(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102652
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】開閉制御装置および開閉制御方法
(51)【国際特許分類】
E05F 15/41 20150101AFI20220630BHJP
E05F 15/689 20150101ALI20220630BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
E05F15/41
E05F15/689
B60J1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217509
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】升澤 賢治
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 新一
【テーマコード(参考)】
2E052
3D127
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052BA01
2E052CA06
2E052EA14
2E052EB01
2E052EC01
2E052GA08
2E052GA10
2E052GB06
2E052GB15
2E052GC06
2E052GD03
2E052HA01
3D127AA02
3D127BB01
3D127CB02
3D127DF04
3D127DF35
3D127DF36
3D127FF20
(57)【要約】
【課題】開閉体による物体の挟み込みを高精度に検出すること。
【解決手段】開閉制御装置の挟み込みしきい値設定部は、位置検出部によって検出された開閉体の位置の変化に基づいて、開閉体の速度を算出し、算出された開閉体の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、荷重算出部によって算出された算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、挟み込みしきい値を下げる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動による開閉体の開閉動作を制御する開閉制御装置であって、
前記モータに流れる電流を検出する電流検出部と、
前記モータに供給される電圧を検出する電圧検出部と、
前記モータの回転に基づいて前記開閉体の位置を検出する位置検出部と、
前記電流検出部の検出電流に基づいて、前記開閉体の前記開閉動作における算出荷重を算出する荷重算出部と、
前記荷重算出部によって算出された前記算出荷重の上限を定める挟み込みしきい値を設定する挟み込みしきい値設定部と、
前記荷重算出部によって算出された前記算出荷重が前記挟み込みしきい値によって定められた上限を超える場合、前記開閉体による物体の挟み込みが発生したと判定する挟み込み判定部と、
前記挟み込み判定部によって前記挟み込みが発生したと判定された場合、前記モータの回転を反転させる挟み込み防止制御を行うモータ制御部とを備え、
前記挟み込みしきい値設定部は、
前記位置検出部によって検出された前記開閉体の位置の変化に基づいて、前記開閉体の速度を算出し、
算出された前記開閉体の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、前記荷重算出部によって算出された前記算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、前記挟み込みしきい値を下げる
ことを特徴とする開閉制御装置。
【請求項2】
前記挟み込みしきい値設定部は、
前記開閉体の速度が前記第1しきい値以下であり、且つ、前記荷重算出部によって算出された前記算出荷重の時間的変化が前記第2しきい値以上、前記第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、前記挟み込みしきい値を一定値下げる
ことを特徴とする請求項1に記載の開閉制御装置。
【請求項3】
前記位置検出部は、
前記電流検出部によって検出された電流に含まれているリップルに基づいて、前記開閉体の位置を検出する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の開閉制御装置。
【請求項4】
前記挟み込みしきい値設定部は、
前記開閉体の位置が上端位置の近傍の所定領域内にあることを検知した場合、前記開閉体の位置が前記上端位置に近づくほど大きくなる増分値により、前記挟み込みしきい値を高める
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の開閉制御装置。
【請求項5】
前記挟み込みしきい値設定部は、
前記荷重算出部によって算出された前記算出荷重が直線的に増加していないこと、前記電圧検出部によって検出された前記電圧における電圧変動の発生、および、前記荷重算出部によって算出される前記算出荷重に影響を及ぼす外乱の発生のいずれかを検出した場合、前記挟み込みしきい値を高める
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の開閉制御装置。
【請求項6】
モータの駆動による開閉体の開閉動作を制御する開閉制御装置であって、
前記モータに流れる電流を検出する電流検出部と、
前記モータに供給される電圧を検出する電圧検出部と、
前記モータの回転に基づいて前記開閉体の位置を検出する位置検出部と、
前記電流検出部の検出電流に基づいて、前記開閉体の前記開閉動作における算出荷重を算出する荷重算出部と、
前記荷重算出部によって算出された前記算出荷重の上限を定める挟み込みしきい値を設定する挟み込みしきい値設定部と、
前記荷重算出部によって算出された前記算出荷重が前記挟み込みしきい値によって定められた上限を超える場合、前記開閉体による物体の挟み込みが発生したと判定する挟み込み判定部と、
前記挟み込み判定部によって前記挟み込みが発生したと判定された場合、前記モータの回転を反転させる挟み込み防止制御を行うモータ制御部とを備え、
前記挟み込み判定部は、
前記位置検出部によって検出された前記開閉体の位置の変化に基づいて、前記開閉体の速度を算出し、
算出された前記開閉体の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、前記荷重算出部によって算出された前記算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、前記挟み込みが発生したと判定する
ことを特徴とする開閉制御装置。
【請求項7】
モータの駆動による開閉体の開閉動作を制御する開閉制御方法であって、
前記モータの回転に基づいて前記開閉体の位置を検出する位置検出工程と、
前記モータを流れる電流に基づいて、前記開閉体の前記開閉動作における算出荷重を算出する荷重算出工程と、
前記荷重算出工程において算出された前記算出荷重の上限を定める挟み込みしきい値を設定する挟み込みしきい値設定工程と、
前記荷重算出工程において算出された前記算出荷重が前記挟み込みしきい値によって定められた上限を超える場合、前記開閉体による物体の挟み込みが発生したと判定する挟み込み判定工程と、
前記挟み込み判定工程において前記挟み込みが発生したと判定された場合、前記モータの回転を反転させる挟み込み防止制御を行うモータ制御工程とを含み、
前記挟み込みしきい値設定工程では、
前記位置検出工程において検出された前記開閉体の位置の変化に基づいて、前記開閉体の速度を算出し、
算出された前記開閉体の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、前記荷重算出工程において算出された前記算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、前記挟み込みしきい値を下げる
ことを特徴とする開閉制御方法。
【請求項8】
モータの駆動による開閉体の開閉動作を制御する開閉制御方法であって、
前記モータの回転に基づいて前記開閉体の位置を検出する位置検出工程と、
前記モータを流れる電流に基づいて、前記開閉体の前記開閉動作における算出荷重を算出する荷重算出工程と、
前記荷重算出工程において算出された前記算出荷重の上限を定める挟み込みしきい値を設定する挟み込みしきい値設定工程と、
前記荷重算出工程において算出された前記算出荷重が前記挟み込みしきい値によって定められた上限を超える場合、前記開閉体による物体の挟み込みが発生したと判定する挟み込み判定工程と、
前記挟み込み判定工程において前記挟み込みが発生したと判定された場合、前記モータの回転を反転させる挟み込み防止制御を行うモータ制御工程とを含み、
前記挟み込み判定工程では、
前記位置検出工程において検出された前記開閉体の位置の変化に基づいて、前記開閉体の速度を算出し、
算出された前記開閉体の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、前記荷重算出工程において算出された前記算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、前記挟み込みが発生したと判定する
ことを特徴とする開閉制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉制御装置および開閉制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、モータを流れる電流に基づいて算出された算出荷重が、挟み込みしきい値を超えた場合に、モータの回転を反転させる挟み込み防止制御を行うように構成された開閉制御装置において、算出荷重の変動を引き起こす外乱等を検知した場合に、挟み込みしきい値を高めることにより、開閉体による物体の挟み込みの誤判定を抑制し、モータの回転を誤反転させてしまうことを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明の発明者らは、特許文献1に開示されている技術では、なおも、開閉体による物体の挟み込みを誤判定してしまい、実際には物体の挟み込みが発生しているにも関わらず、モータの回転を反転させない虞があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る開閉制御装置は、モータの駆動による開閉体の開閉動作を制御する開閉制御装置であって、モータに流れる電流を検出する電流検出部と、モータに供給される電圧を検出する電圧検出部と、モータの回転に基づいて開閉体の位置を検出する位置検出部と、電流検出部の検出電流に基づいて、開閉体の開閉動作における算出荷重を算出する荷重算出部と、荷重算出部によって算出された算出荷重の上限を定める挟み込みしきい値を設定する挟み込みしきい値設定部と、荷重算出部によって算出された算出荷重が挟み込みしきい値によって定められた上限を超える場合、開閉体による物体の挟み込みが発生したと判定する挟み込み判定部と、挟み込み判定部によって挟み込みが発生したと判定された場合、モータの回転を反転させる挟み込み防止制御を行うモータ制御部とを備え、挟み込みしきい値設定部は、位置検出部によって検出された開閉体の位置の変化に基づいて、開閉体の速度を算出し、算出された開閉体の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、荷重算出部によって算出された算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、挟み込みしきい値を下げる。
【発明の効果】
【0006】
一実施形態によれば、開閉体による物体の挟み込みを高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る開閉制御装置の構成例を示す概略図
【
図2】一実施形態に係る処理部の機能構成を示すブロック図
【
図3】一実施形態に係る処理部による処理の手順の一例を示すフローチャート
【
図4】一実施形態に係る開閉制御装置が有するステージの一例を示す図
【
図5】一実施形態に係る挟み込みしきい値設定部による低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理の手順の一例を示すフローチャート
【
図6】一実施形態に係る開閉制御装置において、窓による低速挟み込み発生時の各値の変化の一例を示す。
【
図7】一実施形態に係る開閉制御装置において、窓による低速挟み込み発生時の各値の変化の一例を示す。
【
図8】一実施形態に係る開閉制御装置において、窓による低速挟み込み発生時の各値の変化の一例を示す。
【
図9】一実施形態に係る開閉制御装置において、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行わなかった場合、且つ、窓の閉め切り動作時の、各値の変化を示す。
【
図10】一実施形態に係る開閉制御装置において、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行わなかった場合、且つ、窓による低速挟み込み発生時の、各値の変化を示す。
【
図11】一実施形態に係る開閉制御装置において、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行った場合、且つ、窓の閉め切り動作時の、各値の変化を示す。
【
図12】一実施形態に係る開閉制御装置において、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行った場合、且つ、窓による低速挟み込み発生時の、各値の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照し、一実施形態に係る開閉制御装置100について説明する。
【0009】
(開閉制御装置100の構成)
図1は、一実施形態に係る開閉制御装置100の構成の一例を示す図である。一実施形態に係る開閉制御装置100は、モータ6の動作を制御することにより、車両におけるドア2の窓枠4に取り付けられた窓3の開閉動作を制御する装置である。
【0010】
図1に示すように、開閉制御装置100は、モータ駆動回路10、電圧検出部20、電流検出部30、操作部40、処理部50、および記憶部60を備える。
【0011】
モータ駆動回路10は、処理部50から供給される制御信号に応じて、モータ6の駆動用の電圧を生成する。
図1に示す例では、モータ駆動回路10は、フルブリッジ回路を構成する4つのスイッチ素子11~14を有する。スイッチ素子11およびスイッチ素子12は、バッテリ等の電源電圧Vbatとグランドとの間に直列接続され、その接続中点がモータ6の一方の入力端子に接続される。スイッチ素子13およびスイッチ素子14は、電源電圧Vbatとグランドとの間に直列接続され、その接続中点がモータ6の他方の入力端子に接続される。モータ6は、例えばDCモータであり、2つの入力端子に印加される電圧の極性に応じて回転方向が反転する。
【0012】
電圧検出部20は、モータ6に供給される電圧を検出する。
図1に示す例では、電圧検出部20は、増幅部21およびフィルタ部22を有する。増幅部21は、モータ6の2つの入力端子に印加される電圧を所定のゲインで増幅する。フィルタ部22は、増幅部21の出力信号からスイッチング周波数の成分を除去し、モータ6へ供給される平均的な電圧に応じた信号を出力する。電圧検出部20は、AD変換器を備えており、モータ6に供給される電圧に応じたデジタル信号を処理部50に出力する。
【0013】
電流検出部30は、モータ6に流れる電流を検出する。
図1に示す例では、電流検出部30は、シャント抵抗33、増幅部31、およびフィルタ部32を有する。シャント抵抗33は、モータ駆動回路10のフルブリッジ回路(スイッチ素子11~14)とグランドとの間の電流経路に設けられており、モータ6に流れる電流に応じた電圧を生じる。増幅部31は、シャント抵抗33に生じる電圧を所定のゲインで増幅する。フィルタ部32は、増幅部31の出力信号からスイッチング周波数の成分を除去し、モータ6に流れる平均的な電流に応じた信号を出力する。電流検出部30は、AD変換器を備えており、モータ6に流れる電流に応じたデジタル信号を処理部50に出力する。
【0014】
操作部40は、ユーザが窓3の開閉動作を操作するための信号を処理部50へ入力する装置であり、例えばスイッチなどを含んで構成される。
【0015】
処理部50は、電圧検出部20によって検出された電圧と、電流検出部30によって検出された電流とに基づいて、モータ6の動作を制御する。処理部50は、例えば、記憶部60に格納されるプログラムの命令コードに従って処理を実行するコンピュータを含んで構成される。処理部50は、全ての処理をコンピュータにより実行してもよいし、少なくとも一部の処理を専用のハードウェア回路(ランダムロジック等)によって実行してもよい。
【0016】
記憶部60は、処理部50におけるコンピュータのプログラム61や、処理部50の処理に使用される定数データ、処理部50の処理の過程で一時的に保持される変数データなどを記憶する。記憶部60は、例えば、DRAMやSRAM、フラッシュメモリ、ハードディスクなどの記憶装置を含んで構成される。
【0017】
プログラム61は、予め記憶部60に格納されてもよいし、図示しないインターフェース装置を介して他のサーバ等からダウンロードされたものが記憶部60に格納されてもよいし、非一時的な有形の媒体(光ディスク、USBメモリなど)から図示しない読み取り装置によって読み出されたものが記憶部60に格納されてもよい。
【0018】
(処理部50の機能構成)
図2は、一実施形態に係る処理部50の機能構成を示すブロック図である。
図2に示すように、処理部50は、開閉体位置検出部51、荷重算出部52、基準値算出部53、外乱検知部54、挟み込みしきい値設定部55、挟み込み判定部56、およびモータ制御部57を有する。
【0019】
開閉体位置検出部51は、窓3の開閉動作における窓3の位置を検出する。例えば、開閉体位置検出部51は、モータ6が一定の角度回転する毎に、モータ6を流れる電流に発生するリップルに基づいて、窓3の位置を検出する。具体的には、開閉体位置検出部51は、モータ6を流れる電流に発生するリップルを抽出して計数することにより、モータ6の回転量に対応したリップル計数値を、窓3の位置を示す情報として取得する。
【0020】
なお、開閉体位置検出部51は、モータ6が一定の角度だけ回転する度にパルスを発生する装置(ホールセンサ等)が設けられている場合には、そのパルスを計数することにより、モータ6の回転量に対応したパルス計数値を取得してもよい。その他、開閉体位置検出部51は、リミットスイッチなどの機械的な手段、電気抵抗や静電容量を利用した電気的な手段、光の透過や反射を利用した光学的な手段などにより、窓3の位置を検出してもよい。
【0021】
荷重算出部52は、電流検出部30によって検出された電流(以下、「モータ電流Im」と示す)と、電圧検出部20によって検出された電圧(以下、「モータ電圧V」と示す)とに基づいて、窓3の開閉動作における算出荷重Fを算出する。具体的には、荷重算出部52は、下記式(1)により、モータ電流Imに比例する第1荷重成分F1と、モータ電流Imおよびモータ電圧Vに基づいて近似されたモータ6の回転の角加速度に比例する第2荷重成分F2とが合成された算出荷重Fを算出する。
【0022】
【0023】
荷重算出部52は、電流検出部30および電圧検出部20によって所定時間Ts毎に検出されるモータ電流Imおよびモータ電圧Vに基づいて、所定時間Ts毎に算出荷重Fを算出する。式(1)における「n」は、この算出荷重Fの周期的な算出処理における個々の処理サイクルを示す整数である。「n」の値が1つ増えると、処理サイクルの順番が1つ先に進む(時間が所定時間Tsだけ先に進む)。従って、「n」は、所定時間Tsを単位とする時間を表す数値とみなすことができる。以下の説明では、時間を表す数値として「n」を使用する場合がある。
【0024】
第1荷重成分F1(n)は、下記式(2)で表される。
【0025】
【0026】
式(2)において、「Kt」はモータトルク定数[N・m/A]を示し、「L」は単位回転角あたりの窓3の移動量[m/rad]を示す。
【0027】
第2荷重成分F2(n)は、下記式(3)で表される。
【0028】
【0029】
式(3)において、「C」は、第2荷重成分調整パラメータ[N・sec2]を示す。また、「ω(n)」は、n番目の処理サイクルにおける角速度を示し、「ω(n-1)」は、n-1番目の処理サイクルにおける角速度を示す。式(3)において示すように、第2荷重成分F2は、所定時間Tsにおける角速度ωの時間的変化率(角加速度)に比例する。
【0030】
角速度ω(n)は、下記式(4)で表される。
【0031】
【0032】
式(4)において、「Ke」はモータ逆起電力定数[V・sec/rad]を示し、「Rm」はモータ抵抗[Ω]を示す。式(4)において示すように、モータ6の回転の角速度ω(n)は、モータ電流Im(n)及びモータ電圧V(n)に基づいて近似される。
【0033】
基準値算出部53は、荷重算出部52によって算出された算出荷重F(n)の加重平均の結果を基準値B(n)として算出する。例えば、基準値算出部53は、荷重算出部52において新たな算出荷重F(n)が算出される度に、新たな算出荷重F(n)と過去の(最近の)基準値B(n-1)との加重平均(以下、「第1加重平均」と記す場合がある。)の結果を新たな基準値B(n)として算出する。第1加重平均は、重み係数を「M」として、下記式(5)で表される。
【0034】
【0035】
ただし、モータ6の起動初期には、モータ6の起動特性に起因して、算出荷重F(n)に大きな変動が生じる。このような変動を式(5)によって単純に加重平均すると、挟み込みのない状態の算出荷重F(n)に対して基準値B(n)が大きくずれてしまい、挟み込みの判定の誤りが生じ易くなる。そこで、基準値算出部53は、モータ6が起動した後の初期期間において、算出荷重F(n)の値の範囲や変化の傾向に応じて、加重平均の起点となる基準値B(n)を適宜変更する。以下、加重平均の起点となる基準値B(n)を「安定点」と記す場合がある。また、モータ6の起動後に安定点を変更する処理を「安定点検索処理」と記す場合がある。
【0036】
基準値算出部53は、安定点検索処理として、モータ6が起動した後の初期期間における基準値B(n)の範囲を制限する。すなわち、基準値算出部53は、新たな算出荷重F(n)が最大荷重Bmaxを超える場合、新たな基準値B(n)を最大荷重Bmaxに一致させ、新たな算出荷重F(n)が最小荷重Bminより小さい場合は、新たな算出荷重F(n)を最小荷重Bminに一致させる。
【0037】
また、基準値算出部53は、安定点検索処理として、モータ6が起動した後の初期期間において、所定時間p1あたりの算出荷重Fの低下量「F(n-p1)-F(n)」が第1変動しきい値ΔFp1を超える場合、新たな基準値B(n)を新たな算出荷重F(n)に一致させる。
【0038】
更に、基準値算出部53は、安定点検索処理として、モータ6が起動した後の初期期間において、所定時間p3あたりの算出荷重Fの上昇量「F(n)-F(n-p3)」が第2変動しきい値ΔFp3を超える場合、新たな算出荷重F(n)と前回の基準値B(n-1)との加重平均であって、第1加重平均より応答速度が速い加重平均(以下、「第2加重平均」と記す場合がある。)の結果を新たな基準値B(n)として算出する。第2加重平均は、重み係数を「Q」として、下記式(6)で表される。
【0039】
【0040】
第2加重平均(式(6))の重み係数「Q」は、第1加重平均(式(5))の重み係数「M」に比べて小さい。
【0041】
また、基準値算出部53は、算出荷重F(n)と基準値B(n)とが所定時間以上継続して第1範囲内の差を有する場合、新たな基準値B(n)を新たな算出荷重F(n)に一致させる。以下、この処理を「基準値追随処理」と記す場合がある。算出荷重F(n)の変化に対して基準値B(n)の第1加重平均による変化が遅れている場合などにおいて、算出荷重F(n)と基準値B(n)とに定常的な差が生じることがある。基準値追随処理を行うことで、この定常的な差が直ちに解消されるため、挟み込みの判定の誤りが回避され易くなる。
【0042】
第1範囲は、例えば、算出荷重F(n)と基準値B(n)との差「F(n)-B(n)」がしきい値Dmin1より大きく、しきい値Dmaxより小さい範囲である。
【0043】
他方、基準値算出部53は、開閉体位置検出部51において検出された窓3の位置が窓3の全閉位置に近接した所定の範囲内にあるときは、算出荷重F(n)と基準値B(n)とが所定時間以上継続して第2範囲内の差を有する場合に、新たな基準値B(n)を新たな算出荷重F(n)に一致させる。ここで、第2範囲は、算出荷重F(n)が基準値B(n)より小さい条件において、第1範囲よりも拡張されている。
【0044】
第2範囲は、例えば、算出荷重F(n)と基準値B(n)との差「F(n)-B(n)」がしきい値Dmin2より大きく、しきい値Dmaxより小さい範囲である。第2範囲のしきい値Dmin2は、第1範囲のしきい値Dmin1より小さい負の値である。窓3の全閉位置の近くでは、算出荷重F(n)が基準値B(n)より小さい状態での定常的な差を生じる場合があり、第2範囲のしきい値Dmin2は、この定常的な差を含むように設定される。
【0045】
基準値算出部53は、例えば、全閉位置に近接した所定の範囲内においては、上述した第2範囲による基準値追随処理を行い、それ以外の範囲においては、上述した第1範囲による基準値追随処理を行う。
【0046】
基準値算出部53は、新たな算出荷重F(n)と過去の基準値B(n-1)との差「|F(n)-B(n-1)|」が差異しきい値ΔFBより大きく、かつ、所定時間p2あたりの算出荷重Fの変化量「|F(n)-F(n-p2)|」が変化量しきい値ΔFp2より大きい場合、新たな基準値B(n)を過去の基準値B(n-1)に一致させる。すなわち、基準値算出部53は、算出荷重Fが急に変化するとともに算出荷重Fと基準値Bとの差異が急に大きくなった場合、基準値Bの更新を停止することにより、算出荷重Fと基準値Bとの差異を速やかに増大させる。
【0047】
外乱検知部54は、算出荷重F(n)の変動を監視し、算出荷重F(n)の変動量と第1外乱しきい値ΔX1との比較に基づいて、算出荷重F(n)の変動を引き起こす外乱を検知する。
【0048】
外乱検知部54は、最大値保持部541、外乱判定部542、および外乱増分値算出部543を有する。
【0049】
最大値保持部541は、算出荷重Fの最大値Fmax(n-1)を保持する。最大値保持部541は、荷重算出部52において算出された新たな算出荷重F(n)が、保持している最大値Fmax(n-1)より大きい場合、新たな算出荷重F(n)を、最大値Fmax(n-1)として保持する。
【0050】
また、最大値保持部541は、保持されている最大値Fmax(n)を、時間の経過とともに減少させる。例えば、最大値保持部541は、最大値Fmax(n-1)を新たな最大値Fmax(n)として引き続き保持する場合に、新たな最大値Fmax(n)を最大値Fmax(n-1)から固定値Dsだけ減らす。固定値Dsは、車両の特性毎に設定された値である。
【0051】
外乱判定部542は、算出荷重F(n)の変動を引き起こす外乱を判定する。例えば、外乱判定部542は、最大値保持部541によって保持された最大値Fmax(n)からの算出荷重F(n)の変動量「Fmax(n)-F(n)」が、第1外乱しきい値ΔX1より大きい場合、大きい外乱があると判定する。
【0052】
また、例えば、外乱判定部542は、算出荷重F(n)の低下によって、変動量「Fmax(n)-F(n)」が第2外乱しきい値ΔX2を超えることと、算出荷重F(n)の上昇によって、変動量「Fmax(n)-F(n)」が第3外乱しきい値ΔX3を下回ることとが、交互に繰り返された回数を計数し、当該回数が所定数より多くなった場合、小さい外乱があると判定する。但し、ΔX1>ΔX2>ΔX3である。
【0053】
外乱判定部542は、外乱があると判定する毎に、外乱判定状態を一定期間保持する。外乱判定部542は、外乱判定状態においてさらに外乱があると判定した場合、その判定時からさらに一定期間、外乱判定状態を保持する。
【0054】
外乱増分値算出部543は、外乱判定部542において外乱があると判定された場合、最大値Fmax(n)からの算出荷重F(n)の変動量「Fmax(n)-F(n)」に応じた外乱増分値ΔFXを算出する。
【0055】
外乱増分値算出部543は、外乱判定部542によって外乱判定状態が保持されている間、挟み込みしきい値Fthに加算する外乱増分値ΔFXを、最大値Fmax(n)からの算出荷重F(n)の最も大きな変動量「Fmax(n)-F(n)」に応じて更新する。すなわち、外乱増分値算出部543は、外乱判定状態の途中で算出荷重F(n)が大きく低下し、大きな変動量「Fmax(n)-F(n)」が得られた場合、外乱増分値ΔFXをより大きな値に変更する。
【0056】
挟み込みしきい値設定部55は、算出荷重F(n)の上限を定める挟み込みしきい値Fthを設定する。例えば、挟み込みしきい値Fthは、算出荷重F(n)と基準値B(n)との差「F(n)-B(n)」(基準値B(n)に対する算出荷重F(n)の超過量)の許容範囲を定める。この場合、挟み込みしきい値Fthと基準値B(n)との和が、算出荷重F(n)の上限に相当する。
【0057】
挟み込みしきい値設定部55は、モータ6が起動した後の初期期間と、初期期間の後の定常期間とで、挟み込みしきい値Fthのベース値を切り替える。具体的には、挟み込みしきい値設定部55は、初期期間では、挟み込みしきい値Fthのベース値に、起動時用しきい値Fth1を設定し、初期期間の後の期間では、挟み込みしきい値Fthのベース値に、定常時用しきい値Fth2を設定する。起動時用しきい値Fth1は、定常時用しきい値Fth2より大きい。これにより、一実施形態に係る開閉制御装置100は、初期期間における算出荷重F(n)の大きな変動を、物体の挟み込みとして誤判定しないようにすることができる。
【0058】
また、挟み込みしきい値設定部55は、算出荷重F(n)が直線的に増加していないと判断した場合、挟み込みしきい値Fthを最大値(例えば、512[N])まで高める。例えば、モータ6の起動直後においては、算出荷重F(n)の急激な低下を生じる場合がある。この場合、挟み込みしきい値設定部55は、算出荷重F(n)が直線的に増加していないと判断し、挟み込みしきい値Fthを最大値(例えば、512[N])まで高める。これにより、一実施形態に係る開閉制御装置100は、略確実に物体の挟み込みが発生していない窓3の動作であることを捉えることができ、このような窓3の動作の際に、物体の挟み込みを誤判定しないようにすることができる。
【0059】
また、挟み込みしきい値設定部55は、モータ6に供給される電圧における電圧変動の発生を検知した場合、所定の電圧変動ロジックによって算出された増分値により、挟み込みしきい値Fthを高める。例えば、挟み込みしきい値設定部55は、モータ電圧Vが上昇した場合、モータ電圧Vの上昇幅ΔV(n)に応じた増分値ΔFV(n)を、挟み込みしきい値Fthに加算する。増分値ΔFV(n)は、下記式(7)で表される。
【0060】
【0061】
式(7)において、「K1」はモータ電圧Vの上昇幅ΔV(n)に応じた算出荷重F(n)の変動の大きさに関わる定数項である。また「K2」は、モータ電圧Vの上昇幅ΔV(n)がゼロの場合における増分値ΔFV(n)の減衰の速さを定める定数項であり、1より小さい正の数に設定される。定数K2がゼロに近いほど、増分値ΔFV(n)の減衰が速くなる。なお、挟み込みしきい値設定部55は、式(7)の結果が負の場合、増分値ΔFV(n)をゼロに設定する。
【0062】
また、挟み込みしきい値設定部55は、外乱検知部54によって算出荷重F(n)の変動を引き起こす外乱の発生が検知された場合、所定の外乱検出ロジックによって算出された増分値により、挟み込みしきい値Fthを高める。例えば、挟み込みしきい値設定部55は、外乱検知部54において外乱が検知された場合、外乱増分値算出部543によって算出された外乱増分値ΔFX(すなわち、外乱による算出荷重F(n)の変動量に応じた外乱増分値ΔFX)を、挟み込みしきい値Fthに加算する。挟み込みしきい値設定部55は、外乱判定部542において外乱判定状態が保持されている間、挟み込みしきい値Fthへの外乱増分値ΔFXの加算を行い、外乱判定状態が終了すると、外乱増分値ΔFXの加算も終了する。
【0063】
また、挟み込みしきい値設定部55は、窓3の位置が上端位置(全閉位置)の近傍の所定領域内にあることを検知した場合、上端閾値上乗せロジックによって算出された、窓3の位置が全閉位置に近づくほど大きくなる増分値により、挟み込みしきい値Fthを高める。これにより、一実施形態に係る開閉制御装置100は、上端位置の近傍の所定領域内で摺動摩擦が増大した際に、物体の挟み込みとして誤判定してしまうことを抑制することができる。
【0064】
また、挟み込みしきい値設定部55は、
図5に示す一連の挟み込みしきい値調整処理を実行することにより、低速挟み込みの発生を検知した場合、挟み込みしきい値Fthを最低値(例えば、-512[N])まで低める。これにより、一実施形態に係る開閉制御装置100は、直ちに物体の挟み込みが発生したと判定し、モータ6の回転を反転させる挟み込み防止制御を行うことができる。
【0065】
具体的には、挟み込みしきい値設定部55は、開閉体位置検出部51によって検出された窓3の位置の変化に基づいて、窓3の速度を算出する。そして、挟み込みしきい値設定部55は、算出された窓3の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、荷重算出部によって算出された算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、低速挟み込みが発生している状態を検知したものとして、挟み込みしきい値Fthを下げる。
【0066】
特に、本実施形態では、挟み込みしきい値設定部55は、算出された窓3の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、荷重算出部によって算出された算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、挟み込みしきい値Fthを一定値下げる。
【0067】
挟み込み判定部56は、挟み込みしきい値Fthによって設定された上限を算出荷重F(n)が超える場合、窓3による物体の挟み込みが発生したと判定する。例えば、挟み込み判定部56は、算出荷重F(n)と基準値B(n)との差「F(n)-B(n)」が挟み込みしきい値Fthより大きい場合、窓3による物体の挟み込みが発生したと判定する。
【0068】
例えば、挟み込み判定部56は、荷重算出部52において新たな算出荷重F(n)が算出される度に、新たな算出荷重F(n)を含む一連の複数の算出荷重Fに基づいて、算出荷重Fの変化のパターンが所定の単調増加のパターンに該当するか否かを判定する。挟み込み判定部56は、算出荷重F(n)と基準値B(n)との差「F(n)-B(n)」が挟み込みしきい値Fthより大きい第1条件と、算出荷重Fの変化のパターンが単調増加のパターンに該当する第2条件とを満たした場合、挟み込みが発生したと判定する。
【0069】
また、挟み込み判定部56は、所定時間q3あたりの算出荷重Fの増加量「F(n)-F(n-q3)」が、硬い物体の挟み込みの発生基準を示すしきい値ΔFhより大きい場合には、上述した第1条件及び第2条件に加えて、算出荷重Fの変化が加速している第3条件を満たした場合に、挟み込みが発生したと判定する。
【0070】
モータ制御部57は、操作部40において入力される操作信号に応じたモータ6の制御信号を生成し、モータ駆動回路10に出力する。モータ制御部57は、閉動作及び開動作のそれぞれについて予め設定されたモータ6の回転方向や回転速度などの条件を満たすように、モータ駆動回路10へ出力する制御信号を生成する。
【0071】
また、モータ制御部57は、挟み込み判定部56によって物体の挟み込みが発生したと判定された場合、モータ6の回転を反転させる挟み込み防止制御を行う。例えば、モータ制御部57は、閉動作中に挟み込み判定部56において挟み込みが発生したと判定された場合、モータ6を逆転させて開動作を行い、適当な位置で窓3を停止させる。
【0072】
(処理部50による処理の手順の一例)
図3は、一実施形態に係る処理部50による処理の手順の一例を示すフローチャートである。処理部50は、モータ6の駆動中に、
図3に示す一連の処理を繰り返し実行する。
【0073】
まず、開閉体位置検出部51が、モータ6を流れる電流に発生するリップルに基づいて、窓3の開閉動作における窓3の位置を検出する(ステップS301)。
【0074】
次に、処理部50は、ステップS301で検出された窓3の位置が、モータ6の回転を反転させない所定の非反転領域内にあるか否かを判断する(ステップS302)。例えば、所定の非反転領域は、全閉位置から所定の範囲(例えば、4mm)内の領域である。
【0075】
ステップS302において、窓3の位置が所定の非反転領域内にあると判断された場合(ステップS302:Yes)、処理部50は、
図3に示す一連の処理を終了する。
【0076】
一方、ステップS302において、窓3の位置が所定の非反転領域内にないと判断された場合(ステップS302:No)、処理部50は、モータ6の起動時点からの経過時間(「n」の値)に基づいて、
図4に示す第1ステージS1~第4ステージS4の何れにあるかを判定する(ステップS303)。
【0077】
次に、荷重算出部52が、電流検出部30における検出されたモータ電流Im(n)と電圧検出部20において検出されたモータ電圧V(n)とに基づいて、上記式(1)~(4)により算出荷重F(n)を算出する(ステップS304)。
【0078】
次に、基準値算出部53が、ステップS304で算出された算出荷重F(n)の加重平均の結果を基準値B(n)として算出する(ステップS305)。
【0079】
次に、外乱検知部54が、ステップS304で算出された算出荷重F(n)の変動量と第1外乱しきい値ΔX1との比較に基づいて、算出荷重F(n)の変動を引き起こす外乱を検知する(ステップS306)。
【0080】
次に、挟み込みしきい値設定部55が、ステップS304で算出された算出荷重F(n)と、ステップS305で算出された基準値B(n)との差「F(n)-B(n)」の許容範囲を定める挟み込みしきい値Fthを設定する(ステップS307)。この際、挟み込みしきい値設定部55は、算出荷重F(n)が直線的に増加していないこと、電圧変動の発生、および、算出荷重F(n)の変動を引き起こす外乱の発生のいずれかの変動要因を検知した場合、その変動要因に応じた増分値により、挟み込みしきい値Fthを高める。また、この際、挟み込みしきい値設定部55は、窓3の位置が上端位置(全閉位置)の近傍の所定領域内にあることを検知した場合、窓3の位置が全閉位置に近づくほど大きくなる増分値により、挟み込みしきい値Fthを高める。また、この際、挟み込みしきい値設定部55は、
図5に示す一連の挟み込みしきい値調整処理を実行することにより、低速挟み込みの発生を検知した場合、挟み込みしきい値Fthを最低値(例えば、-512[N])まで低める。
【0081】
次に、挟み込み判定部56が、ステップS304で算出された算出荷重F(n)と、ステップS305で算出された基準値B(n)との差「F(n)-B(n)」と、ステップS307で設定された挟み込みしきい値Fthとに基づいて、窓3による物体の挟み込みが発生したか否かを判断する(ステップS308)。
【0082】
ステップS308において、上記差「F(n)-B(n)」が挟み込みしきい値Fthより小さく、窓3による物体の挟み込みが発生していないと判断された場合(ステップS309:No)、処理部50は、
図3に示す一連の処理を終了する。
【0083】
一方、ステップS308において、上記差「F(n)-B(n)」が挟み込みしきい値Fthより大きく、窓3による物体の挟み込みが発生したと判断された場合(ステップS309:Yes)、モータ制御部57が、モータ6の回転を反転させる挟み込み防止制御を行う(ステップS310)。その後、処理部50は、
図3に示す一連の処理を終了する。
【0084】
(ステージの一例)
図4は、一実施形態に係る開閉制御装置100が有するステージの一例を示す図である。
図4に示すように、一実施形態に係る開閉制御装置100は、モータ6の起動時点からの経過時間に応じた4つのステージ(第1ステージS1~第4ステージS4)を有する。
【0085】
図2に示すように、モータ6の回転状態は、第1ステージS1~第3ステージS3では不安定であり、ステージS4では安定する。
【0086】
また、
図2に示すように、開閉制御装置100は、柔らかい物体の挟み込みの判定を第2ステージS2以降で行ない、モータ6の起動直後の第1ステージS1では実施しない。従って、開閉制御装置100は、挟み込みしきい値Fthの設定(増分値の算出等)も第1ステージS1では実施しない。
【0087】
また、
図4に示すように、開閉制御装置100は、モータ6の回転状態が不安定である第2ステージS2~第3ステージS3では、挟み込みしきい値Fthを高めることにより、物体の挟み込みの誤判定を抑制することができる。
【0088】
また、
図4に示すように、開閉制御装置100は、安定点検索処理を第1ステージS1および第2ステージS2において実施し、第3ステージS3以降は実施しない。
【0089】
また、
図4に示すように、開閉制御装置100は、外乱検知処理を第1ステージS1および第2ステージS2において実施せず、第3ステージS3以降で実施する。
【0090】
(低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理の手順)
図5は、一実施形態に係る挟み込みしきい値設定部55による低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0091】
まず、挟み込みしきい値設定部55は、変数countに0を設定する(ステップS501)。次に、挟み込みしきい値設定部55は、定常時であるか否かを判断する(ステップS502)。
【0092】
ステップS502において、定常時ではないと判断された場合(ステップS502:No)、挟み込みしきい値設定部55は、挟み込みしきい値の上乗せ量であるΔFthに0を設定する(ステップS509)。その後、挟み込みしきい値設定部55は、
図5に示す一連の処理を終了する。
【0093】
一方、ステップS502において、定常時であると判断された場合(ステップS502:Yes)、挟み込みしきい値設定部55は、下記第4条件を満たすか否かを判断する(ステップS503)。
【0094】
(第4条件)WP(t-12T)-WP(t)≦LowSpeedWPTh
【0095】
但し、上記第4条件において、WPは、窓位置を示す。また、tは時間を示す。また、Tは、処理周期を示す。また、LowSpeedWPThは、窓3の上昇速度が低速であることを判定するための窓3の変化量を示す所定の定数(単位は[リップルカウント/T])であり、予め制御対象とされる窓3において好適な値が設定される。なお、LowSpeedWPThは、「所定の第1しきい値」に相当するものである。また、第4条件は、「算出された前記開閉体の速度が所定の第1しきい値以下である」ことを判定するための要件である。
【0096】
ステップS503において、第4条件を満たさないと判断された場合(ステップS503:No)、挟み込みしきい値設定部55は、挟み込みしきい値の上乗せ量であるΔFthに0を設定する(ステップS509)。その後、挟み込みしきい値設定部55は、
図5に示す一連の処理を終了する。
【0097】
一方、ステップS503において、第4条件を満たすと判断された場合(ステップS503:Yes)、挟み込みしきい値設定部55は、下記第5条件および下記第6条件の双方を満たすか否かを判断する(ステップS504)。
【0098】
(第5条件)ΔF_lowerlimit≦F(t)-F(t-12T)
(第6条件)F(t)-F(t-12T)≦ΔF_upperlimit
【0099】
但し、上記第5条件および上記第6条件において、Fは、算出荷重を示す。また、tは時間を示す。また、Tは、処理周期を示す。ΔF_lowerlimitおよびΔF_upperlimitは、算出荷重Fの傾きの下限値および上限値を定める所定の定数(単位は[N])であり、予め制御対象とされる窓3において好適な値が設定される。なお、ΔF_upperlimitは、「所定の第2しきい値」に相当し、ΔF_upperlimitは、「所定の第3しきい値」に相当するものである。第5条件は、「荷重算出部によって算出された算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上である状態である」ことを判定するための条件である。、第6条件は、「荷重算出部によって算出された算出荷重の時間的変化が所定の第3しきい値以下である状態である」ことを判定するための要件である。
【0100】
ステップS504において、第5条件および第6条件の少なくともいずれか一方を満たさないと判断された場合(ステップS504:No)、挟み込みしきい値設定部55は、変数countに0を設定する(ステップS506)。そして、挟み込みしきい値設定部55は、挟み込みしきい値の上乗せ量であるΔFthに0を設定する(ステップS509)。その後、挟み込みしきい値設定部55は、
図5に示す一連の処理を終了する。
【0101】
一方、ステップS504において、第5条件および第6条件の双方を満たすと判断された場合(ステップS504:Yes)、変数countに1を加算する(ステップS505)。そして、挟み込みしきい値設定部55は、下記第7条件を満たすか否かを判断する(ステップS507)。
【0102】
(第7条件)count≧InRangeTime
【0103】
但し、上記第7条件において、InRangeTimeは、低速挟み込み検知を確定させる回数を示す所定の定数(単位は[回])であり、予め制御対象とされる窓3において好適な値が設定される。なお、第7条件は、「荷重算出部によって算出された算出荷重の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合である」ことを判定するための要件である。
【0104】
ステップS507において、第7条件を満たさないと判断された場合(ステップS507:No)、挟み込みしきい値設定部55は、ステップS502へ処理を戻す。
【0105】
一方、ステップS507において、第7条件を満たすと判断された場合(ステップS507:Yes)、挟み込みしきい値設定部55は、低速挟み込みを検知したものとして、挟み込みしきい値の上乗せ量であるΔFthに、挟み込みしきい値Fthを低下させるための一定値(例えば、-512[N])を設定する(ステップS508)。その後、挟み込みしきい値設定部55は、
図5に示す一連の処理を終了する。
【0106】
(実施例)
次に、
図6~
図8を参照して、一実施形態に係る開閉制御装置100の実施例を説明する。
図6~
図8は、一実施形態に係る開閉制御装置100において、窓3による低速挟み込み発生時の各値の変化の一例を示す。
【0107】
なお、
図6~
図8において、Aは、算出荷重F(n)を示す。また、Aに重ねて示される菱形のドットは、挟み込みが検出されたことを示す。また、B(一点鎖線)は、判定値(挟み込みしきい値Fthによって定められた上限)を示す。また、Bに重ねて示される円形のドットは、算出荷重の直線性(単調増加)が検出されたことを示す。また、C(破線)は、基準値を示す。また、Dは、実際の挟み込み力を示す。また、
図6において、Fは、電流[A]を示す。また、
図7において、Gは、窓位置[リップルカウント]を示す。また、
図8において、Eは、窓位置の差[リップルカウント]を示す。
【0108】
図6~
図8に示すように、一実施形態に係る開閉制御装置100は、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行うことにより、算出荷重F(n)が徐々に高くなる状態が一定時間経過したタイミングT1において、上記第4条件~第7条件を全て満たしたことにより、挟み込みしきい値Fthを一定値(例えば、-512[N])にまで下げる。その結果、一実施形態に係る開閉制御装置100は、算出荷重F(n)が判定値より大きくなり、窓3による物体の挟み込みが発生したと判断し、挟み込み防止制御を行うことができる。
【0109】
(比較例)
次に、
図9~
図12を参照して、一実施形態に係る開閉制御装置100の比較例を説明する。
【0110】
図9は、一実施形態に係る開閉制御装置100において、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行わなかった場合、且つ、窓3の閉め切り動作時の、各値の変化を示す。
図10は、一実施形態に係る開閉制御装置100において、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行わなかった場合、且つ、窓3による低速挟み込み発生時の、各値の変化を示す。
【0111】
図11は、一実施形態に係る開閉制御装置100において、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行った場合、且つ、窓3の閉め切り動作時の、各値の変化を示す。
図12は、一実施形態に係る開閉制御装置100において、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行った場合、且つ、窓3による低速挟み込み発生時の、各値の変化を示す。
【0112】
なお、
図9~
図12において、Aは、算出荷重F(n)を示す。また、Aに重ねて示される菱形のドットは、挟み込みが検出されたことを示す。また、B(一点鎖線)は、判定値(挟み込みしきい値Fthによって定められた上限)を示す。また、Bに重ねて示される円形のドットは、算出荷重の直線性(単調増加)が検出されたことを示す。また、C(破線)は、基準値を示す。また、Dは、実際の挟み込み力を示す。また、Eは、窓位置の差を示す。
【0113】
図10に示す例では、低速挟み込みが発生しているにも関わらず、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行わなかったため、算出荷重F(n)が判定値より大きくならず、窓3による物体の挟み込みが発生していないと判断され、挟み込み防止制御が行われない。
【0114】
一方、
図12に示す例では、低速挟み込み検知に基づく挟み込みしきい値調整処理を行ったため、算出荷重F(n)が徐々に高くなる状態が一定時間経過したタイミングT1において、上記第4条件~第7条件を全て満たしたことにより、挟み込みしきい値Fthが一定値(例えば、-512[N])にまで下げられ、その結果、算出荷重F(n)が判定値より大きくなり、窓3による物体の挟み込みが発生したと判断され、挟み込み防止制御が行われる。
【0115】
以上説明したように、一実施形態に係る開閉制御装置100は、モータ6の駆動による窓3の開閉動作を制御する開閉制御装置100であって、モータ6に流れる電流を検出する電流検出部30と、モータ6に供給される電圧を検出する電圧検出部20と、モータ6の回転に基づいて窓3の位置を検出する開閉体位置検出部51と、電流検出部30の検出電流に基づいて、窓3の開閉動作における算出荷重F(n)を算出する荷重算出部52と、荷重算出部52によって算出された算出荷重F(n)の上限を定める挟み込みしきい値Fthを設定する挟み込みしきい値設定部55と、荷重算出部52によって算出された算出荷重F(n)が挟み込みしきい値Fthによって定められた上限を超える場合、窓3による物体の挟み込みが発生したと判定する挟み込み判定部56と、挟み込み判定部56によって挟み込みが発生したと判定された場合、モータ6の回転を反転させる挟み込み防止制御を行うモータ制御部57とを備え、挟み込みしきい値設定部55は、開閉体位置検出部51によって検出された窓3の位置の変化に基づいて、窓3の速度を算出し、算出された窓3の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、荷重算出部52によって算出された算出荷重F(n)の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、挟み込みしきい値Fthを下げる。
【0116】
これにより、一実施形態に係る開閉制御装置100は、窓3による物体の低速挟み込みの発生を高精度に検出することができ、当該低速挟み込みの発生を検出した際に、直ちに挟み込み防止制御を行うことができる。
【0117】
一実施形態に係る開閉制御装置100において、挟み込みしきい値設定部55は、窓3の速度が第1しきい値以下であり、且つ、荷重算出部52によって算出された算出荷重F(n)の時間的変化が第2しきい値以上、第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、挟み込みしきい値Fthを一定値下げる。
【0118】
これにより、一実施形態に係る開閉制御装置100は、物体の挟み込みの判定をより高精度に行うことができ、よって、物体の挟み込みの誤判定を抑制することができる。
【0119】
また、一実施形態に係る開閉制御装置100において、挟み込みしきい値設定部55は、窓3の位置が上端位置の近傍の所定領域内にあることを検知した場合、窓3の位置が上端位置に近づくほど大きくなる増分値により、挟み込みしきい値Fthを高める。
【0120】
これにより、一実施形態に係る開閉制御装置100は、窓3の摺動抵抗の増加による算出荷重F(n)の増加に伴う、物体の挟み込みの誤判定を抑制することができる。
【0121】
また、一実施形態に係る開閉制御装置100において、挟み込みしきい値設定部55は、荷重算出部52によって算出された算出荷重F(n)が直線的に増加していないこと、電圧検出部20によって検出された電圧における電圧変動の発生、および、荷重算出部52によって算出される算出荷重F(n)に影響を及ぼす外乱の発生のいずれかを検出した場合、挟み込みしきい値Fthを高める。
【0122】
これにより、一実施形態に係る開閉制御装置100は、算出荷重F(n)の変動に伴う、物体の挟み込みの誤判定を抑制することができる。
【0123】
なお、一実施形態に係る開閉制御装置100において、挟み込み判定部56が、開閉体位置検出部51によって検出された窓3の位置の変化に基づいて、窓3の速度を算出し、算出された窓3の速度が所定の第1しきい値以下であり、且つ、荷重算出部52によって算出された算出荷重F(n)の時間的変化が所定の第2しきい値以上、所定の第3しきい値以下である状態が、一定期間以上継続した場合、挟み込みが発生したと判定してもよい。
【0124】
この場合も、一実施形態に係る開閉制御装置100は、窓3による物体の低速挟み込みの発生を高精度に検出することができ、当該低速挟み込みの発生を検出した際に、直ちに挟み込み防止制御を行うことができる。
【0125】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0126】
2 ドア
3 窓
4 窓枠
6 モータ
10 モータ駆動回路
11~14 スイッチ素子
20 電圧検出部
21 増幅部
22 フィルタ部
30 電流検出部
31 増幅部
32 フィルタ部
33 シャント抵抗
40 操作部
50 処理部
51 開閉体位置検出部
52 荷重算出部
53 基準値算出部
54 外乱検知部
541 最大値保持部
542 外乱判定部
543 外乱増分値算出部
55 挟み込みしきい値設定部
56 挟み込み判定部
57 モータ制御部
60 記憶部
61 プログラム
100 開閉制御装置