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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102894
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】燃料被覆管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 3/06 20060101AFI20220630BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20220630BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
G21C3/06 210
C23C14/14 D
C23C14/34 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217929
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000176796
【氏名又は名称】三菱原子燃料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】393023880
【氏名又は名称】浅井産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 望
(72)【発明者】
【氏名】渡部 清一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】古本 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】小山 英俊
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA27
4K029BA07
4K029BB10
4K029BC01
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC34
4K029DC40
4K029EA09
4K029JA02
(57)【要約】
【課題】より長期にわたって安定的に使用することが可能な燃料被覆管の製造方法を提供する。
【解決手段】燃料被覆管の製造方法は、真空チャンバー内の電極材に、ジルコニウム合金からなる管材を設置し、クロムからなるターゲット膜を前記管材の外周側に設置する準備工程と、電極材とターゲット膜との間に電圧を印可することで電界を形成する電界形成工程と、真空チャンバー内にアルゴンと窒素とを供給することで、管材の表面にアモルファス化した被膜を形成する被膜形成工程と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内の電極材に、ジルコニウム合金からなる管材を設置し、クロムからなるターゲット膜を前記管材の外周側に設置する準備工程と、
前記電極材と前記ターゲット膜との間に電圧を印可することで電界を形成する電界形成工程と、
前記真空チャンバー内にアルゴンと窒素とを供給することで、前記管材の表面にアモルファス化した被膜を形成する被膜形成工程と、
を含む燃料被覆管の製造方法。
【請求項2】
前記準備工程では、前記ターゲット膜の外周側に、前記管材の中心軸方向における長さよりも大きい長さを有する磁石を配置する請求項1に記載の燃料被覆管の製造方法。
【請求項3】
前記電界形成工程では、電極材がアノード電極となり、ターゲット膜と磁石とからなるユニットがカソード電極となるように電圧を印可する請求項1又は2に記載の燃料被覆管の製造方法。
【請求項4】
前記電界形成工程では、-100V以上-50V以下の電圧を印可する請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料被覆管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料被覆管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉(軽水炉)では、燃料ペレットを燃料被覆管に収容して燃料棒を構成し、燃料棒を複数束ねることで燃料集合体が形成される。一般的に燃料被覆管は、ジルコニウム合金によって形成される。しかしながら、ジルコニウム合金は、事故等の場合に、高温の水蒸気に晒されると、酸化反応が生じたり、変形が生じたりする虞があるため、これらの万一の場合における事故耐性の向上が望まれている。また、今後、使用済み燃料削減の観点から燃料の高燃焼度化が進められる傾向にある。そのため、原子炉内での長期間使用に耐えるように、燃料集合体の耐腐食性向上、耐摩耗性向上に対する要請が高まっている。
【0003】
そこで、例えば下記特許文献1に記載されているように、ジルコニウム合金の表面にクロムによる被膜を形成する技術が提唱されている。この技術では、金属元素を含む第1の被膜層と、これを覆うクロムからなる第2の被膜層によって管材を覆うとされている。被膜の形成に用いられる方法として具体的には、溶射や化学蒸着等が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017-517631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のように、溶射や化学蒸着によって被膜を形成するのみでは、結晶化したクロム元素が被膜を形成するにとどまる。このため、結晶粒界を境界として被膜の割れや脱落を生じる虞がある。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、より長期にわたって安定的に被膜を維持し続けることが可能な燃料被覆管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係る燃料被覆管の製造方法は、真空チャンバー内に、ジルコニウム合金からなる管材を電極材に設置し、クロムからなるターゲット膜と磁石を該管材の外周側に設置する準備工程と、前記電極材と前記ターゲット膜との間に電圧を印可することで電界を形成する電界形成工程と、前記真空チャンバー内にアルゴンと窒素とを供給することで、前記管材の表面にアモルファス化した被膜を形成する被膜形成工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、より長期にわたって安定的に使用することが可能な燃料被覆管の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る燃料被覆管の構成を示す縦断面図である。
図2】本開示の実施形態に係る燃料被覆管の構成を示す横断面図である。
図3】本開示の実施形態に係る燃料被覆管の製造方法の各工程を示すフローチャートである。
図4】本開示の実施形態に係る燃料被覆管の製造方法における被膜形成工程の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態に係る燃料棒1、被覆管10(燃料被覆管)、及び被覆管10の製造方法について、図1から図4を参照して説明する。
【0011】
(燃料棒の構成)
燃料棒1は、炉心の内部で上下方向を軸として配置される棒状をなしている。図1に示すように、燃料棒1は、筒状の被覆管10と、この被覆管10の内部に収容されているスプリング11、及び燃料ペレットFと、両端部に設けられた上部端栓12、及び下部端栓13と、を有している。
【0012】
燃料ペレットFは、例えばウランやプルトニウムを主成分とする核分裂性物質であり、炉心の熱源として用いられる。燃料ペレットFは、高さ・直径ともに約1cm程度の円柱型のペレット状に成型されている。このような燃料ペレットFが、被覆管10の下方から順に積み重なるようにして充填されている。最も上方の燃料ペレットFは、スプリング11によって下方に向かって押圧されている。
【0013】
(被覆管の構成)
図2に示すように、被覆管10は、円筒状の管材10Hと、管材10Hの外表面に形成された金属層M(被膜)と、を有している。管材10Hは、ジルコニウム合金で形成されている。より具体的には、この管材10Hは、ジルコニウムと、錫、ニオブ、鉄、クロム、及び酸素の中から選択された少なくとも1つの化学種と、を含んでいる。さらに具体的には、この管材10Hは、0~2重量%の錫と、0~2重量%のニオブと、0~0.4重量%の鉄と、0~0.5重量%のクロムと、0~0.2重量%の酸素と、その残余の成分としてのジルコニウムと、を含んでいる。
【0014】
金属層Mは、クロムと窒素とを含む被膜である。より具体的には、金属層M中では、窒素を含むクロム元素が、結晶構造ではなく、アモルファス構造を形成している。金属層Mは、管材10Hの外周側を向く表面(外周面)に形成されている。なお、このような金属層Mの外周側にそれぞれ純クロムからなる他の被膜層を設けることも可能である。この場合、純クロムは金属層Mよりも柔らかいことから、管材10Hに膨張を生じた場合にこれを吸収して、被膜にクラックが生じる可能性を低減することができる。
【0015】
(燃料被覆管の製造方法)
次に、図3図4を参照して、燃料被覆管の製造方法について説明する。図3に示すように、この製造方法は、準備工程S1と、電界形成工程S2と、被膜形成工程S3と、を含む。
【0016】
準備工程S1では、上述の管材10Hを準備するとともに、この管材10Hを電極材Atに設置する。この状態で、管材10Hを真空チャンバーVc内に配置する(図4)。さらに、管材10Hの外周側に、クロムからなるターゲット膜Tmを配置し、さらに管材10Hから見てターゲット膜Tmの背面になるように、ターゲット膜Tmの外周側に磁石Mgを配置する。
【0017】
準備工程S1の次に、電界形成工程S2を実行する。この工程では、電源Gからの電力供給により、管材10H(電極材At)とターゲット膜Tmとの間に電圧(バイアス電圧)が印可される。これにより、真空チャンバーVc内がプラズマ放電状態となる。このバイアス電圧の大きさは、-100V以上-50V以下とされる。なお、詳しくは後述するが、バイアス電圧が-150V以下である場合、後続の被膜形成工程でクロムが結晶化してしまい、アモルファスによる金属層Mを得ることができない。
【0018】
続いて、電界形成工程S2によって真空チャンバーVc内がプラズマ放電した状態のまま、被膜形成工程S3を実行する。この工程では、真空チャンバーVc内にアルゴンと窒素とを供給する。この時のアルゴンの分圧は0.1Pa以下とされる。より望ましくは0.01Pa以上0.1Pa以下とされる。また、窒素の分圧は0Paより大きく、0.06Pa以下の範囲内とされる。また、真空チャンバーVc内の温度は150℃以上200℃以下とされる。
【0019】
このような条件下では、図4に示すように、真空チャンバーVc内でアルゴン元素と窒素元素とが、プラズマ放電によって放出された電子(プラズマ電子)に衝突し、アルゴンイオンと窒素イオンとが形成される。これらのイオンがターゲット膜Tmの表面に衝突することで、窒素イオンを含んだクロム原子が荷電した状態で放出される。この窒素イオンを含むクロム原子が管材10Hの表面に蒸着し、アモルファス構造の金属層Mが形成される。
【0020】
ここで、被膜形成工程S3では、図4に示すような通電装置90が用いられる。通電装置90は、電源Gと、カソード電極Ctとしてのターゲット膜Tm及び磁石Mgと、アノード電極としての電極材Atと、を有している。カソード電極Ctとしてのターゲット膜Tm及び磁石Mgには電源Gの負極が接続されている。磁石Mgは、ターゲット膜Tmの外周側に設けられている。より具体的には、管材10Hから見てターゲット膜Tmの背面になるように、ターゲット膜Tmの外周側に磁石Mgが配置されている。なお、磁石Mgはターゲット膜Tmに接していてもよいし、離間していてもよい。また、磁石Mgは管材10Hの中心軸方向における寸法よりも大きい長さを有する。なお、設置する磁石Mgはターゲット膜Tmに対して1つでも複数でもよい。このように構成されたカソード電極Ctは、ターゲット膜Tmの表面が管材10Hに向かって露出している。カソード電極Ctは、管材10Hに対して所定の距離を空けて設けられ、必要に応じて真空チャンバーVcの内壁に埋設するか又は内壁に当接して設けられる。アノード電極としての電極材Atは、管材10Hに下方から接触する板状をなしている。電極材Atは自身の中心軸回りに回転可能とされている。電極材Atを回転させることにより管材10Hの表面に周方向に順次被膜が形成される。なお、電極材Atを固定してターゲット膜Tmを電極材Atの中心軸回りに回転させ、又は、電極材Atの周囲に円筒状のターゲット膜Tmを設け、管材10Hの表面に被膜を形成してもよい。
【0021】
(作用効果)
上記方法によれば、管材10Hの表面にアモルファス化した被膜を形成することができる。これにより、例えばクロムが結晶化した被膜を形成した場合とは異なり、微視的に境界がない、即ち、変形に対する追従性を弱める結晶粒界や格子欠陥がない被膜構造を得ることができる。その結果、例えば管材10Hが膨張したり変形したりした場合であっても、被膜が変形に追従しやすく、被覆管10としての寿命をさらに長く維持することができる。
【0022】
以上、本開示の実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成や方法に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0023】
<付記>
各実施形態に記載の燃料被覆管(被覆管10)の製造方法は、例えば以下のように把握される。
【0024】
(1)第1の態様に係る燃料被覆管の製造方法は、真空チャンバーVc内の電極材Atに、ジルコニウム合金からなる管材10Hを設置し、クロムからなるターゲット膜Tmを前記管材10Hの外周側に設置する準備工程S1と、前記電極材Atと前記ターゲット膜Tmとの間に電圧を印可することで電界を形成する電界形成工程S2と、前記真空チャンバーVc内にアルゴンと窒素とを供給することで、前記管材10Hの表面にアモルファス化した被膜を形成する被膜形成工程S3と、を含む。前記被膜形成工程S3では、管材10Hは電極材Atに設置され、電極材Atを回転させることにより管材10Hの表面に被膜を形成する。
【0025】
上記方法によれば、管材10Hの表面にアモルファス化した被膜を形成することができる。これにより、例えばクロムが結晶化した被膜を形成した場合とは異なり、微視的に境界がない、すなわち変形に対する追従性を弱める結晶粒界や格子欠陥がない被膜構造を得ることができる。その結果、例えば管材10Hが膨張したり変形したりした場合であっても、被膜が変形に追従しやすく、燃料被覆管10としての寿命をさらに長く維持することができる。
【0026】
(2)第2の態様に係る燃料被覆管の製造方法において、前記準備工程S1では、前記ターゲット膜Tmの外周側に、前記管材10Hの中心軸方向における長さよりも大きい長さを有する磁石を配置する。
【0027】
(3)第3の態様に係る燃料被覆管の製造方法において、前記電界形成工程S2では、電極材Atがアノード電極となり、ターゲット膜Tmと磁石Mgとからなるユニットがカソード電極Ctとなるように電圧を印可する。
【0028】
上記方法によれば、磁石Mgを配置することにより、ターゲット膜Tm近傍の磁界が強化され、より安定的に被膜を形成することができる。
【0029】
(4)第2の態様に係る燃料被覆管の製造方法において、前記電界形成工程S2では、-100V以上-50V以下の電圧を印可する。
【0030】
上記方法によれば、クロムを管材10Hの表面で結晶化させることなく、窒素とクロムとをアモルファス化させることができる。これにより、より強固な被膜を得ることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 燃料棒
10 被覆管(燃料被覆管)
10H 管材
11 スプリング
12 上部端栓
13 下部端栓
90 通電装置
At 電極材
F 燃料ペレット
G 電源
Tm ターゲット膜
M 金属層
Mg 磁石
図1
図2
図3
図4