(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103011
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】抗ウィルス基体
(51)【国際特許分類】
B32B 7/02 20190101AFI20220630BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20220630BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220630BHJP
C09D 123/00 20060101ALI20220630BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20220630BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220630BHJP
【FI】
B32B7/02
C09D5/14
C09D5/00 D
C09D123/00
C09D4/00
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067979
(22)【出願日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020217608
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水向 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】横田 晃章
(72)【発明者】
【氏名】林 康太郎
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA02C
4F100AB04A
4F100AK03B
4F100AK25C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA30C
4F100EJ08C
4F100EJ65B
4F100JB14C
4F100JC00
4F100JK14C
4F100YY00B
4J038CB001
4J038FA231
4J038HA216
4J038KA04
4J038NA05
4J038NA12
4J038PA06
4J038PA07
4J038PA17
4J038PA19
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】抗ウィルス活性に優れるとともに、基材からの剥離や耐摩耗性に優れた抗ウィルス基体を提供することを課題とする。
【解決手段】基材表面にプライマー層が形成され、当該プライマー層上に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物の連続膜が固着形成されてなり、上記バインダ硬化物の連続膜の平均厚さは2~30μmであることを特徴とする抗ウィルス基体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面にプライマー層が形成され、当該プライマー層上に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物の連続膜が固着形成されてなり、前記バインダ硬化物の連続膜の平均厚さは、2~100μmであることを特徴とする抗ウィルス基体。
【請求項2】
前記プライマー層の平均厚さは、0.3~50μmである請求項1に記載の抗ウィルス基体。
【請求項3】
前記プライマー層は、ポリオレフィン樹脂からなる請求項1または2に記載の抗ウィルス基体。
【請求項4】
前記バインダ硬化物は、光重合開始剤を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【請求項5】
前記バインダ硬化物は、水に不溶性の光重合開始剤を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【請求項6】
前記バインダ硬化物の連続膜の表面におけるJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1~50μmである請求項1~5のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【請求項7】
前記バインダ硬化物の連続膜の平均厚さは、2~30μmである請求項1~6のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【請求項8】
前記プライマー層の平均厚さは、0.3~5μmである請求項1~7のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウィルス基体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体である種々の微生物を媒介とした感染症が短時間で急激に広がる、いわゆる「パンデミック」が問題になっており、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、ノロウィルス、鳥インフルエンザ等のウィルス感染による死者も報告されている。
【0003】
そこで、様々のウィルスに対して抗ウィルス効果を発揮する抗ウィルス剤の開発が活発に行われており、実際に様々な部材に抗ウィルス効果のあるPd等の金属や有機化合物からなる抗ウィルス剤を含む樹脂等を塗布したり、抗ウィルス剤が担持された材料を含む部材を製造することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、二価の水溶性銅化合物を含む抗ウィルス性のバインダを、基材表面に島状、不連続形状もしくは膜状に形成し、紫外線を照射して硬化した抗ウィルス基体が開示されている。
また、特許文献2には、基材表面にプライマー層を設けて、その上に中間塗布層および第4級アンモニウム塩を含む抗ウィルス性の表面塗布膜を形成した抗ウィルス性建築材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/74121号
【特許文献2】特開2013-71031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された抗ウィルス基体では、当該抗ウィルス基体表面に摺動の応力が加わった場合に、基体表面に形成された抗ウィルス性硬化物が剥離したり、抗ウィルス性硬化物の摩耗により抗ウィルス性が低下するという課題があった。また、特許文献2に記載された技術では、第4級アンモニウム塩を抗ウィルス剤として使用しており、この第4級アンモニウム塩は有機物であることから、第4級アンモニウム塩を含む抗ウィルス性塗膜は耐摩耗性に劣るという問題が見られた。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、抗ウィルス活性に優れるとともに、基材からの剥離や耐摩耗性に優れた抗ウィルス基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の抗ウィルス基体について説明する。
【0009】
本発明の抗ウィルス基体は、基材表面にプライマー層が形成され、当該プライマー層上に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物の連続膜が固着形成されてなり、上記バインダ硬化物の連続膜の平均厚さは2~100μmであることを特徴とする抗ウィルス基体である。
【0010】
本発明の抗ウィルス基体は、光触媒を含まない。このため、バインダとして有機バインダを用いた場合でも光触媒が有機バインダを分解して劣化させたり、変色させたりすることを防止することができる。
【0011】
本発明の抗ウィルス基体では、基材表面にプライマー層が形成され、当該プライマー層表面であって抗ウィルス性が要求される表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物の連続膜が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の表面からウィルスと接触可能な状態で露出しているため、ウィルスの機能を失活させることができる。
また、バインダ硬化物の連続膜中に無機物である銅化合物を含むため、連続膜の耐摩耗性が改善される。
【0012】
また、抗ウィルス基体の基材表面にプライマー層が形成されることにより、銅化合物を含むバインダ硬化物の連続膜と基材とが密着しやすく、抗ウィルス性を有するバインダが拭き取りや抗ウィルス基体の使用時の摺動による応力により基材から剥離せず、長期間にわたって抗ウィルス活性が保たれる。
【0013】
本発明の抗ウィルス基体において、プライマー層は、ポリオレフィン樹脂からなることが望ましい。なお、プライマー層とは、基材とその上の層との密着性等を向上させることを目的として形成される下地層のことをいう。
プライマー層は、島状に点在させて形成させてもよく、連続膜でもよいが、基材との密着性改善のためには、連続膜であることが望ましい。
【0014】
上記抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さは、2~100μmであることが必要である。抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さ100μmを超えると、当該連続膜の平均厚さが厚すぎるため、バインダ硬化物からなる連続膜の表面に摺動応力が加わった場合に膜が剥離したり、冷熱サイクルなどでクラック(ひび割れ)が発生しやすいからである。また逆に、抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さが2μm未満であると、当該連続膜の平均厚さが薄すぎるため、やはり摩耗により抗ウィルス活性が低下してしまうからである。
上記抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さが2~100μmであることで、耐摩耗性、耐剥離性、耐クラック性を有し、抗ウィルス活性を維持することができる。
上記抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さは、2~30μmであることが望ましい。厚くなりすぎると、硬化時の応力が内在してしまうため抗ウィルス性のバインダ硬化物中にクラックが発生しやすくなり、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0015】
上記プライマー層の平均厚さは、0.3~50μmであることが望ましい。プライマー層の平均厚さが0.3μm未満では、プライマー層が不連続となり、抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜と基材との密着が不十分となる可能性が生じ、逆にプライマー層の平均厚さが50μmを超えると、抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜に摺動の力が加わった場合に、プライマー層自体が破壊して結局抗ウィルス性のバインダ硬化物と基材とが剥離してしまう可能性が生じるためである。プライマー層の平均厚さが0.3~50μmの範囲にあると、抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜と基材との密着性が向上し、耐摩耗性、耐剥離性が向上するため好ましい。
また、プライマー層の平均厚さは、0.5~50μmであることがより望ましい。プライマー層の平均厚さが0.5μm以上であると、抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜と基材の密着性がより向上し、対摩耗性、耐剥離性がより向上するためである。
上記プライマー層の平均厚さは、0.3~5μmであることが望ましく、0.5~5μmであることがより望ましい。プライマー層が厚すぎるとプライマー層自身の変形により、抗ウィルス性のバインダ硬化物にクラックが生じやすくなり、耐摩耗性が低下する傾向がある。
なお、抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さおよびプライマー層の平均厚さは、抗ウィルス基材の断面を電子顕微鏡(例えば、日立ハイテクノロジーズ製 S-4800等)で観察して、抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜、プライマー層それぞれについて任意の10点について厚さを測定し、それらの平均値を計算することで求めることができる。
【0016】
本発明の抗ウィルス基体では、上記バインダ硬化物は、光重合開始剤を含むことが望ましい。この光重合開始剤は、ラジカルやイオンを発生させ、その際に銅化合物を還元させることができるため、銅の抗ウィルス活性を高くすることができる。一般に銅イオン(I)の方が銅イオン(II)よりも抗ウィルス活性が高く、銅が還元されることで抗ウィルス活性が改善される。また、上記光重合開始剤を含むと、銅イオン(I)が酸化されて抗ウィルス活性の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できる。
【0017】
本発明の抗ウィルス基体では、上記バインダ硬化物は、水に不溶性の光重合開始剤を含むことが望ましい。水に不溶性の光重合開始剤は水に触れても溶出しないため、耐水性に優れたバインダ硬化物を有する抗ウィルス基体となるからである。
【0018】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0019】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。なお、本明細書においては、アルキルフェノン系の光重合開始剤にはアルキルフェノン及びその誘導体が含まれ、ベンゾフェノン系の光重合開始剤にはベンゾフェノン及びその誘導体が含まれるものとする。
【0020】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤及び上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤を含むことがさらに好ましい。上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度は、上記未硬化の有機バインダに対して、0.5~20.0重量%であることが好ましい。また、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度が上記未硬化の有機バインダに対して0.5~10.0重量%であることが好ましい。これにより、電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
【0021】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤と上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが好ましい。これにより、高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。架橋密度は85%以上、特に95%以上が好ましい。
また、光重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤を使用でき、具体的には、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(2,4,6-トリメチルベンゾイルビフェニルホスフィンオキシドとも表記される)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2、4、6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、UV-LEDを紫外線の発生光源として用いた場合の光重合開始剤として用いられる。
【0022】
本発明の抗ウィルス基体では、上記バインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。比較的容易に密着性に優れたバインダ硬化物を、基材表面のプライマー層上に固着形成させることができるからである。
【0023】
上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、樹脂が硬化して基材表面に銅化合物を固着できるからである。また、これらの樹脂は、光重合開始剤の銅に対する還元力を低下させることがないため有利である。電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。
【0024】
本発明の抗ウィルス基体では、上記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0025】
本発明の抗ウィルス基体では、上記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であることが望ましい。より抗ウィルス性に優れた抗ウィルス基体となるからである。特に、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.5~50であることが好ましい。上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.0~4.0がより望ましく、特に1.4~2.9がより望ましく、さらに1.4~1.9が最適であり、より抗ウィルス性に優れた抗ウィルス性基体となる。
【0026】
また、銅化合物中のCu(I)/Cu(II)が0.4/1~4.0/1に調整されていると、抗ウィルス性を高くできるため、望ましい。
本発明の抗ウィルス基体におけるCu(I)/Cu(II)の比率は、バインダ、光重合開始剤、銅化合物の選択、これらの濃度調整、及び、紫外線などの電磁波の照射時間や強度で調整することができる。
【0027】
基材としては、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。また、基材となる部材も、特に限定されるものではなく、タッチパネルの保護フィルムやディスプレイ用のフィルムであってもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり等であってもよい。また、ドアノブ、トイレのスライド鍵等でもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材の外、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0028】
基材表面にはハードコート層が設けられてもよく、当該ハードコート層上に上記プライマー層及び上記抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜がこの順に形成されていてもよい。
【0029】
また、本発明の抗ウィルス基体は、基材表面であって、プライマー層及び抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜が設けられた面の反対側面に粘着剤層が設けられていることが好ましい。これにより、抗ウィルス基体をスマートフォンや電子機器ディスプレイ、壁やドアノブなどの部材に貼着させやすいからである。粘着剤層の表面には離型シートを積層し、粘着剤層を保護してもよい。
【0030】
基材は透光性であることが好ましい。これにより、基材がフィルムやシートの場合は、
スマートフォンや電子機器ディスプレイの保護フィルムとしたり、基材をアクリル板のような板状態とすると飛沫除けの衝立とすることができるからである。基材は可撓性を有していてもよい。
【0031】
本発明の抗ウィルス基体において、上記基材表面に形成されたプライマー層上に固着形成されてなる上記バインダ硬化物の連続膜の表面の面粗さは、JIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)が、0.1~50μmであることが望ましい。Raが0.1μm未満と小さすぎる場合、抗ウィルス基体の抗ウィルス性能が低下し、逆にRaが50μmを超え大きすぎると、抗ウィルス基体における光透過性の低下、耐摩耗性の低下がみられるからである。
【0032】
本発明の抗ウィルス性基体においては、上記光重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤であり、上記バインダは、電磁波硬化型樹脂であり、上記銅化合物(銅錯体を除く)は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であることが望ましい。
【0033】
上記水に不溶性の光重合開始剤は、還元力のある光重合開始剤であることが望ましい。
上記バインダ硬化物は、化合物中のCu(I)/Cu(II)が0.4/1~4.0/1に調整されていることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本発明の抗ウィルス基体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例6で得られた抗ウィルス基体の断面の電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、実施例9で得られた抗ウィルス基体の断面の電子顕微鏡写真である。
【0035】
(発明の詳細な説明)
本発明の抗ウィルス基体について説明する。
本発明の抗ウィルス基体は、基材表面にプライマー層が形成され、当該プライマー層上に銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物の連続膜が固着形成されてなり、上記バインダ硬化物の連続膜の平均厚さは2~100μmであることを特徴とする。
【0036】
本発明の抗ウィルス基体では、基材表面にプライマー層が形成され、当該プライマー層の表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物からなる抗ウィルス性の連続膜が固着形成され、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の連続膜表面から露出している。そのため、銅化合物がウィルスと接触しやすく、銅化合物に基づく抗ウィルス活性を有する基体としての効果を充分に発揮することができる。また、基材と抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜との間にプライマー層が形成されているので、銅化合物を含むバインダ硬化物と基材とが密着しやすく、抗ウィルス性を有するバインダが拭き取りや摺動による応力により基材から剥離せず、長期間にわたって抗ウィルス活性が保たれる。
【0037】
上記抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さは、2~100μmであることが必要である。抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さ100μmを超えると、当該連続膜の平均厚さが厚すぎるため、バインダ硬化物からなる連続膜の表面に摺動応力が加わった場合に膜が剥離したり、冷熱サイクルなどでクラック(ひび割れ)が発生しやすいからである。また逆に、抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さが2μm未満であると、当該連続膜の平均厚さが薄すぎるため、やはり摩耗により抗ウィルス活性が低下してしまうからである。
上記抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さが2~100μmであることで、耐摩耗性、耐剥離性、耐クラック性を有し、抗ウィルス活性を維持することができる。
前記抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続膜の平均厚さは、2~30μmであることが望ましい。厚くなりすぎると、硬化時の応力が内在してしまうため抗ウィルス性のバインダ硬化物中にクラックが発生しやすくなり、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0038】
図1は、本発明の抗ウィルス基体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図1に示す抗ウィルス基体100では、基材10の表面に連続膜からなるプライマー層30が形成され、さらにプライマー層30の上に抗ウィルス性のバインダ硬化物20が連続した膜状に固着している。バインダ硬化物中には、銅化合物40が含有されており、その一部が抗ウィルス性のバインダ硬化物20が連続した膜表面から露出している。
【0039】
本発明の抗ウィルス基体では、基材表面にプライマー層が形成されている。
【0040】
上記プライマー層としては、ポリオレフィン樹脂が適している。プライマー層の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン樹脂等の樹脂を含む液状の組成物を基材表面に吹き付け、乾燥させることにより形成することができる。
上記プライマー層の平均厚さは、0.3~50μmが望ましい。プライマー層の平均厚さが0.3μm未満では、プライマー層が不連続となり、抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜と基材との密着が不十分となる可能性が生じ、逆にプライマー層の平均厚さが50μmを超えると、抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜に摺動の力が加わった場合に、プライマー層自体が破壊して結局抗ウィルス性のバインダ硬化物と基材とが剥離してしまう可能性が生じるためである。プライマー層の平均厚さが0.3~50μmの範囲にあると、抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜と基材との密着性が向上し、耐摩耗性、耐剥離性が向上するため好ましい。
また、プライマー層の平均厚さは、0.5~50μmであることがより望ましい。プライマー層の平均厚さが0.5μm以上であると、抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜と基材の密着性がより向上し、対摩耗性、耐剥離性がより向上するためである。
前記プライマー層の平均厚さは、0.3~5μmであることが望ましく、0.5~5μmであることがより望ましい。プライマー層が厚すぎるとプライマー層自身の変形により、抗ウィルス性のバインダ硬化物にクラックが生じやすくなり、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0041】
本発明の抗ウィルス基体で使用される基材としては、樹脂、金属、繊維織物、セラミック(ガラス、大理石、陶器等を含む)、紙、木材からなるものを使用できる。
【0042】
また、本発明の抗ウィルス基体の基材となる部材も、特に限定されるものではなく、フィルムもしくはシートであってよい。具体的には、タッチパネルの保護用フィルム、ディスプレイ用のフィルムやシート、デスクマット、体液飛沫遮蔽用のカーテン等が挙げられる。
【0043】
また、本発明の抗ウィルス基体の基材となる部材が上述のフィルムやシートである場合、フィルムやシートの表面において、プライマー層及びバインダ硬化物の連続膜が形成されている面の反対側の面には、粘着剤層が形成されていてもよい。粘着剤層を形成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤が挙げられる。粘着剤層の表面には、離型シートを積層してあってもよい。具体的には、離型剤層を設けた離型シートを離型剤層が粘着剤層に接触するように積層するか、四フッ化エチレン製の樹脂シートを積層して粘着剤層を保護してもよい。このような粘着剤層が形成された抗ウィルス基体は、シールとして使用でき、エレベータのボタンや、内壁に抗ウィルス基体を張り付け施工することができる。
【0044】
上記バインダ硬化物を形成するためのバインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。
【0045】
また、無機バインダとしては、無機ゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。さらに、有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。上記無機ゾルにおけるシリカ等の無機酸化物の含有割合は、固形分換算で1~80重量%が好ましい。
【0046】
上記有機バインダとしては熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂を使用することができる。
これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、樹脂が硬化して基材表面に銅化合物を含むバインダ硬化物を固着できるからである。また、これらの樹脂は、重合開始剤の銅に対する還元力を低下させることがないため有利である。電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
【0047】
具体的には、上記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。金属アルコキシドとしては、アルコキシシランを使用することができる。加水分解によりシロキサン結合を形成してゾルとなり、乾燥によってゲル化してバインダ硬化物となるからである。シリカゾル、アルミナゾル及び水ガラスについても、加熱、乾燥させることによりバインダ硬化物となる。
【0048】
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0049】
上記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂とオキセタン樹脂を組みわせたもの等が挙げられる。
アルキッド樹脂としては、ポリエステルアルキッド樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
【0050】
本発明において、上記バインダ硬化物に含まれる銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物、銅の酸化物、又は、銅の水溶性無機塩であることが望ましい。
上記銅のカルボン酸塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、酢酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅等が挙げられる。
上記銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅、硫酸銅等が挙げられる。
【0051】
その他の銅化合物としては、例えば、銅(メトキシド)、銅エトキシド、銅プロポキシド、銅ブトキシドなどが挙げられ、銅の共有結合性化合物としては銅の酸化物、銅の水酸化物などが挙げられる。銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物は、有機バインダ、無機バインダとの親和性が高く、水により溶出しないため、耐水性に優れる。
このような銅化合物は、バインダ硬化物を製造する際に用いる抗ウィルス組成物を調製する際に添加する銅化合物と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0052】
本発明の抗ウィルス基体では、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であることが望ましい。Cu(II)と共存した方が、Cu(I)のみの場合に比べて、抗ウィルス性能が高くなる。この理由は明確ではないが、不安定なCu(I)のみの場合と比較して、安定なCu(II)と共存することで、Cu(I)が酸化されることを防止できるためではないかと推定している。特に、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.5~50であることが好ましい。
【0053】
また、Cu(I)の銅は、Cu(II)の銅と比較して抗ウィルス性により優れているため、本発明の抗ウィルス基体において、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.0~4.0であると、より抗ウィルス性に優れた抗ウィルス基体となる。
最も望ましい範囲は、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.4~2.9がより望ましく、特に1.4~1.9が最適である。
【0054】
また、銅化合物中のCu(I)/Cu(II)が0.4/1~4.0/1に調整されていると、抗ウィルス性を高くできるため、望ましい。
本発明における抗ウィルス基体における銅化合物中のCu(I)/Cu(II)の比率は、バインダ、重合開始剤、銅化合物の選択、これらの濃度調整、及び、紫外線などの電磁波の照射時間や強度で調整することができる。
【0055】
なお、Cu(I)とは、銅のイオン価数が1であることを意味し、Cu+と表す場合もある。一方、Cu(II)とは、銅のイオン価数が2であることを意味し、Cu2+と表す場合もある。なお、一般的に、Cu(I)の結合エネルギーは、932.5eV±0.3(932.2 ~ 932.8eV)、Cu(II)の結合エネルギーは、933.8eV±0.3(933.5 ~ 934.1eV)である。
【0056】
バインダ硬化物を構成する樹脂の硬化物は、電磁波硬化型樹脂の硬化物であることが好ましい。
未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーと光重合開始剤と各種添加剤を含んだ組成物に電磁波を照射することにより、光重合開始剤は、開裂反応、水素引き抜き反応、電子移動等の反応を起こし、これにより生成した光ラジカル分子、光カチオン分子、光アニオン分子等が上記モノマーや上記オリゴマーを攻撃してモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応が進行し、樹脂の硬化物が生成する。このような反応により樹脂の硬化物を生成する樹脂を電磁波硬化型樹脂という。
【0057】
本発明においては、電磁波硬化型樹脂の硬化物に含まれる光重合開始剤が、銅イオン(II)を還元して銅イオン(I)を生成せしめる。そして、銅イオン(I)の還元力によって、銅イオン(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカルなどを発生させて、微生物を構成する蛋白質を破壊してウィルスなどの微生物を失活させることができる。銅イオン(I)は空気中の水や酸素を還元すると、銅イオン(II)に変わるが、電磁波硬化型樹脂に含まれる光重合開始剤によって、再び銅イオン(I)に還元されるため、還元力が常に維持される。このため、還元性糖などの還元剤は不要となる。また、光重合開始剤は、樹脂と結合しており、水に溶出しないので、耐水性にも優れる。
なお、銅イオン(II)の錯体を銅イオン(I)に還元すると錯体を形成し得ないため、銅イオン(II)から銅イオン(I)のような還元反応が生じにくく、銅のアミノ酸塩などの錯塩を本発明に使用することは不適切である。
【0058】
本発明の抗ウィルス基体では、バインダ硬化物は、光重合開始剤を含むことが望ましい。上記光重合開始剤を含むと、上記銅化合物を、抗ウィルス効果を持つ銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化されて抗ウィルス性の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。
【0059】
本発明の抗ウィルス基体では、上記バインダ硬化物は、水に不溶性の光重合開始剤を含むことが望ましい。水に不溶性の光重合開始剤は水に触れても溶出しないため、耐水性に優れたバインダ硬化物を有する抗ウィルス基体となるからである。
【0060】
本発明の抗ウィルス基体では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、及び、ベンゾフェノン系の光重合開始剤から選ばれる少なくとも1種以上であることが望ましく、特に、上記重合開始剤は、ベンゾフェノン系の光重合開始剤を含むことが望ましい。
これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0061】
本発明の抗ウィルス基体では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5~20.0wt%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5~10.0wt%であることが望ましい。電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、バインダ硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。架橋密度は、85%以上、特に95%以上が望ましい。
また、光重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤を使用でき、具体的には、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(2,4,6-トリメチルベンゾイルビフェニルホスフィンオキシドとも表記される)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2、4、6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、UV-LEDを紫外線の発生光源として用いた場合の光重合開始剤として用いられる。
【0062】
本発明の抗ウィルス基体において、上記抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜の表面におけるJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1~50μmであることが望ましい。Raが0.1μm未満と小さすぎる場合、抗ウィルス基体の抗ウィルス性能が低下し、逆にRaが50μmを超えて大きすぎると、抗ウィルス基体における光透過性の低下、拭き取り耐久性の低下がみられるからである。
【0063】
次に、本発明の抗ウィルス基体を製造する方法について各工程毎に説明する。
(1)プライマー層および抗ウィルス組成物の付着工程
【0064】
基材を用意し、基材の表面をアルコールもしくは洗剤により洗浄し、表面の油分を除去する。このような洗浄処理がなされた基材の表面にプライマー層を設ける。プライマー層としてはポリオレフィン樹脂層を形成する方法が挙げられる。プライマーとしては、プライマー樹脂が有機溶剤や水中に溶解あるいは分散したものを使用でき、市販品も存在している。市販品としては、商品名「ミッチャクロンマルチ、ミッチャクロンAQUA(いずれも染めQテクノロジィ社製)」等を使用することができる。これらの市販品はスプレー缶に充填されて販売されており、スプレー缶から噴射されるプライマー樹脂溶液のミストを基材に吹き付けてスプレー塗布することができる。また、プライマー樹脂が溶解あるいは分散したプライマー樹脂溶液、分散液をスプレーガンに充填して、スプレーガンにて基材に噴霧塗布することも可能である。
プライマー樹脂溶液、分散液としては、固形分濃度が、1~10wt%、粘度が1~10mPa・sであることが望ましい。また、噴霧塗布時の送り速度は、10~15cm/sで、基材から10~20cm離間させて噴霧することが望ましい。さらに、塗布した後、60分以上25℃で乾燥させることが望ましい。
このようにして、平均厚さ0.3~50μmのプライマー層を形成する。厚さは噴霧塗布回数、時間などで調整できる。
【0065】
本発明の抗ウィルス基体を製造する方法では、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と光重合開始剤とを含む抗ウィルス組成物を使用する。
【0066】
上記抗ウィルス組成物に含まれる銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物、銅の酸化物、又は、銅の水溶性無機塩であることが望ましい。特に、二価の銅化合物(銅化合物(II))が望ましい。二価の銅化合物は、分散媒である水に溶解して、銅イオンがバインダ中に均一分散しやすくなるためである。これに対して、一価の銅化合物(銅化合物(I))は、水に溶解せず、粒子状に懸濁してしまい、均一性に劣る。
【0067】
また、二価の銅化合物を抗ウィルス組成物中に加えることで、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物がバインダ硬化物中に共存した状態を簡単に形成できるという利点も有する。水溶性の二価の銅化合物を用いることが最適である。
さらに、分散媒として、水もしくは水と極性溶媒(例えばアルコール)からなる混合分散媒を使用することもできる。
【0068】
上記銅のカルボン酸塩としては、酢酸銅(II)、安息香酸銅(II)、フタル酸銅(II)等が挙げられる。上記銅化物としては、二価の銅のカルボン酸塩が望ましい。
上記銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。
その他の銅化合物としては、例えば、銅(II)(メトキシド)、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、銅(II)ブトキシドなどが挙げられ、銅の共有結合性化合物としては銅の酸化物、銅の水酸化物などが挙げられる。
【0069】
上記未硬化のバインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましく、有機バインダとしては熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂を使用することができる。
また、無機バインダとしては、無機ゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。さらに、有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。
【0070】
電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
また、上記バインダの具体例としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド及び水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用することが望ましい。
【0071】
なお、上記電磁波硬化型樹脂とは、電磁波照射により原料であるモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応等が進行して製造される樹脂を意味している。
従って、上記抗ウィルス組成物は、上記電磁波硬化型樹脂の原料となるモノマーやオリゴマー(未硬化の電磁波硬化型樹脂)を含有している。
【0072】
上記分散媒の種類は特に限定されるものではないが、安定性を考慮した場合にはアルコール類や水を使用する事が好ましい。アルコール類としては、粘性を下げる事を考慮して、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。これらのアルコールのなかでは、粘度が高くなりにくいメチルアルコール、エチルアルコールが好ましく、アルコールと水との混合溶媒を使用することもできる。
【0073】
上記方法では、光重合開始剤として、水に不溶性の光重合開始剤を含むことが望ましい。水に不溶性の光重合開始剤は、水に触れても溶出しないため、バインダ硬化物を劣化させることがなく、銅化合物の脱離を招かないからである。
銅化合物が水溶性であってもバインダ硬化物で保持されていれば、脱離を抑制できるが、バインダ硬化物中に水溶性物質が含まれていると、バインダ硬化物の銅化合物に対する保持力が低下して、銅化合物の脱離が生じると推定される。
また、上記水に不溶性の光重合開始剤を電磁波硬化型樹脂と共に用いた場合、可視光線、紫外線等の光により、容易に重合反応を進行させることができる。
【0074】
上記方法では、還元力のある光重合開始剤を用いることが望ましい。抗ウィルス組成物に含まれる上記銅化合物を抗ウィルス効果などの抗ウィルス効果を持つ銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化して抗ウィルス効果の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。
抗ウィルス組成物は、ウィルスおよび/またはカビに最も効果的に作用する。銅イオン(I)の還元力によって、銅イオン(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカルなどを発生させてウィルスまたはカビを構成する蛋白を効果的に破壊するからである。
【0075】
上記光重合開始剤は、具体的にはアルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0076】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホニル)フェニル]-1-ブタノン等が挙げられる。
【0077】
アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0078】
分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、オキシフェニルサクサン、2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルトオキシフェニル酢酸と2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルとの混合物等が挙げられる。
【0079】
オキシムエステル系の光重合開始剤としては、例えば、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0080】
光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン系の光重合開始剤から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが望ましい。紫外線等の電磁波により還元力を発現するからである。上記光重合開始剤のなかで、特に、ベンゾフェノン又はその誘導体が好ましい。
【0081】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5~20.0wt%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5~10.0wt%であることが望ましい。上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。架橋密度は85%以上、特に95%以上が望ましい。
【0082】
バインダとして未硬化の電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)を用いた場合は、上記抗ウィルス組成物中の銅化合物の含有割合は、1.0~30.0重量%が望ましく、未硬化の電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)の含有割合は、5~50重量%が望ましく、分散媒の含有割合は、30~80重量%が望ましい。
また、バインダとして未硬化の無機バインダを用いた場合は、上記抗ウィルス組成物中の銅化合物の含有割合は、1~30重量%が望ましく、分散媒の含有割合は、30~80重量%が望ましい。この場合、上記抗ウィルス組成物中のシリカ等の無機酸化物の含有割合は、5~50重量%となる。
【0083】
抗ウィルス組成物中には、必要に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着促進剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、消泡剤等が配合されていてもよい。
【0084】
上記抗ウィルス組成物を調製する際には、分散媒に銅化合物とバインダ成分と光重合開始剤を添加した後、ミキサー等で充分に攪拌し、均一な濃度で分散する組成物とした後、この組成物を基材の表面に付着せしめることが望ましい。
【0085】
抗ウィルス組成物を0.01~10g/sの吐出量にて、スプレーガンにて基材に噴霧塗布する。スプレーガンは基材から1~50cm程度離間させて、噴霧塗布する。噴霧は基材を1~5往復(2~10ストローク)させ、この塗布を2~10回繰り返して重ね塗りを行うことが望ましい。抗ウィルス性のバインダ硬化物からなる連続した膜を形成することができるからである。
【0086】
(2)乾燥工程
上記付着工程により基材の表面に付着させた、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と光重合開始剤とを含む抗ウィルス組成物を乾燥させ、分散媒を蒸発、除去し、銅化合物等を含むバインダ硬化物を基材表面に仮固定させるとともに、バインダ硬化物の収縮により、銅化合物をバインダ硬化物の表面から露出させることができる。乾燥条件としては、20~100℃、0.5~180分が望ましい。乾燥は、赤外線ランプやヒータなどで行うことができる。また、減圧(真空)乾燥させてもよい。なお、上記方法では、乾燥工程と硬化工程を同時に行ってもよい。
【0087】
(3)硬化工程
硬化工程として、上記乾燥工程で分散媒を除去した抗ウィルス組成物中、もしくは、分散媒を含む抗ウィルス組成物中の上記未硬化のバインダを硬化させ、バインダ硬化物とする。
未硬化のバインダを硬化させる方法としては、乾燥による分散媒除去、加熱や電磁波照射によるモノマー、オリゴマーの重合促進などがある。乾燥は、減圧乾燥、加熱乾燥などが挙げられる。また、バインダが熱硬化性樹脂の場合は、加熱により硬化が進行する。加熱はヒータ、赤外線ランプ、紫外線ランプなどで行うことができる。未硬化のバインダが電磁波硬化型樹脂である場合に照射する電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が望ましい。紫外線の照度としては、1~500mW/cm2、積算光量としては100~10000mJであることが望ましい。
これらの工程により、上記した本発明の抗ウィルス基体を製造することができる。
【0088】
上記抗ウィルス組成物中には、上記した光重合開始剤が添加されているので、未硬化のバインダとしてモノマーやオリゴマーを含む場合は、それらの重合反応が進行する。また、光重合開始剤は銅を還元するため、銅イオン(II)を銅イオン(I)に還元でき、銅イオン(I)の量を増やすことができるため、ウィルスなどに対する抗ウィルス活性の高いバインダ硬化物が得られる。
【0089】
その後、紫外線等の電磁波の照射を行い、重合開始剤の還元力を発現せしめる。本発明の製造方法におけるいずれかの工程中で、重合開始剤の還元力を発現せしめるために、所定の波長の電磁波、例えば紫外線等を照射することが望ましい。特に光重合開始剤を用いた場合は、電磁波の照射により、ラジカルを発生させ、銅イオンを還元することで、抗ウィルス活性の高い銅イオン(I)の量を増やすことができ、有効である。
【実施例0090】
(実施例1~10および試験例1~4)
(1)A液の調製
酢酸銅の濃度が1.53重量%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬製)210重量部を純水12300重量部に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、700rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。
(2)B液の調製
光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)160重量部と光重合開始剤であるベンゾフェノン80重量部を混合した。IGM社製 Omnirad184は、IGM社製 Omnirad184は、BASF社製のIrgacure184と同一物質であり、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
この光重合開始剤の混合物195重量部と光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)6305量部を混合した後、プロペラ型攪拌浴で700rpm、60分間の条件で攪拌混合し、紫外線硬化樹脂液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)と光重合開始剤である1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)と光重合開始剤であるベンゾフェノンが重量比97:2:1で混合されている。
【0091】
(3)保管(養生)
調製したA液及びB液を抗ウィルス組成物調製用の液とした。
抗ウィルス組成物調製用の液(A液とB液)を暗所にて35℃で120時間静置した。
【0092】
(4)A液とB液の混合による付着用抗ウィルス組成物の調製
A液を470重量部、B液を250重量部それぞれ混合して、1分間攪拌することにより付着用抗ウィルス組成物とした。
【0093】
(5)プライマー層の形成
実施例1~8および10について30cm×30cmのステンレス基材(SUS304)を、実施例9については、黒色光沢メラミン化粧板をそれぞれ基材として使用した。基材の表面にポリオレフィン製プライマー樹脂溶液(商品名「ミッチャクロンマルチ」(株)染めQテクノロジィ製)をスプレーにより噴霧塗布し25℃で120分乾燥させて、表1に示す所定の厚みのプライマー層を形成した。なお、プライマー層の厚さは、噴霧時間を変えることで調整した。プライマー層は実施例1~10、試験例1~4とも連続膜である。
(6)付着用抗ウィルス組成物の噴霧塗布
(4)で製造した付着用抗ウィルス組成物を、スプレーガンの塗料カップに充填し、スプレー圧力:0.1MPa、スプレーノズルから基材であるステンレス基材(SUS304)表面および黒色光沢メラミン化粧板表面までの塗工距離が20cmとなるようにセットした。
液噴出量は0.1g/秒の吐出流量で、ステンレス基材および黒色光沢メラミン化粧板の抗ウィルス活性が要求される領域(本実施例では全表面)に、付着用抗ウィルス組成物を霧状にスプレー塗工した。なお、塗工は、スプレーの1往復を1ストロークとし、2回ストローク(つまり4回塗り。表1中には4パスと表記している)を基本とし、これを実施例1~10、試験例1~4について、表1に示す回数分(表1中では、2回ストローク(つまり4パス)を1単位として“1セット”と表記している)だけ塗布作業を行って、ステンレス基材または黒色光沢メラミン化粧板の表面、すなわちステンレス基材または黒色光沢メラミン化粧板の表面に設けた上記プライマー層が、抗ウィルス組成物の液膜により覆われたステンレス基材および黒色光沢メラミン化粧板を得た。
【0094】
(7)乾燥・硬化
この後、25℃で30分乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、5.0mW/cm
2の照射強度で240秒間紫外線を照射することにより、ステンレス基材または黒色光沢メラミン化粧板に銅化合物を含むバインダ硬化物が連続した膜状に固着形成された抗ウィルス基体を得た。
なお、実施例6で得られた抗ウィルス基体については、
図2にその断面の電子顕微鏡写真を記載した。プライマー層が平均厚さ3.8μmの連続膜、バインダ硬化物も平均厚さ14.3μmの連続膜となっていることが分かる。また、実施例9で得られた抗ウィルス基体については、
図3にその断面の電子顕微鏡写真を記載した。プライマー層が平均厚さ27.6μmの連続膜、バインダ硬化物も平均厚さ64.7μmの連続膜となっていることが分かる。
【0095】
(試験例5)
(1)酢酸銅の濃度が1.75wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)、光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)を重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用いて、8000rpmで10分間撹拌して調製した。上記0.7wt%酢酸銅水溶液と紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗ウィルス性組成物を調製した。なお、IGM社製 Omnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)とベンゾフェノンの1:1の混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶性であり、紫外線を吸収することで還元力を発現する。一方、光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)は、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、結局光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
(2)プライマー層を形成しないステンレス基材上に(1)の抗ウィルス性組成物を以下の条件でスプレー塗布した。
スプレー圧力0.1MPa、スプレーノズルから基材であるステンレス基材表面までの塗工距離が20cm、0.1g/秒の吐出流量で、スプレーの1往復を1ストロークとし、2回ストローク(つまり4回塗り)を3セット(つまり12回塗り)行った。このようにしてステンレス基材表面にプライマー層を有しない抗ウィルス組成物の被膜により覆われたステレンス基材を得た。
【0096】
(試験例6)
実施例1におけるA液である酢酸銅水溶液の代わりに、次のようにして調製した臭化デシルトリメチルアンモニウム水溶液をA液として用い、抗ウィルス組成物の塗布条件を下記表1のようにした以外は、実施例1と同様にして、ステンレス基材表面に設けたプライマー層が、抗ウィルス組成物の液膜により覆われたステンレス基材を得た。すなわち、抗ウィルス性のバインダ硬化物に銅化合物を含まず、第4級アンモニウム塩を含むステンレス基材を得た。
(試験例6におけるA液)
第4級アンモニウム塩として、炭素数10の臭化デシルトリメチルアンモニウム(アクロス社製)の濃度が3重量%になるように、369重量部を純水11931重量部に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、700rpmで15分撹拌して臭化デシルトリメチルアンモニウム水溶液を調製し、試験例6におけるA液を調製した。
【0097】
(電子顕微鏡による撮像)
実施例6及び実施例9で得られた抗ウィルス基体の断面の走査型電子顕微鏡画像(
図2、
図3)は、以下装置により実施した。
・走査型電子顕微鏡
日立ハイテクノロジーズ製 S-4800 2000倍の電子顕微鏡画像(反射電子像)を撮影した。
【0098】
(バクテリオファージを用いた抗ウィルス性評価)
実施例1~10及び試験例1~6で得られる抗ウィルス性基体の抗ウィルス性を評価するために、JIS R1756 可視光応答形光触媒材料の抗ウィルス性試験方法を改変した手法でウィルス不活性度を測定した。すなわち、得られた抗ウィルス性基体を1辺50±2mm角にカットし、バクテリオファージ液を試料に滴下してフィルムで被覆し、4時間放置してウィルスを不活化させた。その後バクテリオファージを大腸菌に感染させ一晩放置することで、感染能力を保持しているウィルス数を測定した。
【0099】
測定結果は、大腸菌に対して不活化されたウィルス濃度を、ウィルス不活性度として表示する。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいてウィルス不活性度を算出した。
【0100】
ウィルス不活度とは、バクテリオファージを用いた抗ウィルス性試験で、ファージウィルスQβ濃度:830万個/ミリリットルを用いて、大腸菌に感染することができるウィルスの濃度を測定することにより、大腸菌に対して不活化されたウィルスの濃度を算出した結果である。すなわち、ウィルス不活度は、ファージウィルスQβ濃度に対して、大腸菌に感染することができない濃度の度合いであり、(ファージウィルスQβ濃度-大腸菌に感染することができるウィルスの濃度)/(ファージウィルスQβ濃度)×100で算出することができる。
【0101】
このウィルス不活度からウィルス不活性度を計算する。
ウィルス不活性度とは、元のウィルスの量を1とし、ウィルス失活処理後に失活したウィルスの相対量をXとした場合に、常用対数log(1-X)で示される数値(負の値で示される)であり、絶対値が大きい程ウィルスを不活性化する能力が高い。例えば、元のウィルスの99.9%が失活した場合、ウィルス不活性度は、log(1-0.999)=-3.00で表記される。なお、ウィルス失活処理前の全ウィルス量に対するウィルス失活処理後に失活したウィルス量の割合を%で表したもの(上記の場合、99.9%)をウィルス不活度という。上記のようにして求めたウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。実施例1~10、及び試験例1~6の結果を表1に示す。
【0102】
(砂消しゴムによる耐摩耗性および剥離試験)
断面積が2cm2の砂消しゴムを抗ウィルス性のバインダ硬化物に連続膜表面に接触させ、0.5kgの荷重をかけた状態で往復させ、ステンレス基材または黒色光沢メラミン化粧板が露出した回数もしくは抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜が剥離した回数を計測した。また、基材に抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜を形成した直後にひび割れが生じた場合は、「ひび割れ」と表記している。
(抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜およびプライマー層の平均厚さの測定)
抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜とプライマー層について、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 S-4800)を用いて、撮像し、抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜とプライマー層のそれぞれについて、任意の10点の厚さを測定して、それらの平均値を求めた。
(表面粗さの測定)
各抗ウィルス性の基体について、東京精密製の接触式表面粗さ測定機であるHANDYSURFを用い、8mmの測定長さでJIS B 0601に準拠した算術平均粗さRaを測定した。
【0103】
【0104】
上記砂消しゴムによる耐摩耗性および剥離試験で、2000回以上の値が得られると、清掃や人体との接触摩耗でも2~3年間は抗ウィルス活性が失われない。銅化合物を含む抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜の平均厚さが2~100μmであって、プライマー層を有する抗ウィルス性基体は、上記砂消しゴムによる耐摩耗性及び剥離試験で、2000回以上の値が得られており、耐摩耗、耐剥離性に優れる(実施例1~10、及び、試験例3及び4)。さらに、銅化合物を含む抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜の平均厚さが2~100μmであり、プライマー層の平均厚さが0.3~50μmである抗ウィルス性基体は、上記砂消しゴムによる耐摩耗性および剥離試験で、3000回以上の値を実現でき、耐摩耗、耐剥離性により優れている(実施例1~10)。
一方で、銅化合物を含む抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜の平均厚さが2μm未満の抗ウィルス性基体(試験例1)、銅化合物を含む抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜の平均厚さが2~100μmであっても、プライマー層を有さない抗ウィルス性基体(試験例5)、及び、抗ウィルス性のバインダ硬化物に銅化合物を含まない抗ウィルス性基体(試験例6)は、上記砂消しゴムによる耐摩耗性及び剥離試験で、500回以下の値しか得られておらず、充分な耐摩耗性、耐剥離性が得られなかった。また、銅化合物を含む抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜の平均厚さが100μmを超える抗ウィルス性基体(試験例2)は、基材に抗ウィルス性のバインダ硬化物の連続膜を形成した直後にひび割れが生じた。
また、本発明では抗ウィルス性を有するバインダ硬化物の連続膜の表面の面粗さは、JIS B 0601 Ra=0.1μm~50μmであり比較的粗いと言える。通常、バインダ硬化物の連続膜の表面の面粗さが粗い場合には、抗ウィルス性が高い反面、摺動応力により摩耗や剥離が起きやすいのであるが、本発明では摩耗や剥離を起きやすい連続膜であっても、実用的な耐摩耗性、耐剥離性を有していることが分かる。