(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102990
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】ビスマレイミド化合物を含む機械的物性および耐熱性を向上させたアクリレート光硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 222/40 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
C08F222/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020220062
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000199681
【氏名又は名称】川口化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】酢谷 麻紀
(72)【発明者】
【氏名】大貫 毅
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL63R
4J100AL67R
4J100AM21S
4J100AM55P
4J100AM55Q
4J100BA02R
4J100BA02S
4J100BC04P
4J100FA18
(57)【要約】
【課題】ビスマレイミド化合物を含み、機械的物性および耐熱性を向上させたアクリレート光硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】光硬化可能なアクリレートモノマーへ、2-メチルペンタン-1,5-ビスマレイミドおよび1-マレイミド-3-マレイミドメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンからなるビスマレイミド化合物を添加し、光硬化性樹脂組成物を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化可能なアクリレートモノマーへ化1および化2からなるビスマレイミド化合物が含有された樹脂組成物。
【化1】
【化2】
【請求項2】
光硬化可能なアクリレートモノマーへ請求項1の化1および化2からなるビスマレイミド化合物が含有された樹脂組成物からなる硬化物。
【請求項3】
請求項1の化1で表される化合物と化2で表される化合物の混合モル比率が0.3:0.7~0.7:0.3の範囲内となるように調整された樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1の化1で表される化合物と化2で表される化合物の総重量が、全組成物重量の5~20%の範囲内となるように調整された樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリレート光硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を硬化させる方法としては、大きく分けて熱硬化と光硬化に分けられる。一般的に熱硬化は熱硬化可能な樹脂モノマーおよびそれらの組成物(ワニス)を溶媒に溶解させ熱硬化させる。溶媒は加熱時に揮発させ除去をするが、樹脂内の溶媒を完全に除去することは難しい。また揮発過程で生じる気泡が硬化するまでに抜けきらないなどの問題点も存在する。さらには溶剤自体が作業者に対して安全衛生面で問題視されており、無溶剤ワニスの研究も盛んである。
【0003】
一方、光硬化は光硬化可能な樹脂モノマーおよびそれらの組成物へ紫外線などを照射し、光硬化させる。硬化温度は室温など比較的低く、無溶剤ワニスを用いることも一般的である。光硬化においてよく用いられる樹脂モノマーとしてはアクリレート系化合物が挙げられる。
【0004】
アクリレート樹脂はプラスチックの中でも透明性や耐候性、剛性などに優れるため、広く利用されており、光ラジカル重合に対する感度が高く硬化速度が速い。また樹脂の原料であるアクリレートモノマーは多種多様なものが市販され、アクリレート基の数や構造を選択することにより特性をコントロールすることが可能である。例えば透明性を必要とする水族館の水槽や航空機の窓、硬度が高い点を利用して液晶パネル等のコーティング、耐候性に優れる点を利用して建築物の塗料といった用途で使用されている。また近年では高速な硬化性を生かし、光造形用3Dプリンター用モノマーとしても用いられている。
【0005】
しかしアクリレート樹脂の機械的物性は十分とは言えず、特に光造形用アクリレートモノマーで得られる硬化樹脂は耐熱性の面でも課題が残る。
【0006】
アクリレート樹脂の耐熱性を向上させる方法としては、ビスマレイミド化合物を添加した例があるものの、それらの検討は熱硬化系の検討(特許文献1)であり光硬化における検討例は少ない。
【0007】
理由は既存のビスマレイミド化合物はアクリレートモノマーに対する溶解性に乏しく、かつ構造中に芳香環を有するので、光硬化を阻害しやすいからである。
【0008】
従って光硬化用のアクリレートモノマーに溶解し、光硬化可能なビスマレイミド化合物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ビスマレイミド化合物を含み、機械的物性および耐熱性を向上させたアクリレート光硬化性樹脂組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手法】
【0011】
上記課題を解決するために、光硬化可能なアクリレートモノマーへ、化1および化2からなるビスマレイミド化合物を添加し、光硬化樹脂組成物を得る。
【0012】
【0013】
【発明の効果】
【0014】
本発明を遂行することで、ビスマレイミドによって物性が向上した光硬化性アクリレート樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0016】
本発明において使用するビスマレイミド化合物は、化1で表されるビスマレイミド化合物(1-マレイミド-3-マレイミドメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン)と、化2で表されるビスマレイミド化合物(2-メチルペンタン-1,5-ビスマレイミド)の混合物に限定される。この2種類のビスマレイミド化合物は0.2~0.8:0.8~0.2の範囲で混合することが望ましく、さらに0.4~0.6:0.6~0.4の範囲がより望ましい。
【0017】
この比率から逸脱するとアクリレートに溶解させたビスマレイミド化合物が析出しやすくなり、硬化後の樹脂物性や外観に影響を与えることとなる。また2種類のビスマレイミド化合物はあらかじめ混合してからアクリレートに添加しても構わないし、それぞれを直接添加しても構わない。
【0018】
ベースのアクリレートモノマーとしては、光硬化が可能なものであればいずれでも構わない。官能基数にも制限はなく、要求される特性に応じたアクリレート化合物を選択する。
【0019】
たとえば単官能~多官能モノマーもしくは、オリゴマーを組み合わせてモノマー組成物を選択することが多く、たとえば多官能アクリレートのうち、3官能アクリレートは架橋密度が高く硬化速度が速く、トリメチロールプロパントリアクリレート(以下TMPTAと略す:東京化成工業株式会社製)や、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート(以下TMP-3Pと略す:第一工業製薬株式会社製)などがある。
【0020】
一方、樹脂粘度を低下させたい場合には、官能基数の少ないアクリレートモノマーを用いることもでき、それらは希釈剤としても用いられることもあり、一般的にはモノマー溶液粘度を低下させ、可撓性などの特性を付与するが、添加量が多すぎると弾性率を低下させるなどの欠点もある。従って希釈効果が高く、硬化速度に優れた化合物の選択が望ましい。
【0021】
より具体的にはアクリロイルモルホリン(以下ACMOと略す:東京化成工業株式会社製)やアクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(以下VEEAと略す:株式会社日本触媒製)等が望ましく、希釈剤の添加量としては、硬化が可能で物性の低下が許容される範囲であれば添加量に依らない。
【0022】
光硬化、すなわち紫外線硬化方法は一般的な手法で構わない。光源として例えばメタルハライドランプ、高圧水銀ランプおよびキセノンランプなどがあり、樹脂が硬化できる波長を照射できるランプであればいずれでも構わない。
【0023】
また、光源の照射波長としては、樹脂が硬化できる波長であれば別段指定しないが、波長250~600nmの範囲にあればよく、特に300~450nmの範囲にあることが望ましい。
【0024】
本発明では光硬化開始剤を必要とするが、硬化するための光源に応じて選択すればよい。たとえばメタルハライドランプやキセノンランプなどは波長範囲が広いため、一般的な光硬化開始剤であるアセトフェノン型やベンゾフェノン型などを使用できる。またUV-LEDランプ光源を用いる場合でもその波長に応じた光硬化開始剤を用いればよく、たとえばホスフィン系開始剤であれば400nm以上の長波長でも光硬化が可能である。
【0025】
本発明では増感剤を特に必要としないが、より硬化速度を速めたい場合などには適宜添加しても構わない。
【0026】
その他、アクリレート-ビスマレイミド組成物に相溶し、光硬化を阻害しない化合物であれば適宜添加しても構わない。
【実施例0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。試験に用いた組成および試験結果を表1に示す。
【0028】
光硬化用の組成物は80℃でベースの各アクリレートモノマーを攪拌混合し、その後室温で光硬化開始剤を添加したものを比較例組成物とした。
【0029】
一方、80℃でベースの各アクリレートモノマーと化1および化2のビスマレイミド化合物を溶融攪拌混合し、室温で光硬化開始剤を添加したものを実施例組成物とした。
【0030】
【0031】
任意の比率で混合したアクリレートモノマーに対し、ビスマレイミド混合物をそれぞれ15%添加させた配合が実施例1および実施例2である。実施例1は3官能アクリレートモノマーにTMPTAを使用した場合の組成であり、TMPTAをPO変性したTMP-3Pに変更した場合が実施例2である。
【0032】
〔ガラス転移温度〕
PO変性TMPTA(TMP-3P)系である実施例2及び比較例2は粘弾性測定装置によりガラス転移温度を測定した。それによるとビスマレイミドを添加することで(実施例2)、比較例2と比較してガラス転移温度が約25℃上昇した。
【0033】
〔引張弾性率および引張破断強度〕
各配合の引張試験を行った結果、ビスマレイミド添加系である実施例1および2において、無添加系である比較例1および2よりも引張破断強度が高くなった。
一方で引張破断率はいずれの配合でも同等であり、微小変形領域においてビスマレイミドがアクリレート樹脂に対して悪影響を与えないことが分かる。
【0034】
このようにして本発明に従えば、ビスマレイミドによって物性が向上した光硬化性アクリレート樹脂組成物が得られる。