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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102705
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】触媒システム
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/78 20060101AFI20220630BHJP
   B01J 23/75 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
B01J23/78 M
B01J23/75 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217590
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 行寛
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤司
(72)【発明者】
【氏名】梶田 琢也
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BC01A
4G169BC02B
4G169BC03B
4G169BC06B
4G169BC08A
4G169BC31B
4G169BC35B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169CB62
4G169CC23
4G169EE08
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB04
4G169FB08
4G169FB09
4G169FB13
4G169FB27
4G169FB30
4G169FB31
4G169FB66
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】一酸化炭素と水素とを用いて所望の炭化水素を効率よく生成させることのできる新たな触媒システムを提供する。
【解決手段】触媒システムは、一酸化炭素と水素とを用いたFT法による反応により炭化水素を生成する触媒システムであって、FT法による反応に用いられる第1のFT触媒16aと、FT法による反応に用いられ、第1のFT触媒16aとFT法における反応特性が異なる第2のFT触媒16bと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素と水素とを用いたFT法による反応により炭化水素を生成する触媒システムであって、
FT法による反応に用いられる第1の触媒と、
FT法による反応に用いられ、前記第1の触媒とFT法における反応特性が異なる第2の触媒と、
を備える触媒システム。
【請求項2】
前記第1の触媒は、前記一酸化炭素と前記水素とを含有するガスが導入される上流側に配置され、
前記第2の触媒は、前記第1の触媒よりも下流側に配置され、
前記第1の触媒は、前記第2の触媒よりも二酸化炭素耐性が高い触媒であり、
前記第2の触媒は、前記第1の触媒よりも炭素の連鎖成長に対する活性が高い触媒であることを特徴とする請求項1に記載の触媒システム。
【請求項3】
前記ガスは、二酸化炭素を10~85体積%含有することを特徴とする請求項2に記載の触媒システム。
【請求項4】
前記第1の触媒の一酸化炭素転化速度[mol/s]は、前記第2の触媒の一酸化炭素転化速度[mol/s]の30~60%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項5】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも一種の第1の金属は、前記第1の触媒に対してX(X>0)質量%未満担持され、
アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも一種の第2の金属は、前記第2の触媒に対してX質量%以上担持されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項6】
前記第1の金属は、前記第1の触媒に対して0.5質量%以上20質量%以下担持されており、
前記第2の金属は、前記第2の触媒に対して1質量%以上30質量%以下担持されていることを特徴とする請求項5に記載の触媒システム。
【請求項7】
前記第1の触媒は、鉄を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項8】
前記第2の触媒は、コバルトを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の触媒システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素を製造する際に用いる触媒の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス等に含まれる二酸化炭素を有効利用する方法として、二酸化炭素と水素から、エネルギー密度の高い液状の炭化水素を触媒の存在下で生成させることが検討されている(例えば特許文献1)。また、水素と一酸化炭素とを用いて炭化水素を生成する方法として、フィッシャートロプシュ法(Fischer-Tropsch process:以下、適宜「FT法」という。)が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-80309号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Energy & Fuels, Vol. 23, 4195(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FT法に用いられる触媒は、主にコバルト、ルテニウム、鉄といった金属を含有する。また、FT法における触媒反応は発熱反応であり、触媒層の中でも上流側での発熱が多い傾向にある。そのため、触媒層全体で反応温度を均一化するためには何らかの工夫が必要である。反応温度が異なると、生成される各種炭化水素の選択率が異なることにもなり、所望の炭化水素を効率よく生成することが難しくなる。また、FT法により一酸化炭素から各種炭化水素が形成される過程は、幾つかの反応が混在しており、全ての反応に最適な単一の触媒は見いだされていない。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、一酸化炭素と水素とを用いて所望の炭化水素を効率よく生成させることのできる新たな触媒システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の触媒システムは、一酸化炭素と水素とを用いたFT法による反応により炭化水素を生成する触媒システムであって、FT法による反応に用いられる第1の触媒と、FT法による反応に用いられ、第1の触媒とFT法における反応特性が異なる第2の触媒と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、一酸化炭素と水素とを用いて所望の炭化水素を効率よく生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施の形態に係る固定床流通式反応装置の概略構成を示す模式図である。
図2】第2の実施の形態に係る固定床流通式反応装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
はじめに、本発明の態様を列挙する。本発明のある態様の触媒システムは、一酸化炭素と水素とを用いたFT法による反応により炭化水素を生成する触媒システムであって、FT法による反応に用いられる第1の触媒と、FT法による反応に用いられ、第1の触媒とFT法における反応特性が異なる第2の触媒と、を備える。
【0011】
この態様によると、触媒システムの反応温度のばらつきを抑えつつ、所望の炭化水素を効率よく生成できる。
【0012】
第1の触媒は、一酸化炭素と水素とを含有するガスが導入される上流側に配置され、第2の触媒は、第1の触媒よりも下流側に配置され、第1の触媒は、第2の触媒よりも二酸化炭素耐性が高い触媒であり、第2の触媒は、第1の触媒よりも炭素の連鎖成長に対する活性が高い触媒であってもよい。これにより、上流側に配置された第1の触媒は、導入されるガスに二酸化炭素が含まれうるような炭化水素生成プロセスにおいても、二酸化炭素の影響による性能低下が生じにくい。また、下流側に配置された第2の触媒は、例えば、上流側の第1の触媒で生成した炭化水素(例えばCH種のようなメチレン基)の炭素の連鎖成長を促進できる。
【0013】
ここで、二酸化炭素耐性が高い触媒とは、FT反応の原料に、原料として必要な水素及び一酸化炭素以外の二酸化炭素が混合していても、FT反応が阻害されにくく、重質の(炭素数の多い)炭化水素を連鎖成長させることができる触媒と言える。また、このような触媒は、二酸化炭素と水素から一酸化炭素を生成させる逆シフトの機構を有していてもよい。
【0014】
また、炭素の連鎖成長に対する活性が高い触媒とは、重質の炭化水素をより得ることができる触媒と言える。例えば、水素が一酸化炭素と反応すると、触媒上にCHが形成される。つまり、連鎖成長に対する活性が高いとは、CHがより多く連なることができるため、炭素数の多い炭化水素を得ることができる触媒と言える。
【0015】
ガスは、二酸化炭素を10~85体積%含有してもよい。
【0016】
第1の触媒の一酸化炭素転化速度[mol/s]は、第2の触媒の一酸化炭素転化速度[mol/s]の30~60%であってもよい。これにより、第1の触媒で一酸化炭素からCH種が過剰に作られることが抑制され、その後の第2の触媒で炭素の連鎖成長を促進する際に一酸化炭素が不足しにくくなる。
【0017】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも一種の第1の金属は、第1の触媒に対してX(X>0)質量%未満担持されており、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも一種の第2の金属は、第2の触媒に対してX質量%以上担持されていてもよい。これにより、第1の触媒よりも第2の触媒の活性が高くなり、例えば、第2の触媒が配置されている下流側において炭素の連鎖成長を促進できる。なお、第1の金属と第2の金属は、同じ元素であってもよいし、異なる元素であってもよい。
【0018】
第1の金属は、第1の触媒に対して0.5質量%以上20質量%以下担持され、第2の金属は、第2の触媒に対して1質量%以上30質量%以下担持されていてもよい。
【0019】
第1の触媒は、鉄を含んでもよい。具体的には、第1の触媒は、金属鉄、酸化鉄又はこれらの両方を含む鉄成分と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち少なくとも一方からなる添加金属とを含有する鉄系触媒体が好ましい。また、第1の触媒は、鉄成分以外に銅成分を含んだ鉄系触媒体-銅系触媒体であってもよい。鉄系触媒体が触媒として機能する間、通常、鉄系触媒体は少なくとも金属鉄を含む。そのため、触媒は、通常、反応に用いられる前に還元処理される。還元処理前の鉄系触媒体は、通常、酸化鉄(例えばFeやFe)を含む。
【0020】
第2の触媒は、コバルトを含んでもよい。具体的には、第2の触媒は、アルミナ等の担体にコバルトを担持させたコバルト系触媒が好ましい。
【0021】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。また、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【0022】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、同一の部材であっても、各図面間で縮尺等が若干相違する場合もあり得る。また、本明細書又は請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限り、いかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0023】
[第1の実施の形態]
(触媒システム)
第1の実施の形態に係る触媒システムを含む反応装置の概略構成について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る固定床流通式反応装置の概略構成を示す模式図である。図1に示す反応装置10は、触媒システムとして、上流側の入口12aから導入した原料ガスから生成された炭化水素を下流側の出口12bから排出するように構成された反応器12と、反応器12の入口12a側に配置された、逆シフト反応を生じさせる逆シフト触媒14と、FT法による反応を生じさせる触媒であって、反応器12の出口12b側に配置されたFT触媒16と、を備える。
【0024】
逆シフト触媒14においては、逆シフト反応により二酸化炭素から一酸化炭素が生成される。また、FT触媒16においては、FT法による反応により一酸化炭素と水素から炭化水素が生成される。この触媒システムは、反応器12の入口側に二酸化炭素や水素、一酸化炭素を含む原料ガスを入れることで、ガス状あるいは液状の炭化水素を容易に生成できる。
【0025】
反応装置10は、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタンといった炭素数1~4のガス状の炭化水素であるCH、C2-C4成分と、炭素数5以上の炭化水素であって、常圧で液状の油分成分であるC5+成分(例えば、直鎖アルカンにおいて炭素数nが5以上の成分)とを生成し、ガス成分と油分とを気液分離し、場合によっては分留することで、所望の成分を抽出することができる。
【0026】
本実施の形態に係るFT触媒16は、FT法による反応に用いられる第1のFT触媒16aと、FT法による反応に用いられ、第1のFT触媒16aとFT法における反応特性が異なる第2のFT触媒16bと、を有する。ここで、反応特性が異なるとは、触媒を構成する元素や組成の違い、形状(形態)の違いによって、活性が相違している場合が挙げられる。また、触媒の作用によるFT法での反応時に支配的な反応が異なる場合も反応特性が異なると言える。
【0027】
本実施の形態に係る触媒システムは、前述の通り、少なくとも逆シフト触媒14及びFT触媒16を含む。逆シフト触媒14は、銅を含む銅系触媒体であり、銅及び酸化亜鉛を含有してもよい。これにより、原料ガスに含まれる二酸化炭素から効率よく一酸化炭素を生成できる。また、本実施の形態に係る逆シフト触媒14は、銅系触媒体の作用による反応は吸熱反応であり、逆シフト触媒14をFT触媒16の吸熱部として利用できる。また、逆シフト触媒14とFT触媒16との間に、逆シフト触媒14及びFT触媒16の少なくとも一方の温度を調整する温度調整機構を備えてもよい。温度調整機構は、それ自体が吸熱する媒体を有するものであってもよく、あるいは、一連のプラントにおける他の熱源で冷却された熱伝達媒体を用いる機構であってもよい。これにより、FT触媒16が触媒反応で発熱する場合でも、比較的低温で利用できる。
【0028】
本実施の形態に係る第1のFT触媒16aは、鉄を含む鉄系触媒体であり、第2のFT触媒16bは、コバルトを含むコバルト系触媒体である。また、第1のFT触媒16aは、一酸化炭素と水素とを含有するガスが導入される上流側(逆シフト触媒14側)に配置され、第2のFT触媒16bは、第1のFT触媒16aよりも下流側に配置されている。
【0029】
第1のFT触媒16aは、逆シフト触媒14で未反応の二酸化炭素が導入される可能性があるため、第2のFT触媒16bよりも二酸化炭素耐性が高い触媒であるとよい。このように、上流側に配置された第1のFT触媒16aは、導入されるガスに二酸化炭素が含まれうるような炭化水素生成プロセスにおいても、二酸化炭素の影響による性能低下が生じにくい。例えば、第1のFT触媒16aに導入される原料ガスにおいて、二酸化炭素は10~85体積%含有していてもよい。
【0030】
また、第2のFT触媒16bは、第1のFT触媒16aにおける反応で生じた炭化水素(例えばCH種のようなメチレン基)の炭素の連鎖成長を促進できるように、第1のFT触媒16aよりも炭素の連鎖成長に対する活性が高い触媒であるとよい。
【0031】
このように、FT触媒16を反応特性の異なる複数のFT触媒で構成することで、反応器12内での温度分布のばらつきを抑え、所望の炭化水素を効率よく生成することができる。詳述すると、例えば、FT触媒16の上流側(逆シフト触媒14側)に、活性が比較的低いことで発熱が抑えられ、一酸化炭素からメチレン基(CH)を生成する反応を促進する第1のFT触媒16aを配置し、第1のFT触媒16aの下流側(反応器12の出口12b側)に、活性が比較的高く、炭素の連鎖成長反応を促進する第2のFT触媒16bを配置してもよい。
【0032】
また、反応特性が異なる他の例としては、一酸化炭素の転化速度が触媒ごとに異なる場合が挙げられる。例えば、第1のFT触媒16aの一酸化炭素転化速度[mol/s]は、第2のFT触媒16bの一酸化炭素転化速度[mol/s]の30~60%であってもよい。これにより、第1のFT触媒16aで一酸化炭素からCH種が過剰に作られることが抑制され、その後の第2のFT触媒16bで炭素の連鎖成長を促進する際に一酸化炭素が不足しにくくなる。なお、一酸化炭素転化速度とは、FT反応により一酸化炭素が減少する速度をいう。
【0033】
また、反応特性が異なる他の例としては、鉄等の担体に対する、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも一種の添加金属の添加量が触媒ごとに異なる場合が挙げられる。例えば、第1のFT触媒16aに対して添加金属がX質量%(X>0)未満担持されており、第2のFT触媒16bに対して添加金属がX質量%以上担持されていてもよい。これにより、第1のFT触媒16aよりも第2のFT触媒16bの活性を高くでき、例えば、第2のFT触媒16bが配置されている下流側において炭素の連鎖成長を促進できる。
【0034】
添加金属は、第1のFT触媒16aに対して0.5質量%以上20質量%以下担持され、第2のFT触媒16bに対して1質量%以上30質量%以下担持されていてもよい。なお、第1のFT触媒16aに添加する添加金属は、第2のFT触媒16に添加する添加金属と同じ元素であってもよいし、異なる元素であってもよい。添加金属が触媒ごとに異なる元素の場合は、触媒ごとの添加金属の添加量を同じにしてもよい。
【0035】
各触媒体の形態は、特に限定されず、例えば粉体であってもよく、粉体の凝集体からなる粒状の成形体であってもよい。粒状の成形体である触媒体の形状は、特に制限されず、例えば円柱状、角柱状、球状又は不定形であってもよい。粒状の成形体の粒径(最大幅)は、1mm以上50mm以下であってもよい。触媒体の粉体の粒径(最大幅)は、1μm以上1000μm未満であってもよい。
【0036】
逆シフト触媒14は、金属銅、若しくは酸化銅(CuO)、又はこれらの両方を含有する。銅系触媒体が触媒として機能する間、銅系触媒体は少なくとも金属銅を含む。そのため、触媒は、反応に用いられる前に還元処理される。還元処理前の銅系触媒体は、酸化銅を含むことが多い。
【0037】
銅系触媒体における銅成分の含有量は、銅系触媒体に含まれる銅成分の量を全て金属銅の量に換算したときに、銅系触媒体全体の質量を基準として、20~100質量%であることが好ましい。
【0038】
銅系触媒体は、酸化亜鉛(ZnO)を更に含有していてもよい。銅系触媒体が酸化亜鉛を含有することにより、液状の炭化水素をより一層効率的に生成させることができる。銅系触媒体に含まれる銅元素の量を全て酸化銅の量に換算したときに、酸化亜鉛の量の割合が、酸化銅と酸化亜鉛の合計量を基準として、10~70質量%であることが好ましく、20~50質量%であることが更に好ましい。
【0039】
銅系触媒体は、銅成分を担持する担体を更に含有してもよい。銅系触媒体が酸化亜鉛を含有する場合、通常、酸化亜鉛も担体に担持される。担体は、例えばγ-アルミナ等のアルミナであることが好ましい。銅系触媒体における担体の含有量は、銅の含有量、酸化亜鉛の含有量及びアルミナの含有量の合計を基準として、例えば0.5~60質量%であり、好ましくは1~50質量%、更に好ましくは1~40質量%である。ここでの銅の含有量は、銅系触媒体に含まれる銅成分の量を全て金属銅の量に換算した量を意味する。
【0040】
銅成分と酸化亜鉛を含有する銅系触媒体は、例えば、銅と亜鉛を含む沈殿物を共沈法により生成させる工程と、生成した沈殿物を焼成する工程とを含む方法によって得ることができる。沈殿物は、例えば、銅と亜鉛の水酸化物、炭酸塩又はこれらの複合塩を含む。銅と亜鉛を含む沈殿物を担体(例えばアルミナ)を含む溶液からの共沈法によって生成させることにより、銅成分、酸化亜鉛と担体を含有する銅系触媒体を得ることができる。
【0041】
焼成によって形成された、銅成分と酸化亜鉛を含有する焼成体を、粉体化してもよく、更に粉体を成形して粒状の成形体を形成してもよい。粉体を成形する方法の例としては、押出成形と錠剤成形が挙げられる。焼成体の粉体とカーボンブラックを含む混合物を成形して、成形体を得ることもできる。
【0042】
第1のFT触媒16aは、金属鉄、酸化鉄又はこれらの両方を含む鉄成分と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち少なくとも一方からなる添加金属とを含有する鉄系触媒体が好ましい。また、第1のFT触媒16aは、鉄成分以外に銅成分を含んだ鉄系触媒体-銅系触媒体であってもよい。鉄系触媒体が触媒として機能する間、通常、鉄系触媒体は少なくとも金属鉄を含む。そのため、触媒は、通常、反応に用いられる前に還元処理される。還元処理前の鉄系触媒体は、通常、酸化鉄(例えばFeやFe)を含む。
【0043】
鉄系触媒体における鉄成分の含有量は、鉄系触媒体に含まれる鉄成分の量を全て酸化鉄の量に換算したときに、鉄系触媒体全体の質量を基準として、5~100質量%であることが好ましい。
【0044】
添加金属は、アルカリ金属から任意に選択される1種以上を含む。例えば、添加金属が、ナトリウム、カリウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。当然、添加金属が2種以上であってもよい。添加金属が、ナトリウム、カリウム、又はセシウムを含むことにより、液状の炭化水素をより一層効率的に生成させることができる。
【0045】
鉄系触媒体における添加金属の含有量は、鉄系触媒体のうち添加金属以外の部分の量を基準として、0.2~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることが更に好ましい。添加金属がナトリウムを含む場合、鉄系触媒体におけるナトリウムの含有量が、0.2~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることが更に好ましい。添加金属がカリウムを含む場合、鉄系触媒体におけるカリウムの含有量が、0.2~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることが更に好ましい。添加金属がセシウムを含む場合、鉄系触媒体におけるセシウムの含有量が、0.2~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることが更に好ましい。添加金属の含有量が上記範囲内であると、一酸化炭素から炭化水素への転化率がより向上する傾向がある。
【0046】
鉄系触媒体は、例えば、Fe3+を含有する水溶液から三価の鉄を含む水酸化物の沈殿物を生成させる工程と、沈殿物を焼成して酸化第二鉄を含有する粉体を形成する工程と、粉体を添加金属を含む水溶液に混ぜて、次いで添加金属を含む水溶液を乾燥させる工程とを含む方法によって、得ることができる。
【0047】
酸化第二鉄を含有する粉体を更に成形して粒状の成形体を形成してもよい。粉体を成形する方法の例としては、押出成形及び錠剤成形が挙げられる。焼成体の粉体とカーボンブラックを含む混合物を成形して、成形体を得ることもできる。
【0048】
原料ガスから炭化水素を生成する反応を進行させる間、各触媒を加熱してもよい。反応のための加熱温度は、例えば200~400℃である。また、原料ガスは、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち一方のみを含んでいてもよいし、二酸化炭素と一酸化炭素を含む混合ガスであってもよい。
【実施例0049】
以下、実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
[銅系触媒体の調製:逆シフト触媒14]
γ-アルミナ(住友化学工業社製、BK-105)5.0gを、ホモミキサーで撹拌することによって純水1.0L中に懸濁させた。形成された懸濁液に、硝酸銅水和物(ナカライ試薬社製)31.7gと硝酸亜鉛水和物(ナカライ試薬社製)38.1gを含む水溶液300mLを室温で素早く加え、次いで室温で懸濁液を更に1時間撹拌した。その後、ホモミキサーによる撹拌を続けながら、炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)35.0gを含む水溶液300mLを、ローラーポンプを用いて室温にて5mL/分の滴下速度で滴下した。滴下により生成した沈殿物を含む懸濁液を、35℃で24時間放置することにより熟成させた。熟成後の懸濁液から、デキャント操作により上澄みを除去し、残った沈殿物を再び水で希釈した。このデキャントと希釈の操作を4回繰り返した。
【0051】
その後、吸引ろ過によって沈殿物を取り出し、これを再び純水中に懸濁させてから吸引ろ過により沈殿物を取り出す操作を4回繰り返した。この操作により沈殿物を十分に水洗した。得られた沈殿物を120℃で24時間の加熱により乾燥させた。乾燥後の沈殿物を、空気流通下で、150℃で1時間、200℃で1時間、250℃で1時間、300℃で1時間、350℃で1時間、400℃で4時間の順で加熱することにより、焼成した。焼成により、銅成分と酸化亜鉛を含有する銅系触媒体である黒色粉体を得た。この黒色粉体を乳鉢で微粉化し、微粉体を40MPaの圧力で成形することにより、直径3mm、高さ3mmの円柱状の成形体である銅系触媒体を得た。
【0052】
[鉄系触媒体の調製:第1のFT触媒16a]
硝酸鉄・九水和物(富士フイルム和光純薬製)146.9gを、純水120mlに70℃で撹拌しながら溶解させ、鉄イオンの濃度が3mol/Lの溶液を調整した。その溶液に、水酸化ナトリウム47.9gを純水70mlに融解させた水酸化ナトリウム溶液(16.6mol/L)を、溶液のpHが11~12になるように滴下し、水酸化鉄(III)(Fe(OH))の沈殿物を含有する溶液を作製した。この溶液に含まれる沈殿物を真空ポンプを用いてろ過し、得られたろ過物を、アルカリ金属が所定量以下となるように繰り返し洗浄した。その理由は、アルカリ金属が多く(不定量)残留していると、後のアルカリ金属添加工程において、担体である酸化第二鉄に担持させるアルカリ金属の添加量を調整することが難しくなるからである。
【0053】
その後、得られた沈殿物を120℃で12~20時間加熱し、乾燥した。乾燥後の沈殿物を、空気流通下で5℃/minの昇温速度で雰囲気温度を上げながら、最終的に400℃で5時間加熱することにより、焼成した。その結果、28.7gの酸化第二鉄(Fe)が得られた。
【0054】
次に、得られた酸化第二鉄5gを水酸化ナトリウム水溶液又は硝酸ナトリウム水溶液に融解し、120℃で12~20時間乾燥し、空気流通下で5℃/minの昇温速度で雰囲気温度を上げながら、最終的に400℃で5時間加熱することにより、焼成した。これにより、酸化第二鉄を主成分とする担体と、担体に担持されたアルカリ金属とを含有する鉄系触媒体の粉末が得られる。なお、水酸化ナトリウム水溶液に酸化第二鉄を溶解する場合は、焼成工程を省略し、乾燥工程だけでもよい。そして、粉末を成形し所定形態の成形体が得られる。以下の各実施例における鉄系触媒体は、直径2~3mmのフレーク状の形態である。
【0055】
なお、アルカリ金属としてカリウムを酸化第二鉄に担持させる場合には、水酸化カリウム水溶液や硝酸カリウム水溶液を用いればよい。また、アルカリ金属としてセシウムを酸化第二鉄に担持させる場合には、水酸化セシウム水溶液や硝酸セシウム水溶液を用いればよい。
【0056】
[コバルト系触媒体の調整:第2のFT触媒16b]
硝酸コバルト六水和物1.23gを純水1.50gに溶解させた。得られた水溶液を、球状アルミナ4g(住友化学製、KHA-24)に含侵し、110℃で一晩乾燥させた。この含浸及び乾燥を2回繰り返し、アルミナ担体に12.5質量%のコバルトが担持されたコバルト系触媒(Al担持Co系触媒)を得た。
【0057】
[各触媒の還元処理]
内径1.27cmの固定床式反応管に、各触媒体を順次充填し、反応管のガス入口側(上流側)から銅系触媒体、鉄系触媒体、コバルト系触媒体の順で配置した。続いて、大気圧下、1容量%の水素と窒素からなる流通ガスを、反応管内に200Ncc/分の流量で流通させながら、触媒の温度を室温から1時間かけて150℃まで昇温した。150℃に保ったまま、流通ガスに含まれる水素の濃度を2容量%、10容量%、20容量%、50容量%、及び100容量%の順に変更した。水素濃度100容量%の流通ガス(水素ガス)に変更してから、流通の状態を2時間保持した。その後、水素ガスの流通を継続しながら、触媒の温度を200℃/時間の速度で350℃まで昇温し、350℃で7時間保持することにより、触媒を還元処理した。
【0058】
(実施例2)
[鉄系触媒体の調製:第1のFT触媒16a]
実施例2では、鉄系触媒体の担体として四酸化三鉄(Fe)を調製した。三塩化鉄・六水和物(富士フイルム和光純薬製)15.8gと二塩化鉄・四水和物(富士フイルム和光純薬製)6.3gを、純水75mLと35%塩酸2.5mLの混合溶液に、60℃で撹拌しながら溶解させた。溶解後の溶液に、温度を60℃に保ったまま、5%アンモニア水336mLを滴下し、次いで溶液を1時間撹拌した。溶液中に沈殿物が生成した。デキャント操作により上澄みを除去し、残った沈殿物を400mLの純水で洗浄しながらろ過した。得られた沈殿物を70℃で6時間の加熱により乾燥させた。得られた黒色粉体を乳鉢で微粉化した。微粉体を40MPaの圧力で成形して、Feを含む直径2mm、高さ2mmの円柱状の成形体を得た。この成形体10gに、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)0.17gと純水4.63gを含む水溶液を含浸させ、成形体に含浸した水溶液を60℃、18時間の加熱により乾燥させて、鉄系触媒(NaFe)を含有する成形体である鉄系触媒体を得た。Feに対するナトリウムの割合は約1質量%と計算される。
【0059】
(実施例3)
[鉄-銅系触媒体の調製:FT触媒16a]
実施例3では、鉄を含む触媒として鉄-銅系触媒を調製した。硝酸鉄九水和物34.6gと硝酸銅三水和物2.3gを蒸留水に溶解させて、全容100mLの溶液を調製した。続いて、温度を70℃に保ったまま、5%アンモニア水をpH=8となるまで滴下した。滴下量は212mLであった。溶液を更に室温で15時間撹拌した後、生成した沈殿物をろ過により取り出し、これを蒸留水で洗浄した。沈殿物を120℃で6時間の加熱により乾燥させた。得られた粉体8gに、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)0.55gと純水3gを含む水溶液を含浸させ、60℃、18時間乾燥した。その後、粉体を350℃で3時間焼成して、鉄、銅とナトリウムを含有する鉄-銅系触媒を得た。鉄-銅系触媒に対するナトリウムの割合は約4質量%と計算される。
【0060】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る触媒システムを含む反応装置の概略構成について説明する。図2は、第2の実施の形態に係る固定床流通式反応装置の概略構成を示す模式図である。図2に示す反応装置20は、第1の実施の形態に係る反応装置10と比較して、逆シフト触媒が反応器12の内部に設けられていない点が大きな相違点である。なお、第1の実施の形態と同様の構成については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
【0061】
反応装置20は、触媒システムとして、上流側の入口12aから導入した原料ガスから生成された炭化水素を下流側の出口12bから排出するように構成された反応器12と、反応器12の入口12a側に配置された、FT法による反応に用いられる第1のFT触媒16aと、FT法による反応に用いられ、第1のFT触媒16aとFT法における反応特性が異なる第2のFT触媒16bと、を備える。反応装置20は、反応器12の入口12a側から導入された一酸化炭素と水素とを用いたFT法による反応により液状の油分を含む炭化水素を生成できる。
【0062】
以上、本発明を上述の各実施の形態や各実施例を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態や各実施例に限定されるものではなく、各実施の形態や各実施例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態や各実施例における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた各実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0063】
10 反応装置、 12 反応器、 12a 入口、 12b 出口、 14 逆シフト触媒、 16 FT触媒、 16a 第1のFT触媒、 16b 第2のFT触媒。
図1
図2