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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102931
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20220630BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220630BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P29/00
G01N33/53 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218012
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】500571550
【氏名又は名称】アピオン・ジャパン有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田沼 靖一
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規抗炎症剤を提供する。
【解決手段】以下のいずれかの化合物、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有してもよい、抗炎症剤である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する抗炎症剤。
(I)
(式中、
及びRは、独立に、水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、
及びRは、一方が水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、他方が
であって、R、R、及びRは、独立に、水素、ハロゲン、-OR、及び-NRから選択され、R及びRは、独立に水素、およびC1~C6のアルキルから選択され、Xは、>O、>S、及び>NR10から選択され、R10は水素およびC1~C6のアルキルまたはシクロアルキルから選択される。)
【請求項2】
及びRは、独立に、水素、または-OMeであって、
は、水素であって、
は、
であって、
は、水素、-OH、または-OMeであって、
は、水素、ハロゲン、-N(CH、-OH、または-OMeであって、
は、水素、または-OMeであり、
Xは、O、S、またはNHである、請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項3】
及びRは、独立に、水素、または-OMeであって、
は、
であって、
は、水素であって、
は、水素、ハロゲン、または-OMeであって、
は、水素、または-OMeであって、
は、水素であり、
Xは、O、S、またはNHである、請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項4】
以下のいずれかの化合物、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項5】
腫瘍促進性炎症tumor-promoting inflammation)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗炎症剤。
【請求項6】
in vitroで、一般式(II)を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩の抗炎症効果を評価する評価方法。
(II)
(式中、
及びRは、独立に、水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、
及びRは、一方が水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、他方が
であって、R、R、及びRは、独立に、水素、ハロゲン、-OR、及び-NRから選択され、R及びRは、独立に水素、およびC1~C6のアルキルから選択され、Xは、>O、>S、>NR10、>SO、および>SOから選択され、R10は水素、C1~C6のアルキルまたはシクロアルキル、および置換または無置換のフェニルから選択される。)
【請求項7】
前記化合物、またはその薬学的に許容される塩の存在下で、培養細胞を刺激し、生産される炎症性因子の量を測定することによって、前記化合物、またはその薬学的に許容される塩の抗炎症効果を評価する、請求項6に記載の評価方法。
【請求項8】
前記培養細胞にLPSまたはHMGB1を投与することによって、前記培養細胞を刺激する、請求項7に記載の評価方法。
【請求項9】
前記炎症性因子が、炎症性サイトカインまたはケモカインである、請求項7に記載の評価方法。
【請求項10】
前記炎症性因子が、TNF-α、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、IFR-γ、G-CSF、IL-17、IL33、GM-CSF、CCL2、およびCXCL2から選択される1以上の因子である、請求項7に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非ステロイド系抗炎症薬などを含む、様々な抗炎症剤が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Buer JK (October 2014). "Origins and impact of the term 'NSAID'". Inflammopharmacology. 22 (5): 263-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な抗炎症剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施態様は、一般式(I)を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する抗炎症剤である。
(I)
【0006】
(式中、R及びRは、独立に、水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、R及びRは、一方が水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、他方が
【0007】
であって、R、R、及びRは、独立に、水素、ハロゲン、-OR、及び-NRから選択され、R及びRは、独立に水素、およびC1~C6のアルキルから選択され、Xは、>O、>S、及び>NR10から選択され、R10は水素およびC1~C6のアルキルまたはシクロアルキルから選択される。)
【0008】
上記一般式(I)において、R及びRは、独立に、水素、または-OMeであって、Rは、水素であって、Rは、
【0009】
であって、Rは、水素、-OH、または-OMeであって、Rは、水素、ハロゲン、-N(CH、-OH、または-OMeであって、Rは、水素、または-OMeであってもよい。また、上記一般式(I)において、R及びRは、独立に、水素、または-OMeであって、Rは、
【0010】
であって、Rは、水素であって、Rは、水素、ハロゲン、または-OMeであって、Rは、水素、または-OMeであってRは、水素であってもよい。Xは、>O、>S、及び>NHであることが好ましい。上記抗炎症剤は、以下のいずれかの化合物、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有してもよい
【0011】
上記抗炎症剤は、腫瘍促進性炎症tumor-promoting inflammation)に対するものでもよい。
【0012】
本発明の他の実施態様は、in vitroで、一般式(I)を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩の抗炎症効果を評価する評価方法である。
(I)
【0013】
(式中、R及びRは、独立に、水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、R及びRは、一方が水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、他方が
【0014】
であって、R、R、及びRは、独立に、水素、ハロゲン、-OR、及び-NRから選択され、R及びRは、独立に水素、およびC1~C6のアルキルから選択され、Xは、>O、>S、>NR10、>SO、および>SOから選択され、R10は水素、C1~C6のアルキルまたはシクロアルキル、および置換または無置換のフェニルから選択される。)
【0015】
上記評価方法において、前記化合物、またはその薬学的に許容される塩の存在下で、培養細胞を刺激し、生産される炎症性因子の量を測定することによって、前記化合物、またはその薬学的に許容される塩の抗炎症効果を評価してもよい。前記培養細胞にLPSまたはHMGB1を投与することによって、前記培養細胞を刺激してもよい。前記炎症性因子が、炎症性サイトカインまたはケモカインであってもよい。前記炎症性因子が、TNF-α、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、IFR-γ、G-CSF、IL-17、IL33、GM-CSF、CCL2、およびCXCL2から選択される1以上の因子であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、新規な抗炎症剤を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の目的、特徴、利点、およびそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態および具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示または説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0018】
==化合物==
一般式(I)を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩は、本開示の抗炎症剤に、有効成分として含有されている
(I)
【0019】
(式中、R及びRは、独立に、水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、R及びRは、一方が水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、他方が
【0020】
であって、R、R、及びRは、独立に、水素、ハロゲン、-OR、及び-NRから選択され、R及びRは、独立に水素、およびC1~C6のアルキルから選択され、Xは、>O、>S、及び>NR10から選択され、R10は水素およびC1~C6(好ましくは、C1~C3)のアルキルまたはシクロアルキルから選択される。)
【0021】
本明細書において、上記化合物のうち、Rは、水素であって、Rは、
【0022】
である化合物をA群とし、Rは、水素であって、Rは、
である化合物をB群とする。
【0023】
A群の化合物のうち、R及びRは、独立に、水素、または-OMeであって、Rは、水素、-OH、または-OMeであって、Rは、水素、ハロゲン、-N(CH、-OH、または-OMeであって、Rは、水素、または-OMeであって、XはO、S、またはNHであるものが好ましい。特に、以下の化合物が好ましい。
【0024】
また、B群の化合物のうち、R及びRは、独立に、水素、または-OMeであって、Rは、水素であって、Rは、水素、ハロゲン、または-OMeであって、Rは、水素、または-OMeであって、XはO、S、またはNHであるものが好ましい。特に、以下の化合物が好ましい。
【0025】

これらの化合物は、公知の製造方法で合成してもよく、市販の化合物を購入して用いてもよい(例えば、A群については、Koichi Takaoらの論文(Chem. Pharm. Bull., vol.62, pp.810-815 (2014);Anticancer Res., vol.40. pp.87-95 (2020))、B群については、Koichi Takaoらの論文(Bioorg. Chem., 92, 103285 (2019)を参照のこと)。
【0026】
==抗炎症剤==
本開示の抗炎症剤は、上記いずれかの化合物、またはその薬学的に許容される塩、またはその組み合わせを有効成分として含有する。
【0027】
炎症とは、感染あるいは細胞損傷などに対する生体防御反応の一つであるが、本開示の抗炎症剤の対象となる炎症は特に限定されず、例えば慢性炎症であっても急性炎症であってもよいが、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、遅延型アレルギー等のアレルギーからくる炎症、胃炎および潰瘍性大腸炎等の内臓の炎症性疾患、関節リウマチおよび変性性骨関節炎等の関節炎等の炎症だけでなく、動脈硬化、子宮内膜症、急性呼吸急迫症候群、気管支炎、腎臓移植による障害、急性心筋梗塞、糖尿病、全身性エリテマトーデス、クローン病、腎炎、肝炎、肺炎、IgA腎症、エンドトキシンショック、感染症による敗血症、外科的傷害からくる炎症等、様々な炎症性疾患を含むが、特に腫瘍前段階にある新生細胞(neoplasia)を腫瘍に発達させる腫瘍促進性炎症(tumor-promoting inflammation)が好ましい。
【0028】
抗炎症際の剤形は、特に限定されず、種々の剤形、例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤などとすることができる。非経口剤としては、注射剤、貼付剤、軟膏またはローション、舌下剤、エアゾール剤、坐剤などとすることができる。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。また本発明に係る薬剤は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0029】
薬剤に含有される有効成分の量は、用量範囲や投薬の回数などにより適宜決定できる。用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、患者の特質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断など応じて適宜選択される。上記投与量は1日1回~数回に分けて投与することができる。
【0030】
一般的には適当な用量は、例えば患者の体重1kgあたり約0.01μg~100mg程度、好ましくは約0.1μg~1mg程度である。しかしながら、医学分野において広く知られたルーティンな試験によって、これらの用量を最適化できる。
【0031】
本開示の抗炎症剤を抗炎症用食品(飲料品を含む)として用いてもよく、特定保健用食品や機能性表示食品だけでなく、一般食品や補助食品(サプリメントなど)として用いることもできる。
【0032】
==評価方法==
本開示の評価方法は、in vitroで、一般式(II)を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩の抗炎症効果を評価する評価方法である。
(II)
【0033】
(式中、
及びRは、独立に、水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、
【0034】
及びRは、一方が水素、ハロゲン、及び-ORから選択され、他方が
【0035】
であって、R、R、及びRは、独立に、水素、ハロゲン、-OR、及び-NRから選択され、R及びRは、独立に水素、およびC1~C6のアルキルから選択され、Xは、>O、>S、>NR10、>SO、および>SOから選択され、R10は水素、C1~C6のアルキルまたはシクロアルキル、および置換または無置換のフェニルから選択される。)ここで、フェニルの置換基は、それぞれ独立に、ハロゲン、C1~C6のアルキル、および-OHから選択される。これらの化合物は、公知の製造方法で合成してもよく、市販の化合物を購入して用いてもよい
【0036】
具体的には、例えば、上記化合物、またはその薬学的に許容される塩の存在下で、培養細胞を刺激し、生産される炎症性因子の量を測定することによって、その化合物、またはその薬学的に許容される塩の抗炎症効果を評価することができる。具体的には、周知の方法で培養細胞を培養し、培地に上記化合物、またはその薬学的に許容される塩、および細胞の刺激に用いる刺激剤を添加し、細胞内及び/又は培地中に生産される炎症性因子の量を測定し、その化合物、またはその薬学的に許容される塩を加えない場合(ネガティブコントロール)の量と比較する。そして、炎症性因子の量がネガティブコントロールよりも有意に減少していれば、添加した化合物、またはその薬学的に許容される塩は炎症抑制効果を有すると判定できる。
【0037】

培養細胞には、周知の細胞(例えば、組織中の細胞、初代培養細胞、樹立された培養細胞などを含む)を用いればよいが、特にRAW264.7などのマクロファージ由来の細胞が好ましい。刺激剤は周知のものを用いればよく、例えば、LPSまたはHMGB1が挙げられる。炎症性因子も周知のものを検出すればよく、例えば、TNF-α、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、IFR-γ、G-CSF、IL-17、IL33、GM-CSF、CCL2、およびCXCL2などから選択される1以上の炎症性サイトカインまたはケモカインであってもよい。
【実施例0038】
(方法)
まず、DMEM(10%FCS含有)を用いてRAW264.7細胞を96穴細胞培養用ディッシュ(住友ベークライト社)に6×10細胞/wellの密度で播種し、37℃、5%COの条件下で、細胞をインキュベートした。22時間後、培地を除去し、Opti-MEM(登録商標)(ThermoFischerSCIENTIFIC社)に交換し2時間培養した。表1及び表2に示した各化合物0.001、0.01、0.03、0.1、0.3、1、3,10、30μMを含有した培地を加え、同条件でインキュベートした。2時間後、LPSまたはHMGB1それぞれ0.1μg/mLまたは5μg/mLをディッシュに添加し、同条件でインキュベートした。18時間後、マウスIL-6 ELISAキット(ThermoFischerSCIENTIFIC社)を用い、培地中に分泌されたIL-6を測定した。なお、ネガティブコントロールとして、化合物を添加しないサンプルで同様に処理した。すべてのサンプルについて、3連で実験を行い、結果として平均値を算出した。
【0039】
得られた結果について、サンプルごとに、IL-6の分泌量が半分になる化合物の濃度(μM)を求めた(表ではEC50と記載)。EC50が30μMを超えるものについては、化合物が30μMのときの、ネガティブコントロールに対するIL-6の分泌量の減少量の割合(%)を求めた(表ではΔと記載)。表3及び表4に結果を示す。
【表1】
【表2】
(結果)
【表3】
(-は測定せず)
【表4】
(-は測定せず)
【0040】
以上より、A1~A23、B1~B18の全ての化合物について、LPS刺激によるIL-6の分泌抑制が観察された。さらに、A1~A23の全ての化合物については、HMGB1刺激によるIL-6の分泌抑制が観察された。このように、本開示の化合物は、炎症抑制剤として有効である。