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特開2022-102729金属基材の表面処理方法、および表面処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102729
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】金属基材の表面処理方法、および表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
C23C28/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217634
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000154794
【氏名又は名称】株式会社放電精密加工研究所
(71)【出願人】
【識別番号】592190486
【氏名又は名称】木田精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽平
(72)【発明者】
【氏名】康 諭基泰
(72)【発明者】
【氏名】木田 潔
(72)【発明者】
【氏名】木田 貴文
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA02
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA02
4K044BA06
4K044BA10
4K044BA14
4K044BA17
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB04
4K044BC02
4K044CA04
4K044CA07
4K044CA11
4K044CA15
4K044CA16
4K044CA18
4K044CA53
4K044CA62
4K044CA71
(57)【要約】
【課題】製造効率に優れた金属基材の表面処理方法を提供する。
【解決手段】本発明の金属基材の表面処理方法は、金属基材の表面上に、前処理液を施す前処理工程、金属基材の表面上に、めっき液を施すめっき工程、金属基材の表面上に、シラン化合物および水を含む水性防錆表面処理液を施し、シリカ皮膜を形成するシリカ皮膜形成工程、および金属基材をベーキングするベーキング工程、をこの順に含むものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面上に、前処理液を施す前処理工程、
前記金属基材の表面上に、めっき液を施すめっき工程、
前記金属基材の表面上に、シラン化合物および水を含む水性防錆表面処理液を施し、シリカ皮膜を形成するシリカ皮膜形成工程、および
前記金属基材をベーキングするベーキング工程、
をこの順に含む、金属基材の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理方法であって、
前記前処理工程、前記めっき工程、前記シリカ皮膜形成工程、および前記ベーキング工程を、オンラインで連続処理する、表面処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面処理方法であって、
前記めっき工程の後、前記シリカ皮膜形成工程の前に、化成処理液を施し、前記金属基材の表面上に化成皮膜を形成する化成処理工程を含む、表面処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の表面処理方法であって、
前記化成処理液が、リン酸塩系化成処理液およびジルコニウム系化成処理液からなる群から選ばれる一又は二以上を含む、表面処理方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の表面処理方法であって、
前記化成処理工程の後から前記シリカ皮膜形成工程の前の間に、水洗処理を行うが、乾燥処理を行わない、表面処理方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の表面処理方法であって、
前記ベーキング工程が、150℃以上300℃以下の加熱処理を含む、表面処理方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の表面処理方法であって、
前記水性防錆表面処理液が、水分散性樹脂を含む、表面処理方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理方法であって、
前記水性防錆表面処理液が、無機コロイド粒子、シランカップリング剤、および有機金属化合物からなる群から選ばれる一又は二以上を含む、表面処理方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の表面処理方法であって、
前記前処理液、前記めっき液、および前記水性防錆表面処理液が、クロム成分を実質的に含まない、表面処理方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の表面処理方法であって、
前記金属基材が、鉄系基材、アルミニウム系基材、マグネシウム系基材、ニッケル系基材、およびコバルト系基材からなる群から選ばれる一又は二以上を含む、表面処理方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の表面処理方法であって、
前記めっき液が、亜鉛、ニッケル、およびスズからなる群から選ばれる一又は二以上の金属元素を含むめっき液を含む、表面処理方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の表面処理方法であって、
前記前処理液が、リン酸塩系前処理液、およびアルカリ系前処理液からなる群から選ばれる一又は二以上を含む、表面処理方法。
【請求項13】
金属基材の表面上に、前処理液を施す前処理部、
前記金属基材の表面上に、めっき液を施すめっき処理部、
前記金属基材の表面上に、シラン化合物および水を含む水性防錆表面処理液を施し、シリカ皮膜を形成するシリカ皮膜形成部、および
前記金属基材をベーキングするベーキング部、
をこの順にラインで連結した構成を備える、表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の表面処理方法、および表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで金属基材の表面処理方法について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、亜鉛めっき、ベーキング処理および6価クロム皮膜処理(クロメート処理)をこの順番で行う後処理システムが記載されている(特許文献1の請求項1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-3270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の後処理システムにおいて、製造効率の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記特許文献1に記載されるような一般的なめっき処理システムでは、前処理、めっき処理、ベーキング処理、およびクロメート処理(後処理)の順で行われている。めっき処理の直後にベーキング処理を施すことにより、めっき処理により基材中に生じた水素分子を、ベーキング処理により基材の外部に追い出すことで、金属基材における水素脆化を防止できる。
このような従来のベーキング処理は、クロメート処理の前に施される必要があった。理由としては、クロメート処理の後にベーキング処理を行うと、基材中に生じた水素分子を基材の外部に追い出すのが困難であること、またベーキング処理中の加熱によりクロメート皮膜に割れなどが生じる恐れがあること等が一例として挙げられる。なお、クロメート皮膜には70℃程度で脱水による収縮に伴いクラックが生じることが知られている。
しかしながら、ベーキング処理をクロメート処理の前に行う場合、加熱した金属基材を、冷却する工程、冷却待ち時間や冷却中の金属基材を一時保管するスペースが必要になるため、表面処理プロセス全体の製造効率が低下する恐れがある。
【0006】
本発明者はさらに検討したところ、めっき工程、シリカ皮膜形成工程、およびベーキング工程をこの順で行うことにより、上記のベーキング処理後の冷却工程が不要となり、冷却待ち時間を削減してリードタイムを短くできる。加えて、上記めっき処理システムで行われていたクロメート処理前の酸活性処理、およびクロメートを含めた亜鉛皮膜の活性処理も不要になる。
また、シリカ皮膜を採用することにより、上記のクロメート皮膜の場合と比べて、ベーキング工程時において、加熱による皮膜割れを抑制でき、また基材中の水素分子を外部に放出しやすくなる。
詳細なメカニズムは定かではないが、シリカ皮膜は、耐熱性材料であるシリカを含むので、皮膜割れを抑制できる、またシリカ皮膜は、クロメート皮膜と比べて密度が低く形成されるので、基材中に発生した水素分子の除去を容易にできると考えられる。
以上により、めっき工程、シリカ皮膜形成工程、およびベーキング工程をこの順で行うことにより、表面処理プロセス全体の製造効率を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、
金属基材の表面上に、前処理液を施す前処理工程、
前記金属基材の表面上に、めっき液を施すめっき工程、
前記金属基材の表面上に、シラン化合物および水を含む水性防錆表面処理液を施し、シリカ皮膜を形成するシリカ皮膜形成工程、および
前記金属基材をベーキングするベーキング工程、
をこの順に含む、金属基材の表面処理方法が提供される。
【0008】
また本発明によれば、
金属基材の表面上に、前処理液を施す前処理部、
前記金属基材の表面上に、めっき液を施すめっき処理部、
前記金属基材の表面上に、シラン化合物および水を含む水性防錆表面処理液を施し、シリカ皮膜を形成するシリカ皮膜形成部、および
前記金属基材をベーキングするベーキング部、
をこの順にラインで連結した構成を備える、表面処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造効率に優れた金属基材の表面処理方法、およびその方法を実行する表面処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の表面処理方法における工程フローの一例を示す図である。
図2】本実施形態の表面処理装置の構成の一例を示す図である。
図3】表面処理装置の構成の実施例を示す図である。
図4】表面処理装置の構成の参考例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の金属基材の表面処理方法、表面処理装置を概説する。
【0012】
本実施形態の金属基材の表面処理方法は、金属基材の表面上に、前処理液を施す前処理工程、金属基材の表面上に、めっき液を施すめっき工程、後処理工程の一つとして、金属基材の表面上に、シラン化合物および水を含む水性防錆表面処理液を施し、シリカ皮膜を形成するシリカ皮膜形成工程、および金属基材をベーキングするベーキング工程、をこの順に含む。
【0013】
上記の表面処理方法は、ベーキング工程を、後工程の前ではなく、後処理工程(シリカ皮膜形成工程)の後に実行する構成を備える。このため、めっき工程、シリカ皮膜形成工程、およびベーキング工程をこの順で行うことにより、上記のベーキング処理後の冷却工程が不要となり、冷却待ち時間を削減してリードタイムを短くできる。また、従来クロメート処理前に行われていた、ベーキング処理後の亜鉛皮膜の活性や水洗も不要になる。
このように、後処理を、従来のクロメート処理に代えてシリカ皮膜形成工程を採用し、このリカ皮膜形成工程の後にベーキング工程を行うことによって、従来のクロメート処理時に必要であった、冷却や活性等の複数のプロセスを削減できるので、プロセス全体のリードタイムを削減できる。そのため、製造効率に優れた金属基材の表面処理方法を実現できる。
【0014】
また、本実施形態の表面処理装置は、上記の金属基材の表面処理方法における各工程を実行する手段として、前処理部、めっき処理部、後処理部(シリカ皮膜形成部)およびベーキング部を備える。
【0015】
上記の表面処理装置では、前処理、めっき処理、ベーキング工程および後処理工程(例えばクロメート処理)の順で行う場合と比較して、設備コストを大きく低減させ、設備面積も省スペース化が可能である。簡易的な試算になるが、設備コストを15~25%程度、設備面積を25~35%程度、削減できる。
【0016】
上記の表面処理装置では、上記の表面処理方法で削減できるプロセスに対応する装置やスペースを不要となる。例えば、ベーキング処理により加熱した金属基材を、次の工程に搬送する前に一度冷却するまで、保管するスペースが不要になること、ベーキング装置に隣接する他の装置との間に配置していた断熱設備やスペースが不要になること、また、ベーキング処理後クロメート処理前の酸活性槽や水洗槽、クロメート処理後の脱水機が不要となる。
このように上記の表面処理装置では、全体の装置構成を削減でき、省スペース化も可能であるため、大幅なコストダウンを図ることが可能である。
【0017】
表面処理方法で使用する薬液の少なくとも一部または全てにおいて、クロム成分を実質的に含まないものを使用できる。具体的には、前処理液、めっき液、および水性防錆表面処理液が、クロム成分を実質的に含まないように構成されてもよく、前処理液、めっき液、化成処理液および水性防錆表面処理液が、クロム成分を実質的に含まないように構成されてもよい。これにより、クロムフリーの金属基材の表面処理方法や表面処理装置を実現できる。また、これらの表面処理方法や表面処理装置で生じた廃液にもクロムが含まれないため、廃液処理時における環境負荷を低減できる。
【0018】
本実施形態の表面処理方法では、前処理工程、めっき工程、シリカ皮膜形成工程、およびベーキング工程を、化成処理工程を有する場合は、化成処理工程を含む全ての各工程を、オンラインで連続処理することが可能である。すなわち、乾燥処理を経ずに、前処理工程の後から後処理工程、具体的にはシリカ皮膜形成工程の前までプロセスを連続して行うことができる。表面処理装置では、前処理部の後から後処理部の前までの間に脱水機の設置が不要になる。このとき、各工程や各部に使用する薬液として、乾燥(脱水)を行わなくても、次のプロセスに移行できるものを適切に選択する。例えば、水系薬液が好ましく使用できる。
【0019】
以下、本実施形態の金属基材の表面処理方法における各工程を詳述する。
【0020】
表面処理方法は、図1に示す通り、前処理工程、めっき工程、後処理工程、およびベーキング工程をこの順番で含む。
【0021】
前処理工程は、めっき前処理を含むものであれば特に限定されないが、金属基材の表面上に、前処理液を施す。これにより、金属基材の表面を清浄化できる。
【0022】
前処理は、例えば、液循環洗浄、超音波洗浄、バレル洗浄、および電界洗浄等の浸漬方法;スプレー洗浄などのスプレー(噴霧)方法;等を一または二以上行ってもよい。
【0023】
上記の洗浄方法に応じて適当な前処理液を用いる。前処理液としては、例えば、苛性ソーダ、ケイ酸塩、炭酸塩、リン酸塩、キレート剤、界面活性剤、消泡剤などの脱脂剤;塩酸、硫酸などの酸性液;ソルペントナフサ、ベンゼン、トリクロロエチレン、1,1,1一トリクロロエタン等の溶剤等が挙げられる。なお、上記酸性液は、必要に応じて、腐食抑制剤や酸洗促進剤などを含んでもよい。
【0024】
前処理工程における洗浄後や二以上の洗浄の間には、水洗、中和などの工程を行ってもよい。
前処理工程の一例としては、例えば、アルカリ脱脂→水洗→酸洗→水洗を採用してもよく、これに追加して電界脱脂→水洗→中和→水洗や電解脱脂→水洗等をさらに行ってもよい。
【0025】
前処理工程において、前処理液を用いた化学的洗浄方法を用いることにより、ブラスト洗浄などの物理的洗浄方法を比べて、清浄化安定性を向上できる。また、スケールアップも簡易的である。
【0026】
前処理液として、例えば、放電精密加工研究所社製、リン酸塩用表面調整剤「ZEC-PZ3」、やアルカリ脱脂剤「ZEC-ZC4」を水に溶解させた水系薬液として、リン酸塩系前処理液やアルカリ系前処理液等を用いてもよい。
【0027】
本明細書中、前処理液、めっき液、化成処理液、水性防錆表面処理液などの薬液を、金属基材に施す方法は、例えば、液体状の薬液中に浸漬させた状態で処理を行う浸漬方法、霧状の薬液と接触させた状態で処理を行うスプレー方法などを用いることができる。
【0028】
前処理液、めっき液、化成処理液、水性防錆表面処理液は、同一または異なる方法を用いて、金属基材に施されてもよい。好ましい形態の一つとしては、少なくともめっき液が浸漬方法を用いて施されてもよく、前処理液およびめっき液が浸漬方法を用いて施されてもよく、すべての薬液が浸漬方法を用いて施されてもよい。
【0029】
金属基材は、特に限定されないが、例えば、鉄系基材、アルミニウム系基材、マグネシウム系基材、ニッケル系基材、およびコバルト系基材からなる群から選ばれる一又は二以上を含んでもよい。
これらの基材は、それぞれ、鉄元素、アルミニウム元素、マグネシウム元素、ニッケル元素、あるいはコバルト元素を主成分として含む基材である。各基材は、副成分として、主成分以外の金属元素または非金属元素を、1種または2種以上含んでもよい。
【0030】
鉄系基材を構成する材料としては、各種の鉄鋼材料および鉄基合金を用いることができ、例えば、炭素鋼、合金鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガン鋼、工具鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、窒化鋼、肌焼鋼などが挙げられる。
【0031】
金属基材は、とくに限定されないが、ボルト、ナット、タッピングやスクリューネジ等のネジ、等の金属部品、金属板などの加工前材料などが用いられる。
【0032】
めっき工程は、前処理された金属基材の表面にめっき液を施して、めっき膜を形成する。
めっき工程の具体例の一つは、金属基材をめっき液に浸漬させ、その表面にめっき膜を形成する。めっき膜は、金属基材の表面の一部または全体に形成される。
【0033】
めっき膜の形成方法は、特に限定されないが、電気めっき、無電解めっき、および溶融めっき等が挙げられる。
電気めっきとして、例えば、亜鉛めっき、ニッケルめっき、スズめっき、亜鉛ニッケルめっき、ニッケルクロムめっき等が挙げられる。
無電解めっきとしては、例えば、無電解ニッケルめっき等が挙げられる。
溶融めっきとして、例えば、溶融亜鉛めっき等が挙げられる。
【0034】
めっき液は、金属塩や溶融金属等のめっき金属成分を含むものであればよく、例えば、亜鉛、ニッケル、およびスズからなる群から選ばれる一又は二以上の金属元素を含むめっき液を用いてもよい。めっき液は、上記のめっきの種類に応じて、公知の組成を用いることができる。
【0035】
後処理工程は、めっき膜が形成された金属基材の表面上に、後処理を施し、防錆皮膜を形成する。
後処理工程は、シリカ皮膜形成工程を少なくとも含み、好ましくは、化成処理工程およびシリカ皮膜形成工程をこの順で実施する工程を含む。
【0036】
化成処理工程は、めっき工程の後、シリカ皮膜形成工程の前に、化成処理液を施し、金属基材の表面のめっき膜上に化成皮膜を形成する。
【0037】
化成処理としては、公知の処理方法を採用することができるが、例えば、亜鉛、マンガン、鉄、カルシウムなどを含むリン酸塩処理;ジルコニウム、チタンおよびハフニウム等を含むジルコニウム系処理;セリウムやバナジウム、タングステンなどを含む化成処理;等が挙げられる。
【0038】
この中でも、環境負荷を低減する観点から、リン酸塩処理やジルコニウム系処理等の非クロム系化成処理を用いることができる。
【0039】
リン酸塩処理の場合、化成処理液として、例えば、亜鉛、マンガン、鉄およびカルシウムの少なくとも一以上を有するリン酸塩を含む、好ましくはリン酸亜鉛を含むリン酸塩系化成処理液を用いてもよい。リン酸亜鉛を含む化成処理液を用いることにより、化成皮膜として、リン酸亜鉛皮膜が得られる。
【0040】
ジルコニウム系処理の場合、化成処理液として、例えば、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムの少なくとも一以上を含む、好ましくはジルコニウムを含むジルコニウム系化成処理液を用いてもよい。ジルコニウムを含む化成処理液を用いることにより、化成皮膜として、ジルコニウム皮膜が得られる。
【0041】
化成処理液として、例えば、放電精密加工研究所社製、リン酸亜鉛を含む「ZEC-PZ」、リン酸マンガンを含む「ZEC-PM」、ジルコニウムを含む「ZEC-ZC」等、溶媒が水を含む水系薬液を用いてもよい。
【0042】
シリカ皮膜形成工程は、めっき膜または化成皮膜が形成された金属基材の表面上に、水性防錆表面処理液を施し、シリカ皮膜を形成する。
【0043】
ここで、水性防錆表面処理液の各成分について詳述する。
【0044】
水性防錆表面処理液は、シラン化合物および水を少なくとも含む。
水性防錆表面処理液を乾燥させることにより、シリカ皮膜を形成できる。
乾燥処理は、20~25℃の常温で乾燥してもよいが、適切な温度まで加熱して行ってもよい。例えば、60~100℃まで加熱してもよい。
シリカ皮膜は、水素ガスのガスバリア性が低い特性を有するため、ベーキング工程時において、金属基材中に発生した水素分子を外部に追い出すことの妨げになることを抑制できる。
【0045】
水性防錆表面処理液は、水分散性樹脂を含むことが好ましい。
水分散性樹脂は、成膜時に完全に反応しきらないで膜中に残存するH基やOH基、あるいは水分により、溶解され難いため、ケイ素皮膜の耐食性や耐熱性を向上できると考えられる。
水分散性樹脂の中でも、耐熱性の観点から、水分散性シリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0046】
シリカ皮膜として、上記のような耐熱性シリカ皮膜を採用することが好ましい。これにより、次のベーキング工程において高温条件の加熱処理が施された場合でも、シリカ皮膜における皮膜割れが生じることを抑制できる。
【0047】
本明細書中、耐熱性シリカ皮膜とは、200℃、4時間の条件で加熱したときに、皮膜中にクラックなどの膜割れが生じないものと定義できる。
【0048】
また、水性防錆表面処理液は、無機コロイド粒子、シランカップリング剤、および有機金属化合物からなる群から選ばれる一又は二以上を含んでもよい。
【0049】
<シラン化合物>
シラン化合物は、シランカップリング剤およびアルコキシシランからなる群から選ばれる一又は二以上を含む。
【0050】
シランカップリング剤としては、ケイ素原子上に、アルコキシ基等の加水分解性基および反応性官能基が結合したシラン化合物が用いられる。シランカップリング剤として、モノマー、オリゴマーのいずれか一方または両方を用いてもよい。
シランカップリング剤を用いることで、水性溶液として安定化させることができる。シランカップリング剤が、水性コロイダルシリカ等の成分間の親和性を向上できるため、安定な水性溶液(組成物)を形成することができる、と考えられる。
【0051】
上記シランカップリング剤は、例えば、一般式:(RSi(OR4―m(上記一般式中、Rは炭素数1~20を有する官能基、Rは低級アルキル基である。mは0~3の整数である。)で表されるアルコキシシラン、またはこれを加水分解し、縮重合させた化合物が用いられる。上記シランカップリング剤は、組成物中、その一部が加水分解していてもよい。
【0052】
上記一般式で表されるシランカップリング剤の具体例としては、例えば、Si(OCH、Si(OC、CHSi(OCH、CHSi(OC、CSi(OCH、CSi(OC、CH(O)CHCHO(CHSi(OCH、CH=C(CH)COO(CHSi(OCH、CH=CHCOO(CHSi(OCH、HN(CHSi(OCH、HS(CHSi(OCH、OCN(CHSi(OC等を挙げることができる。
【0053】
また、上記化学式において、R中の官能基としては、例えば、ビニル、3-グリシドキシプロピル、3-グリシドキシプロピルメチル、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチル、p-スチリル、3-メタクリロキシプロピル、3-メタクリロキシプロピルメチル、3-アクリロキシプロピル、3-アミノプロピル、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチル、N―フェニル―3-アミノプロピル、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル―3-アミノプロピル、3-ウレイドプロピル、3-メルカプトプロピル、3-イソシアネートプロピル等の基を例示できる。
【0054】
上記化学式中、低級アルキル基としては、具体的には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、1-エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチル等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0055】
上記シランカップリング剤として、水中に溶解できる水溶性シランカップリング剤が好ましい。
上記水溶性シランカップリング剤としては、例えば、官能基がエポキシ基を備えるシランカップリング剤(エポキシシラン)、または官能基がアミノ基を備えるシランカップリング剤(アミノシラン)を含むことができる。この中でも、耐食性の観点から、エポキシシランを用いることがより好ましい。
【0056】
上記エポキシシランとしては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシルエチル)トリメトキシシランなどのグリシジルまたはエポキシ基含有トリアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0057】
アルコキシシランとしては、ケイ素原子上に、アルコキシ基が結合し、水素基やアルキル基等の非反応性官能基が結合したシラン化合物が用いられる、例えば、アルキルアルコキシシランを用いることができる。アルコキシシランとして、モノマー、オリゴマーのいずれか一方または両方を用いてもよい。
アルキルアルコキシシランモノマーとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランおよびγ‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシランから選ばれた少なくとも1種を用いることができる。
【0058】
上記シランカップリング剤および/又はアルコキシシランの含有量は、水性防錆表面処理液中に、固形分換算で、例えば、0.1質量%~12質量%、好ましくは1質量%~11質量%、より好ましくは1.5質量%~10質量%である。
【0059】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
また、固形分とは、水やアルコール溶媒等の揮発成分を除いた残部を指す。この固形分は、水性防錆表面処理液を加熱処理した後、各成分の反応後に残存する残存物としてもよい。
【0060】
<水分散性樹脂>
上記水性防錆表面処理液は、水分散性樹脂を含んでもよい。水分散性樹脂は、水中に分散する樹脂で構成される。
【0061】
水分散性樹脂を構成する樹脂としては、水に分散できる樹脂の中から適宜選択すればよく、例えば、ポリアクリル酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、フェノール樹脂およびこれらの変性体を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この中でも、耐食性、皮膜の耐久性の観点から、水分散性樹脂として、ポリアクリル酸樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂等を用いてもよい。
【0062】
水分散性樹脂の含有量は、水性防錆表面処理液中、固形分換算で、例えば、1質量%~12質量%、好ましくは1.5質量%~11質量%、より好ましくは2質量%~10質量%である。上記下限値以上とすることで、皮膜の耐熱性や耐食性を向上できる。上記上限値以下とすることで、皮膜の物性のバランスを図ることができる。
また、水分散性樹脂の含有量は、上記シランカップリング剤100質量部に対して、固形分換算で、例えば、5質量部~300質量部、好ましくは10質量部~250量部、より好ましくは20質量部~200質量部である。
【0063】
<有機金属化合物>
有機金属化合物は、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、および有機アルミニウム化合物からなる群から選ばれる一又は二以上を含む。
【0064】
有機チタン化合物として、チタンキレート、チタンアルコキシド、チタンアシレート等が挙げられる。有機ジルコニウム化合物として、ジルコニウムキレート、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアシレート等が挙げられる。有機アルミニウム化合物として、アルミニウムキレート、アルミニウムアルコキシド等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、有機金属化合物は、モノマー、オリゴマーのいずれか一方または両方を用いてもよい。
【0065】
この中でも、水溶性遷移金属化合物として、有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物を用いてもよい。
【0066】
上記チタンキレートは、例えば、一般式:Ti(X)で表される有機化合物およびそのオリゴマーを用いることができる。上記一般式中Xは、水酸基、低級アルコキシ基、およびキレート性置換基から選ばれるものであり、4個のXは同一であっても、異なってもよい。
【0067】
上記有機金属化合物の含有量は、水性防錆表面処理液全体中、固形分換算で、例えば、0.01質量%~7質量%、好ましくは0.015質量%~5質量%、より好ましくは0.02質量%~3質量%である。
また、上記有機金属化合物の含有量は、上記シランカップリング剤100質量部に対して、固形分換算で、例えば、0.1質量部~50質量部、好ましくは0.5質量部~150量部、より好ましくは1質量部~20質量部である。
【0068】
ここで、水性防錆表面処理液が、二酸化チタン粉末および鱗片状金属亜鉛粉末の少なくとも一方を、好ましくは両方を含まないように構成されてもよい。二酸化チタン粉末や鱗片状金属亜鉛粉末を含まないことによって、水性防錆表面処理液における長期膜安定性を向上させ、シリカ皮膜における経時後の膜割れを抑制できる。
【0069】
<無機コロイド粒子>
上記水性防錆表面処理液は、水性コロイダルシリカ等の無機コロイド粒子を含んでもよい。
【0070】
水溶性コロイダルシリカは、水溶媒や、水を含む混合溶媒中に分散するもので、SiOで構成される無機粒子を含む。無機粒子の平均粒子径は、たとえば、1~200nmとしてもよい。
【0071】
水性防錆表面処理液は、水性コロイダルシリカ以外の、Al、ZrO、Fe等の無機酸化物で構成される無機コロイド粒子を含んでもよい。無機コロイド粒子は、水中に分散する無機粒子で構成される。
【0072】
水性コロイダルシリカを用いることで、水性防錆表面処理液から得られる皮膜についての強度を一段と向上させることができる。また、組成物中の分散性を高めることができるので、シリカ粒子が皮膜中に均一に分散した、ケイ素皮膜を形成できる。
【0073】
上記無機コロイド粒子または水性コロイダルシリカの含有量は、水性防錆表面処理液中に、固形分換算で、例えば、0.5質量%~12質量%、好ましくは0.6質量%~10質量%、より好ましくは0.8質量%~8質量%である。上記下限値以上とすることで、皮膜に適度な強度を付与できる。上記上限値以下とすることで、皮膜の物性のバランスを図ることができる。
【0074】
また、無機コロイド粒子または水性コロイダルシリカの含有量は、上記シランカップリング剤100質量部に対して、固形分換算で、例えば、10質量部~300質量部、好ましくは15質量部~200量部、より好ましくは20質量部~150質量部である。
【0075】
<溶媒>
上記の水性防錆表面処理液は、水を含有する溶媒を含む。この溶媒は、水のみを含む水溶媒で構成されていてもよく、水と水以外の親水性溶媒とを含む水系混合溶媒で構成されていてもよい。
【0076】
上記水としては、例えば、市水、蒸留水、イオン交換水等が挙げられる。
【0077】
上記親水性溶媒としては、アルコールなどの極性有機溶媒が挙げられる。溶液安定性の観点から、上記水系混合溶媒は、水とアルコールとの混合溶媒で構成されてもよい。水性防錆表面処理液中の各成分の化学的性質や配合量などを鑑み、水系混合溶媒中の水の含有比率を決定できる。
アルコールを用いることで、各成分の溶解性を向上させ、得られる水性防錆表面処理液の保存安定性を向上させることができる。
【0078】
上記アルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコールなどの沸点が100℃未満の低沸点アルコールや、iso-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノターシャルブチルエーテル(ETB)、ジホルムアルデヒドメトキシエタノールなどの沸点が100℃以上の高沸点アルコールを用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
上記アルコールの含有量は、水性防錆表面処理液中、例えば、0.1質量%~20質量%、好ましくは0.2質量%~12質量%、より好ましくは0.3質量%~10質量%である。上記の範囲内とすることで、組成物の長期保管安定性を高めることができる。また、上記上限値以下とすることによって、密着性を高めることができる。
【0080】
また、上記アルコールの含有量は、上記水およびアルコールの合計含有量100質量%中、例えば、0.1質量%~20質量%、好ましくは0.2質量%~15量%、より好ましくは0.3質量%~14質量%である。このような数値範囲内とすることで、水性防錆表面処理液の長期保管安定性を高めることができる。
【0081】
上記アルコールの含有量は、シランカップリング剤および水分散性樹脂の合計含有量100質量部に対して、例えば、1質量部~300質量部、好ましくは2質量部~200質量部、より好ましくは3質量部~170質量部である。上記下限値以上とすることにより、シランカップリング剤が安定的に溶解された組成物を実現できる。上記上限値以下とすることにより、水分散性樹脂の分散性を高めることができる。上記の範囲内とすることで、組成物の長期保管安定性を高めることができる。
【0082】
(他の成分)
上記水性防錆表面処理液は、上記成分以外にも、その他の添加剤を含むことができる。
その他の添加剤としては、通常、プライマー材料に含まれる各種添加剤を用いることができるが、例えば、防錆剤、pH調整剤、滑剤、防腐剤、充填材、着色剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、抗菌剤などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。添加剤の添加量は、用途に応じ適宜設定することができる。
【0083】
上記防錆剤として、例えば、リン酸系防錆剤などが用いられる。
上記リン酸系防錆剤は、高縮合リン酸塩または多価リン酸エステルを含むことができる。
上記水性防錆表面処理液は、高縮合リン酸塩および多価リン酸エステルのいずれか一方を含んでもよいが、両方を含んでもよい。
【0084】
上記水性防錆表面処理液は、高縮合リン酸塩を含むことができる。
上記高縮合リン酸塩は、4個以上のリン酸が脱水縮合してなる高縮合物の塩である。高縮合リン酸塩を用いることで、オルソリン酸、ピロリン酸、トリリン酸およびこれらの塩を用いた場合と比較して、組成物からなる皮膜の耐食性を向上させることができる。
【0085】
上記高縮合リン酸塩のリン酸の縮合度(分子内のリン酸由来の構造単位数)は、例えば、4以上、好ましくは5以上、より好ましくは6以上である。これにより、耐食性を高めることができる。一方、上記縮合度の上限値は、特に制限されるものではないが、たとえば、50以下、40以下、30以下としてもよい。
【0086】
上記多価リン酸エステルは、複数のリン酸エステル残基を有する化合物である。リン酸エステル残基は、リン酸モノエステル構造またはリン酸ジエステル構造を有する。リン酸エステル残基を形成するアルコール部分は、1級アルコール、2級アルコール、3級アルコールのいずれでもよい。
上記多価リン酸エステルの具体例としては、例えば、フィチン酸が挙げられる。
【0087】
上記防腐剤として、イソチアゾリン系化合物などが挙げられる。
【0088】
水性防錆表面処理液(水性防錆処理剤)の一例としては、組成物中に含まれる全ての成分が、水溶性成分または水分散性成分で構成されていてもよい。すなわち、上記水性防錆表面処理液は、水溶性成分または水分散性成分のみを含む水溶液で構成され得る。
【0089】
水性防錆表面処理液は、六価クロム、三価クロム等のクロム成分を実質的に含まない、クロムフリー防錆処理剤としてもよい。
【0090】
なお、本明細書において、クロム成分を実質的に含まないとは、六価クロムおよび三価クロムの量が、0.1質量%以下を指す。この六価クロムおよび三価クロムの量は、この特定の価数を有するクロムの塩の含有量を指すものとする。
【0091】
水性防錆表面処理液として、例えば、放電精密加工研究所社製「ZEC-W」シリーズ等を用いてもよい。
【0092】
上記水性防錆表面処理液の製造方法は、特に限定されないが、以下の各成分を混合することにより得られる。各成分の混合する順番は、限定されるものではなく、任意の順番で混合することが可能である。
【0093】
ケイ素皮膜の厚み(乾燥膜厚)の下限は、例えば、0.3μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上である。これにより、耐食性の効果を十分に発揮できる。
一方、上記ケイ素皮膜の厚みの上限は、特に限定されないが、例えば、100μm以下、50μm以下、30μm以下でもよい。
【0094】
ケイ素皮膜中、水性防錆表面処理液に含まれる各成分は、後述の通り、多様な架橋反応、空間配置、および/又は分散などした状態となる。ケイ素皮膜中、水を含む溶媒は、乾燥によって除去された状態であるが、不可避に残存する場合を許容する。
【0095】
詳細なメカニズムは定かでないが、ケイ素皮膜の構造は、以下の通りに推察される。
シランカップリング剤および/又はアルコキシシラン等のシラン化合物は、分子内に含まれるシリル基が加水分解縮合等の架橋反応などにより、二次元的構造および/又は三次元的架橋構造を有するケイ素皮膜を形成できる。
シラン化合物の加水分解縮合物と有機金属化合物との脱水縮合反応などによる架橋構造を有する皮膜が形成される。例えば、シラン化合物由来のケイ素原子と有機金属化合物由来の遷移金属原子との酸素原子を介した架橋構造が皮膜中に形成される。また、有機金属化合物は、シラン化合物、または、他に含まれる成分との化学的な結合を促進し、強度の高い皮膜を形成できる。
また、シラン化合物由来のケイ素原子や、有機金属化合物の金属原子が、酸素原子を介して、下地膜であるジンクリッチ塗膜に化学的に結合すること、ケイ素皮膜が下地膜に物理的に結合することによって、ケイ素皮膜とジンクリッチ塗膜との密着性を高められる。
また、このような皮膜中の空隙空間に、適切な粒径を有するシリカ等の無機粒子が適切に配置されるため、緻密性が高いケイ素皮膜が得られる。このシリカ等の無機粒子の表面には、酸素原子を介して、架橋構造中のシラン化合物のケイ素原子と化学結合を形成できる。
【0096】
ベーキング工程は、金属基材を加熱し脱水素処理を施すものであればとくに限定されない。
ベーキング工程の加熱処理の温度の下限は、例えば、150℃以上、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上である。これにより、脱水素効果を得られる。上記加熱処理の温度の上限は、例えば、300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下である。これにより、金属基材やその表面に形成された膜の劣化を抑制できる。
【0097】
ベーキング工程の加熱処理の時間は、例えば、1時間~24時間、好ましくは2時間~10時間、より好ましくは3時間~6時間である。上記の数値範囲内とすることにより、脱水素効果と製造効率のバランスを図ることができる。
【0098】
以上の各工程を経ることにより、表面被覆金属基材が得られる。この表面被覆金属基材は、優れた耐食性を備える。
【0099】
表面被覆金属基材の一例は、金属基材、めっき膜、およびシリカ皮膜をこの順で積層した構造を備える、または金属部材、めっき膜、化成皮膜、およびシリカ皮膜をこの順で積層した構造を備える。
【0100】
水性防錆表面処理液の好ましい態様の一例は、シラン化合物として、5~9質量%のエポキシシラン、水分散性樹脂として、2~9質量%のポリアクリル酸樹脂またはシリコーン樹脂、有機金属化合物として、1~7質量%のチタンキレート剤、無機コロイド粒子として、2~9質量%の水性コロイダルシリカ、および、溶媒として、1~10質量%のアルコール、残部の水、を含む。この水性防錆表面処理液は、必要において、リン系防錆剤として、0.2~1質量%の高縮合リン酸塩または多価リン酸エステル、防腐剤として0.01~0.2質量%のイソチアゾリン系化合物を含んでもよい。
上記の含有量は、下記成分の使用量を表す。
(シラン化合物)
・エポキシシラン1:3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(旭化成ワッカーシリコ-ン社製、GF-82、固形分:67質量%)
(水分散性樹脂)
・ポリアクリル酸樹脂1:水分散性アクリル樹脂(Stahl Polymers社製、固形分:60質量%)
・シリコーン樹脂1:水分散性シリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン社製、固形分:60質量%)
(有機金属化合物)
・チタンキレート剤1:チタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル社製、TC-300、固形分:20質量%)
(無機コロイド粒子)
・水性コロイダルシリカ1:(日産化学工業社製、スノーテックスST-O、酸性ゾル、粒子径:20nm、固形分:40質量%)
(リン系防錆剤)
・高縮合リン酸塩1:ウルトラリン酸ナトリウム(関東化学社製、直鎖状および環状のものが相互に結合した網目構造、固形分:100質量%)
・多価リン酸エステル1:フィチン酸(扶桑化学社製、固形分:100質量%)
(防腐剤)
・イソチアゾリン系化合物1:イソチアゾリン系化合物(三愛石油社製、IT-25XA、固形分:100質量%)
(溶媒)
・水1:イオン交換水
・アルコール1:イソプロピルアルコール(大伸化学社製)
【0101】
本発明者らは、上記の表面処理方法について以下の評価を行った。
鉄製の六角ボルト、複数本を、脱脂、水洗、酸洗、水洗を行い(前処理工程)、続いて、亜鉛めっき液に浸漬させて電解めっきを行い(めっき処理工程)、水洗、硝酸洗、水洗を行い、続いて、リン酸塩系化成処理液(ZEC-PC)またはジルコニウム系化成処理液(ZEC-ZC)に浸漬させ(化成処理工程)、水洗を行い、続いて、水性防錆表面処理液(ZEC-W)に浸漬させ(シリカ皮膜形成工程)、その後、200℃、4時間のベーキングを行い(ベーキング工程)、表面処理六角ボルトを回収した。
得られた表面処理六角ボルトは、鉄素地上に、約8μmの亜鉛めっき膜、約0.1μmの化成皮膜(リン酸亜鉛皮膜またはジルコニウム皮膜)、約1μmのシリカ皮膜を備えるものであった。
表面処理六角ボルトについて、シリカ皮膜の状態を確認するとともに、JIS Z2371に準拠し、塩水噴霧試験(SST、試験温度:35℃)を行い、白錆が発生した試験時間(h)を測定した。
化成皮膜がリン酸亜鉛皮膜およびジルコニウム皮膜のいずれの場合も、皮膜観察では、シリカ皮膜に皮膜割れが生じておらず、SST試験では、504時間まで錆が発生せず、1008時間でも白錆の発生はごく僅かであった。
このため、上記の表面処理方法は、優れた耐食性を有する表面被覆金属基材を安定的に実現できる結果を示した。
【0102】
本実施形態の金属基材の表面処理方法は、次のような変形例を有してもよい。
【0103】
変形例の一つとして、化成処理工程の後からシリカ皮膜形成工程の前までの間に、水洗処理を行うが、乾燥処理を行わないように構成してもよい。これにより、プロセスを連続実施可能になり、製造効率を高められる。
また、変形例の一つとして、ベーキング工程の後、さらに、金属基材の表面に水性防錆表面処理液を塗布してもよい。また、施工時や補修時に、金属基材の表面に水性防錆表面処理液をスプレーなどで吹きかけてもよい。
【0104】
以下、本実施形態の表面処理装置の各構成について詳述する。
図2は、表面処理装置100の構成の一例を示す図である。
【0105】
本実施形態の表面処理装置100は、前処理部10、めっき部20、後処理部30、およびベーキング部50をこの順にライン60で連結した構成を備える。表面処理装置100は、各部によって、上記の金属基材の表面処理方法における各工程を実行する。
【0106】
前処理部10は、金属基材(ワークW)の表面上に、前処理液を施す。
めっき部20は、金属基材の表面上に、めっき液を施す。
後処理部30は、少なくともシリカ皮膜形成部34を有し、好ましくは、化成処理部32およびシリカ皮膜形成部34を有する。後処理部30の一つであるシリカ皮膜形成部34は、金属基材の表面上に、シラン化合物および水を含む水性防錆表面処理液を施し、シリカ皮膜を形成する。
ベーキング部50は、金属基材をベーキングする。
ライン60は、ワークWの移動経路を意味し、ワークWを搬送する搬送キャリア(コンベヤ)の移動経路で構成される。
【0107】
図3には、実施例として、前処理工程、めっき工程、後処理工程(化成処理工程およびシリカ皮膜形成工程)およびベーキング工程をこの順で実行する処理表面処理装置100の具体的な構成の一例を示す。
図4には、参考例として、前処理工程、めっき工程、ベーキング工程、および後処理工程(クロメート処理)をこの順で実行する処理表面処理装置の具体的な構成を示す。
図3および図4中の矢印は、ワークWが移動する経路と順番を表す。
図3および図4中の番号は、表面処理装置100が備える前処理部10、めっき部20、後処理部30、およびベーキング部50等の各部を構成する構成装置に対応して付与される。表1には、図3および図4中の番号と実行タスクとの関係を示す。
図3の処理表面処理装置100は、図4の処理表面処理装置と比べて、全体の構成装置を削減でき、省スペース化も可能であるため、大幅なコストダウンを図ることが可能である。
省スペース化された表面処理装置100は、同じ施設内に全ての各部が配置されるよういに構成されてもよい。
【0108】
【表1】
【0109】
表面処理装置100では、ワークWを搬送キャリアで搬送する。
搬送キャリアとしては、天井走行式のハンガーや、ベルト式またはローラ式のコンベア等が挙げられる。例えば、搬送キャリアは、ワークWを、処理槽中のめっき液に入れ、めっき後、その処理槽から次の処理槽に搬送する。
【0110】
各部がライン60で連結した表面処理装置100は、全体として、連続式でワークWを処理できる。
【0111】
前処理部10、めっき部20、および後処理部30の各部は、薬液を保持する処理槽を備える。この処理槽は、浴槽、バレル、バスケットなどの構造で構成されてもよい。
処理槽中において、ワークWを薬液中に浸漬するか、またはワークWに対して薬液を噴霧する。このとき、処理槽および/またはワークWを回転させてもよく、または薬液を攪拌させてもよい。これにより、薬液処理効率を高められる。
【0112】
薬液は、処理槽に補給液タンクから補給される。表面処理装置100の運転中は、薬液は、自動的に補給されるように構成されてもよい。すなわち、表面処理装置100は、処理槽の薬液をサンプリング、液中の有効成分濃度を自動的に分析し、不足分を補給し、濃度を一定に保つ自動管理装置を備えてもよい。
【0113】
表面処理装置100は、さらに排水処理部を備えてもよい。使用済みの薬液は、排水処理部により外部に排出される。薬液としてクロム成分を実質的に含まないものを使用することによって、排水処理部が薬液を廃液処理する時の環境負荷を低減できる。
【0114】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0115】
W ワーク
10 前処理部
20 めっき部
30 後処理部
32 化成処理部
34 シリカ皮膜形成部
50 ベーキング部
60 ライン
100 表面処理装置
図1
図2
図3
図4