様を含む。
本明細書において、非金属元素、及び、金属元素と非金属元素との無機化合物を総称して無機材料ともいう。
【0076】
本発明の非焼成セラミックスが含む成分としては、非金属元素、上記無機化合物であれば特に制限されないが、金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。すなわち、発明の非焼成セラミックスは、金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。また、金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物は、本発明の非焼成セラミックスを構成する主成分であることが好ましい。
ここで、「金属酸化物、ケイ素化合物、及び窒化物、及びカルシウム化合物が主成分である」とは、本発明の非焼成セラミックス中の金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物のいずれか一種以上の割合が、当該非焼成セラミックス全量に対し、通常50質量%超過であることを指す。上記割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0077】
金属酸化物としては、例えば、酸化銅(CuO)、酸化鉄(Fe23)、酸化コバルト(Co23)、酸化亜鉛(ZnO)、ジルコニア(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化イットリウム(Y23)、酸化マンガン(Mn23)、酸化インジウム(In23)、酸化スズ(SnO2)、アルミナ(Al23)、酸化ランタン(La23)、酸化プラセオジム(Pr23)、酸化ネオジム(Nd23)、酸化サマリウム(Sm23)、酸化ユウロピウム(Eu23)、酸化ガドリニウム(Gd23)、酸化テルビウム(Tb23)、及び酸化ジスプロシウム(Dy23)等が挙げられる。これらは1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。これらの中でも、好ましくは、ZnO、ZrO2、TiO2、MgO、Al23である。
【0078】
ケイ素化合物としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、及び窒化ケイ素(Si34)等を挙げることができる。これらは1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0079】
窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、及び窒化ホウ素(BN)等を挙げることができる。これらは1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0080】
カルシウム化合物としては、例えば、石灰、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト(水酸化リン酸カルシウムともいう)、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)(エーライトともいう)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2)(ビーライトともいう)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al23)(アルミネートともいう)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al23・Fe23)(フェライトともいう)、硫酸カルシウム等を挙げることができる。これらは1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0081】
本発明の非焼成セラミックスが含む無機材料の形状は、特に制限されないが、粒子状であることが好ましい。粒子の大きさは、特に制限されないが、平均粒子径として、好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上5μm以下であり、さらに好ましくは0.08μm以上2μm以下であり、よりさらに好ましくは0.1μm以上1μm以下である。平均粒子径が0.01μm以上10μm以下であることにより、酸化CNFに含まれる官能基が、微粒子と相互作用を形成し、強度を高められるためられる傾向にある。
平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により求められる値であることが好ましい。
【0082】
本発明の非焼成セラミックスにおける酸化CNFの含有量は、好ましくは1質量%以上である。酸化CNFの含有量が1質量%以上であることにより、非焼成セラミックスの弾性率を高められる傾向にある。酸化CNFの含有量は、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは1.8質量%以上、よりさらに好ましくは3質量%以上である。
酸化CNFの含有量の上限値は、通常20質量%以下である。酸化CNFの含有量が20質量%以下であることにより、酸化CNFと無機材料とを混合した際に粘度が高くなることを抑えられる傾向にある。酸化CNFの含有量の上限値は、好ましくは18質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。
【0083】
[非焼成セラミックスの製造方法]
本発明の非焼成セラミックスは、酸化CNF、好ましくは酸化CNF水分散体と無機材料とを混合し構成成分を分散させスラリーを調整し、得られたスラリーを成型機等で成形したものを、必要に応じて乾燥させることにより、製造することができる。乾燥の条件は、配合される成分や用途に応じて適宜調整すればよく、特に制限されないが、通常室温~100℃の条件下で、1分~10日間、乾燥すればよい。
非焼成セラミックスの成形には押出成形や射出成形、加圧成形、鋳込み成形、さらに鋳込み成形を発展させたモールドキャスト成形、テープ成形等の方法があるが特に制限されず、用途や含有する無機化合物に応じて選択すればよい。
【0084】
<非焼成セラミックスの用途>
本発明の非焼成セラミックスの用途は特に制限されない。また、本発明の非焼成セラミックスが含み得る非金属元素や、金属元素と非金属元素との無機化合物は、用途に応じて適宜選択すればよい。非焼成セラミックスの用途としては、例えば、吸着材、人工骨、セメント、及び石膏成形品等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
非焼成セラミックスが吸着材として用いられる場合、非焼成セラミックスは石灰を含むことが好ましい。したがって、本発明の一つは、酸化セルロースナノファイバーと石灰とを含み、吸着材として用いられる、非焼成セラミックスである。
ここで、石灰は、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
また、上記吸着材は、好ましくはフッ素を吸着する吸着材である。
【0086】
非焼成セラミックスが人工骨として用いられる場合、非焼成セラミックスはリン酸カルシウム及び/又はハイドロキシアパタイトを含むことが好ましい。したがって、本発明の一つは、酸化セルロースナノファイバーと、リン酸カルシウム及び/又はハイドロキシアパタイトとを含み、人工骨として用いられる、非焼成セラミックスである。
【0087】
非焼成セラミックスがセメントとして用いられる場合、非焼成セラミックスは、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、及び硫酸カルシウムから選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。したがって、本発明の一つは、酸化セルロースナノファイバーと、ケイ酸三カルシウム(エーライト)、ケイ酸二カルシウム(ビーライト)、カルシウムアルミネート(アルミネート)、カルシウムアルミノフェライト(フェライト)、及び硫酸カルシウムから選択される少なくとも一種を含み、セメントとして用いられる、非焼成セラミックスである。なお、エーライト、ビーライト、アルミネート、及びフェライトは、クリンカーと呼ばれるセメントの原料を焼成して得られる中間物として得てもよい。
【0088】
非焼成セラミックスが石膏成形品である場合、非焼成セラミックスは、硫酸カルシウムを含むことが好ましい。したがって、本発明の一つは、酸化セルロースナノファイバーと、硫酸カルシウムとを含み、石膏成形品として用いられる、非焼成セラミックスである。
石膏成形品としては、石膏を含む成形物であれば特に制限されず、例えば、石膏ボード、石膏型(陶磁器型や鋳造型)、歯科用等の模型等が挙げられる。
【0089】
<非焼成セラミックス強化用組成物>
上述したように、酸化CNFは非焼成セラミックスの強度を強化することができる。すなわち、酸化CNFは非焼成セラミックスの強化のために用いることができる。本発明の一つは、酸化CNFを含む非焼成セラミックス強化用組成物である。酸化CNFの詳細は、上述した<酸化セルロースナノファイバー(酸化CNF)>のとおりである。
本発明の非焼成セラミックス強化用組成物は、酸化セルロースを含む水分散液の態様であってもよい。
【0090】
また、本発明の一つは、本発明の非焼成セラミックス強化用組成物を用いて作製された非焼成セラミックスである。すなわち、本発明の一つは、本発明の非焼成セラミックス強化用組成物を含む非焼成セラミックスである。
【実施例0091】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0092】
<酸化CNFの製造>
〔製造実施例1〕
セルロース系原料として、針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495, bleached kraft pulp)を5mm角にハサミで切断し、大阪ケミカル社製「ワンダーブレンダーWB-1」にて、25,000rpmで1分間処理して、綿状に機械解繊した。
ビーカーに、有効塩素濃度が42質量%である次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を350g入れ、純水を加えて撹拌し、有効塩素濃度を21質量%とした。そこへ、35質量%塩酸を加えて撹拌し、pH11の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た。
前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液を新東科学社製の撹拌機(スリーワンモータ、BL600)にてプロペラ型撹拌羽根を使用して200rpmで撹拌しながら恒温水浴にて30℃に加温した後、セルロース系原料として、針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495, bleached kraft pulp)を綿状に機械解繊したものを50g加えた。
セルロース系原料を供給後、同じ恒温水槽で30℃に保温しながら、48質量%水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを11に調整して、30分間、撹拌機にて同条件で撹拌を行った。
反応終了後、目開き134μmのPTFE製メッシュフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られた酸化セルロースを純水で洗浄した。
酸化セルロースに純水を加え、5%分散液を作製し、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバースト ラボ」にて200MPaで、10パスで処理し、酸化CNF水分散体を得た。
なお、超高圧ホモジナイザーでは、内蔵された超高圧解繊部に酸化セルロース水分散液を循環通液させて解繊を進めた。その解繊部への通液1回分を1パスとする。
【0093】
なお、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は以下の方法により測定した。
(次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度の測定)
次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を純水に加えた水溶液0.582gを精密に量り、純水50mlを加え、ヨウ化カリウム2g及び酢酸10mlを加え、直ちに密栓して暗所に15分間放置した。15分間の放置後、遊離したヨウ素を0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した結果(指示薬 デンプン試液)、滴定量は34.55mlであった。別に空試験を行い補正し、0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液1mlが3.545mgClに相当するので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は21質量%である。
【0094】
酸化セルロースのカルボキシル基量は以下の方法により測定した。
(カルボキシル基量の測定)
酸化セルロースの濃度を0.5質量%に調整した酸化セルロース水分散体60mlに、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いてカルボキシル基量(mmol/g)を算出した。
カルボキシル基量=a(ml)×0.05/酸化セルロースの質量(g)
【0095】
平均繊維長及び平均繊維幅は以下の方法により測定した。
(平均繊維長及び平均繊維幅の測定)
酸化CNF水分散体に純水を加え、酸化CNF水分散体中の酸化CNFの濃度が5ppmになるように調整した。濃度調整後のCNF水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、オックスフォード・アサイラム社製 走査型プローブ顕微鏡「MFP-3D infinity」を用いて、ACモードで酸化CNFの形状観察を行った。
平均繊維長については、得られた画像を画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて二値化し解析を行った。繊維100本以上について、繊維長=「周囲長」÷2として平均繊維長を求めた。
平均繊維幅については、「MFP-3D infinity」に付属されているソフトウェアを用いて、繊維50本以上について、形状像の断面高さ=繊維幅として数平均繊維幅[nm]を求めた。
【0096】
〔製造実施例2〕
15パス処理したこと以外は、製造例1と同じ条件で作製した。
【0097】
〔製造実施例3〕
20パス処理したこと以外は、製造例1と同じ条件で作製した。
【0098】
〔製造実施例4〕
25パス処理したこと以外は、製造例1と同じ条件で作製した。
【0099】
〔製造実施例5〕
セルロース系原料として、製造例1と同じ原料、機械処理条件にて得た綿状の針葉樹パルプ針葉樹パルプを準備した。
TEMPOを0.16g及び臭化ナトリウムを1.0gビーカーに入れ、純水を加えて撹拌して水溶液とし、上記機械解繊した針葉樹クラフトパルプを10.0g加えた。
上記水溶液をスターラーで撹拌しながら恒温水浴にて25℃に加温した後、0.1M水酸化ナトリウムを加えて撹拌し、pH10.0の水溶液とした。そこへ、有効塩素濃度13.2質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液25.8gを加え、同じ恒温水槽で25℃に保温した状態で、0.1M水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを10.0に調整して、120分間スターラーで撹拌を行った。
反応終了後、目開き134μmのPTFE製メッシュフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られた酸化セルロースを純水で洗浄した。
酸化セルロースに純水を加え、0.5%分散液を作製し、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバースト ラボ」にて200MPaで、30パスで処理し、酸化CNF水分散体を得た。これを必要に応じてエバポレーターにて加温濃縮して使用した。
【0100】
〔比較製造例1〕
セルロース系原料として、製造例1と同じ原料、機械処理条件にて得た綿状の針葉樹パルプ針葉樹パルプを水に加えて0.5%水分散液とし、増幸産業製の微粒摩砕機(スーパーマスコロイダー)にて1500rpmで10パス予備解繊した。
その後、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバースト ラボ」にて200MPaで40パス処理し、CNF水分散体を得た。これを必要に応じてエバポレーターにて加温濃縮して使用した。
【0101】
<非焼成セラミックスの製造>
〔実施例1~5、比較例1〕
製造実施例1~5、比較製造例1の酸化CNF水分散体にアルミナ粉末(アドマテック社製「アドマファインAO-502」粒径:0.2μm)を、アルミナ粉末量に対して2または10質量%添加し、シンキー社のミキサー「あわとり練太郎ARE-310」(ミックスモード、公転:2000rpm、自転:800rpm)にて10分間分散することでスラリーを調製し、レオメーター(アントンパール・ジャパン社製「MCR301」、せん断速度:10s-1)にて粘度を測定した。
次に、スラリーを吸水性の素焼き板の上で短冊状の型に充填し、プレス機(神藤金属工業所「上押式単動圧縮ワンサイクル自動成型機 SFA-37」)で湿式加圧成型(1.5MPa,30分)した。その後、60℃で3日間乾燥することで得た試験片(10×60×3mm)を、0.5mm/minの速度で3点曲度試験(インストロン社製「INSTRON 5566A」)を行い、弾性率を評価した。
【0102】
【表1】
【0103】
各CNF水分散体に対してアルミナ粉末を添加したスラリーの粘度を測定した。比較製造例1のCNF(機械解繊のみで作製したCNF)ではアルミナ粉末を添加することで増粘したが、製造実施例1~4の酸化CNF(次亜塩素酸ナトリウムを使用して作製したCNF)はほとんど増粘しないことがわかった。
製造実施例の酸化CNFは、化学処理を施されていることから、分散剤として働いてアルミナ同士の凝集を防ぐと推察した。また、平均繊維長が短いことから増粘が抑えられる傾向が見られた。
次に、アルミナに対してCNFを2又は10%添加し湿式加圧成型した結果、CNFを添加することで良好な試験片が作製できた。良好な試験片(実施例1)についてSEM観察を行った結果、CNFがアルミナ粒子を保持していることが確認できた(図1参照)。
最後に、3点曲げ試験より、最大曲げ強度は機械解繊CNFと同等であるが、製造実施例の酸化CNFを添加することで、曲げ弾性率が高い傾向が明らかとなった。
製造実施例の酸化CNFは繊維幅が小さい(比表面積が大きい)ために、表面の水酸基/カルボン酸イオンが多く、アルミナ表面に析出する水酸基との水素結合が多いこと、また同重量加えた場合に存在するCNFの本数が多いこと、一方で、短繊維長であるためアルミナと緻密なネットワークを形成したことにより、弾性率が高い材料となったと推定した。
【0104】
また、実施例4(次亜塩素酸ナトリウムを使用して作製された酸化CNFを使用)と実施例5(TEMPOを使用して作製された酸化CNFを使用)とを対比すると、次亜塩素酸ナトリウムを使用して作製された酸化CNF(実施例4)の方が、少ない解繊処理で効率的に製造されるものである一方、実施例4と実施例5の非焼成セラミックスはほぼ同等の増粘抑制性及び弾性率を得られる。すなわち、次亜塩素酸又はその塩を用いて製造された酸化CNFを用いることにより、効率良く非焼成セラミックスを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の非焼成セラミックスは、硬くて脆い性質を持つセラミックスに靭性を持たせることができ、人工骨や骨補填材の分野、吸着材の分野、セメントの分野、石膏成形物の分野、及び高分子材料等のコーティング材の分野で産業上の利用可能性を有する。
図1