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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102879
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】表示体
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20220630BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220630BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20220630BHJP
   B32B 33/00 20060101ALN20220630BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B7/023
G02B5/28
B32B33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217903
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】吉村 麻衣
【テーマコード(参考)】
2H148
4F100
【Fターム(参考)】
2H148GA04
2H148GA33
2H148GA61
4F100AA20B
4F100AA21C
4F100AB16A
4F100AK25A
4F100AK42D
4F100BA03
4F100BA07
4F100DD01A
4F100EH46A
4F100EH66A
4F100EH66B
4F100EH66C
4F100EJ17A
4F100EJ39A
4F100EJ42A
4F100JB14A
4F100JD08B
4F100JD08C
4F100JD08D
4F100JN01B
4F100JN01C
4F100JN02D
4F100JN06
4F100JN18B
4F100JN18C
4F100JN26
(57)【要約】
【課題】凹凸構造と多層膜界面の剥離を抑制しながらも、観察角度による色の変化が緩やかな表示体を提供する。
【解決手段】凹凸構造を有する凹凸層と、凹凸構造に追従した表面形状を有し、2層以上からなる多層膜層と、を備え、多層膜層は、隣接する層の屈折率が互いに異なり、凹凸構造は、散乱に寄与する複数の凹部を備える第1の構造と、剥離抑止のための少なくとも1つの凹部を備える第2の構造から成り、第1凹部が形成するパターンは、第1方向に沿った辺の長さがサブ波長以下であって、第2方向に沿った辺の長さが第1方向に沿った辺の長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、複数の図形要素において、第2方向に沿った辺の長さの標準偏差は、第1方向に沿った辺の長さの標準偏差よりも大きく、第2凹部の深さは、第1凹部の深さより深く、第1凹部を構成する長辺の少なくとも一部に第2凹部が交差する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸構造を有する凹凸層と、
前記凹凸構造に追従した表面形状を有し、2層以上からなる多層膜層と、を備え、
前記多層膜層は、隣接する層の屈折率が互いに異なり、
前記凹凸構造は、散乱に寄与する複数の凹部を備える第1の構造と、剥離抑止のための少なくとも1つの凹部を備える第2の構造から成り、
前記凹凸層の表面と対向する視点から見て、
前記第1の構造を構成する第1凹部が形成するパターンは、第1方向に沿った辺の長さがサブ波長以下であって、前記第1方向と交差する第2方向に沿った辺の長さが前記第1方向に沿った辺の長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、前記複数の図形要素において、前記第2方向に沿った辺の長さの標準偏差は、前記第1方向に沿った辺の長さの標準偏差よりも大きく、
前記第2の構造を構成する第2凹部の深さは、前記第1凹部の深さより深く、
前記凹凸層の表面と対向する視点から見て、第1凹部を構成する長辺の少なくとも一部に第2凹部が交差することを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凹凸層の表面と対向する視点から見て、
前記第2凹部が構成するパターンは、前記第1方向に沿った辺の長さが、前記第1凹部が構成するパターンの前記第1方向に沿った辺の長さより長く、前記第1凹部が構成するパターンと交差することを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記第2凹部の第2方向に沿った辺の長さが、前記第1凹部の前記第1方向に沿った辺の長さの1/4以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項4】
前記第2の構造の凹部の深さが、200nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項5】
前記第2の構造を表面と対向する方向から見たとき、前記凹凸層を構成する領域内において、前記第2凹部が占める割合が10%以上30%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項6】
前記第1凹部の前記第1方向に沿った辺の長さは830nm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項7】
前記第1凹部の前記第2方向に沿った辺の長さの平均値は4.15μm以下であり、当該長さの標準偏差は1μm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項8】
前記第1の構造を前記凹凸層の表面と対向する方向から見たとき、前記凹凸層を構成する領域内において、前記第1凹部が占める割合が40%以上60%以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項9】
前記第1の構造において、前記第1凹部の構造深さが異なる表示領域を含み、その差が5nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項10】
前記第1の構造において、前記第1凹部の深さは各表示領域内で一定であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項11】
前記多層膜層のうち、上下に隣接する2つの層は、同じ波長領域の光を透過し、その波長領域において異なる屈折率を持つ材料で構成されたことを特徴とする請求項1から9のうちいずれか1項に記載の表示体。
【請求項12】
前記凹凸構造は、基材の一方の面側に形成され、
前記基材を、可視光波長領域の光を吸収する材料により形成したことを特徴とする請求項1から11のうちいずれか1項に記載の表示体。
【請求項13】
前記凹凸構造は、前記基材の一方の面側に形成され、
前記基材の一方の面とは反対側の裏面を、可視光波長領域の光を吸収する材料により形成したことを特徴とする請求項1から12のうちいずれか1項に記載の表示体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
モルフォ蝶等の自然界の生物の色として多く観察される構造色は、色素が呈する色のように分子における電子遷移に起因して視認される色とは異なる。上記構造色は、光の回折や干渉や散乱といった、物体の微細な構造に起因した光学現象の作用によって視認される色である。
【0003】
例えば、多層膜干渉による構造色は、相互に隣り合う薄膜の屈折率が互いに異なる多層膜層において、多層膜の各界面で反射した光が干渉することによって生じる構造色である。また、多層膜干渉は、モルフォ蝶の翅の発色原理の1つである。モルフォ蝶の翅では、多層膜干渉に加えて、翅の表面の微細な凹凸構造によって光の散乱や回折が生じる結果、鮮やかな青色が広い観察角度において視認される。
【0004】
モルフォ蝶の翅のような構造色を人工的に再現する構造として、特許文献1に記載のような構造がある。特許文献1では、不均一に配列され微細な凹凸を有する基材の表面に対し、多層膜層が積層された構造が提案されている。
【0005】
多層膜層において、干渉によって強められる光の波長は、多層膜層の各層にて生じる光路差によって変わり、光路差は各層の膜厚及び屈折率に応じて決まる。そして、干渉によって強められた光の出射方向は、入射光の入射角度に依存した特定の方向に限定される。したがって、平面に多層膜層が積層された構造では、視認される反射光の波長が観察角度によって大きく変化するため、視認される色が観察角度によって大きく変化する。
【0006】
これに対し、特許文献1の構造では、不規則な凹凸の上に多層膜層が積層されていることにより、干渉によって強められた反射光が多方向に広がるため、観察角度による色の変化が緩やかになる。その結果、モルフォ蝶の翅のように広い観察角度で特定の色を呈する発色体が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-153192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した構造体による構造色は、色素色とは異なる視認効果を実現することが可能である。例えば、特許文献1の構造体において、凹凸構造の凸部は、凹凸の形成された面に対向する方向(例えば上側)から見て、各凸部にて共通な方向に延びる矩形形状を有しており、また、その凸部の長辺方向の長さは不規則である。その一方で、凸部の短辺方向の長さはほぼ一定である。すなわち、複数の凸部における長辺方向は異方性を有しており、その結果、反射光の広がる方向も異方性を有する。したがって観察角度によって見え方の異なる意匠性の高い表示体を作製することが可能である。
【0009】
特許文献1の凹凸構造は矩形形状であり、エッジ部分が多い。エッジ部分には非常に大きなせん断応力が集中するため、剥離が発生しやすい。凹凸構造は長辺と短辺を有する矩形形状であり、特に、長辺方向に剥離しクラックが入った場合、剥離領域が大きくなる。凹凸構造と多層膜が剥離した場合、多層膜にて反射される光の光路長が変化し、反射光を多方向に拡散させる効果が低下するため、表示体において所望の発色が得られ難くなる。
【0010】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、凹凸構造の長辺方向と交差する方向を長軸とする構造を設けることで剥離領域を低減し、凹凸構造と多層膜界面の密着性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る表示体は、凹凸構造を有する凹凸層と、前記凹凸構造に追従した表面形状を有し、2層以上からなる多層膜層と、を備え、
前記多層膜層は、隣接する層の屈折率が互いに異なり、前記凹凸構造は、散乱に寄与する複数の凹部を備える第1の構造と、剥離抑止のための少なくとも1つの凹部を備える第2の構造から成り、前記凹凸層の表面と対向する視点から見て、前記第1の構造を構成する第1凹部が形成するパターンは、第1方向に沿った辺の長さがサブ波長以下であって、前記第1方向と交差する第2方向に沿った辺の長さが前記第1方向に沿った辺の長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、前記複数の図形要素において、前記第2方向に沿った辺の長さの標準偏差は、前記第1方向に沿った辺の長さの標準偏差よりも大きく、前記第2の構造を構成する第2凹部の深さは、前記第1凹部の深さより深く、前記凹凸層の表面と対向する視点から見て、第1凹部を構成する長辺の少なくとも一部に第2凹部が交差することを特徴とする。
【0012】
前記凹凸層の表面と対向する視点から見て、前記第2凹部が構成するパターンは、前記第1方向に沿った辺の長さが、前記第1凹部が構成するパターンの前記第1方向に沿った辺の長さより長く、前記第1凹部が構成するパターンと交差することを特徴とする。
【0013】
前記第2凹部の第2方向に沿った辺の長さが、前記第1凹部の前記第1方向に沿った辺の長さの1/4以下であることを特徴とする。
【0014】
前記第2の構造の凹部の深さが、200nm以上500nm以下であることを特徴とする。
【0015】
前記第2の構造を表面と対向する方向から見たとき、前記凹凸層を構成する領域内において、前記第2凹部が占める割合が10%以上30%以下であることを特徴とする。
【0016】
前記第1凹部の前記第1方向に沿った辺の長さは830nm以下であることを特徴とする。
【0017】
前記第1凹部の前記第2方向に沿った辺の長さの平均値は4.15μm以下であり、当該長さの標準偏差は1μm以下であることを特徴とする。
【0018】
前記第1の構造を前記凹凸層の表面と対向する方向から見たとき、前記凹凸層を構成する領域内において、前記第1凹部が占める割合が40%以上60%以下であることを特徴とする。
【0019】
前記第1の構造において、前記第1凹部の構造深さが異なる表示領域を含み、その差が5nm以上200nm以下であることを特徴とする。
【0020】
前記第1の構造において、前記第1凹部の深さは各表示領域内で一定であることを特徴とする。
【0021】
前記多層膜層のうち、上下に隣接する2つの層は、同じ波長領域の光を透過し、その波長領域において異なる屈折率を持つ材料で構成されたことを特徴とする。
【0022】
前記凹凸構造は、基材の一方の面側に形成され、
前記基材を、可視光波長領域の光を吸収する材料により形成したことを特徴とする。
【0023】
前記凹凸構造は、前記基材の一方の面側に形成され、
前記基材の一方の面とは反対側の裏面を、可視光波長領域の光を吸収する材料により形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、第1の構造の長辺方向が第2の構造により不規則に分断され、剥離領域を低減することが可能である。さらに、第2の構造の深さを深くすることで表面積が増大し、密着性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係る表示体の一構成例を模式的に示す断面図である。
図2】第1実施形態に係る表示体の表面構造を説明する平面図である。
図3】第1実施形態に係る第1の構造の表面構造を説明する平面図である。
図4】第1実施形態に係る第2の構造の表面構造を説明する平面図である。
図5】第2実施形態に係る表示体の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
ここで、図面に示す構成は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率などは現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本開示の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造などが下記のものに限定されるものではない。本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0027】
<第1実施形態>
(表示体の構成)
本開示の第1実施形態に係る表示体の基本構成について、図1を用いて説明する。図1は、本開示の第1実施形態に係る表示体10の一構成例を説明するための断面図である。
図1に示すように、本開示の一実施形態に係る表示体10は、凹凸構造13を有する凹凸層と、凹凸構造13に追従した表面形状を有する多層膜層14とを備える。また、凹凸構造13は、第1の構造と、第2の構造とを有している。以下、各層について詳細に説明する。
【0028】
(多層膜層)
多層膜層14は、凹凸層上に形成される層であり、2層以上の層から構成されている。多層膜層14は、隣接する層の屈折率が互いに異なる。本実施形態の多層膜層14は、高屈折率層12と低屈折率層11とを交互に積層した構造を有する。高屈折率層12の屈折率は、低屈折率層11の屈折率よりも大きい。また、多層膜層14は、凹凸構造13の凹凸形状に追従して積層され、各表示要素の凸部及び凹部が形成される。凹凸構造13における凸部上と凹部上とで、多層膜層14の構成、すなわち、多層膜層14を構成する各層の材料や膜厚や積層順序は一致している。
【0029】
こうした多層膜層14に光が入射すると、多層膜層14における高屈折率層12と低屈折率層11との各界面で反射した光が干渉を起こすとともに、多層膜層14の最外面における不規則な凹凸に起因して進行方向を変える。この結果、特定の波長域の光が広い角度に出射される。この反射光として強く出射される特定の波長域は、高屈折率層12と低屈折率層11との材料及び膜厚、ならびに、凹凸の幅、高さ及び配置によって決まる。以下、高屈折率層12と、低屈折率層11とについて説明する。
【0030】
高屈折率層12と低屈折率層11とは、可視領域の光を透過する材料、すなわち、可視領域の光に対して透明な材料から構成される。高屈折率層12の屈折率が、低屈折率層11の屈折率よりも高い構成であれば、これらの層の材料は限定されないが、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差が大きいほど、少ない積層数で高い強度の反射光が得られる。こうした観点から、例えば、高屈折率層12と低屈折率層11とを無機材料から構成する場合、高屈折率層12を二酸化チタン(TiO)から構成し、低屈折率層11を二酸化珪素(SiO)から構成することが好ましい。ただし、高屈折率層12及び低屈折率層11の各々は、有機材料から構成されてもよい。
【0031】
高屈折率層12及び低屈折率層11の各々の膜厚は、表示体にて発色させる所望の色に応じて、転送行列法等を用いて設計されればよい。例えば、青色を呈する表示体の場合は、TiOからなる高屈折率層12の膜厚は40nm程度であることが好ましく、SiOからなる低屈折率層11の膜厚は75nm程度であることが好ましい。
【0032】
(凹凸層)
凹凸層は、基材の一方の面側に形成された凹凸構造13を備えている。凹凸構造13は、図1のように、基材の一方の面側に形成され、凹凸層を構成する基材を、可視光波長領域の光を吸収する材料により形成しても良い。多層膜層14を透過した光の少なくとも一部は吸収層を構成する凹凸層によって吸収され、透過光が第1面側(図1の上面側)に返ってくることが抑えられる。したがって、凹凸層を有する面から表示体を観察した場合に、多層膜層14からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられるため、反射光による色の視認性の低下を抑制することが可能である。
また、凹凸構造13は、基材の一方の面側に形成され、基材の一方の面とは反対側の裏面を、可視光波長領域の光を吸収する材料により形成しても良い。
【0033】
図1(a)に示した凹凸構造13のように、基材に直接凹凸構造を作製する場合は、例えば電子線や紫外線リソグラフィとドライエッチングなど公知の技術を用いれば良い。
【0034】
凹凸構造13は、散乱に寄与する複数の凹部を備える第1の構造と、剥離抑止のための少なくとも1つの凹部を備える第2の構造を備えている。本実施形態において、第1の構造は第1凹部22を含み構成される。第1凹部22は、第1凹部22の基部が位置する平面から1段以上の段差形状を有している。また、本実施形態において、第2の構造は第2凹部23を含み構成される。第2凹部23は、第2凹部23の基部が位置する平面から1段以上の段差形状を有している。
凹凸層の表面と対向する視点から見て、第1凹部22を構成する長辺の少なくとも一部に第2凹部が交差している。
【0035】
ここで、図2を参照して、基材からなる凹凸層に形成された凹凸構造13の詳細について説明する。図2(a)は、基材をその表面と対向する方向(厚さ方向)から見た平面図であり、図2(b)は図2(a)のII-II線に沿った基材の断面構造を示す図である。
【0036】
図2(a)に示すように、表示パターンとなる第1凹部22及び第2凹部23は、第1方向Dxに伸びる複数の図形要素Sと、第2方向Dyに伸びる複数の図形要素Rから構成される。なお、第1方向Dxと第2方向Dyとは、図形要素S及びRの辺に沿った平面に含まれる方向であり、第1方向Dxと第2方向Dyとは交差する。本実施形態においては、第1方向Dxと第2方向Dyとは直交する。第1方向Dxと第2方向Dyとが直交することにより、第1の構造の剥離領域を低減することができる。
【0037】
図2(b)に示すように、図形要素Rの集合から成るパターンを構成する第1凹部22の深さをh2、図形要素Sの集合から成るパターンを構成する第2凹部23の深さをh3とする。このとき、図形要素RとSが重なった領域である、第1凹部と第2凹部の重なり部21の深さh1は、第1凹部22の深さh2と第2凹部23の深さh3との和である。また、第1凹部22の深さh2と第2凹部23の深さh3との深さは一定であってもよい。
上記構成によれば、凹凸構造13を構成する凸部によって反射光の拡散効果が得られ、多層膜層からの反射光として特定の波長域の光が広い角度で観察される。さらに、不規則に設けられた第1凹部と第2凹部の重なり部21によってDy方向の剥離が抑制され、第1凹部と第2凹部の重なり部21の深さh1が第1凹部22の深さh2及び第2凹部23の深さh3より深く側壁の面積が増加することでより密着性が向上する。
【0038】
図3(a)及び図3(b)は、図2(a)及び図2(b)に示す凹凸構造のうち、基材をその表面と対向する方向(厚さ方向)から見て、複数の図形要素Rの集合からなる第1のパターン30のみを示した図である。図3(a)は、第1の構造及び基材をその表面と対向する方向(厚さ方向)から見た平面図であり、図3(b)は図3(a)のIII-III線に沿った第1の構造及び基材の断面構造を示す図である。複数の図形要素Rの第1方向Dxに沿った辺の長さd1は一定である。可視領域の光を反射させる場合、d1は830nm以下であることが好ましく、例えば、青色の表示要素とする場合は300nm程度が好ましい。
【0039】
一方、複数の図形要素Rにおいて、第2方向Dyに沿った長さd2の標準偏差は、第1方向に沿った辺の長さの標準偏差より大きいことが好ましい。その理由は、第一方向に沿った辺の長さまたは中心を通り第一方向に沿った直線の長さのばらつきが大きくなることにより、二次元全方位に反射光が散乱し、反射率の低下を防止するためである。多層膜層14からの反射光を効率よく散乱させるためには、複数の図形要素Rの第2方向Dyに沿った辺の長さd2は、平均値が4.15μm以下、かつ、標準偏差が1μm以下の分布を有することが好ましい。長さd2の平均値が4.15μm以下である場合、多層膜層14からの反射光を効率よく散乱させることが可能となる。長さd2の標準偏差が1μm以下である場合、長さd2のばらつきを抑えることにより、特定の色を発色しやすくなる。
【0040】
第1凹部22の深さh2は、表示体の表面で反射させる光の波長に応じて適切な高さに設計すれば良い。第1凹部22の深さh2の値は後述する多層膜層の表面粗さより大きい高さであれば回折効果を得ることができる。但し、第1凹部と第2凹部の重なり部21の深さh1を過剰に大きくすると散乱効果が強まり、多層膜表面から反射される光の彩度が損なわれるため、対象となる波長帯が可視領域の表示体の場合は、第1凹部22の深さh2の値は415nm以下が好ましい。第1凹部22の深さh2の値は、10nm以上200nm以下の範囲にあることがより好ましい。
例えば青色の表示体では、効果的な光の広がりを得るためには、第1凹部22の深さh2の値は、40nm以上150nm以下が好ましい。反射光の散乱効果を制御するために、青色の表示体では、第1凹部22の深さh2が100nm以下であることがより好ましい。
【0041】
また、第1凹部22の深さh2は各表示領域内で一定であれば良く、表示領域ごとに異なっていても良い。各表示領域において、複数の図形要素Rから成るパターンの第1凹部22の構造深さが異なる場合、その差が5nm以上であることが好ましい。上限は200nm以下である。第1凹部22の構造深さの差が5nm以上である場合、それぞれの表示領域の色を認識しやすくなる。構造深さが過剰に大きくなった場合、反射光の散乱効果が高くなりすぎて反射光の強度が弱くなってしまう。
【0042】
また、凹凸層を構成する領域内において、複数の図形要素Rの集合から成るパターンを構成する第1凹部22が占める割合が40%以上60%以下であることが好ましい。より好ましくは、凹凸層を構成する領域内において、第1凹部22が占める割合は、50%であることが好ましい。多層膜層からの反射光の広がりを大きくするため、すなわち、反射光の散乱効果を高めるためには、凹凸の起伏が40%以上であることが好ましい。また、第1凹部22が占める割合が60%以下である場合、視認性が向上する。
【0043】
図4(a)及び図4(b)は、図2(a)及び図2(b)に示す凹凸構造13のうち、基材をその表面と対向する方向(厚さ方向)から見て、複数の図形要素Sの集合からなる第2のパターンのみを示した図である。図4(a)は、第2の構造及び基材をその表面と対向する方向(厚さ方向)から見た平面図であり、図4(b)は図4(a)のIV-IV線に沿った第2の構造及び基材の断面構造を示す図である。複数の図形要素Sは複数の図形要素Rと交差する位置関係にある。本実施形態においては、複数の図形要素Sは複数の図形要素Rと直交する。これにより、第1の構造の剥離領域を低減することができる。
【0044】
複数の図形要素SのDx方向に沿った辺の長さd3は、複数の図形要素RのDx方向に沿った辺の長さd1より長い。複数の図形要素Sによって構成される第2のパターンは、第1のパターンと交差し、複数の図形要素RのDy方向に沿った辺の長さd2を不規則に分断することで、図形要素RのDy方向に沿ったせん断応力を開放し、剥離を低減させることが可能である。
【0045】
複数の図形要素Sの第2方向Dyに沿った辺の長さd4は、複数の図形要素RのDx方向に沿った長さd1の1/4以下である。長さd4が長さd1の1/4以下である場合、反射光の散乱効果を制御し、視認性を向上させることができる。長さd1の長さは830nm以下であることが好ましく、例えば、青色の表示要素とする場合は300nm程度が好ましい。よってd4の長さは207nm以下であることが好ましく、青色の表示要素とする場合は75nm程度が好ましい。複数の図形要素Sで構成された第2のパターンは、複数の図形要素Rで構成された第1のパターンによる光の散乱効果を妨げない程度の大きさで作製する必要があり、可視光を散乱させる複数の図形要素Rより小さく、紫外域の波長程度が好ましい。
【0046】
第2凹部23の深さh3は、200nm以上500nm以下であることが好ましい。第2凹部23の深さh3が200nm以上である場合、第2凹部23の側壁の表面積を増大させ、密着性を向上させることで剥離を抑制することが可能である。また、第2凹部23の深さh3が500nm以下である場合、第2の構造を形成しやすいことに加えて、反射光の散乱効果を制御し、視認性を向上させることが可能である。第2凹部23の深さh3は第1凹部22の深さh2より深いことが好ましい。
【0047】
また、さらに密着性を向上させるために、多層膜層14を形成する前に凹凸構造13にコロナ処理などを行い、凹凸構造13の表面積を増大させても良い。
【0048】
第2の構造を表面と対向する方向から見たとき、凹凸層を構成する領域内において、第2凹部23が占める割合は10%以上30%以下であることが好ましい。第2凹部23の面積が過剰に少ない場合、剥離を低減することが可能なエリアはごく一部に限られる。一方で、第2凹部23の面積が過剰に多い場合は、第1の構造の散乱効果を妨げることになり、表示体として所望の発色を得られない。
【0049】
本実施形態に係る表示体によれば、第1の構造の長辺方向が第2の構造により不規則に分断され、第1の構造のDy方向に沿ったせん断応力を開放することで、剥離領域を低減することが可能である。さらに、第2の構造を構成する第2凹部の深さを深くすることで表面積が増大し、密着性を向上させることが可能である。その結果、第1の構造による光の散乱効果を妨げることなく、剥離を抑制した表示体を得られる。
【0050】
<第1実施形態の効果>
本実施形態に係る表示体10は、以下の効果を有する。
(1)本実施形態の表示体10の凹凸構造13は、散乱に寄与する複数の凹部を備える第1の構造と、剥離抑止のための少なくとも1つの凹部を備える第2の構造から成る。
この構成によれば、凹凸構造13と多層膜層14との密着性が向上する。
(2)本実施形態の表示体10の複数の図形要素Rにおいて、第2方向Dyに沿った辺の長さd2の標準偏差は、第1方向Dxに沿った辺の長さd1の標準偏差よりも大きい。
この構成によれば、表示体10の反射率の低下を抑止することができる。
(3)本実施形態の表示体10の第2凹部23の深さh3は、第1凹部22の深さh2より大きい。
この構成によれば、表示体10全体の密着性を向上させることができる。
(4)本実施形態の表示体10は、凹凸層の表面と対向する視点から見て、第1凹部を構成する長辺の少なくとも一部に第2凹部が交差する。
この構成によれば、凹凸構造13と多層膜層14との密着性が向上する。
【0051】
<第2実施形態>
図5は、本実施形態に係る製造方法によって製造される表示体の画素要素の構成例を示す断面図である。これは、第1実施形態における図1に対応している。
図5では、第1実施形態で説明した部分と同一の部分については同一符号を付して示し、以下の記載では、重複説明を避け、第1実施形態と異なる点について説明する。
すなわち、本実施形態に係る製造方法によって製造される表示体は、その断面図を図5に例示するように、多層膜層14と、基材55との間に形成された樹脂層53に凹凸構造が形成されている点が、第1実施形態に係る表示体と異なっている。
【0052】
すなわち、基材55自体が凹凸層を構成する代わりに、基材55の上に設けた樹脂層53が凹凸層を構成する。この構成によれば、基材に凹凸構造が形成されている凹凸構造13と比較して、基材の材料の選択についての自由度が高まる。
樹脂層53は、例えば、光ナノインプリント法により凹凸構造13を形成する場合に、基材55の表面に塗布される光硬化性樹脂で構成される。
本実施形態に係る表示体の製造方法では、この光硬化性樹脂からなる樹脂層53の上面を加工して、凹凸構造13を形成する。この場合、光インプリント用モールドを用意する必要がある。
【0053】
インプリント用モールドを作製するために、第1実施形態で説明したように、例えば電子線や紫外線リソグラフィとドライエッチングなど公知の技術を用いれば良い。あるいは、インプリント用モールドをより簡便に作製するために、形成したレジストパターン上に、例えばニッケル(Ni)等の金属を成膜し、電鋳処理を行い、レジストを溶解し、Niからなるインプリント用モールドを作製する方法を適用するようにしても良い。
このような製造方法によっても、第1実施形態で説明したような表示体10を製造することが可能となる。
【0054】
<第2実施形態の効果>
本実施形態に係る表示体50は、第1実施形態の効果と合わせて以下の効果を有する。
(5)本実施形態の表示体50は、多層膜層14と、基材55との間に形成された樹脂層53に凹凸構造が形成されている。
この構成によれば、基材の材料の選択についての自由度が高まり、また、凹凸構造の形成に、微細な凹凸の形成に適したナノインプリント法の適用が可能である。
【実施例0055】
以下、本開示を実施例によりさらに詳しく説明するが本開示は、実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1>
【0056】
実施例1における、表示体及びその製造方法について説明する。本実施例の表示体は、ポリエチレンテレフタラートを含む基材上に、紫外線硬化性樹脂を含む凹凸構造層と、TiO薄膜とSiO薄膜とを交互に5層ずつ積層した多層膜層とが形成された構造を有する。また、実施例1の表示体が有する表示要素は、図2のように、基材に凹凸構造が形成された表示要素から構成される。
まず、光インプリント法を用いて凹凸構造を形成するための版を作製した。本実施例では光インプリント法を用いて版を形成したが、熱プリント法を用いて版を形成してもよい。凹凸構造層への形成対象の凹凸を電子線描画および現像を行うことで合成石英基板上のレジスト膜に形成した。電子線描画工程では光の散乱効果を有する第1の構造を先に描画し、次に剥離を抑止する第2の構造を描画した。続いてレジスト膜へ真空蒸着法を用いてシード層となるNi薄膜を20nm蒸着した。その後、アミド硫酸とホウ酸の混合液に浸漬させ電鋳処理を行った。最後に合成石英上のレジスト膜を溶解させることでNi版を剥離し、形成対象の凹凸を反転した凹凸を形成したNi版を得た。
【0057】
次に、片面に易接着処理が施されたPETフィルム上に光硬化性樹脂を塗布し、この樹脂にNi版の凹凸が形成されている面を押し当て、365nmの波長の光を照射して樹脂を硬化させた。その後、硬化した樹脂およびPETフィルムをモールドから剥離した。これにより、凹凸構造を有する樹脂層と基材であるPETフィルムとの積層体が得られた。
【0058】
続いて、得られた樹脂層と基材との積層体の凹凸を有する面に、次に、凹凸構造層上に、真空蒸着法を用いて、60nmの厚さのTiO薄膜と80nmの厚さのSiO薄膜とを交互に積層して、多層膜層を形成した。TiO薄膜が高屈折率層であり、SiO薄膜が低屈折率層である。これにより、実施例の表示体を得た。
【0059】
実施例1の表示体を、第1の構造のみを作製し、多層膜を成膜した表示体と比較した。その結果、実施例1の表示体の方が密着性が良く、特にDy方向に沿った剥離が抑制された。また、第2の構造体による視認性の低下は見られず、所望の発色を得られた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の表示体は意匠性の高い表示物に利用可能である。特に、凹凸構造と多層膜界面の密着性の向上により曲面への表面加飾やセキュリティ分野、屋外での表示や装飾に好適に利用が期待される。
【符号の説明】
【0061】
10、50・・・表示体
11・・・低屈折率層
12・・・高屈折率層
13・・・凹凸構造(基材)
14・・・多層膜層
20・・・表示要素
21・・・第1凹部と第2凹部の重なり部
22・・・第1凹部
23・・・第2凹部
30・・・第1のパターン
40・・・第2のパターン
53・・・樹脂層
55・・・基材
Dx・・・第1方向
Dy・・・第2方向
R、S・・・図形要素
図1
図2
図3
図4
図5