(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102881
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、樹脂フィルムの製造方法、フィルム加工品およびフィルム加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220630BHJP
B29C 55/28 20060101ALI20220630BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20220630BHJP
B29C 48/315 20190101ALI20220630BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220630BHJP
C08K 3/015 20180101ALI20220630BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
C08L101/00
B29C55/28
B29C48/305
B29C48/315
C08J5/18 CES
C08K3/015
C08L23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217909
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】松田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】藤森 良枝
(72)【発明者】
【氏名】長尾 朋和
【テーマコード(参考)】
4F071
4F207
4F210
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA16
4F071AA18
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4J002FD186
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4J002GF00
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス性を有し、ウイルスの増殖を抑えることができる樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】樹脂フィルム1は、抗ウイルス剤2および樹脂材料3を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ウイルス剤および樹脂材料を含有する
ことを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項2】
前記抗ウイルス剤として銅成分を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記樹脂材料に対する前記銅成分の配合割合は、2質量%以上20質量%以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記銅成分は、一価銅である
ことを特徴とする請求項2または3に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記樹脂材料は、ポリエチレンである
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
前記ポリエチレンの密度が、0.91g/cm3以上0.93g/cm3以下である
ことを特徴とする請求項5に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
厚みが20μm以上150μm以下であること
を特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
少なくとも2層以上で構成されている
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の樹脂フィルムを加工して形成されたフィルム加工品。
【請求項10】
抗ウイルス剤と樹脂材料とを混合して加熱し、樹脂組成物を得る融解工程と、
前記樹脂組成物をフィルム状とするフィルム化工程とを少なくとも含み、
前記フィルム化工程において、前記樹脂組成物の押出加工としてTダイ加工、又は、インフレーション加工のうちいずれかを行う
ことを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記フィルム化工程における前記押出加工として前記インフレーション加工を行い、当該インフレーション加工において前記樹脂組成物を150度以上190度以下の温度で熱成形する
ことを特徴とする請求項10に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記フィルム化工程において、前記融解工程で得られた樹脂成形物と、少なくとも1種の他の樹脂組成物とを同時に熱成形して多層構造のフィルムを形成する
ことを特徴とする請求項10または11に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記フィルム化工程の実施後に、フィルム状に形成された前記樹脂組成物と基材とを貼り合わせる多層化工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された樹脂フィルムを用いた加工工程を含む
フィルム加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムに関する。特に種々の物品の包装・持ち運び用に供する包装袋を構成する包装材料として用いることができる、抗ウイルス性を有する樹脂フィルム、フィルム加工品及びそれらの製造方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、包装材料としてポリエチレン系樹脂組成物からなるフィルムが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、抗ウイルス性能、抗菌性能の需要が急速に高まっており、特に抗ウイルス製品の開発が急務となっている。このため、人の手に触れ易く、繰り返し使用されることが想定される包装袋の材料(包装材料)に使用される樹脂フィルムにおいても、抗ウイルス性を有し、付着したウイルスの増殖を抑えることが求められる。
しかしながら、これまで包装材料に用いられる樹脂フィルムにおいて、抗ウイルス性能の需要がなかった。このため、従来の樹脂フィルムは抗ウイルス性を有しておらず、ウイルスの増殖を抑えることができなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、抗ウイルス性を有し、ウイルスの増殖を抑えることができる樹脂フィルム、フィルム加工品及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様である樹脂フィルムは、抗ウイルス剤および樹脂材料を含有する。
また、上記課題を解決するために、本発明の他の一態様であるフィルム加工品は、前記樹脂フィルムを加工して形成されている。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明のさらに他の一態様である樹脂フィルムの製造方法は、抗ウイルス剤と樹脂材料とを混合して加熱し、樹脂組成物を得る融解工程と、前記樹脂組成物をフィルム状とするフィルム化工程とを少なくとも含み、前記フィルム化工程において、前記樹脂組成物の押出加工としてTダイ加工、又は、インフレーション加工のうちいずれかを行う。
また、上記課題を解決するために、本発明のさらに他の一態様であるフィルム加工品の製造方法は、前記製造方法によって製造された樹脂フィルムを用いた加工工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗ウイルス性を有し、ウイルスの増殖を抑えることができる樹脂フィルム、フィルム加工品及びそれらの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの断面模式図である。
【
図2】本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルムの断面模式図である。
【
図3】本発明の実施例1による樹脂フィルムで作製した包装袋の概略構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施例2による樹脂フィルムで作製した包装袋の概略構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施例3による樹脂フィルムで作製した包装袋の概略構成を示す図である。
【
図6】本発明の実施例1による樹脂フィルムで作製した包装袋の断面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【
図7】本発明の実施例3による樹脂フィルムで作製した包装袋の断面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明を行う。
ここで、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、及び構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
<第一実施形態>
〔樹脂フィルムの構成〕
本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という)に係る樹脂フィルムの構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る樹脂フィルム1の一構成例を説明するための断面模式図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る樹脂フィルム1は、単層の樹脂フィルムであって、抗ウイルス剤2および樹脂材料3を含有している。これにより、樹脂フィルムに抗ウイルス性を付与してウイルスの増殖を抑えることができる。ここで、ウイルスの増殖の抑制には、ウイルスの不活化も含まれるとする。また、
図1において模式的に示すように、樹脂フィルム1は、抗ウイルス剤2が、樹脂材料3中に分散して含有される形態とすることができる。また、
図1中に示すように、樹脂フィルム1において、抗ウイルス剤2は大半が樹脂材料3内に埋没しているが、一部が樹脂フィルム1の表面に露出していてもよい。
【0013】
(樹脂材料)
本実施形態に係る樹脂フィルム1の樹脂材料3としては、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂などの熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレンエラストマーなどのスチレン系エラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマーなどのオレフィン系エラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのポリウレタン系エラストマー、塩ビ系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ナイロン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0014】
ここで、樹脂フィルム1に使用可能な熱可塑性樹脂として、多数の熱可塑性樹脂を挙げたが、近年の環境問題に対する社会的な関心の高まりに鑑みれば、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂を使用することが望ましい。特に、各種物性や、加工性、汎用性、経済性等の面からは、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂又はポリエステル系樹脂を使用することが最も望ましい。
【0015】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)などのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体などのポリプロピレン系樹脂などから樹脂フィルム1の使用目的等に応じて適宜選択し、樹脂材料3として使用すればよい。
【0016】
樹脂フィルム1の包装材料としての用途には、適度な柔軟性、加工適性、経済性などの面から、樹脂材料3としてポリエチレン樹脂(PE)を用いることが好ましい。
【0017】
本実施形態において、樹脂材料3に用いるポリエチレン樹脂の密度は、0.91g/cm3以上0.93g/cm3以下の範囲内であると好ましい。つまり、樹脂材料3は、ポリエチレン樹脂のうち、低密度ポリエチレンであることが好ましい。低密度ポリエチレン樹脂を樹脂材料3に用いることにより、例えば樹脂フィルム1の表面に付着したウイルスが樹脂材料3中の抗ウイルス剤2に接触する確率が、高密度ポリエチレン樹脂と比較して上昇する。これにより、樹脂フィルム1を成形してなる包装袋において、付着したウイルスの増殖をより効果的に抑制する(不活化する)ことができる。
【0018】
また、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を樹脂材料3として用いてもよい。直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の密度は、0.91g/cm3以上0.925g/cm3以下の範囲内である。直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)は、物理的強度、ヒートシール強度並びに剛性の点で、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)よりも優れている。このため、樹脂フィルム1の用途(例えば、樹脂フィルム1を材料とする包装袋の用途)に応じて、低密度ポリエチレン樹脂または直鎖状低密度ポリエチレン樹脂のいずれかを選択すればよい。
【0019】
また、ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体、1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネートなどから樹脂フィルム1の使用目的等に応じて、適宜選択して樹脂材料3として使用すればよい。
【0020】
樹脂材料3としては、上述の熱可塑性樹脂の2種以上の混合物、共重合体、複合体等を使用できる。また樹脂のグレードや組成は、フィルム化の容易さや加工適性を考慮して選択することができる。また、樹脂材料3としては、熱可塑性樹脂に限られず、熱硬化性樹脂、電子線や紫外線などの照射によって硬化する放射線硬化型樹脂を用いてもよい。
【0021】
(抗ウイルス剤)
本実施形態に係る樹脂フィルム1は、抗ウイルス剤2として銅成分を含有していることが好ましい。抗ウイルス剤2は、ウイルスの増殖を抑えることができる物質であればよく、特に制約はないが、ウイルスの増殖抑制効果の点で銅成分が優れている。また、銅成分は抗ウイルス作用のみならず、抗菌作用も兼ね備えている。つまり樹脂フィルム1は、銅成分を含有することにより、抗ウイルス性に加えて抗菌性が付与される。したがって、銅成分を含有する樹脂フィルム1は、ウイルスの増殖を抑制または阻害することができ、さらに菌の増殖を抑制または阻害することができる。
【0022】
抗ウイルス剤2に用いる銅成分は、一価銅(一価の銅化合物微粒子)であることが好ましい。一価銅の化合物としては、例えばヨウ化物(ヨウ化銅)を好適に用いることができる。またこの他にも、一価銅の化合物として塩化物、酢酸化合物、硫化物、臭化物、過酸化物、酸化物、またはチオシアン化物を好適に用いることができる。さらに、本実施形態における抗ウイルス剤2に含有される一価の銅化合物の粒子として、CuCl、Cu(CH3COO)、CuBr、CuI、CuSCN、Cu2SおよびCu2Oで構成される群から少なくとも1つ選択される粒子を用いることができる。
【0023】
本実施形態に係る樹脂フィルム1が含有する抗ウイルス剤2において不活性化できるウイルスについては特に限定されず、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、様々なウイルスを不活化することができる。
例えば、ライノウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、口蹄疫ウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス、A型、B型、C型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型、C型肝炎ウイルス、東部および西部馬脳炎ウイルス、オニョンニョンウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、スナバエ熱、ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリ、リッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、ヒトポルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、水痘、帯状発疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルスなどを不活化することができる。
【0024】
本実施形態において、抗ウイルス剤2の粒子の大きさは特に限定されず、当業者が適宜設定することができるが、樹脂部材の強度の低下を考慮すると1μm以下であることが好ましい。また、本実施形態においては特に限定されず、当業者が適宜設定可能であるが、粒子の大きさは1nm以上とすることが、粒子の製造上、取扱上および化学的安定性の観点より好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。
【0025】
本実施形態に係る樹脂フィルム1において、樹脂材料3に対する抗ウイルス剤2、すなわち銅成分の配合割合は、2質量%以上20質量%以下の範囲内であればよい。樹脂材料3に対する銅成分の配合割合(添加量)が2質量%以上である場合、抗ウイルス剤2としての銅成分が効果的に作用し、抗ウイルス性が向上される。また、銅成分の添加量が20質量%以下である場合、包装材料としての耐久性が向上するとともに、必要以上のコストの増加を抑えることができる。
【0026】
また、樹脂材料3に対する銅成分の添加量は、3質量%以上10質量%以下の範囲内であることが好ましい。樹脂材料3に対する銅成分の添加量が3質量%以上である場合、抗ウイルス性がより向上される。また銅成分の添加量10質量%以下である場合、包装材としての耐久性がさらに向上する。
【0027】
また、樹脂材料3に対する銅成分の添加量は、4質量%以上6質量%以下の範囲内であることがより好ましい。樹脂材料3に対する銅成分の添加量が4質量%以上である場合、抗ウイルス性がより確実に向上され、樹脂フィルム1を包装材とする包装袋を繰り返し利用した場合も、ウイルスの増殖を抑える効果が確実に発揮される。また、銅成分の添加量が6質量%以下である場合、樹脂フィルム1の包装材としての耐久性がより向上し、繰り返しの利用に耐えうる成形品(例えば、包装袋)を作製することができる。
【0028】
また、樹脂フィルム1には、抗ウイルス剤2に加えて、抗菌剤を添加してもよい。抗菌剤としては、例えば無機化合物のゼオライト、アパタイト、ジルコニアなどの物質に銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンのいずれかの金属イオンを取り込んで形成した抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア等の無機系抗菌剤を用いてもよい。
【0029】
また、樹脂フィルム1には、必要に応じて、例えば、着色剤、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、防黴剤、減摩剤、光散乱剤及び艶調整剤等の各種の添加剤から選ばれる1種以上の添加剤を添加してもよい。
【0030】
樹脂フィルム1の厚みは、20μm以上150μm以下の範囲内であることが好ましい。樹脂フィルム1の厚みが20μm以上である場合、樹脂フィルム1に含有される抗ウイルス剤2(本例では、銅成分)の絶対量として、抗ウイルス性能を十分に発揮可能な分量が確保され、樹脂フィルム1および樹脂フィルム1を用いた成形品(例えば包装袋)における抗ウイルス性能を向上することができる。また、樹脂フィルム1の厚みが150μm以下である場合、外観を良好に保つことができ、さらに性能とコストとのバランスを維持して必要以上のコストの増加を抑えることができる。
【0031】
本実施形態に係る樹脂フィルム1において、抗ウイルス剤2は、樹脂材料3中に均一に分散されて含有されている。このため、樹脂フィルム1や樹脂フィルム1の成形品に伸長が生じた場合であっても、内部の抗ウイルス剤2が均一の濃度で表面に露出することになる。これにより、例えば加工時において樹脂フィルム1が延伸された場合や、樹脂フィルム1の成形品(例えば、包装袋)の使用時に伸長が生じた場合であっても、抗ウイルス性を維持することができる。
【0032】
(表面電位制御剤)
また樹脂フィルム1は、抗ウイルス剤2および樹脂材料3に加え、表面電位制御剤を含有してもよい。
表面電位制御剤を樹脂材料3に含有することで、樹脂材料3単体の場合よりも、樹脂フィルム1の表面の電位をプラス方向に制御するものである。本実施形態における表面電位制御剤としては、樹脂フィルム1の表面の電位をプラス側に変化させることができるものであれば特に限定されないが、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0033】
樹脂の表面電位は一般的にマイナスであり、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなくウイルスの表面電位もマイナスであるため、樹脂で形成された樹脂フィルム1の表面にウイルスは吸着しにくい。よって、樹脂フィルムに抗ウイルス剤のみを含有しても抗ウイルス効果が発現しづらい場合がある。表面電位制御剤を樹脂フィルム1に含有することにより、樹脂フィルム1の表面電位をプラス方向に制御することでウイルスが樹脂フィルム1に吸着しやすくなり、抗ウイルス剤2による抗ウイルス効果を効率よく発現することができる。
【0034】
(樹脂フィルムの製造方法)
以下、本実施形態の樹脂フィルムの製造方法を説明する。
本実施形態に係る樹脂フィルム1の製造方法は、抗ウイルス剤2と樹脂材料3とを混合して加熱し、樹脂組成物を得る融解工程と、当該樹脂組成物をフィルム状とするフィルム化工程とを少なくとも含んでいる。
【0035】
例えば融解工程として、抗ウイルス剤2をペレット状にした樹脂材料3に所定の割合になるように混合し、これを加熱して溶融混練することで、抗ウイルス剤2が樹脂中に均一に分散された抗ウイルス性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
なお、融解工程では、高濃度の抗ウイルス剤2を含有した樹脂ペレットであるマスターバッチペレットを用いてもよい。マスターバッチペレットは、抗ウイルス剤を市販の樹脂ペレットと混合し、これを混練押出機にて抗ウイルス剤を樹脂内部に均一に含有させ、冷却後、ペレタイザにて細かくカットしたものである。抗ウイルス剤2を含有したマスターバッチペレットと、ペレット状の樹脂材料3とを所定の割合になるように混合し、これを溶融混練することで、抗ウイルス剤2が樹脂中に均一に分散された抗ウイルス性を有する樹脂部材を得ることができる。マスターバッチペレットを用いる場合、融解工程において、マスターバッチペレットを構成する樹脂ペレットとも樹脂材料3の一部となる。なお、マスターバッチペレットに用いる樹脂ペレットが、樹脂材料3と同じ樹脂材料であることにより、樹脂フィルム1中において抗ウイルス剤2の分散が均一になり易い。
【0037】
なお、樹脂フィルム1に表面電位制御剤を添加する場合には、融解工程において、抗ウイルス剤2、樹脂材料3および表面電位制御剤を混合し、これを溶融混練すればよい。また、マスターバッチペレットを作製する段階で、抗ウイルス剤2とともに表面電位制御剤を添加して、表面電位制御剤を含むマスターバッチペレットを得てもよい。
【0038】
次いで、融解工程で得た抗ウイルス性を有する樹脂組成物をフィルム状とするフィルム化工程を行う。例えば、フィルム化工程では成形機にて、押出成形によって樹脂組成物をフィルム状に成形する。フィルム化工程では、当該樹脂組成物の押出加工としてTダイ法による加工(Tダイ加工)、又は、インフレーション法による加工(インフレーション加工)のうちいずれかを行えばよい。つまり、融解工程で得られた樹脂組成物は、Tダイ法、インフレーション法などでフィルム状に成形することができる。例えば、インフレーション法は、樹脂材料3がポリエチレンである場合のフィルム成形に好適に用いられる。また、例えばTダイ法は、樹脂材料3がポリプロピレンである場合のフィルム成形に好適に用いられる。
【0039】
また、フィルム化工程においては、フィルム状となった樹脂組成物の熱成形を行う。これにより、樹脂フィルム1を得ることができる。インフレーション加工では、フィルム状の樹脂組成物を150度以上190度以下の温度で熱成形することが好ましい。インフレーション加工において、熱成形の温度は、樹脂材料3の種類に応じて選択される。例えば、樹脂材料3として低密度ポリエチレンを用いる場合、熱成形の温度は、150度以上170度以下の範囲内が好ましい。また、高密度ポリエチレンを用いる場合、熱成形の温度は、170度より高く190度以下の範囲内であることが好ましい。
また、Tダイ加工では、フィルム状の樹脂組成物を190度以上270度以下の温度で熱成形することが好ましい。
【0040】
また熱成形では、例えばフィルムを加熱しながら一定方向に引っ張る一軸延伸あるいは二軸延伸が行われてもよい。この場合の熱成形は、延伸工程に相当する。
上述の押出加工においてTダイ法やインフレーション法でフィルム成形する場合、延伸工程を行うことで、より高い抗ウイルス効果が得られる。Tダイ法のフィルムは、例えばフラット延伸法で延伸される。具体的にはフィルム走行方向(縦方向)に関しては引き取りローラーの回転速度差で延伸され、横方向に関してはクリップでフィルムを把持し横に拡げる。縦方向に延伸し次に横方向に延伸する逐次二軸延伸や、縦・横同時に延伸する同時二軸延伸や、縦-横-縦の三段階など複数段階で延伸する多段延伸などがある。
インフレーション法のフィルムでフィルム成形する場合は、例えばチューブラー法にて延伸をする。押出製膜したフィルムをそのまま予熱ヒーターで加熱した後、ヒーター部で、縦方向はロールの引き取り速度で、横方向は空気圧で延伸する。
【0041】
延伸工程での延伸倍率は、被延伸処理物、延伸方法に応じて適宜選定されるが、通常、総延伸倍率が1.5倍以上10.0倍以下になるように設定される。延伸倍率が1.5倍未満の場合には、抗ウイルス効果の大きな変化は得られない。また、延伸倍率が10.0倍を超える場合には、延伸張力が極めて高くなるため、樹脂部材が切れ易くなり、加工性が低下する場合がある。
【0042】
以上説明したように、本実施形態による樹脂フィルム1は、抗ウイルス剤2および樹脂材料3を含有する。
これにより、抗ウイルス性を有し、ウイルスの増殖を抑えることができる樹脂フィルムを提供することができる。
【0043】
また、本実施形態による樹脂フィルム1は、抗ウイルス剤2として銅成分を含有してもよい。
これにより、ウイルスの増殖を抑制または阻害することができ、さらに菌の増殖を抑制または阻害することができる樹脂フィルムを提供することができる。
【0044】
また、本実施形態による樹脂フィルム1において、樹脂材料3に対する銅成分の配合割合は、2質量%以上20質量%以下の範囲内であってもよい。
これにより、樹脂フィルム1において、ウイルスの増殖をより確実に抑えることができる。
【0045】
また、本実施形態による樹脂フィルム1において、銅成分は、一価銅であってもよい。
これにより、樹脂フィルム1において、ウイルスの増殖抑制効果をさらに向上することができる。
【0046】
また、本実施形態による樹脂フィルム1において、樹脂材料3は、ポリエチレンであってもよい。
これにより、抗ウイルス性を有し、且つ環境に配慮した材料による樹脂フィルムを提供することができる。
【0047】
また、本実施形態による樹脂フィルム1において、ポリエチレンの密度が、0.91g/cm3以上0.93g/cm3以下であってもよい。
これにより、ウイルスの増殖抑制効果をより確実に向上することができる。
【0048】
また、本実施形態による樹脂フィルム1の厚みは、20μm以上150μm以下であってもよい。
これにより、抗ウイルス剤2の絶対量として、抗ウイルス性能を十分に発揮可能な分量が確保することができる。
【0049】
また、本実施形態による樹脂フィルム1の製造方法は、抗ウイルス剤2と樹脂材料3とを混合して加熱し、樹脂組成物を得る融解工程と、当該樹脂組成物をフィルム状とするフィルム化工程とを少なくとも含み、当該フィルム化工程において、当該樹脂組成物の押出加工としてTダイ加工、又は、インフレーション加工のうちいずれかを行う。
これにより、抗ウイルス性を有する樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【0050】
また、本実施形態による樹脂フィルム1の製造方法では、フィルム化工程において、前記押出加工として前記インフレーション加工を行い、当該インフレーション加工において前記樹脂組成物を150度以上190度以下の温度で熱成形する。
これにより、樹脂材料3に適した温度によって、樹脂組成物をフィルム状に形成することができる。
【0051】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルムについて、
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の第二実施形態(以下、本実施形態という)に係る樹脂フィルム10の一構成例を説明するための断面図である。
【0052】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルム10は、単層構造ではなく積層構造である点で、上記第一実施形態と異なる。
図2に示すように、樹脂フィルム10は、基材層12および樹脂フィルム層11がこの順に積層されている。基材層12は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化型樹脂といった樹脂材料で形成されてもよいし、紙やアルミ箔で形成されてもよい。基材層12が紙である場合、紙上に押出ラミネートで樹脂フィルム層11を形成することで、樹脂フィルム10を作製することができる。基材層12としては、樹脂フィルム10の用途に応じて、遮光性や強度の増強が可能な材料を選択することができる。これにより、樹脂フィルム10に対して用途に応じた性能を付与することができる。
【0053】
樹脂フィルム層11は、抗ウイルス剤2および樹脂材料3を含有する構成であればよい。つまり、樹脂フィルム層11は、上記実施形態における樹脂フィルム1と同等の作用効果を奏する構成であればよい。
【0054】
樹脂フィルム10を2層フィルムにすることで、抗ウイルス効果を出したい面のみに抗ウイルス性を有する樹脂フィルム層11を形成することも可能となる。このため、樹脂フィルム全体における抗ウイルス剤2の含有量を少なくすることが可能となり、樹脂フィルム層の強度低下を抑えつつ、高い抗ウイルス効果を得ることができ、より安価に抗ウイルス性を有する樹脂フィルムを製造することが可能となる。
【0055】
樹脂フィルム10は、少なくとも2層以上で構成された積層体であればよく、3層以上で構成されていてもよい。樹脂フィルム10は、基材層12の少なくとも一方の面において抗菌性を有する樹脂フィルム層11が露出する構成であればよい。
【0056】
以下、本実施形態による樹脂フィルム10の製造方法を説明する。
本実施形態において、樹脂フィルム層11は、上記第1実施形態に係る樹脂フィルム1の製造方法と同様の融解工程およびフィルム化工程によって作製することができる。なお、積層体である樹脂フィルム10の製造時において、フィルム化工程の押出加工としてTダイ加工を行う場合、フィルム状の樹脂組成物を230度以上280度以下の温度で熱成形することが好ましい。
【0057】
また、本実施形態による樹脂フィルム10の製造方法は、上述のフィルム化工程の実施後に、フィルム状に形成された樹脂組成物と基材(本例では、基材層12)とを貼り合わせる多層化工程をさらに含んでいればよい。多層化工程では、樹脂フィルム層11と基材層12とを、基材層12の材料に応じた種々の方法によって、貼り合せることができる。例えば、多層化工程では、押出ラミネート方法によって、基材層12に加熱した樹脂フィルム層11を貼り合せてもよいし、基材層12又は樹脂フィルム層11のうち少なくとも一方に接着剤を塗布して貼り合せてもよい。多層化工程において、押出ラミネート方法を用いる場合の熱成形温度は、300度以上330度以下の範囲内であればよい。また、多層化工程において接着剤によるラミネート方法を用いる場合、熱成形温度は80度以上150度以下の範囲内であることが好ましい。
【0058】
本実施形態による樹脂フィルム10の製造方法において、樹脂フィルム層11を作製する融解工程およびフィルム化工程が一次加工に相当し、多層化工程が2次加工に相当する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態による樹脂フィルム10は、少なくとも2層以上で構成されていてもよい。
これにより、強度低下の抑制とコスト抑制を両立しつつ、高い抗ウイルス効果を有する樹脂フィルムを提供することができる。
【0060】
また、本実施形態による樹脂フィルム10の製造方法は、上記第1実施形態におけるフィルム化工程の実施後に、フィルム状に形成された樹脂組成物と基材層12とを貼り合わせる多層化工程をさらに含んでいてもよい。
これにより、多層構造の樹脂フィルム10を得ることができる。
【0061】
(変形例1)
2層以上の積層体である樹脂フィルム10の構成は、上記第2実施形態に限られない。以下、本実施形態に係る樹脂フィルム10の第一の変形例について説明する。
例えば、樹脂フィルム10は、基材層12上に2層以上(多層)の樹脂フィルム層11を積層した構成であってもよい。この場合、多層の樹脂フィルム層11は、接着剤層(不図示)を介して積層されていてもよい。
【0062】
樹脂フィルム層11が多層構造である場合も、各樹脂フィルム層11は、上記第1実施形態における樹脂フィルム1と同様に、融解工程およびフィルム化工程を含む製造方法によって作製される。作製された各樹脂フィルム層11は、上述のように接着剤層を用いて貼り合わされてもよいし、共押出し法(Tダイ法、インフレーション法)によって積層されてもよい。これにより、一次加工として、多層の樹脂フィルム層11が作製される。また、多層構造の樹脂フィルム層11は、さらに上述の多層化工程(二次加工)において、基材層12と積層すればよい。
【0063】
また、基材層12を設けず、接着剤層を介して接着された多層の樹脂フィルム層11によって、多層構造の樹脂フィルム10を構成してもよい。
【0064】
(変形例2)
次に、本実施形態に係る樹脂フィルム10の第二の変形例について説明する。
本変形例による樹脂フィルム10は、基材層12上に、抗ウイルス剤を含まない樹脂層(不図示)と接着剤層と、樹脂フィルム層11とをこの順に積層したラミネート構成であってもよい。当該ラミネート構成による樹脂フィルム10には、基材層12を設けなくてもよい。
【0065】
本変形例による樹脂フィルム10の製造方法では、一次加工でのフィルム化工程において、上記第1実施形態における融解工程で得られた樹脂組成物(例えば、抗ウイルス剤を含む樹脂組成物)と少なくとも1種の他の樹脂組成物とを同時に熱成形して多層構造の樹脂フィルム10を形成してもよい。ここで、熱成形は、共押出し法(Tダイ法、インフレーション法等)を用いて行ってもよい。また、他の樹脂組成物は、融解工程で得られた樹脂組成物と異なるものであればよく、例えば、抗ウイルス剤を含まない樹脂層を形成する樹脂組成物であってもよい。
【0066】
また、上述のラミネート構成による樹脂フィルム10は、シーラント層として樹脂フィルム層11を用いた構成としてもよい。この場合、樹脂フィルム層11が接着性樹脂として機能し、抗ウイルス剤を含まない樹脂層と共押出しによって積層されてもよい。
このように、樹脂フィルム10が多層構造であっても、表層に樹脂フィルム層11を配置することで、抗ウイルス性を発揮して表面におけるウイルスの増殖を抑えることができる。
【0067】
<第三実施形態>
本発明の第三実施形態に係るフィルム加工品について説明する。
本実施形態に係るフィルム加工品は、上記第1実施形態または上記第2実施形態による樹脂フィルム(樹脂フィルム1または樹脂フィルム10)を加工して形成される。これにより、フィルム加工品に、抗ウイルス性能を付与することができる。
【0068】
本実施形態に係るフィルム加工品としては、樹脂フィルム1,10を包装材料に用いた包装袋が好ましい。包装袋の一例としては、例えば後述の
図3から
図5に示すレジ袋100、手提げ袋200および片ショルダーバッグ300が挙げられる。本実施形態に係る樹脂フィルム加工品の製造方法は、上記第1実施形態または上記第2実施形態のいずれかにおける樹脂フィルム製造方法によって製造された樹脂フィルムを用いた加工工程を含んでいる。例えば、加工工程において、樹脂フィルム(樹脂フィルム1または樹脂フィルム10)の三方をヒートシールすることにより、樹脂フィルム加工品としての包装袋が得られる。
【0069】
上記第1実施形態および上記第2実施形態に係る樹脂フィルムは、抗ウイルス性を有し、付着したウイルスの増殖を抑えることができる。このため、これを用いてレジ袋、手提げ袋、ショルダーバッグ等の種々の形態の包装袋をフィルム加工品として作製することにより、包装袋に抗ウイルス性を付与して、包装袋の内外表面におけるウイルスの増殖を抑えることができる。これにより、人の手に触れる機会が多く、繰り返し使用され得る包装袋を介したウイルス感染の発生を低減させることが可能となる。
【0070】
ただし上記第1実施形態または上記第2実施形態に係る樹脂フィルム加工品はこれに限定されるものではなく、包装材料以外の用途に用いることができる。上記第1実施形態または上記第2実施形態に係る樹脂フィルムを用いたフィルム加工品であれば、抗ウイルス性が付与され、ウイルスの増殖を抑えることができる。
【0071】
以下、本開示を実施例によりさらに詳しく説明するが本開示は、実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1>
抗ウイルス剤2として一価銅を含む抗ウイルス性のマスターバッチ((株)NBCメッシュテック製、Cufitec(登録商標)マスターバッチ)とペレット状の樹脂材料3とを溶融混練して樹脂組成物を得た。樹脂材料3には、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)を用いた。また、抗ウイルス剤2としての一価銅の配合割合は、樹脂材料3全体に対して5%とした。樹脂組成物をインフレーション法による成形機にてフィルム状に形成し、190度で熱成形して、厚みが20μmである実施例1の樹脂フィルムを得た。さらに、実施例1の樹脂フィルムの三方をヒートシールし、余剰のフィルムを切断することで、実施例1に係る樹脂フィルムを包装材とする包装袋として
図3に示すレジ袋100を作製した。レジ袋100の寸法は、幅260mm、高さ480mm、横マチ70mmとした。
【0072】
<実施例2>
樹脂材料3として低密度ポリエチレンを用いたこと、熱成形時の温度を170度としたこと、及びフィルム厚みを80μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る樹脂フィルムを得た。さらに、実施例2の樹脂フィルムの三方をヒートシールし、上部中央を横向きの小判型に切り抜くことで、実施例2の樹脂フィルムを包装材とする包装体として、
図4に示す手提げ袋200を作製した。手提げ袋200の寸法は、幅250mm、高さ400mmとした。
【0073】
<実施例3>
熱成形時の温度を150度としたこと以外は、実施例2と同様にして実施例3の樹脂フィルムを得た。さらに、実施例3の樹脂フィルムの三方をヒートシールし、片方の側部に肩紐を設けて、実施例3の樹脂フィルムを包装材とする包装体として
図5に示す片ショルダーバッグ300を作製した。片ショルダーバッグ300の寸法は、幅380mm、高さ420mmとした。
【0074】
図6および
図7は、実施例1、3による樹脂フィルムで作製した包装袋の断面を走査型電子顕微鏡で撮影したSEM画像の一例である。具体的には、
図6は、実施例1による樹脂フィルム101で作製したレジ袋100の断面を撮影したSEM画像である。また、
図7は、実施例3による樹脂フィルム301で作製した片ショルダーバッグ300の断面を撮影したSEM画像である。
【0075】
図6および
図7に示すSEM画像は、走査型電子顕微鏡として日立ハイテクノロジー社製 S-4700を用いて撮影した。サンプル(ここではレジ袋100、片ショルダーバッグ300)の表面には白金を蒸着した。上記走査型電子顕微鏡での観察・撮影条件は、加速電圧10kV、電流6000nA、ワーキングディスタンス(WD)10.2mmとした。
【0076】
図6に示すSEM画像中において、樹脂フィルム101中の白点が抗ウイルス剤2として添加された一価銅化合物に相当する。同様に、
図7に示すSEM画像中において、樹脂フィルム301中の白点が抗ウイルス剤2として添加された一価銅化合物に相当する。
図6および
図7に示すように、実施例1による樹脂フィルム101および実施例3による樹脂フィルム301のいずれの断面においても、抗ウイルス剤2が均一に分散されていることが分かった。
【0077】
このように、実施例1および3による樹脂フィルムは、包装袋としての加工後においても、樹脂材料3中に抗ウイルス剤2が均一に分散される。このため、例えば包装袋の使用時に樹脂フィルムの伸長などが生じた場合であっても、優れた抗ウイルス性を維持することができる。
なお、図示は省略するが、実施例2による樹脂フィルムにおいても、実施例1および3による樹脂フィルムと同様に、樹脂材料3中において抗ウイルス剤2が均一に分散される。
【0078】
<比較例1>
抗ウイルス剤2を含まないこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の樹脂フィルムを得た。さらに、比較例1の樹脂フィルムを包装材とする包装体として、
図3に示すレジ袋100と同等の寸法のレジ袋を作製した。
【0079】
<比較例2>
抗ウイルス剤2を含まないこと以外は、実施例2と同様にして比較例2の樹脂フィルムを得た。さらに、比較例2の樹脂フィルムを包装材とする包装体として、
図4に示す手提げ袋200と同等の寸法の手提げ袋を作製した。
【0080】
<比較例3>
抗ウイルス剤2を含まないこと以外は、実施例3と同様にして比較例3の樹脂フィルムを得た。さらに、比較例3の樹脂フィルムを包装材とする包装体として、
図5に示す片ショルダーバッグ300と同等の寸法の片ショルダーバッグを作製した。
【0081】
<評価判定>
上述した実施例1~3、比較例1~3で得られた包装袋について、以下の方法で抗ウイルス性能の評価を行った。
<評価>
(抗ウイルス性能)
実施例1~3及び比較例1~3の包装袋をISO 21702:2019に準じて抗ウイルス試験を実施した。まず、各包装袋から3点のサンプル(5cm四方)を切り取り、供試試料を得た。当該供試試料を滅菌シャーレ底面に貼り付け、0.4mLのウイルス液を試料上に接種した。このとき、ウイルス液は、インフルエンザウイルス(H3N2、A/Hong Kong/8/68)を含むウイルス液を使用した。
その後、供試試料上に4cm四方のPETフィルムを被せた。シャーレに蓋をした後、温度25℃の条件で、試料とウイルスを接種させた。24時間後、10mLのSCDLP培地をシャーレに注ぎ、ピペッティングにてウイルスを洗い出した。洗い出し液は、プラーク法にてウイルス感染価を測定した。
〈ウイルス感染価の測定(プラーク法)〉
宿主細胞を6ウェルプレート上に単層培養し、階段希釈した洗い出し液をウェルに0.1mLずつ接種した。宿主細胞は、インフルエンザウイルス-MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮由来細胞)とした。5%CO2・温度37℃の条件で1時間培養し、細胞にウイルスを吸着させた後、6ウェルプレートに寒天培地を注いで更に2~3日培養した。培養後、細胞を固定・染色し、形成したプラークの数を計測した。
〈ウイルス感染価の算出〉
以下の式に伴い、試料1cm2当たりのウイルス感染価を算出した。
V=(10×C×D×N)/A
V:試料1cm2当たりのウイルス感染価(PFU/cm2)
C:計測したプラーク数
D:プラークを計測したウェルの希釈倍率
N:SCDLP量
A:試料とウイルスの接触面積(ポリエチレンフィルムの面積)
〈抗ウイルス活性値の算出〉
以下の式に伴い、抗ウイルス活性値を算出した。
抗ウイルス活性値=log(Vb)-log(Vc)
Log(Vb):24時間後の無加工試料1cm2当たりのウイルス感染価の常用対数値
Log(Vc):24時間後の抗ウイルス加工試料1cm2当たりのウイルス感染価の常用対数値
算出した抗ウイルス活性値を以下の〇、△、×の3段階で評価した。
<評価基準>
○:抗ウイルス活性値2log10以上である場合
△:抗ウイルス活性値1log10以上である場合
×:抗ウイルス活性値1log10未満である場合
なお、本実施例では、評価が「△」以上であれば合格とした。
【0082】
以上の評価結果を、樹脂フィルムの組成とともに表1に示す。
【0083】
【0084】
表1中に表されるように、実施例1から3の評価結果から、樹脂フィルム1に抗ウイルス剤2が含まれている場合には、当該樹脂フィルムを用いた成形品(本例では、包装袋)における抗ウイルス活性値が1log10以上となった。したがって、比較例1-3のように抗ウイルス剤2が樹脂フィルムに含まれていない場合と比べて、実施例1-3による樹脂フィルムで作製した包装袋は、抗ウイルス性が高くウイルスの増殖を抑制可能であることが分かった。
【0085】
特に、実施例2および3による樹脂フィルムで作製した包装袋では、樹脂フィルムの厚みが80μmであって実施例1と比べて抗ウイルス剤2の絶対量が多いことから、抗ウイルス活性値2log10以上となり、SIAA(抗菌製品技術協議会)規格を満たす優れた抗ウイルス性を有することが分かった。
【0086】
なお、本発明の樹脂フィルムは、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0087】
1、10、101、301 樹脂フィルム
2 抗ウイルス剤
3 樹脂材料
11 樹脂フィルム層
12 基材層
100 レジ袋
200 手提げ袋
300 片ショルダーバッグ