(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102786
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】二酸化炭素固定方法、二酸化炭素の回収方法、二酸化炭素固定装置、および環境配慮型産業設備
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20220630BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20220630BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20220630BHJP
【FI】
B01J19/00 C
B01J19/00 A
B01D53/14 200
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217738
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 則昭
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジャジェ
(72)【発明者】
【氏名】土屋 範芳
【テーマコード(参考)】
4D020
4G075
4G146
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA01
4D020BA02
4D020BA03
4D020BA04
4D020BA05
4D020BB03
4D020DA03
4D020DB06
4D020DB08
4G075AA04
4G075AA15
4G075BA08
4G075BB05
4G075CA02
4G075CA51
4G146JA02
4G146JC05
4G146JD02
(57)【要約】
【課題】材料コストや設備コストを低減することができる二酸化炭素固定方法、二酸化炭素の回収方法、二酸化炭素固定装置、および環境配慮型産業設備を提供する。
【解決手段】水溶液形成工程で、炭酸イオンと化合して炭酸塩鉱物を形成可能な金属元素を含む原料と、キレート剤とを含むアルカリ性の水溶液を形成する。分離工程で、その水溶液中で、金属元素とキレート剤とを反応させて、原料から金属元素を金属イオンとして分離する。鉱物形成工程で、その水溶液に、炭酸イオンを生成可能な化合物を加えることにより、その化合物から生じた炭酸イオンと金属イオンとを反応させて炭酸塩鉱物を形成する。pH低下工程で、その水溶液に、二酸化炭素ガスを注入して、水溶液形成工程で形成した水溶液のpHの値またはその値の近傍までpHを低下させる。繰り返し工程で、その水溶液に、新たな原料を加えて、分離工程からpH低下工程までを行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸イオンと化合して炭酸塩鉱物を形成可能な金属元素を含む原料と、キレート剤とを含むアルカリ性の水溶液を形成する水溶液形成工程と、
前記水溶液中で、前記金属元素と前記キレート剤とを反応させて、前記原料から前記金属元素を金属イオンとして分離する分離工程と、
前記分離工程後の水溶液に、その水溶液中で炭酸イオンを生成可能な化合物を加えることにより、前記化合物から生じた炭酸イオンと前記金属イオンとを反応させて炭酸塩鉱物を形成する鉱物形成工程と、
前記鉱物形成工程後の水溶液に、二酸化炭素ガスを注入して、前記水溶液形成工程で形成した水溶液のpHの値またはその値の近傍までpHを低下させるpH低下工程と、
前記pH低下工程後の水溶液に、前記原料と同種の新たな原料を加えて、前記分離工程から前記pH低下工程までを行う繰り返し工程とを、
有することを特徴とする二酸化炭素固定方法。
【請求項2】
前記繰り返し工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項3】
前記原料は、前記金属元素として、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、およびマンガンのうちの少なくとも1つを含んでおり、ケイ酸塩鉱物、鉄鋼スラグ、および廃棄物のうちの1または複数から成ることを特徴とする請求項1または2記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項4】
前記化合物は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、および二酸化炭素のうちの少なくとも1つから成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項5】
前記水溶液形成工程で形成する水溶液は、pHが8乃至10であり、
前記分離工程は、5℃以上80℃以下の温度で、前記金属元素と前記キレート剤とを反応させ、
前記鉱物形成工程は、70℃乃至170℃の温度で、前記炭酸イオンと前記金属イオンとを反応させることを
特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項6】
前記分離工程は、前記原料から前記金属元素を分離後の水溶液から固体成分を回収し、
前記鉱物形成工程は、前記炭酸塩鉱物を形成した後、その炭酸塩鉱物を回収し、
前記pH低下工程は、pHを低下させた後、固体成分を回収することを
特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項7】
前記水溶液形成工程で形成する水溶液は、水に前記原料と前記キレート剤とを加えて形成することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定方法により、二酸化炭素排出による環境負荷の高い産業から排出される二酸化炭素を回収することを特徴とする二酸化炭素の回収方法。
【請求項9】
炭酸イオンと化合して炭酸塩鉱物を形成可能な金属元素を含む原料と、キレート剤とを含むアルカリ性の水溶液を形成するよう設けられた水溶液形成部と、
前記水溶液中で、前記金属元素と前記キレート剤とを反応させて、前記原料から前記金属元素を金属イオンとして分離するよう設けられた分離部と、
前記分離部で前記金属イオンを分離した後の水溶液に、その水溶液中で炭酸イオンを生成可能な化合物を加えることにより、前記化合物から生じた炭酸イオンと前記金属イオンとを反応させて炭酸塩鉱物を形成するよう設けられた鉱物形成部と、
前記鉱物形成部で前記炭酸塩鉱物を形成後の水溶液に、二酸化炭素ガスを注入して、前記水溶液形成部で形成された水溶液のpHの値またはその値の近傍までpHを低下させるよう設けられたpH低下部と、
前記pH低下部でpHを低下させた水溶液に、前記原料と同種の新たな原料を加えるよう設けられた原料追加部とを有し、
前記原料追加部で前記新たな原料を加えた水溶液を前記分離部に供給し、前記分離部から前記鉱物形成部、前記pH低下部まで順次移動させるよう構成されていることを
特徴とする二酸化炭素固定装置。
【請求項10】
請求項9記載の二酸化炭素固定装置を備えていることを特徴とする環境配慮型産業設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素固定方法、二酸化炭素の回収方法、二酸化炭素固定装置、および環境配慮型産業設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化の急速な進行にともない、大気中の二酸化炭素(CO2)を大規模かつ迅速に削減することが求められている。二酸化炭素を削減する有力な方法の一つとして、二酸化炭素の長期貯蔵を目的として、二酸化炭素を難水溶性炭酸塩鉱物として固定化(鉱物化)する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来、鉱物化による二酸化炭素固定方法として、まず、酸を大量に使用した低pH条件下(例えば、pH<4)で、岩石や産業廃棄物を溶解して金属イオン(Ca2+、Mg2+)を抽出した後、アルカリを添加した高pH条件下(例えば、pH>9)で、抽出した金属イオンを炭酸化させて炭酸塩鉱物を析出させる、いわゆるpHスイング(pH-swing process)と呼ばれる方法が開発されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
また、地中での水熱反応を考慮した方法として、高濃度の配位子NaHCO3を触媒として利用することにより、225~300℃の温度条件下で、カンラン石[(Mg,Fe)2SiO4)]の溶解が大幅に促進され、マグネサイト(MgCO3)の形成による二酸化炭素固定が可能であることが、本発明者等により見出されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sandra O. Snabjornsdottir, Bergur Sigfusson, Chiara Marieni, David Goldberg, Sigurdur R. Gislason and Eric H. Oelkers, “Carbon dioxide storage through mineral carbonation”, Nature Reviews Earth & Environment, February 2020, Volume 1, p.90-102
【非特許文献2】Amin Azdarpour, Mohammad Asadullah, Radzuan Junin, Muhammad Manan, Hossein Hamidi, Ahmad Rafizan Mohamad Daud, “Carbon Dioxide Mineral Carbonation Through pH-swing Process: A Review”, Energy Procedia, 2014, 61, p.2783-2786
【非特許文献3】Jiajie Wang, Noriaki Watanabe, Atsushi Okamoto, Kengo Nakamura, Takeshi Komai, “Enhanced hydrogen production with carbon storage by olivine alteration in CO2-rich hydrothermal environments”, Journal of CO2 Utilization, 2019, 30, p.205-213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献2に記載のpHスイングでは、pH調整のための薬品を大量に使用するため、その材料コストが嵩むという課題があった。また、非特許文献3の方法は、アルカリ性条件下での岩石の熱水変質による二酸化炭素鉱物化の分野を新たな開拓するものであるが、カンラン石溶解時の温度が高いため、工業的に大規模に実施する場合には、設備コストが嵩む可能性がある。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、材料コストや設備コストを低減することができる二酸化炭素固定方法、二酸化炭素の回収方法、二酸化炭素固定装置、および環境配慮型産業設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る二酸化炭素固定方法は、炭酸イオンと化合して炭酸塩鉱物を形成可能な金属元素を含む原料と、キレート剤とを含むアルカリ性の水溶液を形成する水溶液形成工程と、前記水溶液中で、前記金属元素と前記キレート剤とを反応させて、前記原料から前記金属元素を金属イオンとして分離する分離工程と、前記分離工程後の水溶液に、その水溶液中で炭酸イオンを生成可能な化合物を加えることにより、前記化合物から生じた炭酸イオンと前記金属イオンとを反応させて炭酸塩鉱物を形成する鉱物形成工程と、前記鉱物形成工程後の水溶液に、二酸化炭素ガスを注入して、前記水溶液形成工程で形成した水溶液のpHの値またはその値の近傍までpHを低下させるpH低下工程と、前記pH低下工程後の水溶液に、前記原料と同種の新たな原料を加えて、前記分離工程から前記pH低下工程までを行う繰り返し工程とを、有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る二酸化炭素固定方法は、まず、水溶液形成工程で、原料とキレート剤とを含むアルカリ性の水溶液を形成することにより、分離工程で、その金属元素とキレート剤とを反応させて、原料から金属元素を金属イオンとして分離することができる。また、分離工程では、金属元素の分離により、水溶液のpHを上昇させることができる。
【0010】
次に、鉱物形成工程で、分離工程後の水溶液に、その水溶液中で炭酸イオンを生成可能な化合物を加えることにより、その化合物から生じた炭酸イオンと金属イオンとを反応させて、炭酸塩鉱物を形成することができる。このとき、分離工程により水溶液のpHが上昇しているため、炭酸イオンと金属イオンとの反応を促進することができる。これにより、二酸化炭素を炭酸塩鉱物として固定化することができる。
【0011】
次に、pH低下工程で、鉱物形成工程後の水溶液に、二酸化炭素ガスを注入し、水溶液形成工程で形成した水溶液のpHの値またはその値の近傍までpHを低下させると共に、水溶液中の炭酸イオン濃度を増大させることができる。また、pHの低下により、原料の種類に応じて、鉱物形成工程での鉱物形成とは無関係な成分またはその一部を、水溶液中に析出させることができる。
【0012】
次に、繰り返し工程で、pH低下工程後の水溶液に、新たな原料を加えることにより、その原料に含まれる金属元素から生じる金属イオンや、1回目の鉱物形成工程で消費されなかった金属イオンと、pH低下工程で濃度が増加した炭酸イオンとを反応させて、炭酸塩鉱物を形成することができる。これにより、二酸化炭素を炭酸塩鉱物として固定化することができる。
【0013】
また、炭酸イオンとの反応で消費される量より多くの金属イオンが生じるよう、新たな原料を加えることにより、2回目の分離工程で、新たな原料に含まれる金属元素と、水溶液中に残っているキレート剤とを反応させて、原料から金属元素を金属イオンとして分離することができる。このとき、水溶液形成工程で投入したキレート剤は、その後の工程で消費されないため、2回目の分離工程でも再利用することができる。このように、2回目の分離工程を、1回目の分離工程とほぼ同じ条件で行うことができ、2回目の鉱物形成工程およびpH低下工程も、それぞれ1回目と同様に行うことができる。これにより、2回目の鉱物形成工程でも、二酸化炭素を炭酸塩鉱物として固定化することができる。
【0014】
このように、本発明に係る二酸化炭素固定方法は、1回目および2回目の鉱物形成工程、ならびに繰り返し工程での新たな原料投入時に、二酸化炭素を固定することができ、環境問題で注目される二酸化炭素の削減に寄与することができる。本発明に係る二酸化炭素固定方法は、アルカリ性条件下で二酸化炭素を固定化することができ、pHスイングのようにpH調整のための薬品が不要であるため、その材料コストを低減することができる。また、一度投入されたキレート剤を再利用することができるため、その材料コストも低減することができる。また、比較的低温で二酸化炭素を固定化することができ、設備コストも低減することができる。
【0015】
本発明に係る二酸化炭素固定方法について、原料に含まれる金属元素は、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、マンガンなど、炭酸塩(炭酸塩鉱物とも呼ばれる)を形成可能な元素であればいかなるものであってもよく、それらの元素のうちの少なくとも1つを含んでいることが好ましい。また、原料は、それらの金属元素を含むものであればいかなるものであってもよく、比較的入手が容易なケイ酸塩鉱物、鉄鋼スラグ、および廃棄物由来のもののうちの1または複数から成ることが好ましい。キレート剤は、金属イオンと反応可能であればいかなるものであってよく、例えば、キレート剤の配位子元素には、窒素、酸素、硫黄(いおう)、リン又はヒ素等が挙げられる。キレート剤は、公知な材料から、具体的には、生分解性のGLDA(N,N-Dicarboxymethyl glutamic acid)やEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る二酸化炭素固定方法で、鉱物形成工程で加える化合物は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、二酸化炭素など、分離工程後の水溶液中で炭酸イオンを生成可能なものであればいかなるものであってもよく、例えば、それらの化合物のうちの少なくとも1つから成ることが好ましい。
【0017】
本発明に係る二酸化炭素固定方法は、鉱物形成工程での炭酸イオンと金属イオンとの反応をより促進するために、分離工程後の水溶液(鉱物形成工程で使用する水溶液)のpHが、10乃至14であることが好ましい。分離工程により水溶液のpHが上昇するため、分離工程後の水溶液のpHを10乃至14にするためには、水溶液形成工程で形成するアルカリ性の水溶液のpHが、8乃至10であることが好ましく、8.5以上であることが特に好ましい。この場合、分離工程での反応も促進することができる。
【0018】
本発明に係る二酸化炭素固定方法で、分離工程は、原料中の金属元素とキレート剤との反応を促進するために、5℃以上80℃以下の温度で行うことが好ましく、室温で行ってもよい。鉱物形成工程は、炭酸イオンと金属イオンとの反応を促進するために、70℃乃至170℃の温度で行うことが好ましい。pH低下工程は、5℃以上80℃以下の温度で行うことが好ましく、室温で行ってもよい。
【0019】
本発明に係る二酸化炭素固定方法で、水溶液形成工程は、水に原料とキレート剤とを加えて水溶液を形成することが好ましい。分離工程は、金属元素を分離後、水溶液に溶けずに残存した固体成分を回収してもよい。また、鉱物形成工程は、形成された炭酸塩鉱物を、反応後の水溶液から回収することが好ましい。また、pH低下工程は、pHを低下させた後、析出した固体成分を回収してもよい。
【0020】
本発明に係る二酸化炭素固定方法は、前記繰り返し工程を複数回繰り返してもよい。この場合、繰り返し工程での新たな原料投入時や各鉱物形成工程で、連続的に二酸化炭素を固定化することができる。また、水溶液形成工程で投入したキレート剤を、繰り返し工程での各分離工程で繰り返し使用することができ、材料コストをさらに低減することができる。
【0021】
本発明に係る二酸化炭素固定方法において、使用する二酸化炭素は、二酸化炭素排出による環境負荷の高い産業から排出され、回収される二酸化炭素であることが好ましい。排出ガスから二酸化炭素を分離・回収する方法として、公知方法を採用してもよい。例えば、化石燃料の燃焼後に二酸化炭素を回収する「燃焼後回収方式」では、アミン水溶液を利用して二酸化炭素を分離する「化学吸収法」を用いることができる。この方法では、アミン水溶液は、低温の状態では二酸化炭素を吸収し、高温になると二酸化炭素を放出するというアミン水溶液の性質を利用している。この方法を利用することで、二酸化炭素を分離回収が可能である。
【0022】
本発明に係る二酸化炭素固定方法は、二酸化炭素排出による環境負荷の高い産業から排出される二酸化炭素を利用して、固定することができる。例えば、日本において、二酸化炭素排出量比率(2018年;国際エネルギー機関(IEA))に基づく環境負荷の高い産業とは、セメント(27%)、鉄鋼(25%)、石油化学(14%)、紙パルプ(2%)、アルミニウム(2%)、その他産業(30%)が挙げられる。また、化石燃料(石油、石炭、天然ガス等)を原料とする火力発電所や鉄鋼産業、石油化学業も、二酸化炭素排出による環境負荷の高い産業として挙げられる。
【0023】
本発明に係る二酸化炭素の回収方法は、本発明に係る二酸化炭素固定方法により、二酸化炭素排出による環境負荷の高い産業から排出される二酸化炭素を回収することを特徴とする。
本発明に係る二酸化炭素の回収方法は、これらの産業による環境負荷の低減を図ることができる。
【0024】
本発明に係る二酸化炭素固定装置は、炭酸イオンと化合して炭酸塩鉱物を形成可能な金属元素を含む原料と、キレート剤とを含むアルカリ性の水溶液を形成するよう設けられた水溶液形成部と、前記水溶液中で、前記金属元素と前記キレート剤とを反応させて、前記原料から前記金属元素を金属イオンとして分離するよう設けられた分離部と、前記分離部で前記金属イオンを分離した後の水溶液に、その水溶液中で炭酸イオンを生成可能な化合物を加えることにより、前記化合物から生じた炭酸イオンと前記金属イオンとを反応させて炭酸塩鉱物を形成するよう設けられた鉱物形成部と、前記鉱物形成部で前記炭酸塩鉱物を形成後の水溶液に、二酸化炭素ガスを注入して、前記水溶液形成部で形成された水溶液のpHの値またはその値の近傍までpHを低下させるよう設けられたpH低下部と、前記pH低下部でpHを低下させた水溶液に、前記原料と同種の新たな原料を加えるよう設けられた原料追加部とを有し、前記原料追加部で前記新たな原料を加えた水溶液を前記分離部に供給し、前記分離部から前記鉱物形成部、前記pH低下部まで順次移動させるよう構成されていることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る二酸化炭素固定装置は、本発明に係る二酸化炭素固定方法を好適に実施することができる。本発明に係る二酸化炭素固定装置および二酸化炭素固定方法は、二酸化炭素固定化された炭酸塩鉱物を提供することができる。また、本発明に係る二酸化炭素固定装置は、例えば、二酸化炭素排出による環境負荷の高い産業において、排出される二酸化炭素を固定する際に使用されることが好ましく、排出環境配慮型産業設備の一部として組み込まれることが好ましい。すなわち、本発明に係る環境配慮型産業設備は、本発明に係る二酸化炭素固定装置を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、材料コストや設備コストを低減することができる二酸化炭素固定方法、二酸化炭素の回収方法、二酸化炭素固定装置、および環境配慮型産業設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、(a)各工程の流れを示すフローチャートの一例、(b)各工程での水溶液のpHおよび温度を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、水溶液形成工程および分離工程において行われる単位操作図であって、(a)水溶液を撹拌して分離反応させる状態を示す斜視図の一例、(b)分離反応後にろ過した水溶液(上図)および固体成分(下図)を示す斜視図の一例である。
【
図3】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、
図2(a)に示す分離反応を実施されたときのCa濃度の経時変化を表す、(a)水溶液のpH依存性、(b)水溶液の温度依存性、(c)原料のCaSiO
3の投入量依存性、(d)キレート剤のGLDAの濃度依存性を示すグラフの例示である。
【
図4】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、鉱物形成工程の(a)水溶液にNa
2CO
3を加えて反応させる状態を示す斜視図の一例、(b)反応後にろ過した水溶液の斜視図(上図)および固体成分の電子顕微鏡写真(下図)の各例示である。
【
図5】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、
図4(a)に示す反応結果として、(a)70分経過後の各温度での水溶液中のCaおよびSiの残存割合(Residual Ca and Si ratio)を示すグラフの一例、(b)水溶液が80℃のときの、Na
2CO
3の各濃度でのCaの残存割合の経時変化を示すグラフの一例である。
【
図6】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、pH低下工程を表す、(a)水溶液に二酸化炭素ガス(CO
2 gas)注入する状態を示す斜視図の一例、(b)二酸化炭素ガスを5分間注入後にろ過した水溶液の斜視図(上図)および固体成分の電子顕微鏡写真(下図)の各例示である。
【
図7】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、
図6(a)で二酸化炭素ガス注入時の水溶液のpHとSi濃度との関係を示すグラフの一例である。
【
図8】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、繰り返し工程における分離工程を表す、(a)原料を加えた水溶液を撹拌して分離反応させる状態を示す斜視図の一例、(b)分離反応後にろ過した水溶液(上図)および固体成分(下図)を示す斜視図の各例示である。
【
図9】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、繰り返し工程における鉱物形成工程を表す、(a)水溶液にNa
2CO
3を加えて反応させる状態を示す斜視図の一例、(b)反応後にろ過した水溶液(上図)および固体成分(下図)を示す斜視図の各例示である。
【
図10】本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の、水溶液形成工程および繰り返し工程を表す、原料のCaSiO
3を100kg投入したときの、各工程での各成分の量を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面および実施例等に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法を示している。
図1に示すように、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法は、水溶液形成工程と分離工程と鉱物形成工程とpH低下工程と繰り返し工程とを有している。
【0029】
本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法では、まず、水溶液形成工程として、水に、金属元素を含む原料とキレート剤とを加えて、pHが8乃至10のアルカリ性の水溶液を形成する。また、その水溶液の温度を、室温~80℃以下にする。具体的な一例では、水にキレート剤を加えてpHが8乃至10の水溶液を形成し、その水溶液の温度を室温~80℃以下にした後、その水溶液に原料を加える。
【0030】
水溶液形成工程で、原料に含まれる金属元素は、炭酸イオンと化合して炭酸塩鉱物を形成可能な元素から成り、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、マンガンなどである。また、原料は、それらの金属元素を含むものから成り、例えば、比較的入手が容易なケイ酸塩鉱物、鉄鋼スラグ、廃棄物などである。また、キレート剤は、金属イオンと反応可能なものから成り、例えば、生分解性のGLDA-4NaやEDTA-4Naなどである。なお、
図1に示す具体的な一例では、金属元素はCaまたはMgであり、原料は、ケイ酸塩鉱物のCaSiO
3またはMg
3Si
2O
5(OH)
4である。
【0031】
水溶液形成工程で水溶液を形成すると、分離工程で、原料に含まれる金属元素がキレート剤と反応し、金属イオンとして水溶液中に分離される。金属元素の分離により、水溶液のpHが上昇し、分離工程後の水溶液のpHが10乃至14となる。なお、分離工程では、金属元素を分離後、水溶液に溶けずに残存した固体成分を回収してもよい。
【0032】
次に、分離工程後、鉱物形成工程として、分離工程後の水溶液(pH10乃至14)を70℃以上にして、その水溶液中で炭酸イオンを生成可能な化合物を加える。これにより、水溶液に加えた化合物から生じた炭酸イオンと金属イオンとを反応させて、炭酸塩鉱物を形成することができる。これにより、二酸化炭素を炭酸塩鉱物として固定化することができる。鉱物形成工程では、形成された炭酸塩鉱物を、反応後の水溶液から回収することが好ましい。回収した炭酸塩鉱物は、有効利用することができる。なお、鉱物形成工程では、水溶液のpHはほとんど変化しない。
【0033】
鉱物形成工程で、水溶液に加える化合物は、分離工程後の水溶液中で炭酸イオンを生成可能なものから成り、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、二酸化炭素などである。
図1に示す具体的な一例では、化合物は、炭酸ナトリウム(Na
2Co
3)であり、原料中のCaまたはMgを炭酸塩化して、炭酸塩鉱物のCaCO
3またはMgCO
3を形成することができる。
【0034】
次に、鉱物形成工程後、pH低下工程として、鉱物形成工程後の水溶液を室温~80℃以下にして、二酸化炭素ガスを注入し、水溶液形成工程で形成した水溶液のpHの値またはその値の近傍までpHを低下させる。具体的には、8乃至10までpHを低下させて、元の値までpHを回復させる。これにより、水溶液中の炭酸イオン濃度が増加する。また、pHの低下により、鉱物形成工程での鉱物形成とは無関係な成分またはその一部を、水溶液中に析出させることができる。pH低下工程では、pHを低下させた後の水溶液から、析出した固体成分を回収してもよい。回収した固体成分は、有効利用することができる。
図1に示す具体的な一例では、原料の一部であるシリカ(SiO
2)を、アモルファスシリカとして析出させることができる。
【0035】
次に、pH低下工程後、繰り返し工程として、まず、pH低下工程後の水溶液に、原料と同種の新たな原料を加える。このとき、新たな原料に含まれる金属元素から生じる金属イオンや、1回目の鉱物形成工程で消費されなかった金属イオンと、炭酸イオンとを反応させて、炭酸塩鉱物を形成することができる。これにより、二酸化炭素を炭酸塩鉱物として固定化することができる。繰り返し工程では、ここで形成された炭酸塩鉱物を、反応後の水溶液から回収することが好ましい。回収した炭酸塩鉱物は、有効利用することができる。
【0036】
また、繰り返し工程では、炭酸イオンとの反応で消費される量より多くの金属イオンが生じるよう、新たな原料を加えた上で、再度、分離工程からpH低下工程までを行う。2回目の分離工程では、新たな原料に含まれる金属元素と、水溶液中に残っているキレート剤とを反応させて、原料から金属元素を金属イオンとして分離することができる。水溶液形成工程で投入したキレート剤は、その後の工程で消費されないため、2回目の分離工程でも再利用することができる。このように、2回目の分離工程を、1回目の分離工程とほぼ同じ条件で行うことができ、2回目の鉱物形成工程およびpH低下工程も、それぞれ1回目と同様に行うことができる。これにより、2回目の鉱物形成工程でも、二酸化炭素を炭酸塩鉱物として固定化することができる。
【0037】
このように、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法は、1回目および2回目の鉱物形成工程、ならびに繰り返し工程での新たな原料投入時に、二酸化炭素を固定することができ、排出された二酸化炭素の削減に寄与することができる。本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法は、アルカリ性条件下で二酸化炭素を固定化することができ、pHスイングのようにpH調整のための薬品が不要であるため、その材料コストを低減することができる。また、一度投入されたキレート剤を再利用することができるため、その材料コストも低減することができる。また、比較的低温で二酸化炭素を固定化することができ、設備コストも低減することができる。
【0038】
なお、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法は、繰り返し工程を複数回繰り返してもよい。この場合、各繰り返し工程での新たな原料投入時や各鉱物形成工程で、連続的に二酸化炭素を固定化することができる。また、水溶液形成工程で投入したキレート剤を、繰り返し工程での各分離工程で繰り返し使用することができ、材料コストをさらに低減することができる。
【実施例0039】
原料としてCaSiO
3(富士フイルム和光純薬株式会社製)、キレート剤としてGLDA-4Na(N,N-Dicarboxymethyl glutamic acid, tetrasodium salt、東京化成工業株式会社製)を用い、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法に関する実験を行った。まず、水溶液形成工程および分離工程の実験を行った。実験では、
図2(a)に示すように、ビーカー1に入れた100 mlの水にGLDA-4Naを加えて形成した水溶液2aに、CaSiO
3を投入して撹拌し、所定時間経過後、
図2(b)に示すように、水溶液をろ過して、CaSiO
3の溶け残りを取り除いた。なお、実験では、水溶液2aを収納しているビーカー1を、ヒーター付き撹拌装置3の上に載せ、実験中の水溶液の温度およびpHを、それぞれ温度センサ4およびpHセンサ5で測定している。
【0040】
実験は、表1に示すように、パラメータとして、水溶液2aのpH(pH0)、水溶液2aの温度、CaSiO3の投入量、GLDA-4Naの濃度を様々に変えた条件で行った。実験では、原料から金属元素のCaが分離する様子を調べるために、表1に示す各実験No.1~12での、ろ過後の水溶液2b中のCa(Caイオン)の濃度等を測定した。なお、以下では、Caのうち水溶液中のものは全てCaイオンを表している。
【0041】
【0042】
表1の実験No.1~12について、水溶液2aにCaSiO
3を投入してから20分経過までの、各水溶液のCa濃度の経時変化を、
図3(a)~(d)に示す。また、20分経過後の各水溶液のpH(pH
d)、Caの濃度、Siの濃度、Caの分離割合(Ca extraction rate)などをまとめ、表1に示す。
図3(a)は表1の実験No.1~5、
図3(b)は表1の実験No.5~8、
図3(c)は表1の実験No.5, 9, 10、
図3(d)は表1の実験No.5, 11, 12の結果を示している。なお、実験No.8は、実験中に撹拌を行っていないもの(without stirring)である。
【0043】
図3(a)~(d)に示すように、キレート剤によるCaの分離反応は、20分以内でほぼ完了していることが確認された。また、
図3(a)に示すように、pHが小さい方がCaの抽出量(分離量)は多くなることが確認された。また、
図3(b)に示すように、水溶液の温度が高い方がCaの分離速度は早いが、温度および撹拌の有無にかかわらず、20分でCaの分離反応がほぼ完了し、Caの抽出量はほとんど同じになることが確認された。また、
図3(c)に示すように、Caの抽出量は、原料の量にほぼ比例することが確認された。また、
図3(d)に示すように、キレート剤の濃度は、Caの抽出量にはあまり影響しないことが確認された。
【0044】
次に、鉱物形成工程の実験を行った。表1の実験No.4による20分経過後の水溶液をろ過した後の水溶液2b(pH11.9)を用い、
図4(a)に示すように、その水溶液2bに炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)を加えて撹拌し、所定時間経過後に、
図4(b)に示すように、水溶液をろ過して、固体成分を取り除いた。実験では、ろ過後の水溶液2c中のCaの量を測定し、Na
2CO
3を加えたときからのCaの残存割合を求めた。また、実験は、水溶液の温度が60℃、80℃、120℃、160℃の各条件、および、Na
2CO
3の濃度が0.3 mol/L、0.6 mol/Lの各条件で行った。なお、水溶液を収納する容器として、水溶液の温度が60℃および80℃のときにはビーカー1を用い、120℃および160℃のときには圧力容器を用いた。
【0045】
Na
2CO
3の濃度を0.3 mol/Lとしたとき、Na
2CO
3を加えて70分経過後の、各温度での水溶液中のCaの残存割合(Residual Ca ratio)を、
図5(a)に示す。なお、
図5(a)には、比較のため、Siの残存割合(Residual Si ratio)も示す。また、水溶液が80℃のときの、Na
2CO
3の各濃度でのCaの残存割合の経時変化を、
図5(b)に示す。
【0046】
図5(a)に示すように、80℃~160℃のとき、Siの量はほとんど変化しないのに対して、Caの量が大きく減少していることが確認された。また、
図5(b)に示すように、水溶液が80℃のとき、時間の経過と共に、Caが減少していく様子が確認された。また、加えるNa
2CO
3の量が多いほど、Caの減少速度が大きいことが確認された。また、Caの減少速度が一旦小さくなっても、Na
2CO
3を追加することにより、Caの減少速度が再び大きくなり、最大で約45%までCaが減少することが確認された。
【0047】
図4(b)に示すように、ろ過して得られた固体成分は、炭酸塩鉱物のアラゴナイト(CaCO
3)であったことから、Caが炭酸塩化されることにより、水溶液中のCaが減少することが確認された。なお、得られたアラゴナイトの純度は90%以上であった。
図5(a)では、水溶液の温度が120℃のとき最もCaの減少量が大きかったが、100℃以上では圧力容器等を使用する必要があり、装置が大型化して設備費も嵩むことから、実用化の際には、100℃より低い温度で鉱物形成工程を行うことが好ましい。
【0048】
次に、pH低下工程の実験を行った。Caを約45%まで減少させて、ろ過した後の
図4(b)に示す水溶液2cを用い、
図6(a)に示すように、その水溶液2cに二酸化炭素ガス(CO
2 gas)を5分間注入した後、
図6(b)に示すように、その水溶液をろ過して、固体成分を取り除いた。実験では、水溶液2cの温度を室温とし、二酸化炭素ガス注入中の、水溶液中のpHおよびSi濃度を測定した。
【0049】
測定したpHとSi濃度(Si concentration)との関係を、
図7に示す。
図7に示すように、二酸化炭素ガスの注入により、炭酸イオンが形成されて水溶液のpHが低下するのに従って、Si濃度も低下していく様子が確認された。また、5分間の二酸化炭素ガスの注入で、水溶液のpHが9まで低下していることが確認された。
図6(b)に示すように、ろ過して得られた固体成分は、アモルファスシリカ(SiO
2)であったことから、pHの低下によりアモルファスシリカが形成され、水溶液中のSiが除去されることが確認された。また、
図7に示すように、水溶液のpHを10以下にすることにより、Siの除去率(Si removal rate)が約90%以上となり、Siをほとんど除去できることが確認された。
【0050】
次に、繰り返し工程の実験を行った。pHを9まで低下させて、ろ過した後の
図6(b)に示す水溶液2dを用い、
図8(a)に示すように、その水溶液2dに再び原料のCaSiO
3を加えて撹拌し、20分撹拌後に、
図8(b)に示すように、水溶液をろ過して、固体成分を取り除いた。実験では、水溶液2dの温度を50℃、CaSiO
3の投入量を0.4 mol/Lとした。ろ過後の水溶液2eのpHを測定したところ、約12であった。また、ろ過して得られた固体成分を調べたところ、CaSiO
3の溶け残りと共に、炭酸塩鉱物のアラゴナイト(CaCO
3)の存在も確認できた。
【0051】
これらの結果から、新たに加えたCaSiO
3に含まれるCaや、1回目の鉱物形成工程で消費されなかったCaと、pH低下工程で濃度が増加した炭酸イオンとが反応して、CaCO
3が形成されていることが確認された。また、pHが上昇したことから、新たに加えたCaSiO
3に含まれるCaと、水溶液中に残っているキレート剤とが反応して、CaSiO
3からCaが分離していることも確認された。
図8(b)に示す2回目の分離工程でろ過後に得られた水溶液2eは、
図2(b)に示す1回目の分離工程でろ過後に得られた水溶液2bとほぼ同じであることが確認された。
【0052】
次に、
図8(b)に示すろ過後の水溶液2eを用い、
図9(a)に示すように、その水溶液2eに炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)を加えて撹拌し、100分経過後に、
図9(b)に示すように、水溶液をろ過して、固体成分を取り除いた。実験では、水溶液2eの温度を80℃、Na
2CO
3の濃度を0.6 mol/Lとした。ろ過後の水溶液2fのpHを測定したところ、約12であった。また、ろ過して得られた固体成分を調べたところ、炭酸塩鉱物のアラゴナイト(CaCO
3)であった。得られたアラゴナイトの純度は90%以上であった。
図9(b)に示す2回目の鉱物形成工程でろ過後に得られた水溶液2fは、
図4(b)に示す1回目の鉱物形成工程でろ過後に得られた水溶液2cとほぼ同じであることが確認された。
【0053】
図8および
図9に示す繰り返し工程での実験から、2回目の分離工程、鉱物形成工程およびpH低下工程を、それぞれ1回目と同様に行うことができるといえる。ここまでの実験結果に基づいて、水溶液形成工程および繰り返し工程で、原料のCaSiO
3を100kg投入したときの、各工程での各成分の量を求め、
図10に示す。
図10に示すように、図中に示すpH、水溶液の温度、各濃度の条件では、1回目の鉱物形成工程で、約8kgの二酸化炭素を固定化することができ、繰り返し工程の2回目の分離工程および鉱物形成工程で、それぞれ約8kgの二酸化炭素を固定化することができる。このため、例えば、繰り返し工程で分離工程、鉱物形成工程、およびpH低下工程を繰り返すことにより、各繰り返し工程で100kgのCaSiO
3から約16kgの二酸化炭素を固定化することができる。
【0054】
本発明の実施形態の二酸化炭素固定装置は、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法を適用することにより、容易に設計製作することができる。すなわち、本発明の実施形態の二酸化炭素固定装置は、水溶液形成部と分離部と鉱物形成部とpH低下部と原料追加部とを有している。水溶液形成部は、炭酸イオンと化合して炭酸塩鉱物を形成可能な金属元素を含む原料と、キレート剤とを含むアルカリ性の水溶液を形成するよう設けられており、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の水溶液形成工程を実施可能である。分離部は、その水溶液中で、金属元素とキレート剤とを反応させて、原料から金属元素を金属イオンとして分離するよう設けられており、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の分離工程を実施可能である。鉱物形成部は、分離部で金属イオンを分離した後の水溶液に、その水溶液中で炭酸イオンを生成可能な化合物を加えることにより、その化合物から生じた炭酸イオンと金属イオンとを反応させて炭酸塩鉱物を形成するよう設けられており、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の鉱物形成工程を実施可能である。pH低下部は、鉱物形成部で炭酸塩鉱物を形成後の水溶液に、二酸化炭素ガスを注入して、水溶液形成部で形成された水溶液のpHの値またはその値の近傍までpHを低下させるよう設けられており、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法のpH低下工程を実施可能である。原料追加部は、pH低下部でpHを低下させた水溶液に、水溶液形成部で使用した原料と同種の新たな原料を加えるよう設けられている。さらに、本発明の実施形態の二酸化炭素固定装置は、原料追加部で新たな原料を加えた水溶液を分離部に供給し、分離部から鉱物形成部、pH低下部まで順次移動させるよう構成されており、原料追加部と共に、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法の繰り返し工程を実施可能である。これにより、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定装置は、二酸化炭素固定化された炭酸塩鉱物を提供することができる。
【0055】
本発明の実施形態の二酸化炭素固定装置は、二酸化炭素排出による環境負荷の高い産業から排出される二酸化炭素を固定することができる。本発明の実施形態の二酸化炭素固定装置は、二酸化炭素排出による環境負荷の高い産業において、排出される二酸化炭素を固定する排出環境配慮型産業設備及びその一部として組み込むことができる。すなわち、本発明の実施形態の環境配慮型産業設備は、本発明の実施形態の二酸化炭素固定装置を備えている。
【0056】
本発明の実施形態の二酸化炭素の回収方法は、本発明の実施形態の二酸化炭素固定方法により、二酸化炭素排出による環境負荷の高い産業から排出される二酸化炭素を回収する。これにより本発明の実施形態の二酸化炭素の回収方法は、これらの産業による環境負荷の低減を図ることができる。