(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102946
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】シートスライドアジャスタのロック機構及びシートスライドアジャスタ
(51)【国際特許分類】
B60N 2/08 20060101AFI20220630BHJP
B60N 2/06 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
B60N2/08
B60N2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218030
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594176202
【氏名又は名称】株式会社デルタツーリング
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】福田 順
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦則
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一弘
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087BA02
3B087BB02
3B087BC04
3B087BC06
3B087BC08
3B087BC16
(57)【要約】
【課題】作動抵抗を小さくしてハーフロック状態を抑制する。
【解決手段】ロック機構16は、アッパーレール12の上壁部12aから吊り下げされたシャフト161にベースプレート1621が支持され、上壁部12aとベースプレート1621との間に上下方向に変位可能にロックプレート163を有している。ロックプレート163は、係合用ばね部1622によって上方向に付勢され、前後支持用ばね部1623によってスライド方向に沿った前端縁及び後端縁が弾性的に支持されている。リリースレバー164を付勢するレバー用ばね部材165は別途に設けている。リリースレバー164に連係するレバー用ばね部材165のばね力がロックプレート162に作用せず、係合用ばね部1622のばね力がロックプレート163をロック方向へ付勢する際にダイレクトに作用し、ハーフロック状態を抑制できる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートスライドアジャスタにおけるアッパーレールのロアレールへの位置調整のため、前記ロアレールのロック用歯部へのロック及びロック解除を行うロック機構であって、
前記アッパーレールの上壁部に上部が固定され、前記アッパーレールの対向する側壁部間に吊り下げられるシャフトと、
前記シャフトの下部に固定されるベースプレートを有するロックスプリングと、
前記アッパーレールの上壁部と前記ベースプレートとの間に配設され、前記ロックスプリングにより係合方向に付勢されていると共に、略中央部に形成されたシャフト挿通孔に前記シャフトが挿通され、前記シャフトに沿って上下に変位可能で、前記ロアレールの少なくとも一方の列のロック用歯部に係合可能なロック用孔部を有するロックプレートと
を有し、
前記ロックスプリングが、前記ベースプレートに設けられ、前記ロックプレートを、前記ロック用孔部が前記ロック用歯部に係合する方向に付勢する係合用ばね部を備え、
前記係合用ばね部は、
前記ロックプレートのロック位置において作用するばね定数をk1、前記ロック用孔部が前記ロック用歯部にハーフロック状態となるハーフロック位置で作用するばね定数をk3としたときに、k1>k3の関係を有し、前記ロック位置と前記ハーフロック位置の間に、前記k1及びk3よりも低いばね定数k2が作用する領域を有することを特徴とするロック機構。
【請求項2】
前記係合用ばね部は、
前記ベースプレートの一側縁側から他側縁方向に向かって斜め上方に延びる第1ばね部と、
前記第1ばね部から前記一側縁方向に向かって延びる第2ばね部と
を有し、
前記第1ばね部のばね定数をka及び前記第2ばね部のばね定数をkbとしたときに、ka<kbの関係を有し
前記ロック位置においては、前記第1ばね部の作用点及び前記第2ばね部の作用点がともに前記ロックプレートに当接して並列のばね構造として機能し、前記ばね定数k1が、k1=ka+kbで示され、
前記ロック位置と前記ハーフロック位置の間において、前記第1ばね部の作用点が前記ロックプレートから離間すると、前記第1ばね部及び前記第2ばね部による直列のばね構造となって、前記ばね定数k2が、k2=(ka×kb)/(ka+kb)で示され、
前記ハーフロック位置における前記ばね定数k3が、k3=kbで示される請求項1記載のロック機構。
【請求項3】
前記第1ばね部は、前記ロックプレートの前端縁及び後端縁寄りのそれぞれに形成された2つの端縁傾斜片と、前記2つの端縁傾斜片の他側縁同士を結ぶ接続傾斜片とを有し、
前記第2ばね部は、前記2つの端縁傾斜片間に位置し、前記接続傾斜片から略水平に前記一側縁方向に延び、かつ、前記シャフトが挿通されるシャフト挿通孔を有する請求項2記載のロック機構。
【請求項4】
前記ロックスプリングが、前記ベースプレートに設けられ、前記アッパーレールのスライド方向に沿った前記ロックプレートの前端縁及び後端縁を弾性的に支持する前後支持用ばね部を有する請求項1~3のいずれか1に記載のロック機構。
【請求項5】
前記前後支持用ばね部は、前記ベースプレートの前端縁及び後端縁のそれぞれから上方に向かって延びる一対の突片からなる請求項4記載のロック機構。
【請求項6】
前記一対の突片が、上方に向かって相互間隔が狭くなるように設けられている請求項5記載のロック機構。
【請求項7】
前記一対の突片は、前記ロックプレートのロック時の位置に対応する上部間の基準寸法が、前記ロックプレートの前端縁及び後端縁間の距離よりも小さい請求項6記載のロック機構。
【請求項8】
前記シャフトは、少なくとも前記ロックプレートの変位範囲において、下方から上方に向かって細くなるテーパ状に形成されている請求項1~7のいずれか1に記載のロック機構。
【請求項9】
前記ロックプレートは、前記ロック用孔部が、前記ロアレールの両側のロック用歯部に対応して一側縁と他側縁に沿って形成され、前記両側のロック用歯部に係合可能であり、いずれかの列のロック用孔部が、他の列のロック用孔部よりも、前記ロック用歯部の歯幅方向に沿った長さが相対的に長く形成されている請求項1~8のいずれか1に記載のロック機構。
【請求項10】
前記ロックスプリングは、前記アッパーレールの一方の側壁部に形成された開口部を介して挿入して配設されるものであり、挿入方向前方である前記一側縁寄りの前記アッパーレールのスライド方向に沿った長さが、前記他側縁寄りよりも短い請求項1~9のいずれか1に記載のロック機構。
【請求項11】
前記ロックスプリングは、前記アッパーレールの一方の側壁部に形成された開口部から挿入して配設されるものであり、挿入方向前方である前記一側縁寄りの高さが、前記他側縁寄りよりも低くなっている請求項1~10のいずれか1に記載のロック機構。
【請求項12】
幅方向に所定間隔をおいた両側に、それぞれ長手方向に沿って複数形成されたロック用歯部を有するロアレールと、前記ロアレールにスライド可能に設けられ、シートフレームが連結されるアッパーレールと、前記アッパーレールの前記ロアレールへの位置調整のため、前記ロック用歯部へのロック及びロック解除を行うロック機構とを有するシートスライドアジャスタであって、
前記ロック機構として、請求項1~11のいずれか1に記載の前記ロック機構が用いられているシートスライドアジャスタ。
【請求項13】
前記ロック機構が、後部が前記ロックプレートに接触可能で、前部に操作用のスライドレバーが連結され、レバー用ばね部材により前記後部が前記ロックプレートから離間する方向に付勢されており、前記スライドレバーの操作により、前記ロックスプリングのばね力に抗して前記後部を下方に変位させ、前記ロックプレートを、前記ロック用孔部が前記ロック用歯部から離脱するように変位させるリリースレバーを有する請求項12記載のシートスライドアジャスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機、列車、船舶、バスなどの乗物用シートにおいて用いられるシートスライドアジャスタのロック機構及び該ロック機構を備えたシートスライドアジャスタに関する。
【背景技術】
【0002】
シートスライドアジャスタは、乗物のフロアに取り付けられるロアレールと、該ロアレールに対して摺動可能に設けられ、シートフレームに連結されるアッパーレールと、アッパーレールの前後のスライド位置を固定するためのロック機構とを有している。例えば、特許文献1では、所定間隔をおいて2列形成されたロック用孔部を有するロックプレートを配設すると共に、アッパーレール側に固定されるベースプレートに設けたガイド軸にコイルスプリングを配設し、ロックプレートを上方向に付勢するロック機構支持部材を有するロック機構が開示されている。また、ロックプレートにおけるアッパーレールのスライド方向に沿った前端縁及び後端縁のそれぞれに隣接してくさび部材を配設し、このくさび部材をコイルスプリングによって付勢し、ロックプレートのガタつきを抑制する機構も有している。
【0003】
また、特許文献2のロック機構は、ロアレールに形成されたロック用歯部に係合するロック用孔部を備えたロックプレートと、ロックプレートに連係され、ロックプレートを係合解除方向に動作させるリリースレバーと、アッパーレールのスライド方向に沿って所定の長さを有し、後端側でロックプレートを上方に付勢する一方で、前端側でリリースレバーを下方に付勢する制御用ばね部材とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-74801号公報
【特許文献2】WO2016/181815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の構造は、上記のように、くさび部材によりガタつきが生じにくく、ロック用孔部がロック用歯部に円滑に係合せず、ロック用歯部の端面の位置でとどまってしまうハーフロック(疑似ロック)が生じにくい工夫がなされている。それに加え、特許文献1では3個のコイルスプリングをベースプレート上に並列配置し、より少ない数のコイルスプリングを配設した場合よりも高いばね力を作用させる工夫がなされている。ばね力を高めることにより、ロック用孔部がロック用歯部に最も深く係合する最終的なロック位置に至った状態で両者が不用意に外れず、しかも、上記のハーフロック状態になってしまった場合において、その強いばね力により、ロック用孔部のロック用歯部への係合を促し、ハーフロック状態を速やかに解消するように作用する。
しかし、このようにばね力を強くすると、ロック解除時に、コイルスプリングのばね力に抗してロックプレートを押し下げる力、すなわち、リリースレバーの操作力が高くなってしまう。つまり、ロックプレートのロック方向へのばね力を高めてロックの確実性を高めようとすればするほど、強い操作力が必要となって操作感が重くなる。
また、特許文献1では、ロックプレート及び2つのくさび部材を、ベースプレートに突設させた3本のガイド軸のそれぞれに支持させたコイルスプリングによって付勢している。このため、3本のガイド軸を備えたベースプレートをアッパーレールの下方に取り付け、各ガイド軸回りにコイルスプリングを挿通させた上で、ロックプレート及びくさび部材を配設する必要があり、構造が複雑で取り付け作業も煩雑である。
【0006】
特許文献2に開示のロックプレートは、アッパーレールの一方の側壁部とそれに対向するロアレールの一方の側壁部との間に、基端部に形成された軸部を挟持するように支持し、アッパーレールの一方の側壁部に形成された開口部から挿入して、一側縁寄りに形成されたロック用孔部をロアレールの幅方向他方側のロック用歯部に係合する。そのため、軸部が回転する際には、アッパーレール及びロアレールの各側壁部との間で摩擦が発生し、作動抵抗となる。また、制御用ばね部材は、アッパーレールの長手方向(スライド方向)に沿って回転し、上記のように、後端側でロックプレートを上方に付勢する一方で、前端側でリリースレバーを下方に付勢しているが、リリースレバーには、操作用のスライドレバーが連結されている。このため、ロックプレートのロック方向への動きに対して、リリースレバーの摩擦力やスライドレバーの慣性力が作動抵抗として影響する。また、制御用ばね部材がアッパーレールの長手方向に沿って回転するのに対し、ロックプレートは、一側縁寄りの軸部を中心としてアッパーレールの長手方向に直交する方向に回転する。すなわち、両者の回転方向が異なるため、制御用ばね部材の回転時の遠心力が、ロックプレートの回転時の作動抵抗として作用する。上記のような作動抵抗は、制御用ばね部材のばね力によるロックプレートの回転速度を低下させ、ロック用孔部とロック用歯部の係合が不完全となるいわゆるハーフロック状態を招く要因にもなる。
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、ロックプレートのロック用孔部のロアレールのロック用歯部への係合の確実性を高めることができる一方で、ロック解除時は、解除操作に必要な力を低減することができ、さらには、簡易な構成で取り付け作業も容易なシートスライドアジャスタのロック機構及び該ロック機構を有するシートスライドアジャスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のシートスライドアジャスタは、
シートスライドアジャスタにおけるアッパーレールのロアレールへの位置調整のため、前記ロアレールのロック用歯部へのロック及びロック解除を行うロック機構であって、
前記アッパーレールの上壁部に上部が固定され、前記アッパーレールの対向する側壁部間に吊り下げられるシャフトと、
前記シャフトの下部に固定されるベースプレートを有するロックスプリングと、
前記アッパーレールの上壁部と前記ベースプレートとの間に配設され、前記ロックスプリングにより係合方向に付勢されていると共に、略中央部に形成されたシャフト挿通孔に前記シャフトが挿通され、前記シャフトに沿って上下に変位可能で、前記ロアレールの少なくとも一方の列のロック用歯部に係合可能なロック用孔部を有するロックプレートと
を有し、
前記ロックスプリングが、前記ベースプレートに設けられ、前記ロックプレートを、前記ロック用孔部が前記ロック用歯部に係合する方向に付勢する係合用ばね部を備え、
前記係合用ばね部は、
前記ロックプレートのロック位置において作用するばね定数をk1、前記ロック用孔部が前記ロック用歯部にハーフロック状態となるハーフロック位置で作用するばね定数をk3としたときに、k1>k3の関係を有し、前記ロック位置と前記ハーフロック位置の間に、前記k1及びk3よりも低いばね定数k2が作用する領域を有することを特徴とする。
【0009】
前記係合用ばね部は、
前記ベースプレートの一側縁側から他側縁方向に向かって斜め上方に延びる第1ばね部と、
前記第1ばね部から前記一側縁方向に向かって延びる第2ばね部と
を有し、
前記第1ばね部のばね定数をka及び前記第2ばね部のばね定数をkbとしたときに、ka<kbの関係を有し
前記ロック位置においては、前記第1ばね部の作用点及び前記第2ばね部の作用点がともに前記ロックプレートに当接して並列のばね構造として機能し、前記ばね定数k1が、k1=ka+kbで示され、
前記ロック位置と前記ハーフロック位置の間において、前記第1ばね部の作用点が前記ロックプレートから離間すると、前記第1ばね部及び前記第2ばね部による直列のばね構造となって、前記ばね定数k2が、k2=(ka×kb)/(ka+kb)で示され、
前記ハーフロック位置における前記ばね定数k3が、k3=kbで示されることが好ましい。
【0010】
前記第1ばね部は、前記ロックプレートの前端縁及び後端縁寄りのそれぞれに形成された2つの端縁傾斜片と、前記2つの端縁傾斜片の他側縁同士を結ぶ接続傾斜片とを有し、
前記第2ばね部は、前記2つの端縁傾斜片間に位置し、前記接続傾斜片から略水平に前記一側縁方向に延び、かつ、前記シャフトが挿通されるシャフト挿通孔を有することが好ましい。
【0011】
前記ロックスプリングが、前記ベースプレートに設けられ、前記アッパーレールのスライド方向に沿った前記ロックプレートの前端縁及び後端縁を弾性的に支持する前後支持用ばね部を有することが好ましい。
【0012】
前記前後支持用ばね部は、前記ベースプレートの前端縁及び後端縁のそれぞれから上方に向かって延びる一対の突片からなることが好ましい。
前記一対の突片が、上方に向かって相互間隔が狭くなるように設けられていることが好ましい。
【0013】
前記一対の突片は、前記ロックプレートのロック時の位置に対応する上部間の基準寸法が、前記ロックプレートの前端縁及び後端縁間の距離よりも小さいことが好ましい。
【0014】
前記シャフトは、少なくとも前記ロックプレートの変位範囲において、下方から上方に向かって細くなるテーパ状に形成されていることが好ましい。
【0015】
前記ロックプレートは、前記ロック用孔部が、前記ロアレールの両側のロック用歯部に対応して一側縁と他側縁に沿って形成され、前記両側のロック用歯部に係合可能であり、いずれかの列のロック用孔部が、他の列のロック用孔部よりも、前記ロック用歯部の歯幅方向に沿った長さが相対的に長く形成されていることが好ましい。
【0016】
前記ロックスプリングは、前記アッパーレールの一方の側壁部に形成された開口部を介して挿入して配設されるものであり、挿入方向前方である前記一側縁寄りの前記アッパーレールのスライド方向に沿った長さが、前記他側縁寄りよりも短いことが好ましい。
【0017】
前記ロックスプリングは、前記アッパーレールの一方の側壁部に形成された開口部から挿入して配設されるものであり、挿入方向前方である前記一側縁寄りの高さが、前記他側縁寄りよりも低くなっていることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、幅方向に所定間隔をおいた両側に、それぞれ長手方向に沿って複数形成されたロック用歯部を有するロアレールと、前記ロアレールにスライド可能に設けられ、シートフレームが連結されるアッパーレールと、前記アッパーレールの前記ロアレールへの位置調整のため、前記ロック用歯部へのロック及びロック解除を行うロック機構とを有するシートスライドアジャスタであって、
前記ロック機構が用いられているシートスライドアジャスタを提供する。
【0019】
前記ロック機構が、後部が前記ロックプレートに接触可能で、前部に操作用のスライドレバーが連結され、レバー用ばね部材により前記後部が前記ロックプレートから離間する方向に付勢されており、前記スライドレバーの操作により、前記ロックスプリングのばね力に抗して前記後部を下方に変位させ、前記ロックプレートを、前記ロック用孔部が前記ロック用歯部から離脱するように変位させるリリースレバーを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ロックプレートのロック位置において作用するばね定数をk1、ロック用孔部がロック用歯部にハーフロック状態となるハーフロック位置で作用するばね定数をk3としたときに、k1>k3の関係を有し、ロック位置とハーフロック位置の間に、k1及びk3よりも低いばね定数k2が作用する領域を有している。好ましくは、この係合用ばね部が第1及び第2の2つのばね部から構成され、それらがロック時には並列のばね構造として機能する一方で、ロック解除方向に動作する際には直列のばね構造として機能する。よって、ロック位置において最も強いばね力が作用すると共に、ハーフロック位置においても所定のばね力が作用する。このため、ロックプレートのロック用孔部のロアレールのロック用歯部への係合の確実性を高めることができる。その一方、係合ばね部のばね定数は、ロック位置とハーフロック位置の間において低下する領域を有するため、ロック解除時の操作力が軽減される。これにより、ロック時のロック力(ばね力)とロック解除時の操作力とのバランスを図ることができる。
【0021】
また、ロックプレートは、ロックスプリングの係合用ばね部によって上方向に付勢され、好ましくは前後支持用ばね部によってアッパーレールのスライド方向に沿った前端縁及び後端縁が弾性的に支持されているが、本発明のシートスライドアジャスタは、好ましくは、リリースレバーを常態位置に付勢するためレバー用ばね部材を別途に設けた構成となっている。これにより、リリースレバーに連係するレバー用ばね部材のばね力がロックプレートに作用せず、係合用ばね部のばね力がロックプレートをロック方向へ付勢する際にダイレクトに作用し、ハーフロック状態を抑制できる。また、ロックスプリングが前後支持用ばね部を有する構成とすることで、アッパーレールのスライド方向に沿ったロックプレートの前後方向のガタつきも抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態に係るシートスライドアジャスタを左右一対配置してシートフレームを支持した状態を示した斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のシートフレームを取り外して、左右一対のシートスライドアジャスタを示した斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1及び
図2で示したシートスライドアジャスタの一方を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3のシートスライドアジャスタの分解斜視図である。
【
図5】
図5は、
図3のシートスライドアジャスタの断面図である。
【
図6】
図6(a)は、ロックスプリング及びロックプレートを示した斜視図であり、
図6(b)は、ロック機構付近のシートスライドアジャスタの断面図である。
【
図7】
図7は、ロックスプリング、シャフト、ロックプレートのアッパーレールへの取り付け方法を説明するための斜視図である。
【
図8】
図8(a),(b)は、ロックスプリングが取り付けられるアッパーレールの開口部の位置を示した図であり、
図8(a)は平面側から見た斜視図を、
図8(b)は底面側からみた斜視図をそれぞれ示す。
【
図9】
図9(a)は、ロックスプリング上にロックプレートが積層された状態を示す斜視図であり、
図9(b)は、
図9(a)のA-A断面図である。
【
図10】
図10(a)は、ロック機構を配置した付近のシートスライドアジャスタの平面図であり、
図10(b)は、
図10(a)のB-B線断面図であり、
図10(c)は、
図10(a)のC-C線断面図である。
【
図11】
図11(a)は、ロック機構を配置した付近のアッパーレールの平面図であり、
図11(b)は、
図11(a)のE-E線断面図であり、
図11(c)は、
図11(a)のF-F線断面図である。
【
図12】
図12(a)は、ロックスプリングの平面図であり、
図12(b)はロックスプリングの側面図である。
【
図13】
図13は、ロック用孔部とロック用歯部の大きさを説明するための図である。
【
図14】
図14(a)~(c)は、シートスライドアジャスタの要部の縦断面を示した図であり、
図14(a)はロック時の状態を、
図14(b)はロック解除時の状態を、
図14(c)はハーフロック時の状態をそれぞれ示す。
【
図15】
図15(a)~(c)は、
図14(a)~(c)におけるロックスプリングの部位の横断面図であり、
図15(a)はロック時の状態を、
図15(b)はロック解除時の状態を、
図15(c)はハーフロック時の状態をそれぞれ示す。
【
図16】
図16は、ロックスプリングをアッパーレールに配設した状態において、シャフトの中心を境界として2分割し、アッパーレールの後側に位置する長手方向の後端縁側を左右に開いた状態を示した図である。
【
図17】
図17は、ロックスプリングをアッパーレールに配設した状態で第2ばね部を取り除き、ベースプレートを上面方向から見た図である。
【
図18】
図18(a)は、アッパーレール12の開口部とロックスプリングの湾曲部との位置関係を示した図であり、
図18(b)は、
図18(a)のA-A線に沿った拡大断面図である。
【
図19】
図19は、ロック解除方向に作動した際、ロックスプリングにおいてたわみが主に生じる箇所を示した図である。
【
図20】
図20(a)は、ロック解除方向に作動した際のロックスプリングの変形状態を示した側面図であり、
図20(b)は、そのときの湾曲部の変形状態を示す拡大図である。
【
図21】
図21(a)~(e)は、ロック解除方向におけるロックスプリングの動きを模式的に示した図である。
【
図22】
図22(a)~(d)は、ロック方向におけるロックスプリングの動きを模式的に示した図である。
【
図23】
図23は、ロック解除方向におけるロックスプリングの荷重-たわみ線図である。
【
図24】
図24(a)は、ロックスプリングのばね力に、リリースレバーの長さ及びレバー用ばね部材のばね力を考慮して荷重値を求める際の計算手法のイメージを示した図であり、
図24(b)は、リリースレバーの長さ及びレバー用ばね部材のばね力を考慮したロック解除方向における荷重-たわみ線図である。
【
図25】
図25は、ロック方向におけるロックスプリングの荷重-たわみ線図である。
【
図26】
図26(a)~(c)は、ロックスプリングの前後支持用ばね部を構成する対向する突片を内倒れとなるように形成した態様を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、シートフレームSは、車体の幅方向に所定間隔をおいて左右一対配設される本実施形態のシートスライドアジャスタ10,10によって前後にスライド調整可能に設けられている。シートクッションフレームS1の前縁部の下方には、左右に配置されるシートスライドアジャスタ10,10間に跨がるスライドレバー17が配設されている。このスライドレバー17は、後述する左右のシートスライドアジャスタ10,10に設けられるロック機構16,16のリリースレバー164,164同士を連結するもので、人がこのスライドレバー17を操作することでロック解除がなされる構造となっている。
【0024】
以下の説明では、
図3~
図8を中心として、一方のシートスライドアジャスタ10のみを示してその詳細構造を説明するが、
図1及び
図2に示した左右のシートスライドアジャスタ10,10はいずれも同じ構造である。
【0025】
本実施形態のシートスライドアジャスタ10は、ロアレール11と、ロアレール11の長手方向にスライド可能なアッパーレール12等を有して構成され、ロアレール11が車体フロアに固定され、アッパーレール12にシートフレームSのシートクッションフレームS1のサイドフレームS11が連結される。
【0026】
ロアレール11は、
図3及び
図4に示したように、底壁部11aと、底壁部11aの両側から立ち上がって互いに対向する一対の縦壁部11b,11bと、各縦壁部11b,11bの上縁から互いに内方に曲げられていると共に、対向縁同士が所定間隔離間している一対の上壁部11c,11cと、上壁部11c,11cの内端縁から下方に曲成された内壁部11d,11dを有し、長手方向に直交する幅方向断面で上面開口の略コ字状に形成されている。そして、長手方向の両側に位置する内壁部11d,11dのそれぞれには、櫛歯状に設けた複数のロック用歯部11f,11fが形成されている。
【0027】
アッパーレール12は、
図3及び
図4に示したように、上壁部12aと、上壁部12aの両側から下方に曲げられて互いに対向する一対の側壁部12b,12bとを有する、幅方向断面が下面開口の略コ字状に形成されている。また、各側壁部12b,12bの下端部からは、外方に所定幅略水平方向に折り曲げられた底壁部12c,12cがそれぞれ形成され、さらに各底壁部12c,12cの外縁からは上方に折り返される折り返し片12d,12dが形成されている。そして、アッパーレール12の各折り返し片12d,12dが、ロアレール11の各縦壁部11b,11bにそれぞれ対向するように、該アッパーレール12の各折り返し片12d,12dを、該ロアレール11の各縦壁部11b,11bと各内壁部11d,11dとの間に位置させて配設される(
図5参照)。
【0028】
ロアレール11とアッパーレール12との間には、摺動抵抗低減部材14,15が介在される。摺動抵抗低減部材14,15は、好ましくは、ロアレール11の長手方向に所定間隔をおいて複数設けられ、本実施形態では、ロアレール11の前部寄りと後部寄りとに設けられている(
図4参照)。
【0029】
次に、本実施形態のシートスライドアジャスタ10に用いられるロック機構16について説明する。このロック機構16は、
図4に示したように、シャフト161、ロックスプリング162、ロックプレート163及びリリースレバー164を有して構成される。
【0030】
シャフト161は、アッパーレール12の上壁部12aに上部161aが固定され、対向する側壁部12b,12b間に吊り下げ支持される(
図5参照)。シャフト161は、ロックスプリング162及びロックプレート163を、アッパーレール12の一方の折り返し片12dとそれに隣接する一方の側壁部12bに形成された略長方形の開口部12e,12fを介して、アッパーレール12の上壁部12a及び側壁部12b,12bに取り囲まれた空間内に挿入した後、ロックスプリング162の下方に位置するベースプレート1621側から上方に向かって挿通され、上部161aが上記のように上壁部12aに固定される(
図7及び
図8(a),(b)参照)。なお、アッパーレール12の他方の側壁部12b及び他方の折り返し片12dにも、一方側に位置する上記の開口部12e,12fに対向する位置に、略長方形の開口部12g,12hがそれぞれ形成されており、ロックスプリング162は、一方側の開口部12e,12f及び他方側の開口部12h,12gに跨がって配設される(
図6(b)及び
図8(a),(b)参照)。
【0031】
ロックスプリング162は、
図6(a),(b)に示すように、ベースプレート1621、係合用ばね部1622及び前後支持用ばね部1623を有して構成され、アッパーレール12の縦壁部12b,12bの開口部12f,12gの周縁部によってアッパーレール12のスライド方向(長手方向)に沿った前端縁162a及び後端縁162bが規制されて配設されている。これにより、ロックスプリング162におけるアッパーレール12の長手方向(スライド時の前後方向)に沿ったガタつきが抑制される。
【0032】
ベースプレート1621、係合用ばね部1622及び前後支持用ばね部1623は1枚の板ばねから形成されている。ベースプレート1621は、平面視で略方形であり、その略中心部には、シャフト挿通孔1621aが形成されている(
図6(b),
図8(b)参照)。また、ベースプレート1621は、アッパーレール12の長手方向に直交する方向に沿って対向する一側縁162c及び他側縁162dのうちの一方、本実施形態では一側縁162c寄りは、前端縁162a及び後端縁162b寄りの所定幅の部位を残し、その内側に略コ字状の切り欠き1621eが設けられている。ベースプレート1621のこの所定幅の部位は、一側縁162cから他側縁162d方向に斜め上方に向かって折り返される。この折り返される部位が係合用ばね部1622を構成する。
【0033】
係合用ばね部1622は、ベースプレート1621の一側縁162cから他側縁162d方向に向かって折り返されて斜め上方に向かって延びる第1ばね部1622aと、第1ばね部1622aの他端縁162d寄りの部位から一側縁162c方向に延びる第2ばね部1622bとを備えている。
【0034】
第1ばね部1622aは、ベースプレート1621が一側縁162c寄りにおいて前端縁162a及び後端縁162b寄りの所定幅の部位を残し、その内側に略コ字状の切り欠き1621eが形成されているため、この所定幅の部位が斜め上方に向かって延び、2つの端縁傾斜片1622a1,1622a2を構成する。端縁傾斜片1622a1,1622a2の他側縁162d寄りにおいては、両者間を接続する接続傾斜片1622a3を有している(
図6(a)参照)。
【0035】
第2ばね部1622bは、平面視で略方形であり、2つの端縁傾斜片1622a1,1622a2間に位置し、接続傾斜片1622a3から連続して一側縁162c方向に略水平に延びている。また、その略中心部には、シャフト161が挿通されるシャフト挿通孔1622b3を有している。
【0036】
従って、ベースプレート1621及び係合用ばね部1622(第1ばね部1622a及び第2ばね部1622b)の前端縁162a及び後端縁162b間の中心を通るロックスプリング162の横断面形状は、略Z字状となっている(
図6(b)参照)。このため、係合用ばね部1622の第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bは、2つのばね特性が直列接続された関係になっている。
【0037】
ロックスプリング162を略Z字状に形状とするには、例えば、長方形の1枚の板ばねにおいて、略コ字状の切り込みを入れる。すなわち、ベースプレート1621側となる板ばねの長手方向の略中央部に、長手方向に直交するように短辺と平行な切り込みを入れ、この切り込みの各端部から該板ばねの2つの長辺に平行に他方の短辺方向に所定長さの切り込みを入れる。これにより切り込みが略コ字状に形成される。次いで、略中央部からベースプレート1621側を反対方向に向かって折り曲げ加工する。それにより、長辺に沿った切り込みの外側の部位が端縁傾斜片1622a1,1622a2に相当する部位となる。このとき、本実施形態では折り曲げた部位が湾曲部1622a4,1622a5となるように加工し、第1ばね部1622aが所定のばね力を発揮できるように調整している。一方、略コ字状の切り込みに取り囲まれた範囲を略水平となるように加工すると、長辺に沿った切り込みの端部から短辺までの間が接続傾斜片1622a3となり、略コ字状の切り込みに取り囲まれた範囲が、略水平に延びる第2ばね部1622bとなる。また、第2ばね部1622bが略水平に加工されて第1ばね部1622aの傾斜面から離間することで、略コ字状の切り込みで取り囲まれた部分が上記の切り欠き1621eとなる。
【0038】
ここで、第1ばね部1622aは、接続傾斜片1622a3が、ロックプレート163の下面における、シャフト161を挟んだ他側縁163d側の部位に当接する位置となるように、端縁傾斜片1622a1,1622a2の長さが設定される。また、接続傾斜片1622a3には、アッパーレール12の長手方向に沿って4つの歯部貫通孔1622a6が形成されている。これは、ロックプレート163に形成される他側縁163d側の列のロック用孔部1632に対応する位置に設けられ、このロック用孔部1632を貫通したロック用歯部11fが侵入する。
【0039】
第2ばね部1622bは、シャフト161を挟んだ一側縁162c寄りの部位1622b1が、ロックプレート163の下面における、シャフト161を挟んだ一側縁163c側の部位に当接できる大きさを有している(このような大きさになるように上記の切り欠き1621eを形成する略コ字状の切り込みの形成位置が決められる)。第2ばね部1622bにおける一側縁162c寄りの部位1622b1には、アッパーレール12の長手方向に沿って2つの歯部貫通孔1622b2が形成されている。この歯部貫通孔1622bはロックプレート163の一側縁163c側の列のロック用孔部1631に対応する位置に設けられ、このロック用孔部1631を貫通したロック用歯部11fが侵入する。
【0040】
また、ベースプレート1621の一側縁162c付近及び他側縁162d付近には、それぞれ下方に突出する爪部1621b,1621cが形成されている(
図8(b)参照)。各爪部1621b,1621cは、ロックスプリング162をアッパーレール12内に配設した際に、アッパーレール12の縦壁部12b,12bの内面に当接して押圧する。これにより、アッパーレール12の長手方向に直交する方向(幅方向)へのガタつきが抑制される。
【0041】
前後支持用ばね部1623には、ベースプレート1621における前端縁162a及び後端縁162bにおいて、一側縁162c及び他側縁162d間の略中間付近から第2ばね部1622bよりも上方に突出する突片1623a,1623bが設けられている(
図6(a)及び
図9(a),(b)参照)。対向する突片1623a,1623b間の距離は、ロックプレート163の前端縁163a及び後端縁163b間の距離とほぼ同じに設定される。これにより、ロックプレート163のアッパーレール12のスライド方向に沿った動きが規制され、ロックプレート163のスライド方向のガタつきが抑制される。
【0042】
前後支持用ばね部1623を構成する突片1623a,1623bを挟んだ一側縁162c側及び他側縁162d側には、それぞれ上方に突出する上下規制用突片1623c,1623cが設けられている(
図6(a)及び
図9(a)参照)。これらは、
図11(b),(c)に示したように、アッパーレール12の各側壁部12b,12bに対向して形成された開口部12f,12gの周縁部のうち、アッパーレール12の長手方向前後に位置する部位を内側から押圧すると共に、該周縁部の上縁を下方から押圧し、ロックスプリング162におけるアッパーレール12の長手方向及び上下方向に沿った動きを規制してガタつきを抑制する。
【0043】
また、ロックスプリング162は、アッパーレール12のスライド方向(長手方向)に沿った長さ(すなわち、前端縁162a及び後端縁162b間の距離)が、他側縁162d側(
図12(a)のX2)よりも一側縁162c側(
図12(a)のX1)が短くなっている構成とすることが好ましい。ロックスプリング162は、アッパーレール12の一方の折り返し片12dに形成された開口部12eから挿入され、さらに一方の側壁部12bの開口部12fを介してアッパーレール12内に挿入され、上記のように他方の側壁部12bに形成された開口部12g及び他方の折り返し片12dまで跨がるように配設される。従って、前端縁162a及び後端縁162b間の距離は、この挿入方向前方である一側縁162c側における距離X1が他側縁162d側における距離X2よりも短い方が挿入しやすい。同様の理由により、ロックスプリング162は、挿入方向前方である一側縁162c側の高さ(
図12(b)のY1)が他側縁162d側の高さ(
図12(b)のY2)よりも低くなっていることが好ましい。
【0044】
ロックプレート163は、
図6、
図7及び
図9~
図11に示したように、略方形の所定厚さの板状体から形成される。ロックプレート163の略中央部にはシャフト挿通孔1633が貫通形成され、ロックスプリング162の第2ばね部1622bの上面に重ねて配置される。第2ばね部1622bよりも上方位置まで突出している前後支持用ばね部1623の各突片1623a,1623b間に前縁163a及び後縁163bが接するように配置される。これにより、ロックプレート163のアッパーレール12の長手方向に沿った位置ずれが抑制される。
【0045】
ロックプレート163には、一側縁163c側及び他側縁163d側にそれぞれアッパーレール12の長手方向に沿ってロック用孔部1631,1632が形成されている。本実施形態では、一側縁163c側のロック用孔部1631は、アッパーレール12の長手方向に沿って2つのロック用孔部1631が形成され、他側縁163d側のロック用孔部1632は、アッパーレール12の長手方向沿って4つ形成されている。
図13に示したように、一側縁163c側のロック用孔部1631は、ロアレール11のロック用歯部11fの幅よりも広く形成され、他側縁163d側の列のロック用孔部1632の幅方向に沿った長さは、一側縁163c側のロック用孔部1631よりも相対的に狭く、ロアレール11のロック用歯部11fが侵入できるだけのクリアランスを有するがロック用歯部11fの歯幅とほぼ同程度に形成されている。すなわち、一側縁163c側の列において隣接するロック用孔部1631,1631間の桟部1631aの幅が、他側縁163d側の列において隣接するロック用孔部1632,1632間の桟部1632aの幅よりも狭くなっている。すなわち、一側縁163c側の桟部1631aは、ロアレール11の隣接するロック用歯部11f,11f間の間隔よりも狭く形成され、他側縁163d側の桟部1632bは、ロアレール11の隣接するロック用歯部11f,11fの間隔とほぼ同じに形成されている。
【0046】
この結果、一側縁163c側の列のロック用孔部1631には、それに対応する列のロック用歯部11fが、他側縁163d側の列のロック用孔部1632と比較して相対的に位置合わせが粗い状態でも係合する。一側縁163c側の列のロック用孔部1631と一方の列のロック用歯部11fが係合すると、他側縁163d側の列のロック用孔部1632及び他方の列のロック用歯部11f同士の位置ずれが小さくなり、これらも円滑に係合する。すなわち、ロック用歯部11fがロック用孔部1632,1632間の桟部1632aに当接して、ロック用孔部1632,1632に侵入しにくくなること、すなわちハーフロック状態となることが抑制される。
【0047】
上記のように、係合用ばね部1622の第1ばね部1622aは、接続傾斜片1622a3が、ロックプレート163の下面における、シャフト161を挟んだ他側縁162d側の部位に当接するように設けられている。第2ばね部1622bは、シャフト161を挟んだ一側縁162c寄りの部位1622b1が、ロックプレート163の下面における、シャフト161を挟んだ一側縁162c側の部位に当接するように設けられている。このため、接続傾斜片1622a3がロックプレート163への作用点となっている第1ばね部1622aは、ロックプレート163の他側縁163d側を係合方向にすなわち上方に付勢し、一側縁162c寄りの部位1622b1がロックプレート163への作用点となっている第2ばね部1622bは、ロックプレート163の一側縁163c側を係合方向にすなわち上方に付勢する。第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bは、直列接続であるが、断面略Z字状に連なっているため、本実施形態のように、それぞれに直接ロックプレート163を付勢する作用点を設定することにより、それぞれのばね定数に従ったばね力が機能する。なお、
図6(a)に示したように、係合用ばね部1622は、組み付け前の状態、すなわち、荷重がかかっていない状態では、第1ばね部1622aの作用点である接続傾斜片1622a3が第2ばね部1622bの作用点である一側縁162c寄りの部位1622b1よりも上方位置となっている。
【0048】
本実施形態では、係合用ばね部1622が最も押圧された位置(
図14(b)及び
図15(b)の位置)、すなわち、リリースレバー164によってロックプレート163が最下端となっているロック解除の状態から、係合用ばね部1622が最上端の位置(
図14(a)及び
図15(a)の位置)、すなわち、ロック用歯部11f,11fにロックプレート163のロック用孔部1631,1632が確実に係合している状態までの変位量に対し、第1ばね部1622aのばね定数が第2ばね部1622bのばね定数よりも小さい値となるように設定している。これにより、ロックプレート163は、一側縁163c側の列のロック用孔部1631が、他側縁163d側の列のロック用孔部1632よりも、対応する列のロック用歯部11fへの挿入性が高くなる。一側縁163c側の列のロック用孔部1631は、上記のように他側縁163d側の列のロック用孔部1632よりもロック用歯部11fの歯幅方向に沿った長さが長く形成されているため、このようにばね定数を相対的に高くすることにより、対応する列のロック用歯部11fに速やかに係合する。その結果、他側縁163d側の列のロック用孔部1632も、孔の大きさがロック用歯部11fの歯幅とほぼ同じでありながら、両者の相対位置精度が高まり、スムーズに係合される。
【0049】
リリースレバー164は、
図14に示したように、所定の長さを有し、ロアレール11及びアッパーレール12の内側に配設される。リリースレバー164は、その前部164aがアッパーレール12の前端から突出し、この前部164aに人が操作するスライドレバー17が連結される。リリースレバー164は、長手方向中途部164cを中心として、前部164aが上下に変位すると、後部164bが逆方向に変位するようにアッパーレール12に軸支されている。リリースレバー164は、後部164bが、ロックプレート163の上方位置となる長さを有している。
【0050】
リリースレバー164は、アッパーレール12に、長手方向中途部165aが支点となるように支持され、アッパーレール12の長手方向に沿って回転する所定長さのレバー用ばね部材165により付勢される。レバー用ばね部材165は、その後部165bがスライドレバー164の後部164bに係合されており、リリースレバー164は、常態において後部164bがロックプレート163の上面から離間する方向に付勢されている(
図14(a)の状態)。従って、スライドレバー17を上方に持ち上げてリリースレバー164の前部164aを上方向に変位させると、リリースレバー164の後部164bがレバー用ばね部材165のばね力に抗して下方に変位し、ロックプレート163を下方に押し下げる(
図14(b)の状態)。それにより、ロック用孔部1631,1632がロック用歯部11f,11fから離脱し、ロックが解除され、前後へのスライド移動が可能となる。スライドレバー17から手を離すと、レバー用ばね部材165のばね力によりリリースレバー164の後部164bがロックプレート163から離間する方向に変位し、再び
図14(a)の状態となる。このとき、ロックスプリング162も同時に上方向に復元するため、ロック用孔部1631,1632がロック用歯部11f,11fに係合し、ロック状態となる。
【0051】
このように、本実施形態では、リリースレバー164の動きを制御する弾性部材であるレバー用ばね部材165を、ロックプレート163を係合させるための弾性部材であるロックスプリング162とは別部材としており、スライドレバー17から手を離せば、リリースレバー164は速やかにロックプレート163から離間する。そのため、ロックスプリング162の復元力によるロックプレート163のロック方向への動きを、リリースレバー164の摩擦力やスライドレバーの慣性力が妨げることがない。従って、従来のように、これらによる作動抵抗が影響してロックプレート163の回転速度を低下させ、それによりハーフロック状態(
図14(c)及び
図15(c)の状態)を招くような事態が抑制される。
【0052】
本実施形態によれば、ロックスプリング162は、アッパーレール12の一方の折り返し片12dの開口部12eから挿入され、さらに、一方の側壁部12bの開口部12fを介し、他方の側壁部12bの開口部12g及び他方の折り返し片12dの開口部12hに跨がるように配設される。これにより、ベースプレート1621において下方に突出する爪部1621b,1621cがアッパーレール12の縦壁部12b,12bの内面に当接して押圧すると共に、上下規制用突片1623c,1623cが、アッパーレール12の各側壁部12b,12bに対向して形成された開口部12f,12gの周縁部を内側から押圧し、かつ、該周縁部の上縁を下方から押圧する(
図11(b),(c)、
図16参照)。
なお、ベースプレート1621には、
図17に示したように、シャフト161が挿通されるシャフト挿通孔1621aの内周縁に、シャフト161の外周面に弾性的に接する爪部1621a1,1621a1が形成されている。これにより、アッパーレール12に支持されるシャフト161に一体となっている。
【0053】
以上より、ロックスプリング162は、アッパーレール12の長手方向、該長手方向に直交する方向、及び高さ方向のいずれに対してもガタつきが抑制された状態で配置される。この際、ロックスプリング162は、挿入方向前方である一側縁162c側のアッパーレール12の長手方向に沿った長さが他側縁162d側より短く、かつ、一側縁162c側の高さが他側縁162s側よりも低いため挿入しやすいことは上記のとおりである。
【0054】
ロックプレート163もロックスプリング162と同様に、アッパーレール12の一方の折り返し片12dの開口部12eから挿入され(
図7参照)、一方の側壁部12bの開口部12fを介してアッパーレール12内に配置される。
【0055】
このようにして、ロックスプリング162及びロックプレート163をアッパーレール12の一対の側壁部12b,12b間に配置した状態で、ロックスプリング162のべーースプレート1621のシャフト挿通孔1621cからシャフト161を上方に向かって挿通する。シャフト161は、係合用ばね部1622の第2ばね部1622bのシャフト挿通孔1622b3並びにロックプレート163のシャフト挿通孔1633を通過して、上部161aがアッパーレール12の上壁部12aに固定される。
図6及び
図7に示したように、シャフト161の下部161bは外方に突出するフランジ状となっており、該フランジ状の下部161bによってロックスプリング162のベースプレート1621の配設高さが位置決めされる。本実施形態では、ベースプレート1621が、ロアレール11の高さの略中間位置となるようにシャフト161の長さが設定されている。
【0056】
本実施形態では、ロックスプリング162のアッパーレール12に形成した開口部12e,12f,12g,12hを利用してアッパーレール12内に配置でき、その後、シャフト161で固定すればよいため、取り付け作業が容易である。
【0057】
このようにして取り付けられたロックスプリング162は、第2ばね部1622b上のロックプレート163を常に上方に、すなわち、ロアレール11のロック用歯部11f,11fにロック用孔部1631,1632が係合する方向に付勢する。このとき、本実施形態では、リリースレバー164からロックスプリング162の付勢方向への抵抗力が作用しないのは上記のとおりである。リリースレバー164によってロックプレート163が押圧されてロック解除となっている状態(
図14(b)及び
図15(b)の状態)からリリースレバー164がロックプレートから離間すると、ロックプレート163はロック解除位置である最下端から上方に変位する。ロックプレート163は、前縁163a及び後縁163bが前後支持用ばね部1623を構成する突片1623a,1623bによって弾性的に規制されているため、前後へのガタつきが抑制されているが、ロック用孔部1631,1632がロック用歯部11f,11fに係合するにあたって、位置調整のために僅かな変位が必要となる場合がある。このため、シャフト161は、少なくともロックプレート163の変位範囲において、下方から上方に向かって細くなるテーパ状に形成されていることが好ましい。ロックプレート163は、シャフト161との間のクリアランスに応じて僅かに変位可能となり、ロック用孔部1631,1632のロック用歯部11f,11fへの係合がより円滑になる。シャフト161がこのようにテーパ状に形成されていても、ロックプレート163は、前後支持用ばね部1623によって弾性的に支持されているためガタつきは生じない。
【0058】
また、
図6(b)、
図10(c)、
図16等に示したように、ロックスプリング162は、アッパーレール12の開口部12e,12f,12g,12hに跨がるように配設され、係合用ばね部1622の一側縁162c側に位置する湾曲部1622a4,1622a5は、ロックスプリング162をこのように配設した際に、他側縁162d側の開口部12hから外方に突出する大きさを有している。その一方で、ロアレール11の縦壁部11bの内面との間(
図6(b)及び
図10(c)のA部)にはクリアランスc1が生じる大きさになっている。また、アッパーレール12の開口部12hは、
図18(a),(b)に示したように、湾曲部1622a4,1622a5に接触せずにクリアランスc2が生じる大きさとなっている。これにより、係合用ばね部1622の第1ばね部1622aが、上下に変位する際の摩擦抵抗が生じない。また、
図6(b)及び
図10(b)に示したように、係合用ばね部1622における第2ばね部1622bのシャフト挿通孔1622b3は、シャフト161の外周面との間にクリアランスc2が形成される内径で形成されている。これにより、第2ばね部1622bが上下に弾性変位した際に摩擦抵抗が生じない。本実施形態では、このように、係合用ばね部1622を構成する第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bの動作時に、他の部材との接触による摩擦抵抗が極力生じることのない構成としており、この点も、ロックプレート163のロック用孔部1631,1632がロック用歯部11f,11fに係合する際の動きを円滑にする。
【0059】
ロック解除の際には、スライドレバー17を上方に動作させる。これによりリリースレバー164の後部164bがロックプレート163を下方に押圧し、ロックスプリング162をそのばね力に抗して第2ばね部1622bがベースプレート1621にほぼ接するまで変位し、ロック用孔部1631,1632がロック用歯部11f,11fから離脱する(
図14(b)及び
図15(b)の状態)。この際、本実施形態によれば、係合用ばね部1622の第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bが直列接続であるため、2つの作用点が共に押圧されることでその際に作用するばね力は、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bの合成ばね定数に対応した力となる。合成ばね定数は、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bがロックプレート1623を上方に付勢する際のそれぞれのばね定数よりも小さくなるため、リリースレバー164を下方に押し下げる力、すなわち、スライドレバー17を持ち上げる操作力は、複数のばねを並列配置した従来の構造と比較して軽くなる。すなわち、本実施形態によれば、直列接続の複数のばね構造(第1ばね部1622a及び第2ばね部1622b)を採用し、各ばね構造に上方に付勢する作用点を設定することで、係合方向へは所定の力を発揮させ、ハーフロックを起こしにくくしている一方で、ロック解除方向への操作を軽い力で行うことができるようになっている。
【0060】
ここで、係合用ばね部1622の作用を、
図16~
図25に基づき詳述する。
係合用ばね部1622は、上記のように、第1ばね部1622aのばね定数が、第2ばね部1622bのばね定数よりも小さい値となるように設計されている。すなわち、第1ばね部1622aのばね定数をka、第2ばね部1622bのばね定数をkbとしたときに、ka<kbの関係で作られている。また、上記のように、係合用ばね部1622は、組み付け前の状態、すなわち、荷重がかかっていない状態では、第1ばね部1622aの作用点である接続傾斜片1622a3が第2ばね部1622bの作用点である一側縁162c寄りの部位1622b1よりも上方位置となっている(
図6(a)参照)。そのため、組み付け時においては、
図21(a)に示した状態からロックプレート163を若干押圧し、ロック用孔部1631,1632がロック用歯部11f,11fに係合しているロック位置において、
図21(b)に示したように、第1ばね部1622aの作用点(接続傾斜片1622a3)と第2ばね部1622bの作用点(一側縁162c寄りの部位1622b1)が共に、ロックプレート163に当接して、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bのばね力をロックプレートに163に並列的に作用するように組み付ける。
よって、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bとが並列配列のばね構造となっている際の合成ばね定数k1(
図23参照)は、k1=ka+kbとなる。
【0061】
この状態でロックオフするために、スライドレバー17を上方に付勢させ、リリースレバー164を介してロックプレート163が押し下げられると、
図21(c)に示したように、相対的にばね定数の低い第1ばね部1622aがたわみ始め、第1ばね部1622aの作用点(接続傾斜片1622a3)が、ロックプレート163から離間する。その結果、ロックプレート163へは第2ばね部1622bの作用点のみが当接することになり、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bは、直列配列のばね構造となる。よって、ロックプレート163を支える力は、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bの並列配列の合成ばね定数(k1=ka+kb)から直列配列の合成ばね定数k2に変化する(
図18の変位量約5mmを境に変化する)。直列配列のばね構造の合成ばね定数k2は、k2=(ka×kb)/(ka+kb)であるため、k1との関係では、k1>k2となり、ロック解除時にはばね力が低下する。
【0062】
第1ばね部1622aは、ハーフロックが生じる位置、すなわち、ロック用歯部11f,11fの先端面の位置(以下、「ミスユース位置」という(
図23~
図25の「Misuse position」))に至る少し手前の位置(
図238の変位量約7.2mmの位置)まではベースプレート1621に底付きしないようなストロークとなるように設定される。これにより、この変位量約7.2mmまでは、上記の直列配列の低いばね定数k2が作用する。
第1ばね部1622aの底付き後、
図21(d)のミスユース位置及び
図21(e)に示したロック用孔部がロック用歯部から離脱して第2ばね部1622bがベースプレート1621に最も近づくロックオフの位置までは、第2ばね部1622bがたわむ。よって、その間のばね定数k3は、k3=kbとなる。よって、ミスユース位置においては、常にばね定数k3(すなわち第2ばね部1622bのばね定数kb)が作用することになり、ロック方向へ、k2よりも高い所定のばね力が作用し、ハーフロック状態(ミスユース状態)が速やかに解消される力が働くことになる。
【0063】
図21(a)~
図21(e)に至るまでの係合用ばね部1622のばね力の変化の一例を示したものが
図23である。
図23において、符号P1の折れ線グラフは、係合用ばね部1622のばね力を計算により求めたものである。この折れ線グラフP1から明らかなように、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bの各作用点がロックプレート163に接し、両者のばね力が並列的に作用している変位量約2.5mmから約5mmまでは、ばね定数k1となり、ロック位置(
図21(b))の荷重f1は約40Nとなっている。一方、変位量約5mmの位置を超えると、第1ばね部1622aの作用点がロックプレート163から離間するため、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bは直列のばね構造となり、合成ばね定数が上記のk1からk2に低下する。その後、変位量約7.2mmの位置で第1ばね部1622aが底付き(
図21(e))、ロックオフに至るまで、直列ばねの合成ばね定数k2よりも高い第2ばね部1622bのばね定数kbと同じばね定数k3が作用し、変位量8.1mmのミスユース位置の荷重f2は約39Nとなる。このように、本実施形態の係合用ばね部1622は、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bの2つの作用点がともにロックプレート163に接しているか、第2ばね部1622bの作用点のみがロックプレート163に接しているかということ、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bの各ばね定数(ka,kb)、並びに、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bのストロークによって変化する非線形のばね特性を備えた直列/並列複合ばね構造となっている。
【0064】
また、
図23に示した符号Q1の曲線は、ベースプレート1621のたわみ及び湾曲部1622a4,1622a5の形状変化を考慮した荷重-たわみ線図である。すなわち、係合ばね部1622は、ロック解除方向に作動した際には、
図19及び
図20に示したように、湾曲部1622a4,1622a5が縮径するように変形する。これに伴い、係合用ばね部1622と1枚の板ばねで形成されたベースプレート1621のうち、シャフト161に接している付近はほとんどたわまないが、アッパーレール12の開口部12e,12f,12g,12hと接していない部位(
図19において斜線で示した部位)は浮き上がる方向にたわみが生じる。このため、ロックスプリング162をアッパーレール12に装着した状態では、係合用ばね部1622のばね力を示す荷重-たわみ曲線は、P1の計算値による変化と比較し、Q1で示したような滑らかな変化を示す。
【0065】
図23の符号R1の曲線は、符号P1,Q1で示したような非線形のばね特性を示す係合用ばね部1622における、ロックオフ操作をしているときの操作感を変位量と荷重値の関係で示したものである。ロック位置から解除すると、最初に抵抗を感じた後、抵抗感が速やかに低下するイメージである。
【0066】
図24(b)の符号P2は、
図23に示した係合用ばね部1622のばね力に、
図24(a)に示したようなリリースレバー164の長さ及びレバー用ばね部材165のばね力を考慮した計算上の変位量と荷重値の関係を示した図である。レバー用ばね部材165のばね力が重畳される分、
図23よりも荷重値は上昇するが、ロック位置からロックオフ位置に至るまで同様の変化を示していることがわかる。よって、操作感イメージの符号Q2の曲線も同様の変化を示す。このロック解除の際に初期に抵抗を感じた後に抵抗感が低下することで、人はロック解除操作をしたことあるいはロック解除がさなれたことを手指から感じることができる。
【0067】
ロックオフからロック時においては、第2ばね部1622bのばね力によりロックプレート163が上昇し始め(
図22(a))、まずこの第2ばね部1622bのばね力(ばね定数k3=kb)が作用する(
図22(b))。その後、ミスユース位置付近から、第1ばね部1622aが復元し、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bの直列ばねの合成ばね定数k2が作用してロックプレート163を上昇させる(
図22(c))。そして、ロック位置付近に至ると、第1ばね部1622aの作用点(接続傾斜片1622a3)がロックプレート163に当接し、第1ばね部1622a及び第2ばね部1622bは並列配列構造となる(
図22(d))。それにより、強いばね力(ばね定数k1)が作用し、確実なロックがなされる。
【0068】
図25は、ロックオフからロックする際の係合用ばね部1622のばね力の特性の一例を示した図である。この図に示したように、ロックオフ位置からミスユース位置付近まで(0から約2mm)は第2ばね部1622bのばね定数(k3=kb)が作用し、その後、約2.5から約4mmまでは第2ばね部1622bよりも低いばね定数k2のばね力が作用し、約4mmを過ぎてロック位置に至るまで、変化が急になる高いばね定数k1が作用していることがわかる。
【0069】
ここで、
図26は、ロックスプリング162の前後支持用ばね部1623を構成する対向する突片1623a,1623bを、ベースプレート1621側から上方に向かって、両者間の間隔が徐々に狭くなる若干内倒れとなるように形成した態様を示している。ロックプレート163が、ロック状態のときの位置が
図26(a)であり、ミスユース状態のときの位置が
図26(b)であり、ロックオフ状態のときの位置が
図26(c)である。また、対向する突片1623a,1623bは、ロックプレート163がロック状態のときに対応する位置である上部間の基準寸法が、ロックプレート163の前端縁163a及び後端縁163b間の距離未満となるように設計されている。また、好ましくは、ミスユース状態の位置及びロックオフ位置に対応する突片1623a,1623bの部位間(突片1623a,1623bの下部寄りの部位)では、ロックプレート163の前端縁163a及び後端縁163b間の距離を上回る基準寸法で設計されている。
【0070】
これにより、ロック状態において、ロックプレート163のアッパーレール12のスライド方向に沿ったガタつきが抑制される。その一方、ミスユース状態の位置及びロックオフ位置に対応する突片1623a,1623bの部位間(突片1623a,1623bの下部寄りの部位)では、ロックプレート163の前端縁163a及び後端縁163b間の距離を上回る基準寸法であるため、ロックオフ操作の際、ロックプレート163がロック位置から若干押し下げられる際の抵抗力は
図6~
図11等に示した構造のものよりも若干上がるものの、変位量が所定以上になると突片1623a,1623bのばね力の作用がほとんどなくなる。よって、ロック時におけるロックプレート163のガタつきをより抑制しつつ、
図18及び
図19の操作感と同様の操作感が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のシートスライドアジャスタは、上記実施形態で説明したように、自動車において用いられることが好適であるが、航空機、列車、船舶、バスなどの各種の乗物用シートにおいても適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 シートスライドアジャスタ
11 ロアレール
11a 底壁部
11b 縦壁部
12 アッパーレール
12a 上壁部
12b 側壁部
12c 底壁部
12d 折り返し片
16 ロック機構
161 シャフト
162 ロックスプリング
1621 ベースプレート
1621aシャフト挿通孔
1622 係合用ばね部
1622a 第1ばね部
1622a1,1622a2 端縁傾斜片
1622a3 接続傾斜片
1622b 第2ばね部
1622b1 一側縁寄りの部位
1622b3 シャフト挿通孔
1623 前後支持用ばね部
1623a,1623b 突片
1623c 上下規制用突片
163 ロックプレート
1631,1632 ロック用孔部
1633 シャフト挿通孔
164 リリースレバー
165 レバー用ばね部材
17 スライドレバー