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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102773
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】椅子及びその背もたれ
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/40 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
A47C7/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217720
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙介
(72)【発明者】
【氏名】寺本 宜広
【テーマコード(参考)】
3B084
【Fターム(参考)】
3B084EA02
3B084EC01
3B084EC03
(57)【要約】
【課題】前後両面を露出させて多数の抜き穴を有する背板において、抜き穴の開口面積は小さくせずに必要な強度は確保しつつ透け感を高めて商品価値を向上させる。
【解決手段】背板2には、上下長手の抜き穴21の群が多段に形成されている。各抜き穴21の側縁に、エッジ部をカットして傾斜面23,24を設けられている。傾斜面23,24は、縦長中心線25を挟んだ左右両側で対称の形態になっている。傾斜面23,24によって抜き穴21の視認性が拡大するため、背板2が音きい面積で開口しているかのような高い透け感を人に与えることができる。傾斜面23,24を設けても帯板部26の断面積はさほど減少しないため、背板2に必要な強度は確保できる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面を露出させた背板に多数の抜き穴が形成されている背もたれであって、
前記抜き穴の群のうち少なくとも一部の抜き穴の縁部に、前記抜き穴に向けて厚さが薄くなるように傾斜して延びる傾斜面が設けられている、
椅子の背もたれ。
【請求項2】
前記傾斜面は、前記抜き穴を挟んで左右両側のうち一方では前面に設けられて、他方では後面に設けられている、
請求項1に記載した椅子の背もたれ。
【請求項3】
前記背板は、平面視で前向きに凹むように湾曲しており、
前記背板の縦長中心線を挟んだ左側のエリアでは、前記抜き穴の左側の前面と右側の後面とに前記傾斜面が設けられ、
前記縦長中心線を挟んで右側のエリアでは、前記抜き穴の右側の前面と左側の後面とに前記傾斜面が設けられている、
請求項2に記載した椅子の背もたれ。
【請求項4】
前記抜き穴の上縁と下縁とのうち少なくとも一方に、前記傾斜面が設けられている、
請求項1~3のうちのいずれかに記載した椅子の背もたれ。
【請求項5】
前記抜き穴の上縁と下縁とのうち少なくとも一方の前後両面に、前記傾斜面が設けられている、
請求項4に記載した椅子の背もたれ。
【請求項6】
前記各抜き穴は、四角形での長方形であって上下方向と左右方向とに多列・多段に並んでおり、
上下に隣り合って並んだ前記抜き穴の群が左右にずれるように千鳥配列されているか、
左右に隣り合って並んだ前記抜き穴の群が上下にずれるように千鳥配列されているか、若しくは、
上下の並んだ前記抜き穴の群と左右の並んだ前記抜き穴の群との両方が千鳥配列されている、
請求項1~5のうちのいずれかに記載した椅子の背もたれ。
【請求項7】
前記傾斜面が前記抜き穴の内面に対して成す角度は、45°よりも大きい角度になっており、
前記傾斜面の単幅寸法は、前記背板の厚さ寸法と同じ程度に設定されている、
請求項1~6のうちのいずれかに記載した椅子の背もたれ。
【請求項8】
着座者に着座される座と、
前記座を支持する脚と、
請求項1~7のうちのいずれかに記載した椅子の背もたれと、
を備える椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、椅子及び背もたれに関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子は様々な形態があり、オフィスで多用されている回転椅子は、キャスタを備えた脚装置、座、背もたれを主要要素としており、オプション品として肘掛け装置やヘッドレスト、ハンガーなどが取付けられている。また、回転椅子では、背もたれが後傾可能なリクライニング機能を備えていることが多い。このようなリクライニングにより、着座者は身体をリラックスさせて長時間の使用を継続することができる。
【0003】
椅子において快適性を保持する重要な要素の1つは、背もたれのフィット性やクッション性、当たりの柔らかさであり、そこで、背もたれの前面をクッション材で構成したり、メッシュ材で身体を支持したりしている。メッシュ材は、通気性に優れているため蒸れを防止できる利点もある。
【0004】
背もたれをメッシュ構造に構成することは通気性の点で有益であるが、メッシュ材は身体へのフィット性が必ずしもよくないという問題がある。また、メッシュ材は織地や編地からなっているため、デザインの自由性が低いという問題もある。
【0005】
そこで、背もたれを表裏両面を露出させた合成樹脂の背板で構成し、これをフレーム材に取付け、背板に、前後に開口した多数の抜き穴(透かし穴)を空けることにより、通気性を確保しつつ着座者へのフィット性を向上させることが行われており、その例が特許文献1に開示されている。
【0006】
特許文献1では、左右方向に並んだ菱形の抜き穴の列を多段に形成しつつ、上下に隣り合った抜き穴が左右にずれるように千鳥配列しており、このため、隣り合った抜き穴を区画する帯板部の群によって全体として斜め格子の形態が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-112728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、剥き出しタイプの背板に抜き穴の群を形成した場合、各抜き穴の大きさを大きくすると、背板の透け感(透過性)が高くなってフィット性に優れているような印象が高くなると共に軽快感も向上するが、現実には、強度面での要請から抜き穴の大きさには限度がある。そこで、強度を損なうことなく透過性を高くできると好適であるが、特許文献1を初めとした従来技術では、このような技術はもとより課題も示されていない。
【0009】
また、背板はある程度の厚さが必要であるため、抜き穴の内面にホコリが付着することがあり、そこで、雑巾やモップなどで拭き取る必要があるが、上記のとおり、抜き穴の大きさはあまり大きくできないため、雑巾やモップが内面に抜き穴の内面に当たらずに、拭き取りが不十分になりやすいという問題もあった。
【0010】
本願発明は、このような現状を改善することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は多くの構成を備えており、典型例を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は、
「前面を露出させた背板に多数の抜き穴が形成されている背もたれであって、
前記抜き穴の群のうち少なくとも一部の抜き穴の縁部に、前記抜き穴に向けて厚さが薄くなるように傾斜して延びる傾斜面が設けられている」
という構成になっている。
【0012】
請求項2の発明は請求項1の展開例であり、
「前記傾斜面は、前記抜き穴を挟んで左右両側のうち一方では前面に設けられて、他方では後面に設けられている」
という構成になっている。
【0013】
請求項3の発明は請求項2の展開例であり、
「前記背板は、平面視で前向きに凹むように湾曲しており、
前記背板の縦長中心線を挟んだ左側のエリアでは、前記抜き穴の左側の前面と右側の後面とに前記傾斜面が設けられ、
前記縦長中心線を挟んで右側のエリアでは、前記抜き穴の右側の前面と左側の後面とに前記傾斜面が設けられている」
という構成になっている。
【0014】
請求項4の発明は請求項1~3のうちのいずれかにおいて、
「前記抜き穴の上縁と下縁とのうち少なくとも一方に、前記傾斜面が設けられている」
という構成になっている。
【0015】
請求項5の発明は請求項4の発明の展開例であり、
「前記抜き穴の上縁と下縁とのうち少なくとも一方の前後両面に、前記傾斜面が設けられている」
という構成になっている。従って、請求項5では、抜き穴の上縁と下縁とのうち少なくとも一方は断面山形に形成されている。
【0016】
請求項6の発明は請求項1~5のうちのいずれかにおいて、
「前記各抜き穴は、四角形での長方形であって上下方向と左右方向とに多列・多段に並んでおり、
上下に隣り合って並んだ前記抜き穴の群が左右にずれるように千鳥配列されているか、
左右に隣り合って並んだ前記抜き穴の群が上下にずれるように千鳥配列されているか、若しくは、
上下の並んだ前記抜き穴の群と左右の並んだ前記抜き穴の群との両方が千鳥配列されている」
という構成になっている。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1~6のうちのいずれかにおいて、
「前記傾斜面が前記抜き穴の内面に対して成す角度は、45°よりも大きい角度になっており、
前記傾斜面の単幅寸法は、前記背板の厚さ寸法と同じ程度に設定されている」
という構成になっている。
【0018】
請求項8の発明は椅子に係るもので、この椅子は、
「着座者に着座される座と、
前記座を支持する脚と、
請求項1~7のうちのいずれかに記載した椅子の背もたれ」
を備えている。
【発明の効果】
【0019】
さて、人が椅子の背もたれを見る場合、多少なりとも斜め方向から見るのが普通である。そして、背もたれを真正面から見た場合は、抜き穴の面積がそのまま視界に入るが、斜め方向から見ると、抜き穴が縁のエッジ部で隠れるため、見た目の開口面積は小さくなる。
【0020】
これに対して本願発明では、縁部が傾斜面によって切欠かれた状態になっているため、斜め方向から見ても、エッジ部によって抜き穴が隠れる現象を抑制できる。また、抜き穴の縁部が薄くなることによって抜き穴の容積は増大するため、前後に開口した面積は増大しなくても、抜き穴の間口が広がった状態になって、見た目上の抜き穴の透過性は高くなる。
【0021】
そして、傾斜面は抜き穴の縁部に形成するものであるため、隣り合った抜き穴の間の板部に必要な断面積を確保して、背板としての必要な強度は確保できる。従って、本願発明では、抜き穴のエッジで視界が遮られることによる抜き穴の隠れ現象を抑制できることと、間口の広がり効果によって閉塞性を低減できることとにより、背板に必要な強度を確保しつつ透け感を向上できる。その結果、軽快でクッション性・フィット性に優れているような印象を人に与えて、商品価値を向上できる。
【0022】
また、傾斜面があるとそれだけ抜き穴が広がるため、掃除に際して雑巾やモップも抜き穴の内部まで届きやすくなる。従って、ホコリが付着した場合にこれを拭き取りやすくなる。個々の抜き穴の大きさを小さくしつつ数を多くした場合、抜き穴の大きさが小さくなるほどホコリを拭き取りにくくなるが、本願発明のように傾斜面を設けると、抜き穴を小さくしてもホコリを拭き取りやすくなるため、ホコリ対策を行いつつ抜き穴の大きさを小さくできる。従って、設計の自由性も向上できる。
【0023】
椅子はフロントビューの評価も大事であるが、人が腰掛けた状態で後面が人目に触れることは普通であるため、バックビューでの評価も大事である。従って、傾斜面は、背板の前面のみ又は後面のみに設けられても意義があるが、請求項2のように前後両面に設けると、フロントビューとバックビューとの両方において透け感を向上できるため、特に好適である。また、前後両面に傾斜面を設けると、掃除に際して雑巾やモップが前後両側から抜き穴の内面に届き易くなるため、請求項2の発明は清掃性の点でも有益である。
【0024】
背板は、人の背中の形態に合わせて平面視で前向きに凹むように湾曲させていることが多く、このような形態によって身体のフィット性を向上できるが、背板を平面視で湾曲させると、右から見た場合と左から見た場合とで抜き穴の見え方が相違する。
【0025】
従って、抜き穴の左右両側のうち片方だけに傾斜面を設けると、見た目のバランスを失してデザイン的には必ずしも良くないと云える。他方、各抜き穴の左右両側に傾斜面を設けると、特に抜き穴のピッチを詰めた場合には、板部が必要以上に薄肉化してしまう虞れがある。
【0026】
これに対して本願請求項4の構成を採用すると、傾斜面の姿勢・配置が左右対称になるためデザイン的にバランスが採れていて美観に優れており、かつ、透け感の形成効果も備えている。従って、請求項4の発明は現実性に優れていると云える。
【0027】
椅子は人の身長よりも低いため、人は背もたれを見下ろすようにして視認する。従って、抜き穴の上下縁も人目に触れるが、請求項4の構成を採用すると、上方から見下ろした状態での透け感も向上できる。また、ホコリは抜き穴の下面に多く付着しやすいため、特に抜き穴の下方の縁部に傾斜面を設けると、ホコリの除去の点で特に有益である。
【0028】
請求項5の発明は、既述のように抜き穴の上縁部又は下縁部を断面山形(台形も含む)に形成するものであり、フロントビューとバックビューとの両方での透け感を向上できるし、特に下縁の前後両側に傾斜面を設けると、ホコリの付着抑制に効果的であると共に、掃除に際して雑巾やモップを更に届きやすくできて好適である。
【0029】
本願発明において、抜き穴の形状や並びのパターンは任意に設定できるが、請求項6のように角形に形成すると、シンプルで落ち着いた印象を与えるため、一般性が高いといえる。また、隣り合った抜き穴の間の部分は帯板部になるため、背板の各部位において単位面積当たりの変形の程度を均一化できる。従って、使用者の押圧力に応じて背板を変形させて、高いフィット性とクッション性とを確保できる。
【0030】
また、左右の隣り合った帯板部は上下方向には千鳥配列されているため、抜き穴の群を上下に直線状に並べた場合に比べて帯板部群の長さが長くなって、背板を変形させやすくなる。従って、フィット性とクッション性とを更に向上できる。
【0031】
傾斜面の角度(エッジのヌスミ角度)や幅寸法は抜き穴の大きさなどに応じて設定できるが、一般的には、請求項7で特定した角度に設定すると、人に透け感を看取させることができるといえる。従って、現実的である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施形態の椅子を示す図で、(A)は前方から見た斜視図、(B)は側面図、(C)は平面図、(D)は後方から見た斜視図である。
図2】座部を省略した状態での前方斜視図である。
図3】(A)は背板の後方斜視図、(B)は背板の側面図である。
図4】(A)は背部を後方から見た分離斜視図、(B)は背部を前方から見た分離斜視図である。
図5】背板の正面図である。
図6】(A)は図5のVIA-VIA 視断面図、(B)は図5のVIB-VIB 視から見た部分的な断面図である。
図7】背もたれを下方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、これの方向は、普通に着座した人から見た状態として特定している。正面視方向は、着座者と対向した方向である。
【0034】
(1).椅子の概要
まず、椅子の概要を説明する。本実施形態の椅子は、オフィス等で多用されている回転椅子に適用している。図1,2に示すように、椅子は、主要部材として、座1と背板2、背板2が取り付けられたバックフレーム3、及び脚装置4を備えている。背板2は、エラストマーのような樹脂系の軟質材からなっている。なお、本実施形態では、背板2は背もたれと同義になる。
【0035】
脚装置4は、キャスタを備えた枝足の群を有している(図1(A)(D)において、キャスタは一部しか表示していない。)。また、図2に示すように、中央部に配置した脚支柱(ガスシリンダ)5にベース体6を固定し、ベース体6に、バックフレーム3がジョイント部材7を介して後傾動自在に連結されている。正確に述べると、バックフレーム3の下端には前向き部3aが一体に設けられており、前向き部3aがジョイント部材7に固定されて、ジョイント部材7は、ベース体6に左右長手の支軸8を介して後傾動自在に連結されている。
【0036】
支軸8は、ばね手段の一例としてのトーションバーを介してベース体6に回転自在に保持されている。従って、本実施形態の椅子は、背板2が弾性手段に抗して後傾動するリクライニングタイプである。なお、座1は、図示しないインナーシェルにクッション材を重ね保持して表皮材で覆った構造であり、インナーシェルは、図1(B)に示すアウターシェル9に取付けられている。アウターシェル9は、ベース体6とジョイント部材7とに相対回動自在に連結されている。従って、背板2が後傾すると、座1は背板2に連動して後傾する(シンクロする)。
【0037】
図4に示すように、バックフレーム3は、左右中間部に位置した上下長手の背支柱10と、その上端に水平旋回可能に取付けた左右長手のアッパサポート11と、背支柱10の下端に一体に設けた左右のロアサポート12とを有している。アッパサポート11は、背支柱10に内蔵したばねに抗して水平旋回する。なお、背支柱10及びアッパサポート11は合成樹脂製であるが、アルミダイキャスト品や板金加工品も採用できる。
【0038】
例えば図4のとおり、アッパサポート11は、背支柱10の軸心から左に向いた部分と右に向いた部分とを有していて両者は一体に繋がっており、左右両端は自由端になっている。そして、アッパサポート11は、手前に向けて凹むように(後ろに向けて膨らむように)、平面視で弓なりに反った形態になっており、その左右両端部に、背板2の左右両端部が連結されている。従って、アッパサポート11と背板2との間には大きな空間が空いている。この空間の存在により、背板2の上端部は、着座者の押圧力(体圧)によって後ろ向きに伸び変形する(凹み変形する)ことが許容されている。
【0039】
背板2の上端部の後面には、左右長手で板部状の上補強部材13がインサート成形や二色成形法によって一体に固着されており、上補強部材13の左右端部が、クリップ体14を介してアッパサポート11に連結されている。上補強部材13の左右両端部には、アッパサポート11に重なる上ボス部15が後ろ向きに突設されている。
【0040】
他方、図4に明示するように、ロアサポート12は、背面視において上面と下面とが先端に向けて高くなるように湾曲しており、かつ、左右ロアサポート12の下面と背支柱10の下面等で構成される下面(すなわち,バックフレーム3の下面)も、下向きに膨れた湾曲面になっている。従って、バックフレーム3は、全体として錨に似た形態になっている。
【0041】
ロアサポート12は、例えば図1(D)に示すように、平面視では、座の後部を抱くような状態で前向きに延びている。ロアサポート12は、平面視及び背面視で先端に向けて幅が小さくなっている。
【0042】
背板2の下端の後面には左右長手の下補強部材16がインサート成形法や二色成形法によって一体に固着されており、下補強部材16の左右端部がロアサポート12の先端部にビス17(図3参照)で固定されている。下補強部材16は多数のリブを備えた立体構造になっており、従って、剛体構造になっている。そして、下補強部材16の左右端部には、ロアサポート12に嵌まり込む下ボス部18が後ろ向き突設されている。上下の補強部材13,16は、ポリプロピレンやナイロン樹脂、ポリカーボネイト等の合成樹脂製である。
【0043】
図4から理解できるように、バックフレーム3の背面は、センターカバー19とサイドカバー20とで覆われている。すなわち、センターカバー19は、背支柱10の全体とロアサポート12の一部とを覆っており、サイドカバー20は、ロアサポート12の前半部の背面を覆っている。サイドカバー20を取り外すと、ロアサポート12に肘掛け装置を取付けできる。
【0044】
背板2は、着座者がもたれ掛かることによる押圧力によって容易に撓み変形する強度になっている。そして、背板2には、その変形を容易化するために、抜き穴21の列が多段に形成されている。背板2の下端部はロアサポート12に変形不能に固定されているが、背板2の上端部は、水平旋回可能なアッパサポート11の左右両端に取付けられている。従って、椅子に腰掛けた人が上半身を捩じると、ロアサポート12が水平旋回することにより、身体のねじれに追従して背板2が、曲がったり後ろ向きに凹んだりと弾性変形する。従って、上補強部材13は、使用者の押圧力によって弾性変形(曲がり変形)し得る。
【0045】
なお、ロアサポート12は座1よりも高い位置にせり上がっている。そこで、図1(A)(B)に示すように、座1の後部に、左右のせり上がり部1aを構成している。従って、座1による使用者の腰部(臀部)に対するホールド性が高くなっている。
【0046】
(2).背板の特徴
次に、主として図5~7を参照して背板2の詳細を説明する。抜き穴21は上下長手の長方形に形成されており、各段において左右方向に整列して並ぶと共に、上下の並びを見ると、上下に隣り合った抜き穴21は左右方向にずれている。すなわち、抜き穴21は、左右方向には直線状に並んで、上下方向には千鳥配列されている。
【0047】
そして、図6(A)に明示するように、各抜き穴21には、前面の後面との側縁に、エッジをカットしたフロント傾斜面23とリア傾斜面24とが設けられている。この場合、フロント傾斜面23は、背板2を左右に二分する縦長中心線25から遠い側の側縁に設けられて、リア傾斜面24は、縦長中心線25に近い側の側縁に設けられている。
【0048】
端的に述べると、縦長中心線25を挟んで左側では、フロント傾斜面23は抜き穴21の左側縁(左前面)に設けられて、リア傾斜面24は抜き穴21の右側縁(左後面)に設けられている一方、縦長中心線25を挟んで右側では、フロント傾斜面23は抜き穴21の右側縁(右前面)に設けられて、リア傾斜面24は抜き穴21の左側縁(左後面)に設けられている。従って、左右に隣り合った抜き穴21のフロント傾斜面23とリア傾斜面24とが略平行な姿勢になっている。
【0049】
縦長中心線25の箇所にも抜き穴21が配置されているが、縦長中心線25の箇所に位置した抜き穴21については、フロント傾斜面23は左右に設けられて、リア傾斜面24は設けられていない。
【0050】
結局、フロント傾斜面23とリア傾斜面24とは、縦長中心線25を挟んで左右対称の形態に設けられている。隣り合った抜き穴21の間の部分や抜き穴21の群の左右外側の部分は帯板部26になっているが、縦長中心線25の箇所に位置した帯板部26の後面には、左右のリア傾斜面24が設けられている。フロント傾斜面23及びリア傾斜面24が抜き穴21の内側面に対して成す角度θは約50度程度になっている。また、傾斜面23,24の幅寸法Wは、背板2の板厚Tよりもやや大きい値になっている。
【0051】
図6(B)に示すように、各抜き穴21の上下縁を見ると、下縁には前後の傾斜面27,28が設けられて、上縁には傾斜面は設けられていない。下縁における前後傾斜面27,28の上端は交叉している。従って、各抜き穴21の下縁は断面山形に形成されている。
【0052】
(3).まとめ
以上のとおり、本実施形態では、各抜き穴21の側縁に傾斜面23,24が設けられているため、人が斜め方向から背板2を見たときに、抜き穴21がエッジで隠れる現象を防止して、帯板部26の断面積を過剰に小さくすることなく、背板2の透け感を向上できる。その結果、背板2に必要な強度を保持させつつ、フィット性・クッション性に優れた背板2であるという印象を人に与えることができて、椅子の商品価値を向上できる。ホコリの除去に有益であることは、既に述べたとおりである。
【0053】
また、傾斜面23,24はエッジをカットする肉ヌスミして設けられているため、抜き穴21の間口が広がった状態になっており、この点も、背板2の透け感の向上に貢献している。本実施形態のように前後両面に傾斜面23,24を設けられると、フロントビューとバックビューとの両方で透け感を向上できるため、特に好適である。
【0054】
また、本実施形態のように、抜き穴21の下縁にも傾斜面27,28を設けられると、透け感の向上に貢献できるのみならず、ホコリの付着(堆積)を抑制できて好適である。特に、前後の傾斜面27,28を交叉させて下縁を山形に設けられると、ホコリの付着防止や拭き取りの容易性の点から更に好適である。
【0055】
さて、本実施形態では、背板2の上部の後面に上補強部材13が固着されているが、上補強部材13はある程度の上下幅があるため、上補強部材13が固着されている部分では抜き穴21は開口していない。しかし、抜き穴21の群は背板2の左右側端まで広がっているため、背板2の前面について上補強部材13の箇所を単なる平坦面に構成すると、背板2の前面の上端部に幅広の余白部が設けられて、左右側部とのバランスを失して美観低下が懸念される。
【0056】
この点について、本実施形態では、図5図7に示すように、上段の各抜き穴21に、当該抜き穴21を上向きに延長させた状態で角形の凹溝(ダミー溝)29を形成して、恰も抜き穴21が背板2の上端縁まで延びているかのように見せている。これにより、背板2の上端部の強度を保持しつつ、抜き穴21の群の広がり感を演出して美観を確保している。
【0057】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、抜き穴21の形状は縦長長方形に限らず、正方形や縦長小判形など、様々な形態を採用できる。異なる形状を組み合わせることも可能である。バックフレームは、実施形態では1本の支柱を有した形態であるが、左右の側枠を有する口字形の形態やY形の形態など、様々な形態を採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願発明は、椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0059】
2 背板
3 バックフレーム
10 背支柱
11 アッパーサポート
12 ロアサポート
13 上補強部材
16 下補強部材
21 抜き穴
23 側縁のフロント傾斜面
24 側縁のリア傾斜面
25 縦長中心線
26 帯板部
27 下縁のフロント傾斜面
28 下縁のリア傾斜面
29 凹溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7