(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102811
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】PDE5阻害剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20220630BHJP
A61K 36/068 20060101ALI20220630BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20220630BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220630BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220630BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K36/068
A61P13/00
A61P11/00
A61P9/12
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217777
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501474081
【氏名又は名称】株式会社バイオコクーン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 志穂
(72)【発明者】
【氏名】畑 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】益子 直子
(72)【発明者】
【氏名】石黒 裕美
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD82
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4B018MF07
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC05
4C087CA09
4C087CA11
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA42
4C087ZA59
4C087ZA81
4C087ZC20
4C087ZC41
(57)【要約】
【課題】新たなPDE5阻害作用を有する物質を提供すること。
【解決手段】カイコハナサナギタケの粉末又は抽出物を含む、PDE5阻害剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カイコハナサナギタケの粉末又は抽出物を含む、PDE5阻害剤。
【請求項2】
飲食品組成物の形態である、請求項1に記載のPDE5阻害剤。
【請求項3】
排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善用である、請求項1又は2に記載のPDE5阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ホスホジエステラーゼ(PDE:Phosphodiesterase)5阻害剤に関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
PDE5阻害作用を有する物質は、尿路障害や肺動脈性肺高血圧症の予防ないし改善に有効であることが知られている(非特許文献1)。PDE5阻害作用を有する天然由来の物質も知られている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-34920
【特許文献2】特開2018-154610
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日薬理誌、154、265-269、2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新たなPDE5阻害作用を有する物質を提供することが1つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カイコハナサナギタケにPDE5阻害作用があることが見出された。斯かる知見に基づき更なる検討を重ね、下記に代表される発明が提供される。
項1
カイコハナサナギタケの粉末又は抽出物を含む、PDE5阻害剤。
項2
飲食品組成物の形態である、項1に記載のPDE5阻害剤。
項3
排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善用である、項1又は2に記載のPDE5阻害剤。
項4
PDE5阻害剤を製造するためのカイコハナサナギタケの粉末又は抽出物の使用。
項5
排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善用組成物を製造するための、カイコハナサナギタケの粉末又は抽出物の使用。
項6
PDE5阻害が必要な対象にカイコハナサナギタケの粉末又は抽出物を投与する方法。
項7
対象が排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善を必要とする、項6に記載の方法。
項8
PDE5阻害における使用のためのカイコハナサナギタケの粉末又は抽出物。
項9
排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善における使用のためのカイコハナサナギタケの粉末又は抽出物。
【発明の効果】
【0007】
PDE5阻害作用を有する物質が提供される。一実施形態において、PDE5阻害作作用を利用した排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善の手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】カイコハナサナギタケについてPDE5阻害活性を測定した結果を示す。「Sample」はカイコハナサナギタケの熱水抽出物を示す。「Substrate」はcGMPを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
PDE5阻害剤は、カイコハナサナギタケ又はその抽出物を含むことが好ましい。カイコハナサナギタケは、カイコに寄生して生育したハナサナギタケ(P.tenuipes、「冬虫夏草」とも称される。)である。カイコハナサナギタケは、市販されるもの及び栽培したもののいずれを使用することも可能である。カイコハナサナギタケの栽培方法は任意であり、例えば、カイコの幼虫やカイコの蛹を加熱滅菌処理した後、冬虫夏草の菌を植菌して育成する方法を挙げることができる。また、特開2005-237201に開示される方法を挙げることができる。具体的には、繭を形成する前のカイコの幼虫又はカイコの蛹を煮沸し、乾燥させ、このカイコ乾燥粉末50~90重量パーセント、残部が豆類、穀類、海藻類またはキノコ類の乾燥粉末の1種または2種以上からなる食物乾燥粉末を混合して、これに培養液を加えて混練し、これを育成箱の底部に敷き詰めて培地を作成し、この培地を、植菌袋に封入して加熱滅菌処理した後、培地に冬虫夏草の菌を接種して、育成することができる。
【0010】
一実施形態において、カイコハナサナギタケは粉末の形態であることが好ましい。カイコハナサナギタケの粉末は、カイコハナサナギタケを凍結乾燥させ、粉砕して得ることができる。カイコハナサナギタケの粉末は、ハナサナギタケの子実体のみを粉末化したものであってもよいが、子実体および宿主(例えば、カイコ)を粉末化したものであることが好ましい。
【0011】
一実施形態において、カイコハナサナギタケは、抽出物の形態であることが好ましい。抽出物を得るために用いられる方法及び条件は、任意である。例えば、カイコハナサナギタケをそのまま、裁断、粉砕及び/又は乾燥し、搾取又は適当な溶媒を用いて抽出することができる。溶媒の種類は特に制限されず、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール;アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル等のエステル類、ジメチルスルホキシド、キシレン、ベンゼン、クロロホルム等が挙げられる。一実施形態において好ましい溶媒は、水であり、好ましくは熱水(60℃以上、70℃以上、80℃以上、又は90℃以上)である。
【0012】
一実施形態において、カイコハナサナギタケの抽出物は次の方法で得られたものであることが好ましい。即ち、カイコハナサナギタケの乾燥粉末に熱水を加え、60℃以上80℃以下の温度で所定の時間(例えば、1時間以上5時間以下)撹拌し、濾過して得られた濾液を乾燥して抽出物を得ることが好ましい。乾燥粉末と熱水との混合比率は任意であるが、例えば、乾燥粉末1重量部に対して5~20重量部、又は7~15重量部とすることができる。
【0013】
カイコハナサナギタケの粉末又は抽出物の水分含量は特に制限されないが、例えば、20重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、又は5重量%以下とすることができる。
【0014】
PDE5阻害剤は、カイコハナサナギタケの粉末又はその抽出物のみから成るものであっても、更に任意の他の成分を含むものであってもよい。他の成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤剤、流動化剤、保存剤、界面活性剤、安定剤、希釈剤、溶解剤、等張化剤、殺菌剤、防腐剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤、香料等を挙げることができる他の成分として、他のPDE5阻害活性を有する成分や他の生理活性成分を選択することもできる。PDE5阻害剤の形態は任意であり、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状、カプセル状、又は液体状とすることができる。
【0015】
PDE5阻害剤に含まれる、カイコハナサナギタケ又はその抽出物の量は任意であるが、例えば、乾燥重量換算で、0.1%以上100%以下の範囲で設定することができる。含有量の下限は、例えば、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上または70%以上とすることができ、上限は99%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、又は60%以下とすることができる。これらの下限及び上限は任意に組み合わせられる。
【0016】
一実施形態において、PDE5阻害剤は飲食品の形態であることが好ましい。飲食品には、一般食品だけでなく、保健機能食品(具体的には、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、病者用食品、サプリメント等が含まれる。
【0017】
一実施形態において、PDE5阻害剤の形態は、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状形態、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセルを含む)、トローチ、チュアブル、ゲル状、クリーム状、ペースト状、ムース状、シート状等の半固形または固形形態であり得る。
【0018】
一般食品は特に制限されないが、例えば、飲料類(例えば、果汁飲料、野菜ジュース、清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、スポーツドリンク、滋養強壮ドリンク、栄養ドリンク等)、菓子類(例えば、スナック菓子、米菓、チョコレート、グミ、キャンディー、ゼリー、プリン、和菓子、洋菓子等)、調味料類(例えば、醤油、味噌、みりん風調味料、ミックススパイス、たれ、つゆ、ソース、ケチャップ等)、ドレッシング類、麺類(例えば、うどん、そば、スパゲッティ等)、畜肉魚肉加工食品類(例えば、ソーセージ、ウインナー、ハム、ハンバーグ等)、乳製品類(ヨーグルト、牛乳、チーズ、クリーム、バター等)等を挙げることができる。
【0019】
一実施形態において、上述のPDE5阻害剤は、PDE5の活性を阻害することによって、排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善する用途で用いることができる。尿路障害の原因、種別は問わないが、下部尿路症状を伴う尿路障害を挙げることができる。
【0020】
一実施形態において、PDE5阻害剤は医薬の形態とすることができる。PDE5阻害剤を含む医薬は、カイコハナサナギタケの粉末又は抽出物に必要に応じて薬学的に許容可能な賦形剤を組み合わせて調製することができる。
【0021】
PDE5阻害剤の摂取(投与)量は、目的とする効果が奏される限り特に限定されず、対象者(対象動物)の体格、年齢、症状、適用形態、使用目的等に応じて適宜設定すすることができる。例えば、1日当たりの摂取(投与)量は、体重60kgの成人を基準として、カイコハナサナギタケ又はその抽出物の乾燥重量換算として、0.001~8000mg、0.01~5000mg等の範囲で設定することができる。摂取(投与)回数は任意であり、例えば、1日あたり単回摂取(投与)であってもよく複数回摂取(投与)であってもよい。
【0022】
上述のとおり、カイコハナサナギタケ又はその抽出物はPDE5阻害作用を有するため、カイコハナサナギタケの粉末又は抽出物をPDE5阻害剤を製造するために使用できる。また、排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善用組成物を製造するために、カイコハナサナギタケの粉末又は抽出物を使用こともできる。
【0023】
上述のとおり、カイコハナサナギタケ又はその抽出物はPDE5阻害作用を有するため、PDE5阻害が必要な対象にカイコハナサナギタケの粉末又は抽出物を投与し、PDE5阻害作用を提供することができる。また、PDE5阻害によって、排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善が可能となるため、排尿障害及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予防若しくは改善を必要とする対象にカイコハナサナギタケの粉末又は抽出物を投与することにより、当該予防若しくは改善を行うことができる。
【実施例0024】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0025】
1.カイコハナサナギタケ熱水抽出物
カイコ蛹を宿主として得られるハナサナギタケ(カイコハナサナギタケ)を凍結乾燥し、ミキサーで粉砕することによりカイコハナサナギタケ粉末を得た。反応容器に、得られた粉末(42g)および超純水420mLを入れ、70℃で3時間攪拌した後、ろ過を行うことにより残渣を取り除いて溶液を得た。続いて、溶液が30mLになるまで濃縮した後、スプレー乾燥を行うことによりカイコハナサナギタケ熱水抽出物を得た。
【0026】
2.PDE5阻害活性の測定
PDE5阻害活性は、PDE-Glo(商標)Phosphodiesterase Aassay(Promega社製)を用いて行った。カイコハナサナギタケ熱水抽出物を終濃度が33μg/ml、11μg/g、3.7μg/ml、1.2μg/mlとなるように超純水に希釈したものをサンプルとして用いた。酵素は、ホスホジエステラーゼ5A1ヒト(Sigma-Aldrich製)を用いた。3100U/μlのPDE1μと反応バッファー205.7μlを混合し、PDE溶液を調製した。PDE溶液15μlと各サンプル10μlを混合し、2分間スピンダウンし、室温で5分間振盪した。この混合液25μlに20μMのcGMPを25μlを添加して混合し、PCRチューブに8μlずつ分注した。これをシェーカーに載せ、室温、400rpmで反応させた。各チューブに検出バッファーを4μl添加し、スピンダウン後に室温で20分間振盪した。これとKinase-Glo試薬を10μlを384ウェルプレート(Thermo Fisher製)の各ウェルに10μlずつ分注し、室温で振盪し、反応させた。カイコハナサナギタケ熱水抽出物を添加しないサンプルを用いた試験例を0%コントロール、PDEを添加しない試験例を100%コントロールとして、カイコハナサナギタケ熱水抽出物による相対的な阻害率を測定した。測定は4回繰り返した。結果を
図1に示す。
【0027】
図1の結果から、カイコハナサナギタケ熱水抽出物にはPDE5阻害活性が存在し、その活性が濃度依存的に上昇することが確認された。この結果から、カイコハナサナギタケは、肺動脈性肺高血圧症及び排尿障害等の疾患の治療無いし予防に有効と考えられる。