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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102661
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】交流電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20220630BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217527
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】服部 文哉
(72)【発明者】
【氏名】小羽根 淳志
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA02
5H770DA11
5H770DA17
5H770DA44
5H770EA30
5H770JA11Y
5H770JA13Y
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】比較的軽負荷の場合であっても、スイッチング素子の損失の増大を抑制することが可能な交流電源装置を提供する。
【解決手段】交流電源装置(1a)は、スイッチング素子(トランジスタQ1及びQ2それぞれ)を含むアームが2つ直列に接続されて両端に直流電圧が印加されるレグを備え、前記直流電圧を交流電圧に変換する。交流電源装置は、2つの前記アームの接続点に対して一端が接続されたインダクタ(L1)と、該インダクタの他端の電位を前記レグの一端及び他端それぞれの電位にクランプする2つのダイオード(D1及びD2)と、前記インダクタの他端に対して一端が接続されており、他端が所定の電位に接続されたキャパシタ(C1)とを備え、前記インダクタ及び前記キャパシタによる共振周波数は、前記スイッチング素子のオン/オフ周波数の3倍より高い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を含むアームが2つ直列に接続されて両端に直流電圧が印加されるレグを備え、前記直流電圧を交流電圧に変換する交流電源装置であって、
2つの前記アームの接続点に対して一端が接続されたインダクタと、
該インダクタの他端の電位を前記レグの一端及び他端それぞれの電位にクランプする2つのダイオードと、
前記インダクタの他端に対して一端が接続されており、他端が所定の電位に接続されたキャパシタと
を備え、
前記インダクタ及び前記キャパシタによる共振周波数は、前記スイッチング素子のオン/オフ周波数の3倍より高い交流電源装置。
【請求項2】
前記レグ、前記インダクタ、前記2つのダイオード及び前記キャパシタの組を2組備える請求項1に記載の交流電源装置。
【請求項3】
一方のレグのハイサイドのアームに含まれるスイッチング素子及び他方のレグのロウサイドのアームに含まれるスイッチング素子がオン/オフする位相を互いにシフトさせることにより、出力する交流電力を制御する制御部を更に備える
請求項2に記載の交流電源装置。
【請求項4】
一の前記インダクタより後段に、前記スイッチング素子のオン/オフ周波数に共振する直列共振回路を更に備える
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の交流電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力を交流電力に変換する交流電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハーフブリッジ又はフルブリッジのD級アンプを用いた交流電源装置が知られている。ハーフブリッジのD級アンプは、ハイサイド及びロウサイドのスイッチング素子を交互にオンすることによって矩形波電圧を出力する。フルブリッジのD級アンプは、一方のレグのハイサイドのスイッチング素子と他方のレグのロウサイドのスイッチング素子とを同時的にオンする制御を2つのレグの組み合わせについて交互に繰り返すことによって矩形波電圧を出力する。これらのハーフブリッジ又はフルブリッジの出力に共振回路を設け、該共振回路を介して出力電圧を負荷に印加することにより、正弦波に近い交流電力を負荷に供給する交流電源装置が提供される。
【0003】
D級アンプには、出力側に接続される回路を誘導性にすることにより、ゼロ電圧スイッチング(ZVS=Zero Voltage Switching )を可能とするものがある。ZVSは、スイッチング素子がオフからオンに遷移する前に、該スイッチング素子の出力の静電容量を0V近くまで放電させて、オン時のスイッチング損失を低減するものである。特に出力側の共振回路の状態にタイミングを合わせてスイッチング素子をオン/オフするものはE級増幅器と呼ばれる。
【0004】
一方、D級アンプの負荷に例えば不整合が生じて出力側から大きな還流電流が流れた場合に、スイッチング素子が損傷することがある。これに対し、特許文献1には、インバータ回路の出力側に接続された2つの高周波フィルタの中間点にダイオードのクランプ回路を設けることにより、該中間点の電位を電源の両端の電位にクランプするE級増幅器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-519340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術の適用の有無にかかわらず、D級アンプの負荷が比較的軽くなった場合にゼロ電圧スイッチングが成立しなくなり、スイッチング素子の損失が増大するという問題があった。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、比較的軽負荷の場合であっても、スイッチング素子の損失の増大を抑制することが可能な交流電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る交流電源装置は、スイッチング素子を含むアームが2つ直列に接続されて両端に直流電圧が印加されるレグを備え、前記直流電圧を交流電圧に変換する交流電源装置であって、2つの前記アームの接続点に対して一端が接続されたインダクタと、該インダクタの他端の電位を前記レグの一端及び他端それぞれの電位にクランプする2つのダイオードと、前記インダクタの他端に対して一端が接続されており、他端が所定の電位に接続されたキャパシタとを備え、前記インダクタ及び前記キャパシタによる共振周波数は、前記スイッチング素子のオン/オフ周波数の3倍より高い。
【0009】
本態様にあっては、両端に直流電圧が印加されるレグにおける2つのアームの接続点にインダクタの一端が接続されており、該インダクタの他端とレグの一端及び他端との間にそれぞれクランプダイオードが接続されている。更に、インダクタの他端と所定の電位との間にキャパシタが接続されている。インダクタとキャパシタとの共振周波数は、スイッチング素子のオン/オフ周波数の3倍より高い。即ち、キャパシタはスイッチング周波数の高調波の抑止を目的とするものではない。上述の構成により、各スイッチング素子がオフからオンに遷移する前に、インダクタを介して流れる還流電流を確保して、該スイッチング素子の出力の静電容量をより多く放電させることができる。
【0010】
本発明の一態様に係る交流電源装置は、前記レグ、前記インダクタ、前記2つのダイオード及び前記キャパシタの組を2組備える。
【0011】
本態様にあっては、2つのレグが同様の構成であるため、ハーフブリッジの場合と同様に、各スイッチング素子がオフからオンに遷移する前に、インダクタを介して流れる還流電流を確保して、該スイッチング素子の出力の静電容量をより多く放電させることができる。
【0012】
本発明の一態様に係る交流電源装置は、一方のレグのハイサイドのアームに含まれるスイッチング素子及び他方のレグのロウサイドのアームに含まれるスイッチング素子がオン/オフする位相を互いにシフトさせることにより、出力する交流電力を制御する制御部を更に備える。
【0013】
本態様にあっては、フルブリッジ回路の一方のレグ及び他方のレグの斜めに対向するアームに含まれるスイッチング素子がオン/オフする位相をシフトさせて出力電力を制御する。この構成にて出力電力を低下させた場合であっても、各スイッチング素子がオフからオンに遷移する前に、インダクタを介して流れる還流電流を確保して、該スイッチング素子の出力の静電容量をより多く放電させることができる。
【0014】
本発明の一態様に係る交流電源装置は、一の前記インダクタより後段に、前記スイッチング素子のオン/オフ周波数に共振する直列共振回路を更に備える。
【0015】
本態様にあっては、後段の直列共振回路がスイッチング周波数に共振するため、出力の高調波を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比較的軽負荷の場合であっても、スイッチング素子の損失の増大を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態1に係る交流電源装置の構成例を示す回路図である。
図2】実施形態1に係る交流電源装置のモード遷移図である。
図3】実施形態1に係る交流電源装置におけるスイッチング波形をシミュレーションして比較した波形図である。
図4】実施形態2に係る交流電源装置の構成例を示す回路図である。
図5】実施形態2に係る交流電源装置のモード遷移図である。
図6】実施形態2に係る交流電源装置におけるスイッチング波形をシミュレーションして比較した第1の波形図である。
図7】実施形態2に係る交流電源装置におけるスイッチング波形をシミュレーションして比較した第2の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る交流電源装置1aの構成例を示す回路図である。交流電源装置1aは、例えばプラズマ処理装置に交流電力を供給するものである。交流電源装置1aは、トランジスタQ1及びQ2それぞれを含むアームが2つ直列に接続されたレグを備えるハーフブリッジのD級アンプである。レグの両端には、直流電源DC1から直流電圧が印加される。
【0019】
交流電源装置1aは、トランジスタQ1及びQ2の接続点に一端が接続されたインダクタL1と、該インダクタL1の他端にアノード及びカソードがそれぞれ接続されたダイオードD1及びD2と、ダイオードD2の両端に並列接続されたキャパシタC1とを更に備える。ダイオードD1のカソードはレグのプラス側の一端に接続されている。ダイオードD2のアノードは、レグの他端に接続されている。即ち、ダイオードD1は、インダクタL1の他端の電位をレグの一端の電位にクランプするものである。ダイオードD2は、インダクタL1の他端の電位をレグの他端の電位にクランプするものである。レグの他端は共通電位になっている。
【0020】
なお、キャパシタC1は、一端をインダクタL1の他端に接続し、他端を任意の電位に接続した場合であっても、交流的には図1の場合と等価である。具体的には、キャパシタC1の他端をダイオードD1のカソードに接続してもよい。また、キャパシタC1を2つのキャパシタに容量分割し、一方をダイオードD1に並列接続し、他方をダイオードD2に並列接続してもよい。
【0021】
ダイオードD1およびD2の接続点は、インダクタLr及びキャパシタCrによる直列共振回路を介してトランスT1の一次巻線の一端に接続されている。該一次巻線の他端は共通電位に接続されている。インダクタLr及びキャパシタCrの共振周波数は、トランジスタQ1及びQ2のスイッチング周波数と略等しい。トランスT1の二次巻線からは、インダクタLf及びキャパシタCfによるローパスフィルタを介して負荷Ldに交流電力が供給されるようになっている。
【0022】
トランジスタQ1及びQ2は例えばFET(Field Effect Transistor )であるが、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )、HEMT(High Electron Mobility Transistor )等の他のスイッチング素子であってもよい。トランジスタQ1及びQ2がIGBT又はHEMTである場合、各IGBT又はHEMTには外付けのダイオードを逆並列に接続しておくことが好ましい。トランジスタQ1はドレインが直流電源DC1に接続されており、ソースがトランジスタQ2のドレイン及びインダクタL1の一端に接続されている。トランジスタQ2のソースは共通電位に接続されている。
【0023】
トランジスタQ1及びQ2それぞれのゲートには、制御部10aによってデューティが制御される信号源S11及びS12が接続されている。信号源S11及びS12は、トランジスタQ1及びQ2を互いに逆位相でオン/オフさせる信号を出力する。
【0024】
上述の構成において、2つのアームの接続点であるトランジスタQ1及びQ2の接続点から矩形波状の交流電圧が出力される。この交流電圧は、インダクタLr及びキャパシタCrによる共振回路と、インダクタLf及びキャパシタCfによるローパスフィルタとによって高調波が抑制されるため、負荷Ldに略正弦波状の交流電圧が印加される。
【0025】
本実施形態1では、交流電圧の周波数が3.2MHzであるが、これに限定されるものではなく、例えば13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz等の工業用のRF(Radio Frequency )帯の周波数であってもよい。
【0026】
インダクタL1及びキャパシタC1は、見かけ上ローパスフィルタを構成するが、これらの共振周波数、即ちローパスフィルタとしてのカットオフ周波数は、上記交流電圧の周波数の3倍より高くしてある。即ち、他端にキャパシタC1が接続されたインダクタL1は、該他端より後段の回路に対して、上記交流電圧の周波数では概ね誘導性素子として振る舞う。一方、インダクタL1の他端より後段に接続される回路は、上記交流電圧の周波数にて略50Ωの抵抗となるようにしてある。従って、上記交流電圧の周波数にてトランジスタQ1及びQ2に対して接続される回路はインダクタL1の作用によって誘導性と見做せる。
【0027】
トランジスタQ1及びQ2に対して接続される回路が誘導性の場合、条件が整えば、公知の技術によって、トランジスタQ1及びQ2をゼロ電圧スイッチング(ZVS)させることができる。これは、トランジスタQ1及びQ2がオフからオンに遷移する前に、それぞれのトランジスタの出力の静電容量(図1では不図示)を0V近くまで放電させておくことにより、オン時のスイッチング損失を低減する技術である。
【0028】
しかしながら、交流電源装置1aが出力する交流電力が比較的小さい場合、インダクタL1に流れる電流が相対的に小さくなり、トランジスタQ1及びQ2がオフからオンに遷移する前に上記の静電容量を十分に放電させることができなくなってZVSが成立しなくなる。本実施形態1では、ダイオードD1及びD2とキャパシタC1とを備えることにより、交流電源装置1aが出力する交流電力が比較的小さい場合であっても、トランジスタQ1及びQ2をゼロ電圧スイッチングさせることができる。以下では、トランジスタQ1及びQ2のデューティ比が比較的小さいか、又は負荷Ldの抵抗値が50Ωより大きいために、交流電源装置1aの出力電力が比較的小さい場合について説明する。
【0029】
図2は、実施形態1に係る交流電源装置1aのモード遷移図である。図2では、トランジスタQ1及びQ2のオン/オフ状態の遷移に応じて、交流電源装置1aの状態をモード1からモード6までの6つのモードに分けて記載する。各モードにおける交流電源装置1aの構成のうち、インダクタLr及びキャパシタCrと、信号源S11及びS12と、制御部10aとの図示を省略する。交流電源装置1aは、図中の白抜き矢印の方向にモード遷移を繰り返す。
【0030】
トランジスタQ1及びQ2それぞれのドレイン・ソース間には、静電容量Cd1及びCd2が接続されているものとする。各トランジスタは、オン状態にあるものを「オン」と表記する。オフ状態にあるものは状態を表記しない。図中の破線は直流電源DC1との間で流れる電流を表し、一点鎖線は直流電源DC1に対して流れることがない還流電流を表す。ここでは説明の都合により、モード6の状態を起点として説明する。
【0031】
モード6は、トランジスタQ1がオフからオンに遷移する間及びオンに遷移した直後の状態である。モード6では、トランジスタQ1がオンすることにより、インダクタL1に対し、直流電源DC1からトランジスタQ1及びキャパシタC1を介して電流が流れ始める。これにより、キャパシタC1が徐々に充電される。即ち、キャパシタC1が存在することによって、インダクタL1に電流を流すことができる。静電容量Cd2は、モード5にて充電しきれなかった分だけ、直流電源DC1からトランジスタQ1を介して流れ始めた電流によって急速に充電される。また、静電容量Cd1は、モード5にて放電しきれなかった分だけ、トランジスタQ1がオフからオンに遷移することによって急速に放電する。静電容量Cd2の充電電流及び静電容量Cd1の放電電流がトランジスタQ1の損失となる。本実施形態1では、これらによる損失が最小限に抑えられる。
【0032】
その後、キャパシタC1の充電と、静電容量Cd2の充電と、静電容量Cd1の放電とが完了した場合、交流電源装置1aはモード1に遷移する。モード1では、インダクタL1を流れる電流が、ダイオードD1及びトランジスタQ1を介して流れ続ける還流電流となる。即ち、ダイオードD1が存在することによって、インダクタL1を流れる電流が保持される。キャパシタC1及び静電容量Cd2は、直流電源DC1の電圧に充電されている。
【0033】
その後、トランジスタQ1がオフした場合、交流電源装置1aはモード2に遷移する。モード2では、インダクタL1を流れる電流は、一部が静電容量Cd2及びダイオードD1を介して直流電源DC1に流れる電流となる。これにより、静電容量Cd2が徐々に放電する。静電容量Cd2は、トランジスタQ2の不図示の寄生ダイオードが導通するまで放電し得る。インダクタL1を流れる電流の他の一部は、ダイオードD1及び静電容量Cd1を流れる還流電流となる。これにより、静電容量Cd1が徐々に充電する。即ち、モード2にあっても、ダイオードD1が存在することによって、インダクタL1を流れる電流が保持される。更に、次のモード3にてトランジスタQ2がオンする前に、静電容量Cd2が放電して両端電圧が低下する。キャパシタC1は、依然として直流電源DC1の電圧に充電されている。
【0034】
その後、トランジスタQ2がオンした場合、交流電源装置1aはモード3に遷移する。モード3は、トランジスタQ2がオフからオンに遷移する間及びオンに遷移した直後の状態である。モード3では、トランジスタQ2がオンすることにより、インダクタL1に対し、キャパシタC1の電圧が印加されて、モード2の場合とは逆向きの電流が流れ始める。これにより、キャパシタC1が徐々に放電する。即ち、キャパシタC1が存在することによって、インダクタL1に電流を流すことができる。静電容量Cd2は、モード2にて放電しきれなかった分だけ、トランジスタQ2がオフからオンに遷移することによって急速に放電する。また、静電容量Cd1は、モード2にて充電しきれなかった分だけ、直流電源DC1からトランジスタQ2を介して流れ始めた電流によって急速に充電される。静電容量Cd2の放電電流及び静電容量Cd1の充電電流がトランジスタQ2の損失となる。本実施形態1では、これらによる損失が最小限に抑えられる。
【0035】
その後、キャパシタC1の放電と、静電容量Cd2の放電と、静電容量Cd1の充電とが完了した場合、交流電源装置1aはモード4に遷移する。モード4では、インダクタL1を流れる電流が、ダイオードD2及びトランジスタQ2を介して流れ続ける電流となる。即ち、ダイオードD2が存在することによって、インダクタL1を流れる電流が保持される。静電容量Cd1は、直流電源DC1の電圧に充電されている。
【0036】
その後、トランジスタQ2がオフした場合、交流電源装置1aはモード5に遷移する。モード5では、インダクタL1を流れる電流は、一部が静電容量Cd1及びダイオードD2を介して直流電源DC1に流れる電流となる。これにより、静電容量Cd1が徐々に放電する。静電容量Cd1は、トランジスタQ1の不図示の寄生ダイオードが導通するまで放電し得る。インダクタL1を流れる電流の他の一部は、ダイオードD2及び静電容量Cd2を流れる還流電流となる。これにより、静電容量Cd2が徐々に充電される。即ち、モード5にあっても、ダイオードD2が存在することによって、インダクタL1を流れる電流が保持される。更に、次のモード6にてトランジスタQ1がオンする前に、静電容量Cd1が放電して両端電圧が低下する。
【0037】
以上の図2を用いた説明により、トランジスタQ1及びQ2それぞれがオンするときの損失が、インダクタL1とダイオードD1及びD2とキャパシタC1とによって低減されることが明らかとなった。ここで、トランジスタQ1及びQ2のデューティ比を0.5に固定し、負荷Ldの抵抗値を50Ωより十分大きくした低出力の場合に、キャパシタC1の有無によってトランジスタQ1及びQ2のスイッチング波形がどのように変わるかをシミュレーションした結果について説明する。
【0038】
図3は、実施形態1に係る交流電源装置1aにおけるスイッチング波形をシミュレーションして比較した波形図である。図3Aでは、キャパシタC1がない場合について、上段にトランジスタQ1のドレイン・ソース間のスイッチング電圧を示し、下段にインダクタL1の他端の電圧を示す。図3Bでは、キャパシタC1がある場合について、上段にトランジスタQ1のドレイン・ソース間のスイッチング電圧を示し、下段にインダクタL1の他端の電圧を示す。何れの波形図にあっても、横軸は時間(μs)を表し、縦軸は電圧(V)を表す。トランジスタQ2のスイッチング電圧の波形については、図3A及び3Bの上段に示す波形よりも半周期遅れたものとなる。
【0039】
図3Aの上段の図によれば、トランジスタQ1は、スイッチング電圧が低下しきらないうちにオンしており、スイッチング損失が生じている。一方、図3Bの上段の図によれば、トランジスタQ1は、スイッチング電圧が低下しきった後にオンしており、スイッチング損失が生じていない。図3A及び図3Bそれぞれの下段に示すように、キャパシタC1がない場合とある場合とでインダクタL1の他端の電圧波形に大きな違いは見られない。
【0040】
以上のように本実施形態1によれば、両端に直流電圧が印加されるレグにおける2つのアームの接続点にインダクタL1の一端が接続されており、インダクタL1の他端とレグの一端及び他端との間に電圧クランプのためのダイオードD1及びD2が接続されている。更に、インダクタL1の他端と共通電位との間にキャパシタC1が接続されている。インダクタL1とキャパシタC1との共振周波数は、トランジスタQ1及びQ2のオン/オフ周波数の3倍より高い。即ち、キャパシタC1はスイッチング周波数の高調波の抑止を目的とするものではない。この構成により、トランジスタQ1及びQ2がオフからオンに遷移する前に、インダクタL1を介して流れる環流電流を確保して、トランジスタQ1及びQ2それぞれの出力の静電容量Cd1及びCd2をより多く放電させることができる。従って、比較的軽負荷の場合であっても、トランジスタQ1及びQ2であるスイッチング素子の損失の増大を抑制することが可能となる。
【0041】
また、実施形態1によれば、インダクタLr及びキャパシタCrによる共振回路がトランジスタQ1及びQ2のスイッチング周波数に共振するため、出力の高調波を抑制することができる。
【0042】
(実施形態2)
実施形態1は、D級アンプがアームを2つ直列に接続したレグを1つ備えるハーフブリッジの形態であるのに対し、実施形態2は、D級アンプがレグを2つ備えるフルブリッジの形態である。2つのレグの両端は、何れも直流電源DC1に接続されている。
【0043】
図4は、実施形態2に係る交流電源装置1bの構成例を示す回路図である。交流電源装置1aは、実施形態1の交流電源装置1aの構成に加えて、トランジスタQ3及びQ4それぞれを含むアームが2つ直列に接続された他のレグと、トランジスタQ3及びQ4の接続点に一端が接続されたインダクタL2と、該インダクタL2の他端にアノード及びカソードがそれぞれ接続されたダイオードD3およびD4と、ダイオードD4の両端に並列接続されたキャパシタC2とを更に備える。
【0044】
ダイオードD3のカソードは各レグのプラス側の一端に接続されている。ダイオードD4のアノードは各レグの他端に接続されている。即ち、ダイオードD3及びD4それぞれは、インダクタL2の他端の電位を各レグの一端及び他端の電位にクランプするものである。ダイオードD3およびD4の接続点は、トランスT1の一次巻線の他端に接続されている。
【0045】
トランジスタQ3はドレインが直流電源DC1に接続されており、ソースがトランジスタQ4のドレイン及びインダクタL2の一端に接続されている。トランジスタQ4のソースは共通電位に接続されている。トランジスタQ1、Q2、Q3及びQ4それぞれのゲートには、制御部10bによって位相が制御される信号源S21、S22、S23及びS24が接続されている。その他、実施形態1に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0046】
信号源S21及びS22それぞれは、トランジスタQ1及びQ2を互いに逆位相でオン/オフさせる信号を出力する。信号源S23及びS24それぞれは、トランジスタQ3及びQ4を互いに逆位相でオン/オフさせる信号を出力する。制御部10bは、トランジスタQ1及びQ4それぞれがオン/オフする位相が互いにシフトするように信号源S21及びS24の位相を制御し、且つ、トランジスタQ2及びQ3それぞれがオン/オフする位相が互いにシフトするように信号源S22及びS23の位相を制御する。これにより、交流電源装置1bが出力する交流電力の大きさが制御される。即ち、交流電源装置1bは、いわゆる位相シフト方式のフルブリッジ型電源装置である。
【0047】
交流電源装置1bは、トランジスタQ1及びQ4が同時にオンする時間が短く、且つトランジスタQ2及びQ3が同時にオンする時間が短くなるほど、出力電力が低下する。出力電力が最小に近い場合、トランジスタQ1及びQ3が略同相でオン/オフし、トランジスタQ2及びQ4が略同相でオン/オフする。このような場合であっても、トランジスタQ1、Q2、Q3及びQ4がオフからオンに遷移する前に、これらのトランジスタの出力の静電容量を十分に放電させることが可能である。以下では、交流電源装置1bの出力電力が最小に近い場合を例にして説明する。
【0048】
図5は、実施形態2に係る交流電源装置1bのモード遷移図である。図5では、トランジスタQ1、Q2、Q3及びQ4のオン/オフ状態の遷移に応じて、交流電源装置1bの状態をモード1からモード6までの6つのモードに分けて記載する。各モードにおける交流電源装置1bの構成のうち、インダクタLr及びキャパシタCrと、信号源S21、S22、S23及びS24と、制御部10bとの図示を省略する。交流電源装置1bは、図中の白抜き矢印の方向にモード遷移を繰り返す。
【0049】
トランジスタQ1、Q2、Q3及びQ4それぞれのドレイン・ソース間には、静電容量Cd1、Cd2、Cd3及びCd4が接続されているものとする。各トランジスタは、オン状態にあるものを「オン」と表記する。オフ状態にあるものは状態を表記しない。図中の破線は直流電源DC1との間で流れる電流を表し、一点鎖線は直流電源DC1に対して流れることがない還流電流を表す。
【0050】
各モードにてトランジスタQ1及びQ2と、静電容量Cd1及びCd2と、ダイオードD1及びD2と、キャパシタC1とについて流れる電流は、実施形態1の図2に示すものと全く同様であるため、図面が煩雑となることを避けるために図示を省略する。即ち、図5には、各モードにてトランジスタQ3及びQ4と、静電容量Cd3及びCd4と、ダイオードD3及びD4と、キャパシタC2とについて流れる電流を表示する。これらの電流は、図2に示す電流と相似であるため、符号を置き換えるだけで図2と同様に説明される。よって、説明の一部を簡略化する。ここでもモード6の状態を起点として説明する。
【0051】
モード6では、トランジスタQ3がオンすることにより、インダクタL2に対し、直流電源DC1からトランジスタQ3及びキャパシタC2を介して電流が流れ始める。これにより、キャパシタC2が徐々に充電される。即ち、キャパシタC2が存在することによって、インダクタL2に電流を流すことができる。静電容量Cd4は、モード5にて充電しきれなかった分だけ、直流電源DC1からトランジスタQ3を介して流れ始めた電流によって急速に充電される。また、静電容量Cd3は、モード5にて放電しきれなかった分だけ、トランジスタQ3がオフからオンに遷移することによって急速に放電する。静電容量Cd4の充電電流及び静電容量Cd3の放電電流がトランジスタQ3の損失となる。本実施形態2では、これらによる損失が最小限に抑えられる。
【0052】
その後、キャパシタC2の充電と、静電容量Cd4の充電と、静電容量Cd3の放電とが完了した場合、交流電源装置1bはモード1に遷移する。モード1では、インダクタL2を流れる電流が、ダイオードD3及びトランジスタQ3を介して流れ続ける電流となる。即ち、ダイオードD3が存在することによって、インダクタL2を流れる電流が保持される。
【0053】
その後、トランジスタQ3がオフした場合、交流電源装置1bはモード2に遷移する。モード2では、インダクタL2を流れる電流は、一部が静電容量Cd4及びダイオードD3を介して直流電源DC1に流れる電流となる。これにより、静電容量Cd4が徐々に放電する。インダクタL2を流れる電流の他の一部は、ダイオードD3及び静電容量Cd3を流れる電流となる。これにより、静電容量Cd3が徐々に充電される。即ち、モード2にあっても、ダイオードD3が存在することによって、インダクタL2を流れる電流が保持される。更に、次のモード3にてトランジスタQ4がオンする前に、静電容量Cd4が放電して両端電圧が低下する。
【0054】
その後、トランジスタQ4がオンした場合、交流電源装置1bはモード3に遷移する。モード3では、トランジスタQ4がオンすることにより、インダクタL2に対し、キャパシタC2の電圧が印加されて、モード2の場合とは逆向きの電流が流れ始める。これにより、キャパシタC2が徐々に放電する。即ち、キャパシタC2が存在することによって、インダクタL2に電流を流すことができる。静電容量Cd4は、モード2にて放電しきれなかった分だけ、トランジスタQ4がオフからオンに遷移することによって急速に放電する。また、静電容量Cd3は、モード2にて充電しきれなかった分だけ、直流電源DC1からトランジスタQ4を介して流れ始めた電流によって急速に充電される。静電容量Cd4の放電電流及び静電容量Cd3の充電電流がトランジスタQ4の損失となる。本実施形態2では、これらによる損失が最小限に抑えられる。
【0055】
その後、キャパシタC2の放電と、静電容量Cd4の放電と、静電容量Cd3の充電とが完了した場合、交流電源装置1bはモード4に遷移する。モード4では、インダクタL2を流れる電流が、ダイオードD4及びトランジスタQ4を介して流れ続ける電流となる。即ち、ダイオードD4が存在することによって、インダクタL2を流れる電流が保持される。
【0056】
その後、トランジスタQ4がオフした場合、交流電源装置1bはモード5に遷移する。モード5では、インダクタL2を流れる電流は、一部が静電容量Cd3及びダイオードD4を介して直流電源DC1に流れる電流となる。これにより、静電容量Cd3が徐々に放電する。インダクタL2を流れる電流の他の一部は、ダイオードD4及び静電容量Cd4を流れる電流となる。これにより、静電容量Cd4が徐々に充電される。即ち、モード5にあっても、ダイオードD4が存在することによって、インダクタL2を流れる電流が保持される。更に、次のモード6にてトランジスタQ3がオンする前に、静電容量Cd3が放電して両端電圧が低下する。
【0057】
以上の図5を用いた説明により、トランジスタQ3及びQ4それぞれがオンするときの損失が、インダクタL2とダイオードD3及びD4とキャパシタC2とによって低減されることが明らかとなった。ここで、出力電力が0Wの場合に、キャパシタC1の有無によってトランジスタQ1及びQ2のスイッチング波形がどのように変わるかをシミュレーションした結果について説明する。キャパシタC2の有無によってトランジスタQ3及びQ4のスイッチング波形がどのように変わるかをシミュレーションした結果についても同様である。
【0058】
図6は、実施形態2に係る交流電源装置1bにおけるスイッチング波形をシミュレーションして比較した第1の波形図である。図6Aでは、キャパシタC1がない場合について、トランジスタQ1のドレイン・ソース間のスイッチング電圧を示す。図6Bでは、キャパシタC1がある場合について、トランジスタQ1のドレイン・ソース間のスイッチング電圧を示す。何れの波形図にあっても、横軸は時間(t)を表し、縦軸は電圧(V)を表す。トランジスタQ2のスイッチング電圧の波形については、図6A及び6Bに示す波形よりも半周期遅れたものとなる。
【0059】
図6Aによれば、トランジスタQ1又はQ2は、スイッチング電圧が低下する前にオンしており、スイッチング損失が比較的大きい。一方、図6Bによれば、トランジスタQ1又はQ2は、スイッチング電圧が半ば低下した後にオンしており、スイッチング損失が比較的小さい。
【0060】
次に、インダクタL1及びキャパシタC1によるLC共振周波数が、トランジスタQ1及びQ2のスイッチング波形に与える影響について説明する。インダクタL2及びキャパシタC2によるLC共振周波数が、トランジスタQ3及びQ3のスイッチング波形に与える影響についても同様である。
【0061】
図7は、実施形態2に係る交流電源装置におけるスイッチング波形をシミュレーションして比較した第2の波形図である。図7A図7B図7C及び図7Dのそれぞれでは、LC共振周波数が22.5MHz、15.9MHz、11.3MHz及び7.12MHzの場合について、トランジスタQ1のドレイン・ソース間のスイッチング電圧を示す。何れの波形図にあっても、横軸は時間(μs)を表し、縦軸は電圧(V)を表す。トランジスタQ2のスイッチング電圧の波形については、図7A~7Dに示す波形よりも半周期遅れたものとなる。
【0062】
LC共振周波数がスイッチング周波数(3.2MHz)の約7倍である図7Aの場合と、約5倍である図7Bの場合とでは、スイッチング電圧が低下しきる前にトランジスタQ1がオンしており、スイッチング損失が比較的大きい。LC共振周波数がスイッチング周波数の約3.5倍である図7Cの場合と、約2.2倍である図7Dの場合とでは、スイッチング電圧が低下しきった後でトランジスタQ1がオンしており、スイッチング損失が比較的小さい。但し、図7Dの場合は、図7Cの場合と比較して出力電圧の波形に大きな歪みが生じることが確認されている。このように、LC共振周波数が低くなるに連れて損失は小さくなるが、出力電圧の波形に生じる歪みが大きくなる傾向がある。よって、インダクタL1及びキャパシタC1によるLC共振周波数は、スイッチング周波数の3倍以上であることが好ましい。より好ましくは、3倍から5倍程度である。
【0063】
以上のように本実施形態2によれば、2つのレグが同様の構成であるため、ハーフブリッジの場合と同様に、トランジスタQ1及びQ2がオフからオンに遷移する前に、インダクタL1を介して流れる還流電流を確保して、トランジスタQ1及びQ2それぞれの出力の静電容量Cd1及びCd2をより多く放電させることができる。
【0064】
また、実施形態2によれば、フルブリッジ回路の一方のレグ及び他方のレグの斜めに対向するアームに含まれるトランジスタQ1とQ4(及びQ2とQ3)がオン/オフする位相をシフトさせて出力電力を制御する。この構成にて出力電力を低下させた場合であっても、トランジスタQ1及びQ2がオフからオンに遷移する前に、インダクタL1を介して流れる還流電流を確保して、トランジスタQ1及びQ2それぞれの出力の静電容量Cd1及びCd2をより多く放電させることができる。同様に、トランジスタQ3及びQ4がオフからオンに遷移する前に、インダクタL2を介して流れる還流電流を確保して、トランジスタQ3及びQ4それぞれの出力の静電容量Cd3及びCd4をより多く放電させることができる。
【0065】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、各実施形態で記載されている技術的特徴は、お互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1a、1b 交流電源装置
10a、10b 制御部
C1、C2、Cr、Cf キャパシタ
Cd1、Cd2、Cd3、Cd4 静電容量
D1、D2、D3、D4 ダイオード
DC1 直流電源
L1、L2、Lr、Lf インダクタ
Ld 負荷
Q1、Q2、Q3、Q4 トランジスタ
S11、S12、S21、S22、S23、S24 信号源
T1 トランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7