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特開2022-102669加熱成型治具及び加熱成型装置並びに加熱成型方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102669
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】加熱成型治具及び加熱成型装置並びに加熱成型方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
C03B20/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217540
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592104944
【氏名又は名称】クアーズテック徳山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】藤川 智大
(72)【発明者】
【氏名】千々松 孝
(72)【発明者】
【氏名】生野 浩人
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AH00
(57)【要約】
【課題】成型用型内で石英ガラスインゴットを加熱変形させ成型したガラス成型体において、脈理端部が屈曲することなく成型される加熱成型治具、及びこれを用いた加熱成型装置を提供する。
【解決手段】底面及び側面を有し、石英ガラスインゴットXから所定形状の石英ガラス成型体を形成する成型用受け皿Pと、前記成型用受け皿の底面上に配置されるとともに前記石英ガラスインゴットが載置される載置台10と、前記成型用受け皿の上部に配置されると共に石英ガラスインゴットを包囲する第一の支持体5と、前記第一の支持体の上部に配置されると共に、内部に石英ガラスインゴットを収納する、筒状の第二の支持体6と、を備え、前記石英ガラスインゴットが載置される前記載置台の周縁には傾斜面10bが形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面部及び側面部を有し、石英ガラスインゴットから所定形状の石英ガラス成型体を形成する成型用受け皿と、
前記成型用受け皿の底面部上に設けられるとともに前記石英ガラスインゴットが載置される載置台と、
を備え、
前記石英ガラスインゴットが載置される前記載置台の上面の周縁には傾斜面が形成されていることを特徴とする加熱成型治具。
【請求項2】
前記載置台に形成された傾斜面の前記載置台の上面の外方延長線に対する傾斜角は、30°以上90°未満であることを特徴とする請求項1に記載された加熱成型治具。
【請求項3】
前記傾斜角が45°以上75°以下であり、
前記成型用受け皿の底面部内側の一辺の長さYと前記載置台の上面の一辺もしくは直径の長さTの比、Y:Tが8:5~8:6があり、
更に、前記載置台の傾斜面の外周端から前記成型用受け皿の側面部までの長さをd3とした際の前記Tとの比、T:d3が1:0.12~0.28であることを特徴とする請求項2に記載された加熱成型治具。
【請求項4】
前記請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された加熱成型治具と、
前記加熱成型治具を収納する加熱炉と、
前記加熱炉内に収納され、石英ガラスインゴットを加熱するヒータと、
を少なくとも備えていることを特徴とする加熱成型装置。
【請求項5】
前記請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された加熱成型治具と、
前記加熱成型治具を収納する加熱炉と、
前記加熱炉内に収納され、石英ガラスインゴットを加熱するヒータと、
を少なくとも備えた加熱成型装置を用い、
前記加熱成型治具の載置台に石英ガラスインゴットを載置し、前記ヒータで加熱することで石英ガラスインゴットを軟化させ、前記成型用受け皿によって、石英ガラスインゴットから所定形状の石英ガラス成型体を形成することを特徴とする加熱成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱成型治具及び加熱成型装置並びに加熱成型方法に関し、特に石英ガラスインゴットを加熱成型して、所定形状の石英ガラス成型体を形成するための加熱成型治具及び加熱成型装置並びに加熱成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用途に好適な合成石英ガラス体を製造する方法の一つとして、合成石英ガラスのインゴットを製造し、その後、前記石英ガラスインゴットを所定温度で加熱して軟化させ、所定形状の型を用いて成型する製造方法が知られている。
尚、前記石英ガラスインゴットは、例えば、四塩化ケイ素等のシリカ原料を、酸素と水素を用いて加水分解反応させて、ガラス微粒子をターゲット上に堆積させる方法により製造される。
【0003】
この石英ガラスインゴットを加熱して、軟化させた石英ガラスを所定の形状に成型する方法に用いられる成型用型(加熱成型治具)が、特許文献1において提案されている。
この提案された成型用型は、石英ガラスインゴットを直立状態で加熱成型するための成型用型であり、石英ガラスインゴットを成型用型内に収容し、前記石英ガラスインゴットを加熱することによって軟化した石英ガラスを、所定の形状に成型するものである。
【0004】
具体的には、図8(a)に模式的に示すように、石英ガラス成型体の底面及び外周面の形状に応じた内部形状(内周面形状)を有する成型部51と、該成型部51の上方に設置されると共に円筒形状の内周面によって石英ガラスインゴットXの外周面を支持する支持部52とを備えている。
【0005】
このように特許文献1記載の成型用型にあっては、支持部52によって石英ガラスインゴットXの外周面を支持するため、前記支持部52が石英ガラスインゴットXの外周面に当接した状態で加熱軟化が進行し、石英ガラスインゴットXの外周面は支持部の内周面上を摺動し、最終的に図8(b)、図8(c)に遷移状態を示すように成型部内に収容され、成型される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-120619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した方法により製造された円柱状の石英ガラスインゴットXは、図8(a)に示すように、その成長面に沿って多数の層状の脈理Cが残存している。このような層状の脈理Cが残存する石英ガラスインゴットXを成型用型51内で加熱軟化させると、前述のように外周部から下方に流れるように変形し、図8(b)、図8(c)に示すように徐々に横長になる。
【0008】
しかしながら、成型用型51内に形成された石英ガラス成型体は、加熱軟化時に、最もガラスの流動距離が長くなる外周部において、図8(b)に示すように、石英ガラス成型体下部の脈理Cが底板の摩擦力により垂直方向に屈曲する。そして図8(c)に示すように屈曲した部分が存在する石英ガラス成型体となるので、光学的特性が不均一となり、光学用途に適さないという課題があった。尚、図9に、その屈曲した脈理Cの拡大図(断面図)を示すが、以降、このような脈理を屈曲脈理C1と称する。
【0009】
本願発明者は、この屈曲脈理について鋭意検討し、石英ガラスインゴットが加熱軟化されて変形する過程において、インゴット底部と成型用型底面との摩擦によって水平方向への変形が抑制されることにより、垂直方向への変形速度が水平方向の変形速度よりも速くなり、その結果、屈曲脈理が発生することを知見し、本発明をするに至った。
【0010】
本発明の目的は、成型用型内で石英ガラスインゴットを加熱軟化させて変形して成型した石英ガラス成型体において屈曲脈理の発生を抑制できる、加熱成型治具及び加熱成型装置並びに加熱成型方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る加熱成型治具は、底面部及び側面部を有し、石英ガラスインゴットから所定形状の石英ガラス成型体を形成する成型用受け皿と、前記成型用受け皿の底面部上に設けられるとともに前記石英ガラスインゴットが載置される載置台と、を備え、前記石英ガラスインゴットが載置される前記載置台の上面の周縁には傾斜面が形成されていることに特徴を有する。
尚、この載置台は成型用受け皿の底面部と別体として設けても良く、あるいは成型用受け皿の底面部と一体物として設けても良い。
【0012】
また、前記載置台に形成された傾斜面の前記載置台の上面の外方延長線に対する傾斜角は、30°以上90°未満であることが望ましい。
なお、前記石英ガラスインゴットを前記載置台に載置した状態で、前記石英ガラスインゴットの下端面は部分的に前記傾斜面の上方に位置してもよい。
【0013】
また、前記傾斜角が45°以上75°以下であり、前記成型用受け皿の底面部内側の一辺の長さYと前記載置台の上面の一辺もしくは直径の長さTの比、Y:Tが8:5~8:6があり、更に、前記載置台の傾斜面の外周端から前記成型用受け皿の側面部までの長さをd3とした際の前記Tとの比、T:d3が1:0.12~0.28であることが望ましい。
【0014】
また、前記課題を解決するためになされた本発明に係る加熱成型装置は、前記加熱成型治具と、前記加熱成型治具を収納する加熱炉と、前記加熱炉内に収納され、石英ガラスインゴットを加熱するヒータと、を少なくとも備えていることを特徴とする。
【0015】
また、前記課題を解決するためになされた本発明に係る加熱成型方法は、前記加熱成型治具と、前記加熱成型治具を収納する加熱炉と、前記加熱炉内に収納され、石英ガラスインゴットを加熱するヒータと、を少なくとも備えた加熱成型装置を用い、前記加熱成型治具の載置台に石英ガラスインゴットを載置し、前記ヒータで加熱することで石英ガラスインゴットを軟化させ、前記成型用受け皿によって、石英ガラスインゴットから所定形状の石英ガラス成型体を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、成型用型内で石英ガラスインゴットを加熱軟化させて変形して成型した石英ガラス成型体において屈曲脈理の発生を抑制できる、加熱成型治具及び加熱成型装置並びに加熱成型方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明にかかる加熱成型治具及び加熱成型装置の概略構成を示す断面図である。
図2図2は、図1の加熱成型装置内側の平面図である。
図3図3は、本発明に係る加熱成型治具に設けられる載置台の斜視図である。
図4図4は、図3の加熱成型治具及びそれに載置(d1がプラス方向に載置)された石英ガラスインゴットの一部拡大側面図である。
図5図5は、本発明に係る加熱成型治具に設けられる載置台の変形例を示す斜視図である。
図6図6(a)、(b)は、加熱により変形する石英ガラスインゴットの状態を示す断面図である。
図7図7は、本発明に係る加熱成型治具(成型用受け皿)の変形例を示す断面図である。
図8図8(a)、(b)、(c)は、従来の加熱成型治具における石英ガラスインゴットの変形の状態を示す断面図である。
図9】石英ガラス成型体の端面を一部拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる実施形態を図1乃至図7に基づいて説明する。尚、図1乃至図7は、説明のために装置及び治具の形状を模式的に表したものである。
【0019】
図1は、加熱成型装置1の概略構成を示す図であって、この加熱成型装置1は、加熱炉2と、加熱成型治具3と、石英ガラスインゴットXを加熱するヒータ4と、を少なくとも備えている。
加熱炉2は、内部にヒータ4を収納しており、ヒータ4が発する熱によって石英ガラスインゴットXを加熱する。加熱成型治具3は、後に詳述するように、石英ガラスインゴットXを加熱軟化させながら、所定形状の石英ガラス成型体を形成するための治具である。
【0020】
石英ガラスインゴットXは、例えば、四塩化ケイ素等のシリカ原料を加水分解反応させて、ガラス微粒子をターゲット上に堆積させることにより製造され、胴部X1は円柱状または角柱形状に形成され、その上端部X2は、徐々に径が増す曲面形状、または斜面形状に形成されている。また下端面X3は平坦面に形成されている。
【0021】
即ち、石英ガラスインゴットXは、円柱形状または角柱形状で上端部が曲面状または斜面状の凸状形状で、下端部が水平面である。図1に示すように、受け皿Pの底面部P1に載置台10が配置され、その上面に石英ガラスインゴットXの下端面(底面)X3が載置される。この下端面X3は、石英ガラス成型体として要求される平面度が得られる程度に、厳密に水平の面出しがなされている。
【0022】
次に、この加熱成型装置1に収納される加熱成型治具3の構成について、図1乃至図4に基づいて説明する。尚、図2は加熱成型装置1の内側の平面図であり、図3は載置台10の斜視図である。また、図4は、加熱成型治具及びそれに載置された石英ガラスインゴットの一部拡大側面図である。
【0023】
この加熱成型治具3は、少なくとも、成型用受け皿Pと、成型用受け皿Pの底面部に配置される載置台10を備えている。ここでは、成型用受け皿Pと載置台10が別体の場合について説明するが、成型用受け皿の底面部の上側に載置台を、一体に形成したものであっても良い。
前記成型用受け皿Pの上縁部に載置される第一の支持体5(5A、5B)と、第1の支持体5上に載置される筒状の第二の支持体6とを備えている。
【0024】
第一の支持体5は、第二の支持体6を支持するものであり、成型用受け皿Pの上縁部に載置されると共に石英ガラスインゴットXを包囲するものである。第一の支持体5は、石英ガラスインゴットXの直径以上の間隔をもって配置された一対の第一の梁5Aと、石英ガラスインゴットXの直径以上の間隔をもって第一の梁5Aに直交して配置された一対の第二の梁5Bとを井桁状に組み上げて構成されている。また、第二の支持体6は、筒状に形成され、前記第一の支持体5の上部に載置されると共に、この第二の支持体6の内部には石英ガラスインゴットXが収納される。
【0025】
成型用受け皿Pは、石英ガラスインゴットXから所定形状の石英ガラス成型体を成型するための型であり、この成型用受け皿Pは、底面部P1及び側面部P2を有し、平面視上、例えば図2に示すように矩形形状に形成されている。この成型用受け皿Pは、基本的には成型後の石英ガラス成型体の形状を規定する型であるが、底面部P1上に載置された載置台10の上面と、側面部P2とによって型が形成される。
【0026】
具体的には、石英ガラスインゴットXを載置台10上に載置し、石英ガラスインゴットXを加熱軟化した際(拡径加工した際)、石英ガラス成型体は載置台10上面と受け皿側面部P2とによって成型される。
【0027】
載置台10は、図3に示すように、全体は平面矩形状の板であり、平坦な第1の上面10aと、その周縁の四辺にそれぞれ形成された傾斜面10bと、傾斜面10bの下端部に形成された平坦な第2の上面10cを有している。
ここでは、図3に示すように、石英ガラスインゴットXの円形の下端面X3は、載置台10の第1の上面10aにすべて接した状態で載置されている態様を示している。
尚、石英ガラスインゴットXの径が第1の上面10aよりも大きく、下端面X3の外周部が部分的に載置台10の傾斜面10b上方に突出した状態(浮いた状態)で載置される場合もある。
【0028】
図4に示すように、石英ガラスインゴットXの底部における直径をL、成型 用受け皿の底面部内側の一辺の長さをY、載置台の第1の上面10aの一辺の長さをT、石英ガラスインゴットXの外周面と第1の上面10aの外縁部との距離をd1とする。
石英ガラスインゴットXの外周面と第1の上面10aの外縁部との距離d1は、図3に示すように、第1の上面10aの角部において最も長く、第1の上面10aの外縁中央部において短くなる。
ここでは、石英ガラスインゴットXの外周面と第1の上面10aの外縁部との距離が最も短くなる、第1の上面10aの外縁中央部における、石英ガラスインゴットXの外周面と第1の上面10aの外縁部との距離をd1とする。
【0029】
また、石英ガラスインゴットXの径が第1の上面10aよりも大きく、下端面X3の外周部が部分的に載置台10の傾斜面10b上方に突出した状態(浮いた状態)で載置される場合がある。そのときの石英ガラスインゴットXの外周面と第1の上面10aの外縁部との距離をd1(プラス方向)とする。
【0030】
また、石英ガラスインゴットXの外周面から載置台10の傾斜面10bの下端部まで距離(石英ガラスインゴットXの下端面X3に平行な径方向長さ)をd2、第2の上面10cの径方向長さ(傾斜面10bの外周端から受け皿Pの側面P2までの径方向長さ)をd3とする。
このd2も、d1と同様に、第1の上面10aの外縁中央部における、石英ガラスインゴットXの外周面と傾斜面10bの下端部の距離をd2とする。
同様にd3も、第1の上面10aの外縁中央部の延長線上の、第2の上面10cの径方向長さをd3とする。
【0031】
更に、載置台10の第1の上面10aの外方延長線(石英ガラスインゴットトXの下端面X3)に対する、傾斜面10bの傾斜角をθとする。これらのパラメータの好ましい態様については後述する。
【0032】
尚、図3において、載置台10の上面10aが矩形形状の例を示したが、本発明は、特にこれに限定されるものではなく、例えば、図5に示すように上面10aの形状を円形形状にしても良い。この場合における、前記載置台10の第1の上面10aの直径長さは、前記載置台10の上面10aの一辺の長さTと同義である。
また、成型用受け皿P及び載置台10の材質は、石英ガラスと反応し難く、耐熱性がある材質であれば特に限定されるものではなく、例えば、高純度のカーボン材が好適に用いられる。
【0033】
ところで、図4に示すような傾斜面10bの形状として、頂点を有する1以上の段差があると、当該頂点部で変形したガラス中に気泡を巻き込む虞がある。本発明では、傾斜面10bの形状として、図4に示すような直線形状が好ましい。あるいは、なだらかな曲線形状(曲率半径の大きな曲線形状)でもよく、その場合のθは、曲線の始点と終点を結ぶ直線と上面10aがなす角度で決定される。
【0034】
また、傾斜面10bの面粗さは、加熱軟化した石英ガラスがスムーズに移動できる程度に滑らかな方が好ましい。
【0035】
続いて、本発明にかかる加熱成型治具、加熱成型装置、加熱成型方法の作用について説明する。
まず、石英ガラスインゴットXの中心が成型用受け皿Pの底面部P1に配置された載置台10の中心(第1の上面10aの中心)に位置するように、石英ガラスインゴットXを成型用受け皿P上に載置する。
【0036】
脈理Cは公知の方法で観察でき、投影法やシュリーレン法が好適に用いられる。また、本発明における屈曲脈理C1とは、図9に示すように、石英ガラス成型体の端面を観察したときに、中央部から一方向に進展してきた脈理が、これと垂直な方向(縦方向)に向って巻き込んだ形状を指すものとする。特に、丸みを帯びた部分が90°に近くなっている形状が、その典型的な態様といえる。
【0037】
続いて、成型用受け皿Pの上縁部に、一対の第一の梁5Aを石英ガラスインゴットXの直径以上の間隔をもって配置する。更に、第二の梁5Bを、石英ガラスインゴットXの直径以上の間隔をもって第一の梁5Aと直交して配置する。そして、石英ガラスインゴットXの高さを考慮して、第一の梁5Aと第二の梁5Bとを井桁状に組み上げ、第一の支持体5を形成する。
【0038】
続いて、第二の支持体6の中心が石英ガラスインゴットXの中心と一致するように、石英ガラスインゴットXの上方から第二の支持体6を下げ、その内部に石英ガラスインゴットXを収容する。この第二の支持体6は第一の支持体5に載置される。そして、第二の支持体6の中心と石英ガラスインゴットXの中心とが同一直線状にあるか、否か確認する。両者が同一直線状にない場合には、第二の支持体6の載置位置をずらし、第二の支持体6の中心と石英ガラスインゴットXの中心とを合わせる作業を行う。
【0039】
石英ガラスインゴットXを加熱成型治具に載置した後、図1に示すヒータ4により、石英ガラスインゴットXを加熱し、軟化させる。この加熱により、図6(a)に示すように石英ガラスインゴットXの下部から徐々に拡径し、石英ガラスは載置台10の傾斜面10bを介して、成型用受け皿Pに緩やかに拡がり進行する。それと共に石英ガラスインゴットXの高さ寸法が減少する。このとき、石英ガラスインゴットXの下端面X3は載置台10の傾斜面10bを伝って変形するため、傾斜面10bを持たない水平な面に沿って変形する従来の態様と比べて、石英ガラスインゴットXの下端面X3が受ける摩擦が少なくなり、屈曲形状に変化した脈理は、d3に流れ込むようになる。
その結果として、脈理の端部における屈曲で発生する屈曲脈理を効果的に防止することができる。
【0040】
そして、図6(b)に示すように、石英ガラスインゴットX全体が、成型用受け皿P内部に進行し収容された後、冷却することで石英ガラス成型体が製造される。そして、石英ガラス成型体の底部を水平方向に切削して除去することにより、製品として加工が可能な形状が得られる。
【0041】
以下、本発明の好ましい態様について説明する。まず、d1については、d1がマイナス方向に対して存在する、すなわち、石英ガラスインゴットXのLが第1の上面10aの外径より小さい場合は、軟化した石英ガラスインゴットXの底面部が上面10a(水平面)と接して移動する距離が存在し、本発明の効果をその分相殺する傾向がある。
【0042】
一方、d1がプラス方向に対して存在する、すなわち、図4に示すように、石英ガラスインゴットXのLが第1の上面10aの外径より大きい場合は、石英ガラスインゴットXの変形時、上面10a(水平面)との接触面積が減るので摩擦が減少し、d1がゼロもしくはマイナスの時と比較して、本発明の効果が損なわれる度合いは小さい。
しかしながら、d1がプラス方向に大きいと、石英ガラスインゴットXの載置時、または軟化状態での安定性に欠ける虞があること、載置台10の上面10aと石英ガラスインゴットXの中心のズレにより、石英ガラスインゴットXの外周全域の全ての箇所において均等に軟化と下降が進行することが保証されず、これも好ましいものとは言えない。
【0043】
上記を考慮すると、d1がプラス方向に対して存在する場合、d1の絶対値は、例えばLに対しては0.25倍を超えない、あるいは、100mm以下であると、実用上目立った不具合の発生を予防できるので、好ましいといえる。
更に言えば、前記d1の絶対値がLの0.05倍以上、0.25倍未満とすることが好ましい。
また、d1がマイナス方向に対して存在する場合、d1の絶対値は、例えばLに対しては0.36倍を超えない事が好ましい。
【0044】
前記載置台10に形成された傾斜面10bの前記載置台の第1の上面10aの外方延長線に対する傾斜角θは、30°以上90°未満が好ましい。傾斜角θが30°未満では、上記したような脈理の屈曲低減効果が十分に得られない虞がある。
一方、傾斜角θを90°(垂直)にすると、軟化した石英ガラスインゴットXが急速に落下して変形が過大になる。また、石英ガラスインゴットXが急速に落下することにより気泡が生じ、石英ガラス成型体内に気泡が混入する不具合が生じる。
そのため、より好ましくは、傾斜角θが45°以上75°以下である。
【0045】
前記載置台の傾斜面の外周端から前記成型用受け皿の側面部までの長さd3があまり大きいと、成型完了後の石英ガラス成型体の底部の凹形状が過大になり、これを除去する量が多すぎて、製品として得られる部分が減少するので、好ましくない。好ましくは、d3は、成型用受け皿Pの一辺の長さに対して、3/50から3/16の範囲である。
【0046】
また、傾斜角θを45°以上75°以下とし、成型用受け皿Pの底面部内側一辺の長さYと載置台10傾斜面の上面の一辺(もしくは直径)の長さTの比Y:Tは、8:5~8:6が好しく、さらには、Tを1とした時、d3を0.12~0.28の比とすることがより好しい。
前記傾斜角が45°以上75°以下であり、これにより、軟化させた石英ガラスインゴットの下端面X3がよりスムーズに載置台10の傾斜面10bを伝って変形し、上記屈曲脈理の発生をより効果的に防止できる。
【0047】
さらに、上記屈曲脈理の発生防止効果を格段に高めるためには、図7に示すような加熱成型治具を用いることが好しい。すなわち、成型用受け皿Pの側面部P2において、載置10の第1の上面10aの位置と同等高さから上方に、外周に延びる凹部11を形成する。これにより、前記屈曲脈理C1をより確実に抑制することができる。
上記凹部11の外周への延伸長さをd4、垂直方向高さをd5とした場合、Yの長さ寸法を500mm~1500mmとし、比率をY:T:d3:d4:d5=8:5.5:1.25:0.2:0.4とすることで、石英ガラスインゴットXの変形の加減が最適化されるので、本発明の効果が最も効果的に発揮され、格別に好しい。
【0048】
以上説明したように、本発明にかかる加熱成型治具、加熱成型装置、加熱成型方法にあっては、石英ガラスインゴットXは、周縁部に傾斜面10bを有する載置台10の第1の上面上に載置されるため、加熱による変形の際、水平方向の摩擦が小さくなるので、屈曲脈理の発生を防止または低減することができる。
【実施例0049】
本発明に係る加熱成型治具、加熱成型装置、加熱成型方法について、実施例に基づきさらに説明する。
【0050】
(共通条件)
四塩化ケイ素、水素ガス、酸素ガスを用いた公知の酸水素火炎溶融による方法で、底部の直径400mm、高さ900mm、重量約200kgの石英ガラスインゴットXを作製した。次に、図1に示すような加熱成型装置、及び、図2に示すような加熱成型冶具を用いて、上記の石英ガラスインゴットXを真空下で2000℃×1時間の加熱成型を行った後、放冷して、約800mm四方の石英ガラス成型体を得た。屈曲脈理の観察は、投影法により行った。
【0051】
(実施例1~3)
載置台として、図3に示すような上面10aが矩形状であって、図4に示すような載置台10を用いた。
このとき、成型用受け皿Pの一辺の長さYは800mmとし、載置台10の第1の上面10aの一辺の長さTは、500mm(実施例1)、550mm(実施例2)、600mm(実施例3)、また、第2の上面10cの径方向長さ(傾斜面10bの下端から受け皿Pの側面P2までの径方向長さ)をd3は、120mm(実施例1)、95mm(実施例2)、70mm(実施例3)であり、前記Y、前記T、前記d3のそれぞれの長さの比率は、各々、8:5:1.2(実施例1)、8:5.5:0.95(実施例2)、8:6:0.7(実施例3)とした。(Tを1とした時のd3の比は、各々、0.24(実施例1)、0.17(実施例2)、0.12(実施例3))ここで、傾斜面の傾斜角θは45°とした。
【0052】
加熱溶融後の石英ガラス成型体は、図6に示すように、載置台10の形状に倣って、外周部で下方向に30mm伸展した凹状部分が生じていた。次に、凹状部分を切断して厚さ120mmの四角ブロックを得た。実施例1、2及び3いずれにおいても、屈曲脈理は四角ブロック中に確認されず、凹状部分の上部に確認された。
【0053】
(実施例4)
傾斜面の傾斜角θを60°とし、これに伴いd3の値が133mmに変更された以外は、実施例1と同様にした。
加熱溶融後の石英ガラス成型体は、実施例1と同様に、載置台10の形状に倣って凹状部分を有していた。屈曲脈理は四角ブロック中に確認されず、凹状部分の中部に確認された。
【0054】
(実施例5)
傾斜面の傾斜角θを75°とし、これに伴いd3の値が142mmに変更された以外は、実施例1と同様にした。
加熱溶融後の石英ガラス成型体は、実施例1と同様に、載置台10の形状に倣って凹状部分を有していた。屈曲脈理は四角ブロック中に確認されず、凹状部分の下部に確認された。
【0055】
(比較例1)
図4に示すような載置台10は用いず、図8に示すような、全面が平らな板の上に合成石英ガラスインゴットXを載置した。それ以外の条件は実施例1同様にした。その結果、下部は平らな石英ガラス成型体となり、かつ、外周部に屈曲脈理が確認された。
【0056】
(実施例6)
傾斜面の傾斜角θを15°とし、これに伴いd1の値が38mmに変更された以外は、実施例1と同様にした。
その結果、屈曲脈理は四角ブロック中最端部に確認され、凹状部分には確認されなかった。
【0057】
(実施例7)
傾斜面の傾斜角θを90°とし、これに伴いd1の値が150mmに変更された以外は、実施例1と同様に実験した。
その結果、石英ガラス成型体の底板と載置台10との間にできたクリアランスで、石英ガラス成型体中最端部に気泡が生じた。屈曲脈理は四角ブロック中に確認されず、凹状部分の基部に確認された。
上記実験例1及び2は、製造歩留りが劣るものの、上記最端部を切り落とすことにより、上記実施例と同等の四角ブロックとすることができた。
【0058】
以上の通り、本発明の実施形態にあるものは、得られた石英ガラス成型体のうち、製品として用いられる箇所に屈曲脈理の発生(あるいは気泡の混入)が生じていなかった。このことから、本発明は、従来方法ではなかなか解決できなかった屈曲脈理の発生を、より効果的に抑制できることを確認した。
【符号の説明】
【0059】
1 加熱成型装置
2 加熱炉
3 加熱成型治具
4 ヒータ
5 第一の支持体
6 第二の支持体
10 載置台
10a 第1の上面
10b 傾斜面
10c 第2の上面
C 脈理
C1 屈曲脈理
P 成型用受け皿
X 石英ガラスインゴット
L 石英ガラスインゴットXの直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9